説明

回折光学素子及び計測装置

【課題】均一な光量分布の回折パターンが得られる回折光学素子を提供する。
【解決手段】複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記所定の範囲の中心領域における領域の前記光スポットの数をMとし、前記所定の範囲の4隅における領域の前記光スポットの数の平均をMとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の奇数であって、15°≦θd、M/M>−0.02173×θd+1.314であることを特徴とする回折光学素子を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子及び回折光学素子を用いた計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入射光の少なくとも一部を回折する回折光学素子は、様々な光学機器及び光学装置等に用いられている。光学機器としては、例えば、光学的な3次元計測装置は、所定の光の投影パターンを測定対象物に照射し、所定の光の投影パターンの照射されている測定対象物の画像を取得することにより、3次元計測を行う装置がある。このような3次元計測装置において、回折光学素子は、所定の光の投影パターンを生成するために用いられている。
【0003】
特許文献1及び2には、3次元計測を行う際に、測定対象物に照射される光の投影パターンとして、回折光学素子により生成されたスペックルパターンを照射する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−531655号公報
【特許文献2】特表2009−530604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、通常回折光学素子により発生する回折光は、グレーティング方程式に従い回折光学素子から所定の角度で出射される。このため、回折光学素子より出射される回折光は、回折光学素子を略中心とする球面に対しては回折光の光スポットの分布が均一であっても、平面に投影すると、回折光の回折角度が大きくなるに伴い、回折光の光スポットの間隔が広くなってしまう。このような回折光学素子を3次元計測装置等に用いた場合、回折光の回折角度が大きく、光スポットの間隔が広い領域、即ち、回折光の光スポットの密度が疎となる領域においては検出感度が低下し、正確な3次元計測を行うことができない。尚、本明細書において、略とは対象物を肉眼あるいは実体顕微鏡などの光学顕微鏡で観察した場合にそのように見えることをいう。
【0006】
本発明は、上記点に鑑みたものであり、回折光を平面に投影した場合において、回折光の回折角度が大きな領域においても、回折光の回折角度が小さな領域と略同じ密度の光スポットを形成できる回折光学素子の提供を目的とする。更には、この回折光学素子を用いることにより精密で正確な測定を行う計測装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記所定の範囲の中心領域における領域の前記光スポットの数をMとし、前記所定の範囲の4隅における領域の前記光スポットの数の平均をMとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の奇数であって、
15°≦θd
/M>−0.02173×θd+1.314であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記所定の範囲の中心領域における領域の前記光スポットの数をMとし、前記所定の範囲の4隅における領域の前記光スポットの数の平均をMとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の奇数であって、
15°≦θd
0.8≦M/M≦1.2であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記領域内において最も光スポットの数の多い領域の光スポットの数をMmaxとし、前記領域内において最も光スポットの数の少ない領域の光スポットの数をMminとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の整数であって、
15°≦θd
min/Mmax>−0.01729×θd+1.108であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記領域内において最も光スポットの数の多い領域の光スポットの数をMmaxとし、前記領域内において最も光スポットの数の少ない領域の光スポットの数をMminとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の整数であって、
30°≦θd
0.6≦Mmin/Mmax≦1.4であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記領域内において最も光スポットの数の多い領域の光スポットの数をMmaxとし、前記領域内において最も光スポットの数の少ない領域の光スポットの数をMminとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の整数であって、
15°≦θd
0.7≦Mmin/Mmax≦1.3であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、前記基本ユニットは、設計のための所定の回折光のパターンをフーリエ変換または逆フーリエ変換することにより形成されているものであり、前記設計のための所定の回折光のパターンは、前記設計のための所定の回折光のパターンにおける中心領域の光強度に対し、周辺領域における光強度が高いことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域は、回折角が15°以上の回折光からなる周辺領域を含むものであって、前記分割された領域のうち、前記所定の範囲の中心領域における光強度に対し、前記周辺領域における光強度が0.4以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、光を発する光源と、前記光が入射し回折光が出射される前記記載の回折光学素子と、前記回折光が照射された測定対象物の画像を撮像する撮像部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明における回折光学素子では、回折光を平面に投影した場合において、回折光の回折角度に依存することなく、略均一に分布する光スポットを発生できる。また、本発明における計測装置では、精密で正確な計測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態における計測装置の構造図
【図2】本実施の形態における回折光学素子により生じる光スポットの説明図
【図3】本実施の形態における回折光学素子の説明図
【図4】本実施の形態における回折光学素子の構造図
【図5】実施例1における回折光学素子の説明図
【図6】実施例2における回折光学素子の説明図
【図7】実施例3における回折光学素子の説明図
【図8】実施例4における回折光学素子の説明図
【図9】実施例5における回折光学素子の説明図
【図10】比較例1〜4における回折光学素子の説明図
【図11】比較例5における回折光学素子の説明図
【図12】比較例6〜9における回折光学素子の説明図
【図13】比較例10における回折光学素子の説明図
【図14】比較例11における回折光学素子の説明図
【図15】対角方向の角度θdとM/Mの値との相関図
【図16】対角方向の角度θdとMmin/Mmaxの値との相関図
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0018】
(計測装置)
図1に基づき、本実施の形態における計測装置について説明する。図1は、本実施の形態における計測装置の構成を示す一例である。本実施の形態における計測装置10は、光源20、回折光学素子30及び撮像素子50を有している。回折光学素子30は、光源20から出射された光束(入射光)11を入射させることにより、回折光12を発生させる。また、撮像素子50は、回折光12により生じた光スポットの投影パターンが照射されている測定対象物40a及び40bを撮像する。
【0019】
回折光学素子30は、複数の回折光12を発生させ、この回折光12により生じた光スポットにより、所望の投影パターンが形成される。この投影パターンを測定対象物40a及び40bに照射し、投影パターンが照射された状態の画像を撮像素子50により撮像することにより、測定対象物40a及び40bの3次元形状等の情報を取得できる。尚、3次元計測を行うためには、光スポットの数は100以上であることが好ましい。また、図1に示される計測装置10において、回折光学素子30に代えて、液晶表示パネル等のパターン発生源と投影レンズとを組み合わせたものを設置することにより、所定の光スポットのパターンを発生させてもよい。
【0020】
(回折光学素子)
上述したように、通常の回折光学素子では、回折光を平面からなる投影面に投影した場合には、回折角度の小さい領域においては、光スポットの分布は密となり、回折角度の大きい領域においては、光スポットの分布は疎となる。また、回折角度の大きい回折光と回折角度の小さな回折光との光量を比較したところ、回折角度の小さな光に対し回折角度の大きな光は、光量が低いことが確認された。このため、回折角度が小さく略0となる中心領域は光スポットの分布は密であり、各々の光スポットの光量も設計どおりの所定の光量となるのに対し、回折角度の大きい周辺部分の領域は、光スポットの分布は疎であり、各々の光スポットの光量も所定の光量よりも低くなる。従って、中心領域は明るく、周辺部分は一層暗くなる。
【0021】
次に、本実施の形態における回折光学素子30について説明する。回折光学素子30は、入射する光束11に対して出射される回折光12は、2次元的な分布を有するように形成されている。回折光学素子30に入射する光束11の光軸方向をZ軸とし、Z軸と交点を持ちZ軸に垂直な軸をX軸及びY軸とした場合に、X軸上における最小角度θxminから最大角度θxmax及びY軸上における不図示の最小角度θyminから最大角度θymaxの角度範囲内に光束群が分布している。ここでX軸は光スポットパターンの長辺に略平行でY軸は光スポットパターンの短辺に略平行となる。尚、X軸方向における最小角度θxminから最大角度θxmax、Y軸方向における最小角度θyminから最大角度θymaxにより形成される回折光12の照射される範囲は、撮像素子50における撮像範囲と略一致した範囲となっている。以下、図2に示すように、光スポットパターンにおいて、Z軸に対しX方向の角度がθxmaxである光スポットを通るY軸に平行な直線が上記短辺となり、Z軸に対しY方向の角度がθymaxである光スポットを通るX軸と平行な直線が上記長辺となる。上記短辺と上記長辺の交点と回折光学素子を結ぶ直線とZ軸とがなす角度をθdとし、この角度を対角方向の角度と称する。
【0022】
また、通常、回折光学素子30の断面は凹凸形状やブレーズ形状等により形成されているが、回折光学素子30の断面が連続的なブレーズ形状以外の形状で形成されている場合や、断面がブレーズ形状であっても製造上のバラツキを有している場合には、所望の回折光の他に迷光が発生する場合がある。しかしながら、このような迷光は、設計段階において意図しているものではなく、所望の回折光ではないため、上記角度範囲内に分布している光には含まないものとする。本実施の形態における回折光学素子30は、迷光の光強度が、所望の回折光における光強度の平均に対し、70%以下となるように形成されていることが好ましい。また、回折光学素子30は、入射する光量に対し出射される所望の回折光の光量の和が50%以上となるように形成されていることが好ましい。これにより、高い光利用効率で光スポット等からなる投影パターンを形成できる。
【0023】
図2は、回折光学素子30において回折される回折光12と、これにより生成される光スポット13との関係を示す模式図である。入射光となる光束11を回折光学素子30に入射させることにより、回折光12が発生する。この回折光12は、数1に示すグレーティング方程式において、Z軸方向を基準として、X方向における角度θ、Y方向における角度θに回折される光となる。数1に示す式において、mはX方向の回折次数であり、mはY方向の回折次数であり、λは光束11の波長であり、P、Pは後述する回折光学素子の基本ユニットのX軸方向、Y軸方向におけるピッチである。この回折光12をスクリーンまたは測定対象物等の投影面に照射させることにより、照射された領域に複数の光スポット13が生成される。このような投影面に生成される光スポットの数をMとする。
【0024】
【数1】

ここで、数1に示す式は、入射光が回折光学素子に対し垂直に入射する場合における式である。図1において、入射光11が回折光学素子30に対して垂直に入射している状態を示しているが、光源がレーザ光源等の場合には、回折光学素子30からの反射光が戻り光となりレーザ光源等に入射することを防ぐため、回折光学素子30に垂直な方向より傾けた方向より入射光11を入射させてもよい。レーザ光源等に戻り光が入射すると干渉の影響によりレーザの発振が不安定となる場合があるからである。
【0025】
(光スポットの分布)
投影面において、X軸上付近における最小角度θxminから最大角度θxmaxまでの範囲を等間隔にN分割し、Y軸上付近における最小角度θyminから最大角度θymaxまでの範囲を等間隔にN分割した領域を考え、この各々の領域をR(i,j)とする。尚、N、Nは3以上、M0.5以下の奇数であり、iは1からNまでのいずれかの整数、jは1からNまでのいずれかの整数である。iはθxminに近い位置の領域をi=1とし、θxmaxに近づくに従ってiの値は増加していくものとする。また、jはθyminに近い位置の領域をj=1とし、θymaxに近づくに従ってjの値は増加していくものとする。尚、N、Nの値が大きいと統計的なばらつきも大きくなるため、N、Nの値は15以下であることが好ましい。
【0026】
ここで、中心領域R((i+1)/2,(j+1)/2)に含まれる回折光の光スポットの数Mと周辺領域R(1,1),R(1,N),R(N,1),R(N,N)に含まれる回折光の光スポットの数の平均値Mが、下記の数2に示す式を満たすように回折光学素子を形成する。これにより周辺領域の回折光の光スポットの数と中心領域の回折光の光スポットの数の差を小さくでき、略均一に分布する光スポットを得ることができる。これにより、周辺領域における全体の光量の低下を抑えることができる。また、数3に示す式を満たすように回折光学素子の形成によっても、周辺領域の回折光の光スポットの数と中心領域の回折光の光スポットの数の差を小さくでき、略均一に分布する光スポットを得ることができる。尚、M/Mの値は1であることが最も好ましく、1を中心とした範囲とすることにより、略均一光スポットを分布させることができる。
【0027】
【数2】

【0028】
【数3】

また、各々の領域R(i,j)に含まれる回折光の光スポットの最大の個数Mmaxと回折光の光スポットの最小の個数Mminが下記の数4に示す式を満たすように形成してもよい。これにより各々の領域R(i,j)における回折光の光スポットの差を小さくでき、略均一に分布する光スポットを得ることができる。これにより、光量が低下しやすい周辺領域における全体の光量の低下を抑えることができる。また、数5に示す式を満たすように回折光学素子の形成によっても、光量が低下しやすい周辺領域の回折光の光スポットの数と中心領域の回折光の光スポットの数の差を小さくでき、略均一に分布する光スポットを得ることができる。また、数6に示す式を満たすように回折光学素子を形成するにより、光量が低下しやすい周辺領域の回折光の光スポットの数と中心領域の回折光の光スポットの数の差をより小さくでき、略均一に分布する光スポットを得ることができる。尚、Mmin/Mmaxの値は1であることが最も好ましく、1を中心とした範囲とすることにより略均一にできる。
【0029】
【数4】

【0030】
【数5】

【0031】
【数6】

ここで、光スポットの個数を計測する投影面はZ軸に対して垂直な平面に限らず、傾斜した平面であってもよい。また、光スポットの分布が投影面において楕円形などの四角形以外の形状であるような場合には、その図形に内接する四角形領域を考慮することで同様の評価を行うことができる。また、内接する四角形領域を考慮すること以外にも、光スポットの個数を投影範囲の面積によって除算することで光スポットの密度を求め、中心部と周辺部の密度の比較を行うことで中心と周辺の光スポット数が均一な光スポット分布を得ることができる。
【0032】
さらに、測定対象物の画像の取得により3次元計測を行う装置において、画像を取得する撮像装置のレンズが広角となると中心部と周辺部でひずみが生じる。具体的には均一な光スポットパターンであっても中心部は密で周辺部では粗となる画像が取得される。この問題を解決するためには、光スポットを投影する投影面を平面から広角レンズの粗密を再現する曲面を設けることとする。つまり、上記曲面上に分布した光スポットを平面に射影することで2次元化したものを光スポットの計測を行う投影面としてもよい。
【0033】
このような回折光12を出射する回折光学素子30として、反復フーリエ変換法等により設計された回折光学素子を使用できる。ここで、回折光学素子とは、所定の位相分布を生じさせる基本ユニットを周期的に、例えば、2次元的に配列させたものである。このような回折光学素子においては、遠方における回折光の回折次数の分布は基本ユニットにおけるフーリエ変換により得ることができる。このことはスカラー回折理論によって説明されている。電磁場はベクトル量であるが、等方的な媒質中ではスカラー量により表わすことができ、時間t、点Aにおけるスカラー関数u(A、t)は、数7に示す式で表わされる。
【0034】
【数7】

数7に示す式は、入射する光が単色光の場合を示しており、U(A)は点Aにおける複素振幅であり、ωは角周波数である。数7に示すスカラー関数は、全空間で数8に示す波動方程式を満たす。
【0035】
【数8】

数7に示す式を数8に示す式に代入すると、数9に示すヘルムホルツ方程式を得ることができる。
【0036】
【数9】

ここで、kは波数であり、k=2π/λである。数8に示される式を解くことにより、空間におけるスカラー関数の分布が計算される。また、ある位相分布を与える十分に薄い平面スクリーンをΣで示し、Σ上における点をAとし、平面波がΣを透過した場合の点Aにおけるスカラー関数をキルヒホッフの境界条件を用いて、数9に示す式から計算すると、r01を点Aと点Aの距離とした場合、数10に示す式が得られる。
【0037】
【数10】

更に、点Aにおける座標(x、y、0)、点Aにおける座標(x、y、z)とし、zが|x−x|、|y−y|よりも十分大きな値であるものとすると、r01を展開することにより、数11に示されるフラウンホーファー近似式を得ることができる。
【0038】
【数11】

これは、スクリーンによって与えられる位相分布のフーリエ変換に相当する。特に、スクリーン後における位相分布u(A)がX軸方向にピッチP、Y軸方向にピッチPの周期性を有する場合、u(A)は、下記に示す数12に示す式のように、(m、n)次の回折光が発生する。
【0039】
【数12】

この際、(m、n)次の回折光の回折効率ηmnは、周期性の基本ユニットが有する位相分布u'(x、y)を用いて、下記数13に示す式で表わされる。尚、m、nは整数、θxin及びθyinは入射光におけるX方向及びY方向におけるZ軸となす角度、θxout及びθyoutは出射光におけるX方向及びY方向におけるZ軸となす角度である。
【0040】
【数13】

従って、基本ユニットの位相分布が得られれば、そのフーリエ変換によって回折光における強度分布の計算ができるため、基本ユニットの位相分布を最適化することにより、所望の分布の回折光を発生させる回折光学素子が得られる。
【0041】
次に、図3に基づき,本実施の形態における回折光学素子30について説明する。本実施の形態における回折光学素子30は、図3(a)に示されるように、X軸方向にピッチP、Y軸方向にピッチPの基本ユニット31が2次元状に周期的に配列されている。具体的には、図3(b)に示されるような位相分布を有している。図3(b)では、黒く塗りつぶされた領域が凸部となり、白抜きの領域が凹部となるように凹凸パターンが形成されている回折光学素子30を示す。本実施の形態における回折光学素子は、位相分布を発生できればよく、ガラスや樹脂材料等の光を透過する部材の表面に凹凸パターンを形成した構造のものや、凹凸パターンが形成された透明な部材の上に、この部材とは屈折率の異なる部材を貼り合わせ、表面を平坦なものとしたものや、更には、透明な部材において屈折率を変化させた構造のものであってもよい。つまり、ここで、凹凸パターンとは、表面形状が凹凸である場合のみを意味するものではなく、入射光に位相差を与えることのできる構造のものを含むものを意味する。尚、回折光学素子30に基本ユニット31を2次元的に配置する際に基本ユニットは整数個である必要はなく、凹凸パターン内に1つ以上の基本ユニットが含まれていれば凹凸パターンと凹凸パターンを有さない領域の境界が基本ユニットの境界と一致していなくともよい。
【0042】
図4には、本実施の形態における回折光学素子の一例として、ガラス等からなる透明基板32の表面に凸部33を形成することにより凹凸パターンを形成した構造の回折光学素子30の断面模式図を示す。尚、この回折光学素子30では、透明基板32の表面において、凸部33の形成されていない領域が凹部34となる。
【0043】
透明基板32は、入射光に対し透明であればよく、ガラス基板の他、樹脂基板、樹脂フィルム等の種々の材料を使用できるが、ガラスや石英等の光学的等方材料は、透過光に複屈折性の影響を与えることがなく好ましい。また、透明基板32は、例えば、空気との界面に、多層膜による反射防止膜の形成により、フレネル反射による光反射を低減できる。また、図においては、透明基板32の片面に凹凸パターンが形成されているものを示すが、透明基板32の両面に凹凸パターンを形成した構造のものであってもよい。
【0044】
このように、本実施の形態における回折光学素子30は、反復フーリエ変換法等の手法を用いて作製できる。より詳細に説明すると、回折光学素子における基本ユニット31の位相分布と回折光の電場分布はフーリエ変換の関係にあるため、回折光の電場分布を逆フーリエ変換することにより、基本ユニット31における位相分布を得ることができる。
【0045】
また、回折光学素子を作製する際には、回折光の強度分布のみ制限条件となり、位相の条件が含まれないため、基本ユニットの位相分布は任意なものとなる。反復フーリエ変換法では、回折光の光強度分布の逆フーリエ変換より基本ユニットの位相分布の情報を抽出し、得られた位相分布を基本ユニットの位相分布とし、更にフーリエ変換を行う。これにより、フーリエ変換の結果と所定の回折光の光強度の分布との差分が評価値となり、上記計算を繰り返すことにより、評価値が最小となるような回折光学素子の位相分布を最適な設計として得ることができる。
【0046】
回折光学素子の設計アルゴリズムは、上記以外にも、Bernard Kress,Patrick Meyrueis著、「デジタル回折光学」(丸善)等に記載されているように各種ある。また、フーリエ変換の方法としては、高速フーリエ変換アルゴリズム等を用いることができる。
【0047】
本実施の形態における回折光学素子により形成される光スポットの分布は、数2〜数6に示す式に基づくものであるが、このような光スポットの分布を発生させる回折光学素子の製造方法について、以下に説明する。
【0048】
まず、回折光学素子から距離zに位置する投影面において、数2から数6のいずれかを満たすように光スポットが分布している光スポット分布の座標群を作製する。このときの光スポット分布としては、ランダム分布であってもよく、光スポットの間隔が制御された分散型分布、規則的な配列を有する規則分布であってもよい。この光スポット分布のうち、q番目の光スポットの座標を(x,y)とする。回折光の回折角は(θ,θ)であるので、回折光の進行方向の波数ベクトルkは、数14に示す式で表わされる。
【0049】
【数14】

数14に示す式より、座標(x,y,z)に回折光を発生させるためには、波数ベクトルkの定数倍が(x,y,z)となるようにすればよい。即ち、数15に示す式で表わすことができる。
【0050】
【数15】

数15に示す式より、β=z/(1−sinθ−sinθ0.5であり、sinθ=ysinθ/xであるので、これらを用いると数16に示す式が得られる。
【0051】
【数16】

従って、数1に示す式を用いると、下記の数17に示す式が得られる。数17に示す式において左辺の値は整数であるが、一般に右辺は整数にならない。そのため、右辺の値に一番近い整数を(mqx,mqy)として、これを座標(x,y,z)に回折光を発生させる回折光学素子の次数に対応させる。
【0052】
【数17】

上記の計算をM個の点に対して行うことで、スポット分布における各スポットの座標群(x,y)(q=1〜M)に対応する回折次数の組み合わせ(mqx,mqy)(q=1〜M)を得ることができる。
【0053】
以上により、所定の光スポットの分布を有する本実施の形態における回折光学素子を得ることができる。これにより、本実施の形態における回折光学素子では、投影面において光スポットの分布をより均一なものにできる。
【0054】
(光スポットの光量)
次に、投影面における各々の光スポットの光量差を少なくする方法について説明する。前述したように、通常の回折光学素子の投影面においては、周辺部の光スポットの光量は中心領域の光スポットの光量よりも低くなる。このため、周辺部は中心領域よりも全体的に暗くなってしまう。
【0055】
このことについて検討を行なったところ、特に、回折角度θdの値が15°以上となる領域において、回折光学素子から出射される回折光の光強度が、回折角度が大きくなるに従い、低くなる傾向にあるという知見を得るに至った。即ち、回折角度が大きな領域では、実際の光量が設計値よりも低くなるのである。これは、数13に示す式を導くために用いた数11に示すフラウンホーハー近似式が近軸領域において成立し、回折角度の値が大きい場合には十分には近似されず、回折角度が大きくなるに従い、ずれが大きくなるためと考えられる。また、回折角度が大きな回折光は、回折光学素子に形成された凹凸パターンの微細な形状により大きな影響を受けやすく、通常の製造プロセス等においては、回折角度が大きい高い次数の回折光に対応した回折光学素子を正確に作製することが困難であるためとも考えられる。
【0056】
本実施の形態における回折光学素子では、原点からの距離(m+m0.5が大きくなるに従って、次数(m、m)における回折光の光スポットの光強度が高くなるように基本ユニットを設計し回折光学素子を作製した。
【0057】
ここで、回折光の光強度と次数(m、m)との関係は、次数の増加に伴い回折光の光強度が増加すればよく、直線的であってもよく、曲線的であってもよい。
【0058】
ここで実際の素子から設計における回折光分布を求める方法について述べる。回折光学素子の製造工程においては、加工等における製造バラツキにより回折光学素子の形状が設計で想定した形状に対して複雑になる場合があるが、このような場合には、回折光学素子の基本ユニットの凹凸形状を近似するのに十分な大きさの計算領域を確保して位相分布を近似すればよい。このように近似を行った位相分布を設計の位相分布としてフーリエ変換を行うことで設計における回折光の強度分布を求めることができる。計算機等を用いてフーリエ変換を行う場合、2のべき乗のメッシュで近似された位相分布を計算領域として用いると、高速フーリエ変換アルゴリズムを用いることができ計算が高速化されるため、2のべき乗で位相分布を近似するとよい。
【0059】
以上により、本実施の形態における回折光学素子では、中心部における回折光の光スポットの光量と周辺部における回折光の光スポットの光量との差を少なくできるため、中心部と周辺部とにおいて光スポットの光量をより均一にできる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例として回折光学素子について説明する。尚、実施例における回折光学素子では、透明基板32として石英基板を用いており、波長が810〜850nmの範囲の光における石英基板の屈折率は、1.454であるものとする。また、実施例における回折光学素子により生じる光スポットには、0次回折光(0次光)は含まれないものとする。
【0061】
(実施例1)
実施例1の回折光学素子について、図5に基づき説明する。図5(a)は、本実施例における回折光学素子30により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子30より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、本実施例における回折光学素子30により発生する回折光の次数(m、m)を示す。この回折光は、X方向に−160次〜160次、Y方向に−120次〜120次の間に分布している。図5(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、本実施例の回折光学素子30に波長810nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図5(c)は、本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31を示す。この基本ユニット31における位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。尚、図5(c)等に示される基本ユニット31における位相分布については、32値を濃淡のトーンで示している。
【0062】
図5(c)に示される位相分布を有する基本ユニット31は、X軸方向におけるピッチPが378.9μm、Y軸方向におけるピッチPが368.4μmのものであり、本実施例における回折光学素子30は、この基本ユニット31が4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。本実施例における回折光学素子30では、透明基板32の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが57.6nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板32の表面上に、レジストパターンを形成してRIE(Reactive Ion Etching)等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板32の表面に1段の高さが57.6nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。このようにして、波長が810nmの光において、X方向における最大の回折角度が20°、Y方向における最大の回折角度が15.3°、対角方向の角度が24.5°となる本実施例における回折光学素子30を作製する。
【0063】
図5(b)は、前述のとおり、本実施例における回折光学素子30に、波長810nmの光を入射させることにより投影面上に生じる回折光の光スポットの分布を示す。図5(b)において、破線で示される範囲の投影範囲内では、80×60の光スポットが略規則的に配列されている。尚、破線で示される範囲は、投影面を回折光学素子30から1m離れた位置のXY面に平行に設置した場合において、投影面におけるX軸方向が−363mm〜363mm、Y軸方向が−273mm〜273mmの範囲となる。ここで、この破線で示される範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、破線で示される範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。本実施例における回折光学素子30では、M、M、Mmax、Mminの値は、Mが49、Mが51、Mmaxが63、Mminが48であった。これに基づき得られるM/Mの値は1.041であり、Mmin/Mmaxの値は0.762であり、数2〜数4、数6に示される式の範囲内にある。よって、本実施例における回折光学素子では、破線で示される範囲において、より均一な光スポットの分布を得ることができる。
【0064】
(実施例2)
実施例2の回折光学素子について、図6に基づき説明する。図6(a)は、本実施例における回折光学素子30により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子30より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、本実施例における回折光学素子30により発生する回折光の次数(m、m)を示す。この回折光は、X方向に−121次〜120次、Y方向に−91次〜90次の間に分布している。図6(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、本実施例の回折光学素子30に波長810nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図6(c)は、本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31を示す。この基本ユニット31における位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。
【0065】
図6(c)に示される位相分布を有する基本ユニット31は、X軸方向におけるピッチPが284.2μm、Y軸方向におけるピッチPが278μmのものであり、本実施例における回折光学素子30は、この基本ユニット31が4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。本実施例における回折光学素子30では、透明基板32の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが57.6nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板32の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板32の表面に1段の高さが57.6nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。このようにして、波長が810nmの光において、X方向における最大の回折角度が20°、Y方向における最大の回折角度が15.2°、対角方向の角度が24.4°となる本実施例における回折光学素子30を作製する。
【0066】
図6(b)は、前述のとおり、本実施例における回折光学素子30に、波長810nmの光を入射させることにより投影面上に生じる回折光の光スポットの分布を示す。図6(b)において、破線で示される範囲の投影範囲内では、1155の光スポットが分布している。尚、破線で示される範囲は、投影面を回折光学素子30から1m離れた位置のXY面に平行に設置した場合において、投影面におけるX軸方向が−363mm〜363mm、Y軸方向が−271mm〜271mmの範囲となる。ここで、この破線で示される範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、破線で示される範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。本実施例における回折光学素子30では、M、M、Mmax、Mminの値は、Mが14、Mが14.8、Mmaxが23、Mminが8であった。これに基づき得られるM/Mの値は1.057であり、Mmin/Mmaxの値は0.348であり、数2及び数3に示される式の範囲内にある。よって、本実施例における回折光学素子では、破線で示される範囲において、より均一な光スポットの分布を得ることができる。
【0067】
(実施例3)
実施例3の回折光学素子について、図7に基づき説明する。図7(a)は、本実施例における回折光学素子30により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子30より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、本実施例における回折光学素子30により発生する回折光の次数(m、m)を示す。この回折光は、X方向に−320次〜320次、Y方向に−240次〜240次の間に分布している。図7(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、本実施例の回折光学素子30に波長830nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図7(c)は、本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31を示す。この基本ユニット31における位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。
【0068】
図7(c)に示される位相分布を有する基本ユニット31は、X軸方向におけるピッチPが531.2μm、Y軸方向におけるピッチPが499.6μmのものであり、本実施例における回折光学素子30は、この基本ユニット31が4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。本実施例における回折光学素子30では、透明基板32の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが59nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板32の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板32の表面に1段の高さが59nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。このようにして、波長が830nmの光において、X方向における最大の回折角度が30°、Y方向における最大の回折角度が23.5°、対角方向の角度が35.9°となる本実施例における回折光学素子30を作製する。
【0069】
図7(b)は、前述のとおり、本実施例における回折光学素子30に、波長830nmの光を入射させることにより投影面上に生じる回折光の光スポットの分布を示す。図7(b)において、破線で示される範囲の投影範囲内では、200×150の光スポットが略規則的に配列されている。尚、破線で示される範囲は、投影面を回折光学素子30から1m離れた位置のXY面に平行に設置した場合において、投影面におけるX軸方向が−577mm〜577mm、Y軸方向が−433mm〜433mmの範囲となる。ここで、この破線で示される範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、破線で示される範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。本実施例における回折光学素子30では、M、M、Mmax、Mminの値は、Mが353、Mが357、Mmaxが378、Mminが346であった。これに基づき得られるM/Mの値は1.011であり、Mmin/Mmaxの値は0.915であり、数2〜数6に示される式の範囲内にある。よって、本実施例における回折光学素子では、破線で示される範囲において、より均一な光スポットの分布を得ることができる。
【0070】
(実施例4)
実施例4の回折光学素子について、図8に基づき説明する。図8(a)は、本実施例における回折光学素子30により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子30より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、本実施例における回折光学素子30により発生する回折光の次数(m、m)を示す。この回折光は、X方向に−401次〜400次、Y方向に−301次〜300次の間に分布している。図8(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、本実施例の回折光学素子30に波長830nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図8(c)は、本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31を示す。この基本ユニット31における位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。
【0071】
図8(c)に示される位相分布を有する基本ユニット31は、X軸方向におけるピッチPが664μm、Y軸方向におけるピッチPが624.5μmのものであり、本実施例における回折光学素子30は、この基本ユニット31が4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。本実施例における回折光学素子30では、透明基板32の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが59nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板32の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板32の表面に1段の高さが59nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。このようにして、波長が830nmの光において、X方向における最大の回折角度が30°、Y方向における最大の回折角度が23.5°、対角方向の角度が35.9°となる本実施例における回折光学素子30を作製する。
【0072】
図8(b)は、前述のとおり、本実施例における回折光学素子30に、波長830nmの光を入射させることにより投影面上に生じる回折光の光スポットの分布を示すものである。図8(b)において、破線で示される範囲の投影範囲内では、9887の光スポットが分布している。尚、破線で示される範囲は、投影面を回折光学素子30から1m離れた位置のXY面に平行に設置した場合において、投影面におけるX軸方向が−577mm〜577mm、Y軸方向が−433mm〜433mmの範囲となる。ここで、この破線で示される範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、破線で示される範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。本実施例における回折光学素子では、M、M、Mmax、Mminの値は、Mが128、Mが129.5、Mmaxが154、Mminが95であった。これに基づき得られるM/Mの値は1.011であり、Mmin/Mmaxの値は0.617であり、数2〜数5に示される式の範囲内にある。よって、本実施例における回折光学素子では、破線で示される範囲において、より均一な光スポットの分布を得ることができる。
【0073】
(実施例5)
実施例5の回折光学素子について、図9に基づき説明する。図9(a)は、本実施例における回折光学素子30により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子30より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、本実施例における回折光学素子30により発生する回折光の次数(m、m)を示す。この回折光は、X方向に−321次〜320次、Y方向に−241次〜240次の間に分布している。図9(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、本実施例の回折光学素子30に波長850nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図9(c)は、本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31を示す。この基本ユニット31における位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。
【0074】
図9(c)に示される位相分布を有する基本ユニット31は、X軸方向におけるピッチPが423.2μm、Y軸方向におけるピッチPが383.9μmのものであり、本実施例における回折光学素子30は、この基本ユニット31が4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。本実施例における回折光学素子30では、透明基板32の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが60.4nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板32の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板32の表面に1段の高さが60.4nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。このようにして、波長が850nmの光において、X方向における最大の回折角度が40°、Y方向における最大の回折角度が32.1°、対角方向の角度が46.3°となる本実施例における回折光学素子30を作製する。
【0075】
図9(b)は、前述のとおり、本実施例における回折光学素子30に、波長850nmの光を入射させることにより投影面上に生じる回折光の光スポットの分布を示す。図9(b)において、破線で示される範囲の投影範囲内では、29720の光スポットが分布している。尚、破線で示される範囲は、投影面を回折光学素子30から1m離れた位置のXY面に平行に設置した場合において、投影面におけるX軸方向が−839mm〜839mm、Y軸方向が−627mm〜627mmの範囲となる。ここで、この破線で示される範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、破線で示される範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。本実施例における回折光学素子30では、M、M、Mmax、Mminの値は、Mが360、Mが369.3、Mmaxが396、Mminが343であった。これに基づき得られるM/Mの値は1.026であり、Mmin/Mmaxの値は0.866であり、数2〜数6に示される式の範囲内にある。よって、本実施例における回折光学素子では、破線で示される範囲において、より均一な光スポットの分布を得ることができる。
【0076】
(実施例6)
実施例6の回折光学素子について説明する。本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31における位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、8値の位相値を有している。
【0077】
本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31は、X軸方向におけるピッチPが512μm、Y軸方向におけるピッチPが518μmのものであり、この基本ユニット31を5mm×4mmの領域内に2次元的に配置した。本実施例における回折光学素子30では、透明基板32の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが335nmとなるように形成した。具体的には、透明基板32の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板32の表面に1段の高さが335nmとなる8段の段数を有する凹凸パターンを形成した。
【0078】
本実施例における回折光学素子30に、波長830nmの光を入射させることにより、回折光学素子30から450mm離れた位置に設置された投影面における、X方向に29.5°、Y方向に23.4°、対角方向の角度が35.5°となる投影範囲内に、24579の光スポットを分布させた。上述の投影範囲における回折次数はX方向で−303次〜303次、Y方向で−247次〜247次であった。ここで、この投影範囲をX軸方向に17分割及びY軸方向に13分割した領域、即ち、投影範囲を221分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測した。本実施例における回折光学素子30では、M、M、Mmax、Mminの値は、Mが120、Mが111、Mmaxが129、Mminが96であった。これに基づき得られるM/Mの値は0.925であり、Mmin/Mmaxの値は0.744であり、数2〜数6に示される式の範囲内にある。よって、本実施例における回折光学素子では、投影範囲において、より均一な光スポットの分布を得ることができた。
【0079】
尚、本実施例では、各々の光スポットの光強度は略均一なものとして設計し作製されているが、投影範囲の中心領域における光強度を1とした場合に、周辺領域における光強度は0.43であった。このMの値の算出に用いた周辺領域は、投影範囲の4隅であり、回折角の最も低いところで、31.7°であり、回折角度が15°以上、更には、30°以上となる領域である。実施例6における回折光学素子の位相分布をフーリエ変換することにより回折光の強度を求め、この回折光の強度を回折光の平均によって規格化し、回折角度に対する傾きを調べたところ、0.0013であった。
【0080】
(実施例7)
実施例7の回折光学素子について説明する。本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31における位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、8値の位相値を有している。
【0081】
本実施例における回折光学素子30の基本ユニット31は、X軸方向におけるピッチPが512μm、Y軸方向におけるピッチPが518μmのものであり、この基本ユニット31を5mm×4mmの領域内に2次元的に配置した。本実施例における回折光学素子30では、透明基板32の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが335nmとなるように形成した。具体的には、透明基板32の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板32の表面に1段の高さが335nmとなる8段の段数を有する凹凸パターンを形成した。
【0082】
本実施例における回折光学素子30に、波長830nmの光を入射させることにより、回折光学素子30から450mm離れた位置に設置された投影面における、X方向に29.5°、Y方向に23.4°、対角方向の角度が35.5°となる投影範囲内に、24579の光スポットを分布させた。上述の投影範囲における回折次数はX方向で−303次〜303次、Y方向で−247次〜247次であった。ここで、この投影範囲をX軸方向に17分割及びY軸方向に13分割した領域、即ち、投影範囲を221分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測した。本実施例における回折光学素子30では、M、M、Mmax、Mminの値は、Mが120、Mが111、Mmaxが129、Mminが96であった。これに基づき得られるM/Mの値は0.925であり、Mmin/Mmaxの値は0.744であり、数2〜数6に示される式の範囲内にある。よって、本実施例における回折光学素子では、投影範囲において、より均一な光スポットの分布を得ることができた。
【0083】
尚、本実施例では、各々の光スポットの光強度は中心領域に対し周辺領域が1.66倍となるように設計し作製されているが、投影範囲の中心領域における光強度を1とした場合に、周辺領域における光強度は0.48であった。このMの値の算出に用いた周辺領域は、投影範囲の4隅であり、回折角の最も低いところで、31.7°であり、回折角度が15°以上、更には、30°以上となる領域である。実施例7における回折光学素子の位相分布をフーリエ変換することにより回折光の強度を求め、この回折光の強度を回折光の平均によって規格化し、回折角度に対する傾きを調べたところ、0.0135であった。
【0084】
(比較例1〜4)
比較例1〜4の回折光学素子について、図10に基づき説明する。図10(a)は、比較例4における回折光学素子により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、回折光学素子により発生する回折光の次数(m、m)を示す。この回折光は、X方向に−79次〜79次、Y方向に−59次〜59次の間に分布しており、80×60の光スポットが規則的に配列されている。図10(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、比較例4の回折光学素子に波長810nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図10(c)は、比較例4の回折光学素子の基本ユニットを示す。この基本ユニットにおける位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。尚、上記の内容は、比較例1〜3についても同様である。
【0085】
比較例1〜4の回折光学素子における基本ユニットのX軸方向におけるピッチP及びY軸方向におけるピッチPを表1に示す。
【0086】
【表1】

比較例1〜4における回折光学素子は、この基本ユニットが4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。比較例1〜4における回折光学素子では、透明基板の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが57.6nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板の表面に1段の高さが57.6nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。
【0087】
このようにして作製された比較例1〜4における回折光学素子に、波長810nmの光を入射させることにより、回折光学素子から1m離れた位置に設置された投影面における投影範囲内、即ち、破線で示される範囲内に、光スポットが発生する。尚、比較例1〜4の回折光学素子において、投影範囲のX方向の最小値と最大値、Y方向の最小値と最大値、X方向における最大の回折角度、Y方向における最大の回折角度、対角方向の角度を表2に示す。
【0088】
【表2】

ここで、比較例1〜4の回折光学素子の投影範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、投影範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。表3に、比較例1〜4の回折光学素子におけるM、M、Mmax、Mminの値及びM/Mの値、Mmin/Mmaxの値を示す。
【0089】
【表3】

比較例1は、最大の回折角度が小さく、対角方向の角度が15°未満であるため、光スポットの数が中心領域よりも周辺領域の方が少なくなるといった現象は生じない。一方、比較例2〜4では、最大の回折角度が大きく、対角方向の角度が15°以上であるため、光スポットの数が中心領域よりも周辺領域の方が少なくなっており、数2〜数6に示される式の範囲内にはない。よって、比較例2〜4における回折光学素子では、平面における投影範囲において、略均一に分布する光スポットが発生しない。
【0090】
(比較例5)
比較例5の回折光学素子について、図11に基づき説明する。図11(a)は、比較例5における回折光学素子により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、回折光学素子により発生する回折光の次数(m、m)を示す。図11(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、比較例5の回折光学素子に波長810nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図11(c)は、比較例5の回折光学素子の基本ユニットを示す。この基本ユニットにおける位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。
【0091】
比較例5の回折光学素子における基本ユニットのX軸方向におけるピッチPは187.1μm、Y軸方向におけるピッチPは182.3μmである。比較例5における回折光学素子は、この基本ユニットが4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。比較例5における回折光学素子では、透明基板の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが57.6nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板の表面に1段の高さが57.6nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。
【0092】
この比較例5における回折光学素子に、波長810nmの光を入射させることにより、回折光学素子から1m離れた位置に設置された投影面における投影範囲内、即ち、破線で示される範囲内に、1118の光スポットを分布させることができる。尚、投影範囲は、X軸方向が−363mm〜363mm、Y軸方向が−271mm〜271mmの範囲となる。また、X方向における最大の回折角度は20°、Y方向における最大の回折角度は15.2°であり、対角方向の角度は24.4°である。
【0093】
ここで、比較例5の回折光学素子の投影範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、投影範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。比較例5における回折光学素子のM、M、Mmax、Mminの値は、Mが15、Mが11.8、Mmaxが23、Mminが6であった。これに基づき得られるM/Mの値は0.787であり、Mmin/Mmaxの値は0.261である。
【0094】
従って、比較例5における回折光学素子では、光スポットの数が中心領域よりも周辺領域の方が少なくなっており、数2〜数6に示される式の範囲内にはない。よって、比較例5における回折光学素子では、平面における投影範囲において、略均一に分布する光スポットが発生しない。
【0095】
(比較例6〜9)
比較例6〜9の回折光学素子について、図12に基づき説明する。図12(a)は、比較例9における回折光学素子により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、回折光学素子により発生する回折光の次数(m、m)を示す。この回折光は、X方向に−199次〜199次、Y方向に−149次〜149次の間に分布しており、200×150の光スポットが規則的に配列されている。図12(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、比較例9の回折光学素子に波長830nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図12(c)は、比較例9の回折光学素子の基本ユニットを示す。この基本ユニットにおける位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。尚、上記の内容は比較例6〜8についても同様である。
【0096】
比較例6〜9の回折光学素子における基本ユニットのX軸方向におけるピッチP及びY軸方向におけるピッチPを表1に示す。
【0097】
【表4】

比較例6〜9における回折光学素子は、この基本ユニットが4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。比較例6〜9における回折光学素子では、透明基板の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが59nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板の表面に1段の高さが59nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。
【0098】
このようにして作製された比較例6〜9における回折光学素子に、波長830nmの光を入射させることにより、回折光学素子から1m離れた位置に設置された投影面における投影範囲内、即ち、破線で示される範囲内に、光スポットが発生する。尚、比較例6〜9の回折光学素子において、投影範囲のX方向の最小値と最大値、Y方向の最小値と最大値、X方向における最大の回折角度、Y方向における最大の回折角度、対角方向の角度を表5に示す。
【0099】
【表5】

ここで、比較例6〜9の回折光学素子の投影範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、投影範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。表6に、比較例6〜9の回折光学素子におけるM、M、Mmax、Mminの値及びM/Mの値、Mmin/Mmaxの値を示す。
【0100】
【表6】

比較例6は、最大の回折角度が小さく、対角方向の角度が15°未満であるため、光スポットの数が中心領域よりも周辺領域の方が少なくなるといった現象はあまり生じない。一方、比較例7〜9では、最大の回折角度が大きく、対角方向の角度が15°以上であるため、光スポットの数が中心領域よりも周辺領域の方が少なくなっており、数2〜数6に示される式の範囲内にはない。よって、比較例7〜9における回折光学素子では、平面における投影範囲において、略均一に分布する光スポットが発生しない。
【0101】
(比較例10)
比較例10の回折光学素子について、図13に基づき説明する。図13(a)は、比較例10における回折光学素子により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、回折光学素子により発生する回折光の次数(m、m)を示す。図13(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、比較例10の回折光学素子に波長830nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図13(c)は、比較例10の回折光学素子の基本ユニットを示す。この基本ユニットにおける位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。
【0102】
比較例10の回折光学素子における基本ユニットのX軸方向におけるピッチPは529.5μm、Y軸方向におけるピッチPは497.5μmである。比較例10における回折光学素子は、この基本ユニットが4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。比較例10における回折光学素子では、透明基板の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが59nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板の表面に1段の高さが59nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。
【0103】
この比較例10における回折光学素子に、波長830nmの光を入射させることにより、回折光学素子から1m離れた位置に設置された投影面における投影範囲内、即ち、破線で示される範囲内に、9286の光スポットを分布させることができる。尚、投影範囲は、X軸方向が−577mm〜577mm、Y軸方向が−433mm〜433mmの範囲となる。また、X方向における最大の回折角度は30°、Y方向における最大の回折角度は23.5°であり、対角方向の角度は35.9°である。
【0104】
ここで、比較例10の回折光学素子の投影範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、投影範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。比較例10における回折光学素子のM、M、Mmax、Mminの値は、Mが155、Mが81、Mmaxが164、Mminが64であった。これに基づき得られるM/Mの値は0.523であり、Mmin/Mmaxの値は0.39である。
【0105】
従って、比較例10における回折光学素子では、光スポットの数が中心領域よりも周辺領域の方が少なくなっており、数2〜数6に示される式の範囲内にはない。よって、比較例10における回折光学素子では、平面における投影範囲において、略均一に分布する光スポットが発生しない。
【0106】
(比較例11)
比較例11の回折光学素子について、図14に基づき説明する。図14(a)は、比較例11における回折光学素子により生じた回折光の光スポットの分布を示し、回折光学素子より略等距離となる曲面における光スポットの分布を示す。即ち、回折光学素子により発生する回折光の次数(m、m)を示す。図14(b)は、この回折光を平面に投影した光スポットの分布を示し、比較例11の回折光学素子に波長850nmの光を入射させた場合に得られる投影面における回折光の光スポットのパターンを示す。図14(c)は、比較例11の回折光学素子の基本ユニットを示す。この基本ユニットにおける位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、32値の位相値を有している。
【0107】
比較例11の回折光学素子における基本ユニットのX軸方向におけるピッチPは421.8μm、Y軸方向におけるピッチPは382.3μmである。比較例11における回折光学素子は、この基本ユニットが4mm×4mmの領域内に2次元的に配置されている。比較例11における回折光学素子では、透明基板の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが60.4nmとなるように形成されている。具体的には、透明基板の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板の表面に1段の高さが60.4nmとなる32段の段数を有する凹凸パターンを形成する。
【0108】
この比較例11における回折光学素子に、波長850nmの光を入射させることにより、回折光学素子から1m離れた位置に設置された投影面における投影範囲内、即ち、破線で示される範囲内に、26836の光スポットを分布させることができる。尚、投影範囲は、X軸方向が−839mm〜839mm、Y軸方向が−627mm〜627mmの範囲となる。また、X方向における最大の回折角度は40°、Y方向における最大の回折角度は32.1°であり、対角方向の角度は46.3°である。
【0109】
ここで、比較例11の回折光学素子の投影範囲をX軸方向に9分割及びY軸方向に9分割した領域、即ち、投影範囲を81分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測する。比較例11における回折光学素子のM、M、Mmax、Mminの値は、Mが558、Mが171.5、Mmaxが558、Mminが162であった。これに基づき得られるM/Mの値は0.307であり、Mmin/Mmaxの値は0.29である。
【0110】
従って、比較例11における回折光学素子では、光スポットの数が中心領域よりも周辺領域の方が少なくなっており、数2〜数6に示される式の範囲内にはない。よって、比較例11における回折光学素子では、平面における投影範囲において、略均一に分布する光スポットを分布させることができない。
【0111】
(比較例12)
比較例12の回折光学素子について説明する。比較例12における回折光学素子の基本ユニットにおける位相分布は、反復フーリエ変換法により計算され、8値の位相値を有している。
【0112】
比較例12における回折光学素子の基本ユニットは、X軸方向におけるピッチPが512μm、Y軸方向におけるピッチPが518μmのものであり、比較例12における回折光学素子は、この基本ユニットを5mm×4mmの領域内に2次元的に配置した。比較例12における回折光学素子では、透明基板32の表面に形成される凹凸パターンにおける1段の高さが340nmとなるように形成した。具体的には、透明基板の表面上に、レジストパターンを形成してRIE等のドライエッチングを行う工程を複数回繰り返して行うことにより、石英基板の表面に1段の高さが340nmとなる8段の段数を有する凹凸パターンを形成した。
【0113】
比較例12における回折光学素子に、波長830nmの光を入射させることにより、回折光学素子から450mm離れた位置に設置された投影面における、X方向に29.5°、Y方向に23.4°、対角方向の角度が35.5°となる投影範囲内に、23499の光スポットを分布させた。上述の投影範囲における回折次数はX方向で−303次〜303次、Y方向で−247次〜247次であった。ここで、この投影範囲をX軸方向に17分割及びY軸方向に13分割した領域、即ち、投影範囲を221分割した領域について、各々の領域に含まれる光スポットの数を計測した。本実施例における回折光学素子30では、M、M、Mmax、Mminの値は、Mが150、Mが64.8、Mmaxが153、Mminが60であった。これに基づき得られるM/Mの値は0.432であり、Mmin/Mmaxの値は0.392であった。
【0114】
従って、比較例12における回折光学素子では、光スポットの数が中心領域よりも周辺領域の方が少なくなっており、数2〜数6に示される式の範囲内にはない。よって、比較例12における回折光学素子では、平面における投影範囲において、略均一に分布する光スポットを分布させることができない。
【0115】
尚、比較例12では、各々の光スポットの光強度が略均一なものとして設計し作製されているが、投影範囲の中心領域の領域における光強度を1とした場合に、周辺領域における光強度は0.23であった。このMの値の算出に用いた周辺領域は、投影範囲の4隅であり、回折角の最も低いところで、31.7°であり、回折角度が15°以上、更には、30°以上となる領域である。比較例12における回折光学素子の位相分布をフーリエ変換することにより回折光の強度を求め、この回折光の強度を回折光の平均によって規格化し、回折角度に対する傾きを調べたところ、0.0011であった。
【0116】
以上、実施例1〜7、比較例1〜12について、対角方向の角度θdとM/Mの値との関係を図15に示し、対角方向の角度θdとMmin/Mmaxの値との関係を図16に示す。
【0117】
図15における破線は、数18に示す式のものであり、数18より、数2に示す式の関係を導き出せる。また、図16における破線は、数19に示す式のものであり、数19に基づき、数4に示す式の関係を導き出せる。
【0118】
【数18】

【0119】
【数19】

また、比較例12の回折光学素子では中心領域に対する周辺領域における光強度は0.23であるに対し、実施例6の回折光学素子では中心領域に対する周辺領域における光強度は0.43、実施例7の回折光学素子では0.48であった。比較例12、実施例6、実施例7における回折光学素子は、対角方向の角度が35.5°であるため、周辺領域は回折角度が15°以上の領域となる。よって、回折角度が15°以上の領域において、中心領域に対する周辺領域の光強度が0.4以上であることが好ましく、更には、0.45以上であることが好ましい。また、比較例12、実施例6、実施例7における回折光学素子は、対角方向の角度が35.5°であるため、周辺領域は回折角度が30°以上の領域となる。よって、回折角度が30°以上の領域において、中心領域に対する周辺領域における光強度が0.4以上であることが好ましく、更には、0.45以上であることが好ましい。
【0120】
尚、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0121】
入射光の少なくとも一部を回折する回折光学素子を使用し、所定の光の投影パターンを測定対象物に照射し、前記投影パターンの照射されている測定対象物の画像を取得することにより、3次元計測を行う装置などに利用できる。
【符号の説明】
【0122】
10 計測装置
11 光束(入射光)
12 回折光(出射光)
20 光源
30 回折光学素子
31 基本ユニット
32 透明基板
33 凸部
40a 測定対象物
40b 測定対象物
50 撮像素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、
前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、
前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記所定の範囲の中心領域における領域の前記光スポットの数をMとし、前記所定の範囲の4隅における領域の前記光スポットの数の平均をMとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の奇数であって、
15°≦θd
/M>−0.02173×θd+1.314
であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、
前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、
前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記所定の範囲の中心領域における領域の前記光スポットの数をMとし、前記所定の範囲の4隅における領域の前記光スポットの数の平均をMとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の奇数であって、
15°≦θd
0.8≦M/M≦1.2
であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項3】
複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、
前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、
前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記領域内において最も光スポットの数の多い領域の光スポットの数をMmaxとし、前記領域内において最も光スポットの数の少ない領域の光スポットの数をMminとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の整数であって、
15°≦θd
min/Mmax>−0.01729×θd+1.108
であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項4】
複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、
前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、
前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記領域内において最も光スポットの数の多い領域の光スポットの数をMmaxとし、前記領域内において最も光スポットの数の少ない領域の光スポットの数をMminとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の整数であって、
30°≦θd
0.6≦Mmin/Mmax≦1.4
であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項5】
複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、
前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、
前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域のうち、前記領域内において最も光スポットの数の多い領域の光スポットの数をMmaxとし、前記領域内において最も光スポットの数の少ない領域の光スポットの数をMminとし、前記所定の範囲に照射される最大の回折角度をθdとした場合に、N及びNはともに3以上の整数であって、
15°≦θd
0.7≦Mmin/Mmax≦1.3
であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項6】
複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、
前記基本ユニットは、設計のための所定の回折光のパターンをフーリエ変換または逆フーリエ変換することにより形成されているものであり、
前記設計のための所定の回折光のパターンは、前記設計のための所定の回折光のパターンにおける中心領域の光強度に対し、周辺領域における光強度が高いことを特徴とする回折光学素子。
【請求項7】
複数の基本ユニットが2次元的に配列されており、入射する光に対して2次元的な回折光を発生させる回折光学素子であって、
前記回折光を平面上に投影させることにより、前記平面上の所定の範囲内に複数の光スポットを発生させるものであり、
前記所定の範囲を4角形とした場合、前記所定の範囲を略同一形状となるN×N個以上の領域に均等に分割し、前記分割された領域は、回折角が15°以上の回折光からなる周辺領域を含むものであって、前記分割された領域のうち、前記所定の範囲の中心領域における光強度に対し、前記周辺領域における光強度が0.4以上であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項8】
光を発する光源と、
前記光が入射し回折光が出射される請求項1から7のいずれかに記載の回折光学素子と、
前記回折光が照射された測定対象物の画像を撮像する撮像部と、
を有することを特徴とする計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−194543(P2012−194543A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37972(P2012−37972)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】