説明

単結晶引下げ装置

【課題】複数の単結晶を同時育成可能な引下げ装置を提供する。
【解決手段】所定の中心軸周りに等配された複数の引下げ用の坩堝11と、坩堝11各々を巻回す複数の加熱コイル部17a、17b、17cと、を有する構成とし、加熱コイル部17a、17b、17cを各コイル部17a、17b、17cの軸心に対して同一方向に電流が流れるように各々直列に接続し、単一の電力導入端21より複数の加熱コイル部17a、17b、17cを有する回路に電力を投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂レーザ用光学素子、非線形光学素子、医療用シンチレータ、圧電素子、超磁歪素子、等に用いられる、酸化物、フッ化物、金属合金等の単結晶を製造する装置に関する。より詳細には、坩堝下端に設けられた孔より原材料融液を引き出しつつ所望の結晶材料を得る引下げ法、特に、ファイバー状単結晶を得る所謂マイクロ引下げ(μ-pD)法と称呼される単結晶製造方法に対応可能であって、複数の単結晶の引下げを同時可能とする単結晶引下げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱溶融された原材料を保持する坩堝の下端部に引き出し孔を形成し、当該孔から漏出する原材料融液に対して結晶核(以降シードと称する。)を接触させ、孔からの原材料の漏出に伴って該シードを引下げることにより、該シードを核として成長する単結晶を得る、所謂引下げ法が知られている。当該方法により得られる単結晶は、従来から知られるCZ法に代表される所謂引き上げ法等により得られる単結晶の結晶径と比較して得られる結晶の径はより小さくなる。しかし、結晶成長に要する時間が短く、且つCZ法と比較して安価に結晶性に優れた単結晶が得られる方法であるとして、現在実際の製造装置としてのハード面での改変、及び各種単結晶への適用の検討が為されている。
【0003】
当該引下げ法において、より結晶性が高いファイバー状の結晶が得られ且つ結晶の成長速度を高く保てる方法として、上述した所謂マイクロ引下げ法(特許文献1参照)が存在する。当該方法を用いて、アルミナ、カルシアといった酸化物単結晶等の製造条件が検討されている。特許文献1に開示される単結晶引下げ装置では、坩堝の周囲に巻回されたコイルに高周波電力を印加し、当該高周波電力によって坩堝−コイル間に配置された発熱体或いは坩堝本体を発熱させ、坩堝内部の原材料融液を溶解している。また、坩堝下部に導電性材料からなる筒状の所謂アフターヒータを配置し、当該アフターヒータも発熱させることによって坩堝から引下げられる原材料融液内での温度勾配の大きさ等を制御し、好適な結晶育成条件を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−347789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したマイクロ引下げ法においては、種々の材料を用いて棒状の単結晶の製造が一般的に行われている。しかし、実際の製造工程では、坩堝に対する原材料の充填、坩堝の装置への取り付け、必要に応じた装置内部の排気と所定の気体の導入、原材料の加熱溶融、坩堝から漏出する原材料融液に対するシードの適切な接触、適切な速度でのシードの引き下げ、得られた単結晶及び装置の徐冷、装置開放及び単結晶の取り出し、といった操作が順次為されている。得られる単結晶の商業ベースでの展開を考慮した場合、これら工程時間の短縮も同時に求められる。特に不活性ガス、或いは酸化性のガス等の特定の雰囲気内において結晶の育成を行わねばならない条件の場合、坩堝、コイル等を収容する所謂チャンバの開閉に要する時間が大きく、この点での所要時間の短縮が求められる。
【0006】
本発明は以上の状況に鑑みて為されたものであって、単一のチャンバ内に複数の坩堝を配置することにより複数の単結晶の略同時育成を可能とすると共に、製造装置の操作者によらず好適且つ安定的な単結晶の育成、製造を可能とする単結晶の引下げ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る単結晶の引下げ装置は、底部が閉塞された閉塞部となる円筒形状を有し、閉塞部を円筒形状の内部から外部に貫通する貫通孔を有する坩堝、の内部に保持された原材料融液を貫通孔から漏出させ、漏出した原材料融液に、原材料融液が結晶化する際の結晶方位を定めるシードを接触させ、シードを所定の引下げ軸に沿って引き下げることによってシードを基点として成長する単結晶を得る単結晶の引下げ装置に関するものであって、所定の中心軸回りに等配に位置する複数の坩堝と、坩堝と同軸にて坩堝各々を巻回して配置される複数の加熱コイル部と、を有し、複数の加熱コイル部は直列に接続されており、複数の加熱コイル部に対しては単一の導入端より電力が供給されることを特徴としている。
【0008】
なお、上述した引下げ装置に関して、複数の加熱コイル部の中心軸であるコイル軸は互いに並行であり、コイル軸を基準とした場合に加熱コイル部に流れる電流の流れ方向が同一となるように、複数の加熱コイル部におけるコイルの巻き方向が定められることが好ましい。或いは、複数の加熱コイル部は、加熱コイル部の各々により形成される磁界の向きが平行且つ同一方向に向かうように、各々捲回されて構成されても良い。また、複数の加熱コイル部は、加熱コイル部の中心軸であるコイル軸を所定の中心軸の回りに移動させた場合であっても、各々のコイル軸が重なり合わないように、所定の中心軸方向に各々の加熱コイル部がずれて配置されることがより好ましい。更に、複数の加熱コイル部は、コイルの巻き数、巻き径、巻き間隔、及びコイル長さのうちの少なくとも何れかを他のコイル部のものと異ならせたコイルからなる加熱コイル部を有することがより好ましい。更に、該引下げ装置にあっては、加熱コイル部及び坩堝を内部に有して密閉空間を構成するチャンバ、及び坩堝の下部を観察可能な撮像手段を更に有し、
チャンバは、撮像手段がチャンバ外部から下部を観察可能とするのぞき窓を坩堝各々に最も近いチャンバの壁面に複数有することとしている。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、単一のチャンバ内に複数の坩堝を配置し、これら坩堝より同時に単結晶の引下げを行うことが可能となる。また、坩堝を発熱させる加熱コイル部を全て直列に接続し、一体の回路として加熱機構を構成している。本発明によれば、高周波電力の導入部がチャンバに対して単一で済むことから、所謂高周波電源、電源導入端、高周波コイル等、高周波電力の印加に関連する構成が簡略化され、装置構成の簡略化、装置構築に要するコストの低減といった効果が得られる。また、当該構成のために、複数の導入部より異なった電源から高周波電力を印加する場合と異なり、各々の電源から導入された高周波電力の相互作用への対処、所謂マッチングの操作が容易となり、高周波電力印加時の電源制御が容易となる。更に、各々の高周波コイルの軸心が特定の(所定の)中心軸に対して等配となるように配置されることから、高周波コイルについても自身の相互作用、及びこれらを包含するチャンバ壁からの影響等の均等化が為され、各坩堝の加熱条件の均等化が図れる。
【0010】
また、本発明によれば、各加熱コイルの巻回方向は軸心方向(コイルの中心軸を基準とした場合に該中心軸であるコイル軸の延在方向)に対して全て同一とし、各加熱コイルに流れる電流の流れ方向が同一となるようにしている。これにより、各加熱コイルに高周波電力を印加した際に形成される誘導磁界の向きが全て同一となり、自己誘導の影響を一定とした条件下での加熱が可能となる。また、本発明では、鉛直方向における各加熱コイルは順次上方向或いは下方向にずらせて所謂段差をつけて配置されている。これにより各加熱コイル間を結ぶために存在する実質的に加熱に影響しない配線として存在する部分を最小長さとすることが可能となり、当該部分により電流ロスを最小とすることが可能となる。例えば坩堝の長さが長くなる、或いは坩堝の数が増加する等の生産性を高めるための装置構成を採用する場合、このような電流ロスとなる部分の低減は、電源に対する負荷を大きく抑制することとなる。また、当該段差をつけた配置とすることによって、坩堝下部に形成される原材料融液が結晶化する境界となる固液境界部(メニスカス)の配置も鉛直方向においてずれて配置されることとなる。従って、CCD等によって当該メニスカスを観察する際に、画像上の重なりが生じることなく個々のメニスカスを確実に撮像することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る単結晶の引下げ装置に関し、主要部の構成を上方から見た状態を示す図である。
【図2】図1に示す単結晶の引下げ装置の主要部構成を側方から見た状態を示す図である。
【図3】図2に示した構成群より、坩堝及び加熱コイルのみを抽出した説明用の図である。
【図4】図1に示す単結晶の引下げ装置に関し、坩堝単体に関連する構成を側方から見た状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る単結晶の引下げ装置の主たる構成要素に関して、これらを上方から見た場合の概略を示す図である。また、図2は図1に示す構成を側方から見た場合の概略を示す図である。更に図3は、図2に示す構成より坩堝及び加熱コイルのみを抽出して示す図である。なお、本形態においては、一台の高周波電源に接続される一本の高周波伝達用配線から、直列に接続される3つの加熱コイル部を形成している。各々の加熱コイル部の内部には、該加熱コイル部の中心軸であるコイル軸と軸心が一致するように坩堝が配置されている。従って、各加熱コイル部及び関連する構成は各々同様であることから、これら関連する構成の詳細な説明に関しては単一の加熱コイル部に着目してこれを行う。また、共通する構成については同一の参照符号を用いて説明する。図4は、図1等に示す坩堝単体及びこれに供される加熱コイル部の1つ(第1の加熱コイル部)に関して、関連する構成を側方から見た状態模式的に示す所謂部分拡大図に相当する図である。本発明の実施形態について述べる前に、まず図4を参照して坩堝単体に対して付随する構成、即ち第1〜第3ある内の第1の結晶育成ユニットについて以下に説明する。
【0013】
該結晶育成ユニット3(第1の結晶育成ユニット)は、主たる構成として、シード5、坩堝11、アフターヒータ13、加熱コイル17(第1の加熱コイル部17a)、坩堝ステージ19、アウターチューブ25、シード保持具31、及びシード駆動機構33を有する。また、第1〜第3の結晶育成ユニット3が共用する構成として、CCDカメラ35、及び制御装置39を有している。第1の加熱コイル部17a(及び他の第2及び第3の加熱コイル部)は、高周波誘導によって原材料(本形態では主たる加熱物は原材料ではなく坩堝11)の加熱、及び原材料の溶融を行っている。高周波電力は、内部に冷却用の水等を導通可能な金属製のチューブを所定の内径を有するコイル状に形成した第1の加熱コイル部17aを介して、高周波電源より加熱対象物等に伝達される。原材料が保持され且つ溶融される坩堝11は、底面(下端面)が閉塞された円筒形状を有しており、カーボン或いは高融点金属(例えば、Re、Ir、W、Ta、Mo、Pt、或いはこれらの合金)から構成される。なお、坩堝11の底面中央には、該坩堝の中心軸に沿って、円筒の閉塞部である当該底面を坩堝11の内側から外側に貫通する貫通孔が設けられる。坩堝11内部に保持された原材料は、主に坩堝11の発する熱によって溶解され、当該坩堝11内部で溶融により生じた原材料融液は当該貫通孔を介して坩堝下方に漏出する。坩堝11は、第1の加熱コイル部17aの中心軸であるコイル軸と同軸であって且つ第1の加熱コイル部17aの長手方向における中央部分に配置される。即ち、加熱コイル部17aは坩堝11を巻回すように各々配置される。
【0014】
シード5は、原材料融液と接触した状態にて該原材料融液の結晶化が進展した場合、当該結晶の生成核となって結晶方位を定める働きを有する。当該シード5は、当該坩堝11の中心軸に沿って延在し且つ該中心軸に沿った上下動が可能なシード保持具31によって支持され、当該貫通孔の鉛直下方に配置される。漏出した原材料融液は当該シード5に接触して結晶化を始め、該シード5を前述した中心軸に沿って引下げることによって結晶の成長、育成を促す。坩堝11の下方には、坩堝11の下端外周近傍と当接して該坩堝11を支持する、円筒形状のアフターヒータ13が配置される。アフターヒータ13は、坩堝と同様の材料より構成されており、坩堝11と同軸となるように配置されている。原材料加熱時において、該アフターヒータ13も高周波誘導によって発熱し、坩堝11の下端より漏洩する原材料融液を加熱可能としている。また、アフターヒータ13の長さは、第1の加熱コイル部17aの長手方向において中央部に配置される坩堝11と該アフターヒータ13とを当接させて配置した際に、第1の加熱コイル部17aにおける有効加熱領域に該アフターヒータ13が収容されるように設定されている。該アフターヒータ13の設置により引下げ方向における均熱領域が拡大可能となり、結晶育成の条件をより広範なものとすることが可能となる。
【0015】
また、本実施形態において、アフターヒータ13は、その下端において円環状の坩堝ステージ19の上面によって支持されている。坩堝ステージ19は、セラミックス、石英等、加熱に用いる高周波誘導に対して絶縁性を有する材料から構成されている。坩堝ステージ19は、下面において、該坩堝ステージ29と同様の材料からなる円筒状のアウターチューブ25の上端部によって支持されている。これら坩堝11、アフターヒータ13、坩堝ステージ19及びアウターチューブ25は、同軸となるように配置されており、結晶の引下げ操作は該軸に沿って行われる。また、シード5はシード保持具31の上部端部によって保持されており、棒状のシード保持具31はその下端においてシード駆動機構33と接続される。シード5は、このシード駆動機構33によるシード保持具31の軸方向の上下動に応じて上下動可能とされている。CCDカメラ35は、メニスカスの形成状態を観察するために用いられる。アフターヒータ13にはメニスカス観察用の貫通窓13aが設けられており、CCDカメラ35は当該貫通窓を介してメニスカス形成領域の映像を撮像することが可能となっている。CCDカメラ35から得られた映像は制御装置39に送信され、得られた映像に基づいてメニスカスの状態の判別が行われ、当該判別結果に応じてシード5の引下げ速度の制御が行われる。即ち、メニスカス映像に応じてシード駆動装置33の制御が為され、シード5の上昇動作の減速、停止、或いは降下への変更、降下速度の調整等の動作が実施される。
【0016】
なお、上述した結晶育成ユニット3で述べた構成は一例であり、例えば原材料に応じて種々改変が可能である。具体的には、坩堝11と第1の加熱コイル部17aとの間に更なる発熱体となる導電性材料からなる円筒状の部材を配しても良い。また、坩堝11自体が発熱する構成ではなく、この円筒状の部材が発熱する構成としても良い。或いは、アフターヒータをなくする構成とする、アフターヒータを二重構造とする、アフターヒータと第1の加熱コイル部17aとの位置関係を改変可能とする、等の構造とすることも可能である。また、坩堝11の形態、特に下端の貫通孔の様式は例示された形態に限定されず、突起部の生成、貫通孔の複数化等、求める単結晶の軸方向と垂直な断面の形状等に応じて種々改変することも可能である。また、シード駆動装置33及び制御装置39は全ての結晶育成ユニットにおいて共用することとしているが、これらを個々の結晶ユニット毎に独立して配置する構成としても良い。この場合装置構成上は複雑になり且つ生産性の低下が生じる恐れがあるが、メニスカスの態様に応じてよりきめ細かな引下げ条件の改変を行うことが可能となり、より高品質な単結晶が安定的に得られる可能性もある。
【0017】
次に図1〜図3を参照して、本発明の一実施形態に係る引下げ装置の具体的特徴について説明する。本実施形態に係る引下げ装置1は前述した結晶育成ユニット3を3個有している。加熱コイル17については、第1の加熱コイル部17a、第2の加熱コイル17b及び第3の加熱コイル17cが、単一のコイル素材(例えば銅管等)より一体物として形成されている。これら加熱コイル部は、コイル軸心方向に対して巻回方向を全て同一とし、且つ各加熱コイル部が直列で接続された状態となるように配置される。また、引下げ装置1は、上部及び下部が閉鎖された円筒形状のチャンバ4を有し、結晶育成ユニット3は全て当該チャンバ4の内部に設置される。チャンバ4には不図示の排気系及びガス導入系が付随し、内部空間を所謂真空状態まで排気する、或いは特定の不活性ガス、フッ化性のガス、酸化性のガス等で所定の圧力を維持すること等が可能となっている。加熱コイル17は高周波導入端21に接続され、当該高周波導入端21を介してチャンバ4の外部に配置される不図示の高周波電源と接続される。本発明では、各加熱コイル部は直列に接続されることから、高周波導入端21はチャンバ4に対して一個のみ配することによって、これら全ての加熱コイル部に対して高周波電力を印加することが可能となる
【0018】
第1〜3の結晶育成ユニット3は、円筒形状のチャンバ4の中心軸周りに等配に設置される。従って、結晶育成ユニット3各々の位置関係、各結晶育成ユニット3とチャンバ4の内壁との位置関係等は全て同一となる。一般的に、コイルに対して高周波電力を印加し、コイル内部に配置した部材を誘導電流によって発熱させる構成の場合、被加熱物に消費される電力は高周波電力の印加において生じる各種電流損失を考慮すると実際には非常に小さな値となる。より詳細には、高周波電力の導入端子近傍で生じる接続部での損失、コイル冷却に要する諸構成に起因する損失、複数のコイル間での相互作用により生じる損失等が存在する。本発明の如く、単一の配線によって各加熱コイル部を一体物とし、且つ単一の電源よりこれらコイル部に一括で電力供給を行うことによって、これらの各種損失を低減することが可能となる。また、実際には被加熱物に消費される電力が全供給電力に対して小さいことから、複数の坩堝を対象とした場合であっても、実際に加熱に要する電力量増加に対して削減される損失電力が大きくなり、単一のコイルからなる構成とすることにより、より小さな電源での効果的な加熱が可能となる。
【0019】
また、図2に示されるように、本形態では十分な長さを有する加熱コイルについて、所定の長さのコイル部を残し、コイルの中心軸とは垂直な面内において当該コイルの巻きを部分的に伸ばす様式にて複数のコイル部を得ることとしている。より詳細には、第1の加熱コイル部17aの巻き部分の上端部とコイルの中心軸方向において同一高さから第2の加熱コイル部17bの巻き部分の下端部が始まり、第二の加熱コイル部17bの巻き部分の上端部と同一高さから第3の加熱コイル部17cの巻き部分の下端部が始まる様式で、各加熱コイル部が直列接続されている。即ち、図2或いは図3に示されるように、各加熱コイル部及び坩堝は、各々の加熱コイル部の長さづつ軸方向に順次ずれて配置されることとなる。その結果、加熱コイル部の中心軸であるコイル軸をチャンバ4の中心軸である所定の中心軸の周りを移動させた場合であっても、各々のコイル軸が重なり合わないように、各々の加熱コイル部が所定の中心軸の延在方向に各々ずれて配置される。従って、シード保持具31、シード駆動機構33等の個々の坩堝11に付随する構成はこのコイル長さに起因する段差を考慮して図3に明示されるように配置される。各々のコイル部を繋ぐ領域は単に高周波電流を導通させるために存在し、坩堝11等の加熱には何ら寄与しない。しかし、当該領域からも高周波の放射は為され当該放射に応じた電力損失が生じる。本形態の如く、各加熱コイル部が該加熱コイル部の長さに応じた段差をつけて軸方向に順次ずれて配置されることにより、このような単に各コイル部を接続するために存在する領域の最小化を図ることが可能となる。これにより、例えば個々のコイルに印加すべき高周波電流が大きくなった場合であっても、損失を抑えて効果的な原材料の加熱を為すことが可能となる。
【0020】
また、本実施形態では、単一のCCDカメラ35によって各結晶育成ユニット3におけるメニスカスの撮像を行うこととしている。このため、該CCDカメラ35は、チャンバ4の外周に配置された環状のカメラ支持レール41により、当該カメラ支持レール41上を摺動可能に支持される。チャンバ4には、内部に配置される坩堝11の下部に生じるメニスカスを観察可能となるように、当該メニスカス発生部から最も近いチャンバ4の壁にのぞき窓4aが設けてある。CCDカメラ35は、支持テーブル41aを介して、カメラ支持レール41に対して相対移動可能に支持される。また、支持テーブル41aには公知のモータ等から構成されるカメラ揺動機構41bが付随しており、揺動軸41cを中心にCCDカメラ35を鉛直方向に延在する面内にて揺動可能としている。従って、CCDカメラ35は、公知のモータ等から構成された駆動機構によってカメラ支持レール41上を移動し、のぞき窓4aを介して直近のメニスカスを観察可能となる位置で停止し、カメラ揺動機構41bによって撮影光軸を水平にし、当該メニスカスの映像を獲得している。また、軸方向に段差を有するように個々のメニスカスが形成されることから、カメラ支持レール41は、各加熱コイル部の段差に応じた傾斜を有するように設置される。なお、当該CCDカメラ35を駆動する不図示のモータ、カメラ用同機構41b等は、前述した制御装置39と接続されており、当該制御装置38におけるメニスカス像の判別終了の信号に応じて、順次対象とするのぞき窓4を変更するように該CCDカメラ35を移動させる。
【0021】
実際の単結晶の育成工程について次に説明する。まず坩堝11各々の内部に所定の原材料を投入し、各々対応する加熱コイル部内の所定位置に設置する。続いて、チャンバ4内部の空間の排気、及び必要に応じた特定のガスの導入等による圧力制御を行う。この圧力制御が終了後或いは圧力制御と平行して、加熱コイル17に対する高周波電力の印加が為され、坩堝11を発熱させて原材料の溶解を開始する。原材料が溶解し原材料融液となった段階で貫通孔より該原材料融液の漏出が発生する。その際、シード駆動機構33によりシード5は該貫通孔の直下に配置されている。漏出した原材料融液はシード5と接触して所謂シードタッチという状態を構成し、接触部分に固液境界となるメニスカスを生成する。各結晶育成ユニット3はこれら操作をほぼ同時に行う。ここで、CCDカメラ35により、各結晶育成ユニット3におけるメニスカスの生成状態を撮像し、引下げ操作の開始の適否を制御装置39により判別する。引下げ操作の開始が適当であると判定された結晶育成ユニット3について、シード駆動機構33がシード5の引下げを開始し、単結晶9の育成が実施される(図3参照)。本形態では、基本的に各結晶育成ユニット3での加熱状態等は同一となることから、3つの結晶育成ユニット3における引下げ操作は同時に実施されると見込まれる。従って、シード駆動機構33を単一の構成とし、該単一のシード駆動機構33によって全てのシード5を同時に引下げることとしても良い。当該操作によって、品質的に等しい単結晶を複数同時に育成することが可能となる。
【0022】
なお、上述した実施形態では、メニスカス撮像時に明瞭な映像を得るという観点、及び各加熱コイル部の接続のための領域が長くなることによる当該領域での電力損失の低減という観点から加熱コイル部及び坩堝11等の付随する構成を引下げ軸方向における高さをずらせて、順次段差を有するようにこれらを配置している。しかし、長い単結晶を得るために坩堝11の長さが長くなる場合、或いは結晶育成ユニットの数が増加した場合等、では、最初の加熱コイル部の下端部から最後の加熱コイル部の上端部までの長さが長大なものとなり、チャンバ4が大きくなって排気効率上の問題、設置面積上の問題等が生じる可能性がある。この場合、上述した段差を設けずに全ての加熱コイル部、ひいては結晶育成ユニットを引下げ軸において同一高さに設置しても良い。この場合、CCDカメラ35の焦点深度を浅いものとすることによって重なり合う他のメニスカスの映像起因した解析度の低下を補いことができる。また、当該配置の場合、段差をつけた場合に生じていた最初のユニットと最後のユニットとのみが有した他のユニットとの配置上の相違点が無くなることから、当該配置に起因した結晶育成ユニットの特質の均一化が図られるというメリットも得られる。また、上述した実施形態では各々の加熱コイル部は、巻き数、巻き径、巻き間隔、及びコイル長さ等が同一としている。しかし、例えば前述したように最初のユニットと最後のユニットとが他のユニットとの配置上の相違等により特質が同一で無い場合には、特定のユニットにおける加熱コイルについて、当該コイルの巻き数、巻き径、巻き間隔、及びコイル長さのうちの少なくとも何れかを他のコイルと異ならせることによって、各コイル部の損失分を整合させることとしても良い。これにより配置に起因する損失の均一化を図ることが容易になる。更に、本実施の形態では、坩堝11及び対応する構成が3個の場合を例示したが、本発明では、これら構成を2個とする或いは更に増加させることとしても良い。
【0023】
また、本実施形態では、チャンバ4に対して単一のCCDカメラ35、単一の高周波導入端21、単一の高周波電源、及び単一の加熱コイル17を配置する構成とすることにより、装置構成の簡略化と装置構築に要するコストの低減を図っている。特に用いる結晶育成ユニットの数が増加した場合には、CCDカメラをこれに併せた配置することが困難となる場合も考えられる。しかし、本実施の形態の如く結晶育成ユニットの数が数個の場合には、個々の結晶育成ユニットに対応するように個別のCCDカメラを配置することとしても良い。これにより各結晶育成ユニット間でのメニスカスの映像獲得時のタイムラグが存在しなくなり、例えば単一のシード駆動機構33によってシード5の引下げを行う場合等において、複数の結晶に対して好適な引下げ開始のタイミングを得ることが可能となる。
【0024】
以上述べたように、本発明によれば、複数の単結晶を同時に育成する製造工程において、同一チャンバ内に配置された複数の結晶育成ユニットに対して単一の高周波電源を用いて一度に高周波電力を印加し、これら複数の単結晶育成ユニットより好適且つ安定的な単結晶の育成を為すことが可能となる。従って、複数の単結晶を、再現性良く同時に製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0025】
1:引下げ装置、 3:結晶育成ユニット、 4:チャンバ、 5:シード、 9:単結晶、11:坩堝、 13:アフターヒータ、 17:加熱コイル、 19:坩堝ステージ、 21:高周波導入端、 25:アウターチューブ、 31:シード保持具、 33:シード駆動機構、 35:CCDカメラ、 39:制御装置、 41:カメラ支持レール、 41a:支持テーブル、 41b:カメラ揺動機構、 41c:揺動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部が閉塞された閉塞部となる円筒形状を有し、前記閉塞部を前記円筒形状の内部から外部に貫通する貫通孔を有する坩堝、の内部に保持された原材料融液を前記貫通孔から漏出させ、漏出した前記原材料融液に、前記原材料融液が結晶化する際の結晶方位を定めるシードを接触させ、前記シードを所定の引下げ軸に沿って引き下げることによって前記シードを基点として成長する単結晶を得る単結晶の引下げ装置であって、
所定の中心軸回りに等配に位置する複数の前記坩堝と、
前記坩堝と同軸にて前記坩堝各々を巻回して配置される複数の加熱コイル部と、を有し、
前記複数の加熱コイル部は直列に接続されており、前記複数の加熱コイル部に対しては単一の導入端より電力が供給されることを特徴とする単結晶の引下げ装置。
【請求項2】
前記複数の加熱コイル部の中心軸であるコイル軸は互いに平行であり、前記コイル軸を基準とした場合に前記加熱コイル部に流れる電流の流れ方向が同一となるように、前記複数の加熱コイル部におけるコイルの巻き方向が定められることを特徴とする請求項1に記載の単結晶の引下げ装置。
【請求項3】
前記複数の加熱コイル部は、前記加熱コイル部の各々により形成される磁界の向きが平行且つ同一方向に向かうように、各々捲回されて構成されることを特徴とする請求項1或いは2何れかに記載の単結晶の引下げ装置。
【請求項4】
前記複数の加熱コイル部は、前記加熱コイル部の中心軸であるコイル軸を前記所定の中心軸の回りに移動させた場合であっても、各々の前記コイル軸が重なり合わないように、前記所定の中心軸方向に各々ずれて配置されることを特徴とする請求項1乃至3何れか一項に記載の単結晶の引下げ装置。
【請求項5】
前記複数の加熱コイル部は、コイルの巻き数、巻き径、巻き間隔、及びコイル長さのうちの少なくとも何れかを他のコイル部のものと異ならせたコイルからなる加熱コイル部を有することを特徴とする請求項1乃至4何れか一項に記載の単結晶の引下げ装置。
【請求項6】
前記加熱コイル部及び前記坩堝を内部に有して密閉空間を構成するチャンバ、及び前記坩堝の下部を観察可能な撮像手段を更に有し、
前記チャンバは、前記撮像手段が前記チャンバ外部から前記下部を観察可能とするのぞき窓を前記坩堝各々に最も近い前記チャンバの壁面に複数有することを特徴とする請求項1乃至5何れか一向に記載の単結晶の引下げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−241646(P2010−241646A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92926(P2009−92926)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】