説明

含フッ素高分岐ポリマーを用いた界面接着性制御

【課題】マトリクス樹脂に対する混合、分散性に優れ、マトリクス樹脂中で凝集を起こさず、しかも従来の線状高分子からなる剥離剤と比べて、該組成物の成形加工工程における混合・成形機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れる内部剥離剤並びに該内部剥離剤を用いることによる樹脂成形品の界面接着性の制御方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、第1観点として、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーA及び該モノマーBの合計モルに対して、5モル%以上200モル%以下の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる、含フッ素高分岐ポリマーからなる内部剥離剤並びに該内部剥離剤を用いる樹脂成形品における界面接着性の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含フッ素高分岐ポリマーからなる内部剥離剤に関し、詳細には、特定の含フッ素高分岐ポリマーを樹脂組成物に添加することにより、該組成物の成形加工工程における混合・成形機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れる内部剥離剤に関する。
また本発明は、上記内部剥離剤を用いた界面接着性制御にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー(高分子)材料は、近年、多分野でますます利用されている。それに伴い、それぞれの分野に応じて、マトリクスとしてのポリマーの性状とともに、その表面や界面の特性が重要となっており、特に、剥離性や離型性といった界面接着性の制御に関する特性の向上が求められている。
例えば、接着分野においては、剥離紙やプラスチックフィルムなどからなる剥離フィルムと、粘着性物質との間の接着又は固着を防止することを目的として、基材(フィルム等)表面をコーティング加工することによって剥離性を付与することが行われている。
【0003】
また、樹脂の成形分野においては、自動車、各種電気機器(テレビ、パソコン、携帯電話等)、建材、事務用品の部品や構造部材として、プラスチックや合成ゴム等の樹脂を射出成形、押出成形等により、所望の形状に形成され、成形加工工程における各種機械や金型等への離型性(剥離性)の向上が求められている。
樹脂等に剥離性を付与するために、成形品の原料となる樹脂に剥離性を付与する添加剤(剥離剤或いは離型剤)を配合する技術が提案されており、例えば、線状高分子化合物を離型剤として用いた方法が提案されている(特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3094656号公報
【特許文献2】特開平11−124482号公報
【特許文献3】特開平7−90029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の線状高分子化合物を剥離剤として用いた方法は、樹脂成形品の母体となる樹脂は炭素原子を骨格とする有機物であるため、マトリクスである樹脂と剥離剤との混合・分散性が高く、樹脂中で凝集等を起こさずに混合・分散させやすいという特徴を有している反面、剥離性が十分なものとは言えるものではなく、剥離性能の向上が求められていた。
また、フィルム等の剥離性に関しても、基材に対する剥離性を付与するために、樹脂と基材との界面に活性を持たせる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、従来検討されていなかった高分岐ポリマーにフルオロアルキル基を導入し、得られる含フッ素高分岐ポリマーを剥離剤として採用することにより、マトリクス樹脂に対する混合、分散性に優れ、マトリクス樹脂中で凝集を起こさず、しかも従来の線状高分子からなる剥離剤と比べて、該組成物の成形加工工程における混合・成形機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れる内部剥離剤とすることができることを見出した。また該剥離剤を用いることにより、樹脂成形品の表面(界面)の特性を制御できることを見
出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、第1観点として、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーA及び該モノマーBの合計モルに対して、5モル%以上200モル%以下の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる、含フッ素高分岐ポリマーからなる内部剥離剤に関する。
第2観点として、前記モノマーA 1モルに対して前記モノマーBが0.05モル乃至3モルの割合で用いて得られる、第1観点に記載の内部剥離剤に関する。
第3観点として、前記モノマーAが、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方又は双方を有する化合物である、第1観点又は第2観点に記載の内部剥離剤に関する。
第4観点として、前記モノマーAが、ジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物である、第3観点に記載の内部剥離剤に関する。
第5観点として、前記モノマーAが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートである、第4観点に記載の内部剥離剤に関する。
第6観点として、前記モノマーBが、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、第1観点乃至第5観点のうち何れか一項に記載の内部剥離剤に関する。
第7観点として、前記モノマーBが、下記式[1]で表される化合物である、第6観点に記載の内部剥離剤に関する。
【0008】
【化1】

【0009】
(式[1]中、
1は水素原子又はメチル基を表し、そして
2は炭素原子数2乃至12の水酸基で置換されていても良いフルオロアルキル基を表す
。)
第8観点として、前記モノマーBが、下記式[2]で表される化合物である、第7観点に記載の内部剥離剤に関する。
【0010】
【化2】

【0011】
(式[2]中、
1は前記式[1]における定義と同じ意味を表し、
Xは水素原子又はフッ素原子を表し、
mは1又は2を表し、そして
nは0乃至5の整数を表す。)
第9観点として、前記重合開始剤Cが、アゾ系重合開始剤である、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の内部剥離剤に関する。
第10観点として、前記重合開始剤Cが、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルである
、第9観点に記載の内部剥離剤に関する。
第11観点として、前記重合開始剤Cが、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)である、第9観点に記載の内部剥離剤に関する。
第12観点として、熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物より作製される樹脂成形品における界面接着性の制御方法において、該熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物に第1観点乃至第11観点のうち何れか一項に記載の内部剥離剤を添加することを特徴とする方法に関する。
第13観点として、第1観点乃至第11観点のうち何れか一項に記載の内部剥離剤を含有する熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物より作製される樹脂成形品に熱処理を施すことを特徴とする、樹脂成形品における界面接着性の制御方法に関する。
第14観点として、第12観点は第13観点に記載の方法に従う樹脂成形品であって、その表面部における内部剥離剤の含有割合が内部におけるそれと比較してより高いことを特徴とする樹脂成形品に関する。
第15観点として、第1観点乃至第11観点のうち何れか一項に記載の内部剥離剤の共存下、熱又は光重合性化合物を熱又は光重合して硬化物とすることを特徴とする、重合硬化物の表面改質方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内部剥離剤は、従来の離型剤として用いられた線状高分子が一般的に紐状の形状であるのに対し、積極的に枝分かれ構造を導入した含フッ素高分岐ポリマーからなる。このため、線状高分子からなる従来の離型剤と比較して、分子間の絡み合いが少なく微粒子的挙動を示し、すなわちマトリクスである樹脂中での移動が容易となる。
そのため、本発明の内部剥離剤は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物に配合し樹脂成形品を為した場合、界面(成形品表面)に容易に移動して界面接着性の制御に寄与することができ、樹脂成形品の離型性や剥離性の向上につながる。
また本発明の内部剥離剤は、マトリクスである樹脂との混合・分散性が高く、樹脂中で凝集等を起こさずに混合・分散が可能であり、透明性に優れた樹脂成形品を製造できる。
【0013】
また、本発明の界面接着性の制御方法によれば、熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物から樹脂成形品を作製する際に前記内部剥離剤を含有させることにより、より好ましくは、前記内部剥離剤を含有する熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物から樹脂成形品を作製する際に熱処理を施すことにより、該内部剥離剤を樹脂成形品の表面部に移動させ、表面部における内部剥離剤の含有割合を樹脂成形品内部のそれに比べてより高い状態にすることができ、それにより、成形品の界面の接着性、すなわち離型性や剥離性の向上を達成できる。
また本発明の樹脂成形品は、成形品内部(深部)と比べて、成形品表面(界面)に前記内部剥離剤が多く存在した状態にあることから、混合・成形機械等の各種機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れたものとすることができる。
さらに、本発明の表面改質方法によれば、熱又は光重合性化合物に前記内部剥離剤を共存下で熱又は光重合して硬化物とすることにより、重合硬化物の表面を改質することができ、例えば前述したような離型性又は剥離性、さらには撥水撥油性、防汚性などの表面の性状に関する特性を改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、製造例1で製造した高分岐ポリマー1の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図2】図2は、製造例1で製造した高分岐ポリマー1の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図3】図3は、製造例2で製造した高分岐ポリマー2の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図4】図4は、製造例2で製造した高分岐ポリマー2の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図5】図5は、製造例3で製造した高分岐ポリマー3の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図6】図6は、製造例3で製造した高分岐ポリマー3の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図7】図7は、製造例4で製造した高分岐ポリマー4の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図8】図8は、製造例4で製造した高分岐ポリマー4の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図9】図9は、製造例5で製造した高分岐ポリマー5の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図10】図10は、製造例5で製造した高分岐ポリマー5の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図11】図11は、製造例6で製造した高分岐ポリマー6の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図12】図12は、製造例6で製造した高分岐ポリマー6の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図13】図13は、製造例7で製造した高分岐ポリマー7の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図14】図14は、製造例7で製造した高分岐ポリマー7の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図15】図15は、製造例8で製造した高分岐ポリマー8の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図16】図16は、製造例8で製造した高分岐ポリマー8の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図17】図17は、製造例9で製造した高分岐ポリマー9の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図18】図18は、製造例9で製造した高分岐ポリマー9の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図19】図19は、製造例10で製造した高分岐ポリマー10の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図20】図20は、製造例10で製造した高分岐ポリマー10の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図21】図21は、製造例11で製造した高分岐ポリマー11の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図22】図22は、製造例11で製造した高分岐ポリマー11の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図23】図23は、比較例製造1で製造した高分岐ポリマー12の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図24】図24は、比較製造例1で製造した高分岐ポリマー12の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図25】図25は、実施例2及び比較例2で得られた高分岐ポリマー3/PMMAバルクフィルム又はPMMA単独フィルムの剥離強度試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<内部剥離剤>
本発明の内部剥離剤は、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーA及び該モノマーBの合計モルに対して、5モル%以上2
00モル%以下の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる含フッ素高分岐ポリマーからなる。
【0016】
本発明において、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAは、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方又は双方を有することが好ましく、特にジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。なお、本発明では(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方をいう。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸をいう。
【0017】
このようなモノマーAとしては、例えば、以下の(A1)乃至(A7)に示した有機化合物が例示される。
(A1)ビニル系炭化水素:
(A1−1)脂肪族ビニル系炭化水素類;イソプレン、ブタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等
(A1−2)脂環式ビニル系炭化水素;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン等
(A1−3)芳香族ビニル系炭化水素;ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、トリビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフルオレン、ジビニルカルバゾール、ジビニルピリジン等
(A2)ビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル、ビニルケトン:
(A2−1)ビニルエステル;アジピン酸ジビニル、マレイン酸ジビニル、フタル酸ジビニル、イソフタル酸ジビニル、イタコン酸ジビニル、ビニル(メタ)アクリレート等
(A2−2)アリルエステル;マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、アリル(メタ)アクリレート等
(A2−3)ビニルエーテル;ジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等
(A2−4)アリルエーテル;ジアリルエーテル、ジアリルオキシエタン、トリアリルオキシエタン、テトラアリルオキシエタン、テトラアリルオキシプロパン、テトラアリルオキシブタン、テトラメタリルオキシエタン等
(A2−5)ビニルケトン;ジビニルケトン、ジアリルケトン等
(A3)(メタ)アクリル酸エステル:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシチタントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−アクリロイルオキシ−3−メタクリロイルオキシプロパン、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ウンデシレノキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス[4−(メタ)アクリロイルチオフェニル]スルフィド、ビス[2−(メタ)アクリロイルチオエチル]スルフィド、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート等
(A4)ポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物:
ポリエチレングリコール(分子量300)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリ
コール(分子量500)ジ(メタ)アクリレート等
(A5)含窒素ビニル系化合物:
ジアリルアミン、ジアリルイソシアヌレート、ジアリルシアヌレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ビスマレイミド等
(A6)含ケイ素ビニル系化合物:
ジメチルジビニルシラン、ジビニルメチルフェニルシラン、ジフェニルジビニルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラフェニルジシラザン、ジエトキジビニルシラン等
(A7)含フッ素ビニル系化合物:
1,4−ジビニルパーフルオロブタン、1,6−ジビニルパーフルオロヘキサン、1,8−ジビニルパーフルオロオクタン等
【0018】
これらのうち好ましいものは、上記(A1−3)群の芳香族ビニル系炭化水素化合物、(A2)群のビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル及びビニルケトン、(A3)群の(メタ)アクリル酸エステル、(A4)群のポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物、並びに(A5)群の含窒素ビニル系化合物である。特に好ましいのは、(A1−3)群に属するジビニルベンゼン、(A2)群に属するフタル酸ジアリル、(A3)群に属するエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート並びに(A5)群に属するメチレンビス(メタ)アクリルアミドである。これらの中でもジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートが好ましく、特にエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0019】
本発明において、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBは、好ましくはビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有することが好ましく、特に前記式[1]で表される化合物が好ましく、より好ましくは式[2]で表される化合物であることが望ましい。
【0020】
このようなモノマーBとしては、例えば2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
本発明において、前記モノマーAと前記モノマーBを共重合させる割合は、反応性や表面改質効果の観点から好ましくは前記モノマーA 1モルに対して前記モノマーB 0.
05モル乃至3.0モル、特に好ましくは0.1モル乃至1.5モルである。
【0022】
本発明における重合開始剤Cとしては、好ましくはアゾ系重合開始剤が用いられる。アゾ系重合開始剤としては、例えば以下の(1)〜(5)に示す化合物を挙げることができる。
(1)アゾニトリル化合物:
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等;
(2)アゾアミド化合物:
2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等;
(3)環状アゾアミジン化合物:
2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェートジヒドレート、2,2’−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダ
ゾリン−2−イル]−プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド等;
(4)アゾアミジン化合物:
2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート等;
(5)その他:
2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリン酸、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等。
【0023】
上記アゾ系重合開始剤の中でも、得られる高分岐ポリマーの表面エネルギーの観点から、極性の比較的低い置換基を有するものが望ましく、特に2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル又は2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)が好ましい。
【0024】
前記重合開始剤Cは、前記モノマーA及び前記モノマーBの合計モル数に対して、5モル%乃至200モル%の量で使用され、好ましくは15モル%乃至200モル%、より好ましくは15モル%乃至170モル%、より好ましくは50モル%乃至100モル%の量で使用される。
【0025】
<内部剥離剤の製造方法>
本発明の内部剥離剤は、前述のモノマーA及びモノマーBに対して所定量の重合開始剤Cの存在下で重合させて得られ、該重合方法としては公知の方法、例えば溶液重合、分散重合、沈殿重合、及び塊状重合等が挙げられ、中でも溶液重合又は沈殿重合が好ましい。特に分子量制御の点から、有機溶媒中での溶液重合によって反応を実施することが好ましい。
このとき用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼ
ン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素系溶媒;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系又はエステルエーテル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン等の複素環式化合物系溶媒、並びにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
これらのうち好ましいのは、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等であり、特に好ましいものはトルエン、キシレン、オルトジクロロベンゼン、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等である。
【0026】
上記重合反応を有機溶媒の存在下で行う場合、重合反応物全体における有機溶媒の含量は前記モノマーAの1質量部に対し、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは5〜50質量部である。
重合反応は常圧、加圧密閉下、又は減圧下で行われ、装置及び操作の簡便さから常圧下で行うのが好ましい。また、N2等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
重合反応の温度は好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは70〜150℃である。
より好ましくは、重合反応の温度は前述の重合開始剤Cの10時間半減期温度より20℃以上高い温度で実施され、より具体的には、前記モノマーA、前記モノマーB、前記重合開始剤C及び有機溶媒を含む溶液を、該重合開始剤Cの10時間半減期温度より20℃以上高い温度に保たれた該有機溶媒中へ滴下することにより、重合反応を行うことが好ましい。
また、さらにより好ましくは反応圧力下での前記有機溶媒の還流温度で重合反応を実施することが好ましい。
【0027】
重合反応の終了後、得られた含フッ素高分岐ポリマー(内部剥離剤)を任意の方法で回収し、必要に応じて洗浄等の後処理を行なう。反応溶液から高分子を回収する方法としては、再沈殿等の方法が挙げられる。
【0028】
得られた含フッ素高分岐ポリマー(内部剥離剤)の重量平均分子量(以下Mwと略記)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で好ましくは1,000〜200,000、さらに好ましくは2,000〜100,000、最も好ましくは5,000〜60,000である。
【0029】
<界面接着性の制御方法>
本発明はまた、前記内部剥離剤を用いた樹脂成形品における界面接着性の制御方法に関する。
詳細には、熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物から樹脂成形品を作製する際に前記内部剥
離剤を含有させることにより、より好ましくは該内部剥離剤を含有する熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物より樹脂成形品を作製する工程において、熱処理を施すことにより、樹脂成形品における界面接着性を制御する。
【0030】
前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えばPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)などのポリオレフィン系樹脂;PS(ポリスチレン)、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、MS(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)などのポリスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;PMMA(ポリメチルメタクリレート)などの(メタ)アクリル樹脂;PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、PLA(ポリ乳酸)、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートなどのポリエステル樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリグルコール酸;変性でんぷん;酢酸セルロース、三酢酸セルロース;キチン、キトサン;リグニン等が挙げられる。
中でもポリメチルメタクリレート樹脂又はポリ乳酸樹脂であることが好ましい。
また前記熱硬化性樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂としても特に限定されないが、例えばフェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
上記樹脂組成物において、熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂に対する前記内部剥離剤の配合量は、好ましくは0.01質量%乃至20質量%であり、特に0.1質量%乃至20質量%であることが好ましい。
【0032】
上記樹脂組成物には、熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂と共に一般に添加される添加剤、例えば、帯電防止剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光剤、加工助剤、架橋剤、分散剤、発泡剤、難燃剤、消泡剤、補強剤、顔料などを併用してもよい。
【0033】
上記熱可塑性樹脂組成物或いは熱硬化性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形等の任意の成形方法でフィルムやシート、或いは成形品等の樹脂成形品を得ることができ、成形後にさらに熱処理を経ることにより、内部剥離剤が成形品表面への移動が増加し、剥離性のさらなる向上につながる。熱処理温度は、樹脂組成物に用いた熱可塑性樹脂のガラス転移点ないしガラス転移点+50℃近辺の温度が好ましく、処理時間は特に限定されないが、熱処理温度に依存しておよそ30分間乃至48時間である。
【0034】
そして、前記内部剥離剤を含有する熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物より、好ましくは熱処理を経て作製される本発明の樹脂成形品は、前述の通り、成形品内部(深部)と比べて、成形品表面(界面)に前記内部剥離剤が多く存在した状態にある。このため、成形品作製時に使用する混合・成形機械等の各種機械や金型への離型性、フィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等、さらには撥水撥油性、防汚性に優れた成形品とすることができる。
【0035】
また本発明は、前記内部剥離剤の共存下で、熱又は光重合性化合物を熱又は光重合して硬化物とすることを特徴とする、重合硬化物の表面改質方法にも関する。
上記熱又は光重合性化合物としては、熱又は光重合開始剤の作用によって重合する重合性の部位を分子内に一個以上、好ましくは一個乃至六個有する化合物であれば特に制限は
ない。なお、本発明における重合性化合物の意味するところは、所謂高分子物質でない化合物であり、狭義の単量体化合物(モノマー)だけでなく、二量体、三量体、オリゴマーや反応性高分子をも包含するものである。
【0036】
重合性の部位としては、ラジカル重合性の部位であるエチレン性不飽和結合、或いは、カチオン重合性の部位であるビニルエーテル構造、ビニルチオエーテル構造及びエポキシ環やオキセタン環等の環状エーテル構造等が挙げられる。従って、熱又は光重合性化合物としては、ラジカル重合性の部位であるエチレン性不飽和結合を有する化合物、或いは、カチオン重合性の部位であるビニルエーテル構造、エポキシ環又はオキセタン環を有する化合物が挙げられる。
【0037】
上記熱又は光重合性化合物の中でも、エチレン性不飽和結合の部位を有する(メタ)アクリル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
このような重合性化合物としては、例えば、前述のモノマーAで例示した(A3)(メタ)アクリル酸エステル、並びに(A4)ポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物を挙げることができる。
これらの中でも、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、エトキシ化ビスフェノールA(メタ)アクリレート等が好ましく、特にトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートが望ましい。
【0038】
上記光重合開始剤として公知のものが使用することが可能であり、例えば、ベンゾイン類;ベンゾフェノン類;ベンジルケタール類;α−ヒドロキシケトン類;α−アミノケトン類;アシルホスフィンオキサイド類;チオキサントン類;ヨードニウム塩;又はスルホニウム塩等が挙げられる。
具体的には、例えばチバ・ジャパン(株)製(以下商品名)のイルガキュア(登録商標)184、同369、同500、同651、同784、同907、同819、同1000、同1300、同1700、同1800、同1850、同2959等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような光重合開始剤は複数種を組み合わせて用いることもできる。
なお、光重合開始剤は、前記光重合性化合物に対して好ましくは0.1質量%乃至20質量%であり、好ましくは0.5質量%乃至10質量%である。上記範囲内であれば、透過率を低下することなく硬化物を作製できる。
【0039】
上記熱又は光重合性化合物に対して、前記内部剥離剤は好ましくは0.01質量%乃至20質量%であり、特に0.1質量%乃至20質量%で用いることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0041】
(1)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:東ソー(株)製 HLC−8220GPC
カラム:Shodex KF−804L、KF−805L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:RI
(2)1H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトル
装置:日本電子データム(株)製 JNM−ECA700
溶媒:CDCl3
内部標準:テトラメチルシラン
(3)イオンクロマトグラフィー(F定量分析)
装置:日本ダイオネクス(株)製 ICS−1500
溶媒:2.7mmol/L Na2CO3 + 0.3mmol/L NaHCO3
検出器:電気伝導度
(4)ガラス転移温度(Tg)測定
装置:Perkin elmer社製 Diamond DSC
測定条件:窒素雰囲気下
昇温速度:5℃/分(25−160℃)
(5)5%重量減少時温度(Td5%)測定
装置:(株)リガク製 TG8120
測定条件:空気雰囲気下
昇温速度:10℃/分(25−500℃)
(6)エリプソメトリー(屈折率及び膜厚測定)
装置:J.A.Woollam社製 ESM−300
(7)接触角測定
装置:AST Products社製 VCA Optima
測定溶媒:水及びジヨードメタン
測定温度:20℃
(8)スピンコーター
装置1:ミカサ(株)製 MS−A100
装置2(実施例16):(株)共和理研製、スピンコーター K−359SD2
(9)ホットプレート
装置:アズワン(株)製 MH−180CS、MH−3CS
(10)UV照射装置
装置:アイグラフィックス(株)製 H02−L41
(11)高精度微細形状測定機(膜厚測定)
装置:(株)小坂研究所製 ET−4000A
(12)ヘーズメーター(全光透過率及び濁度測定)
装置:日本電色工業(株)製、NDH5000
(13)真空加熱
装置:東京理化器械(株)製 真空定温乾燥器 VOS−201SD
(14)プレス成型
装置:テスター産業(株)製 卓上型テストプレスS型 SA−303−II−S
(15)X線光電子分光(XPS)測定
装置:Physical Electronics社製 PHI ESCA 5800
X線源:単色化AI Kα線(2mmΦ)
X線出力:200W,14mA
光電子放出角度:45度
(16)引っ張り試験機
装置:(株)エー・アンド・デイ製 テンシロン万能試験機
【0042】
また、略記号は以下の意味を表す。
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業(株)製、製品名:1G)
C4FHM:1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート(大阪有機化学工業(株)製、製品名:V−8FM)
C4FHA:1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、製品名:V−8F)
C6FHA:1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルアクリレート(ダイキン化成品販売(株)製、製品名:R−5610)
C4FA:2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート(ダイキン化成品販売(株)製、製品名:R−1420)
C6FM:2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(ダイキン化成品販売(株)製、製品名:M−1620)
C6FA:2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート(ダイキン化成品販売(株)製、製品名:R−1620)
MAIB:2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル(大塚化学(株)製、製品名:MAIB)
A−DCP:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業(株)製、製品名:A−DCP)
Irg.907:2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(チバ・ジャパン(株)製、製品名:Ciba IRGACURE 907)
PLA:ポリ乳酸(三井化学(株)製、製品名:LACEA、Mw(GPC):160,000)
【0043】
また、本実施例に使用した有機溶剤を以下に示す。
トルエン:関東化学(株)製、一級
ヘキサン:関東化学(株)製、一級
THF(テトラヒドロフラン):関東化学(株)製、一級
PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート):東京化成工業(株)製
アセトン:関東化学(株)製
DMF(N,N−ジメチルホルムアミド):関東化学(株)製、一級
メタノール:関東化学(株)製、特級
クロロホルム:関東化学(株)製、一級
【0044】
[製造例1]
<EGDMA、C4FHM及びMAIBを用いた高分岐ポリマー1の合成>
300mLの反応フラスコに、トルエン 87gを仕込み、攪拌しながら5分間窒素を流し込み、内温が還流するまで(温度110℃以上)加熱した。
別の200mLの反応フラスコに、EGDMA 7.9g(40mmol)、フッ素モノマー C4FHM 6.0g(20mmol)、MAIB 4.6g(20mmol)及びトルエン 87gを仕込み、攪拌しながら5分間窒素を流し込み窒素置換を行い、氷浴にて0℃まで冷却を行った。
前述の300mL反応フラスコ中の還流してあるトルエン中に、EGDMA、C4FHM及びMAIBが仕込まれた前記200mLの反応フラスコから、滴下ポンプを用いて、内容物を30分間かけて滴下した。滴下終了後、1時間熟成させた。
次に、この反応液をヘキサン/トルエン(質量比 4:1)555gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、THF 42gを用い再溶解し、このポリマーのTHF溶液をヘキサン 555gに添加してポリマーをスラリー状態で再沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー1)9.5gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図1及び図2
に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは21,000、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は3.5であった。
【0045】
[製造例2]
<EGDMA、C4FHM及びMAIBを用いた高分岐ポリマー2の合成>
製造例1において、C4FHMの仕込み量を12g(40mmol)とした以外は、製造例1と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー2)8.3gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図3及び図4
に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは17,000、分散度:Mw/Mnは2.9であった。
【0046】
[製造例3]
<EGDMA、C4FHA及びMAIBを用いた高分岐ポリマー3の合成>
200mLの反応フラスコに、トルエン 32gを仕込み、攪拌しながら5分間窒素を流し込み、内温が還流するまで(温度110℃以上)加熱した。
別の100mLの反応フラスコに、EGDMA 4.0g(20mmol)、フッ素モノマー C4FHA 5.7g(20mmol)、MAIB 2.3g(10mmol)及びトルエン 32gを仕込み、攪拌しながら5分間窒素を流し込み窒素置換を行い、氷浴にて0℃まで冷却を行った。
前述の200mL反応フラスコ中の還流してあるトルエン中に、EGDMA、C4FHA及びMAIBが仕込まれた前記100mLの反応フラスコから、滴下ポンプを用いて、内容物を30分間かけて滴下した。滴下終了後、1時間熟成させた。
次に、この反応液をヘキサン/トルエン(質量比 4:1)277gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、THF 36gを用い再溶解し、このポリマーのTHF溶液をヘキサン 277gに添加してポリマーをスラリー状態で再沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー3)8.0gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図5及び図6
に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは22,000、分散度:Mw/Mnは2.9であった。
【0047】
[製造例4]
<EGDMA、C6FHA及びMAIBを用いた高分岐ポリマー4の合成>
製造例3において、フッ素モノマーとしてC6FHA 3.9g(10mmol)を使用した以外は、製造例3と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー4)4.6gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図7及び図8
に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは15,000、分散度:Mw/Mnは2.2であった。
【0048】
[製造例5]
<EGDMA、C4FA及びMAIBを用いた高分岐ポリマー5の合成>
製造例3において、フッ素モノマーとしてC4FA 6.4g(20mmol)を使用した以外は、製造例3と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー5)7.4gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図9及び図1
0に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは16,000、分散度:Mw/Mnは2.2であった。
【0049】
[製造例6]
<EGDMA、C6FM及びMAIBを用いた高分岐ポリマー6の合成>
製造例3において、フッ素モノマーとしてC6FM 4.3g(10mmol)を使用した以外は、製造例3と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー6)5.6gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図11及び図
12に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは17,000、分散度:Mw/Mnは2.1であった。
【0050】
[製造例7]
<EGDMA、C6FM及びMAIBを用いた高分岐ポリマー7の合成>
製造例6において、C6FMの仕込み量を8.6g(20mmol)とした以外は、製造例6と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー7)10.1gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図13及び図
14に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは16,000、分散度:Mw/Mnは1.8であった。
【0051】
[製造例8]
<EGDMA、C6FA及びMAIBを用いた高分岐ポリマー8の合成>
製造例3において、フッ素モノマーとしてC6FA 4.2g(10mmol)を使用した以外は、製造例3と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー8)4.9gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図15及び図
16に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは17,000、分散度:Mw/Mnは2.2であった。
【0052】
[製造例9]
<EGDMA、C6FA及びMAIBを用いた高分岐ポリマー9の合成>
製造例8において、C6FAの仕込み量を8.4g(20mmol)とした以外は、製造例8と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー9)9.7gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図17及び図
18に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは20,000、分散度:Mw/Mnは2.0であった。
【0053】
[製造例10]
<EGDMA、C6FA及びMAIBを用いた高分岐ポリマー10の合成>
製造例8において、C6FAの仕込み量を0.84g(2mmol)とした以外は、製造例8と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー10)4.8gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図19及び図
20に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは16,000、分散度:Mw/Mnは3.8であった。
【0054】
[製造例11]
<EGDMA、C6FA及びMAIBを用いた高分岐ポリマー11の合成>
製造例8において、C6FAの仕込み量を2.5g(6mmol)とした以外は、製造例8と同様にして重合、精製を行い、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー11)5.8gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図21及び図
22に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは14,000、分散度:Mw/Mnは3.0であった。
【0055】
[比較製造例1]
<EGDMA及びMAIBを用いた高分岐ポリマーの合成>
300mLの反応フラスコに、トルエン 79gを仕込み、攪拌しながら5分間窒素を流し込み、内温が還流するまで(温度110℃以上)加熱した。
別の200mLの反応フラスコに、EGDMA 9.9g(50mmol)、MAIB
5.8g(84mmol)及びトルエン 79.2gを仕込み、攪拌しながら5分間窒素を流し込み窒素置換を行い、氷浴にて0℃まで冷却した。
前述の300mL反応フラスコ中の還流してあるトルエン中に、EGDMA及びMAIBが仕込まれた前記200mLの反応フラスコから、滴下ポンプを用いて、内容物を90分かけて滴下した。滴下終了後、1時間熟成させた。
次に、この反応液をヘキサン748gに添加してポリマーをスラリー状態で沈殿させた。このスラリーを減圧濾過し、真空乾燥して、白色粉末の目的物(高分岐ポリマー12)10.6gを得た。
得られた目的物の1H NMR及び13C NMRスペクトルの測定結果を図23及び図
24に示す。
また、目的物のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは17,000、分散度:Mw/Mnは4.8であった。
【0056】
製造例1乃至11及び比較製造例1で調製した高分岐ポリマー1乃至12の重量平均分子量及び分散度、並びに、各高分岐ポリマーの13C NMRスペクトルから求めたフッ素モノマー導入量、及び元素分析から求めたフッ素原子含有量などについて表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[応用例1]
<高分岐ポリマー1乃至12の有機溶剤への溶解性>
製造例1乃至11及び比較製造例1にて得られた高分岐ポリマー1乃至12の有機溶剤への溶解性を評価した。表2に示す各有機溶剤 90mgへ、高分岐ポリマー1乃至12を10mgずつ溶解させて評価した。得られた結果を表2に示す。
[評価基準]
○ ・・・ 完全に溶解する状態
× ・・・ 溶け残りのある状態
【0059】
【表2】

【0060】
[応用例2]
<高分岐ポリマー1乃至12の薄膜作製及び物性評価>
製造例1乃至11及び比較製造例1にて得られた各高分岐ポリマー1乃至12 0.25gをPGMEA 4.75gに溶解し、フィルタろ過を行い、各高分岐ポリマー溶液を調製した。この高分岐ポリマー溶液をシリコンウェハー上にスピンコーティング(slope 5秒間、1,500rpm 30秒間、slope 5秒間)し、100℃にて30分間の熱処理を行うことにより溶媒を蒸発させて、成膜した。
得られた薄膜の波長633nmにおける屈折率、並びに水及びジヨードメタンの接触角の評価を行った。また接触角の結果から表面エネルギーを算出した。さらに、各高分岐ポリマー粉末のガラス転移温度(Tg)及び5%重量減少温度(Td5%)を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
[応用例3]
<高分岐ポリマー2,4,8を用いた光硬化樹脂の表面改質>
光重合性化合物(モノマー)としてA−DCP、高分岐ポリマーとして上記高分岐ポリマー2、4又は8、光重合開始剤としてIrg.907及び有機溶剤としてPGMEAを表4に記載の配合量にて配合し、これをフィルタろ過して光重合性組成物を調製した。この組成物をシリコンウェハー上にスピンコーティング(slope 5秒間、1,500rpm 30秒間、slope 5秒間)し、60℃にて1分間の熱処理により予備乾燥を行い、例1乃至9の薄膜を作製した。比較例として、製造例1乃至11で調製した高分岐ポリマーを添加していない薄膜(例10)を作製した。
得られた各薄膜(例1乃至10)に対して、UV照射装置にて10分間、露光量16mW/cm2にて露光した。露光した各薄膜を、150℃にて20分間の熱処理を行い、光
硬化薄膜を作製した。
得られた各光硬化薄膜に対して、高精度微細形状測定機により測定した膜厚、エリプソメトリーにより測定した波長633nmにおける屈折率、ヘーズメーターにより測定した全光透過率及び濁度、並びに水及びジヨードメタンの接触角を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
表4に示す通り、高分岐ポリマー2、4又は8を添加した例1乃至9の光硬化薄膜は、高分岐ポリマーを配合していない例10の光硬化薄膜と同様に、何れも高い全光透過率と低い濁度を示した。
また、高分岐ポリマーを添加していないA−DCP単体の光硬化薄膜(例10)では、水の接触角が64.8度、ジヨードメタンの接触角が28.4度であったのに対して、高分岐ポリマーを添加した光硬化薄膜(例1乃至9)は水の接触角が76.7〜108.1度、ジヨードメタンの接触角が50.9〜78.8度と何れも高い接触角を示した。この結果から、高分岐ポリマーを添加することで撥水撥油性が付与されたことが明らかとなった。
【0066】
[応用例4]
<高分岐ポリマー2,4,8を用いた熱可塑性樹脂の表面改質>
熱可塑性樹脂としてPMMA又はPLA、上記高分岐ポリマー2、4又は8、及び有機溶剤としてTHF(PMMA樹脂使用時)又はクロロホルム(PLA樹脂使用時)を表6に記載の配合量にて配合し、これをフィルタろ過して熱可塑性樹脂組成物を調製した。この組成物をガラス基板上にキャストし、20℃にて16時間乾燥を行い、例11乃至22のキャスト膜を作製した。比較例として、製造例1乃至11で調製した高分岐ポリマーを添加していないキャスト膜(例23、24)を作製した。
得られた各キャスト膜に対して、真空下、50℃にて8時間の熱処理を行った。
熱処理を行った各膜に対して、高精度微細形状測定機により測定した膜厚、ヘーズメーターにより測定した全光透過率及び濁度、並びに水及びジヨードメタンの接触角を測定した。結果を表7に示す。
【0067】
【表6】

【0068】
【表7】

【0069】
表7に示すとおり、高分岐ポリマー2、4又は8を添加した例11乃至22のキャスト膜は、高分岐ポリマーを配合していない例23及び24のキャスト膜と同様に、何れも高い全光透過率と低い濁度を示した。
また、高分岐ポリマーを添加していないPMMA単体のキャスト膜(例23)では、水の接触角が75.5度、ジヨードメタンの接触角が39.6度であったのに対して、高分岐ポリマーを添加したPMMAキャスト膜(例11乃至16)は、水の接触角が84.8〜103.9度、ジヨードメタンの接触角が53.8〜79.2度と何れも高い接触角を示した。さらに、高分岐ポリマーを添加していないPLA単体のキャスト膜(例24)では、水の接触角が75.7度、ジヨードメタンの接触角が43.7度であったのに対して、高分岐ポリマーを添加したPLAキャスト膜(例17乃至22)は、水の接触角が83.7〜104.5度、ジヨードメタンの接触角が59.0〜81.5度と何れも高い接触角を示した。これらの結果から、PMMA、PLA何れの樹脂についても、高分岐ポリマーを添加することで撥水撥油性が付与されたことが明らかとなった。
【0070】
[実施例1、比較例1]
<高分岐ポリマー3/PMMAブレンド薄膜表面の解析>
上記高分岐ポリマー3、及びPMMA(Polymer Source社製、製品番号P88−MMA、Mw:19,300、Mw/Mn:1.06)を、質量比で5/95となるように混合し、さらに当該混合物4.5質量部をトルエン95.5質量部に溶解した(基質濃度4.5質量%)。得られたトルエン溶液を、シリコンウェハー上にスピンコーティング(1,300rpm 60秒)した後、25℃で12時間乾燥し、膜厚約200
nmの高分岐ポリマー3/PMMAブレンド薄膜(実施例1)を作製した。また、比較例としてPMMAを添加していない高分岐ポリマー3単体の薄膜(比較例1)を作製した。
得られた各薄膜に対して、真空中150℃で24時間熱処理を行った。
熱処理前及び熱処理後の各薄膜に対して、薄膜の最表面(表面よりおよそ深度10nm程度の範囲)のC原子、O原子、F原子について、XPS測定した。得られた結果から各薄膜におけるF原子/C原子の強度比を算出し、実施例のブレンド薄膜最表面における高分岐ポリマー3の分率を求めた。結果を表8に示す。
【0071】
【表8】

【0072】
表8に示すように、高分岐ポリマー3/PMMAブレンド薄膜の最表面における高分岐ポリマー3の分率は、熱処理の前後で大きく変化しており、熱処理を経た前記高分岐ポリマー3/PMMAブレンド薄膜の最表面に高分岐ポリマー3がより多く存在していることが確認された。
【0073】
[実施例2、比較例2]
<高分岐ポリマー3/PMMAバルクフィルムの剥離強度試験>
上記高分岐ポリマー3、及びポリメチルメタクリレート(Aldrich社製、Cas
No.9011−147、Mw:350,000)を、質量比で5/95となるように混合し、さらに当該混合物2質量部をトルエン98質量部に溶解した(基質濃度2質量%)。この溶液を体積で80倍量のヘキサンを用いて再沈殿させ、析出した固体をろ過、乾燥した。得られた固体を、40MPa、210℃で10分間プレス成型した後、さらに140℃で10分間保持し、厚さ100μmの高分岐ポリマー3/PMMAバルクフィルムを作製した(実施例2)。また、比較例として高分岐ポリマー3を添加していない厚さ100μmのPMMA単独フィルムを同様に作製した(比較例2)。
別に、市販のポリカーボネートを、40MPa、255℃で10分間プレス成型し、厚さ40μmのポリカーボネートフィルムを作製した。
作製した高分岐ポリマー3/PMMAバルクフィルムを、作製したポリカーボネートフィルムと貼り合わせ、プレス機を用い140℃、30MPaの圧力を印加させながら熱圧着した。同様にPMMA単独フィルムと前記ポリカーボネートフィルムを貼り合わせ、熱圧着した。
実施例2、比較例2の各フィルムをポリカーボネートフィルムと積層した積層膜それぞれについて、引っ張り試験機を用いた180度剥離試験(JIS K6854)に基づき、8mm幅に切り出した積層膜を300mm/分の速度で引き離し、剥離強度を評価した。結果を図25に示す。
【0074】
図25に示すように、PMMA単独フィルムの場合と比較して、実施例2の高分岐ポリマー3/PMMAバルクフィルムでは剥離強度が低下した。すなわち、高分岐ポリマー3を添加することにより、PMMAフィルムの剥離性が向上したとする結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAと、分子内にフルオロアルキル基及び少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーBとを、該モノマーA及び該モノマーBの合計モルに対して、5モル%以上200モル%以下の重合開始剤Cの存在下で重合させることにより得られる、含フッ素高分岐ポリマーからなる内部剥離剤。
【請求項2】
前記モノマーA 1モルに対して前記モノマーBが0.05モル乃至3モルの割合で用いて得られる、請求項1に記載の内部剥離剤。
【請求項3】
前記モノマーAが、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方又は双方を有する化合物である、請求項1又は請求項2に記載の内部剥離剤。
【請求項4】
前記モノマーAが、ジビニル化合物又はジ(メタ)アクリレート化合物である、請求項3に記載の内部剥離剤。
【請求項5】
前記モノマーAが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートである、請求項4に記載の内部剥離剤。
【請求項6】
前記モノマーBが、ビニル基又は(メタ)アクリル基の何れか一方を少なくとも1つ有する化合物である、請求項1乃至請求項5のうち何れか一項に記載の内部剥離剤。
【請求項7】
前記モノマーBが、下記式[1]で表される化合物である、請求項6に記載の内部剥離剤。
【化1】

(式[1]中、
1は水素原子又はメチル基を表し、そして
2は炭素原子数2乃至12の水酸基で置換されていても良いフルオロアルキル基を表す
。)
【請求項8】
前記モノマーBが、下記式[2]で表される化合物である、請求項7に記載の内部剥離剤。
【化2】

(式[2]中、
1は前記式[1]における定義と同じ意味を表し、
Xは水素原子又はフッ素原子を表し、
mは1又は2を表し、そして
nは0乃至5の整数を表す。)
【請求項9】
前記重合開始剤Cが、アゾ系重合開始剤である、請求項1乃至請求項8のうち何れか一項に記載の内部剥離剤。
【請求項10】
前記重合開始剤Cが、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルである、請求項9に記載の内部剥離剤。
【請求項11】
前記重合開始剤Cが、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)である、請求項9に記載の内部剥離剤。
【請求項12】
熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物より作製される樹脂成形品における界面接着性の制御方法において、該熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物に請求項1乃至請求項11のうち何れか一項に記載の内部剥離剤を添加することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項11のうち何れか一項に記載の内部剥離剤を含有する熱可塑性又は熱硬化性樹脂組成物より作製される樹脂成形品に熱処理を施すことを特徴とする、樹脂成形品における界面接着性の制御方法。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載の方法に従う樹脂成形品であって、その表面部における内部剥離剤の含有割合が内部におけるそれと比較してより高いことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項15】
請求項1乃至請求項11のうち何れか一項に記載の内部剥離剤の共存下、熱又は光重合性化合物を熱又は光重合して硬化物とすることを特徴とする、重合硬化物の表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−275491(P2010−275491A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131611(P2009−131611)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】