説明

可変容量型ポンプモータ式変速装置およびその制御装置

【課題】機械的直結段の変速比の自由度を高くし、また高速走行時の車両の燃費を向上させる。
【解決手段】動力源1がトルクが入力される差動機構3,4における入力要素との間でトルクが伝達される回転部材5が前記出力軸18と同一軸線上に配置され、その回転部材5と前記出力軸18との間に一方向クラッチ29と、正逆両方向にトルク伝達可能なクラッチ機構28とが直列に連結して配置され、かつ複数の変速段用伝動機構19,20,21,22によって設定される変速比のうち最も小さい変速比よりも前記回転部材5および前記一方向クラッチ29ならびに前記クラッチ機構28を介して前記出力軸18にトルクを伝達する場合の変速比が予め定めた所定値大きくなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関などの動力源を差動機構および変速段用伝動機構を介して出力部材に伝達し、かつその差動機構に対して可変容量型ポンプモータで反力トルクを与えることにより出力部材のトルクを制御できる変速装置およびその制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の変速機の一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された変速機は、二組の差動機構における入力要素のそれぞれにエンジンを連結する一方、各差動機構における反力要素に可変容量型のポンプモータを連結するとともに、いずれかのポンプモータは押出容積を正負の両方向に変化させることのできるいわゆる両振り型とし、さらに各差動機構における出力要素と出力部材との間に、同期連結機構(シンクロナイザー)を介して選択的にトルク伝達可能とされる複数の変速段用ギヤ対を設けて構成されている。さらに、それらのポンプモータは、いわゆる正回転状態で圧油を吐出する吐出口同士、および圧油を吸入する吸入口同士を連通させる閉油圧回路によって接続されている。
【0003】
したがって、特許文献1に記載されている変速機では、それぞれのポンプモータの押出容積を所定の容積に設定するとともに、隣接する変速段を設定するための変速段用ギヤ対を、出力部材に対してトルクを伝達可能な状態とすることにより、一方のポンプモータがポンプとして機能して油圧を発生し、それに伴う反力が一方の差動機構における反力要素に作用する。その差動機構では、入力要素に動力源からのトルクが作用し、反力要素にはポンプモータによる反力トルクが作用しているので、これらのトルクを合成したトルクが出力要素から所定の変速段用ギヤ対に出力され、そのギヤ比に応じて増幅もしくは低下させられたトルクが出力部材に伝達される。
【0004】
これに対して、他方のポンプモータは前記閉油圧回路を介して圧油が供給されることによりモータとして機能し、そのトルクが他方の差動機構における反力要素に伝達される。当該他方の差動機構では、入力要素に動力源からのトルクが入力されているので、そのトルクと反力要素に伝達されたトルクとが合成されて出力要素から所定の変速段用ギヤ対に出力され、そのギヤ比に応じて増幅もしくは低下させられたトルクが出力部材に伝達される。すなわち、出力部材には二組の変速用ギヤ対を介して伝達されたトルクを合成したトルクが現れる。そして、そのトルクは、油圧を介して伝達されるトルクの割合すなわちポンプモータの押出容積に応じて変化し、したがって変速比を連続的に変化させることができる。
【0005】
さらに、特許文献1に記載された変速機で、いずれか一方のポンプモータの押出容積をゼロにすれば、閉油圧回路での圧油の流動が阻止されるので、他方のポンプモータがロックされる。その結果、そのポンプモータが連結されている差動機構の反力要素が固定されるので、動力源が出力した動力は、その差動機構および所定の変速段用ギヤ対を介して出力部材に伝達され、その変速用ギヤ対のギヤ比に応じた変速比(変速段)が設定される。したがってこの場合、油圧を介した動力の伝達が生じないので、動力伝達効率が相対的に良好になる。
【0006】
また従来、車両用の変速機において、一方向クラッチによって所定の回転部材を選択的に連結することが行われており、例えば特許文献2には、油圧ポンプと油圧モータとを閉油圧回路で連結した油圧機械式無段変速機において、エンジンブレーキ時の出力軸回転数が入力軸回転数を上回る時に入力軸と出力軸とを直結する一方向クラッチを備えた構成が記載されている。
【0007】
入力軸と出力軸とを必要に応じて直結するように構成された変速装置が特許文献3に記載されている。これは、2段タービン流体変速機と、該2段タービン流体変速機に接続された2組の遊星歯車機構で構成された減速比制御装置と、その減速比制御装置に連結された少なくとも1組の減速遊星歯車列からなる減速装置と有し、入力回転速度が出力回転速度より大きい場合には減速装置が減速動作を行い、入力回転速度と出力回転速度とが等しい時には入力軸と出力軸とを直結させるように構成されている。
【0008】
さらにまた、特許文献4には、ローモードからハイモードになるときに、無段変速機の変速比を制御してエンジン入力軸と無段変速機の入力軸との回転数を同期させ、その後に直結クラッチを係合させてそれらの軸を連結するように構成された変速装置が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2007−64269号公報
【特許文献2】特開平11−287323号公報
【特許文献3】特許第3935118号公報
【特許文献4】特許第3495790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した特許文献1に記載されているように、一方のポンプモータの押出容積をゼロにして他方のポンプモータをロックすれば、他方の差動機構における反力要素が固定されるので、動力源が出力した動力は、その差動機構および所定の変速段用ギヤ対を介して出力部材に伝達される。これは、動力を油圧の流動に変換することのないいわゆる機械的な動力伝達になるので、動力の伝達効率が相対的に良好になる。しかしながら、実際には、ポンプモータでの油圧の漏洩が不可避的に生じ、これが動力の損失の原因になるとともに、変速比が低速側に僅かに増大して動力源の回転数が高回転数になる。また、たとえ変速比が“1”の最高速段であっても、そのための変速段用ギヤ対を介して動力を伝達するから、ギヤを介したトルク伝達で不可避的に生じる摩擦が動力損失の要因となる。
【0011】
そこで、差動機構の反力要素をポンプモータで固定する替わりに、新たに設けたブレーキ機構によってその反力要素を固定することが考えられる。しかしながら、その場合であっても変速段用ギヤ対での動力損失を回避することはできない。また、そのブレーキ機構で反力要素を固定できるとしても、駆動トルクの急変などによるショックを生じることなくブレーキ機構を係合させる技術は知られていない。このように、上記のポンプモータを備えた変速装置を車両に搭載して使用するためには、未だ改善もしくは開発する余地が多分にあった。
【0012】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、FF車(フロントエンジン・フロントドライブ車)などの車両に搭載した場合にはいわゆる直結段での燃費を改善でき、またショックを生じることなくその直結段を設定することのできる可変容量型ポンプモータ式変速装置およびその制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力源からトルクが入力される入力要素を有する差動機構と、その差動機構の出力要素に連結された押出容積が可変な可変容量型ポンプモータと、前記差動機構の出力要素から出力軸にトルクを伝達する変速段用伝動機構とをそれぞれ含む少なくとも二系統の動力伝達系統を備えた可変容量型ポンプモータ式変速装置において、前記各差動機構における入力要素との間でトルクが伝達される回転部材が前記出力軸と同一軸線上に配置され、その回転部材と前記出力軸との間にこれら回転部材と出力軸とを選択的に連結する一方向クラッチと、正逆両方向にトルク伝達可能なクラッチ機構とが直列に連結して配置され、かつ前記複数の変速段用伝動機構によって設定される前記出力部材の回転数に対する前記動力源の回転数の比である変速比のうち最も小さい変速比よりも前記回転部材および前記一方向クラッチならびに前記クラッチ機構を介して前記出力軸にトルクを伝達する場合の変速比が予め定めた所定値大きくなるように構成されていることを特徴とする可変容量型ポンプモータ式変速装置である。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記動力源は、いずれか一方の差動機構における前記入力要素に連結され、該一方の差動機構における前記入力要素と前記回転部材とは、前記入力要素に対して前記回転部材を増速するオーバードライブ機構を介して連結されていることを特徴とする可変容量型ポンプモータ式変速装置である。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または2の可変容量型ポンプモータ式変速装置を対象とする制御装置であって、前記回転部材の回転数が前記出力軸の回転数以下であることを判断する回転数判断手段と、この回転数判断手段により前記回転部材の回転数が前記出力軸の回転数以下であることが判断された場合に前記クラッチ機構を係合状態に切り替えるクラッチ制御手段と、前記クラッチ機構が係合状態に切り替えられた際もしくはその後に前記可変容量型ポンプモータから出力される油圧を低下させる反力制御手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0016】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記反力制御手段で低下させた前記可変容量型ポンプモータが出力する流体圧を昇圧する場合に予め定めた所定の勾配で徐々に昇圧する昇圧手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0017】
請求項5の発明は、請求項3の発明において、前記反力制御手段は、前記可変容量型ポンプモータの吐出口に連通されている排圧弁を開く手段と、前記可変容量型ポンプモータの押出容積を低下させる手段とのいずれか一方を含むことを特徴とする制御装置である。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1または2の可変容量型ポンプモータ式変速装置もしくは請求項3ないし5のいずれかの制御装置において、前記クラッチ機構は、噛み合い式のクラッチ機構を含むことを特徴とするものである。
【0019】
請求項7の発明は、請求項6に記載の可変容量型ポンプモータ式変速装置もしくは制御装置において、前記噛み合い式のクラッチ機構は、互いに連結される部材の回転数を同期させる同期機構を備えていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項8の発明は、請求項1または2の可変容量型ポンプモータ式変速装置もしくは請求項3ないし7のいずれかの制御装置において、前記所定値は、前記可変容量型ポンプモータにおける圧油の漏れに起因する変速比の増大に基づいて定められた値であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、クラッチ機構を解放した状態では、動力源が出力したトルクが差動機構を介して出力軸に伝達され、その場合、可変容量型ポンプモータで油圧を発生させることによりその差動機構に対して反力トルクが与えられ、その結果、動力源が出力したトルクと反力トルクとが差動機構で合成され、そのトルクが所定の変速段用伝動機構を介して出力軸に伝達される。他方、前記クラッチ機構を係合させるとともに、これと直列の関係にある一方向クラッチが係合すると、動力源の出力トルクがそのまま出力軸に伝達されて、いわゆる機械的直結段となる。その場合、可変容量型ポンプモータが反力を出力する必要がなく、またいずれの変速段用伝動機構を介することなく出力軸に動力を伝達できるので、油圧の漏れやギヤでの摩擦などによる動力損失を解消し、動力伝達効率を向上させることができる。
【0022】
また、変速段用伝動機構を介して出力軸に動力を伝達している状態で設定される最小の変速比(いわゆる最高速段)が、前記クラッチ機構および一方向クラッチを介して出力軸に動力を伝達している状態での変速比より小さいので、前記最高速段が設定されている状態でクラッチ機構を係合させても一方向クラッチは解放状態に維持され、したがってクラッチ機構での過剰な滑りもしくは摩擦を生じさせることなく、クラッチ機構を容易に係合させることができる。そして、動力源から出力軸に対してトルクを伝達するべく入力軸の回転数が出力部材の回転数以上になる作用が生じると、一方向クラッチが自動的に係合するので、いわゆる機械的直結段をショックを生じることなく、もしくはショックを低減した状態で設定することができる。そして、この機械的直結段は、動力源から前記入力要素ならびに前記回転部材を介して出力軸にトルクを伝達することにより設定される変速比(変速段)であるから、その変速比を例えば前記入力要素と回転部材との間の変速比に応じた値とすることができる。したがって、機械的直結段の変速比を、前記変速段用伝動機構を介して出力軸にトルクを伝達する場合の最小変速段の変速比(特に最大負荷の状態での最小変速比)以上の範囲で適宜に設定することが可能になる。
【0023】
請求項2の発明によれば、前記入力要素と回転部材との間に変速比が“1”より小さいオーバードライブ機構が介在されているので、前述した機械的直結段の変速比を“1”より小さくすることができ、そのため、高速走行時の動力源の回転数を相対的に低くし、動力源に内燃機関を使用している場合の燃費を向上させることができる。
【0024】
請求項3の制御装置によれば、出力軸の回転数に対して前記回転部材の回転数が低回転数の状態、すなわちクラッチ機構を係合させても一方向クラッチが係合しない状態で、クラッチ機構が解放状態から係合状態に切り替えられる。その場合に回転数が変化するのは一方向クラッチの駆動側もしくは従動側のいずれか一方の部材であり、その慣性モーメントが小さいのでショックが生じることはない。その状態で前記可変容量型ポンプモータから出力される油圧が低下させられ、それに伴って前記変速段用伝動機構を介して出力軸に伝達されるトルクが低下して出力軸の回転数が低下するので、次第に一方向クラッチが係合し、機械的直結段が設定される。したがって、前記機械的直結段を設定する際のショックを防止もしくは抑制することができる。
【0025】
請求項4の制御装置によれば、機械的直結段から変速段用伝動機構を介してトルクを伝達する変速比(変速段)に切り替える場合、可変容量型ポンプモータが出力する油圧を徐々に昇圧するので、変速比の変化およびそれに伴う出力トルクの変化が滑らかになり、変速ショックを防止もしくは抑制することができる。
【0026】
請求項5の制御装置によれば、前記可変容量型ポンプモータによる反力を、既存の構成を利用して変化させることができ、したがって変速段用伝動機構によってトルクを伝達する変速段と機械的直結段との間の変速を容易に行うことができ、また装置の全体としての構成を簡素化することができる。
【0027】
請求項6の制御装置によれば、クラッチ機構が噛み合い式のものであるから、クラッチ機構での滑りやそれに伴う動力損失を回避でき、そのため、機械的直結段での動力伝達効率が良好になり、ひいては動力源として内燃機関を使用した場合の燃費を向上させることができる。
【0028】
請求項7の制御装置によれば、クラッチ機構が同期機構を備えているので、クラッチ機構を係合させる際の急激な回転数の変化やそれに伴うショックを防止もしくは抑制することができる。
【0029】
請求項8の制御装置によれば、変速段用伝動機構によって最小変速比を設定する場合、前記可変容量型ポンプモータによる反力を差動機構に与えるので、その可変容量型ポンプモータに圧油の漏れがあった場合、変速比がその分、大きくなるが、このような変速比のズレを所定値として見込んで機械的直結段の変速比を設定するので、機械的直結段への変速を滑らかに実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明をより具体的に説明すると、この発明で対象とする変速装置は、動力伝達経路として少なくとも二つの経路を備えており、それら両方の動力伝達経路を介して、動力源から出力部材にトルクを伝達できるように構成されている。したがって、この発明で対象とする変速装置は、動力源と出力部材との回転数の比である変速比を連続的に変化させることのできる変速機である。より具体的には、各動力伝達経路にはポンプおよびモータの機能を有する可変容量型流体圧ポンプモータが設けられており、それらの可変容量型ポンプモータの押出容積に応じたトルクを伝達するように構成され、さらにそれぞれの可変容量型流体圧ポンプモータが圧力流体を相互に授受できるように連通されている。
【0031】
したがって、一方の可変容量型流体圧ポンプモータがポンプとして機能することにより、その押出容積に応じたトルクが動力源から出力部材に伝達される。これと同時に、一方の可変容量型流体圧ポンプモータから他方の可変容量型流体圧ポンプモータに圧力流体が供給されて他方の可変容量型流体圧ポンプモータがモータとして機能する。すなわち、圧力流体を介した動力伝達が、並行して生じる。そのトルクが他方の動力伝達経路を介して出力部材に伝達される。その結果、出力部材に伝達されるトルクは、各動力伝達経路を介して伝達されるトルクを合算したトルクとなり、しかも圧力流体を介して伝達されるトルクは、各押出容積に応じて変化するので、結局は、変速比が連続的に変化することになる。
【0032】
上記の各動力伝達経路は、それぞれ変速比(もしくは回転数比)の異なるギヤ対や巻き掛け伝動機構などの伝動機構を備えることができる。したがって、一方の動力伝達経路のみを介して出力部材にトルクを伝達する場合には、変速機の全体としての変速比は、その動力伝達経路における伝動機構の変速比で決まる。このようにして決められる変速比を仮に固定変速比と称すると、固定変速比を設定している状態では、圧力流体を介した動力の伝達が生じないので、動力の損失が生じにくく、効率のよい伝動状態となる。なお、いずれかの伝動機構のみをトルク伝達に関与させるようにするために、クラッチ機構などの切換機構を各伝動機構に含ませることが好ましい。あるいは動力源もしくは出力部材と伝動機構との間に切換機構を設けることが好ましい。
【0033】
この発明で対象とする変速装置は、圧力流体を介して動力を伝達するように構成されているので、上述したように機械的な動力伝達によって変速比を設定する機能を兼ね備えたハイドロスタティック・メカニカル・トランスミッション(HMT)として構成されたものである。そのメカニカルトランスミッションの部分は、必要に応じて適宜の構成とすることができ、例えば常時噛み合っているギヤ対をクラッチ機構もしくは同期連結機構などの切換機構によって選択する構成の機構や、複数の遊星歯車機構もしくは複合遊星歯車機構によって複数の変速比を設定できる構成などを採用することができる。また、可変容量型流体圧ポンプモータは、動力源と出力部材との間に直列に介在させる構成以外に、反力手段として可変容量型流体圧ポンプモータを用いる構成としてもよい。
【0034】
つぎに、動力分配機構として差動機構を使用し、かつ伝動機構として複数のギヤ対を使用し、そして可変容量型流体圧ポンプモータが反力機構となっている具体例に基づいてこの発明を説明する。図1に示す変速装置の例は、車両用の変速機として構成した例であり、流体によるトルク伝達を伴わずに動力を伝達して設定できるいわゆる固定変速比として機械的直結段を含む五つの前進段および一つの後進段を設定するように構成した例である。すなわち、動力源(E/G)1に入力部材2が連結されており、この入力部材2からこの発明における差動機構に相当する第1遊星歯車機構3および第2遊星歯車機構4にトルクを伝達するように構成されている。
【0035】
その動力源1は、ガソリンエンジンなどの内燃機関や電気モータあるいはこれら内燃機関および電気モータを組み合わせた構成など、車両に使用されている一般的な動力源であってよい。また、この動力源1と入力部材2との間にダンパーやクラッチ、トルクコンバータなどの適宜の伝動手段を介在させることができる。
【0036】
第1遊星歯車機構3が入力部材2と同一の軸線上に配置され、また第2遊星歯車機構4は第1遊星歯車機構3の半径方向で外側に離隔して配置され、それぞれの遊星歯車機構3,4はその中心軸線を互いに平行にした状態で並列に配置されている。これらの遊星歯車機構3,4はこの発明の差動機構に相当し、シングルピニオン型やダブルピニオン型などの適宜の形式の遊星歯車機構を用いることができる。図1に示す例は第1および第2の遊星歯車機構3,4としてシングルピニオン型遊星歯車機構を採用した例であり、その構成について説明すると、外歯歯車であるサンギヤ3S,4Sと、そのサンギヤ3S,4Sと同心円状に配置された内歯歯車であるリングギヤ3R,4Rと、これらサンギヤ3S,4Sとリングギヤ3R,4Rとに噛み合っているピニオンギヤを自転自在かつ公転自在に保持したキャリヤ3C,4Cとを備えている。そして、第1遊星歯車機構3におけるリングギヤ3Rに前記入力部材2が連結され、このリングギヤ3Rが入力要素となっている。
【0037】
上記の入力部材2に対して平行に、この発明における回転部材に相当するカウンタ軸5が配置されている。このカウンタ軸5には、相対的に大径の第1ドリブンギヤ6と相対的に小径の第2ドリブンギヤ7とが取り付けられており、その第1ドリブンギヤ6に噛み合っている第1カウンタギヤ8が、入力部材2に取り付けられている。また、第2ドリブンギヤ7に噛み合っている第2カウンタギヤ9が設けられており、この第2カウンタギヤ9は前記第2遊星歯車機構4と同一軸線上に配置され、かつ第2遊星歯車機構4のリングギヤ4Rに、一体となって回転するように連結されている。したがって、第2遊星歯車機構4においては、そのリングギヤ4Rが入力要素となっている。
【0038】
これら第1カウンタギヤ8と第1ドリブンギヤ6とのギヤ比と、第2ドリブンギヤ7と第2カウンタギヤ9とのギヤ比とは、互いに逆数の関係となるように設定されている。したがって、各遊星歯車機構3,4の入力要素であるリングギヤ3R,4Rが同方向に同速度で回転するようになっている。
【0039】
上記の第1遊星歯車機構3におけるキャリヤ3Cに、回転軸としての第1中間軸10が一体になって回転するように連結されており、したがってキャリヤ3Cが出力要素となっている。この第1中間軸10は中空軸であってその内部にモータ軸11が回転自在に挿入されている。このモータ軸11の一端部が、第1遊星歯車機構3における反力要素であるサンギヤ3Sに、一体となって回転するように連結されている。
【0040】
第2遊星歯車機構4も上記の第1遊星歯車機構3とほぼ同様に構成されている。すなわち、キャリヤ4Cが出力要素となっており、そのキャリヤ4Cに他の回転軸としての第2中間軸12が、一体になって回転するように連結されている。この第2中間軸12は中空軸であってその内部にモータ軸13が回転自在に挿入されており、このモータ軸13の一端部が、第2遊星歯車機構4における反力要素であるサンギヤ4Sに、一体となって回転するように連結されている。
【0041】
第1の遊星歯車機構3におけるサンギヤ3Sに連結されているモータ軸11の他方の端部が可変容量型ポンプモータ14の出力軸(もしくはロータ軸)に連結されている。この可変容量型ポンプモータ14は斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量(押出容積)を変更可能であり、しかも押出容積を正逆いずれにも設定できるいわゆる両振りタイプの流体圧(油圧)ポンプであって、その出力軸にトルクを与えて回転させることによりポンプとして機能して圧力流体(圧油)を吐出し、また吐出ポートもしくは吸入ポートから圧力流体を供給することにより、モータとして機能し、その出力軸にトルクが現れるようになっている。なお、この可変容量型ポンプモータ14を以下の説明では、第1ポンプモータ14と記し、図にはPM1と表示する。
【0042】
また、第2遊星歯車機構4におけるサンギヤ4Sに連結されているモータ軸13の他方の端部が、可変容量型ポンプモータ15の出力軸に連結されている。この可変容量型ポンプモータ15は前記モータ軸11側の第1ポンプモータ14と同様の構成のものであり、したがって斜軸ポンプや斜板ポンプあるいはラジアルピストンポンプなどの吐出容量を変更可能な流体圧(油圧)ポンプを採用することができる。なお、この可変容量型ポンプモータ15を以下の説明では、第2ポンプモータ15と記し、図にはPM2と表示する。
【0043】
上記の第1および第2の各ポンプモータ14,15は、圧力流体である圧油を相互に受け渡すことができるように油路16,17によって連通されている。すなわち、それぞれの吸入ポート14S,15S同士が油路16によって連通され、また吐出ポート14D,15D同士が油路17によって連通されている。したがって各油路16,17によって閉回路が形成されている。なお、この閉回路での油圧制御のための機構については後述する。
【0044】
動力を出力するための出力軸18が設けられており、その出力軸18は上記の各中間軸10,12に対して平行で、かつ前記カウンタ軸5と同一の軸線上に配置されている。そして、この出力軸18と各中間軸10,12との間のそれぞれに、所定の変速比を設定する伝動機構が設けられている。この発明における伝動機構としては、固定された回転数比(変速比)で動力を伝達する機構に限らず、変速比が可変な機構を採用することができ、図1に示す例では、固定された変速比で動力を伝達する複数のギヤ対19,20,21,22が採用されている。
【0045】
これらのギヤ対19,20,21,22について具体的に説明すると、前記第1中間軸10には、第1遊星歯車機構3側から順に、第4速駆動ギヤ19Aと第2速駆動ギヤ20Aとが配置されており、第4速駆動ギヤ19Aと第2速駆動ギヤ20Aとは第1中間軸10に対して回転自在に嵌合されている。その第4速駆動ギヤ19Aに噛み合っている第4速従動ギヤ19Bと、第2速駆動ギヤ20Aに噛み合っている第2速従動ギヤ20Bとが、出力軸18に一体回転するように取り付けられている。
【0046】
また、第4速従動ギヤ19Bに噛み合っている第3速駆動ギヤ21Aと、第2速従動ギヤ20Bに噛み合っている第1速駆動ギヤ22Aとが、第2中間軸12に回転自在に嵌合させられている。したがって、第4速従動ギヤ19Bが第3速従動ギヤを兼ねており、また第2速従動ギヤ20Bが第1速従動ギヤを兼ねている。そして、これらの第3速駆動ギヤ21Aおよび第1速駆動ギヤ22Aは、第2遊星歯車機構4側からここに挙げた順に配置されている。
【0047】
ここで、各ギヤ対19,20,21,22の回転数比もしくは変速比(それぞれの駆動ギヤの歯数に対する従動ギヤの歯数の比)について説明すると、その回転数比は、第1速用ギヤ対22、第2速用ギヤ対20、第3速用ギヤ対21、第4速用ギヤ対19の順に小さくなるように構成されている。
【0048】
さらに、発進用ギヤ対23が設けられている。この発進用ギヤ対23は、第1速もしくは第3速のギヤ対22,21と併せて出力軸18に動力を伝達することにより、発進時の駆動力を必要十分に大きくするためのものであって、前記第1ポンプモータ14側のモータ軸11に回転自在に嵌合させられて支持された発進駆動ギヤ23Aと、出力軸18に一体となって回転するように取り付けられた発進従動ギヤ23Bとを備えている。
【0049】
上述した各ギヤ対19,20,21,22,23を、いずれかの中間軸10,12と出力軸18との間でトルク伝達可能な状態とするための切換機構が設けられている。この切換機構は、要は、選択的にトルクを伝達する連結機構であって、従来知られているドグクラッチ機構や同期連結機構(シンクロナイザー)などの機構を採用することができ、図1にはシンクロナイザーを採用した例を示してある。
【0050】
シンクロナイザーは、回転軸と共に回転するスリーブと、その回転軸に対して相対回転する他の回転部材に設けられたスプラインと、前記スリーブに押されて他の回転部材側に移動するシンクロナイザーリングとを有している。そして、スリーブを他の回転部材のスプライン側に移動させる過程でシンクロナイザーリングが回転部材に次第に摩擦接触することにより回転軸と回転部材とを同期させ、その状態でスリーブがスプラインに係合することにより、回転軸と回転部材とを連結するように構成されている。
【0051】
前記第1遊星歯車機構3に連結されているモータ軸11上で、発進駆動ギヤ23Aに隣接する位置に第1のシンクロナイザー(以下、発進用シンクロと記す)24が設けられている。この発進用シンクロ24は、そのスリーブ24Sを図1の右側に移動させることにより係合状態となって、発進駆動ギヤ23Aをモータ軸11に連結し、発進用ギヤ対23がモータ軸11と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。また、発進用シンクロ24は、そのスリーブ24Sを図1の左側に移動させることにより解放状態となって、発進駆動ギヤ23Aとモータ軸11との連結を解くように構成されている。
【0052】
また、前記第2中間軸12上で、第3速駆動ギヤ21Aと第1速駆動ギヤ22Aとの間にシンクロナイザー(以下、第1シンクロと記す)25が設けられている。この第1シンクロ25は、そのスリーブ25Sを図1の左側に移動させることにより係合状態となって、第1速駆動ギヤ22Aを第2中間軸12に連結し、第1速用ギヤ対22が第2中間軸12と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブ25Sを図1の右側に移動させることにより他の係合状態となって、第3速駆動ギヤ21Aを第2中間軸12に連結し、第3速用ギヤ対21が第2中間軸12と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。そして、スリーブ25Sを中央に位置させることにより解放状態となって、第3速駆動ギヤ21Aおよび第1速駆動ギヤ22Aと第2中間軸12との連結を解くように構成されている。
【0053】
さらに、前記第1中間軸10上で、第2速駆動ギヤ20Aと第4速駆動ギヤ19Aとの間にシンクロナイザー(以下、第2シンクロと記す)26が設けられている。この第2シンクロ26は、そのスリーブ26Sを図1の左側に移動させることにより係合状態となって、第2速駆動ギヤ20Aを第1中間軸10に連結し、第2速用ギヤ対20が第1中間軸10と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。また、反対にそのスリーブ26Sを図1の右側に移動させることにより他の係合状態となって、第4速駆動ギヤ19Aを第1中間軸10に連結し、第4速用ギヤ対20が第1中間軸10と出力軸18との間でトルクを伝達するように構成されている。そして、第2シンクロ26は、そのスリーブ26Sを中央に位置させることにより解放状態となって、第2速駆動ギヤ20Aおよび第4速駆動ギヤ19Aと第1中間軸10との連結を解くように構成されている。
【0054】
またさらに、第2中間軸12の軸端側で第1速駆動ギヤ22Aに隣接する位置に、後進段を設定するためのシンクロナイザー(以下、リバースシンクロと記す)27が設けられている。このリバースシンクロ27は、そのスリーブ27Sを図1の右側に移動させることにより係合状態となって、第2中間軸12とモータ軸13、すなわち第2遊星歯車機構4におけるサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとを連結して、第2遊星歯車機構4の全体を一体回転させるように構成されている。
【0055】
上述したカウンタ軸5と出力軸18とは同一軸線上に配置されていて、それぞれの端部が互いに接近しており、これらカウンタ軸5と出力軸18との間には、各軸5,8を一体となって回転するように連結するためのクラッチ機構と一方向クラッチとが直列に設けられている。そのクラッチ機構は、シンクロナイザーや摩擦クラッチなどのように回転数を同期させる同期機能のあるクラッチ機構であり、あるいは噛み合いクラッチであってもよい。また、一方向クラッチは所定の方向に回転数差がある二つの回転部材で係合してトルクを伝達し、またこれとは反対方向に回転数差がある場合には解放状態となってトルク伝達を行わない伝動機構である。
【0056】
図1に示す例では、前述したシンクロ24,25,26,27と同様の構成の直結用シンクロ28と、カウンタ軸5の回転数が出力軸18の回転数以上となる場合に係合する一方向クラッチ29とが設けられている。具体的に説明すると、直結用シンクロ28は、この発明におけるクラッチ機構に相当し、ハブにスプライン嵌合したスリーブ28Sを備え、そのスリーブ28Sを図1の右方向に移動させることにより、カウンタ軸5と一体のスプラインにスリーブ28Sが嵌合してトルク伝達可能な状態となるように構成されている。また、スリーブ28Sを上記のように図1の右方向に移動させることに伴ってシンクロナイザーリングがテーパーコーン(それぞれ図示せず)に摩擦接触して回転数を合わせる同期作用が生ずるようになっている。
【0057】
そして、この直結用シンクロ28のハブと出力軸18との間に一方向クラッチ29が設けられている。したがって、図1に示す構成では、カウンタ軸5に対して出力軸18が高速で回転している状態では、一方向クラッチ29が解放状態となるので、その状態ではカウンタ軸5と出力軸18との間でトルク伝達が生じず、直結用シンクロ28のスリーブ28Sを係合状態に切り替えることができる。その後、カウンタ軸5の回転数が出力軸18の回転数以上になるようにトルクが作用すると、一方向クラッチ29が係合してカウンタ軸5から出力軸18に対してトルクが伝達されるようになっている。なお、これら、直結用シンクロ28と一方向クラッチ29との配列は図1に示す配列とは反対であってもよく、カウンタ軸5と直結用シンクロ28のハブとの間に一方向クラッチ29を配置し、直結用シンクロ28は出力軸18に係合するように構成してもよい。
【0058】
上記の各シンクロ24,25,26,27,28は、手動操作によって切り替え動作するように構成することができるが、これに替えていわゆる自動制御するように構成することもできる。その場合は、例えば前述したスリーブ24S,25S,26S,27S,28Sを軸線方向に移動させる適宜のアクチュエータ(図示せず)を設け、そのアクチュエータを電気的に制御するように構成すればよい。
【0059】
上述したように、図1に示す変速機は、動力源1が出力したトルクが、いずれかの中間軸10,12もしくはモータ軸11,13を介して出力軸18に伝達されるように構成されている。そして、その出力軸18には、歯車機構あるいはチェーンなどの巻き掛け伝動機構などの伝動手段30を介してデファレンシャル31が連結され、ここから左右の車軸32に動力を出力するようになっている。
【0060】
上記の各ポンプモータ14,13を制御するための流体圧回路(油圧回路)について説明すると、各ポンプモータ14,13を連通させている前記閉回路16,17には流体(具体的にはオイル)を補給するためのチャージポンプ(ブーストポンプと称されることもある)33が接続されている。このチャージポンプ33は、上記の閉回路からの漏れなどによるオイルの不足を補うためのものであって、前述した動力源1や図示しないモータなどによって駆動されて、オイルパン34からオイルを汲み上げて閉回路に供給するようになっている。
【0061】
そのチャージポンプ33の吐出口は、前記閉回路における油路16と油路17とにそれぞれチェック弁35,36を介して連通されている。なお、これらのチェック弁35,36は、チャージポンプ33からの吐出方向に開き、これとは反対方向に閉じるように構成されている。さらに、チャージポンプ33の吐出圧を調整するためのリリーフ弁(排圧弁)37が、チャージポンプ33の吐出口に連通されている。このリリーフ弁37は、リリーフ圧を電気的に制御できるように構成されたバルブであり、したがってチャージポンプ33の吐出圧を必要に応じて設定するように構成されている。
【0062】
さらに、第1ポンプモータ14の吸入ポート14Sと油路17との間に、リリーフ弁(排圧弁)38が設けられている。言い換えれば、第1ポンプモータ14と並列に、各油路16,17を連通させるようにリリーフ弁38が設けられている。このリリーフ弁38は、第1ポンプモータ14の吸入ポート14S、または第2ポンプモータ15の吸入ポート15Sから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。また、そのリリーフ圧を電気的に制御できる電磁リリーフ弁を使用してもよい。
【0063】
また、第2ポンプモータ15の吐出ポート15Dと油路16との間に、リリーフ弁(排圧弁)39が設けられている。言い換えれば、第2ポンプモータ15と並列に、各油路16,17を連通させるようにリリーフ弁39が設けられている。このリリーフ弁39は、第2ポンプモータ15の吐出ポート15D、または第1ポンプモータ14の吐出ポート14Dから圧油を吐出する場合に、その吐出圧を予め設定した圧力に維持するように構成されている。また、そのリリーフ圧を電気的に制御できる電磁リリーフ弁を使用してもよい。
【0064】
上記の各ポンプモータ14,13の押出容積や各シンクロ24,25,26,27,28を電気的に制御できるように構成されており、そのための電子制御装置(ECU)40が設けられている。この電子制御装置40は、マイクロコンピュータを主体にして構成されたものであって、前記入力部材2の回転数を検出する回転数センサ41からの検出信号や車軸32の回転数を検出する回転数センサ42からの検出信号、さらには他の検出信号が入力され、それらの入力された信号および予め記憶している情報ならびにプログラムに基づいて演算を行い、その演算結果に応じて指令信号を出力するように構成されている。
【0065】
上述した変速装置で各変速比を設定する作用を次に説明する。図2はいずれかのギヤ対19,20,21,22,23のギヤ比で決まる各変速段を設定する際の第1および第2のポンプモータ(PM1,PM2)14,15、および各シンクロ24,25,26,27,28の動作状態をまとめて示す図表であって、この図2における各ポンプモータ14,15についての「0」は、ポンプ容量(押出容積)を実質的にゼロとし、そのロータ軸が回転させられても圧油を発生することがなく、また油圧が供給されてもロータ軸が回転しない状態(フリー)を示し、「LOCK」はそのロータの回転が止められている状態を示している。さらに「PUMP」は、ポンプ容量を実質的なゼロより大きくするとともに圧油を吐出している状態を示し、したがって該当する第1あるいは第2のポンプモータ14,15はポンプとして機能している。また、「MOTOR」は、一方のポンプモータ14(もしくは15)が吐出した圧油が供給されてモータとして機能している状態を示し、したがって該当する油圧ポンプモータ15(もしくは14)は軸トルクを発生している。
【0066】
そして、各シンクロ24,25,26,27,28についての「右」、「左」は、それぞれのスリーブ24S,25S,26S,27S,28Sの図1での位置を示すとともに、丸括弧はダウンシフトするための待機状態、カギ括弧はアップシフトするための待機状態を示し、そして「N」は該当するシンクロ24,25,26,27,28をOFF状態(中立位置)に設定している状態を示し、斜体の「N」は引き摺りを低減するためOFF状態(中立位置)に設定していることを示す。
【0067】
シフト装置(図示せず)によってニュートラルポジションが選択されていることによりニュートラル状態を設定する際には、各ポンプモータ14,15の押出容積がゼロとされ、また各シンクロ24,25,26,27,28がOFF状態とされる。すなわちそれぞれのスリーブ24S,25S,26S,27S,28Sが中央位置に設定される。したがって、いずれのギヤ対19,20,21,22,23も出力軸18に連結されていないニュートラル状態となる。その結果、各ポンプモータ14,15がいわゆる空回り状態となる。したがって、各遊星歯車機構3,4のリングギヤ3R,4Rに動力源1からトルクが伝達されても、サンギヤ3S,4Sに反力が作用しないため、出力要素であるキャリア3C,4Cに連結されている各中間軸10,12にはトルクが伝達されない。
【0068】
シフトポジションがドライブポジションなどの走行ポジションに切り替えられると、第2シンクロ26およびリバースシンクロ27ならびに直結用シンクロ28をOFF状態に設定したまま、発進用シンクロ24のスリーブ24Sが図1の左側に移動させられるとともに、第1シンクロ25のスリーブ25Sが図1の左側に移動させられる。したがって、発進駆動ギヤ23Aが第1ポンプモータ14のロータ軸(出力軸)に連結されて第1ポンプモータ14から出力軸18にトルクを伝達できる状態になる。また、第1速駆動ギヤ22Aが前記中間軸12に連結されて第2遊星歯車機構4から出力軸18にトルクを伝達できる状態になる。すなわち、固定変速比である第1速を設定する状態となる。また、これと併せて各ポンプモータ14,13の押出容積がゼロより大きい容積に制御される。
【0069】
したがって、第2ポンプモータ15は前記第2遊星歯車機構4によって分配された動力源1の動力によって駆動されてポンプとして機能するので、第2ポンプモータ15は、油圧を発生させることに伴う反力トルクをモータ軸13およびサンギヤ4Sに与える。これを図2には「PUMP」と記載してある。そのため、第2遊星歯車機構4の差動作用によってキャリヤ4Cにトルクが伝達され、そのトルクが第1速用ギヤ対22を介して出力軸18に伝達される。
【0070】
一方、第2ポンプモータ15で発生した油圧がその吸入ポート15Sから吐出されて第1ポンプモータ14の吸入ポート14Sに供給される。その結果、第1ポンプモータ14がモータとして機能する。これを図2には「MOTOR」と記載してある。このようにして第1ポンプモータ14に伝達される動力が発進用ギヤ対23を介して出力軸18に伝達される。したがって発進から第1速までの駆動状態では、第2遊星歯車機構4を介したいわゆる機械的な動力の伝達と、油圧を介した動力の伝達との両方が生じ、これらの動力を合成した動力が出力軸18に現れる。また、この過程での変速比は、固定変速比である第1速より大きい値となり、その変速比は連続的に、あるいは無段階に変化する。
【0071】
こうして動力源1の回転数や車速が変化して第1速の変速比になると、第1ポンプモータ14の押出容積がゼロに設定されてOFF状態となり、また第2ポンプモータ15の押出容積が最大に設定され、その結果、実質上、第2ポンプモータ15の回転がロックされる。すなわちモータ軸13およびこれに連結されている第2ポンプモータ15が固定される。その結果、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sが固定され、また第1遊星歯車機構3は出力軸18に対する動力の伝達に関与しなくなるので、動力源1が出力した動力は、第2遊星歯車機構4および第1速用ギヤ対22を介して出力軸18に伝達される。すなわち、第1速用ギヤ対22のギヤ比で決まる固定変速比が設定される。なお、この場合、第1ポンプモータ14およびこれに連結されているモータ軸13が空転するので、第1中間軸11にトルクは現れない。なお、この固定変速比である第1速で発進用シンクロ24のスリーブを解放状態とすれば、第1ポンプモータ14を連れ回さないので、動力損失を防止できる。また、アップシフト待機状態となる。
【0072】
固定変速比である第1速からアップシフトする場合、第2シンクロ26のスリーブ26Sを図1の左側に移動させて第2速駆動ギヤ20Aを第1中間軸11に連結しておく。なお、リバースシンクロ27および直結用シンクロ28は中立状態にしておく。また、第2シンクロ26のスリーブ26Sを第2速駆動ギヤ20Aに係合させる場合、第2シンクロ26のスリーブ26Sの回転数と第2速駆動ギヤ20Aとの回転数を一致させる同期制御を行う。その同期制御は、前記シンクロ24,25,26,27,28のスリーブ24S,25S,26S,27S,28Sを相手部材に係合させる場合にも同様に行われる。
【0073】
この状態で、第1ポンプモータ14の押出容積を最大に向けて次第に増大させる。第2速へのアップシフト待機状態では、第1ポンプモータ14は逆回転しているから、その押出容積を次第に増大させることによりポンプとして機能する。すなわち、油圧を発生し(図2に「PUMP」と記してある)、同時にそれに伴う反力トルクがモータ軸11に現れる。その結果、第1遊星歯車機構3および第2速用ギヤ対20を介した動力の伝達が次第に行われる。また、第1ポンプモータ14で発生した油圧が第2ポンプモータ15に供給されてこれがモータとして機能する(図2に「MOTOR」と記してある)ので、第2ポンプモータ15および第2遊星歯車機構4ならびに第1速用ギヤ対22を介した動力の伝達が生じる。そのため、第1速から第2速への変速の過程での変速比は、第1速の変速比と第2速の変速比との間の値となり、かつ連続的に変化する変速比となる。すなわち、変速比が連続的に変化する無段変速状態となる。これは、上述した発進から第1速の変速比に到るまでの間、および各固定変速比の間でも同様であり、したがって上述した変速機は、無段変速機として機能させることができる。
【0074】
上述のようにして第1ポンプモータ14の押出容積がほぼ最大になることによりその回転が停止し、もしくは停止に近い状態になると、モータ軸11が実質的に固定される。また、併せて第2ポンプモータ15がOFF状態に設定される。したがって、第1遊星歯車機構3では、そのサンギヤ3Sが固定されるので、リングギヤ3Rに入力された動力がキャリヤ3Cから中間軸10を経て第2速駆動ギヤ20Aに出力される。一方、第2ポンプモータ15はOFF状態となっており、またこれと同軸上に配置されているリバースシンクロ27および第2シンクロ25はOFF状態であってそのスリーブが中立位置にあるので、第2ポンプモータ15や第2遊星歯車機構4は動力の伝達に関与しない。したがって、第2速用ギヤ対20のギヤ比で決まる固定変速比である第2速が設定される。
【0075】
他の固定変速比である前進段を設定する場合にも上記の例とほぼ同様に制御される。すなわち、第3速は第1シンクロ25のスリーブ25Sを図1の右側に移動させて第3速駆動ギヤ21Aを第2中間軸12に連結する係合状態とし、また第2ポンプモータ15の押出容積を最大にするとともに第1ポンプモータ14の押出容積をゼロにすることにより、第1速の場合と同様に、モータ軸13および第2ポンプモータ15を固定し、さらに他のシンクロ24,26,27,28は解放状態にする。したがって、第3速用ギヤ対21を介して出力軸18に動力が伝達され、固定変速比である第3速が設定される。
【0076】
また、第4速は第2シンクロ26のスリーブ26Sを図1の右側に移動させて第4速駆動ギヤ19Aを第1中間軸10に連結する係合状態とし、また第1ポンプモータ14の押出容積を最大にするとともに第2ポンプモータ15の押出容積をゼロにすることにより、第2速の場合と同様に、モータ軸11および第1ポンプモータ14を固定し、さらに他のシンクロ24,25,27,28は解放状態にする。したがって、第4速用ギヤ対20を介して出力軸18に動力が伝達され、固定変速比である第4速が設定される。
【0077】
上記のようにして設定される第4速では、動力源1もしくは入力部材2から第1遊星歯車機構3および第4速用ギヤ対19を介して出力軸18に動力が伝達され、したがってこれらのギヤのギヤ比を総合したギヤ比が、変速装置としての変速比となる。この発明に係る変速装置では、その第4速での変速比が、前記入力部材2とカウンタ軸5とを連結しているギヤ8,6のギヤ比より小さい値に設定されている。その変速比とギヤ比との差は、変速装置に掛かる負荷およびそれに起因する圧油の漏れに応じて設定されている。具体的に説明すると、第4速で特には大きい負荷が掛かっていない状態での第1遊星歯車機構3についての共線図は図3に示すようになる。すなわち、第1ポンプモータ14によってサンギヤ3Sが固定され、これに対してリングギヤ3Rには動力源1から動力が入力されているので、出力要素であるキャリヤ3Cが、第1遊星歯車機構3のギヤ比(サンギヤ3Sの歯数とリングギヤ3Rの歯数との比)に応じた回転数Ncで回転する。この状態を図3に破線で示してある。
【0078】
他方、動力源1が最大トルクを出力しているなどの負荷が最大の時には、第1ポンプモータ14における圧力が最大になる。そのために不可避的もしくは設計上許容されている圧油の漏れが生じ、第1ポンプモータ14およびこれが連結されているサンギヤ3Sが低速Npm1で逆回転する。その状態を図3に実線で示してある。その結果、出力要素であるキャリヤ3Cに対するリングギヤ3Rの相対的な回転数ΔNcが増大する。
【0079】
リングギヤ3Rには入力部材2を介して動力源1が連結されているので、上記のような圧油の漏れが生じると、動力源1の回転数が増大し、変速比は、圧油の漏れが生じない場合すなわち無負荷の場合に比較して僅かに大きくなる。この発明に係る変速装置では、このような圧油の漏れに伴う変速比の変化を考慮して、固定変速比である第4速の変速比が、前記入力部材2とカウンタ軸5とを連結しているギヤ8,6のギヤ比以下の値になるように、第4速用ギヤ対19のギヤ比を設定してあるので、第4速で最大トルクが作用している状態であっても、出力軸18の回転数はカウンタ軸5の回転数以上となる。
【0080】
このように第4速が設定されている状態では、出力軸18がカウンタ軸5より高速で回転するので、一方向クラッチ29がトルク伝達する状態に係合することがない。この第4速の変速比でOFF状態(ニュートラル状態)になっている直結用シンクロ28のスリーブ28Sを図1の右側に移動させると、すなわちカウンタ軸5に係合するように動作させると、カウンタ軸5との回転数の差を吸収する同期作用を伴ってカウンタ軸5に係合する。その場合、直結用シンクロ28に連結されている一方向クラッチ29は、上記のように解放状態になっているので、同期作用に伴って吸収するべきエネルギは、一方向クラッチ29における駆動側もしくは従動側のいずれか一方の回転部材を回転させる程度の軽微なものとなる。したがって、直結用シンクロ28における同期機構は容量が比較的小さい簡易な構成のものでよく、またその係合を容易に行うことができる。さらに、出力軸18のトルクが殆ど変化しないので、いわゆる変速ショックが悪化することはない。
【0081】
直結用シンクロ28を上記のように係合させた場合、第4速の変速比が前記入力部材2とカウンタ軸5とを連結しているギヤ8,6のギヤ比より小さいことにより、一方向クラッチ29は空転(オーバーラン)状態になる。この状態で第4速を設定している第2シンクロ26のスリーブ26Sを図1での中央に移動させてOFF状態に切り替えると、出力軸18に対する第4速用ギヤ対19を介したトルクの伝達がなくなるので、動力源1がいわゆるパワーオン状態であれば、その回転数が増大し、カウンタ軸5の回転数が出力軸18の回転数以上になる状態になる。すなわち、一方向クラッチ29が完全に係合してカウンタ軸5から出力軸18にトルクが伝達される。こうしていわゆる機械的直結段が設定される。
【0082】
この直結段では、カウンタ軸5と出力軸18とが直結用シンクロ28および一方向クラッチ29を介して直接連結されるので、第4速用ギヤ対19および第2速ギヤ対16のいわゆる連れ周りが生じるものの、第1ポンプモータ14にトルクが作用したり、それに伴って圧油の漏れが生じたりすることがないので、出力軸18に対する動力の伝達効率が向上する。
【0083】
機械的直結段では、入力部材2とカウンタ軸5とを連結しているギヤ8,6および直結用シンクロ28ならびに一方向クラッチ29を介して動力源1から出力軸18にトルクが伝達されるから、その変速比は上記のギヤ8,6のギヤ比に応じた値となる。このようにして決まる直結段での変速比が固定変速比である第4速の変速比より僅かに大きくなるように、上記のギヤ8,6のギヤ比を設定しておくことにより、第4速から直結段へのダウンシフトの際の変速比の変化が小さくなり、その結果、一方向クラッチ29の係合ショックや変速ショックを防止あるいは抑制することができる。
【0084】
また、直結段の変速比は、前記入力部材2とカウンタ軸5とを連結しているギヤ8,6のギヤ比に応じた値となるから、直結段の変速比を上記のギヤ8,6によって適宜に設定することができる。言い換えれば、上述した構成であれば、直結段の変速比の設定の自由度が向上する。そして、前記入力部材2とカウンタ軸5とを連結しているギヤ8,6を、変速比が“1”より小さくなるオーバードライブ機構として構成することにより、頻度の高い高速巡航時での動力源1の回転数を相対的に低くして、動力源1に内燃機関を使用した場合の燃費を向上させることができる。
【0085】
つぎに後進段について説明する。シフトポジションがニュートラルポジションからリバースポジションに切り替えられるなどのことによって後進段を設定する指示が行われると、発進用シンクロ24のスリーブ24Sが図1の右側に移動させられて、第2遊星歯車機構4のサンギヤ4Sとキャリヤ4Cとが連結され、第2遊星歯車機構4の全体が一体化される。また発進用シンクロ24のスリーブ24Sが図1の右側に移動させられて発進駆動ギヤ23Aがモータ軸11に連結され、第1ポンプモータ14から出力軸18にトルクを伝達できる状態になる。他のシンクロ25,26,28はOFF状態(ニュートラル状態)に設定される。
【0086】
この状態で第2ポンプモータ15の押出容積を次第に増大させる。また、第1ポンプモータ14の押出容積を、上述した前進段(前進走行)の場合とは反対の負の方向に次第に増大させる。車両が停止している状態では出力軸18は回転していないから、これに連結された第1ポンプモータ14は停止している。これに対して、第2遊星歯車機構4はその全体が一体となって回転する状態でリングギヤ4Rに動力源1から動力が入力されるから、サンギヤ4Sおよびこれに連結されている第2ポンプモータ15が動力源1から出力された動力で正回転方向に駆動される。
【0087】
したがって、第2ポンプモータ15の押出容積を次第に増大させることにより、第2ポンプモータ15がポンプとして機能し、油圧を発生する。その油圧が第1ポンプモータ14の吸入ポート14Sに油路16を介して供給されるが、第1ポンプモータ14はいわゆる両振りタイプであってその押出容積が、前進走行時とは反対方向に設定されているので、そのロータ軸およびこれと一体のモータ軸11が前進走行時とは反対方向に回転する。そして、このモータ軸11から発進用ギヤ対23を介して出力軸18にトルクが伝達されるので、出力軸18が前進走行時とは反対方向に回転し、後進段となる。その発進用ギヤ対23は減速機として機能するように構成されているので、前進方向への発進時と同様、大きな駆動力が要求される車両の後進方向への発進時においても、より大きな駆動トルクを得ることができる。
【0088】
ここで、上述したこの発明に係る変速装置を対象とした制御装置について説明する。この発明に係る制御装置は、上記の機械的直結段への変速制御および直結段からの変速制御を行うように構成されており、その制御例を図4に示し、またその制御を実行した場合の挙動の変化を図5にタイムチャートで示してある。図4に示す制御例は、図1に示す構成の変速装置を、内燃機関(エンジン)を動力源とした車両に搭載した場合の制御例であり、先ず、アクセル開度θやエンジン回転数Neならびに車速Vなどの走行状態を示すデータが読み込まれ、それに基づいて目標変速比が算出され、その算出結果として最高速段変速比以下の変速比へのアップシフト(具体的に機械的直結段である最高速段へのアップシフト)の指令が出力される(ステップS1)。これは、図5におけるt1時点である。その結果、変速比は最高速段の変速比に向かって次第に小さくなり、また車速の増大に応じて出力軸18の回転数が上昇する。
【0089】
このステップS1と並行して、もしくはステップS1に続けて、入力部材2の回転数である入力回転数、車軸32の回転数である出力回転数、入力部材2に取り付けられている第1カウンタギヤ8の歯数、カウンタ軸5に取り付けられている第1ドリブンギヤ6の歯数、第4速用ギヤ対19のギヤ比、デファレンシャル31の減速比であるデフ比などが読み込まれる。そして、これらのデータを使用して演算を行うことにより、カウンタ軸5の回転数が出力軸18の回転数より低回転数になっているか否かが判断される(ステップS2)。
【0090】
このステップS2で否定的に判断された場合、ステップS1に戻って従前の制御状態が維持される。これとは反対に、出力軸18の回転数がカウンタ軸5の回転数より高回転数になっていることによりステップS2で肯定的に判断された場合には、直結用シンクロ28のスリーブ28Sを図1の右側に移動させてカウンタ軸5に連結(右へON)させる(ステップS3)。これは図5のt2時点の状態である。
【0091】
この場合、出力軸18回転数がカウンタ軸5の回転数以上になっているので、一方向クラッチ29は解放状態になっていて、正回転方向でのトルクの伝達は生じない。したがって、前述したように、直結用シンクロ28を係合させる際の同期作用によって回転数を変化させるとしても、一方向クラッチ29の一方の回転部材の回転数を変化させるだけであるから、直結用シンクロ28もしくはその同期機構に掛かる負荷は僅かである。そのため、容易かつ迅速に直結用シンクロ28を切り替え動作させることができ、またショックを防止できる。
【0092】
さらに、各ポンプモータ14,15が発生するトルクが低下させられる(ステップS4)。これは、図5のt3時点の状態である。この制御は種々可能であって、例えば前述した各リリーフ弁38,39のうち高圧が作用するリリーフ弁38(もしくは39)をOFFに制御して各ポンプモータ14,15による油圧を低下させる。あるいは第4速でロックされている第1ポンプモータ14の押出容積をゼロに向けて低下させる。図4にはリリーフ弁38(もしくは39)をOFFに制御する例を示してあり、このように制御することにより各遊星歯車機構3,4のサンギヤ3S,4Sにトルクが作用しないので、これらの遊星歯車機構3,4および各中間軸10,12を介した出力軸18へのトルクの伝達が行われなくなる。
【0093】
したがって、各シンクロ24,25,26,27,28にはトルクが殆ど掛からないので、そのスリーブ24S,25S,26S,27S,28Sを移動させることができる。そこで、リリーフ弁38,39をOFFに制御する指令を出力すると同時に、もしくはその直後に、第1シンクロ25および第2シンクロ26の各スリーブ25S,26Sを図1の中央に移動させてニュートラル状態に切り替える(ステップS5)。これは、図5のt3時点もしくはその直後である。こうすることにより、動力源1から出力軸18に対するトルクの伝達は、入力部材2からカウンタ軸5および直結用シンクロ28ならびに一方向クラッチ29を介して行われ、いわゆる機械的直結段が設定される。これは、図5のt4時点以降の状態である。
【0094】
以上述べた直結段への変速制御に対して、直結段からのダウンシフトは以下のように制御される。すなわち、上記のステップS5で直結段が設定された後、アクセル開度θおよびエンジン回転数Neならびに車速Vなどの走行状態を示すデータに基づいて変速比を最高速段変速比以上にするダウンシフトが判断される(ステップS6)。ダウンシフトを行う状況にないことによりステップS6で否定的に判断された場合には、直前の制御状態すなわち直結段を維持する。
【0095】
これに対してダウンシフトを行う状況になっていることによりステップS6で肯定的に判断されてその指令信号が出力されると、第1シンクロ25および第2シンクロ26における各スリーブ25S,26Sが図1の右側に移動させられる(ステップS7)。これは、図5のt5時点である。したがって、第4速駆動ギヤ19Aが第1中間軸10に連結され、また第3速駆動ギヤ21Aが第2中間軸12に連結される。その場合、電磁リリーフ弁38,39がOFFになっていて各ポンプモータ14,15は油圧を発生しないので、シンクロ20,22にトルクが作用しておらず、したがってそのスリーブ20S,22Sを容易に係合状態に切り替えることができる。なお、その際の回転数差は、それぞれの同期機構によって吸収される。
【0096】
こうして第4速以下の低速側変速比への待機状態もしくは第4速への待機状態が設定されると、変速比は第4速用ギヤ対19のギヤ比で決まる変速比もしくはその変速比よりも油圧の漏れ分、大きい変速比となりカウンタ軸5の回転数より出力軸18の回転数が高回転数になる。したがって、一方向クラッチ29はオーバーラン状態(解放状態)になる。
【0097】
これと同時にもしくはその直後に、各リリーフ弁38,39がON制御される(ステップS8)。これは、図5のt5時点もしくはその直後の時点である。その結果、閉回路16,17に油圧が発生するが、第2ポンプモータ15の押出容積がゼロになっているので、閉回路16,17での圧油の流動が阻止され、第1ポンプモータ14はロック状態に維持される。すなわち、動力源1が出力した動力は、第4速用ギヤ対19を介して出力軸18に伝達される。この場合、動力源1から出力軸18に対するトルクの伝達経路が切り替わることにより変速比が僅かなりとも変化(アップシフト)するので、エンジン回転数の変化を緩やかにするために、各電磁リリーフ弁38,39によるリリーフ圧は例えば図6に実線で示すように所定の小さい変化勾配で上昇させる。なお、図6の破線は、リリーフ圧を急激に上昇させた場合の例を示しており、このようにすると、変速比およびエンジン回転数が急激に変化するので、ショックが悪化する可能性がある。
【0098】
さらに、直結用シンクロ28のスリーブ28Sを、図1の左側に移動させてこれをニュートラル状態とし(ステップS9)、直結段からの変速を実行する。これは、図5のt6時点である。その場合、入力回転数が出力回転数より低回転数となっているので、一方向クラッチ29は解放状態になっており、したがって直結用シンクロ28にはトルクが殆ど掛かっていないので、そのスリーブ28Sを容易かつ迅速にニュートラル位置に切り替えることができる。
【0099】
なお、この発明に係る上記の変速装置あるいはその制御装置では、機械的直結段を設定する場合、変速比をその直前の最小の値から若干増大させ、それに伴って動力源1の回転数を増大させることになる。動力源1として内燃機関を使用している場合には、その回転数の増大が燃費の低下要因となるが、機械的直結段では前述したようにポンプモータ14,15を使用せずに出力軸18に動力を伝達でき、動力損失が少ない。したがって、動力損失の低減による燃費の向上と回転数の増大による燃費の低下とを比較し、燃費の向上効果が得られる場合に前述した機械的直結段を設定するように構成してもよい。
【0100】
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図4に示すステップS2を実行する機能的手段が、この発明の回転数判断手段に相当し、ステップS3を実行する機能的手段が、この発明のクラッチ制御手段に相当し、ステップS4を実行する機能的手段が、この発明の反力制御手段に相当する。
【0101】
なお、この発明は上述した具体例に限定されないのであって、変速段用伝動機構はギヤ対に限られず、ベルトやチェーンを用いた機構、あるいはローラ式伝動機構などであってもよい。各ポンプモータ14,15から排圧する手段として前記電磁リリーフ弁に替えて適宜の開閉弁を設けてもよい。さらに、設定可能な固定変速比は機械的直結段を含む前進5段より多くてもよく、あるいは4段以下であってもよく、また後進段を設定するための構成は、後進段用のギヤ対を設けたものであってよい。素養に構成した場合には、いわゆる両振りタイプのポンプモータを用いずに、いわゆる片振りタイプのものであってよい。そして、動力源との間でオーバードライブ機構を構成する回転部材は、前述したカウンタ軸を使用した構成に限られず、要は、動力源との間で増速機構を構成するものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】この発明に係る変速装置の一例を模式的に示すスケルトン図である。
【図2】図1に示す変速装置における各変速比を設定する際の各ポンプモータおよび各シンクロの動作状態をまとめて示す図表である。
【図3】第4速で無負荷の場合と最大トルクが作用している場合とにおける第1遊星歯車機構についての共線図である。
【図4】この発明に係る制御装置で実行される制御例を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4に示す制御を行った場合の挙動の変化を説明するためのタイムチャートである。
【図6】電磁リリーフ弁のリリーフ圧をゼロから戻す際の変化勾配を示す線図である。
【符号の説明】
【0103】
1…動力源、 2…入力部材、 3…第1遊星歯車機構、 4…第2遊星歯車機構、 5…カウンタ軸、 6…第1ドリブンギヤ、 8…第1カウンタギヤ、 14…第1ポンプモータ、 15…第2ポンプモータ、 18…出力軸、 22…第1速ギヤ対、 20…第2速ギヤ対、 21…第3速ギヤ対、 19…第4速ギヤ対、 24…発進用シンクロ、 25…第1シンクロ、 26…第2シンクロ、 27…リバースシンクロ、 28…直結用シンクロ、 29…一方向クラッチ、 40…電子制御装置、 38,39…電磁リリーフ弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からトルクが入力される入力要素を有する差動機構と、その差動機構の出力要素に連結された押出容積が可変な可変容量型ポンプモータと、前記差動機構の出力要素から出力軸にトルクを伝達する変速段用伝動機構とをそれぞれ含む少なくとも二系統の動力伝達系統を備えた可変容量型ポンプモータ式変速装置において、
前記各差動機構における入力要素との間でトルクが伝達される回転部材が前記出力軸と同一軸線上に配置され、
その回転部材と前記出力軸との間にこれら回転部材と出力軸とを選択的に連結する一方向クラッチと、正逆両方向にトルク伝達可能なクラッチ機構とが直列に連結して配置され、かつ
前記複数の変速段用伝動機構によって設定される前記出力部材の回転数に対する前記動力源の回転数の比である変速比のうち最も小さい変速比よりも前記回転部材および前記一方向クラッチならびに前記クラッチ機構を介して前記出力軸にトルクを伝達する場合の変速比が予め定めた所定値大きくなるように構成されている
ことを特徴とする可変容量型ポンプモータ式変速装置。
【請求項2】
前記動力源は、いずれか一方の差動機構における前記入力要素に連結され、
該一方の差動機構における前記入力要素と前記回転部材とは、前記入力要素に対して前記回転部材を増速するオーバードライブ機構を介して連結されている
ことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ポンプモータ式変速装置。
【請求項3】
前記回転部材の回転数が前記出力軸の回転数以下であることを判断する回転数判断手段と、
この回転数判断手段により前記回転部材の回転数が前記出力軸の回転数以下であることが判断された場合に前記クラッチ機構を係合状態に切り替えるクラッチ制御手段と、
前記クラッチ機構が係合状態に切り替えられた際もしくはその後に前記可変容量型ポンプモータから出力される油圧を低下させる反力制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量型ポンプモータ式変速装置の制御装置。
【請求項4】
前記反力制御手段で低下させた前記可変容量型ポンプモータが出力する流体圧を昇圧する場合に予め定めた所定の勾配で徐々に昇圧する昇圧手段を更に備えていることを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記反力制御手段は、前記可変容量型ポンプモータの吐出口に連通されている排圧弁を開く手段と、前記可変容量型ポンプモータの押出容積を低下させる手段とのいずれか一方を含むことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項6】
前記クラッチ機構は、噛み合い式のクラッチ機構を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量型ポンプモータ式変速装置もしくは請求項3ないし5のいずれかに記載の制御装置。
【請求項7】
前記噛み合い式のクラッチ機構は、互いに連結される部材の回転数を同期させる同期機構を備えていることを特徴とする請求項6に記載の可変容量型ポンプモータ式変速装置もしくは制御装置。
【請求項8】
前記所定値は、前記可変容量型ポンプモータにおける圧油の漏れに起因する変速比の増大に基づいて定められた値であることを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量型ポンプモータ式変速装置もしくは請求項3ないし7のいずれかに記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−236237(P2009−236237A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84076(P2008−84076)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】