説明

吸振体

【課題】 耐久性に優れ、且つ経済的に製造および使用することが可能な吸振体を提供する。
【解決手段】 上部ケース16が熱可塑性エラストマで形成されているので、その下端部16cを下部ケース14に係止したとしても、上部ケース16に与えられた振動が下部ケース14に伝達される心配はない。また、上部ケース16の下端部16cが下部ケース14に係止して圧縮コイルばね12の上面から側面までが密閉されているので、吸振体10の内部に収納した圧縮コイルばね12やサージング防止部材18が風雨や紫外線に晒されることはなく、これらの部材が風雨や紫外線によって劣化するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振架台などの防振装置に取り付けられる吸振体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の吸振体の一例が、特開平8−54041号(特許文献1)に開示されている。この吸振体1は、図10に示すように、基礎に据え付けられる基礎枠2と振動発生源が載置される取付枠3との間に配設され、振動発生源の荷重を受けるとともに、振動発生源から伝えられた振動を吸収するものである。具体的には、荷重担持用の圧縮コイルばね4と、圧縮コイルばね4の下部を収納し、一対の垂下片5aを介して基礎枠2の所定位置に嵌め合わされる下部ケース5と、圧縮コイルばね4の上部を収納し、その上面に取付枠3が載置される上部ケース6とで構成されている。
【0003】
そして、圧縮コイルばね4の内側には粘弾性材料からなるサージング防止部材7が配設されており、サージング防止部材7の粘弾性片7aを圧縮コイルばね4に接触させ、圧縮コイルばね4のサージングを粘弾性片7aの内部減衰によって吸収するようにしている。
【0004】
このため、圧縮コイルばね4のサージングを粘弾性片7aの内部減衰によって効果的に吸収することができると共に、振動発生源にて発生した振動を吸収し、当該振動が基礎へと伝わるのを確実に遮断することができる。
【特許文献1】特開平8−54041号公報(第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の吸振体1は、振動発生源の発した振動が上部ケース6を介して下部ケース5側へと伝わらないようにするため、上部ケース6と下部ケース5との間に所定の隙間Gを設けていた。このため、吸振体1を屋外で長期間使用した場合、当該隙間Gから吸振体1内に風雨や紫外線などが入り込み、これによって圧縮コイルばね4やサージング防止部材7が劣化し、防振性能に悪影響を及ぼすようになるという問題があった。つまり、屋外での長期の使用に対して充分な耐久性があるとは言えなかった。
【0006】
また、下部ケース5は一対の垂下片5aが基礎枠2を挟持するようにして基礎枠2上の所定位置に載置されているが、吸振体1に略水平方向の大きな応力が加わると、下部ケース5が基礎枠2上を滑って載置位置がズレるようになる。このような場合には取付枠3に載置した振動発生源を持ち上げて吸振体1を正常な位置に戻さなければならず、使用者にメンテナンス負担を強いることとなる。
【0007】
さらに、従来の吸振体1では、各ケース5,6に収納する圧縮コイルばね4の収まりをよくし、吸振体1を基礎枠2と取付枠3との間に配設した際に内部の圧縮コイルばね4が安定するように、圧縮コイルばね4の端面を研削してコイルばね4の中心軸に対して端面が直角となるように加工していたが、これが吸振体1の製造コストを下げられない一因となっていた。
【0008】
それゆえに、この発明の主たる課題は、耐久性に優れ、且つ経済的に製造および使用することが可能な吸振体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載した発明は、「荷重担持用の圧縮コイルばね12と、圧縮コイルばね12の下部に取り付けられる下部ケース14と、圧縮コイルばね12の上部に取り付けられ、圧縮コイルばね12の上面および側面を覆う上部ケース16と、圧縮コイルばね12に接触する粘弾性片18cを有するサージング防止部材18とで構成された吸振体10Aであって、上部ケース16が耐候性を有する熱可塑性エラストマで形成されており、その下端部16cが下部ケース14に係止して圧縮コイルばね12の上面から側面までが密閉されている」ことを特徴とする吸振体10A(10)である。
【0010】
この発明では、上部ケース16が熱可塑性エラストマで形成されているので、その下端部16cを下部ケース14に係止したとしても、上部ケース16に与えられた振動が下部ケース14に伝達される心配はない。
【0011】
また、上部ケース16の下端部16cが下部ケース14に係止して圧縮コイルばね12の上面から側面までが密閉されているので、吸振体10の内部に収納した圧縮コイルばね12やサージング防止部材18が風雨や紫外線に晒されることはなく、これらの部材が風雨や紫外線によって劣化するのを防止することができる。
【0012】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の吸振体10において「下部ケース14の下面には、上面に載置した圧縮コイルばね12の載置部分に対応する位置に滑り止め用のパッド22が取着されている」ことを特徴とするもので、このように下部ケース14において最も荷重がかかる圧縮コイルばね12載置部分の直下に滑り止め用のパッド22を設けることによって、吸振体10に対して略水平方向の応力が与えられた場合であっても、最小のパッド22敷設面積にて経済的に且つ確実に下部ケース14の横滑りを防止することができる。
【0013】
請求項3に記載した発明は、「荷重担持用の圧縮コイルばね12と、圧縮コイルばね12の下部に取り付けられる下部ケース14と、圧縮コイルばね12の上部に取り付けられ、圧縮コイルばね12の上面および側面を覆う上部ケース16とで構成された吸振体10Bであって、上部ケース16が耐候性を有する熱可塑性エラストマで形成されており、その下端部16cが下部ケース14に係止して圧縮コイルばね12の上面から側面までが密閉されていると共に、下部ケース14の下面には、耐候性を有する合成ゴムからなり振動発生源V載置用の基礎枠2に嵌合する断面略コ字状のガイドパッド30が取り付けられている」ことを特徴とする吸振体10B(10)である。
【0014】
また、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載の吸振体10B(10)において、「上部ケース16の上面に、耐候性を有する合成ゴムからなり振動発生源V載置用の取付枠3に嵌合する断面略コ字状のガイドパッド30が更に取り付けられている」ことを特徴とするものである。
【0015】
これらの発明と請求項1に記載の発明との大きな違いは、吸振体10の内部にサージング防止部材18を具備するか否かの点にあるが、請求項3および4に記載の吸振体10Bも請求項1に記載の吸振体10Aと同様に、上部ケース16が熱可塑性エラストマで形成されているので、その下端部16cを下部ケース14に係止したとしても、上部ケース16に与えられた振動が下部ケース14に伝達される心配はない。また、上部ケース16の下端部16cが下部ケース14に係止して圧縮コイルばね12の上面から側面までが密閉されているので、吸振体10Bの内部に収納した圧縮コイルばね12などが風雨や紫外線に晒されることはなく、吸振体10B内部の部材が風雨や紫外線によって劣化するのを防止することができる。
【0016】
なお、上述したように、これらの発明に係る吸振体10Bはサージング防止部材18を具備していないが、少なくとも下部ケース14の下面に合成ゴムからなるガイドパッド30が取り付けられているので、仮に吸振体10Bでサージングが発生したとしても、ガイドパッド30を構成する合成ゴムの内部減衰によってこのサージングが吸収され、他へ伝達される心配はない。
【0017】
請求項5に記載した発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の吸振体10において「圧縮コイルばね12の端面Tを構成する最終座巻き部12aの直前部分Qに、前記直前部分Qの内側の巻回部分Mの傾斜角度αより大きな傾斜角度βで立上げられた立上がり部12bが設けられ、前記端面Tとばねの中心軸Sとのなす角度が略直角となるように形成されている」ことを特徴とするもので、このように端面の研削加工の必要がない圧縮コイルばね12を用いることによって、吸振体10全体の製造コストを下げることができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1,3および4に記載の発明によれば、吸振体の内部に収納された圧縮コイルばねやサージング防止部材が風雨や紫外線によって劣化するのを防止することができるので、吸振体の耐久性を向上させることができ、屋外で長期間使用する場合でも長期に亘って防振特性を維持することができる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明によれば、最小のパッド敷設面積にて経済的に且つ確実に下部ケースの横滑りを防止することができ、使用者のメンテナンス負担を軽減することができる。
【0020】
そして、請求項5に記載の発明によれば、吸振体全体の製造コストを下げることができる。
【0021】
したがって、耐久性に優れ、且つ経済的に製造および使用することが可能な吸振体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施例[第1実施例]を図面に従って詳述する。本実施例の吸振体10A(10)は、図1に示すような防振架台Aにおいて、基礎Bに据え付けられる基礎枠2と振動発生源Vが載置される取付枠3との間に配設され、振動発生源Vの荷重を受けると共に、振動発生源Vから伝えられた振動を吸収するものである。
【0023】
基礎枠2および取付枠3は、略四角形の枠材であり、これらの四隅には、貫通孔2aおよび3aを有する連結部2bおよび3bが設けられている。そして、貫通孔2aおよび3aには、基礎枠2に対して取付枠3を近接離間する方向へ移動可能に連結する連結ボルト8が挿通されており、この連結ボルト8には、ナット9が装着されている。
【0024】
このような防振架台A等に用いられる本実施例の吸振体10Aは、図2および図3に示すように、大略、圧縮コイルばね12、下部ケース14、上部ケース16およびサージング防止部材18によって構成されている。
【0025】
圧縮コイルばね12は、一般的な吸振体に用いられる圧縮コイルばねと同様に、荷重の大きさ等の条件に応じて、コイル径、線径およびコイルピッチ等が最適に設定されたものである。
【0026】
ここで、一般的な圧縮コイルばねでは、吸振体へ組み込む際の収まりを考慮して長手方向端部を研削して当該端部が平坦となるようにしているが、本実施例においては、図4に示すように、端面Tを構成する最終座巻き部12aの直前部分Qに、前記直前部分Qの内側の巻回部分Mの傾斜角度αより大きな傾斜角度βで立上げられた立上がり部12bを設け、端面Tとばねの中心軸Sとのなす角度が略直角となるようにしている。このため本実施例の圧縮コイルばね12では、圧縮コイルばね12の端部を研削する必要がなく、そのままの状態で収まり良く吸振体10に組み込むことができる。
【0027】
下部ケース14は、圧縮コイルばね12の下端に取り付けられると共に、基礎枠2の上部に嵌め合わされる部材であり(図1参照)、耐候性と耐衝撃性とを有する塩ビ系やポリプロピレン系などの樹脂からなる中央部が開口した平板状の本体(14a)を有する。
【0028】
この本体14aの上面には、圧縮コイルばね12の外径よりもやや大きな内径を有し、本体14a上面に載置する圧縮コイルばね12の載置位置を規定する環状の位置決め突部14bが立設されており、位置決め突部14bに囲まれた本体14aの上面中央部には前記開口に連なるようにサージング防止部材18を係止する係止筒部14cが立設されている。そして、位置決め突部14bの外周面には全周に亘って周方向溝20が形成されている。
【0029】
一方、下部ケース14の本体14a下面には、上面に載置した圧縮コイルばね12の載置部分に対応する位置に環状の溝14dが凹設されており、この溝14dに天然または合成ゴムやポリウレタン樹脂など摩擦係数の高い材料によって構成された滑り止め用のパッド22がその先端(図3では下端)を突出するようにして嵌着されている(図5参照)。
【0030】
さらに、本体14aの両側には一対の垂下片14eが垂設されており、基礎枠2を両側から挟み込むようになっている。
【0031】
上部ケース16は、圧縮コイルばね12の上端に取り付けられると共に、取付枠3が載置される部材であり(図1参照)、圧縮コイルばね12の上部に被せられるキャップ部16aと、キャップ部16aの端部が圧縮コイルばね12の側面を覆うように下方へ延ばされた筒状の外囲部16bとで構成されている。なお、本実施例では上部ケース16の高さが圧縮コイルばね12の高さとほぼ等しくなるように形成されている。
【0032】
このキャップ部16aおよび外囲部16bは耐候性を有する熱可塑性エラストマを用いて一体的に形成されている。ここで、熱可塑性エラストマとは、常温では架橋ゴムと同様の性質を示し、高温では可塑化され射出成形機などのプラスチック加工機で成形可能な(つまり、成形品を低コストで量産可能な)高分子材料であり、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、ウレタン系などの各種樹脂が知られている。本発明においては、屋外で長期使用される場合も考慮すると、耐候性に優れたオレフィン系あるいは塩化ビニル系の熱可塑性エラストマを用いるのが特に好ましい。
【0033】
また、外囲部16bは蛇腹状に形成されると共に、その下端部16cには上述した下部ケース14の周方向溝20に嵌合する嵌合フック部24が内周面全周に亘って突設されている。外囲部16bはゴム弾性を有する熱可塑性エラストマで構成されているので、その下端部16cに設けられた嵌合フック部24を下部ケース14の周方向溝20に嵌合したとしても、上部ケース16に与えられた振動が下部ケース14に伝達される心配はないが、このように外囲部16bを蛇腹状に形成することによって圧縮コイルばね12の伸縮に伴って外囲部16bもストレスなく一層容易に伸縮できるようになり、上部ケース16に与えられた振動が下部ケース14に伝達されるのをより確実に遮断することができる。
【0034】
サージング防止部材18は、円筒状の筒部18aと、筒部18aの下端の外周にて径方向に突設された係合鍔部18bと筒部18aの外周面に縦方向に突設された複数の粘弾性片18cとで構成されている。
【0035】
本実施例ではサージング防止部材18の全体が衝撃振動吸収性、内部減衰に優れ、外力を受けてもほとんど反発せず、エネルギーを吸収する性質を持つ低反発ゴムのような粘弾性部材で形成されているが、勿論これに限られず筒部18aのみ又は筒部18aと係合鍔部18bを鉄や真鍮のような金属部材とし、筒部18aに粘弾性部材で構成された粘弾性片18cを突設するようにしてもよい。係合鍔部18bを粘弾性部材で構成すれば、下部ケース14と圧縮コイルばね12とを絶縁することも可能でありより好ましい。
【0036】
次に、本発明の吸振体10Aを組立てる際には、まず、下部ケース14の係止筒部14cをサージング防止部材18の筒部18aに挿入し、下部ケース14にサージング防止部材18を取り付ける。この際、図3に示すように、下部ケース14の本体14aとサージング防止部材18の係合鍔部18bとの間に金属製のワッシャ26を介装すれば、係合鍔部18bを介して圧縮コイルばね12から下部ケース14の本体14aに与えられる応力を緩和することができ、下部ケース14の耐久性を向上させることができる。
【0037】
続いて、サージング防止部材18が取り付けられた下部ケース14の係止筒部14cを圧縮コイルばね12の内部に挿入し、位置決め突部14bで区画された下部ケース14本体14a上面に圧縮コイルばね12の下端を配設する。すると、サージング防止部材18の粘弾性片18cは圧縮コイルばね12の内面に弾接した状態となる。
【0038】
そして、圧縮コイルばね12の上から上部ケース16を被せ、上部ケース16の嵌合フック部24を下部ケース14の周方向溝20に嵌め込むことによって吸振体10Aの組立が完了する。なお、下部ケース14の場合と同様に、上部ケース16のキャップ部16aと圧縮コイルばね12の上端との間に金属製のワッシャ28を介装すれば、圧縮コイルばね12から上部ケース14のキャップ部16aに与えられる応力を緩和することができ、上部ケース16の耐久性を向上させることができる。
【0039】
以上のようにして組立てた吸振体10Aを使用する際には、基礎枠2の上面の所定箇所に複数の吸振体10Aを装着し、吸振体10Aの上に取付枠3を載置する。そして、基礎枠2および取付枠3の貫通孔2aおよび3aに連結ボルト8を挿通し、この連結ボルト8にナット9を螺合する。そして、取付枠3の上に振動発生源Vを載置し、これをボルト等で固定する。
【0040】
振動発生源Vの運転時には、振動発生源Vで発生した振動が取付枠3を介して吸振体10Aに伝えられる。すると、この振動は、圧縮コイルバネ12が伸縮することによって吸収され、また、圧縮コイルバネ12のサージングは、サージング防止部材18を構成する粘弾性片18cの内部減衰によって吸収される。
【0041】
本実施例の吸振体10Aによれば、上部ケース16が熱可塑性エラストマで形成されているので、その下端部16cを下部ケース14に係止したとしても、上部ケース16に与えられた振動が下部ケース14に伝達される心配はない。
【0042】
また、上部ケース16の下端部16cが下部ケース14に係止して圧縮コイルばね12の上面から側面までを完全に密閉しているので、吸振体10Aの内部に収納した圧縮コイルばね12やサージング防止部材18が風雨や紫外線に晒されることはなく、これらの部材が風雨や紫外線によって劣化するのを防止することができる。
【0043】
さらに、下部ケース14において最も荷重がかかる圧縮コイルばね12載置部分の直下に滑り止め用のパッド22を設けているので、吸振体10Aに対して略水平方向の応力が与えられた場合であっても、最小のパッド22敷設面積にて経済的に且つ確実に下部ケース14の横滑りを防止することができる。
【0044】
そして、端面の研削加工の必要がない圧縮コイルばね12を用いているので、吸振体10A全体の製造コストを下げることができる。
【0045】
なお、上述の実施例では、下部ケース14の位置決め突部14bの外周面全周に亘って周方向溝20を設けると共に、上部ケース16の下端部16cに嵌合フック部24を設け、前記周方向溝20に嵌合フック部24を嵌め込んで上部ケース16の下端部16cを下部ケース14に係止する場合を示したが、上部ケース16の下端部16cを下部ケース14に係止してこれらの内部空間を密閉できるものであれば下部ケース14と上部ケース16との係止構造は如何なるものであってもよく、例えば、(図示しないが)下部ケース14の位置決め突部14bの外周面に嵌合凸部を突設し、上部ケース16の下端部16c内周面に前記嵌合凸部が嵌め込まれる周方向溝を設けるようにしてもよい。
【0046】
次に、図6に示す[第2実施例]の吸振体10B(10)について説明する。上述した[第1実施例]のものと大きく異なる点は、下部ケース14が係止筒部14cおよび垂下片14eを有しておらず、且つ、滑り止め用のパッド22とサージング防止部材18とを省略している点、および滑り止め用のパッド22とサージング防止部材18とに替えてガイドパッド30を装着した点である。なお、これら以外の部分は前記[第1実施例]と同じであるので、前記[第1実施例]の説明を援用して本実施例の説明に代える。
【0047】
本実施例の吸振体10Bでは、下部ケース14の本体14a中央部に開孔14fが穿設されており、この開孔14fにガイドパッド30が取着されている。
【0048】
ガイドパッド30は、基礎枠2と取付枠3との間に吸振体10Bを取り付ける際、基礎枠2に載置する下部ケース14が所定の固定位置からズレないよう固定する断面略コ字状の部材である。このガイドパッド30は、図7に示すように、板状の本体30aを有する。この本体30aの表面中央部には、ガイドパッド30を下部ケース14に固定する際に前記開孔14fに嵌め込まれる円筒状の嵌合突部30bが形成されており、この嵌合突部30bが形成された面の反対面には、互いに対向する一対の両端部それぞれに垂下片30cが垂設されている。このような垂下片30cを設ける(つまり、ガイドパッド30を断面略コ字状に形成する)ことにより、本体30aとこの垂下片30cとで囲まれた空間が枠体(この例の場合には振動発生源V載置用の取付枠2)を保持する保持部30dとして機能する。
【0049】
また、このガイドパッド30は、耐候性を有する合成ゴムで構成されている。ここで、ガイドパッドを構成する耐候性の合成ゴムとしては、衝撃振動吸収性,内部減衰に優れ、外力を受けてもほとんど反発せず、エネルギーを吸収する性質を持つ低反発ゴムが好ましい。
【0050】
次に、以上のように構成された本実施例(第2実施例)の吸振体10Bを組立てる際には、まず、下部ケース14の位置決め突部14bで区画された下部ケース14の本体14a上面に圧縮コイルばね13の下端を配設し、圧縮コイルばね13の上から上部ケース16を被せ、上部ケース16の嵌合フック部24を下部ケース14の周方向溝20に嵌め込む。そして、下部ケース14の開孔14fにガイドパッド30の嵌合突部30bを挿入し、下部ケース14の下面にガイドパッド30を取着する。これにより吸振体10Bの組立が完了する。
【0051】
なお、図6に示すように、本実施例の吸振体10Bでは、圧縮コイルばね13として長手方向端部を研削して当該端部が平坦となるようにした一般的なものを用いた場合を示しているが、[第1実施例]で述べたように、端面Tを構成する最終座巻き部12aの直前部分Qに、前記直前部分Qの内側の巻回部分Mの傾斜角度αより大きな傾斜角度βで立上げられた立上がり部12bを設け、端面Tとばねの中心軸Sとのなす角度が略直角となるように形成した圧縮コイルばね12(図4参照)を用いるのが好ましい。
【0052】
以上のようにして組立てた吸振体10Bを使用する際には、まず、ガイドパッド30の保持部30dに基礎枠2を嵌め込むようにして基礎枠2上面の所定箇所に複数の吸振体10Bを装着し、然る後、吸振体10Bの上に取付枠3を載置する(図8参照)。続いて、基礎枠2および取付枠3をボルト等で連結すると共に、取付枠3の上に振動発生源を載置して、これをボルト等で固定する(図1参照)。
【0053】
振動発生源Vの運転時には、振動発生源Vで発生した振動が取付枠3を介して吸振体10Bに伝えられる。すると、この振動は、圧縮コイルバネ13が伸縮することによって吸収され、また、圧縮コイルバネ13のサージングは、ガイドパッド30を構成する合成ゴムの内部減衰によって吸収される。
【0054】
本実施例によれば、上述した第1実施例と同様に、上部ケース16が熱可塑性エラストマで形成されているので、その下端部16cを下部ケース14に係止したとしても、上部ケース16に与えられた振動が下部ケース14に伝達される心配はない。また、上部ケース16の下端部16cが下部ケース14に係止して圧縮コイルばね12の上面から側面までが密閉されているので、吸振体10Bの内部に収納した圧縮コイルばね12などが風雨や紫外線に晒されることはなく、吸振体10B内部の部材が風雨や紫外線によって劣化するのを防止することができる。
【0055】
また、吸振体10Bはサージング防止部材18を具備していないが、少なくとも下部ケース14の下面に合成ゴムからなるガイドパッド30が取り付けられているので、仮に吸振体10Bでサージングが発生したとしても、ガイドパッド30を構成する合成ゴムの内部減衰によってこのサージングが吸収され、他へ伝達される心配はない。
【0056】
なお、上述の例(第2実施例)では、ガイドパッド30を下部ケース14にのみ取着する場合を示したが、図9に示すように、吸振体10Bの上部ケース16中央部に開孔16dを設け、この上部ケース16にもガイドパッド30を取着するようにしてもよい。こうすることにより基礎枠2と取付枠3との間に介装した吸振体10Bがズレることや、発生したサージングが他へ伝達されることをより一層防止することができる。
【0057】
また、下部ケース14の中央部に開孔14fを設けると共に、この開孔14fに嵌合突部30bを挿入することによって下部ケース14の下面にガイドパッド30を取着する例を示したが、このような開孔14fや嵌合突部30bを設けずに、接着剤などの固定手段を介して下部ケース14の下面に断面略コ字状のガイドパッド30を取り付けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の吸振体を用いた防振架台を示す正面図である。
【図2】本発明の一実施例(第1実施例)の吸振体を示す斜視図である。
【図3】図2におけるI−I線断面図である。
【図4】本発明の吸振体に用いる圧縮コイルばねを示す正面図である。
【図5】本発明の第1実施例の吸振体を示す底面図である。
【図6】本発明の他の実施例(第2実施例)の吸振体を示す正面断面図である。
【図7】本発明におけるガイドパッドを示す斜視図である。
【図8】第2実施例の吸振体の使用態様を示す正面断面図である。
【図9】本発明の他の実施例(第2実施例の改良)の吸振体を示す正面断面図である。
【図10】従来の吸振体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
A…防振架台
10…吸振体
12…圧縮コイルばね
14…下部ケース
14a…本体
14b…位置決め突部
14c…係止筒部
14d…溝
14e…垂下片
16…上部ケース
16a…キャップ部
16b…外囲部
16c…下端部
18…サージング防止部材
20…周方向溝
22…(滑り止め用の)パッド
24…嵌合フック部
30…ガイドパッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷重担持用の圧縮コイルばねと、前記圧縮コイルばねの下部に取り付けられる下部ケースと、前記圧縮コイルばねの上部に取り付けられ、前記圧縮コイルばねの上面および側面を覆う上部ケースと、前記圧縮コイルばねに接触する粘弾性片を有するサージング防止部材とで構成された吸振体であって、
前記上部ケースが耐候性を有する熱可塑性エラストマで形成されており、その下端部が前記下部ケースに係止して前記圧縮コイルばねの上面から側面までが密閉されていることを特徴とする吸振体。
【請求項2】
前記下部ケースの下面には、上面に載置した前記圧縮コイルばねの載置部分に対応する位置に滑り止め用のパッドが取着されていることを特徴とする請求項1に記載の吸振体。
【請求項3】
荷重担持用の圧縮コイルばねと、前記圧縮コイルばねの下部に取り付けられる下部ケースと、前記圧縮コイルばねの上部に取り付けられ、前記圧縮コイルばねの上面および側面を覆う上部ケースとで構成された吸振体であって、
前記上部ケースが耐候性を有する熱可塑性エラストマで形成されており、その下端部が前記下部ケースに係止して前記圧縮コイルばねの上面から側面までが密閉されていると共に、
前記下部ケースの下面には、耐候性を有する合成ゴムからなり振動発生源載置用の基礎枠に嵌合する断面略コ字状のガイドパッドが取り付けられていることを特徴とする吸振体。
【請求項4】
前記上部ケースの上面に、耐候性を有する合成ゴムからなり振動発生源載置用の取付枠に嵌合する断面略コ字状のガイドパッドが更に取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の吸振体。
【請求項5】
前記圧縮コイルばねの端面を構成する最終座巻き部の直前部分に、前記直前部分の内側の巻回部分の傾斜角度より大きな傾斜角度で立上げられた立上がり部が設けられ、前記端面とばねの中心軸とのなす角度が略直角となるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の吸振体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−200734(P2006−200734A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200084(P2005−200084)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000224994)特許機器株式会社 (59)
【Fターム(参考)】