説明

半導体装置の電源配線レイアウト方法及び電源配線レイアウト装置

【課題】IRドロップ違反を解消しつつ、半導体集積回路の大型化を抑制することができる半導体装置の電源配線レイアウト方法。
【解決手段】半導体集積回路の電源配線レイアウト方法。電源配線を、複数のノードと、互いに隣接するノード間に配置された複数の要素抵抗と、を含む解析モデルとしてモデル化し、回路シミュレーションにより各複数のノードにおける電圧値を求める。電圧値にIRドロップ違反がある場合、IRドロップ違反が最大となるノードへ流れ込む電流経路を探索し、複数の要素抵抗のうち、電流経路に含まれる要素抵抗からボトルネック要素抵抗を選択し、その抵抗値を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の電源配線レイアウト方法及び電源配線レイアウト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化及び高速化(動作周波数の向上)に伴い、誤動作の原因となる電源配線における電圧降下いわゆるIRドロップの抑制が重要になっている。このIRドロップは、電源配線のレイアウトをモデル化し、例えばコンピュータ上でのSPICEによる直流解析を実行することなどにより、見積もることができる。
【0003】
非特許文献1や特許文献1には、IRドロップを純数学的に非線形関数の問題として解析する方法が開示されている。しかしながら、解が収束しないおそれがあるなどの理由から、この手法を実際の電源配線レイアウト方法に適用するのは難しい。
【0004】
実際の電源配線レイアウト方法では、直流解析の結果、IRドロップ違反があった場合、電源配線幅を大きくするなどして、再度直流解析を実行する。この一連の操作を、IRドロップ違反が解消されるまで繰り返す。
【0005】
非特許文献2には、IRドロップ違反があった場合、ある領域内の配線全体を太くすることにより、IRドロップ違反を解消する手法が開示されている。また、特許文献2には、最適化対象配線なるものを設け、IRドロップ違反があった場合、最適化対象配線全体の配線幅を大きくすることにより、IRドロップ違反を解消する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−204958号公報
【特許文献2】特開2000−349161号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takashi Mitsuhashi, Emest S. Kuh, "Power and Ground Network Topology Optimization for Cell Based VLSIs," Proceedings of the 29th Design Automation Conference, pp. 524-529, 1992.
【非特許文献2】J. Singh, and S. S. Sapatnekar, "Partition-Based Algorithm for Power Grid Design Using Locality," IEEE Transactions on Computer-aided Design of Integrated Circuits and Systems, vol. 25, no.4, pp. 664-677, April. 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者は以下の問題を見出した。IRドロップ違反を解消するために配線幅を大きくすることは、電源配線の面積が増大し、半導体集積回路の大型化につながるため、最小限に留めたい。しかしながら、非特許文献2及び特許文献2に開示された手法では、配線全体の配線幅を大きくするため、半導体集積回路の大型化につながり易いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る半導体装置の電源配線レイアウト方法は、
前記電源配線を、複数のノードと、互いに隣接する前記ノード間に配置された複数の要素抵抗と、を含む解析モデルとしてモデル化し、
回路シミュレーションにより各前記複数のノードにおける電圧値を求め、
前記電圧値にIRドロップ違反がある場合、前記IRドロップ違反が最大となるノードへ流れ込む電流経路を探索し、
前記複数の要素抵抗のうち、前記電流経路に含まれる要素抵抗からボトルネック要素抵抗を選択し、
前記ボトルネック要素抵抗の抵抗値を変更するものである。
【0010】
本発明に係る半導体装置の電源配線レイアウト装置は、
前記電源配線を、複数のノードと、それぞれが2つの当該ノード間に配置された複数の要素抵抗と、を含む解析モデルとしてモデル化する電源配線モデル化部と、
各前記複数のノードにおける電圧値を求め、前記電圧値にIRドロップ違反があるか否かを判定するIRドロップ判定部と、
前記IRドロップ違反が最大となるノードへ流れ込む電流経路を探索し、前記複数の要素抵抗のうち、前記電流経路に含まれる要素抵抗からボトルネック要素抵抗を決定し、当該ボトルネック要素抵抗の抵抗値を更新するボトルネック決定部と、を備えるものである。
【0011】
本発明では、IRドロップ違反が最大となるノードへ流れ込む電流経路を探索し、複数の要素抵抗のうち、当該電流経路に含まれる要素抵抗からボトルネック要素抵抗を選択し、その抵抗値を変更する。そのため、IRドロップ違反を解消しつつ、半導体集積回路の大型化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、IRドロップ違反を解消しつつ、半導体集積回路の大型化を抑制することができる半導体装置の電源配線レイアウト方法及び電源配線レイアウト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係る半導体装置の電源配線レイアウト方法のフローチャートである。
【図2A】半導体デバイスチップ101の電源配線網のレイアウトを示す平面図である。
【図2B】半導体デバイスチップ101のグランド配線網のレイアウトを示す平面図である。
【図3】図2Aの電源配線網及び図2Bのグランド配線網に対応する解析モデルの斜視図である。
【図4】直流解析により求められた図2Aに示した電源配線網の各ノードの電圧値の一例を示したものである。
【図5】図4において破線で囲われた領域の拡大図である。
【図6A】解析の繰り返し数に対するIRドロップ値の変化を示すグラフである。
【図6B】解析の繰り返し数に対する電源配線の面積の変化を示すグラフである。
【図7】図5の各枝にコスト=電流量/許容電流量を付した図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置設計用の電源配線レイアウト装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0015】
(実施の形態1)
図1を参照して本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置の電源配線レイアウト方法について説明する。図1は、実施の形態1に係る半導体装置の電源配線レイアウト方法のフローチャートである。図1に示すように、電源配線レイアウト方法は、電源配線をモデル化するステップST1、抵抗値の初期値を設定するステップST2、直流解析を実行するステップST3、IRドロップ違反があるか否かを判定するステップST4、IR違反があった場合、ボトルネック枝を探索し、その抵抗値を更新するステップST5の5つのステップを備えている。
【0016】
まず、電源配線をモデル化するステップST1について説明する。図2Aは、システムLSI(Large Scale Integration)などの半導体デバイスチップ101の電源配線網のレイアウトを示す平面図である。図2Aを参照して、モデル化の対象となる電源配線網について説明する。図2Aに示すように、半導体デバイスチップ101は、太線で示された電源配線網102を備えている。
【0017】
この電源配線網102は、図面縦方向に4行、図面横方向に6列の網目状の配線を備えている。そのため、横方向の配線と、縦方向の配線との交点に、合計4×6=24個のノードを備えている。
【0018】
具体的には、図面の最も左側に位置する縦方向の配線には、4つのノードN11〜N14が並んでいる。この配線の右隣に位置する縦方向の配線には、4つのノードN21〜N24が並んでいる。この配線の右隣に位置する縦方向の配線には、4つのノードN31〜N34が並んでいる。この配線の右隣に位置する縦方向の配線には、4つのノードN41〜N44が並んでいる。この配線の右隣に位置する縦方向の配線には、4つのノードN51〜N54が並んでいる。そして、この配線の右隣に位置し、図面の最も右側に位置する縦方向の配線には、4つのノードN61〜N64が並んでいる。
【0019】
換言すると、図面の最も上側に位置する横方向の配線には、6つのノードN11、N21、N31、N41、N51、N61が並んでいる。この配線の下隣に位置する横方向の配線には、6つのノードN12、N22、N32、N42、N52、N62が並んでいる。この配線の下隣に位置する横方向の配線には、6つのノードN13、N23、N33、N43、N53、N63が並んでいる。そして、この配線の下隣に位置し、図面の最も下側に位置する横方向の配線には、6つのノードN14、N24、N34、N44、N54、N64が並んでいる。
また、上記24個のノードのうち、四隅に位置するノードN11、N14、N61、N64は、それぞれ電源バッドPP1、PP2、PP3、PP4に配線を介して接続されている。
【0020】
次に、本実施の形態に係る半導体装置の電源配線レイアウト方法での、各ノードに流れる電流量の決定方法について説明する。まず、24個のノードの1つ1つに対応するように、半導体デバイスチップ101全体を24個の領域に分割する。そして、分割された各領域が消費する電流量を、各ノードに流れる電流量とする。以下に、より具体的に説明する。図2Aに示すように、破線で示された5本の縦線X1〜X5及び3本の横線Y1〜Y3により、半導体デバイスチップ101全体が24個の領域に分割されている。
【0021】
ここで、図2Aに示すように、半導体デバイスチップ101は、4つのデジタル機能ブロック領域FB1〜FB4を備えている。図2Aでは、機能ブロック領域FB1〜FB4毎にハッチングを変えて示している。ここで、機能ブロック領域FB1〜FBにおける消費電流量は、機能ブロック毎に設計により決められている。そのため、機能ブロック領域FB1〜FBそれぞれの単位面積当たりの消費電流量(以下、単位消費電流量と呼ぶ)が求まる。
【0022】
例えば、ノードN11に割り振られた領域(以下、ノードN11の分割領域などと呼ぶ)は、半導体デバイスチップ101の境界線と、縦線X1、横線Y1により囲まれた領域である。そのため、ノードN11に流れる電流量は、機能ブロック領域FB1の単位消費電流量と、ノードN11の分割領域面積との積となる。同様に、ノードN21の分割領域は、半導体デバイスチップ101の境界線と、縦線X1、X2、横線Y1により囲まれた領域である。そのため、ノードN21に流れる電流量は、デジタル機能ブロック領域FB1の単位消費電流量と、ノードN21の分割領域面積との積となる。
【0023】
また、ノードN31の分割領域は、半導体デバイスチップ101の境界線と、縦線X2、X3、横線Y1により囲まれた領域である。この領域は、2つの機能ブロック領域FB1、FB2を含んでいる。そのため、ノードN31に流れる電流量は、(1)機能ブロック領域FB1の単位消費電流量と、ノードN31の分割領域における機能ブロック領域FB1の面積との積と、(2)機能ブロック領域FB2の単位消費電流量と、ノードN31の分割領域における機能ブロック領域FB2の面積との積と、の合計即ち(1)+(2)となる。
【0024】
さらに、ノードN32の分割領域は、縦線X2、X3、横線Y1、Y2により囲まれた領域である。この領域は、3つの機能ブロック領域FB1、FB2、FB3を含んでいる。そのため、ノードN32に流れる電流量は、(1)機能ブロック領域FB1の単位消費電流量と、ノードN32の分割領域における機能ブロック領域FB1の面積との積と、(2)機能ブロック領域FB2の単位消費電流量と、ノードN32の分割領域における機能ブロック領域FB2の面積との積と、(3)機能ブロック領域FB3の単位消費電流量と、ノードN32の分割領域における機能ブロック領域FB3の面積との積と、の合計即ち(1)+(2)+(3)となる。その他のノードに流れる電流量の決定方法も同様であるため、説明を省略する。
【0025】
図2Bは、図2Aに対応した半導体デバイスチップ101のグランド配線網のレイアウトを示す平面図である。図2Aに示した24個のノードN11〜N14、ノードN21〜N24、ノードN31〜N34、ノードN41〜N44、ノードN51〜N54、ノードN61〜N64に対応する24個のノードGN11〜GN14、ノードGN21〜GN24、ノードGN31〜GN34、ノードGN41〜GN44、ノードGN51〜GN54、ノードGN61〜GN64が配置されている。
【0026】
また、上記24個のノードのうち、四隅に位置するノードGN11、GN14、GN61、GN64は、それぞれグランドバッドGP1、GP2、GP3、GP4に配線を介して接続されている。
ここで、図2AのノードN11から対応する図2BのノードGN11に向かって電流が流れる。同様に、図2AのノードN12から対応する図2BのノードGN12に向かって電流が流れる。その他のノードについても同様であるので、説明を省略する。
【0027】
図3は、図2Aの電源配線網及び図2Bのグランド配線網に対応する解析モデルの斜視図である。図3に示すように、当該解析モデルは直方体形状を有しており、その上面が図2Aに示した電源配線網の解析モデル、下面が図2Bに示したグランド配線網の解析モデルである。図3に示すように、図2Aに示した電源配線網の隣接ノード間の配線(以下、枝と呼ぶ)は、要素抵抗としてモデル化されている。また、電源パッドPP1、PP2、PP3、PP4と、それぞれの最近接ノードN11、N14、N61、N64と、を結ぶ配線も要素抵抗としてモデル化されている。図2Bに示したグランド配線網についても同様にモデル化されている。なお、図3から明らかなように、グランド配線網の解析モデルについては一部省略されている。
【0028】
また、図3に示す解析モデルでは、図2Aに示した電源配線網の24個のノードは、対応する図2Bに示したグランド配線網の24個のノードと、電流源を介してそれぞれ接続されている。具体的には、図3に示すように、電源配線のノードN14は、対応するグランド配線のノードGN14と、電流源を介して接続されている。同様に、電源配線のノードN24は、対応するグランド配線のノードGN24と、電流源を介して接続されている。その他のノードについても同様であるので、説明を省略する。ここで、図3に示すように、各電流源はデカップリングキャパシタと並列に接続されている。但し、このデカップリングキャパシタは、直流解析には影響を及ぼさない。
【0029】
次に、図1における抵抗値の初期値を設定するステップST2について説明する。抵抗値の初期値は特に制約されないが、大きい抵抗値を初期値として設定することが好ましい。ここで、抵抗値は、配線幅、配線数、配線厚さなどにより変更可能である。しかしながら、配線幅により抵抗値を変更するのが製造プロセスに及ぼす影響が少なく好ましい。即ち、大きい抵抗値を有する配線とは小さい配線幅を有するということである。このように、できる限り小さい配線幅からスタートすることにより、最終的に得られる電源配線の面積も小さくすることができる
【0030】
次に、図1における直流解析を実行するステップST3について説明する。直流解析は、例えばコンピュータ上でSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)を用いて行うことができる。この直流解析により、図2Aに示した電源配線網の各ノードの電圧を求めることができる。
【0031】
図4は、直流解析により求められた図2Aに示した電源配線網の各ノードの電圧値の一例を示したものである。図4において、電源パッドPP1〜PP4の電圧は、いずれも1.0Vである。そして、各ノードに示された値がそのノードの電圧である。また、各枝に沿って付された矢印は、電流の向きを示している。当然のことながら、電流は隣接ノード間において、電圧の高いノードから電圧の低いノードへ向かって流れる。なお、図4では、ノードN33、N54、N64以外のノード名は省略されている。
【0032】
次に、図1におけるIRドロップ違反があるか否かを判定するステップST4について説明する。図4に示した各ノードの電圧値からIRドロップ違反があるか否か判定することができる。ここで、図1に示すように、IRドロップ違反が無ければ、フローは終了する。
【0033】
次に、ボトルネック枝を探索し、その抵抗値を更新するステップST5について説明する。図1に示すように、ステップST4において、IRドロップ違反があった場合、ボトルネック枝を探索し、その抵抗値を更新する。ここで、図4を用いて、ボトルネック枝の探索方法を説明する。まず、IRドロップが最大のノード即ち最低電圧ノードを探索する。図4の例では、最低電圧ノードは、電圧値0.8VのノードN33である。IRドロップ違反を解消するには、この最低電圧ノードN33の電圧値を上昇させる必要がある。
【0034】
そのため、次に、最低電圧ノードN33におけるIRドロップに影響を及ぼす電流経路を探索する。この電流経路探索は、最低電圧ノードN33から電源パッドまで矢印を逆方向に遡って行くことにより、行うことができる。図4の例では、破線で囲われた領域が求める電流経路となる。ここで、図4に示した電源配線網において、隣接ノード間のIRドロップが最大となるのは、ノードN64(電圧値:0.99V)とノードN54(電圧値:0.82V)との間であり、その値は0.17Vである。しかし、この枝は、破線で囲われた領域に含まれない。そのため、この枝の抵抗値を変更したとしても、効果的に最低電圧ノードN33の電圧値を上昇させることができない。
【0035】
図5は、図4において破線で囲われた領域の拡大図である。図5に示すように、最低電圧ノードN33に至る電流経路は、N33←N32←N42←N43←N44←N34←N24←N14と、N33←N43←N44←N34←N24←N14と、N33←N34←N24←N14と、N33←N23←N24←N14と、N33←N23←N13←N14と、の5つである。
【0036】
ここで、例えば、隣接ノード間の電位差がIRドロップの基準値を超える場合、その枝をボトルネック枝と定義するとする。ここで、例えば、IRドロップの基準値を0.1Vとする。図5の場合、この定義に基づけば、電位差0.11VのノードN13、N23間の枝及び電位差0.13VのノードN33、N34間の枝の2つの枝がボトルネック枝となる。従って、この2つのボトルネック枝の抵抗値を更新する。具体的には、この2つのボトルネック枝の配線幅を広げて抵抗値を低くする。ここで、基準値を設けずに、隣接ノード間の電位差が最大となる枝(図5の場合、ノードN33、N34間の枝)をボトルネック枝として、その抵抗値を更新してもよい。つまり、少なくとも隣接ノード間の電位差が最大となる枝をボトルネック枝として、その抵抗値を更新すればよい。そして、ステップST3に戻り、再度直流解析を実行する。ステップST4においてIRドロップ違反が無くなるまで、ステップST3〜ST5の処理を繰り返し実行する。
【0037】
図6A、6Bを参照して、本実施の形態に係る半導体装置の電源配線レイアウト方法の効果について説明する。図6Aは、解析の繰り返し数に対するIRドロップ値の変化を示すグラフである。図6Aの横軸は解析の繰り返し数(回数)、縦軸はIRドロップ値(V)を示している。実施例は本実施の形態に係る方法、比較例は非特許文献2に係る方法を用いた場合を示している。抵抗値の初期値は同じであるため、最初のIRドロップ値も同じである。図6Aに示すように、IRドロップの基準値を0.1V以下とすると、比較例では繰り返し回数44回でこの基準値をクリアした。一方、実施例では、繰り返し数85回でこの基準値をクリアした。即ち、繰り返し回数では、実施例の方が多い。但し、この繰り返しには、さほど時間を要しない。
【0038】
図6Bは、解析の繰り返し数に対する電源配線の面積の変化を示すグラフである。図6Bの横軸は解析の繰り返し数(回数)、縦軸は電源配線の面積(倍)を示している。初期の配線面積を1とした場合、電源配線の面積が何倍になったかを示している。図6Bに示すように、比較例では繰り返し回数44回で電源配線の面積は初期値の100倍を超えてしまう。一方、実施例では、同じ繰り返し数で比較して、初期値とほとんど変化していない。この傾向はIRドロップの基準値をクリアする繰り返し数85回でも同様である。即ち、IRドロップの基準値をクリアしつつ、比較例に比べ電源配線の面積を100分の1程度に縮小することができる。
【0039】
(実施の形態2)
次に、図7を参照して本発明の第2の実施の形態に係る半導体装置の電源配線レイアウト方法について説明する。実施の形態1では、図5に示した領域において隣接ノード間の電位差が最大あるいは基準値を超えたものをボトルネック枝として選定した。実施の形態2では、図5に示した領域において各枝の電流量も考慮して、最も重要な電流経路(クリティカルパス)を決定する。さらに、そのクリティカルパスに含まれる枝において、隣接ノード間の電位差が最大となる枝をボトルネック枝として選定する。
【0040】
図7は、図5の各枝にコスト=電流量I/許容電流量Iaを付した図である。また、カッコ内のr(単位:Ω)は各枝の抵抗値を示している。即ち、この抵抗値rはモデル化された各要素抵抗の抵抗値である。隣接ノード間の電位差がボトルネック基準値を超えないように設定した場合、このボトルネック基準値Vbnと各枝の抵抗値rとを用いて、許容電流量Ia=Vbn/rと表すことができる。他方、隣接ノード間の電位差をVとすると、電流量I=V/rと表すことができる。つまり、コスト=I/Ia=V/r/(Vbn/r)=V/Vbnとなる。
【0041】
図7の例では、この基準値をIRドロップの基準値Vbn=0.1Vとした場合を示している。例えば、ノードN14、N24間の枝の許容電流量Ia=0.1V/0.1Ω=1Aとなる。ノードN14、N24間の電位差が図6に示すように0.99−0.95=0.038Vであると、電流量I=0.038V/0.1Ω=0.38Aとなる。従って、コスト=0.38/1となる。その他の枝についても同様にコストを求めることができる。
【0042】
図7に示すように、最低電圧ノードN33に至る電流経路は、N33←N32←N42←N43←N44←N34←N24←N14と、N33←N43←N44←N34←N24←N14と、N33←N34←N24←N14と、N33←N23←N24←N14と、N33←N23←N13←N14と、の5つである。各電流経路のコストの逆数即ち電流量Iと許容電流量Iaとの逆比を合計し、その値が最小のものがクリティカルパスとして定まる。図7の例では、N33←N34←N24←N14がクリティカルパスとなる。そして、このクリティカルパスN33←N34←N24←N14において、隣接ノード間の電位差が0.13Vで最大となるノードN33、N34間の枝がボトルネック枝として選定される。
【0043】
なお、上記5つのパスは、いずれも始点がノードN14(0.99V)、終点がノードN33(0.8V)である。そのため、コストの合計はいずれのパスでも同じ値(0.99−0.8)/0.1=1.9となる。その他の工程は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0044】
(実施の形態3)
次に、図8を参照して本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置設計用の電源配線レイアウト装置について説明する。図8は、本発明の第3の実施の形態に係る半導体装置設計用の電源配線レイアウト装置のブロック図である。実施の形態1、2において説明した半導体装置の電源配線レイアウト方法は、通常、半導体装置設計ツールなどのソフトウェアに組み込むことにより実施される。しかしながら、図8に示すように、ハードウェアにより実現することもできる。
【0045】
図8に示すように、第3の実施の形態に係る半導体装置設計用の電源配線レイアウト装置は、配線モデル化部301、抵抗値設定部302、IRドロップ判定部303、ボトルネック枝決定部304を備えている。配線モデル化部301は、図2A、2Bに示すような電源配線の設計データから図3に示すような電源配線モデルを生成する。IRドロップ判定部303は、配線モデル化部301により生成された電源配線モデルを用いて、IRドロップ判定を行なう。具体的なIRドロップ判定方法は、実施の形態1と同様である。ボトルネック枝決定部304は、IRドロップ判定結果に基づいて、IRドロップに影響が大きいボトルネック枝を決定し、その抵抗値を更新する。具体的な探索方法は、実施の形態1と同様である。
【0046】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0047】
101 半導体デバイスチップ
102 電源配線網
301 配線モデル化部
302 抵抗値設定部
303 ドロップ判定部
304 ボトルネック枝決定部
FB1〜FB4 機能ブロック領域
GP1〜GP4 グランドバッド
PP1〜PP4 電源パッド
N11〜N14 ノード
N21〜N24 ノード
N31〜N34 ノード
N41〜N44 ノード
N51〜N54 ノード
N61〜N64 ノード
GN11〜GN14 ノード
GN21〜GN24 ノード
GN31〜GN34 ノード
GN41〜GN44 ノード
GN51〜GN54 ノード
GN61〜GN64 ノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路の電源配線レイアウト方法であって、
前記電源配線を、複数のノードと、互いに隣接する前記ノード間に配置された複数の要素抵抗と、を含む解析モデルとしてモデル化し、
回路シミュレーションにより各前記複数のノードにおける電圧値を求め、
前記電圧値にIRドロップ違反がある場合、前記IRドロップ違反が最大となるノードへ流れ込む電流経路を探索し、
前記複数の要素抵抗のうち、前記電流経路に含まれる要素抵抗からボトルネック要素抵抗を選択し、
前記ボトルネック要素抵抗の抵抗値を変更する電源配線レイアウト方法。
【請求項2】
前記電流経路の探索において、
前記IRドロップ違反が最大となるノードへ流れ込む全ての電流経路を探索することを特徴とする請求項1に記載の電源配線レイアウト方法。
【請求項3】
前記ボトルネック要素抵抗には、前記電流経路において両端ノードの電位差が最大の要素抵抗が含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の電源配線レイアウト方法。
【請求項4】
前記電流経路に含まれる各要素抵抗での電流量と許容電流量との逆比を求め、
前記電流経路のうち前記逆比の合計が最小になるクリティカルパスから前記ボトルネック要素抵抗を選択することを特徴とする請求項1又は2に記載の電源配線レイアウト方法。
【請求項5】
前記ボトルネック要素抵抗には、前記クリティカルパスにおいて両端ノードの電位差が最大の要素抵抗が含まれることを特徴とする請求項4に記載の電源配線レイアウト方法。
【請求項6】
前記ボトルネック要素抵抗の抵抗値を変更した後、再度回路シミュレーションを行なうことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電源配線レイアウト方法。
【請求項7】
前記ボトルネック要素抵抗の抵抗値を大きい値から小さい値へ変更することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電源配線レイアウト方法。
【請求項8】
前記ボトルネック要素抵抗の幅を広げることにより、抵抗値を変更することを特徴とする請求項7のいずれか一項に記載の電源配線レイアウト方法。
【請求項9】
半導体集積回路の電源配線のレイアウトを行なう電源配線レイアウト装置であって、
前記電源配線を、複数のノードと、それぞれが2つの当該ノード間に配置された複数の要素抵抗と、を含む解析モデルとしてモデル化する電源配線モデル化部と、
各前記複数のノードにおける電圧値を求め、前記電圧値にIRドロップ違反があるか否かを判定するIRドロップ判定部と、
前記IRドロップ違反が最大となるノードへ流れ込む電流経路を探索し、前記複数の要素抵抗のうち、前記電流経路に含まれる要素抵抗からボトルネック要素抵抗を決定し、当該ボトルネック要素抵抗の抵抗値を更新するボトルネック決定部と、を備える電源配線レイアウト装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−204086(P2011−204086A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71790(P2010−71790)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】