説明

周波数選択透過型の電磁波シールド材およびその製造方法

【課題】周波数選択透過型の電磁波シールド材において、所定の周波数の電磁波のみを選択的に透過し、他の周波数の電磁波を遮蔽する、透視性および生産性を向上する電磁波シールド材およびその製法を提供する。
【解決手段】透明基材2の少なくとも一方の面に、所定周波数の電磁波が透過するためのスリット5を有する金属メッシュパターン3が配設された周波数選択透過型の電磁波シールド材1であって、透明基材2の上に写真製法により現像銀層を生成することにより前記金属メッシュパターン3の金属層を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の周波数の電磁波のみを選択的に透過し、他の周波数の電磁波を遮蔽する、透視性(目視されないこと)及び生産性に優れた周波数選択透過型の電磁波シールド材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の電子機器から発生する電磁波が人体に悪影響を与えたり、周囲の電子機器を誤動作させることが問題とされるようになり、さらには、無線LANの普及により建物内の通信データが建物の外部に漏洩して傍受されるのを防止する必要が生じており、所定の周波数の電磁波のみを選択的に透過または遮蔽するという周波数選択性の電磁波シールドの対策がますます重要視されつつある。
【0003】
従来、透明基材の上に透明導電膜(ITOなど)や導電性金属メッシュパターンを形成したものであって、窓ガラス等に貼ることが可能な透視性を持った電磁波シールド材が知られているが、遮蔽する電磁波の周波数を選択することができない。このような透視性を有する完全遮蔽型の電磁波シールド材を窓ガラスに貼った場合、無線LANの通信データが漏洩するのを防止できると同時に、携帯電話などの必要な通信電波も同時に遮蔽してしまうという不都合があった。
【0004】
このため、携帯電話に使用されている周波数帯域などの特定の周波数の電磁波のみを透過させるため、導電層にスリットを設けたものが用いられている(例えば特許文献1、2参照)。
特許文献1には、樹脂、ガラス等で形成された基板上に蒸着、印刷等の方法により導電層を形成し、この導電層に矩形状の開口(以下、スリットと称する)を形成した構成が示されている。
また、特許文献2には、金属箔等の導電体層に、矩形状のスリットなどの特定パターンからなる電磁波透過開口部を形成した電磁波シールド性を有するフィルムが開示されている。このようなスリットは、スリットの形状に応じて特定の周波数に共振する電磁波を捕捉するスロットアンテナの役割を果たしている。
【0005】
一方、導電性金属メッシュによる電磁波シールド材の作製方法として、写真製法により金属銀を現像して細線パターンを形成した後、この金属銀の上にメッキすることにより導電層を形成する写真銀−メッキ法(例えば、特許文献3、4)がある。
写真製法により金属銀のメッシュパターンを形成する方法には、下記の(a)、(b)に示す2通りがある。
【0006】
(a)支持体上に設けられた銀塩を含有する銀塩含有層を露光し、現像処理することにより金属銀部と光透過性部とを形成し、さらに前記金属銀部を物理現像及び/又はメッキ処理することにより前記金属銀部に導電性金属粒子を担持させた導電性金属部を形成する方法(例えば、特許文献3参照)。この方法は、露光マスクに覆われて露光されなかった部分には現像銀は発現せず、露光マスクに覆われていなくて露光された部分に現像銀が発現する、したがって、露光マスクと比較して反転した形に現像銀が表れるネガ型の露光・現像法である。
【0007】
(b)透明基材上に、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層とをこの順で有する感光材料を露光し、物理現像核上に任意の細線パターンで金属銀を析出させ、次いで前記物理現像核上に設けられた層を除去した後、前記物理現像された金属銀を触媒核として金属をめっきする方法(例えば、特許文献4参照)。この方法は、露光マスクに覆われて露光されなかった部分には現像銀が発現し、露光マスクに覆われていなくて露光された部分には現像銀が発現しない、したがって、露光マスクと同じ形に現像銀が表れるポジ型の露光・現像法(銀錯塩拡散転写法、以降DTR法と称す。)である。
【特許文献1】特開2002−033592号公報
【特許文献2】特開2003−124673号公報
【特許文献3】特開2004−221564号公報
【特許文献4】国際公開第2004/007810号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、樹脂、ガラス等で形成された基板上に蒸着、印刷等の方法により導電層を形成し、この導電層に所定のスリットを形成して、室内の壁などに貼り付ける電磁波遮断構造体(周波数選択透過型の電磁波シールド材)を得ることが開示されているが、具体的なスリットの形成方法については何ら記載がない。
また、蒸着、印刷等の方法により基板の全面に導電層を形成した後にスリットを形成すると、開口されないで残存する方の導電層は、不透明であって透視性(目視されないこと)がない。したがって、特許文献1のスリットを有する電磁波遮断構造体(周波数選択透過型の電磁波シールド材)は、建築物等の窓ガラスに貼り付けて用いることができないという問題があった。
【0009】
一方、特許文献2には、実施例としてPETフィルム(厚み100μm)にアルミ箔(厚み15μm)を貼り合わせたフィルムの、アルミ箔に7.5mm×0.6mmの電磁波透過開口部を設けて、電磁波シールド性を有するフィルム(周波数選択透過型の電磁波シールド材)を作製することが記載されているが、開口部の形成方法については具体的な記載がない。
金属箔に所定形状のスリットを形成するときに、一般的な手法であるフォトリソグラフ・エッチング法を用いた場合には、金属を溶解除去するのは資源を節減するという観点から問題である。また、エッチング処理に使用した廃液の処理に費用が嵩むという問題がある。
また、金属箔にスリットを形成すると、開口されないで残存する方の金属箔は、不透明であって透視性(目視されないこと)がない。したがって、特許文献2の電磁波透過用のスリットを設けた電磁波シールド性を有するフィルム(周波数選択透過型の電磁波シールド材)は、建築物等の窓ガラスに貼り付けて用いることができないという問題があった。
【0010】
このように、従来、大型建築物の窓ガラスなどに貼り付けるのに適した透視性(目視されないこと)に優れていて、所定の周波数の電磁波のみを選択的に透過し、他の周波数の電磁波を遮蔽する、周波数選択透過型の電磁波シールド材およびその製造方法は知られていなかった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、透視性(目視されないこと)および生産性に優れた周波数選択透過型の電磁波シールド材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、透明基材の少なくとも一方の面に、所定周波数の電磁波が透過するためのスリットを有する金属メッシュパターンが配設された周波数選択透過型の電磁波シールド材であって、前記金属メッシュパターンの金属層は、写真製法により生成された現像銀層からなるものであることを特徴とする周波数選択透過型の電磁波シールド材を提供する。
前記金属層は、線幅が15〜60μmであることが好ましい。
前記現像銀層は、ポジ型写真製法によって生成された現像銀層、または、ネガ型写真製法によって生成された現像銀層であることが好ましい。
【0013】
また本発明は、透明基材の少なくとも一方の面に、所定周波数の電磁波が透過するためのスリットを有する金属メッシュパターンが配設された周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法であって、透明基材の少なくとも一方の面に、露光及び現像によって金属銀を析出する物質を含む層が設けられた基材を露光し、次いで現像することにより、前記スリットを有する金属メッシュパターンを現像銀層により生成する工程を、少なくとも含むことを特徴とする周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法を提供する。
【0014】
また本発明は、透明基材の少なくとも一方の面に、所定周波数の電磁波が透過するためのスリットを有する金属メッシュパターンが配設された周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法であって、長尺の透明基材の少なくとも一方の面に、露光及び現像によって金属銀を析出する物質を含む層が設けられた基材を、連続露光装置を用いて露光し、次いで現像することにより、前記スリットを有する金属メッシュパターンが現像銀層により生成する工程を、少なくとも含むことを特徴とする周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法を提供する。
【0015】
前記連続露光装置としては、露光に用いられる光を透過する材質からなる円筒ドラムと、前記円筒ドラムの外周壁に設けられた露光マスク部分と、前記円筒ドラムの内部に配設された露光用光源とを備え、前記円筒ドラムに巻き付けられた透明基材に対して円筒ドラムの内側から光を照射する装置を用いることができる。
あるいは、連続露光装置として、円筒ドラムと、連続したパターンが形成された露光マスクフィルムと、前記円筒ドラムの外部に配設された露光用光源とを備え、前記円筒ドラムに重ねて巻き付けられた透明基材及び前記露光マスクフィルムに対して前記円筒ドラムの外側から光を照射する装置を用いることもできる。
【0016】
本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法において、前記現像銀層は、ポジ型写真製法、または、ネガ型写真製法によって生成することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材によれば、所定周波数の電磁波を透過するためのスリットを有する金属メッシュパターンが、写真製法により生成された現像銀層により形成されているので、金属層の線幅を充分に細くでき、透視性(目視されないこと)および生産性に優れる。
【0018】
本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法によれば、所定周波数の電磁波を透過するためのスリットを有する金属メッシュパターンが、写真製法により生成された現像銀層により形成されるので、金属層の線幅を充分に細くできるとともに、現像銀層の生成の段階でスリットを精度良く形成することができ、透視性(目視されないこと)および生産性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材の一例を示す図面であり、図1(a)は周波数選択透過型の電磁波シールド材の概略構成を示す正面図、図1(b)は金属メッシュパターンの部分拡大正面図である。図2は、本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材の第2の例を示す正面図である。図3は、連続露光装置の一例を示す概略図である。図4は、連続露光装置の別の一例を示す概略図である。
【0020】
図1に示す周波数選択透過型の電磁波シールド材1は、長尺の透明基材2の片面に所定周波数の電磁波を透過するためのスリット5を有する金属メッシュパターン3が配設され、スリット5から透過しない他の周波数の電磁波を遮蔽する周波数選択透過型の電磁波シールド材であって、金属メッシュパターン3を構成する金属層は、写真製法により生成された現像銀層からなる。
必要に応じて、透明基材2の他方の面(裏面)には、粘着剤層及びこれを保護する剥離フィルム(いずれも図示略)を設けることができる。粘着剤層を設けた電磁波シールド材は、剥離フィルムを剥がしてガラスなどの表面に容易に貼り付けることができる。
【0021】
(透明基材)
本発明に使用される透明基材2は、可視領域で透明性を有し、一般に全光線透過率が90%以上のものが好ましい。中でも、フレキシブル性を有する樹脂フィルムは、取扱い性に優れることから透明基材2として好ましい。透明基材2に使用される樹脂フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等からなる厚さ50〜300μmの単層フィルム又は前記樹脂からなる複数層の複合フィルムが挙げられる。
【0022】
(金属メッシュパターン3)
透明基材2上に配設されスリット5の周囲を覆う金属メッシュパターン3は、透視性(目視されないこと)を確保するため、細線からなる金属メッシュパターン3により構成する。ここで、細線からなるメッシュパターン(細線メッシュパターン)は、メッシュとなるパターンであれば特に限定されず、例えば網状または格子状であり、網または格子の目の部分3aに透明基材2が露出して光透過部となり、電磁波シールド材が全体として透視性を有するものとする。メッシュパターンとしては、たとえば細線を縦横に格子状に設けて正方形の目を有するパターンを用いることができる。また、このほか三角形、六角形、菱形、長方形、円形、楕円形、またこれらの組み合わせなどが例示され、特に限定されるものではない。
【0023】
細線メッシュパターンを構成する金属層の線幅は、15〜60μmが好ましく、さらには15〜30μmであることがより好ましい。
金属メッシュの全光線透過率を向上させるためには、細線が設けられた領域の面積に対して、細線間の光透過部の面積を十分に広くする必要がある。このため、細線の間隔は、100〜900μmであることが好ましく、より好ましくは150〜700μmである。本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材の全光線透過率は、細線部と細線間の間隔とを合わせた全体の平均として、50%以上であることが好ましい。
【0024】
本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材における金属メッシュパターン3の作製方法は、詳しくは後述するが、写真製法により目的とする金属メッシュパターン3と同じパターンで現像銀層を生成する方法により行う。
【0025】
スリット5の形状としては、特に限定されないが、矩形、二重矩形、二重円形、二重三角形など(図示は省略)の形状を採用してもよい。また、十字形、X字形、逆Y字形、V字形など(図示は省略)の形状を採用してもよい。矩形以外の複雑なスリット形状を用いれば、種々の偏波面の電磁波を透過させることができる。
図1に示した矩形のスリットの場合、透過(通過)させる電磁波の波長の約1/4の長さを有する矩形状のスリットが好ましい。スリット5の幅は、スリット5の長さの約5%以下が好ましい。図1ではスリット5の長さの方向(図1(a)の上下方向)が透明基材2の長さ方向(図1(a)の左右方向)に直交する場合を例示したが、スリット5の配置は特にこの配置に限定されるものではなく、スリット5の長さの方向が透明基材2の長さ方向と平行した配置とすることもできる。また、寸法および/または長さ方向が異なるスリットを2種類以上混在させて配置することもできる。
【0026】
比較的小規模な面積を覆う用途の場合、周波数選択透過型の電磁波シールド材1の金属メッシュパターン3は、定尺長さ毎に電磁波シールド材を切断しやすいように、図2に示すように、透明基材2の長さ方向の所定長さ毎に金属メッシュパターン3が断絶した部分6を設け、スリット5を有する金属メッシュパターン3を区切って設けてもよい。これにより、金属メッシュパターン3を切断することなしに透明基材2を切断することが容易になる。
【0027】
また、大規模な面積を覆う用途の場合、周波数選択透過型の電磁波シールド材1の金属メッシュパターン3は、図1(a)に示すように透明基材2の長さ方向に、切れ目なく連続して設ける。これにより、切れ目6からの電磁波の漏洩がなく、電磁波シールド材1の長さ方向全体にわたって電磁波シールド効果を得ることができる。
【0028】
(現像銀層の生成)
現像銀層を生成するための写真製法に基づく露光現像法には、上記のとおり、(a)露光マスクに覆われていなくて露光された部分に現像銀が発現する、即ち、露光マスクと反対の形に現像銀が表れるいわゆるネガ型の露光現像方法と、(b)露光マスクに覆われて露光されなかった部分には現像銀が発現する、即ち、露光マスクと同じ形に現像銀が表れるいわゆるポジ型の露光現像方法の2通りがある。本発明には、(a)ネガ型の露光・現像方法と、(b)ポジ型の露光・現像方法のいずれでも適用できる。
【0029】
以下、ポジ型の露光・現像方法(DTR法)を用いた金属メッシュパターンの作製方法について説明する。DTR法の場合、上記の透明基材2の表面には、予め物理現像核層が設けられていることが好ましい。物理現像核としては、重金属あるいはその硫化物からなる微粒子(粒子サイズは1〜数十nm程度)が用いられる。例えば、金、銀等のコロイド、パラジウム、亜鉛等の水溶性塩と硫化物を混合した金属硫化物等が挙げられる。これらの物理現像核の微粒子層は、真空蒸着法、カソードスパッタリング法、コーティング法等によって透明基材2上に設けることができる。生産効率の面からコーティング法が好ましく用いられる。物理現像核層における物理現像核の含有量は、固形分で1平方メートル当たり0.1〜10mg程度が適当である。
【0030】
透明基材2には、塩化ビニリデンやポリウレタン等のポリマーラテックス層の接着層を設けることができ、また接着層と物理現像核層との間にはゼラチン等の親水性バインダーからなる中間層を設けることもできる。
【0031】
物理現像核層は、親水性バインダーを含有するのが好ましい。親水性バインダー量は物理現像核に対して10〜300質量%程度が好ましい。親水性バインダーとしては、ゼラチン、アラビアゴム、セルロース、アルブミン、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、各種デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとビニルイミダゾールの共重合体等を用いることができる。物理現像核層には親水性バインダーの架橋剤を含有することもできる。
【0032】
物理現像核層や前記中間層等の塗布には、例えばディップコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、バーコーティング、エアーナイフコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティングなどの塗布方式で塗布することができる。本発明において物理現像核層は、上記したコーティング法によって、通常連続した均一な層として設けることが好ましい。
【0033】
物理現像核層に金属銀を析出させるためのハロゲン化銀の供給は、基材上に物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に一体的に設ける方法、あるいは別の紙やプラスチック樹脂フィルム等の基材上に設けられたハロゲン化銀乳剤層から可溶性銀錯塩を供給する方法がある。コスト及び生産効率の面からは前者の物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層を一体的に設けるのが好ましい。
【0034】
前記ハロゲン化銀乳剤は、ハロゲン化銀写真感光材料の一般的なハロゲン化銀乳剤の製造方法に従って製造することができる。ハロゲン化銀乳剤は、通常、硝酸銀水溶液、塩化ナトリウムや臭化ナトリウムのハロゲン水溶液をゼラチンの存在下で混合熟成することによって作られる。
前記ハロゲン化銀乳剤層のハロゲン化銀組成は、塩化銀を80モル%以上含有するのが好ましく、特に90モル%以上が塩化銀であることが好ましい。塩化銀含有率を高くすることによって形成された物理現像銀の導電性が向上する。
【0035】
前記ハロゲン化銀乳剤層は、各種の光源に対して感光性を有している。本発明において物理現像銀によりスリットを有する金属メッシュパターンを形成する場合、ハロゲン化銀乳剤層の露光方法として、前記金属メッシュパターンの透過原稿とハロゲン化銀乳剤層を密着して露光する方法、あるいは各種レーザー光を用いて走査露光する方法等がある。前者の密着露光は、ハロゲン化銀の感光性は比較的低くても可能であるが、レーザー光を用いた走査露光の場合は比較的高い感光性が要求される。従って、後者の露光方法を用いる場合は、ハロゲン化銀の感光性を高めるために、ハロゲン化銀は化学増感あるいは増感色素による分光増感を施してもよい。化学増感としては、金化合物や銀化合物を用いた金属増感、硫黄化合物を用いた硫黄増感、あるいはこれらの併用が挙げられる。好ましくは、金化合物と硫黄化合物を併用した金−硫黄増感である。上記したレーザー光で露光する方法においては、450nm以下の発振波長の持つレーザー光、例えば400〜430nmに発振波長を有する青色半導体レーザー(バイオレットレーザーダイオードともいう)を用いることによって、明室下(明るいイエロー蛍光灯下)でも取り扱いが可能となる。
【0036】
物理現像核層が設けられる基材上の任意の位置、たとえば接着層、中間層、物理現像核層あるいはハロゲン化銀乳剤層、保護層、または支持体を挟んで設けられる裏塗り層にハレーションないしイラジエーション防止用の染料もしくは顔料を含有させてもよい。
【0037】
物理現像核層の上に直接にあるいは中間層を介してハロゲン化銀乳剤層が塗設された感光材料を用いて現像銀を生成する場合は、金属メッシュパターンの透過原稿と上記感光材料を密着して露光、あるいは、金属メッシュパターンのデジタル画像を各種レーザー光の出力機で上記感光材料に走査露光した後、可溶性銀錯塩形成剤と還元剤の存在下でアルカリ液中で処理することにより銀錯塩拡散転写現像(DTR現像)が起こり、未露光部のハロゲン化銀が溶解されて銀錯塩となり、物理現像核上で還元されて金属銀が析出して金属メッシュパターンの物理現像銀薄膜を得ることができる。露光された部分はハロゲン化銀乳剤層中で化学現像されて黒化銀となる。現像後、ハロゲン化銀乳剤層及び中間層、あるいは必要に応じて設けられた保護層は水洗除去されて、金属メッシュパターンの物理現像銀薄膜が表面に露出する。
【0038】
DTR現像後、物理現像核層の上に設けられたハロゲン化銀乳剤層等の除去方法は、水洗除去あるいは剥離紙等に転写剥離する方法がある。水洗除去は、スクラビングローラ等を用いて温水シャワーを噴射しながら除去する方法や温水をノズル等でジェット噴射しながら水の勢いで除去する方法がある。
【0039】
一方、物理現像核層が塗布された基材とは別の基材上に設けたハロゲン化銀乳剤層から可溶性銀錯塩を供給する場合、前述と同様にハロゲン化銀乳剤層に露光を与えた後、物理現像核層が塗布された基材と、ハロゲン化銀乳剤層が塗布された別の感光材料とを、可溶性銀錯塩形成剤と還元剤の存在下でアルカリ液中で重ね合わせて密着し、アルカリ液中から取り出した後、数十秒〜数分間経過した後に、両者を剥がすことによって、物理現像核上に析出した金属メッシュパターンの物理現像銀薄膜が得られる。
【0040】
次に、銀錯塩拡散転写現像のために必要な可溶性銀錯塩形成剤、還元剤、及びアルカリ液について説明する。可溶性銀錯塩形成剤は、ハロゲン化銀を溶解し可溶性の銀錯塩を形成させる化合物であり、還元剤はこの可溶性銀錯塩を還元して物理現像核上に金属銀を析出させるための化合物であり、これらの作用はアルカリ液中で行われる。
【0041】
本発明に用いられる可溶性銀錯塩形成剤としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウムのようなチオ硫酸塩、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウムのようなチオシアン酸塩、アルカノールアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素カリウムのような亜硫酸塩、T.H.ジェームス編のザ・セオリー・オブ・ザ・フォトグラフィック・プロセス4版の474〜475項(1977年)に記載されている化合物等が挙げられる。
【0042】
前記還元剤としては、写真現像の分野で公知の現像主薬を用いることができる。例えば、ハイドロキノン、カテコール、ピロガロール、メチルハイドロキノン、クロルハイドロキノン等のポリヒドロキシベンゼン類、1−フェニル−4,4−ジメチル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−4−メチル−4−ヒドロキシメチル−3−ピラゾリドン等の3−ピラゾリドン類、パラメチルアミノフェノール、パラアミノフェノール、パラヒドロキシフェニルグリシン、パラフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0043】
上記した可溶性銀錯塩形成剤及び還元剤は、物理現像核層と一緒に基材に塗布してもよいし、ハロゲン化銀乳剤層中に添加してもよいし、またはアルカリ液中に含有させてもよく、更に複数の位置に含有してもよいが、少なくともアルカリ液中に含有させるのが好ましい。
【0044】
アルカリ液中への可溶性銀錯塩形成剤の含有量は、現像液1リットル当たり、0.1〜5モルの範囲で用いるのが適当であり、還元剤は現像液1リットル当たり0.05〜1モルの範囲で用いるのが適当である。
【0045】
アルカリ液のpHは10以上が好ましく、更に11〜14の範囲が好ましい。銀錯塩拡散転写現像を行うためのアルカリ液の適用は、浸漬方式であっても塗布方式であってもよい。浸漬方式は、例えば、タンクに大量に貯流されたアルカリ液中に、物理現像核層及びハロゲン化銀乳剤層が設けられた基材を浸漬しながら搬送するものであり、塗布方式は、例えばハロゲン化銀乳剤層上にアルカリ液を1平方メートル当たり40〜120ml程度塗布するものである。
【0046】
前述したように、本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材において、細線パターンの線幅を小さくして格子の間隔を大きくすると透光性は上がるが導電性(及び透過させる波長以外の電磁波のシールド性)は低下し、逆に線幅を大きくして格子の間隔を小さくすると透光性は低下して導電性は高くなる。
本発明に係る透明基材上に形成された任意の細線パターンの物理現像による現像銀層は、現像処理後に得られた現像銀層を形成する金属銀粒子が極めて小さく、かつ、現像銀層中に存在する親水性バインダー量が極めて少ないことにより、現像銀層を形成する金属銀粒子が最密充填状態に近い状態で現像銀層が形成されて通電性を有している。
本発明によれば、現像銀層からなる金属層の導電性が十分に高いので、細線パターンの線幅を細くしても周波数選択透過型の電磁波シールド効果を低減させることがなく、電磁波シールド材の透視性を高くすることができる。
【0047】
(連続生産用の製造方法)
上述したように、大面積を覆う周波数選択透過型の電磁波シールド材を製造するため長尺の基材(特にロールから繰り出した長尺の基材)の上に金属メッシュパターン3を切れ目のなく連続して生成する場合には、原反ロールから長尺の基材を繰り出し、現像銀層の露光・現像工程をロールtoロールで行うと、生産性を向上できる等の利点があり、好ましい。
【0048】
このような製造方法においては、原反ロールは、露光及び現像によって金属銀を析出する物質を含む層(詳しくは上述)を長尺の基材上に設けたシートをロール状に巻き取ったものである。原反ロールから繰り出された基材は、所要箇所に配置された移送ロールにより移送される。基材は、連続露光装置に移送されて所定のマスクパターンで焼き付けられる(露光される)。ここで、連続露光装置とは、詳しくは後述するが、透明基材を連続送りにて移送しながら露光を行う装置である。次に、露光された基材は、現像装置に移送されて、写真現像された現像銀がメッシュパターン形状に定着される。次に、水洗浄槽に通されて洗浄され、不要な異物や汚染物が除去された後、乾燥器にて水切り乾燥され、再びロールに巻き取られる。
【0049】
(露光装置)
上記の露光方法による露光装置としては、枚葉式の露光マスク(フォトマスク)を用いる枚葉処理方式の露光装置と、連続したパターンが形成できる連続露光装置とがある。枚葉処理方式の露光装置は、所定のマスクパターンが形成された枚葉式の露光マスク(フォトマスク)を用いて、基材を間欠送りで露光装置に送り、装置内を真空排気して露光マスクと基材とを密着させて隙間を無くしてから、例えば紫外線で露光する。枚葉処理方式の露光装置では、真空排気、露光、大気開放を間欠的に行うので、連続的な生産ができず、処理速度は遅くなる。
【0050】
これに対して図3、図4に例示するように、基材を連続的に露光できる連続露光装置30、40を用いると、枚葉処理方式の露光装置に比較して処理速度が速く、連続的な生産が可能になるという長所がある。
【0051】
図3に示す連続露光装置30は、写真製法における露光に用いられる光を透過する材質からなる円筒ドラム31と、円筒ドラム31の外周壁に設けられた露光マスク部分32と、円筒ドラム31の内部に配設された露光用光源33とを備え、円筒ドラム31の内側の光源33から出射した光によって円筒ドラム31に巻き付けられた基材34を露光する装置である。この連続露光装置30には、特定の照射方向に光を透過する開口部36を有する光源カバー35を露光用光源33の周囲に設けることができる。基材34を露光するパターン(すなわち金属メッシュパターンに対応するパターン)は、露光マスク部分32の光を透過する部分のパターンによって決定される。円筒ドラム31に対する露光マスク部分32の配設は、例えば、円筒ドラム31の外周壁の表面(内面又は外面)に設けられ、あるいは外周壁の内部に挿入又は挟み込まれることによって行われる。なお図3は、露光マスク部分32を円筒ドラム31の外周壁の外面に設けた場合を例示した図面である。
【0052】
この連続露光装置30では、円筒ドラム31は、連続的に移送される基材34と同じ速度で回転しているので、基材34の各部分が円筒ドラム31に巻き付けられた箇所において露光される間、基材34に対する露光マスク部分32のパターン(光を透過する部分と遮光する部分のパターン)がずれることがなく、所要時間の露光を継続することが可能である。露光装置に利用する光源33としては、ハロゲン化銀乳剤層に含まれるハロゲン化銀乳剤の分光特性、感度により適宜選択することができるが、例えばタングステンランプ、紫外線ランプ、蛍光ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を利用することができる。露光の際、光源カバー35は回転せず、開口部36が常時一定の方向(図3の右方向)を向いているので、基材34が円筒ドラム31の表面から離れている部分では光源33の光が光源カバー35によって遮られる。すなわち、連続露光装置30の光源33による基材34の露光は、基材34がその移送経路上において円筒ドラム31の表面に巻き付けられている一定の範囲37内でなされるので、感光層の感度に合わせて、露光の光量及び照射時間を制御することにより、最適な光量を確実に照射することができる。
【0053】
一方、図4に示す連続露光装置40は、円筒ドラム41と、金属メッシュパターンに対応したパターンが形成された露光マスクフィルム42と、前記円筒ドラム41の外部に配設された露光用光源43とを備え、前記円筒ドラム41に重ねて巻き付けられた基材44に対して円筒ドラム41の外側から光を照射し、露光マスクフィルム42を通して基材44を露光する装置である。
露光マスクフィルム42は、例えば、透明樹脂フィルムの上に、縮小露光によるフォトリソグラフ方法などの公知の方法にてマスクとなるパターンを形成したものであり、基材44と重ね合わせた状態で円筒ドラム41上にて露光に使用する。その後、露光マスクフィルム42は、基材44から切離されて巻き取られ、繰り返しての使用に供される。
光源43が円筒ドラム41の外部にある場合は、円筒ドラム41の透明性について特に限定はなく、不透明でもよい。
【0054】
この連続露光装置40には、特定の照射方向に光を透過する開口部46を有する光源カバー45を露光用光源43の周囲に設けることができる。これにより、光源43による基材44の露光は、基材44がその移送経路上において円筒ドラム41の表面に巻き付けられている一定の範囲47内でなされるので、露光の光量及び照射時間の制御を確実に行うことができる。ここで光源43としては、上記の連続露光装置30の光源33と同様のものを利用できるので、重複する説明を省略する。
【0055】
図4に示す連続露光装置40は、重ね合わせた基材44と露光マスクフィルム42を、円筒ドラム41に巻きつけながら連続的に移送するので、両者に適度なテンションを与えながら移送が可能であり、移送速度の制御が容易であるとともに、基材44の各部分が円筒ドラム41に巻き付けられた箇所において露光される間、基材44に対する露光マスクフィルム42のパターン(光を透過する部分と遮光する部分のパターン)がずれることがなく、所要時間の露光を継続することが可能である。
なお、上記に例示した連続露光装置30、40以外にも、例えば、重ね合わせた透明基材と露光マスクフィルムを、直線状の経路に沿って連続的に搬送しながら光源を用いて連続露光する装置などを用いることもできる。また、露光用の光源の個数は特に限定されず、必要に応じて複数個(複数箇所に)設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、従来の製造方法では対応できない、大型建築物の窓ガラスなどの広い面積を覆うための幅広なシートで(特に連続ロールシート状態で)供給される周波数選択透過型の電磁波シールド材を製造することができるので、品質向上やコスト削減などに益するところが大である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材の一例を示す図面であり、(a)は周波数選択透過型の電磁波シールド材の概略構成を示す正面図、(b)は金属メッシュパターンの部分拡大正面図である。
【図2】本発明の周波数選択透過型の電磁波シールド材の第2の例を示す正面図である。
【図3】連続露光装置の一例を示す概略図である。
【図4】連続露光装置の別の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1…周波数選択透過型の電磁波シールド材、2…透明基材、3…金属メッシュパターン、5…スリット、30…連続露光装置、31…円筒ドラム、32…露光マスク部分、33…露光用光源、34…基材、35…光源カバー、40…連続露光装置、41…円筒ドラム、42…露光マスクフィルム、43…露光用光源、44…基材、45…光源カバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の少なくとも一方の面に、所定周波数の電磁波が透過するためのスリットを有する金属メッシュパターンが配設された周波数選択透過型の電磁波シールド材であって、
前記金属メッシュパターンの金属層は、写真製法により生成された現像銀層からなるものであることを特徴とする周波数選択透過型の電磁波シールド材。
【請求項2】
前記金属層の線幅が15〜60μmであることを特徴とする請求項1に記載の周波数選択透過型の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記現像銀層は、ポジ型写真製法によって生成された現像銀層、または、ネガ型写真製法によって生成された現像銀層であることを特徴とする請求項1または2に記載の周波数選択透過型の電磁波シールド材。
【請求項4】
透明基材の少なくとも一方の面に、所定周波数の電磁波が透過するためのスリットを有する金属メッシュパターンが配設された周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法であって、
透明基材の少なくとも一方の面に、露光及び現像によって金属銀を析出する物質を含む層が設けられた基材を露光し、次いで現像することにより、前記スリットを有する金属メッシュパターンを現像銀層により生成する工程を、少なくとも含むことを特徴とする周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法。
【請求項5】
透明基材の少なくとも一方の面に、所定周波数の電磁波が透過するためのスリットを有する金属メッシュパターンが配設された周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法であって、
長尺の透明基材の少なくとも一方の面に、露光及び現像によって金属銀を析出する物質を含む層が設けられた基材を、連続露光装置を用いて露光し、次いで現像することにより、前記スリットを有する金属メッシュパターンが現像銀層により生成する工程を、少なくとも含むことを特徴とする周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法。
【請求項6】
前記連続露光装置は、露光に用いられる光を透過する材質からなる円筒ドラムと、前記円筒ドラムの外周壁に設けられた露光マスク部分と、前記円筒ドラムの内部に配設された露光用光源とを備え、前記円筒ドラムに巻き付けられた透明基材に対して円筒ドラムの内側から光を照射する装置であることを特徴とする請求項5に記載の周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法。
【請求項7】
前記連続露光装置は、円筒ドラムと、連続したパターンが形成された露光マスクフィルムと、前記円筒ドラムの外部に配設された露光用光源とを備え、前記円筒ドラムに重ねて巻き付けられた透明基材及び前記露光マスクフィルムに対して前記円筒ドラムの外側から光を照射する装置であることを特徴とする請求項5に記載の周波数選択透過型の電磁波シールド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−159770(P2008−159770A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346010(P2006−346010)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】