説明

可変容量型流体機械

内歯車流体機械、特に自動車エンジン、の潤滑回路のためのポンプであって、外側歯車(2)、および外側歯車(2)の軸方向空洞(25)の内部に収容されておりかつ外側歯車と噛み合う内側歯車(4)を具備する動作部を含む。外側歯車(2)は、機械の容量および流体流量を変化させるために、内側歯車(4)に対するその軸方向滑動を引き起こすようになされている並進機構(8、22)に関連付けられている。並進機構(8、22)は、機械の高圧室(48)と連通している第1の容量調節空間(24)と、機械(1)が接続されている流体回路の、高圧室(48)と異なる要素の動作条件に依存する圧力条件が存在する第2の容量調節空間(15)とを画定する。並進機構(8、22)は、第1の容量調節空間(24)もしくは第2の容量調節空間(15)内に存在する圧力条件に応答して、または両空間内に存在する圧力条件の組合せに応答して、外側歯車(2)の滑動を引き起こす。本発明はまた、内歯車流体機械の容量を変化させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体機械に関し、さらに詳細には、本発明は、可変容量型の内歯車流体機械、特にポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、自動車エンジンの潤滑油用のポンプに利用されることが好ましいが、それに限定されない。
いくつかの技術的用途では、例えば自動車エンジン内において、圧力下で潤滑油を循環させるために、容積式内歯車ポンプが使用されることが多い。これらのポンプは、一般に、固定された本体と、前記本体内で第1の回転軸を中心に回転しかつ内側歯部(internal toothing)を有する外側公転歯車(external orbital gear)と、第1の軸と異なる第2の軸を中心に外側公転歯車の内側で回転しかつ一部のみ油圧シールを備えて外側公転歯車の内側歯部と噛み合う外側歯部(extermal toothing)を有する内側公転歯車(internal orbital gear)と、2つの公転歯車の一方に回転を伝え、次いでそれぞれの歯の噛合いにより他方を回転させるために、一般に自動車エンジンにより駆動されるトランスミッション部材とを含む。異なる数の歯を有する歯部は、それらの間で一連の可変容量室を画定し、オイルが取入れ口から前記室を通って放出口まで運ばれる。
【0003】
そのようなポンプでは、容量、したがって出口におけるオイル流量は、エンジンの回転速度によって決まり、したがって、ポンプは、そのような状況にあっても潤滑を確実にするために、低速で十分な流量を供給するように設計されている。ポンプが固定形状を有する場合、高回転速度での流量は必要な流量より大きく、不必要なエネルギー消費を招き、最終的に、燃費の増大に通じる。
【0004】
空気ポンプにおいて、または上記構造が油圧式または空気式のモータとして使用された場合に、同様の問題に遭遇する。
動作条件が変化した際に性能の変わりやすさを低減するために、かつ上記欠点を取り除くために、両公転歯車間の係合領域の軸方向伸長部を変化させることにより流量の変化が得られる可変容量型流体機械が、既に提案されている。
【0005】
第1の例が、JP56020788に開示されている。そのような解決策では、容量調節は、モータにより駆動される公転歯車を並進させることにより得られる。ポンプの回転運動と容量調節のための並進運動との間の結び付きにより高吸収トルクが生じ、それにより、容量調節から得られる利点が制限される。
【0006】
別の例が、国際公開第2004/003345号において開示されているポンプである。このポンプでは、回転運動が公転歯車の一方に伝達され、容量が他方の公転歯車の並進により変化する点で、回転運動と並進運動とが分離されており、その結果、高吸収トルクの問題が解決される。しかし、この先行技術ポンプの問題は、容量調節が、送出室と連通している空間内の圧力の制御のみに基づいていることである。また、これらの条件下で、エンジンの主要制御経路の上流で生じる過度の圧力が、高回転速度に起因していると見なされることになり、結果として、不十分な潤滑のためにエンジンを損傷する危険を伴う、オイル流量の減少に通じることになる。
【0007】
さらに、この先行技術ポンプでは、公転歯車の並進は直接得られないが、流体圧が変化し外側公転歯車の並進を引き起こす際に滑動する小ピストンにより、間接的に得られる。このことにより、ポンプ構造がより複雑になり、その反応がより遅くなる。
【0008】
文献GB2440342が、軸方向に方向付けられた供給を実現する実質的に星型の内側リングを有するポンプを開示する。そのような内側リングは、内側リングの角度位置に応じて、ポンプ室を入口ポートおよび出口ポートと接続する複数のきり穴(drill way)を有する。前記文献の装置は、いくつかの欠点を有する。
【0009】
第1の欠点は、内側リングの必要な構造強度を確保するために、きり穴が、小さい横断面寸法を有していなくてはならないことである。しかし、きり穴の横断面寸法を小さくすることは、ポンプの高回転速度でのキャビテーションの問題を伴うという欠点を有する。
【0010】
さらなる欠点は、ポンプ変位を増大させるために、それに応じて入口ポートおよび出口ポートの軸方向寸法を大きくする必要があり、それにより、ポンプが軸方向にかなり嵩張ることである。大きな軸方向寸法により、一般にエンジンの底部に収容されるポンプを取り付けることに関する問題が生じる可能性がある。例えば、ポンプの軸方向寸法が大きくなった場合、カムシャフトの適切な運動を妨げる危険が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、先行技術の欠点を取り除く歯車を備えた油圧機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、このことは、軸方向に変位可能な公転歯車の滑動を引き起こす並進機構が、機械の高圧室と連通している空間に加えて、機械が接続されている流体回路の、高圧室と異なる要素の動作条件に依存する第2の圧力条件が存在する第2の容量調節空間を画定し、並進機構が、やはり第2の容量調節空間内に存在する圧力条件または両調節空間内に存在する圧力条件の組合せのどちらかに応答して、支持部内で軸方向に滑動可能であることで得られる。
【0013】
有利なことに、軸方向に滑動可能な歯車は、並進機構の一体部分とされる。
自動車エンジンの潤滑油用のポンプとしてその機械を使用することの好適な事例では、第1の調節空間は、ポンプの送出側と連通している。さらに、第1の実施形態では、第2の容量調節空間は、エンジンからポンプへ送り戻される、圧力下の潤滑流体を受け入れ、エンジンの動作条件に応答する外部管理論理(external management logic)により機械の容量が設定される第2の実施形態では、ポンプがその最大容量で動作するようにされる場合、第2の容量調節空間は、ポンプ内に生じるオイル漏出があればそれを油だめに放出するために油だめと連通しており、ポンプが最大容量より低い容量で動作するようにされている場合、そのような空間は、ポンプの送出側と連通している。
【0014】
さらに有利な方法では、GB2440342において開示されているものと異なり、本発明によるポンプは、製造要件に応じて寸法を調節可能とすることができる切り口によって画定された開口部により、径方向に方向付けられた供給を実施することを可能にする。したがって、ポンプにおけるキャビテーションの問題を回避するために、開口部の横断面寸法を自由に寸法設定することが可能である。
【0015】
本発明によるポンプの別の利点は、そのようなポンプに属する外側公転歯車、内側公転歯車および星型キャップの歯付き部の径方向寸法を大きくすることにより、変位が増大され得ることである。したがって、変位の増大は、ポンプの軸方向寸法に悪影響を及ぼさず、GB2440342で生じることとは異なる。
【0016】
本発明はまた、内歯車流体機械の容量を変化させる方法に関する。本方法によれば、機械の高圧室と連通している第1の容量調節空間が作り出され、機械の容量は、両歯車の歯が噛み合う領域の伸長部を変化させるために、第1の容量調節空間内に存在する第1の圧力条件に応答して、機械の両歯車の一方を他方に対して軸方向に滑動させることにより変化する。本方法は、第2の容量調節空間を作り出すステップと、機械が接続されている流体回路の、高圧室と異なる要素内に存在する動作条件に依存する第2の圧力条件を第2の容量調節空間内に設定するステップと、やはり第2の容量調節空間内に存在する圧力条件または両容量調節空間内に存在する圧力条件の組合せのどちらかに応答して、滑動可能な歯車を軸方向に滑動させるステップとをさらに含む。
【0017】
次に、本発明について、添付図面を参照して、さらに詳細に述べる。図面は、非限定的例として与えられ、自動車エンジンの潤滑油用のポンプとして本発明を使用することに関連する好適な実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるポンプの分解図である。
【図2】組み立てられた状態にある、図1に示されているポンプの斜視図である。
【図3】ポンプの中心本体の斜視図である。
【図4】ポンプの最大容量の状態にある、図2の線IV−IVに沿った、ポンプの横断面図である。
【図5】図3の線V−Vに沿った、横断面図である。
【図6】ポンプの内側から取り出した、ポンプの支持部の下部本体の図である。
【図7】ポンプの内側から取り出した、ポンプの支持部の上部本体の図である。
【図8】エンジン内のオイルの図9と異なる圧力条件にある、ポンプの部分横断面図である。
【図9】エンジン内のオイルの図8と異なる圧力条件にある、ポンプの部分横断面図である。
【図10】ポンプの送出側における図11と異なる圧力条件にある、ポンプの中心本体の横断面図である。
【図11】ポンプの送出側における図10と異なる圧力条件にある、ポンプの中心本体の横断面図である。
【図12】外部弁によるポンプ制御に関する図であり、最大容量状態にある、ポンプを示す。
【図13】外部弁によるポンプ制御に関する図であり、容量が減少した状態にある、ポンプを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
単に例として、また説明を明確かつ簡潔にするために、以下の記載は、垂直軸を備えて配置され、底部から駆動されるポンプに言及し、したがって、用語「上部」、「下部」、「最上部」、「底部」等はそのような位置を指す。
【0020】
図1乃至図5を参照すると、全般的に符号1で示されている、本発明によるポンプは、実質的に容積式内歯車ポンプであり、動作部または中心本体100と、動作部100が間に封入されている第1の本体(下部本体)102および第2の本体(上部本体)104で構成されている支持部とを含む。
【0021】
動作部100が、従来のように、内歯部、例えば5つの歯2A(図5)、を有する第1の歯車2(外側公転歯車)と、一部のみ油圧シールを備えて外側公転歯車2の軸方向空洞25内に受容されかつ外側公転歯車2の歯部と噛み合う外側歯部、例えば4つの歯4A、を有する第2の歯車4(内側公転歯車)とを含む。内側公転歯車4は、(例えば自動車エンジンにより直接にまたは適切なトランスミッションシステムを介して駆動される)ポンプシャフト6上に取り付けられており、シャフト6の軸と同時に前記シャフトにより第1の軸を中心に回転するように作られており、第1の軸に平行な第2の軸を中心に外側公転歯車2を回転させる。両歯車の歯は室11(図4)を画定し、該室の容積は回転中に変化し、ポンプ1の取入れ側から送出側に移動している間に、オイルがその室を通って圧縮される。両歯車の歯が噛み合う領域の軸方向の伸長部は、ポンプの容量または変位、したがってポンプを離れるオイルの流量を決定する。
【0022】
外側公転歯車2は、動作条件が変化した際にポンプ容量を変化させるために、特に、高回転速度で、そのような容量、したがってオイルの流量を減少させるために、内側公転歯車4に対して軸方向に滑動可能であるように取り付けられている。以下にさらに詳細に記載されるように、調節は、エンジン内に実際に存在する圧力またはポンプの内側の圧力(送出圧力)のどちらかにより、制御されることが可能である。このことにより、潤滑システム全体の完全性を守ること、および異常条件に起因し回転速度の実際の上昇に起因しない圧力上昇の場合に流量の減少を回避することが可能になる。さらに、公転歯車の一方がシャフト6により回転しかつ他方の公転歯車の並進により容量が調節されるように作られているので、ポンプの回転運動は、容量調節から分離されており、同じ公転歯車が両方の運動を実施する解決策に対して吸収トルクが結果として減少する。
【0023】
外側公転歯車2は、回転運動および並進運動のために、その表面の段部7に当接するように外側公転歯車2の底端部上に干渉で取り付けられている外側リング8にしっかり接続されている。外側公転歯車2とリング8との結合領域と一致して、そのような要素の縁部には、それぞれ、外側公転歯車2上に切り口12およびリング8上に切り口10が設けられており、室11内への/からのオイル入口/出口用の開口部13(図13)を画定している。ポンプが組み立てられた場合、外側リング8は、下部本体102の空洞40の内部に受容される。当業者が上記記述を読むことによりかつ添付図面を見ることにより理解することができるように、切り口10および12が、径方向に配置されている開口部13を画定し、その結果、ポンプの径方向供給が得られる。
【0024】
図4に示されている通り、第1のキャップ(下部キャップ)14が、リング8の内側に収容され、ポンプの最大容量状態にある外側公転歯車2の基底部と内側公転歯車4の基底部との両方が、キャップの最上面に当接する。キャップ14は、軸方向定位置に取り付けられ、リング8および外側公転歯車2は、ポンプ容量を調節するためにその位置に対して滑動可能である。下部キャップ14の下部は、外側リング8から突出しており、空洞40の壁と共に、下部キャップ14によりポンプ室11から分離されている室15(第1の調節空間)を画定する。径方向導管50が室15で終端しており、前記導管は、図1および図2に符号51で示されている通り、下部本体102の側壁内に開いており、圧力下で側壁内からオイルを受け入れるためにエンジンと連通している。このようにして、エンジン内に実際に存在する圧力を表す圧力条件が室15内に存在し、エンジン内の圧力は、リング8の底部8A上に作用して外側公転歯車2と共同でリングを滑動させることを目的とした、容量調節のための第1の制御圧力である。下部キャップ14は、シャフト6が通過する軸外穴部16をさらに有する。
【0025】
その上部では、内側公転歯車4の上方で、公転歯車2の空洞25が、外面が外側公転歯車2の内面に対して補完式に成形されている歯付き下部19と、円筒形上部20とを有する第2のキャップ(星型キャップ)18を収容する。円筒形上部は、第3のキャップ(上部キャップ)22の円筒形空洞内に受容される。上部キャップ22は、回転および並進するように外側公転歯車にしっかり接続されるように、外側公転歯車2の上部上に干渉で取り付けられており、外側公転歯車2の側面の段部9(図4)に当接する。外側公転歯車2およびそれを並進させる機構は、制御圧力に曝露される構成要素であるリング8と上部キャップ22とで構成されており、したがって、本明細書では「公転本体」とも呼ばれる単一調節部材として機能する。
【0026】
星型キャップ18の歯付き部19が、実質的に密封されて、空洞25内に導入され、例えばその結果、その基底部が、内側公転歯車4の最上基部に実質的に接触しており、その最上基部は、上部キャップ22の空洞の最上部と共に、開口部26(図3)を介して送出室48(図4)と連通している室24(第2の調節空間)を画定する。開口部13と同様に、開口部26は、外側公転歯車2と上部キャップ22との協働縁部上に設けられている切り口17、23により形成されている。したがって、ポンプの送出側に存在する圧力は、この室24内に存在し、その圧力は、上部キャップ22の最上部22A(図9、図11)に作用し、ポンプ1の容量を調節するための第2の制御圧力を形成する。開口部26は、外側公転歯車2の側面の陥凹部と上部キャップ22とにより形成されている環状溝部30内に開いている。
【0027】
上部キャップ22は、上部本体104の空洞60(図4)内に受容され、星型キャップ18のシャンク21上に巻き付けられているばね28、例えばコイルばねにより、段部9に押し付けられた状態に保たれる。ばねの一方の端が、上部キャップ22の最上面に当接しており、他方の端部は、上部本体104の最上部に固定されているばね覆い34の軸方向空洞の最上部に当接している。ばね28は、室15および/または24内の圧力閾値を設定するために、閾値が超過された場合に公転本体の変位が得られるように、予め荷重がかけられる。シャンク21は、上部キャップ22の軸方向穴部32と上部本体104の空洞60の軸方向穴部66とを通過することにより、ばね覆い34の空洞内に侵入する。ばね38もまた、穴部66を通過する。
【0028】
また、図6および図7を参照すると、例えばねじ(図示せず)により結合されることを目的とする下部本体102と上部本体104とは、ポンプの内側の方へ向く面上に、それぞれの空洞40と60とを有し、その深さは、公転本体のための所望の調節ストロークを可能にするように選択される。下部本体102の最上面にある中空部46、48Aを通って空洞40と連通している実質的に垂直の取入れ導管(intake duct)42および送出導管44が、本体102内の一方の縁部付近に形成されている。ポンプの組み立てられた状態では上部本体104の底面により上方に向かって閉じられている中空部46は、取入れ室を形成する。中空部48Aは、上部本体104の下面にある補完的中空部48Bと一緒に、送出室48を形成する。取入れ室46と送出室48との異なる高さは、送出室48もまた室24と連通することになるのに対し、取入れ室46が室11(図4)のみと連通することになることに起因する。
【0029】
本発明によるポンプの動作が、ここで、やはり図8乃至図11を参照して記載される。そこでは、二重線矢印がオイル入口を示し、単線矢印が、ばね28により設定された閾値より上の油圧を示し、点線矢印が、閾値より下の圧力を示す。
【0030】
従来のように、回転することによって外側公転歯車を回転させ、それにより、異なる室11を通る移動により油だめから吸い込まれ圧縮されたオイルを、ポンプが取入れ室46から送出室48まで送ることを可能にするように、シャフト6により伝達されたトルクは、内側公転歯車4に加えられる。圧力下のオイルが、図8および図9に矢印F1で示されている通り、モータから、リング8と空洞40の底部との間の室15内に到達する。さらに圧力下のオイルが、図10および図11の矢印F2に示されている通り、やはり送出室48から、上部キャップ22と星型キャップ18との間の室24まで進む。
【0031】
エンジン(図8)の低回転速度で、外側リング8に作用している(矢印F3)エンジン内の油圧は、ばね28の抵抗に打ち勝つのに十分でない。ばね28は、外側公転歯車2が下部キャップ14に接触している状態に保ち、その結果、室11(図4)は、それらの最大容積を有し、ポンプ1の最大容量条件を決定する。リング8の底縁部8Aに作用している圧力がエンジンの回転数の増加により上昇しかつばね28の予荷重(図9の矢印F4)により設定された閾値を超過した場合、公転本体は、上部本体104の方へ変位し、ポンプ室11の高さの縮小により容量は減少する。さらに、その運動により、二次室29が、外側公転歯車2と下部キャップ14との間に形成され、油圧短絡、または取入れ室46と送出室48との間のオイル再循環の状態を作り出す。その短絡状態は、図8に示されている開始状態にポンプを再設定する傾向がある圧力低下を招く。
【0032】
室24内に存在するポンプの送出圧力は、前述のものと類似した動作条件を決定する。通常の動作条件下で、室24内の圧力は、ばね28により加えられる力(矢印F5、図10)に打ち勝つのに十分でない。したがって、外側公転歯車2は、下部キャップ14と接触しており、ポンプ1はその最大容量で動作する。所定の圧力閾値より上のオイル送出圧力(図11の矢印F6)の上昇が、上部キャップ22を星型キャップ18から離す。したがって、外側公転歯車2もまた下部キャップ14から離れ、それにより、前述の通り、室29を通る油圧短絡の状態を決定する。
【0033】
どちらの場合も、公転本体が変位している間に、内側公転歯車4は、常時、外側公転歯車2と噛み合っており、それにより、ポンプ動作を確実にする。
本発明が所望の目的の達成を可能にすることは明らかである。実際、公転本体の並進運動、したがってポンプ1の容量およびオイル流量の起こり得る減少は、潤滑回路の2つの異なる点、すなわちエンジンとポンプの送出側とで連通している2つの空間15および24内の油圧により制御される。したがって、一方で、導管50を通ってポンプに送信された圧力信号により、ある瞬間に存在する動作条件に対して実際に必要なオイル流量をポンプに必要とするのは、エンジンそれ自体である。他方で、例えばフィルタの閉塞または低温始動の場合に起因する、エンジンの主要制御経路の上流で起こる圧力上昇が、送出経路内で過度の圧力に変換され、それは、安全閾値が超過されると、ポンプを油圧短絡状態またはオイル再循環状態にし、それにより、不十分な潤滑に因るエンジンへの損傷を回避する。
【0034】
さらに、流量調節は、滑動可能な部材を押すことになるピストンによって滑動可能な部材に、間接的にではなく直接作用することにより得られ、したがって、構造はより簡潔であり、応答はより速い。
【0035】
図12および図13は、潤滑油の流量が、エンジン内の油圧に応答して、またはより一般的にエンジンの全体的な動作条件(油圧および温度、回転速度…)に応答して、外部管理論理により決定される、エンジン内での本発明によるポンプ1の使用を概略的に示す。ポンプ1の構造は、図1乃至図11に示されている通りである。明確にするために、送出導管44が、やはりポンプ1の外側に示されている。実線は、圧力下でのオイルの経路を示し、点線は、もしあれば、符号Sで示されている漏出の放出を示す。
【0036】
そのような構成では、送出導管44は、適切なセンサ(図示せず)により検出されるエンジンの動作条件に応じてその状態を変化させるために、電気的に作動する分配弁110、例えば制御ユニット120により駆動される滑り弁、例えば電磁弁、のポート(ポートD)に接続されている。詳細には、電磁弁120は、最大容量(および最大流量)でのポンプ動作ならびに最大より下での弁への容量調節それぞれに対応する第1の状態または第2の状態をとり、結果として、該電磁弁は、分配弁110に第1の状態または第2の状態をとらせる。
【0037】
図12に示されている両弁の第1の状態では、分配弁110は、やはり電磁弁120を介して第2のポート(ポートE)で導管44からオイルを受け入れ、このオイルは、ばね112の作用に対抗して弁を前方位置へ滑動させる。そのような条件下で、導管50は圧力下でオイルを供給されないが、もしあれば、ポンプを通った漏出を収集するだけであり、その漏出は、次いで、分配弁110のポートBおよびCを通って油だめの方へ放出される。ポートAもまた、もしあれば、漏出を収集するだけであり、ポンプの方へ放出される。公転本体と対照をなすばね28は、エンジンおよびポンプの通常の動作条件下でポンプ1の室24内にのみオイルが存在することがばね28の抵抗に打ち勝つのに不十分であり、そこで、外側公転歯車2は下部キャップ14に当接するように、適切に設置される。
【0038】
図13に示されている第2の状態では、電磁弁120は、分配弁110の方へ向かうオイル通路を閉鎖し、その結果、ポートEは供給されない。弁は、次いで、休止状態に戻り、その状態では、オイルの全体が室D内に到達し、導管50のポートAおよびBを通って室15へも部分的に送られる。両室15および24内の圧力下でのオイルの存在により、公転本体にかけられる全体的な圧力が、ばね28の抵抗に打ち勝ち、公転本体の変位を引き起こし、それにより、再循環室29を作り出す。
【0039】
当然のことながら、両状態では、任意の動作異常に起因する、ポンプ送出室48内の、もしあれば過度の圧力が、弁の状態とは無関係に、外側公転歯車2の変位を引き起こす。
また、そのような構成が、2つの異なる圧力に基づく容量変化の制御に関する安全特性を維持する。
【0040】
上記記述が非限定的例としてのみ与えられていること、ならびに本発明の範囲から逸脱することなく変更および修正が可能であることは明らかである。
例えば、たとえ図面が例えば干渉取付け(interference mounting)により回転および並進するようにしっかり接続されている3つの分離した要素2、12および22を含む公転本体を示していても、公転本体は、外側公転歯車2を形成しかつ両空間15および24を画定し、公転本体の並進運動を引き起こすように適切に成形された単一本体とすることができることになる。
【0041】
さらに、ポンプ容量を変化させるために、内側公転歯車4がシャフトにより回転し、外側公転歯車2が内側公転歯車上で滑動可能であり、かつ取入れ室46からの流体をポンプの内部室11へかつそのような室から送出室48へ分配する部材を形成することが想定されたとしても、たとえ記載された解決策が構造上の簡潔さの上で好ましいとしても、2つの公転歯車の仕事が相互に交換され得ることになることは自明である。
【0042】
さらに、たとえ本発明がポンプへのその利用を参照して開示されているとしても、図1乃至図11に示されている実施形態は、導管44を通して高圧で流体を受け入れ、導管42を通してより低圧でその流体を放出する、モータとして使用される機械においても利用されることが可能である。しかし、モータとしての動作では、変位の起こり得る変化は、第1の空間24内の圧力によってのみ決定される。
【0043】
有利なことに、切り口10および12により画定されている開口部13は、構造上の好みに適した寸法を有するようにすることが可能である。したがって、ポンプにおけるキャビテーションの問題を回避するために、開口部13の横断面寸法を自由に寸法設定することが可能である。
【0044】
別の利点は、外側公転歯車2、内側公転歯車4、および星型キャップ18の歯付き部19の径方向寸法を大きくすることにより変位が増大され得ることである。したがって、変位の増大は、ポンプの軸方向寸法に悪影響を及ぼさない。
【0045】
当然、ポンプまたはモータは、油圧機械の代わりに空気機械とすることができることになる。また、本明細書に記載されている個々の要素は、機能的に等価の要素に置き換えられることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車を備えた流体機械において、前記機械(1)が接続されている流体回路の低圧部および高圧部とそれぞれ連通している低圧室(46)および高圧室(48)が形成されている支持部(102、104)と、前記室(46、48)間で流体を移動させる動作部(100)とを備え、前記動作部は、前記支持部(102、104)の内部に取り付けられており、かつ、
第1の軸を中心に回転するようになされておりかつ第1の数の歯を備えた内側歯部(2A)を有する、外側歯車(2)と、
前記外側歯車(2)の軸方向空洞(25)の内部に収容されており、前記第1の軸と異なる第2の軸を中心に回転するようになされておりかつ一部のみ油圧シールを備えて前記外側歯車(2)の前記内側歯部(2A)と噛み合うようになされた第2の数の歯を備えた外側歯部(4A)を有する内側歯車(4)であり、両歯車(2、4)の前記歯は室(11)を画定しており、その容積は回転中に変化し、前記低圧室(46)および前記高圧室(48)の一方に接続されている機械入口から前記低圧室(46)および前記高圧室(48)の他方に接続されている機械出口まで、流体が通って移動する、内側歯車(4)とを備え、
前記内側歯車(2)および前記外側歯車(4)の一方(4)は、軸方向定位置に取り付けられており、他方の歯車(2)は、並進機構(8、22)に関連付けられており、前記並進機構(8、22)は、両歯車(2、4)の前記歯(2A、4A)が噛み合う領域の軸方向伸長部を変化させることによって前記機械の容量を変化させるために、軸方向定位置に取り付けられた前記歯車に対してその軸方向滑動を引き起こすようになされており、前記並進機構(8、22)は、前記高圧室(48)と連通している第1の容量調節空間(24)を画定し、かつ前記軸方向に滑動可能な歯車(2)を滑動させるために、前記第1の容量調節空間(24)内に存在する第1の圧力条件に応じて滑動するようになされており、
前記並進機構(8、22)は、前記機械の前記高圧室(48)と異なる、前記流体回路の要素の動作条件に依存する第2の圧力条件が存在する第2の容量調節空間(15)をさらに画定し、前記並進機構(8、22)は、前記第2の容量調節空間(15)内に存在する前記圧力条件、または、前記第1の容量調節空間(24)および前記第2の容量調節空間(15)内に存在する前記圧力条件の組合せのどちらかに応じて、前記支持部(102、104)内で軸方向に滑動可能であることを特徴とする、流体機械。
【請求項2】
請求項1に記載の機械において、エンジン、特に自動車のエンジンの潤滑回路内に接続されたポンプ(1)であり、前記第1の容量調節空間(24)は前記ポンプ(1)の送出側(44、48)と連通していることを特徴とする、機械。
【請求項3】
請求項1または2に記載の機械において、前記軸方向に滑動可能な歯車(2)は、前記並進機構(8、22)にしっかり接続されているかまたはそれと一体で形成されており、前記第1の容量調節空間(24)は、前記並進機構(8、22)の内部に形成された室であることを特徴とする、機械。
【請求項4】
請求項3に記載の機械において、前記並進機構(8、22)は、第1の軸方向端部に第1の閉鎖本体(22)をさらに備え、および前記第1の容量調節空間(24)を形成する前記室は、前記第1の閉鎖本体(22)と前記滑動可能な歯車(2)の前記軸方向空洞(25)の壁と前記空洞を閉鎖する本体(18)との間に画定されており、前記本体は、同じ前記空洞内の軸方向定位置に配置されており、かつ側面の一部の上方に、前記滑動可能な歯車(2)の前記歯部と補完的で、前記容量調節のために前記滑動可能な歯車(2)の滑動を可能にすると同時に前記可変容量室(11)を前記第1の容量調節空間(24)から分離するために、そのような歯部と密閉式に噛み合うようになされている外側歯部を有することを特徴とする、機械。
【請求項5】
請求項4に記載の機械において、前記並進機構(8、22)は、前記第1の閉鎖本体(22)の反対側のその端部に、第2の閉鎖本体(14)が軸方向定位置に受容される環状端部(8)を有すること、および前記第2の容量調節空間(15)は、前記環状端部(8)の縁部(8A)と、前記第2の閉鎖本体(14)と、前記支持部内に形成され、かつそのような環状端部(8)および前記第2の閉鎖本体(14)を受容する空洞(40)の壁との間に画定されることを特徴とする、機械。
【請求項6】
請求項5に記載の機械において、前記第2の閉鎖本体(14)は、前記機械(1)の最大容量を決定する前記並進機構(8、22)の休止位置では、前記滑動可能な歯車(2)の隣接する端部に当接するようになされており、前記休止位置に対して並進した前記並進機構(8、22)の位置では、前記滑動可能な歯車(2)のそのような端部と前記並進機構(8、22)の前記環状部(8)と共に、前記低圧室(46)と前記高圧室(48)との間に流体短絡を確立する二次室(29)を画定するようになされていることを特徴とする、機械。
【請求項7】
請求項2乃至6のいずれか一項に記載の機械において、前記第2の容量調節空間(15)は、前記エンジンから前記ポンプ(1)に送り戻された圧縮潤滑流体を受け入れるようになされており、前記並進機構(8、22)は、前記第1の容量調節空間(24)または前記第2の容量調節空間(15)内の前記潤滑流体の圧力が所定の閾値を超過した場合に前記滑動可能な歯車(2)を滑動させるようになされていることを特徴とする、機械。
【請求項8】
請求項2乃至6のいずれかに一項に記載の機械において、前記エンジンの前記動作条件に応じて前記ポンプ(1)の前記容量、したがって前記潤滑流体の流量を設定する外部管理論理に関連付けられていること、ならびに
前記ポンプ(1)の前記送出側(44、48)は、前記外部管理論理により制御される制御本体(120)に関連付けられた圧縮流体分配弁(110)に接続されており、かつ前記ポンプ(1)がその最大容量で動作する場合は第1の動作状態に、または前記ポンプ(1)の前記容量が変更される場合は第2の動作状態に、前記分配弁(110)を設定するようになされており、
前記第2の容量調節空間(15)は、前記分配弁(110)を介して、前記分配弁(110)の前記第1の状態では前記潤滑回路の低圧点、または前記分配弁(110)の前記第2の状態では前記ポンプ(1)の前記送出側(44、48)のどちらかと連通していることを特徴とする、機械。
【請求項9】
第1の軸を中心に回転するようになされておりかつ第1の数の歯(2A)を備えた内側歯部を有する外側歯車(2)と、前記外側歯車(2)の軸方向空洞(25)内に受容され、かつ前記第1の軸と異なる第2の軸を中心に回転するように作製されており、かつ一部のみ油圧シールを備えて前記外側歯車(2)の前記内側歯部(2A)と噛み合う第2の数の歯(4A)を備えた外側歯部を有する内側歯車(4)とを有する歯車を備えた流体機械(1)の容量を変化させ、両歯車(2、4)の前記歯は、回転中にその容積が変化しかつ機械入口から機械出口まで流体が通って移動する室(11)を画定する方法において、
前記機械(1)の高圧室(44、48)と連通している第1の容量調節空間(24)を作り出すステップと、
両歯車(2、4)の前記歯が噛み合う領域の軸方向伸長部を変化させるために、前記第1の容量調節空間(24)内に存在する第1の圧力条件に応じて、前記歯車の一方を他方に対して滑動させるステップとを有し、
第2の容量調節空間(15)を作り出すステップと、
前記第2の容量調節空間(15)内に、前記機械(1)が接続された流体回路の、前記高圧室(48)と異なる要素内に存在する動作条件に依存する第2の圧力条件を設定するステップと、
前記第2の容量調節空間(15)内に存在する前記圧力条件、または、前記第1の容量調節空間(24)および前記第2の容量調節空間(15)内に存在する前記圧力条件の組合せのどちらかに応じて、前記軸方向に滑動可能な歯車(2)を滑動させるステップとをさらに有することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、前記流体機械は、エンジン、特に自動車エンジンの前記潤滑回路内に接続されたポンプであること、および前記第2の容量調節空間(15)内に第2の圧力条件を設定する前記ステップは、前記エンジンからそのような第2の空間(15)まで圧縮潤滑流体を送り戻すこと、または前記エンジンの前記動作条件が前記ポンプ(1)の最大容量を要する場合は前記潤滑回路の低圧点、もしくは前記エンジンの前記動作条件が前記最大容量より小さい前記ポンプ(1)の容量を要する場合は前記ポンプ(1)の送出側(44、48)のどちらかに、前記第2の空間(15)を接続することの、どちらかによって実施されることを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−524205(P2012−524205A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505284(P2012−505284)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051621
【国際公開番号】WO2010/119411
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511153150)ブイエイチアイティー・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (3)
【Fターム(参考)】