説明

口金洗浄装置および口金洗浄方法

【課題】超音波洗浄の特性上、電子部品等に付着した微細な汚れ、付着物に対しては有効な洗浄性能が得られる。しかしながら、ペースト塗布に使用されるような口金は洗浄前の汚染度が高く、ペーストが付着した状態で超音波洗浄行っても口金からペーストを溶解または剥離除去するために長時間を要し、その後、さらに微細な洗浄効果を得るには非効率的であった。
【解決手段】吐出口を有する口金を洗浄液に浸漬した状態で収納する洗浄槽と、該洗浄槽に洗浄液を循環させる循環手段と、該口金を洗浄液に浸漬した状態で超音波を放射する超音波放射手段とを有する口金洗浄装置において、該洗浄槽内に気泡発生手段を有することを特徴とする口金洗浄装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は吐出口を有する口金の洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペースト等を吐出して電子情報材料を塗布する工程、特に、プラズマディスプレイパネル(以下PDPとする)製造工程においては吐出口を有する口金からRGBの各色から選ばれた蛍光体ペーストを吐出して塗布する工程がある(特許文献1参照)。この口金等電子材料部品の洗浄に関する従来技術を以下に説明する。
部品を洗浄する際、例えば洗浄液を満たした槽の底部に超音波振動子を設置し、その上方の洗浄液中に被洗浄物を浸漬して洗浄を行う(特許文献2参照)。洗浄は超音波振動子から超音波を放射することで洗浄液を振動させ、その超音波振動により発生したキャビテーションの衝撃エネルギーにより汚れを除去する方式である。また、洗浄槽内の洗浄液を強制的に循環させながら洗浄を行う方式も知られている(特許文献3参照)。また、洗浄液中の気泡量を均一化させることにより槽内での洗浄ムラを低減し、均一な洗浄性能を得られる方法も知られている(特許文献4参照)。口金の洗浄に関しては超音波を放射する洗浄槽内に口金を非分解の状態で浸漬し、口金内部にも洗浄液を循環する方法が知られている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平11−111183号公報第3〜4頁
【特許文献2】特開平3−109982号公報
【特許文献3】特開平9−314076号公報第1〜4頁
【特許文献4】特開2004−216254号
【特許文献5】特開2004−314048号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
超音波洗浄の特性上、電子部品等に付着した微細な汚れ、付着物に対しては有効な洗浄性能が得られる。しかしながら、ペースト塗布に使用されるような口金は洗浄前の汚染度が高く、ペーストが付着した状態で超音波洗浄行っても口金からペーストを溶解または剥離除去するために長時間を要し、その後、さらに微細な洗浄効果を得るには非効率的である。
【0004】
そこで、本発明では超音波洗浄の有効性を利用しつつ汚染度の高い部品でも効率的な洗浄を実施できる洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では吐出口を有する口金を洗浄液に浸漬した状態で収納する洗浄槽と、該洗浄槽に洗浄液を循環させる循環手段と、該口金を洗浄液に浸漬した状態で超音波を放射する超音波放射手段とを有する口金洗浄装置において、該洗浄槽内に気泡発生手段を有することを特徴とする口金洗浄装置を提供する。また、吐出口を有する口金を洗浄液に浸漬し、該口金に超音波を放射して洗浄する口金洗浄方法において、該口金に気泡を放射して洗浄することを特徴とする口金洗浄方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
上記手段を用いることにより、ペースト等の付着した汚染度の高い口金について従来の超音波洗浄では長時間を要し、非効率的であった洗浄が洗浄液中で口金の被洗浄部に向けて気泡を放射してペーストの口金からの剥離または溶解を促進することで効率的に粗洗浄を実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は本発明の実施形態からなる口金洗浄装置の一例を示すものである。吐出口を有する口金としては、外部との連絡孔(そのうちの少なくとも1つが吐出口)を少なくとも2つ以上有する一本以上の管状中空を有する構造であるならば、特に限定されるものではない。好適には無機粉末含有ペースト用口金、特にPDPの製造工程において、蛍光体ペーストを吐出塗布する際に用いられる口金(以下、PDP用口金という)であるので、専ら、これを例に説明する。PDP用口金は複数個(好ましくは50〜2000個)の微細(好ましくは内径80〜150μm)な吐出口(吐出部分の形状は平板、ノズルまたはニードル等。口形状は円形、楕円形またはスリット等)を有しており、口金へ吐出物を供給する供給口(好ましくは内径8〜20mm)を1個もしくは複数個(好ましくは1〜4個)有している。前記吐出口と供給口の間には、内室(好ましくは100〜5000cm)が備えられてることが好ましい。又、供給口から前記内室に向かって、供給口から内室への連絡管は幾重にか枝分かれしていることも好ましい。なお、PDP用口金では通常、前記内室には圧空口が連絡され、そこからの圧空により口金内部に充填された蛍光体ペーストを吐出口から吐出させ基板上に塗布するような構造となっていることが多い。
【0008】
まず、本発明の態様について説明する。図1では洗浄液を満たした洗浄槽2に被洗浄物である口金1を塗布装置から取り外し、分解された状態で浸漬させている。洗浄槽2内部の洗浄液は洗浄液タンク9、ポンプ11、フィルター12を経由する循環系により循環させる。超音波振動子5(好ましくは振動数25〜40kHz、ワット密度0.5〜0.8W/cm)を外槽4に満たされた水などの媒体(以下の説明では水とする)を介してキャビテーションの衝撃エネルギーを与えることで洗浄する機構である。直接洗浄液に超音波を放射すると有機溶剤等からなる洗浄液が加熱乃至は気化されて防火や健康に好ましくないからである。なお、洗浄液としては有機溶剤(ケトン類、アルコール類等)が好ましく、洗浄対象がバインダーを有するペーストである場合はそのバインダーに対して溶解力を持つ有機溶剤であればより好ましい。しかしながら、特にそれらに限定されるものではない。
【0009】
洗浄槽2には気泡放射ノズル8が設置されており洗浄槽2内の口金1に対して超音波を照射すると同時に気泡を放射することで、超音波による洗浄効果に加えて気泡が口金1に衝突する際に生じる剥離力を利用して粗洗浄を行うことができる。この際に放射される気泡の直径は1〜10mm程度が好ましく、さらに好ましくは2〜10mm程度である。気泡径が小さすぎると良好な剥離力が得られないと同時に剥離力を与えるに十分な流量で気泡を放射することが困難となる。大きすぎる場合は剥離効果が低下することに加えて洗浄液表面で気泡がはじけた際に洗浄液を飛散させる恐れがある。気泡放射ノズル8の1本当たりから放射される気体の流量は1L/min以上とすることが好ましい。また気泡放射ノズル8の配列は口金1の形状に合わせて被洗浄面に対して均一に気泡を放射できる配列が好ましい。
【0010】
洗浄中に気泡が口金1内部に滞留し、洗浄性を低下させるのを防止するため搬送アーム17にて口金1付属の円盤治具3をつかんで連続的に回転または揺動させることができる(以下には回転のみの例を示す)。口金1凹部分が下向きの状態で放射された気泡が一時的に滞留するが回転が進むにつれて凹部分が上向きに近づき、滞留した気泡を除去できる。また、洗浄中に連続して口金1を回転させることで気泡放射ノズル8から放射される気泡が口金1の周囲に均一に当たり、洗浄効率をさらに高める効果がある。
【0011】
洗浄槽2での粗洗浄後、搬送アーム17にて口金1を洗浄槽19に移送させ、超音波による微細な汚れに対する洗浄を実施する。微細な洗浄は気泡を放射せず、超音波のみで実施することが好ましい。気泡は汚れの剥離を促進する効果があり、粗洗浄に適しているが、被洗浄物に付着するため、その部分に超音波が伝わりにくいからである。本態様では気泡放射機能を備えた洗浄槽2と超音波のみの洗浄槽19の2槽構成であるが、汚れの程度、洗浄性等を考慮して2槽以上での運用、異なる洗浄液を利用した方法も利用できる。
【0012】
上記洗浄装置の構成やこの装置を用いた作業の手順を洗浄の流れに沿ってさらに説明する。バルブa開の状態で管路Aを通じて超音波の媒体となる水を外槽4に満たす。その後、バルブbを開き、管路Aから流入する水と同量を管路Bから系外に排出し、外槽4に一定量の水量を保ったまま入れ替える方式をとる。こうすることで超音波により洗浄液が過度に加熱させることを防止する冷却水の機能も兼ねることができる。 洗浄液タンク9に入れられた洗浄液をヒーター10にて加熱、保温する。洗浄液温度は30〜40℃が好ましい。低温の場合、ペースト等の汚れに対する洗浄液の溶解力が低下し、非効率的である。また、高温になりすぎると溶解力は向上するが有機溶媒の場合、揮発量が多くなり安全性、作業環境的にも問題である。洗浄液タンク13内の洗浄液もヒーター14にて同様に加熱、保温する。洗浄槽2に洗浄液を充填する際は、バルブd、eを開、その他を閉の状態でポンプ11を起動し、洗浄液タンク9の洗浄液を管路E、ポンプ11、管路F、フィルター12、管路Hを通じて洗浄槽2内に送液する。洗浄槽19にも同様の経路で洗浄液タンク13から送液する。次に洗浄液の循環を開始する。バルブc、eを開、その他を閉の状態でポンプ11を起動することで洗浄槽2内の洗浄液は管路D、ポンプ11、管路F、フィルター12、管路Hを通じて液量を一定に保ったまま循環する。ポンプ11は耐溶剤性のダイヤフラムポンプが好ましく、循環流量は5〜15L/min程度が好ましい。フィルター12は汚れ成分の大きさ、例えばペースト中の無機粉末の粒径によって決定し、粒径に合わせた捕集効率のフィルターを用いる。洗浄槽19の洗浄液についても同様に循環させる。
【0013】
次に被洗浄物である口金1を図示しない系外から搬送アーム17にて搬送し、洗浄槽2内の洗浄液に浸漬する。浸漬後、搬送アーム17にて口金1に設置した回転治具3をつかんで口金1を回転させる。この回転は洗浄中も行う。回転させることにより気泡が口金1内部に溜まり、洗浄不良になるのを防ぐとともに口金1全体を均一に洗浄する効果も果たす。次に超音波発信器6を起動させ、超音波振動子5を振動させることでキャビテーションを発生させる。同時に気泡発生装置7を起動させ、気泡放射ノズル8から気泡を口金1に放射し洗浄を開始する。この粗洗浄をペースト等の付着が目視で確認できなくなる程度まで実施する。粗洗浄終了後、気泡放射を停止し、搬送アーム17にて口金1を搬送し、洗浄槽19の洗浄液に浸漬する。粗洗浄と同様口金1を回転させながら超音波にて洗浄する。ここでは超音波のみの洗浄により微細な汚れまで除去する。この例のように蛍光体ペーストを洗浄除去する場合の微細な汚れとは蛍光体粉末であることが多く、洗浄状態(除去状態)を確認するためには暗所でUV光を口金1に照射し、蛍光体残留による発光がないかどうかを確認すると良い。
【0014】
洗浄槽19での微細な汚れまでの洗浄を終了後、搬送アーム17にて口金1を系外にまで搬送し、洗浄を終了する。連続して次の口金を洗浄する場合は同様の手順を繰り返す。洗浄槽2の洗浄液を抜き出す場合にはバルブc、fを開、その他を閉の状態でポンプ11を起動し、管路D、ポンプ11、管路F、フィルター12、管路I、管路Gの順で洗浄液タンク9に送液する。洗浄槽19の場合も同様に洗浄液を洗浄液タンク13に送液できる。洗浄液タンク9の洗浄液を廃棄する場合にはバルブd、hを開、その他を閉でポンプ11を起動すると管路E、ポンプ11、フィルター12、管路Jを通じて系外の図示しない廃液タンクに送液できる。同様に洗浄液タンク13の洗浄液も廃液することもできるが、通常、微細洗浄に使用する洗浄液の汚染度は粗洗浄と比較して非常に低いため廃液とせず、粗洗浄に再利用することが好ましい。そのために管路Rの先を管路Kと接続し、バルブj、n、gを開、その他を閉の状態でポンプ15を起動させると管路M、ポンプ15、管路N、フィルター16、管路R、管路K、管路Gを通じて洗浄液を洗浄液タンク13から洗浄液タンク9へ送液することができる。また、洗浄液タンク13に新洗浄液を補充する場合はバルブmを開にし、図示しない送液系から管路S、管路Oを通じて送液できる。
【0015】
なお、吐出口を有する口金を洗浄液に浸漬した状態で超音波を放射する超音波放射手段を有する口金洗浄方法において、洗浄液中で口金の被洗浄部に対し、気泡を放射させて洗浄する方法については、前記洗浄装置を用いて前述の手順に従って、実現できるものであるが、何等、前記洗浄装置を用いることに限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
気泡放射による洗浄効果について検証した結果を以下に説明する。
蛍光体塗布口金に蛍光体ペーストを充填し、圧空によりペーストを吐出口から吐出させた。口金内部のペースト残量が少なくなり、吐出口からエアが吹き出した後、1分間その状態で放置して圧空を停止し、洗浄用の口金とした。口金を分解後、上記した方法により洗浄を行った。洗浄液にはアセトンを用い、超音波の媒体および洗浄液の冷却用に水を用いた。洗浄槽は2槽構成の洗浄装置を用いた。1槽目は気泡放射手段を備えた粗洗浄用、2槽目は超音波のみの微細洗浄用である。槽間には口金を槽から槽へ移動させるアームが備えられており、アームは口金を槽内で回転させる機構を有している。
【0017】
洗浄中の口金回転数は3rpmで実施した。また、超音波の振動数は27kW、ワット密度は0.75W/cmの超音波発信器および振動子を使用した。洗浄中、洗浄液であるアセトンをポンプで循環させ、系内に設けたフィルターにより汚れを濾過しながら洗浄した。フィルターは開口径2μmの10インチカートリッジフィルターを用いた。気泡放射の効果を確認するため気泡の径と流量を変更して実験した。気泡径は0.5〜20mmの間で変更した。気泡径の制御は気泡放射ノズル先端の開口径を放射される気泡の直径と近似し、条件ごとにそれぞれの開口径のノズルを用いて実施した。放射する気泡の流量は0.5〜10L/minの間で変更した。評価の方法として1槽目で気泡放射を行わずに超音波洗浄を実施し、ペースト状の付着が目視で確認できなくなる粗洗浄終了までの時間を測定した。
【0018】
その結果、気泡放射無しでは18〜20分で粗洗浄を実施できることが分かった。この時間をブランクとして気泡放射有りの洗浄試験を実施した。その際の洗浄時間がブランクと変化無し、18〜20分の場合を効果無しとして×、12〜18分の場合を効果小として△、12分以下の場合を効果有りとして○の評価とした。その結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1から洗浄効率を向上させるためには気泡の径は1〜20mmであることが分かった。気泡径を20mm、流量10L/minで効果は見られるが、洗浄液の表面ではじけた気泡の飛沫が周囲に飛散する傾向が見られたため安全、作業環境上適正でないことから好ましい気泡径の範囲は1〜10mm、さらに好ましくは2〜10mmであると考えられる。また、気泡の流量については1L/min以上で効果が得られることが分かった。なお、気泡径が0.5mm、1mmと小さい場合の流量については圧力損失が大きく設定流量を実現できない場合がありこれを−で表示した。引き続き、△、○の効果が見られた条件について気泡発生手段の無い2槽目に搬送アームで移送させ、超音波のみのさらに微細な洗浄まで実施した。これらの口金について洗浄終了後、洗浄性を確認するためUV光を口金に照射し、蛍光体粉末残留の有無を調査した。その結果、すべての条件において蛍光体粉末の残留無く良好な洗浄性が得られていることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態からなる口金洗浄装置の概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1:口金
2、19:洗浄槽
4:外槽
5:超音波放射手段(超音波振動子)
6:超音波発信器
8:気泡発生手段(気泡放射ノズル)
9、13:洗浄液タンク
11、15:ポンプ
12、16:フィルター
17:搬送アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口を有する口金を洗浄液に浸漬した状態で収納する洗浄槽と、該洗浄槽に洗浄液を循環させる循環手段と、該口金を洗浄液に浸漬した状態で超音波を放射する超音波放射手段とを有する口金洗浄装置において、該洗浄槽内に気泡発生手段を有することを特徴とする口金洗浄装置。
【請求項2】
前記口金を前記洗浄槽内で回転または揺動させる手段を有することを特徴とする請求項1に記載の口金洗浄装置。
【請求項3】
前記循環手段が濾過機能を有することを特徴とする請求項1または2に記載の口金洗浄装置。
【請求項4】
前記洗浄槽を複数個有し、かつ洗浄槽間に口金移送手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の口金洗浄装置。
【請求項5】
前記複数の洗浄槽の内、少なくとも1槽が気泡発生手段を有しないことを特徴とする請求項4に記載の口金洗浄装置。
【請求項6】
吐出口を有する口金を洗浄液に浸漬し、該口金に超音波を放射して洗浄する口金洗浄方法において、該口金に気泡を放射して洗浄することを特徴とする口金洗浄方法。
【請求項7】
前記気泡の直径が、1〜10mmであることを特徴とする請求項6に記載の口金洗浄方法。
【請求項8】
前記口金を洗浄する際に、口金を回転または揺動させながら洗浄することを特徴とする請求項6または7に記載の口金洗浄方法。
【請求項9】
前記口金が、無機粉末含有ペースト塗布用の口金であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の口金洗浄方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−90244(P2007−90244A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283735(P2005−283735)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】