説明

受容体リガンド模倣体を検出する方法および組成物

タンパク質受容体リガンドの機能的置換物(模倣体)としての小分子の有用性を決定する方法について説明する。方法は、提案された小分子が受容体リガンドの機能的等価物であるか否か、すなわち単独でまたは他の分子と組み合わせて医薬として適当かつ有用な薬剤として治療上の有用性を有するかどうかを決定するために、既知のタンパク質受容体リガンドと他の生物活性分子とを含む、化合物の体系的アレイ上での細胞生物試験を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受容体リガンドの模倣体としての小分子の有用性を決定する方法と、かかる小分子の治療への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
受容体リガンドの模倣体を発見するという課題
作動性または拮抗性の受容体リガンドを介した生物機能の調節は、通常、過度に活発の高い生化学経路を遮断または緩和するか、またはある疾患に関するか該疾患の原因となっていると考えられる経路を活性化または復帰させることを目的としている。
【0003】
非常に多くの場合で高度に特異的な生物活性を示す内因性または生体異物タンパク質および抗体とは異なり、小分子はそれほど特異的ではない。それらのサイズが限られているため、小分子は多くの異なる標的に結合し、望ましくない副作用につながる場合があり、治療上有用な薬剤としてのかかる小分子の開発は困難な課題となっている。例えば、治療上有用な用量のウィンドウを確立し、目標外の効果や薬剤の開発における小分子の関係を発見するには、注意深い臨床前研究および臨床研究が必要である。特に、受容体とその天然リガンドとの間の相互作用部位およびその領域は、小分子により提供される相互作用部位よりもはるかに大きいため、タンパク質受容体リガンドの機能的模倣体である選択的な小分子の発見は薬剤発見への課題を提起する(非特許文献1)。初期の生物学的スクリーニングで見出されるプロトタイプ分子は、他の受容体とも相互作用し、細胞レベルでは非特異性である可能性が多い。
【0004】
さらに、所与の受容体/リガンド相互作用の拮抗薬である小分子を見つけることは可能であるが、作動薬を識別するのはもっと困難であると考えられている。したがって、選択的かつ機能的な小分子を望ましくない方法で多数の標的に結合することによる「見境のない」分子から区別する方法が明らかに必要とされている。
【0005】
有用な併用治療を発見する課題
多くの疾患では、特に腫瘍の治療では、著しい進歩が遂げられてきたが、単一薬剤治療としての1つの薬剤によってはいまだ限られた利益しか与えられないことが多い。疾患の原因である分子経路が個々の患者間で、あるいは同じ患者内の細胞サブクローン間で冗長であり、可変であることを考えると、それは驚くことではない。それゆえ、一つの標的に焦点を当てた治療が大部分の患者で永続性に疾患を制御したり治療したりする可能性は低い(非特許文献2)。薬剤の組み合わせの使用は、患者により良い治療と利益を供給するため、特に癌治療において十分に確立された治療原理を提供している。少数の例外を除いて、癌のための有用な薬物治療は、既知の活性を有し、毒性のスペクトルが最小限しか重複していない複数の薬物の組み合わせを、それらの最適用量で、正常な細胞の回復に匹敵するスケジュールにより、使用する。これらの化学療法薬の組み合わせのうち前臨床的に評価されているのはほんの少数しかなく、これらの組み合わせのうち相乗的なもの、すなわち組み合わせるとそれらの個々の活性の相加作用よりも大きな効果を与えるものは少数しかない。現在の併用治療の多くは、ヒト患者を用いて試行錯誤アプローチを用いて、まず臨床研究で試みられている。
【0006】
臨床開発における併用治療へのこのような大いに経験にたよるアプローチは、どの腫瘍が個々の薬物の組み合わせに感受性かを識別する手段が欠けているために正当化されている。インビトロおよびインビボの疾患モデルには固有の制限があるため、インビトロおよびインビボ実験の実験室の結果とヒト臨床研究との間にはかなりの相関の欠如がある。さ
らに、ATCC等の組織によって提供されるか、国立癌研究所によって使用されるような永続的癌細胞株は、それらの由来元である元の腫瘍と比較すると生物学的特性や化学感受性パターンでかなりの変更が示されている。2つの研究が、国立癌研究所の60個の細胞株のパネルにおけるインビトロ試験と、インビボ異種移植片と、細胞毒性薬剤の臨床上の有効性との間の相関が限られていることを示している(非特許文献3および非特許文献4)。
【0007】
次に、併用の最適な処理順序についての情報を提供するための方法も必要である。例えば、実験室での研究により明らかになったのは、EGFR阻害剤であるゲフィニチブを、パクリタクセルの前に高用量「パルス」として与えられる標準的な細胞毒性薬剤と併用すると、連続的な同時投与と比較した場合に、インビトロでより有効であるということである(非特許文献5)。
【0008】
したがって、相乗効果を及ぼす薬剤の組み合わせを合理的に設計し、かつ実験的にその正当性を立証することは、癌患者のための大きくかつ持続可能な治療上の利益を与えることが期待されるため、切に必要とされている。
【0009】
アポトーシスは膜結合受容体を介して媒介される
アポトーシスと呼ばれるプログラム細胞死は、組織恒常性の維持を媒介し、皮膚および胃腸管からの細胞の除去を調節すると共に環境上のトリガに応じて骨を改造する。アポトーシスは、また全身ウイルス感染を阻止し、自己免疫を防ぐべく自己応答T細胞およびB細胞を除去し、腫瘍形成特性を獲得する可能性がある細胞を除去することにより、疾患を予防する。アポトーシスの異常調節は、多くの疾患プロセスで役割を果たしている。アポトーシスの不適当な活性化は、パーキンソン病やアルツハイマー病等の神経変性障害に関連したり、または梗塞の後の心組織の再潅流後に観察される心筋障害に関連したりしている。さらに、外来性エピトープが細胞表面で検知されると、免疫系のナチュラルキラー(NK)細胞か細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によりアポトーシスが選択的に引き起こされ得る。アポトーシスへの耐性すなわち細胞がアポトーシスを受ける閾値がより高いことは、p53腫瘍抑圧遺伝子等の多くの遺伝子での突然変異に関連している。
【0010】
アポトーシス経路が欠失している過剰増殖細胞は、さらなる悪性腫瘍の進行や究極的には癌に至る、生存する利点を実証し得る。
内因性(すなわちミトコンドリアの)および外因性アポトーシス(すなわち受容体媒介性)の経路は、アポトーシスが生じ得る2つの機構である。
【0011】
内因性経路では、アポトーシス促進性シグナル伝達の機能的結果が、ミトコンドリア膜の摂動およびシトクロムcの細胞質への放出である。ここで、シトクロムcは、アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1(APAF1)およびカスパーゼ−9の不活性形式と共に、アポトソームと呼ばれる複合体を形成する。この複合体はアデノシン三リン酸を加水分解し、カスパーゼ−9を開裂および活性化させる。この開始物質であるカスパーゼは、実行物質であるカスパーゼ−3、カスパーゼ−6、およびカスパーゼ−7の開裂および活性化を進行させる。ミトコンドリアからのシトクロムcの放出は、カスパーゼとエンドヌクレアーゼの活性化の先行するアポトーシスの初期の出来事である。シトクロムcの放出は、反応性酸素種(ROS)の形成にもつながる。
【0012】
外因性アポトーシス経路によって引き起こされるアポトーシスは、細胞表面の細胞死受容体の活性化を通じて媒介される。リガンドが細胞死受容体の活性化を媒介した後、保存された細胞内の細胞死ドメインは細胞内アダプター分子であるFas関連細胞死領域(FADD)を引きつける。アダプター分子はカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10を細胞体受容体に動員して細胞死誘導シグナル複合体(DISC)を形成し、そこで該カスパー
ゼが開裂および活性化される。いくつかの細胞では、かかる開始物質のカスパーゼは最後の実行物質分子であるカスパーゼ−3、カスパーゼ−6およびカスパーゼ−7を開裂および活性化するのに十分であるが、いくつかの細胞では、細胞死受容体シグナルを増幅するためにミトコンドリアに基づくアポトーシスシステムの活性化も必要とする。カスパーゼ−8とカスパーゼ−10は、細胞質のアポトーシス促進因子Bcl−2相互作用ドメイン(BID)を開裂および活性化し、該BIDがミトコンドリアに移動してアポトーシス開始因子シトクロムcの放出を引き起こす(非特許文献6)。多数の異なる細胞死受容体ファミリーの受容体およびその天然リガンドが知られている(表1):
【0013】
【表1】

シスプラチンやドキソルビシン等の多くの細胞毒性薬剤や放射線療法が内因性アポトーシス経路を活性化すると考えられているが、外因性アポトーシス経路を介したアポトーシスの標的化された誘発は、癌細胞を破壊するためのこれまで開発されなかったが現在台頭してきた治療戦略を表わしている。腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)による細胞表面受容体の活性化は、アポトーシスのシグナル伝達経路を直接刺激する(外部刺激)。TRAILまたはFas受容体(例えばCH−11)に対する作動的モノクローナル抗体や、組み換えTRAILまたはFasリガンド(FasL)等の、かかる受容体を直接活性化する分子は、潜在的な単一治療薬として、および既存の化学療法剤および他の治療様式との併用治療の一部として、評価されている。
【0014】
TRAIL、TNFβ、FasLおよび他のTNFスーパーファミリーリガンドは、アポトーシスの開始と、形質転換細胞、ウイルス感染細胞、および慢性活性化T細胞およびB細胞の死滅との両方の能力を示した(非特許文献7および非特許文献8)。
【0015】
しかしながら、癌患者での組換えTNFα(および同様に動物実験でのTRAIL)の全身性の治療用投与では、広範囲の炎症反応と直接的な肝毒性とを生じた(非特許文献9)。
【0016】
組換えTRAILの1つのバージョンであるApo2L/TRAIL(PRO1762)は、フェーズI治験で現在研究されている。(非特許文献10)。
HGS−ETRl(マパツムマブ;Human Genome Sciences社)は、TRAIL−Rl
を標的とする完全なヒト作動性モノクローナル抗体であるが、進行性悪性腫瘍患者でのフェーズII評価中である。HGS−TR2J等のTRAIL−R2に対する完全なヒトモ
ノクローナル抗体(HGS−ETR2;Human Genome Sciences社)も臨床段階に入って
おり、現在フェーズIの臨床開発中である。HGS−ETR2とHGS−TR2Jは両者
の臨床での使用を保証するわずかに異なる生理化学的および動態学的プロファイルを有している(非特許文献11および非特許文献12)。
【0017】
外因性経路と内因性経路の両方で活性な複数の薬剤を併用した治療戦略は、特に将来有望に見える。したがって、ETR1またはETR2は、シスプラチン、カンプトテシン、トポテカン、アドリアマイシン、ゲミシタビン、FU、ビンクリスチンまたはパクリタクセルとインビトロでの相乗効果を示し、これはいずれの一つの薬剤による処理ではアポトーシスには至らない細胞株での活性さえも示す(非特許文献13)。
【0018】
したがって、FAS受容体の作動薬である小分子を見つけることは非常に望ましく、かかる受容体およびその作動的抗体であるCH−11は本発明による小分子受容体リガンド模倣体を見出す方法を有効にするための例を提供する。
【0019】
多剤耐性(MDR)
MDRは癌の有効な治療に対する主な障害である。薬剤耐性の癌は、本質的に治療できない(内因的耐性)か、治療の間に種々の抗癌剤に対する耐性を現すよう進展したか(後天的抵抗性)のいずれかである。MDRという用語は、一つの細胞障害性薬物に暴露された腫瘍細胞の、広範囲の構造的および機能的に無関係な薬剤に対する抵抗を現す能力を説明するために使用される。この現象には多数の機構が寄与することが知られており、その例には薬剤流出ポンプの過剰発現、DNA修復機構の活性の増大、薬剤標的酵素の変更、および薬剤の解毒と除去に関与する酵素の過剰発現が含まれる。ほとんどの化学療法アプローチはアポトーシスを介してそれらの結果を結局誘発するため、アポトーシスの制御レベルの変更は薬物耐性が生じ得るさらに別の機構を提供する。この概説は、調節不全にされたアポトーシス経路の操作により耐性腫瘍を化学感受性にするために使用された戦略のいくつかに焦点を当てている。
【0020】
薬物耐性の機構はアポトーシス経路の変更により媒介されうる。すなわち、細胞がアポトーシスを受けるか、細胞周期を進行し続けるかどうかに関する決定は、細胞周期の進行を調節するよう相互作用する遺伝子とタンパク質とからなる複合セットの相互作用に依存してなされる。細胞が、アポトーシスに対して保護すべく化学療法等の細胞への傷害から生じるシグナルの伝達を調節するタンパク質の発現を変更する場合に、薬剤耐性が現れ得る。アポトーシス経路の多くの詳細は未だ完全には理解されていないが、いくつかのタンパク質がこのプロセスの重要な調節因子であることが知られている。
【0021】
小分子プロトタイプ
本発明による小分子受容体リガンド模倣体の発見方法を確認し、その有用性を実証するために、本願発明者らは当該技術分野で十分に確立されている小分子をさらに選択した。この分子のことを本明細書では「AP−121」と称する(別の表記はエデルフォシン、ET−18−OCH3、1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリン、rac−1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリン、または場合によってはアルキルリゾリン脂質またはALPと称されることもある)。AP−121はエーテル脂質、より正確には以下の化学式を有するアルキルリゾリン脂質である:
【0022】
【化1】

AP−121は、血小板活性因子(PAF;1−O−アルキル−2−アセチル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)の合成類似体であり、炎症、免疫反応、アレルギー反応、生殖等の種々の生理学的プロセスに関与すると一般に考えられており、哺乳動物での抗腫瘍薬剤としても有効であることが示されている。
【0023】
癌化学療法は、一般に、周囲の細胞や組織への付随的損害を回避しつつ、癌細胞の成長を遅延させ、または破壊することを目的としている。従って、最も有効な制癌剤は、正常細胞に比較的影響を及ぼさずに癌細胞を選択的に標的とすることができるものである。
【0024】
エーテル脂質はインビトロおよび動物モデルで有効な制癌剤であることが知られている。癌細胞に対するエーテル脂質の毒性に関し、かかる細胞ではアルキル基の開裂酵素が不足していることを含めて、いくつかの作用機序が提案されている。エーテル脂質を代謝する能力がないため、それらが細胞内で蓄積し、結果として細胞膜脂質組織に損傷を引き起こす。エーテル脂質の他に考えられる機序には、細胞内のタンパク質リン酸化のレベルに対する効果および細胞脂質代謝の破壊が含まれる。正常細胞は一般にエーテル脂質の潜在的な毒性作用を回避または克服する手段を有しているが、がん細胞は有しない。
【0025】
AP−121は、多くの生物活性を示し、それにはPI3K−Akt/PKB生存経路の阻害、プロテインキナーゼCとの相互作用、Fas/CD95細胞死受容体の細胞内活性化、細胞内酸性化、サイトカイン産生の促進、および原形質膜機能の変更と脂質合成(非特許文献14および非特許文献15)が含まれる。
【0026】
AP−121のリポソーム製剤であるELL−12は、より低くて無毒なスケジュールで、白血病、肺癌転移および黒色腫に対して遊離AP−121よりも有効であることが判明した(非特許文献16)。
【0027】
さらなる例では、AP−121が、フェーズII試験で、牛乳に溶解させて進行性非小細胞性肺癌患者に経口的に投与された(非特許文献17)。
詳細には、インビトロやいくつかの動物データは、一連の腫瘍での非常に後半な「非特異的な」活性を示唆しているが、これは公表されたヒトの試験では明らかには証明できなかった。さらに、得られた生物学的データのいくつかは、使用した細胞株が異なったり、実験条件が異なったり、あるいは関連する科学者の技能が異なったりする等、検定システムが異なっていたため、矛盾してもいる。
【0028】
例えば、AP−121は、20μg/mlの濃度で、HL−60細胞での膜結合プロテインキナーゼC(PKC)の活性化剤である実験分子として説明され、現に市販されている(非特許文献18)。AP−121は、PKCの調節ドメインへのホスファチジルセリンの結合と競合することがわかっている。AP−121はPKCの阻害剤としても記載されている(非特許文献19)。他の者によると、PKCは中間のAP−121濃度では阻
害されるが、低濃度や高濃度では活性化されることが判っている(非特許文献20)。他は、PKCがHL−60APおよびK562細胞の細胞毒性作用に関与しないと説明している(非特許文献21)。AP−121は、その濃度が合計脂質の30mol%まで増大されるにつれて前進的にPKCαの活性を阻害するが、30mol%を超えると効果が活性化のそれとなる。AP−121はPKCεに対して三相性の効果を有する。つまり低濃度ではPKCεを活性化し、わずかに高い濃度ではそれを阻害し、より高い濃度では再びそれを活性化する(非特許文献22)。
【0029】
AP−121は、腫瘍の増殖を促進する既知のタンパク質相互作用であるRasとRaf−1の間の会合も阻害すると記載されている(非特許文献23)。AP−121のμmol以下の用量は、公知の抗癌標的である表皮増殖因子受容体(EGFR)の活性化ではなく内在化と、A431細胞における付随のMAPK/ERK活性化を引き起こした(非特許文献24)。AP−121は、乳癌MCF−7およびZR−75−1細胞株のEGF受容体の結合性に影響を及ぼさずに受容体部位の数を減少させた。μmolの濃度(5−25μM)で加えられると、AP−121は、nM用量(10−500nM)の成長因子誘導性MAPK/ERK活性化を阻害する。細胞増殖を刺激しないA431細胞におけるAP−121によるMAPK/ERK経路の活性化は、顕著であり、AP−121(500nM)はA431細胞でのEGFRの迅速なクラスタリングおよび内在化をも引き起こした(非特許文献25)。
【0030】
AP−121は、MCF−7細胞でのp70 S6キナーゼのリン酸化および活性化をも阻害することが記載されている(非特許文献26)。AP−121によるNa,K−ATPaseおよびナトリウムポンプの阻害は、他の者によっても記載されている(非特許文献27)。c−Jun NH2−末端キナーゼの活性化およびそれに続くA−121によるアポトーシスの刺激が記載されている(非特許文献28)。
【0031】
AP−121によるPI3K−AKT/PKB経路の阻害は重要であると思われる、というのは、AKTおよびP13Kの活性の増加と、その負の調節因子であるPTEN中の突然変異が、悪性腫瘍に関与し、細胞をアポトーシス誘発に対して無感覚にするためである(非特許文献29)。したがって、AP−121は、インシュリンによる機能的PI3K活性化を阻害し得る。AKTの下流で、AKTはSAPK/JNKカスケードの活性化剤であるSEK−1を不活性化する。したがって、AP−121によるAKTの不活性化によって、アポトーシス促進性SAPK/JNKタンパク質は不活性化される(表2を参照。非特許文献30)
【0032】
【表2】

AP−121によるホスホリパーゼCの阻害も記載されており、ムスカリン受容体1およびオピオイド受容体δの遮断につながる。これはAP−121の抗侵害受容作用における用途の可能性を示している(非特許文献31)。
【0033】
AP−121により引き起こされるアポトーシスはホスホコリンシチジルトランスフェラーゼ(CTP)の発現の増大によって防止されるが、これはAP−121の主要な標的としてのCTPを示唆している(非特許文献32)。
【0034】
スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)S1P1受容体媒介性のT細胞移動抑制の阻害に対する関係が調べられた(非特許文献33)。S1PはTNFα、抗Fas抗体、スフィンゴミエリナーゼまたは細胞浸透性セラミドにより引き起こされたセラミドのレベルの上昇により生じたアポトーシスの特徴を防止する。その生産の原因であるスフィンゴシンキナーゼ酵素のアップレギュレーションは、細胞をアポトーシスから保護することによりMDRに寄与し得る(非特許文献34)。抗Fasモノクローナル抗体(クローンCH−11)で処理されたJurkat細胞は、3時間以内に広範囲な細胞死を経験した。Fasライゲーションは、Jurkat T細胞にSAPK/JNK活性化を引き起こす。Fasライゲーションは、カスパーゼ−3、カスパーゼ−6およびカスパーゼ−7のタンパク質分解PARP活性の著しい増加により、PARP開裂を引き起こし、SlPはカスパーゼ−3、カスパーゼ−6およびカスパーゼ−7活性を顕著に減少させた(非特許文献35)。
【0035】
Gajateは、脂質ラフト中でのFAS受容体のクラスタリングを引き起こすAP−121の能力について公表し、これがAP−121のアポトーシス誘導能力を生じさせると推論している(非特許文献36)。この推定AP−121標的は、リンパ腫細胞および細胞株でも示された(非特許文献37)。他方では、Spiegelとその共同研究者は、FAS受容
体とは無関係に、ミトコンドリアのシトクロムcの放出にかかるアポトーシス促進特性が起因するとしている(非特許文献38)。AP−121はエンドシトーシスによって腫瘍細胞の脂質ラフトへ内在化される(非特許文献39および非特許文献40)。一旦、細胞内に入ると、AP−121はFas関連細胞死ドメインタンパク質であるプロカスパーゼ−8、プロカスパーゼ−10およびc−Jun N末端キナーゼおよびBidと、アポトーシスの開始にとって重要な分子の動員を引き起こす(非特許文献41)。したがって、細胞死受容体(FAS−R)とミトコンドリアのアポトーシス経路は空間的に関連しており、ミトコンドリアの膜電位差の乱れ、反応性酸素種の生成、カスパーゼ−3の活性化、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼの開裂、およびDNA分断化を生じる(非特許文献42)低μmol範囲である細胞株でのAP−121の報告されている生物活性と比較すると、本願発明者らが知っている限りの現在までに記載された最も有力な効果は、HMECl内皮細胞に対する60nmolの抗血管形成活性である(非特許文献43)。
【0036】
種々の細胞および細胞株に対する上記生物学的データに基づけば、特定の治療の指標に治療上匹敵するAP−121の生物学的効果を、もしそれがあるとすれば、発見する方法が必要であるように思われる。
【0037】
その生物学的効果の不確かさにもかかわらず、特許文献1は、腫瘍を破壊すると共に細胞毒性マクロファージを刺激する成功的な治療を以前に受けた被験者での、腫瘍壊死および/または後退を生じさせるのに適切な薬剤としての含むエーテル脂質を含む免疫増強組成物について記載している。かかる薬剤は、主要に対して特異的に細胞毒性のあるマクロファージの形成が以前の治療によって生じた場合には、一度に投与されなければならないが、AP−121のかかる活性を支持するためのデータが提供されていない。
【0038】
AP−121は、哺乳動物への投与により癌を治療するのに有用な化合物として記載されており(特許文献2)、腫瘍のサイズを縮小するための医薬として有効量のAP−121も、特許文献3および特許文献4に説明されており、これは第一期および第二期悪性脳腫瘍の治療に特に適している。
【0039】
特許文献5は、医薬として有効量のAP−121等のホスホリパーゼC阻害剤を個人に投与する工程からなる、腫瘍の侵入および転移を遅延するか阻止する際の腫瘍の進行を阻害する方法に関する。好ましくは、ホスホリパーゼC阻害剤はホスホリパーゼCγを減少させる。一般に、そのようなホスホリパーゼC阻害剤は、約0.1mg/kgから約2mg/kgまでの用量で投与されるだろう。請求項をサポートするデータはないが、報告された用量は、インビトロ試験のいたるところで見られるように、AP−121の低活性を反映していない。
【0040】
AP−121は、活性化CD4+またはCD8+細胞毒性Tリンパ球(CTL)の阻害により、多発性硬化症(MS;特許文献6および特許文献7)または慢性関節リウマチ(RA)もしくは強直性脊椎炎(AS;特許文献8)の治療に有効であることも報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【特許文献1】米国第5,149,527号
【特許文献2】ドイツ国特許公開公報第02 619 686号
【特許文献3】米国第6,514,519号
【特許文献4】欧州特許出願公開公報第1 079 838号
【特許文献5】米国特許第6,235,729号
【特許文献6】欧州特許出願公開公報第2 363 901号
【特許文献7】ドイツ国特許出願公開第03 530 767号
【特許文献8】欧州特許出願出願公開第0 474 712号
【非特許文献】
【0042】
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【非特許文献28】C. Gajate et al., Mol. Pharmacol. 1998, 53: 602-12
【非特許文献29】M.I. Berggren, et al., Cancer Research 1993, 53: 4297-30
【非特許文献30】G.A. Ruiter, et al., Anticancer Drugs 2003, 14: 167-73
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【非特許文献32】I. Baburina and placeS. Jackowski, J. Biol. Chem. 1998, 279: 2169-2173
【非特許文献33】G. Dorsam et al., J. Immunol. 2003, 171: 3500-7
【非特許文献34】O Cuvillier et al., Nature 1996, 381: 800-3
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【非特許文献38】O Cuvillier et al., Blood 1999, 94: 3583-3582
【非特許文献39】A.H. van der Luit et al., J. Biol. Chem. 2002, 277: 39541
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【非特許文献41】C Gajate et al., Exp. Med. 2004, 200: 353
【非特許文献42】C. Gajate et al., Int. J. Cancer 2000, 86, 208
【非特許文献43】D. Candal, Cancer Chemother. Pharmacol. 1994, 34: 175-178
【発明の概要】
【0043】
本発明は、小分子が治療上有用な受容体リガンド機能的模倣体であるか否かを決定する方法を包含する。本発明はまた、治療上有用な処理、診断方法、およびA−121を単独でまたは他の治療上有用な化合物と組み合わせて含む組成物、ならびにそれらの治療上の有用性を確立する方法を包含する。
【0044】
本発明によれば、内因性または人工的に作られたタンパク質、ペプチドまたは抗体等の機能的受容体リガンドの生物学的効果が、少なくとも2つの異なる初代ヒト細胞または永続的細胞株のパネル単独に対してまたは生物学的結果の配列を生じさせる他の化合物のパネルと組み合わせたものに対して、測定される。並行して、推定小分子リガンド模倣体も、少なくとも2つの異なる初代ヒト細胞または永続的細胞株の同じパネル単独に対してまたは生物学的結果の第2の配列を生じさせる他の化合物の同じパネルと組み合わせたものに対して、測定される。慣習的な数学アルゴリズムにより計算されたこれら2つの配列の類似性が所定の閾値よりも高い場合、小分子は真の受容体リガンド模倣体と見なされ、治療薬として使用され得る。さらに、本発明の方法は、前記受容体の調節が治療効果を提供する疾患中で相乗的に作用しうる小分子の治療上有用な組み合わせ(併用)を与える。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1A】1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリン(最終濃度10μM)、(イオン化)放射線(吸収濃度5グレイ単位、「RT」として表示)、およびそれらの併用の、LNCaPアンドロゲン感受性ヒト前立腺癌のプログラム細胞死(アポトーシス)および生存率に対するインビトロでの効果を示す。アポトーシスはApo-ONE(商標)Homogenous Caspase-3/7Assay(Promega社、米国ウィスコンシン州マジソン所在)を用いて製造業者の取扱説明書に従って測定した。生きている癌細胞の割合を文献(Freshney, R.I. (1994) Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique. 3rd Ed. Wiley-Liss. placeStateNew York. USA)に記載の通りトリパンブルー染色排除法により概算した。図1Aでは、1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンの投与後に、細胞を6時間放射線に曝露した。
【図1B】1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンの投与と同時に、細胞を6時間放射線に曝露した。
【図1C】1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンの投与前に、細胞を6時間放射線に曝露した。
【図2A】ヌードマウス(マウス7匹/群)の前立腺に正所に増殖させたLNCaP細胞に対する1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンのインビボでの効果を示す。市販の試験キットを用いて前立腺特異的抗原(PSA)の血清レベルを決定すると共に磁気共鳴イメージングにより腫瘍体積を決定することにより、腫瘍の増殖を評価した。図1Aは1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンを30mg/kg/体重/日、腹腔内に15日間投与した。
【図2B】1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンと放射線を組み合わせた。
【図2C】(イオン化)放射線(吸収濃度5グレイ単位、7日目に適用)
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、小分子が機能的で治療上有用な受容体リガンドの模倣体であるかどうかを決定する新規な方法に関する。
「小分子」とは、本明細書に使用する場合、特にペプチド、タンパク質、核酸分子、炭水化物、脂質、および低分子量の化合物を含む。
【0047】
本発明で使用可能なペプチドおよびタンパク質は、天然分子と、例えば組換えDNA技術または化学合成により人工的に設計された分子とを含む。かかるペプチドおよびタンパク質は、通常800以下のアミノ酸、好ましくは600以下のアミノ酸、より好ましくは400以下のアミノ酸、そして最も好ましくは200以下のアミノ酸の長さを有する。
【0048】
本発明で使用可能な核酸の例は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の天然核酸と、核酸アナログとを含む。そのような核酸は任意の長さであってよく、一本鎖分子であっても二本鎖分子であってもよい。
【0049】
本発明で使用可能な炭水化物の例は、グルコースまたはフルクトース等の単糖類、ラクトースやスクロース等の二糖類、オリゴ糖、およびデンプン等の多糖類を含み、単糖類が好ましい。
【0050】
本発明で使用可能な脂質の例は、脂肪酸、トリアシルグリセリド、スフィンゴ脂質およびリン脂質を含む。本発明の好ましい実施形態では、小分子はエーテル脂質、好ましくはアルキルリゾリン脂質から選択され、AP−121が特に好ましい。
【0051】
本明細書に使用する場合、用語「低分子量化合物」は、少なくとも2つの炭素原子を含むが好ましくは7つ以下の炭素結合を有し、100から2,000ダルトンの間、好ましくは100から1,000ダルトンの間の範囲の分子量を有し、任意選択で1つまたは2
つの金属原子を含む分子、好ましくは有機分子のことを指す。そのような分子の例には、イミダゾール、インドール、イソオキサゾール、オキサゾール、ピリジン、ピリミジンおよびチアゾールが特に含まれる。
【0052】
本発明による方法の第1の工程として、調節効果を発揮する適切なリガンドと同様に、治療上適切な受容体標的を選択しなければならない。本明細書に使用する場合、用語「調節作用」は、選択受容体の下流シグナル伝達に対する拮抗的(すなわち遮断または阻害的)効果および作動的(すなわち活性化の)効果の両方を含む。この選択リガンドは、選択受容体またはかかる効果を示すことが知られている他のタンパク質もしくはペプチド(例えば抗体)の内因性リガンドであってよい。反身体(それはこの結果を示すと知られている)のようなペプチドでありえる。このリガンドは、薬剤様の分子に有用な特性を示す必要はなく、リガンドは、その結果を選択的に示し、細胞ベースのスクリーニングのためのツールとしてのその使用を困難または不可能にする特性がないことが重要である。さらには、推定受容体リガンド模倣体である小分子を、生物学的効果を示すことが知られている、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、およびより好ましくは少なくとも3つの他の分子からなるパネルと共に選択しなければならない。
【0053】
本発明の第2の工程では、少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つの異なるヒト由来の初代細胞および/またはヒト由来の永続的な細胞株からなるパネルを選択しなければならない。これらの細胞株は、異なるレベルで、異なる変異状態で、および細胞膜内の異なる濃度での少なくともいずれか一つで選択受容体を好ましくは発現し、生物学的効果とそのような受容体レベルとの相関性が測定された生物学的効果から導き出されることが保証される。
【0054】
第3の工程では、選択された種々の化合物の生物学的効果を測定する。本発明によれば、用語「生物学的効果」の下では、そのような効果を測定するための様々な細胞に基づく生物試験を使用することができる。例えば、RT−PCR等の遺伝子発現、タンパク質レベルの検出、または増殖の阻害、コロニー形成、血管新生またはアポトーシス等のより複雑な生物学的事象を測定してもよいが、これらに限定されるわけではない。
【0055】
本発明によると「生物学的効果」とは、繰り返しの実験、異なる濃度の使用、または異なる性質の検定法の関与のいずれかによる、いくつかの生物試験の概略または平均結果であってよい。したがって、生物学的効果は50%の阻害濃度(IC50)、有効量(ED50)、併用指数(CI)等であってよい。本発明の方法によれば、化合物は、生物学的効果の2つの配列を得る以下の方法で測定される。つまり、第1には、好ましくは信頼できる結果を得るために同じ実験を複数回繰り返すことにより、個々の細胞株(1からNまで、Nは異なる細胞の数)に対する受容体リガンドの生物学的効果が測定される。次に、受容体リガンドを、他の化合物の各々と個別に所定の比で組み合わせて、2つの化合物の混合物を得る。
【0056】
これらの2つの化合物の混合物は、また同じリガンドと化合物の混合物を含んでもよいが、比は異なるものとする(1からMまで、Mは異なる化合物の混合物の数)これに続いて、好ましくは信頼できる結果を得るために同じ実験を複数回繰り返すことにより、各個別の細胞株(1からNまで、Nは異なる細胞の数)に対する各混合物の生物学的効果を測定する。その結果、生物学的結果の二次元配列(Al)を得る。
【0057】
第4の工程では、受容体リガンドを推定小分子と置き換えることにより第3の工程を繰り返すが、かかる推定小分子も、少なくとも2つの異なる初代ヒト細胞または永続的細胞株単独もしくは他の化合物からなる同じパネルと組み合わせたものからなる同じパネルと同じ方法で測定可能であり、その結果、生物学的結果の第2の二次元配列(A2)を得る
。説明の目的で、配列AlおよびA2は以下の形式をとり得る。
【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

本発明の方法の第5の工程では、各生物学的効果が異なる細胞の各々で観察された最大の生物学的効果に対するその比として表されるように、配列A1およびA2が正規化され、アレイB1およびB2が導き出される。
【0060】
この正規化した二次元配列B1およびBは以下の形式をとり得る。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

本発明の方法の第6の工程では、配列B1とB2の間の類似性が確立されるかかる類似性を計算するには多くの慣習の数学的アルゴリズムがあり、かかるアルゴリズムは本願発明の一部ではなく、当ギア技術分野の技術水準の数学のテキストや遺伝発現プロファイルの類似性を評価するよく確立されているソフトウェアツールから導くことが可能である。さらに、かかる類似性を計算するには、例えばJ.D. Holliday et al., Combinatorial Chemistry and High Throughput Screening 2002, 5: 155-166に記載されているようなCosine、Dice、 Euclid、 Forbes Hamman、 Jaccard、 Kulczynski、 Manhattan、 Pearson、
Rogers-Tanimoto、 Russel-Rao、 Simpson、 Tanimoto またはYule 係数を使用することも可能である。
【0063】
かかる計算の中間工程として、本願発明者らは、一次元類似性配列(S)を得る。各細胞株に対する類似性はこれより決定可能である。
【0064】
【表7】

計算された類似性が所定の閾値より大きい場合、小分子は治療薬剤として使用される真の受容体リガンド模倣体とみなされ得る。かかる所定の閾値は、生物活性を有することが知られているが受容体リガンドではない小分子を測定することにより決定可能である。
【0065】
さらに、本発明の方法は、受容体の調節が治療効果を与える、疾患に相乗的に作用する治療上有用な複数の小分子の組み合わせも送達する。
本発明は、治療に有用な処理、診断方法、CH−11FAS受容体リガンドとしてのAP−121を、単独でまたは他の治療上有用な化合物と組み合わせて含む組成物、およびかかる治療上の有用性を確立するための方法をも指す。好ましくは、本発明の組成物は経口的に適用可能な医薬の剤形をしており、特に好ましくは錠剤、丸剤、カプセル剤、および顆粒剤等の固形の剤形である。さらに、かつCH−11とは異なって、AP−121は、生物学的利用能が高く耐性が良好なので、Ch−11や同様な抗体と比較すると患者に治療上の利点を与える。
【0066】
本発明を、以下の図面および実施例によりさらに詳しく説明するが、それらは本発明の特定の実施形態を単に示すためのものにすぎず、本発明の範囲を如何様にも限定するものと解釈されるべきではない。以下の試験で使用される材料は、市販されているか、当業者には市販の材料から容易に準備可能であるかのいずれかである。
実施例および実験手順
実施例1:選択ステップ
本方法の実際の有用性を決定するために、本願発明者らは、一例として、活性化小分子リガンドが求められるFAS受容体と、適切な受容体リガンドとしての作動性抗体CH−11と、推定CH−11模倣体としてのAP−121とを選択した。組み合わせ測定のための追加化合物を備えたパネルとして、既知の薬剤であるカンプトテシン、テモゾラミド、アドリアマイシン、およびタルセバを選択した。
【0067】
生物試験パネルとして、本願発明者らは、p53およびPTENに異なるレベルの変異を有すると共に異なるレベルのFAS受容体発現を有する脳腫瘍細胞株U87MG、A172、LN−18、LN−229、U118MG、およびT98Gを選択した。
【0068】
【表8】

Fas細胞死受容体は大半の神経膠芽腫で同定され、発現レベルは悪性腫瘍のグレードに相当する(O Tachibana et al., Cancer Res. 1995, 55: 5528-30)。高いグレードの
星状細胞腫におけるアポトーシスと生存は、腫瘍Fas(APO−1/CD95)発現と関連する(Frankel et al., Neurooncol. 2002, 59: 27-34)。
【0069】
Fas受容体、Fasリガンド(FasL)、Bcl−2およびTGFh2のタンパク質発現は初期および反回性ヒト神経膠腫での生存率と相関する(R.J. Strege et al., J. Neurooncol. 2004, 67: 29-39)。悪性膠腫および細胞株ではFasとFasリガンドが同時発現することが記載されている(N. Husain, et al. Acta Neuropathol. (Berl) 1998, 95: 287-90)。
【0070】
しかしながら、大半の神経膠芽腫はFasリガンドにより引き起こされるアポトーシスには耐性であるため、神経膠腫における細胞死誘導経路を利用するには他の手段による感作が必要である。すなわち、エキソビボ小児脳腫瘍はFas(CD95)とFasL(CD95L)を発現し、アポトーシス誘導に耐性である(C.D. Riffkin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1999, 96: 14871-14876)。腫瘍Fas(APO−1/CD95)のア
ップレギュレーションにより、脳内悪性神経膠腫を有するラットでアポトーシスが増大し、生存期間が延びた(B. Frankel et al., Neurosurgery 2001, 49: 168-75)。
【0071】
Upstate Biotechnology社(アメリカ合衆国ニューヨーク州レークプラシド所在、カタ
ログ番号05−201)から得た活性化ヒト項Fas抗体クローンであるCH−11は、マウス免疫アフィニティ精製したIgMであるが、この抗体はFas(43kD)を認識し、Faswo発現するヒト細胞に対して細胞溶解活性を有する。ヒトFasLをコードするcDNAでトランスフェクトしたマウスWR19LおよびL929細胞をかかる抗体と反応させてアポトーシスを及ぼした。抗体はTNFを認識せず、マウスFasLとは交
差反応しない。24時間後、86%のヒトJurkat細胞が死に至った。
【0072】
セミナーの論文(A Algeciras-Schimnich et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2003, 100: 11445-50)では、ヒト細胞株は、可溶性FasLga細胞毒性である場合にはII型として分類され、そうでない場合にはI型として分類されたが、CH−11は可溶性FasLとは異なり、いくつかのII型細胞に対して細胞毒性がある。FasLとCH−11はいずれも細胞に対して相乗的な活性を及ぼすことが可能である。
【0073】
従って、本願発明者らは、腫瘍細胞が内因性FasLに対して全く感受性がないか十分な感受性がない場合や、疾患組織に十分なFasLが発現していない場合に、CH−11の模倣体である小分子を発見すれば、治療に有用である可能性があるという結論に達した。
実施例2:細胞株および試薬
U−118MG(神経膠芽腫
/星状細胞腫、p53変異型、PTEN変異型)、T98G(多形性神経膠芽腫
、p53変異型、PTEN変異型)、A172(神経膠芽腫
、p53野生型、PTEN変異型)およびU87MG(神経膠芽腫
/星状細胞腫、p53野生型、PTEN変異型)をアメリカ培養細胞株保存機関
(ATCC)から購入した。
【0074】
ATCCの勧告に従い、U−118MGとA172は10%FBSおよびP/Sを補充したDMEM培地中でインキュベートし、P/S、T98、およびU87MGは0.1mM非必須アミノ酸溶液(Gibco)、10%FBSおよびP/Sを補充したMEM培地中で
インキュベートした。AP−121は滅菌蒸留水の5mMストック溶として調製した。テモゾロミド(TMZ)(Harorui Pharma-Chem社、ニュージャージー州エディソン所在)
は100mMの滅菌濾過DMSOとして調製した。アドリアマイシン(ADR)(Sigma
社)は10mMの0.1N NaOH溶液として調製した。タルセバ(Proteinkinase社
、ドイツ)は5mMの滅菌DMSOとして調製した。すべての化合物ストックは−20℃で保存した。
実施例3:WST−1増殖アッセイ
2000個の細胞96ウェルの平坦な有底プレートの各ウェルに播き、5%CO2、3
7℃で一晩インキュベートした。3つの対照ウェルに7.5μMのWST−1試薬(Roche Applied Sciences社、ドイツ)を加え、SpectraMax250プレートリーダで650nmお
よび450nmでの吸光度をそれぞれ測定することにより、播いた細胞の増殖を測定した。OD650−DO450の値が0.5を超える場合、プレートの残りをAP−121、他の薬剤、または溶媒対照との96時間のインキュベートの為に使用した。
【0075】
このインキュベート後、WST−1試薬をウェルに加え、OD650−DO450値を上述のように測定した。各条件で6つのウェルを測定し、標準偏差を測定した。すべての実験は少なくとも3回個別に行った。各化合物に対する個々のIC50値が判明した後、AP−121および化学療法薬の、それらのIC50値における同時併用処理を行い、併用指数(CI)をCalcusynソフトウェアパッケージ(Biosoft社、ミズーリ州ファーガソン所
在)により決定した。併用指数(CI)の平均を計算することによりデータを評価した。ここで、CI<0.3の場合は強い相乗作用があるとし、0.3<CI<0.7の場合は相乗効果があるとし、0.7<CI<0.9の場合は中程度の相乗性があるとし、0.9<CI<1の場合は相加効果があるとし、CI>iの場合は拮抗作用があるとする。
【0076】
AP−121と細胞増殖薬剤の組み合わせ(併用)測定のために、各薬剤についてED50を決定した。各薬剤の6つの異なる濃度を使用して併用指数を測定し、+/−細胞との比較、化合物がない場合の対照との比較を行った。各組み合わせを2つの異なる時点(2
4時間および96時間)で6回繰り返し、上記実験の各々を有効な結果が得られるまで3回繰り返した。
【0077】
例えば、U118細胞株と、AP−121およびテモゾラミド(TMZ)の混合物に関する、450対650nmにおける吸光度の差として測定したそのような測定の1つを以下に示す。
【0078】
上の2つの列は異なる6つの比のAP−121またはTMZのマイクロモル濃度を示し、列Aは化合物を備えた培地は含むが細胞は加えていない。列B〜Gでは細胞と各化合物の混合物を加えており、列H1〜H3は細胞を含んでいるが化合物の混合物を含まない。H4〜H6はH1〜H3と同じであるが1%DMSOを含む水を加えてある。WST試薬はH1〜H3を除くすべてのウェルに加える。
【0079】
【表9】

この実験と各細胞株に対する各化合物の先に決定しておいたED50から、Calcusynプログラムを用いて、以下に各化合物混合物と細胞株についての実験概要に示すように、併用指数を計算した。
実験概要:以下では、実験全体の一部の選択データのみを記載する。
実施例4:AP−121の併用指数(CI)
【0080】
【表10】

【0081】
【表11】

【0082】
【表12】

【0083】
【表13】

【0084】
【表14】

【0085】
【表15】

【0086】
【表16】

【0087】
【表17】

【0088】
【表18】

【0089】
【表19】

【0090】
【表20】

実施例5:CH−11の併用指数
【0091】
【表21】

【0092】
【表22】

【0093】
【表23】

【0094】
【表24】

さらなる分析では、使用した種々のAP−121の組み合わせに対して以下のIC50(μM)を決定した。
【0095】
【表25】

IC50値の計算のために、各細胞株に投与したAP−121の組み合わせは以下の通りであった。
【0096】
【表26】

【0097】
【表27】

【0098】
【表28】

【0099】
【表29】

【0100】
【表30】

【0101】
【表31】

要約:使用した細胞の変異状態に関するAP−121の追加化合物との相乗作用
【0102】
【表32】

実施例6:受容体リガンドおよび小分子に対する生物ED50データの配列
このデータから、AP−121および対応する化合物混合物に対する各ED50データ
を用いて以下のデータ配列A2およびA1を導き出すことができる。
【0103】
【表33】

CH−11に対しては
【0104】
【表34】

である。
【0105】
結果として、正規化配列B2は
【0106】
【表35】

であり、B1は
【0107】
【表36】

と計算される。
B1およびB2から、1つの細胞当たりの各化合物または化合物混合物に対する類似性の値を単純に平均することにより、類似性配列Sを計算することができる。
【0108】
【表37】

ここで、1.00の類似性の値は考えられる限りの最も高い類似性に相当し、0.00
は生物活性の考えられる重複が最も低いことに相当する。
【0109】
全体として、実施例6から得られたデータは、本願発明の方法、選択的受容体リガンドとしてのFas受容体C−11に対する特異的作動性抗体、小分子推定受容体リガンド模倣体としてのAP−121、ならびに各化合物混合物におけるいくつかの追加化合物を用いることにより、AP−121の生物作用がCH−11によって発揮される生物作用と類似であることを示し得る。
【0110】
生物作用としてED50の代わりに、実施例4および5の併用指数の配列にも上記同じ評価方法を適用することが可能であり、これはCH−11とAP−121との間で約0.6の類似性の値を与える。
【0111】
さらに、テモゾラミド、多形性神経膠芽細胞腫
、および未分化星状細胞腫と共に、3つすべての細胞株で強い相乗効果が観察された。
実施例7:
実施例4および5で概説した手順を用いると、シスプラチン(DDP)/AP−121およびゲミシタビン(GMZ)/AP−121に対して非小細胞性肺癌で強い相乗効果が観察された。DDPとGMZはいずれもSigma-aldrich社(アメリカ、ミズーリ州セント
ルイス所在)から購入した。以下の細胞株を使用した:A549(FAS陰性)、NCI−H460(FAS陽性)、およびHCC827(FAS陽性)、いずれもATTC(アメリカ、メリーランド州ロックヴィル所在)から得た。
【0112】
【表38】

【0113】
【表39】

【0114】
【表40】

実施例8:
前立腺癌の細胞株がFAS受容体を発現していること、かかる細胞株のいくつかはFASに対して感受性でないことが知られている(OW Rokhlin et al., Can cer Res. 1997, 57: 1758-68)。LNCaPは放射線に対する感受性が低減された前立腺癌細胞株であるが
、拮抗薬FAS抗体CH−11は放射線誘発性アポトーシスに対して細胞を感作する(K.
Kimura and E.P. Gelmann, Cell Death and Differentiation 2002, 9: 972-980;以下の実施例も参照のこと)。それゆえ、本願発明者等は、LNCaP細胞をマウス前立腺に注入し、腫瘍を増殖させた後、種々の用量の0−30mg/kg腹腔内注射と同時に放射線照射を適用することにより、動物実験を行った。
【0115】
処理した動物では、用量依存的効果が観察され、PSA(前立腺特異的抗原)レベルは処理の数日後に減少し、腫瘍のサイズは処理の一週間後に縮小し、治療に相当するインビボの実験において、作動性抗体CH−11の生物効果を模倣するAP−121の有効性が示された。
実施例9:前立腺癌の治療における1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンの効果
前立腺癌は、男性生殖系の腺である前立腺で発達するタイプの癌である。前立腺癌はほとんどの場合、健康診断により、またはPSA(前立腺特異的抗原)試験等のスクリーニング血液検査により発見される。PSA試験は前立腺特異的抗原、すなわちカリクレインと類似のセリンプロテアーゼの血液レベルを測定する。その通常の機能は、射精後のゼラチン様精液を液化することであり、これにより精子は子宮頸管の中をより容易に進むことが可能となる。約4ng/mlを超えるPSAレベルは、前立腺癌が発展しているリスク
を示すと一般に考えられている。しかしながら、PSAは完全な試験ではなく、尿中の細胞関連PCA−3 mRNAの検出などの追加分析により確認されるべきである。
【0116】
局所的に発展したまたはリスクの高い前立腺癌のための2つの最も一般的な治療は、放射線治療(RT)とホルモン治療であるアンドロゲン枯渇治療(AD)である。
1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリン単独のおよびRT、AD、またはRT+ADと組み合わせた場合の、前立腺細胞のプログラム細胞死(アポトーシス)の程度と生存率とに対する効果をそれぞれ調べた。
【0117】
まず、1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリン、(イオン化)放射線、およびこれらの組み合わせの、LNCaPアンドロゲン感受性ヒト前立腺癌細胞のプログラム細胞死(アポトーシス)と生存率とに対するインビトロでの効果を測定した。LNCaP細胞株は腺癌の転移病変から樹立した。細胞を最終濃度10μMの1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンと、吸収濃度5グレイ単位に相当する(イオン化)放射線で処理した。
【0118】
アポトーシスはApo-ONE(商標)Homogenous Caspase-3/7Assay(Promega社、米国ウィ
スコンシン州マジソン所在)を用いて製造業者の取扱説明書に従って測定した。生きている癌細胞の割合を文献(Freshney, R.I. (1994) Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique. 3rd Ed. Wiley-Liss. StateStateNew York. USA)に記載の通りトリパ
ンブルー染色排除法により概算した。
【0119】
細胞を、1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンの投与後(図1A)、投与と同時(図1B)、投与前(図1C)に、6時間放射線に曝露した。放射線への曝露後にカスパーゼ検定を12時間行った。示されたそれぞれのデータは2つの独立した試験の平均を示す。
【0120】
1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンを細胞の放射線への曝露前に6時間投与した場合、この併用処理では、未処理対照では約85%に対し、腫瘍細胞の生存率はたった約45%であった。従って、処理細胞ではアポトーシス応答の有意な増加(>2.5倍)が観察された(Caspase-3/7Assayにより測定)。放射線または1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンでの個々の処理では、生存率がそれぞれ約75%および約60%という中間の値であった。
【0121】
放射線と1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンを同時に細胞に適用した場合、生存率は約55%と決定され、これは個別の化学物質処理に対して観察された(約50%)のと同じ範囲であった。放射線のみに細胞を曝露した場合、生存率は約80%であったが、これは未処理対照(約86%)に匹敵している。驚くべきことに、caspase-3/7assayの結果は個別処理および併用処理で同様であった(図1B)。
【0122】
1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンを細胞の放射線への曝露後に6時間投与した場合、この併用処理では、約40%の細胞が生存し、これは個別の化学物質処理に対して観察された(約45%)のと同じ範囲であった。放射線のみに細胞を曝露した場合、生存率は約70%であった。観察されたアポトーシスの程度は、併用処理に曝露した細胞に比べて、化学物質のみに曝露した細胞では約25%増加した(図1C)。 上記結果に基づくと、放射線への細胞の曝露前に1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンが投与されると、細胞の生存率およびアポトーシス応答に最も有意な効果が得られるようである。
【0123】
さらなるアプローチでは、10μM 1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセ
ロ−3−ホスホコリン(最終濃度、「CHEM」)と(イオン化)放射線(5グレイ単位、「RT」)をLNCaP細胞に同時に適用し、後続のインキュベーション時間を24時間まで延長した。アポトーシスを上述のようにApo-ONE(商標)Homogenous Caspase-3/7Assayを使用して測定し、相対蛍光単位(RFLU)で表した。アポトーシス細胞の割合は、確立された標準プロトコルにより、アネキシンV−PE陽性染色細胞および7−AAD(7−アミノアクチノマイシンD)陰性染色細胞(いずれもBD Biosciences、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンホセ所在、から購入)のフローサイトメトリー分析により決定した。結果は以下の表に概説する。データは3つの独立した実験からの平均±SEMを表す。
【0124】
【表41】

上記結果の統計学的有意性を一方向ANOVA SLD試験を用いて計算した。*は、CHEMおよびRTの個別処理の各々と比較してP<0.0001であることを示す。
【0125】
「CHEM+RT」処理細胞におけるアポトーシスの増強は、アンドロゲン非感受性LNCaP C4−2およびLNCaP−Res細胞でも観察された(データ非図示)。
次に、1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリン投与(「CHEM」)とアンドロゲン枯渇治療(「AD」)の相互作用について調べた。LNCaP細胞から、当該技術分野で周知の確立された手順に従い血清の炭吸着により3日間アンドロゲンを枯渇させた。CHEMをそれぞれ5μMおよび10μMの最終濃度で添加した。さらに、CHEM投与前2日間の合成アンドロゲンR1881(「R1881」)の添加が効果の逆転を生じさせるか否かについても試験した。
【0126】
アポトーシスはApo-ONE(商標)Homogenous Caspase-3/7Assayを用いて上述のように測定し、相対蛍光単位(RFLU)として表した。アポトーシス細胞の割合は、上述のようにアネキシンV−PE/7−AAD染色により決定した。caspase-3/7assayおよびアネキシン染色はCHEM処理の22時間後に行った。結果は以下の表に概説する。
【0127】
【表42】

上記結果から明らかなように、アンドロゲン枯渇LNCaP細胞への1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンの投与は、用量依存的にアポトーシス応答を有意に増大させた。さらに、この効果は1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリン処理の前に培地に合成アンドロゲンを加えても逆転しなかった。
【0128】
さらに、予備試験で、ヌードマウス(マウス7匹/群)の前立腺に正所に増殖させたLNCaP細胞に対する1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリン、(イオン化)放射線、およびそれらの併用のインビボでの効果を調べた。
【0129】
1−O−オクタデシル−2−O−メチル−グリセロ−3−ホスホコリンは、30mg/kg/体重/日、腹腔内に15日間投与した(図2A、経口または胃管栄養等の種々の投与経路を用いた研究は現在行っているところである)。(イオン化)放射線は7日目に5グレイ単位の吸収用量を適用したのに相当する(図2B)。併用処理を図2Cに示す。市販の試験キットを用いて前立腺特異的抗原(PSA)の血清レベルを決定することにより腫瘍の増殖について評価すると共に、磁気共鳴イメージングにより腫瘍の体積を評価した。
【0130】
理解されるように、併用処理では、いずれの個別処理と比較してもPSAの血清レベルが有意に減少し(「PBS」はリン酸緩衝液を表す)、これはインビトロの結果がインビボの設定にも移せることを実証している。
【0131】
本明細書において例証的に説明した本願発明は、本明細書で詳細には開示されていない1または複数の構成要素や1または複数の限定がなくても適切に実施可能である。したがって、例えば「備える」「有する」「含む」といった用語は拡張的に読まれるべきであって、限定的に読まれるべきではない。さらに、本明細書で使用されている用語や表現は説明の言い回しとして使用されているのであって限定の言い回しとして使用されているのではない。よって、そのような用語や表現の使用には、図示されおよび説明された特徴の等価物やその一部を除外することは意図しておらず、本発明の範囲で種々の改変が可能である。したがって、本発明は好ましい実施形態や任意選択の特徴の特徴によって詳細に開示されてはいるものの、本明細書で具現化されたここで具現化された発明の改変やバリエーションが当業者には想定され、かかる改変やバリエーションは本発明の範囲内にあるものとみなす。
【0132】
本明細書で言及したまたは本明細書で参照する文書における、製造業者の取扱説明書、説明書、製品仕様書、および製品の製品シートを含む、本明細書で引用または参照したすべての文書は参照により本明細書に援用され、本発明の実施に使用することが可能である。本願での文書の引用または識別情報は、そのような文書が本願発明に対する先行技術として使用されることを許可するものではない。
【0133】
本発明を本明細書において広くかつ包括的に説明した。包括的開示内に入る、より狭い種や包括より下位(sub-generic)のグループの各々も、本発明の一部を構成する。これ
は、属(genus)からの主題を除外する条件または否定的限定付きで、除外される題材が
本明細書に詳細に記載しているか否かにかかわらず、本発明の包括的(generic)説明を
含む。
【0134】
他の実施形態も特許請求の範囲内にある。さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群に関して説明されている場合、当業者には、マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループに関しても本発明が説明されていることが理解されるだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある小分子が細胞の受容体のタンパク質またはペプチドリガンドの機能的置換物であるか否かを決定し、かかる受容体の調節が治療効果をもたらす場合には小分子が疾患の処理に治療上有用であることを与える方法であって、
受容体リガンドと小分子の両方の、少なくとも3つの異なる永久細胞株および初代細胞の少なくとも一方を有するパネルに対する効果を測定することからなり、
両化合物の前記細胞パネルに対する生物学的効果は、質的に類似であると共に、パネルの各細胞における前記受容体の量に相関している、方法。
【請求項2】
前記小分子と前記タンパク質またはペプチド受容体リガンドとの前記細胞に対する生物学的効果は個別におよび組み合わせて測定される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記小分子と前記タンパク質またはペプチド受容体リガンドとの生物学的効果は、タンパク質、ペプチド、または小分子から選択された少なくとも1つの追加化合物の存在下で測定される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記小分子と前記タンパク質またはペプチド受容体リガンドとの生物学的効果の類似性は、前記追加化合物や複数の追加化合物を有するパネルと組み合わせた場合と同様、類似である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記測定された化合物の生物学的効果の類似性は、個別に、2つの化合物を組み合わせて、および3つ以上の化合物を組み合わせての少なくともいずれかで測定された少なくとも3つの細胞系と少なくとも3つの化合物の生物学的データのマトリクスからなり、前記小分子と前記タンパク質またはペプチド受容体リガンドとの間の類似性は確立された数学的方法により該データマトリクスから計算される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記小分子と前記受容体リガンドとの類似性は前記生物学的データのマトリクスから計算され、妥当な閾値よりも大きく、ランダムな場当たり的組み合わせを、治療上有用な化合物および複数の化合物の組み合わせの少なくとも一方から区別する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記小分子を前記追加化合物の一つと組み合わせると相乗的生物学的効果が生じるか否かを決定するための請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記小分子はリン脂質、特にAP−121である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記受容体リガンドは作動薬FASの抗体またはFAS結合タンパク質から選択されたタンパク質またはペプチドであり、対象受容体はFAS受容体である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
小分子はFAS受容体の活性化因子として識別され、前記方法は、FAS受容体タンパク質またはペプチドリガンドと小分子との両方の、少なくとも3つの異なる永久細胞株および初代細胞の少なくとも一方を有するパネルに対する効果を、FAS受容体発現レベルの違いについて測定することからなり、
両化合物の前記細胞パネルに対する生物学的効果は、質的に類似であると共に、パネルの各細胞における前記FAS受容体の量に相関している請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記FAS受容体タンパク質またはペプチドリガンドと前記小分子との生物学的効果は
、個別におよびタンパク質、ペプチド、または他の小分子である少なくとも1つの追加化合物と組み合わせて測定される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記小分子と前記FAS受容体リガンドとの生物学的効果は、個別におよびタンパク質、ペプチド、または小分子である少なくとも2つの追加化合物と組み合わせて測定される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記小分子はAP−121であり、前記追加化合物または複数の化合物からなるアレイは1または複数の抗腫瘍剤から選択され、該抗腫瘍剤は、16−アザエポチロンB、アルデスロイキン、アミホスチン、アラノース、ベバシズマブ、ブレオシン、ブレオマイシン、BMS−184476、ボルテゾミブ、カルシトリオール、カンプトテシン、カネルチニブ、カンフォスファミド、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、セフィキシム、セフトリアキソン、セレコキシブ、セルモロイキン、セツキシマブ、シクロスポリン、シスプラチン、クロドロン酸、シクロホスファミド、シタラビン、ダサチニブ、デオキソルビシン、デスオキシエポシロンB、ジエチルスチルベストロール、ジフロモテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エダトレキサート、エファプロキシラル、EKB−569、エピルビシン、エプラツズマブ、エルロチニブ、エトポシド、エキサテカン、フルダラビン、フルオロウラシル、フォリン酸、ガラルビシン、ゲフィニチブ、ゲムシタビン、ゲムツズマブ、ジマテカン、グルフォスファミド、グラニセトロン、ホモハリントニン、ヒアルロン酸、イバンドロン酸、イブリツモマブ、イホスファミド、イマチニブ、イホスファミドインターフェロンα、インターフェロンα−2a、インターフェロンα−2b、イリノテカン、イソフラボン、イソトレチノイン、イクサベピロン、ケトコナゾール、ラパチニブ、レフルノミド、レノグラスチム、ロイコボリン、レキシドロナム、リネゾリド、ロメトレキソール、ルートテカン、MEN10755、メルファラン、メトトレキサート、マイトマイシン、ネリドロネート、ノイラジアブ(Neuradiab)、ニメスリド、ニトログリセリン、06−ベンジルグアニン、オメプラゾール、オルタタキセル、オキサリプラチン、パクリタクセル、パツピロン(Patupilone)、ペグフィルグラスチム、PEG−フィルグラスチム、ペリチニブ、ペメトレキセド、ペンタスタチン、ペリホシン、プロビトレキセド、ポリプレイン酸、キヌプリスチン、ラロキシフェン、ラルチトレキセド、ラモセトロン、レチノイン酸、リセドロン酸、リツキシマブ、ロフェコキシブ、ルビテカン、S−9788、サバルビシン、サルグラモスチム、サトラプラチン、SN−38、ソラフェニブ、スベラニロヒドロキサミン酸、スーテント、タモキシフェン、タキソテール、タザロテン、テガフール、テモゾラミド、テスミリフェン、テトロドトキシン、サリドマイド、ティピファニブ、トポテカン、トラベクテジン、トラスツズマブ、トラスズツマブ、トレオスルファン、トレチノイン、バタラニブ、ビンクリスチン、ビノレルビン、ビンクリスチン、ZD−6474、ゾレドロン酸、またはゾスキダルから選択される請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記小分子はAP−121であり、前記追加化合物は1または複数の抗ウイルス薬から選択され、該抗ウイルス薬は、3TC、アバカビル、アデホフィルビボキシル、アシクロビル、アンプレナビル、アマンタジン、アモキソビル、AZT、クレビジン、デラビルジン、d4T、エムトリシタラビン、エンテカビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、インジナビル、ラミブジン、ネルフィナビル、ネビラピン、オセルタミビル、リマンタジン、リトナビル、サキナビル、セプトリン、テルビブジン、テノホビル、バラシクロビル、バルトルシタビン、バロピシタビン、またはザナミビルから選択される請求項11または12に記載の方法。
【請求項15】
AP−121を前記添加化合物の1つと組み合わせて測定し、前記細胞パネルに対して前記組み合わせにより相乗的生物学的効果に影響が及ぼされるか否かを決定する請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
癌およびウイルス疾患から選択された医学的状態の治療用の医薬の製造のための請求項15に記載の化合物の組み合わせの使用方法。
【請求項17】
前記化合物の組み合わせが、AP−121と、テモゾラミド、シスプラチン、カルボプラチン、サトラプラチン、ゲムシタビン、ドキソルビシン、またはカンプトテシンから選択された別の化合物とからなる請求項16に記載の使用方法。
【請求項18】
FAS受容体リガンドの治療上有用な機能的置換物としてのAP−121の有用性を確立するための治療上有用な診断生体マーカの識別方法であって、
ヒト患者から採取したヒト細胞でのFAS受容体の活性状態と、前記ヒト細胞でのFAS受容体を活性させるAP−121の能力とを測定することからなる方法。
【請求項19】
FAS受容体の機能的活性状態と、特定の疾患との該機能的活性状態の相関とに基づいて、AP−121の治療上の指標を選択することをさらに含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
内在性FASリガンドを通じた正常なFAS受容体によるシグナル伝達が損なわれているがFAS受容体は依然として発現されており特定の疾患を媒介する細胞中に存在する、多形性神経膠芽細胞腫
、非小細胞性肺癌、および食経路癌から選択された疾患の処理に治療上有用な薬剤として使用されるAP−121。
【請求項21】
内在性FASリガンドを通じた正常なFAS受容体によるシグナル伝達が損なわれているがFAS受容体は依然として発現されており特定の疾患を媒介する細胞中に存在する、多形性神経膠芽細胞腫、非小細胞性肺癌、および食経路癌から選択された疾患の処理に治療上有用な薬剤として使用されるAP−121。
【請求項22】
患者細胞でのFAS受容体の発現がRT−PCRにより決定される請求項18または19に記載の方法。
【請求項23】
ヒト細胞の膜中でのFAS受容体の存在が、結合抗体または他のFAS受容体結合タンパク質もしくはFAS受容体に結合する標識ペプチドにより決定される請求項18または19に記載の方法。
【請求項24】
AP−121と、FAS受容体の活性化の際にAP−121と相乗的に作用するFAS受容体作動薬の抗体とからなる化合物の組み合わせ。
【請求項25】
請求項1に記載の小分子を含む医薬製剤。
【請求項26】
経口適用の剤形である請求項25に記載の医薬製剤。
【請求項27】
固形の剤形である請求項25または26に記載の医薬製剤。
【請求項28】
AP−121またはその鏡像体、ジアステレオマー、もしくは医薬として許容される塩と、少なくとも1つの医薬として許容される賦形剤とを含む請求項25〜27のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項29】
AP−121が結晶の形で存在する請求項28に記載の固形の剤形である医薬製剤。
【請求項30】
AP−121の量が30〜250mgの範囲にある請求項28または29に記載の固形
の剤形である医薬製剤。
【請求項31】
AP−121の量が50〜150mgの範囲にある請求項30に記載の固形の剤形である医薬製剤。
【請求項32】
剤形が、錠剤、丸剤、カプセル剤、および顆粒剤から選択される請求項25〜31のいずれかに記載の固形の剤形である医薬製剤。
【請求項33】
剤形が、腸溶性の剤形である請求項25〜32のいずれかに記載の固形の剤形である医薬製剤。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公表番号】特表2010−508836(P2010−508836A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535749(P2009−535749)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062177
【国際公開番号】WO2008/055995
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(509124087)アルファプトーゼ ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】ALPHAPTOSE GMBH
【Fターム(参考)】