説明

単結晶成長装置及び単結晶成長方法

【課題】ガスガイド部に多結晶を付着させること無く、成長速度が大きく、且つ高品質な炭化珪素単結晶を得る方法を提供する。
【解決手段】単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該坩堝周囲の断熱材の外側に高周波コイルを用いて当該原料を加熱昇華させて単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長方法において、当該種結晶3に対し所定の距離を離して開口部を有し原料側が種結晶3側より大径の円錐状のガスガイド部9を配し、坩堝体2の加熱用の高周波コイル7位置を加熱時の坩堝内の等温線がガスガイド部9の円錐状内壁との成す角が略直角になる位置に配置し、坩堝蓋部1上に配置される断熱材8は、坩堝蓋部1と所定の距離を有して配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素等の単結晶の製造装置及び単結晶の成長方法に関するものであり、成長速度が大きく、且つ高品質な単結晶を得ることができる。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、大きな熱伝導率、低い誘電率、広いバンドギャップを有し、熱的、機械的に安定した特性を持っている。従って、炭化珪素を用いた半導体素子は、従来のシリコン(Si)を用いた半導体素子よりも高い性能を持つ。その利用範囲は、高温の環境で使用される耐環境デバイス材料、耐放射線デバイス材料、電力制御用パワーデバイス材料、高周波デバイス材料などが期待されている。この炭化珪素単結晶の製造方法として、昇華再結晶法(「改良レーリー法」とも呼ばれる)が主に採用されている。
【0003】
図9は、この昇華再結晶法に用いられる装置の概略図で、炭化珪素原料4として炭化珪素粉末が収容してある坩堝2と、種結晶支持部を備えた坩堝蓋部1より構成されており、炭化珪素種結晶3は、種結晶支持部に炭化珪素原料4に対向するように配置されている。この状態で、炭化珪素原料4側が高温に、炭化珪素種結晶3側が低温になるように加熱され、炭化珪素原料4の昇華ガスが低温の炭化珪素種結晶3上で再結晶化することにより炭化珪素単結晶5が成長する。
【0004】
前記加熱の加熱方法としては、通常、反応管の周囲に螺旋状に巻かれたコイル7に高周波電流を流すことにより、坩堝に電流を発生させ発熱させる高周波誘導加熱が用いられる。この際、この炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3の温度勾配は、単結晶の成長速度に大きく寄与し、温度勾配が大きいほど単結晶の成長速度は大きくなる。産業上の実用性を考えた場合、単結晶の成長速度は、数100μm/hour以上は必要であると考えられる。従って、上記の炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3の温度勾配も、この成長速度が可能である程度に大きくしなければならない。従来は、コイル7と坩堝2の相対位置を変化させて炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3の温度および温度勾配(温度差)を制御する(非特許文献1)。
【0005】
また、炭化珪素を昇華再結晶法で成長させる場合は、炭化珪素の昇華に必要な2000℃以上に加熱する必要があるが、2000℃以上の高温では、温度の4乗に比例して輻射熱が失われるため、坩堝2および坩堝上蓋1を断熱材8で覆う必要がある。
【0006】
一方、図10に示すように、原料4と種結晶3間に筒状(コーン状)ガスガイド部9を配置することで、昇華ガスを種結晶3に導き、効率良く単結晶5を成長させ、且つ高品質な単結晶5を得る技術が開示されている(特許文献1)。この技術において重要であるのは、坩堝内、特に前記ガスガイド部9内の等温線10の形状である(非特許文献2)。昇華ガスは、等温線10に直交する方向で低温側に移動するため、等温線10とガスガイド部9の成す角θが90°より大きいと、図10(a)に示すように、ガスガイド部9へ向かう昇華ガスはなく、効率良く種結晶に輸送され、単結晶5のみが成長する。しかし図10(b)に示すように、等温線10とガスガイド部9の成す角θが90°より小さいと、昇華ガスの一部が、ガスガイド部9へ輸送され、ガスガイド部9に多結晶6が付着する。この多結晶6が単結晶5に接触すると、単結晶5の成長を阻害するとともに、単結晶5に歪を与えて、結晶欠陥が単結晶5内に発生し、結晶品質を著しく悪化させる。このように、上記等温線10とガスガイド部9の成す角θを最適(90°より大きく)にすることが、高品質な単結晶を得るために不可欠である。
【特許文献1】特開2002−60297号公報
【非特許文献1】松波弘之編著,「半導体SiC技術と応用」,初版,日刊工業新聞社,2003年3月31日,p.17
【非特許文献2】Shin−ichi Nishizawa et.al.,Numerical Simulation of Heat and Mass Transfer in SiC Sublimation Growth,Materials Science Forum,Switzerland,Trans Tech Publications,2002,Vols.389−393,p.43−46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らが検討した結果、特許文献1に関して以下のような問題があった。前述のように、加熱の際は、炭化珪素原料4側が高温に、炭化珪素種結晶3側が低温になるように加熱しなければならず、この炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3の温度勾配は、単結晶の成長速度に大きく寄与する。従来は、コイル7と坩堝2の相対位置を変化させて炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3の温度および温度勾配を制御しており、炭化珪素原料4側が高温に、炭化珪素種結晶3側が低温に、且つこれらの温度勾配を大きくするには、坩堝2に対してコイル7の位置を下げなければならない。
【0008】
しかし、発明者らの実験において、坩堝2に対してコイル7の位置を下げるとガスガイド部9に多結晶6が付着しやすくなった。そしてガスガイド部9に多結晶6が付着した結果、成長した単結晶5とガスガイド部9に付着した多結晶6が接触し、多結晶6が単結晶5に歪を与えて、クラックや転位といった結晶欠陥が単結晶5に発生した。シミュレーションにより、坩堝2内の温度分布を調べた結果、図7および図8に示すように、上記のガスガイド部9への多結晶6付着の原因は、坩堝2に対してコイル7位置を下げることで、上記の等温線10とガスガイド部9の成す角θが90°より小さくなり、原料ガスの一部がガスガイド部9に輸送されたためであることがわかった。
【0009】
つまり、単結晶5の結晶成長速度を大きくしようと、坩堝2に対してコイル7位置を下げて、炭化珪素種結晶3と炭化珪素原料4の温度勾配を大きくすると、ガスガイド部9に多結晶6が付着し、単結晶5の結晶品質を著しく悪化させるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ガスガイド部に多結晶を付着させること無く、原料と種結晶の温度勾配を大きくし、高品質、且つ成長速度の大きい単結晶を得る方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の単結晶成長装置は、単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該単結晶の原料を加熱昇華させ、単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長装置において、前記坩堝の前記原料に対向する位置の前記坩堝蓋部に前記種結晶を支持する円柱状の種結晶支持部と、当該種結晶に対し所定の距離を離して開口部を有し原料側が種結晶側より大径の円錐状のガスガイド部と、
前記坩堝体全体を覆う所定の厚さを有する断熱材と、前記種結晶と原料を加熱するために前記坩堝体全体の周囲に配置される断熱材の外側に配置される高周波コイルと、を備え、
前記坩堝蓋部上に配置される前記断熱材は、前記坩堝蓋部と所定の距離を有して配置されることを特徴としたものである。
【0012】
また、本発明の単結晶成長装置は、単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該単結晶の原料を加熱昇華させ、単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長装置において、前記坩堝の前記原料に対向する位置の前記坩堝蓋部に前記種結晶を支持する円柱状の種結晶支持部と、当該種結晶に対し距離を離して開口部を有し原料側が種結晶側より大径の円錐状のガスガイド部と、前記坩堝体全体を覆う所定の厚さを有する断熱材と、前記種結晶と炭化珪素原料を加熱するために前記坩堝体全体の周囲に当該坩堝に配置される断熱材の外側に配置される高周波コイルと、を備え、前記坩堝を覆って配置される前記断熱材は、当該坩堝に接して設置され、2000℃における熱伝導率が0.5から1.5W/m・Kであり、且つ、前記坩堝蓋部上部の断熱材の厚さを、他の坩堝部分を覆う断熱材の厚さより薄く設定することを特徴としたものである。
【0013】
また、本発明の単結晶成長方法は、単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該坩堝周囲の断熱材の外側に高周波コイルを用いて当該原料を加熱昇華させて単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長方法において、
当該種結晶に対し所定の距離を離して開口部を有し原料側が種結晶側より大径の円錐状のガスガイド部を配し、前記坩堝体の加熱用の高周波コイル位置を加熱時の坩堝内の等温線が前記ガスガイド部の円錐状内壁との成す角が略直角になる位置に配置し、前記坩堝蓋部上に配置される前記断熱材は、前記坩堝蓋部と所定の距離を有して配置されることを特徴としたものである。
【0014】
また、本発明の単結晶成長方法は、単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該坩堝周囲の断熱材の外側に高周波コイルを用いて当該原料を加熱昇華させて単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長方法において、
当該種結晶に対し所定の距離を離して開口部を有し原料側が種結晶側より大径の円錐状のガスガイド部を配し、前記坩堝体の加熱用の高周波コイル位置を加熱時の坩堝内の等温線が前記ガスガイド部の円錐状内壁との成す角が略直角になる位置に配置し、且つ、前記坩堝蓋部上部の断熱材の厚さを、他の坩堝部分を覆う断熱材の厚さより薄く設定することを特徴としたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を用いた単結晶の成長装置及び成長方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。また、単結晶として炭化珪素を用いて説明するが、他の単結晶の成長にも適用できることは当然である。
【実施例1】
【0016】
図1は、実施例1で用いた成長装置の概略図である。坩堝2内に炭化珪素原料4(炭化珪素粉末)を収容し、坩堝蓋部1の種結晶支持部に固定した炭化珪素種結晶3を、炭化珪素原料4に対向するように配置した。炭化珪素種結晶3としては、マイクロパイプ密度が約30個/cm2、エッチピット密度が約3×104個/cm2の4H型の炭化珪素単結晶を用い、結晶成長面は、(000−1)面とした。また、種結晶支持部の種結晶貼付け面は、直径20mmの円形であり、炭化珪素種結晶3も同じく直径20mmの円形とした。
【0017】
炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3の間には、炭化珪素原料4から昇華したガスを種結晶3に効率良く導くために、炭化珪素原料4側が炭化珪素種結晶3側より大径の円錐状のガスガイド部9を配置している。この際、炭化珪素種結晶3とガスガイド部9の炭化珪素種3結晶側端との間に距離を設けている。この距離が0.5mmより小さいと、炭化珪素種結晶3外周部から成長する炭化珪素単結晶5、あるいは坩堝蓋体1の種結晶支持部側壁面から成長する炭化珪素多結晶6により、この隙間が塞がれてしまう場合がある。
【0018】
また、上記の距離が2mmより大きいと、炭化珪素原料4の昇華ガスのうち、坩堝蓋体1下面へ向かう昇華ガスの割合が多くなり、炭化珪素単結晶5の成長に寄与する昇華ガスの割合が少なくなる。そのため、炭化珪素単結晶5の成長速度が遅くなってしまう。更には、坩堝蓋体1下面からの炭化珪素多結晶6の伸長速度が大きくなるため、数10時間の結晶成長を行うと、坩堝蓋1下面から伸長する炭化珪素多結晶6が、坩堝蓋体1の種結晶支持部の高さより高くなり、種結晶3から成長する炭化珪素単結晶5と接触して炭化珪素単結晶5に歪を与え、結晶品質を悪化させる。従って、炭化珪素種結晶3とガスガイド部の炭化珪素種3結晶側端との間に距離は、0.5mm以上、2mm以下であることが望ましい。本実施例では、具体的には、炭化珪素種結晶3とガスガイド部の炭化珪素種3結晶側端との間の距離を、1.0mmとした。
【0019】
昇華再結晶法を用いた炭化珪素単結晶成長では、炭化珪素原料4を昇華させるために2000℃以上の高温が必要である。2000℃以上の高温では、温度の4乗に比例して輻射熱が失われるため、坩堝2および坩堝蓋部1を断熱材8で覆う必要がある。この際、坩堝蓋部1と断熱材8との間に距離を設けた。
【0020】
図2に示すように、この距離を設けることにより、坩堝内の等温線10を最適な形状に維持したまま、炭化珪素種結晶3と炭化珪素原料4間の温度勾配を大きくすることができる。即ち、坩堝内の等温線10が、ガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θが略直角となり、また、炭化珪素種結晶3と炭化珪素原料4間の温度勾配を大きくすることができる。
【0021】
また、断熱材8の2000℃における熱伝導率が0.5から1.5W/m・Kで、坩堝蓋部1上の断熱材8の厚さが、10mmより大きく、50mm以下であり、坩堝蓋部1と断熱材8との距離が5mm以上、40mm以下であれば、図3(a)に示したように、坩堝内の等温線10が、ガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θが略直角で、且つ炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3間の温度勾配を、適度な10℃/cmから30℃/cmとすることができる。坩堝蓋部1と断熱材8との距離が5mmより小さい場合は、図3(b)に示したように、坩堝内の等温線10が、ガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θは略直角であるが、炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3間の温度勾配が小さすぎる。また、坩堝蓋部1と断熱材8との距離が40mmより大きい場合は、図3(c)に示したように、坩堝内の等温線10が、ガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θは略直角であるが、炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3間の温度勾配が大きすぎる。
【0022】
更に、炭化珪素原料4の温度を2200℃から2300℃、炭化珪素炭化珪素種結晶3の温度を2100℃から2200℃、成長時の圧力を0.665kPaから3.99kPaとすることで、成長速度も好適な200μm/hourから600μm/hourとすることができる。結晶成長速度が200μm/hourより小さいと、成長した結晶からウェハを作成した場合にコストが高くなり、産業的に実用性がない。また成長速度が600μm/hourより大きいと、成長した結晶内に歪や結晶欠陥が発生したり、また異種のポリタイプが混入し、結晶品質が悪くなる。結晶成長速度が200μm/hourから600μm/hourの範囲内であれば、歪や結晶欠陥の発生、および異種ポリタイプの混入がなく、炭化珪素単結晶を成長させることができる。
【0023】
本実施例では、具体的には、坩堝蓋部1側の断熱材8として日本カーボン(株)製のFGL−203SH(真空時、2000℃における熱伝導率は約0.55W/m・K)を用い、厚さは25mm、坩堝蓋部1との隙間を10mmとした。
【0024】
この断熱材8で覆った坩堝2及び坩堝蓋部1を、石英製の反応管11内に配置した。この反応管11は、二重管構造になっており、結晶成長中には、冷却水12を流して冷却している。また反応管11の上部にガス導入口13が、下部にはガス排気口14が設けられている。
【0025】
その後、反応管11内部を不活性ガスで置換するが、不活性ガスは、コスト、純度などの面から、アルゴン(Ar)が適している。この不活性ガス置換は、まずガス排気口14から反応管11内を高真空排気し、その後、ガス導入口13から不活性ガスを常圧まで充填した。
【0026】
その後、反応管11の周囲に螺旋状に巻かれたコイル7に高周波電流を流すことにより、坩堝2および坩堝蓋部1を高周波加熱し昇温した。
【0027】
通常、このコイル7と前述の坩堝2との相対位置は、炭化珪素種結晶3と炭化珪素原料4の温度勾配を決定するものであり、昇華法の場合、炭化珪素原料4の温度を炭化珪素種結晶3より高くする必要がある。更に、この温度勾配は、単結晶の結晶成長速度に大きく影響し、温度勾配が大きいほど結晶成長速度は大きくなる。そのため、坩堝2に対してコイル7の位置を下げて、温度勾配を大きくする必要がある。しかし、既に述べたように、坩堝2に対してコイル7の位置を下げると、ガスガイド部9に多結晶が付着しやすく、成長する単結晶と、この多結晶が接触することで、単結晶の結晶品質を著しく悪化させる。しかし、本実施例では、前述のように、坩堝蓋部1と断熱材8との間に所定の距離を設けて、炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3の温度勾配を決定している。従って、坩堝2とコイル7の相対位置で、炭化珪素種結晶3と炭化珪素原料4の温度勾配を完全に制御する必要がないため、坩堝2とコイル7の相対位置は、坩堝内の等温線10とガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θが略直角となり、ガスガイド部9に多結晶が付着しないように、坩堝内温度分布のシミュレーションおよび事前実験により決定している。
【0028】
加熱時は、反応管11上下部に設けられている石英製の温度測定用窓15、及び断熱材8の上下部に設けられた温度測定用の穴を通して、放射温度計16で、坩堝2下部、及び坩堝蓋部1上部の温度を測定している。本実施例では、このうち坩堝蓋部1上部の温度を高周波電源(図示せず)にフィードバックし、コイル7に流す高周波電流を制御して温度制御を行っている。その時の坩堝2の下部温度は、前述の坩堝蓋部1と断熱材8との間の距離により決まる。本実施例では、坩堝2下部温度(炭化珪素原料4温度)を2250℃、坩堝蓋部1上部温度(炭化珪素炭化珪素種結晶3温度)を2150℃とした。
【0029】
昇温時には、反応管11内部は、数10kPa程度の圧力にしておく必要がある。これは、低温時(所望の結晶成長温度以下)における炭化珪素原料4の昇華を防ぎ、結晶成長を開始させないようにするためである。
【0030】
このようにして、所望の温度まで昇温した後、徐々に圧力を下げて結晶成長を開始させる。本実施例では、反応管11内部の圧力を1.33kPaにし、40時間保持して結晶成長を行った。
【0031】
結晶成長終了時は、成長開始時とは逆に、反応管11内部の圧力を80kPaまで1時間かけて昇圧して、炭化珪素原料4の昇華を止め、その後、常温までゆっくりと冷却した。
【0032】
上記のようにして成長を行った結果、ガスガイド部には、全く多結晶が付着しておらず、単結晶のみが、ほぼガスガイド部9の円錐形状に沿って成長していた。また単結晶の結晶成長速度は、約400μm/hourと速い結晶成長速度であった。得られた単結晶を成長方向に垂直にスライスし、表裏両面を鏡面研磨した後、透過偏光顕微鏡で観察した。その結果、ガスガイド部9に多結晶が付着することなく、単結晶のみが独立して成長していたため、単結晶に歪は観察されなかった。また、500℃の溶融KOHに5分間浸漬し、その後、顕微鏡でマイクロパイプ密度およびエッチピット密度を測定した。その結果、種結晶上では、両者とも種結晶とほぼ同等の値を示したが、口径拡大部では、マイクロパイプは全く無く、またエッチピットに関しても数個程度しか観察されなかった。
【0033】
以上のように、坩堝蓋部と、この坩堝蓋部上に配置される断熱材との間に所定の距離を設けて炭化珪素原料と炭化珪素種結晶間の温度勾配を制御する成長装置が、速い結晶成長速度で単結晶を成長させ、且つ、ガスガイド部への多結晶付着を抑制に有効であり、その結果、速い結晶成長速度で、高品質な炭化珪素単結晶を得られることが確認できた。
【実施例2】
【0034】
図4は、実施例2で用いた成長装置の概略図である。坩堝2内に炭化珪素原料4を収容し、坩堝蓋部1の種結晶支持部に固定した炭化珪素種結晶3を、炭化珪素原料4に対向するように配置した。炭化珪素種結晶3としては、マイクロパイプ密度が約30個/cm2、エッチピット密度が約3×104個/cm2の4H型の炭化珪素単結晶を用い、結晶成長面は、(000−1)面とした。また、種結晶支持部の種結晶貼付け面は、直径20mmの円形であり、炭化珪素種結晶3も同じく直径20mmの円形とした。
【0035】
炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3の間には、炭化珪素原料4から昇華したガスを種結晶3に効率良く導くために、炭化珪素原料4側が炭化珪素種結晶3側より大径の円錐状のガスガイド部9を配置している。この際、炭化珪素種結晶3とガスガイド部9の炭化珪素種3結晶側端との間に距離を設けている。この距離が0.5mmより小さいと、炭化珪素種結晶3外周部から成長する炭化珪素単結晶5、あるいは坩堝蓋体1の種結晶支持部側壁面から成長する炭化珪素多結晶6により、この隙間が塞がれてしまう場合がある。
【0036】
また、上記の距離が2mmより大きいと、炭化珪素原料4の昇華ガスのうち、坩堝蓋体1下面へ向かう昇華ガスの割合が多くなり、炭化珪素単結晶5の成長に寄与する昇華ガスの割合が少なくなる。そのため、炭化珪素単結晶5の成長速度が遅くなってしまう。更には、坩堝蓋体1下面からの炭化珪素多結晶6の伸長速度が大きくなるため、数10時間の結晶成長を行うと、坩堝蓋1下面から伸長する炭化珪素多結晶6が、坩堝蓋体1の種結晶支持部の高さより高くなり、種結晶3から成長する炭化珪素単結晶5と接触して炭化珪素単結晶5に歪を与え、結晶品質を悪化させる。従って、炭化珪素種結晶3とガスガイド部の炭化珪素種3結晶側端との間に距離は、0.5mm以上、2mm以下であることが望ましい。本実施例では、具体的には、炭化珪素種結晶3とガスガイド部の炭化珪素種3結晶側端との間の距離を、1.0mmとした。
【0037】
昇華再結晶法を用いた炭化珪素単結晶成長では、炭化珪素原料を昇華させるために2000℃以上の高温が必要である。2000℃以上の高温では、温度の4乗に比例して輻射熱が失われるため、坩堝2および坩堝蓋部1を断熱材8で覆う必要がある。この際、図5および6に示したように、断熱材8の2000℃における熱伝導率が0.5から1.5W/m・Kであり、坩堝蓋部1上部の断熱材8の厚さが5mm以上、10mm以下の範囲であれば、坩堝内の等温線10を最適な形状に維持したまま、炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3間が適度な温度勾配になる。即ち、図5および図6に示したように、坩堝内の等温線10が、ガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θが略直角を維持したまま、炭化珪素種結晶3と炭化珪素原料4間の温度勾配を、適度な10℃/cmから30℃/cmとすることができる。坩堝蓋部1上部の断熱材8の厚さが5mmより小さい場合は、図6(a)に示したように、坩堝内の等温線10が、ガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θは略直角であるが、炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3間の温度勾配が大きすぎる。
【0038】
また、坩堝蓋部1上部の断熱材8の厚さが10mmより大きい場合は、図6(c)に示したように、坩堝内の等温線10が、ガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θは略直角であるが、炭化珪素原料4と炭化珪素種結晶3間の温度勾配が小さすぎる。
【0039】
更に、炭化珪素原料4の温度を2200℃から2300℃、炭化珪素炭化珪素種結晶3の温度を2100℃から2200℃、成長時の圧力を0.665kPaから3.99kPaとすることで、成長速度も好適な200μm/hourから600μm/hourとすることができる。結晶成長速度が200μm/hourより小さいと、成長した結晶からウェハを作成した場合にコストが高くなり、産業的に実用性がない。また成長速度が600μm/hourより大きいと、成長した結晶内に歪や結晶欠陥が発生したり、また異種のポリタイプが混入し、結晶品質が悪くなる。結晶成長速度が200μm/hourから600μm/hourの範囲内であれば、歪や結晶欠陥の発生、および異種ポリタイプの混入がなく、炭化珪素単結晶を成長させることができる。
【0040】
本実施例では、具体的には、坩堝蓋部1側の断熱材8として日本カーボン(株)製のFGL−203SH(真空時、2000℃における熱伝導率は約0.55W/m・K)を用い、その厚さを10mmとした。
【0041】
この断熱材8で覆った坩堝2及び坩堝蓋部1を、石英製の反応管11内に配置した。この反応管11は、二重管構造になっており、結晶成長中には、冷却水12を流して冷却している。また反応管11の上部にガス導入口13が、下部にはガス排気口14が設けられている。
【0042】
その後、反応管11内部を不活性ガスで置換するが、不活性ガスは、コスト、純度などの面から、アルゴン(Ar)が適している。この不活性ガス置換は、まずガス排気口14から反応管11内を高真空排気し、その後、ガス導入口13から不活性ガスを常圧まで充填した。
【0043】
その後、反応管11の周囲に螺旋状に巻かれたコイル7に高周波電流を流すことにより、坩堝2および坩堝蓋部1を高周波加熱し昇温した。このコイル7と坩堝2の相対位置は、実施例1と同様に、坩堝内の等温線10とガスガイド部9の円錐状内壁との成す角度θが略直角となり、ガスガイド部9に多結晶が付着しないように、坩堝内温度分布のシミュレーションおよび事前実験により決定している。
【0044】
加熱時は、反応管11上下部に設けられている石英製の温度測定用窓15、及び断熱材8の上下部に設けられた温度測定用の穴を通して、放射温度計16で、坩堝2下部、及び坩堝蓋部1上部の温度を測定している。本実施例では、このうち坩堝蓋部1上部の温度を高周波電源(図示せず)にフィードバックをかけ、コイル7に流す高周波電流を制御して温度制御を行っている。その時の坩堝2下部温度は、前述の坩堝蓋部1側の断熱材の厚さにより決まる。本実施例では、坩堝2下部温度(炭化珪素原料4温度)を2250℃、坩堝蓋部1上部温度(炭化珪素炭化珪素種結晶3温度)を2150℃とした。
【0045】
それ以後は、実施例1と全く同様にして、結晶成長を行った。
【0046】
上記のようにして成長を行った結果、ガスガイド部9には、全く多結晶が付着しておらず、単結晶のみが、ほぼテーパー形状に沿って成長していた。また単結晶の結晶成長速度は、実施例1とほぼ同じく約400μm/hourと速い結晶成長速度であった。得られた単結晶を成長方向に垂直にスライスし、表裏両面を鏡面研磨した後、透過偏光顕微鏡で観察した。その結果、ガスガイド部に多結晶が付着することなく、単結晶のみが独立して成長していたため、単結晶には歪は観察されなかった。また、500℃の溶融KOHに5分間浸漬し、その後、顕微鏡でマイクロパイプ密度およびエッチピット密度を測定した。その結果、種結晶上では、両者とも種結晶とほぼ同等の値を示したが、口径拡大部では、マイクロパイプは全く無く、またエッチピットに関しても数個程度しか観察されなかった。
【0047】
以上のように、坩堝蓋部上の断熱材の厚さにより、炭化珪素原料と炭化珪素種結晶間の温度勾配を制御する成長装置が、速い結晶成長速度で単結晶を成長させ、且つ、ガスガイド部への多結晶付着を抑制に有効であり、その結果、速い結晶成長速度で、高品質な炭化珪素単結晶を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明にかかる単結晶の成長装置及び成長方法は、成長速度が速く、且つ高品質な単結晶を得ることができるため、昇華法により成長できる単結晶である硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、硫化亜鉛(ZnS)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)などにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例1における単結晶成長装置の概略断面図
【図2】本発明の実施例1における単結晶成長装置の坩堝蓋部と断熱材の距離による原料(炭化珪素粉末)と種結晶間の温度勾配、およびガスガイド部と等温線の成す角θの関係を説明する図
【図3】本発明の実施例1における単結晶成長装置の坩堝内の等温線形状を示す図
【図4】本発明の実施例2における単結晶成長装置の概略断面図
【図5】本発明の実施例2における単結晶成長装置の坩堝蓋部上の断熱材の厚さによる原料(炭化珪素粉末)と種結晶間の温度勾配、およびガスガイド部と等温線の成す角θの関係を説明する図
【図6】本発明の実施例2における単結晶成長装置の坩堝内の等温線形状を示す図
【図7】単結晶成長装置の坩堝に対するコイル位置による原料(炭化珪素粉末)と種結晶間の温度勾配、およびガスガイド部と等温線の成す角θの関係を説明する図
【図8】単結晶成長装置の坩堝に対するコイル位置による坩堝内の等温線形状を示す図
【図9】従来の単結晶成長装置の概略断面図
【図10】従来の単結晶成長装置におけるガスガイド部と等温線の成す角θによる結晶成長の様子を説明するための図
【符号の説明】
【0050】
1 坩堝蓋部
2 坩堝
3 炭化珪素種結晶
4 炭化珪素原料
5 炭化珪素単結晶
6 炭化珪素多結晶
7 コイル
8 断熱材
9 ガスガイド部
10 等温線
11 反応管
12 冷却水
13 ガス導入口
14 ガス排気口
15 温度測定用窓
16 放射温度計



【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該単結晶の原料を加熱昇華させ、単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長装置において、
前記坩堝の前記原料に対向する位置の前記坩堝蓋部に前記種結晶を支持する円柱状の種結晶支持部と、
当該種結晶に対し所定の距離を離して開口部を有し原料側が種結晶側より大径の円錐状のガスガイド部と、
前記坩堝体全体を覆う所定の厚さを有する断熱材と、
前記種結晶と原料を加熱するために前記坩堝体全体の周囲に配置される断熱材の外側に配置される高周波コイルと、
を備え、
前記坩堝蓋部上に配置される前記断熱材は、前記坩堝蓋部と所定の距離を有して配置されることを特徴とする単結晶成長装置。
【請求項2】
前記断熱材は、2000℃における熱伝導率が0.5から1.5W/m・Kであり、且つ、前記坩堝蓋部側の前記断熱材の厚さが、10mmより大きく、50mm以下であり、且つ、前記坩堝蓋部と前記断熱材との間の距離が、5mm以上、40mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の単結晶成長装置。
【請求項3】
単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該単結晶の原料を加熱昇華させ、単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長装置において、
前記坩堝の前記原料に対向する位置の前記坩堝蓋部に前記種結晶を支持する円柱状の種結晶支持部と、
当該種結晶に対し距離を離して開口部を有し原料側が種結晶側より大径の円錐状のガスガイド部と、
前記坩堝体全体を覆う所定の厚さを有する断熱材と、
前記種結晶と炭化珪素原料を加熱するために前記坩堝体全体の周囲に当該坩堝に配置される断熱材の外側に配置される高周波コイルと、
を備え、
前記坩堝を覆って配置される前記断熱材は、当該坩堝に接して設置され、2000℃における熱伝導率が0.5から1.5W/m・Kであり、且つ、前記坩堝蓋部上部の断熱材の厚さを、他の坩堝部分を覆う断熱材の厚さより薄く設定することを特徴とする単結晶成長装置。
【請求項4】
前記単結晶の原料の温度を2200℃から2300℃、前記種結晶の温度を2100℃から2200℃の範囲で前記種結晶側の温度を高く設定し、前記原料と前記種結晶間の温度勾配を10℃/cmから30℃/cmの範囲で、成長時の圧力を0.665kPaから3.99kPaに設定することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の単結晶成長装置。
【請求項5】
単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該坩堝周囲の断熱材の外側に高周波コイルを用いて当該原料を加熱昇華させて単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長方法において、
当該種結晶に対し所定の距離を離して開口部を有し原料側が種結晶側より大径の円錐状のガスガイド部を配し、
前記坩堝体の加熱用の高周波コイル位置を加熱時の坩堝内の等温線が前記ガスガイド部の円錐状内壁との成す角が略直角になる位置に配置し、
前記坩堝蓋部上に配置される前記断熱材は、前記坩堝蓋部と所定の距離を有して配置されることを特徴とする単結晶成長方法
【請求項6】
単結晶を成長させる原料を坩堝内に収容し、当該坩堝周囲の断熱材の外側に高周波コイルを用いて当該原料を加熱昇華させて単結晶からなる種結晶上に供給し、この種結晶上に単結晶を成長させる単結晶成長方法において、
当該種結晶に対し所定の距離を離して開口部を有し原料側が種結晶側より大径の円錐状のガスガイド部を配し、
前記坩堝体の加熱用の高周波コイル位置を加熱時の坩堝内の等温線が前記ガスガイド部の円錐状内壁との成す角が略直角になる位置に配置し、
且つ、前記坩堝蓋部上部の断熱材の厚さを、他の坩堝部分を覆う断熱材の厚さより薄く設定することを特徴とする単結晶成長方法。
【請求項7】
前記種結晶と前記円錐状のガスガイド部との間の前記所定の距離は、0.5mm以上、2mm以下であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の単結晶成長方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−204309(P2007−204309A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24371(P2006−24371)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】