説明

同軸ケーブル

【課題】スリーブの挿入性向上を図るとともに冷熱衝撃による減衰量の低下防止を図ることが可能な同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】同軸ケーブル1は、内部導体2を被覆する内部絶縁体3と、この内部絶縁体3を覆う金属箔付きフィルム4との間に、これらを融着により略密着状態にする部分を形成してなる。融着により略密着状態にする部分は、内部絶縁体3の軟化点よりも高い温度で押し出されるシース6の熱10を内部絶縁体3に伝えることにより形成される。具体的に、同軸ケーブル1は、シース6の押出成形に係る熱10が内部絶縁体3に伝わると、内部絶縁体3と金属箔付きフィルム4の樹脂フィルム部9との間に融着部7が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体の外側に金属箔付きフィルムを有する同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、自動車や電子機器に用いられる同軸ケーブルの技術が開示されている。同軸ケーブルは、中心導体と、この中心導体を覆う絶縁体と、絶縁体を覆う金属樹脂複合テープと、この金属樹脂複合テープを覆う外部導体と、外部導体を覆うシースとを備えて構成されている。金属樹脂複合テープは、樹脂層と、この樹脂層の両面に設けられる金属層と、樹脂層及び金属層を固定する接着層とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−265797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同軸ケーブルの端末にコネクタを設ける場合、先ず所定の長さでシースや絶縁体の除去作業を行い、次に中心導体とインナー端子と接続するとともに、外部導体とシールド端子とを接続する作業を行う。特許文献1の同軸ケーブルであれば、シールド部分として外部導体と金属樹脂複合テープとを有することから、これらの間にシールド端子の金属円筒状となるスリーブを挿入し、そして、外部導体の外側からリング部材を用いて加締めを施すことにより接続が完了する。
【0005】
ところで、スリーブを外部導体と金属樹脂複合テープとの間に挿入するにあたり、金属樹脂複合テープが絶縁体から浮き上がった状態になっていると、この浮き上がった状態の部分にスリーブが引っ掛かり、所定位置までスリーブの挿入が行えないという問題点を有している。スリーブの挿入が確実に行えないと、この後の加締めを良好に施すことができないという問題点を有している。
【0006】
そこで、金属樹脂複合テープを公知の糊にて絶縁体に固定する対策が考えられるが、糊の場合、金属樹脂複合テープと絶縁体との密着力が強くなり、この状態で同軸ケーブルに冷熱衝撃を加えると、冷熱衝撃により生じる絶縁体の収縮に金属樹脂複合テープが追従してしまうことになる。追従に伴って金属層が破断したり変形したりする虞があることから、減衰量が低下してしまうという問題点を有している。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、スリーブの挿入性向上を図るとともに冷熱衝撃による減衰量の低下防止を図ることが可能な同軸ケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の同軸ケーブルは、
中心の導体と、該導体を被覆する絶縁体と、該絶縁体を覆う金属箔付きフィルムと、該金属箔付きフィルムを覆う外部導体と、該外部導体の外側に押出成形されるシースとを備えるとともに、前記絶縁体と前記金属箔付きフィルムのフィルム部との間にこれらを略密着状態にする融着部を有し、
該融着部を、前記絶縁体の軟化点よりも高い温度で押し出される前記シースの熱を前記絶縁体に伝えて形成し、
前記融着部による前記絶縁体と前記フィルム部との密着力を、35〜60[N/50mm]とすることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2記載の本発明の同軸ケーブルは、請求項1に記載の同軸ケーブルに係り、
前記絶縁体の材質を架橋ポリエチレンとするとともに、前記シースの材質をポリエチレンとし、さらに、押出温度を210〜230℃として前記シースを押出成形することを特徴とする。
【0010】
以上のような特徴を有する本発明によれば、融着部により金属箔付きフィルムは絶縁体に略密着する。融着部は、強すぎず、また、弱すぎずに金属箔付きフィルムと絶縁体とを密着させる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載された本発明によれば、融着部を形成して絶縁体と金属箔付きフィルムとを略密着状態にすることから、絶縁体からの金属箔付きフィルムの浮き上がりを防止することができる。従って、スリーブの挿入性向上を図ることができるという効果を奏する。また、本発明によれば、絶縁体の軟化点よりも高い温度でシースを押出成形し、そして、この成形に係る熱を絶縁体に伝えて融着により融着部を形成することから、金属箔付きフィルムと絶縁体とを強すぎず、また、弱すぎずに密着させることができる。従って、冷熱衝撃により生じる絶縁体の収縮に金属箔付きフィルムが追従することはなく、結果、破断や変形をなくして減衰量低下の防止を図ることができるという効果を奏する。
【0012】
請求項2に記載された本発明によれば、より良い同軸ケーブルとなる材質や押出温度を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る同軸ケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
同軸ケーブルは、中心の導体を被覆する絶縁体と、この絶縁体を覆う金属箔付きフィルムとの間に、これらを融着により略密着状態にする部分を形成してなる。融着により略密着状態にする部分は、絶縁体の軟化点よりも高い温度で押し出されるシースの熱を絶縁体に伝えることにより形成される。
【実施例】
【0015】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図1は本発明に係る同軸ケーブルの断面図である。
【0016】
図1において、本発明に係る同軸ケーブル1は、特に限定するものでないが、車載用のケーブルとして好適であって、端末に同軸コネクタ(図示省略)が設けられている。同軸ケーブル1は、内部導体2(導体)と、内部絶縁体3(絶縁体)と、金属箔付きフィルム4と、外部導体5と、シース6とを備えて構成されている。また、同軸ケーブル1は、内部絶縁体3と金属箔付きフィルム4との間に融着部7を有している。
【0017】
内部導体2は、同軸ケーブル1の中心の導体であって、複数の素線を撚り合わせてなる軟銅撚り線が用いられている。内部導体2は、導電性を有しており、断面円形状に形成されている。内部導体2は、同軸ケーブル1の端末において、図示しない同軸コネクタのインナー端子が接続されるようになっている。内部導体2は、本実施例において、導体径が0.32mm、7本撚りのものが用いられている。
【0018】
内部絶縁体3は、絶縁性を有しており、均一な厚みで内部導体2を覆うように設けられている。内部絶縁体3は、本実施例において、架橋ポリエチレンにより形成されている。架橋ポリエチレンの軟化点は、約115℃であるものとする。内部絶縁体3は、本実施例において、この厚みが約0.86mmとなるように形成されている。
【0019】
金属箔付きフィルム4は、内部絶縁体3を覆うように設けられている。金属箔付きフィルム4は、金属箔部8と樹脂フィルム部9(フィルム部)とを有するフィルム状の部材に形成されている。金属箔付きフィルム4は、内部絶縁体3に対し縦添えにて設けられている(縦添えは一例であるものとする)。金属箔部8は、金属箔にて形成されている。金属箔としては、銅箔が挙げられるものとする(アルミ箔や鉄箔など用途に合わせて選定することが可能であるものとする)。樹脂フィルム部9は、樹脂フィルムにて形成されている。樹脂フィルムとしては、PETフィルムが挙げられるものとする。
【0020】
金属箔部8は、樹脂フィルム部9の一方の面に対し蒸着や接着等の公知の方法にて一体化されている。金属箔付きフィルム4は、樹脂フィルム部9の他方の面が内部絶縁体3側となるように配設されている。金属箔付きフィルム4は、本実施例において、この厚みが約0.02mmとなるように形成されている。
【0021】
金属箔付きフィルム4は、融着部7により内部絶縁体3から浮き上がらないようになっている。具体的には、融着部7により略密着状態になっている。融着部7に関しては後述する。
【0022】
外部導体5は、金属箔付きフィルム4を覆うように設けられている。外部導体5は、極細の素線を編んでなる編組(軟銅線編組)により筒状に形成されている。外部導体5は、導電性を有しており、金属箔付きフィルム4の金属箔部8に接するように配設されている。外部導体5と金属箔部8は、シールド部材としての機能を有している。外部導体5と金属箔部8は、同軸ケーブル1の端末において、図示しない同軸コネクタのシールド端子が接続されるようになっている。シールド端子の接続に関しては、外部導体5と金属箔部8との間にシールド端子の金属円筒状となるスリーブ(図示省略)を挿入し、この後、外部導体5の外側からリング部材(図示省略)を用いて加締めを施すことにより接続が完了するようになっている。
【0023】
シース6は、絶縁性を有しており、均一な厚みで外部導体5を覆うように設けられている。シース6は、本実施例において、ポリエチレンの押出により成形されている。シース6は、公知の押出成形機により内部絶縁体3の軟化点(上記の約115℃)よりも高い温度で押し出されるようになっている。シース6は、押出温度が210〜230℃となるように制御された上で成形されている。押出温度210〜230℃は、後述する密着力を確保する有効な温度となっている。シース6は、本実施例において、この厚みが約0.35mmとなるように形成されている。
【0024】
同軸ケーブル1は、シース6の押出成形に係る熱10が内部絶縁体3に伝わると、内部絶縁体3と金属箔付きフィルム4の樹脂フィルム部9との間に融着部7が形成されるようになっている。尚、熱10は成形後の余熱も含んでいる。
【0025】
融着部7は、内部絶縁体3と金属箔付きフィルム4の樹脂フィルム部9との間に形成されて、これらを略密着状態にする部分となっている。融着部7は、シース6の押出成形に係る熱10が内部絶縁体3に伝わり、そして、内部絶縁体3に軟化・膨張が生じて内部絶縁体3と樹脂フィルム部9とが融着することにより形成される部分となっている。
【0026】
融着部7は、内部絶縁体3と樹脂フィルム部9とを略密着状態に形成することができるようになっている。金属箔付きフィルム4は、融着部7により内部絶縁体3から浮き上がらないようになっている。金属箔付きフィルム4の浮き上がりがなければ、上記図示しないスリーブの挿入が容易且つスムーズになるのは勿論である。
【0027】
融着部7は、内部絶縁体3と樹脂フィルム部9との密着力が35〜60[N/50mm]となるように形成されている。この密着力を得るには、シース6の押出温度が210〜230℃となるように制御されることが有効である。融着部7は、この密着力が35〜60[N/50mm]に制御されることにより、上記の浮き上がりが防止できる他に、冷熱衝撃により生じる内部絶縁体3の収縮に対し金属箔付きフィルム4の追従を阻止することもできるようになる。
【0028】
以下、表1及び図1を参照しながら融着部7に関する評価について説明をする。
【0029】
融着部7に関し、シース6の押出温度を180℃、210℃、220℃、230℃、250℃に制御して、各押出温度での密着力を測定するとともに、貼り付き状態、減衰量、スリーブ挿入性を「○」「×」にて評価をする。
【0030】
上記密着力は、金属箔付きフィルム4と内部絶縁体3との間の密着力を、長さ50mmの試料で測定し、これを数値で表したものである。単位は[N/50mm]である。上記貼り付き状態は、金属箔付きフィルム4と内部絶縁体3との貼り付き状態を評価したものであり、貼り付き状態が良好であれば、すなわち浮き上がりが生じてなければ「○」の評価をする。一方、貼り付き状態が悪ければ、すなわち浮き上がりが生じていれば「×」の評価をする。
【0031】
上記減衰量は、冷熱衝撃試験後の減衰量を評価したものであり、減衰量の低下がない良好な結果であれば「○」の評価をする。一方、規定以上の減衰量の低下がある悪い結果であれば「×」の評価をする。冷熱衝撃試験は、105℃の恒温槽に試料を30分入れるとともに、取り出し直後に−40℃の恒温槽に30分入れることを1サイクルとし、これを1000サイクル行う試験であるものとする。
【0032】
上記スリーブ挿入性は、金属箔付きフィルム4と内部絶縁体3との間に挿入するスリーブの挿入性を評価したものであり、スリーブの挿入が容易且つスムーズであれば「○」の評価をする。一方、引っ掛かりがあるようであれば「×」の評価をする。
【0033】
【表1】

【0034】
シース6の押出温度を210℃に制御した場合、密着力は35[N/50mm]である。この時の貼り付き状態は良好で「○」の評価である。また、減衰量はこの低下のない良好な「○」の評価である。また、スリーブの挿入性は容易且つスムーズで良好な「○」の評価である。
【0035】
シース6の押出温度を220℃に制御した場合、密着力は40[N/50mm]である。この時の貼り付き状態は良好で「○」の評価である。また、減衰量はこの低下のない良好な「○」の評価である。また、スリーブの挿入性は容易且つスムーズで良好な「○」の評価である。
【0036】
シース6の押出温度を230℃に制御した場合、密着力は60[N/50mm]である。この時の貼り付き状態は良好で「○」の評価である。また、減衰量はこの低下のない良好な「○」の評価である。また、スリーブの挿入性は容易且つスムーズで良好な「○」の評価である。
【0037】
しかしながら、シース6の押出温度を180℃に制御した場合、密着力は15[N/50mm]である。この時の貼り付き状態は悪く「×」の評価である。また、スリーブの挿入性は引っ掛かりがあって悪く「×」の評価である。尚、減衰量に関してはこの低下のない良好な「○」の評価である。
【0038】
シース6の押出温度を250℃に制御した場合、密着力は120[N/50mm]である。この時の減衰量は低下が生じて悪く「×」の評価である。尚、貼り付き状態は良好で「○」の評価である。また、スリーブの挿入性は容易且つスムーズで良好な「○」の評価である。
【0039】
以上の評価から、シース6の押出温度を210〜230℃となるように制御するとともに、密着力を35〜60[N/50mm]に制御することが有効であると言える。
【0040】
本発明に係る同軸ケーブル1によれば、融着部7を形成して絶縁体3と金属箔付きフィルム4とを略密着状態にすることから、絶縁体3からの金属箔付きフィルム4の浮き上がりを防止することができる。従って、スリーブの挿入性向上を図ることができるという効果を奏する。
【0041】
また、本発明に係る同軸ケーブル1によれば、絶縁体3の軟化点よりも高い温度でシース6を押出成形し、そして、この成形に係る熱10を絶縁体3に伝えて融着により融着部7を形成することから、絶縁体3と金属箔付きフィルム4とを強すぎず、また、弱すぎずに密着させることができる。従って、冷熱衝撃により生じる絶縁体3の収縮に金属箔付きフィルム4が追従することはなく、結果、破断や変形をなくして減衰量低下の防止を図ることができるという効果を奏する。
【0042】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1…同軸ケーブル
2…内部導体(導体)
3…内部絶縁体(絶縁体)
4…金属箔付きフィルム
5…外部導体
6…シース
7…融着部
8…金属箔部
9…樹脂フィルム部(フィルム部)
10…熱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心の導体と、該導体を被覆する絶縁体と、該絶縁体を覆う金属箔付きフィルムと、該金属箔付きフィルムを覆う外部導体と、該外部導体の外側に押出成形されるシースとを備えるとともに、前記絶縁体と前記金属箔付きフィルムのフィルム部との間にこれらを略密着状態にする融着部を有し、
該融着部を、前記絶縁体の軟化点よりも高い温度で押し出される前記シースの熱を前記絶縁体に伝えて形成し、
前記融着部による前記絶縁体と前記フィルム部との密着力を、35〜60[N/50mm]とする
ことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の同軸ケーブルにおいて、
前記絶縁体の材質を架橋ポリエチレンとするとともに、前記シースの材質をポリエチレンとし、さらに、押出温度を210〜230℃として前記シースを押出成形する
ことを特徴とする同軸ケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−252930(P2012−252930A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125923(P2011−125923)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】