受信装置、補償演算回路、および受信方法
【課題】複数の搬送波間の非線形相互作用により生じる非線形波形歪を、簡易な補償演算回路で補償できる受信装置を提供する。
【解決手段】複数の搬送波(キャリアおよびサブキャリア)間の非線形相互作用による非線形波形歪を補償するため、複数の搬送波間の位相同期の前処理を行ったうえで、非線形波形歪を四光波混合光クロストークによる波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等により線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより、複雑な波形歪みの補償を、簡易な電気演算回路で実現する。
【解決手段】複数の搬送波(キャリアおよびサブキャリア)間の非線形相互作用による非線形波形歪を補償するため、複数の搬送波間の位相同期の前処理を行ったうえで、非線形波形歪を四光波混合光クロストークによる波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等により線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより、複雑な波形歪みの補償を、簡易な電気演算回路で実現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の搬送波(キャリアおよびサブキャリア)間の非線形相互作用による非線形波形歪を補償するため、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を線形化して簡易化し、複雑な波形歪みの補償を、簡易な電気演算回路で実現することができる、受信装置、補償演算回路、および受信方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ伝送路は、その屈折率が光強度に比例して変化する光カー効果によって、四光波混合(FWM:Four Wave Mixing)、相互位相変調(XPM:Cross Phase Modulation.)、自己位相変調(SPM:Self Phase Modulation) などの光非線形効果を誘発する。
【0003】
これらによって、それぞれの信号光の光電界位相が、自分自身のチャネルの信号光によって歪む現象、他のチャネルの光信号によって歪む現象が発生する。光電界の位相にデータをのせる変調方式では、自チャネル、もしくは他チャネルの信号光によって受信信号の波形ひずみを引き起こし、データ判別の誤りの原因となる。また、光信号の位相波形のひずみは伝送路の波長分散を介して振幅波形の歪みに変換されるため、光電界波形の振幅にデータをのせる変調方式においてもデータ判別誤りを引き起こす。
【0004】
これらの非線形波形歪は、チャネル内のシンボル間の干渉、チャネル間のシンボル間の干渉となって伝送特性を劣化させる。非線形波形歪による伝送特性劣化は、光パワーの増大とともに顕著化するため、従来の光伝送システムでは、光ファイバ伝送路への入力光パワーを制限することで抑圧していた。一方、光ファイバ伝送路入力パワーを低減すると、受信端で受信される信号光の信号対雑音電力比(SNR(Signal to Noise ratio))を低減することになり、雑音光による波形歪みによりデータ判別誤りを引き起こす。
【0005】
従って、非線形波形歪による特性劣化と、着信SNRの劣化による特性劣化の和が最も小さくなるように光ファイバ伝送路への入力パワーを設定することが望ましい。しかし、非線形波形歪は、伝送路ファイバの零分散波長、波長分散の特性に大きく依存する。特に、分散シフトファイバ(DSF(Dispersion Shift Fiber))では零分散波長帯が1530nm〜1565nmの波長帯域(C帯)にあり、C帯のWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長多重)信号光にとっては勿論のこと、1570nm〜1605nmの波長帯域(L帯)のWDM信号光にとっても、零分散波長が近接することになり波形劣化が深刻である。また、ノンゼロ分散シフトファイバ(NZ−DSF(Non−Zero Dispersion Shifted Fibers))であっても、L帯でのWDM伝送は波形劣化が発生する。
【0006】
このため、従来は、既に敷設された光ファイバ伝送路の零分散波長、波長分散の特性の統計的なデータから、この波形劣化の大きさを予測して光ファイバ伝送路への入力パワーを設定していた。しかし、光ファイバ伝送路の分散特性は、その個体に依存して異なるため、高い信頼度で信号伝送品質を設計するために余分なマージンを見込んで設計していた。そのため、高い信頼度で信号伝送品質を設計するために、高コスト化、パフォーマンスの制限の原因となっていた。また、大きなマージンをみても、敷設ファイバの特性によっては伝送設計が成立しない可能性があった。
【0007】
また、非線形波形歪をマージンをもって抑圧するために、光ファイバ伝送路への入力パワーを最適値より低減した設計とするため、着信SNRの低下をまねき、伝送距離、伝送容量を制限する要因となっていた。従って、伝送システムの許容伝送距離の増大、伝送容量の増大のために、非線形波形歪を補償する施策が求められていた。
【0008】
ところで、光ファイバ伝送におけるSPM、FWM、XPMの3つの非線形波形劣化のうち、単一の搬送波の信号光に発生する波形歪みはSPMが主要因である。従来、SPMによる単一搬送波の信号光における非線形波形歪を補償する方法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。さらに、SPMを介したASE雑音による強度雑音が位相雑音へ変換される「Gordon-Mollenauer効果」を補償する方法も提案されている(例えば、非特許文献2を参照)。これまで、複数の搬送波の信号光の波形歪みを補償する方法がなかった。
【0009】
また、単一の搬送波の信号光の波形歪み補償においては、SPMと逆の効果を与えて補償する原理である。SPMとは信号光の強度波形に比例して光位相が回転する効果であり、簡単に説明するならば、光強度波形に比例して逆向きの位相回転を与えて、位相回転を戻すことで、波形歪みを補償する原理である。
【0010】
しかし、実際には、光ファイバ伝送路の波長分散により、光ファイバ伝送路中に強度波形が変化するため、受信端で取得される強度波形と、非線形ひずみが発生した時点の強度波形は異なり、十分な補償効果が得られない。また、波長分散による強度波形変化を戻した上で、非線形歪み補償演算を実施する場合であっても、波長分散による強度波形変化と非線形位相回転は、同時に発生するため、両者は複雑に絡み合っており十分な補償精度が得られない場合がある。
【非特許文献1】R. I. Kelley, et al., "Electronic dispersion compensation by signal predistorsion using a dual drive Mach-Zehender modulator," OFC2005, OThJ2, 2005
【非特許文献2】K. Kikuchi, et al., OFC/NFOEC2007, OTuA2, Anaheim, CA, Mar. 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の如く、光ファイバ伝送システムでは、伝送路損失による光信号の減衰を補うために光増幅器を中継して、光信号を伝送する。そこでは、光ファイバの入力光パワーを大きくすると、信号対雑音比が高くなり、光のまま伝送できる距離が長くなるという性質がある。そのため、経済的にネットワータを構成する上では、光ファイバ伝送路への入力パワーを大きく設定したい。しかし、光ファイバへの入力パワーを大きくすると、その非線形効果により信号光波形が歪み、伝達特性生を劣化させる問題が生じる。
【0012】
また、非線形波形歪は、伝送路光ファイバ特性の固体差に依存して異なるため、高い信頼性で信号伝送品質を設計するために余分なマージンを見込んで設計していた。そのため、高い信頼度で信号伝送品質を設計するために、高コスト化、パフオーマンスの制限の原因となっていた。これまで、非線形波形歪を補供する方法が損秦されているが、単一の搬送波からなる信号光を対象としていた。近年、伝送ビットレートの高速化に伴い、複数の搬送波を用いて伝送する方式が注目されており、そこでは、非線形波形劣化が課題となっている。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、複数の搬送波間の非線形相互作用により生じる非線形波形歪を、四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を線形化して簡易化し、複雑な波形歪みの補償を、簡易な電気演算回路で実現することができる、受信装置、補償演算回路、および受信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1に記載の発明は、光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置であって、前記信号光の周波数、もしくは偏波によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離装置と、前記分離装置から出力される複数の搬送波間のシンボル位相の同期処理を行う位相同期部と、前記位相同期部により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算部と、を備え、前記位相同期部と前記補償演算部とにおける演算処理を電気演算回路により実行するように構成されたこと、を特徴とする受信装置である。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置であって、偏波多重された信号光を偏波によって2つに分離する偏波分離装置と、周波数によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離装置と、前記分離装置から出力される各周波数の搬送波ごとの2つの偏波の受信信号を入力し、該入力された2つの偏波の受信信号間の干渉を取り除いて独立する2つの信号に偏波分離する偏波分離演算部と、前記偏波分離演算部から出力される複数の搬送波間の位相の同期処理を行う位相同期部と、前記位相同期部により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算部と、を備え、前記偏波分離演算部、前記位相同期部および前記補償演算部における演算処理を電気演算回路により実行するように構成されたこと、を特徴とする受信装置である。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の受信装置内の前記補償演算部を構成する補償演算回路であって、前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、前記多元非線形方程式を解くことによって、受信信号から送信信号を算出する電気演算回路を備えること、を特徴とする補償演算回路である。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の補償演算回路であって、前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、前記多元非線形方程式を基に受信波形から送信波形を逐次的に推定する場合に、第n段目の送信波形推定ステップから出力される第nの送信波形推定値を、一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、前記多元非線形方程式を線形化して、第n+1の送信波形を推定する第n+1段目の送信波形推定ステップを有し、逐次的に補償波形を推定する演算回路で構成されることを特徴とする補償演算回路である。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の補償演算回路であって、第1段目の送信波形推定ステップにおいて、補償前の受信波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路を備えること、を特徴とする補償演算回路である。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の補償演算回路であって、第1段目の送信波形推定ステップにおいて、予め定められている任意の波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路を備えることを特徴とする補償演算回路である。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、請求項3に記載の補償演算回路であって、前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信波形と送信波形の非線形歪み変動量の関係を多元非線形方程式で関連付けし、前記非線形歪み変動量を逐次的に推定する場合に、第n番目の変動量推定ステップから出力される第n段目の補償波形を、一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、前記多元非線形方程式を線形化して、第n+1段目の受信波形の非線形歪み変動量を推定する第n+1段目の変動量推定ステップと、前記第n+1番目の変動量推定ステップからの出力値を受信データから減算し、第n+1段目非線形歪み補償後の波形を出力する第n+1段目の変動量補償ステップと、を有し、逐次的に補償波形を推定する演算回路で構成されることを特徴とする補償演算回路である。
【0021】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の補償演算回路であって、第1段目の変動量推定ステップにおいて、補償前の受信波形を一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路で構成されること、を特徴とする補償演算回路である。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、請求項7に記載の補償演算回路であって、第1段目の変動量推定ステップにおいて、予め定められている任意の波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いることを特徴とする演算回路を、備えることを特徴とする補償演算回路である。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項7に記載の補償演算回路であって、第1段目の変動量推定ステップにおいて、初期値として用いる値を変化させて、補正効果が得られる値を検出する演算回路を、備えることを特徴とする補償演算回路である。
【0024】
また、請求項11に記載の発明は、請求項3に記載の補償演算回路であって、前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、前記複数の周波数の信号光を合成した時間波形、及びその直交偏波の時間波形の強度に比例して信号光電界の光位相が回転する自己位相変調によってモデル化し、前記自己位相変調のモデルによって伝送前波形と伝送後波形の関係を非線形方程式で関連付けし、伝送後波形から伝送前波形を推定することを特徴とする演算回路で構成されること、を特徴とする補償演算回路である。
【0025】
また、請求項12に記載の発明は、請求項3に記載の補償演算回路であって、光ファイバ伝送路における波長分散、及び損失を線形な伝達関数によって記述し、前記伝達関数の逆関数を作用させる線形波形歪み補償演算と、前記四光波混合クロストークモデルを含む所定のモデルにより算出された非線形波形歪の補償演算とを繰り返し実施することで、伝送後波形から伝送前波形を推定する送信前波形推定する演算回路で構成されること、を特徴とする補償演算回路である。
【0026】
また、請求項13に記載の発明は、前記非線形歪を補償する演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習し、該補償パラメータ値を前記補償演算回路に入力する補償パラメータ学習部を備えること、を特徴とする請求項3から請求項11のいずれかに記載の補償演算回路である。
【0027】
また、請求項14に記載の発明は、複数の周波数の連続光を出力するマルチモード局発光発生部と、前記複数の周波数の局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する光90度ハイブリッドと、前記光90度ハイブリッドからの出力光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離するそれぞれの光分離器と、前記それぞれの光分離器のから出力光を入力し、それぞれを電気信号に変換する光電変換器と、前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0028】
また、請求項15に記載の発明は、複数の周波数の連続光を局発光として出力するマルチモード局発光発生部と、入力信号光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、前記マルチモード局発光発生部から出力される局発光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する局発光の光分離器と、前記信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、前記局発光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力するそれぞれの搬送波の光90度ハイブリッドと、前記それぞれの光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0029】
また、請求項16に記載の発明は、入力信号光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、互いに異なる周波数の連続光を出力する複数の局発光発生部と、前記信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、前記それぞれの局発光発生部からの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する光90度ハイブリッドと、前記それぞれの波長分離機からの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0030】
また、請求項17に記載の発明は、1つの周波数成分を有する連続光を出力する局発光発生部と、前記局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドと、前記光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、前記光電変換器からの出力信号を周波数によって複数の電気信号に分離する電気フィルタと、前記それぞれの電気フィルタからの出力電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0031】
また、請求項18に記載の発明は、1つの周波数の成分を有する連続光を出力する局発光発生部と、前記局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドと、前記光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換する光電変換器と、前記光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するアナログ・デジタル変換器と、前記それぞれのアナログ・デジタル変換器からの出力信号を周波数によって複数のチャネルに分離するデジタルフィルタと、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0032】
また、請求項19に記載の発明は、光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置における前記信号光の受信方法であって、前記信号光の周波数、もしくは偏波によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離手順と、前記分離手順により出力される複数の搬送波間のシンボル位相の同期処理を行う位相同期手順と、前記位相同期手順により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算手順と、を含むことを特徴とする受信方法である。
【発明の効果】
【0033】
請求項1記載の受信装置においては、複数の搬送波間の非線形相互作用による非線形波形歪を補償するため、複数の搬送波間のシンボル位相同期の前処理を行ったうえで、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより、複雑な波形歪みの補償を行うようにしたので、これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現することができる。
【0034】
また、請求項2に記載の受信装置においては、偏波多重された信号光を偏波分離装置によって2つに分離し、偏波分離演算部により各搬送波周波数ごとの2つの偏波の間の干渉を取り除いた後に、この複数の搬送波間の非線形波形歪を補償するため、搬送波間の位相同期の前処理を行ったうえで、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等の波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより波形歪みの補償を行う。これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現することができる。
【0035】
また、請求項3に記載の補償演算回路においては、周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、この多元非線形方程式を解くことによって、受信信号から送信信号を求めるようにしたので、これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現する補償演算回路を提供できる。
【0036】
また、請求項4に記載の補償演算回路においては、周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、第n段目の送信波形推定ステップから出力される第nの送信波形推定値を、一時的に多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、多元非線形方程式を線形化して、第n+1の送信波形を推定する第n+1段目の送信波形推定ステップを有するようにしたので、これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現する補償演算回路を提供できる。
【0037】
また、請求項5に記載の補償演算回路においては、第1段目の送信波形推定ステップにおいて、補償前の受信波形を、初期値として多元非線形方程式の一部の送信波形として用いるようにしたので、より精度の高い送信波形を推定することができる。
【0038】
また、請求項6に記載の補償演算回路においては、第1段目の送信波形推定ステップにおいて、任意の波形を、初期値として多元非線形方程式の一部の送信波形として用いるようにしたので、これにより、多元非線形方程式の形式、パラメータ等に応じて所望の初期値を設定することができる。
【0039】
また、請求項7に記載の補償演算回路においては、四光波混合クロストークによりモデル化された、受信波形と送信波形の非線形歪み変動量の関係を多元非線形方程式で関連付けし、第n番目の変動量補償ステップから出力される第n段目の補償波形を一部の送信波形として用いて多元非線形方程式を線形化し、第n+1段目の受信波形の歪み変動量を推定する第n+1段目の変動量推定ステップと、第n+1番目の変動量推定ステップからの出力値を受信データから差し引き、第n+1段目非線形歪み補償後の波形を出力する第n+1段目の変動量補償ステップとを有するようにしたので、これにより、非線形補償演算を歪み変動量による漸化式を用いて容易に行うことができると共に、推定結果への収束を早めることができる。
【0040】
また、請求項8に記載の補償演算回路においては、歪み変動量を求める第1段目の変動量推定ステップにおいて、補償前の受信波形を一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いるようにしたので、これにより、補償前の受信波形を初期値として選択し、非線形補償演算を歪み変動量による漸化式を用いて容易に行うことができる。
【0041】
また、請求項9に記載の補償演算回路においては、歪み変動量を求める第1段目の送信波形推定ステップにおいて、任意の波形を、初期値として多元非線形方程式の一部の送信波形として用いるようにしたので、これにより、任意の波形を初期値とし選択し、非線形補償演算を歪み変動量による漸化式を用いて容易に行うことができる。
【0042】
また、請求項10に記載の補償演算回路においては、第1段目の変動量推定ステップにおいて、初期値として用いる値を変化させて、補正効果が得られる値を検出するようにしたので、これにより、適切な初期値を選択することにより、収束を速めるなど、高精度で非線形波形歪の補償演算が行えるようになる。
【0043】
また、請求項11に記載の補償演算回路においては、光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、自己位相変調によってモデル化し、伝送前波形と伝送後波形の関係を非線形方程式で関連付けし、伝送後波形から伝送前波形を推定するようにしたので、これにより、自己位相変調位相回転モデルを使用して送信波形を推定することができる。
【0044】
また、請求項12に記載の補償演算回路においては、光ファイバ伝送路における波長分散、及び損失を線形な伝達関数によって記述し、伝達関数の逆関数を作用させる線形波形歪み補償演算と、四光波混合クロストークモデルまたは自己位相変調位相回転モデルによる非線形波形歪の補償演算とを繰り返し実施することで、伝送後波形から伝送前波形を推定するようにしたので、これにより、スプリットステップ法を用いて、送信波形を推定することができる。
【0045】
また、請求項13に記載の補償演算回路においては、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習する補償パラメータ学習部を備えるようにしたので、これにより、多元非線形方程式から送信波形を推定する補償演を行う際に必要となる補償パラメータを取得することができる。
【0046】
また、請求項14に記載の受信装置においては、マルチモード局発光発生部と光90度ハイブリッドにより、各搬送周波数ごとに光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力し、また、光90度ハイブリッドからの出力光を波長分散媒質を用いた光分離器によって周波数(波長)毎に分離するようにしたので、これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0047】
また、請求項15に記載の受信装置においては、入力信号光を波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、マルチモード局発光発生部からの出力光を入力し波長毎に分離して異なるポートに出力する局発光の光分離器とを備え、また、信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、局発光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力するそれぞれの搬送波の光90度ハイブリッドを設けるようにしたので、これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0048】
また、請求項16に記載の受信装置においては、入力信号光を波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、異なる周波数の連続光を出力する複数の局発光発生部とを備え、また、信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、それぞれの局発光発生部からの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する複数の光90度ハイブリッドとを備えるようにしたので、これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0049】
また、請求項17に記載の受信装置においては、1つの周波数の連続光を出力する局発光発生部と、局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドとを備え、光90度ハイブリッドからの出力光を光電変換器により電気信号に変換し、光電変換器からの出力信号を電気フィルタにより周波数によって複数の電気信号に分離するようにしたので、これにより、電気フィルタを使用して搬送波を周波数ごとに分離することができる。
【0050】
また、請求項18に記載の受信装置においては、1つの周波数の連続光を出力する局発光発生部と、局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドとを備え、光90度ハイブリッドからの出力光を光電変換器により電気信号に変換し、光電変換器からの出力信号をデジタルフィルタにより周波数によって複数の電気信号に分離するようにしたので、これにより、デジタルフィルタを使用して搬送波を周波数ごとに分離することができる。
【0051】
また、請求項19に記載の受信方法においては、複数の搬送波間の非線形相互作用による非線形波形歪を補償するため、複数の搬送波間のシンボル位相同期の前処理を行ったうえで、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより、複雑な波形歪みの補償を行うようにしたので、これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0053】
[本発明が適用される信号光の形態についての説明]
最初に、本発明の受信装置が適用される信号光の形態について説明する。本発明の受信装置においては、送信情報が符号化された複数の周波数の光搬送波(光キャリア、サブキャリア)、もしくは独立した偏波の光搬送波(光キャリア、サブキャリア)が多重化された信号光を受信することを想定する。
【0054】
例えば、このような信号光としては、異なる波長の光搬送波をそれぞれ個別に変調し、波長分散媒質を用いて多重化された波長多重(WDM)信号光がある。また、1つのクライアント情報を周波数が近接する複数のキャリア、サブキャリアの信号光に分離して伝達するマルチキャリア信号光にも適用可能である。
【0055】
また、マルチキャリアのように複数の搬送波を束ねた信号光で、それぞれの搬送波の変調周波数(ビットレート)が、搬送波の周波数間隔と同程度になるまで高密度に多重された直交周波数分割多重(OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing))信号がある。これらの信号光は、物理的には複数の周波数が多重された信号光形式であり、図1に示す概念図で表現できる。
【0056】
図1(A)は、マルチキャリア信号光の概念図であり、複数のキャリアCh−1、Ch−2、Ch−3、およびCh−4が変調され、信号光E1、E2、E3、E4が多重化された例を示している。また、図1(B)は、マルチキャリア・偏波多重信号光の概念図であり、マルチキャリア信号光、もしくはOFDM信号光が、さらに偏波多重された信号光の概念図である。図1(B)に示すように独立する偏波に異なる信号光を割り当てて伝達するような偏波多重信号光も本発明の適用先として想定される。
【0057】
[第1の実施の形態]
(受信装置の構成例の説明)
次に、本発明の第1の実施の形態に係わる受信装置の構成について説明する。従来の光ファイバ伝送システムでは、伝送路ファイバの非線形性が受信波形を歪ませる原因となり伝送特性を劣化させていた。この波形歪みは、伝送される光電界波形に依存して一意に決定されるものであり、その波形歪みは受信波形から予測可能である。つまり、WDM信号光の伝送であっても、OFDM信号、マルチキャリア信号の伝送であっても、隣接チャネルの受信波形を用いて受けた非線形波形歪を予測し、波形歪みを補償することが原理的に可能である。
【0058】
本発明の第1の実施の形態においては、非線形波形劣化をFWMクロストーク(四光波混合クロストーク)による波形劣化モデルによって近似し、波形劣化の記述を簡単化する。FWMクロストークは、周波数、もしくは偏波の異なる3つのキャリア、サブキャリアの光電界の積に比例した光電界が生じる現象としてモデル化される。
【0059】
3つのうち2つのキャリア、サブキャリアが縮退して、同一のサブキャリア、キャリアになることもある。FWMによって発生したFWMクロストーク光電界は、別のキャリア、もしくはサブキャリアの光電界に重畳して、その光電解波形を歪ませる。
【0060】
図2に、FWM発生の元となるキャリア、サブキャリア、及びFWMクロストークが重畳するキャリア、サブキャリアの周波数、及び偏波の関係を一例として示す。
【0061】
図2(A)においては、異なる周波数(波長)の3つのチャネルCh−1、Ch−2、Ch−3により生じる光電界E1、E2、E3により、チャネルCh−4の光電界E4にFWMクロストーク(E3×E2×E1*)が発生する例を示している。また、図2(B)においては、X偏波の光電界E1X、Y偏波の光電界E1Y、X偏波の光電界E2Xにより、光電界E2YにFWMクロストーク(E1X×E2X×E1Y*)が発生する例を示している。すなわち、図2(A)は、複数の周波数の信号光間のFWMクロストーク発生を示し、図2(B)は、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光間のFWMクロストーク発生を示している。
【0062】
この場合に、光ファイバ伝送路の出力端におけるFWMクロストーク光電界波形は、光ファイバ伝送路の入力端での光電界波形、つまり光電界の強度と位相を用いて表現することができる(次の参考文献1を参照)。
【0063】
[参考文献1]P.O. Hill, "cw-three wave mixing In single mode optical fibers," J. Appl. Phys., 5098.
【0064】
FWMクロストークを受けたキャリア、もしくはサブキャリアの受信端では、主信号の光電界波形に、このFWMクロストークの光電界波形を加えた光電界波形が受信器に入力される。つまり、周囲の周波数、及び偏波のキャリア、サブキャリアの光電界波形の積が、主信号の光電界波形に加えられた光電界波形が受信されるので、各キャリア、サブキャリアの受信光電界は、それらの送信光電界の3次の非線形連立方程式で記述される。非線形波形劣化を補償する補償演算回路では、光受信器において各キャリア、サブキャリアの光ファイバ伝送路から出力される波形を観測し、これらが非線形連立方程式の受信波形となるような送信電界波形を、非線形連立方程式を解くことによって求める。
【0065】
図3は、本発明の一実施形態に係る受信装置の構成例を示す図である。
図3に示す受信装置において、入力された複数の搬送波からなる信号光は、局発光発生部11から出力される局発光と共に光90度ハイブリッド102に入力される。
【0066】
光90度ハイブリッド101は、マルチキャリア局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する機能を有する。この光90度ハイブリッド101の出力は、光電変換器201、202に入力される。例えば、光電変換器201、アナログ・デジタル変換器(ADC)301の系統が、光位相が局発光と同相成分の信号系統であり、光電変換器202、アナログ・デジタル変換器(ADC)302の系統が局発光と直交する成分の信号系統である。
【0067】
この光90度ハイブリッド101には、例えば、図4に示す方向性結合器である合波器110が含まれ、この合波器110により、信号光と局発光の光電界が互いに混ざり合い、合波器110の2つの出力ポートから出力される、これを、光電変換器201内の差動光検出器211で検出することにより、差動光検出器211の2乗検波特性によって信号光と局発光の光電界の積(クロスターム)が発生する。
【0068】
このクロスタームは、信号光と局発光の位相差に依存する項を有し、さらに合波器110からの2つの出力ポートでは、この位相差の依存性が異なる。従って、信号光と局発光の光周波数が近接している場合には、それらの差分をとることで、信号光と局発光の位相差を比較できる。具体的には、局発光の位相を基準にして、信号光と同位相成分の強度を出力することになる。
【0069】
このようにして、図3に示す光電変換器201、201から出力される電気信号は、局発光の周波数を中心として信号光の光スペクトルをダウンコンバートされた電気スペクトルとなる。
【0070】
このスペクトルの周波数帯域は、光電変換器201、202の応答周波数帯域で制限されており、周波数帯域が50GHz程度の光電変換器も市販されており、これを利用すれば50GHz程度の光周波数差があるような場合でもサポートできる。ここでは、信号光が複数の周波数の搬送波から構成される信号光を想定しており、その信号光の高周波数側の端と局発光、及び低周波数側の端と局発光の間の周波数差が、光電変換器の周波数帯域内になるように光電変換器を選ぶ必要がある。
【0071】
図3において、光電変換器201、202から出力された光電流は、アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302によってそれぞれデジタル信号に変換される。通常、光電変換器201、202には数mW程度の光パワーが入力されるため、光電変換器201、202の変換効率として1A/W程度を想定しても、平均光電流量は数mA程度である。また、インピーダンスの変更も必要になる。そこで、トランスインピーダンスアンプを利用して増幅し、アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302への入力として十分な電圧、及びインピーダンスが得られるようにする。また、受信装置への光入力パワーが伝送路の状況によって変化することがあり、そのような変化に対しても影響なく受信できるように、入力が変化しても出力電圧を一定に保つアンプを利用する。このアンプは、リミッティングアンプと呼ばれ、従来の受信機でも用いられており、技術も成熟している。
【0072】
光電変換器201、202からの信号がアナログ・デジタル変換器(ADC)301、302へ入力されると、アナログの電気波形は時間サンプリングされてデジタル信号に変換される。アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302の周波数帯域も、信号帯域を制限する要因となる。
【0073】
信号がデジタル信号に変換された後は、キャリア、サブキャリア毎に分離するデジタルフィルタ401、402に入力される。キャリア分離を比較的簡単に実現する方法として、OFDM信号のサブキャリア分離に使われるFFT(Fast Fourier Transform)がある。
【0074】
図5は、デジタルフィルタ401、402の構成例を示している。図5に示すように、デジタルフィルタはシリアルパラレル変換回路411とFFT412から構成される。このFFT412は、N個のポート入力、N個のポート出力からなり、各入力ポートが時間系列に対応しており、離散的なサンプリング時間信号を入力すると、その離散時間信号がフーリエ変換された離散周波数スペクトルが各出力ポートから出力される信号処理回路である。ここでは、時間的に連続したシリアルデータを、ある一定のフレーム時間間隔ごとに区切り、シリアルパラレル変換回路411により、パラレルに並べ替えてFFT412の入力ポートに入力する。
【0075】
これにより、FFT412の出力ポートからはその離散フーリエ変換されたスペクトル信号が出力される。従って、入力信号のキャリア(サブキャリア)間隔と、FFTの離散周波数スペクトルの周波数間隔を等しく設定することで、各キャリア(サブキャリア)毎に分離できる。つまり、シリアル/パラレル変換のフレーム周期がキャリア間隔に等しい場合であり、各キャリアのビットレートがフレーム間隔に等しい状況である。また、OFDM信号ではガードインターバル(GI)を付与する場合がある。これは、フレーム周期毎にフレームの先頭と同一の信号をフレームの末尾にコピーして付与するものであり、フレームを越えたシンボル間干渉を抑圧する目的である。この場合は、従来のOFDMと同じくFFTの前にガードインターバル(GI)を除去した後に、キャリア分離する。
【0076】
なお、デジタルフィルタ401、402、および非線形補償演算部501、502は、電気演算回路(例えば、DSP(Digital Signal Processor)等)により演算を行う電気演算回路である。この非線形補償演算部501、502には、複数のキャリアサブ、サブキャリア間の信号ビット位相(例えば、直交周波数分割多重等におけるシンボル位相)の位相同期を取るための位相同期部503と、非線形補償演算を実行する補償演算部504とが、それぞれ含まれている。(位相同期部503で行われる位相同期処理の例については後述する)。
【0077】
また、非線形補償演算部51、502には、補償パラメータ学習部505が含まれており、この補償パラメータ学習部505は、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータのうち、いずれかのパラメータまたはすべてのパラメータを学習する機能を有する。
【0078】
なお、図3において、光90度ハイブリッド101、局発光発生部11、光電変換器201、202、アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302、およびデジタルフィルタ401、402で構成される部分が前述の分離装置に相当する。また、非線形補償演算部501、502内の位相同期部503は、前述の位相同期部に相当し、非線形補償演算部501、502内の補償演算部504は、前述の補償演算部に相当し、補償パラメータ学習部505は、前述の補償パラメータ学習部に相当する。また、補償演算部504を構成する電気演算回路が、前述の補償演算回路に相当する。
【0079】
そして、この分離装置(光90度ハイブリッド101およびデジタルフィルタ401等)により信号光を個々の周波数の搬送波ごとに分離し、位相同期部により、複数の搬送波間の位相同期の前処理を行ったうえで、補償演算部により、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより、複雑な波形歪みの補償を行う。また、補償パラメータ学習部は、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習する機能を有し、この補償パラメータは補償演算部における非線形波形歪の補償演算を行う際に使用される。
(補償パラメータ学習部については、図13において再度説明する)。
【0080】
なお、上記の説明においては、非線形補償演算部501が位相同期部503を内蔵するものとして説明したが、これに限られるものではない。たとえば、位相同期部503を、デジタルフィルタ401と非線形補償演算部501との間に設けるようにしてもよい(後述する図6、図16、および図19〜図34等における他の受信装置においても、非線形補償演算部の前段に位相同期部を配置してもよい)。
【0081】
また、図6は、図1に示す受信装置の回路構成の変形例を示す図であり、光分散媒質を用いてキャリア分離を行う受信装置の例を示している。図に示すように、光分散媒質を用いて、各キャリアを分離することも可能である。
【0082】
図6に示す構成例では、光ハイブリッド121(例えば、光90度ハイブリッド)によって、局発光と同位相成分と、直交位相成分とに分離した後に、それぞれの成分を光分散媒質を用いた光分離器131、132によってキャリア分離している。
【0083】
このとき、各キャリア毎に局発光が必要になるため、分離する信号光のキャリア周波数に、その周波数成分を持つような複数の搬送波を出力する局発光が必要であり、マルチモード局発光発生部12を設ける。この場合に、信号光の周波数と局発光の周波数の差としては、光分散媒質の各チャネルの透過帯域内にあること、及び光電変換の帯域以内であればよい。また、光分散媒質としては、プレーナー型光回路(PLC)技術によってガラス基板などに生成された素子、空間光学系で構成された波長分離素子などがあり、アレイ導波路型グレーティング(AWG)、WSSなどがある。
【0084】
なお、図6において、光ハイブリッド121、マルチモード局発光発生部12、および光分離器131、132で構成される部分が、前述の分離装置に相当する。また、非線形補償演算部501内には図3に示した位相同期部503、補償演算部504、および補償パラメータ学習部505(図6では図示せず)が含まれている。
【0085】
(複数のキャリア間の位相同期(信号ビット位相推定)についての説明)
ここでは、前述した非線形補償演算部501内の位相同期部503を用いて行われる位相同期処理の一例について説明する。
キャリア分離された並列デジタル信号は、サブキャリア、キャリア間の時間遅延(スキュー)を補償される。これは、光ファイバ伝送路の出力端から非線形補償演算部501までの距離が、キャリア、サブキャリアによって異なる場合、また、主要な非線形波形劣化が発生する伝搬位置と、光ファイバ伝送路の出力端までの距離が、波長分散の影響、中継ノードの分波・合波によって、キャリア、サブキャリア間で異なる場合があるためである。
【0086】
このようにキャリア、サブキャリア依存のビット位相遅延がある場合、非線形波形劣化が発生した位置において、隣り合っていた各キャリア、サブキャリアの信号ビットの位相を推定して、そのビット間で非線形補償演算を実施する。その方法として、一般には、各キャリアに対して既知のパターンを送信して、受信される信号の変化から推定することができる。また、あるチャネルだけ信号光をオフ(OFF)にしておけば、そのチャネルに生じるFWMクロストークを受信端で直接検出して、スキューを検出できる。
【0087】
図7に、スキューを検出するための送信パターンおよび受信パターンの例を示す。図7(A)は、送信パターン例を示し、図7(B)は、受信パターン例を示す。ここでは、受信端ではチャネルCh−1、Ch−2、Ch−3のパターンを受信して、チャネルCh−4に発生するFWMクロストーク光との相関からスキューを推定する。
【0088】
図の場合では、チャネルCh−4に発生するFWMクロストークは、チャネルCh−1、Ch−2、Ch−3の積であらわされるため、Ch−1、Ch−2、Ch−3の受信パターンのビット位相をスイープしてみて、チャネルCh−4のFWMクロストークパターンが発生するビット位相関係を推定できる。この方法については、後述する補償パラメータ推定法の部分でも説明する。
【0089】
(非線形補償演算の方法についての説明)
キャリア、およびサブキャリアのチャネル番号nを用いて、その光周波数がv0+nΔv と現されるとき、各キャリアの光ファイバ入力端の光電界波形ET1、ETm、ETnを用いて、出力端のFWM光電界波形ΔEkは次の式(1)で表される。ここで、φkは、キャリア、およびサブキャリアのチャネル番号kの光位相で、データ変調によって変化しない固定成分をあらわす。
【0090】
【数1】
【0091】
これが主信号に加算されるため、非線形歪みを受けた受信信号ERKは次式で表される。
【0092】
【数2】
【0093】
l、m、nの組み合わせによって発生するFWMはk番目のキャリア、サブキャリアのクロストークとなる。組み合わせは様々なキャリア、サブキャリアに対して起こる。この中でも、主要な波形劣化をもたらすFWMクロストークとなる組み合わせに対して、式(1)を適用して送信波形と受信波形の間の関係を記述する。その関係式では、各キャリア(サブキャリア)、各偏波の受信波形が、各キャリア(サブキャリア)、偏波の送信波形同士の積及び和であらわされる。
【0094】
例えば4つの異なる周波数のキャリア、サブキャリアの信号光に対して、送信データによる位相変調を含めた送信波形ET1, ET2, ET3, ET4と受信波形ER1、ER2、ER3、ER4の関係は次式でモデル化できる。ここで、φ1、φ2、φ3、φ4は各キャリアの光源の光位相、κは非線形結合係数、φDlmnは波長分散による光位相回転をあらわしている。
【0095】
【数3】
【0096】
従って、上記のような受信波形と送信波形の関係式を用いて、受信波形ER1、ER2、ER3、ER4から送信波形ET1, ET2, ET3, ET4を推定する。
【0097】
(変動差分による非線形補償演算方法についての説明)
この場合、受信信号から送信信号を直接求めるのではなく、受信信号と送信信号の差分、変動量を求める方法がある。この場合、変動量をΔEkとすると、ETk、ERk、ΔEkの関係は次式(4)になる。ここでは、多元非線形方程式の近似解法を用いて、変動量ΔEkを逐次的に高精度に推定していく。
【0098】
【数4】
【0099】
この方法では、直接受信波形ERから送信波形ETを求めるのではなく、その差分を求めるため、範囲の制限を条件として与えることで、高精度に推定が可能になるなどのメリットがある。
【0100】
また、変動量ΔEが主信号に比べて、小さいなどの条件を仮定することで、収束を早くするようなことも可能である。また、数値近似解法では初期値を仮定するが、ΔEの条件を用いることで、より適当な初期値(予め定められた任意の初期値)を選ぶことも可能になる。
【0101】
例えば、歪み変動量を求める第1段目のステップにおいて、補償前の受信波形を一時的に、多元非線形方程式の一部の送信波形として用いることができ、また、第1段目の変動量推定ステップにおいて、初期値として用いる値を変化させて、補正効果が得られる値を検出することもきる。これにより、適切な初期値を選択することにより、収束を速めるなど、高精度で非線形波形歪の補償演算が行えるようになる。
【0102】
(変動差分法により近似解を求める方法の説明)
FWMクロストークモデルによる波形歪みは、送信端の主信号の光波形に、クロストークの光波形を加えるという形で表される。従って、受信端の波形ERKからクロストーク変動量ΔEKを差し引くことで、送信端の波形ETKを求めることができる。また、受信端の波形ERKからクロストーク変動量ΔEkを推定できる。非線形方程式であり、直接解くのは困難なので、逐次的近似解法を用いて推定していく。
【0103】
第n次の推定送信波形ETk(n)、第n次の推定クロストーク変動量ΔEk(n)とすると、次式(5)、(6)であらわされるような漸化式を用いて、近似解を求めることをできる。
【0104】
【数5】
【0105】
【数6】
【0106】
この式(5)および(6)において、φ1、φ2、φ3、φ4は各キャリアの光源の光位相、κは非線形結合係数、φDlmnは波長分散による光位相回転を表している。
【0107】
図8は、逐次的に非線形方程式を解く演算構成を示す図であり、上記漸化式を用いて、近似解を求める様子を示したものである。ただし、第0次の推定クロストーク変動量ΔEk(0)は、初期値であり適当な値を与える。
【0108】
図8に示す例では、初期値として0(ゼロ)を与えた例である。
【0109】
すなわち、図8においては、第1次の補償演算511_1は、受信波形ER1から、上述した式(6)の第1式に基いて、1次の歪み変動量ΔE1(1)を算出して推定する。第1次の補償演算511_1と同様に、第1次の補償演算511_2、511_3、511_4は、受信波形ER2、ER3、ER4から、上述した式(6)の第2式、第3式、第4式に基いて、1次の歪み変動量ΔE2(1)、ΔE3(1)、ΔE4(1)を、それぞれ算出して推定する。
【0110】
そして、減算器513_1は、(5)式の第1式に基いて、受信波形ER1から推定した変動量ΔE1(1)を減算し、ET1(1)を算出する。減算器513_2は、(5)式の第2式に基いて、受信波形ER2から推定した変動量ΔE2(1)を減算し、ET2(1)を算出する。減算器513_3は、(5)式の第3式に基いて、受信波形ER3から推定した変動量ΔE3(1)を減算し、ET3(1)を算出し、減算器513−4は、(5)式の第4式に基いて、受信波形ER4から推定した変動量ΔE4(1)を減算し、ET4(1)を算出する。
【0111】
続いて、第2次の補償演算512_1は、推定した波形ET1(2)、ET2(2)、ET2(3)、ET4(4)から、上述した式(6)の第1式に基いて、2次の歪み変動量ΔE1(2)を算出して推定する。第2次の補償演算512_1と同様に、第1次の補償演算512_2、512_3、512_4は、推定した波形ET1(2)、ET2(2)、ET2(3)、ET4(4)から、上述した式(6)の第2式、第3式、第4式に基いて、2次の歪み変動量ΔE2(2)、ΔE3(2)、ΔE4(2)を、それぞれ算出して推定する。
【0112】
そして、減算器514_1は、(5)式の第1式に基いて、受信波形ER1から推定した変動量ΔE1(2)を減算し、ET1(2)を算出する。減算器514_2は、(5)式の第2式に基いて、受信波形ER2から推定した変動量ΔE2(2)を減算し、ET2(2)を算出する。減算器514_3は、(5)式の第3式に基いて、受信波形ER3から推定した変動量ΔE3(2)を減算し、ET3(2)を算出し、減算器514−4は、(5)式の第4式に基いて、受信波形ER4から推定した変動量ΔE4(2)を減算し、ET4(2)を算出する。
【0113】
以下、上述した式(5)、および式(6)に基づく処理がn次まで繰り返され、最終的な送信波形T1(n)、ET2(n)、ET2(n)、ET4(n)が推定される。
【0114】
(歪み変動量による非線形補償演算におけるキャリア間の光位相についての説明)
ここでは、前述の位相同期部503(例えば、図3を参照)を用いて行われるシンボル位相の同期処理の例について説明する。
【0115】
上記の式(5)および(6)において、φ1、φ2、φ3、φ4は各キャリア1、2、3、4の光源の光位相、φDlmnは波長分散による光位相回転をあらわしている。
【0116】
まず、第1に局発光発生部の光位相と送信光源キャリアの光位相は非同期状態なので、この間の位相回転を補償する必要がある。一般に、情報伝送では、搬送波の振幅と位相に情報をマッピングして送信する。振幅と位相のマッピングは、複素平面状の点で表すことができ、コンスタレーションマップと呼ばれる。
【0117】
キャリア分離された後のそれぞれのキャリアのデジタル信号は、図9(A)に示すように、送信端の位相マッピング(例えば、図9(C))に対して、受信端の位相マッピング図9(A)は全体に回転している。ここでは、図9(A)は4値位相変調(QPSK)の場合の例であるため、変位方向も4つある。これは、局発光と送信光の位相が非同期であるからである。また、この回転角度は時間変動する。
【0118】
これを補償して図9(B)の状態にする。一般に、位相各キャリアの光位相φkは時間的に変動するが、光通信における変調速度に比較すると数桁も遅い変動であり、時間平均化することでデータの位相変動と分離して、取り出すことができる(例えば、参考文献2を参照)。
【0119】
[参考文献2] D. N. Godard, “Self-Recovering equalization and carrier tracking in two dimensional data communication systems,” IEEE Trans. Communication , Vol. Com-28, No.11, 1980, p.1867.
【0120】
例えば、光源のスペクトル線幅が数kHzであれば、おおよそ1ms程度の時間は位相φkが安定であるため、これ以下の時間間隔の受信信号の光位相を非線形平均化することでφkを推定可能である。
【0121】
また、各サブキャリア、キャリアを多重する前の光路長差、伝送路の光路長差の波長間依存性(波長分散)が時間変化した場合にも、φkは時間変動を受けるが、この時間変動速度もデータ変調による位相変動に比較して数桁も遅いため、時間平均化することで分離して求めることができる。
【0122】
図10は、キャリア推定と位相同期の演算回路図の構成を示しており、図9(A)に示すような受信サンプリング値から、局発光による位相回転θを取り除いて、図9(B)のように補償する方法を示すものである。
【0123】
図10に示すように、複素光電界を4乗して、複数のビット間で平均を取る方法がある(前述の参考文献2を参照)。
【0124】
図10に示す例では、各チャネル受信信号がサンプリングされてデジタル複素数値となったものが、時間系列で順次入力され、4乗演算部521、移動平均部522、位相回転角抽出部(Arg( ))523、および、位相回転処理部(Exp(−jθ))524、および加算器525の処理により、その局発光の位相回転θが取り除かれたデジタル複素数値が出力される。これにより、さらに非線形補償演算を行うことにより、上式のφkに関する項が補償されて、ゼロとすることができる。
【0125】
第2に、クロストーク変動は複素数で表され、非線形歪み補償のためにはその複素平面上での位相回転を推定する必要がある。上式の波長分散による光位相回転φDlmnに対応するものであるが、その変動量の位相角度は、波長分散、送信端におけるキャリア間の光路長差、送信端の各キャリア間の相対位相変動などに依存する。
【0126】
この理由を説明すると、例えば、FWMクロストークはその元となるキャリアの光位相に依存しており、クロストークを補償するためには、各キャリア間の相対位相関係が必要になる。特に、各キャリア、サブキャリアが位相変調されている場合、FWMクロストークの光電界の位相は、隣接チャネルの送信データに依存した変調位相と、キャリア、サブキャリアの光源の相対位相に依存する。このFWMクロストークの光電界が主信号の光電界に重畳した場合、主信号の光位相とFWMクロストークの光位相との相対位相に依存して波形歪みが生じる。
【0127】
受信波形を時間サンプリングし、その値を複素数平面状にプロットしたコンスタレーションマップ上では、図9(B)に示すように、FWMクロストークによってプロットの位置が変位する。FWMクロストークの発生元となる各キャリア、サブキャリアの送信データによる位相変調に依存して、FWMクロストークの光位相は変化する。
【0128】
この角度を推定する方法として、図7で示したように、あるチャネルをOFFにしてそのチャネルに発生するFWMクロストーク光電界を検出する方法がある。図の例では、Ch−4をコヒーレント検波することにより、そのFWMクロストークの振幅と位相が検出できる。また、それを引き起こすCh−1、Ch−2、Ch−3の各ビットにおける位相も推定できているから、それらの相関関係から上式のφDlmnを推定できる。
【0129】
また、図9(c)に示すような補償後のコンスタレーションが、同一の円状に乗るように、補償後のプロットの分布の分散が小さくなるように、φDlmnを推定するブラインド推定も可能である(前述の参考文献2を参照)。
【0130】
(補償演算に必要な伝送路の状態を示す非線形結合定数等のパラメータの推定の説明)
また、上式における非線形結合係数κも補償演算に必要である。この値は、FWMクロストーク効率を決めるものである。
【0131】
この値の推定法としては、図7で示したように、あるチャネルをOFFにしてそのチャネルに発生するFWMクロストーク光電界を検出する方法がある。図7に示す例では、Ch−4をコヒーレント検波することにより、そのFWMクロストークの振幅が検出できる。従って、その他のチャネルCh−1、Ch−2、Ch−3の振幅・位相マッピングも推定できているから、FWMの振幅とそれを引き起こすチャネルの振幅の関係から、非線形結合定数κが推定できる。
【0132】
また、図9(C)のような補償後のコンスタレーションが、同一の円状に乗り、補償後のプロットの分布の分散が小さくなるように、非線形結合定数κを推定するブラインド推定も可能である。また、式では、すべてのFWMクロストーク変動量項に対して、同一の非線形結合定数κを用いているが、個別に推定することでより補償精度を向上できる。
【0133】
また、非線形結合係数κ、分散位相回転φDは、伝送路の非線形係数、偏波の状態、波長分散に依存するパラメータである。これらの値は、光ファイバの種類によって、ある程度決まった典型値があるため、この値を用いることもできる。
【0134】
また、これらの値は、光ファイバ伝送路の製造法、メーカーに依存すること、また、伝送路がおかれた環境変動によって時間変化することを想定すると、これらの値を推定、もしくはモニタして非線形補償の演算部へフィードバックする構成が必要になる。損失係数α、波長分散に依存する2次伝搬定数β2、波長分散スロープに依存する3次伝搬定数β3などの推定も必要になる。詳細は補償パラメータ推定法の部分で記述する。
【0135】
(光伝送路における非線形波形劣化のモデル記述式についての説明)
この場合、光ファイバ伝送路の出力端の光信号波形から入力端の光信号波形を推定する。一般に、光ファイバ伝送路の伝搬による波形変化は、非線形シュレディンガー方程式でモデル化して記述される(次の参考文献3を参照)。
[参考文献3] Agrawal著, Nonlinear Fiber Optics, third edition, p.39-45
【0136】
非線形シュレディンガー方程式にファイバ出力端での振幅・位相波形、もしくは複素平面表示において位相直交する2つの成分(同位相成分・直交位相成分)の時間波形を伝搬軸z=L(L:伝送ファイバ長)での境界条件として与えることで入力端z=0での波形を求めることができる。その際、伝搬定数として、損失係数:α,分散β2、分散スロープβ3、非線形係数γを与える必要がある。
【0137】
(FWM非線形波形劣化でモデル化、連立方程式の説明)
光ファイバ伝送路の非線形によるFWM発生は、簡単な数式によってモデル記述される(前述の参考文献1を参照)。
【0138】
(XPMおよびSPMを含む非線形全般の補償についての説明)
l、m、nの組み合わせにおいて、l=nに縮退した場合は、相互位相変調と呼ばれる現象を記述しており、これはn番目のキャリア、サブキャリアの強度に比例して、k番目のキャリアの位相回転が発生する。さらに、l=m=n=kの縮退の場合は、自己位相変調(SPM)に相当する。FWMクロストークを用いたモデルでは、上記のようにFWMクロストークとして解釈されている非線形現象だけでなく、XPM、SPMも記述することができる。
【0139】
FWMクロストークの光位相は自身の光位相との関係がまったくランダムなのに対して、l=nの相互位相変調(XPM)、l=m=nの自己位相変調(SPM)は、クロストーク光が主信号に対して光位相が直交しているため、クロストークによる波形劣化が小さい。このため、XPM、 SPMによる変動は無視して、計算量削減のために、主信号に対する相対位相がランダムなFWMクロストークのみに特化してもよい。
【0140】
(4キャリアの場合の例)
例えば、4つの異なる周波数のキャリア、サブキャリアの信号光に対して、送信データによる位相変調を含めた送信波形ET1, ET2, ET3, ET4と受信波形ER1、ER2、ER3、ER4の関係は次式(7)でモデル化できる。ここで、φ1、φ2、φ3、φ4は各キャリアの光源の光位相、κは非線形結合係数、φDlmnは波長分散による光位相回転をあらわしている。
【0141】
【数7】
【0142】
(FWMクロストークモデルの近似解についての説明)
受信信号波形は、送信信号の波形の各チャネルの値の積で表される。従って、受信信号から送信信号のシンボルを求める際には、非線形連立方程式を解くことになる。解析的に解くことが困難な場合が多く、非線形方程式を数値計算によって近似的に解く方法を用いる。数値計算法にはさまざまな方法が提案されている。一般的には、適当な初期値を与えて、解析的に解を求めることができるような簡単な方程式、例えば線形方程式に変換して近似解を求める。さらに、その近似解を用いて、同様の手順により精度の高い近似解を求める。この動作を繰り返し演算することで、徐々に真の解に近い値を求めていく方法である。
【0143】
(多元Newton法)
FWMクロストークモデルによる波形歪みは、送信端の主信号の光波形に、クロストークの光波形を加えるという形で表される。ここで、加わるクロストークの光波形が、自身キャリア(サブキャリア)だけでなく、周囲のキャリア、サブキャリアを含めた3つの光電界波形の積で表されるため、送信波形と受信波形の関係は多元連立非線形方程式になる。ここで、この解を近似的に求める方法として、多元ニュートン法がある(参考文献5を参照)。
【0144】
[参考文献5] L. K. Schubert, “Modification of a Quasi-Newton Method for Nonlinear Equations with a Sparse Jacobian," Mathematics of Computation, Vol. 24, No. 109 (Jan., 1970), pp. 27-30
【0145】
また、2分法、逐次代入法、Steffensen法を多元化した方法などがある(次の参考文献6を参照)。
【0146】
[参考文献6] 野田, "連立非線形方程式に対する一般Steffensen反復法(非線形計画法(2))," 日本オペレーションズ・リサーチ学会秋季研究発表会アブストラクト集, 2-A-5, p.128-129
【0147】
そこでは、図11(A)に示すように、ある適当な初期値を用いて、非線形方程式を線形方程式に変換するなど簡単化して、一次解を求める。この一次解を用いて再び非線形方程式を簡単化して、二次解を求める。同様に、n次解を用いてn+1次の解を求める作業(ステップS11〜S13)を繰り返すことで、数値計算により非線形方程式のより精度の高い解を得る。また、図11(B)は、n次近似解およびn+1次近似解を求めた後に(ステップS21およびS22)、n+2次の解を求める際に(ステップS23)、n次の近似解、及びn+1次の近似解を用いる方法である。
【0148】
(受信波形を初期値に用いる逐次法についての説明)
FWMクロストークモデルによる波形歪みは、送信端の主信号の光波形に、クロストークの光波形を加えるという形で表される。従って、クロストークの光波形を求め、その値を受信された光波形から引くことで、送信光波形が求められる。この方法を図8に示した。
【0149】
この方法を用いる場合、受信波形からクロストークの光波形を求めることが必要になる。簡単な方法として、FWMクロストークによる送信波形と受信波形の関係式、式(8)から式(8)の第2項以降のFWMクロストークの項において、送信波形を受信波形で置換してクロストーク波形とする方法がある。これを受信波形から引くことで、第1の送信波形推定値ETK(1)を推定できる。次に、この第1の送信波形ETK(1)をFWMクロストークを求める式に送信波形として代入して、再びFWMクロストーク波形を求め、受信波形ERKから引くことで、第2の送信波形推定値ETK(2)を求めることができる。これを繰り返すことで、より精度の高い送信波形を推定していく。式で示すと次式になる。
【0150】
【数8】
【0151】
なお、この場合の計算回路図は、図8に示した計算回路図と同様になる。
【0152】
また、上記の方法の改良版として、FWMクロストークによる送信波形と受信波形の関係式、式(2)から(8)の第2項以降のFWMクロストークの項において、自分のチャネル以外では送信波形ETmを受信波形ERm、もしくは逐次的に求めた推定値ETm(p)で置換するが、自身のチャネルに対しては送信波形ETkとして、多元線形方程式に変換してETkを求める方法がある。
【0153】
自身のチャネルに対しては、送信波形を受信波形で近似することがないため、この分だけ精度の高いFWMクロストーク波形を求めることができる。受信波形は、送信波形にFWMクロストーク波形を加算した波形となるが、このモデル式のFWMクロストークの項において自身のチャネル以外の送信波形をそのチャネルの受信波形で置換すると、受信波形は既知なので自身のチャネルの受信波形と送信波形の関係を表す1次線形方程式となる。これは簡単に解けて、第1の送信波形の推定値を求めることができる。この波形から受信波形を引いた波形は、FWMクロストークの波形になるため、歪み変動量を求める方法としても理解することができる。
【0154】
なお、図12は、多元非線形方程式を近似的に解く演算回路例を示しており、ここでは、ステップS31で示す第1次の演算ステップでは、受信波形ER1、ER2、ER3、ER4から、第1の推定送信波形E1(1)、E2(1)、E3(1)、E4(1)を推定する。続いて、ステップS32で示す第2次の演算ステップでは、例えば、E1(2)の波形については、受信波形ER1、および第1の推定送信波形E1(1)、E2(1)、E3(1)、E4(1)を基に、第2の推定波形E1(2)を推定する。他の第2の推定波形E2(2)、E3(2)、E4(2)、についても同様である。
【0155】
(補償パラメータ学習部505による補償パラメータ推定法についての説明)
伝送路の非線形結合定数、波長分散、もしくはそれらによって決まるFWM発生効率、及びFWMと主信号の相対位相差が補償演算に必要である。また、送信端光源のキャリア、サブキャリア間の相対位相、もしくはそれによって決まるFWMクロストークと主信号の相対位相も補償演算に必要である。
【0156】
さらに、送受信ビット位相と非線形が発生した位置におけるキャリア、サブキャリア間のビット位相遅延差も補償パラメータとして必要である。
【0157】
これらの値は、送信端から既知の送信信号を送って、受信端においてその送信パターンの歪みを分析することで、非線形結合係数、波長分散などの伝送路パラメータを測定できる。また、未知の実トラヒック信号を受信しながら、その補償演算効果が最も高くなるように補償パラメータを推定するブラインド推定法も可能である(前述の参考文献2を参照)。
【0158】
また、光伝送システムを流れる信号は、フレーム構造を有するため、そのフレームがもつ特徴的な信号パターンを既知信号として利用して、補償パラメータを推定する方法もある。なお、ここでは偏波多重における独立な2つの偏波も、キャリア、サブキャリアという言葉で含めてあらわす。つまり、例えば2つの異なる偏波の信号を多重した場合、それは2つのキャリア、サブキャリアによって生成される信号だと想定する。また、各偏波に対して2つのキャリア、サブキャリアが多重された信号光を、さらに偏波多重した場合、この信号は合計で4つのキャリア、サブキャリアによって合成されていると考える。
【0159】
非線形補償演算部では、非線形補償演算部への入力位置と光ファイバ出力端での各キャリア、サブキャリアの信号ビット位相遅延差、もしくは非線形補償演算部への入力位置と、非線形波形歪が主に発生した位置での各キャリア、サブキャリアの信号ビット位相遅延差を補正する。また、非線形結合定数、FWMと主信号の光位相差を推定して、補償演算部へ入力する。非線形補償演算部では、これらの値を用いて、非線形補償演算を実施する。
【0160】
図13は、補償パラメータ推定部と補償演算回路の構成例を示す。図13に示す構成例においては、送信側から送信されるパイロット信号等を基にして、各キャリア、サブキャリア間のスキューをモニタするスキューモニタ部532と、スキューモニタ部532におけるスキューの検出結果を基に、各キャリア、サブキャリア間のスキューを補正するスキュー補正部531と、送信信号と受信信号の関連を表す連立非線形方程式の非線形結合定数を推定する非線形結合定数推定部533と、送信信号と受信信号の位相を推定する位相推定部534と、非線形結合定数推定部533および位相推定部534で得られたパラメータを基に、スキュー補正された信号の非線形補償演算を行う非線形補償演算処理部535とで構成される。
【0161】
なお、スキューモニタ部532、スキュー補正部531と、非線形結合定数推定部533と、位相推定部534が、前述の補償パラメータ学習部に相等する。この補償パラメータ学習部は、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習し、それらの値を前記補償演算回路に入力する。
【0162】
このように非線形補償演算を行う場合は、第1に、光ファイバ伝送路の出力端からデジタル演算部までの各キャリア、サブキャリア間のビット時間位相遅延(スキュー)を調整する回路が必要となる。非線形波形歪の補償には、その非線形波形歪が発生した伝送路位置における各キャリア、サブキャリアの時間波形を用いる必要がある。波長分散の補償演算がある場合には、光ファイバ出力端から非線形波形歪が発生した伝播位置まで遡ることが可能であり、光ファイバ出力端からデジタル演算部までの時間遅延差を推定できればよい。一方、分散補償演算がない場合には、非線形演算部でスキューを考慮した補償が必要になる。
【0163】
光ファイバ伝送路の出力端から補償演算部までの距離が、キャリア、サブキャリアによって異なる場合が想定される。また、主要な非線形波形劣化が発生する伝搬位置と、光ファイバ伝送路の出力端までの距離が、波長分散の影響、中継ノードの分波・合波によって、キャリア、サブキャリア間で異なる場合も想定される。このようにキャリア、サブキャリア依存のスキューがある場合、非線形波形劣化が発生した位置において、隣り合っていた各キャリア、サブキャリアの信号ビットの位相を推定して、そのビット間で非線形補償演算を実施する。したがって、あるキャリア、サブキャリアに対して受信端で受信されたFWMクロストークが、各キャリア、サブキャリアの受信信号のどの信号ビット位相同士が発生させたものか、推定する必要がある。
【0164】
これをモニタする方法として、パイロット信号を送付して、その受信波形から推測する方法がある。最も単純な基本パターンとしては、それぞれのキャリア、サブキャリアにおいて、単一のビットパルスを出力して、FWMクロストークが発生するチャネルのFWMクロストーク発生位置、及びコヒーレント受信することでその光位相を検出する。単一パルスの位置を1ビットずつシフトさせて、FWMクロストークの発生パターン、及び振幅・位相を観測する。
【0165】
図14は、補償パラメータ推定のための送信パイロット信号の例を示し、チャネルCh−1、Ch−2、Ch−3によって、チャネルCh―4に発生するFWMクロストークの発生位置、およびその光位相と振幅を求める。これにより、送信信号と受信信号の関連を表す連立非線形方程式の非線形結合定数、位相項も推定できる。
【0166】
また、シングルパルスでなくても、例えば擬似乱数バイナリ系列(PRBS)などの既知の信号列であれば、発生するFWMクロストークのパターンにマッチするようなキャリア、サブキャリア間のスキュー量を探しあてることが可能である。キャリア、サブキャリア間にあるビット位相遅延を想定すれば、FWMクロストークの発生パターンが予測できる。ビット位相遅延量を掃引して、FWMクロストークの予測パターンと実際に観測されたFWMクロストークパターンが一致するようなスキューを探しあてる。
【0167】
(発明の効果を示す実験・シミュレーション結果についての説明)
3つの異なる周波数の搬送波をそれぞれ個別にPRBS NRZパターンで変調し、20kmの分散シフトファイバを伝送した。このとき、光ファイバへの入力パワーを増大させ、非線形波形歪が大きい状態に設定している。特に、3つのチャネルの中心のチャネル2では、非線形波形歪が大きい。受信端において3つのチャネルを分離し、チャネル2に対して観測された光電流値の確率分布を図15に示す。本来期待される確率分布では、デジタルデータ0と1に対応した2つのピークがみられるはずである。ところが、図15(A)に示す分布補償前の確率分布では、確率分布に3つのピークがみられ、他のチャネルからの干渉が発生していることがわかる。このとき、デジタル判別閾値を図のように設定した場合に誤り率が最小になり、4.7×10−3であった。これに対して、補償演算を実施したところ、図15(B)に示すような2つのピークを有する分布を示した。従って、波形歪みがない理想的な場合の確率分布に類似したものである。このとき、誤り率は5.0×10―4 まで1桁程度低減しており、補償効果が顕著にみられる。
【0168】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態として、偏波分離を行う例(例えば、2キャリア+偏波の例)について説明する。図16に偏波分離器を追加した受信装置の構成例を示す。
【0169】
偏波多重された信号光を受信する場合、偏波分離器(PBS:光ビームスプリッタ)21により独立した2つの偏波に分離する。そして、それぞれの偏波の信号光と、局発光とを光90度ハイブリッド101、102に入力し、それぞれの偏波に対して、局発光と同位相成分、および直交位相成分に分離する。この信号光は、光電変換器201〜204に入力され、電気信号に変換され、さらにアナログ・デジタル変換器(ADC)301〜、304によりデジタル信号に変換される。
【0170】
さらに、第1の実施の形態で示したように、分波フィルタ(デジタルフィルタ等)341〜344内のFFTを用いて各キャリアの信号に分離できる。この状態では、各キャリア毎、偏波毎に分離されたデジタル信号が得られている。
【0171】
しかし、一般に、光ファイバ伝送路を伝送した後の受信信号の偏波はランダムであり、偏光ビームスプリッタ(PBS)21の2つの偏波軸と受信信号光の多重された2つの偏波軸はあっていない。そのため、光ビームスプリッタ(PBS)21で2つに分離されたそれぞれの出力ポートには、偏波多重された2つの信号光が互いに混入している。
【0172】
このため、偏波分離演算部601〜604により偏波分離演算を行う。この場合に、単一のキャリアの信号光の偏波分離方法は従来技術としてあり、前述の「参考文献2」に記載されているように、デジタル信号処理を用いて実施できる。キャリア分離した後の信号光に対しては、同様なアルゴリズムでそれぞれの偏波信号に分離できる。また、同時にPMDの補償も可能である。偏波分離された信号光は、次に、キャリア・サブキャリア分離されたデジタル信号は、非線形補償演算部501に入力される。
【0173】
サブキャリア多重と偏波多重された信号光の非線形補償演算では、N個のキャリア・サブキャリア間と2つの偏波間、合計2N個の搬送波間のFWMクロストーク発生モデルで非線形波形歪を記述し、その歪みを補償する。サブキャリア数が2本の偏波多重の信号光におけるFWMクロストーク発生パターンを図17に示す。
【0174】
図17は、E_Lxのキャリアに対して重畳するFWMクロストーク発生パターンを示しており、他のキャリアに対しても対称な関係で発生する。ここでは、FWMクロストークとは自分自身の主信号の位相とクロストークの位相の関係が直交しておらず、ランダムに変化するようなものと定義している。それぞれのパターンに対する非線形係数χの大きさの比較を図17の下側の表に示している。ここでは、同一偏波の信号光に対する非線形係数χの大きさ3を基準にした値である(次の参考文献4を参照)。
【0175】
[参考文献4] Agrawal著, Nonlinear Fiber Optics, third edition, p.207.
【0176】
この3つのパターンを考慮して、FWMクロストークによる波形歪みを受けた受信信号を表現する。これを解くことで、受信波形から送信波形を推定できる。その演算回路は、FWMクロストークモデルの近似解で記す。
【0177】
【数9】
【0178】
この連立非線形方程式は、第1の実施の形態で示した演算回路構成で計算することができる。
【0179】
なお、図16において、偏波分離器(光ビームスプリッタ(PBS))21、22は、前述の偏波分離装置に相当する。また、光90度ハイブリッド101、102、光電変換器201、202、アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302、303、304および分波フィルタ341、342、343、344で構成される部分が前述の分離装置に相当し、偏波分離演算部601、602、603、604は、前述の偏波分離演算部に相当する。また、非線形補償演算部501には、図3に示す位相同期部503、補償演算504、および補償パラメータ学習部505(図16では図示せず)が含まれている。
【0180】
そして、偏波多重された信号光を偏波分離装置によって2つに分離し、偏波分離演算部により各搬送波周波数ごとの2つの偏波の間の干渉を取り除いた後に、この複数の搬送波間の非線形波形歪を補償するため、位相同期部により、搬送波間の位相同期の前処理を行う。それから、補償演算部により非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等の波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより波形歪みの補償を行う。これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現することができる。なお、補償パラメータ学習部505は、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習する機能を有し、この補償パラメータは補償演算部における非線形波形歪の補償演算を行う際に使用される。
【0181】
[第3の実施の形態]
(3キャリア直接受信の例)
受信端でコヒーレント検波を想定していたため、光位相も含めた光波形の情報を得られ、送信波形と受信波形の関係を記述する数式において、受信波形ER1、ER2、ER3、ER4を複素数として与えることができる。一方、従来の強度変調信号ではコヒーレント受信を用いないで、直接受信を用いる構成が一般的である。強度変調信号の場合、FWMクロストークと主信号の相対位相が不明であっても、個々のキャリア、サブキャリア間の相対位相差を推定できれば、非線形補償演算が可能である。
【0182】
チャネルkの光電流値Ikは、チャネルl, チャネルm, チャネルn、から発生する FWMクロストーク電界によって干渉を受ける。ただし、l+m=n+k。この光電流値Ikは、各チャネルの光ファイバ伝送路への入力パワーPk(t)、Pl(t)、Pm(t)、およびPn(t)を用いて次の解析式で表される。
【0183】
【数10】
【0184】
ここで、位相整合条件に依存する非線形結合係数を、ηl,m,nexp(iΔθl,m,n)、縮退係数(degeneracy factor)をDl,m,n、損失係数をα, 各チャネルの光位相をφk、φl、φm、φnとした。なお、「Δφl,m,n=φl+φm−φn−φk+θl,m,n」と定義する。
【0185】
この式が全チャネルに対して用意され、この連立多元方程式を解析的に解くことは困難であるため、第2項目以降の光ファイバ伝送路への入力端、つまり送信端の光パワーPn(t)を受信光電流値In(t)で置換して、第1の送信端の光パワー推定値を得る。今度は、この値を第2項目以降の送信端光パワーとして用いて、第2の送信端の光パワー推定値を得る。この作業を繰り返すことで、より精度の高い送信端光パワーを求める。ただし、光電流と光パワーを同一の次元で取り扱うことになり、規格化、もしくは非線形結合定数η´l,m,nの再定義が必要である。そこでは、光ファイバ伝送路の損失、光電変換器の変換効率も含めて規格化、もしくは再定義する。実際には、デジタル信号処理で実施するため、光電流値をサンプリングした値を用いる。ここで、送信端光パワーと受信光電流値が同一の振幅スケールで扱えるように、規格化した非線形結合定数ηを用いて、逐次的に送信端の光パワーサンプリング値を求める式を次に示す。
【0186】
S(0)k,iは、サンプリング時間番号i番目、チャネルkの送信端光パワーで、逐次的求めた第pの推定値を表す。ただし、非線形結合定数ηは光ファイバ損失を含んだ値として定義される。
【0187】
【数11】
【0188】
ここで、3チャネルの場合には、縮退係数が「D2,2,3=D2,2,1=3」、「D1,3,2=6」で与えられるため、次式で求められる。また、位相整合条件による位相項Δφも単一の値を用いて記述できる。
【0189】
【数12】
【0190】
この漸化式を解くことで、受信端の波形から送信端の波形が算出できる。
【0191】
[第4の実施の形態]
(自己位相変調(SPM)位相回転モデルを使用する例についての説明)
あるキャリア、サブキャリアの信号光の光強度波形を変化させて、他のキャリアが受ける位相回転を測定することでも、非線形定数などの演算パラメータを測定値から推定できる。その光強度波形の変化の傾きを変化させて、より高精度に測定することも可能である。また、キャリア、サブキャリアの周波数間隔を変化させて、受信端で観測されるビート信号を測定することで波長分散を測定することもできる。
【0192】
伝送路パラメータの測定方法には、そのほか様々な方法が提案されている。非線形伝搬定数に関しても測定方法が提案されており、これらの原理を用いて測定することが可能である。ただ、測定に際してファイバ入力端から測定用の光を入力し、出力端から出力される光を分析する方法が一般的であるが、実際のシステムでは入力端と出力端が数十km以上離れた地点にある場合が多く、これらの原理をそのまま応用することは不可能である。
従って、伝搬定数測定のためのパイロット光を信号光に含ませておくことが必要になる。パイロット光としては、各伝搬定数測定方法にあわせたものを用意する。さらに、伝搬定数測定に必要な情報のやりとりは、トランスポンダの上りと下りの経路、OSC(Optical Supervisory channel)などを用いて転送することが可能である。
【0193】
理想的にはシュレディンガー方程式を数値的に解いて逆伝搬演算する方法が望ましいが、計算量が膨大になる。そこで、近似的に光ファイバ伝送路の出力端波形から入力端波形を推定する方法が必要になる。波長分散によってチャネル間の群速度差が生じて、隣接チャネルのビットが1ビット程度ずれるウォークオフ現象が発生する。
【0194】
ウォークオフが発生する距離の指標としては、分散長「LD=c/(λ2R2D)」がある。ただし、c:光速、λ:波長、R:ビットレート、D:波長分散である。この場合、ウォークオフ現象の発生による影響が十分小さい距離の区間に区切って、線形な波形劣化と非線形な波形劣化が同時ではなく順に発生する近似モデルを用いる方法もある。また、伝送路ファイバでは、その損失係数によって伝搬するに従って徐々に信号光パワーが減衰する。光非線形効果は光パワーが大きい場合に大きく発生するため、一般には伝送路ファイバの入力端から数kmまでに発生する非線形効果がドミナントである。従って、それ以降の部分においては、線形伝搬に近似することができる。その距離指標としては、損失係数αとファイバ長Lによって決定される実効ファイバ長「Leff=(1−e―αL)/α」 がある。この方法を用いると、非線形伝搬を記述するシュレディンガー方程式を用いて逆伝搬演算する距離を短くできるため、演算量を削減できる。
【0195】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態としてスプリットステップ法について説明する。光ファイバ伝送路の非線形波形劣化は、光電界強度に比例した光位相回転として捕らえることができる。しかし、光電界強度は波長分散(光の波長によって光の速度がわずかながら異なるため、波長の短い光と長い光では到達時間がわずかにずれる現象)によって伝播中に変化すること、非線形位相回転が波長分散によって光強度波形の変化をもたらすことから、非線形位相回転と波長分散は複雑に絡み合っている。
【0196】
非線形シュレディンガー方程式は、この波形変化を記述するモデル式である。従来より、このモデル式を数値計算で解く方法が提案されている。分割ステップフーリエ分析(Split-Step Fourier)法が有望な方法としてある(次の参考文献7を参照)。
【0197】
[参考文献7] Govind P. Agrawal, Nonliear Fiber Optics, Third Edition, p.51
【0198】
これは、光ファイバ伝送路を細かい区間に区切り、各区間における波長分散による波形変化と損失を表す線形演算と、光電界の強度に比例した非線形な位相回転を表す非線形演算とを繰り返し計算する方法であり、一般に、送信波形の光ファイバ伝搬による変化、及び受信波形を予測する目的で用いられていた。
【0199】
ここでは、逆に、受信波形から送信波形を推定する目的で利用する。伝搬距離zにおいて、「z=0」での波形を初期値として与えて、「z=L」での波形を予測するのではなく、「z=L」での波形を初期値として与えて、「z=0」での波形を推定する。
【0200】
伝搬距離zにおける時間波形A(z、T)が、z+hまで伝搬した後の時間波形A(z+h、T)は、
【0201】
A(z+h,T)=exp(hD)exp(hN)A(z,T)、で与えられる。
【0202】
ただし、D、Nはそれぞれ線形演算、非線形演算を表し、Nは時間ドメインで、Dは周波数ドメインで演算される。つまり、A(z,T)は非線形演算を実施された後、exp(hD)により、フーリエ変換により周波数ドメインの関数に変換され、線形演算Dを実施され、逆フーリエ変換で時間ドメインの関数に戻される。
【0203】
図18(A)、図18(B)に示すように、線形逆伝播のステップ(ステップS41)、IFFのステップ(ステップS42)、非線形逆回転のステップ(ステップS43)、およびFFTのステップ(ステップS44)のプロセスを繰り返し実施する。
【0204】
この場合に、「z=L」を初期条件として与えて、逆伝搬させるためには、hを−hとしてz点での波形からz−hでの波形を求めるという演算を繰り返すことで、受信端の波形から送信端の波形を計算できる。
【0205】
また、逆伝播を実施する他の方法として、損失係数α, 波長分散D[ps/nm/km]に比例する2次の伝搬定数β2、 波長分散スロープに比例する3次伝搬定数β3、 非線形係数γなどの伝搬定数の符号を正負反転させることで、逆伝搬演算が可能である。また、N非線形演算の逆演算としては、FWMクロストークモデルを用いた演算と、自己位相回転モデル(第4の実施の形態)を用いた演算があり、それらの具体的な演算回路は前述のとおりである。
【0206】
細かく区間を分割する方が、精度よく計算できるが、逆に計算への負荷が増大する。ここでは、計算負荷を低減するために、区間を長くして計算ステップを低減することが重要である。その場合、計算に用いるα、β2、β3、γなどの伝搬定数の値として、実際の値ではなく、補償効果が高くなるような実効値を用いることになる。トレーニングパターンから補償パラメータを学ぶ場合には、その値が実効値に近い。また、ブラインド推定の場合、補償後の波形歪みが最も小さくなるようにフィードバック制御する。従来技術のトレーニング方法、ブラインド推定法を本発明に適用することで、より制度の高い推定が可能である。
【0207】
(FWM発生に関する補足説明)
一般に、FWMとは3つの異なる周波数(ω1,ω2,ω3)の光がミキシングされ、新たな周波数ω、例えば、「ω=ω1+ω2+ω3」の光が生成される現象である。これは非縮退型FWMと呼ばれるが、3つの周波数のうち2つが縮退している場合もある。WDM伝送においては、FWMは3つ、若しくは2つのチャネルの信号光によって発生するFWM光が別のチャネルに重畳するというチャネル間クロストークを誘発する。
【0208】
FWMの発生効率は光ファイバ伝送路の分散特性に大きく依存し、零分散波長帯近傍においては位相整合条件が満たされるため、FWMに起因するWDMチャネル間クロストーク量が大きくなり、それによる波形劣化が大きいという課題がある。
【0209】
例えば、劣化要因パラメータとしてクロストーク量を設定した場合で具体例を説明する。ある光ファイバ伝送路区間の零分散波長が与えられたとき、その区間においてチャネル−i、−j、−kによって、チャネル−n(n=i+j−k)に発生するFWMクロストーク量は次の解析モデル式によって表される(参考文献1、3を参照)。
【0210】
「参考文献1」 P.O. Hill, "cw-three wave mixinGIn single mode optical fibers," J. Appl. Phys., 5098
【0211】
「参考文献3」 Agrawal著, Nonlinear Fiber Optics, third edition, p.39-45
【0212】
【数13】
【0213】
ここで、Ei、Ej、Ek、Enはそれぞれチャネルi,j,k,nの光電界振幅、aは損失係数、χは非線形係数、Lはファイバ長である。
【0214】
また、Δκは位相不整合量をあらわし、チャネル周波数間隔Δf, 零分散波長λ0、波長分散スロープ∂D/∂λに依存する。
【0215】
【数14】
【0216】
ただし、n0は零分散波長の波長位置をチャネル番号であらわした値であり、零分散波長λ0とCh−1の信号光波長によって「n0=c/(λch1−λ0)/Δf−1と表現される。
【0217】
実際には、様々なチャネル組合せi,j,kによって、チャネルnにFWMクロストークは生成される。これらの総和を求めることで、チャネルnに生成されるクロストーク量が求められる。このとき、各組み合わせで生成される電界クロストーク量は振幅と位相で表される二次元ベクトル量であるため、本来であれば光電界ベクトルの和となる。ただ、一般のWDMシステムでは、各チャネルの光源として個々のレーザ光源を用意するため、それらの位相関係は無相関であり、時々刻々変化する。従って、各チャネル組合せで発生する電界FWMクロストークをベクトルで和をとるためには、光位相が既知である必要があり、一般には困難である。このキャリア間の相対位相を一意に固定することで、非線形波形劣化の補償が容易になる。
【0218】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態に係わる受信装置の構成例について説明する。
(基本構成の説明)
伝送路が非線形であれば、周波数軸上で独立であり、互いの干渉がないようなチャネルであっても、光ファイバ伝送路の非線形を介して互いに干渉(クロストーク)を発生する。この干渉は、光ファイバ伝送路の特性に依存するものの、その波形歪みは主に隣接チャネルの送信波形から予測可能であり決定論的である。従って、光ファイバ伝送路の伝送特性を記述するモデルがあれば、主要な隣接チャネルの送信波形と、非線形波形歪を受けた受信波形との関係を記述できる。従って、この関係を逆に解くことで、隣接チャネルの受信波形から送信波形を求めることができる。
【0219】
上記の方法で受信端において非線形波形歪を補償するためには、隣接するチャネルの受信波形を観測し、各チャネルの受信波形をパラレルに取り込み、光ファイバ伝送路モデルの記述を逆に解いて非線形波形を等化する補償回路に入力する。
【0220】
(光90度ハイブリッド、光分波の構成の説明)
第6の実施の形態においては、受信端における局発光発生部として位相同期マルチモード局発光を使用する。受信端における局発光発生部として、各キャリア、サブキャリア間の相対位相が時間的に変化がなく、一意に固定されているマルチモード光源を利用すると、どのキャリア、サブキャリアの信号光もコヒーレント受信するための基準位相が共通化されるため、送信データ変調による位相変化を除いた互いのオフセット位相、オフセット周波数がわかる。
【0221】
従って、FWMクロストークが発生した伝送位置における各キャリア、サブキャリア間の相対位相の関係がわかり、その補償が可能になる。キャリア、サブキャリア間の相対位相が固定されている場合であっても、局発光の各キャリア、サブキャリア間の位相関係の初期値、及び光ファイバ伝送路の波長分散による位相回転、非線形効果による平均的な位相回転など、様々な位相回転の要因がある。そのため、トレーニングパターンやパイロット信号などの既知の信号を送付して、各キャリア、サブキャリア間の局発光発生部の相対位相を一旦学習しておく方法も有効である。
【0222】
また、補償後の波形をモニタして、補償効果の大きさを表すパラメータを導入して、その値をモニタして、補償効果が高い状態をブラインド推定によって維持する方法もある。CMA(Constant Modulus Algorism)などがその例である。その場合でも、局発光の各キャリア、サブキャリア間の位相関係が固定しているので、光ファイバ伝送路の出力端、及びFWMクロストーク発生位置におけるそれらのオフセット位相、オフセット周波数の相対関係を、一旦学習した位相関係を用いて推定できる。つまり、ある時点で学習しておけば、その値をそれ以降の時間に対して適用できる。位相同期光源であっても、時間によって揺らぎが発生しうるので、補償演算に用いる位相オフセット、周波数オフセットの値を時折更新する必要もある。
【0223】
(光90度ハイブリッドについての説明)
位相同期マルチモード光源を局発光として利用する場合、そのキャリア、サブキャリア間の相対位相関係を保持した状態で、各キャリア、サブキャリアを位相基準として信号光を検波することが望ましい。
【0224】
この場合、光90度ハイブリッドを用いて局発光と信号光の位相を比較する方法がある。光90度ハイブリッドとは、2つのポートから入力された光信号のうち、同一位相の光成分と直交位相の光成分に分離して、それぞれ異なるポートから出力するものである。
【0225】
光90度ハイブリッドの従来技術として、単一キャリアのコヒーレント受信の場合、3ポートの光合波器を用いる方法がある(参考文献8を参照)。この例では、3ポートのうち、2ポートから同一位相、直交位相の成分が出力される。
【0226】
また、2ポートの光合波器を用いる場合には、次の参考文献9に記載されたような局発光と信号光を2×2ポートの光合波器と、差動受光器を利用する方法がある。
【0227】
[参考文献8] Seb J. Savory, et al., “Electronic compensation of chromatic dispersion using a diGItal coherent receiver,” Optics Express, Vol.15, No.5, 2120.
【0228】
[参考文献9] Keang-Po Ho, “Phase-modulated optical communication systems,” Springer, p.7
【0229】
前者の場合、図19に示すように、受信信号光と、マルチモード局発光発生部12から出力されるマルチモード局発光とを光ハイブリット(例えば、光90度ハイブリッド)121に入力し、両者の光位相関係を比較して、同一位相成分と、直交位相成分に分解して、異なる出力ポートから出力する。
【0230】
これを波長分散媒質を利用した波長によって分離する光分離器131、132に入力して、各キャリアごとに分離して光電変換器201〜208で光電流に変換する。この光電流をアナログ・デジタル変換器(ADC)301〜308でデジタル信号に変換して、各キャリア、サブキャリア分のデジタル信号を非線形補償演算部501に入力する。この構成では、光90度ハイブリッドにおいて各キャリア成分がそれぞれ同一位相成分と直交位相成分に分離された後に、キャリア、サブキャリアを分波するため、それぞれのキャリア、サブキャリアの位相検波の基準位相が共通化している。
【0231】
つまり、固定された相対位相関係にある各キャリア、サブキャリアの局発光を基準に、それぞれのキャリア、サブキャリアの信号光の光位相を検波するため、信号光の各キャリア、サブキャリアの位相関係も判明する。この性質は、キャリア、サブキャリア間の位相関係に依存して、FWMクロストークの波形劣化の様相が変化する状況において、そしてそれを補償する状況において、メリットを有する。
【0232】
一方、後者の2×2ポートの合波器を利用する場合、同一位相成分、直交位相成分それぞれに対して2ポートがセットになる。これを光分波器で波長ごとのキャリア、サブキャリアに分離した後に、差動光検出器に入力する必要がある。
【0233】
なお、図19に示す構成において、光分離器131、132は、前述の波長分散媒質を用いた光分離器に相当し、光ハイブリッド121は、光90度ハイブリッドに相当し、マルチモード局発光発生部12は、前述のマルチモード局発光発生部に相当する。そして、マルチモード局発光発生部と光90度ハイブリッドにより、各搬送周波数ごとに光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力し、また、光90度ハイブリッドからの出力光を波長分散媒質を用いた光分離器によって周波数(波長)毎に分離する。これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0234】
図20は、同位相成分(直交位相成分)のどちらか一方を検出する場合の受信装置の構成例である。このとき、各キャリア、サブキャリアに対して、合波器141の2つの分岐点から差動PD211A〜211Dの2つの入力点までの距離の差を、1ビットの時間長に対して十分小さい値に抑える必要がある。
【0235】
また、図21は、同位相、直交位相の両方の位相成分を検出するための受信装置の構成例であり、図21と比較して、合波器142、光分離器133、134、作動PD211E〜211H、アナログ・デジタル変換器(ADC)305、308等が追加されている。
この図21に示す例においては、分波器31により、受信光を同位相成分と直交位相成分に分離し、同位相成分を合波器141に入力し、直交位相成分を合波器142に入力する。また、マルチモード局発光発生部12から出力される局発光についても分波器32により分波し、局発光の同一位相成分を合波器142および光分離器134に入力し、分波器32から出力される局発光を位相シフト部41によりπ/2位相シフトして、合波器141および光分離器131に入力する。
【0236】
一方、キャリア、サブキャリア毎に分波した後に光90度ハイブリッドによって、位相比較する構成もある。信号光、局発光ともに、光分波器で波長ごとのキャリア、サブキャリアに分離した後に、光90度ハイブリッドによって両者の光位相を比較する。この構成例を図22に示す。
【0237】
図22に示す受信装置では、光分離器131により、キャリア、サブキャリア毎に分波した後に、光90度ハイブリッド101〜104により位相比較する。この場合、マルチモード局発光発生部12からの局発光についても、光分離器132により分離し、各光90度ハイブリッド101〜104に入力する。
【0238】
なお、光90度ハイブリッドの従来技術として、単一キャリアのコヒーレント受信の場合、前述の参考文献8に記載されたような、3ポートの光合波器を用いる方法がある。また、2ポートの光合波器を用いる場合には、前述の参考文献9に記載されたような局発光と信号光を2×2ポートの光合波器と、差動光検出器を利用する方法がある。
【0239】
なお、図22において、光分離器131は、前述の波長分散媒質を用いた信号光の光分離器に相当し、光分離器132は、前述の波長分散媒質を用いた局発光の光分離器に相当し、マルチモード局発光発生部12は、前述のマルチモード局発光発生部に相当する。
【0240】
そして、信号光の光分離器により入力信号光を波長毎に分離して異なるポートに出力し、また、局発光の光分離器によりマルチモード局発光発生部からの出力光を波長毎に分離して異なるポートに出力する。また、信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、局発光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力するそれぞれの搬送波の光90度ハイブリッドを設ける。これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0241】
また、図23は、図22に示すマルチモード局発光発生部12と光分離器132を、個別の局発光発生部11A〜11Dに置き換えた例を示している。
【0242】
図23に示すように、各キャリア、サブキャリアに個別の局発光発生部を利用する場合であっても、トレーニングパターンや、ブラインド推定を用いて、それぞれの局発光発生部の間の相対位相、周波数間隔差を推定できる。このため、この位相オフセット、周波数オフセットを考慮して、光ファイバ伝送路の出力端における各キャリア、サブキャリアの互いの光位相関係を推測することも可能である。この場合、レーザの線幅から予測される光位相の時間変動速度に追従するように、位相オフセット、周波数オフセットを更新していく必要がある。
【0243】
なお、図23において、光分離器131は、前述の波長分散媒質を用いた信号光の光分離器に相当し、局発光発生部11A、11B、11C、11Dは、前述の複数の局発光発生部に相当する。
【0244】
そして、信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、それぞれの局発光発生部からの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する複数の光90度ハイブリッドとを備える。これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0245】
(直接受信の受信装置の構成例の説明)
各キャリア、サブキャリアが直接変調された信号光を受信する場合、従来の受信方法ではコヒーレント受信が不要である。しかし、FWMクロストークを受けた信号では、複素平面における受信波形の時間サンプリング値の変位の仕方は、FWMクロストークと主信号の相対位相に依存するため、直接受信で得られた振幅の変位量もその相対位相に依存する。
【0246】
図24は、直接受信の受信装置の構成例を示す図であり、図24に示すように、受信信号光を光分離器(分波器)131で、各キャリア、サブキャリアに分離して、直接受信によってその強度を、光電変換器201〜204により検波する。これをアナログ・デジタル変換器(ADC)301〜304に入力し、デジタル信号に変換した後に、非線形補償演算部501に入力する。
【0247】
(光電変換・電気段分離の受信装置の構成例の説明)
電気フィルタによるキャリアの分離を行うホモダインの受信装置について説明する。この受信装置では、単一波長で発振する光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを光90度ハイブリッドによってミキシングし、光電変換器により光電流に変換する。その後、電気領域にて周波数分離フィルタを用いて各キャリア、サブキャリアを分離する構成がある。
【0248】
ここでは、信号光の中心周波数の周辺に、局発光の光周波数が一致するようなホモダイン受信の場合に用いられることが多い。この場合、光受信器、電気フィルタに対して信号光の2分の1程度の広い周波数帯域が要求される。このため、光フィルタによる分波と、電気フィルタによる分波を併用する構成もある。
【0249】
図25は、電気フィルタによるキャリアの分離を行うホモダインの受信装置の構成例を示す図である。図25では、単一波長で発振する局発光発生部11の光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを光90度ハイブリッド101によってミキシングし、局発光と同位相成分と、直交位相成分をそれぞれ光電変換器201、202により光電流に変換して、電気フィルタ611、612でキャリア、サブキャリアに分離する構成である。
【0250】
それらをアナログ・デジタル変換器(ADC)301〜308でデジタル信号に変換した後、隣接するキャリア、サブキャリアのデジタル信号を非線形補償演算部501に入力して、非線形波形歪を補償する。
【0251】
電気フィルタ611、612として、キャリア、サブキャリアごとに分波するためには、高い周波数の絶対値が必要とされるため、温度を一定値に保持するための温度調整回路が必要になる場合もある。また、光電変換器201、202などの電気部品の帯域特性によっては、高周波側の周波数特性の透過率の低下、周波数特性のリプルを補償するように周波数領域の等化フィルタを電気フィルタの入力側に用いる場合もある。また、分波後に各キャリア、サブキャリアに対して、電気部品の帯域特性を補償するような利得調整器、もしくは周波数応答の等化器を用いる場合がある。図26に、等化器421、422を使用した例を示す。
【0252】
なお、図25および図26において、電気フィルタ611、612が、前述の電気フィルタに相当する。そして、光90度ハイブリッドからの出力光を光電変換器により電気信号に変換し、光電変換器からの出力信号を電気フィルタにより周波数によって複数の電気信号に分離する。これにより、電気フィルタを使用して搬送波を周波数ごとに分離することができる。
【0253】
次に、電気フィルタにより搬送波(キャリア)の分離を行うヘテロダインの受信装置について説明する。この方式の受信装置は、図26に示す受信装置と同様に、この単一波長で発振する光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを光90度ハイブリッドによってミキシングし、光電変換器により光電流に変換する。
【0254】
または、図27(A)に示すように、合波器141と差動光検出器211を利用して、局発光と同相成分、もしくは直交成分のどちらかを受信する構成がある。ここでは、その後、電気領域にて周波数分離フィルタとして電気フィルタ611を用いて各キャリア、サブキャリアを分離する。信号光の光周波数帯域の一端で、十分スペクトル強度が低い周波数に、局発光の光周波数を一致させるようなヘテロダイン受信の場合に用いられることが多い。
【0255】
従って、図27(B)に示すように、各キャリア、サブキャリアと局発光の差周波の電気周波数領域の搬送波に乗った信号がADCに入力される。これをデジタル信号処理によってダウンコンバートして、ベースバンド信号に落としてもよい。
【0256】
また、アナログ・デジタル変換器(ADC)の手前で、各キャリア、サブキャリアの周波数の電気周波数領域のLO(局発信号)とミキシングして、ベースバンドに落としてから、アナログ・デジタル変換器(ADC)へ入力する方法がある。このとき、LO(局発信号)と同相成分と直交成分の信号を得て、それぞれをアナログ・デジタル変換器(ADC)に入力する。この場合、アナログ・デジタル変換器(ADC)へ入力される信号の周波数帯域がベースバンド程度の周波数領域まで低減されるため、アナログ・デジタル変換器(ADC)に要求される周波数特性が緩和される。
【0257】
また、電気周波数領域のLO(局発信号)とミキシングすることで、キャリア、サブキャリア分離する方法がある。図27(A)に示すキャリア、サブキャリア分離用の電気フィルタ611を削除して、LOとミキシングし、ベースバンド信号にダウンコンバートした後に、ベースバンドの信号光のみを透過させるような低周波透過フィルタを用いる構成である。この後に、アナログ・デジタル変換器(ADC)へ入力する。
【0258】
上記の構成によって、互いに隣接する各キャリア、サブキャリアを分波して、デジタル信号に変換して、非線形補償演算部501に入力する。また、光電変換器などの電気部品の帯域特性によっては、高周波側の周波数特性の透過率の低下、周波数リプルを補償するように周波数領域の等化フィルタを電気フィルタの入力側に用いる場合もある。また、分波後に各キャリア、サブキャリアに対して、電気部品の帯域特性を補償するような利得調整器、もしくは周波数応答の等化器を用いる場合がある。
【0259】
(デジタルフィルタにより分離(FFT分離)を行う受信装置の例の説明)
単一波長で発振する光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを光90度ハイブリッドによってミキシングし、光電変換器により光電流に変換する。もしくは、図28に示すように、合波器と差動光検出器を利用して、局発光と同相成分、もしくは直交成分のどちらかを受信する構成がある。
【0260】
ここでは、その後、電気領域にて周波数分離を行うデジタルフィルタ621を用いて各キャリア、サブキャリアを分離する。信号光の光周波数帯域の一端で、十分スペクトル強度が低い周波数に、局発光の光周波数を一致させるようなヘテロダイン受信の場合に用いられることが多い。
【0261】
従って、図27(A)に示すように、各キャリア、サブキャリアと局発光の差周波の電気周波数領域の搬送波に乗った信号がADCに入力される。デジタル信号に変換された後に、デジタル信号処理によってキャリア、サブキャリアを分離して、非線形補償演算を実施する。
【0262】
なお、図28において、合波器141は、前述の光90度ハイブリッドに相当し、差動光検出器211は、光電変換器に相当し、デジタルフィルタ621は、前述のデジタルフィルタに相当する。そして、光90度ハイブリッドからの出力光を光電変換器により電気信号に変換し、光電変換器からの出力信号をデジタルフィルタにより周波数によって複数の電気信号に分離する。これにより、デジタルフィルタを使用して搬送波を周波数ごとに分離することができる。
【0263】
(デジタルキャリア分離方法についての説明)
デジタル信号処理によるキャリア、サブキャリア分離の方法として、図29に示すように、ダウンコンバージョン部631と、ローパスフィルタ(LPF)632を用い、各キャリア、サブキャリアと局発光の光周波数差に相当する電気周波数領域のLO周波数(局発周波数)でダウンコンバージョンし、バンドパスフィルタに相当するDSP処理(Digital Signal Processorによる信号処理)を実施して各キャリアごとのデジタル信号を得る。
【0264】
また、デジタル信号処理によるキャリア、サブキャリア分離の方法として、図30に示すように、直列/並列変換部641により時間関数を直列/並列変換した上で、高速フーリエ変換(FFT)部642へ入力する構成がある。FFTでは、時間関数が周波数関数に変換されるため、各キャリア、サブキャリアごとに分離することと等価になる。この方法は、直交周波数分割多重分離方式で用いられることが多い。そこでは、サブキャリアの周波数間隔f0と各サブキャリアのシンボル時間長ΔTの逆数がほぼ等しい程度f0〜1/ΔTまで、周波数多重密度が高い。
【0265】
直交周波数分割多重(OFDM)では、あるフレーム時間長ごとに区切って、直列/並列変換を実施し、FFTの各ポートに入力する。このOFDMフレーム長Tsは、サブキャリアの周波数間隔f0の逆数に等しい。また、伝送路の波長分散、偏波分散による波形広がり、マルチパスの影響を低減するために、ガードインターバルを用いることが多い。この場合、OFDMフレーム長Tsは、サブキャリアの周波数間隔f0とガードインターバル長Tgを用いて、「Ts=1/f0+Tg」であらわされる。このようにして、キャリア、サブキャリア分離されたデジタル信号は、非線形補償演算へ入力される。
【0266】
(デジタル分離をホモダイン・イントラダイン方式により行う受信装置の説明)
キャリア、およびサブキャリアのデジタル分離をホモダイン・イントラダイン方式により行う受信装置を構成できる。この場合、単一波長で発振する光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを合波器に入力し、その2つの出力を光90度ハイブリッドによってミキシングし、光電変換器により光電流に変換する。
【0267】
この場合に、図31に示すように、光90度ハイブリッド101、光電変換器201、202からの出力が、信号光と局発光のミキシング信号に加えて、直流成分を持つ場合があり、それを取り除くDCブロッカーを用いることで、ミキシング信号のみを取り出せる。
【0268】
または、図32に示すように、受信信号光を分波器31により少なくとも2方路に分岐し、また、局発光も分波器32およびπ/2位相シフト部41により少なくとも2方路に分岐して、それぞれ合波器141、142の入力ポートに入力する。このとき、2分岐したどちらかの光路において、受信信号光と局発光の相対位相差をπ/2だけシフトすることで、同位相成分と直交位相成分を別々に検出できる。合波器141、142の2つの出力を差動光検出器211、212に入力し、ADC301、302によりデジタル信号に変換する。
【0269】
その後、電気領域にて周波数分離フィルタ(デジタルフィルタ621、622)を用いて各キャリア、サブキャリアを分離する。信号光の光周波数帯域の一端で、十分スペクトル強度が低い周波数に、局発光の光周波数を一致させるようなヘテロダイン受信の場合に用いられることが多い。
【0270】
従って、図27(B)に示すように、各キャリア、サブキャリアと局発光の差周波の電気周波数領域の搬送波に乗った信号がADCに入力される。デジタル信号に変換された後に、デジタル信号処理によってキャリア、サブキャリアを分離して、非線形補償演算を実施する。
【0271】
(波長分散補償の追加構成例の説明)
光ファイバ伝送路では、波長分散によって信号波形の歪みが生じる。光ファイバの種類によって波長分散の値は典型値があり、線形な周波数依存の伝達関数として表現される。従って、そのフーリエ変換によってインパルス時間応答関数が予測され、そのインパルス応答の波形広がりを補償するようなデジタルFIRフィルタを適用することで波長分散を補償できる。詳細は、単一キャリアの場合における波長分散のデジタル信号処理を使った補償方法は上述した参考文献8にある。
【0272】
ここでは、波長分散を補償した後に、非線形補償演算を実施する構成とした。光ファイバ伝送路の損失により、受信端に近づくに従って信号光の光パワーが低減するため、主な非線形波形劣化は送信端に近い部分で発生する。従って、送信端から近い部分において非線形波形劣化を受けた後に、伝送路の後半部分において波長分散による波形歪みを受けた波形が受信される。
【0273】
このため、非線形補償においては、波長分散による波形歪みを取り除いた上で、実際に波形歪みが生じた伝送路位置での信号光波形に戻した上で、非線形歪み補償を実施する構成が補償効果を高める場合がある。また、デジタル信号処理により偏波分離を実施する場合にも、偏波分離演算の前に、波長分散によるシンボル間干渉(ISI)を取り除いた構成がある。
【0274】
波長分散による波形歪みは時間変動が小さく、半固定的に扱えるために、半固定のFIRフィルタで取り除ける。一方、偏波多重分離のクロストーク、PMDによる波形歪みは、時間に依存して変化する。さらに、偏波クロストーク、及び偏波モード分散によるISIに比較して、波長分散によるISIが生じる時間範囲が広い。このため、固定のタップ係数のFIRフィルタで波長分散を補償した後に、動的な偏波分離演算、PMD補償を実施することが望ましい。
【0275】
図33に、波長分散補償を行う受信装置の第1の構成例を示し、図34に、波長分散補償を行う受信装置の第2の構成例を示す。
【0276】
図33に示す受信装置は、図31に示す受信装置に波長分散補償演算部651および652を追加しており、他の構成は図31に示す受信装置と同様である。図34に示す例は、図16に示す偏波分離器を用いた受信装置の構成に、波長分散補償演算部651、652、653、654を追加した構成となっている。
【0277】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の受信装置、および補償演算回路(非線形補償演算部)は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0278】
【図1】本発明の受信装置に適用される信号光の形態を示す図である。
【図2】FWMクロストーク(四光波混合クロストーク)の例を示す図である。
【図3】本発明の受信装置の構成例を示す図である。
【図4】光90度ハイブリッドと光電変換器の構成例を示す図である。
【図5】デジタルフィルタの構成例を示す図である。
【図6】分散媒質を用いてキャリア分離を行う受信装置の構成例を示す図である。
【図7】スキューを検出するための送信パターンおよび受信パターンの例を示す図である。
【図8】逐次的に非線形方程式を解く演算構成例を示す図である。
【図9】受信信号のコンスタレーションを示す図である。
【図10】キャリア位相推定、位相同期の演算回路の構成例を示す図である。
【図11】連立非線形方程式を逐次的に解く計算回路の構成例を示す図である。
【図12】連立非線形方程式を逐次的に解く計算回路の第2の構成例を示す図である。
【図13】補償パラメータと非線形補償演算回路の構成例を示す図である。
【図14】補償パラメータ推定のための送信パイロット信号の例を示す図である。
【図15】非線形歪み効果の実験結果を示す図である。
【図16】偏波分離を行う受信装置の構成例を示す図である。
【図17】2キャリア、偏波多重の場合におけるFWMクロストーク発生パターンの例を示す図である。
【図18】非線形歪み補償と線形補償を繰り返し演算する回路構成を示す図である。
【図19】光分離器を用いた受信装置の構成例を示す図である。
【図20】同相成分(直交位相成分)の一方を検出する受信装置の構成例を示す図である。
【図21】同相成分および直交位相成分の両方を検出する受信装置の構成例を示す図である。
【図22】光分離器による分離後に光90度ハイブリッドにより位相比較する受信装置の構成例を示す図である。
【図23】図22において個別の局発光発生部を用いた受信装置の構成例を示す図である。
【図24】直接受信により強度を検出する受信装置の構成例を示す図である。
【図25】電気フィルタでキャリア、サブキャリアに分離する受信装置の構成例を示す図である。
【図26】図25に等化器を追加した受信装置の構成例を示す図である。
【図27】電気フィルタを用いたヘテロダイン方式の受信装置の構成例を示す図である。
【図28】デジタルフィルタを用いたヘテロダイン方式の受信装置の構成例を示す図である。
【図29】ダウンコンバージョン部とローパスフィルタを用いた受信装置の構成例を示す図である。
【図30】シリアルパラレル変換部とFFTを用いてキャリア、サブキャリアを分離する受信装置の構成例を示す図である。
【図31】ホモダイン・イントラダイン方式の受信装置の構成例を示す図である。
【図32】同位相成分と直交位相成分を別々に検出するホモダイン・イントラダイン方式の受信装置の構成例を示す図である。
【図33】波長分散補償演算を行う受信装置の第1の構成例を示す図である。
【図34】波長分散補償演算を行う受信装置の第2の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0279】
11、11A、11B、11C、11D・・・局発光発生部、12・・・マルチモード局発光発生部、21、22、31、32・・・分波器(PBS:光ビームスプリッタ)、41・・・π/2位相シフト部、101、102、103、104・・・光90度ハイブリッド、110・・・合波器、121・・・光ハイブリッド、131、132、133、134・・・光分離器、141、142・・・合波器、201〜208・・・光電変換器、211、211A〜211H・・・差動光検出器(差動PD)、301,〜308・・・アナログ・デジタル変換器(ADC)、401、402・・・デジタルフィルタ、411・・・シリアルパラレル変換部、412・・・FFT、501、502・・・非線形補償演算部、503・・・位相同期部、504・・・補償演算部、505・・・補償パラメータ学習部、531・・・スキュー補正部、532・・・スキューモニタ部、533・・・非線形結合定数推定部、534・・・位相推定部、535・・・非線形補償演算処理部、601、602、603、604・・・偏波分離演算部、611、612・・・電気フィルタ、621、622・・・デジタルフィルタ、631・・・ダウンコンバージョン部、632・・・ローパスフィルタ、641・・・シリアルパラレル変換部、651、652・・・波長分散補償演算部、661、662、663、664・・・分波フィルタ、671〜674・・・偏波分離演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の搬送波(キャリアおよびサブキャリア)間の非線形相互作用による非線形波形歪を補償するため、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を線形化して簡易化し、複雑な波形歪みの補償を、簡易な電気演算回路で実現することができる、受信装置、補償演算回路、および受信方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ伝送路は、その屈折率が光強度に比例して変化する光カー効果によって、四光波混合(FWM:Four Wave Mixing)、相互位相変調(XPM:Cross Phase Modulation.)、自己位相変調(SPM:Self Phase Modulation) などの光非線形効果を誘発する。
【0003】
これらによって、それぞれの信号光の光電界位相が、自分自身のチャネルの信号光によって歪む現象、他のチャネルの光信号によって歪む現象が発生する。光電界の位相にデータをのせる変調方式では、自チャネル、もしくは他チャネルの信号光によって受信信号の波形ひずみを引き起こし、データ判別の誤りの原因となる。また、光信号の位相波形のひずみは伝送路の波長分散を介して振幅波形の歪みに変換されるため、光電界波形の振幅にデータをのせる変調方式においてもデータ判別誤りを引き起こす。
【0004】
これらの非線形波形歪は、チャネル内のシンボル間の干渉、チャネル間のシンボル間の干渉となって伝送特性を劣化させる。非線形波形歪による伝送特性劣化は、光パワーの増大とともに顕著化するため、従来の光伝送システムでは、光ファイバ伝送路への入力光パワーを制限することで抑圧していた。一方、光ファイバ伝送路入力パワーを低減すると、受信端で受信される信号光の信号対雑音電力比(SNR(Signal to Noise ratio))を低減することになり、雑音光による波形歪みによりデータ判別誤りを引き起こす。
【0005】
従って、非線形波形歪による特性劣化と、着信SNRの劣化による特性劣化の和が最も小さくなるように光ファイバ伝送路への入力パワーを設定することが望ましい。しかし、非線形波形歪は、伝送路ファイバの零分散波長、波長分散の特性に大きく依存する。特に、分散シフトファイバ(DSF(Dispersion Shift Fiber))では零分散波長帯が1530nm〜1565nmの波長帯域(C帯)にあり、C帯のWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長多重)信号光にとっては勿論のこと、1570nm〜1605nmの波長帯域(L帯)のWDM信号光にとっても、零分散波長が近接することになり波形劣化が深刻である。また、ノンゼロ分散シフトファイバ(NZ−DSF(Non−Zero Dispersion Shifted Fibers))であっても、L帯でのWDM伝送は波形劣化が発生する。
【0006】
このため、従来は、既に敷設された光ファイバ伝送路の零分散波長、波長分散の特性の統計的なデータから、この波形劣化の大きさを予測して光ファイバ伝送路への入力パワーを設定していた。しかし、光ファイバ伝送路の分散特性は、その個体に依存して異なるため、高い信頼度で信号伝送品質を設計するために余分なマージンを見込んで設計していた。そのため、高い信頼度で信号伝送品質を設計するために、高コスト化、パフォーマンスの制限の原因となっていた。また、大きなマージンをみても、敷設ファイバの特性によっては伝送設計が成立しない可能性があった。
【0007】
また、非線形波形歪をマージンをもって抑圧するために、光ファイバ伝送路への入力パワーを最適値より低減した設計とするため、着信SNRの低下をまねき、伝送距離、伝送容量を制限する要因となっていた。従って、伝送システムの許容伝送距離の増大、伝送容量の増大のために、非線形波形歪を補償する施策が求められていた。
【0008】
ところで、光ファイバ伝送におけるSPM、FWM、XPMの3つの非線形波形劣化のうち、単一の搬送波の信号光に発生する波形歪みはSPMが主要因である。従来、SPMによる単一搬送波の信号光における非線形波形歪を補償する方法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。さらに、SPMを介したASE雑音による強度雑音が位相雑音へ変換される「Gordon-Mollenauer効果」を補償する方法も提案されている(例えば、非特許文献2を参照)。これまで、複数の搬送波の信号光の波形歪みを補償する方法がなかった。
【0009】
また、単一の搬送波の信号光の波形歪み補償においては、SPMと逆の効果を与えて補償する原理である。SPMとは信号光の強度波形に比例して光位相が回転する効果であり、簡単に説明するならば、光強度波形に比例して逆向きの位相回転を与えて、位相回転を戻すことで、波形歪みを補償する原理である。
【0010】
しかし、実際には、光ファイバ伝送路の波長分散により、光ファイバ伝送路中に強度波形が変化するため、受信端で取得される強度波形と、非線形ひずみが発生した時点の強度波形は異なり、十分な補償効果が得られない。また、波長分散による強度波形変化を戻した上で、非線形歪み補償演算を実施する場合であっても、波長分散による強度波形変化と非線形位相回転は、同時に発生するため、両者は複雑に絡み合っており十分な補償精度が得られない場合がある。
【非特許文献1】R. I. Kelley, et al., "Electronic dispersion compensation by signal predistorsion using a dual drive Mach-Zehender modulator," OFC2005, OThJ2, 2005
【非特許文献2】K. Kikuchi, et al., OFC/NFOEC2007, OTuA2, Anaheim, CA, Mar. 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述の如く、光ファイバ伝送システムでは、伝送路損失による光信号の減衰を補うために光増幅器を中継して、光信号を伝送する。そこでは、光ファイバの入力光パワーを大きくすると、信号対雑音比が高くなり、光のまま伝送できる距離が長くなるという性質がある。そのため、経済的にネットワータを構成する上では、光ファイバ伝送路への入力パワーを大きく設定したい。しかし、光ファイバへの入力パワーを大きくすると、その非線形効果により信号光波形が歪み、伝達特性生を劣化させる問題が生じる。
【0012】
また、非線形波形歪は、伝送路光ファイバ特性の固体差に依存して異なるため、高い信頼性で信号伝送品質を設計するために余分なマージンを見込んで設計していた。そのため、高い信頼度で信号伝送品質を設計するために、高コスト化、パフオーマンスの制限の原因となっていた。これまで、非線形波形歪を補供する方法が損秦されているが、単一の搬送波からなる信号光を対象としていた。近年、伝送ビットレートの高速化に伴い、複数の搬送波を用いて伝送する方式が注目されており、そこでは、非線形波形劣化が課題となっている。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、複数の搬送波間の非線形相互作用により生じる非線形波形歪を、四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を線形化して簡易化し、複雑な波形歪みの補償を、簡易な電気演算回路で実現することができる、受信装置、補償演算回路、および受信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1に記載の発明は、光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置であって、前記信号光の周波数、もしくは偏波によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離装置と、前記分離装置から出力される複数の搬送波間のシンボル位相の同期処理を行う位相同期部と、前記位相同期部により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算部と、を備え、前記位相同期部と前記補償演算部とにおける演算処理を電気演算回路により実行するように構成されたこと、を特徴とする受信装置である。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置であって、偏波多重された信号光を偏波によって2つに分離する偏波分離装置と、周波数によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離装置と、前記分離装置から出力される各周波数の搬送波ごとの2つの偏波の受信信号を入力し、該入力された2つの偏波の受信信号間の干渉を取り除いて独立する2つの信号に偏波分離する偏波分離演算部と、前記偏波分離演算部から出力される複数の搬送波間の位相の同期処理を行う位相同期部と、前記位相同期部により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算部と、を備え、前記偏波分離演算部、前記位相同期部および前記補償演算部における演算処理を電気演算回路により実行するように構成されたこと、を特徴とする受信装置である。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の受信装置内の前記補償演算部を構成する補償演算回路であって、前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、前記多元非線形方程式を解くことによって、受信信号から送信信号を算出する電気演算回路を備えること、を特徴とする補償演算回路である。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の補償演算回路であって、前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、前記多元非線形方程式を基に受信波形から送信波形を逐次的に推定する場合に、第n段目の送信波形推定ステップから出力される第nの送信波形推定値を、一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、前記多元非線形方程式を線形化して、第n+1の送信波形を推定する第n+1段目の送信波形推定ステップを有し、逐次的に補償波形を推定する演算回路で構成されることを特徴とする補償演算回路である。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の補償演算回路であって、第1段目の送信波形推定ステップにおいて、補償前の受信波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路を備えること、を特徴とする補償演算回路である。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の補償演算回路であって、第1段目の送信波形推定ステップにおいて、予め定められている任意の波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路を備えることを特徴とする補償演算回路である。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、請求項3に記載の補償演算回路であって、前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信波形と送信波形の非線形歪み変動量の関係を多元非線形方程式で関連付けし、前記非線形歪み変動量を逐次的に推定する場合に、第n番目の変動量推定ステップから出力される第n段目の補償波形を、一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、前記多元非線形方程式を線形化して、第n+1段目の受信波形の非線形歪み変動量を推定する第n+1段目の変動量推定ステップと、前記第n+1番目の変動量推定ステップからの出力値を受信データから減算し、第n+1段目非線形歪み補償後の波形を出力する第n+1段目の変動量補償ステップと、を有し、逐次的に補償波形を推定する演算回路で構成されることを特徴とする補償演算回路である。
【0021】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の補償演算回路であって、第1段目の変動量推定ステップにおいて、補償前の受信波形を一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路で構成されること、を特徴とする補償演算回路である。
【0022】
また、請求項9に記載の発明は、請求項7に記載の補償演算回路であって、第1段目の変動量推定ステップにおいて、予め定められている任意の波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いることを特徴とする演算回路を、備えることを特徴とする補償演算回路である。
【0023】
また、請求項10に記載の発明は、請求項7に記載の補償演算回路であって、第1段目の変動量推定ステップにおいて、初期値として用いる値を変化させて、補正効果が得られる値を検出する演算回路を、備えることを特徴とする補償演算回路である。
【0024】
また、請求項11に記載の発明は、請求項3に記載の補償演算回路であって、前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、前記複数の周波数の信号光を合成した時間波形、及びその直交偏波の時間波形の強度に比例して信号光電界の光位相が回転する自己位相変調によってモデル化し、前記自己位相変調のモデルによって伝送前波形と伝送後波形の関係を非線形方程式で関連付けし、伝送後波形から伝送前波形を推定することを特徴とする演算回路で構成されること、を特徴とする補償演算回路である。
【0025】
また、請求項12に記載の発明は、請求項3に記載の補償演算回路であって、光ファイバ伝送路における波長分散、及び損失を線形な伝達関数によって記述し、前記伝達関数の逆関数を作用させる線形波形歪み補償演算と、前記四光波混合クロストークモデルを含む所定のモデルにより算出された非線形波形歪の補償演算とを繰り返し実施することで、伝送後波形から伝送前波形を推定する送信前波形推定する演算回路で構成されること、を特徴とする補償演算回路である。
【0026】
また、請求項13に記載の発明は、前記非線形歪を補償する演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習し、該補償パラメータ値を前記補償演算回路に入力する補償パラメータ学習部を備えること、を特徴とする請求項3から請求項11のいずれかに記載の補償演算回路である。
【0027】
また、請求項14に記載の発明は、複数の周波数の連続光を出力するマルチモード局発光発生部と、前記複数の周波数の局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する光90度ハイブリッドと、前記光90度ハイブリッドからの出力光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離するそれぞれの光分離器と、前記それぞれの光分離器のから出力光を入力し、それぞれを電気信号に変換する光電変換器と、前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0028】
また、請求項15に記載の発明は、複数の周波数の連続光を局発光として出力するマルチモード局発光発生部と、入力信号光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、前記マルチモード局発光発生部から出力される局発光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する局発光の光分離器と、前記信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、前記局発光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力するそれぞれの搬送波の光90度ハイブリッドと、前記それぞれの光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0029】
また、請求項16に記載の発明は、入力信号光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、互いに異なる周波数の連続光を出力する複数の局発光発生部と、前記信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、前記それぞれの局発光発生部からの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する光90度ハイブリッドと、前記それぞれの波長分離機からの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0030】
また、請求項17に記載の発明は、1つの周波数成分を有する連続光を出力する局発光発生部と、前記局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドと、前記光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、前記光電変換器からの出力信号を周波数によって複数の電気信号に分離する電気フィルタと、前記それぞれの電気フィルタからの出力電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0031】
また、請求項18に記載の発明は、1つの周波数の成分を有する連続光を出力する局発光発生部と、前記局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドと、前記光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換する光電変換器と、前記光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するアナログ・デジタル変換器と、前記それぞれのアナログ・デジタル変換器からの出力信号を周波数によって複数のチャネルに分離するデジタルフィルタと、を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置である。
【0032】
また、請求項19に記載の発明は、光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置における前記信号光の受信方法であって、前記信号光の周波数、もしくは偏波によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離手順と、前記分離手順により出力される複数の搬送波間のシンボル位相の同期処理を行う位相同期手順と、前記位相同期手順により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算手順と、を含むことを特徴とする受信方法である。
【発明の効果】
【0033】
請求項1記載の受信装置においては、複数の搬送波間の非線形相互作用による非線形波形歪を補償するため、複数の搬送波間のシンボル位相同期の前処理を行ったうえで、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより、複雑な波形歪みの補償を行うようにしたので、これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現することができる。
【0034】
また、請求項2に記載の受信装置においては、偏波多重された信号光を偏波分離装置によって2つに分離し、偏波分離演算部により各搬送波周波数ごとの2つの偏波の間の干渉を取り除いた後に、この複数の搬送波間の非線形波形歪を補償するため、搬送波間の位相同期の前処理を行ったうえで、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等の波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより波形歪みの補償を行う。これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現することができる。
【0035】
また、請求項3に記載の補償演算回路においては、周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、この多元非線形方程式を解くことによって、受信信号から送信信号を求めるようにしたので、これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現する補償演算回路を提供できる。
【0036】
また、請求項4に記載の補償演算回路においては、周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、第n段目の送信波形推定ステップから出力される第nの送信波形推定値を、一時的に多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、多元非線形方程式を線形化して、第n+1の送信波形を推定する第n+1段目の送信波形推定ステップを有するようにしたので、これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現する補償演算回路を提供できる。
【0037】
また、請求項5に記載の補償演算回路においては、第1段目の送信波形推定ステップにおいて、補償前の受信波形を、初期値として多元非線形方程式の一部の送信波形として用いるようにしたので、より精度の高い送信波形を推定することができる。
【0038】
また、請求項6に記載の補償演算回路においては、第1段目の送信波形推定ステップにおいて、任意の波形を、初期値として多元非線形方程式の一部の送信波形として用いるようにしたので、これにより、多元非線形方程式の形式、パラメータ等に応じて所望の初期値を設定することができる。
【0039】
また、請求項7に記載の補償演算回路においては、四光波混合クロストークによりモデル化された、受信波形と送信波形の非線形歪み変動量の関係を多元非線形方程式で関連付けし、第n番目の変動量補償ステップから出力される第n段目の補償波形を一部の送信波形として用いて多元非線形方程式を線形化し、第n+1段目の受信波形の歪み変動量を推定する第n+1段目の変動量推定ステップと、第n+1番目の変動量推定ステップからの出力値を受信データから差し引き、第n+1段目非線形歪み補償後の波形を出力する第n+1段目の変動量補償ステップとを有するようにしたので、これにより、非線形補償演算を歪み変動量による漸化式を用いて容易に行うことができると共に、推定結果への収束を早めることができる。
【0040】
また、請求項8に記載の補償演算回路においては、歪み変動量を求める第1段目の変動量推定ステップにおいて、補償前の受信波形を一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いるようにしたので、これにより、補償前の受信波形を初期値として選択し、非線形補償演算を歪み変動量による漸化式を用いて容易に行うことができる。
【0041】
また、請求項9に記載の補償演算回路においては、歪み変動量を求める第1段目の送信波形推定ステップにおいて、任意の波形を、初期値として多元非線形方程式の一部の送信波形として用いるようにしたので、これにより、任意の波形を初期値とし選択し、非線形補償演算を歪み変動量による漸化式を用いて容易に行うことができる。
【0042】
また、請求項10に記載の補償演算回路においては、第1段目の変動量推定ステップにおいて、初期値として用いる値を変化させて、補正効果が得られる値を検出するようにしたので、これにより、適切な初期値を選択することにより、収束を速めるなど、高精度で非線形波形歪の補償演算が行えるようになる。
【0043】
また、請求項11に記載の補償演算回路においては、光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、自己位相変調によってモデル化し、伝送前波形と伝送後波形の関係を非線形方程式で関連付けし、伝送後波形から伝送前波形を推定するようにしたので、これにより、自己位相変調位相回転モデルを使用して送信波形を推定することができる。
【0044】
また、請求項12に記載の補償演算回路においては、光ファイバ伝送路における波長分散、及び損失を線形な伝達関数によって記述し、伝達関数の逆関数を作用させる線形波形歪み補償演算と、四光波混合クロストークモデルまたは自己位相変調位相回転モデルによる非線形波形歪の補償演算とを繰り返し実施することで、伝送後波形から伝送前波形を推定するようにしたので、これにより、スプリットステップ法を用いて、送信波形を推定することができる。
【0045】
また、請求項13に記載の補償演算回路においては、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習する補償パラメータ学習部を備えるようにしたので、これにより、多元非線形方程式から送信波形を推定する補償演を行う際に必要となる補償パラメータを取得することができる。
【0046】
また、請求項14に記載の受信装置においては、マルチモード局発光発生部と光90度ハイブリッドにより、各搬送周波数ごとに光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力し、また、光90度ハイブリッドからの出力光を波長分散媒質を用いた光分離器によって周波数(波長)毎に分離するようにしたので、これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0047】
また、請求項15に記載の受信装置においては、入力信号光を波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、マルチモード局発光発生部からの出力光を入力し波長毎に分離して異なるポートに出力する局発光の光分離器とを備え、また、信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、局発光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力するそれぞれの搬送波の光90度ハイブリッドを設けるようにしたので、これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0048】
また、請求項16に記載の受信装置においては、入力信号光を波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、異なる周波数の連続光を出力する複数の局発光発生部とを備え、また、信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、それぞれの局発光発生部からの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する複数の光90度ハイブリッドとを備えるようにしたので、これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0049】
また、請求項17に記載の受信装置においては、1つの周波数の連続光を出力する局発光発生部と、局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドとを備え、光90度ハイブリッドからの出力光を光電変換器により電気信号に変換し、光電変換器からの出力信号を電気フィルタにより周波数によって複数の電気信号に分離するようにしたので、これにより、電気フィルタを使用して搬送波を周波数ごとに分離することができる。
【0050】
また、請求項18に記載の受信装置においては、1つの周波数の連続光を出力する局発光発生部と、局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドとを備え、光90度ハイブリッドからの出力光を光電変換器により電気信号に変換し、光電変換器からの出力信号をデジタルフィルタにより周波数によって複数の電気信号に分離するようにしたので、これにより、デジタルフィルタを使用して搬送波を周波数ごとに分離することができる。
【0051】
また、請求項19に記載の受信方法においては、複数の搬送波間の非線形相互作用による非線形波形歪を補償するため、複数の搬送波間のシンボル位相同期の前処理を行ったうえで、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより、複雑な波形歪みの補償を行うようにしたので、これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0053】
[本発明が適用される信号光の形態についての説明]
最初に、本発明の受信装置が適用される信号光の形態について説明する。本発明の受信装置においては、送信情報が符号化された複数の周波数の光搬送波(光キャリア、サブキャリア)、もしくは独立した偏波の光搬送波(光キャリア、サブキャリア)が多重化された信号光を受信することを想定する。
【0054】
例えば、このような信号光としては、異なる波長の光搬送波をそれぞれ個別に変調し、波長分散媒質を用いて多重化された波長多重(WDM)信号光がある。また、1つのクライアント情報を周波数が近接する複数のキャリア、サブキャリアの信号光に分離して伝達するマルチキャリア信号光にも適用可能である。
【0055】
また、マルチキャリアのように複数の搬送波を束ねた信号光で、それぞれの搬送波の変調周波数(ビットレート)が、搬送波の周波数間隔と同程度になるまで高密度に多重された直交周波数分割多重(OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing))信号がある。これらの信号光は、物理的には複数の周波数が多重された信号光形式であり、図1に示す概念図で表現できる。
【0056】
図1(A)は、マルチキャリア信号光の概念図であり、複数のキャリアCh−1、Ch−2、Ch−3、およびCh−4が変調され、信号光E1、E2、E3、E4が多重化された例を示している。また、図1(B)は、マルチキャリア・偏波多重信号光の概念図であり、マルチキャリア信号光、もしくはOFDM信号光が、さらに偏波多重された信号光の概念図である。図1(B)に示すように独立する偏波に異なる信号光を割り当てて伝達するような偏波多重信号光も本発明の適用先として想定される。
【0057】
[第1の実施の形態]
(受信装置の構成例の説明)
次に、本発明の第1の実施の形態に係わる受信装置の構成について説明する。従来の光ファイバ伝送システムでは、伝送路ファイバの非線形性が受信波形を歪ませる原因となり伝送特性を劣化させていた。この波形歪みは、伝送される光電界波形に依存して一意に決定されるものであり、その波形歪みは受信波形から予測可能である。つまり、WDM信号光の伝送であっても、OFDM信号、マルチキャリア信号の伝送であっても、隣接チャネルの受信波形を用いて受けた非線形波形歪を予測し、波形歪みを補償することが原理的に可能である。
【0058】
本発明の第1の実施の形態においては、非線形波形劣化をFWMクロストーク(四光波混合クロストーク)による波形劣化モデルによって近似し、波形劣化の記述を簡単化する。FWMクロストークは、周波数、もしくは偏波の異なる3つのキャリア、サブキャリアの光電界の積に比例した光電界が生じる現象としてモデル化される。
【0059】
3つのうち2つのキャリア、サブキャリアが縮退して、同一のサブキャリア、キャリアになることもある。FWMによって発生したFWMクロストーク光電界は、別のキャリア、もしくはサブキャリアの光電界に重畳して、その光電解波形を歪ませる。
【0060】
図2に、FWM発生の元となるキャリア、サブキャリア、及びFWMクロストークが重畳するキャリア、サブキャリアの周波数、及び偏波の関係を一例として示す。
【0061】
図2(A)においては、異なる周波数(波長)の3つのチャネルCh−1、Ch−2、Ch−3により生じる光電界E1、E2、E3により、チャネルCh−4の光電界E4にFWMクロストーク(E3×E2×E1*)が発生する例を示している。また、図2(B)においては、X偏波の光電界E1X、Y偏波の光電界E1Y、X偏波の光電界E2Xにより、光電界E2YにFWMクロストーク(E1X×E2X×E1Y*)が発生する例を示している。すなわち、図2(A)は、複数の周波数の信号光間のFWMクロストーク発生を示し、図2(B)は、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光間のFWMクロストーク発生を示している。
【0062】
この場合に、光ファイバ伝送路の出力端におけるFWMクロストーク光電界波形は、光ファイバ伝送路の入力端での光電界波形、つまり光電界の強度と位相を用いて表現することができる(次の参考文献1を参照)。
【0063】
[参考文献1]P.O. Hill, "cw-three wave mixing In single mode optical fibers," J. Appl. Phys., 5098.
【0064】
FWMクロストークを受けたキャリア、もしくはサブキャリアの受信端では、主信号の光電界波形に、このFWMクロストークの光電界波形を加えた光電界波形が受信器に入力される。つまり、周囲の周波数、及び偏波のキャリア、サブキャリアの光電界波形の積が、主信号の光電界波形に加えられた光電界波形が受信されるので、各キャリア、サブキャリアの受信光電界は、それらの送信光電界の3次の非線形連立方程式で記述される。非線形波形劣化を補償する補償演算回路では、光受信器において各キャリア、サブキャリアの光ファイバ伝送路から出力される波形を観測し、これらが非線形連立方程式の受信波形となるような送信電界波形を、非線形連立方程式を解くことによって求める。
【0065】
図3は、本発明の一実施形態に係る受信装置の構成例を示す図である。
図3に示す受信装置において、入力された複数の搬送波からなる信号光は、局発光発生部11から出力される局発光と共に光90度ハイブリッド102に入力される。
【0066】
光90度ハイブリッド101は、マルチキャリア局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する機能を有する。この光90度ハイブリッド101の出力は、光電変換器201、202に入力される。例えば、光電変換器201、アナログ・デジタル変換器(ADC)301の系統が、光位相が局発光と同相成分の信号系統であり、光電変換器202、アナログ・デジタル変換器(ADC)302の系統が局発光と直交する成分の信号系統である。
【0067】
この光90度ハイブリッド101には、例えば、図4に示す方向性結合器である合波器110が含まれ、この合波器110により、信号光と局発光の光電界が互いに混ざり合い、合波器110の2つの出力ポートから出力される、これを、光電変換器201内の差動光検出器211で検出することにより、差動光検出器211の2乗検波特性によって信号光と局発光の光電界の積(クロスターム)が発生する。
【0068】
このクロスタームは、信号光と局発光の位相差に依存する項を有し、さらに合波器110からの2つの出力ポートでは、この位相差の依存性が異なる。従って、信号光と局発光の光周波数が近接している場合には、それらの差分をとることで、信号光と局発光の位相差を比較できる。具体的には、局発光の位相を基準にして、信号光と同位相成分の強度を出力することになる。
【0069】
このようにして、図3に示す光電変換器201、201から出力される電気信号は、局発光の周波数を中心として信号光の光スペクトルをダウンコンバートされた電気スペクトルとなる。
【0070】
このスペクトルの周波数帯域は、光電変換器201、202の応答周波数帯域で制限されており、周波数帯域が50GHz程度の光電変換器も市販されており、これを利用すれば50GHz程度の光周波数差があるような場合でもサポートできる。ここでは、信号光が複数の周波数の搬送波から構成される信号光を想定しており、その信号光の高周波数側の端と局発光、及び低周波数側の端と局発光の間の周波数差が、光電変換器の周波数帯域内になるように光電変換器を選ぶ必要がある。
【0071】
図3において、光電変換器201、202から出力された光電流は、アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302によってそれぞれデジタル信号に変換される。通常、光電変換器201、202には数mW程度の光パワーが入力されるため、光電変換器201、202の変換効率として1A/W程度を想定しても、平均光電流量は数mA程度である。また、インピーダンスの変更も必要になる。そこで、トランスインピーダンスアンプを利用して増幅し、アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302への入力として十分な電圧、及びインピーダンスが得られるようにする。また、受信装置への光入力パワーが伝送路の状況によって変化することがあり、そのような変化に対しても影響なく受信できるように、入力が変化しても出力電圧を一定に保つアンプを利用する。このアンプは、リミッティングアンプと呼ばれ、従来の受信機でも用いられており、技術も成熟している。
【0072】
光電変換器201、202からの信号がアナログ・デジタル変換器(ADC)301、302へ入力されると、アナログの電気波形は時間サンプリングされてデジタル信号に変換される。アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302の周波数帯域も、信号帯域を制限する要因となる。
【0073】
信号がデジタル信号に変換された後は、キャリア、サブキャリア毎に分離するデジタルフィルタ401、402に入力される。キャリア分離を比較的簡単に実現する方法として、OFDM信号のサブキャリア分離に使われるFFT(Fast Fourier Transform)がある。
【0074】
図5は、デジタルフィルタ401、402の構成例を示している。図5に示すように、デジタルフィルタはシリアルパラレル変換回路411とFFT412から構成される。このFFT412は、N個のポート入力、N個のポート出力からなり、各入力ポートが時間系列に対応しており、離散的なサンプリング時間信号を入力すると、その離散時間信号がフーリエ変換された離散周波数スペクトルが各出力ポートから出力される信号処理回路である。ここでは、時間的に連続したシリアルデータを、ある一定のフレーム時間間隔ごとに区切り、シリアルパラレル変換回路411により、パラレルに並べ替えてFFT412の入力ポートに入力する。
【0075】
これにより、FFT412の出力ポートからはその離散フーリエ変換されたスペクトル信号が出力される。従って、入力信号のキャリア(サブキャリア)間隔と、FFTの離散周波数スペクトルの周波数間隔を等しく設定することで、各キャリア(サブキャリア)毎に分離できる。つまり、シリアル/パラレル変換のフレーム周期がキャリア間隔に等しい場合であり、各キャリアのビットレートがフレーム間隔に等しい状況である。また、OFDM信号ではガードインターバル(GI)を付与する場合がある。これは、フレーム周期毎にフレームの先頭と同一の信号をフレームの末尾にコピーして付与するものであり、フレームを越えたシンボル間干渉を抑圧する目的である。この場合は、従来のOFDMと同じくFFTの前にガードインターバル(GI)を除去した後に、キャリア分離する。
【0076】
なお、デジタルフィルタ401、402、および非線形補償演算部501、502は、電気演算回路(例えば、DSP(Digital Signal Processor)等)により演算を行う電気演算回路である。この非線形補償演算部501、502には、複数のキャリアサブ、サブキャリア間の信号ビット位相(例えば、直交周波数分割多重等におけるシンボル位相)の位相同期を取るための位相同期部503と、非線形補償演算を実行する補償演算部504とが、それぞれ含まれている。(位相同期部503で行われる位相同期処理の例については後述する)。
【0077】
また、非線形補償演算部51、502には、補償パラメータ学習部505が含まれており、この補償パラメータ学習部505は、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータのうち、いずれかのパラメータまたはすべてのパラメータを学習する機能を有する。
【0078】
なお、図3において、光90度ハイブリッド101、局発光発生部11、光電変換器201、202、アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302、およびデジタルフィルタ401、402で構成される部分が前述の分離装置に相当する。また、非線形補償演算部501、502内の位相同期部503は、前述の位相同期部に相当し、非線形補償演算部501、502内の補償演算部504は、前述の補償演算部に相当し、補償パラメータ学習部505は、前述の補償パラメータ学習部に相当する。また、補償演算部504を構成する電気演算回路が、前述の補償演算回路に相当する。
【0079】
そして、この分離装置(光90度ハイブリッド101およびデジタルフィルタ401等)により信号光を個々の周波数の搬送波ごとに分離し、位相同期部により、複数の搬送波間の位相同期の前処理を行ったうえで、補償演算部により、非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等による波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより、複雑な波形歪みの補償を行う。また、補償パラメータ学習部は、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習する機能を有し、この補償パラメータは補償演算部における非線形波形歪の補償演算を行う際に使用される。
(補償パラメータ学習部については、図13において再度説明する)。
【0080】
なお、上記の説明においては、非線形補償演算部501が位相同期部503を内蔵するものとして説明したが、これに限られるものではない。たとえば、位相同期部503を、デジタルフィルタ401と非線形補償演算部501との間に設けるようにしてもよい(後述する図6、図16、および図19〜図34等における他の受信装置においても、非線形補償演算部の前段に位相同期部を配置してもよい)。
【0081】
また、図6は、図1に示す受信装置の回路構成の変形例を示す図であり、光分散媒質を用いてキャリア分離を行う受信装置の例を示している。図に示すように、光分散媒質を用いて、各キャリアを分離することも可能である。
【0082】
図6に示す構成例では、光ハイブリッド121(例えば、光90度ハイブリッド)によって、局発光と同位相成分と、直交位相成分とに分離した後に、それぞれの成分を光分散媒質を用いた光分離器131、132によってキャリア分離している。
【0083】
このとき、各キャリア毎に局発光が必要になるため、分離する信号光のキャリア周波数に、その周波数成分を持つような複数の搬送波を出力する局発光が必要であり、マルチモード局発光発生部12を設ける。この場合に、信号光の周波数と局発光の周波数の差としては、光分散媒質の各チャネルの透過帯域内にあること、及び光電変換の帯域以内であればよい。また、光分散媒質としては、プレーナー型光回路(PLC)技術によってガラス基板などに生成された素子、空間光学系で構成された波長分離素子などがあり、アレイ導波路型グレーティング(AWG)、WSSなどがある。
【0084】
なお、図6において、光ハイブリッド121、マルチモード局発光発生部12、および光分離器131、132で構成される部分が、前述の分離装置に相当する。また、非線形補償演算部501内には図3に示した位相同期部503、補償演算部504、および補償パラメータ学習部505(図6では図示せず)が含まれている。
【0085】
(複数のキャリア間の位相同期(信号ビット位相推定)についての説明)
ここでは、前述した非線形補償演算部501内の位相同期部503を用いて行われる位相同期処理の一例について説明する。
キャリア分離された並列デジタル信号は、サブキャリア、キャリア間の時間遅延(スキュー)を補償される。これは、光ファイバ伝送路の出力端から非線形補償演算部501までの距離が、キャリア、サブキャリアによって異なる場合、また、主要な非線形波形劣化が発生する伝搬位置と、光ファイバ伝送路の出力端までの距離が、波長分散の影響、中継ノードの分波・合波によって、キャリア、サブキャリア間で異なる場合があるためである。
【0086】
このようにキャリア、サブキャリア依存のビット位相遅延がある場合、非線形波形劣化が発生した位置において、隣り合っていた各キャリア、サブキャリアの信号ビットの位相を推定して、そのビット間で非線形補償演算を実施する。その方法として、一般には、各キャリアに対して既知のパターンを送信して、受信される信号の変化から推定することができる。また、あるチャネルだけ信号光をオフ(OFF)にしておけば、そのチャネルに生じるFWMクロストークを受信端で直接検出して、スキューを検出できる。
【0087】
図7に、スキューを検出するための送信パターンおよび受信パターンの例を示す。図7(A)は、送信パターン例を示し、図7(B)は、受信パターン例を示す。ここでは、受信端ではチャネルCh−1、Ch−2、Ch−3のパターンを受信して、チャネルCh−4に発生するFWMクロストーク光との相関からスキューを推定する。
【0088】
図の場合では、チャネルCh−4に発生するFWMクロストークは、チャネルCh−1、Ch−2、Ch−3の積であらわされるため、Ch−1、Ch−2、Ch−3の受信パターンのビット位相をスイープしてみて、チャネルCh−4のFWMクロストークパターンが発生するビット位相関係を推定できる。この方法については、後述する補償パラメータ推定法の部分でも説明する。
【0089】
(非線形補償演算の方法についての説明)
キャリア、およびサブキャリアのチャネル番号nを用いて、その光周波数がv0+nΔv と現されるとき、各キャリアの光ファイバ入力端の光電界波形ET1、ETm、ETnを用いて、出力端のFWM光電界波形ΔEkは次の式(1)で表される。ここで、φkは、キャリア、およびサブキャリアのチャネル番号kの光位相で、データ変調によって変化しない固定成分をあらわす。
【0090】
【数1】
【0091】
これが主信号に加算されるため、非線形歪みを受けた受信信号ERKは次式で表される。
【0092】
【数2】
【0093】
l、m、nの組み合わせによって発生するFWMはk番目のキャリア、サブキャリアのクロストークとなる。組み合わせは様々なキャリア、サブキャリアに対して起こる。この中でも、主要な波形劣化をもたらすFWMクロストークとなる組み合わせに対して、式(1)を適用して送信波形と受信波形の間の関係を記述する。その関係式では、各キャリア(サブキャリア)、各偏波の受信波形が、各キャリア(サブキャリア)、偏波の送信波形同士の積及び和であらわされる。
【0094】
例えば4つの異なる周波数のキャリア、サブキャリアの信号光に対して、送信データによる位相変調を含めた送信波形ET1, ET2, ET3, ET4と受信波形ER1、ER2、ER3、ER4の関係は次式でモデル化できる。ここで、φ1、φ2、φ3、φ4は各キャリアの光源の光位相、κは非線形結合係数、φDlmnは波長分散による光位相回転をあらわしている。
【0095】
【数3】
【0096】
従って、上記のような受信波形と送信波形の関係式を用いて、受信波形ER1、ER2、ER3、ER4から送信波形ET1, ET2, ET3, ET4を推定する。
【0097】
(変動差分による非線形補償演算方法についての説明)
この場合、受信信号から送信信号を直接求めるのではなく、受信信号と送信信号の差分、変動量を求める方法がある。この場合、変動量をΔEkとすると、ETk、ERk、ΔEkの関係は次式(4)になる。ここでは、多元非線形方程式の近似解法を用いて、変動量ΔEkを逐次的に高精度に推定していく。
【0098】
【数4】
【0099】
この方法では、直接受信波形ERから送信波形ETを求めるのではなく、その差分を求めるため、範囲の制限を条件として与えることで、高精度に推定が可能になるなどのメリットがある。
【0100】
また、変動量ΔEが主信号に比べて、小さいなどの条件を仮定することで、収束を早くするようなことも可能である。また、数値近似解法では初期値を仮定するが、ΔEの条件を用いることで、より適当な初期値(予め定められた任意の初期値)を選ぶことも可能になる。
【0101】
例えば、歪み変動量を求める第1段目のステップにおいて、補償前の受信波形を一時的に、多元非線形方程式の一部の送信波形として用いることができ、また、第1段目の変動量推定ステップにおいて、初期値として用いる値を変化させて、補正効果が得られる値を検出することもきる。これにより、適切な初期値を選択することにより、収束を速めるなど、高精度で非線形波形歪の補償演算が行えるようになる。
【0102】
(変動差分法により近似解を求める方法の説明)
FWMクロストークモデルによる波形歪みは、送信端の主信号の光波形に、クロストークの光波形を加えるという形で表される。従って、受信端の波形ERKからクロストーク変動量ΔEKを差し引くことで、送信端の波形ETKを求めることができる。また、受信端の波形ERKからクロストーク変動量ΔEkを推定できる。非線形方程式であり、直接解くのは困難なので、逐次的近似解法を用いて推定していく。
【0103】
第n次の推定送信波形ETk(n)、第n次の推定クロストーク変動量ΔEk(n)とすると、次式(5)、(6)であらわされるような漸化式を用いて、近似解を求めることをできる。
【0104】
【数5】
【0105】
【数6】
【0106】
この式(5)および(6)において、φ1、φ2、φ3、φ4は各キャリアの光源の光位相、κは非線形結合係数、φDlmnは波長分散による光位相回転を表している。
【0107】
図8は、逐次的に非線形方程式を解く演算構成を示す図であり、上記漸化式を用いて、近似解を求める様子を示したものである。ただし、第0次の推定クロストーク変動量ΔEk(0)は、初期値であり適当な値を与える。
【0108】
図8に示す例では、初期値として0(ゼロ)を与えた例である。
【0109】
すなわち、図8においては、第1次の補償演算511_1は、受信波形ER1から、上述した式(6)の第1式に基いて、1次の歪み変動量ΔE1(1)を算出して推定する。第1次の補償演算511_1と同様に、第1次の補償演算511_2、511_3、511_4は、受信波形ER2、ER3、ER4から、上述した式(6)の第2式、第3式、第4式に基いて、1次の歪み変動量ΔE2(1)、ΔE3(1)、ΔE4(1)を、それぞれ算出して推定する。
【0110】
そして、減算器513_1は、(5)式の第1式に基いて、受信波形ER1から推定した変動量ΔE1(1)を減算し、ET1(1)を算出する。減算器513_2は、(5)式の第2式に基いて、受信波形ER2から推定した変動量ΔE2(1)を減算し、ET2(1)を算出する。減算器513_3は、(5)式の第3式に基いて、受信波形ER3から推定した変動量ΔE3(1)を減算し、ET3(1)を算出し、減算器513−4は、(5)式の第4式に基いて、受信波形ER4から推定した変動量ΔE4(1)を減算し、ET4(1)を算出する。
【0111】
続いて、第2次の補償演算512_1は、推定した波形ET1(2)、ET2(2)、ET2(3)、ET4(4)から、上述した式(6)の第1式に基いて、2次の歪み変動量ΔE1(2)を算出して推定する。第2次の補償演算512_1と同様に、第1次の補償演算512_2、512_3、512_4は、推定した波形ET1(2)、ET2(2)、ET2(3)、ET4(4)から、上述した式(6)の第2式、第3式、第4式に基いて、2次の歪み変動量ΔE2(2)、ΔE3(2)、ΔE4(2)を、それぞれ算出して推定する。
【0112】
そして、減算器514_1は、(5)式の第1式に基いて、受信波形ER1から推定した変動量ΔE1(2)を減算し、ET1(2)を算出する。減算器514_2は、(5)式の第2式に基いて、受信波形ER2から推定した変動量ΔE2(2)を減算し、ET2(2)を算出する。減算器514_3は、(5)式の第3式に基いて、受信波形ER3から推定した変動量ΔE3(2)を減算し、ET3(2)を算出し、減算器514−4は、(5)式の第4式に基いて、受信波形ER4から推定した変動量ΔE4(2)を減算し、ET4(2)を算出する。
【0113】
以下、上述した式(5)、および式(6)に基づく処理がn次まで繰り返され、最終的な送信波形T1(n)、ET2(n)、ET2(n)、ET4(n)が推定される。
【0114】
(歪み変動量による非線形補償演算におけるキャリア間の光位相についての説明)
ここでは、前述の位相同期部503(例えば、図3を参照)を用いて行われるシンボル位相の同期処理の例について説明する。
【0115】
上記の式(5)および(6)において、φ1、φ2、φ3、φ4は各キャリア1、2、3、4の光源の光位相、φDlmnは波長分散による光位相回転をあらわしている。
【0116】
まず、第1に局発光発生部の光位相と送信光源キャリアの光位相は非同期状態なので、この間の位相回転を補償する必要がある。一般に、情報伝送では、搬送波の振幅と位相に情報をマッピングして送信する。振幅と位相のマッピングは、複素平面状の点で表すことができ、コンスタレーションマップと呼ばれる。
【0117】
キャリア分離された後のそれぞれのキャリアのデジタル信号は、図9(A)に示すように、送信端の位相マッピング(例えば、図9(C))に対して、受信端の位相マッピング図9(A)は全体に回転している。ここでは、図9(A)は4値位相変調(QPSK)の場合の例であるため、変位方向も4つある。これは、局発光と送信光の位相が非同期であるからである。また、この回転角度は時間変動する。
【0118】
これを補償して図9(B)の状態にする。一般に、位相各キャリアの光位相φkは時間的に変動するが、光通信における変調速度に比較すると数桁も遅い変動であり、時間平均化することでデータの位相変動と分離して、取り出すことができる(例えば、参考文献2を参照)。
【0119】
[参考文献2] D. N. Godard, “Self-Recovering equalization and carrier tracking in two dimensional data communication systems,” IEEE Trans. Communication , Vol. Com-28, No.11, 1980, p.1867.
【0120】
例えば、光源のスペクトル線幅が数kHzであれば、おおよそ1ms程度の時間は位相φkが安定であるため、これ以下の時間間隔の受信信号の光位相を非線形平均化することでφkを推定可能である。
【0121】
また、各サブキャリア、キャリアを多重する前の光路長差、伝送路の光路長差の波長間依存性(波長分散)が時間変化した場合にも、φkは時間変動を受けるが、この時間変動速度もデータ変調による位相変動に比較して数桁も遅いため、時間平均化することで分離して求めることができる。
【0122】
図10は、キャリア推定と位相同期の演算回路図の構成を示しており、図9(A)に示すような受信サンプリング値から、局発光による位相回転θを取り除いて、図9(B)のように補償する方法を示すものである。
【0123】
図10に示すように、複素光電界を4乗して、複数のビット間で平均を取る方法がある(前述の参考文献2を参照)。
【0124】
図10に示す例では、各チャネル受信信号がサンプリングされてデジタル複素数値となったものが、時間系列で順次入力され、4乗演算部521、移動平均部522、位相回転角抽出部(Arg( ))523、および、位相回転処理部(Exp(−jθ))524、および加算器525の処理により、その局発光の位相回転θが取り除かれたデジタル複素数値が出力される。これにより、さらに非線形補償演算を行うことにより、上式のφkに関する項が補償されて、ゼロとすることができる。
【0125】
第2に、クロストーク変動は複素数で表され、非線形歪み補償のためにはその複素平面上での位相回転を推定する必要がある。上式の波長分散による光位相回転φDlmnに対応するものであるが、その変動量の位相角度は、波長分散、送信端におけるキャリア間の光路長差、送信端の各キャリア間の相対位相変動などに依存する。
【0126】
この理由を説明すると、例えば、FWMクロストークはその元となるキャリアの光位相に依存しており、クロストークを補償するためには、各キャリア間の相対位相関係が必要になる。特に、各キャリア、サブキャリアが位相変調されている場合、FWMクロストークの光電界の位相は、隣接チャネルの送信データに依存した変調位相と、キャリア、サブキャリアの光源の相対位相に依存する。このFWMクロストークの光電界が主信号の光電界に重畳した場合、主信号の光位相とFWMクロストークの光位相との相対位相に依存して波形歪みが生じる。
【0127】
受信波形を時間サンプリングし、その値を複素数平面状にプロットしたコンスタレーションマップ上では、図9(B)に示すように、FWMクロストークによってプロットの位置が変位する。FWMクロストークの発生元となる各キャリア、サブキャリアの送信データによる位相変調に依存して、FWMクロストークの光位相は変化する。
【0128】
この角度を推定する方法として、図7で示したように、あるチャネルをOFFにしてそのチャネルに発生するFWMクロストーク光電界を検出する方法がある。図の例では、Ch−4をコヒーレント検波することにより、そのFWMクロストークの振幅と位相が検出できる。また、それを引き起こすCh−1、Ch−2、Ch−3の各ビットにおける位相も推定できているから、それらの相関関係から上式のφDlmnを推定できる。
【0129】
また、図9(c)に示すような補償後のコンスタレーションが、同一の円状に乗るように、補償後のプロットの分布の分散が小さくなるように、φDlmnを推定するブラインド推定も可能である(前述の参考文献2を参照)。
【0130】
(補償演算に必要な伝送路の状態を示す非線形結合定数等のパラメータの推定の説明)
また、上式における非線形結合係数κも補償演算に必要である。この値は、FWMクロストーク効率を決めるものである。
【0131】
この値の推定法としては、図7で示したように、あるチャネルをOFFにしてそのチャネルに発生するFWMクロストーク光電界を検出する方法がある。図7に示す例では、Ch−4をコヒーレント検波することにより、そのFWMクロストークの振幅が検出できる。従って、その他のチャネルCh−1、Ch−2、Ch−3の振幅・位相マッピングも推定できているから、FWMの振幅とそれを引き起こすチャネルの振幅の関係から、非線形結合定数κが推定できる。
【0132】
また、図9(C)のような補償後のコンスタレーションが、同一の円状に乗り、補償後のプロットの分布の分散が小さくなるように、非線形結合定数κを推定するブラインド推定も可能である。また、式では、すべてのFWMクロストーク変動量項に対して、同一の非線形結合定数κを用いているが、個別に推定することでより補償精度を向上できる。
【0133】
また、非線形結合係数κ、分散位相回転φDは、伝送路の非線形係数、偏波の状態、波長分散に依存するパラメータである。これらの値は、光ファイバの種類によって、ある程度決まった典型値があるため、この値を用いることもできる。
【0134】
また、これらの値は、光ファイバ伝送路の製造法、メーカーに依存すること、また、伝送路がおかれた環境変動によって時間変化することを想定すると、これらの値を推定、もしくはモニタして非線形補償の演算部へフィードバックする構成が必要になる。損失係数α、波長分散に依存する2次伝搬定数β2、波長分散スロープに依存する3次伝搬定数β3などの推定も必要になる。詳細は補償パラメータ推定法の部分で記述する。
【0135】
(光伝送路における非線形波形劣化のモデル記述式についての説明)
この場合、光ファイバ伝送路の出力端の光信号波形から入力端の光信号波形を推定する。一般に、光ファイバ伝送路の伝搬による波形変化は、非線形シュレディンガー方程式でモデル化して記述される(次の参考文献3を参照)。
[参考文献3] Agrawal著, Nonlinear Fiber Optics, third edition, p.39-45
【0136】
非線形シュレディンガー方程式にファイバ出力端での振幅・位相波形、もしくは複素平面表示において位相直交する2つの成分(同位相成分・直交位相成分)の時間波形を伝搬軸z=L(L:伝送ファイバ長)での境界条件として与えることで入力端z=0での波形を求めることができる。その際、伝搬定数として、損失係数:α,分散β2、分散スロープβ3、非線形係数γを与える必要がある。
【0137】
(FWM非線形波形劣化でモデル化、連立方程式の説明)
光ファイバ伝送路の非線形によるFWM発生は、簡単な数式によってモデル記述される(前述の参考文献1を参照)。
【0138】
(XPMおよびSPMを含む非線形全般の補償についての説明)
l、m、nの組み合わせにおいて、l=nに縮退した場合は、相互位相変調と呼ばれる現象を記述しており、これはn番目のキャリア、サブキャリアの強度に比例して、k番目のキャリアの位相回転が発生する。さらに、l=m=n=kの縮退の場合は、自己位相変調(SPM)に相当する。FWMクロストークを用いたモデルでは、上記のようにFWMクロストークとして解釈されている非線形現象だけでなく、XPM、SPMも記述することができる。
【0139】
FWMクロストークの光位相は自身の光位相との関係がまったくランダムなのに対して、l=nの相互位相変調(XPM)、l=m=nの自己位相変調(SPM)は、クロストーク光が主信号に対して光位相が直交しているため、クロストークによる波形劣化が小さい。このため、XPM、 SPMによる変動は無視して、計算量削減のために、主信号に対する相対位相がランダムなFWMクロストークのみに特化してもよい。
【0140】
(4キャリアの場合の例)
例えば、4つの異なる周波数のキャリア、サブキャリアの信号光に対して、送信データによる位相変調を含めた送信波形ET1, ET2, ET3, ET4と受信波形ER1、ER2、ER3、ER4の関係は次式(7)でモデル化できる。ここで、φ1、φ2、φ3、φ4は各キャリアの光源の光位相、κは非線形結合係数、φDlmnは波長分散による光位相回転をあらわしている。
【0141】
【数7】
【0142】
(FWMクロストークモデルの近似解についての説明)
受信信号波形は、送信信号の波形の各チャネルの値の積で表される。従って、受信信号から送信信号のシンボルを求める際には、非線形連立方程式を解くことになる。解析的に解くことが困難な場合が多く、非線形方程式を数値計算によって近似的に解く方法を用いる。数値計算法にはさまざまな方法が提案されている。一般的には、適当な初期値を与えて、解析的に解を求めることができるような簡単な方程式、例えば線形方程式に変換して近似解を求める。さらに、その近似解を用いて、同様の手順により精度の高い近似解を求める。この動作を繰り返し演算することで、徐々に真の解に近い値を求めていく方法である。
【0143】
(多元Newton法)
FWMクロストークモデルによる波形歪みは、送信端の主信号の光波形に、クロストークの光波形を加えるという形で表される。ここで、加わるクロストークの光波形が、自身キャリア(サブキャリア)だけでなく、周囲のキャリア、サブキャリアを含めた3つの光電界波形の積で表されるため、送信波形と受信波形の関係は多元連立非線形方程式になる。ここで、この解を近似的に求める方法として、多元ニュートン法がある(参考文献5を参照)。
【0144】
[参考文献5] L. K. Schubert, “Modification of a Quasi-Newton Method for Nonlinear Equations with a Sparse Jacobian," Mathematics of Computation, Vol. 24, No. 109 (Jan., 1970), pp. 27-30
【0145】
また、2分法、逐次代入法、Steffensen法を多元化した方法などがある(次の参考文献6を参照)。
【0146】
[参考文献6] 野田, "連立非線形方程式に対する一般Steffensen反復法(非線形計画法(2))," 日本オペレーションズ・リサーチ学会秋季研究発表会アブストラクト集, 2-A-5, p.128-129
【0147】
そこでは、図11(A)に示すように、ある適当な初期値を用いて、非線形方程式を線形方程式に変換するなど簡単化して、一次解を求める。この一次解を用いて再び非線形方程式を簡単化して、二次解を求める。同様に、n次解を用いてn+1次の解を求める作業(ステップS11〜S13)を繰り返すことで、数値計算により非線形方程式のより精度の高い解を得る。また、図11(B)は、n次近似解およびn+1次近似解を求めた後に(ステップS21およびS22)、n+2次の解を求める際に(ステップS23)、n次の近似解、及びn+1次の近似解を用いる方法である。
【0148】
(受信波形を初期値に用いる逐次法についての説明)
FWMクロストークモデルによる波形歪みは、送信端の主信号の光波形に、クロストークの光波形を加えるという形で表される。従って、クロストークの光波形を求め、その値を受信された光波形から引くことで、送信光波形が求められる。この方法を図8に示した。
【0149】
この方法を用いる場合、受信波形からクロストークの光波形を求めることが必要になる。簡単な方法として、FWMクロストークによる送信波形と受信波形の関係式、式(8)から式(8)の第2項以降のFWMクロストークの項において、送信波形を受信波形で置換してクロストーク波形とする方法がある。これを受信波形から引くことで、第1の送信波形推定値ETK(1)を推定できる。次に、この第1の送信波形ETK(1)をFWMクロストークを求める式に送信波形として代入して、再びFWMクロストーク波形を求め、受信波形ERKから引くことで、第2の送信波形推定値ETK(2)を求めることができる。これを繰り返すことで、より精度の高い送信波形を推定していく。式で示すと次式になる。
【0150】
【数8】
【0151】
なお、この場合の計算回路図は、図8に示した計算回路図と同様になる。
【0152】
また、上記の方法の改良版として、FWMクロストークによる送信波形と受信波形の関係式、式(2)から(8)の第2項以降のFWMクロストークの項において、自分のチャネル以外では送信波形ETmを受信波形ERm、もしくは逐次的に求めた推定値ETm(p)で置換するが、自身のチャネルに対しては送信波形ETkとして、多元線形方程式に変換してETkを求める方法がある。
【0153】
自身のチャネルに対しては、送信波形を受信波形で近似することがないため、この分だけ精度の高いFWMクロストーク波形を求めることができる。受信波形は、送信波形にFWMクロストーク波形を加算した波形となるが、このモデル式のFWMクロストークの項において自身のチャネル以外の送信波形をそのチャネルの受信波形で置換すると、受信波形は既知なので自身のチャネルの受信波形と送信波形の関係を表す1次線形方程式となる。これは簡単に解けて、第1の送信波形の推定値を求めることができる。この波形から受信波形を引いた波形は、FWMクロストークの波形になるため、歪み変動量を求める方法としても理解することができる。
【0154】
なお、図12は、多元非線形方程式を近似的に解く演算回路例を示しており、ここでは、ステップS31で示す第1次の演算ステップでは、受信波形ER1、ER2、ER3、ER4から、第1の推定送信波形E1(1)、E2(1)、E3(1)、E4(1)を推定する。続いて、ステップS32で示す第2次の演算ステップでは、例えば、E1(2)の波形については、受信波形ER1、および第1の推定送信波形E1(1)、E2(1)、E3(1)、E4(1)を基に、第2の推定波形E1(2)を推定する。他の第2の推定波形E2(2)、E3(2)、E4(2)、についても同様である。
【0155】
(補償パラメータ学習部505による補償パラメータ推定法についての説明)
伝送路の非線形結合定数、波長分散、もしくはそれらによって決まるFWM発生効率、及びFWMと主信号の相対位相差が補償演算に必要である。また、送信端光源のキャリア、サブキャリア間の相対位相、もしくはそれによって決まるFWMクロストークと主信号の相対位相も補償演算に必要である。
【0156】
さらに、送受信ビット位相と非線形が発生した位置におけるキャリア、サブキャリア間のビット位相遅延差も補償パラメータとして必要である。
【0157】
これらの値は、送信端から既知の送信信号を送って、受信端においてその送信パターンの歪みを分析することで、非線形結合係数、波長分散などの伝送路パラメータを測定できる。また、未知の実トラヒック信号を受信しながら、その補償演算効果が最も高くなるように補償パラメータを推定するブラインド推定法も可能である(前述の参考文献2を参照)。
【0158】
また、光伝送システムを流れる信号は、フレーム構造を有するため、そのフレームがもつ特徴的な信号パターンを既知信号として利用して、補償パラメータを推定する方法もある。なお、ここでは偏波多重における独立な2つの偏波も、キャリア、サブキャリアという言葉で含めてあらわす。つまり、例えば2つの異なる偏波の信号を多重した場合、それは2つのキャリア、サブキャリアによって生成される信号だと想定する。また、各偏波に対して2つのキャリア、サブキャリアが多重された信号光を、さらに偏波多重した場合、この信号は合計で4つのキャリア、サブキャリアによって合成されていると考える。
【0159】
非線形補償演算部では、非線形補償演算部への入力位置と光ファイバ出力端での各キャリア、サブキャリアの信号ビット位相遅延差、もしくは非線形補償演算部への入力位置と、非線形波形歪が主に発生した位置での各キャリア、サブキャリアの信号ビット位相遅延差を補正する。また、非線形結合定数、FWMと主信号の光位相差を推定して、補償演算部へ入力する。非線形補償演算部では、これらの値を用いて、非線形補償演算を実施する。
【0160】
図13は、補償パラメータ推定部と補償演算回路の構成例を示す。図13に示す構成例においては、送信側から送信されるパイロット信号等を基にして、各キャリア、サブキャリア間のスキューをモニタするスキューモニタ部532と、スキューモニタ部532におけるスキューの検出結果を基に、各キャリア、サブキャリア間のスキューを補正するスキュー補正部531と、送信信号と受信信号の関連を表す連立非線形方程式の非線形結合定数を推定する非線形結合定数推定部533と、送信信号と受信信号の位相を推定する位相推定部534と、非線形結合定数推定部533および位相推定部534で得られたパラメータを基に、スキュー補正された信号の非線形補償演算を行う非線形補償演算処理部535とで構成される。
【0161】
なお、スキューモニタ部532、スキュー補正部531と、非線形結合定数推定部533と、位相推定部534が、前述の補償パラメータ学習部に相等する。この補償パラメータ学習部は、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習し、それらの値を前記補償演算回路に入力する。
【0162】
このように非線形補償演算を行う場合は、第1に、光ファイバ伝送路の出力端からデジタル演算部までの各キャリア、サブキャリア間のビット時間位相遅延(スキュー)を調整する回路が必要となる。非線形波形歪の補償には、その非線形波形歪が発生した伝送路位置における各キャリア、サブキャリアの時間波形を用いる必要がある。波長分散の補償演算がある場合には、光ファイバ出力端から非線形波形歪が発生した伝播位置まで遡ることが可能であり、光ファイバ出力端からデジタル演算部までの時間遅延差を推定できればよい。一方、分散補償演算がない場合には、非線形演算部でスキューを考慮した補償が必要になる。
【0163】
光ファイバ伝送路の出力端から補償演算部までの距離が、キャリア、サブキャリアによって異なる場合が想定される。また、主要な非線形波形劣化が発生する伝搬位置と、光ファイバ伝送路の出力端までの距離が、波長分散の影響、中継ノードの分波・合波によって、キャリア、サブキャリア間で異なる場合も想定される。このようにキャリア、サブキャリア依存のスキューがある場合、非線形波形劣化が発生した位置において、隣り合っていた各キャリア、サブキャリアの信号ビットの位相を推定して、そのビット間で非線形補償演算を実施する。したがって、あるキャリア、サブキャリアに対して受信端で受信されたFWMクロストークが、各キャリア、サブキャリアの受信信号のどの信号ビット位相同士が発生させたものか、推定する必要がある。
【0164】
これをモニタする方法として、パイロット信号を送付して、その受信波形から推測する方法がある。最も単純な基本パターンとしては、それぞれのキャリア、サブキャリアにおいて、単一のビットパルスを出力して、FWMクロストークが発生するチャネルのFWMクロストーク発生位置、及びコヒーレント受信することでその光位相を検出する。単一パルスの位置を1ビットずつシフトさせて、FWMクロストークの発生パターン、及び振幅・位相を観測する。
【0165】
図14は、補償パラメータ推定のための送信パイロット信号の例を示し、チャネルCh−1、Ch−2、Ch−3によって、チャネルCh―4に発生するFWMクロストークの発生位置、およびその光位相と振幅を求める。これにより、送信信号と受信信号の関連を表す連立非線形方程式の非線形結合定数、位相項も推定できる。
【0166】
また、シングルパルスでなくても、例えば擬似乱数バイナリ系列(PRBS)などの既知の信号列であれば、発生するFWMクロストークのパターンにマッチするようなキャリア、サブキャリア間のスキュー量を探しあてることが可能である。キャリア、サブキャリア間にあるビット位相遅延を想定すれば、FWMクロストークの発生パターンが予測できる。ビット位相遅延量を掃引して、FWMクロストークの予測パターンと実際に観測されたFWMクロストークパターンが一致するようなスキューを探しあてる。
【0167】
(発明の効果を示す実験・シミュレーション結果についての説明)
3つの異なる周波数の搬送波をそれぞれ個別にPRBS NRZパターンで変調し、20kmの分散シフトファイバを伝送した。このとき、光ファイバへの入力パワーを増大させ、非線形波形歪が大きい状態に設定している。特に、3つのチャネルの中心のチャネル2では、非線形波形歪が大きい。受信端において3つのチャネルを分離し、チャネル2に対して観測された光電流値の確率分布を図15に示す。本来期待される確率分布では、デジタルデータ0と1に対応した2つのピークがみられるはずである。ところが、図15(A)に示す分布補償前の確率分布では、確率分布に3つのピークがみられ、他のチャネルからの干渉が発生していることがわかる。このとき、デジタル判別閾値を図のように設定した場合に誤り率が最小になり、4.7×10−3であった。これに対して、補償演算を実施したところ、図15(B)に示すような2つのピークを有する分布を示した。従って、波形歪みがない理想的な場合の確率分布に類似したものである。このとき、誤り率は5.0×10―4 まで1桁程度低減しており、補償効果が顕著にみられる。
【0168】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態として、偏波分離を行う例(例えば、2キャリア+偏波の例)について説明する。図16に偏波分離器を追加した受信装置の構成例を示す。
【0169】
偏波多重された信号光を受信する場合、偏波分離器(PBS:光ビームスプリッタ)21により独立した2つの偏波に分離する。そして、それぞれの偏波の信号光と、局発光とを光90度ハイブリッド101、102に入力し、それぞれの偏波に対して、局発光と同位相成分、および直交位相成分に分離する。この信号光は、光電変換器201〜204に入力され、電気信号に変換され、さらにアナログ・デジタル変換器(ADC)301〜、304によりデジタル信号に変換される。
【0170】
さらに、第1の実施の形態で示したように、分波フィルタ(デジタルフィルタ等)341〜344内のFFTを用いて各キャリアの信号に分離できる。この状態では、各キャリア毎、偏波毎に分離されたデジタル信号が得られている。
【0171】
しかし、一般に、光ファイバ伝送路を伝送した後の受信信号の偏波はランダムであり、偏光ビームスプリッタ(PBS)21の2つの偏波軸と受信信号光の多重された2つの偏波軸はあっていない。そのため、光ビームスプリッタ(PBS)21で2つに分離されたそれぞれの出力ポートには、偏波多重された2つの信号光が互いに混入している。
【0172】
このため、偏波分離演算部601〜604により偏波分離演算を行う。この場合に、単一のキャリアの信号光の偏波分離方法は従来技術としてあり、前述の「参考文献2」に記載されているように、デジタル信号処理を用いて実施できる。キャリア分離した後の信号光に対しては、同様なアルゴリズムでそれぞれの偏波信号に分離できる。また、同時にPMDの補償も可能である。偏波分離された信号光は、次に、キャリア・サブキャリア分離されたデジタル信号は、非線形補償演算部501に入力される。
【0173】
サブキャリア多重と偏波多重された信号光の非線形補償演算では、N個のキャリア・サブキャリア間と2つの偏波間、合計2N個の搬送波間のFWMクロストーク発生モデルで非線形波形歪を記述し、その歪みを補償する。サブキャリア数が2本の偏波多重の信号光におけるFWMクロストーク発生パターンを図17に示す。
【0174】
図17は、E_Lxのキャリアに対して重畳するFWMクロストーク発生パターンを示しており、他のキャリアに対しても対称な関係で発生する。ここでは、FWMクロストークとは自分自身の主信号の位相とクロストークの位相の関係が直交しておらず、ランダムに変化するようなものと定義している。それぞれのパターンに対する非線形係数χの大きさの比較を図17の下側の表に示している。ここでは、同一偏波の信号光に対する非線形係数χの大きさ3を基準にした値である(次の参考文献4を参照)。
【0175】
[参考文献4] Agrawal著, Nonlinear Fiber Optics, third edition, p.207.
【0176】
この3つのパターンを考慮して、FWMクロストークによる波形歪みを受けた受信信号を表現する。これを解くことで、受信波形から送信波形を推定できる。その演算回路は、FWMクロストークモデルの近似解で記す。
【0177】
【数9】
【0178】
この連立非線形方程式は、第1の実施の形態で示した演算回路構成で計算することができる。
【0179】
なお、図16において、偏波分離器(光ビームスプリッタ(PBS))21、22は、前述の偏波分離装置に相当する。また、光90度ハイブリッド101、102、光電変換器201、202、アナログ・デジタル変換器(ADC)301、302、303、304および分波フィルタ341、342、343、344で構成される部分が前述の分離装置に相当し、偏波分離演算部601、602、603、604は、前述の偏波分離演算部に相当する。また、非線形補償演算部501には、図3に示す位相同期部503、補償演算504、および補償パラメータ学習部505(図16では図示せず)が含まれている。
【0180】
そして、偏波多重された信号光を偏波分離装置によって2つに分離し、偏波分離演算部により各搬送波周波数ごとの2つの偏波の間の干渉を取り除いた後に、この複数の搬送波間の非線形波形歪を補償するため、位相同期部により、搬送波間の位相同期の前処理を行う。それから、補償演算部により非線形波形歪を四光波混合光クロストーク等の波形劣化モデルによって近似し、この波形劣化モデルの非線形方程式を逐次的近似解法等で線形化して簡易化し、この簡易化された波形歪みモデルにより波形歪みの補償を行う。これにより、非線形補償演算を簡易な電気演算回路で実現することができる。なお、補償パラメータ学習部505は、非線形補償演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習する機能を有し、この補償パラメータは補償演算部における非線形波形歪の補償演算を行う際に使用される。
【0181】
[第3の実施の形態]
(3キャリア直接受信の例)
受信端でコヒーレント検波を想定していたため、光位相も含めた光波形の情報を得られ、送信波形と受信波形の関係を記述する数式において、受信波形ER1、ER2、ER3、ER4を複素数として与えることができる。一方、従来の強度変調信号ではコヒーレント受信を用いないで、直接受信を用いる構成が一般的である。強度変調信号の場合、FWMクロストークと主信号の相対位相が不明であっても、個々のキャリア、サブキャリア間の相対位相差を推定できれば、非線形補償演算が可能である。
【0182】
チャネルkの光電流値Ikは、チャネルl, チャネルm, チャネルn、から発生する FWMクロストーク電界によって干渉を受ける。ただし、l+m=n+k。この光電流値Ikは、各チャネルの光ファイバ伝送路への入力パワーPk(t)、Pl(t)、Pm(t)、およびPn(t)を用いて次の解析式で表される。
【0183】
【数10】
【0184】
ここで、位相整合条件に依存する非線形結合係数を、ηl,m,nexp(iΔθl,m,n)、縮退係数(degeneracy factor)をDl,m,n、損失係数をα, 各チャネルの光位相をφk、φl、φm、φnとした。なお、「Δφl,m,n=φl+φm−φn−φk+θl,m,n」と定義する。
【0185】
この式が全チャネルに対して用意され、この連立多元方程式を解析的に解くことは困難であるため、第2項目以降の光ファイバ伝送路への入力端、つまり送信端の光パワーPn(t)を受信光電流値In(t)で置換して、第1の送信端の光パワー推定値を得る。今度は、この値を第2項目以降の送信端光パワーとして用いて、第2の送信端の光パワー推定値を得る。この作業を繰り返すことで、より精度の高い送信端光パワーを求める。ただし、光電流と光パワーを同一の次元で取り扱うことになり、規格化、もしくは非線形結合定数η´l,m,nの再定義が必要である。そこでは、光ファイバ伝送路の損失、光電変換器の変換効率も含めて規格化、もしくは再定義する。実際には、デジタル信号処理で実施するため、光電流値をサンプリングした値を用いる。ここで、送信端光パワーと受信光電流値が同一の振幅スケールで扱えるように、規格化した非線形結合定数ηを用いて、逐次的に送信端の光パワーサンプリング値を求める式を次に示す。
【0186】
S(0)k,iは、サンプリング時間番号i番目、チャネルkの送信端光パワーで、逐次的求めた第pの推定値を表す。ただし、非線形結合定数ηは光ファイバ損失を含んだ値として定義される。
【0187】
【数11】
【0188】
ここで、3チャネルの場合には、縮退係数が「D2,2,3=D2,2,1=3」、「D1,3,2=6」で与えられるため、次式で求められる。また、位相整合条件による位相項Δφも単一の値を用いて記述できる。
【0189】
【数12】
【0190】
この漸化式を解くことで、受信端の波形から送信端の波形が算出できる。
【0191】
[第4の実施の形態]
(自己位相変調(SPM)位相回転モデルを使用する例についての説明)
あるキャリア、サブキャリアの信号光の光強度波形を変化させて、他のキャリアが受ける位相回転を測定することでも、非線形定数などの演算パラメータを測定値から推定できる。その光強度波形の変化の傾きを変化させて、より高精度に測定することも可能である。また、キャリア、サブキャリアの周波数間隔を変化させて、受信端で観測されるビート信号を測定することで波長分散を測定することもできる。
【0192】
伝送路パラメータの測定方法には、そのほか様々な方法が提案されている。非線形伝搬定数に関しても測定方法が提案されており、これらの原理を用いて測定することが可能である。ただ、測定に際してファイバ入力端から測定用の光を入力し、出力端から出力される光を分析する方法が一般的であるが、実際のシステムでは入力端と出力端が数十km以上離れた地点にある場合が多く、これらの原理をそのまま応用することは不可能である。
従って、伝搬定数測定のためのパイロット光を信号光に含ませておくことが必要になる。パイロット光としては、各伝搬定数測定方法にあわせたものを用意する。さらに、伝搬定数測定に必要な情報のやりとりは、トランスポンダの上りと下りの経路、OSC(Optical Supervisory channel)などを用いて転送することが可能である。
【0193】
理想的にはシュレディンガー方程式を数値的に解いて逆伝搬演算する方法が望ましいが、計算量が膨大になる。そこで、近似的に光ファイバ伝送路の出力端波形から入力端波形を推定する方法が必要になる。波長分散によってチャネル間の群速度差が生じて、隣接チャネルのビットが1ビット程度ずれるウォークオフ現象が発生する。
【0194】
ウォークオフが発生する距離の指標としては、分散長「LD=c/(λ2R2D)」がある。ただし、c:光速、λ:波長、R:ビットレート、D:波長分散である。この場合、ウォークオフ現象の発生による影響が十分小さい距離の区間に区切って、線形な波形劣化と非線形な波形劣化が同時ではなく順に発生する近似モデルを用いる方法もある。また、伝送路ファイバでは、その損失係数によって伝搬するに従って徐々に信号光パワーが減衰する。光非線形効果は光パワーが大きい場合に大きく発生するため、一般には伝送路ファイバの入力端から数kmまでに発生する非線形効果がドミナントである。従って、それ以降の部分においては、線形伝搬に近似することができる。その距離指標としては、損失係数αとファイバ長Lによって決定される実効ファイバ長「Leff=(1−e―αL)/α」 がある。この方法を用いると、非線形伝搬を記述するシュレディンガー方程式を用いて逆伝搬演算する距離を短くできるため、演算量を削減できる。
【0195】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態としてスプリットステップ法について説明する。光ファイバ伝送路の非線形波形劣化は、光電界強度に比例した光位相回転として捕らえることができる。しかし、光電界強度は波長分散(光の波長によって光の速度がわずかながら異なるため、波長の短い光と長い光では到達時間がわずかにずれる現象)によって伝播中に変化すること、非線形位相回転が波長分散によって光強度波形の変化をもたらすことから、非線形位相回転と波長分散は複雑に絡み合っている。
【0196】
非線形シュレディンガー方程式は、この波形変化を記述するモデル式である。従来より、このモデル式を数値計算で解く方法が提案されている。分割ステップフーリエ分析(Split-Step Fourier)法が有望な方法としてある(次の参考文献7を参照)。
【0197】
[参考文献7] Govind P. Agrawal, Nonliear Fiber Optics, Third Edition, p.51
【0198】
これは、光ファイバ伝送路を細かい区間に区切り、各区間における波長分散による波形変化と損失を表す線形演算と、光電界の強度に比例した非線形な位相回転を表す非線形演算とを繰り返し計算する方法であり、一般に、送信波形の光ファイバ伝搬による変化、及び受信波形を予測する目的で用いられていた。
【0199】
ここでは、逆に、受信波形から送信波形を推定する目的で利用する。伝搬距離zにおいて、「z=0」での波形を初期値として与えて、「z=L」での波形を予測するのではなく、「z=L」での波形を初期値として与えて、「z=0」での波形を推定する。
【0200】
伝搬距離zにおける時間波形A(z、T)が、z+hまで伝搬した後の時間波形A(z+h、T)は、
【0201】
A(z+h,T)=exp(hD)exp(hN)A(z,T)、で与えられる。
【0202】
ただし、D、Nはそれぞれ線形演算、非線形演算を表し、Nは時間ドメインで、Dは周波数ドメインで演算される。つまり、A(z,T)は非線形演算を実施された後、exp(hD)により、フーリエ変換により周波数ドメインの関数に変換され、線形演算Dを実施され、逆フーリエ変換で時間ドメインの関数に戻される。
【0203】
図18(A)、図18(B)に示すように、線形逆伝播のステップ(ステップS41)、IFFのステップ(ステップS42)、非線形逆回転のステップ(ステップS43)、およびFFTのステップ(ステップS44)のプロセスを繰り返し実施する。
【0204】
この場合に、「z=L」を初期条件として与えて、逆伝搬させるためには、hを−hとしてz点での波形からz−hでの波形を求めるという演算を繰り返すことで、受信端の波形から送信端の波形を計算できる。
【0205】
また、逆伝播を実施する他の方法として、損失係数α, 波長分散D[ps/nm/km]に比例する2次の伝搬定数β2、 波長分散スロープに比例する3次伝搬定数β3、 非線形係数γなどの伝搬定数の符号を正負反転させることで、逆伝搬演算が可能である。また、N非線形演算の逆演算としては、FWMクロストークモデルを用いた演算と、自己位相回転モデル(第4の実施の形態)を用いた演算があり、それらの具体的な演算回路は前述のとおりである。
【0206】
細かく区間を分割する方が、精度よく計算できるが、逆に計算への負荷が増大する。ここでは、計算負荷を低減するために、区間を長くして計算ステップを低減することが重要である。その場合、計算に用いるα、β2、β3、γなどの伝搬定数の値として、実際の値ではなく、補償効果が高くなるような実効値を用いることになる。トレーニングパターンから補償パラメータを学ぶ場合には、その値が実効値に近い。また、ブラインド推定の場合、補償後の波形歪みが最も小さくなるようにフィードバック制御する。従来技術のトレーニング方法、ブラインド推定法を本発明に適用することで、より制度の高い推定が可能である。
【0207】
(FWM発生に関する補足説明)
一般に、FWMとは3つの異なる周波数(ω1,ω2,ω3)の光がミキシングされ、新たな周波数ω、例えば、「ω=ω1+ω2+ω3」の光が生成される現象である。これは非縮退型FWMと呼ばれるが、3つの周波数のうち2つが縮退している場合もある。WDM伝送においては、FWMは3つ、若しくは2つのチャネルの信号光によって発生するFWM光が別のチャネルに重畳するというチャネル間クロストークを誘発する。
【0208】
FWMの発生効率は光ファイバ伝送路の分散特性に大きく依存し、零分散波長帯近傍においては位相整合条件が満たされるため、FWMに起因するWDMチャネル間クロストーク量が大きくなり、それによる波形劣化が大きいという課題がある。
【0209】
例えば、劣化要因パラメータとしてクロストーク量を設定した場合で具体例を説明する。ある光ファイバ伝送路区間の零分散波長が与えられたとき、その区間においてチャネル−i、−j、−kによって、チャネル−n(n=i+j−k)に発生するFWMクロストーク量は次の解析モデル式によって表される(参考文献1、3を参照)。
【0210】
「参考文献1」 P.O. Hill, "cw-three wave mixinGIn single mode optical fibers," J. Appl. Phys., 5098
【0211】
「参考文献3」 Agrawal著, Nonlinear Fiber Optics, third edition, p.39-45
【0212】
【数13】
【0213】
ここで、Ei、Ej、Ek、Enはそれぞれチャネルi,j,k,nの光電界振幅、aは損失係数、χは非線形係数、Lはファイバ長である。
【0214】
また、Δκは位相不整合量をあらわし、チャネル周波数間隔Δf, 零分散波長λ0、波長分散スロープ∂D/∂λに依存する。
【0215】
【数14】
【0216】
ただし、n0は零分散波長の波長位置をチャネル番号であらわした値であり、零分散波長λ0とCh−1の信号光波長によって「n0=c/(λch1−λ0)/Δf−1と表現される。
【0217】
実際には、様々なチャネル組合せi,j,kによって、チャネルnにFWMクロストークは生成される。これらの総和を求めることで、チャネルnに生成されるクロストーク量が求められる。このとき、各組み合わせで生成される電界クロストーク量は振幅と位相で表される二次元ベクトル量であるため、本来であれば光電界ベクトルの和となる。ただ、一般のWDMシステムでは、各チャネルの光源として個々のレーザ光源を用意するため、それらの位相関係は無相関であり、時々刻々変化する。従って、各チャネル組合せで発生する電界FWMクロストークをベクトルで和をとるためには、光位相が既知である必要があり、一般には困難である。このキャリア間の相対位相を一意に固定することで、非線形波形劣化の補償が容易になる。
【0218】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態に係わる受信装置の構成例について説明する。
(基本構成の説明)
伝送路が非線形であれば、周波数軸上で独立であり、互いの干渉がないようなチャネルであっても、光ファイバ伝送路の非線形を介して互いに干渉(クロストーク)を発生する。この干渉は、光ファイバ伝送路の特性に依存するものの、その波形歪みは主に隣接チャネルの送信波形から予測可能であり決定論的である。従って、光ファイバ伝送路の伝送特性を記述するモデルがあれば、主要な隣接チャネルの送信波形と、非線形波形歪を受けた受信波形との関係を記述できる。従って、この関係を逆に解くことで、隣接チャネルの受信波形から送信波形を求めることができる。
【0219】
上記の方法で受信端において非線形波形歪を補償するためには、隣接するチャネルの受信波形を観測し、各チャネルの受信波形をパラレルに取り込み、光ファイバ伝送路モデルの記述を逆に解いて非線形波形を等化する補償回路に入力する。
【0220】
(光90度ハイブリッド、光分波の構成の説明)
第6の実施の形態においては、受信端における局発光発生部として位相同期マルチモード局発光を使用する。受信端における局発光発生部として、各キャリア、サブキャリア間の相対位相が時間的に変化がなく、一意に固定されているマルチモード光源を利用すると、どのキャリア、サブキャリアの信号光もコヒーレント受信するための基準位相が共通化されるため、送信データ変調による位相変化を除いた互いのオフセット位相、オフセット周波数がわかる。
【0221】
従って、FWMクロストークが発生した伝送位置における各キャリア、サブキャリア間の相対位相の関係がわかり、その補償が可能になる。キャリア、サブキャリア間の相対位相が固定されている場合であっても、局発光の各キャリア、サブキャリア間の位相関係の初期値、及び光ファイバ伝送路の波長分散による位相回転、非線形効果による平均的な位相回転など、様々な位相回転の要因がある。そのため、トレーニングパターンやパイロット信号などの既知の信号を送付して、各キャリア、サブキャリア間の局発光発生部の相対位相を一旦学習しておく方法も有効である。
【0222】
また、補償後の波形をモニタして、補償効果の大きさを表すパラメータを導入して、その値をモニタして、補償効果が高い状態をブラインド推定によって維持する方法もある。CMA(Constant Modulus Algorism)などがその例である。その場合でも、局発光の各キャリア、サブキャリア間の位相関係が固定しているので、光ファイバ伝送路の出力端、及びFWMクロストーク発生位置におけるそれらのオフセット位相、オフセット周波数の相対関係を、一旦学習した位相関係を用いて推定できる。つまり、ある時点で学習しておけば、その値をそれ以降の時間に対して適用できる。位相同期光源であっても、時間によって揺らぎが発生しうるので、補償演算に用いる位相オフセット、周波数オフセットの値を時折更新する必要もある。
【0223】
(光90度ハイブリッドについての説明)
位相同期マルチモード光源を局発光として利用する場合、そのキャリア、サブキャリア間の相対位相関係を保持した状態で、各キャリア、サブキャリアを位相基準として信号光を検波することが望ましい。
【0224】
この場合、光90度ハイブリッドを用いて局発光と信号光の位相を比較する方法がある。光90度ハイブリッドとは、2つのポートから入力された光信号のうち、同一位相の光成分と直交位相の光成分に分離して、それぞれ異なるポートから出力するものである。
【0225】
光90度ハイブリッドの従来技術として、単一キャリアのコヒーレント受信の場合、3ポートの光合波器を用いる方法がある(参考文献8を参照)。この例では、3ポートのうち、2ポートから同一位相、直交位相の成分が出力される。
【0226】
また、2ポートの光合波器を用いる場合には、次の参考文献9に記載されたような局発光と信号光を2×2ポートの光合波器と、差動受光器を利用する方法がある。
【0227】
[参考文献8] Seb J. Savory, et al., “Electronic compensation of chromatic dispersion using a diGItal coherent receiver,” Optics Express, Vol.15, No.5, 2120.
【0228】
[参考文献9] Keang-Po Ho, “Phase-modulated optical communication systems,” Springer, p.7
【0229】
前者の場合、図19に示すように、受信信号光と、マルチモード局発光発生部12から出力されるマルチモード局発光とを光ハイブリット(例えば、光90度ハイブリッド)121に入力し、両者の光位相関係を比較して、同一位相成分と、直交位相成分に分解して、異なる出力ポートから出力する。
【0230】
これを波長分散媒質を利用した波長によって分離する光分離器131、132に入力して、各キャリアごとに分離して光電変換器201〜208で光電流に変換する。この光電流をアナログ・デジタル変換器(ADC)301〜308でデジタル信号に変換して、各キャリア、サブキャリア分のデジタル信号を非線形補償演算部501に入力する。この構成では、光90度ハイブリッドにおいて各キャリア成分がそれぞれ同一位相成分と直交位相成分に分離された後に、キャリア、サブキャリアを分波するため、それぞれのキャリア、サブキャリアの位相検波の基準位相が共通化している。
【0231】
つまり、固定された相対位相関係にある各キャリア、サブキャリアの局発光を基準に、それぞれのキャリア、サブキャリアの信号光の光位相を検波するため、信号光の各キャリア、サブキャリアの位相関係も判明する。この性質は、キャリア、サブキャリア間の位相関係に依存して、FWMクロストークの波形劣化の様相が変化する状況において、そしてそれを補償する状況において、メリットを有する。
【0232】
一方、後者の2×2ポートの合波器を利用する場合、同一位相成分、直交位相成分それぞれに対して2ポートがセットになる。これを光分波器で波長ごとのキャリア、サブキャリアに分離した後に、差動光検出器に入力する必要がある。
【0233】
なお、図19に示す構成において、光分離器131、132は、前述の波長分散媒質を用いた光分離器に相当し、光ハイブリッド121は、光90度ハイブリッドに相当し、マルチモード局発光発生部12は、前述のマルチモード局発光発生部に相当する。そして、マルチモード局発光発生部と光90度ハイブリッドにより、各搬送周波数ごとに光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力し、また、光90度ハイブリッドからの出力光を波長分散媒質を用いた光分離器によって周波数(波長)毎に分離する。これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0234】
図20は、同位相成分(直交位相成分)のどちらか一方を検出する場合の受信装置の構成例である。このとき、各キャリア、サブキャリアに対して、合波器141の2つの分岐点から差動PD211A〜211Dの2つの入力点までの距離の差を、1ビットの時間長に対して十分小さい値に抑える必要がある。
【0235】
また、図21は、同位相、直交位相の両方の位相成分を検出するための受信装置の構成例であり、図21と比較して、合波器142、光分離器133、134、作動PD211E〜211H、アナログ・デジタル変換器(ADC)305、308等が追加されている。
この図21に示す例においては、分波器31により、受信光を同位相成分と直交位相成分に分離し、同位相成分を合波器141に入力し、直交位相成分を合波器142に入力する。また、マルチモード局発光発生部12から出力される局発光についても分波器32により分波し、局発光の同一位相成分を合波器142および光分離器134に入力し、分波器32から出力される局発光を位相シフト部41によりπ/2位相シフトして、合波器141および光分離器131に入力する。
【0236】
一方、キャリア、サブキャリア毎に分波した後に光90度ハイブリッドによって、位相比較する構成もある。信号光、局発光ともに、光分波器で波長ごとのキャリア、サブキャリアに分離した後に、光90度ハイブリッドによって両者の光位相を比較する。この構成例を図22に示す。
【0237】
図22に示す受信装置では、光分離器131により、キャリア、サブキャリア毎に分波した後に、光90度ハイブリッド101〜104により位相比較する。この場合、マルチモード局発光発生部12からの局発光についても、光分離器132により分離し、各光90度ハイブリッド101〜104に入力する。
【0238】
なお、光90度ハイブリッドの従来技術として、単一キャリアのコヒーレント受信の場合、前述の参考文献8に記載されたような、3ポートの光合波器を用いる方法がある。また、2ポートの光合波器を用いる場合には、前述の参考文献9に記載されたような局発光と信号光を2×2ポートの光合波器と、差動光検出器を利用する方法がある。
【0239】
なお、図22において、光分離器131は、前述の波長分散媒質を用いた信号光の光分離器に相当し、光分離器132は、前述の波長分散媒質を用いた局発光の光分離器に相当し、マルチモード局発光発生部12は、前述のマルチモード局発光発生部に相当する。
【0240】
そして、信号光の光分離器により入力信号光を波長毎に分離して異なるポートに出力し、また、局発光の光分離器によりマルチモード局発光発生部からの出力光を波長毎に分離して異なるポートに出力する。また、信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、局発光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力するそれぞれの搬送波の光90度ハイブリッドを設ける。これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0241】
また、図23は、図22に示すマルチモード局発光発生部12と光分離器132を、個別の局発光発生部11A〜11Dに置き換えた例を示している。
【0242】
図23に示すように、各キャリア、サブキャリアに個別の局発光発生部を利用する場合であっても、トレーニングパターンや、ブラインド推定を用いて、それぞれの局発光発生部の間の相対位相、周波数間隔差を推定できる。このため、この位相オフセット、周波数オフセットを考慮して、光ファイバ伝送路の出力端における各キャリア、サブキャリアの互いの光位相関係を推測することも可能である。この場合、レーザの線幅から予測される光位相の時間変動速度に追従するように、位相オフセット、周波数オフセットを更新していく必要がある。
【0243】
なお、図23において、光分離器131は、前述の波長分散媒質を用いた信号光の光分離器に相当し、局発光発生部11A、11B、11C、11Dは、前述の複数の局発光発生部に相当する。
【0244】
そして、信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、それぞれの局発光発生部からの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する複数の光90度ハイブリッドとを備える。これにより、電気フィルタ(デジタルフィルタ等)を使用することなく、光学系において搬送波を分離することができる。
【0245】
(直接受信の受信装置の構成例の説明)
各キャリア、サブキャリアが直接変調された信号光を受信する場合、従来の受信方法ではコヒーレント受信が不要である。しかし、FWMクロストークを受けた信号では、複素平面における受信波形の時間サンプリング値の変位の仕方は、FWMクロストークと主信号の相対位相に依存するため、直接受信で得られた振幅の変位量もその相対位相に依存する。
【0246】
図24は、直接受信の受信装置の構成例を示す図であり、図24に示すように、受信信号光を光分離器(分波器)131で、各キャリア、サブキャリアに分離して、直接受信によってその強度を、光電変換器201〜204により検波する。これをアナログ・デジタル変換器(ADC)301〜304に入力し、デジタル信号に変換した後に、非線形補償演算部501に入力する。
【0247】
(光電変換・電気段分離の受信装置の構成例の説明)
電気フィルタによるキャリアの分離を行うホモダインの受信装置について説明する。この受信装置では、単一波長で発振する光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを光90度ハイブリッドによってミキシングし、光電変換器により光電流に変換する。その後、電気領域にて周波数分離フィルタを用いて各キャリア、サブキャリアを分離する構成がある。
【0248】
ここでは、信号光の中心周波数の周辺に、局発光の光周波数が一致するようなホモダイン受信の場合に用いられることが多い。この場合、光受信器、電気フィルタに対して信号光の2分の1程度の広い周波数帯域が要求される。このため、光フィルタによる分波と、電気フィルタによる分波を併用する構成もある。
【0249】
図25は、電気フィルタによるキャリアの分離を行うホモダインの受信装置の構成例を示す図である。図25では、単一波長で発振する局発光発生部11の光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを光90度ハイブリッド101によってミキシングし、局発光と同位相成分と、直交位相成分をそれぞれ光電変換器201、202により光電流に変換して、電気フィルタ611、612でキャリア、サブキャリアに分離する構成である。
【0250】
それらをアナログ・デジタル変換器(ADC)301〜308でデジタル信号に変換した後、隣接するキャリア、サブキャリアのデジタル信号を非線形補償演算部501に入力して、非線形波形歪を補償する。
【0251】
電気フィルタ611、612として、キャリア、サブキャリアごとに分波するためには、高い周波数の絶対値が必要とされるため、温度を一定値に保持するための温度調整回路が必要になる場合もある。また、光電変換器201、202などの電気部品の帯域特性によっては、高周波側の周波数特性の透過率の低下、周波数特性のリプルを補償するように周波数領域の等化フィルタを電気フィルタの入力側に用いる場合もある。また、分波後に各キャリア、サブキャリアに対して、電気部品の帯域特性を補償するような利得調整器、もしくは周波数応答の等化器を用いる場合がある。図26に、等化器421、422を使用した例を示す。
【0252】
なお、図25および図26において、電気フィルタ611、612が、前述の電気フィルタに相当する。そして、光90度ハイブリッドからの出力光を光電変換器により電気信号に変換し、光電変換器からの出力信号を電気フィルタにより周波数によって複数の電気信号に分離する。これにより、電気フィルタを使用して搬送波を周波数ごとに分離することができる。
【0253】
次に、電気フィルタにより搬送波(キャリア)の分離を行うヘテロダインの受信装置について説明する。この方式の受信装置は、図26に示す受信装置と同様に、この単一波長で発振する光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを光90度ハイブリッドによってミキシングし、光電変換器により光電流に変換する。
【0254】
または、図27(A)に示すように、合波器141と差動光検出器211を利用して、局発光と同相成分、もしくは直交成分のどちらかを受信する構成がある。ここでは、その後、電気領域にて周波数分離フィルタとして電気フィルタ611を用いて各キャリア、サブキャリアを分離する。信号光の光周波数帯域の一端で、十分スペクトル強度が低い周波数に、局発光の光周波数を一致させるようなヘテロダイン受信の場合に用いられることが多い。
【0255】
従って、図27(B)に示すように、各キャリア、サブキャリアと局発光の差周波の電気周波数領域の搬送波に乗った信号がADCに入力される。これをデジタル信号処理によってダウンコンバートして、ベースバンド信号に落としてもよい。
【0256】
また、アナログ・デジタル変換器(ADC)の手前で、各キャリア、サブキャリアの周波数の電気周波数領域のLO(局発信号)とミキシングして、ベースバンドに落としてから、アナログ・デジタル変換器(ADC)へ入力する方法がある。このとき、LO(局発信号)と同相成分と直交成分の信号を得て、それぞれをアナログ・デジタル変換器(ADC)に入力する。この場合、アナログ・デジタル変換器(ADC)へ入力される信号の周波数帯域がベースバンド程度の周波数領域まで低減されるため、アナログ・デジタル変換器(ADC)に要求される周波数特性が緩和される。
【0257】
また、電気周波数領域のLO(局発信号)とミキシングすることで、キャリア、サブキャリア分離する方法がある。図27(A)に示すキャリア、サブキャリア分離用の電気フィルタ611を削除して、LOとミキシングし、ベースバンド信号にダウンコンバートした後に、ベースバンドの信号光のみを透過させるような低周波透過フィルタを用いる構成である。この後に、アナログ・デジタル変換器(ADC)へ入力する。
【0258】
上記の構成によって、互いに隣接する各キャリア、サブキャリアを分波して、デジタル信号に変換して、非線形補償演算部501に入力する。また、光電変換器などの電気部品の帯域特性によっては、高周波側の周波数特性の透過率の低下、周波数リプルを補償するように周波数領域の等化フィルタを電気フィルタの入力側に用いる場合もある。また、分波後に各キャリア、サブキャリアに対して、電気部品の帯域特性を補償するような利得調整器、もしくは周波数応答の等化器を用いる場合がある。
【0259】
(デジタルフィルタにより分離(FFT分離)を行う受信装置の例の説明)
単一波長で発振する光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを光90度ハイブリッドによってミキシングし、光電変換器により光電流に変換する。もしくは、図28に示すように、合波器と差動光検出器を利用して、局発光と同相成分、もしくは直交成分のどちらかを受信する構成がある。
【0260】
ここでは、その後、電気領域にて周波数分離を行うデジタルフィルタ621を用いて各キャリア、サブキャリアを分離する。信号光の光周波数帯域の一端で、十分スペクトル強度が低い周波数に、局発光の光周波数を一致させるようなヘテロダイン受信の場合に用いられることが多い。
【0261】
従って、図27(A)に示すように、各キャリア、サブキャリアと局発光の差周波の電気周波数領域の搬送波に乗った信号がADCに入力される。デジタル信号に変換された後に、デジタル信号処理によってキャリア、サブキャリアを分離して、非線形補償演算を実施する。
【0262】
なお、図28において、合波器141は、前述の光90度ハイブリッドに相当し、差動光検出器211は、光電変換器に相当し、デジタルフィルタ621は、前述のデジタルフィルタに相当する。そして、光90度ハイブリッドからの出力光を光電変換器により電気信号に変換し、光電変換器からの出力信号をデジタルフィルタにより周波数によって複数の電気信号に分離する。これにより、デジタルフィルタを使用して搬送波を周波数ごとに分離することができる。
【0263】
(デジタルキャリア分離方法についての説明)
デジタル信号処理によるキャリア、サブキャリア分離の方法として、図29に示すように、ダウンコンバージョン部631と、ローパスフィルタ(LPF)632を用い、各キャリア、サブキャリアと局発光の光周波数差に相当する電気周波数領域のLO周波数(局発周波数)でダウンコンバージョンし、バンドパスフィルタに相当するDSP処理(Digital Signal Processorによる信号処理)を実施して各キャリアごとのデジタル信号を得る。
【0264】
また、デジタル信号処理によるキャリア、サブキャリア分離の方法として、図30に示すように、直列/並列変換部641により時間関数を直列/並列変換した上で、高速フーリエ変換(FFT)部642へ入力する構成がある。FFTでは、時間関数が周波数関数に変換されるため、各キャリア、サブキャリアごとに分離することと等価になる。この方法は、直交周波数分割多重分離方式で用いられることが多い。そこでは、サブキャリアの周波数間隔f0と各サブキャリアのシンボル時間長ΔTの逆数がほぼ等しい程度f0〜1/ΔTまで、周波数多重密度が高い。
【0265】
直交周波数分割多重(OFDM)では、あるフレーム時間長ごとに区切って、直列/並列変換を実施し、FFTの各ポートに入力する。このOFDMフレーム長Tsは、サブキャリアの周波数間隔f0の逆数に等しい。また、伝送路の波長分散、偏波分散による波形広がり、マルチパスの影響を低減するために、ガードインターバルを用いることが多い。この場合、OFDMフレーム長Tsは、サブキャリアの周波数間隔f0とガードインターバル長Tgを用いて、「Ts=1/f0+Tg」であらわされる。このようにして、キャリア、サブキャリア分離されたデジタル信号は、非線形補償演算へ入力される。
【0266】
(デジタル分離をホモダイン・イントラダイン方式により行う受信装置の説明)
キャリア、およびサブキャリアのデジタル分離をホモダイン・イントラダイン方式により行う受信装置を構成できる。この場合、単一波長で発振する光源を局発光として用いて、信号光と局発光とを合波器に入力し、その2つの出力を光90度ハイブリッドによってミキシングし、光電変換器により光電流に変換する。
【0267】
この場合に、図31に示すように、光90度ハイブリッド101、光電変換器201、202からの出力が、信号光と局発光のミキシング信号に加えて、直流成分を持つ場合があり、それを取り除くDCブロッカーを用いることで、ミキシング信号のみを取り出せる。
【0268】
または、図32に示すように、受信信号光を分波器31により少なくとも2方路に分岐し、また、局発光も分波器32およびπ/2位相シフト部41により少なくとも2方路に分岐して、それぞれ合波器141、142の入力ポートに入力する。このとき、2分岐したどちらかの光路において、受信信号光と局発光の相対位相差をπ/2だけシフトすることで、同位相成分と直交位相成分を別々に検出できる。合波器141、142の2つの出力を差動光検出器211、212に入力し、ADC301、302によりデジタル信号に変換する。
【0269】
その後、電気領域にて周波数分離フィルタ(デジタルフィルタ621、622)を用いて各キャリア、サブキャリアを分離する。信号光の光周波数帯域の一端で、十分スペクトル強度が低い周波数に、局発光の光周波数を一致させるようなヘテロダイン受信の場合に用いられることが多い。
【0270】
従って、図27(B)に示すように、各キャリア、サブキャリアと局発光の差周波の電気周波数領域の搬送波に乗った信号がADCに入力される。デジタル信号に変換された後に、デジタル信号処理によってキャリア、サブキャリアを分離して、非線形補償演算を実施する。
【0271】
(波長分散補償の追加構成例の説明)
光ファイバ伝送路では、波長分散によって信号波形の歪みが生じる。光ファイバの種類によって波長分散の値は典型値があり、線形な周波数依存の伝達関数として表現される。従って、そのフーリエ変換によってインパルス時間応答関数が予測され、そのインパルス応答の波形広がりを補償するようなデジタルFIRフィルタを適用することで波長分散を補償できる。詳細は、単一キャリアの場合における波長分散のデジタル信号処理を使った補償方法は上述した参考文献8にある。
【0272】
ここでは、波長分散を補償した後に、非線形補償演算を実施する構成とした。光ファイバ伝送路の損失により、受信端に近づくに従って信号光の光パワーが低減するため、主な非線形波形劣化は送信端に近い部分で発生する。従って、送信端から近い部分において非線形波形劣化を受けた後に、伝送路の後半部分において波長分散による波形歪みを受けた波形が受信される。
【0273】
このため、非線形補償においては、波長分散による波形歪みを取り除いた上で、実際に波形歪みが生じた伝送路位置での信号光波形に戻した上で、非線形歪み補償を実施する構成が補償効果を高める場合がある。また、デジタル信号処理により偏波分離を実施する場合にも、偏波分離演算の前に、波長分散によるシンボル間干渉(ISI)を取り除いた構成がある。
【0274】
波長分散による波形歪みは時間変動が小さく、半固定的に扱えるために、半固定のFIRフィルタで取り除ける。一方、偏波多重分離のクロストーク、PMDによる波形歪みは、時間に依存して変化する。さらに、偏波クロストーク、及び偏波モード分散によるISIに比較して、波長分散によるISIが生じる時間範囲が広い。このため、固定のタップ係数のFIRフィルタで波長分散を補償した後に、動的な偏波分離演算、PMD補償を実施することが望ましい。
【0275】
図33に、波長分散補償を行う受信装置の第1の構成例を示し、図34に、波長分散補償を行う受信装置の第2の構成例を示す。
【0276】
図33に示す受信装置は、図31に示す受信装置に波長分散補償演算部651および652を追加しており、他の構成は図31に示す受信装置と同様である。図34に示す例は、図16に示す偏波分離器を用いた受信装置の構成に、波長分散補償演算部651、652、653、654を追加した構成となっている。
【0277】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の受信装置、および補償演算回路(非線形補償演算部)は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0278】
【図1】本発明の受信装置に適用される信号光の形態を示す図である。
【図2】FWMクロストーク(四光波混合クロストーク)の例を示す図である。
【図3】本発明の受信装置の構成例を示す図である。
【図4】光90度ハイブリッドと光電変換器の構成例を示す図である。
【図5】デジタルフィルタの構成例を示す図である。
【図6】分散媒質を用いてキャリア分離を行う受信装置の構成例を示す図である。
【図7】スキューを検出するための送信パターンおよび受信パターンの例を示す図である。
【図8】逐次的に非線形方程式を解く演算構成例を示す図である。
【図9】受信信号のコンスタレーションを示す図である。
【図10】キャリア位相推定、位相同期の演算回路の構成例を示す図である。
【図11】連立非線形方程式を逐次的に解く計算回路の構成例を示す図である。
【図12】連立非線形方程式を逐次的に解く計算回路の第2の構成例を示す図である。
【図13】補償パラメータと非線形補償演算回路の構成例を示す図である。
【図14】補償パラメータ推定のための送信パイロット信号の例を示す図である。
【図15】非線形歪み効果の実験結果を示す図である。
【図16】偏波分離を行う受信装置の構成例を示す図である。
【図17】2キャリア、偏波多重の場合におけるFWMクロストーク発生パターンの例を示す図である。
【図18】非線形歪み補償と線形補償を繰り返し演算する回路構成を示す図である。
【図19】光分離器を用いた受信装置の構成例を示す図である。
【図20】同相成分(直交位相成分)の一方を検出する受信装置の構成例を示す図である。
【図21】同相成分および直交位相成分の両方を検出する受信装置の構成例を示す図である。
【図22】光分離器による分離後に光90度ハイブリッドにより位相比較する受信装置の構成例を示す図である。
【図23】図22において個別の局発光発生部を用いた受信装置の構成例を示す図である。
【図24】直接受信により強度を検出する受信装置の構成例を示す図である。
【図25】電気フィルタでキャリア、サブキャリアに分離する受信装置の構成例を示す図である。
【図26】図25に等化器を追加した受信装置の構成例を示す図である。
【図27】電気フィルタを用いたヘテロダイン方式の受信装置の構成例を示す図である。
【図28】デジタルフィルタを用いたヘテロダイン方式の受信装置の構成例を示す図である。
【図29】ダウンコンバージョン部とローパスフィルタを用いた受信装置の構成例を示す図である。
【図30】シリアルパラレル変換部とFFTを用いてキャリア、サブキャリアを分離する受信装置の構成例を示す図である。
【図31】ホモダイン・イントラダイン方式の受信装置の構成例を示す図である。
【図32】同位相成分と直交位相成分を別々に検出するホモダイン・イントラダイン方式の受信装置の構成例を示す図である。
【図33】波長分散補償演算を行う受信装置の第1の構成例を示す図である。
【図34】波長分散補償演算を行う受信装置の第2の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0279】
11、11A、11B、11C、11D・・・局発光発生部、12・・・マルチモード局発光発生部、21、22、31、32・・・分波器(PBS:光ビームスプリッタ)、41・・・π/2位相シフト部、101、102、103、104・・・光90度ハイブリッド、110・・・合波器、121・・・光ハイブリッド、131、132、133、134・・・光分離器、141、142・・・合波器、201〜208・・・光電変換器、211、211A〜211H・・・差動光検出器(差動PD)、301,〜308・・・アナログ・デジタル変換器(ADC)、401、402・・・デジタルフィルタ、411・・・シリアルパラレル変換部、412・・・FFT、501、502・・・非線形補償演算部、503・・・位相同期部、504・・・補償演算部、505・・・補償パラメータ学習部、531・・・スキュー補正部、532・・・スキューモニタ部、533・・・非線形結合定数推定部、534・・・位相推定部、535・・・非線形補償演算処理部、601、602、603、604・・・偏波分離演算部、611、612・・・電気フィルタ、621、622・・・デジタルフィルタ、631・・・ダウンコンバージョン部、632・・・ローパスフィルタ、641・・・シリアルパラレル変換部、651、652・・・波長分散補償演算部、661、662、663、664・・・分波フィルタ、671〜674・・・偏波分離演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置であって、
前記信号光の周波数、もしくは偏波によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離装置と、
前記分離装置から出力される複数の搬送波間のシンボル位相の同期処理を行う位相同期部と、
前記位相同期部により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算部と、
を備え、
前記位相同期部と前記補償演算部とにおける演算処理を電気演算回路により実行するように構成されたこと、
を特徴とする受信装置。
【請求項2】
光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置であって、
偏波多重された信号光を偏波によって2つに分離する偏波分離装置と、
周波数によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離装置と、
前記分離装置から出力される各周波数の搬送波ごとの2つの偏波の受信信号を入力し、該入力された2つの偏波の受信信号間の干渉を取り除いて独立する2つの信号に偏波分離する偏波分離演算部と、
前記偏波分離演算部から出力される複数の搬送波間の位相の同期処理を行う位相同期部と、
前記位相同期部により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算部と、
を備え、
前記偏波分離演算部、前記位相同期部および前記補償演算部における演算処理を電気演算回路により実行するように構成されたこと、
を特徴とする受信装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の受信装置内の前記補償演算部を構成する補償演算回路であって、
前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、
前記多元非線形方程式を解くことによって、受信信号から送信信号を算出する電気演算回路を備えること、
を特徴とする補償演算回路。
【請求項4】
請求項3に記載の補償演算回路であって、
前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、前記多元非線形方程式を基に受信波形から送信波形を逐次的に推定する場合に、
第n段目の送信波形推定ステップから出力される第nの送信波形推定値を、一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、前記多元非線形方程式を線形化して、第n+1の送信波形を推定する第n+1段目の送信波形推定ステップを有し、
逐次的に補償波形を推定する演算回路で構成されることを特徴とする補償演算回路。
【請求項5】
請求項4に記載の補償演算回路であって、
第1段目の送信波形推定ステップにおいて、補償前の受信波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路を
備えることを特徴とする補償演算回路。
【請求項6】
請求項4に記載の補償演算回路であって、
第1段目の送信波形推定ステップにおいて、予め定められている任意の波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路を
備えることを特徴とする補償演算回路。
【請求項7】
請求項3に記載の補償演算回路であって、
前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信波形と送信波形の非線形歪み変動量の関係を多元非線形方程式で関連付けし、
前記非線形歪み変動量を逐次的に推定する場合に、
第n番目の変動量推定ステップから出力される第n段目の補償波形を、一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、前記多元非線形方程式を線形化して、第n+1段目の受信波形の非線形歪み変動量を推定する第n+1段目の変動量推定ステップと、
前記第n+1番目の変動量推定ステップからの出力値を受信データから減算し、第n+1段目非線形歪み補償後の波形を出力する第n+1段目の変動量補償ステップと、
を有し、
逐次的に補償波形を推定する演算回路で構成されることを特徴とする補償演算回路。
【請求項8】
請求項7に記載の補償演算回路であって、
第1段目の変動量推定ステップにおいて、補償前の受信波形を一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路で構成されること、
を特徴とする補償演算回路。
【請求項9】
請求項7に記載の補償演算回路であって、
第1段目の変動量推定ステップにおいて、予め定められている任意の波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いることを特徴とする演算回路を、
備えることを特徴とする補償演算回路。
【請求項10】
請求項7に記載の補償演算回路であって、
第1段目の変動量推定ステップにおいて、初期値として用いる値を変化させて、補正効果が得られる値を検出する演算回路を、
備えることを特徴とする補償演算回路。
【請求項11】
請求項3に記載の補償演算回路であって、
前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、前記複数の周波数の信号光を合成した時間波形、及びその直交偏波の時間波形の強度に比例して信号光電界の光位相が回転する自己位相変調によってモデル化し、前記自己位相変調のモデルによって伝送前波形と伝送後波形の関係を非線形方程式で関連付けし、
伝送後波形から伝送前波形を推定することを特徴とする演算回路で構成されること、
を特徴とする補償演算回路。
【請求項12】
請求項3に記載の補償演算回路であって、
光ファイバ伝送路における波長分散、及び損失を線形な伝達関数によって記述し、前記伝達関数の逆関数を作用させる線形波形歪み補償演算と、前記四光波混合クロストークモデルを含む所定のモデルにより算出された非線形波形歪の補償演算とを繰り返し実施することで、伝送後波形から伝送前波形を推定する送信前波形推定する演算回路で構成されること、
を特徴とする補償演算回路。
【請求項13】
前記非線形波形歪を補償する演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習し、該補償パラメータ値を前記補償演算回路に入力する補償パラメータ学習部を備えること、
を特徴とする請求項3から請求項11のいずれかに記載の補償演算回路。
【請求項14】
複数の周波数の連続光を出力するマルチモード局発光発生部と、
前記複数の周波数の局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する光90度ハイブリッドと、
前記光90度ハイブリッドからの出力光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離するそれぞれの光分離器と、
前記それぞれの光分離器のから出力光を入力し、それぞれを電気信号に変換する光電変換器と、
前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項15】
複数の周波数の連続光を局発光として出力するマルチモード局発光発生部と、
入力信号光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、
前記マルチモード局発光発生部から出力される局発光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する局発光の光分離器と、
前記信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、前記局発光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力するそれぞれの搬送波の光90度ハイブリッドと、
前記それぞれの光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、
前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項16】
入力信号光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、
互いに異なる周波数の連続光を出力する複数の局発光発生部と、
前記信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、前記それぞれの局発光発生部からの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する光90度ハイブリッドと、
前記それぞれの波長分離機からの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、
前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項17】
1つの周波数成分を有する連続光を出力する局発光発生部と、
前記局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドと、
前記光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、
前記光電変換器からの出力信号を周波数によって複数の電気信号に分離する電気フィルタと、
前記それぞれの電気フィルタからの出力電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項18】
1つの周波数の成分を有する連続光を出力する局発光発生部と、
前記局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドと、
前記光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換する光電変換器と、
前記光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するアナログ・デジタル変換器と、
前記それぞれのアナログ・デジタル変換器からの出力信号を周波数によって複数のチャネルに分離するデジタルフィルタと、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項19】
光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置における前記信号光の受信方法であって、
前記信号光の周波数、もしくは偏波によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離手順と、
前記分離手順により出力される複数の搬送波間のシンボル位相の同期処理を行う位相同期手順と、
前記位相同期手順により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算手順と、
を含むことを特徴とする受信方法。
【請求項1】
光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置であって、
前記信号光の周波数、もしくは偏波によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離装置と、
前記分離装置から出力される複数の搬送波間のシンボル位相の同期処理を行う位相同期部と、
前記位相同期部により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算部と、
を備え、
前記位相同期部と前記補償演算部とにおける演算処理を電気演算回路により実行するように構成されたこと、
を特徴とする受信装置。
【請求項2】
光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置であって、
偏波多重された信号光を偏波によって2つに分離する偏波分離装置と、
周波数によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離装置と、
前記分離装置から出力される各周波数の搬送波ごとの2つの偏波の受信信号を入力し、該入力された2つの偏波の受信信号間の干渉を取り除いて独立する2つの信号に偏波分離する偏波分離演算部と、
前記偏波分離演算部から出力される複数の搬送波間の位相の同期処理を行う位相同期部と、
前記位相同期部により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算部と、
を備え、
前記偏波分離演算部、前記位相同期部および前記補償演算部における演算処理を電気演算回路により実行するように構成されたこと、
を特徴とする受信装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の受信装置内の前記補償演算部を構成する補償演算回路であって、
前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、
前記多元非線形方程式を解くことによって、受信信号から送信信号を算出する電気演算回路を備えること、
を特徴とする補償演算回路。
【請求項4】
請求項3に記載の補償演算回路であって、
前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信信号と送信信号の波形の関係を多元非線形方程式で関連付けし、前記多元非線形方程式を基に受信波形から送信波形を逐次的に推定する場合に、
第n段目の送信波形推定ステップから出力される第nの送信波形推定値を、一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、前記多元非線形方程式を線形化して、第n+1の送信波形を推定する第n+1段目の送信波形推定ステップを有し、
逐次的に補償波形を推定する演算回路で構成されることを特徴とする補償演算回路。
【請求項5】
請求項4に記載の補償演算回路であって、
第1段目の送信波形推定ステップにおいて、補償前の受信波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路を
備えることを特徴とする補償演算回路。
【請求項6】
請求項4に記載の補償演算回路であって、
第1段目の送信波形推定ステップにおいて、予め定められている任意の波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路を
備えることを特徴とする補償演算回路。
【請求項7】
請求項3に記載の補償演算回路であって、
前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、複数の周波数の信号光、および異なる偏波の信号光の間で生じる四光波混合クロストークによる波形歪みによってモデル化し、受信波形と送信波形の非線形歪み変動量の関係を多元非線形方程式で関連付けし、
前記非線形歪み変動量を逐次的に推定する場合に、
第n番目の変動量推定ステップから出力される第n段目の補償波形を、一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いて、前記多元非線形方程式を線形化して、第n+1段目の受信波形の非線形歪み変動量を推定する第n+1段目の変動量推定ステップと、
前記第n+1番目の変動量推定ステップからの出力値を受信データから減算し、第n+1段目非線形歪み補償後の波形を出力する第n+1段目の変動量補償ステップと、
を有し、
逐次的に補償波形を推定する演算回路で構成されることを特徴とする補償演算回路。
【請求項8】
請求項7に記載の補償演算回路であって、
第1段目の変動量推定ステップにおいて、補償前の受信波形を一時的に前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いる演算回路で構成されること、
を特徴とする補償演算回路。
【請求項9】
請求項7に記載の補償演算回路であって、
第1段目の変動量推定ステップにおいて、予め定められている任意の波形を、初期値として前記多元非線形方程式の一部の送信波形として用いることを特徴とする演算回路を、
備えることを特徴とする補償演算回路。
【請求項10】
請求項7に記載の補償演算回路であって、
第1段目の変動量推定ステップにおいて、初期値として用いる値を変化させて、補正効果が得られる値を検出する演算回路を、
備えることを特徴とする補償演算回路。
【請求項11】
請求項3に記載の補償演算回路であって、
前記周波数多重および偏波多重信号光が光ファイバ伝送路伝搬中に生じる非線形波形歪を、前記複数の周波数の信号光を合成した時間波形、及びその直交偏波の時間波形の強度に比例して信号光電界の光位相が回転する自己位相変調によってモデル化し、前記自己位相変調のモデルによって伝送前波形と伝送後波形の関係を非線形方程式で関連付けし、
伝送後波形から伝送前波形を推定することを特徴とする演算回路で構成されること、
を特徴とする補償演算回路。
【請求項12】
請求項3に記載の補償演算回路であって、
光ファイバ伝送路における波長分散、及び損失を線形な伝達関数によって記述し、前記伝達関数の逆関数を作用させる線形波形歪み補償演算と、前記四光波混合クロストークモデルを含む所定のモデルにより算出された非線形波形歪の補償演算とを繰り返し実施することで、伝送後波形から伝送前波形を推定する送信前波形推定する演算回路で構成されること、
を特徴とする補償演算回路。
【請求項13】
前記非線形波形歪を補償する演算の際に用いる光ファイバ伝送路の波長分散、波長分散スロープ、非線形定数を含む伝送パラメータ、及び多重信号光のキャリア間の相対位相に依存する補償パラメータを学習し、該補償パラメータ値を前記補償演算回路に入力する補償パラメータ学習部を備えること、
を特徴とする請求項3から請求項11のいずれかに記載の補償演算回路。
【請求項14】
複数の周波数の連続光を出力するマルチモード局発光発生部と、
前記複数の周波数の局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する光90度ハイブリッドと、
前記光90度ハイブリッドからの出力光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離するそれぞれの光分離器と、
前記それぞれの光分離器のから出力光を入力し、それぞれを電気信号に変換する光電変換器と、
前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項15】
複数の周波数の連続光を局発光として出力するマルチモード局発光発生部と、
入力信号光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、
前記マルチモード局発光発生部から出力される局発光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する局発光の光分離器と、
前記信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、前記局発光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力するそれぞれの搬送波の光90度ハイブリッドと、
前記それぞれの光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、
前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項16】
入力信号光を入力し、波長分散媒質によって波長毎に分離して異なるポートに出力する信号光の光分離器と、
互いに異なる周波数の連続光を出力する複数の局発光発生部と、
前記信号光の光分離器のそれぞれのポートからの出力光と、前記それぞれの局発光発生部からの出力光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して異なるポートに出力する光90度ハイブリッドと、
前記それぞれの波長分離機からの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、
前記それぞれの光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項17】
1つの周波数成分を有する連続光を出力する局発光発生部と、
前記局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドと、
前記光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換するそれぞれの光電変換器と、
前記光電変換器からの出力信号を周波数によって複数の電気信号に分離する電気フィルタと、
前記それぞれの電気フィルタからの出力電気信号をデジタル信号に変換するそれぞれのアナログ・デジタル変換器と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項18】
1つの周波数の成分を有する連続光を出力する局発光発生部と、
前記局発光と入力信号光とを入力し、両方の光位相が一致する成分と直交する成分に分離して出力する光90度ハイブリッドと、
前記光90度ハイブリッドからの出力光を電気信号に変換する光電変換器と、
前記光電変換器の電気信号をデジタル信号に変換するアナログ・デジタル変換器と、
前記それぞれのアナログ・デジタル変換器からの出力信号を周波数によって複数のチャネルに分離するデジタルフィルタと、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受信装置。
【請求項19】
光ファイバ伝送路を用いた光伝送システムにおいて、送信情報によって符号化された複数の周波数の搬送波、もしくは独立な偏波の搬送波を多重された信号光を受信する受信装置における前記信号光の受信方法であって、
前記信号光の周波数、もしくは偏波によって個々の搬送波ごとに信号を分離する分離手順と、
前記分離手順により出力される複数の搬送波間のシンボル位相の同期処理を行う位相同期手順と、
前記位相同期手順により同期処理が行われた搬送波の信号を基に、前記光ファイバ伝送路における多重された信号光の非線形波形歪を四光波混合クロストークを含む所定のモデルによりモデル化して算出するとともに、該非線形波形歪を補償する演算を行う補償演算手順と、
を含むことを特徴とする受信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公開番号】特開2010−28470(P2010−28470A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187697(P2008−187697)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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