説明

可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置

【課題】このスライド装置は,ベッドが立軸に設定された場合に,テーブルを上下方向に往復移動させるにあたって,ばねによって重量バランスがとられている。
【解決手段】このスライド装置は,ベッド1,ベッド1に往復移動自在なテーブル2,テーブル2にテーブル2の移動方向に極性を交互に異にして並設されたマグネット21から成る界磁マグネット20,界磁マグネット20に対向してベッド1に配設されたコアレスの偏平な電機子コイル16から成る電機子組立体15,及びベッド1とテーブル2との間に掛け渡されたコイル状のばね5から構成されている。ばね5は,ベッド1に対するテーブル2の有効ストロクS間にわたってテーブル2にばね力を常に付勢している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,半導体製造装置,組立装置,測定装置等の各種の装置に使用される可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,小型リニアモータを内蔵したスライド装置としては,多用途の各種装置に使用され,しかも,立てて使用される立軸仕様のものが求められており,高速性,高加減速性,高応答性,高精度等の性能に対応できるものが要求されるようになった。
【0003】
従来,スライド装置として,小形のリニアモータを内蔵したものが知られている。該可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,ベッド及びテーブルを磁性材料で構成し,三相通電方式の最小単位でなる3個の電機子コイルを配設し,それに対応して5個の界磁マグネットを配設し,最もコンパクトな構造に構成され,高推力,高速,高応答,及び高精度な性能を発揮できるものである。上記スライド装置は,電機子組立体への通電を3相通電方式とすることで,駆動回路を内部から外部のドライバ側に移設し,ベッドの構造を簡単化し,装置そのものの高さを低くできる。界磁マグネットとして希土類磁石(ネオジウム磁石)を用いており,磁束密度が高まり,テーブルに高推力が得られる。テーブルの位置を検出するエンコーダを光学式リニアスケールを有する光学式エンコーダで構成し,検出精度が向上される。上記スライド装置は,検出用ケーブルが固定側であるので,低発塵であり,クリーンな環境に適しており,スライダのベッドに対する高速作動性,応答性を更に向上し,テーブルのベッドに対する位置決めを一層高精度化することができるものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,工作機械において,リニアモータ駆動の主軸ヘッドの落下を防止するリニアモータ駆動式工作機械の主軸へッド落下防止装置が知られている。該主軸へッド落下防止装置は,図1に示すように,停電時等の非常時や,工作機械への通電を切って工作機械が非通電状態となると,昇降用リニアモータが制御できなくなり,主軸へッドが自重により落下しようとするために,主軸へッドの左右外側でコラムに取り付けたブレーキロッドを,その軸線両側から内蔵のブレーキばねのばね力で掴み,主軸ヘッドの落下を防止するものである(例えば,特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−352744号公報
【特許文献2】特開2004−122285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,上記可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置について,立てて用いる立軸仕様に使用できるものが求められている。また,上記の主軸へッド落下防止装置は,ブレーキロッド等の部品を配設しなければならないため,装置自体が大掛りなものになっており,好ましくなく,よりシンプルなスライド装置が要望されている。
【0006】
ところで,本出願人は,リニアモータを内蔵したスライド装置を開発し,それを先に特許出願した(例えば,特願2005−46537号)。該スライド装置は,一方向(X方向)に移動するXテーブルと該一方向に直交する垂直軸(Z方向)とに相対移動可能なZテーブルを備え,位置決めできるものであり,ZテーブルにはZテーブルの重量バランスをとるバランス用ばねが取り付けられている。しかしながら,上記スライド装置は,第1テーブル(Xテーブル)がL字状に形成されたものであり,特殊な装置に構成されており,そこで,汎用性の高い一軸仕様のスライド装置で立軸に使用可能になるものが求められている。上記スライド装置は,平板状でなるベッド,前記ベッドに対向して一方向に摺動自在に配設された第1テーブル,前記第1テーブルに対向して前記一方向に交差する他方向に摺動自在に配設された第2テーブル,前記ベッドと前記第1テーブルとを前記一方向に相対移動可能に位置決め駆動する第1リニアモータ,及び前記第1テーブルと前記第2テーブルとを前記他方向に相対移動可能に位置決め駆動する第2リニアモータを有し,前記第2テーブルは前記ベッドが配設された前記第1テーブルの面と同一の面側に,前記第1テーブルに対向して配設されているものであった。また,上記スライド装置は,第1テーブルでX方向に,第2テーブルでZ方向に移動自在に位置決め駆動することができ,第1テーブルの一方の面側にベッドと第2テーブルとが配設されているので,スライド装置自体の厚みを可及的に小さくコンパクトに構成でき,リニアモータを内蔵したXZスライド装置でありながら,従来に無いスライド装置の厚みを実現したものになっていた。
【0007】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,一軸仕様即ち一方向に移動自在に位置決め可能になり,テーブルとベッドとの間にバランス用ばねを装着したものであり,ワーク,機器等の載置物を搭載したテーブルの重量バランスを取り,常にバランス位置方向に作用力を働かせ,単純な往復運動ではばね力即ちばね張力がテーブルの加減速時の推力補助として働き,負荷即ち可動部の質量増加を低減し,高い加速性能を発揮させることができるスライド装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,長尺な板状でなるベッド,前記ベッドの長手方向に直動案内ユニットを介して往復移動自在な板状でなるテーブル,前記ベッドに対する前記テーブルの第1対向面に前記テーブルの移動方向に極性を交互に異にして並設された多数のマグネットから成る界磁マグネット,及び前記テーブルに配設された前記界磁マグネットに対向し且つ前記ベッドの第2対向面に前記長手方向に沿って多数配設されたコアレスの偏平な電機子コイルから成る電機子組立体,を有する可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置において,前記ベッドと前記テーブルとの間に掛け渡されたコイル状のばねが設けられていることを特徴とするスライド装置に関する。
【0009】
また,前記ばねは,前記ベッドに対する前記テーブルの往復移動範囲である有効ストローク間にわたってばね力を常に付勢している。
【0010】
また,前記ばねは,前記ベッドと前記テーブルとの一方の側面に,前記直動案内ユニットの軌道レールに設けた軌道溝に平行に延びるように取り付けられている。
【0011】
更に,前記ばねは,一端部が前記ベッドの端部に固設されたエンドブロックの側面に固着された支持具に係止され,他端部が前記テーブルの一側面に固着された支持板に係止され,前記ばねの長手方向中心が前記ベッドの前記第2対向面に沿って位置している。
【0012】
また,前記テーブルの前記支持板は,前記テーブルの側面に固着する固定板部と,前記固定板部の端部からL字状に突出し且つ前記ばねを係止する突出部とから形成されている。
【0013】
また,前記ベッドは,コイルヨークとしての磁気回路を構成する部分が磁性材料から形成され,前記テーブルは,マグネットヨークとしての磁気回路を構成する部分が磁性材料から形成されている。
【0014】
また,このスライド装置は,前記テーブルの前記支持板が固着された側面とは反対側の側面側における前記テーブルの前記第1対向面の長手方向側部には,前記テーブルの長手方向に沿って延びるリニアエンコーダのリニアスケールが固着され,前記ベッドの前記第2対向面の長手方向側部には,前記リニアスケールに対向して前記リニアエンコーダのセンサが装着されている。
【0015】
また,前記電機子組立体は,三相交流電流が供給される3個の前記電機子コイルから構成され,前記界磁マグネットは,前記磁極が交互に異なって配設された希土類永久磁石でなる5個の前記マグネットから構成されている。
【0016】
また,このスライド装置において,前記ばねのばね力は,前記テーブルに荷重を搭載して前記ばねの一端を係止した前記エンドブロックの前記支持具を上にして前記ベッドを鉛直方向に配設した状態で,前記テーブルの自重と前記荷重との合計重量に釣り合って前記テーブルが全ストロークの中央位置で静止するように設定される。
【発明の効果】
【0017】
このスライド装置は,上記のように,装置そのものにコイル状のばねがテーブルとベッドとの間に掛け渡されているので,立軸仕様の半導体製造装置,各種組立装置,測定・検査装置,試験装置,工作機械等の各種の装置に適用されて,ばね力とテーブル及び搭載物との質量バランスが取れ,テーブルが釣り合った状態で安定し,テーブルの高速,高加速度に迅速に追従でき,テーブルの位置決め等に高精度に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下,図面を参照して,この発明による可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置の実施例を説明する。この可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,クリーンルーム,試験実験室等のエリアで稼働される半導体製造装置,各種組立装置,測定・検査装置,試験装置,工作機械等の各種装置に使用され,特に,立軸仕様に使用可能になっている。
【0019】
このスライド装置は,長尺な板状でなる磁性材料である鋼製のベッド1,ベッド1の長手方向に直動案内ユニット22を介してスライド自在に設けられた板状でなる磁性材料である鋼製のテーブル2,テーブル2のベッド1に対する対向面36(第1対向面)にテーブル2のスライド方向に極性が交互に異なる磁極即ちマグネット21が多数(ここでは5個)並設されてなる界磁マグネット20,界磁マグネット20に対向してベッド1のテーブル2に対する対向面37(第2対向面)に長手方向に沿って多数配置された偏平なコアレスの電機子コイル16を有し且つ界磁マグネット20が生じさせる磁束と電機子コイル16に流れる電流との電磁相互作用によりテーブル2をスライド自在に位置決め駆動する電機子組立体15,及びベッド1に対するテーブル2のスライド方向の位置を検出するリニアエンコーダ26を具備している。ベッド1は,各種装置にねじ等で固定するため,取付け用孔18が設けられている。電機子組立体15は,三相通電方式で各相の電流が供給される3つの電機子コイル16,及び電機子コイル16を覆っている基板17から構成されている。また,界磁マグネット20は,5つの磁極が交互に並べて配置された希士類磁石のマグネット21から構成されている。更に,リニアエンコーダ26は,テーブル2に配設された光学式リニアスケール24と光学式リニアスケール24に対向してベッド1に配設されて光学式リニアスケール24を検出するセンサ19とから構成された光学式エンコーダで構成されている。
【0020】
また,ベッド1の両端部には,上方のエンドブロック4と下方のエンドブロック6が配設されている。一方のエンドブロック4には,電機子組立体15に接続される電源線13とエンコーダ26のセンサ19に接続される信号線14との結線部分をカバーするコネクタブロックに形成されている。図示では,電源線13と信号線14とは,ベッド1の上面から延びるように構成されているが,コネクタブロックとしてのエンドブロック4と単なるエンドブロック6とを上下を逆に配置して,ベッド1の下面から延びるように構成することもできることは勿論である。また,エンドブロック4,6には,テーブル2との衝突を緩和するため,それぞれ,弾性体からなるストッパ10がそれぞれ固着されている。直動案内ユニット22は,ベッド1に固定ねじで固定され且つテーブル2の摺動方向即ち長手方向に延びる1対の軌道レール3,及び軌道レール3上を転動体(図示せず)を介して摺動し且つテーブル2に固定された4個のスライダ23から構成されている。テーブル2には,スライダ23を固定用ねじ31で固定するため,取付け用孔27が形成されている。転動体は,スライダ23が軌道レール3上を往復移動する際に,スライダ23に形成された軌道溝と軌道レール3の長手方向に形成された軌道溝との間の負荷軌道路を転走するように組み込まれている。
【0021】
この可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,特に,ベッド1とテーブル2との間に掛け渡されたコイル状のばね5が設けられていることを特徴とし,立軸使用に使用して好ましく,利用範囲を拡大可能にしたものであり,従って,このスライド装置を立軸で使用しても,カウンターバランスなどの機構を用いることなく,ばね5で質量バランスをとるだけのシンプルな構造になっており,また,設置面積もとらず,狭いスペースでも使用できるものになっている。また,このスライド装置において,ばね5は,ベッド1に対するテーブル2の往復移動範囲である有効ストロークS間にわたってばね力を常に付勢しているものである。また,ばね5は,ベッド1とテーブル2との一方の側面38に,直動案内ユニット22の軌道レール3に設けた軌道溝に平行に延びるように取り付けられている。また,ばね5は,一端部39がベッド1の端部に固設されたエンドブロック4の側面38に固着された支持具7に係止され,他端部40がテーブル2の一側面38に固定ねじ35で固着された支持板8に設けた突出部9に係止され,ばね5の長手方向中心がベッド1の対向面37に沿って位置している。ばね5は,その一端部39が支持具7に形成された支持孔32に係止され,他端部40が支持板8の突出部9に形成された支持孔30に係止されている。
【0022】
このスライド装置では,テーブル2の支持板8は,テーブル2の側面38に固着する固定板部28と,固定板部28の端部からL字状に突出し且つばね5を係止する突出部9とから形成されている。また,ベッド1は,コイルヨーク33としての磁気回路を構成する部分が磁性材料から形成され,また,テーブル2は,マグネットヨーク34としての磁気回路を構成する部分が磁性材料から形成されている。また,このスライド装置は,テーブル2の支持板8が固着された側面38とは反対側の側面側におけるテーブル2の対向面36の長手方向側部には,テーブル2の長手方向に沿って延びるリニアエンコーダ26のリニアスケール24が固着されている。ベッド1の対向面37の長手方向側部には,リニアスケール24に対向してリニアエンコーダ26のセンサ19が装着されている。また,テーブル2には,対向面36に摺動方向である長手方向に延びてリニアスケール24が固定され,原点マーク25が設けられている。
【0023】
また,このスライド装置では,具体的には,電機子組立体15は,三相交流電流が供給される最小単位でなる3個の電機子コイル16から構成され,また,界磁マグネット20は,磁極が交互に異なって配設された希土類永久磁石でなる5個のマグネット21から構成され,最もコンパクトな構造に構成されており,高推力,高速・高応答,及び高精度を実現し,さらに,立軸仕様を可能にしたので,応用範囲が広いものになっている。テーブル2には,ワーク等の搭載物11をテーブル2にねじで固定するため,取付け用ねじ穴12が形成されている。また,ばね5のばね力は,テーブル1に荷重である搭載物11を搭載してばね5の一端部39を係止したエンドブロック4の支持具7を上にして,ベッド1を鉛直方向に配設した状態で,テーブル2の自重Woと荷重Wtとの合計重量Wgに釣り合ってテーブル2が全ストロークSの中央位置で静止するように設定される。
【0024】
また,このスライド装置では,ばね5は,テーブル2の往復移動範囲である有効ストロークS間にわたり, 常にばね力(ばねの張力)が作用するように設定されている。図1では,テーブル2が有効ストロークS間の中央に停止した状態(位置Pm)を示し,その時に,ばね5は自由長さLよりばね長さL2に伸びた状態になっており,エンドブロック4に固着された支持具7側の方向にばね力F2が作用している。ばね5のばね力F2は,スライド装置を立軸で使用した場合(エンドブロック4の支持具7を上部にした状態で)に,テーブル2に搭載する搭載物11の搭載荷重Wtとテーブル2の自重Woとを合計した重量Wg(=Wt+Wo)に釣り合う状態に設定され,即ち,バランス位置Pmに静止した状態になっている。また,テーブル2が有効ストロークS間の一方の端(始点側)Psに位置している場合は,ばね5は自由長さLよりばね長さL1に伸びた状態になっており,エンドブロック4に固着された支持具7側の方向にばね力F1が作用している。更に,テーブル2が有効ストロークS間の他方の端(終点側)Peに位置している場合は,ばね5は自由長さLよりばね長さL3に伸びた状態になっており,エンドブロック4に固着された支持具7側の方向にばね力F3が作用している。
【0025】
従って,このスライド装置を立軸で使用した場合(エンドブロック4の支持具7を上部にした状態で)に,テーブル2には搭載物11の搭載荷重Wtとテーブル2の自重Woとの合計重量Wg(=Wt+Wo)が常に鉛直方向に作用しているので,ばね5のばね力をそれぞれに合算すると,一方の端(始点側)Psの位置では,Wg−F1=Fsの作用力が中央方向に,即ち,バランス位置Pm方向に作用している。また,他方の端(終点側)Peの位置では,F3−Wg=Feの作用力が中央方向,即ちバランス位置Pm方向に作用している。
【0026】
このスライド装置は,上記のことより,立軸で使用される場合に,可動体であるテーブル2には, ばね5により, 重量バランスがとれ, 常にバランス位置方向に作用力が働くことになるので, 他のバランス機構に比べて可動部の質量増加が少なく, スライド装置本来の高い加速性能を発揮することが可能になっている。また, このスライド装置は,単純な往復運動では, ばね力(ばねの張力)が加減速時の推力補助として働くため,リニアータの負荷を低減する効果があるものになっている。また,このスライド装置を立軸で使用した場合に, ばね5により, テーブル2は, 初期状態において, 少なくとも有効ストロークS範囲内に位置しているので, 内蔵されているリニアモータは, 初期動作として, 界磁マグネット20(磁石)の磁性を検出し, その検出位置に応じたタイミングで三相電流を流すよう力率検知動作が可能になっている。力率検知は,例えば,電源投入時にコイルに一定の電流を流した時の挙動により,磁石とコイルの位相を判別するものであり,磁石の幅寸法が既知であることから,一度位相を判別すれば,後はエンコーダ信号のカウント値により極性が計算できる操作です。
【0027】
図1〜図3に示すように,ばね5は,ベッド1とテーブル2との一方の側面38側に配設されている。このスライド装置は,最も小形に形成されているので,ばね5は,一方の側面38側に配設され,他方の側面側にはリニアエンコーダ26が配設されたものになっている。勿論,ばね5は,ベッド1とテーブル2との両側に配設することがベストであるが,他方の側面側にはリニアエンコーダ26が配設されており,スペース上,確保できないものになっている。そのため,このスライド装置には,ばね5によるモーメント力がテーブル2に作用することになり,位置決め精度に影響を与えることになるが,図8に示すように,ばね5を設けた場合とばね無しの場合とでは,1μm以下の誤差であり,モーメント力による精度に大きな影響がなく,実施可能なものになっている。即ち,図8には,このスライド装置を用いたばね5を設けた場合(実線で示す)と,このスライド装置からばね5を除去したばね無しの場合(点線で示す)との位置決め精度を示しているが,テーブル2のストロークS(mm)の0〜25mmの範囲に対する誤差(μm)がほとんど変わらないようになっていることから確認される。
【0028】
図1〜図3,図6,及び図7に示すように,ばね5は,ベッド1の端部に固設されたエンドブロック4の側面38に固着された支持具7に一方の端部39が係止され,他方の端部40がテーブル2の側面38に固着された支持板8に係止され,ばね5の中心がベッド1の対向面37と略一致する位置に配設されている。支持板8は,テーブル2の側面38に固着する長孔29が形成された固定板部28と,固定板部28の端部からL字状に突出した突出部9とからなり,突出部9は,ベッド1の支持具7から遠い側に配設されている。また,このスライド装置に設けられた直動案内ユニット22は,ベッド1の長手方向に沿って固設された一対の軌道レール3,及び各軌道レール3に転動体(ボール)を介して跨架して摺動自在な一対のスライダ23で構成されており,ばね5の長手方向中心は, 正確には, 直動案内ユニット22の軌道レール3の軌道溝と一致する位置に配設されることにより,ばね5による好ましくないこねる力がテーブル2に対して作用せず,直動案内ユニット22はテーブル2を滑らかに移動自在に案内できるものになる。また,図6及び図7に示すように,支持板8を構成することによって,搭載質量,使用条件等により,ばね仕様を変更・交換する場合にも位置設定を容易に実施できるものになっている。
【0029】
このスライド装置は,上記のように,可動子であるテーブル2に界磁マグネット20及び光学式リニアエンコーダ用リニアスケール24を配置し,また,固定子であるベッド1に電機子コイル16と基板17からなる電機子組立体15及びリニアエンコーダ用ヘッドを配置しており,マグネット21とコイルヨーク33によって常に垂直方向に働く磁束と,コイル電流によって電機子コイル16まわりに発生する回転磁束とにより,電機子コイル16は水平方向に力を受ける(フレミングの左手の法則)。このスライド装置は,磁束の向きに応じた方向にコイルの電流を切り換えることによって,一方向の連続した推力が得られ,可動子であるテーブル2が直線運動を持続できるものであり,電流量による加速度制御と光学式リニアエンコーダ26によるフィードバックによって,テーブル2の移動と正確な位置決めを行うことができる。
【0030】
このスライド装置は,具体例として,次のものに形成することができる。
(1)このスライド装置を立軸に使用する使用条件としては,例えば,搭載質量;200g,ストローク;25mm,最高速度;600mm/sec,加減速時間;0.02sec,停止時間;0,05sec,実効推力;6.2Nにあるとする。また,テーブル質量;170gである。
(2)ばねは,ばね線径;0.6mm,ばね外径:6mm,自由長さL=60 mm,ばね定数;0,1N/mm,初張力;1. 23Nのものが取り付けられている。
(3)計算結果としては,次のとおりである。
1)L1=71.5mmであると,F1=2.38Nになる。
71.5−60=11.5
11.5×0.1+1.23=2.38
2)L2=84mmであると,F2=3.63Nになる。
84−60=24
24×0.1+1.23=3.63
3)L3=96.5mmであると,F3=4.88Nになる。
96.5−60=36.5
36.5×0.1+1.23=4.88
また,搭載質量:200g,テーブル質量:170g
合計重量Wg=370gf=0.37kgf
=0.370×9.8=3.63N
従って,F2と同じ値であり,ばねの有効ストロークSの中央でバランスが取れることになっている。
また,F2(=Wg)−F1=Fs
3.63N−2.38N=1.25N
F3−F2(=Wg)=Fe 4.88N−3.63N=1.25N
立軸仕様において,Fs=1. 25N,Fe=1.25Nになる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置は,半導体製造装置,各種組立装置などの各種装置に組み込んで使用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明による可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置の一実施例を示す平面図である。
【図2】図1のスライド装置を示す側面図である。
【図3】図1のスライド装置の長手方向に直交する断面状にして示す断面図である。
【図4】図1のスライド装置からテーブル及びばねを取り外した状態のベッドを示す平面図である。
【図5】図1のスライド装置から外したテーブルを裏返した状態のテーブルを示す下面図である。
【図6】図1のスライド装置における支持板を示す平面図である。
【図7】図6の支持板を示す側面図である。
【図8】図1のスライド装置において,ばねを取り付け状態とばねを設けていない状態との位置決め精度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 ベッド
2 テーブル
3 軌道レール
4 エンドブロック
5 ばね
7 支持具
8 支持板
9 突出部
11 搭載物
12 取付け用ねじ穴
15 電機子組立体
16 電機子コイル
19 センサ
20 界磁マグネット
21 マグネット
22 直動案内ユニット
24 リニアスケール
26 リニアエンコーダ
33 コイルヨーク
34 マグネットヨーク
36 対向面(第1対向面)
37 対向面(第2対向面)
38 側面
39 ばねの一端部
40 ばねの他端部
F2 釣り合いのばね力
L2 釣り合い時のばね長さ
S テーブルのストローク
Wg 合計荷重
Wo テーブルの自重
Wt 搭載荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な板状でなるベッド,前記ベッドの長手方向に直動案内ユニットを介して往復移動自在な板状でなるテーブル,前記ベッドに対する前記テーブルの第1対向面に前記テーブルの移動方向に極性を交互に異にして並設された多数のマグネットから成る界磁マグネット,及び前記テーブルに配設された前記界磁マグネットに対向し且つ前記ベッドの第2対向面に前記長手方向に沿って多数配設されたコアレスの偏平な電機子コイルから成る電機子組立体,を有する可動マグネット型リニアモータを内蔵したスライド装置において,
前記ベッドと前記テーブルとの間に掛け渡されたコイル状のばねが設けられていることを特徴とするスライド装置。
【請求項2】
前記ばねは,前記ベッドに対する前記テーブルの往復移動範囲である有効ストローク間にわたってばね力を常に付勢していることを特徴とする請求項1に記載のスライド装置。
【請求項3】
前記ばねは,前記ベッドと前記テーブルとの一方の側面に,前記直動案内ユニットの軌道レールに設けた軌道溝に平行に延びるように取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスライド装置。
【請求項4】
前記ばねは,一端部が前記ベッドの端部に固設されたエンドブロックの側面に固着された支持具に係止され,他端部が前記テーブルの一側面に固着された支持板に係止され,前記ばねの長手方向中心が前記ベッドの前記第2対向面に沿って位置していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項5】
前記テーブルの前記支持板は,前記テーブルの側面に固着する固定板部と,前記固定板部の端部からL字状に突出し且つ前記ばねを係止する突出部とから形成されていることを特徴とする請求項4に記載のスライド装置。
【請求項6】
前記ベッドは,コイルヨークとしての磁気回路を構成する部分が磁性材料から形成され,前記テーブルは,マグネットヨークとしての磁気回路を構成する部分が磁性材料から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項7】
前記テーブルの前記支持板が固着された側面とは反対側の側面側における前記テーブルの前記第1対向面の長手方向側部には,前記テーブルの長手方向に沿って延びるリニアエンコーダのリニアスケールが固着され,前記ベッドの前記第2対向面の長手方向側部には,前記リニアスケールに対向して前記リニアエンコーダのセンサが装着されていることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項8】
前記電機子組立体は,三相交流電流が供給される3個の前記電機子コイルから構成され,前記界磁マグネットは,前記磁極が交互に異なって配設された希土類永久磁石でなる5個の前記マグネットから構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項9】
前記ばねのばね力は,前記テーブルに荷重を搭載して前記ばねの一端を係止した前記エンドブロックの前記支持具を上にして前記ベッドを鉛直方向に配設した状態で,前記テーブルの自重と前記荷重との合計重量に釣り合って前記テーブルが全ストロークの中央位置で静止するように設定されることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載のスライド装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−325389(P2007−325389A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151586(P2006−151586)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】