説明

含水組成物

【課題】油溶性紫外線吸収剤を水中に溶解して、水溶性薬剤や水溶性色素と共存させ、これらの水溶性成分の安定化を実現すること。
【解決手段】水溶性の薬剤及び/又は水溶性の色素を含有し、かつ、下記成分(1)〜(3)を含有する含水組成物、を提供することにより、上記の課題を解決しえることを見出した。
(1)下記式(I)にて表されるポリオキシエチレン付加化合物
HO(CHCHO)−R (I)
[式中、Rはフィトステロール残基又はフィトスタノール残基を示し、nは5〜100の数を示す。]
(2)水難溶性の紫外線吸収剤
(3)水

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料や皮膚外用剤等として使用することが可能な組成物に関する発明である。本発明の組成物は、配合された水溶性薬剤や水溶性色素が安定化されている含水組成物である。
【背景技術】
【0002】
水溶性の色素は化粧品や外用剤などの皮膚等における外用分野において、主に着色剤として利用されている。これら水溶性色素は、太陽光等からの紫外線に接触すると、分解され退色することが知られている。同様に、多くの水溶性の薬剤(医薬品の有効成分として用いられるものが多い)も、紫外線との接触により劣化や変質が助長されることが知られている。
【0003】
よって、水溶性の色素や薬剤を安定化させて配合するための技術が種々提供されている。その一例として、当該安定化対象成分と紫外線吸収剤との共配合が挙げられる。しかしながら、当該水溶性成分の安定化効果に優れる紫外線吸収剤は、水難溶性であることが技術的な障壁となっている。すなわち、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤では、水難溶性の紫外線吸収剤の充分量を系中において可溶化することは非常に困難であり、上記水溶性成分の安定化は、依然、解決困難な課題である。
【0004】
下記の特許文献1では、L-アスコルビン酸誘導体を溶解した化粧料の安定化する手段として、水溶性紫外線吸収剤の使用が報告されている。しかし、本製剤は効果の高い油溶性紫外線吸収剤の配合については言及がなく、また水溶性色素の退色については述べられていない。
【特許文献1】特開平6−172153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、油溶性紫外線吸収剤を水中に溶解して、水溶性薬剤や水溶性色素と共存させ、これらの水溶性成分の安定化を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題の解決に向けて、水難溶性紫外線吸収剤を水中に溶解した場合の、薬剤及び色素の安定化に関する検討を行い、ポリオキシエチレンを付加したフィトステロール若しくはフィトスタノールを、水系中で、水難溶性の紫外線吸収剤、及び、水溶性薬剤や水溶性色素と共存させた状態で溶解することが可能であり、かつ、当該水溶性成分を十分に安定化させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、水溶性の薬剤及び/又は水溶性の色素を含有し、かつ、下記成分(1)〜(3)を含有する、含水組成物(以下、本発明の含水組成物ともいう)を提供する発明である。
(1)下記式(I)にて表されるポリオキシエチレン付加化合物(以下、化合物(I)ともいう)
HO(CHCHO)−R (I)
[式中、Rはフィトステロール残基又はフィトスタノール残基を示し、nは5〜100の数を示す。]
(2)水難溶性の紫外線吸収剤
(3)水
【0008】
また、本発明は、水溶性の薬剤及び/又は水溶性の色素を、上記の成分(1)〜(3)と含水組成物中において共存させて、当該薬剤及び/又は色素の安定性を向上させる、水溶性成分の安定化方法(以下、本発明の安定化方法ともいう)を提供する発明でもある。
【0009】
化合物(I)は、下記式:
【0010】
【化1】

【0011】
にて、表すこともできる。この化学式のポリオキシエチレン鎖部分に対して右側の基は、上記Rがとり得る、フィトステロール残基又はフィトスタノール残基である。
【0012】
本発明において「含水組成物」とは、水を含有する組成物のことを意味する。また、本明細書中に言及される「溶解した状態」とは、他の成分の影響のない状態で目視観察を行った場合に、系中に紫外線吸収剤が「透明又は半透明の状態」で均等に存在すると認められる状態を意味する。この「透明又は半透明の状態」としては、例えば、水難溶性の紫外線吸収剤が熱力学的に安定な「可溶化状態」や、当該紫外線吸収剤が微粒子として水相中に分散して存在する「水中分散状態」が挙げられる。
【0013】
本発明の含水組成物は、典型的には、皮膚若しくは頭皮頭髪に適用可能な外用組成物又はその基剤、として用いることが可能である。外用組成物の具体的な製品形態としては、化粧料又は外用剤が挙げられる。化粧料と外用剤は、共に、皮膚又は頭皮頭髪に適用することが可能な形態であり、両者は重なり合う概念で、特に、化粧料であることは、外用剤であることをも意味するものである。外用剤であって化粧料ではない場合とは、外用剤の目的が美容を第一義とする「化粧」ではなく、健康を第一義とする場合、すなわち、「医薬部外品」若しくは「医薬品」である場合が該当する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、水溶性薬剤及び/又は水溶性色素が安定化された状態で配合された含水組成物が提供され、さらに、当該含水組成物における水溶性薬剤及び/又は水溶性色素の安定化方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[ポリオキシエチレン付加化合物(化合物(I))の配合]
本発明の含水組成物においては、上述のように、水と水難溶性の紫外線吸収剤と共に、化合物(I)が配合される。化合物(I)は、後述するように、上記式(I)の範囲内の1種のみの化合物として本発明の含水組成物に配合することも可能であり、異なる2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0016】
化合物(I)において、Rがとり得るフィトステロール残基の母化合物であるフィトステロールは、植物由来のステロールであり(F.D.GunstoneおよびB.G.Herslof、A Lipid Glossary、ジ・オイリー・プレス、エアー、1992)、特に、限定はされない。すなわち、Rがとり得るフィトステロール残基としては、シトステロール残基、カンペステロール残基、スチグマステロール残基、ブラッシカステロール(brassicasterol)残基、アベナステロール(avenasterol)残基、エルゴステロール残基等が挙げられる。また、本発明の含水組成物中に配合される化合物(I)は、上述したように、Rが異なるフィトステロール残基である2種以上の化合物の混合物であることも可能である。
【0017】
同じく、Rがとり得るフィトスタノール残基の母化合物であるフィトスタノールは、フィトステロールの水素化又は飽和対応物質であり、特に限定されない。すなわち、Rがとり得るフィトスタノール残基としては、例えば、シトスタノール、カンペスタノール、スチグマスタノール、ブラッシカスタノール(brassicastanol)、アベナスタノール(avenastanol)、エルゴスタノール等が挙げられる。また、本発明の含水組成物中に配合される化合物(I)は、上述したように、Rが異なるフィトスタノール残基である2種以上の化合物の混合物であることも可能である。
【0018】
さらに、化合物(I)は、Rが1種又は2種以上のフィトステロール残基を有する化合物と、同じく1種又は2種以上のフィトスタノール残基を有する化合物の混合物として、本発明の含水組成物に配合することも可能である。
【0019】
また、化合物(I)におけるポリオキシエチレン鎖の数を示すnは5〜100であり、好適には5〜50である。
【0020】
化合物(I)は、その化学構造を基に常法を用いて製造することができる。例えば、フィトステロールに対しエチレンオキシドを添加未反応物の除去後、中和、脱水、脱臭、濾過を行い、容易に化合物(I)を製造することができる。
【0021】
本発明の含水組成物における化合物(I)の配合量は、組成物に対して10質量%以下、好適には3質量%以下である。また、当該化合物(I)の配合量は、水難溶性の紫外線吸収剤の配合量との相対関係に依るところが大きい。水難溶性の紫外線吸収剤に対する化合物(I)の存在比の上限は、上記の化合物(I)の配合量の上限値を限度指標として、質量比で1以上であることが好適であり、3以上であることが特に好適である。化合物(I)の配合量の下限の好適値も、この配合比により規定され得る。なお、化合物(I)は、本発明の含水組成物の必須の配合成分であり、この配合量が0質量%となることはない。
【0022】
[水難溶性の紫外線吸収剤の配合]
本発明の含水組成物でおいては、水難溶性の紫外線吸収剤を1種又は2種以上配合することが必要である。水難溶性の紫外線吸収剤における水以外の溶媒に対する溶解性については特に限定されるものではない。なお、この水難溶性の紫外線吸収剤の配合は、水溶性の紫外線吸収剤の選択的な配合を妨げない。
【0023】
水難溶性の紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤(典型的には、ビスレゾルシニルトリアジン、さらに具体的には、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(別名:2,4―ビス{〔4−(2−エチルヘキシルオキシ)―2−ヒドロキシ〕フェニル}−6−(4−メトキシフェニル)1,3,5−トリアジン、市販品としてチノソーブ(TINOSORB)S、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社)、オクチルトリアゾン(別名:2,4,6―トリス{4−(2−エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ}1,3,5−トリアジン、若しくは、2,4,6−トリアニリノ−p−(カルボ−2’−エチルヘキシル−1’−オキシ)−1,3,5−トリアジン、市販品としてユビナール T150(UVINUL T150)、BASF社)、2−[2−ヒドロキシ−4−(2−エチルヘキシル)フェノキシ]−2H−ベンゾトリアゾール等;安息香酸系紫外線吸収剤(例えば、パラアミノ安息香酸(以下、PABAと略す)、PABAモノグリセリンエステル、N,N−ジプロポキシPABAエチルエステル、N,N−ジエトキシPABAエチルエステル、N,N−ジメチルPABAエチルエステル、N,N−ジメチルPABAブチルエステル等);アントラニル酸系紫外線吸収剤(例えば、ホモメンチル−N−アセチルアントラニレート等);サリチル酸系紫外線吸収剤(例えば、アミルサリシレート、メンチルサリシレート、ホモメンチルサリシレート、オクチルサリシレート、フェニルサリシレート、ベンジルサリシレート、p−イソプロパノールフェニルサリシレート等);ケイ皮酸系紫外線吸収剤(例えば、オクチルシンナメート、エチル−4−イソプロピルシンナメート、エチル−2,4−ジイソプロピルシンナメート、メチル−2,4−ジイソプロピルシンナメート、プロピル−p−メトキシシンナメート、イソプロピル−p−メトキシシンナメート、シクロヘキシル−p−メトキシシンナメート、エチル−α−シアノ−β−フェニルシンナメート、2−エチルヘキシル−α−シアノ−β−フェニルシンナメート等);ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(例えば、2−[4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−4’−メチルベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、2−エチルヘキシル−4’−フェニル−ベンゾフェノン−2−カルボキシレート、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ−3−カルボキシベンゾフェノン等);3−(4’−メチルベンジリデン)−d,l−カンファー、3−ベンジリデン−d,l−カンファー;2−フェニル−5−メチルベンゾキサゾール;2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニルベンゾトリアゾール;2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニルベンゾトリアゾール;ジベンザラジン;ジアニソイルメタン;4−メトキシ−4’−t−ブチルジベンゾイルメタン;5−(3,3−ジメチル−2−ノルボルニリデン)−3−ペンタン−2−オン;フェニルアクリレート系紫外線吸収剤(例えば、2−エチルヘキシルー2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート(別名;オクトクレリン)、2−エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等);ジベンゾイルメタン系紫外線吸収剤(例えば、4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン等);カンファー誘導体(例えば4−メチルベンジリデンカンファー、テレフタリリデンジカンファースルフォニックアシッド等);フェニルベンゾトリアゾール誘導体(例えばヒドロキシ−(エチルヘキシル)フェノキシベンゾトリアゾール、メチレンビス−ベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール等);ベンザルマロネート誘導体(例えばジメチコベンザルマロネート等)等が挙げられる。
【0024】
水難溶性の紫外線吸収剤の中でも、その化学構造の中に6員環を2つ以上有することが好ましく、当該条件の紫外線吸収剤としては、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、2,4,6−トリス[4−(2−エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(2−エチルヘキシル)フェノキシ]−2H−ベンゾトリアゾール等のトリアジン誘導体が挙げられる。これらの中でもビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジンは好適である。
【0025】
また、UVA領域に吸収を有する紫外線吸収剤は、水溶性色素や水溶性薬剤の安定化効果が優れる傾向が認められる。このような水難溶性の紫外線吸収剤としては、例えば、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、2,4,6−トリス[4−(2−エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5−トリアジン、2−[2−ヒドロキシ−4−(2−エチルヘキシル)フェノキシ]−2H−ベンゾトリアゾール、4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン、2−[4−(ジエチルアミノ)−2−ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル等を挙げることができる。
【0026】
本発明の含水組成物における水難溶性の紫外線吸収剤の配合量は、当該組成物中で水難溶性の紫外線吸収剤が、常温にて可溶化又は水分散化されている状態を保つことができる限り、特に限定されない。水難溶性の紫外線吸収剤と化合物(I)の配合量の関係は、上述した通りである。この配合量の関係の限度内において、各々の紫外線吸収剤そのものの性質を加味して、具体的な配合量を決定することも可能である。
【0027】
[水の配合]
本発明の含水組成物における水は、通常は、イオン交換水、精製水、又は、水道水である。組成物全体における、化合物(I)、水難溶性の紫外線吸収剤、並びに、後述する水溶性色素及び/又は水溶性薬剤、の総量の残量、あるいは、組成物全体における、化合物(I)、水難溶性の紫外線吸収剤、後述する水溶性色素及び/又は水溶性薬剤、並びに、一般的な配合成分の残量を含有させることができる。
【0028】
[安定化対象成分]
上述したように、本発明の含水組成物における安定化対象は、水溶性色素及び/又は水溶性薬剤である。
【0029】
(1)水溶性色素
本発明の含水組成物の安定化対象の水溶性色素は、特に限定されるものではないが、例えば、赤色3号(エリスロシン)、赤色102号(ニューコクシン)、赤色106号(アシッドレッド)、赤色201号(リソールルビンB)、赤色227号(ファストアシッドマゲンタ)、赤色230号の(1)(エリスロシンYS)、赤色203号の(2)(エリスロシンYSK)、赤色231号(フロキシンBK)、赤色232号(ローズベンガルK)、赤色401号(ビオラミンR)、赤色502号(ボンソー3R)、赤色503号(ボンソーR)、赤色504号(ボンソーSX)、赤色506号(ファストレッドS)、黄色202号の(2)(ウラニンK)、黄色4号(タートラジン)、黄色402号(ポーラエロー5G)、黄色403号の(1)(ナフトールエローS)、黄色406号(メタニールエロー)、緑色3号(ファーストグリーンFCF)、緑色201号(アリザリンシアニングリーンF)、緑色204号(ピラニンコンク)、緑色205号(ライトグリーンSF黄)、緑色401号(ナフトールグリーンB)、緑色402号(ギネアグリーンB)、青色1号(ブリリアントブルーFCF)、青色2号(インジゴカルミン)、青色202号(パテントブルーNA)、青色205号(アルファズリンFG)、褐色201号(レゾルシンブラウン)、紫色401号(アリズロールパープル)、黒色401号(ナフトールブルーブラック)等が挙げられる。
【0030】
(2)水溶性薬剤
本発明の含水組成物の安定化対象の水溶性薬剤は、特に限定されるものではないが、例えば、アスコルビン酸系美白剤として、L―アスコルビン酸(ビタミンC)が挙げられる。また、ビタミンC誘導体として、例えば、L−アスコルビン酸モノリン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−硫酸エステル、dl−α−トコフェロール2−L−アスコルビン酸リン酸ジエステル等のアスコルビン酸無機塩エステル類;2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸等のアスコルビン酸−2−グリコシド等が挙げられる。
【0031】
これらアスコルビン酸及びその誘導体は、塩として配合することが多く、このような塩としては、アルカリ金属塩(Na塩、K塩等)、アルカリ土類金属塩(Ca塩、Mg塩等)、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、アミノ酸塩等が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属塩である。
【0032】
さらに、本発明の含水組成物における安定化対象として、サリチル酸及びサリチル酸誘導体が挙げられる。サリチル酸系誘導体であるアルコキシサリチル酸系美白剤の例としては、例えば特開平6−40886号記載のものが挙げられる。具体例としては、3−メトキシサリチル酸、3−エトキシサリチル酸、4−メトキシサリチル酸、4−エトキシサリチル酸、4−プロポキシサリチル酸、4−イソプロポキシサリチル酸、4−ブトキシサリチル酸、5−メトキシサリチル酸、5−エトキシサリチル酸、5−プロポシキサリチル酸、あるいはこれらの塩が挙げられる。塩はアルカリ金属塩(Na塩、K塩等)、アルカリ土類金属塩(Ca塩、Mg塩等)、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、アミノ酸塩等が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属塩である。
【0033】
また、トラネキサム酸、さらには、トラネキサム酸誘導体に対しても本発明を適用することができる。トラネキサム酸誘導体としては、例えば、トラネキサム酸の二量体[例えば、塩酸トランス−4−(トランスアミノメチルシクロへキサンカルボニル)アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸]、トラネキサム酸とハイドロキノンのエステル体(例えば、トランス−4−アミノメチルシクロへキサンカルボン酸4’−ヒドロキシフェニルエステル)、トラネキサム酸とゲンチシン酸のエステル体[例えば、2−(トランス−4−アミノメチルシクロへキサンカルボニルオキシ)−5−ヒドロキシ安息香酸およびその塩]、トラネキサム酸のアミド体[例えば、トランス−4−アミノメチルシクロへキサンカルボン酸メチルアミドおよびその塩、トランス−4−(p−メトキシベンゾイル)アミノメチルシクロへキサンカルボン酸およびその塩、トランス−4−グアニジノアミノメチルシクロへキサンカルボン酸およびその塩]、等が挙げられる。
【0034】
また、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン、タウリン、アルギニン、ヒスチジン等のアミノ酸及びこれらのアルカリ金属塩と塩酸塩;アシルサルコシン酸(例えばラウロイルサルコシンナトリウム)、グルタチオン;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等の有機酸;ビタミンA及びその誘導体;ビタミンB 6 塩酸塩、ビタミンB 6 トリパルミテート、ビタミンB 6 ジオクタノエート、ビタミンB 2 及びその誘導体、ビタミンB 12 、ビタミンB 15 及びその誘導体等のビタミンB類;ビタミンE類;ビタミンD類;ビタミンH、パントテン酸、パンテチン等のビタミン類;ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル、γ−オリザノール、アラントイン、グリチルリチン酸(塩)、グリチルレチン酸及びその誘導体、ヒノキチオール、ビサボロール、ユーカリプトール、チモール、イノシトール、サイコサポニン、ニンジンサポニン、ヘチマサポニン、ムクロジサポニン等のサポニン類、パントテニルエチルエーテル、エチニルエストラジオール、アルブチン、セファランチン、プラセンタエキス等の各種薬剤も、本発明の適用対象の水溶性薬剤として挙げることができる。
【0035】
その他、本発明を適用可能な水溶性薬剤は、通常、化粧品に用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、アシタバ抽出液、アセンヤク抽出液、アルテア抽出液、アルニカ抽出液、アロエエキス、アロエベラ抽出液、イチョウ抽出液、イラクサ抽出液、ウイキョウ抽出液、エイジツ抽出液、エンメイソウ抽出液、オウゴン抽出液、オウバク抽出液、オウレン抽出液、オトギリソウ抽出液、オランダカラシ抽出液、海藻抽出液、ガイヨウ抽出液、褐藻エキス、カミツレ抽出液、カラス麦抽出液、カワラヨモギ抽出液、クチナシ抽出液、クマザサ抽出液、クララ抽出液、クレマティス抽出液、ゲンノショウコウ抽出液、紅茶抽出液、ゴボウ抽出液、米ぬか抽出液、コンフリー抽出液、サボテンエキス、サルビア抽出液、サンザシ抽出液、ジオウ抽出液、シソエキス、シモツケ抽出液、シャクヤク抽出液、ジュウヤク抽出液、ショウキョウチンキエキス、ショウブ根抽出液、シラカバ抽出液、水溶性シコン抽出液、西洋キズタ抽出液、西洋鋸草抽出液、西洋ハッカ抽出液、西洋菩提樹抽出液、ゼニアオイ抽出液、センブリ抽出液、ソウハクヒ抽出液、大豆エキス、タイム抽出液、タチジャコウソウ抽出液、茶エキス、チョウジ抽出液、チンピ抽出液、トウガラシチンキ抽出液、トウキ抽出液、トウキンセンカ抽出液、トウヒ抽出液、ニンジン抽出液、ノバラ抽出液、パセリ抽出液、ハマメリス抽出液、バラエキス、ビワ抽出液、ブドウリーフ抽出液、ヘチマ抽出液、ベニバナ抽出液、ホオウ抽出液、ボタンピ抽出液、ホップ抽出液、マルメロエキス、マロニエ抽出液、マンネンロウ抽出液、メリッサ抽出液、メリロート抽出液、桃葉エキス、ヤグルマギク抽出液、ユキノシタ抽出液、ユーカリ抽出液、ユリ抽出液、ヨクイニン抽出液、ラベンダー抽出液、レモンエキス、ローズマリー抽出液、ローマカミツレ抽出液、ワレモコウ抽出液、キウイ抽出液、グレープフルーツ抽出液、ローヤルゼリーエキス等が挙げられる。
【0036】
ここに列挙した、水溶性薬剤のうち、特に、本発明の適用に適したものとして、ビタミンC、上記のビタミンC誘導体、サリチル酸、上記のサリチル酸誘導体、トラネキサム酸、又は、上記のトラネキサム酸誘導体、が挙げられる。
【0037】
なお、上述した塩形態の各種成分以外においても、本発明の含水組成物において、塩としてなる水溶性薬剤を安定化対象成分として用いる場合、塩の形にしてから配合してもよいし、アルカリ剤により組成物中で中和してもよい。このような塩としてなる水溶性薬剤に対する中和用のアルカリ剤としては、塩形成可能なものであれば特に限定されない。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;クエン酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、乳酸ナトリウム等の有機酸塩、リシン等のアミノ酸等が挙げられる。このうち、好ましくは水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物である。
【0038】
[本発明の具体的な態様]
本発明の含水組成物においては、化合物(I)の存在により、本来は水に難溶性の紫外線吸収剤が容易に可溶化又は水分散化される。好ましくは、例えば、水難溶性の紫外線吸収剤を、化合物(I)に溶解又は分散させたパーツを調製し、これを安定化対象である水溶性薬剤又は水溶性色素を含む水相に混合して、可溶化又は分散させることにより、本発明の含水組成物を製造することができる。
【0039】
上記の必須成分のみが含有されている態様の本発明の含水組成物は、これを化粧料又は外用剤として用いられる外用組成物とすることが可能である。当該外用組成物では、安定化対象となる水溶性色素や水溶性薬剤の効果と共に、可溶化又は水分散された難溶性の紫外線吸収剤の薬効や紫外線遮蔽作用等の性質、を、外皮(頭皮頭髪を含む)に対して用いることができる。
【0040】
また、これらの必須成分のみを含有する態様の本発明の含水組成物を、他の一般的な成分が配合される外用組成物の基剤として用いることができる。すなわち、第一に、本発明の含水組成物を製造し、第二に、一般的な成分を配合して、最終的な目的とする態様の外用組成物を製造することができる。
【0041】
ここに一般的な成分としては、薬効の付加、着色、製造パラメーターの調整、イオン強度の調整、pHの調整、製剤の安定性等のため、賦形剤、緩衝液、塩、酸化防止剤、防腐剤、香料、界面活性剤、水溶性ビタミン等を挙げることができる。一般的な成分は、通常は、水溶性物質が用いられるが、紫外線吸収剤であることも、最終製品の剤型によっては許容される。例えば、構造上、6員環を持たない液状油分等も当該一般成分として用いることができる。
【0042】
また、上記の必須成分のみを含有する態様の本発明の含水組成物の製造を経ることなしに、最終的な目的とする形態の外用組成物を製造することも可能である。この場合は、例えば、一般的な成分として選択された水溶性成分を水に溶解させた水相を調製して、この水相に対して、水難溶性の紫外線吸収剤を化合物(I)に対して溶解又は分散させたパーツを混合することにより、当該紫外線吸収剤を可溶化又は水分散化させて、最終形態の外用組成物を製造することができるが、この製造方法に限定されるものではなく、必要や選択した一般的な成分の性質に応じて適宜製造方法を選択又は工夫することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を開示し、本発明をさらに具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。配合量は、特に断りのない限り、配合対象に対する質量%である。さらに、「POE」とは「ポリオキシエチレン」の略称であり、「POP」とは「ポリオキシプロピレン」の略称である。
【0044】
[試験例]
常法に基づき、化合物(I)若しくは他の界面活性剤と、水難溶性の紫外線吸収剤を混合して溶解を試み、当該パーツを、安定化対象成分である水溶性色素(赤色233号)又サリチル酸ナトリウム、4-メトキシサリチル酸カリウム、トラネキサム酸、アスコルビン酸ナトリウム、を水相中にて混合することにより、表1〜表6に示す試験品(実施例又は比較例)を得て、下記の判定基準による試験を行った。結果については、各表毎に個別に記載する。なお、各表の配合量を示す欄における「−」は、0質量%であることを示す。
【0045】
(1)試験品調製直後の試験
(a)溶解状態の確認
各試験品について、目視による溶解状態の確認試験を行った。判定基準は以下の通りである。
◎: 透明状態である
○: ほぼ透明状態である。
△: 白濁〜半透明である。
×: 分離物が認められる。
【0046】
(b)透明度(L値)の確認
各試験品について、透明度についてL値の計測による確認を行った。L値は、島津製作所社製の分光光度計(UV−160)を用い、コントロールとして蒸留水の透明度を100としたときの透明度として測定した。判定基準は、以下の通りである。
90以上: 透明状態である。
70〜90未満: ほぼ透明である。
70未満: 白濁〜半透明である。
測定不能: 分離物が認められる。
【0047】
(c)使用性試験
調製直後の各試験品について、専門パネル10名による使用感触テストを行った。判定基準は、以下の通りである。
【0048】
○: 10人中5人以上が、べたつきがないと評価した場合
△: 10人中3〜4人が、べたつきがないと評価した場合
×: 10人中0〜2人が、べたつきがないと評価した場合
【0049】
(2)経時による確認
(a)溶解状態の変化
上記のごとく調製した試験品を50℃で1ヶ月保存し(以下、「50℃1M」とも表す)、再び、上記の要領でL値の測定を行った。そして、上記の試験品調製直後に計測したL値と、今回計測したL値の差により、経時的な安定性の評価を行った。判定基準は、以下の通りである。なお、今回計測したL値も併せて各表に記載する。
◎: L値変化 ±2以内
○: L値 ±5以内
△: L値 ±10以内
×: L値変化 ±10以上、又は、分離物が認められる
【0050】
(b)色差(ΔE値)の評価
各試験品について、色差についてΔEの計測による確認を行った。ΔE値は、島津製作所社製の分光光度計(UV−160)を用い、コントロールとして調製直後のサンプルを基準とした場合のΔE値として測定した。判定基準は、以下の通りである。
ΔE値 1以内 : 色の変化が全く認められない。
ΔE値 2以内 : 色の変化がほとんど認められない。
ΔE値 5以内 : 色の変化が多少認められる。
ΔE値 5以上 : 色の変化がかなり認められる。
【0051】
<試験系1>
【0052】
【表1】

【0053】
表1において、比較例1〜2はフィトステリル骨格を有さない界面活性剤を用いているため、可溶化能が低く、水難溶性の紫外線吸収剤(ビスエチルへキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン)の可溶化に適していないことが明らかになった。これに対して、実施例1〜3は、化合物(I)を用いており、十分に実用的なレベルで上記水難溶性紫外線吸収剤の可溶化を行うことができた。
【0054】
<試験系2>
【0055】
【表2】

【0056】
表2において、比較例3は、化合物(I)の代わりに、付加したポリオキシエチレン基のモル数が5未満のポリオキシエチレン付加フィトステロールを配合したため、経時安定性に若干見劣りがした。
【0057】
実施例4は、付加したポリオキシエチレン鎖が5〜50モルである化合物(I)を配合しており、外観、使用性、経時的安定性が良好であった。
【0058】
比較例4は、化合物(I)の代わりに、付加したポリオキシエチレン基のモル数が50以上のポリオキシエチレン付加フィトステロールを配合したため、使用の際にべたつきが認められた。
【0059】
<試験系3>
表3に示す試験系では、化合物(I)と水難溶性物質の比率(質量比)が問題となるため、当該比率も表に示した。
【0060】
【表3】

【0061】
実施例8は、化合物(I)/水難溶性の紫外線吸収剤、の比率が1以下であるため、若干半透明状態となった。
【0062】
実施例5〜7は、化合物(I)/水難溶性の紫外線吸収剤の比率、が1以上であるため、外観、使用性、安定性が良好であった。
【0063】
<試験系4>
【0064】
【表4】

【0065】
実施例9で用いた水難溶性の紫外線吸収剤は、化学構造中に6員環を1つしか有さない紫外線吸収剤であり、可溶化は可能であるが、経時的安定性が最良の結果には至らなかった。
【0066】
実施例10〜12で用いた水難溶性の紫外線吸収剤は、化学構造中に6員環を2つ以上有する紫外線吸収剤であるため、外観、安定性が良好であった。
【0067】
<試験系5>
表5に示す試験系では、本発明の含水組成物の必須成分の他に、一般成分を用いた処方(外用剤)を採用して各試験を行った。各一般成分は水溶性であり、予め、イオン交換水に混合して水相パーツを調製して、水難溶性の紫外線吸収剤と化合物(I)の溶解パーツと混合することにより、各試験品の調製を行った。
【0068】
【表5】

【0069】
実施例13〜16の結果により、一般的な成分を配合した系であっても、本発明の含水組成物における本来の効果は損なわれないことが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の薬剤及び/又は水溶性の色素を含有し、かつ、下記成分(1)〜(3)を含有する、含水組成物。
(1)下記式(I)にて表されるポリオキシエチレン付加化合物
HO(CHCHO)−R (I)
[式中、Rはフィトステロール残基又はフィトスタノール残基を示し、nは5〜100の数を示す。]
(2)水難溶性の紫外線吸収剤
(3)水
【請求項2】
ポリオキシエチレン付加化合物(I)に対する、水難溶性の紫外線吸収剤の配合量比が、質量比で1以上である、請求項1に記載の含水組成物。
【請求項3】
ポリオキシエチレン付加化合物(I)におけるフィトステロール残基又はフィトスタノール残基Rが、シトステロール残基、カンペステロール残基、スチグマステロール残基、ブラッシカステロール(brassicasterol)残基、アベナステロール(avenasterol)残基、エルゴステロール残基、シトスタノール残基、カンペスタノール残基、スチグマスタノール残基、ブラッシカスタノール(brassicastanol)残基、アベナスタノール(avenastanol)残基、及び、エルゴスタノール残基、からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の含水組成物。
【請求項4】
ポリオキシエチレン付加化合物(I)におけるnが5〜50の数である、請求項1〜3のいずれかに記載の含水組成物。
【請求項5】
水難溶性の紫外線吸収剤が、6員環を2つ以上有する化学構造の紫外線吸収剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の含水組成物。
【請求項6】
水難溶性の紫外線吸収剤が、UVA領域に吸収を持つ紫外線吸収剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の含水組成物。
【請求項7】
水難溶性の紫外線吸収剤が、トリアジン誘導体である、請求項1〜6に記載の含水組成物。
【請求項8】
水溶性の薬剤が、ビタミンC、ビタミンC誘導体、サリチル酸、サリチル酸誘導体、トラネキサム酸、トラネキサム酸誘導体、からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の含水組成物。
【請求項9】
含水組成物が外用組成物である、請求項1〜8のいずれかに記載の含水組成物。
【請求項10】
外用組成物の形態が化粧料又は外用剤である、請求項9に記載の含水組成物。
【請求項11】
含水組成物が、外用組成物を製造するための基剤として用いられる組成物である、請求項1〜10のいずれかに記載の含水組成物。
【請求項12】
水溶性の薬剤及び/又は水溶性の色素を、下記成分(1)〜(3)と含水組成物中において共存させて、当該薬剤及び/又は色素の安定性を向上させる、水溶性成分の安定化方法であって、当該安定化方法における下記ポリオキシエチレン付加化合物(I)に対する、水難溶性の紫外線吸収剤の配合量比は、質量比で1以上である。
(1)下記式(I)にて表されるポリオキシエチレン付加化合物
HO(CHCHO)−R (I)
[式中、Rはフィトステロール残基又はフィトスタノール残基を示し、nは5〜100の数を示す。]
(2)水難溶性の紫外線吸収剤
(3)水

【公開番号】特開2010−13374(P2010−13374A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172922(P2008−172922)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】