原子拡散接合方法及び前記方法により接合された構造体
【課題】異種材質間の接合を含む広範な材質間の接合に使用することができ,かつ,接合対象とする基体に物理的なダメージを与えることなく接合を行うことがでる接合方法を提供する。
【解決手段】真空容器内において,平滑面を有する2つの基体それぞれの前記平滑面に,室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成する。その後,前記2つの基体に形成された前記微結晶連続薄膜同士が接触するように前記2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜の接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせて前記2つの基体を接合する。
【解決手段】真空容器内において,平滑面を有する2つの基体それぞれの前記平滑面に,室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成する。その後,前記2つの基体に形成された前記微結晶連続薄膜同士が接触するように前記2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜の接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせて前記2つの基体を接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子拡散接合方法,及び前記方法により接合された構造体に関し,より詳細には,例えばIC基板の積層化やパッケージの封止,各種デバイスの複合化等,被接合材である2つの基体間を強固に接合する際に使用される接合方法において,少なくとも一方の基体の接合面に形成された微結晶連続薄膜を介して2つの基体を接合することにより,接合界面および結晶粒界において原子拡散を生じさせることにより基体間を接合する新規な接合方法,及び前記方法により接合された構造体に関する。
【0002】
なお,本明細書において「微結晶」には「多結晶」の他,「アモルファス」を含む。また,「結晶粒界」とは原子配列の規則性の断続部分を言い,多結晶における結晶粒の境界(一般的な意味での「結晶粒界」)の他,長距離秩序(数10原子程度以上の原子集団における配列の規則性)を有しないが,短距離秩序(数10原子以下の原子集団における配列の規則性)を有する前述のアモルファスにあっては,この「短距離秩序」の断続部分が本発明における「結晶粒界」であると共に,アモルファス金属膜中に空隙があり,体積率(充填率)が100%よりも低い場合,その空隙とアモルファス金属の界面も,高い原子拡散係数を有すると考えられることから,上述の短距離秩序の断続部分と同様に本発明における「結晶粒界」に相当する。
【背景技術】
【0003】
2つ以上の被接合材を貼り合わせる接合技術が各種の分野において利用されており,例えば電子部品の分野において,ウエハのボンディング,パッケージの封止等においてこのような接合技術が利用されている。
【0004】
一例として,前述のウエハボンディング技術を例にとり説明すれば,従来の一般的なウエハボンディング技術では,重ね合わせたウエハ間に高圧,高熱を加えて接合する方法が一般的である。
【0005】
しかし,この方法による接合では,熱や圧力に弱い電子デバイス等が形成された基板の接合や集積化を行うことができず,そのため,このような物理的なダメージを与えることなく被接合材相互を接合する技術が要望されている。
【0006】
このように,被接合材間を常温,無加圧で接合する技術としては,被接合材の接合面のそれぞれに対し,いずれも希ガス等のイオンビームを照射して接合面における酸化物や有機物等を除去することで,接合面表面の原子を化学的結合を形成し易い活性な状態(活性化)とし,この状態において被接合材の接合面相互を重ね合わせることにより,加熱することなく,かつ,接着剤等を使用することなしに常温での接合を可能とする常温接合法が,例えばシリコンウエハ等の接合に用いられている(特許文献1参照)。
【0007】
この発明の先行技術文献情報としては,次のものがある。
【特許文献1】特許第2791429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の方法では,被接合材の接合面に対して希ガスビームなどを照射して接合面を洗浄して活性な状態とした後,両接合面を接合することにより強固な接合力を得ることができるものの,接合できる材料が一部の金属と金属,一部の金属と化合物間に限定されており,用途が限定される。
【0009】
また,前記方法により接合を行う場合,接合面は巨視的には接合がされていたとしても,接合面の粗さやうねり等によって微視的には接合されていない部分が存在し,ウエハレベルでの積層化,集積化のための接合に使用することができない。
【0010】
このように,部分的に接合されていない部分が発生することを防止するために,接合面を研磨等してその表面粗さを抑制することも考えられるが,研磨によって抑制し得る接合面の粗さやうねりには限度がある。
【0011】
そのため,上記従来の常温接合方法により,接合されない部分の発生を減少しようとすれば,被接合材相互を重合する際に加圧して圧着する等の処理を行う必要があり,被接合材に物理的なダメージを与えるおそれがある。
【0012】
なお,上記方法による接合では,両基体の表面を前述のように活性化させることで,接触界面においてのみ原子間に金属又は化学結合を生じさせるものであり,接合界面や結晶粒界におけるダイナミックな原子拡散を伴うものではない。
【0013】
そのため,接着自体は比較的強固に行うことはできるものの,両基体の接合部分には依然として接合界面が存在し,また,接合に際して接合界面に酸化被膜等の変質層が形成されることにより,例えば電子デバイス等として使用する際,このような接合界面や変質層が電子の通過を妨げる障壁等として作用する等,性能の低下をもたらすものとなっている。
【0014】
そこで本発明は上記従来技術の欠点を解消するためになされたものであり,前述した従来技術における活性化による接合とは異なり,原子拡散という新規な方法により異種材質間の接合を含む広範な材質間の接合に使用することができ,かつ,接合対象とする基体に物理的なダメージを与えることなく接合を行うことがでる原子拡散接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために,本発明の原子拡散接合方法は,真空容器内において,平滑面を有する2つの基体それぞれの前記平滑面に,室温(27℃(300K))における自己拡散又は相互拡散を含む体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成すると共に,前記2つの基体に形成された前記微結晶連続薄膜同士が接触するように前記2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜の接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせて前記2つの基体を接合することを特徴とする(請求項1)。
【0016】
なお,本発明において微結晶連続薄膜の密度(%)とは,微結晶連続薄膜が占める空間に対する,空隙等の形成部分を除いた微結晶連続薄膜を構成する金属が占める体積の割合(体積率あるいは充填率)を百分率によって表示したものである。
【0017】
また,本発明の別の原子拡散接合方法は,真空容器内において,一方の基体の平滑面に室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成すると共に,少なくとも表面が微結晶構造を有する平滑面を備えた他方の基体の前記平滑面に前記一方の基体に形成された前記微結晶連続薄膜が接触するように前記一方,他方の2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜と前記他方の基体の前記平滑面との接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせることにより前記2つの基体を接合することを特徴とする(請求項2)。
【0018】
上記原子拡散接合方法において,上記基体を重ね合わせる際の前記基体温度を室温以上400℃以下の範囲で加熱して拡散係数を上昇させるものとすることができ(請求項3),特に,前記微結晶連続薄膜の形成材料の室温における体拡散係数が1×10-40m2/s以下の場合にこのような加熱を行うことが好ましい(請求項4)。
【0019】
また,前記基体の重ね合わせは,前記基体を加熱することなく行うものとしても良く(請求項5),特に前記微結晶連続薄膜の形成材料の室温における体拡散係数が1×10-40m2/sを越える場合には,加熱することなく接合した場合にあっても,接合界面の消失する程の原子拡散による接合を行うことが可能である。
【0020】
更に,前述の原子拡散接合方法において,到達真空圧力が1×10-4Pa〜1×10-8Paの真空容器内で前記微結晶連続薄膜の形成及び/又は前記基体の重ね合わせを行うことが好ましく(請求項6),また,前記微結晶連続薄膜の形成と,前記基体の重ね合わせを同一真空中で行うことが好ましい(請求項7)。
【0021】
前述の微結晶連続薄膜は,これをAl,Si,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,Pt,Auの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成することができる(請求項8)。
【0022】
また,前記微結晶連続薄膜を形成する前に,前記微結晶連続薄膜の形成と同一真空中において,前記微結晶連続薄膜の形成を行う基体の平滑面に生じている変質層,例えばガス吸着層や自然酸化層を逆スパッタリング等のドライプロセスで除去することが好ましく(請求項9),特に基体に対する付着強度が低いAl,Cu,Ag,Pt等の微結晶連続薄膜を形成する場合には,付着強度を向上させる上で変質層の除去を行うことは効果的である。
【0023】
なお,基体表面の変質層の除去は,微結晶連続薄膜の形成を行う真空容器外において,例えば薬液による洗浄等のウェットプロセスによって行うこともでき,この場合には,変質層除去後の基体表面を水素終端化等により変質層の再形成が生じ難い状態とすることが好ましい。
【0024】
更に,前記微結晶連続薄膜が形成される前記基体の平滑面に,前記微結晶連続薄膜とは異なる材料の薄膜から成る下地層を1層以上形成し,当該下地層上に前記微結晶連続薄膜を形成することが好ましく(請求項10),前述した変質層の除去と同様,特に基体に対する付着強度が低いAl,Cu,Ag,Pt等の微結晶連続薄膜を形成する場合には,付着強度を向上させる上で前記下地層の形成は効果的である。
【0025】
この下地層は,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成することができ(請求項11),特に,形成する微結晶連続薄膜よりも融点が高く,且つ,その融点の差が大きい材料により形成することが好ましい(請求項12)。
【0026】
なお,前記微結晶連続薄膜の膜厚は,0.2nm〜1μmとすることができる(請求項13)。
【0027】
更に,本発明には,前述した原子拡散接合方法により接合された構造体を含む(請求項14)。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した本発明の構成により,本発明の原子拡散接合方法によれば,以下のような顕著な効果を得ることができた。
【0029】
2つの基体の平滑面に形成した微結晶連続薄膜同士,又は一方の基体に形成した微結晶連続薄膜と少なくとも表面に微結晶構造を有する平滑面を有する他方の基体の平滑面とを接触させることにより,接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせ,これにより同種又は異種の微結晶連続薄膜の接合面間,又は微結晶連続薄膜と基体の平滑面間を,加熱,加圧,電圧の印加等を伴うことなく原子レベルで金属結合あるいは分子間結合により強固に接合させることができると共に,薄膜の内部応力を開放して接合歪みを緩和させることができた。なお,ここで得られる接合は,界面で剥離が生じない(無理に剥離しようとすると薄膜の界面以外の部分又は基体が破壊する)接合状態である。
【0030】
基体の重ね合わせを行う際の基体温度を室温以上,400℃以下の範囲で加熱して拡散係数を上昇させることにより,原子の拡散速度,拡散長を増大させることができ,これにより接合界面及び結晶粒界における原子の拡散性を向上させてより均一かつ強固な接合を行うことができ,特に原子の拡散長の増大により表面の比較的粗い基体であっても接合することが可能となった。
【0031】
しかも,基体に対する加熱が室温から400℃以下で範囲であれば,基体が比較的熱に弱い電子デバイス等であっても加熱によるダメージを与えることなく前記効果を得ることができた。
【0032】
上記加熱を室温における体拡散係数が1×10-40m2/s以下の材料により前記微結晶連続薄膜を形成した場合に行うことで,比較的拡散係数の低い材質で微結晶連続薄膜を形成した場合であっても,原子の拡散速度の向上と拡散長の増大を図ることができ,特に,前記温度範囲内において加熱後の拡散係数が1×10-40m2/sを越えるように加熱を行うことで,接合界面の消失が得られる程の原子拡散を生じさせることが可能である。
【0033】
もっとも,基体はこれを加熱することなく重ね合わせた場合であっても良好に接合することができ,これにより基体に対して熱によるダメージが加わることを完全に防止できた。特に,室温における体拡散係数が1×10-40m2/sを越える材料によって微結晶連続薄膜を形成する場合には,加熱することなく室温で接合した場合であっても接合界面が消失する程の原子拡散による接合を得ることができた。
【0034】
微結晶連続薄膜の形成,及び/又は基体の重ね合わせを到達真空圧力が1×10-4Pa〜1×10-8Paの真空容器内で行うことにより,また,微結晶連続薄膜の形成と基体の重ね合わせを同一真空中で行うことにより,形成された微結晶連続薄膜が不純物ガス(例えばO2やH2O)等と反応して変質層を形成する前の清浄な状態で接合を行うことができ,基体同士を高い付着強度で接合することができると共に,接合界面に電子等の通過に際して障壁となる酸化膜等の変質層が形成されることを防止できた。
【0035】
また,前記到達真空度の真空中で微結晶連続薄膜の形成を行うことで,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度が低下することを防止でき,微結晶連続薄膜の接合界面における剥離のみならず,基体と微結晶連続薄膜間での剥離の発生等についても好適に防止することができた。
【0036】
微結晶連続薄膜を,Al,Si,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,Pt,Auの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成することで,本発明の方法による原子拡散接合を好適に行うことができた。
【0037】
上記微結晶連続薄膜を形成する前に,微結晶連続薄膜の形成と同一真空中において上記一方又は双方の基体の平滑面表面に形成されている変質層を逆スパッタリング等のドライプロセスにより除去することで,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を向上させることができ,基体表面と微結晶連続薄膜間で剥離が生じることによる基体同士の付着強度の低下についても好適に防止することができた。
【0038】
また,前記微結晶連続薄膜が形成される前記基体の平滑面に,前記微結晶連続薄膜とは異なる材料の薄膜,例えば周期律表における4A〜6A属の元素であるTi,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの元素群より選択されたいずれか1つの単金属の薄膜,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金の薄膜によって下地層を形成することにより,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を上昇させることができ,これにより基体と微結晶連続薄膜間で剥離が生じることを防止することができた。
【0039】
特に,このような下地層の形成材料として,微結晶連続薄膜の形成材料に対して高融点であり,且つ,その融点の差が大きいもの使用することで,下地層上に形成される微結晶連続薄膜の2次元性(薄膜成長時の原子の濡れ性)が良くなり,微結晶連続薄膜が島状に成長することを防止でき,0.2nmといった1原子層分の厚みに相当する極めて薄い微結晶連続薄膜の形成が容易となる。
【0040】
なお,本発明の原子拡散接合方法では,形成する微結晶連続薄膜の膜厚がそれぞれ0.2nm(2Å)〜1μmの範囲で好適に原子拡散接合が可能であり,特に,電子やスピン電流の平均自由工程よりも十分に薄い数Å程度の膜厚の微結晶連続薄膜の形成によっても接合を行うことができることから,シリコンウエハ等の接合に用いた場合であっても,接合面によって電子の移動等が妨げられない接合方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
接合方法概略
本発明の原子拡散接合方法は,真空容器内においてスパッタリングやイオンプレーティング等の真空成膜により真空中で成膜した微結晶連続薄膜同士,又は微結晶連続薄膜と少なくとも表面に微結晶構造を有する基体を,成膜中,あるいは成膜後に重ね合わせると,接合界面及び結晶粒界において原子拡散が生じて両者間で強固な接合が行われることを見出し,これを基体間の接合に適応したものであり,下記の条件等において基体同士の接合を行うものである。
【0042】
基体(被接合材)
材質
本発明の原子拡散接合方法による接合の対象である基体としては,スパッタリングやイオンプレーティング等,到達真空度が1×10-4〜1×10-8Paの高真空度である真空容器を用いた高真空度雰囲気における真空成膜により微結晶連続薄膜を形成可能な材質であれば如何なるものをも対象とすることができ,各種の純金属,合金の他,Si基板等の半導体,ガラス,セラミックス,樹脂,酸化物等であって前記方法による微結晶連続薄膜の形成が可能であれば本発明における基体(被接合材)とすることができる。
【0043】
なお,基体は,例えば金属同士の接合のように同一材質間の接合のみならず,金属とセラミックス等のように,異種材質間での接合を行うことも可能である。
【0044】
接合面の状態等
基体の形状は特に限定されず,例えば平板状のものから各種の複雑な立体形状のもの迄,その用途,目的に応じて各種の形状のものを対象とすることができるが,他方の基体との接合が行われる部分(接合面)については所定の精度で平滑に形成された平滑面を備えていることが必要である。
【0045】
なお,他の基体との接合が行われるこの平滑面は,1つの基体に複数設けることにより,1つの基体に対して複数の基体を接合するものとしても良い。
【0046】
この接合面の表面粗さは,パッケージの封止等,単に接合が得られるのみで目的が達成される場合には,例えば最大高さ(Rmax)で50nmを越える表面粗さであっても接合を行うことができるが,好ましくはRmaxで50nm以下である。
【0047】
基体の平滑面は,微結晶連続薄膜の形成前に表面のガス吸着層や自然酸化層等の変質層が除去されていることが好ましく,例えば薬液による洗浄等による既知のウェットプロセスによって前述の変質層を除去し,また,前記変質層の除去後,再度のガス吸着等を防止するために水素終端化等が行われた基体を好適に使用することができる。
【0048】
また,変質層の除去は前述のウェットプロセスに限定されず,ドライプロセスによって行うこともでき,真空容器中における希ガスイオンのボンバード等によりガス吸着層や自然酸化層などの変質層を逆スパッタリング等によって除去することもできる。
【0049】
特に,前述のようなドライプロセスによって変質層を除去する場合,変質層を除去した後,後述の微結晶連続薄膜を形成する迄の間に,基体表面にガス吸着や酸化が生じることを防止するために,このような変質層の除去を,後述する微結晶連続薄膜を形成すると同一の真空中において行い,変質層の除去に続けて微結晶連続薄膜の形成を行うことが好ましく,より好ましくは,変質層の除去を超高純度の不活性ガスを使用して行い,変質層の除去後に酸化層等が再形成されることを防止する。
【0050】
なお,基体は,単結晶,多結晶,アモルファス,ガラス状態等,その構造は特に限定されず各種構造のものを接合対象とすることが可能であるが,2つの基体の一方に対してのみ後述する微結晶連続薄膜を形成し,他方の基体に対して微結晶連続薄膜の形成を行うことなく両者の接合を行う場合には,微結晶連続薄膜の形成を行わない他方の基体の接合面は,接合界面や結晶粒界における原子拡散を得ることができるよう,少なくともその表面が後述する微結晶連続薄膜と同様に微結晶構造(アモルファスを含む)を有する必要がある。
【0051】
微結晶連続薄膜
材質
形成する微結晶連続薄膜の材質としては,基体と同種材質の薄膜を形成しても良く,また,目的に応じて基体とは異種材質の微結晶連続薄膜を形成しても良く,さらに,基体の一方に形成する微結晶連続薄膜の材質と,基体の他方に形成する微結晶連続薄膜の材質とをそれぞれ異なる材質としても良く,両者間の固溶が可能な組合せのみならず,CoとCuのように非固溶となる組合せであっても良く,また,金属と半金属等,その組合せは目的に応じて適宜任意に行うことができる。
【0052】
微結晶連続薄膜の材料としては,室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上であることが必要で,このような微結晶連続薄膜の材料として,Al,Si,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,Pt,Auの元素群の中から選択したいずれかの単金属,又はこれらの元素群のうちの少なくとも1つ以上の元素を含む合金を使用することができる。
【0053】
このうち,特に室温における体拡散係数が1×10-40m2/s以上であるIn,Al,Ag,Au,Cu,Zn,Zr,Ti等によって微結晶連続薄膜を形成する場合には,基体を加熱することなく室温において接合した場合であっても接合界面が消失すると共に,接合された微結晶連続薄膜間において再結晶が生じて2つの基体間の間隔の略全域に亘る粒径を備えた結晶粒が生成される等,金属結合による2つの微結晶連続薄膜の一体化を得ることができる。
【0054】
もっとも,室温における体拡散係数が1×10-40m2/s未満の材質によって微結晶連続薄膜を形成した場合であっても,室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材質で形成された微結晶連続薄膜を介した接合を行うことで,接合界面における金属結合により基体間の十分な接合強度を得ることが可能である。
【0055】
膜厚等
形成する膜厚は特に限定されないが,それぞれの微結晶連続薄膜を,構成元素1層分の厚みで形成した場合であっても接合を行うことが可能であり,一例としてCuの微結晶連続薄膜を形成する場合,原子1層分の厚さに相当する膜厚0.2nm(2層で0.4nm)とした場合であっても接合可能であり,接合される基体間に介在する微結晶連続薄膜の厚さを,電子やスピン電流の平均自由工程以下の厚みで形成することが可能である。
【0056】
その結果,基体間に介在する微結晶連続薄膜の層が電子の移動等に対して障壁となることがなく,任意のシリコンウエハを接合する等して新たな機能性デバイスの創成等に本発明の原子拡散接合方法を使用することが可能である。
【0057】
但し,形成する微結晶連続薄膜は,微結晶構造を有する「連続」した薄膜であることが必要で,例えば成膜過程において膜に成長する前の島状構造体等は,本発明の微結晶連続薄膜からは除かれる。
【0058】
一方,膜厚が厚くなるに従って得られた微結晶連続薄膜の表面粗さが増大して接合が困難となると共に,厚みのある微結晶連続薄膜の形成には長時間を要し,生産性が低下することから,その上限は1μm程度であり,0.2nm〜1μm程度が本発明における原子拡散接合方法における各微結晶連続薄膜の好ましい膜厚の範囲である。
【0059】
粒径及び密度
形成する微結晶連続薄膜は,同微結晶金属の固体内に比べて原子の拡散速度が大きく,特に,拡散速度が極めて大きくなる粒界の占める割合が大きい微結晶構造である必要があり,結晶粒の薄膜面内方向の平均粒径は50nm以下であれば良く,好ましくは20nm以下である。
【0060】
また,微結晶連続薄膜は,微結晶連続薄膜が占める空間の体積100%に対し,空隙等の形成部分を除く,微結晶連続薄膜を構成する金属が占める体積の割合が80%以上,好ましくは80〜98%となるよう形成する。
【0061】
微結晶連続薄膜の形成面
さらに,上記微結晶連続薄膜の形成は,接合対象とする2つの基体のそれぞれに形成しても良いが,一方の基体に対してのみ前記微結晶連続薄膜を形成し,他方の基体に対しては微結晶連続薄膜を形成することなく,接合を得ることが可能である。
【0062】
この場合,微結晶連続薄膜の形成を行わない上記他方の基体の接合面は,前述したように接合面の少なくとも表面付近が微結晶構造となっている必要がある。
【0063】
なお,微結晶連続薄膜を形成する基体の平滑面には,微結晶連続薄膜の形成前に,微結晶連続薄膜とは異なる材質の薄膜より成る1層以上の下地層を形成することができ,特に,形成する微結晶連続薄膜が,基体に対する付着強度が比較的弱いAl,Cu,Ag,Pt等である場合には,付着強度を向上する上で下地層の形成は有効である。
【0064】
このような下地層は,微結晶連続薄膜の後述する成膜方法と同様の真空成膜技術によって形成することができ,その材質としては,周期律表の4A〜6A属の元素であるTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wによって形成することができ,その厚さは,一例として0.2〜20nm,後述の実施例では5nmである。
【0065】
この下地層の材質としては,その上に形成する微結晶連続薄膜の形成材料に対して融点の差が大きいものを使用することが好ましく,かつ,微結晶連続薄膜の形成材料に対して高融点のものを使用することが好ましい。このような融点差が大きく,微結晶連続薄膜に対して高融点となる材質の組み合わせの一例として,例えばTaの下地層上にCuの微結晶連続薄膜を形成する場合,形成された微結晶連続薄膜が基体より剥離することを好適に防止できるだけでなく,下地層上に形成される微結晶連続薄膜の2次元性(微結晶連続薄膜形成時の原子の濡れ性)が良くなり成膜時に微結晶連続薄膜であるCuが島状に成長することを防止でき,0.2nmといった1原子層分の厚みに相当する極めて薄い微結晶連続薄膜の形成が容易となる。
【0066】
成膜方法
成膜技術
本発明の原子拡散接合方法において,被接合材である基体の接合面に形成する微結晶連続薄膜の形成方法としては,スパッタリングやイオンプレーティング等のPVDの他,CVD,各種蒸着等,到達真空度が1×10-4〜1×10-8Paの高真空度である真空容器において真空雰囲気における真空成膜を行う各種の成膜法を挙げることができ,拡散速度が比較的遅い材質及びその合金や化合物等については,好ましくは形成された薄膜の内部応力を高めることのできるプラズマの発生下で成膜を行う真空成膜方法,例えばスパッタリングによる成膜が好ましい。
【0067】
真空度
薄膜形成の際の真空容器内の圧力は,到達真空度が1×10-4〜1×10-8Paの真空雰囲気であれば良く,より低い圧力(高真空度)である程好ましい。
【0068】
形成する薄膜が,例えば金等の酸化し難い材質である場合には,上記圧力よりも高い圧力(低真空度)で成膜した場合であっても接合できる場合もあるが,上記数値範囲であれば,例えば上記圧力の上限(低真空度)においてアルミニウム等の酸化し易い材質の薄膜を形成して接合を行う場合であっても,成膜後に直ちに接合することにより好適に接合することが可能であると共に,接合界面における酸化物の発生等を好適に防止することができる。
【0069】
不活性ガス(Arガス)圧
成膜方法がスパッタリングである場合,成膜時における不活性ガス(一般的にはArガス)の圧力は,放電可能な領域,例えば0.01Pa以上であることが好ましく,また30Pa(300μbar)を越えると接合を行うことができない場合が生じるため,上限は30Pa(300μbar)程度とすることが好ましい。これは,Arガス圧が上昇すると,形成された薄膜の表面粗さが増加すると共に,膜密度が著しく低下し,膜中の酸素等の不純物濃度が著しく増加する場合が生じるためである。
【0070】
薄膜表面の清浄さ
重合される薄膜の表面は清浄であることが好ましく,薄膜の表面が真空容器内に残留している不純物ガス等との反応によって汚染が進行するに従い,薄膜相互の付着強度は低下してゆき,やがて接合自体ができなくなる。
【0071】
また,接合ができた場合であっても,薄膜の接合面に薄膜が酸化して生じた不純物が発生する等,半導体デバイスの製造等に本発明の方法を利用する場合においてこのような不純物の発生が好ましくない場合もあり,このような点から,高真空度の真空容器の使用やプロセスガスの純化の他,成膜から貼り合わせ迄を同一真空中で行ったり,成膜後の比較的短時間のうちに重合を行ったりすること等により,微結晶連続薄膜の表面の清浄性を維持することが重要である。
【0072】
もっとも,本発明の接合方法を,例えばパッケージの封止等に使用する場合のように,接合面に酸化物等が生じても封止ができていれば良い場合には,薄膜の形成後,所定の保持時間内に行うものであれば,接合自体は可能である。
【0073】
このような接合を可能とする保持時間は,形成された薄膜の材質,真空容器内の真空度,プロセスガスの純化の度合い等によって異なり,例えば薄膜の材料が,真空容器中に残留しているH2O,O2等の不純物ガスと反応し難い材質,例えば比較的酸化し難い貴金属等である場合には,付着強度は低下するものの比較的長時間の保持時間を経た後に重合した場合であっても接合を行うことが可能である。一方,不純物ガスと反応し易い金属,例えば比較的酸化し易いTiやAl等の薄膜を形成した場合には,真空容器内の清浄度にもよるが成膜後,比較的短時間で接合ができなくなる。
【0074】
一例として,Ptの薄膜の場合には,薄膜形成後60分の保持時間を経過した後に重合した場合であっても接合が可能であるが,Tiでは,成膜後60分経過した後では接合できず,形成する薄膜の材質に応じて適当な保持時間内に接合を行う。
【0075】
接合方法例
本発明による常温接合方法を実現するための装置の一例を図1に示す。図1において,薄膜形成を行う真空容器内の上部に,スパッタを行うためのマグネトロンカソードを配置すると共に,このマグネトロンカソードの下部に,相互に貼り合わされる基体を載置する治具を配置し,この治具に取り付けた基体の接合面に対して微結晶連続薄膜を形成する。
【0076】
図示の実施形態において,前述の治具に設けられたテーブルは,図1中に破線で示す薄膜形成位置と,実線で示す貼り合わせ位置間を回動可能に構成されており,基体の一方を載置したテーブルの一端と,基体の他方を載置したテーブルの一端とが突き合わされた状態に配置されていると共に,この突き合わせ部分を中心として前記2つのテーブルが回動して,両テーブルの他端を上方に持ち上げることにより,前記テーブル上の載置された2つの基体の接合面が重合されるよう構成されている。
【0077】
なお,このように基体の貼り合わせを行う治具は,図示の構成のものに限定されず,貼り合わせを行う基体の形状等にあわせて各種形状,構造のものを使用することができ,また,真空容器内に配置した例えばロボットアーム等によって基体の一方若しくは双方を操作して接合を行うものとしても良い。
【0078】
以上のように構成された治具が配置された真空容器において,前記治具を図1中破線で示す成膜位置とした状態で,前述した条件で基体の接合面に対して微結晶連続薄膜を形成する。
【0079】
そして,基体の接合面に対して所定厚みの微結晶連続薄膜が形成されると,これに引き続き,前記治具に設けられたテーブルを,実線で示す貼り合わせ位置に回動させて,基体を数十g程度の比較的弱い力で貼り合わせる。
【0080】
これにより,両微結晶薄膜の接合界面及び結晶粒界において原子拡散を生じさせ,かつ,接合歪みを緩和させた接合を行うことができる。
【0081】
なお,上記の説明では同一材質の微結晶連続薄膜が形成された基体相互を貼り合わせる場合について説明したが,異なる材質の微結晶連続薄膜が形成された基体相互を貼り合わせる場合には,開閉可能に構成された連通路によって連通された2つの真空容器内のそれぞれに,前述のマグネトロンカソードを配置して各真空容器内で異なる材質の微結晶連続薄膜を成膜可能と成すと共に,それぞれの基体の接合面に対してそれぞれ異なる材質の微結晶連続薄膜を形成した後に,前記連通路を開くと共に,一方の基体をロボットアーム等によって他方の基体が配置された真空容器内に搬送して接合する等しても良い。
【0082】
また,接合対象とする2つの基体の一方に対してのみ前述の微結晶連続薄膜を形成し,他方の基体に対しては微結晶連続薄膜を形成することなく直接,両基体を接合することも可能である。
【0083】
接合のメカニズム
以上で説明した原子拡散による接合が如何なる原理によって達成されているのかは必ずしも明らかではないが,微結晶連続薄膜を使用した本発明の方法による接合では,以下に説明するように原子の拡散速度や拡散長が増大することにより,原子拡散による強固な接合が実現されているものと考えられる。
【0084】
拡散速度,拡散長の増大
原子の拡散係数に関する一般式は,次式,
D=D0exp(−Q/RT)
D:拡散係数
D0:振動数項(エントロピー項)
Q:活性化エネルギー
R:気体定数
T:絶対温度
で表すことができる。
【0085】
接合界面や結晶粒界における原子拡散は,固体中の原子拡散(体拡散)に比較して高速であり,上記の式におけるQ値が1/2〜2/3に低下する。
【0086】
そのため,接合界面や結晶粒界における拡散係数は,固体中の拡散係数に比較して10〜20桁も下がり,拡散を生じやすい状態にある。
【0087】
しかも,本発明の接合方法では,接合に微結晶連続薄膜を使用することで,この薄膜中にはたくさんの結晶粒界が存在する。
【0088】
ここで,結晶粒子を近似的に球形と考えてその半径をrとすると,その体積V,表面積Sは,
V ∝ r3
S ∝ r2
となり,結晶粒の体積と表面積の比S/Vは,1/rに比例する。
【0089】
以上より,例えば単結晶の2インチウエハを,結晶粒の半径rが10nmの微結晶構造に変更したとすると,S/Vは,2×107倍(7桁)も増加する。
【0090】
そのため,接合に際して微結晶連続薄膜を使用する場合には,非常に大きな原子拡散係数を得ることができると共に,原子拡散の発生する範囲(結晶粒の体積に対する表面積比)が飛躍的に増大する。従って,接合界面や結集粒界における原子拡散を容易に生じさせることができるものと考えられる。
【0091】
なお,図2は,微結晶連続薄膜としてPtの薄膜を形成して接合したSi基板の断面TEM像である。この図2において,微結晶連続薄膜の接合界面であった位置に対し,この接合界面が結晶粒界に向かってシフトしてジグザグ形状の結晶粒界が創成されており,この図2を見ても,結晶粒界において原子の拡散が生じていることが明らかである。
【実施例】
【0092】
次に,本発明の接合方法の実施例を以下に説明する。
【0093】
接合例
接合方法
物理実験用の超高真空(UHV:Ultra High Vacume)5極カソード−マグネトロンスパッタ装置(到達真空度2×10-6Pa)により,直径約1インチ(2.7cm),あるいは,直径2インチ(約5.08cm)の2枚のSi基板上にそれぞれ微結晶連続薄膜を形成して接合試験を行った。なお,スパッタリングには,真空室へのガス導入部(ユースポイント)における不純物濃度が2〜3ppb(2〜3×10-9)以下である超高純度アルゴンガスを使用した。
【0094】
Si基板の表面粗さは,Raで0.16nm,Rmaxで1.6nmであり,Si基板の表面にはSiの自然酸化膜が形成されていたが,これを除去することなく使用した。
【0095】
前記基板に対し,微結晶連続薄膜としてAg,Al,Cu,Ptの薄膜を形成した例にあっては,微結晶連続薄膜の形成前に2枚のSi基板のそれぞれの片面にスパッタリングにより約5nmのTa薄膜を下地層として形成した。
【0096】
また,微結晶連続薄膜としてCr,Ti,Taの薄膜を形成した例にあっては,前述のような下地層を形成することなく直接Si基板上に微結晶連続薄膜を形成した。
【0097】
このようにして微結晶連続薄膜が形成された2枚のSi基板は,両基板上に形成された微結晶連続薄膜が重なり合うように両基板を加熱することなしに数十g程度の弱い力で重ね合わせて接合させた。
【0098】
試験結果
Agの微結晶連続薄膜を形成した例
図3に,Ag薄膜同士の重ね合わせによって貼り合わせたSi基板の断面を示す。
【0099】
図3(A)より明らかなように,Ag薄膜間の接合界面が消失して,Ta薄膜間に結晶方位を反映した金属組織が形成されている。また,図3(B)の暗視野像より明らかなように接合後における結晶粒は,2つのTa薄膜間に達する単一の粒子を形成していることから,前記方法による接合によってAg薄膜のAg原子の拡散により,膜厚方向の全域に亘り両Ag薄膜間に原子の再配列を伴う金属結合が生じていることが確認できた。
【0100】
Alの微結晶連続薄膜を形成した例
図4に,Al薄膜同士の重ね合わせによって貼り合わせたSi基板の断面を示す。
【0101】
図4(A)より明らかなように,Al薄膜間の接合界面はほぼ消失していることが確認された。
【0102】
また,図4(B)の暗視野像より,接合後におけるAl膜中には,2つのTa薄膜間に達する単一の結晶粒子が多数存在していることから,前記方法による接合によって,Al薄膜のAl原子が拡散を生じて両Al薄膜間に原子の再配列を伴う金属結合が生じていることが確認できた。
【0103】
なお,同様の方法によりそれぞれの厚さが5nmのAl微結晶連続薄膜を形成して接合したが,この場合においても2枚のSi基板を強固に接合できることが確認された。さらに,同様の方法によりそれぞれの厚さが20nmのAl微結晶連続薄膜の形成によって,Rmax=7.6 nmの表面粗さを有する石英基板の表面粗さを克服して両者を接合することが確認された。
【0104】
Cuの微結晶連続薄膜を形成した例
図5に,Cu薄膜同士の重ね合わせによって貼り合わせたSi基板の断面を示す。
【0105】
図5(A)より明らかなように,Cu薄膜間の接合界面は明確性を失い,接合界面の一部が消失していることが確認された。
【0106】
また,接合面が結晶粒子毎に大きくシフトし,更に,図5(B)に示す暗視野像から一方のTa薄膜から他方のTa薄膜近くに迄達する結晶粒の存在も確認されていることから,Cu原子の拡散が,Cu薄膜の厚みである20nm近くに達していることが確認された。
【0107】
なお,図5(C)に示す高分解能での観察では,一方のTa薄膜から他方のTa薄膜に至り,Cu層の格子像が連続的に繋がっていることが確認でき,このことから,一見接合界面が消失せずに残っているように見える部分においても,界面における格子の連続性,すなわち金属間結合が生じていることは明らかである。
【0108】
更に,前述したTaの下地層の形成を省略し,同様のSi基板上に直接Cu薄膜を形成して接合を行うと共に,Cu薄膜の膜厚をCuの原子1つ分の厚みに相当する0.2nmで形成したものを相互に重ね合わせることにより接合を行ったところ,この膜厚によっても接合を行うことができることが確認された。
【0109】
従って,本発明の原子拡散接接合方法にあっては,基体のそれぞれに形成する微結晶連続薄膜の膜厚を,これを形成する材料の原子1層分の厚み(重ね合わせ後は原子2層分)として形成するのみで接合することが確認できた。
【0110】
Ptの微結晶連続薄膜を形成した例
図6に,Pt薄膜同士の重ね合わせによって接合されたSi基板の断面を示す。
【0111】
図6より明らかなようにPt薄膜によって接合を行う場合,Pt薄膜とPt薄膜間の接合界面は完全には消失していないものの,両者間において強固な接合が行われていることが確認できた。
【0112】
なお,図2及び図6において,界面のジグザグの度合いが異なるのは,真空装置及び接合条件が異なるためである。
【0113】
Crの微結晶連続薄膜を形成した例
図7に,Cr薄膜同士の重ね合わせによって接合されたSi基板の断面を示す。
【0114】
図7に示すように,両薄膜の接合界面付近には,白っぽい帯状の線が現れており,この部分においてCr薄膜の接合界面がアモルファスに変化して接合が生じていることが確認された。
【0115】
このことから,Crの微結晶連続薄膜による接合では,アモルファスに変化した部分において原子拡散による変質が生じており,他の金属により形成した微結晶連続薄膜を使用した接合に比較して,原子拡散長が短いものであることが確認された。
【0116】
もっとも,Crの微結晶連続薄膜の形成によってSi基板の接合を行った本例においてもSi基板の強固な接合を行うことができることが確認された。
【0117】
Tiの微結晶連続薄膜を形成した例
図8に,Ti薄膜同士の重ね合わせによって接合されたSi基板の断面を示す。
【0118】
図8に示すように,両薄膜の接合界面はほぼ消失していることが確認でき,原子拡散に伴う再結晶化が生じていることが確認できた。
【0119】
また,同様の方法により厚さ0.2nmのTi微結晶連続薄膜をそれぞれ成膜することにより接合した場合であっても,Rmaxで40nmという表面粗さを有するSi基板の接合を行うことができた。
【0120】
Taの微結晶連続薄膜を形成した例
図9に,Ta薄膜同士の重ね合わせによって接合されたSi基板の断面を示す。
【0121】
図9において,両薄膜の接合界面に現れている白い線は,接合界面に形成されたアモルファスであり,Taの微結晶連続薄膜による接合では,アモルファスに変化した接合界面付近において原子拡散が生じており,原子拡散長が比較的短いものであることが確認された。
【0122】
もっとも,この例においても2枚のSi基板を強固に接合できることが確認できた。
【0123】
その他
なお,Au,Co,Ni,Ruの薄膜を形成して同様の接合試験を行った結果,いずれの微結晶連続薄膜の形成によってもSi基板を強固に接合できることが確認された。
【0124】
また,接合後の状態を確認したところ,Au薄膜同士の接合では接合界面が略完全に消失していたが,Ni,Co,Ruでは,接合界面は消失せずに残っていた。
【0125】
原子拡散長の測定
接合時に生じる原子拡散がどの程度の長さで生じるかを確認すべく,形成する微結晶連続薄膜の膜厚を増大すると共に,接合時の再結晶によって創成された結晶粒のサイズを測定した。
【0126】
測定は,Alの微結晶連続薄膜を形成することにより行い,形成したAl薄膜の膜厚を50nmとした点を除き,前述した接合試験と同様の方法によって2枚のSi基板の接合を行った。
【0127】
このようにして接合した後のSi基板の断面を図10に示す。
【0128】
図10(A)〜 図10(C)に示すように,多くの結晶粒が接合後のAl薄膜の全厚みである100nmの範囲で1つの結晶粒を形成していることが確認でき,このことから,Alの微結晶連続薄膜を形成して接合を行った例では,室温において,原子拡散にともなう原子の再配列が少なくとも50nm以上に及ぶことが確認できた。
【0129】
原子の拡散係数と接合界面状態の対応関係の確認
前述した接合試験の結果から,いずれの材質の微結晶連続薄膜を形成した場合であっても2枚の基体の接合を好適に行うことができたものの,微結晶連続薄膜を形成する材質の相違により,接合後の微結晶連続薄膜の状態には明らかな差が生じることが確認された。
【0130】
そこで,実験を行った元素中,面心立方格子(fcc)構造を取るものについて図11に示すように,縦軸を室温における体拡散係数,横軸を融点とした表内に,各元素をそれぞれプロットしたところ,接合界面の一部が消失していたCuの体拡散係数である1×10-40m2/sを境に,これよりも拡散係数の大きなものについては接合界面の消失が生じており,また,2つの基体間の厚さ方向の全域に亘る結晶粒が形成されていることが確認できた。
【0131】
なお,計算に用いた,D0(振動数項,エントロピー項)及びQ(活性化エネルギー)は,いずれも「金属データブック(改訂3版)」〔(社)日本金属学会編、丸善(株)発行、(1993)P21〜P25〕から引用した数値を用いており,温度は27℃(300K)としている。
【0132】
特にAlにあっては,各微結晶連続薄膜の厚さを50nmとした接合においても膜厚方向に100nmに亘る結晶粒が形成されていることから,室温において,原子拡散にともなう原子の再配列が少なくとも50nm以上に及ぶことが確認されている。
【0133】
一方,Cuの体拡散係数である1×10-40m2/sよりも拡散係数が小さい元素によって形成した微結晶連続薄膜を使用した接合では,接合界面が残存しており,また,両基体間の全域に亘るような結晶粒の生成も確認されていない。
【0134】
同様に,fcc構造以外のものについても,図12に示すように表中にプロットしていくと,接合界面の消失が認められたTiについては,体拡散係数が1×10-40m2/sを越えており,また,接合界面の残存が確認されると共に,接合界面付近の限定された範囲においてアモルファスの形成が確認されたCr,Taについては,体拡散係数が1×10-40m2/sよりも低いことが判る。
【0135】
以上の結果から,原子の拡散係数が低くなると,原子の拡散長が短くなり,拡散が接合界面付近に限定されて接合界面が消失しないことが判る。
【0136】
なお,図12において,「hcp/bcc」とあるのは,室温近傍ではhcp構造が安定であり,高温になるとbcc構造が安定となるグループを意味する。
【0137】
このように,原子の拡散長が短くなると,仮に形成する微結晶連続薄膜の膜厚を厚くしても,そのうちの一部においてしか原子拡散が生じないことから,接合対象となる基体の表面粗さが原子の拡散長を大幅に越える場合には,基体間の接合ができなくなる。
【0138】
一方,このことは逆に,原子の拡散長を長くすることができれば,基体の表面粗さを克服して,表面の比較的粗い基体同士であっても接合できることとなる。
【0139】
ここで,前述した原子の拡散係数に関する一般式
D=D0exp(−Q/RT)
より,温度Tを上昇させること,拡散係数Dは指数関数的に増加することが判る。
【0140】
そこで,本発明の原子拡散接合方法,特に,体拡散係数が小さい元素によって微結晶連続薄膜を形成して接合を行う場合には,重ね合わせ時における基体温度を上昇させて拡散係数を上昇することが有利であることに着目した。
【0141】
図13に,温度上昇に伴う各元素の拡散係数の変化を示す。同図に示すように,拡散係数が比較的低いTaであっても,400℃以下の加熱によってその拡散係数を,Cuの拡散係数である1×10-40m2/s以上に迄上昇させることができ,これにより接合界面の消失が得られる程の原子拡散を行うことができることが判る。
【0142】
このように,基体の加熱は拡散係数の上昇,従って,原子の拡散長の上昇による表面粗さの克服に有利であると共に,このような1×10-40m2/s以上への拡散係数の上昇を,例えば電子デバイス等に使用する基体であってもダメージを与えることがない400℃以下の温度範囲において行うことが可能であることが確認された。
【0143】
よって,重ね合わせ時における基体を,400℃以下の範囲で加熱すること,特に,微結晶連続薄膜を構成する元素の体拡散係数が1×10-40m2/s未満である場合に,体拡散係数が1×10-40m2/sを越えるように400℃以下の範囲で加熱することの有利性は明らかである。
【0144】
接合強度の検証
試験方法
リム状物を備えた特殊な基板(Si基板)を使用して付着強度を算出した。
【0145】
図14にリム構造物を備えた基体の模式図を示す。このリム構造物として,425nm(厚さ)×200μm(幅)のSiO2リムを一方の基体の表面に配置し,接合後,付着していない隙間の長さLを測定した。
【0146】
接合に際して形成した微結晶連続薄膜は,両基体共に厚さ10nmのPt膜である。また,基板からPt膜が剥離しないように,厚さ5nmのTi膜を下地層としてPt膜とSi基板との間に挿入した。
【0147】
付着していない隙間の長さを測定するために,赤外線ビームを使用し,この赤外線ビームによって得られた像により,非破壊的にLの長さを測定した。
【0148】
試験結果
上記方法により測定した,付着していない隙間の長さLは,0.45mmであった。
【0149】
この長さLと,基体の弾性歪みに基づき求められる接合部の表面エネルギーは,約5J/m2であり,この値は,室温における固体Ptで予測される表面エネルギーの大きさと同オーダーである。従って,2つの基体に形成されたPt薄膜が,相互に金属間結合を生じて接合されていることが明らかであると共に,極めて強固な接合を生じていることが確認できた。
【0150】
成膜後の経過時間と接合性の変化の確認
2つの基体の接合面にそれぞれ厚さ20nmのPt薄膜を形成後,実験に用いた清浄な真空中に3分間放置してから接合した(このときArガスの導入は停止)。真空容器の到達真空度は1×10-6Pa以下(1×10-6Paよりも高真空度)であり,Arガス中の不純物濃度は2ppb以下である。
【0151】
上記環境下で,Pt膜の成膜中に接合した基体の断面顕微鏡写真(TEM)を図15(A)に,成膜後,上記空間内に3分間放置した後に接合した基体の断面顕微鏡写真(TEM)を図15(B)にそれぞれ示す。
【0152】
図15(A),図15(B)より明らかなように,成膜中に接合した場合と,3分の経過後に接合した場合のいずれの接合界面にも明確な差は認められず,懸念された接合界面における酸化変質層の発生等も確認することはできなかった。
【0153】
このことから,清浄な真空中における成膜及び接合,成膜と接合を同一真空中で行うことが,良好な接合を行う上で効果的であることが確認できたと共に,清浄な真空中での成膜,接合であれば,成膜から接合迄に3分程度の時間が経過した場合であっても,接合界面の状態に変化が生じないことも確認できた。
【0154】
なお,図16(A),(B)は,上記Pt膜の形成に変えて,厚さ20nmのTa膜を形成することにより2つの基体を接合した例であり,図16(A)は成膜中に接合したものの断面顕微鏡写真(TEM),図16(B)は成膜後3分の経過後に接合を行ったものの断面顕微鏡写真である。
【0155】
図16(A),(B)より明らかなように,拡散係数が小さなTa膜による接合の場合にも,Pt膜による接合の場合と同様,成膜後の経過時間による接合界面の相違は見られず,清浄な真空中における成膜及び接合,成膜と接合とを同一真空中で行うことが,良好な接合を行う上で効果的であることが確認できたと共に,清浄な真空中での成膜,接合であれば,成膜から接合まで3分程度の経過時間によっては,接合界面の状態に変化が生じないことも確認できた。
【0156】
微結晶連続薄膜と基体間の付着強度向上
Al,Cu,Ag,Ptの微結晶連続薄膜は,基体に対する付着強度が低く,そのため微結晶連続薄膜間の強固な接合を得ても,基体との界面において剥離するという問題が生じる。
【0157】
そこで,このような基体に対する低付着強度の改善に,微結晶連続薄膜とは異なる材質の薄膜から成る下地層を形成することの有効性,及び基体表面のガス吸着層や自然酸化層等の変質層の除去が有効であることの確認を行った。
【0158】
下地層の形成
2枚のSi製の基体のそれぞれに,厚さ5nmのTaの下地層を形成し,このTa下地層上に厚さ20nmのAlの微結晶連続薄膜を形成した後接合し,両基体の剥離試験を行った。
【0159】
試験の結果,微結晶連続薄膜同士の接合界面,下地層と微結晶連続薄膜との界面,及び,基体と下地層との界面のいずれにおいても剥離せず,剥離が生じる前に基体が破壊した。
【0160】
また,厚さ20nmのAlの微結晶連続薄膜を用いて同様な実験を行った場合も,剥離が生じる前に基体が破壊した。
【0161】
以上の結果から,基体の破壊強度以上の付着強度が得られており,Taの下地層の形成が,基体と微結晶連続薄膜との付着強度を増大させる上で有効であることが確認された。
【0162】
また,前述のTaの他,Ti,Crの下地層を形成することによっても同様の結果が得られた。
【0163】
以上の点から,Ti,Ta,Crの下地層の形成が,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を増大させる上で有効であることが確認された。
【0164】
また,周期律表において,Tiと同じ4A属に属するZr及びHf,Taと同じ5A属に属するV及びNb,Crと同じ6A属に属するMo及びWについても,同様にこれらの元素によって下地層を形成することで,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を向上できるものと予測される。
【0165】
ガス吸着層及び自然酸化物の除去
薬液による洗浄により自然酸化層の除去を行った後,水素終端化処理を行って酸化を抑制した2枚のSi基体に対し,それぞれ厚さ20nmのAl微結晶連続薄膜を形成して接合した試料(試料1)と,微結晶連続薄膜の形成と同一真空中で接合面に対して逆スパッタリングを行うことにより自然酸化層を除去した2枚のSi基板のそれぞれに対し,厚さ20nmのAl微結晶連続薄膜を形成して接合を行った試料(試料2)を準備し,両試料共に基体の剥離試験を行った。
【0166】
剥離試験の結果,試料1,2の両試料共に基体と微結晶連続薄膜との界面における剥離は確認できず,剥離が生じる前に基体が破壊した。
【0167】
よって,薬液による洗浄によるウェット法,逆スパッタ等のドライ法の別に拘わらず,微結晶連続薄膜の形成前に基体表面のガス吸着層や自然酸化層等の変質層を除去することが,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を向上する上で有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0168】
以上で説明した本発明の接合方法は,無加熱又は比較的低い温度での加熱,無加圧で原子レベルでの接合を行うことができること,接合後の界面応力が小さいこと等から,各種新機能・高機能デバイスの創製,情報家電の小型化,高集積化等の用途において利用することができ,これらの用途における例を示せば下記の通りである。
【0169】
新機能・高性能デバイスの創製
ウエハレベルで積層化,集積化した新機能デバイスの創製への利用
集積回路と短波長光デバイスの集積化(例えば,Siデバイス/GaN,フォトニクス結晶,LED),新機能光−電子変換デバイス創製の際の接合。
スピン−電子ハイブリッドデバイスの製造。本発明の方法によって接合することで,電子やスピン電流の平均自由工程以下でウエハ間を接合することが可能である。
【0170】
異種材料ウエハ間の接合
超ハイブリッド基板・部材の形成等を目的として,半導体ウエハをナノ結晶膜を挟んで積層化した電位障壁ハイブリッド・ウエハの製造や,ガラスをナノ結晶膜を挟んで積層した特殊光学ウエハ(光フィルタリング)の製造に際し,本発明の方法を使用することができる。
【0171】
発光ダイオードの高輝度化
本発明の方法により,発光ダイオードに鏡面のレイヤーを接合し,輝度を上げる。
【0172】
水晶振動子の積層化
本発明の方法により,水晶に例えば金の薄膜を形成して水晶同士を接着することで,比較的接着が困難な水晶同士の接合を行う。
【0173】
情報家電の小型化・高集積化
SiP技術のための三次元スタック化,パッケージ基板高機能化(三次元実装);本接合方法によりSiデバイスとSiデバイスの積層や基板を立体的に貼り合わせることにより高集積化を図る。
【0174】
MEMS製造技術
三次元配線を兼ねた微細素子の真空封止,Siデバイスとの積層に本接合方法を利用する。この用途での利用の場合,接合面に界面があっても良く,内部の真空や接合状態を保持できれば良い。
【0175】
高性能化,超低消費電力のための効率的な熱伝導(冷却)の実現
熱放散係数の大きな材料,例えば銅,ダイヤモンド,DLC等で作製したヒートシンク,ヒートスプレッダを本発明の方法により半導体デバイス等に直接ボンディングして,放熱性能,熱拡散性能等を向上させる。
【0176】
その他
なお,以上で説明した用途では,いずれも本発明の接合方法を電気,電子部品等の分野において使用する例を説明したが,本発明の方法は,上記で例示した利用分野に限定されず,接合を必要とする各種分野,各種用途において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】本発明の原子拡散接合方法を実施するための装置の概略説明図。
【図2】Ptの微結晶連続薄膜の形成により接合したSi基板の断面顕微鏡写真。
【図3】Ag薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり,(A)は明視野像,(B)は暗視野像。
【図4】Al薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり,(A)は明視野像,(B)は暗視野像。
【図5】Cu薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり,(A)は明視野像,(B)は暗視野像,(C)は高分解像。
【図6】Pt薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真。
【図7】Cr薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真。
【図8】Ti薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真。
【図9】Ta薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真。
【図10】Al薄膜(50nm×50nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり,(A)は明視野像,(B)は別方向からの明視野像,(C)は(B)の暗視野像。
【図11】体拡散係数−融点相関図(fcc系のみ)。
【図12】体拡散係数−融点相関図(全種類)。
【図13】温度に対する体拡散係数の変化を示すグラフ。
【図14】接合強度の検証方法の説明図。
【図15】Pt薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり(A)はPt薄膜の成膜中に接合したもの,(B)は成膜後3分経過後に接合したもの。
【図16】Ta薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり(A)はTa薄膜の成膜中に接合したもの,(B)は成膜後3分経過後に接合したもの。
【技術分野】
【0001】
本発明は原子拡散接合方法,及び前記方法により接合された構造体に関し,より詳細には,例えばIC基板の積層化やパッケージの封止,各種デバイスの複合化等,被接合材である2つの基体間を強固に接合する際に使用される接合方法において,少なくとも一方の基体の接合面に形成された微結晶連続薄膜を介して2つの基体を接合することにより,接合界面および結晶粒界において原子拡散を生じさせることにより基体間を接合する新規な接合方法,及び前記方法により接合された構造体に関する。
【0002】
なお,本明細書において「微結晶」には「多結晶」の他,「アモルファス」を含む。また,「結晶粒界」とは原子配列の規則性の断続部分を言い,多結晶における結晶粒の境界(一般的な意味での「結晶粒界」)の他,長距離秩序(数10原子程度以上の原子集団における配列の規則性)を有しないが,短距離秩序(数10原子以下の原子集団における配列の規則性)を有する前述のアモルファスにあっては,この「短距離秩序」の断続部分が本発明における「結晶粒界」であると共に,アモルファス金属膜中に空隙があり,体積率(充填率)が100%よりも低い場合,その空隙とアモルファス金属の界面も,高い原子拡散係数を有すると考えられることから,上述の短距離秩序の断続部分と同様に本発明における「結晶粒界」に相当する。
【背景技術】
【0003】
2つ以上の被接合材を貼り合わせる接合技術が各種の分野において利用されており,例えば電子部品の分野において,ウエハのボンディング,パッケージの封止等においてこのような接合技術が利用されている。
【0004】
一例として,前述のウエハボンディング技術を例にとり説明すれば,従来の一般的なウエハボンディング技術では,重ね合わせたウエハ間に高圧,高熱を加えて接合する方法が一般的である。
【0005】
しかし,この方法による接合では,熱や圧力に弱い電子デバイス等が形成された基板の接合や集積化を行うことができず,そのため,このような物理的なダメージを与えることなく被接合材相互を接合する技術が要望されている。
【0006】
このように,被接合材間を常温,無加圧で接合する技術としては,被接合材の接合面のそれぞれに対し,いずれも希ガス等のイオンビームを照射して接合面における酸化物や有機物等を除去することで,接合面表面の原子を化学的結合を形成し易い活性な状態(活性化)とし,この状態において被接合材の接合面相互を重ね合わせることにより,加熱することなく,かつ,接着剤等を使用することなしに常温での接合を可能とする常温接合法が,例えばシリコンウエハ等の接合に用いられている(特許文献1参照)。
【0007】
この発明の先行技術文献情報としては,次のものがある。
【特許文献1】特許第2791429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の方法では,被接合材の接合面に対して希ガスビームなどを照射して接合面を洗浄して活性な状態とした後,両接合面を接合することにより強固な接合力を得ることができるものの,接合できる材料が一部の金属と金属,一部の金属と化合物間に限定されており,用途が限定される。
【0009】
また,前記方法により接合を行う場合,接合面は巨視的には接合がされていたとしても,接合面の粗さやうねり等によって微視的には接合されていない部分が存在し,ウエハレベルでの積層化,集積化のための接合に使用することができない。
【0010】
このように,部分的に接合されていない部分が発生することを防止するために,接合面を研磨等してその表面粗さを抑制することも考えられるが,研磨によって抑制し得る接合面の粗さやうねりには限度がある。
【0011】
そのため,上記従来の常温接合方法により,接合されない部分の発生を減少しようとすれば,被接合材相互を重合する際に加圧して圧着する等の処理を行う必要があり,被接合材に物理的なダメージを与えるおそれがある。
【0012】
なお,上記方法による接合では,両基体の表面を前述のように活性化させることで,接触界面においてのみ原子間に金属又は化学結合を生じさせるものであり,接合界面や結晶粒界におけるダイナミックな原子拡散を伴うものではない。
【0013】
そのため,接着自体は比較的強固に行うことはできるものの,両基体の接合部分には依然として接合界面が存在し,また,接合に際して接合界面に酸化被膜等の変質層が形成されることにより,例えば電子デバイス等として使用する際,このような接合界面や変質層が電子の通過を妨げる障壁等として作用する等,性能の低下をもたらすものとなっている。
【0014】
そこで本発明は上記従来技術の欠点を解消するためになされたものであり,前述した従来技術における活性化による接合とは異なり,原子拡散という新規な方法により異種材質間の接合を含む広範な材質間の接合に使用することができ,かつ,接合対象とする基体に物理的なダメージを与えることなく接合を行うことがでる原子拡散接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために,本発明の原子拡散接合方法は,真空容器内において,平滑面を有する2つの基体それぞれの前記平滑面に,室温(27℃(300K))における自己拡散又は相互拡散を含む体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成すると共に,前記2つの基体に形成された前記微結晶連続薄膜同士が接触するように前記2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜の接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせて前記2つの基体を接合することを特徴とする(請求項1)。
【0016】
なお,本発明において微結晶連続薄膜の密度(%)とは,微結晶連続薄膜が占める空間に対する,空隙等の形成部分を除いた微結晶連続薄膜を構成する金属が占める体積の割合(体積率あるいは充填率)を百分率によって表示したものである。
【0017】
また,本発明の別の原子拡散接合方法は,真空容器内において,一方の基体の平滑面に室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成すると共に,少なくとも表面が微結晶構造を有する平滑面を備えた他方の基体の前記平滑面に前記一方の基体に形成された前記微結晶連続薄膜が接触するように前記一方,他方の2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜と前記他方の基体の前記平滑面との接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせることにより前記2つの基体を接合することを特徴とする(請求項2)。
【0018】
上記原子拡散接合方法において,上記基体を重ね合わせる際の前記基体温度を室温以上400℃以下の範囲で加熱して拡散係数を上昇させるものとすることができ(請求項3),特に,前記微結晶連続薄膜の形成材料の室温における体拡散係数が1×10-40m2/s以下の場合にこのような加熱を行うことが好ましい(請求項4)。
【0019】
また,前記基体の重ね合わせは,前記基体を加熱することなく行うものとしても良く(請求項5),特に前記微結晶連続薄膜の形成材料の室温における体拡散係数が1×10-40m2/sを越える場合には,加熱することなく接合した場合にあっても,接合界面の消失する程の原子拡散による接合を行うことが可能である。
【0020】
更に,前述の原子拡散接合方法において,到達真空圧力が1×10-4Pa〜1×10-8Paの真空容器内で前記微結晶連続薄膜の形成及び/又は前記基体の重ね合わせを行うことが好ましく(請求項6),また,前記微結晶連続薄膜の形成と,前記基体の重ね合わせを同一真空中で行うことが好ましい(請求項7)。
【0021】
前述の微結晶連続薄膜は,これをAl,Si,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,Pt,Auの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成することができる(請求項8)。
【0022】
また,前記微結晶連続薄膜を形成する前に,前記微結晶連続薄膜の形成と同一真空中において,前記微結晶連続薄膜の形成を行う基体の平滑面に生じている変質層,例えばガス吸着層や自然酸化層を逆スパッタリング等のドライプロセスで除去することが好ましく(請求項9),特に基体に対する付着強度が低いAl,Cu,Ag,Pt等の微結晶連続薄膜を形成する場合には,付着強度を向上させる上で変質層の除去を行うことは効果的である。
【0023】
なお,基体表面の変質層の除去は,微結晶連続薄膜の形成を行う真空容器外において,例えば薬液による洗浄等のウェットプロセスによって行うこともでき,この場合には,変質層除去後の基体表面を水素終端化等により変質層の再形成が生じ難い状態とすることが好ましい。
【0024】
更に,前記微結晶連続薄膜が形成される前記基体の平滑面に,前記微結晶連続薄膜とは異なる材料の薄膜から成る下地層を1層以上形成し,当該下地層上に前記微結晶連続薄膜を形成することが好ましく(請求項10),前述した変質層の除去と同様,特に基体に対する付着強度が低いAl,Cu,Ag,Pt等の微結晶連続薄膜を形成する場合には,付着強度を向上させる上で前記下地層の形成は効果的である。
【0025】
この下地層は,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成することができ(請求項11),特に,形成する微結晶連続薄膜よりも融点が高く,且つ,その融点の差が大きい材料により形成することが好ましい(請求項12)。
【0026】
なお,前記微結晶連続薄膜の膜厚は,0.2nm〜1μmとすることができる(請求項13)。
【0027】
更に,本発明には,前述した原子拡散接合方法により接合された構造体を含む(請求項14)。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した本発明の構成により,本発明の原子拡散接合方法によれば,以下のような顕著な効果を得ることができた。
【0029】
2つの基体の平滑面に形成した微結晶連続薄膜同士,又は一方の基体に形成した微結晶連続薄膜と少なくとも表面に微結晶構造を有する平滑面を有する他方の基体の平滑面とを接触させることにより,接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせ,これにより同種又は異種の微結晶連続薄膜の接合面間,又は微結晶連続薄膜と基体の平滑面間を,加熱,加圧,電圧の印加等を伴うことなく原子レベルで金属結合あるいは分子間結合により強固に接合させることができると共に,薄膜の内部応力を開放して接合歪みを緩和させることができた。なお,ここで得られる接合は,界面で剥離が生じない(無理に剥離しようとすると薄膜の界面以外の部分又は基体が破壊する)接合状態である。
【0030】
基体の重ね合わせを行う際の基体温度を室温以上,400℃以下の範囲で加熱して拡散係数を上昇させることにより,原子の拡散速度,拡散長を増大させることができ,これにより接合界面及び結晶粒界における原子の拡散性を向上させてより均一かつ強固な接合を行うことができ,特に原子の拡散長の増大により表面の比較的粗い基体であっても接合することが可能となった。
【0031】
しかも,基体に対する加熱が室温から400℃以下で範囲であれば,基体が比較的熱に弱い電子デバイス等であっても加熱によるダメージを与えることなく前記効果を得ることができた。
【0032】
上記加熱を室温における体拡散係数が1×10-40m2/s以下の材料により前記微結晶連続薄膜を形成した場合に行うことで,比較的拡散係数の低い材質で微結晶連続薄膜を形成した場合であっても,原子の拡散速度の向上と拡散長の増大を図ることができ,特に,前記温度範囲内において加熱後の拡散係数が1×10-40m2/sを越えるように加熱を行うことで,接合界面の消失が得られる程の原子拡散を生じさせることが可能である。
【0033】
もっとも,基体はこれを加熱することなく重ね合わせた場合であっても良好に接合することができ,これにより基体に対して熱によるダメージが加わることを完全に防止できた。特に,室温における体拡散係数が1×10-40m2/sを越える材料によって微結晶連続薄膜を形成する場合には,加熱することなく室温で接合した場合であっても接合界面が消失する程の原子拡散による接合を得ることができた。
【0034】
微結晶連続薄膜の形成,及び/又は基体の重ね合わせを到達真空圧力が1×10-4Pa〜1×10-8Paの真空容器内で行うことにより,また,微結晶連続薄膜の形成と基体の重ね合わせを同一真空中で行うことにより,形成された微結晶連続薄膜が不純物ガス(例えばO2やH2O)等と反応して変質層を形成する前の清浄な状態で接合を行うことができ,基体同士を高い付着強度で接合することができると共に,接合界面に電子等の通過に際して障壁となる酸化膜等の変質層が形成されることを防止できた。
【0035】
また,前記到達真空度の真空中で微結晶連続薄膜の形成を行うことで,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度が低下することを防止でき,微結晶連続薄膜の接合界面における剥離のみならず,基体と微結晶連続薄膜間での剥離の発生等についても好適に防止することができた。
【0036】
微結晶連続薄膜を,Al,Si,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,Pt,Auの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成することで,本発明の方法による原子拡散接合を好適に行うことができた。
【0037】
上記微結晶連続薄膜を形成する前に,微結晶連続薄膜の形成と同一真空中において上記一方又は双方の基体の平滑面表面に形成されている変質層を逆スパッタリング等のドライプロセスにより除去することで,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を向上させることができ,基体表面と微結晶連続薄膜間で剥離が生じることによる基体同士の付着強度の低下についても好適に防止することができた。
【0038】
また,前記微結晶連続薄膜が形成される前記基体の平滑面に,前記微結晶連続薄膜とは異なる材料の薄膜,例えば周期律表における4A〜6A属の元素であるTi,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの元素群より選択されたいずれか1つの単金属の薄膜,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金の薄膜によって下地層を形成することにより,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を上昇させることができ,これにより基体と微結晶連続薄膜間で剥離が生じることを防止することができた。
【0039】
特に,このような下地層の形成材料として,微結晶連続薄膜の形成材料に対して高融点であり,且つ,その融点の差が大きいもの使用することで,下地層上に形成される微結晶連続薄膜の2次元性(薄膜成長時の原子の濡れ性)が良くなり,微結晶連続薄膜が島状に成長することを防止でき,0.2nmといった1原子層分の厚みに相当する極めて薄い微結晶連続薄膜の形成が容易となる。
【0040】
なお,本発明の原子拡散接合方法では,形成する微結晶連続薄膜の膜厚がそれぞれ0.2nm(2Å)〜1μmの範囲で好適に原子拡散接合が可能であり,特に,電子やスピン電流の平均自由工程よりも十分に薄い数Å程度の膜厚の微結晶連続薄膜の形成によっても接合を行うことができることから,シリコンウエハ等の接合に用いた場合であっても,接合面によって電子の移動等が妨げられない接合方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
接合方法概略
本発明の原子拡散接合方法は,真空容器内においてスパッタリングやイオンプレーティング等の真空成膜により真空中で成膜した微結晶連続薄膜同士,又は微結晶連続薄膜と少なくとも表面に微結晶構造を有する基体を,成膜中,あるいは成膜後に重ね合わせると,接合界面及び結晶粒界において原子拡散が生じて両者間で強固な接合が行われることを見出し,これを基体間の接合に適応したものであり,下記の条件等において基体同士の接合を行うものである。
【0042】
基体(被接合材)
材質
本発明の原子拡散接合方法による接合の対象である基体としては,スパッタリングやイオンプレーティング等,到達真空度が1×10-4〜1×10-8Paの高真空度である真空容器を用いた高真空度雰囲気における真空成膜により微結晶連続薄膜を形成可能な材質であれば如何なるものをも対象とすることができ,各種の純金属,合金の他,Si基板等の半導体,ガラス,セラミックス,樹脂,酸化物等であって前記方法による微結晶連続薄膜の形成が可能であれば本発明における基体(被接合材)とすることができる。
【0043】
なお,基体は,例えば金属同士の接合のように同一材質間の接合のみならず,金属とセラミックス等のように,異種材質間での接合を行うことも可能である。
【0044】
接合面の状態等
基体の形状は特に限定されず,例えば平板状のものから各種の複雑な立体形状のもの迄,その用途,目的に応じて各種の形状のものを対象とすることができるが,他方の基体との接合が行われる部分(接合面)については所定の精度で平滑に形成された平滑面を備えていることが必要である。
【0045】
なお,他の基体との接合が行われるこの平滑面は,1つの基体に複数設けることにより,1つの基体に対して複数の基体を接合するものとしても良い。
【0046】
この接合面の表面粗さは,パッケージの封止等,単に接合が得られるのみで目的が達成される場合には,例えば最大高さ(Rmax)で50nmを越える表面粗さであっても接合を行うことができるが,好ましくはRmaxで50nm以下である。
【0047】
基体の平滑面は,微結晶連続薄膜の形成前に表面のガス吸着層や自然酸化層等の変質層が除去されていることが好ましく,例えば薬液による洗浄等による既知のウェットプロセスによって前述の変質層を除去し,また,前記変質層の除去後,再度のガス吸着等を防止するために水素終端化等が行われた基体を好適に使用することができる。
【0048】
また,変質層の除去は前述のウェットプロセスに限定されず,ドライプロセスによって行うこともでき,真空容器中における希ガスイオンのボンバード等によりガス吸着層や自然酸化層などの変質層を逆スパッタリング等によって除去することもできる。
【0049】
特に,前述のようなドライプロセスによって変質層を除去する場合,変質層を除去した後,後述の微結晶連続薄膜を形成する迄の間に,基体表面にガス吸着や酸化が生じることを防止するために,このような変質層の除去を,後述する微結晶連続薄膜を形成すると同一の真空中において行い,変質層の除去に続けて微結晶連続薄膜の形成を行うことが好ましく,より好ましくは,変質層の除去を超高純度の不活性ガスを使用して行い,変質層の除去後に酸化層等が再形成されることを防止する。
【0050】
なお,基体は,単結晶,多結晶,アモルファス,ガラス状態等,その構造は特に限定されず各種構造のものを接合対象とすることが可能であるが,2つの基体の一方に対してのみ後述する微結晶連続薄膜を形成し,他方の基体に対して微結晶連続薄膜の形成を行うことなく両者の接合を行う場合には,微結晶連続薄膜の形成を行わない他方の基体の接合面は,接合界面や結晶粒界における原子拡散を得ることができるよう,少なくともその表面が後述する微結晶連続薄膜と同様に微結晶構造(アモルファスを含む)を有する必要がある。
【0051】
微結晶連続薄膜
材質
形成する微結晶連続薄膜の材質としては,基体と同種材質の薄膜を形成しても良く,また,目的に応じて基体とは異種材質の微結晶連続薄膜を形成しても良く,さらに,基体の一方に形成する微結晶連続薄膜の材質と,基体の他方に形成する微結晶連続薄膜の材質とをそれぞれ異なる材質としても良く,両者間の固溶が可能な組合せのみならず,CoとCuのように非固溶となる組合せであっても良く,また,金属と半金属等,その組合せは目的に応じて適宜任意に行うことができる。
【0052】
微結晶連続薄膜の材料としては,室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上であることが必要で,このような微結晶連続薄膜の材料として,Al,Si,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,Pt,Auの元素群の中から選択したいずれかの単金属,又はこれらの元素群のうちの少なくとも1つ以上の元素を含む合金を使用することができる。
【0053】
このうち,特に室温における体拡散係数が1×10-40m2/s以上であるIn,Al,Ag,Au,Cu,Zn,Zr,Ti等によって微結晶連続薄膜を形成する場合には,基体を加熱することなく室温において接合した場合であっても接合界面が消失すると共に,接合された微結晶連続薄膜間において再結晶が生じて2つの基体間の間隔の略全域に亘る粒径を備えた結晶粒が生成される等,金属結合による2つの微結晶連続薄膜の一体化を得ることができる。
【0054】
もっとも,室温における体拡散係数が1×10-40m2/s未満の材質によって微結晶連続薄膜を形成した場合であっても,室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材質で形成された微結晶連続薄膜を介した接合を行うことで,接合界面における金属結合により基体間の十分な接合強度を得ることが可能である。
【0055】
膜厚等
形成する膜厚は特に限定されないが,それぞれの微結晶連続薄膜を,構成元素1層分の厚みで形成した場合であっても接合を行うことが可能であり,一例としてCuの微結晶連続薄膜を形成する場合,原子1層分の厚さに相当する膜厚0.2nm(2層で0.4nm)とした場合であっても接合可能であり,接合される基体間に介在する微結晶連続薄膜の厚さを,電子やスピン電流の平均自由工程以下の厚みで形成することが可能である。
【0056】
その結果,基体間に介在する微結晶連続薄膜の層が電子の移動等に対して障壁となることがなく,任意のシリコンウエハを接合する等して新たな機能性デバイスの創成等に本発明の原子拡散接合方法を使用することが可能である。
【0057】
但し,形成する微結晶連続薄膜は,微結晶構造を有する「連続」した薄膜であることが必要で,例えば成膜過程において膜に成長する前の島状構造体等は,本発明の微結晶連続薄膜からは除かれる。
【0058】
一方,膜厚が厚くなるに従って得られた微結晶連続薄膜の表面粗さが増大して接合が困難となると共に,厚みのある微結晶連続薄膜の形成には長時間を要し,生産性が低下することから,その上限は1μm程度であり,0.2nm〜1μm程度が本発明における原子拡散接合方法における各微結晶連続薄膜の好ましい膜厚の範囲である。
【0059】
粒径及び密度
形成する微結晶連続薄膜は,同微結晶金属の固体内に比べて原子の拡散速度が大きく,特に,拡散速度が極めて大きくなる粒界の占める割合が大きい微結晶構造である必要があり,結晶粒の薄膜面内方向の平均粒径は50nm以下であれば良く,好ましくは20nm以下である。
【0060】
また,微結晶連続薄膜は,微結晶連続薄膜が占める空間の体積100%に対し,空隙等の形成部分を除く,微結晶連続薄膜を構成する金属が占める体積の割合が80%以上,好ましくは80〜98%となるよう形成する。
【0061】
微結晶連続薄膜の形成面
さらに,上記微結晶連続薄膜の形成は,接合対象とする2つの基体のそれぞれに形成しても良いが,一方の基体に対してのみ前記微結晶連続薄膜を形成し,他方の基体に対しては微結晶連続薄膜を形成することなく,接合を得ることが可能である。
【0062】
この場合,微結晶連続薄膜の形成を行わない上記他方の基体の接合面は,前述したように接合面の少なくとも表面付近が微結晶構造となっている必要がある。
【0063】
なお,微結晶連続薄膜を形成する基体の平滑面には,微結晶連続薄膜の形成前に,微結晶連続薄膜とは異なる材質の薄膜より成る1層以上の下地層を形成することができ,特に,形成する微結晶連続薄膜が,基体に対する付着強度が比較的弱いAl,Cu,Ag,Pt等である場合には,付着強度を向上する上で下地層の形成は有効である。
【0064】
このような下地層は,微結晶連続薄膜の後述する成膜方法と同様の真空成膜技術によって形成することができ,その材質としては,周期律表の4A〜6A属の元素であるTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wによって形成することができ,その厚さは,一例として0.2〜20nm,後述の実施例では5nmである。
【0065】
この下地層の材質としては,その上に形成する微結晶連続薄膜の形成材料に対して融点の差が大きいものを使用することが好ましく,かつ,微結晶連続薄膜の形成材料に対して高融点のものを使用することが好ましい。このような融点差が大きく,微結晶連続薄膜に対して高融点となる材質の組み合わせの一例として,例えばTaの下地層上にCuの微結晶連続薄膜を形成する場合,形成された微結晶連続薄膜が基体より剥離することを好適に防止できるだけでなく,下地層上に形成される微結晶連続薄膜の2次元性(微結晶連続薄膜形成時の原子の濡れ性)が良くなり成膜時に微結晶連続薄膜であるCuが島状に成長することを防止でき,0.2nmといった1原子層分の厚みに相当する極めて薄い微結晶連続薄膜の形成が容易となる。
【0066】
成膜方法
成膜技術
本発明の原子拡散接合方法において,被接合材である基体の接合面に形成する微結晶連続薄膜の形成方法としては,スパッタリングやイオンプレーティング等のPVDの他,CVD,各種蒸着等,到達真空度が1×10-4〜1×10-8Paの高真空度である真空容器において真空雰囲気における真空成膜を行う各種の成膜法を挙げることができ,拡散速度が比較的遅い材質及びその合金や化合物等については,好ましくは形成された薄膜の内部応力を高めることのできるプラズマの発生下で成膜を行う真空成膜方法,例えばスパッタリングによる成膜が好ましい。
【0067】
真空度
薄膜形成の際の真空容器内の圧力は,到達真空度が1×10-4〜1×10-8Paの真空雰囲気であれば良く,より低い圧力(高真空度)である程好ましい。
【0068】
形成する薄膜が,例えば金等の酸化し難い材質である場合には,上記圧力よりも高い圧力(低真空度)で成膜した場合であっても接合できる場合もあるが,上記数値範囲であれば,例えば上記圧力の上限(低真空度)においてアルミニウム等の酸化し易い材質の薄膜を形成して接合を行う場合であっても,成膜後に直ちに接合することにより好適に接合することが可能であると共に,接合界面における酸化物の発生等を好適に防止することができる。
【0069】
不活性ガス(Arガス)圧
成膜方法がスパッタリングである場合,成膜時における不活性ガス(一般的にはArガス)の圧力は,放電可能な領域,例えば0.01Pa以上であることが好ましく,また30Pa(300μbar)を越えると接合を行うことができない場合が生じるため,上限は30Pa(300μbar)程度とすることが好ましい。これは,Arガス圧が上昇すると,形成された薄膜の表面粗さが増加すると共に,膜密度が著しく低下し,膜中の酸素等の不純物濃度が著しく増加する場合が生じるためである。
【0070】
薄膜表面の清浄さ
重合される薄膜の表面は清浄であることが好ましく,薄膜の表面が真空容器内に残留している不純物ガス等との反応によって汚染が進行するに従い,薄膜相互の付着強度は低下してゆき,やがて接合自体ができなくなる。
【0071】
また,接合ができた場合であっても,薄膜の接合面に薄膜が酸化して生じた不純物が発生する等,半導体デバイスの製造等に本発明の方法を利用する場合においてこのような不純物の発生が好ましくない場合もあり,このような点から,高真空度の真空容器の使用やプロセスガスの純化の他,成膜から貼り合わせ迄を同一真空中で行ったり,成膜後の比較的短時間のうちに重合を行ったりすること等により,微結晶連続薄膜の表面の清浄性を維持することが重要である。
【0072】
もっとも,本発明の接合方法を,例えばパッケージの封止等に使用する場合のように,接合面に酸化物等が生じても封止ができていれば良い場合には,薄膜の形成後,所定の保持時間内に行うものであれば,接合自体は可能である。
【0073】
このような接合を可能とする保持時間は,形成された薄膜の材質,真空容器内の真空度,プロセスガスの純化の度合い等によって異なり,例えば薄膜の材料が,真空容器中に残留しているH2O,O2等の不純物ガスと反応し難い材質,例えば比較的酸化し難い貴金属等である場合には,付着強度は低下するものの比較的長時間の保持時間を経た後に重合した場合であっても接合を行うことが可能である。一方,不純物ガスと反応し易い金属,例えば比較的酸化し易いTiやAl等の薄膜を形成した場合には,真空容器内の清浄度にもよるが成膜後,比較的短時間で接合ができなくなる。
【0074】
一例として,Ptの薄膜の場合には,薄膜形成後60分の保持時間を経過した後に重合した場合であっても接合が可能であるが,Tiでは,成膜後60分経過した後では接合できず,形成する薄膜の材質に応じて適当な保持時間内に接合を行う。
【0075】
接合方法例
本発明による常温接合方法を実現するための装置の一例を図1に示す。図1において,薄膜形成を行う真空容器内の上部に,スパッタを行うためのマグネトロンカソードを配置すると共に,このマグネトロンカソードの下部に,相互に貼り合わされる基体を載置する治具を配置し,この治具に取り付けた基体の接合面に対して微結晶連続薄膜を形成する。
【0076】
図示の実施形態において,前述の治具に設けられたテーブルは,図1中に破線で示す薄膜形成位置と,実線で示す貼り合わせ位置間を回動可能に構成されており,基体の一方を載置したテーブルの一端と,基体の他方を載置したテーブルの一端とが突き合わされた状態に配置されていると共に,この突き合わせ部分を中心として前記2つのテーブルが回動して,両テーブルの他端を上方に持ち上げることにより,前記テーブル上の載置された2つの基体の接合面が重合されるよう構成されている。
【0077】
なお,このように基体の貼り合わせを行う治具は,図示の構成のものに限定されず,貼り合わせを行う基体の形状等にあわせて各種形状,構造のものを使用することができ,また,真空容器内に配置した例えばロボットアーム等によって基体の一方若しくは双方を操作して接合を行うものとしても良い。
【0078】
以上のように構成された治具が配置された真空容器において,前記治具を図1中破線で示す成膜位置とした状態で,前述した条件で基体の接合面に対して微結晶連続薄膜を形成する。
【0079】
そして,基体の接合面に対して所定厚みの微結晶連続薄膜が形成されると,これに引き続き,前記治具に設けられたテーブルを,実線で示す貼り合わせ位置に回動させて,基体を数十g程度の比較的弱い力で貼り合わせる。
【0080】
これにより,両微結晶薄膜の接合界面及び結晶粒界において原子拡散を生じさせ,かつ,接合歪みを緩和させた接合を行うことができる。
【0081】
なお,上記の説明では同一材質の微結晶連続薄膜が形成された基体相互を貼り合わせる場合について説明したが,異なる材質の微結晶連続薄膜が形成された基体相互を貼り合わせる場合には,開閉可能に構成された連通路によって連通された2つの真空容器内のそれぞれに,前述のマグネトロンカソードを配置して各真空容器内で異なる材質の微結晶連続薄膜を成膜可能と成すと共に,それぞれの基体の接合面に対してそれぞれ異なる材質の微結晶連続薄膜を形成した後に,前記連通路を開くと共に,一方の基体をロボットアーム等によって他方の基体が配置された真空容器内に搬送して接合する等しても良い。
【0082】
また,接合対象とする2つの基体の一方に対してのみ前述の微結晶連続薄膜を形成し,他方の基体に対しては微結晶連続薄膜を形成することなく直接,両基体を接合することも可能である。
【0083】
接合のメカニズム
以上で説明した原子拡散による接合が如何なる原理によって達成されているのかは必ずしも明らかではないが,微結晶連続薄膜を使用した本発明の方法による接合では,以下に説明するように原子の拡散速度や拡散長が増大することにより,原子拡散による強固な接合が実現されているものと考えられる。
【0084】
拡散速度,拡散長の増大
原子の拡散係数に関する一般式は,次式,
D=D0exp(−Q/RT)
D:拡散係数
D0:振動数項(エントロピー項)
Q:活性化エネルギー
R:気体定数
T:絶対温度
で表すことができる。
【0085】
接合界面や結晶粒界における原子拡散は,固体中の原子拡散(体拡散)に比較して高速であり,上記の式におけるQ値が1/2〜2/3に低下する。
【0086】
そのため,接合界面や結晶粒界における拡散係数は,固体中の拡散係数に比較して10〜20桁も下がり,拡散を生じやすい状態にある。
【0087】
しかも,本発明の接合方法では,接合に微結晶連続薄膜を使用することで,この薄膜中にはたくさんの結晶粒界が存在する。
【0088】
ここで,結晶粒子を近似的に球形と考えてその半径をrとすると,その体積V,表面積Sは,
V ∝ r3
S ∝ r2
となり,結晶粒の体積と表面積の比S/Vは,1/rに比例する。
【0089】
以上より,例えば単結晶の2インチウエハを,結晶粒の半径rが10nmの微結晶構造に変更したとすると,S/Vは,2×107倍(7桁)も増加する。
【0090】
そのため,接合に際して微結晶連続薄膜を使用する場合には,非常に大きな原子拡散係数を得ることができると共に,原子拡散の発生する範囲(結晶粒の体積に対する表面積比)が飛躍的に増大する。従って,接合界面や結集粒界における原子拡散を容易に生じさせることができるものと考えられる。
【0091】
なお,図2は,微結晶連続薄膜としてPtの薄膜を形成して接合したSi基板の断面TEM像である。この図2において,微結晶連続薄膜の接合界面であった位置に対し,この接合界面が結晶粒界に向かってシフトしてジグザグ形状の結晶粒界が創成されており,この図2を見ても,結晶粒界において原子の拡散が生じていることが明らかである。
【実施例】
【0092】
次に,本発明の接合方法の実施例を以下に説明する。
【0093】
接合例
接合方法
物理実験用の超高真空(UHV:Ultra High Vacume)5極カソード−マグネトロンスパッタ装置(到達真空度2×10-6Pa)により,直径約1インチ(2.7cm),あるいは,直径2インチ(約5.08cm)の2枚のSi基板上にそれぞれ微結晶連続薄膜を形成して接合試験を行った。なお,スパッタリングには,真空室へのガス導入部(ユースポイント)における不純物濃度が2〜3ppb(2〜3×10-9)以下である超高純度アルゴンガスを使用した。
【0094】
Si基板の表面粗さは,Raで0.16nm,Rmaxで1.6nmであり,Si基板の表面にはSiの自然酸化膜が形成されていたが,これを除去することなく使用した。
【0095】
前記基板に対し,微結晶連続薄膜としてAg,Al,Cu,Ptの薄膜を形成した例にあっては,微結晶連続薄膜の形成前に2枚のSi基板のそれぞれの片面にスパッタリングにより約5nmのTa薄膜を下地層として形成した。
【0096】
また,微結晶連続薄膜としてCr,Ti,Taの薄膜を形成した例にあっては,前述のような下地層を形成することなく直接Si基板上に微結晶連続薄膜を形成した。
【0097】
このようにして微結晶連続薄膜が形成された2枚のSi基板は,両基板上に形成された微結晶連続薄膜が重なり合うように両基板を加熱することなしに数十g程度の弱い力で重ね合わせて接合させた。
【0098】
試験結果
Agの微結晶連続薄膜を形成した例
図3に,Ag薄膜同士の重ね合わせによって貼り合わせたSi基板の断面を示す。
【0099】
図3(A)より明らかなように,Ag薄膜間の接合界面が消失して,Ta薄膜間に結晶方位を反映した金属組織が形成されている。また,図3(B)の暗視野像より明らかなように接合後における結晶粒は,2つのTa薄膜間に達する単一の粒子を形成していることから,前記方法による接合によってAg薄膜のAg原子の拡散により,膜厚方向の全域に亘り両Ag薄膜間に原子の再配列を伴う金属結合が生じていることが確認できた。
【0100】
Alの微結晶連続薄膜を形成した例
図4に,Al薄膜同士の重ね合わせによって貼り合わせたSi基板の断面を示す。
【0101】
図4(A)より明らかなように,Al薄膜間の接合界面はほぼ消失していることが確認された。
【0102】
また,図4(B)の暗視野像より,接合後におけるAl膜中には,2つのTa薄膜間に達する単一の結晶粒子が多数存在していることから,前記方法による接合によって,Al薄膜のAl原子が拡散を生じて両Al薄膜間に原子の再配列を伴う金属結合が生じていることが確認できた。
【0103】
なお,同様の方法によりそれぞれの厚さが5nmのAl微結晶連続薄膜を形成して接合したが,この場合においても2枚のSi基板を強固に接合できることが確認された。さらに,同様の方法によりそれぞれの厚さが20nmのAl微結晶連続薄膜の形成によって,Rmax=7.6 nmの表面粗さを有する石英基板の表面粗さを克服して両者を接合することが確認された。
【0104】
Cuの微結晶連続薄膜を形成した例
図5に,Cu薄膜同士の重ね合わせによって貼り合わせたSi基板の断面を示す。
【0105】
図5(A)より明らかなように,Cu薄膜間の接合界面は明確性を失い,接合界面の一部が消失していることが確認された。
【0106】
また,接合面が結晶粒子毎に大きくシフトし,更に,図5(B)に示す暗視野像から一方のTa薄膜から他方のTa薄膜近くに迄達する結晶粒の存在も確認されていることから,Cu原子の拡散が,Cu薄膜の厚みである20nm近くに達していることが確認された。
【0107】
なお,図5(C)に示す高分解能での観察では,一方のTa薄膜から他方のTa薄膜に至り,Cu層の格子像が連続的に繋がっていることが確認でき,このことから,一見接合界面が消失せずに残っているように見える部分においても,界面における格子の連続性,すなわち金属間結合が生じていることは明らかである。
【0108】
更に,前述したTaの下地層の形成を省略し,同様のSi基板上に直接Cu薄膜を形成して接合を行うと共に,Cu薄膜の膜厚をCuの原子1つ分の厚みに相当する0.2nmで形成したものを相互に重ね合わせることにより接合を行ったところ,この膜厚によっても接合を行うことができることが確認された。
【0109】
従って,本発明の原子拡散接接合方法にあっては,基体のそれぞれに形成する微結晶連続薄膜の膜厚を,これを形成する材料の原子1層分の厚み(重ね合わせ後は原子2層分)として形成するのみで接合することが確認できた。
【0110】
Ptの微結晶連続薄膜を形成した例
図6に,Pt薄膜同士の重ね合わせによって接合されたSi基板の断面を示す。
【0111】
図6より明らかなようにPt薄膜によって接合を行う場合,Pt薄膜とPt薄膜間の接合界面は完全には消失していないものの,両者間において強固な接合が行われていることが確認できた。
【0112】
なお,図2及び図6において,界面のジグザグの度合いが異なるのは,真空装置及び接合条件が異なるためである。
【0113】
Crの微結晶連続薄膜を形成した例
図7に,Cr薄膜同士の重ね合わせによって接合されたSi基板の断面を示す。
【0114】
図7に示すように,両薄膜の接合界面付近には,白っぽい帯状の線が現れており,この部分においてCr薄膜の接合界面がアモルファスに変化して接合が生じていることが確認された。
【0115】
このことから,Crの微結晶連続薄膜による接合では,アモルファスに変化した部分において原子拡散による変質が生じており,他の金属により形成した微結晶連続薄膜を使用した接合に比較して,原子拡散長が短いものであることが確認された。
【0116】
もっとも,Crの微結晶連続薄膜の形成によってSi基板の接合を行った本例においてもSi基板の強固な接合を行うことができることが確認された。
【0117】
Tiの微結晶連続薄膜を形成した例
図8に,Ti薄膜同士の重ね合わせによって接合されたSi基板の断面を示す。
【0118】
図8に示すように,両薄膜の接合界面はほぼ消失していることが確認でき,原子拡散に伴う再結晶化が生じていることが確認できた。
【0119】
また,同様の方法により厚さ0.2nmのTi微結晶連続薄膜をそれぞれ成膜することにより接合した場合であっても,Rmaxで40nmという表面粗さを有するSi基板の接合を行うことができた。
【0120】
Taの微結晶連続薄膜を形成した例
図9に,Ta薄膜同士の重ね合わせによって接合されたSi基板の断面を示す。
【0121】
図9において,両薄膜の接合界面に現れている白い線は,接合界面に形成されたアモルファスであり,Taの微結晶連続薄膜による接合では,アモルファスに変化した接合界面付近において原子拡散が生じており,原子拡散長が比較的短いものであることが確認された。
【0122】
もっとも,この例においても2枚のSi基板を強固に接合できることが確認できた。
【0123】
その他
なお,Au,Co,Ni,Ruの薄膜を形成して同様の接合試験を行った結果,いずれの微結晶連続薄膜の形成によってもSi基板を強固に接合できることが確認された。
【0124】
また,接合後の状態を確認したところ,Au薄膜同士の接合では接合界面が略完全に消失していたが,Ni,Co,Ruでは,接合界面は消失せずに残っていた。
【0125】
原子拡散長の測定
接合時に生じる原子拡散がどの程度の長さで生じるかを確認すべく,形成する微結晶連続薄膜の膜厚を増大すると共に,接合時の再結晶によって創成された結晶粒のサイズを測定した。
【0126】
測定は,Alの微結晶連続薄膜を形成することにより行い,形成したAl薄膜の膜厚を50nmとした点を除き,前述した接合試験と同様の方法によって2枚のSi基板の接合を行った。
【0127】
このようにして接合した後のSi基板の断面を図10に示す。
【0128】
図10(A)〜 図10(C)に示すように,多くの結晶粒が接合後のAl薄膜の全厚みである100nmの範囲で1つの結晶粒を形成していることが確認でき,このことから,Alの微結晶連続薄膜を形成して接合を行った例では,室温において,原子拡散にともなう原子の再配列が少なくとも50nm以上に及ぶことが確認できた。
【0129】
原子の拡散係数と接合界面状態の対応関係の確認
前述した接合試験の結果から,いずれの材質の微結晶連続薄膜を形成した場合であっても2枚の基体の接合を好適に行うことができたものの,微結晶連続薄膜を形成する材質の相違により,接合後の微結晶連続薄膜の状態には明らかな差が生じることが確認された。
【0130】
そこで,実験を行った元素中,面心立方格子(fcc)構造を取るものについて図11に示すように,縦軸を室温における体拡散係数,横軸を融点とした表内に,各元素をそれぞれプロットしたところ,接合界面の一部が消失していたCuの体拡散係数である1×10-40m2/sを境に,これよりも拡散係数の大きなものについては接合界面の消失が生じており,また,2つの基体間の厚さ方向の全域に亘る結晶粒が形成されていることが確認できた。
【0131】
なお,計算に用いた,D0(振動数項,エントロピー項)及びQ(活性化エネルギー)は,いずれも「金属データブック(改訂3版)」〔(社)日本金属学会編、丸善(株)発行、(1993)P21〜P25〕から引用した数値を用いており,温度は27℃(300K)としている。
【0132】
特にAlにあっては,各微結晶連続薄膜の厚さを50nmとした接合においても膜厚方向に100nmに亘る結晶粒が形成されていることから,室温において,原子拡散にともなう原子の再配列が少なくとも50nm以上に及ぶことが確認されている。
【0133】
一方,Cuの体拡散係数である1×10-40m2/sよりも拡散係数が小さい元素によって形成した微結晶連続薄膜を使用した接合では,接合界面が残存しており,また,両基体間の全域に亘るような結晶粒の生成も確認されていない。
【0134】
同様に,fcc構造以外のものについても,図12に示すように表中にプロットしていくと,接合界面の消失が認められたTiについては,体拡散係数が1×10-40m2/sを越えており,また,接合界面の残存が確認されると共に,接合界面付近の限定された範囲においてアモルファスの形成が確認されたCr,Taについては,体拡散係数が1×10-40m2/sよりも低いことが判る。
【0135】
以上の結果から,原子の拡散係数が低くなると,原子の拡散長が短くなり,拡散が接合界面付近に限定されて接合界面が消失しないことが判る。
【0136】
なお,図12において,「hcp/bcc」とあるのは,室温近傍ではhcp構造が安定であり,高温になるとbcc構造が安定となるグループを意味する。
【0137】
このように,原子の拡散長が短くなると,仮に形成する微結晶連続薄膜の膜厚を厚くしても,そのうちの一部においてしか原子拡散が生じないことから,接合対象となる基体の表面粗さが原子の拡散長を大幅に越える場合には,基体間の接合ができなくなる。
【0138】
一方,このことは逆に,原子の拡散長を長くすることができれば,基体の表面粗さを克服して,表面の比較的粗い基体同士であっても接合できることとなる。
【0139】
ここで,前述した原子の拡散係数に関する一般式
D=D0exp(−Q/RT)
より,温度Tを上昇させること,拡散係数Dは指数関数的に増加することが判る。
【0140】
そこで,本発明の原子拡散接合方法,特に,体拡散係数が小さい元素によって微結晶連続薄膜を形成して接合を行う場合には,重ね合わせ時における基体温度を上昇させて拡散係数を上昇することが有利であることに着目した。
【0141】
図13に,温度上昇に伴う各元素の拡散係数の変化を示す。同図に示すように,拡散係数が比較的低いTaであっても,400℃以下の加熱によってその拡散係数を,Cuの拡散係数である1×10-40m2/s以上に迄上昇させることができ,これにより接合界面の消失が得られる程の原子拡散を行うことができることが判る。
【0142】
このように,基体の加熱は拡散係数の上昇,従って,原子の拡散長の上昇による表面粗さの克服に有利であると共に,このような1×10-40m2/s以上への拡散係数の上昇を,例えば電子デバイス等に使用する基体であってもダメージを与えることがない400℃以下の温度範囲において行うことが可能であることが確認された。
【0143】
よって,重ね合わせ時における基体を,400℃以下の範囲で加熱すること,特に,微結晶連続薄膜を構成する元素の体拡散係数が1×10-40m2/s未満である場合に,体拡散係数が1×10-40m2/sを越えるように400℃以下の範囲で加熱することの有利性は明らかである。
【0144】
接合強度の検証
試験方法
リム状物を備えた特殊な基板(Si基板)を使用して付着強度を算出した。
【0145】
図14にリム構造物を備えた基体の模式図を示す。このリム構造物として,425nm(厚さ)×200μm(幅)のSiO2リムを一方の基体の表面に配置し,接合後,付着していない隙間の長さLを測定した。
【0146】
接合に際して形成した微結晶連続薄膜は,両基体共に厚さ10nmのPt膜である。また,基板からPt膜が剥離しないように,厚さ5nmのTi膜を下地層としてPt膜とSi基板との間に挿入した。
【0147】
付着していない隙間の長さを測定するために,赤外線ビームを使用し,この赤外線ビームによって得られた像により,非破壊的にLの長さを測定した。
【0148】
試験結果
上記方法により測定した,付着していない隙間の長さLは,0.45mmであった。
【0149】
この長さLと,基体の弾性歪みに基づき求められる接合部の表面エネルギーは,約5J/m2であり,この値は,室温における固体Ptで予測される表面エネルギーの大きさと同オーダーである。従って,2つの基体に形成されたPt薄膜が,相互に金属間結合を生じて接合されていることが明らかであると共に,極めて強固な接合を生じていることが確認できた。
【0150】
成膜後の経過時間と接合性の変化の確認
2つの基体の接合面にそれぞれ厚さ20nmのPt薄膜を形成後,実験に用いた清浄な真空中に3分間放置してから接合した(このときArガスの導入は停止)。真空容器の到達真空度は1×10-6Pa以下(1×10-6Paよりも高真空度)であり,Arガス中の不純物濃度は2ppb以下である。
【0151】
上記環境下で,Pt膜の成膜中に接合した基体の断面顕微鏡写真(TEM)を図15(A)に,成膜後,上記空間内に3分間放置した後に接合した基体の断面顕微鏡写真(TEM)を図15(B)にそれぞれ示す。
【0152】
図15(A),図15(B)より明らかなように,成膜中に接合した場合と,3分の経過後に接合した場合のいずれの接合界面にも明確な差は認められず,懸念された接合界面における酸化変質層の発生等も確認することはできなかった。
【0153】
このことから,清浄な真空中における成膜及び接合,成膜と接合を同一真空中で行うことが,良好な接合を行う上で効果的であることが確認できたと共に,清浄な真空中での成膜,接合であれば,成膜から接合迄に3分程度の時間が経過した場合であっても,接合界面の状態に変化が生じないことも確認できた。
【0154】
なお,図16(A),(B)は,上記Pt膜の形成に変えて,厚さ20nmのTa膜を形成することにより2つの基体を接合した例であり,図16(A)は成膜中に接合したものの断面顕微鏡写真(TEM),図16(B)は成膜後3分の経過後に接合を行ったものの断面顕微鏡写真である。
【0155】
図16(A),(B)より明らかなように,拡散係数が小さなTa膜による接合の場合にも,Pt膜による接合の場合と同様,成膜後の経過時間による接合界面の相違は見られず,清浄な真空中における成膜及び接合,成膜と接合とを同一真空中で行うことが,良好な接合を行う上で効果的であることが確認できたと共に,清浄な真空中での成膜,接合であれば,成膜から接合まで3分程度の経過時間によっては,接合界面の状態に変化が生じないことも確認できた。
【0156】
微結晶連続薄膜と基体間の付着強度向上
Al,Cu,Ag,Ptの微結晶連続薄膜は,基体に対する付着強度が低く,そのため微結晶連続薄膜間の強固な接合を得ても,基体との界面において剥離するという問題が生じる。
【0157】
そこで,このような基体に対する低付着強度の改善に,微結晶連続薄膜とは異なる材質の薄膜から成る下地層を形成することの有効性,及び基体表面のガス吸着層や自然酸化層等の変質層の除去が有効であることの確認を行った。
【0158】
下地層の形成
2枚のSi製の基体のそれぞれに,厚さ5nmのTaの下地層を形成し,このTa下地層上に厚さ20nmのAlの微結晶連続薄膜を形成した後接合し,両基体の剥離試験を行った。
【0159】
試験の結果,微結晶連続薄膜同士の接合界面,下地層と微結晶連続薄膜との界面,及び,基体と下地層との界面のいずれにおいても剥離せず,剥離が生じる前に基体が破壊した。
【0160】
また,厚さ20nmのAlの微結晶連続薄膜を用いて同様な実験を行った場合も,剥離が生じる前に基体が破壊した。
【0161】
以上の結果から,基体の破壊強度以上の付着強度が得られており,Taの下地層の形成が,基体と微結晶連続薄膜との付着強度を増大させる上で有効であることが確認された。
【0162】
また,前述のTaの他,Ti,Crの下地層を形成することによっても同様の結果が得られた。
【0163】
以上の点から,Ti,Ta,Crの下地層の形成が,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を増大させる上で有効であることが確認された。
【0164】
また,周期律表において,Tiと同じ4A属に属するZr及びHf,Taと同じ5A属に属するV及びNb,Crと同じ6A属に属するMo及びWについても,同様にこれらの元素によって下地層を形成することで,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を向上できるものと予測される。
【0165】
ガス吸着層及び自然酸化物の除去
薬液による洗浄により自然酸化層の除去を行った後,水素終端化処理を行って酸化を抑制した2枚のSi基体に対し,それぞれ厚さ20nmのAl微結晶連続薄膜を形成して接合した試料(試料1)と,微結晶連続薄膜の形成と同一真空中で接合面に対して逆スパッタリングを行うことにより自然酸化層を除去した2枚のSi基板のそれぞれに対し,厚さ20nmのAl微結晶連続薄膜を形成して接合を行った試料(試料2)を準備し,両試料共に基体の剥離試験を行った。
【0166】
剥離試験の結果,試料1,2の両試料共に基体と微結晶連続薄膜との界面における剥離は確認できず,剥離が生じる前に基体が破壊した。
【0167】
よって,薬液による洗浄によるウェット法,逆スパッタ等のドライ法の別に拘わらず,微結晶連続薄膜の形成前に基体表面のガス吸着層や自然酸化層等の変質層を除去することが,基体に対する微結晶連続薄膜の付着強度を向上する上で有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0168】
以上で説明した本発明の接合方法は,無加熱又は比較的低い温度での加熱,無加圧で原子レベルでの接合を行うことができること,接合後の界面応力が小さいこと等から,各種新機能・高機能デバイスの創製,情報家電の小型化,高集積化等の用途において利用することができ,これらの用途における例を示せば下記の通りである。
【0169】
新機能・高性能デバイスの創製
ウエハレベルで積層化,集積化した新機能デバイスの創製への利用
集積回路と短波長光デバイスの集積化(例えば,Siデバイス/GaN,フォトニクス結晶,LED),新機能光−電子変換デバイス創製の際の接合。
スピン−電子ハイブリッドデバイスの製造。本発明の方法によって接合することで,電子やスピン電流の平均自由工程以下でウエハ間を接合することが可能である。
【0170】
異種材料ウエハ間の接合
超ハイブリッド基板・部材の形成等を目的として,半導体ウエハをナノ結晶膜を挟んで積層化した電位障壁ハイブリッド・ウエハの製造や,ガラスをナノ結晶膜を挟んで積層した特殊光学ウエハ(光フィルタリング)の製造に際し,本発明の方法を使用することができる。
【0171】
発光ダイオードの高輝度化
本発明の方法により,発光ダイオードに鏡面のレイヤーを接合し,輝度を上げる。
【0172】
水晶振動子の積層化
本発明の方法により,水晶に例えば金の薄膜を形成して水晶同士を接着することで,比較的接着が困難な水晶同士の接合を行う。
【0173】
情報家電の小型化・高集積化
SiP技術のための三次元スタック化,パッケージ基板高機能化(三次元実装);本接合方法によりSiデバイスとSiデバイスの積層や基板を立体的に貼り合わせることにより高集積化を図る。
【0174】
MEMS製造技術
三次元配線を兼ねた微細素子の真空封止,Siデバイスとの積層に本接合方法を利用する。この用途での利用の場合,接合面に界面があっても良く,内部の真空や接合状態を保持できれば良い。
【0175】
高性能化,超低消費電力のための効率的な熱伝導(冷却)の実現
熱放散係数の大きな材料,例えば銅,ダイヤモンド,DLC等で作製したヒートシンク,ヒートスプレッダを本発明の方法により半導体デバイス等に直接ボンディングして,放熱性能,熱拡散性能等を向上させる。
【0176】
その他
なお,以上で説明した用途では,いずれも本発明の接合方法を電気,電子部品等の分野において使用する例を説明したが,本発明の方法は,上記で例示した利用分野に限定されず,接合を必要とする各種分野,各種用途において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】本発明の原子拡散接合方法を実施するための装置の概略説明図。
【図2】Ptの微結晶連続薄膜の形成により接合したSi基板の断面顕微鏡写真。
【図3】Ag薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり,(A)は明視野像,(B)は暗視野像。
【図4】Al薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり,(A)は明視野像,(B)は暗視野像。
【図5】Cu薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり,(A)は明視野像,(B)は暗視野像,(C)は高分解像。
【図6】Pt薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真。
【図7】Cr薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真。
【図8】Ti薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真。
【図9】Ta薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真。
【図10】Al薄膜(50nm×50nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり,(A)は明視野像,(B)は別方向からの明視野像,(C)は(B)の暗視野像。
【図11】体拡散係数−融点相関図(fcc系のみ)。
【図12】体拡散係数−融点相関図(全種類)。
【図13】温度に対する体拡散係数の変化を示すグラフ。
【図14】接合強度の検証方法の説明図。
【図15】Pt薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり(A)はPt薄膜の成膜中に接合したもの,(B)は成膜後3分経過後に接合したもの。
【図16】Ta薄膜(20nm×20nm)によって接合されたSi基板の断面顕微鏡写真であり(A)はTa薄膜の成膜中に接合したもの,(B)は成膜後3分経過後に接合したもの。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内において,平滑面を有する2つの基体それぞれの前記平滑面に,室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成すると共に,前記2つの基体に形成された前記微結晶連続薄膜同士が接触するように前記2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜の接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせて前記2つの基体を接合することを特徴とする原子拡散接合方法。
【請求項2】
真空容器内において,一方の基体の平滑面に室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成すると共に,少なくとも表面が微結晶構造を有する平滑面を備えた他方の基体の平滑面に前記一方の基体に形成された前記微結晶連続薄膜が接触するように前記一方,他方の2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜と前記他方の基体の前記平滑面との接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせることにより前記2つの基体を接合することを特徴とする原子拡散接合方法。
【請求項3】
上記基体を重ね合わせる際の前記基体温度を室温以上400℃以下の範囲で加熱して拡散係数を上昇させることを特徴とする請求項1又は2記載の原子拡散接合方法。
【請求項4】
前記基体の加熱を,前記微結晶連続薄膜の形成材料の室温における体拡散係数が1×10-40m2/s以下の場合に行うことを特徴とする請求項3記載の原子拡散接合方法。
【請求項5】
前記基体の重ね合わせを,前記基体を加熱することなく行うことを特徴とする請求項1又は2記載の原子拡散接合方法。
【請求項6】
到達真空圧力が1×10-4Pa〜1×10-8Paの真空容器内で前記微結晶連続薄膜の形成及び/又は前記基体の重ね合わせを行うことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項7】
前記微結晶連続薄膜の形成と,前記基体の重ね合わせを同一真空中で行うことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項8】
前記微結晶連続薄膜を,Al,Si,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,Pt,Auの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成したことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項9】
前記微結晶連続薄膜を形成する前に,前記微結晶連続薄膜の形成と同一真空中において,前記微結晶連続薄膜の形成を行う基体の平滑面に生じている変質層を除去することを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項10】
前記微結晶連続薄膜が形成される前記基体の平滑面に,前記微結晶連続薄膜とは異なる材料の薄膜から成る下地層を1層以上形成し,当該下地層上に前記微結晶連続薄膜を形成することを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項11】
前記下地層を,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成したことを特徴とする請求項10記載の原子拡散接合方法。
【請求項12】
前記下地層を形成する前記単金属又は合金として,当該下地層上に形成される微結晶連続薄膜を形成する単金属又は合金よりも高融点で,且つ,前記微結晶連続薄膜を形成する単金属又は合金に対して融点の差が大きいものを使用することを特徴とする請求項11記載の原子拡散接合方法。
【請求項13】
前記微結晶連続薄膜の膜厚を0.2nm〜1μmとしたことを特徴とする請求項1〜12いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項14】
請求項1〜13いずれか1項記載の方法により接合された構造体。
【請求項1】
真空容器内において,平滑面を有する2つの基体それぞれの前記平滑面に,室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成すると共に,前記2つの基体に形成された前記微結晶連続薄膜同士が接触するように前記2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜の接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせて前記2つの基体を接合することを特徴とする原子拡散接合方法。
【請求項2】
真空容器内において,一方の基体の平滑面に室温における体拡散係数が1×10-80m2/s以上の材料から成り,かつ,密度が80%以上である高密度の微結晶連続薄膜を形成すると共に,少なくとも表面が微結晶構造を有する平滑面を備えた他方の基体の平滑面に前記一方の基体に形成された前記微結晶連続薄膜が接触するように前記一方,他方の2つの基体を重ね合わせることにより,前記微結晶連続薄膜と前記他方の基体の前記平滑面との接合界面及び結晶粒界に原子拡散を生じさせることにより前記2つの基体を接合することを特徴とする原子拡散接合方法。
【請求項3】
上記基体を重ね合わせる際の前記基体温度を室温以上400℃以下の範囲で加熱して拡散係数を上昇させることを特徴とする請求項1又は2記載の原子拡散接合方法。
【請求項4】
前記基体の加熱を,前記微結晶連続薄膜の形成材料の室温における体拡散係数が1×10-40m2/s以下の場合に行うことを特徴とする請求項3記載の原子拡散接合方法。
【請求項5】
前記基体の重ね合わせを,前記基体を加熱することなく行うことを特徴とする請求項1又は2記載の原子拡散接合方法。
【請求項6】
到達真空圧力が1×10-4Pa〜1×10-8Paの真空容器内で前記微結晶連続薄膜の形成及び/又は前記基体の重ね合わせを行うことを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項7】
前記微結晶連続薄膜の形成と,前記基体の重ね合わせを同一真空中で行うことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項8】
前記微結晶連続薄膜を,Al,Si,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Hf,Ta,Pt,Auの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成したことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項9】
前記微結晶連続薄膜を形成する前に,前記微結晶連続薄膜の形成と同一真空中において,前記微結晶連続薄膜の形成を行う基体の平滑面に生じている変質層を除去することを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項10】
前記微結晶連続薄膜が形成される前記基体の平滑面に,前記微結晶連続薄膜とは異なる材料の薄膜から成る下地層を1層以上形成し,当該下地層上に前記微結晶連続薄膜を形成することを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項11】
前記下地層を,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wの元素群より選択されたいずれか1つの単金属により形成し,又は前記元素群より選択された1つ以上の元素を含む合金により形成したことを特徴とする請求項10記載の原子拡散接合方法。
【請求項12】
前記下地層を形成する前記単金属又は合金として,当該下地層上に形成される微結晶連続薄膜を形成する単金属又は合金よりも高融点で,且つ,前記微結晶連続薄膜を形成する単金属又は合金に対して融点の差が大きいものを使用することを特徴とする請求項11記載の原子拡散接合方法。
【請求項13】
前記微結晶連続薄膜の膜厚を0.2nm〜1μmとしたことを特徴とする請求項1〜12いずれか1項記載の原子拡散接合方法。
【請求項14】
請求項1〜13いずれか1項記載の方法により接合された構造体。
【図1】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−46696(P2010−46696A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214240(P2008−214240)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(593076769)株式会社ムサシノエンジニアリング (9)
【出願人】(507063942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(593076769)株式会社ムサシノエンジニアリング (9)
【出願人】(507063942)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]