説明

吸音材

【課題】幅広い周波数(波長)域において高い吸音性能を発揮すると共に,用途や使用環境等の制約の少ない吸音材を提供する。
【解決手段】アクリル酸類のモノマー及び/又はオリゴマーを主剤とする紫外線架橋型アクリル系樹脂材料に,酸素を遮断した状態で紫外線を照射して架橋させて得た粘着弾性体組成物を,例えばアルミニウム等の金属繊維を不織布状にして得た金属繊維シートの両面に積層して,吸音材とする。このようにして得た吸音材は,波長250〜2,000nmという広い周波数域において高い吸音率を発揮すると共に,金属繊維シートが粘着弾性体組成物で被覆された構造であるために各種の用途,環境で使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸音材に関し,例えば住宅の壁や床等に取り付けて使用する吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばマンションやアパートなどの集合住宅において,近隣の部屋における排水音,テレビ,冷蔵庫等の家電製品が発生する音,話し声,床上を歩く足音,その他の生活騒音が遮断された静寂な居住空間が確保されていると共に,近隣に対して前述のような生活音が漏出せずにプライバシーが確保されていることは多くの住人に共通の要望であり,このような要望を満足させる上で,各部屋の壁や床等に施す防音対策は極めて重要である。
【0003】
このような防音を行うために,建築資材として吸音性能を発揮する各種の資材が提案され,かつ,実際の建築・施工に際して使用されている。
【0004】
このような吸音材のうち,最も一般的なものとして壁材等に広く使用されている石膏ボードがある。また,床等の衝撃吸収材としても併用される硬質ゴム等の樹脂系材料も使用されている。
【0005】
なお,建築資材としては一般的ではないが,アルミニウム製の繊維を焼結させて,アルミニウム繊維とその中に含まれる空隙層により吸音効果を発揮する吸音材も提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
この発明の先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開2001−343978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術において吸音材として紹介した石膏ボード,硬質ゴム,及びアルミニウム繊維製の吸音材の吸音性能をそれぞれ「インピーダンス法」(定在波法)によって測定した結果を示せば,図4〜6に示す通りである。
【0008】
なお,「インピーダンス法」とは,垂直入射音に対する吸音効果を測定する方法の1つで,水平波音源から発せられる周波数エネルギーを,一定の空気層を設けて被測定素材と反射鋼板を置いて測定するものである。
【0009】
なお,吸音率は「(減衰後の音の大きさ/減衰前の音の大きさ)×100(%)」として求められる数値であり,音源エネルギーが完全に遮断された状態を100(%)とする。
【0010】
図4に示す石膏ボードでは,波長200nm付近の吸音率である0.4をピークとして,その他の波長域での吸音率はそれ以下であり,実生活において騒音として感じられる音源周波数(波長200nm〜2,000nm)での効果は極めて低い。
【0011】
しかも,このような石膏ボードは,施工に際して壁板等に直接釘やネジなどで固定される場合が多く,この場合には吸音材である石膏ボードと音源との間に空気層が確保できず,図4に現れた吸音特性は発揮されない。
【0012】
図5は,建築用として市販されている硬質ゴム(厚さ2〜5mm程度)の吸音特性である。
【0013】
1,000円/m2程度の価格で販売されており,床などの衝撃吸収材としても併用されているものであるが,ほぼ全域の波長域に対して吸音率は0.25以下であり,吸音効果を明確に体感することのできない程度の低い吸音性能しか発揮しない。
【0014】
図6は,前掲の特許文献1として紹介した,アルミニウム繊維を焼結させて得た吸音材の吸音特性であり,アルミニウム含有量1500g/m2としたものの吸音効果を表している。
【0015】
この図6からも明らかなように,アルミニウム繊維を焼結させて得た吸音材では,吸音率0.5以上の比較的高い吸音率を発揮する場合があるものの,この吸音率が発揮される領域は音源周波数が波長550nm以上の領域に限定されており,前述したように生活騒音として感じられる波長200nm〜2,000nmの一部についてしか対応せず,波長の短い周波数域の騒音を吸収できない。
【0016】
また,アルミニウム繊維を焼結させたものであることから,酸化による劣化や高湿度環境下での活用は不適切であると共に,可燃性であり,住宅資材としての用途としても制約される。
【0017】
以上のように,従来の吸音材にあっては,十分に吸音性能が発揮されるものではなかったり,吸音性能が発揮されるものであったとしても,このような吸音性能は,一部の周波数(波長)域の音に対するものであったり,さらには,用途,使用環境が制約される等,広い周波数(波長)域の音に対して吸音性を発揮すると共に,用途,使用環境等が制約されない吸音材は存在していない。
【0018】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,幅広い周波数(波長)域において高い吸音性能を発揮すると共に,用途や使用環境等の制約の少ない吸音材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために,本発明の吸音材は,アクリル酸類のモノマー及び/又はオリゴマーを主剤とする紫外線架橋型アクリル系樹脂材料に,酸素を遮断した状態で紫外線を照射して架橋させて得た粘着弾性体組成物を,不織布状の金属繊維シートの両面に積層して成るものである(請求項1)。
【0020】
前記構成の吸音材において,前記粘着弾性体組成物の粘度は,これを20,000〜300,000CPSとすることが好ましい(請求項2)。
【0021】
更に,前記吸音材の前記金属繊維シートは,これを構成する各繊維相互の接触部が溶着されているものを使用することができる(請求項3)。
【0022】
また,前記金属繊維シートの表裏の相対位置における前記粘着弾性体組成物に,開口径10〜20mmの開口を複数形成して,前記金属繊維シートを一部露出させたものとしても良い(請求項4)。
【0023】
ここで,前記開口の口径とは,形成する開口が円形である場合には,その直径,矩形状である場合にはその長辺,不定形である場合にはその最大幅をいう。
【0024】
なお,前述のように粘着弾性体組成物に開口を形成する場合,この孔の形成により前記金属繊維シートの表面積の5〜15%,より好ましくは10%が露出するように構成する(請求項5)。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した本発明の構成により,日常的な生活において騒音として感じられる波長200nm〜2,000nmの音のうち,250nm〜2,000nmという極めて広い波長において,0.3以上という比較的高い吸音率を発揮する吸音材を提供することができた。
【0026】
しかも,不織布状の金属繊維シートを使用するものであるものの,この金属繊維シートをアクリル系のゲルである粘着弾性体組成物によって被覆していることから,酸化による劣化等を防止することができると共に,燃焼し難く,広範囲の用途,環境で使用できる吸音材を提供することができた。
【0027】
前記粘着弾性体組成物は,その粘度を20,000〜30,000CPSとすることで,金属繊維シートに対する接着性が良好であり,界面における剥離を防止することができると共に,粘着弾性体組成物が持つ粘着性により,製造された吸音材自体を他の物品,例えば壁材や床材等に直接貼着可能であり,施工性に優れるものとすることができた。
【0028】
特に,吸音材の片面又は両面を,発泡スチロールやポリウレタン等の断熱材,発泡材等を介して壁材や床材等に取り付ける場合(図2参照)には,音源との間に空気層が形成されてより高い防音効果が発揮される。
【0029】
断熱材,発泡材の厚みは,一例として両面の合計で30〜50mmであり,図2の例では,吸音材の一方の面に20mm,他方の面に30mmの断熱材又は発泡材を介設した例である。
【0030】
金属繊維シートとして,これを構成する各金属繊維相互の接触部分を溶着することで,繊維のほぐれ等が防止されて金属繊維シートの強度を向上させることができ,これにより吸音材の製造に際して金属繊維シートの取り扱い性が向上すると共に,製造された吸音材の強度をも向上させることができた。
【0031】
金属繊維シートに積層された粘着弾性体に孔を形成して金属繊維シートを一部露出させた構成,特に,金属繊維シートの表面積の5〜15%,好ましくは10%露出させた構成にあっては,吸音材が,吸音効果を生じやすい形状となり,吸音性能を更に向上させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に,本発明の実施形態を以下に説明する。
【0033】
〔全体構造〕
本発明の吸音材は,不織布状を成す金属繊維シートの両面に,アクリル系の軟質樹脂である粘着弾性体組成物を積層した構造であり,各構成材料は,それぞれ以下のように構成されている。
【0034】
〔粘着弾性体組成物〕
本発明の吸音材において,後述の金属繊維シートに積層される粘着弾性体組成物は,アクリル酸類のモノマー及び/又はオリゴマーを主剤とする紫外線架橋型アクリル系樹脂材料に紫外線を照射して架橋させることにより得た,粘着性と弾性とを備えた組成物である。
【0035】
本明細書において,前記粘着弾性体組成物は,「アクリルゲル」とも称し,ゴム硬度20〜90度の硬度の高分子アクリル剤を重合・架橋させて得られる,好ましくは粘度が20,000〜300,000CPSの組成物を言う。
【0036】
このようなアクリル系の軟質樹脂である粘着弾性体組成物は,後述するようにアルミニウム繊維を焼結して得た吸音材に比較して低周波数域の音に対する吸音率の高い材質となっている。
【0037】
また,高い粘弾性を有することから,被着物に対する接着性が良好であると共に,被着材の表面形状に対する高い追従性を有する。また,その柔軟性からロール状に巻き取ることが可能で,長尺の状態で連続して加工等を行うことが可能であり,高生産性,高歩留まりが得られる。
【0038】
〔組成〕
主剤
主剤である前述のアクリル酸類のモノマー及び/又はオリゴマーとしては,一例として以下のものを使用することができる。
【0039】
アクリル酸,アクリル酸エチル,アクリル酸メチル,アクリル酸2エチルヘキシル,アクリル酸ブチル,アクリル酸イソブチル,アクリル酸イソノニル,アクリル酸ジメチルアミノエチル,アクリル酸メトキシエチル,アクリル酸ステアリル,アクリル酸イソオクチル,アクリル酸N−オクチル,アクリル酸2ヒドロキシエチル,アクリル酸ヒドロキシプロピル,メタクリル酸メチル,メタクリル酸ブチル,メタクリル酸2ヒドロキシエチル,メタクリル酸2ヒドロキシプロピル,メタクリル酸シクロヘキシル,トリメチロールプロパントリメタクリレート,メタクリル酸ターシャリーブチルなどである。
【0040】
これらの主剤は,これを2種以上組合せて使用しても良い。
【0041】
補助材料
紫外線の照射によって前述の粘着弾性体組成物と成る紫外線架橋型アクリル系樹脂材料には,主剤である上述のアクリル酸類のモノマー及び/又はオリゴマーの他,光重合開始剤,紫外線架橋促進剤(増感剤)などが配合されている。
【0042】
補助材料としては,他に,フィラーを含めるものとしても良く,このようなフィラーとしては,光反射防止剤としての無機金属系フィラー,硬度,接着性の改質を目的とした酢酸ビニル,スチレン,タッキファイヤー(粘着付与剤)類を配合することも支障はない。
【0043】
一方,寸法安定性と硬度調整のために,有機系フィラーなどを添加することもでき,紫外線架橋型アクリル系樹脂材料との親和性,透明性の点から,このようなフィラーとしてアクリル系樹脂フィラーなどの使用がより好適である。
【0044】
製造方法
(1)フィルムへの塗布
上述のアクリル酸類のモノマー及び/又はオリゴマーを主剤として光重合開始剤,紫外線架橋促進剤及び前述したフィラー等を配合したアクリル系樹脂材料を,押出機,ダイコーターなどで押し出して,工程紙としてのPETフィルム等のフィルム上に積層する。
【0045】
アクリル系樹脂材料を積層する前述のフィルムとしては,既知の工程紙(工程フィルム)を使用することができ,この工程紙(工程フィルム)に塗布したアクリル系樹脂材料に,紫外線照射前に,又は紫外線照射後に別の工程紙(工程フィルム)を貼り合わせて工程紙(工程フィルム)間に挟持された状態としても良い。
【0046】
押し出されたアクリル系樹脂材料の厚み調整は,押出機の押し出しダイによって行っても良く,又は,コンマコーター,リーバースコーター,ナイフコーターなどによって行っても良いが,気泡の発生を阻止し,異物の付着や巻き込み防止の観点から,押出しダイによる調整が好ましい。
【0047】
アクリル系樹脂材料を塗布する前述のフィルムは特に限定されないが,得られる粘着弾性体組成物の品質を一定とするために,平滑性と寸法安定性を有するものを使用することが好ましい。
【0048】
また,ここで使用するフィルムで後述する紫外線照射工程において説明するガスバリヤーフィルムを兼ねる場合には,ガスバリヤー性を有するフィルムで,好ましくは紫外線透過性を有するものを使用する。
【0049】
一例として,ガスバリヤー性と面平滑性,寸法安定性から二軸延伸PETフィルムの使用が好ましいが,ポリプロピレンなどオレフィン系フィルムを使用しても良い。
【0050】
このフィルムの厚みは,一例として10〜250μmで,耐工程張力,面状耐歪性から厚みで50〜120μmが好適である。
【0051】
アクリル系樹脂材料の塗布に使用した工程フィルムを,後に除去するために,片面又は両面に剥離性が付与されていることが望ましく,このような剥離性を付与するために,シリコーン系剥離剤が塗布されたフィルムを使用することが好ましい。
【0052】
剥離性の付与は片面のみでも良いが,ロール状に巻き取る場合を考慮して,両面にシリコーンなどで剥離処理を行うことが好ましい。
【0053】
(2)紫外線照射工程
前述のようにしてフィルム上に塗布されたアクリル系樹脂材料に対し,紫外線を照射して架橋させ,粘着性と弾性を備えた粘着弾性体組成物を得る。
【0054】
紫外線照射工程は,雰囲気の酸素が架橋を阻害するので,酸化防止のため,窒素ガス等によって空気が置換された空間で行うか,又は,ガスバリヤー性を有するフィルムでアクリル系樹脂材料の両面を被覆した状態で行う。
【0055】
前述のアクリル系樹脂材料の積層を行ったフィルムとして,ガスバリヤー性を有するフィルムを使用した場合には,このフィルムとの接合面とは反対側の前記アクリル系樹脂材料の表面に対しても,紫外線照射前に予めガスバリヤー性フィルムを貼着しておく。
【0056】
このガスバリヤー性フィルムとしては,酸素透過度が10000cc/cm2.24h20℃. 90%RH「JIS-K-7126」以下であればPE,PPなどのオレフィン系フィルム,PETフィルム,紙−樹脂ラミネート又はコーテッド紙など,いずれを使用しても良く,その材質は問わないが,紫外線ランプの熱線対応,ガスバリヤー性,仕上がり面の平滑性から延伸PETフィルムの使用が好適である。
【0057】
また,紫外線の照射をこのガスバリヤー性フィルム側より行う場合には,ガスバリヤー性フィルムとして紫外線透過性のあるものを使用する。
【0058】
ガスバリヤー性フィルムの厚みは5μmでも適応できるが耐裂け性から12μm以上が好ましい。
【0059】
紫外線照射後,得られた粘着弾性体組成物をロール状に巻き取る場合には,前述した工程フィルムとガスバリヤーフィルムの双方共に貼着した状態でこれをロール状に巻き取ると,両フィルムの周径差によってギャリング(皺)が生じることから,紫外線照射後,工程フィルム又はガスバリヤーフィルムのいずれかを剥離することが好ましく,このようにして剥離することを考慮して,工程フィルム又はガスバリヤーフィルムのうち,ここで剥離されるものには,アクリル系樹脂材料の塗布面にシリコーン系などの剥離剤を塗布しておくことが好ましい。
【0060】
この場合,剥離せずに残す側のフィルムの,粘着弾性体組成物との接合面とは反対側の面にも同様に剥離剤を塗布しておくことで,ロール状に巻き取った後,再度展開する際に,粘着弾性体組成物との剥離性を良好なものとすることかできる。
【0061】
なお,紫外線の照射を前述のように空気を窒素で置換した空間内で行う場合には,前述したガスバリヤー性フィルムの貼着は不要である。
【0062】
以上のようにして得られた本発明の両面粘着テープもしくはシートは,これをそのまま使用しても良く,又は製造する吸音材のサイズに対応して予め所定のサイズに採寸しておくものとしても良く,さらに,後述する金属繊維シートを露出させるための孔を打ち抜き加工等によって形成しておくものとしても良い。
【0063】
一例として,アクリル酸2−エチルヘキシル100重量部に対して光重合開始剤0.2重量部から成るアクリル系樹脂材料に対し,酸素を遮断した状態でブラックライトによりUV照射して得た厚さ200μm,700μm,1200μmの三種類の粘着弾性体組成物の吸音率をインピーダンス法により測定した結果を図1に示す。
【0064】
図1より,上記のようにして得られた粘弾性体組成物は,図6を参照して説明したアルミニウム繊維を焼結させた吸音材に比較して,いずれも短い波長の音に対する高い吸音率を示している。
【0065】
〔金属繊維シート〕
前記粘弾性体組成物が積層される金属繊維シートは,金属,特にアルミニウム等の非鉄金属を繊維状としたものを均等に重ね合わせて得た不織布状のシートであり,好ましくは前述のように金属繊維を重ね合わせたものを,この金属が完全には溶融しない温度(素材金属の融点よりも若干低い温度)に加熱して加圧し,各金属繊維の相互に接触する部分を溶着させて,金属繊維シートの強度を向上させたものを使用することができる。
【0066】
使用する金属としては,一例としてアルミニウム,亜鉛,錫,鉛,マグネシウム等の各種材質及びこれらの合金を使用することができる。
【0067】
金属材料は,太さ0.1〜2mm,長さ10〜50mm程度の繊維状に加工し,この金属繊維を,向きをランダムとして厚さが均一となるように重ね合わせて不織布状のシートとしたものを前述の金属繊維シートとして使用することができ,好ましくは,これを焼結して各金属繊維間の接触部分を溶着させる。
【0068】
金属繊維の接触部分の溶着は,金属繊維が完全には溶融しない温度(使用する金属の融点よりも若干低い温度)に加熱しながら加圧して,金属繊維が相互に重なり合う部分を溶着させることにより製造することができ,このようにして厚さが0.1〜1mmの金属繊維シートを得る。
【0069】
〔各素材の積層等〕
本発明の吸音材は,前記方法により得られた金属繊維シートの両面に,同様に前記方法でシート状に形成された粘着弾性組成物を積層することにより製造される。
【0070】
金属繊維シートに積層する粘着弾性体組成物の厚みの変化は,吸音材の用途等に応じて各種の厚さを選択することができ,粘着弾性体組成物部分の厚みを表裏の合計で200μm程度の厚さとすることも可能である。
【0071】
また,粘着弾性体組成物の厚みは,金属繊維シートの表裏で同一の厚みとする必要もなく,いずれか一方を厚く(又は薄く)することもでき,例えば,本発明の吸音材を,粘着弾性体組成物が有する粘着性を利用して壁材等に直接貼着等する場合には,この壁材等と貼り合わせる側の粘着弾性体組成物の厚みを厚くして,被着物(壁)の凹凸等に対する追従性を向上させるものとしても良い。
【0072】
金属繊維シートと,シート状の粘着弾性体組成物は,これを貼り合わせた後,圧接する等して界面における剥離を防止すると共に,両面の粘着弾性体組成物表面を平滑にする。
【0073】
金属繊維シートの表裏における対応位置で,粘着弾性体組成物に孔を設ける場合には,粘着弾性体組成物のシートを製造する段階で,この粘着弾性体組成物のシートに所定パターンで例えば一辺が10〜20mm程度の矩形状の孔を打ち抜き形成しておき,これを前記金属繊維シートに貼着することで,金属繊維シートの一部が露出するように構成しても良く,又は,金属繊維シートの両面に粘着弾性体組成物のシートを貼着した後,金属繊維シートを傷付けないように,その表裏の粘着弾性体組成物のシートのみを打ち抜く等して,前記孔を形成するものとしても良い。
【実施例1】
【0074】
〔製造実施例〕
以下に,本発明の吸音材の製造実施例を示す。なお,本実施例における吸音材は,図2に示すように厚さ0.5mmの金属繊維シートの一方の面に0.3mm,他方の面に0.7mmの粘着弾性体組成物を積層したもので,粘着弾性体組成物には,前述した金属繊維シートを露出させる開口を形成した。
【0075】
(1)粘着弾性体組成物の製造
主剤であるアクリル酸類のポリマーとして,アクリル酸2エチルヘキシル(2EHA-10)粉袋10kgを攪拌ミキサー(エアーモータ攪拌機:2AM-CG-1中央理化製)のタンクに投入し,光開始剤(イルガキュアー184:チバ・スペシャル・ケミカル社製)20gを添加しながら常温(20℃)で5分間攪拌した。
【0076】
更に,紫外線架橋促進剤(M-5A)50gを序々に添加して10分間攪拌し,このアクリル系樹脂材料をレジンミキサー(MKV-21:M&K社製)で15分間,真空攪拌脱泡した。この時の圧力は700mHgである。
【0077】
以上のようにして得たアクリル系樹脂材料を,コンマコーターを使い,繰り出し部にシリコンコーティングした両面剥離紙(50KWW #1042)巾1,100mmを置きラインスピード0.5m/minで搬送させ,バックアップロール部を経由して塗工ヘッドにて平面塗工した。
【0078】
同時に塗工ヘッド上部に位置する別の繰り出し部ローラーから片面剥離紙(PET75μ)巾1,100mmを塗工面を挟むようにして搬送させ,コンマロール部でWETラミネートした。この時,外部からの気泡やゴミなどの入らないクリーンな環境におき,両面がラミネートされた状態で剥離紙面に向けてチッソパージしながら搬送経路上に上下に配置したUV照射装置(ブラックライトFL40SBL:NEC製40W×2灯 波長域200〜280nmピーク)間を通過させた。
【0079】
20mの乾燥機内は風速2m以下の微風を保ち,加温することなく常温のまま6インチ紙管で巻き取るが,繰り出された両面剥離紙(50KWW#1042)が外側にくるようにすることにより,粘着弾性体組成物のシートを製造した。
【0080】
なお,この粘着弾性体シートの製造において,コンマコーターの塗工ヘッドにおけるコンマギャップを,それぞれ300μm,700μmに変更して,ウェット状態での厚みが300μm,700μmである2種類の粘着弾性体組成物のシートを製造した。
【0081】
(2)金属繊維シートの製造
本実施例における金属繊維シートは,アルミニウム製であり,総厚みが約1mmの平板アルミニウム原反を繊維状に切削し,長さ10mm〜50mmのアルミニウム繊維を製造すると共に,このようにして得たアルミニウム繊維を平坦になるように重ね合わせて,加熱下で加圧することにより,金属繊維シートとした。
【0082】
本実施例では,前述のアルミニウム繊維300gを900mm×600mmの面積に厚さ10mm〜12mmで均等に重ね合わせ,これを温度650℃(アルミニウムの融点660℃に対して10℃低い温度)の高炉で少なくとも10分間加熱し,完全に熔融していない状態のアルミニウム繊維を,垂直平面方向に圧力10〜20kgで圧延して冷却し,厚さ0.5mmのアルミニウム繊維シートを得た。
【0083】
(3)アルミニウム繊維シートに対する粘着弾性体組成物の積層
以上のようにして得られたアルミニウム繊維シート(900mm×600mm×0.5mm)の表裏一方に,300μm,他方に700μmのシート状に形成した粘着弾性体組成物を積層すると共に,両面より5〜10Nの圧力をかけて貼り合わせ,表面を平滑化して,吸音材とした。
【0084】
その後,専用の刃型を取り付けたプレス機によりアルミニウム繊維シートの表裏に形成された前記吸音材の粘着弾性体組成物部分をハーフ打ち抜きして,一辺10mmの正方形に粘弾性体組成物を除去して孔を形成し,この部分でアルミニウム繊維シートを露出させた。
【0085】
この打ち抜きは,アルミニウム繊維シートの10%が露出するように,片面の粘着弾性体組成物に対してそれぞれ540個(表裏計1080個)の孔を形成した。
【0086】
〔吸音材の性能確認試験〕
上記製造実施例で説明したと同様の方法で製造した,アルミニウム繊維シートと,シート状の粘着弾性体組成物を使用して,厚みの異なる3種類の吸音材(表裏の粘着弾性体組成物の厚みの合計が200μm,700μm,1200μmの三種類;金属繊維シートの厚みはいずれも500μm)の吸音性能を,インピーダンス法によって測定した結果を図3に示す。
【0087】
なお,本試験例で使用した吸音材の粘着弾性体組成物には,アルミニウム繊維シートの表面積の10%が露出するように前述の孔を形成した。
【0088】
図3より明らかなように,本発明の吸音材は,波長250nmの音源に対する吸音率において0.3という高い数値を達成しており,波長250nm〜2,000nmという広い領域の音源に対して0.3以上の高い吸音性能を発揮することが確認された。
【0089】
なお,図1に示したように,粘着弾性体組成物単独での吸音性能試験では,粘着弾性体組成物の厚みが,200μmから700μmに増大すると,吸音率の立ち上がりが短波長側にシフトして,短波長側での吸音効率が向上するように,粘着弾性体組成物の厚みによって吸音性能に変化が見られるものとなっていたが,本発明の吸音材にあっては,図3に示すように粘着弾性組成物の厚みの変化は,吸音性に殆ど変化を与えるものとはなっておらず,粘着弾性体組成物の厚みが表裏で200μmの場合であっても,短波長側の音に対して,いずれの厚みの粘着弾性体組成物単独の場合の吸音率よりも高い吸音率を達成していることが確認できた。
【0090】
その結果,本発明の吸音材にあっては,粘着弾性体組成物をコスト面で有利な薄いものとすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上のようにして得られた本発明の吸音材は,250〜2,000nmという広域の波長の音源に対して高い吸音効果が確認されていることから,生活騒音として認識される各種の音(台所での各種雑音,洗濯音,シャワー,トイレ,TV音,話声)のいずれに対しても高い吸音効果が期待でき,壁材や床材の裏面等に貼着することにより,騒音の浸入及び漏出が遮断される。
【0092】
さらに,本発明の吸音材は電磁波シールド効果が認められ,閉ざされた空間での活用についても効果が高い。
【0093】
また,本発明の吸音材は,金属繊維シートと粘着弾性体組成物とによって構成された,全体としても可撓性を有するものであることから,曲面に対する貼着も可能であり,例えば帯状に形成した本発明の吸音材を排水音の低減を目的として排水管の外周に巻き付けて使用することもできる。
【0094】
さらに,比較的薄く形成することが容易であると共に,所望の形状に加工することが容易であることから,各種装置類の防音箱,例えばエンジン駆動型の発電機やコンプレッサ,ポンプ等の防音箱,車輌のボディー等に貼着した場合であっても,内部空間を狭めることなく吸音材の貼着が可能である。
【0095】
しかも,本発明の吸音材は,吸音可能な音の周波数(波長)域が広く,しかも,使用場所,環境等に対する制約が少ないことから,防音,吸音が必要とされる各種分野での利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】粘着弾性体組成物の波長−吸音率特性を示すグラフ。
【図2】実施例の吸音材の断面構造を示す説明図。
【図3】本発明の吸音材の波長−吸音率特性を示すグラフ。
【図4】石膏ボードの波長−吸音特性を示すグラフ。
【図5】硬質ゴムの波長−吸音特性を示すグラフ。
【図6】アルミニウム繊維を焼結して得た吸音材の波長−吸音特性を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸類のモノマー及び/又はオリゴマーを主剤とする紫外線架橋型アクリル系樹脂材料に,酸素を遮断した状態で紫外線を照射して架橋させて得た粘着弾性体組成物を,不織布状の金属繊維シートの両面に積層して成る吸音材。
【請求項2】
前記粘着弾性体組成物の粘度が,20,000〜300,000CPSである請求項1記載の吸音材。
【請求項3】
前記金属繊維シートの各繊維相互の接触部が溶着されていることを特徴とする請求項1又は2記載の吸音材。
【請求項4】
前記金属繊維シートの表裏の相対位置における前記粘着弾性体組成物に,開口径が10〜20mmの孔を複数形成して,前記金属繊維シートを一部露出させたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の吸音材。
【請求項5】
前記孔の形成により,金属繊維シートの表面積の5〜15%を露出させたことを特徴とする請求項4記載の吸音材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−63763(P2009−63763A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230619(P2007−230619)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(591015784)共同技研化学株式会社 (10)
【Fターム(参考)】