説明

吸光度測定装置、吸光度測定方法

【課題】試料の光熱効果を利用した吸光度測定により、非常に吸光度の高い試料についても容易に高精度で吸光度を測定できること。
【解決手段】所定の調査光P1をレーザ光源7から試料5に対して照射し、吸光度の測定対象となる測定光P3を測定光源1から試料5に対してその試料内で調査光P1と交差するように照射し、試料5内で測定光P3と交差することによる調査光P1の位相の変化を光干渉計により測定し、その測定結果に基づいて測定光P3についての試料5の吸光度を信号処理装置21により算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の吸光度を測定する吸光度測定装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、試料の吸光度を測定する場合、透過型の吸光度測定装置が用いられる。
透過型の吸光度測定装置は、測定対象となる測定光を試料に透過させ、試料内で吸収されずに透過してきた観測光の強度を検出することによって吸光度を測定する。ここで、試料に入射する前の測定光の強度をI0、試料を透過後の測定光の強度をIとすると、吸光度A=−log10(I/I0)となる。
また、特許文献1には、吸光度の高い試料についても、懸濁物の体積等の問題なく吸光度を測定できる透過型の吸光度測定装置が示されている。
一方、特許文献2には、試料に励起光を照射することにより、光熱効果によってその試料が発熱するとともに、熱レンズ効果によって試料の屈折率が変化するという特性を利用した試料の分析法が示されている。
特許文献2に示される試料の分析法の原理は以下の通りである。
まず、試料の測定部位に第1の光(以下、調査光という)を照射し、さらに、その測定部位に第2の光(以下、励起光という)を照射する。そして、試料の測定部位を通過した調査光を、集光レンズで集光した後にピンホールに通過させ、このピンホール通過後の調査光の強度を光検出器で検出する。そうすると、励起光の照射により試料の屈折率が変化し、その屈折率の変化によって調査光の光路が変化し、その光路の変化量に応じて、ピンホール通過後の調査光の強度が変化する。従って、このピンホール通過後の調査光の強度変化に基づいて、励起光の吸収による試料の発熱特性を測定でき、その発熱特性から試料の物性を測定できる。
【特許文献1】特開平6−160280号公報
【特許文献2】特開平10−232210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、透過型の吸光度測定では、試料の吸光度が大きいほど、試料を透過後の測定光の強度が弱くなる。このため、透過型の吸光度測定は、吸光度が非常に高い試料については、試料を透過後の測定光の強度が限りなく0に近くなり、その測定光の強度を光検出器で測定できない、或いは十分な精度で測定できないという問題点があった。例えば、測定対象である測定光が赤外領域の光である場合には、多くの試料が非常に高い吸光度を示すため、特にその問題が顕著となる。
また、試料の厚みを十分に薄くすれば測定可能な吸光度の範囲を広げられるものの、測定精度に直結する試料の厚みを高精度で管理することが困難であるという問題点があった。また、試料が液体試料である場合、ごく薄い厚みの試料収容部を形成する組み立て式の容器(セル)に封入したり取り出したりする作業が非常に煩雑となるという問題点もあった。また、有機溶媒を用いた液体試料などのように、粘性が低く表面張力が小さい試料を測定する場合、組み立て式容器の接合部の隙間から試料が漏れ出すなどの不都合も生じる。さらに、特許文献1に示される課題のように、懸濁液試料の場合には、液体試料の容器に懸濁物が堆積するなどの問題点も生じ得た。
また、液体試料における容器(セル)との界面の染み出し光の吸収を測定する反射型の吸光度測定装置も存在するが、液体試料の容器への封入や、測定装置への取り付けの作業が煩雑であるという問題点がある。
一方、励起光が試料に照射された場合、その励起光についての試料の吸光度が高いほど、光熱効果による試料の発熱量が大きくなり、調査光の変化が大きくなる。このため、光熱効果を利用すれば、吸光度が高い試料についても、調査光の変化を正確に測定できる。
従って、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、試料の光熱効果を利用した吸光度測定により、非常に吸光度の高い試料についても容易に高精度で吸光度を測定できる吸光度測定装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は、試料の吸光度を測定する吸光度測定装置として構成されるものであり、以下の(1)〜(4)に示す構成要素を備えることを特徴とする。
(1)所定の調査光を前記試料に対して照射する調査光照射手段。
(2)吸光度の測定対象となる測定光を前記試料に対して該試料内で前記調査光と交差するように照射する測定光照射手段。
(3)前記試料内で前記測定光と交差することによる前記調査光の位相若しくは光路の変化を測定する調査光変化測定手段。
(4)前記調査光変化測定手段の測定結果に基づいて前記測定光についての前記試料の吸光度を算出する吸光度算出手段。
前記測定光を励起光として捉えた場合、光熱効果による試料の発熱量の変化及び屈折率の変化の大きさは、前記測定光についての試料の吸光度の高さと高い相関関係がある。また、測定光の照射による試料の屈折率の変化の大きさは、試料内で測定光(励起光)と交差することによる調査光の光路の変化及び位相の変化の大きさと高い相関関係がある。このため、前記調査光変化測定手段により、試料に照射された調査光の光路や位相が、試料内で測定光と交差することによって変化する程度を測定すれば、前記吸光度算出手段により、前記測定光についての試料の吸光度を高精度で算出(測定)することができる。また、本吸光度測定装置では、試料内における測定光と調査光との交差部のみが測定部位となり、その測定部位(光の交差部)を光学機器の調整等によって所望の位置や大きさに設定することは容易である。このため、試料の厚み方向全体が測定部位となる従来の透過型の吸光度測定とは異なり、吸光度が高い試料を測定する場合でも、試料の厚みを薄くする必要がない。
【0005】
また、測定光が赤外線領域の光である場合など、特に吸光度が高くなる測定光及び試料の組合せについて測定を行う場合、試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側近傍に位置するよう設定すれば好適である。
これにより、試料内において大きく減衰する前の測定光によって励起された部分の特性変化を、調査光によって測定できる。
さらにその場合、前記調査光の前記試料内における光軸方向が前記試料における前記測定光の入射部界面に対して平行若しくはほぼ平行となるように設定されることが好ましい。
これにより、調査光が、試料における測定光の入射部界面近傍を通る場合に、その調査光の一部が試料の外側の部分(試料内の測定部位以外の部分)にはみ出す無駄が生じることを防止できる。
【0006】
また、流体状の前記試料が充填される容器であって前記測定光及び前記調査光各々を外側から前記試料の充填部に透過させる壁が形成された試料容器をさらに具備する吸光度測定装置も考えられる。
これにより、流体状の試料の吸光度を測定できる。
ここで、測定光との交差部における調査光の幅(断面の大きさ)、即ち、試料の測定部位の測定光方向における寸法を調整するために、調査光を集光レンズなどによって集光する場合、試料内における調査光の幅が、測定光との交差部に向かうほど徐々に狭くなる状況となる。
そこで、前記試料容器における前記測定光を透過させる壁の内側面が、前記試料の充填部に突出して形成されていれば好適である。
これにより、試料における測定光の入射部界面近傍(即ち、試料容器の内側の壁面近郷)に調査光及び測定光の交差部を位置させた場合に、その交差部に至るまでの調査光の一部が、試料容器の壁内(試料内の測定部位以外の部分)にはみ出す無駄が生じることを防止できる。
さらにその場合、前記試料容器における前記測定光を透過させる壁に、前記測定光の透過領域を制限するマスクが設けられていれば好適である。
このマスクにより、調査光との交差部における測定光の幅(断面の大きさ)、即ち、試料の測定部位の調査光方向における大きさをを調整できる。
また、前記調査光変化測定手段が、前記試料内で前記測定光と交差することによる前記調査光の位相の変化を光干渉計により測定するものが考えられる。
これにより、調査光の変化を光学的に高精度で測定できる。
【0007】
また、本発明は以上に示した吸光度測定装置を用いた吸光度測定と同原理の集光度測定方法として捉えることもできる。
即ち、試料の吸光度を測定する吸光度測定方法であって、以下の(1)〜(4)に示す各手順を実行することを特徴とする。
(1)吸光度の測定対象となる測定光を出射する光源の出射光を前記試料に照射する測定光照射手順。
(2)所定の調査光を出射する光源の出射光を前記試料に対しその試料内で前記測定光と交差するように照射する調査光照射手順。
(3)前記試料内で前記測定光と交差することによる前記調査光の位相若しくは光路の変化を所定の光測定手段を通じて測定する調査光変化測定手順。
(4)前記調査光変化測定手順の測定結果に基づいて前記測定光についての前記試料の吸光度を所定の計算機により算出する吸光度算出手順。
この吸光度測定方法の実施による作用及び効果は、前述した吸光度測定装置の作用及び効果と同様である。
ここで、前記試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側近傍に位置するよう設定する場合、以下の条件を満たすことが望ましい。
その条件の1つは、前記測定光についての前記試料の単位長さ当たりの吸光度(単位吸光度)が30[cm-1]以下である場合に、前記試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側150μm以内に位置するよう設定するという条件である。
前記条件の2つ目は、前記測定光についての前記試料の単位長さ当たりの吸光度(単位吸光度)が40[cm-1]以下である場合に、前記試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側100μm以内に位置するよう設定するという条件である。
これらの条件を満たすことにより、試料内において大きく減衰する前の測定光によって励起された部分の特性変化を、調査光によって測定できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記測定光によって試料が励起され、その光熱効果によって生じる試料の屈折率の変化を、試料に照射された調査光の光路や位相の変化として測定するので、その測定光についての試料の吸光度を高感度かつ高精度で測定することができる。また、試料内における測定部位(測定光と調査光との交差部)を、光学機器の調整等によって所望の位置や大きさに設定することが容易である。このため、試料の厚み方向全体が測定部位となる従来の透過型の吸光度測定とは異なり、吸光度が高い試料を測定する場合でも、試料の厚みを薄くする必要がない。その結果、ごく薄い厚みの試料の寸法を高精度で管理する困難さや、液体試料を厚みがごく薄い試料収容部を有する組み立て式の容器に封入したり取り出したりする作業の煩雑さなどの従来の問題点が解消される。
さらに、測定光が赤外線領域の光である場合など、特に吸光度が高くなる測定光及び試料の組合せについて測定を行う場合に、試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側近傍に位置するよう設定すればなお好適である。
これにより、試料内において大きく減衰する前の測定光によって励起された部分の特性変化を、調査光によって測定できる。その結果、特段に強い測定光を用いなくても、吸光度の高い試料を高精度で測定できる。
【0009】
また、測定に際し、流体状の前記試料が充填される容器であって前記測定光及び前記調査光各々を外側から前記試料の充填部に透過させる壁が形成された試料容器を用いれば、流体状の試料の吸光度も測定できる。
この試料容器は、前記測定光を透過させる壁の内側面が、前記試料の充填部に突出して形成されたものや、前記測定光を透過させる壁に、その測定光の透過領域を制限するマスクが設けられたものが望ましい。
これにより、試料における測定光の入射部界面近傍(即ち、試料容器の内側の壁面近郷)に調査光及び測定光の交差部を位置させた場合に、その交差部に至るまでの調査光の一部が、試料容器の壁内(試料内の測定部位以外の部分)にはみ出す無駄が生じることを防止できる。また、前記マスクにより、調査光との交差部における測定光の幅(断面の大きさ)、即ち、試料の測定部位の調査光方向における大きさをを調整できる。
また、前記調査光変化測定手段が、前記試料内で前記測定光と交差することによる前記調査光の位相の変化を光干渉計により測定するものであれば、調査光の変化を光学的に高精度で測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに、図1は本発明の実施形態に係る吸光度測定装置Xの概略構成図、図2は吸光度測定装置Xで測定される液体試料及びそれを収容するセルの第一例を表す断面図、図3は吸光度測定装置Xで測定される液体試料及びそれを収容するセルの第二例を表す断面図、図4は所定の実験条件下で複数の液体試料を吸光度測定装置Xで測定した場合に光検出器で検出された干渉光強度の変化量を表すグラフ、図5は従来の透過型の吸光度測定装置により所定の液体試料の吸光度を測定した結果を表すグラフ、図6〜図8は試料の単位吸光度と試料の測定部における吸光量との関係を理論計算によりシミュレーションした結果を表すグラフ(1)〜(3)である。
【0011】
以下、図1を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る吸光度測定装置Xについて説明する。この吸光度測定装置Xは、試料5の吸光度を測定するために用いられ、試料5に測定光P3を照射し、その試料5の光熱効果によって生じる特性変化(屈折率変化)を測定し、その測定結果に基づいて試料5の吸光度を算出(測定)する装置である。以下に示す実施形態は、試料5が液体試料(流体状の試料の一例)である場合の例を示すが、試料5が固体である場合であっても同様に実施できる。
図1に示すように、吸光度測定装置Xは、測定光源1、チョッパ2、レンズ等の光学機器3、4、6、8〜19、レーザ光源7、光検出器20、信号処理装置21等を備えている。
さらに、吸光度測定装置Xは、液体試料5がその内部に充填される試料容器であるセルSを備え、液体試料5は、このセルS内に充填(収容)された状態で測定される。
吸光度の測定対象となる測定光を出射する所定の測定光源1(例えば、波長533nm、出力100mWのレーザ(YAG倍波))から出力された測定光P3は、バンドパス光フィルタ1aによってその周波数帯(波長)が調整され、周波数帯を調整後の測定光P3がチョッパ2により所定周期の断続光(断続周波数:f)に変換(即ち、周期的に強度変調)される。このチョッパ2により断続光に変換された測定光P3は、レンズ3を通過して液体試料5に照射される。これにより、液体試料5が測定光P3を吸収して発熱し(光熱効果)、その温度変化(上昇)によって液体試料5の屈折率が変化する。
一方、液体試料5の屈折率変化を測定するための調査光(プローブ光)を出射するレーザ光源7(例えば、出力1mWのHe−Neレーザ)から出力された調査光は、1/2波長板8で偏波面が調節され、さらに偏光ビームスプリッタ(PBS)9によって互いに直交する2偏波(P1、P2)に分光される。
各偏波P1、P2は、各々音響光学変調機(AOM)10、11によって光周波数がシフト(周波数変換)され、ミラー12、13で反射された後、偏光ビームスプリッタ14によて合成される。これら直交する2偏波P1、P2の周波数差fbは、例えば、30MHz等とする。
合成された調査光の一方の前記偏波P2は、偏光ビームスプリッタ15を通過(透過)してミラー18に反射することにより、再度、偏光ビームスプリッタ15に戻る。ここで、偏光ビームスプリッタ15に戻ってきた前記偏波P2は、その偏光ビームスプリッタ15とミラー18との間に配置された1/4波長板16を往復通過することによってその偏波面が90°回転しているため、今度は偏光ビームスプリッタ15に反射して光検出器20の方向へ向かう。
【0012】
これに対し、合成された調査光の他方の前記偏波P1は、偏光ビームスプリッタ15に反射して、1/4波長板17及び前記レンズ4を通過して液体試料5に入射する。また、前記測定光P3も液体試料5に照射され、セルSに充填された液体試料5内において、測定光P3と偏波P1(調査光)とが交差するように構成されている。即ち、レーザ光源7(調査光照射手段の一例)により出力される測定対象光である調査光(偏波)P1が一の軸方向に沿って液体試料5に照射され、これと異なる方向から、測定光源1(測定光照射手段の一例)により出力される測定光P3が液体試料5に照射される。以下、セルSについて予め定めた所定の軸方向を基準軸方向といい、測定光P3と偏波P1とが交差する部分(交差部)を測定部5aという。以下に示す実施形態では、前記基準軸方向が、調査光(偏波)P1の光軸方向(照射方向)である場合の例を示す。
さらに、液体試料5に入射した前記偏波P1(調査光)は、液体試料5の測定部5aを通過し、液体試料5の裏面側(調査光(偏波P1)の照射面の反対面側)に設けられた反射ミラー6で反射し、再び液体試料5の測定部5aを通過(即ち、往復通過)して、前記レンズ4及び前記1/4波長板17を通過して前記偏光ビームスプリッタ15へ戻る。ここで、前記偏波P1(調査光)は、前記1/4波長板17を往復通過することによってその偏波面が90°回転しているため、今度は偏光ビームスプリッタ15を通過して前記偏波P2と合流し、前記光検出器20の方向へ向かう。
前記偏光ビームスプリッタ15と前記光検出器20との間には偏光板19が配置され、この偏光板19において前記偏波P1と、該偏波P1と光周波数が異なる前記偏波P2とが、それぞれ観測光(調査光)と参照光として干渉し、その干渉光の光強度が前記光検出器20(光電変換手段)によって電気信号(以下、この電気信号の信号値を干渉光強度という)に変換される。この電気信号(即ち、干渉光強度)は、計算機等からなる信号処理装置21に入力及び記憶され、該信号処理装置21において前記偏波P1(調査光)の位相変化の演算(算出)処理(即ち、光干渉法による位相変化の測定)がなされる。
ここで、前記偏波P1、P2を各々所定の方向へ導く光学系機器及び前記偏波P1、P2(調査光と参照光)の干渉光を形成させる前記偏光板19、並びに前記光検出器20と前記信号処理装置21は、光干渉計を構成しており、これが調査光変化測定手段の一例である。
【0013】
ここで、干渉光強度Svは、次の(1)式で表される。
Sv=C1+C2・cos(2π・fb・t+φ) …(1)
この(1)式において、C1、C2は偏光ビームスプリッタ等の光学系や液体試料5の透過率により定まる定数、φは前記偏波P1、P2の光路長差による位相差、fbは2偏波P1、P2の周波数差である。
(1)式より、前記干渉光強度Svの変化(前記測定光を照射しない或いはその光強度が小さいときとその光強度が大きいときとの差)から、前記位相差φの変化Δφが求まることがわかる。前記信号処理装置21は、(1)式に基づいて前記位相差φの変化Δφを算出する。
また、液体試料5の測定部5aにおいて、測定光P3を吸収する所定の含有物質の量に応じて吸熱量(発熱量)が変わり、その発熱量に応じて測定部5aの屈折率が変わり、その屈折率に応じて前記位相差φ(液体試料5中の前記偏波P1の光路長)が変わる。即ち、測定光P3を吸収する含有物質の量が多いほど、測定光P3の変化に対する前記位相差φの変化Δφ(即ち、調査波P1の位相変化)が大きい。従って、前記位相差φを測定すれば、液体試料5の温度変化により生じる屈折率の変化が求まり、その結果、液体試料5の屈折率変化と相関が高い液体試料5の吸光度を求めることが可能となる。
例えば、当該吸光度測定装置Xを用いて、予め吸光度が既知である複数種類のサンプル試料について前記位相差の変化Δφを測定(計算)し、その結果とそのサンプル試料の吸光度との対応関係を信号処理装置21に変換データテーブルや変換式として記憶しておく。
そして、測定対象とする液体試料5についての前記位相差の変化Δφの測定結果(計算結果)を前記変換データテーブルに基づく補間処理や前記変換式に基づく変換処理を行うこと等により、その液体試料5の吸光度を算出する処理を信号処理装置21(吸光度算出手段の一例)により実行すればよい。
このように、吸光度測定装置Xは、まず、測定光P3の照射による液体試料5の屈折率変化を、液体試料5の測定部5aを通過(透過)させることによる調査光(前記偏波P1)の位相変化(測定光P3の照射による位相変化)として測定する。また、その位相変化の測定は、光干渉計(光干渉法)を用いて、参照光(前記偏波P2)の位相と調査光(前記偏波P1)の位相とを相対評価(位相差)することによって検出(測定)する。これにより、例えば装置ごとに光検出器20の位置や調査光P1の強度及びその強度分布等が異なっても、測定中に変化さえしなければ、これらに依存することなく安定的に、しかも光学的に高精度で試料の屈折率変化を測定することが可能となる。
【0014】
また、本吸光度測定装置Xでは、裏面側の前記反射ミラー6に調査光(偏波P1)を反射させることにより、調査光(偏波P1)を液体試料5に往復通過させ、その往復通過後の調査光について位相変化測定が行われるため、片道通過の場合の2倍の感度で前記位相差の変化Δφを測定できる。しかも、測定光の出力増大やS/N比の低下を伴わない。
さらに、前記測定光は周波数fで強度変調されているため、液体試料5の屈折率も周波数fで変化し、偏波P1の光路長も周波数fで変化し(偏波P2の光路長は一定)、前記位相差φも周波数fで変化する。従って、前記位相差φの変化Δφを、周波数fの成分(前記励起信号の強度変調周期と同周期成分)について測定(算出)すれば、周波数fの成分を有しないノイズの影響を除去しつつ液体試料5の屈折率変化のみを測定できる。
これにより、前記位相差φの測定のS/N比が向上する。
【0015】
前述したように、測定光P3と偏波P1(調査光)とは、セルSの収容部Sa内で交差するように液体試料5に照射され、その際、調査光P1及び測定光P3は、そのセルSの壁を通過(透過)して液体試料5に照射される。ここで、前記セルS(の壁)は、石英等、調査光P1や測定光P3を透過させる材料により構成されている。但し、セルSの壁の材質は、測定光P3に対して(少なくとも観測波長帯域に対して)吸光の無い材質とすることが望ましい。
また、本実施形態では、前記セルSの壁は、その内面がほぼ直方体状に形成されており、前記基準軸方向は、セルSの壁面(調査光P1の入射面)に対してほぼ垂直な方向となるように構成(配置)されている。
なお、図1には、基準軸方向と測定光P3の照射方向とがほぼ直交するように構成された例を示すが、これに限らず、斜めに交差させることも考えられる。
また、図1には、調査光P1を反射ミラー6で反射して折り返す(液体試料5に往復通過させる)構成を示すが、これに限らず、例えば、参照光P2を図1における下側に導く等により、調査光P1を液体試料5に対して一方向のみ通過させる構成も考えられる。或いは、調査光P1を液体試料5の両側で多重反射させ、液体試料5に対して3回以上通過させた後に参照光P2と干渉させる構成等も考えられる。
【0016】
次に、図2を参照しつつ、セルS及びこれに充填された液体試料5に対して調査光P1及び測定光P3が照射される状態の一例について説明する。
ここで、図2は、液体試料5及びそれを収容するセルSの第一例を表す断面図である。
セルSは、その内部に液体試料5が充填される容器であり、測定光P3及び調査光P1各々を外側から液体試料5の充填部に透過させる壁が形成された容器である。壁は、例えば石英部材等である。なお、図2は、図1に示した反射ミラー6を省略し、調査光P1を液体試料5に対して一方向のみ通過させて測定する場合の例を表す。
図2に示すセルSは、その内側形状(液体試料5の充填部の形状)が、寸法Rx×Ryの矩形の断面を有する立方柱状である。
液体試料5内における測定光P3及び調査光P1の交差部(測定部5a)は、液体試料5における測定光P3の入射部界面(即ち、測定光P3入射側のセルSの内側壁面Sif)に対して内側の近傍に位置するように、測定光P3及び調査光P1各々の光路が設定されている。これは、各光学系の選定及び配置によって予め設定されるものである。
これにより、液体試料5内において大きく減衰する前の測定光P3によって励起された部分を測定部5aとし、その測定部5aの特性変化(屈折率変化)を、調査光P1によって測定できる。
また、調査光P1の液体試料5内における光軸方向(前記基準方向)が、液体試料5における測定光P1の入射部界面(セルSの内側壁面Sif)に対して平行となるように設定されている。
これにより、調査光P1の光路を、液体試料5における測定光P1の入射部界面(セルSの内側壁面Sif)に近づけても、その調査光P1の一部が液体試料5の外側の部分(ここでは、セルSの壁)にはみ出す無駄が生じることを防止できる。
【0017】
以下、吸光度測定装置Xを用いて液体試料5の吸光度を測定したいくつかの実験の条件及び結果について説明する。
本実験の条件は、以下の通りである。
(1)セルS
セルSの内側形状(液体試料5の充填部の形状)は、断面が3.0mm×3.0mm(図2におけるRx×Ry)の立方柱状である。セルSの壁は、厚み1.0mmの石英である。
(2)測定光P3(励起光)
測定光源1をキセノンランプ(消費電力250mW)とし、バンドパス光フィルタ1aにより測定光P3の波長帯を480±5nmの範囲に設定した。なお、バンドパス光フィルタ1aは、その透過率が45%以上となる光の波長帯域が、480±5nmである。
また、レンズ3により、調査光との交差部(測定部)において、測定光P3の直径が2mmとなるように集光した。
また、測定光P3は、チョッパ2により、周波数100Hz、パルス幅50%のパルス状に変換した。
(3)調査光P1
レーザ光源7をHe−Neレーザ(出力1mW)とし、これにより出力される調査光P1の波長は633nm。調査光P1の測定光P1との交差部(測定部)における直径は50μm(強度半値幅)とした。
調査光P1の液体試料5内における光軸方向(前記基準方向)が、液体試料5における測定光P3の入射部界面(即ち、測定光P3入射側のセルSの内側壁面Sif)に対して平行となるように調査光P1を液体試料5に照射した。
(4)液体試料5
吸光度の測定対象であるモデル試料として、色素の高濃度水溶液である液体試料5を用いた。色素は、"SunsetYellowFCF"であり、その濃度を変えることにより、液体試料5の吸光度を調整した。即ち、色素の濃度が異なる複数の液体試料5各々について測定を行った。なお、溶媒は純水である。
(5)その他
調査光P1と測定光P3との交差角度は90°に設定した。
液体試料5内における測定光P3及び調査光P1の交差部(測定部5a)の全体が、液体試料5における測定光P3の入射部界面(即ち、測定光P3入射側のセルSの内側壁面Sif)に対して内側50μm以内に位置するよう設定した。
【0018】
図4は、前述した実験条件下で、色素の濃度が異なる7種類の液体試料5各々を吸光度測定装置Xで測定した場合に、光検出器20を通じて検出された干渉光強度の変化量を表すグラフである。グラフの横軸は、液体試料5各々の単位長さ(光路長1cm)当たりの吸光度(以下、これを単位吸光度[cm-1]と称する)の計算値を表し、縦軸は、励起された測定部5bを通過することによる調査光P1(偏波P1)の位相変化(前記偏P1、P2の光路長差による位相差φ)の大きさを表す指標値(以下、調査光P1の変化測定値と称する)表す。なお、横軸は対数軸である。
測定光P3の波長帯が480±5nmである場合における液体試料5の単位吸光度は、それぞれ9.25×100[cm-1]、2.31×101[cm-1]、4.62×101[cm-1]、9.25×101[cm-1]、1.38×102[cm-1]、1.85×102[cm-1]、2.31×102[cm-1]である。これら液体試料5の単位吸光度は、色素及び純水(溶媒)の単位吸光度が既知であることから、色素の濃度に基づいて求めた理論値である。
図4のグラフに示すように、単位吸光度と調査光P1の変化測定値とは高い相関関係を示す。
また、単位吸光度が46.2[cm-1]〜231[cm-1]という光吸収率の高い液体試料5であっても、高感度かつ高精度で吸光度を測定できることがわかる。
即ち、図4のグラフに基づいて、干渉光強度の変化量ΔSvから単位吸光度へ変換する変換式や変換テーブルを予め信号処理装置21の記憶部に記憶させておく。そして、信号処理装置21(計算機)が、所定のプログラムを実行することにより、光検出器20を通じて得られた干渉光強度の変化量ΔSvを、単位吸光度に変換し、その単位吸光度を吸光度に換算すればよい。ここで、液体試料5の測定部位(測定光P3と調査光P1との交差部)の測定光P3方向の厚みは既知であるので、その厚みと、吸光度を求めたい液体試料5の厚みとの比に応じて単位吸光度[cm-1]を換算すれば、吸光度(一般に、Absと称される(単位は無し))を求めることができる。もちろん、前記変換式や変換テーブル自体を、干渉光強度の変化量ΔSvから吸光度へ変換するものに換算しておいてもよい。
【0019】
ちなみに、図5は、従来の透過型の吸光度測定装置により、前述の実験と同じ液体試料5の吸光度を測定した結果を表すグラフである。
ここで、図5(a)は、波長帯が480±5nmの測定光P3についての単位吸光度が23.1[cm-1]である液体試料5の測定結果、図5(b)は、同単位吸光度が46.2[cm-1]である液体試料5の測定結果、図5(c)は、同単位吸光度が92.5[cm-1]である液体試料5の測定結果を表す。いずれも、液体試料5の厚み(測定光P3の光軸方向の厚み)は1mmである。また、横軸は測定光P3の波長[nm]、縦軸は吸光度(前記Abs)を表す。
ここで、図5に示すグラフ各々における測定光P3の波長帯が480±5nmである部分(図中、OLで表す部分)のデータを見ると、図5(b)、(c)のグラフ(単位吸光度が46.2[cm-1]以上の場合)では、測定値が振動して非常に不安定になっている。これは、液体試料5の吸光度が高すぎるため、液体試料5通過後の測定光の強度が微弱すぎて測定不能状態に陥っていることを表している。このように、従来の透過型の吸光度測定装置では、単位吸光度が50.0[cm-1]以上となるような試料については、その厚みを1mmまで薄くしても吸光度を測定できない。また、試料の厚みをこれ以上薄くするほど、前述したように、試料の厚み管理の問題や、取扱いの煩雑さの問題が生じる。
この図5と前述した図4とを比較すれば、本発明の実施形態に係る吸光度測定装置Xは、従来の透過型の吸光度測定装置で測定できないほど単位吸光度の高い試料についても、その吸光度を測定できることがわかる。しかも、試料の厚みを特に薄くする必要がなく(前述の実験条件では液体試料5の厚みは3mm)、試料の取扱いが容易である。
【0020】
次に、図3を参照しつつ、前述したセルSの他の実施形態であるセルS’及びこれに充填された液体試料5に対して調査光P1及び測定光P3が照射される状態の他の例について説明する。
ここで、図3は、液体試料5及びそれを収容するセルS’(試料容器)の第二例を表す断面図である。なお、図3も、図1に示した反射ミラー6を省略し、調査光P1を液体試料5に対して一方向のみ通過させて測定する場合の例を表す。
セルS’も、セルSと同様に、測定光P3及び調査光P1各々を外側から液体試料5の充填部に透過させる壁が形成された容器である。壁は、例えば石英部材等である。このセルSの壁の材質は、測定光の波長域に応じて適当なものを採用すればよい。例えば、測定光が赤外光である場合には、セルSの壁の材質として、赤外光の透過性が良いフッ化カルシウムなどを採用すれば好適である。
図3に示すセルS’は、その一部の構成が異なる以外は、図2に示したセルSと同じ構成を有している。
図3に示すセルS’は、前述のセルSに対し、次の2つの点において異なる。
その1つは、セルS’における測定光P3を透過させる壁の内側面Sif’が、液体試料5の充填部に突出して形成されている点である。
2つ目は、セルS’における測定光P3を透過させる壁(ここでは、壁の外側)に、測定光P3の透過領域を制限するマスクSkが設けられている点である。このマスクSkは、測定光P3を遮断する(透過させない)部材の一部に、測定光P3を通過させる開口が設けられたものである。
また、図3に示す例でも、調査光P1の液体試料5内における光軸方向(前記基準方向)が、液体試料5における測定光P1の入射部界面(セルS’の内側壁面Sif’)に対して平行となるように設定されている。
さらに、液体試料5内における測定光P3及び調査光P1の交差部(測定部5a)は、液体試料5における測定光P3の入射部界面(即ち、測定光P3入射側のセルSの内側壁面Sif’)に対して内側の近傍に位置するように、測定光P3及び調査光P1各々の光路が設定されている。
【0021】
図3に示すように、セルS’の壁の内側面Sif’が突出して形成されているため、液体試料5における測定光P3の入射部界面近傍(セルS’の内側の壁面Sif’の近郷)に、調査光P1及び測定光P3の交差部(測定部5b)を位置させた場合に、その交差部に至るまでの調査光P1の一部が、セルS’壁内(液体試料5内の測定部5b以外の部分)にはみ出す無駄が生じることを防止できる。
また、マスクSkにより、調査光P1との交差部(測定部5b)における測定光P3の幅(断面の大きさ)、即ち、測定部5bの調査光P1方向の寸法を調整できる。
【0022】
前述した実施形態では、信号処理装置21が、(1)式に基づいて、光検出器20で検出される干渉光強度Svから前記位相差の変化Δφ(調査波P1の位相変化)を算出し、さらに、予め吸光度が既知であるサンプル試料の測定結果に基づく変換データテーブルや変換式を用いて、前記位相差の変化Δφから試料5の吸光度を算出することについて示した。
その他、理論上の計算式に基づいて、光検出器20で検出される干渉光強度Svから試料5の吸光度を算出することもできる。以下、その内容について説明する。
ここで、調査波P1が測定波P3と交差することによる調査波P1の光路長の変化量をΔL、測定波P3の照射による液体試料5の測定部5b(交差部)の温度変化をΔT、測定部5bの調査波P1方向の長さをd、液体試料5の溶媒の屈折率温度係数をdn/dTとすると、理論上、次の(2)式が成立する。
ΔL = dn/dT・ΔT・d …(2)
この(2)式において、dn/dT及びdとは予め知ることができるので、ΔLを測定すれば、(2)式に基づいてΔTを算出できる。
【0023】
また、測定波P3が液体試料5の測定部5bで吸収されるエネルギー(即ち、測定部5bで発生する熱量)をΔI、液体試料5の熱容量をCとすると、次の(3)式が成立する。但し、(3)式は、液体試料5における熱伝導による熱の逃げ量は無視している。
ΔT = ΔI/C …(3)
この(3)式において、Cは予め知ることができるので、(2)式基づいてΔTを算出すれば、(3)式に基づいてΔIを算出できる。
また、液体試料5の測定部5bへの入射直前の測定光P3のエネルギーをI0、測定部5bを通過直後の測定光P3のエネルギーをIとすると、次の(4)式が成立する。
ΔI = I0 − I …(4)
ここで、液体試料5に入射するまでの光路における測定光P3の減衰(空気中及びセルSの壁中での減衰)は、用いる測定光の種類に応じて予め想定できる。このため、測定部5b(交差部)が、液体試料5における測定光P3の入射部界面にほぼ接しているとすると、I0は予め想定できる。従って、(3)式に基づいてΔIを算出すれば、(4)式に基づいてIを算出できる。
【0024】
一方、前述した(1)式に基づいて、光検出器20で検出される干渉光強度Svから前記位相差の変化Δφ(調査波P1の位相変化)を算出できる。
また、調査波P1の波長をλ1とすると、次の(5)式により、ΔLを算出できる。
ΔL = λ1・Δφ/2π …(5)
以上より、光検出器20で検出される干渉光強度SvからΔφを算出でき、ΔφからΔLを算出でき、ΔLからIを算出でき、そのI及び既知のI0に基づいて、測定光P3と調査光P1との交差部(測定部5b)についての試料の吸光度A(=−log10(I/I0))を算出できる。従って、信号処理装置21(計算機)が、このような計算を実行することによって吸光度Aを算出できる。
なお、特許文献2に示されるように、測定光P3と交差した後の調査光P1をピンホールに通過させ、そのピンホールを通過後の調査光P1の強度を光検出器で検出し、その検出値からΔLを算出する処理を計算機によって実行してもよい。
【0025】
一方、測定部5b(交差部)が、液体試料5における測定光P3の入射部界面から離れており、液体試料5に入射してから測定部5bに至るまでの測定光P3の減衰を無視できない場合、I0は、測定光源1の出力エネルギーから測定部5bに至るまでの減衰エネルギーを差し引いて求める必要がある。
この場合、試料における測定光P3の入射部界面(セルS、S’の内側壁面Sif、Sif’)から測定部5b(交差部)までの距離をx、試料の単位長さ当たりの吸光度(単位吸光度)をB、試料における測定光P3の入射部界面(セルS、S’の内側壁面Sif、Sif’)での測定光P3のエネルギー(通常は、測定光源1の出力エネルギー)をI0(0)とすると、I0は、距離xの関数として次の(6)式により求めることができる。
0 (x)= I0(0)・(1−10-Bx) …(6)
以上の計算を信号処理装置21(計算機)によって実行すれば、測定部5b(交差部)が、液体試料5における測定光P3の入射部界面から離れている場合でも、吸光度を計算することができる。
【0026】
次に、図6〜図8に示すシミュレーションデータのグラフを参照しつつ、試料における測定光P3の入射部界面(セルS、S’の内側壁面Sif、Sif’)から測定部5b(交差部)までの距離と測定部5bの吸光量(即ち、吸熱量)との関係について説明する。
図6〜図8は、試料の単位吸光度(光路長1cm当たりの吸光度)と試料の測定部5bにおける吸光量(吸熱量)との関係を、理論計算によりシミュレーションした結果を表すグラフである。また、図6、図7、図8は、それぞれ調査光P1のビーム径が10μm、50μm、110μmであることを想定した場合のグラフを表す。なお、調査光P1のビーム径は、測定部5b(交差部)の測定光P3照射方向における幅を表す。
図6〜図8に示す各グラフにおける横軸は、ある測定光P3をある液体試料5に照射した場合の単位吸光度[cm-1]であり、縦軸は試料の測定部5b(交差部)における測定光P3の吸光量(吸熱量)を、試料の単位体積当たりの吸光量に換算した値を表す。
また、図6〜図8に示す各グラフにおける複数のグラフ線は、試料における測定光P3の入射部界面(セルS、S’の内側壁面Sif、Sif’)から調査光P1のビーム軸中心までの距離xが0μmである場合(g100、g200、g300)、同10μmである場合(g101、g201、g301)、同20μmである場合(g102、g202、g302)、…のデータを表すグラフ線であり、10μmずつ距離xを変化させた条件でシミュレーションした結果を表す。
【0027】
図6〜図8に示すグラフのいずれにおいても、単位吸光度が30[cm-1]以下である範囲において、必ず傾きが正となる(単位吸光度の上昇に応じて吸光量が増大する)のは、距離xが150μm以下の条件を満たす場合(グラフg100〜g115、g200〜g215、g300〜g315)であることがわかる。換言すると、距離xが150μmを超えると、単位吸光度が30[cm-1]以下であるときに、傾きが0以下となる(単位吸光度の上昇に応じて吸光量が増大しない)状況が発生し得ることがわかる。
同様に、図6〜図8に示すグラフのいずれにおいても、単位吸光度が40[cm-1]以下である範囲において、必ず傾きが正となるのは、距離xが100μm以下の条件を満たす場合(グラフg100〜g110、g200〜g210、g300〜g310)であることがわかる。換言すると、距離xが100μmを超えると、単位吸光度が40[cm-1]以下であるときに、傾きが0以下となる(単位吸光度の上昇に応じて吸光量が増大しない)状況が発生し得ることがわかる。
吸光度測定装置Xでは、試料の単位吸光度の上昇に応じて、測定部5bの発熱量が増大するという関係が成立すれば、その測定部5bの吸光度を測定できる。逆に、その関係が成立しなければ、吸光度測定装置Xによって吸光度を測定できない。
【0028】
以上のことから、測定光P3についての試料の単位吸光度(単位長さ当たりの吸光度)が30[cm-1]以下である場合は、試料内における測定光P3及び調査光P1の交差部(測定部5b)が、試料における測定光P3の入射部界面(壁面Sif、Sif’)に対して内側150μm以内(x≦150μm)に位置するよう設定すれば、吸光度測定装置Xによって有効な吸光度測定を行うことができるといえる。
同様に、測定光P3についての試料の単位吸光度(光路長1cm当たりの吸光度)が40[cm-1]以下である場合は、試料内における測定光P3及び調査光P1の交差部(測定部5b)が、試料における測定光P3の入射部界面(壁面Sif、Sif’)に対して内側100μm以内(x≦100μm)に位置するよう設定すれば、吸光度測定装置Xによって有効な吸光度測定を行うことができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、吸光度測定装置への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る吸光度測定装置Xの概略構成図。
【図2】吸光度測定装置Xで測定される液体試料及びそれを収容するセルの第一例を表す断面図。
【図3】吸光度測定装置Xで測定される液体試料及びそれを収容するセルの第二例を表す断面図。
【図4】所定の実験条件下で複数の液体試料を吸光度測定装置Xで測定した場合に光検出器で検出された干渉光強度の変化量を表すグラフ。
【図5】従来の透過型の吸光度測定装置により所定の液体試料の吸光度を測定した結果を表すグラフ。
【図6】試料の単位吸光度と試料の測定部における吸光量との関係を理論計算によりシミュレーションした結果を表すグラフ(1)。
【図7】試料の単位吸光度と試料の測定部における吸光量との関係を理論計算によりシミュレーションした結果を表すグラフ(2)。
【図8】試料の単位吸光度と試料の測定部における吸光量との関係を理論計算によりシミュレーションした結果を表すグラフ(3)。
【符号の説明】
【0031】
X…吸光度測定装置
1…測定光源
1a…バンドパス光フィルタ
2…チョッパ
3、4…レンズ
5…試料(液体試料)
5a…調査光と調査光の交差部(測定部)
6…反射ミラー
7…レーザ光源
10、11…音響光学変調機(AOM)
20…光検出器
21…信号処理装置
S、S’…セル(試料容器)
Sk…マスク
P1…偏波(調査光)
P2…偏波(参照光)
P3…測定光
Sif、Sif’…測定光入射側のセルの内側壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の吸光度を測定する吸光度測定装置であって、
所定の調査光を前記試料に対して照射する調査光照射手段と、
吸光度の測定対象となる測定光を前記試料に対して該試料内で前記調査光と交差するように照射する測定光照射手段と、
前記試料内で前記測定光と交差することによる前記調査光の位相若しくは光路の変化を測定する調査光変化測定手段と、
前記調査光変化測定手段の測定結果に基づいて前記測定光についての前記試料の吸光度を算出する吸光度算出手段と、
を具備してなることを特徴とする吸光度測定装置。
【請求項2】
前記試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側近傍に位置するよう設定されてなる請求項1に記載の吸光度測定装置。
【請求項3】
前記調査光の前記試料内における光軸方向が前記試料における前記測定光の入射部界面に対して略平行となるように設定されてなる請求項2に記載の吸光度測定装置。
【請求項4】
流体状の前記試料が充填される容器であって前記測定光及び前記調査光各々を外側から前記試料の充填部に透過させる壁が形成された試料容器を具備してなる請求項1〜3のいずれかに記載の吸光度測定装置。
【請求項5】
前記試料容器における前記測定光を透過させる壁の内側面が、前記試料の充填部に突出して形成されてなる請求項4に記載の吸光度測定装置。
【請求項6】
前記試料容器における前記測定光を透過させる壁に、前記測定光の透過領域を制限するマスクが設けられてなる請求項4又は5のいずれかに記載の吸光度測定装置。
【請求項7】
前記調査光変化測定手段が、前記試料内で前記測定光と交差することによる前記調査光の位相の変化を光干渉計により測定するものである請求項1〜6のいずれかに記載の吸光度測定装置。
【請求項8】
試料の吸光度を測定する吸光度測定方法であって、
所定の調査光を出射する光源の出射光を前記試料に対して照射する調査光照射手順と、
吸光度の測定対象となる測定光を前記試料に対して該試料内で前記調査光と交差するように照射する測定光照射手順と、
前記試料内で前記測定光と交差することによる前記調査光の位相若しくは光路の変化を所定の光測定手段を通じて測定する調査光変化測定手順と、
前記調査光変化測定手順の測定結果に基づいて前記測定光についての前記試料の吸光度を所定の計算機により算出する吸光度算出手順と、
を有してなることを特徴とする吸光度測定方法。
【請求項9】
前記試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側近傍に位置するよう設定されてなる請求項8に記載の吸光度測定方法。
【請求項10】
前記測定光についての前記試料の単位長さ当たりの吸光度(単位吸光度)が30[cm-1]以下である場合に、前記試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側150μm以内に位置するよう設定されてなる請求項9に記載の吸光度測定方法。
【請求項11】
前記測定光についての前記試料の単位長さ当たりの吸光度(単位吸光度)が40[cm-1]以下である場合に、前記試料内における前記測定光及び前記調査光の交差部が、前記試料における前記測定光の入射部界面に対して内側100μm以内に位置するよう設定されてなる請求項9に記載の吸光度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−255905(P2007−255905A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76832(P2006−76832)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15,16年度,経済産業省,新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進ナノバイオデバイスプロジェクト」委託研究,産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】