説明

半導体装置用電極膜

【課題】スパイク発生を解消する電極膜を提供する。
【解決手段】裏面電極膜5は、コレクタ層31の表面に、密着層11と拡散防止層12とバリア層13と電極本体層14と親和層15とがこの順序で形成されており、親和層15は、低融点金属層16によってステージに接続される。密着層11はアルミニウム合金であり、拡散防止層12はTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Ta,W,Coのうち、1種類を含む金属であり、電極本体層14はNi合金であり、バリア層13は拡散防止層12の金属の窒化物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極膜の技術分野にかかり、特に、半導体素子の裏面電極膜と、その裏面電極膜を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大電力を制御するIGBTやダイオードなどは、シリコン基板の表面に形成されたデバイス面と裏面に形成された裏面電極からなる。さらに、裏面電極を介して配線基板に半田により接続固定される。
【0003】
図3は、一般的なIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)101の断面図である。IGBT101はp型のコレクタ層131上にn型のドリフト層132が形成されている。n型のドリフト層132の内部表面には、p型のバックゲート領域133と、バックゲート領域133の内部に配置されたn型のエミッタ領域134とが形成されている。バックゲート領域133の外周とエミッタ領域134の外周とで挟まれた領域はチャネル領域であり、そのチャネル領域上には、ゲート絶縁膜135が配置されている。ゲート絶縁膜135上にはゲート電極膜136が配置されている。
【0004】
ゲート電極膜136の表面には層間絶縁膜137が配置されており、その表面と、エミッタ領域134の表面とバックゲート領域133の表面には、エミッタ電極膜138が配置されている。コレクタ層131の裏面には裏面電極膜105が配置されている。
【0005】
そして、このIGBT101のようにチャネル領域がp型の場合、エミッタ電極膜138に負電圧又は接地電圧、裏面電極膜105に正電圧を印加しながら、ゲート電極膜136に正電圧を印加すると、チャネル領域の内部表面にn型の反転層が形成され、エミッタ領域134とn型のドリフト層132が反転層で接続され、電流が流れる。この電流は裏面電極膜105を厚み方向に流れる。
上記のようなIGBT101は、配線基板等のステージ141上に、裏面電極膜105側が半田などの低融点金属層116によって固定されている。
【0006】
図4は、裏面電極膜105の積層構造を説明するための断面図であり、裏面電極膜105は、コレクタ層131の表面に形成され、半導体と密着性のよい密着層111と、裏面電極膜105の表面に位置し、低融点金属層116と密着性のよい親和層115と、密着層111と親和層115の間に位置し、裏面電極膜105の本体となる電極本体層114とを有している。
【0007】
密着層111には、シリコン半導体と化合物を形成し(シリサイド)、密着性が良いアルミニウムを主成分とする金属膜であって、シリコン原子の密着層111内への拡散を防止するためにシリコンが1重量%添加されたアルミニウム合金が用いられている。親和層115には、低融点金属と親和性が高い銀や金の薄膜が用いられている。
【0008】
電極本体層114には、金属との密着性がよく、低抵抗の銅ニッケル合金やニッケルバナジウム合金が用いられている。
しかし、上記裏面電極膜105では、IGBT101をステージ141に固定する際の熱処理でに、低融点金属層116が溶融する。その溶融金属が裏面電極膜105に長時間接触していると、親和層115と電極本体層114と密着層111が部分的に溶融金属中に溶解してしまい、溶融金属がコレクタ層131と接触するとボイドが形成され、不良品となってしまう。
【0009】
その対策としては、例えば、図5のように、密着層111と電極本体層114の間に耐溶解性が高いバリア層113が挿入された電極膜106が提案されており、親和層115と電極本体層114が溶解しても、溶融した低融点金属と密着層111やコレクタ層131と接触せず、不良品が発生しないようにされている。
【0010】
バリア層113には、密着層111との密着性が高く、且つ、半田に浸食されないことが必要であり、チタン薄膜やタングステン薄膜等の高融点金属膜が用いられる。
ところが、密着層111と電極本体層114の間にバリア層113を配置した電極膜106では、低融点金属を溶融・固定させ、IGBT101をステージ141に搭載する熱処理工程を経ると、コレクタ層131中のシリコン原子が、密着層111内に拡散し、よれによって形成された空洞内に、消失したシリコン原子の替わってアルミニウム原子が侵入し、スパイク139aが形成されるという問題がある。
【0011】
近年の半田低融点層では、用いられる合金に鉛が含有されないようになって来ており、その合金は鉛を含む半田金属に比べて溶融温度が高温であるため、シリコン原子のアルミ層への拡散が大きくなり、それにともない、スパイクの成長も増大する。
【非特許文献1】D. Prramanik, A. N. Saxena, "VLSI Metallization Using Aluminium and its Alloys", Solid State Technology, January, p127 (1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
スパイクの発生を防止する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、シリコン基板に形成される電極膜であって、前記電極膜は、前記シリコン基板に密着された第1層と、前記第1層の表面に配置された第2層と、前記第2層の表面に配置された第3層と、前記第3層の表面に配置された第4層とを有し、前記第1層はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金であり、前記第2層はTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Ta、W、Coのうち、1種類を含む金属であり、前記第4層はNiを主成分とするNi合金であり、前記第3層は前記第2層金属の窒化物薄膜である電極膜である。
また、本発明は、電極膜が形成された半導体装置である。
【発明の効果】
【0014】
スパイクの発生を抑制し、半導体装置の動作不良を防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1の符号1は、本発明のIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ素子)であり、半導体層30の裏面に形成された裏面電極膜5が、リードフレーム等のステージ41上に低融点金属層16によって固定されている。
【0016】
IGBT1の構造を説明する。p型とn型のうち、一方を第一導電型、他方を第二導電型とすると、このIGBT1では、半導体層30は、第二の導電型(ここではp型)のコレクタ層31と、コレクタ層31上に配置されたコレクタ層31とは反対の第一導電型(ここではn型)のドリフト層32とを有している。コレクタ層31とドリフト層32はpn接合を形成している。
【0017】
ドリフト層32の内部には、コレクタ層と同じ導電型のバックゲート領域33が一乃至複数個形成されており、各バックゲート領域33の内部には、不純物濃度の高い第一導電型のエミッタ領域34がそれぞれ形成されている。
符号39は、バックゲート領域33の外周とエミッタ領域34の外周とで挟まれたチャネル領域を示している。
【0018】
チャネル領域39上にはゲート絶縁膜35が配置されており、ゲート絶縁膜35上にはゲート電極膜36が配置されている。ゲート絶縁膜35及びゲート電極膜36の端部は、エミッタ領域34表面の端部とドリフト層32表面の端部上に位置しており、その間の部分がチャネル領域39上に配置されている。
【0019】
ゲート電極膜36の表面には層間絶縁膜37が配置されている。
エミッタ領域34とバックゲート領域33の少なくとも一部表面は露出されており、それら露出された表面に、エミッタ電極膜38が形成されている。エミッタ電極膜38とゲート電極膜36とは層間絶縁膜37によって絶縁されている。
【0020】
IGBTやMOSFETでは、第一導電型がn型、第二導電型がp型の場合、エミッタ電極膜38に負電圧、裏面電極膜5に正電圧を印加しながら、ゲート電極膜36に正電圧を印加すると、チャネル領域39の内部表面に第一導電型の反転層が形成され、エミッタ領域34とドリフト層32とが反転層で接続される。その結果、ドリフト層32とエミッタ領域34を通り、裏面電極膜5からエミッタ電極膜38に向けて電流が流れる。第一導電型がp型、第二導電型がn型の場合は、前記とは逆極性の電圧を印加すると、同様に反転層が形成され、エミッタ電極膜38から裏面電極膜5に向けて電流が流れる。
【0021】
このIGBT1では、裏面電極膜5は、図2に示すように、密着層11とバリア層13の間に拡散防止層12が配置されている。
即ち、この裏面電極膜5は、コレクタ層31表面に形成された密着層11を有しており、密着層11の表面には拡散防止層12が形成され、バリア層13は、拡散防止層12の表面に形成されている。バリア層13の表面には、電極本体層14と、親和層15とが形成されている。
【0022】
密着層11は、半導体層30の材料、ここではシリコンと密着性のよいアルミニウムを主成分とする金属膜であって、シリコンが1重量%添加されたアルミニウム合金膜が用いられている。拡散防止層12には、高融点金属の窒化物膜が用いられている。
【0023】
バリア層13は、拡散防止層12と同じ高融点金属で構成された高融点金属薄膜であり、電極本体層14は、金属との密着性がよく、低抵抗の銅ニッケル合金やニッケルバナジウム合金の薄膜が用いられている。親和層15には、低融点金属に対する親和性が高い銀や金又はその合金薄膜が用いられている。
【0024】
膜厚は、一例として、密着層11は200nm、拡散防止層12は5n〜100nmの窒化チタン(TiN)薄膜、バリア層13は、200nmの金属チタン薄膜、電極本体層14は700nmのニッケル金属薄膜、親和層15は100nmの金薄膜である。
【0025】
低融点金属層16は鉛を含有しないAg−Sn合金の低融点材料構成されており、低融点材料は、金属製のステージ41と裏面電極膜5の間に配置され、350℃の熱処理によって溶融・固定され、薄膜化されている。裏面電極膜5は低融点金属層16によってステージ41に固定されている。
【0026】
この裏面電極膜5の形成工程を説明すると、先ず、コレクタ層31が露出した状態のIGBTが多数形成されて基板を、真空槽内に搬入し、スパッタ法により、コレクタ層31の表面に密着層11を形成し、次に大気に曝さずに、別の真空槽内に移動させ、金属チタンをターゲットとして、真空槽内に窒素ガスとスパッタリングガス(例えばアルゴンガス)を導入し、窒素ガスが添加されたスパッタリングガスで金属チタンのターゲットをスパッタリングし、密着層11表面に窒化チタン薄膜から成る拡散防止層12を形成する。
【0027】
そして同じ真空槽内で、窒素ガスの導入を停止し、窒素ガスを含有しないスパッタリングガスによって同じ金属チタンのターゲットをスパッタリングし、拡散防止層12の表面に金属チタン薄膜から成るバリア層13を形成する。電極本体層14や親和層15は、他の真空槽内でスパッタリング法や蒸着法によって形成する。
裏面電極膜5が形成された基板は真空槽の外部に取り出し、ダイシングによって分割し、IGBT1を分離させる。
【0028】
次に、本発明のIGBT1の半導体層30の表面状態を説明する。
先ず、裏面電極膜5が形成されたIGBT1を、低融点金属層16によってステージ41に搭載するのと同じ熱処理を行い、裏面電極膜5を剥離し、半導体層30の表面(コレクタ層31の表面)を観察した。
【0029】
図6のa〜dはその観察結果であり、コレクタ層31表面の電子顕微鏡写真である。拡散防止膜12の膜厚は、それぞれ、a:5nm、b:20nm、c:50nm、d:100nmであり、全ての場合でスパイクが生じていないことが分かる。
【0030】
図7のa〜dは比較例であり、半導体層30表面に、同図a:密着層11だけの場合、同図b:密着層11とバリア層13とを形成した場合、同図c:密着層11とバリア層13と電極本体層14とを形成した場合、同図d:密着層11とバリア層13と電極本体層14と親和層15を形成した場合である。各層11、13〜15の材質は上記実施例と同じである。
【0031】
密着層11だけを形成した図7のaではスパイクは観察されないが、図7のb〜dに観察されるように、バリア層13を形成するとスパイクが生じている。これにより、バリア層13がスパイク発生の原因であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明のIGBTの一例を説明するための断面図
【図2】その電極膜を説明するための断面図
【図3】一般的なIGBTを説明するための断面図
【図4】従来の電極膜の一例
【図5】従来の電極膜の他の一例
【図6】a〜d:本発明の電極膜を用いた場合の半導体層の表面状態を示す電子顕微鏡写真
【図7】a〜d:比較例の半導体層の表面状態を示す電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0033】
1……IGBT
5……裏面電極膜
11……密着層
12……拡散防止層
13……バリア層
14……電極本体層
15……親和層
16……低融点金属層
31……コレクタ層
32……ドリフト層
33……バックゲート領域
34……エミッタ領域
35……ゲート絶縁膜
36……ゲート電極膜
39……チャネル領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板に形成される電極膜であって、
前記電極膜は、前記シリコン基板に密着された第1層と、
前記第1層の表面に配置された第2層と、
前記第2層の表面に配置された第3層と、
前記第3層の表面に配置された第4層とを有し、
前記第1層はアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金であり、
前記第2層はTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Ta、W、Coのうち、1種類を含む金属であり、
前記第4層はNiを主成分とするNi合金であり、
前記第3層は前記第2層金属の窒化物薄膜である電極膜。
【請求項2】
請求項1の電極膜が形成された半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−171890(P2008−171890A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1627(P2007−1627)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】