説明

可変散布装置

【課題】GPSからの速度情報が得られない場合にも常に車速を正確に知ることができる散布装置を提供すること。
【解決手段】GPSから位置情報と速度情報を受信するGPS受信機78によりGPSから速度情報を得て、車速センサ37から車輪4又は5の回転数を検出し、両方の速度情報に基づき肥料散布装置1による肥料散布量を算出し、GPS速度情報が得られないときには、車速センサ37で得られる車速に基づき車速を算出して肥料散布量を決める乗用管理機である。そして肥料などの散布途中でGPSからの車速データが得られなくなっても、車速データを補正しながらスリップの影響が少なく精度良い散布作業を継続できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タンクに収容された粒状肥料や除草剤等を繰出装置で繰り出しながら、噴管によって圃場に散布する可変散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機体の前部に散布ブームを左右ローリング自在に支持して設け、この散布ブームから散布する粒状物の散布方向を車幅方向に対して前側又は後側に傾斜させることができるので、機体進行方向に対して直交する方向の水平位置に散布ブームを広げることができない場合に散布ブームを機体の進行方向に対して傾斜させている場合でも、的確に防除液を散布対象の作物に噴霧できるという散布装置があり、該散布装置の車速をGPSを利用する構成も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−120314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1記載の発明によれば、GPSアンテナと受信機を搭載して速度情報を検出し、これを車輪の駆動軸の回転数を車速センサにより測定した車速によって補正していた。
しかし、GPSからの速度情報が得られない場合に、例えば車輪がスリップしたときには車輪の駆動軸の回転数を測定する車速センサからの情報では正確な車速が分からないということがあった。
また、GPS受信機が衛星を捉えるまでの時間およびGPSアンテナと受信機の搭載機械が移動して位置情報から速度計算するまでの時間は速度データが得られないことがあった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、GPSからの速度情報が得られない場合にも常に車速を正確に知ることができる散布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題を解決するために次のような解決手段を採用する。
すなわち、請求項1記載の発明は、位置情報と速度情報をGPSから受信できるGPS受信機(78)と車輪(4又は5)の回転数を検出する車速センサ(37)と、肥料の散布を行う肥料散布手段(1)を備え、算出された車速の大小に基づき肥料の散布量を変更制御する可変散布装置において、GPSから得られる速度情報と、車速センサ(37)による車速パルスとを入力する車速算出手段(16)と該車速算出手段(16)により得られた算出速度に基づき肥料散布手段(1)による肥料散布量を算出する肥料散布量算出手段(17)を有する施肥用制御装置(15)を設け、該施肥用制御装置(15)の車速算出手段(16)は、GPS速度情報が得られないときには、車速センサ(37)で測定した車速に基づき車速を算出して肥料散布量算出手段(17)に算出車速データを送信する構成を備えた可変散布装置である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記施肥用制御装置(15)は、所定時間内のGPS速度情報の平均値と車速センサ(37)からの車速情報の平均値に基づきスリップ率を求め、該スリップ率を算入して車速を演算する構成を備えた請求項1記載の可変散布装置である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記施肥用制御装置(15)は、スリップ率が所定の値以上の時は、スリップ率を前記所定値のままにしておいて車速を演算する構成を備えた請求項1記載の可変散布装置である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、肥料などの散布途中でGPSからの車速データが得られなくなっても、車速データを補正しながらスリップの影響が少なく精度良い散布作業を継続できる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、GPS速度情報からの速度をそのまま使用しないため、廉価なGPS受信機78で構成可能になり、またGPS速度情報が検出できないときや誤差変動の影響を少なくすることができる。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、前記スリップ率が一定値(例えば20%)以上になった時は、該一定値に置き換えて車速計算を行う。スリップ率が大きく、前記一定値以上の状態にしておくと大きく速度変化(車速遅くなる)してしまうので、車速に比例する肥料などの散布量が適正でなくなる。そのため、スリップ率に制限をかけることにより、大きな速度変化を抑えて、例えば、肥料などの繰り出し用のロール回転数の大きな変動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態による散布装置を備えた乗用管理機の平面図である。
【図2】図1の散布装置を備えた乗用管理機の側面図である。
【図3】図1の散布装置を備えた乗用管理機の左右一対のタンクの背面図(図3(イ))と平面図(一部繰出部断面視図)(図3(ロ))と斜視図(図3(ハ))である。
【図4】図1の散布装置を備えた乗用管理機の背面図である。
【図5】本発明の肥料散布装置の制御ブロック図である。
【図6】図1の乗用管理機のGPS受信機と本機コントローラの制御ブロック図である。
【図7】図1の乗用管理機の肥料散布制御のフローチャートである。
【図8】図1の乗用管理機の肥料散布制御のフローチャートである。
【図9】図1の乗用管理機の肥料散布制御のフローチャートである。
【図10】図1の乗用管理機の肥料散布制御のフローチャートである。
【図11】図1の乗用管理機の肥料散布制御のフローチャートである。
【図12】図1の乗用管理機の肥料散布制御のフローチャートである。
【図13】図1の乗用管理機の車速データの入力開始のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいてこの発明の実施態様について説明する。
まず、図1と図2に示すように、粒状物散布装置1(以下、粒状物として肥料を例に説明するので肥料散布装置ということがある)は、乗用管理機2の後部に装着される。前部にエンジン3を搭載し、エンジン回転を適宜に変速して前後車輪4,5を伝動する乗用管理機2の機体の後部には、左右一対のタンク10,10を装着する。上記粒状物散布装置1は、該タンク10、繰出装置11、送風装置12、第1噴管13、第2噴管(ブーム)14、制御部15(図5)等からなる。但し図2には第2噴管14の図示を省略している。
【0014】
図3に左右一対のタンク10,10の背面図(図3(イ))と平面図(一部繰出部断面視図)(図3(ロ))と斜視図(図3(ハ))を示す。また、図4には粒状施肥装置を装着した乗用管理機2の背面図を示す。前記一対のタンク10,10のそれぞれに該タンク10から所定量の散布粒剤を繰出す繰出装置11が設けられる。繰出装置11は複数形態のロール20をロール駆動軸21に構成する公知の構成であり、繰出凹部を同じ容量として周方向に複数形成している。第1ロール20a及び第2ロール20bは軸長が長く、第3ロール20c及び第4ロール20dは軸長が短い構成としている。
【0015】
そして、ロール駆動軸21が正転駆動するときは、ワンウェイクラッチ22,22の連動作用をもって第1,第4ロール20a,20dが駆動されるため、第1〜第4ロール20a〜20dの全部が駆動される構成である。逆にロール駆動軸21が逆転駆動するときは、第1,第4ロール20a,20dは停止し、第2ロール20b,又は第3ロール20cが駆動される。
【0016】
一方、前記タンク10内は平面視コ型の仕切壁10aを備え、繰出装置11の第1ロール20a及び第2ロール20bに対応する区画A(図3(ハ))と第3ロール20c及び第4ロール20dに対応する区画B(図3(ハ))とに前記仕切壁10aで区分される構成となっている。区画Aは一般的な施肥粒剤用として、区画Bは少量散布が要求される除草剤用として使用されるよう設けられている。従って、ロール駆動軸21が正転するときは、第1ロール20a及び第2ロール20bが回転連動し区画Aの粒剤が多量繰出状態とされ、逆転するときは区画Aの第2ロール20bのみの繰出し状態となる。なお、区画Bに除草剤を投入するときは、この正逆で繰出量が異なり特に逆転連動によって第3ロール20cのみの少量散布がなされる。
【0017】
左右一対のロール駆動軸21,21はそれぞれに設けられたロール駆動モータ25L,25Rにて独立して駆動回転される構成であり、これらモータ25L,25Rは正・逆転切り替え連動する構成である。
【0018】
前記一対の繰出装置11,11の下方には機体進行方向に対して後側が互いに斜め内向きに延長された通気筒30,30をのぞませ、該通気筒30,30の連設部は送風装置12を備えた送風筒31(図2)に連通されている。そして各通気筒30,30の下流側他端、即ち機体前方側は第1噴管13に連通接続される構成である。
【0019】
上記送風装置12は、乗用管理機2のPTO軸32に電磁クラッチ12bを介して連動する送風ファン12aによって構成され、その噴風は前記送風筒31を経由して通気筒30に入り繰出肥料を気流に乗せて移送し第1噴管13,13に至る構成である。
【0020】
前記左右各第1噴管13は、前記タンク10と乗用管理機2機体の上部に設ける搭乗者用シート33との間の空間部に、筒状の軸芯が平面視において機体進行方向に対し外向きに傾斜するよう前記通気筒30に接続されており、左右それぞれの第1噴管13には蛇腹管40を介して屈曲自在に第2噴管14を接続する。
【0021】
即ち、蛇腹管40の先端に筒体42を設け、該筒体42はアーム体43を介して縦支軸44周りに回動自在に構成され、該アーム体43と機枠側から横に張り出して設ける支持ブラケット34との間に電動式の伸縮シリンダ45を介在し、電動モータ46の正転による短縮によって第2噴管14を作業姿勢となるよう横向きに拡げ、逆転による伸び出しによって第2噴管14を機体に沿う状態に収納する構成である。電動式伸縮シリンダ45による縦支軸44回りの回動支点を支持するブラケット35が機体に設けられている。
【0022】
電動モータ46の逆転に伴い、第2噴管(ブーム)14を機体に沿う状態に収納した時、縦支軸44回りの回動支点が機体側に接近する位置に配置することによって、収納状態の第2噴管14を機体側に接近させることができるので、平面視において、機体側に設ける昇降ステップ36の内側に収納することができ、収納時の機体への昇降が容易である。
【0023】
なお、電動式伸縮シリンダ45や電動モータ46は後輪5とタンク10との間に配設されている。走行中泥土が跳ね上げられるが、後輪5の内側に位置するため跳ね上げ箇所から回避でき電動式伸縮シリンダ45や電動モータ46への泥土付着による弊害を生じ難い。
【0024】
上記筒体42には横支軸47を設け、第2噴管(ブーム)14はこの横支軸47を介して連結されていて、上記収納姿勢への動きのほか、該横支軸47周りに回動させることによって上下に回動し得る構成である。即ち、左右それぞれの第1噴管13,13に立設するマスト部18,18(図4)と第2噴管14L,14Rとの間に、電動式伸縮シリンダ48L,48Rを設け、該伸縮シリンダ48の伸縮に基づき第2噴管14が本機に対して該横支軸47の回りに上下回動できローリング作動しうる構成である。
【0025】
また、手元の図外の操作レバーの操作に基づき左側又は右側の第2噴管14L,14Rを垂直姿勢(非作業姿勢)又は水平姿勢(作業姿勢)に切り替えることができる。前記第2噴管14には所定間隔毎に所定口径の噴口50,50…を形成している。
【0026】
次に上記構成の肥料散布装置1の施肥用制御部15について説明する。
図5の制御ブロック図に示すように、施肥用制御部15は、ロール駆動モータ25L,25Rのそれぞれに散布スイッチ51(機能は後述する。)の操作情報、ファンスイッチ52による送風ファン12aの駆動情報、前記タンク10に設ける残量センサ54の検出信号等を入力する一方、ロール駆動モータ25L,25Rのそれぞれへモータ回転出力パルス信号、モータ回転方向切替信号等を出力する。
【0027】
なお、散布スイッチ51がONすると、車速の有無に関係なく、左右のモータ25L,25Rの回転出力パルスを予め設定した最低回転数で駆動し、しばらく経って正規に車速が入力されるようになるとモータ回転は車速に連動するよう回転制御される。従って、作業開始時に停止状態であっても少量の散布が行えて無散布区間をなくすことができる。 上記施肥用制御部15は乗用管理機2の図示しない本機コントローラに接続され、後述のGPS速度データや車速センサ37からの速度データを受信できる構成としている。
【0028】
また、施肥用制御部15は、操作パネル(図示せず)に配設するスイッチ類の情報を入力する。図5の制御ブロックで示すが、操作パネルにおける液晶表示部56の近傍には、可変スイッチ57、施肥設定スイッチ58、増・減スイッチ59U,59D、累計リセットスイッチ60を配設し、これらの操作スイッチ信号は施肥用制御部15に入力される構成である。なお、液晶表示部56の表示内容は、施肥剤(又は除草剤)の散布に関する施肥量設定値、比重値、メモリー値、累計値をそれぞれ表示でき、表示切換スイッチ61のオン操作で順次切換表示すべく出力される。
【0029】
施肥用制御部15への入力により自動(制御)モードが作動する。即ち、キースイッチ62(図5)をオンすると共に前記散布スイッチ51をオンすると自動モードに入る。この自動モードは、単位面積当たりの施肥量が一定になるよう、施肥量設定値および車速に対応して繰出装置11のロール20を駆動する前記ロール駆動モータ25L,25Rそれぞれにモータ回転出力パルス(ロール駆動モータ回転信号)を出力する構成である。
【0030】
作業開始前に施肥設定スイッチ58をオンして現在設定の施肥量(反当り施肥量(kg))を表示させ、これからの作業に見合う施肥量であるか否か確認し、相違するときは増スイッチ59U又は減スイッチ59Dによって1kg単位で変更し、再度施肥設定スイッチ58を所定時間以上(例えば2秒以上)オンするとその値A(kg)が記憶される。
【0031】
次いで比重設定を行なう。表示切換スイッチ61をオンして「比重」を選択すると、現在の設定値が表示される。これからの作業に見合う比重値であるか否か確認し、相違するときは増スイッチ59U又は減スイッチ59Dによって0.01単位で変更し、再度施肥設定スイッチ58を所定時間以上(例えば2秒以上)オンするとその値D(g/cm3)が記憶される。
その後制御部15は、車速データを取り込みながら設定施肥量を散布するに必要な繰出装置11の繰出量制御を行う構成である。繰出量の増減制御は肥料散布量算出手段17により繰出ロール20の回転数を制御して行う。
【0032】
左ブーム散布レバー53Lと右ブーム散布レバー53Rにより、それぞれ左右の第2噴管14L,14Rが肥料又は除草剤の散布を行うために各第2噴管14L,14Rを肥料(又は除草剤)の散布すべき位置に移動させる。
前記図3の繰出装置11は、第1、第2の大ロール20a,20b、及び第3、第4の小ロール20c,20dからなり、通気筒30内における粉粒状物の繰出性の向上を図った改良構成を示すものである。すなわち、大ロール20a,20bと小ロール20c,20dによる散布を同時に行うことが可能であるが、このとき、タンク10内仕切壁10a内に少量散布の除草剤を充填し、タンク10には大量散布の肥料を充填する。除草剤は比重が大で重く、大量散布の肥料は比較的比重の軽い成分からなっているため、通気筒30内における送風搬送の先側に除草剤を繰出させ、後側に肥料を繰出すように構成している。このように構成することにより詰りを少なくさせることができる。
【0033】
図6に示すように、乗用管理機2の前記本機コントローラには、GPS受信機78が接続される。該GPS受信機78は、複数のGPS衛星からの信号を受信し、乗用管理機2の現在位置データとして記憶すると共に、時計回路で計測する所定時間毎に現在位置データを更新しながら移動距離を算出し、該時計回路による所定時間おきに速度、即ち車速を車速算出手段16により算出する構成としている。
【0034】
乗用管理機2に搭載して車速に連動して肥料を散布する肥料散布装置1において、設定施肥量と車速、散布剤の比重、散布幅設定、繰り出し用のロール20の単位吐出量等によりロール20の回転数を計算し、該ロール20a〜20dを左右に2セット設け、それぞれのロール20a〜20dを個別にモータ25L,Rで駆動して回転数制御を行うとき、乗用管理機2には、GPS受信機78と車速センサ37を搭載し、施肥装置の制御部15と前記本機コントローラとを接続することによって、GPS受信機78から得られる速度情報を車速としてロール回転数の計算に使用し、走行開始時にGPSからの速度情報が得られるまでは車速センサ37からの信号により車速を計算して使用する構成とする。
【0035】
なお、前記GPS受信機78はGPSからの車両速度情報と位置情報を得ることができる。このとき、第2噴管(ブーム)14を左右に広げて肥料などの散布を行うが、肥料などを搬送する送風ファン12aの動力は乗用管理機2のPTO軸32からとり、施肥量設定値に基づき、乗用管理機2の車速に応じて肥料繰り出し用のモータ25の回転速度(回転数)を変更する。
【0036】
前記肥料散布中にGPS受信機78からの車速データが得られないときは、車速パルスを読み込んで車速計算を行い、その車速をロール回転数計算に使用する。
【0037】
また、GPS位置情報から速度計算ができるようになると、車速センサ37で得られる車速を補正し、該補正値(VS’)を次式から求め、前記GPSからの速度情報で得られた車速として用いる。
図7に以上の場合の車速制御時の肥料の繰り出しモータ25の回転出力制御のためのフローチャートを示す。
VS’=N×K×(1−VS/VG)
ここで、N:車輪の回転数、K:係数、VS:車速センサ37での車速測定値、VG:GPSで得られる車速である。
なお、ここで(1−VS/VG)は車輪が回っているが肥料散布装置1が前に進まないスリップ状態を表し、(1−VS/VG)×100をスリップ率とする。
【0038】
こうして、肥料などの散布途中でGPSからの車速データが得られなくなっても、GPS受信機78が捉えてGPS位置情報から速度計算ができるまでの間は、肥料散布スイッチ51がオンとなると、すぐに車速センサ37の測定値に基づき肥料の散布作業を行うことができる。
また、前記GPS受信機78からの車速データから得られる平均値と車速センサ37から得られる車速データの平均値を比較して補正係数(スリップ率)を求めて、その補正係数に基づいて補正車速を計算し、その車速でロール回転数を精度高く制御できる。
【0039】
なお、一定時間経過してもGPSから車速情報が得られない時はブザー72で異常警報を出力する構成とする。
また、肥料の散布中にGPSからの車速情報が得られなくなった場合は、制御装置15のメモリに記憶している前回までの車速データを読み出し、該車速データに基づき繰り出しロール20の回転数を計算することで、肥料散布途中にGPSからの速度情報が得られなくなった場合でも作業を継続することが可能になる。
なお、前記前回までの車速データとは、肥料散布中にGPS受信機78からの速度情報から車速を計算したときの車速をメモリ内に保存しておいた車速データである。
【0040】
また、GPSからの車速情報を前記メモリに記憶しておき、GPSからの速度情報が得られないときの車速センサ37からの計算車速を補正する構成としても良い。この場合も、肥料散布途中にGPSからの速度情報が得られなくなっても肥料の散布作業を継続することが可能になり、かつ記憶しているGPS速度情報で車速パルスからの計算速度を補正することで速度の精度が向上する。
【0041】
なお、GPSからの速度情報が得られるようになると、当然、このGPSからの車速データを加味して補正した車速を求める。図8にこの場合の車速制御時の肥料の繰り出しモータ25の回転出力制御のためのフローチャートを示す。
【0042】
前記のように、(1−VS/VG)×100で得られるスリップ率を基に車速計算を行い、車速センサ37による車速計算時に、そのスリップ率を使用して車速計算を行う構成とすると、高精度の車速を算出できる。
【0043】
なお、スリップ率は、一定時間毎にGPSからの速度情報の平均値(VGA)と車速パルスからの計算速度平均値(VS)から算出し、その値で車速センサ37からの計算速度を補正することでより精度の高い車速が得られる。図9にスリップ率を求めた後に肥料繰り出し用のロール20のモータ回転出力を算出するフローチャートを示す。
【0044】
また、図9等のフローチャートで「ロール判定」とあるのは設定した施肥量に応じて肥料の繰出量を変化させるために、図3のロール20a〜20dのうちのどれを使用するかを予め決めているので、それを識別するステップである。
【0045】
このように、GPS速度情報からの速度をそのまま使用しないため、廉価なGPS受信機78で構成可能になり、またGPS速度情報が検出できないときや誤差変動の影響を少なくすることができる。
【0046】
また、前記スリップ率が一定値(例えば20%)以上になった時は、該一定値に置き換えて車速計算を行う。これは、スリップ率が大きく、速度変化(車速遅くなる)してしまうので、車速に比例する肥料の散布量が適正でなくなる。そのため、スリップ率に制限をかけることにより、大きな速度変化を抑えて、ロール回転数の大きな変動を抑えることができる。
【0047】
また、前記スリップ率を考慮して肥料散布をしている途中でGPSからの車速情報が得られなくなったときはブザー72で警報を発して予め決めているスリップ率で車速を求め、該車速に基づき施肥量を決める。図10に、この場合の車速制御時の肥料繰出用のモータ25の回転出力制御のためのフローチャートを示す。
【0048】
また、肥料散布をしている途中でもGPSからの車速情報は得られるが、一定時間以上車速センサ37からの信号が得られなくなったときは車速センサ37が異常である旨の警報を発してオペレータにブザー72で異常を知らせ、該GPSから得られた車速に基づき施肥量を決める。図11にこの場合の車速制御時の肥料の繰り出しモータ25の回転出力制御のためのフローチャートを示す。図11のフローに示すように、車速センサ37に故障があると、それ以後はスリップ率を計算しないで車速を求める。
【0049】
前記図10,図11に示すフローではブザー72で警報を発することで、オペレータは異常を知ることができるので、それ以降の肥料散布作業状態を知り、その対策を講ずることができる。
【0050】
またGPS受信機78が乗用管理機1に装着されていることを入力できる機器を設けておき、GPS受信機78の装着時の入力信号のオンオフに応じて前記スリップ率を車速の算出に入れるかどうか区別できる構成とすることができる。
【0051】
スリップ率を考慮した車速を算出する場合を車速高精度検出モードとし、スリップ率を考慮に入れないで車速を算出する場合は、従来タイプの場合を簡易車速検出モードとし、使い分けが可能になる。また、この構成の場合はGPS受信機78をオプションとして後付けで散布装置1に簡単に装着できるようになる。図12にこの場合の車速制御時の肥料の繰り出しモータ25の回転出力制御のためのフローチャートを示す。
【0052】
また、GPS受信機78への電源供給は散布装置1のキーオンと同時に行い、受信機78からの車速情報の取り込みは車速パルスが検出されたときに開始する構成とすることができる。図13に、この場合のタイムチャートに示すように、GPSによる車速データの取り込みは、車速パルスが入力されてからとし、又は散布スイッチ51がONされてからとする。
【0053】
こうして肥料の散布開始までにGPS受信機78の衛星捕捉までの時間を確保することができ、肥料散布開始当初からGPSから車速情報を得ることが可能となり、また散布装置1が走行を開始するとともに車速データを読み取ることができる。
【0054】
また、GPS受信機78の衛星捕捉までは、予め決めてある基準車速でロール回転数を計算する構成とする。このような制御にするとGPSから車速データが得られない間にも肥料散布スイッチ51がオンするとすぐに肥料散布作業を始めることができる。
【0055】
一般に散布装置1は圃場を直進走行しながら施肥を行い、圃場の端で旋回して前記直進走行した行程に並行する次の直進走行用の行程を逆向きに進んで、この直進走行と旋回走行を繰り返して予定する圃場全域に施肥をする。
【0056】
このとき、前記GPSからの速度情報を加味したスリップ率を考慮に入れた車速に基づいて繰り出し用のロール20の駆動モータ25の回転出力値により圃場に施肥するが、前記スリップ率を考慮に入れた車速として、散布開始後の最初の旋回までの直進走行する一行程中に得られた前記スリップ率を算入した車速に基づき、予定する圃場での肥料繰り出し用のロール20の駆動モータ25の回転出力値を用いて肥料散布を行う。
【0057】
これは圃場での直進走行する一行程時のスリップ率で、その後の車速計算の補正を行うことにより、散布中の車速変動による肥料散布量の変化を小さく抑えることができ、肥料散布のばらつきを平均化できる。
【0058】
また逆に、圃場での直進走行する一行程毎に前記スリップ率を求め、該スリップ率を基に次行程での車速を計算することで、肥料散布中の実車速を検出しつつ肥料散布の変動を抑えることができるので、この場合は肥料散布精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、自走型散布機を備えた肥料などを散布する作業車に限らず、他の肥料などを散布する作業車にも利用可能性がある。
【符号の説明】
【0060】
1 粒状物散布装置 2 乗用管理機
3 エンジン 4 前輪
5 後輪 10 タンク
10a 仕切壁 11 繰出装置
12 送風装置 12a 送風ファン
12b 電磁クラッチ 13 第1噴管
14 第2噴管(ブーム) 15 制御部(コントローラ)
16 車速算出手段 17 肥料散布量算出手段
18 マスト部 20 ロール
21 ロール駆動軸 22 ワンウェイクラッチ
25 ロール駆動モータ 30 通気筒
31 送風筒 32 PTO軸
33 搭乗者用シート 34 支持ブラケット
35 ブラケット 36 昇降ステップ
37 車速センサ 40 蛇腹管
42 筒体 43 アーム体
44 縦支軸 45 伸縮シリンダ
46 電動モータ 47 横支軸
48 電動式伸縮シリンダ 49 傾斜センサ
50 噴口 51 散布スイッチ
52 ファンスイッチ 53 ブーム散布レバー
54 タンク残量センサ 56 液晶表示部
57 可変スイッチ 58 施肥設定スイッチ
59U,59D 増・減スイッチ
60 累計リセットスイッチ
61 表示切換スイッチ 62 キースイッチ
72 ブザー 78 GPS受信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置情報と速度情報をGPSから受信できるGPS受信機(78)と車輪(4又は5)の回転数を検出する車速センサ(37)と、肥料の散布を行う肥料散布手段(1)を備え、算出された車速の大小に基づき肥料の散布量を変更制御する可変散布装置において、
GPSから得られる速度情報と、車速センサ(37)による車速パルスとを入力する車速算出手段(16)と該車速算出手段(16)により得られた算出速度に基づき肥料散布手段(1)による肥料散布量を算出する肥料散布量算出手段(17)を有する施肥用制御装置(15)を設け、
該施肥用制御装置(15)の車速算出手段(16)は、GPS速度情報が得られないときには、車速センサ(37)で測定した車速に基づき車速を算出して肥料散布量算出手段(17)に算出車速データを送信する構成を備えたことを特徴とする可変散布装置。
【請求項2】
前記施肥用制御装置(15)は、所定時間内のGPS速度情報の平均値と車速センサ(37)からの車速情報の平均値に基づきスリップ率を求め、該スリップ率を算入して車速を演算する構成を備えたことを特徴とする請求項1記載の可変散布装置。
【請求項3】
前記施肥用制御装置(15)は、スリップ率が所定の値以上の時は、スリップ率を前記所定値のままにしておいて車速を演算する構成を備えたことを特徴とする請求項1記載の可変散布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−187558(P2010−187558A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32982(P2009−32982)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】