説明

反射体及びLED搭載用基板

【課題】耐熱性が高く、可視光領域(特に波長470nm)において反射率が高く、及び高温熱負荷環境下、UV環境下における反射率の低下が少ない、LED実装用反射体として利用可能である反射体等を提供すること。
【解決手段】結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物100質量部に対し、無機充填材5〜100質量部を含有する組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、かつ高い反射率特性を備えた反射体及び該反射体を用いてなるLED搭載用基板に関し、より詳細には、高温熱負荷環境下、紫外線(UV)照射下においても、反射率低下が抑制され、発光ダイオード(Light Emitting diode、LED)等を実装可能とする反射体等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来ポリアミド系樹脂を金属リードフレームと一体成形してなる反射体にLEDを実装し、樹脂封止されたチップタイプLEDは小型化、薄型化に有利なことから、携帯電話のテンキー照明や、小型液晶ディスプレーのバックライトなど電子機器に幅広く使用されてきた。
【0003】
近年、LEDの高輝度化技術の向上が著しく、LEDはより高輝度化しているが、それに伴いLED素子自体の発熱量も増大し、反射体周辺にかかる熱負荷も増大しており、LED素子周辺温度は100℃超になる場合もあるのが現状である。また、LED搭載基板の製造工程において、封止樹脂の熱硬化処理や、鉛(Pb)フリー半田の採用が進み、リフロー工程においても、260〜300℃程度の温度がかかる場合があり、高温の熱環境下にさらされる。そういった熱負荷の環境下では、従来使用されてきたポリアミド系樹脂からなる反射体では、黄変するなど白色度が低下し、反射効率が劣る傾向が見られ、今後の次世代高輝度LED搭載向け反射体としては、依然改良の余地があった。また、光照射下、特に紫外線照射下で黄変するなど白色度が低下し、反射率が劣る傾向が見られ、依然改良の余地があった。それに対し、セラミックを使用した反射体については、耐熱性の点では優れているものの、硬く脆い性質から薄型化には限界があり、実装プロセス工程時に端部が割れたり、欠けたりといった問題があるほか、製造コストが高いのが現状である。今後の一般照明用途や、ディスプレー用途向けの反射体として、高温熱負荷下、UV照射下で、変色しない、反射率の低下しない、耐熱性を有する熱可塑樹脂系の反射体の開発が求められていた。
また、現在主流である白色LEDは、青色LED(波長470nm)と黄色蛍光体等から構成されており、波長470nmの反射率が高いことが求められていた。
【0004】
これらの問題に対し、特許文献1には、熱可塑性樹脂100重量部、特定の珪素化合物0.001〜10重量部、及び平均粒径0.05〜1.0μmで、アルミナ水和物、ケイ酸水和物から選ばれた少なくとも1種の化合物で表面処理された結晶形態がルチル形の酸化チタン0.05〜25重量部からなる熱可塑性樹脂組成物について記載され、該熱可塑性樹脂組成物からなる成形品(具体的には、前記熱可塑性樹脂組成物を射出成形させた100×100×2mmの角板)は、90%程度と高い反射率で、かつ分散性、表面外観、機械的強度に優れ、幅広い産業分野で好適に使用できる旨の記載がある。
【0005】
また特許文献2には、面倒な工程を必要とせず、かつ高い反射率を有する、照明や表示装置等に使用される反射体として、結晶性樹脂に、平均粒径0.05μm〜5μmの白色顔料、及び平均粒径が0.5μm〜10mmの無機フィラーを含む樹脂組成物からなる表面粗さが0.5〜50μmである反射体が記載されており、例えば、ポリアリールケトン、酸化チタン、及びガラス繊維を含有させた樹脂組成物を射出成形させた3cm角1mmの角板が開示されている。
【0006】
また特許文献3には、特定のポリアミド樹脂100質量部に対して、酸化チタンを5〜100質量部、水酸化マグネシウムを0.5〜30質量部、及び繊維状充填材や針状充填材等の強化剤を20〜100質量部含有するLEDリフレクター成形用ポリアミド樹脂組成物について記載されており、具体的には、前記ポリアミド樹脂組成物を射出成形させた厚さ1mm、幅40mm、長さ100mmの板が開示されている。前記樹脂組成物からなるリフレクターは、熱負荷下(170℃で2時間)でも、波長470nmの反射率が低下せずに、高い白色度が維持される。
【0007】
さらに、特許文献4には、シンジオタクチックポリスチレンと白色顔料を含む反射体用樹脂組成物を用いた反射体について記載されており、具体的には、前記シンジオタクチックポリスチレン樹脂組成物を射出成形させた厚さ3mm、5cm角の板が開示されている。前記樹脂組成物からなる反射体は、熱負荷下(160℃で3時間)でも、波長450nmの反射率が低下せずに、高い白色度が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3470730号
【特許文献2】特開2007−218980号公報
【特許文献3】特開2006−257314号公報
【特許文献4】特開2007−2096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1〜4には、熱可塑性樹脂組成物に酸化チタン等を添加して、反射率を高めた成型品について開示されているものの、いずれも熱負荷下での反射率の低下は抑えられているが、今後LEDが高輝度下していき、LED周辺温度が上がり、また、封止樹脂の硬化工程やPbフリーの半田リフロー工程を考慮すると、より高温環境下での耐熱性が充分とはいえず、長期間での反射率の維持が求められている。また、特許文献2には結晶性樹脂であるポリアリールケトン樹脂を用いた成形品が開示されているものの、非晶性熱可塑性樹脂との配合、その効果については開示されていない。
【0010】
そこで、本発明の課題は、耐熱性が高く、可視光領域(特に波長470nm)において反射率が高く、及び高温熱負荷環境下、UV環境下における反射率の低下が少ない、LED実装用として利用可能である反射体及びこれを用いてなるLED搭載用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物100質量部に対し、無機充填材5〜100質量部を含有する組成物を用いることによって、高い反射率(特に波長470nmにおける反射率)を有し、耐熱性が高く、高温熱負荷環境下、UV環境下でも反射率の低下が少ない反射体を得られ、特にLED実装用反射体として好適に利用可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、第1の本発明は、結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物100質量部に対し、無機充填材を5〜100質量部含有する組成物からなる射出成型されたキャビティー枠を有するリフレクター部を備えてなり、波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上であって、かつ200℃で4時間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率が10%以下であることを特徴とする反射体である。
【0013】
また第2の本発明は、金属リードフレーム部が、結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物100質量部に対し、無機充填材を5〜100質量部含有する組成物により、インサート成型されたキャビティー枠を有するリフレクター部を備えてなり、該リフレクター部の波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上であって、かつ200℃で4時間熱処理した後の波長470nmにおける該リフレクター部の反射率の低下率が10%以下であることを特徴とする反射体である。
【0014】
第1及び第2の本発明において、前記樹脂組成物は、前記結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)80〜20質量%と、前記非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)20〜80質量%からなることが好ましい。
【0015】
また第1及び第2の本発明において、無機充填材は、平均アスペクト比5以上の充填材を少なくとも含有することが好ましく、また無機充填材は、少なくとも酸化チタンを含有することが好ましい。
【0016】
さらに第1及び第2の本発明において、260℃で5分間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率は、10%以下であることが好ましい。
【0017】
第3の本発明は、第1及び第2の本発明である反射体を用いてなるLED搭載用基板である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、可視光領域(特に波長470nm)において反射率が高く、耐熱性が高く、かつ高温熱負荷環境下、UV照射下における反射率の低下が少ない、反射体等を提供することができ、これらはその特性から、LED実装用反射体として好適に使用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明のLED搭載用基板及びこれの製造方法の一実施形態を示す図である。
【図2】図2は、本発明のLED搭載用基板及びこれの製造方法の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明の範囲がこの実施形態に限定されるものではない。
【0021】
<第1の反射体>
第1の本発明である反射体としては、結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物100質量部に対し、無機充填材を5〜100質量部含有する組成物からなる射出成型されたキャビティー枠を有するリフレクター部を備えてなり、波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上であって、かつ200℃で4時間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率が10%以下のものであれば、特に制限されず、前記の組成物を用いることによって、波長470nmにおける反射率が高く、かつ高温熱負荷環境下における反射率の低下が極めて少ないという、優れた効果を奏することができる。
【0022】
上記のとおり、第1の本発明である反射体は、波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上であることを必要とするが、これは可視光領域の反射率が高いほど、搭載するLEDの輝度が高くなる傾向があり、上記範囲であれば、白色LED搭載向け反射体として好適に利用可能であるからである。また、青色LEDの平均波長(470nm)に対応した470nm付近の反射率が高いほど輝度が高くなる傾向があるため、470nmにおける反射率が70%以上であることがより好ましく、反射率が75%以上であることがより好ましい。
【0023】
(樹脂組成物)
第1の本発明である反射体を構成する樹脂組成物は、結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなるものであるが、前記結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:Tg =145℃、Tm=335℃)、ポリエーテルケトン(PEK:Tg=165℃、Tm=355℃)等が挙げられる。上記範囲の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂を用いることによって、Pbフリー半田リフローに対する耐熱性を有することが可能である。また、高熱環境下での酸化劣化を防止し、反射率の低下を抑えることが可能である。
【0024】
前記ポリアリールケトン系樹脂(A)は、その構造単位に芳香族核結合、エーテル結合及びケトン結合を含む熱可塑性樹脂である。その具体例としては、ポリエーテルケトン(ガラス転移温度〔以下、「Tg」という〕:157℃、結晶融解ピーク温度〔以下、「Tm」という〕:373℃)、ポリエーテルエーテルケトン(Tg:143℃、Tm:334℃)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(Tg:153℃、Tm:370℃)等を挙げることができる。これらの中では、耐熱性向上の観点から、結晶性を示し、Tmが260℃以上、特に300〜380℃のものが好ましい。また、本発明の効果を阻害しない限り、ビフェニル構造、スルホニル基等又はその他の繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0025】
前記ポリアリールケトン系樹脂(A)の中でも、下記構造式(1)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンを主成分とするポリアリールケトン系樹脂(A)が特に好ましく用いられる。ここで主成分とは、その含有量が50質量%を超えることを意味する。市販されているポリエーテルエーテルケトンとしては、VICTREX社製の商品名「PEEK151G」(Tg:143℃、Tm:334℃)、「PEEK381G」(Tg:143℃、Tm:334℃)、「PEEK450G」(Tg:143℃、Tm:334℃)等を挙げることができる。なお、ポリアリールケトン系樹脂(A)は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【化1】

【0026】
上記非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)は、下記構造式(2)又は(3)で表される繰り返し単位を有する非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、4,4’−[イソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)]ジフタル酸二無水物とp−フェニレンジアミン又はm−フェニレンジアミンとの重縮合物として、公知の方法により製造することができる。これらの非晶性ポリエーテルイミド樹脂の市販品としては、ゼネラルエレクトリック社製の商品名「Ultem 1000」(Tg:216℃)、「Ultem 1010」(Tg:216℃)又は「Ultem CRS5001」(Tg226℃)等が挙げられ、これらの中でも、前記構造式(3)で表される繰り返し単位を有する非晶性ポリエーテルイミド樹脂が特に好ましい。なお、ポリエーテルイミド樹脂(B)は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
上記ポリアリールケトン樹脂及び非晶性ポリエーテルイミド樹脂の混合割合は、結晶融解ピーク温度が260℃以上である結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)80〜20重量%と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)20〜80重量%とすることが好ましい。また前記結晶性ポリアリールケトン樹脂(A)を30質量%以上75質量%以下とすることがより好ましく、40質量%以上70質量%以下とすることが最も好ましい。ポリアリールケトン樹脂の含有率の上限を前記範囲内とすることで、反射体を構成する樹脂組成物の結晶性が低くなるのを抑えることができ、Pbフリーリフロー耐熱性の低下を防ぐことができ、耐熱、耐UV変色性を有することが可能となる。
【0030】
(無機充填材)
上記無機充填材としては、例えば、タルク、マイカ、雲母、ガラスフレーク、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、チタン酸塩(チタン酸カリウム等)、硫酸バリウム、アルミナ、カオリン、クレー、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、チタン酸鉛、酸化ジルコン、酸化アンチモン、酸化マグネシウム等が挙げられる。これらは1種類を単独で添加してもよく、2種類以上を組み合わせて添加してもよい。
【0031】
無機充填材は、樹脂組成物への分散性を向上させるために、無機充填材の表面を、シリコーン系化合物、多価アルコール系化合物、アミン系化合物、脂肪酸、脂肪酸エステル等で表面処理されたものを使用することができる。その中でもシリコーン系化合物(シランカップリング剤)で処理されたものを好適に使用することができる。
【0032】
第1の本発明である反射体は、上記のとおり、波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上とすることが重要であり、反射率がこの範囲内となれば、添加される無機充填材は特に制限されるものではないが、反射率の値を前記範囲内にする具体的方法としては、上記樹脂組成物100質量部に対して、屈折率差の大きい充填材1(概ね充填材1の屈折率が1.6以上)を少なくとも含有する無機充填材を5〜100質量部用いる方法を挙げることができる。無機充填材が5質量部より少ないと、反射率が低くなり好ましくなく、100質量部を超えると、無機充填材の分散性不良や、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性に問題が生じる場合があり好ましくない。このように、無機充填材として、前記で特定された物性値を有する充填材(充填材1)を含有させることによって、良好な反射率に優れた反射体を得ることができる。
【0033】
上記充填材1は、ベース樹脂(結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)及び非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)、以下同様)である樹脂組成物との屈折率差が大きい無機充填材である。すなわち、無機充填材として屈折率が大きいもの、基準としては1.6以上の無機充填材が好ましい。具体的には、屈折率が1.6以上である炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、チタン酸塩等を用いることが好ましく、特に酸化チタンを用いることが好ましい。
【0034】
酸化チタンは、他の無機充填材に比べて、顕著に屈折率が高く、ベース樹脂である樹脂組成物との屈折率差を大きくすることができるため、他の充填材を使用した場合よりも、少ない配合量で優れた反射性を得ることができる。
【0035】
酸化チタンは、アナターゼ型やルチル型のような結晶型の酸化チタンが好ましく、その中でもベース樹脂との屈折率差が大きくなるといった観点から、ルチル型の酸化チタンが好ましい。
【0036】
また酸化チタンの製造方法は、塩素法と硫酸法があるが、白色度の点からは、塩素法で製造された酸化チタンを使用することが好ましい。
【0037】
酸化チタンは、その表面が不活性無機酸化物で被覆処理されたものが好ましい。酸化チタンの表面を不活性無機酸化物で被覆処理することにより、酸化チタンの光触媒活性を抑制することができ、反射体が劣化することを防ぐことができる。不活性無機酸化物としては、シリカ、アルミナ、及びジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1種類を用いることが好ましい。これらの不活性無機酸化物を用いれば、高い反射性を損なうことなく、高温溶融時に、樹脂の分子量低下や、黄変を抑制することができる。
【0038】
また、酸化チタンは、樹脂組成物への分散性を高めるために、その表面がシロキサン化合物、シランカップリング剤等からなる群から選ばれる少なくとも1種類の無機化合物や、ポリオール、ポリエチレングリコール等からなる群から選ばれる少なくとも1種類の有機化合物で表面されたものが好ましい。特に耐熱性の点からは、シランカップリング剤で処理されたものが好ましい。
【0039】
酸化チタンの粒径は、0.1〜1.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5μmである。酸化チタンの粒径が上記範囲であれば、樹脂組成物への分散性が良好で、それとの界面が緻密に形成され、高い反射性を付与することができる。
【0040】
酸化チタンの含有量は、樹脂組成物100質量部に対し、5質量部以上であることが好ましく、15質量部以上であることがより好ましく、さらには25質量部以上であることが最も好ましい。上記範囲内であれば、良好な反射特性を得られる。
【0041】
また、第1の本発明である反射体には、Pbフリーリフロー時やLED搭載基板としての実際の使用時の強度、耐熱性向上のためや、寸法安定性を向上させて金属リードフレームとの剥離を抑制するために、繊維状、針状のアスペクト比が5以上の無機充填材(充填材2)を含有することが好ましい。より好ましくはアスペクト比が10以上であり、更に好ましくは20以上であり、特に好ましくは30以上である。上記充填材2を添加することにより、反射体の線膨張係数(樹脂流動方向)を50×10−6/℃以下とすることが好ましい。寸法安定性に優れ、かつ反射率が高く、また高温熱負荷環境下における反射率の低下が極めて少ないという、優れた効果を奏することができる。線膨張係数が50×10−6/℃を超えると、例えば、寸法安定性が不十分となり、実装時に金属リードフレームとの剥離が生じる場合がある。より好適な線膨張係数の範囲は、概ね10×10−6〜30×10−6/℃程度である。
【0042】
上記アスペクト比が5以上である充填材2としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、アラミド繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー等を挙げることができる。高強度、低コストの点から、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカーを用いることが好ましく、白度を保持する点からワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカーを用いることが好ましい。なお、前記充填材は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
上記充填材2の含有量は、樹脂組成物100質量部に対し、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、さらには30質量部以上であることが好ましい。上記範囲であれば、得られる反射体の線膨張係数を所望の範囲にまで低下させることが可能である。
【0044】
上記充填材1と充填材2の組み合わせとしては、反射率と線膨張係数のバランスを取る上で、上記酸化チタンと鱗片状の無機充填材を適宜配合することが好ましい。
【0045】
(反射率の低下率)
第1の本発明である反射体は、200℃で5時間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率が10%以下であることを必要とし、また中でも、260℃で5分間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率が10%以下であることが好ましい。
【0046】
上記条件の根拠について以下に記載する。LED搭載基板を製造する際に、導電接着剤やエポキシ、シリコーン樹脂等の封止剤の熱硬化工程(100〜200℃、数時間)、半田付け工程(Pbフリー半田リフロー、ピーク温度260℃、数分間)やワイヤボンディング工程等、高熱負荷がかかる状況にある。また実際の使用環境下においても、高輝度LEDの開発が進み、基板への熱負荷は高まる傾向にあり、LED素子周辺温度は100℃超になる場合もある。今後このような高熱負荷環境下においても、変色することなく、高い反射率を維持することが重要になってきている。また波長470nmは青色LEDの平均波長である。
【0047】
したがって、上記条件下(200℃、5時間後、260℃、5分間後)での波長470nmにおける反射率の低下率が10%以下であれば、製造工程での反射率の低下を抑制することが可能であり、また、実際の使用時の反射率の低下を抑制することが可能であるため、LED搭載基板として好適に使用できる。より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0048】
(反射体の厚み)
第1の本発明の反射体の厚みは、50μm以上であることが好ましい。反射体の厚みの上限は特に制限しない。かかる範囲内であれば、反射率が不十分となることがない。
【0049】
(添加剤等)
本発明の反射体を構成する樹脂組成物には、その性質を損なわない程度に、他の樹脂や無機充填材以外の各種添加剤、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、着色剤、滑剤、難燃剤等を適宜配合しても良い。また本発明の樹脂組成物の調製方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、(a)各種添加剤をポリアリールケトン樹脂及び/又は非晶性ポリエーテルイミド樹脂などの適当なベース樹脂に高濃度(代表的な含有量としては10〜60重量%)に混合したマスターバッチを別途作製しておき、これを使用する樹脂に濃度を調整して混合し、ニーダーや押出機等を用いて機械的にブレンドする方法、(b)使用する樹脂に直接各種添加剤をニーダーや押出機等を用いて機械的にブレンドする方法などが挙げられる。上記混合方法の中では、(a)のマスターバッチを作製し、混合する方法が分散性や作業性の点から好ましい。さらに、フィルムの表面にはハンドリング性の改良等のために、エンボス加工やコロナ処理等を適宜施しても良い。
【0050】
(反射体の製造方法)
第1の本発明の反射体の製造方法としては、公知の射出成形法を採用することができ、特に限定されるものではない。
【0051】
<第2の反射体>
第2の本発明である反射体としては、金属リードフレーム部が、結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物100質量部に対し、無機充填材を5〜100質量部含有する組成物により、インサート成型されたキャビティー枠を有するリフレクター部を備えてなり、該リフレクター部の波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上であって、かつ200℃で4時間熱処理した後の波長470nmにおける該リフレクター部の反射率の低下率が10%以下のものであれば、特に制限されず、前記の組成物を用いて、金属リードフレームをインサート成型して、キャビティー枠を有するリフレクター部を形成することによって、該リフレクター部は、波長470nmにおける反射率が高く、かつ高温熱負荷環境下における反射率の低下が極めて少ないという優れた効果を発揮することができるので、この成型体は、LED実装用反射体として好適に使用することができる。
【0052】
前記金属リードフレームとしては、特に制限されるものではなく、例えば、各種導電性の金属材料からなり、これを所定の打ち抜き金型を用いて打ち抜いて金属リードフレームとし、これを立体的に所定形状に成型して得られるものを用いることができる。
【0053】
第2の本発明である反射体のリフレクター部は、波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上であることを必要とするが、これは可視光領域の反射率が高いほど、搭載するLEDの輝度が高くなる傾向があり、上記範囲であれば、白色LED搭載向け反射体として好適に利用可能であるからである。また、青色LEDの平均波長(470nm)に対応した470nm付近の反射率が高いほど輝度が高くなる傾向があるため、470nmにおける反射率が70%以上であることがより好ましく、反射率が75%以上であることがより好ましい。
【0054】
(樹脂組成物等)
第2の本発明である反射体を構成する樹脂組成物や無機充填材は、第1の本発明と同様のものを使用することができ、これに上述の添加剤を含有させることも可能である。また、これらの調整方法も上述の第1の本発明と同様の方法を採用することができる。
【0055】
(反射率の低下率)
第2の本発明である反射体は、200℃で5時間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率が10%以下であることを必要とし、また中でも、260℃で5分間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率が10%以下であることが好ましい。
【0056】
<LED搭載用基板>
第3の本発明であるLED搭載用基板としては、第1及び第2の本発明の反射体を用いてなるものであれば、特に制限されず、例えば、第1及び第2の本発明において、充填材として、特定の物性値を有する各種充填材(充填材1及び充填材2)を含有させれば、反射特性、寸法安定性、剛性のバランスの取れたLED搭載基板を提供することも可能である。
【0057】
(LED搭載用基板の製造方法)
第3の本発明であるLED搭載用基板の製造方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、第1の本発明の反射体の場合においては、図1に示す方法に従って製造することができる。a)まず、本発明の高反射率を有する組成物を用いて、射出成形により、キャビティー枠(10)を有するリフレクター部(20)を備える成型体(100)を製造する。b)次に、接着剤等を用いて、この成型体を公知のプリント配線基板(300)上に配置させる(LED搭載用基板)。c)最後に、キャビティー部にLED(200)を実装させ、ボンディングワイヤ(30)によりプリント配線基板に設けられた配線パターンと接続させる(LED搭載基板)。このLED搭載基板に搭載されたLEDを所定の樹脂で樹脂封止して、使用することができる(LED搭載装置)。なお、リフレクター部は、図示したように開口方向に広くなるような形状とすることが好ましい。
【0058】
また第2の本発明である反射体を用いた場合においては、図2に示す方法に従って製造することができる。a)まず、予め金属の平板をプレス金型でプレス抜きし、これを立体的に所定形状に成型してなる金属リードフレーム(40)を準備し、この金属リードフレームを本発明の高反射率を有する組成物からなるキャビティー部(10)を有するリフレクター部(20)にインサート成型して、LED搭載用基板とする。b)これに、LED(200)を実装させ、ボンディングワイヤ(30)により金属リードフレーム(40)と接続させる(LED搭載基板)。c)このLED搭載基板に搭載されたLEDを所定の樹脂で樹脂封止して、使用することができる(LED搭載装置)。なお、リフレクター部は、図示したように開口方向に広くなるような形状とすることが好ましい。
【0059】
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
なお、本明細書中に示されるフィルム等についての種々の測定値及び評価は以下のようにして求めた。
【0061】
[結晶融解ピーク温度(Tm)]
示差走査熱量計「DSC−7」(パーキンエルマー製)を用いて、JIS K7121に準じて、試料10mgを加熱速度10℃/分で昇温したときのサーモグラフから求めた。
【0062】
[平均反射率]
分光光度計(「U−4000」、株式会社日立製作所製)に積分球を取りつけ、アルミナ白板の反射率が100%としたときの反射率を、波長400nm〜800nmにわたって、0.5nm間隔で測定した。得られた測定値の平均値を計算し、この値を平均反射率とした。
【0063】
[加熱処理後の反射率]
得られた成形品を熱風循環式オーブンに、200℃で4時間、260℃で5分間加熱処理し、加熱処理後の反射率を上記の方法と同様に測定して、470nmにおける反射率を読みとった。
【0064】
[UV照射後の反射率]
得られた成形品をスガ試験機(株)製のキセノンウェザーメータ(型式:SX−75)を用いて、温度63℃(ブラックパネル温度)、湿度50%、放射照度(295〜400nm)60W/mで50時間照射し、その後、上記の方法と同様に反射率を測定し、470nmにおける反射率を読みとった。
【0065】
[線膨張係数測定]
セイコーインスツルメンツ(株)製の熱応力歪み測定装置TMA/SS6100を用いて、短冊状の試験片(長さ10mm)を引張荷重0.1gで固定し、30℃から5℃/分の割合で300℃まで昇温させ、MD(α1(MD))とTD(α1(TD))の熱膨張量の降温時の30℃〜140℃の温度依存性を求めた。
【0066】
[平均粒径]
(株)島津製作所製の型式「SS−100」の粉体比表面測定器(透過法)を用い、断面積2cm、高さ1cmの試料筒に試料3gを充填して、500mm水柱で20ccの空気透過時間を計測し、これより酸化チタンの平均粒径を算出した。
【0067】
[耐熱性評価]
得られた成形品を、PCT処理(121℃2atm2時間)後、260℃に加熱した半田浴層上に60秒間浮かべ外観を評価した。
○:膨れは見られない
×:膨れが発生
【実施例1】
【0068】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK150G、Tm=335℃)60質量%と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(Ultem UF5011S)40質量%とからなる樹脂混合物100質量部に対して、塩素法で製造された酸化チタン(平均粒径0.23μm、アルミナ処理、シランカップリング剤処理)を35質量部、平均粒径5μm、平均アスペクト比12のチタン酸カリウムウィスカーを35質量部混合して得られた組成物を溶融混練し、押出機を用いて設定温度380℃で射出成形し、5cm角1mm厚の試験片を得た。試験片は真空プレス器にて260℃、3MPa、30分の条件で熱処理(結晶化処理)を実施したのち、表1に示す測定を実施した。
【実施例2】
【0069】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK150G、Tm=335℃)60質量%と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(Ultem 1000)40質量%とからなる樹脂混合物100質量部に対して、塩素法で製造された酸化チタン(平均粒径0.23μm、アルミナ処理、シランカップリング剤処理)を35質量部、平均粒径5μm、平均アスペクト比12のチタン酸カリウムウィスカーを35質量部混合して得られた組成物を溶融混練し、押出機を用いて設定温度380℃で射出成形し、5cm角1mm厚の試験片を得た。試験片は真空プレス器にて260℃、3MPa、30分の条件で熱処理(結晶化処理)を実施したのち、表1に示す測定を実施した。
【0070】
[比較例1]
実施例1において、非晶性ポリエーテルイミド樹脂のみを使用した以外は同様の方法にて、試験片を作製した。作製した試験片を表1に示す測定を実施した。
【0071】
[比較例2]
実施例1において、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のみを使用した以外は同様の方法にて、試験片を作製した。試験片は真空プレス器にて260℃、3MPa、30分の条件で熱処理(結晶化処理)を実施したのち、表1に示す測定を実施した。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の結果より、実施例1〜2においては、反射率、加熱処理後及びUV照射後の反射率に優れ、またLED搭載用基板としての耐熱性が優れることも確認された。
一方、非晶性ポリエーテルイミド樹脂のみを用いた比較例1は、加熱処理後、UV照射後の反射率や寸法安定性には優れるものの、耐熱性に劣ることが確認された。また同じくポリエーテルエーテルケトン樹脂のみを用いた比較例2は、耐熱性に優れるものの、加熱処理後、UV照射後の反射率に劣ることが確認された。
【符号の説明】
【0074】
10 キャビティー部
20 リフレクター部
30 ボンディングワイヤ
100 成型体
200 LED
300 プリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物100質量部に対し、無機充填材を5〜100質量部含有する組成物からなる射出成型されたキャビティー枠を有するリフレクター部を備えてなり、
波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上であって、かつ200℃で4時間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率が10%以下であることを特徴とする反射体。
【請求項2】
金属リードフレーム部が、結晶融解ピーク温度が260℃以上の結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)と、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物100質量部に対し、無機充填材を5〜100質量部含有する組成物により、インサート成型されたキャビティー枠を有するリフレクター部を備えてなり、
該リフレクター部の波長400〜800nmにおける平均反射率が70%以上であって、かつ200℃で4時間熱処理した後の波長470nmにおける該リフレクター部の反射率の低下率が10%以下であることを特徴とする反射体。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、前記結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂(A)80〜20質量%と、前記非晶性ポリエーテルイミド樹脂(B)20〜80質量%からなる、請求項1又は2記載の反射体。
【請求項4】
無機充填材が、平均アスペクト比5以上の充填材を少なくとも含有する、請求項1〜3のいずれか記載の反射体。
【請求項5】
無機充填材が、少なくとも酸化チタンを含有する、請求項1〜4のいずれか記載の反射体。
【請求項6】
260℃で5分間熱処理した後の波長470nmにおける反射率の低下率が、10%以下である、請求項1〜5のいずれか記載の反射体。
【請求項7】
請求項1〜6記載の反射体を用いてなるLED搭載用基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−280747(P2010−280747A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132943(P2009−132943)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】