説明

含フッ素高分子コーティング用組成物、該コーティング用組成物を用いた含フッ素高分子膜の形成方法、ならびにフォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法。

【課題】フォトレジスト上に、平滑性、密着性に優れた含フッ素高分子化合物の保護膜を形成する手段を提供する。また該保護膜を、下層部のフォトレジストを損なうことなく除去する手段を提供する。
【解決手段】含フッ素高分子化合物を、一般式(1)で表されるフッ素化アセタール
【化40】


によりなる溶剤に溶解させてなる高分子コーティング用組成物を、フォトレジスト上に塗布、乾燥し、保護膜を形成する。
該特定の構造を有するフッ素化アセタールは、含フッ素高分子膜に接触させ、剥離除去し、フォトレジストまたはリソグラフィーパターンを形成する溶剤としても適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素高分子を特定のフッ素化アセタールによりなる有機溶剤に溶解させてなる高分子コーティング用組成物、及び該高分子コーティング用組成物を用いて含フッ素高分子膜を形成する方法、ならびに、該フッ素化アセタールを用いてフッ素高分子膜を溶解除去する方法に関する。特にフォトレジスト用トップコート(リソグラフィー用途)、ディスプレーや光学デバイス、レンズなどの反射防止膜を提供し、それらの形成方法、除去方法を併せて提供する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、有機溶媒への溶解性を持っている場合が多く、その溶解性を利用した製膜法が多くの工業的分野で使用されている。例えば、建築塗料、自動車塗料、工業的塗料などの大型分野から、撥水撥油剤、繊維処理剤、写真フィルム、ディスプレー、光学部品などの各種分野の反射防止膜、半導体製造用のフォトレジスト材料、ボトム反射防止膜、トップ反射防止膜、記録層塗布、塗布型光導波路、磁気シールドなど、様々な分野で多種多様に展開されている。一般的に高分子化合物を塗布するために使用される有機溶媒は極性溶媒であり、高分子を溶解させやすくして実用に供されている。
【0003】
製膜させて用いる高分子として、含フッ素高分子材料が挙げられる。この場合、フッ素の持つ撥水性、撥油性、低吸水性、耐水性、耐熱性、耐候性、耐腐食性、透明性、感光性、低屈折率性、低誘電性などの特徴から先端材料の幅広い応用分野において最表面にて特徴ある特性を付与させることが可能となり、様々な応用に供されるが、一般に有機溶剤への溶解性が劣るため、使用溶剤の選定範囲が狭い。したがって、含フッ素高分子材料は、極性の高いアルコールやケトン溶剤、または同属のパーフルオロ溶媒(全フッ素溶媒)を用いて塗布することが多く知られている。
【0004】
工業的に、好適にコーティングを行うためには選定する溶媒が適当な沸点をもつ必要があり、さらに安全に作業を行うために引火点はできるだけ高いことが求められるという制限も加えられる。一方、塗布して応用する場合、極性溶媒を使用する系では、基板材料や下層膜の化学的特性によって、それらの極性溶媒が実用に向かないケースがある。
【0005】
ところで、含フッ素高分子材料を他の高分子材料の上部に塗布させる応用分野に、フォトレジストの上部に含フッ素の保護膜又は反射防止膜を形成させて使用する半導体製造分野があげられる。すなわち、近年の半導体業界では、F2、ArF、KrFレーザーなどの短波長紫外線に対して透明性の高い新規な材料としてフッ素系化合物のレジスト材料が活発に研究されており、フッ素を導入によって使用波長での透明性が向上することが明らかになっている。このため含フッ素高分子の一つの有用な応用分野に現像液可溶型のフォトレジスト反射防止膜がトップコートとして使用されている。この場合、トップコートの適用がラフネスや光の干渉を抑制する。すなわち、トップコート膜のフッ素含有率を高めて低屈折率化をおこなうことが重要であるが、同時に、塗布時に下層となるフォトレジスト表面の侵食を防ぐ工夫が必要である。そのため、従来のトップコートは、水溶性高分子材料に低分子フッ素系酸性物質を塩の形で水溶性化し、水溶液の形でフォトレジスト膜上に塗布する方法が使用されている。
【0006】
一方、次世代の半導体を製造するリソグラフィーとして液浸リソグラフィーが急激に台頭しており、特にArFエキシマレーザーによる露光技術を延命する手段として業界全体から注目されている。液浸露光においてはフォトレジスト表面が液浸媒体(例えば水)に接触するため、これら諸問題の解決策としては、フォトレジスト表面を水などの液浸液から保護するためのトップコートの適用が提案されている(非特許文献1)。この場合のトップコートはパーフルオロ溶媒(全フッ素化溶媒)で塗布する例、又は含フッ素カルビノール含有のフッ素樹脂をフッ素の含有しない有機溶剤に溶解させて塗布することが知られている。
【0007】
フォトレジストへのトップコートの適用に際しては塗布時に下層となるフォトレジスト表面の侵食を防ぐ必要があり、そのためにトップコート組成物を塗布する際に使用する溶剤の選定はきわめて重要である。また、該トップコートを剥離する方法としては通常のフォトレジスト用のアルカリ現像液で溶解剥離する方法と、特殊な含フッ素有機溶剤で除去する方法の2種類が報告されている(非特許文献2)。
【0008】
一般に液浸液が水の場合、高分子保護膜の目的は次の2つとされている。すなわち、レジストから水への化学物質の溶け出しを防止する目的と、逆に水がレジストに浸入することを防止する目的である。水が下層部のフォトレジストに侵入すると、レジストパターンに欠陥として現れることが報告されている(非特許文献3、非特許文献4)。
【0009】
さらにディスプレー分野においては、大型の平面ディスプレーの開発が促進され、パソコン用途のみならず、テレビジョン用途が急拡大しており、表面のチラツキや太陽光や蛍光灯の光反射を低減させるための工夫がなされた高機能フィルムの市場が大きくなりつつある。
【非特許文献1】Resist and Cover Material Investigation for Immersion Lithography, 2nd Immersion Work Shop, July 11, 2003
【非特許文献2】S. Kishimura, et al., Impact of Water and Top-coats on Lithographic Performance in 193-nm Immersion Lithography, Proc.of SPIE, Vol.5753(2005), p.20.
【非特許文献3】Ralph R. Dammel, et al., Leaching Phenomena and their Suppresion in 193nm Immersion Lithography, J. Photopolymer Sci. and Tech., Vol.18(2005), p.593
【非特許文献4】M. Maenhoudt, et al., Opportunities and Challenges in Immersion Lithography, J. Photopolymer Sci. and Tech., Vol.18(2005), p.571
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、含フッ素高分子を、他の有機高分子膜の上部に塗布する工業的重要性はますます拡大しつつあるが、高分子に異種の高分子を塗布するために材料の設計に大きな制限が加わっている。すなわち、本発明で解決すべき課題は、次のようになる。
【0011】
第一の課題は、含フッ素高分子をコーティングする場合の溶剤の作用により、下層部が侵食されたりクラック(いわゆるソルベントクラック)が生じたりする欠点を解決することである。
【0012】
第二の課題は下層部が高機能性を追求するフォトレジストなどの用途の場合であって、フォトレジスト層(下層)上に含フッ素高分子膜を形成する場合に、フォトレジストを溶解させないばかりでなく、膨潤や添加成分の流出を防止することである。特に、界面との境界をしっかり、はっきり区別しながら密着性よく含フッ素高分子膜を形成させることが必要な場合、使用する溶剤の選定範囲が狭くなり、その結果、必要とする含フッ素高分子の種類も制限されてしまう。
【0013】
第三の課題は、特に液浸リソグラフィーを応用分野とする場合、液浸液の染み込みを防止するための含フッ素高分子保護膜を形成させる方法を提供し、液浸リソグラフィーにおける欠陥数を低減させることにある。
【0014】
したがって、例えば高度にフッ素化するなどの方法で最適化された特定の含フッ素高分子膜を塗布する溶液システムの開発は、重要な解決課題とされている。
【0015】
第四の課題は、上層部の含フッ素高分子保護膜を剥離除去する場合に、溶解力の高い液体であって、下層部のフォトレジストを侵さない方法を提供することにある。剥離液の選定を誤ると、フォトレジストを溶解させてしまったり、露光したパターンがゆがんだり、欠陥が生じるなどの欠点がある。
【0016】
したがって、フォトレジストを侵食せずに塗布可能な有機溶剤システム、またフォトレジストを侵食せずに上層部の含フッ素高分子膜を剥離除去が可能であれば、含フッ素高分子の設計に多様性を持たせることが可能となり、工業的な需要は非常に大きい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記の種々の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するフッ素化アセタールによりなる溶剤が本用途に最適であること、および含フッ素高分子を「該フッ素化アセタールによりなる溶媒」に溶解した含フッ素高分子コーティング組成物が有用であること、さらには、「該フッ素化アセタールによりなる溶媒」を用いて含フッ素高分子膜を剥離除去する方法を見出した。
【0018】
すなわち、以下の(I)、(II)、(III)の手段を見出し、本発明の完成に到達した。
(I)含フッ素高分子化合物を、特定の構造のフッ素化アセタールによりなる溶剤に溶解させてなる高分子コーティング用組成物。
(II)次の2つのステップからなる、含フッ素高分子膜の形成方法。
(i)上記(I)に記載の高分子コーティング用組成物を、有機膜上に塗布するステップ。
(ii)前記、有機膜上に塗布された高分子コーティング用組成物から「フッ素化アセタールによりなる溶剤」を蒸発させ、含フッ素高分子膜を形成させるステップ。
(III)フォトレジスト膜上に形成された含フッ素高分子保護膜に対して、含フッ素高分子膜の上部から露光した後、「上記フッ素化アセタールによりなる溶剤」を接触させ、該含フッ素高分子膜を剥離、除去することを特徴とする、フォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法。
【0019】
当該、高分子コーティング用組成物の採用により、下層部が溶解しやすい有機物や高分子膜であっても好適に含フッ素高分子膜を上層部に形成することができることが判明した。さらに上層部に用いる含フッ素高分子が環状構造を有した含フッ素高分子であっても溶解性を十分に発揮することが可能であり、光学部品、ディスプレー、リソグラフィー分野で有用な機能性多層膜を作製することも可能となった。また部分フッ素化したアセタールは、対応する炭化水素エーテルに比較して引火点が高いため、使用上の安全性が高い利点がある。
【0020】
さらに、フルオロカルビノール基、スルホニルアミド基、フルオロアルキルスルホン酸基、カルボキシル基などのアルカリ可溶基を一種以上分子内に有する高分子であっても、該含フッ素高分子をフッ素化アセタール溶媒に溶解することで、フォトレジスト膜上に容易にコーティング膜を形成することができることがわかった。
【0021】
また、アルカリ可溶基の少ない、または含有しないアルカリ不溶性の含フッ素高分子であってもフォトレジスト膜上に容易にコーティング膜を形成することができることがわかった。
【0022】
一方、上層部の含フッ素高分子膜を剥離、除去する場合、溶解力の高い液体であって、下層部のフォトレジストを侵さない剥離用の溶剤として、上記「フッ素化アセタールによりなる溶剤」がきわめて好適に機能することが判明した。これにより、下層部の性能を維持したまま、上層部を剥離、除去することが可能となった。以上のようなフォトレジスト膜上に形成した高分子膜、すなわち保護膜又は反射防止膜を除去する方法としては、液浸リソグラフィー分野で特に効力を発揮する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の「特定構造を有するフッ素化アセタールを構成成分とするコーティング用組成物」は、下層部が溶解しやすい有機物や高分子であっても、好適に含フッ素高分子膜からなる上層部(保護膜)を形成する。下層がフォトレジスト膜の場合、該保護膜は「該フッ素化アセタールによりなる溶剤」と接触させることにより、下層部を損なうことなく除去でき、欠陥が抑制された、解像度の高いフォトレジストパターン、リソグラフィーパターンを形成できる。
【0024】
さらに上層部に用いる高分子が含フッ素高分子、又は環状構造を有した含フッ素高分子であっても、該特定の構造を有するフッ素化アセタールは、溶解性を十分に発揮することが可能であり、ディスプレーやリソグラフィー分野に好適な、多様な機能性多層膜の形成を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、本発明をなす群である、上記(I)、(II)、(III)の順にしたがって詳細に説明する。
【0026】
まず、(I)の含フッ素高分子コーティング用組成物について説明する。
【0027】
本発明に使用できるフッ素化アセタールは一般式(1)で表される構造を有する。
【0028】
【化11】

【0029】
式中、R1、R2は、同一又は異種の炭素数1〜12の炭化水素基であって、分岐や環構造を含有しても良い。R1とR2は結合して環を形成しても良い。R3は、単結合又は炭素数1〜4の分岐を含んでも良いアルキレン基、R4は水素、メチル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基である。またR1、R2、R3の一部に、フッ素、窒素、酸素、硫黄、ヒドロキシ基、カルボキシル基、グリシジル基、シアノ基、アミノ基、フルオロカルビノール基を含有してもよい。
【0030】
この中でR4が水素である一般式(1a)で表されるフッ素化アセタール
【0031】
【化12】

【0032】
(式中R1,R2,R3の意味は式(1)と同じ。)
は、含フッ素高分子化合物の溶解性をより高められることから、幅広いフッ素含有率の高分子化合物において好ましい溶剤として挙げられる。
【0033】
より好適なフッ素化アセタールとしては、一般式(3)、(4)、(5)で表される化合物である。
【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
式(3)(4)において、R6は、水素、メチル基、またはエチル基である。
【0037】
【化15】

【0038】
ここで、R7は分岐を有しても良い炭素数1〜5のアルキル基であって、フッ素を含有しても良い。
【0039】
これらを具体的に例示すると次のような化合物が挙げられる。ただし、これらに限定されるわけではない。
【0040】
【化16】

【0041】
【化17】

【0042】
【化18】

【0043】
本発明による一般式(1)のフッ素化アセタールの合成方法は特に限定されないが、例えば、次の方法が挙げられる。
合成法1
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、例えば水酸化ナトリウム等の塩基性物質の共存下、アルコールと反応させて、ビニルエーテルを得、次いで酸性または中性条件下、アルコールと反応させ、アセタールを得る方法。
合成法2
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、例えば水酸化ナトリウム等の塩基性物質の共存下、グリコールと反応させて、アセタールを得る方法。
【0044】
【化19】

【0045】
本発明のフッ素化アセタールは、単独で使用しても良く、また他のフッ素化アセタールと混合した溶剤で使用することが好ましい。単独で使用するか、混合して使用するかの選択は、使用する含フッ素高分子の極性レベルを考慮して最適化される。例えば、該フッ素化アセタールとの親和性は高いもののフッ素化アセタール単独で完全に溶解させることが困難な含フッ素高分子の場合、溶解性を補助する目的で任意の有機溶媒と混合することができる。ただし、混合して使用できる有機溶剤としては、その混合溶剤が下層のレジスト膜を浸食したり、レジスト膜から添加剤等を抽出しにくいことが重要である。したがって、本発明ではフッ素化アセタールが全溶剤中の60重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは、フッ素化アセタールが80重量%以上のものである。
【0046】
フッ素化アセタールに混合させる溶剤としては、スピンコートに適した沸点範囲、すなわち、沸点が30℃〜220℃程度のものが好適に選択される。具体的には、炭化水素溶媒、アルコール、エーテル、エステル、フッ素系溶剤などが好ましい。好ましくは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカンや脂環類の炭化水素溶媒やブタノール、メチルエチルカルビノール、ペンタノール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコールなどの炭化水素系アルコール類が好適に採用される。アルコール類の場合は、一級、二級、三級アルコールが選択可能である。されに使用可能なその他の溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフランなどの環状エーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、など、幅広く適用することが可能である。
【0047】
次に、本発明で使用される含フッ素高分子化合物について具体的に説明する。含フッ素高分子化合物は、使用するフッ素化アセタールを混合する有機溶媒に溶解するものであって、部分的にフッ素を含有する高分子材料であればどのようなものを用いても良く、特に限定されない。但し、ポリテトララフルオロエチレンなどの非極性のパーフルオロ高分子などはフッ素化アセタールに溶けにくいので本発明には好ましくない。その選定基準はフッ素含有量で表すことができ、好適に使用できる含フッ素高分子のフッ素含有量は3重量%以上又は70重量%以下である。3重量%未満の場合、及び70重量%を超える場合、その構造によっては、本発明のフッ素化アセタール又は該フッ素化アセタールを含む混合溶媒系に溶けにくく、溶解性を高める目的でフッ素化アセタール混合量を低減させ極性溶媒量を増やすと、下層部の有機膜を侵食することがあるため、好ましくない。
【0048】
本発明で使用できる含フッ素高分子化合物を具体的に例示するならば、含フッ素オレフィン、含フッ素アクリル酸、含フッ素メタクリル酸、含フッ素アクリル酸エステル、含フッ素メタクリル酸エステル、α−CF3アクリル酸エステル、α−フッ素アクリル酸エステル、含フッ素ノルボルネン化合物、含フッ素スチレン系化合物、含フッ素ビニルエーテル、含フッ素ビニルエステル、含フッ素アリルエーテル、などから選ばれた一種以上の単量体の重合体、又は共重合体であって、共重合体の場合は、相手方にフッ素を含んでも含まなくても使用できる。
【0049】
本発明に使用できるフッ素の含有方法は特に制限されないが、−CF2−、−CFH−、−CF3、−CHF2、-CH2F、−COF、−SO2F、などの結合や、これらの組み合わせからなる含フッ素基を含む材料が好適に採用される。
【0050】
含フッ素高分子化合物の好ましい繰り返し単位の構造を例示すると次のものが挙げられる。
【0051】
【化20】

【0052】
【化21】

【0053】
などである。ここでR8はフッ素を含有してもよいアルキル基、アルキレン基、脂環基、芳香族基、であって、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、フルオロカルビノール基、アミド基、スルホン酸基、エステルなどを含んでもよい。R9はその一部にフッ素を含有するアルキル基、アルキレン基、脂環基、芳香族基、であって、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、フルオロカルビノール基、アミド基、スルホン酸基、エステル、カルボニル、エーテルなどを含んでもよい。aは0〜2の整数、Fnは環状の水素の一部又は全部をフッ素に置換したことを示す(nは正の整数を表す)。
【0054】
ここで含フッ素オレフィンを使用する場合は、結晶性を低下させたり、溶解性を向上させる目的のため、共重合体であることが望ましい。使用できる含フッ素オレフィンとしては、テトラフルオロエチレン系重合体、トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニル共重合体、ビニリデンフルオライド共重合体、ヘキサフルオロプロピレン系重合体、パーフルオロビニルエーテル系重合体、ヘキサフルオロイソブテン系重合体、クロロトリフルオロエチレン系重合体、オクタフルオロシクロペンテン系重合体などが好適に挙げられる。
【0055】
含フッ素高分子をアルカリ可溶性する場合や、密着性を高めるように設計して使用する場合は、含フッ素高分子の一部に、特に前述の含フッ素高分子化合物の繰り返し単位中のR8又はR9に、トリフルオロアルコール、ヘキサフルオロアルコール、ヘプタフルオロアルコールから選ばれた一種又は複数種のフルオロカルビノール、フルオロアルキルスルホニルアミド基、カルボキシル基を1個又は複数個有した官能基を持たせることが可能である。この場合、これらの官能基量を増加させることで、アルカリ現像液に可溶とした含フッ素高分子とすることができる。その中でも特に好適には下記一般式(2)の基を有した含フッ素高分子である。
【0056】
【化22】

【0057】
ここでR5は、水素、メチル、エチル、プロピル、シクロヘキシル、メチルアセタール、エチルアセタール、ノルボルナンアセタール、ブトキシカーボネート、その他の炭素数1〜15の環状構造を含んでも良い各種保護基であってフッ素を含んでもよい。ただし、アルカリ可溶性とするためにはR5は水素であることが最適である。
【0058】
ここで、一般式(2)の基以外に、好適に使用できるアルカリ可溶基、または密着性基の具体例は、以下に例示される。
【0059】
【化23】

【0060】
次に、本発明に使用できる含フッ素高分子について、共重合体の構成要素を説明する。共重合は、前述の含フッ素単量体を複数選択して共重合するケース、また前述の含フッ素単量体とフッ素の含まないその他の単量体と共重合するケースが挙げられる。
【0061】
使用できる共重合相手としては、オレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ノルボルネン化合物、スチレン系化合物、ビニルエーテル、環状ビニルエーテル、ビニルエステル、アクリロニトリル、アリルエーテル、アクリロニトリル、ビニルシラン、無水マレイン酸、ビニルピロリドン、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸エステルから選ばれた1種以上の単量体を使用することができる。
【0062】
オレフィンとしては、エチレン、プロピレンなどが例示できる。
【0063】
また、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとしてはエステル側鎖について特に制限なく使用できる。公知の化合物の例を示すならば、メチルアクリレート又はメタクリレート、エチルアクリレート又はメタクリレート、n-プロピルアクリレート又はメタクリレート、イソプロピルアクリレート又はメタクリレート、n-ブチルアクリレート又はメタクリレート、イソブチルアクリレート又はメタクリレート、n-ヘキシルアクリレート又はメタクリレート、n-オクチルアクリレート又はメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート又はメタクリレート、ラウリルアクリレート又はメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート又はメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート又はメタクリレートなどのアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール基を含有したアクリレート又はメタクリレート、さらにアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどの不飽和アミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アルコキシシラン含有のビニルシランやアクリル酸又はメタクリル酸エステル、t−ブチルアクリレート又はメタクリレート、3-オキソシクロヘキシルアクリレート又はメタクリレート、アダマンチルアクリレート又はメタクリレート、アルキルアダマンチルアクリレート又はメタクリレート、シクロペンチル又はシクロヘキシルアクリレート又はメタクリレート、ヒドロキシ基を1つ又は2つ有したシクロペンチル又はシクロヘキシルアクリレート又はメタクリレート、ヒドロキシ基を1つ又は2つ有したアダマンチルアクリレート又はメタクリレート、トリシクロデカニルアクリレート又はメタクリレート、ブチルラクトン、ノルボルナン環とラクトン環を同時に有した特殊ラクトン環を有したアクリレート又はメタクリレート、ノルボルナン環が直接又は間接的にエステル化されたアクリレート又はメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸などが使用できる。前述の各種環状のアクリレート又はメタクリレートは1級、2級、3級のどの形のエステルであってもよい。また、スルホン酸、カルボン酸、ヒドロキシ基、シアノ基を側鎖に有した各種アクリレート、メタクリレート、ノルボルネン、スチレンも使用することができる。
【0064】
さらにα−シアノ基含有の上記アクリレート類化合物や類似化合物としてマレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸などを共重合することも可能である。さらに、前述した共重合可能な単量体の水素の一部をフッ素で置き換えた単量体も好適に使用できる。
【0065】
また、無水マレイン酸を共重合した後、一つ又は二つのアルコールを用いてエステル化した一般式で表される単量体も好ましく採用される。
【0066】
本発明によれば、一般式(1)のフッ素化アセタール、またはフッ素化アセタールを混合した有機溶剤に対し、前述の含フッ素高分子化合物を溶解混合させ、フォトレジストなどの有機膜や樹脂フィルム、その他の基材上に、下層基材を侵すことなく、コーティング膜を形成する高分子コーティング用組成物を提供できる。
【0067】
本発明によれば、含フッ素高分子化合物は、一般式(1)のフッ素化アセタールによりなる溶剤に溶解させて使用する。溶解工程は、含フッ素高分子の製造工程において、該「フッ素化アセタールによりなる溶剤」中で重合する方法や、重合後に該溶剤に溶解又は置換する方法が適用できる。また一度製造した含フッ素高分子をフッ素化アセタールに混合し、常温又は加熱下、攪拌溶解する方法が一般的に採用される。混合溶媒として使用する場合も、混合溶媒を使用して溶液製造する方法、又は最終的な固形分濃度調整時に他の溶媒を添加する方法が挙げられる。
【0068】
本発明による最適な固形分濃度は、使用する膜厚と塗布方法、及び含フッ素高分子の分子量などによって選択されるが、一般的に1〜40重量%の間が好ましい。例えば分子量1万〜5万の含フッ素高分子の場合であって、20〜100nm厚の保護膜又は反射防止膜を必要とする場合、2〜15重量%程度の固形分濃度が好適に採用される。
【0069】
次いで、(II)2つのステップからなる、含フッ素高分子膜の形成方法について説明する。
【0070】
(i)第一のステップは、発明群(I)にて説明した「含フッ素高分子 コーティング用組成物」を、有機膜上に塗布するステップ。
【0071】
(ii)第二のステップは、有機膜上に塗布された該高分子コーティング用組成物から、「フッ素化アセタールによりなる溶剤」を蒸発させ、含フッ素高分子膜を形成させるステップである。
【0072】
本発明群(II)における「含フッ素高分子コーティング用組成物」は、前記(I)に述べたものが、使用できる。
【0073】
(i)の塗布方法は、静地キャスト、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、バーコーダー法、など特に制限なく使用できるが、半導体製造工程で使用される場合はスピンコーティング、ディスプレー用反射防止用途の場合、スプレーコーティングかバーコーダー法が好ましい。(ii)塗布後は、常温又は加熱下、さらに常圧又は減圧下において乾燥し、含フッ素高分子膜を形成させることができる。
【0074】
本発明によるフォトレジスト用高分子コーティング用組成物は、下層の有機膜の種類に制限なく使用することができる。すなわち、フォトレジストがヒドロキシスチレン系のKrFレジスト、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステルなどからなるArFレジストをはじめとして、高分子材料の種類や構造に関係なく有機系レジストを下層膜として採用できる。KrF、ArF以外の光源としては、I線、G線、F2レーザー、又は電子線やX線などの活性エネルギー線などが使用できる。感光システムとしても、ネガ型やポジ型の露光変化システムに依存することなく使用することができ、単層レジスト、2層レジスト、ハードマスクタイプの多層レジストシステムにも適用できる。
【0075】
下層がフォトレジスト有機膜の場合、本発明のフッ素化アセタールを溶媒として使用した高分子コーティング組成物は、塗布時に下層を侵食や溶解を最小限に食い止めることが可能であり、フォトレジストの解像度を高めることができる。
【0076】
なお、本発明の組成物は液浸リソグラフィーにおいても、好適に応用され、フォトレジスト膜を水や液浸液から保護することができる。しかも、撥水撥油性を高めた含フッ素高分子化合物を用いて、より水や液浸液から効率的にレジスト膜を守り、欠陥を低減することが可能となる。
【0077】
次いで、ディスプレー、光学部品等に用いる場合の基板について説明する。すなわち反射防止膜、防汚膜、撥水撥油膜、耐候性膜などを形成する下地基板としては、各種フィルム、又は整形体の材質として、アクリル樹脂、MS樹脂(メタクリル酸エステル/スチレン共重合体)、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、シリコン樹脂、など幅広く使用できる。また、基材上に印刷インキ、色素、トナー、塗料等で図柄や記録層を形成させた場合、Brや硫黄などにより高屈折率化した薄膜、情報記録紙、静電記録紙、などを基材とすることもできる。
【0078】
次に、(III)フォトレジスト膜上に形成された含フッ素高分子膜に対して、含フッ素高分子膜の上部から露光した後の工程において、特定のフッ素化アセタールからなる溶剤を接触させ、該含フッ素高分子膜を剥離、除去することを特徴とする、フォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法、について説明する。
【0079】
この(III)における「フッ素化アセタールからなる溶剤」としては、前記、発明群(I)に記載したものと同一種類のものが使用できる。すなわち、「フッ素化アセタール」は一般式(1)で表される化合物であり、好ましくは一般式(1a)、より好ましくは(3)〜(5)に記載されたものが挙げられる。これらは単体として使用することもできるが、発明群(I)に記載した各種溶剤と混合して使用することもできる。この場合、(I)と同様、該フッ素化アセタールの全溶剤中の含量は60重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは80重量%以上である。
【0080】
本発明においてフッ素化アセタールによって剥離、除去できる含フッ素高分子膜は、塗布時に該フッ素化アセタールを使用しない場合、つまりフッ素化アセタールではない有機溶剤や水を使用した溶剤系を用いて塗布したケースにも、該含フッ素高分子が該フッ素化アセタールに溶解する場合には、好適に採用できる。
【0081】
含フッ素高分子化合物としては、一般式(2)の官能基を有するものが好適であり、発明群(I)にて説明した各種含フッ素高分子化合物が特に好ましい。
【0082】
フォトリソグラフィー用途における使用方法は、(1)フォトレジスト膜上に含フッ素高分子の当該フッ素化アセタール溶液を塗布する工程、(2)露光機又は液浸露光機を用いて含フッ素高分子膜を通してフォトレジストを露光する工程、(3)フォトレジストの酸脱離を進行させる化学増幅のための熱処理工程又はネガ型の場合の架橋反応を促進させる工程、(4)当該含フッ素高分子を剥離する工程、(5)アルカリ現像とリンス工程を通してフォトレジスト層にレジストパターンを得る工程、へと進む。この際、上層の含フッ素高分子がアルカリ可溶であれば、含フッ素高分子膜(上層)と下層のフォトレジスト層の酸脱離部(ポジ型の場合、露光部)を通常のアルカリ現像液であるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液などを用いて1工程で現像剥離することができる。この場合、前述の(4)(5)を1工程で行うことになる。
【0083】
しかしながら、当該含フッ素高分子は、アルカリ可溶性であっても、アルカリ不溶性であっても、本発明による「フッ素化アセタールによりなる溶剤」を上部より流し、含フッ素高分子に接触させて溶解させることによって、下層レジスト層をほとんど侵すことなく、またレジスト膜の膜減りを抑制しつつ剥離、除去することが可能である。この方法は液浸リソグラフィーにおける欠陥抑制に有効な方法となる。
【0084】
本発明によれば含フッ素高分子の剥離方法は含フッ素高分子の化学構造と特性により選択することができる。例えば、含フッ素高分子がアルカリ可溶性を有する場合、溶解剥離液として、本発明のフッ素化アセタールはもちろんのこと、通常のアルカリ現像液であるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液などを適宜選択することができるが、含フッ素高分子のフッ素含有量を高めることで、より疎水性、撥水性などの表面特性を付与し、液浸時の欠陥率を低下させようとした場合、本発明のフッ素化アセタールからなる剥離溶剤がより好ましく採用される。すなわち、含フッ素高分子のアルカリ可溶特性の程度に係わらず、該高分子膜を効果的に除去することができる。
【0085】
また本発明によれば、下層からの抽出物があった場合に、その影響を最小限にする目的で、光酸発生剤、光塩基発生剤、アミン化合物、クエンチャーなどの添加剤を予め含フッ素高分子コーティング用組成物に加えることが可能であり、特に、本発明に光酸発生剤を加えた場合、液浸リソグラフィーにおける下層レジストの解像性能を高める効果が発現する。
【0086】
さらに水の膨潤やしみ込みに対する影響を抑制するための疎水性添加剤、界面活性剤、現像液への溶解性を促進させるための酸性添加剤などが好適に使用できる。
【実施例】
【0087】
[合成例1]
フッ素化アセタール(A)の合成
【0088】
【化24】

【0089】
ドライアイスとアセトンで冷却した、300mLステンレス鋼製オートクレーブに、予め1,3−プロパンジオール52.5g(0.69mol)及び水4.2gにKOH25.8g(0.46mol)を溶解させた溶液及び(1Z)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン30g(0.23mol)を仕込んだ。20℃付近まで昇温した後、1時間攪拌し、その後、88℃で10時間加熱攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、過剰の1,3−プロパンジオールをのぞくと、原料の(1Z)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1.0%、2−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,3−ジオキサン82.0%、その他17.0%であった。
析出した塩を濾別後、蒸留により76℃〜78℃/16kPaの留分を集め、2−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,3−ジオキサン(フッ素化アセタール(A))21.5g(純度99%、収率54.4%)を得た。
沸点:137℃
引火点:41.0〜41.5℃
[合成例2]
フッ素化アセタール(B)の合成
【0090】
【化25】

【0091】
ドライアイスとアセトンで冷却した、1Lステンレス鋼製オートクレーブに、予めメタノール237g(7.40mol)及び水10gにKOH86g(1.53mol)を溶解させた溶液及び(1Z)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン100g(0.77mol)を仕込んだ。22℃付近まで昇温した後、1時間攪拌し、その後、70℃で1.5時間加熱攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、過剰のメタノールをのぞくと、原料の(1Z)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン2.0%、(1Z)−3,3,3−トリフルオロ−1−メトキシプロペン83.6%、(1E)−3,3,3−トリフルオロ−1−メトキシプロペン10.3%、1,1,1−トリフルオロ−3,3−ジメトキシプロパン4.1%であった。
【0092】
析出した塩を濾別後、フラッシュ蒸留により80℃〜110℃の留分を集め、190gの混合物を得た。得られたこの混合物にメタンスルホン酸16.5g(0.172mol)を仕込み、70℃で4時間加熱攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、過剰のメタノールをのぞくと、原料の(1Z)−3,3,3−トリフルオロ−1−メトキシプロペン0.9%、1,1,1−トリフルオロ−3,3−ジメトキシプロパン97.6%、その他1.5%であった。これに水150gを加え、撹拌後、二層分離を行い、得られた有機層をモレキュラシーブス4A10gにより乾燥し、モレキュラシーブス4Aを濾別、77gを得た。
【0093】
得られた混合物77gを、ステンレス鋼製不規則充填物を充填した約15段の蒸留塔を用い精密蒸留を実施し89℃〜90℃の留分を集め、1,1,1−トリフルオロ−3,3−ジメトキシプロパン(フッ素化アセタール(B))65.5g(純度99.9%、収率53.8%)を得た。
沸点:90.5〜91.0℃
引火点:16.5〜17.0℃
[合成例3]
フッ素化アセタール(C)の合成
【0094】
【化26】

【0095】
ドライアイスとアセトンで冷却した、300mLステンレス鋼製オートクレーブに、予めエチレングリコール71.4g(1.15mol)にKOH38.7g(0.69mol)を溶解させた溶液及び(1Z)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン30g(0.23mol)を仕込んだ。22℃付近まで昇温した後、1時間攪拌し、その後、60℃で4時間加熱攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、過剰のエチレングリコールをのぞくと、原料の(1Z)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン2.0%、2−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン80.0%、その他18.0%であった。
【0096】
析出した塩を濾別後、蒸留により80℃〜100℃/13〜16kPaの留分を集め、2−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン(フッ素化アセタール(C))19.1g(純度99%、収率53.2%)を得た。
沸点:120℃
引火点:33.0〜33.5℃
[合成例4]
フッ素化アセタール(D)の合成
【0097】
【化27】

【0098】
ドライアイスとアセトンで冷却した、300mLステンレス鋼製オートクレーブに、予め1,2−プロパンジオール52.5g(0.69mol)及び水4.2gにKOH25.8g(0.46mol)を溶解させた溶液及び(1Z)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン30g(0.23mol)を仕込んだ。20℃付近まで昇温した後、1時間攪拌し、その後、60℃で18時間加熱攪拌した。反応液をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、過剰の1,2−プロパンジオールをのぞくと、原料の(1Z)1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン5.0%、4−メチル−2−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン75.0%、その他20.0%であった。
【0099】
析出した塩を濾別後、蒸留により85℃〜87℃/30kPaの留分を集め、4−メチル−2−(2,2,2−トリフルオロエチル)−1,3−ジオキソラン(フッ素化アセタール(D))21.0g(純度97%、収率52.1%)を得た。
引火点:32.0〜33.0℃
[合成例5]
フッ素化アセタール(E)の合成
【0100】
【化28】

【0101】
ガス導入管、還流冷却器及び温度計を備えた300mL三口フラスコに、予めエチレンクロロヒドリン10.0g(0.12mol)を仕込み、氷にて冷却した。ヘキサフロロアセトン20.0g(0.12mol)をガス導入管より加え、終了後15分間そのまま撹拌した後、t−ブチルメチルエーテル100mlを加えた。炭酸カリウム16.6g(0.12mol)を少量ずつ1時間かけて添加し、終了後、そのまま2時間撹拌した。100mlの水に注ぎ込み、分液ロートにて有機層を二層分離し、得られた有機層を常圧蒸留し、106℃〜107℃の留分を集め、2,2−ビス(トリフルオロメチル)−1,3−ジオキソラン(フッ素化アセタール(E))15.8g(純度99%、収率62.0%)を得た。
[合成例6]
「含フッ素高分子化合物の合成」
還流冷却器、撹拌子を備えた500mlのナス型フラスコに、化合物(M−1)(50g)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(0.8g)、n−ドデシルメルカプタン(1.0g)、メチルエチルケトン(200ml)を入れ、フラスコ内を窒素で置換した。これを75℃のオイルバスで加熱して18時間攪拌した。反応終了後、反応溶液をn−ヘキサン(1600ml)に投入して撹拌し、生成した沈殿を濾過して取り出した。これを50℃で20時間乾燥し、白色固体の高分子化合物(P−1)(41g)を得た。GPC(標準ポリスチレン)から求めた重合平均分子量8,700、分子量分散は1.69であった。
【0102】
【化29】

【0103】
[合成例7]
「含フッ素高分子化合物の合成」
合成例6に記載した方法と同様にして、各種モノマー(M−2)〜(M−8)を用いて各種重合又は共重合を行い、白色固体の高分子化合物(P−2)〜(P−7)を得た。GPC(標準ポリスチレン)から求めた重合平均分子量、分子量分散、共重合比a:bを第1表に示す。
【0104】
【化30】

【0105】
【化31】

【0106】
【化32】

【0107】
【化33】

【0108】
【化34】

【0109】
【化35】

【0110】
【化36】

【0111】
[合成例8]
「フォトレジストの重合と製造」
合成例6に記載した方法と同様にして、モノマー(M−9)、(M−10、(M−11)の3成分にて共重合反応を行い、ArFエキシマレーザー用レジストに適した高分子化合物(P−8)を得た。GPC(標準ポリスチレン)から求めた重合平均分子量12,800、分子量分散は1.84であった。
【0112】
次いで高分子化合物(P−8)をプロピレングリコールメチルアセテートに溶解させ、固形分12%になるように調整した。さらに光酸発生剤としてトリフェニルスルフォニウムトリフレート(TPS105:みどり化学(株)製)を高分子化合物(12)100重量部に対して2重量部になるように溶解し、レジスト溶液を調整した。
【0113】
【化37】

【0114】
[実施例1〜9]
「高分子コーティング用組成物の調製と塗布」
合成例6および合成例7で得られた含フッ素高分子(P−1)〜(P−7)を第2表に示すそれぞれの配合でフッ素化アセタールを含有する溶剤組成(フッ素化アセタールに混合される溶媒は、溶剤全体の10重量%とした)に常温で攪拌溶解させ、固形分が5重量%になるように調整したところ、すべての場合において均一で透明な高分子溶液が得られた。
【0115】
ついで、4インチシリコンウエハー上に1500rpmで60秒間スピンコートし、80℃で120秒間乾燥したところ、実施例2〜7、および実施例9においては均一で透明な膜が得られた。それぞれの膜厚を第2表に示す。
【0116】
さらに実施例1、実施例8の高分子コーティング溶液を同一組成の有機溶剤で2%になるように希釈し1mm厚のアクリル板上にフローコーティングした。60℃で10分間乾燥したところ、第2表に示す膜厚で均一な塗膜が得られた。
【0117】
【化38】

【0118】
[実施例10]
「含フッ素高分子膜の形成と剥離、除去」
合成例7で得られた(P−8)のレジスト溶液を4インチのシリコンウェハ上に1500rpmでスピンコートし、110℃でベークし膜厚220nmのレジスト膜を得た。次に実施例1の5%溶液を用いて、レジスト膜上にそれぞれスピンコートし、110℃でベークし2層膜を得た。
【0119】
2層膜上に1mmの厚みで純水で覆った。それらの水面の上部からフォトマスクを介して高圧水銀ランプを用いて紫外線での露光を行ったのち、純水を除去し130℃で熱処理を行った。
【0120】
その後、実施例2〜5の含フッ素高分子コーティングを塗布した2層膜を合成例1のフッ素化アセタール(A)に浸漬し、また実施例6〜9の含フッ素コーティング膜を塗布した2層膜を合成例2のフッ素化アセタール(B)に浸漬したところ、すべての場合の含フッ素コーティング膜が速やかに溶解された。それぞれの場合のレジスト膜の残膜率を第2表に示す。
【0121】
次いで、2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、23℃で1分間現像した。この結果、レジスト膜の露光部が溶解し、フォトマクスと同様なパターン形状が残った。
【0122】
[実施例11]
「含フッ素高分子膜の形成と剥離、除去」
実施例10と同様にして、フォトレジスト膜上に実施例2〜9の5%溶液をそれぞれスピンコートし、110℃でベークし2層膜を得た。
【0123】
2層膜上に1mmの厚みで純水で覆った。それらの水面の上部からフォトマスクを介して高圧水銀ランプを用いて紫外線での露光を行ったのち、純水を除去し130℃で熱処理を行った。
【0124】
その後、合成例1のフッ素化アセタール(A)に浸漬したところ、実施例2のすべての含フッ素コーティング膜が速やかに溶解され、膜厚219nmのレジスト膜が残った。残膜率は219×100÷220=99.5%であった。結果は第2表に示す。
【0125】
次いで、2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、23℃で1分間現像した。この結果、レジスト膜の露光部が溶解し、フォトマクスと同様なパターン形状が残った。
【0126】
[実施例12]
「含フッ素高分子膜の形成と剥離、除去」
実施例10と同様にして得られた(P−8)のレジスト膜上に、実施例2〜5で得られた5%溶液を用いてそれぞれスピンコートし、110℃でベークし2層膜を得た。
【0127】
次いで、2層膜上に1mmの厚みで純水で覆った。それらの水面の上部からフォトマスクを介して高圧水銀ランプを用いて紫外線での露光を行ったのち、純水を除去し130℃で熱処理を行った。
【0128】
さらに、その後、2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、23℃で1分間現像した。この結果、いずれも場合も、含フッ素高分子膜は全面溶解し、かつ同時にレジスト膜の露光部が溶解し、下地の未露光部のみが矩形のパターン形状として残った。すなわち1回の現像プロセスで上層の含フッ素高分子膜と露光部のレジスト膜を除去することが可能であった。
【0129】
[実施例13]
屈折率が1.49のアクリル板上に形成した、実施例1、実施例8の含フッ素高分子膜の屈折率を分光エリプソメーターで測定したところ、650nmの波長で、それぞれ1.38、1.36であり、表面の反射率が抑制され、反射防止効果が確認できた。
【0130】
[比較例1〜7]
合成例6,7で得られた含フッ素高分子P−1〜P−9を本発明のフッ素化アセタールを用いないで、極性溶媒のメチルイソブチルケトン(MIBK)、非極性のヘプタン、弱極性のヘキサノールを用いて、それぞれ溶解試験を行った。その結果の溶解状態を○(溶解)、△(沈殿物あり)、×(不溶)で示す。その結果を第3表に示す。溶解した場合の含フッ素高分子コーティング組成物の5%溶液を用い、実施例10と同様にして得られた(P−8)のレジスト膜上にそれぞれスピンコートし、110℃でベークした結果、2層膜は得られたものの界面が混合した場合は△、またレジスト膜を溶解させてしまい2層膜が得られなかった場合を×とした。
【0131】
【化39】

【0132】
[比較例8]
合成例6,7で得られた含フッ素高分子P−1〜P−9を他のフッ素溶剤であるエチルノナフルオロブチルエーテルへの溶解試験を行った。混合後60℃にて2時間攪拌したが、どの場合も十分な溶解を示さなかった。
【0133】
[比較例9]
実施例1〜9で得られたフッ素化アセタールを溶媒としてコーティングした含フッ素高分子膜を、MIBK、又はヘキサノールを用いて現像試験を行ったが、MIBKの場合はレジスト膜を溶解させ、ヘキサノールを用いた場合は十分な剥離速度を示さず、実用性に問題があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素高分子化合物を、一般式(1)で表されるフッ素化アセタール
【化1】

によりなる溶剤に溶解させてなる高分子コーティング用組成物。
(式中、R1、R2は、同一又は異種の炭素数1〜12の炭化水素基であって、分岐や環構造を含有しても良い。R1とR2は結合して環を形成しても良い。R3は、単結合又は炭素数1〜4の分岐を含んでも良いアルキレン基、R4は水素、メチル基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロエチル基である。またR1、R2、R3の一部に、フッ素、窒素、酸素、硫黄、ヒドロキシ基、カルボキシル基、グリシジル基、シアノ基、アミノ基、フルオロカルビノール基を含有してもよい。)
【請求項2】
含フッ素高分子化合物が一般式(2)の構造
【化2】

(ここでR5は、水素、又は炭素数1〜15の環状構造を含んでも良い炭化水素基であって、フッ素を含有してもよい。)
を有する化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子コーティング用組成物。
【請求項3】
フッ素化アセタールが一般式(3)で表される化合物
【化3】

(式中、R6は、水素、メチル基、又はエチル基を表す。)
であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の高分子コーティング用組成物。
【請求項4】
フッ素化アセタールが一般式(4)で表される化合物
【化4】

(式中、R6は、水素、メチル基、又はエチル基を表す)。
であることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の高分子コーティング用組成物。
【請求項5】
フッ素化アセタールが一般式(5)で表される化合物
【化5】

(式中、R7は分岐を有しても良い炭素数1〜5のアルキル基であって、フッ素を含有しても良い。)
であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の高分子コーティング用組成物。
【請求項6】
次の2つのステップからなる、含フッ素高分子膜の形成方法。
(i)請求項1〜5の何れかに記載の高分子コーティング用組成物を、有機膜上に塗布するステップ。
(ii)前記、有機膜上に塗布された高分子コーティング用組成物から「フッ素化アセタールによりなる溶剤」を蒸発させ、含フッ素高分子膜を形成させるステップ。
【請求項7】
請求項6において、有機膜がフォトレジストであることを特徴とする、フォトレジスト保護用または反射防止用の含フッ素高分子膜の形成方法。
【請求項8】
液浸露光プロセスで使用される請求項7のフォトレジスト保護用または反射防止用の含フッ素高分子保護膜の形成方法。
【請求項9】
請求項1〜5の何れかに記載の含フッ素高分子コーティング用組成物を用いて、請求項6または請求項7に記載の方法により、有機膜上に形成した含フッ素高分子膜、フォトレジスト用高分子保護膜、又は反射防止膜。
【請求項10】
液浸露光プロセスで使用される請求項9記載の含フッ素高分子膜、フォトレジスト用保護膜、又は反射防止膜。
【請求項11】
フォトレジスト膜上に形成された含フッ素高分子膜の上部からリソグラフィーとしての露光を行った後、一般式(1)で表されるフッ素化アセタール
【化6】

(式中、R1、R2は、同一又は異種の炭素数1〜12の炭化水素基であって、分岐や環構造を含有しても良い。R1とR2は結合して環を形成しても良い。R3は、単結合又は炭素数1〜4の分岐を含んでも良いアルキレン基、R4は水素、メチル基、トリフルオロメチル基、またはトリフルオロエチル基である。またR1、R2、R3の一部に、フッ素、窒素、酸素、硫黄、ヒドロキシ基、カルボキシル基、グリシジル基、シアノ基、アミノ基、フルオロカルビノール基を含有してもよい。)
によりなる溶剤を接触させ、該含フッ素高分子膜を剥離、除去することを特徴とする、フォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法。
【請求項12】
含フッ素高分子化合物が一般式(2)の構造
【化7】

(ここでR5は、水素、又は炭素数1〜15の環状構造を含んでも良い炭化水素基であって、フッ素を含有してもよい。)
を有する化合物であることを特徴とする、請求項11に記載のフォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法。
【請求項13】
フッ素化アセタールが一般式(3)で表される化合物
【化8】

(式中、R6は、水素、メチル基、またはエチル基を表す。)
であることを特徴とする、請求項11または請求項12に記載のフォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法。
【請求項14】
フッ素化アセタールが一般式(4)で表される化合物
【化9】

(式中、R6は、水素、メチル基、またはエチル基を表す)。
であることを特徴とする、請求項11または請求項12に記載のフォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法。
【請求項15】
フッ素化アセタールが一般式(5)で表される化合物
【化10】

(式中、R7は分岐を有しても良い炭素数1〜5のアルキル基であって、フッ素を含有しても良い。)
であることを特徴とする、請求項11または請求項12に記載のフォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法。
【請求項16】
液浸露光プロセスにて使用する、請求項11〜請求項15の何れかに記載のフォトレジストまたはリソグラフィーパターンの形成方法。

【公開番号】特開2007−126582(P2007−126582A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321599(P2005−321599)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】