説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】 樹脂シートを用いることなくヒートシンクに導電材料層が接合される半導体装置の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明による半導体装置1,2は、ヒートシンク40と、ヒートシンク40上に直接、樹脂を含まない絶縁材料を溶射して形成した絶縁層30と、絶縁層30上に直接、導電材料を溶射して形成した導電材料層20と、導電材料層20上に設けられる半導体素子を含むチップ10と、を備えることを特徴とする。絶縁材料は、好ましくは、AlN、SiN又はAlである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクに絶縁層を介して導電材料層を備える半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の半導体装置は知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ヒートシンク上に熱伝導シートを介してヒートスプレッダが接合されている。この熱伝導シートは、ポリベンゾビスオキサゾール樹脂を主成分とする樹脂硬化物のシートであり、電気的絶縁性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−268514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるような樹脂シートを用いて、ヒートスプレッダとヒートシンクを接合する場合、樹脂シート(絶縁層)の厚みが接合面内で均一にならず、それに応じてヒートスプレッダが僅かな傾きをもってヒートシンク上に接合される場合がある。このような傾きが発生すると、ヒートスプレッダに接合される半導体素子の電極端子の高さのばらつきが大きくなるので、電極端子とバスバーをレーザー溶接等で接合する際、溶接不良を起こす虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、樹脂シートを用いることなくヒートシンクに導電材料層が接合される半導体装置及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一局面によれば、ヒートシンクと、
前記ヒートシンク上に直接、樹脂を含まない絶縁材料を溶射して形成した絶縁層と、
前記絶縁層上に直接、導電材料を溶射して形成した導電材料層と、
前記導電材料層上に設けられる半導体素子を含むチップと、を備えることを特徴とする半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂シートを用いることなくヒートシンクに導電材料層が接合される半導体装置及びその製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例による半導体装置1の要部を示す断面図である。
【図2】比較例1による半導体装置100の要部を示す断面図である。
【図3】比較例2による半導体装置200の要部を示す断面図である。
【図4】本発明の他の一実施例による半導体装置2の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0010】
図1は、本発明の一実施例による半導体装置1の要部を示す断面図である。尚、半導体装置1の上下方向は、半導体装置1の搭載状態に応じて上下方向が異なるが、以下では、便宜上、半導体装置1のチップ10側を上方とする。半導体装置1は、例えば、ハイブリッド車又は電気自動車で使用されるモータ駆動用のインバータを構成するものであってよい。
【0011】
半導体装置1は、図1に示すように、チップ10と、ヒートスプレッダ20と、絶縁層30と、ヒートシンク40とを含む。
【0012】
チップ10は、パワー半導体素子を含み、本例ではIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を含む。尚、チップ10が含むパワー半導体素子の種類や数は、任意である。チップ10は、IGBTに代えて、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field−Effect Transistor)のような他のスイッチング素子を含んでもよい。チップ10は、ヒートスプレッダ20上に半田50により接合される。尚、チップ10には、エミッタ端子12が半田50により接合される。
【0013】
ヒートスプレッダ20は、チップ10で発生する熱を吸収し拡散する部材である。ヒートスプレッダ20は、導電性材料を溶射して形成される。具体的には、ヒートスプレッダ20は、絶縁層30上に直接、導電性材料を溶射して形成される。即ち、ヒートスプレッダ20は、導電性材料の溶射皮膜として絶縁層30上に直接形成される。尚、溶射とは、典型的には、燃焼ガス・アーク・プラズマ等の熱源により溶融した導電性材料やセラミック材料を対象表面に吹き付けることにより対象表面上に溶射皮膜を生成するコールドスプレーやエアロゾルデポジション等によるコーティング技術である。尚、導電性材料としては、銅やアルミなどの熱拡散性の優れた材料であってよい。また、導電性材料としては、伝導率が銅材の中で最も高い無酸素銅(C1020)が好適であるが、任意の銅材であってもよい。
【0014】
ヒートスプレッダ20上には、コレクタ端子14が立設される。コレクタ端子14は、銅などの導電性材料を溶射して形成される。具体的には、コレクタ端子14は、ヒートスプレッダ20上に直接、導電性材料を溶射して形成される。即ち、コレクタ端子14は、導電性材料の溶射皮膜としてヒートスプレッダ20上に直接形成される。コレクタ端子14は、ヒートスプレッダ20と同一の導電性材料で形成されてもよい。この場合、コレクタ端子14は、ヒートスプレッダ20の溶射による形成と同一の工程で形成することができる。例えば、絶縁層30上に導電性材料を溶射して上面が平らなヒートスプレッダ20を形成し、次いで、ヒートスプレッダ20上の所定位置に導電性材料を溶射して所定高さの凸部としてコレクタ端子14を形成する。尚、コレクタ端子14やエミッタ端子12は、上端がバスバー(図示せず)に溶接され、外部(例えば他のアームのパワー半導体素子や、モータ、電源)に接続される。
【0015】
絶縁層30は、ヒートスプレッダ20とヒートシンク40の間に設けられ、ヒートスプレッダ20とヒートシンク40に接合する。絶縁層30は、ヒートスプレッダ20とヒートシンク40との間の電気的な絶縁性を確保しつつ、ヒートスプレッダ20からヒートシンク40への高い熱伝導性を確保する。絶縁層30は、ヒートシンク40上に直接、樹脂を含まない絶縁材料を溶射して形成される。即ち、絶縁層30は、樹脂を含まない絶縁材料の溶射皮膜としてヒートシンク40上に直接形成される。樹脂を含まない絶縁材料は、好ましくはセラミック材料であり、例えばAlN(窒化アルミニウム)、SiN(窒化ケイ素)又はAl(アルミナ)である。特にAlN及びSiNは好適である。これは、AlN及びSiNは熱伝導性及び電気絶縁性が高いためである。尚、Alは、AlN及びSiNに比べて熱伝導性及び電気絶縁性が劣るものの、溶射に適した材料である。
【0016】
ヒートシンク40は、熱伝導性の良い材料から形成され、例えば、銅やアルミなどの金属により形成される。ヒートシンク40は、上述の如く、上面がヒートスプレッダ20に接合される。ヒートシンク40は、図1に示すように、下面側にフィン42を備える。フィン42の数や配列態様は任意である。フィン42は、図示のようなストレートフィンであってもよいし、その他、ピンフィンの千鳥配置等で実現されてもよい。半導体モジュール1の実装状態では、フィン42は、冷却水や冷却油のような冷却媒体と接触する。ヒートシンク40は、2つ以上の部材で構成されてもよい。例えば、ヒートシンク40は、第1の金属板と、フィン42を備えた第2の金属板とを結合して構成されてもよい。
【0017】
かかる構成によれば、半導体装置1の駆動時に生じるチップ10からの熱は、ヒートスプレッダ20、絶縁層30を介して、ヒートシンク40のフィン42から冷却媒体へと伝達される。このようにして半導体装置1の冷却が実現される。
【0018】
ここで、比較例1,2と対比しつつ、本実施例の作用効果について説明する。
【0019】
図2は、比較例1による半導体装置100の要部を示す断面図である。尚、図2において、上述の実施例による半導体装置1と同様の構成については、同一の参照符号を付している。
【0020】
比較例1による半導体装置100は、上述の実施例による半導体装置1に対して、溶射皮膜からなる絶縁層30に代えて樹脂シート32が使用され、溶射皮膜からなるヒートスプレッダ20に代えて銅ブロックからなるヒートスプレッダ22が使用されている点が主に異なる。ヒートスプレッダ22は、樹脂シート32をヒートスプレッダ22及びヒートシンク40に接合させることにより、ヒートシンク40に接合される。樹脂シート32は、例えばアルミナをフィラーとしたエポキシ樹脂により形成される。また、比較例1では、コレクタ端子141は、ヒートスプレッダ22に半田50により接合される。
【0021】
このような比較例1では、樹脂シート32の厚みが接合面内で一定に維持されず、それに応じてヒートスプレッダ22が僅かな傾きをもってヒートシンク40上に接合される場合がある。このような傾きが発生すると、ヒートスプレッダ22上の接合されるコレクタ端子141やエミッタ端子12の上端の高さ公差(図2の矢印P参照)が大きくなるので、コレクタ端子141やエミッタ端子12とバスバーをレーザー溶接等で接合する際、高さ公差によってはこれらの高さ方向の隙間が大きくなり溶接不良を起こす虞がある。
【0022】
これに対して、本実施例によれば、上述の如く、樹脂シート32を使用せずに、ヒートシンク40上に絶縁層30及びヒートスプレッダ20を順に溶射皮膜としてそれぞれ形成する。ここで、溶射皮膜は、熱及び圧力を印加して接合させる樹脂シート32に比べて厚さ方向の寸法公差を小さくすることができる。即ち、溶射皮膜は、樹脂シート32に比べて、接合面全体に亘ってより均一な厚さで形成することができる。従って、本実施例によれば、比較例1で生じうるようなヒートスプレッダ20の傾きを防止することができる。これにより、ヒートスプレッダ20上の接合されるコレクタ端子14やエミッタ端子12の上端の高さ公差を少なくすることができ、溶接不良を適切に防止することができる。
【0023】
また、本実施例によれば、上述の如く、樹脂シート32を使用せずに、ヒートシンク40上に絶縁層30及びヒートスプレッダ20を順に溶射皮膜としてそれぞれ形成するので、比較例1に比べて、製造工程を効率化することができる。即ち、本実施例では、絶縁層30の形成と接合が同時に実現され、且つ、ヒートスプレッダ20の形成と接合が同時に実現されるので、製造工程を効率化することができる。
【0024】
また、本実施例において、AlN又はSiNの溶射皮膜により絶縁層30を形成する場合には、樹脂シート32の熱伝導性よりも顕著に高いAlN又はSiNの熱伝導性に起因して、ヒートスプレッダ20とヒートシンク40との間の熱伝導性を高めることができる。また、AlN又はSiNの高い絶縁性により、樹脂シート32の厚みに比べて絶縁層30の厚みを薄くすることも可能である。
【0025】
また、本実施例によれば、上述の如く、コレクタ端子14は、半田付けによらず、溶射皮膜として立体的にヒートスプレッダ20上に形成される。これにより、比較例1で必要とされるコレクタ端子141の半田付けを廃止することができる。また、コレクタ端子14は、ヒートスプレッダ20上に溶射により形成されるので、コレクタ端子14の上端の高さ公差を少なくすることができ、溶接不良を適切に防止することができる。
【0026】
図3は、比較例2による半導体装置200の要部を示す断面図である。
【0027】
比較例2による半導体装置200は、上述の実施例による半導体装置1に対して、溶射皮膜からなる絶縁層30及びヒートスプレッダ20に代えて、基板24が使用されている点が主に異なる。基板24は、セラミック基板の両面にアルミ板を備えたDBA(Direct Bonding Aluminum)基板や、セラミック基板の両面に銅板を備えたDBC(Direct Bonding Copper)基板であってよい。基板24は、ヒートシンク40に半田50により接合される。また、比較例2では、コレクタ端子141は、基板24に半田50により接合される。
【0028】
このような比較例2では、比較例1と同様、基板24とヒートシンク40とを接合する半田50の層の厚みが接合面内で一定に維持されず、それに応じて基板24が僅かな傾きをもってヒートシンク40上に接合される場合がある。このような傾きが発生すると、基板24上の接合されるコレクタ端子141やエミッタ端子12の上端の高さ公差(図3の矢印P参照)が大きくなるので、コレクタ端子141やエミッタ端子12とバスバーをレーザー溶接等で接合する際、これらの高さ方向の隙間が大きくなり溶接不良を起こす虞がある。
【0029】
これに対して、本実施例によれば、上述の如く、基板24のヒートシンク40への半田付けを行うことなく、ヒートシンク40上に絶縁層30及びヒートスプレッダ20を順に溶射皮膜としてそれぞれ形成する。これにより、半田付けを廃止することができ、且つ、ヒートスプレッダ20上の接合されるコレクタ端子14やエミッタ端子12の上端の高さ公差を少なくすることができ、溶接不良を適切に防止することができる。
【0030】
また、比較例2では、チップ10の熱は複数層からなる基板24を介してヒートシンク40に伝導されるので、その分だけ熱抵抗が大きくなる。
【0031】
これに対して、本実施例によれば、上述の如く、ヒートシンク40上に直接、絶縁層30及びヒートスプレッダ20を溶射により形成するので、チップ10からヒートシンク40までの間の中間部材を低減することができ、低い熱抵抗を実現することができる。
【0032】
図4は、本発明の他の一実施例による半導体装置2の要部を示す断面図である。
【0033】
本実施例による実施例による半導体装置2は、上述の実施例による半導体装置1に対して、コレクタ端子141が半田50によりヒートスプレッダ20に接合されている点だけが異なる。このような実施例によっても、ヒートシンク40上に絶縁層30及びヒートスプレッダ20が溶射皮膜としてそれぞれ形成されることによる上述の作用効果を奏することができる。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0035】
例えば、上述の実施例では、半導体装置1、2は、車両用のインバータに適用されるものであったが、半導体装置1は、他の用途(鉄道、エアコン、エレベータ、冷蔵庫等)で使用されるインバータに使用されてもよい。更に、半導体装置1は、インバータ以外の装置、例えば、コンピューター用のMPU(Microprocessor Unit)や、無線通信機の送信部の電力増幅回路に使用される高周波パワーモジュールに使用されてもよい。
【0036】
また、上述の実施例では、ヒートスプレッダ20がIGBTのコレクタ電極と等電位になることから、コレクタ端子14をヒートスプレッダ20上に溶射により形成しているが、例えば、IGBTに代えてMOSFETを含むチップ10を用いる場合には、ヒートスプレッダ20がMOSFETのドレイン電極と等電位になることから、同様のドレイン端子をヒートスプレッダ20上に溶射により形成すればよい。
【符号の説明】
【0037】
1,2 半導体装置
10 チップ
12 エミッタ端子
14 コレクタ端子
20 ヒートスプレッダ
30 絶縁層
40 ヒートシンク
42 フィン
50 半田
141 コレクタ端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシンクと、
前記ヒートシンク上に直接、樹脂を含まない絶縁材料を溶射して形成した絶縁層と、
前記絶縁層上に直接、導電材料を溶射して形成した導電材料層と、
前記導電材料層上に設けられる半導体素子を含むチップと、を備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記絶縁材料は、AlN、SiN又はAlである、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記導電材料層上に前記導電材料を溶射して前記導電材料層上に突設した電極端子であって、前記半導体素子に電気的に接続される電極端子を更に備える、請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ヒートシンク上に直接、樹脂を含まない絶縁材料を溶射して絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層上に直接、導電材料を溶射して導電材料層を形成する工程と、
前記導電材料層上に、半導体素子を含むチップを配置する工程と、を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−222327(P2012−222327A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90208(P2011−90208)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】