説明

合成樹脂製壜体及びその製造方法

【課題】 本発明の技術的な課題は、ポリエチレンテレフタレート樹脂系の2軸延伸ブロー成形による広口ボトルの耐熱性あるいは生産性を向上するための壜体構造あるいは製造方法を創出する点にある。
【解決手段】 PET系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体において、口筒部は、胴部と同様に試験管状のプリフォームの径を2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成したもので、前記延伸と金型温度を前記PET系樹脂の熱結晶化温度領域の所定の温度に設定することにより、口筒部の密度を1.368g/cm以上とする、あるいは口筒部の示差走査熱量測定(DSC)の定速昇温測定における結晶化に伴う発熱ピークから算出される結晶化エンタルピー△Hcの絶対値及び、融解に伴う吸熱ピークから算出される融解エンタルピー△Hmの比率(|△Hc|/△Hm)を0.1より小さくする、と云うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による広口の口筒部を有する合成樹脂製壜体及びその製造方法に関するものである。

【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高温での充填、あるいは殺菌等の熱処理工程を要する製品、たとえばお茶、果汁飲料用等に使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製の2軸延伸ブロー成形壜体(以下、ペットボトルと記載する場合がある。)についての記載がある。このように、お茶、果汁飲料等の(80〜90℃程度)での充填(以下、高温充填と記す。)あるいは熱処理工程のある製品向けのペットボトルでは熱結晶化処理により耐熱変形性が改良された、所謂、耐熱口筒部が使用される。たとえば特許文献2には赤外線ヒータを使用した口筒部の熱結晶化処理方法についての記載がある。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−058527号公報
【特許文献2】特公昭61−24170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、2軸延伸ブロー成形壜体では通常、プリフォームの口部を延伸することなしに、プリフォームの口部の形状がそのまま壜体の口筒部となるので、そのままでは、高温充填工程等での高温下では口筒部が収縮あるいは変形してキャップによるシール性と云う壜体として基本的に要求される性能が損なわれてしまう恐れがあるので、肉厚を厚くすると共に前述したように熱結晶化により耐熱性を付与する必要がある。
【0005】
一方で、壜体の用途によって口筒部の口径を大きくした、所謂、広口ボトルの場合には、肉厚にすると口径が大きな分、使用する樹脂量が多くなり、材料コスト、省資源の点から問題となる。
またプリフォームの口部の口径を大きくすると、射出成形機の金型用盤面の制約から、一度の射出成形により成形可能なプリフォームの個数が少なくなると云う、生産性の低下の問題もある。
【0006】
本発明の技術的な課題は、上記したPET樹脂系の2軸延伸ブロー成形による広口ボトルの耐熱性あるいは生産性を向上するための壜体構造あるいは製造方法を創出する点にある。

【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術課題を解決するための、まず本発明の壜体に係る主たる構成は、
PET系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体において、
口筒部は、胴部と同様に試験管状のプリフォームの径を2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成したもので、
前記延伸と、金型温度を前記PET系樹脂の熱結晶化温度領域の所定の温度に設定することにより、口筒部の密度を1.368g/cm以上とする、と云うものである。
【0008】
上記、構成の壜体の口筒部は胴部と同様に延伸工程により配向結晶化し、この配向結晶化により生成した微結晶を核として、さらにPET系樹脂の熱結晶化温度領域の所定の温度に設定された金型に接触することにより、さらに結晶化を均一にかつ十分促進させて密度を1.368g/cm以上としたものであり、口筒部の肉厚が比較的薄肉であっても、高温充填工程における耐熱性が発揮される。
【0009】
そして、前述した広口ボトルの口筒部の広口化に起因する材料コストや省資源の問題を解消することが可能となると共に、小口径のプリフォーム使用することができるので金型盤面の制約に係る生産性低下の問題を解決することも可能となる。
【0010】
上記構成の口筒部の密度は、この口筒部が延伸形成され、比較的高温に設定された金型により形成されると云う二つの要件が相俟って、2軸延伸ブロー成形と同時に結晶化を均一に進行させて密度を1.368g/cm以上とすることができる。
ここで、口筒部の延伸倍率は胴部等に比較して小さくなるので、延伸だけでは十分に密度を高くすることはできないし、一方、金型温度を高温にしても金型からの加熱だけでは、2軸延伸ブロー成形の生産性を損なうことなく、短時間内で密度を高くすることは困難である。
【0011】
なお、PET系樹脂の熱結晶化温度領域は、示差走査熱量測定(DSC)の定速昇温測定により、略80〜180℃の温度範囲に現れる結晶化に伴う発熱ピークが現出する温度範囲を示す。
【0012】
本発明の壜体に係る他の構成は、上記主たる構成において、口筒部の密度を1.370g/cm以上とする、と云うものである。
【0013】
上記構成により、口筒部の密度を1.370g/cm以上とすることにより、さらに十分な耐熱性を付与することができる。
【0014】
本発明の壜体に係る他の主たる構成は、
PET系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体において、
口筒部は、胴部と同様に試験管状のプリフォームの径を2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成したもので、
延伸と、金型温度をPET系樹脂の熱結晶化温度領域の所定の温度に設定することにより、口筒部の示差走査熱量測定(DSC)の定速昇温測定における結晶化に伴う発熱ピークから算出される結晶化エンタルピー△Hcの絶対値及び、融解に伴う吸熱ピークから算出される融解エンタルピー△Hmの比率(|△Hc|/△Hm)を0.1より小さくする、と云うものである。
【0015】
上記構成は結晶化エンタルピー△Hc及び融解エンタルピー△Hmを、口筒部における結晶化の進行程度を表す指標としたものである。
ここで、示差走査熱量測定(DSC)によるこの△Hc、△Hmの測定方法は次のようなものである。
(1)口筒部からサンプルを採取して試料パンにセットする。
(2)一定速度(10℃/分)で20℃から300℃まで昇温させて、略80〜180℃の温度範囲に現れる結晶化に伴う発熱ピークの面積から△Hcを、略170〜260℃の温度範囲に現れる融解に伴う吸熱ピークの面積から△Hmを算出する。
【0016】
ここで、延伸と金型温度の高めの設定により口筒部の結晶化が十分に進行していれば、上記のような測定条件ではさらなる結晶化がほとんど進行しないので、△Hcの絶対値はゼロに近い値となり、そして、|△Hc|/△Hmの値を0.1より小さくすることにより、高温充填工程において耐熱性を発揮させることができる。
【0017】
本発明の壜体に係る他の構成は、口筒部の平均肉厚を0.6〜1.8mmの範囲とする、と云うものであり、本発明の壜体は口筒部の肉厚が比較的薄肉で0.6〜1.8mmの範囲であっても、十分な耐熱性を発揮させることができる。
なお、従来の通常のペットボトルの口筒部の肉厚は2mm程度である。
【0018】
次に本発明の製造方法に係る主たる構成は、
PET系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体の製造方法であり、
試験管状のプリフォームを用い、
ブロー成形金型の壜体の口筒部を形成する部分の金型温度を熱結晶化温度領域の所定の温度に設定し、
胴部と同様に口筒部を、予熱した試験管状のプリフォームの径を2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成し、
口筒部における延伸倍率と金型温度の設定を、口筒部の結晶化の進行程度の指標である密度が所定の値以上になるように調整する、と云うものである。
【0019】
上記構成の製造方法によれば、結晶化の進行の程度を表す密度を指標として延伸の程度と金型温度の設定を調整することにより、延伸の程度と金型温度を高くすると云う二つの要件が相俟って、従来のように赤外線ヒータ等による熱結晶化処理工程によることなく、2軸延伸ブロー成形と同時に高い生産性で口筒部の結晶化を進行させて耐熱性を付与することができる。
【0020】
ここで、延伸倍率と金型温度の組み合せは、口筒部の口径とプリフォームの口径の組み合せ、プリフォームの射出成形の生産性、2軸延伸ブロー成形の生産性等を考慮して適宜選択することができる。
【0021】
本発明の製造方法に係る他の主たる構成は、
PET系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体の製造方法であり、
試験管状のプリフォームを用い、
ブロー成形金型の壜体の口筒部を形成する部分の金型温度をPET系樹脂のの熱結晶化温度領域の所定の温度に設定し、
胴部と同様に口筒部を、予熱した試験管状のプリフォームの径を2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成し、
口筒部における延伸倍率と金型温度の設定を、口筒部の結晶化の進行程度の指標である示差走査熱量測定(DSC)の定速昇温測定における結晶化に伴う発熱ピークから算出される結晶化エンタルピー△Hcの絶対値及び、融解に伴う吸熱ピークから算出される融解エンタルピー△Hmの比率(|△Hc|/△Hm)が所定の値以下となるように調整する、と云うものである。
【0022】
上記構成は結晶化エンタルピー△Hcを、口筒部における結晶化の進行程度を表す指標としたものである。
【0023】
本発明の製造方法に係る他の構成は、口筒部を形成する部分の金型温度を135℃以上の温度に設定する、と云うものである。
【0024】
金型温度をどの程度にまで高温にするかは口筒部の延伸倍率や、二軸延伸ブロー成形の生産性等を考慮して適宜決めることができるものであるが、口筒部の延伸倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)が数倍程度であっても、金型温度を135℃以上とすることにより高温充填工程の高温下において耐熱性を発揮させることができる。
ここで、従来の口筒部の熱結晶化処理は赤外線ヒータ等を用いて200℃程度の高温で実施されるものであるが、本発明の製造方法によれば比較的低温の135℃程度の温度で結晶化を短時間に進行させることが可能である。
【0025】
本発明の製造方法に係るさらに他の構成は、2軸延伸ブロー成形により試験管状のプリフォームから壜体の口筒部を延伸形成し、最終成形品である壜体を得るための方法に係るものであり、
プリフォームを円筒状の胴部の上端部にネックリングを配設した口部を有する形状とし、この口部を利用してプリフォームを金型内に固定し、プリフォームの胴部と底部を2軸延伸して、壜体の口筒部、肩部、胴部、および底部を形成し、その後壜体の口筒部の上端面の上方に一体連結される前記プリフォームの口部を含む部分を切除する、と云うものである。
【0026】
ここで、本発明に使用するPET系樹脂としては、主としてPET樹脂が使用されるが、PET樹脂の本質が損なわれない限り、エチレンテレフタレート単位を主体として、他のポリエステル単位を含む共重合ポリエステルも使用できると共に、たとえば耐熱性を向上させるためにナイロン系樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等の樹脂を少量ブレンドして使用することもできる。共重合ポリエステル形成用の成分としては、たとえばイソフタル酸、ナフタレン2,6ジカルボン酸、アジピン酸等のジカルボン酸成分、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等のグリコール成分を挙げることができる。
【0027】
さらには、本発明のPET系樹脂製壜体は、PET樹脂製壜体としての本質が損なわれない限り、たとえば耐熱性、ガスバリア性の向上のためにPET樹脂/ナイロン樹脂/PET樹脂のようにナイロン樹脂等の中間層を有したものであっても良い。

【発明の効果】
【0028】
本発明は上記した構成を有する合成樹脂製壜体及びその製造方法であり、以下に示す効果を奏する。
まず、本発明の主たる構成を有する合成樹脂製壜体にあっては、壜体の口筒部は胴部と同様に2軸延伸により配向結晶化し、この配向結晶化により生成した微結晶を核として、さらに高温に設定した金型温度により結晶化を均一に進行させて、密度を1.368g/cm以上、あるいは結晶化エンタルピー△Hcの絶対値及び融解エンタルピー△Hmの比率(|△Hc|/△Hm)を0.1より小さくしたものであり、肉厚が比較的薄肉であっても高温充填工程等の高温下にあって、収縮や変形を抑制することができ、耐熱性を付与することができる。
【0029】
また、本発明の製造方法にあっては、結晶化の進行の程度を表す密度あるいは結晶化エンタルピー△Hcを指標として延伸程度と金型温度の設定を調整することにより、延伸と金型温度を高くすると云う二つの要件が相俟って、従来のように赤外線ヒータ等による熱結晶化処理工程によることなく、2軸延伸ブロー成形と同時に高い生産性で口筒部の結晶化を進行させて耐熱性を付与することができる。

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の合成樹脂製壜体の一実施例を示す正面図である。
【図2】図1の壜体の中間成形品の一例を示す正面図である。
【図3】金型温度と口筒部の密度、結晶化エンタルピーあるいは寸法変化率の関係を示す表1である。
【図4】DSC測定の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を実施例に沿って図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の合成樹脂製壜体の一実施例を示す正面図であり、また図2は図1の壜体の前駆体である中間成形品の一例を示す正面図である。
この壜体1はPET樹脂製の2軸延伸ブロー成形によるものであり、広口の口筒部2、肩部3、胴部4そして底部5を有し、胴部4には周壁の剛性及び座屈強度を高くするための周溝リブ6が5ケ配設されている。
【0032】
この壜体1の主たる寸法と容量は次の通りである。
口筒部外径59.61mm、口筒部平均肉厚1.05mm、胴部外径90.5mm、胴部平均肉厚0.43mm、全高さ147.76mm、容量725ml
【0033】
次に、本発明の製造方法の一実施例である上記壜体1の製造方法について説明する。
まず、本発明の製造方法の概略は、図2中、胴部24から底部25にかけての部分を二点鎖線で描いたプリフォーム21を2軸延伸ブロー成形して中間成形品11を成形し、その後この中間成形品11の上部に位置する切除部Cを切除して壜体1を製造する、と云うものである。そして本発明の製造方法の特徴は口筒部2を、延伸工程で胴部4と共に縦横に延伸して成形すると共に、この口筒部2を形成する金型部分の温度を比較的高く設定し、これら両要件により口筒部2の結晶化を十分に進行させる点にある。
【0034】
ここで、プリフォーム21は、従来から一般的に用いられているプリフォームを利用したもので、全体としては試験管状で、上部に螺条22bを下部にネックリング22eを配設した口部22、円筒状の胴部24そして半球殻状の底部25を有する。このプリフォーム21の主たる寸法等は次の通りである。
胴部平均肉厚4.2mm、胴部外径33mm、ネック下高さ97mm
【0035】
中間成形品11は最終成形品となる壜体1部分と、切除される切除部分Cを一体連結した形状をしており、プリフォーム21の口部22の直下には、2軸延伸ブロー成形によりプリフォーム21の胴部24の上端部を拡径して形成されたテーパー筒状の延伸連結部13を有し、この延伸連結部13がプリフォーム21の口部22と壜体1の口筒部2を一体連結している。
また、この延伸連結部13の下端部には切除部分Cの切除をスムーズに実施できるようにガイド周溝14が形成されている。
また、テーパー筒状の延伸連結部13により口筒部2の拡径状の延伸をスムーズに達成することができる。
【0036】
そして、壜体1部分の口筒部2は、2軸延伸ブロー工程で胴部4と共に縦横に延伸された部分であり、本実施例での縦×横の延伸倍率の値は4倍程度である。因みに胴部4の延伸倍率は6倍程度である。
また、本実施例における2軸延伸ブロー成形の主たる成形条件では、プリフォーム11の予熱温度を120℃とし、胴部4、底部5を形成する部分の平均的な金型温度を130℃としている。
【0037】
そして、図3の表1は、壜体1の口筒部2を形成する部分の金型温度を、110℃、118.5℃、135℃、149℃、167℃とした際の、口筒部2の物性(平均密度、高温化での寸法変化率、結晶化エンタルピー|△Hc|/融解エンタルピー△Hm)を測定した結果を示すものである。
ここで、各物性の測定条件は次の通りである。
(1)密度は、口筒部2のリップ部2a、ネジ部2b、ビード下部2d、ネックリング部2e(図1参照)の各箇所からサンプリングし、JISK7112の測定方法に沿って密度を測定し、平均値を算出した。
(2)結晶化エンタルピー△Hc及び融解エンタルピー△Hmは密度と同様に口筒部2の各箇所かサンプリングして試料パンにセットし、一定速度(10℃/分)で20℃から300℃まで昇温させて、略80〜180℃の温度範囲に現れる結晶化に伴う発熱ピークの面積から△Hcを、略170〜260℃の温度範囲に現れる融解に伴う吸熱ピークの面積から△Hmを求め、平均値を算出した。
(3)高温化での寸法変化率は、高温充填工程を想定して壜体内に90℃の水を充填する耐熱試験を実施し、その充填前後の外径の変化率を、口筒部2のリップ部2a、ネジ部2b、ビード下部2d、ネックリング部2eの各箇所において測定し、平均値を算出した。
ここで、上記口筒部の外径の変化率とキャップによるシール性の関係を検討すると、耐熱口筒部としての性能が発揮されるためには寸法変化率を0.25%未満とする必要があり、さらに0.2%以下とすることにより、より確実にシール性が発揮される。
【0038】
また、図4はDSC測定の例を示すグラフであり、Aは図3の表1の金型温度118.5℃の口筒部1から採取したサンプルの測定結果、Bは金型温度149℃の口筒部1から採取したサンプルの測定結果である。
測定結果Aについてみると、20℃から一定速度(10℃/分)で昇温すると、80℃近傍から結晶化が開始し、150℃近傍でこのピークが終了する。さらに昇温を続けると190℃近傍から結晶の融解が開始し、260℃近傍でこのピークが終了する。そして、上記ピークの面積(図中ハッチングで示した部分の面積)から結晶化エンタルピー△Hc及び融解エンタルピー△Hmを算出することができる。
【0039】
一方、金型温度を149℃としたサンプルでは、すでに結晶化が十分に進行しているために測定結果Bでは、発熱ピークが現出していない。
なお、結晶化エンタルピー△Hcは発熱ピークに基づくものであり、通常マイナスで記載するが、結晶化の進行の指標として本発明では絶対値である|△Hc|を用いている。
また、135℃、149℃において今回のDSC測定条件では発熱ピークが現出していないため、表1での測定結果は0として表示している。なおこのため167℃のサンプルについてのDSC測定は割愛した。
【0040】
次に、図3の表1から次のようなことが分かる。
(1)110℃〜167℃の範囲で金型温度を高くすると、密度が大きくなり、口筒部の寸法変化率が小さくなる。
(2)110℃〜149℃の範囲で金型温度を高くすると、|△Hc|が小さくなり、口筒部の寸法変化率が小さくなる。
(3)上述したように、キャップによるシール性の保持と云う観点から、口筒部2の外径の寸法変化率が0.25%未満であることが耐熱性の基準となり、この基準から密度を1.368g/cm以上とする、また|△Hc|/△Hmを0.1より小さくすると云うのが耐熱性口筒部の基準となる。
(4)また、口筒部の延伸倍率が本実施例のように4倍程度の場合には金型温度を135℃以上とすることにより上記基準を達成することができる。
【0041】
以上、本発明の構成とその作用効果を実施例に沿って説明したが、本発明の実施の形態は上記実施例に限定されるものではない。
たとえば上記実施例では容量が725mlの丸形壜体について説明したが、角形壜体、またさらに小型、さらに大型の壜体についても適用することができる。
また、上記実施例ではPET樹脂製の壜体について説明したが、前述したように、PET樹脂の本質が損なわれない範囲で、他の成分を共重合、あるいはブレンドしたPET系樹脂にも適用することができる。
また、図2に示した切除部分Cの形状もプリフォームの生産性や、切除に係る設備や生産性を考慮して、適宜の形状とすることができる。

【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明したように本発明の2軸延伸ブロー成形によるPET樹脂系の壜体は、材料コストの増加や、生産性の低下を抑制しながら、広口の耐熱口筒部を実現したものであり、高温充填を必要とする用途等への幅広い利用展開が期待される。

【符号の説明】
【0043】
1 ;壜体
2 ;口筒部
2a;リップ部
2b;ネジ部
2c;ビード部
2d;ビード下部
2e;ネックリング
3 ;肩部
4 ;胴部
5 ;底部
6 ;周溝リブ
11;中間成形品
13;延伸連結部
14;ガイド周溝
21;プリフォーム
22;口部
22b;螺条
22e;ネックリング
24;胴部
25;底部
C ;切除部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体であり、口筒部は、胴部と同様に試験管状のプリフォームの径を前記2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成したもので、前記延伸と金型温度を前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂の熱結晶化温度領域の所定の温度に設定することにより、前記口筒部の密度を1.368g/cm以上としたことを特徴とする合成樹脂製壜体。
【請求項2】
口筒部の密度を1.370g/cm以上とした請求項1記載の合成樹脂製壜体。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体であり、口筒部は、胴部と同様に試験管状のプリフォームの径を前記2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成したもので、前記延伸と金型温度を前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂の熱結晶化温度領域の所定の温度に設定することにより、前記口筒部の示差走査熱量測定(DSC)の定速昇温測定における結晶化に伴う発熱ピークから算出される結晶化エンタルピー△Hcの絶対値及び、融解に伴う吸熱ピークから算出される融解エンタルピー△Hmの比率(|△Hc|/△Hm)が0.1より小さくしたことを特徴とする合成樹脂製壜体。
【請求項4】
口筒部の平均肉厚を0.6〜1.8mmの範囲とした請求項1、2または3記載の合成樹脂製壜体。
【請求項5】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体の製造方法であり、試験管状のプリフォームを用い、ブロー成形金型の前記壜体の口筒部を形成する部分の金型温度を前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂の熱結晶化温度領域の所定の温度に設定し、胴部と同様に口筒部を、予熱した試験管状のプリフォームの径を2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成し、前記口筒部に係る延伸倍率と金型温度の設定を、口筒部の結晶化の進行程度の指標である密度が所定の値以上になるように調整することを特徴とする合成樹脂製壜体の製造方法。
【請求項6】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂製の2軸延伸ブロー成形による合成樹脂製壜体の製造方法であり、試験管状のプリフォームを用い、ブロー成形金型の前記壜体の口筒部を形成する部分の金型温度を前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂の熱結晶化温度(Tc)以上の所定の温度に設定し、胴部と同様に口筒部を、予熱した試験管状のプリフォームの径を2軸延伸ブロー成形の延伸工程により拡径して形成し、前記口筒部に係る延伸倍率と金型温度の設定を、口筒部の結晶化の進行程度の指標である前記口筒部の示差走査熱量測定(DSC)の定速昇温測定における結晶化に伴う発熱ピークから算出される結晶化エンタルピー△Hcの絶対値及び、融解に伴う吸熱ピークから算出される融解エンタルピー△Hmの比率(|△Hc|/△Hm)が所定の値未満となるように調整することを特徴とする合成樹脂製壜体の製造方法。
【請求項7】
口筒部を形成する部分の金型温度を135℃以上の温度に設定した、請求項5または6記載の合成樹脂製壜体の製造方法。
【請求項8】
プリフォームを円筒状の胴部の上端部にネックリングを配設した口部を有する形状とし、該口部を利用してプリフォームを金型内に固定し、前記プリフォームの胴部を2軸延伸して、壜体の口筒部、肩部、胴部、および底部を形成し、その後壜体の口筒部の上端面の上方に一体連結される前記プリフォームの口部を含む部分を切除する請求項5、6または7記載の合成樹脂製壜体の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−51604(P2011−51604A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200443(P2009−200443)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】