説明

回路基板

【課題】冷熱サイクルに対するクラック耐性に優れ、且つ自動車電装分野で要求される高い耐湿信頼性を両立した回路基板を供給する。
【解決手段】金属製で板状の基材1と、基材の一方の面に積層された絶縁層2と、絶縁層に積層された導体層3と、導体層の表面の一部に積層されるソルダーレジスト4を有する回路基板であり、ソルダーレジストは、ソルダーレスジト単体で形成した硬化物での25℃における引張弾性率が2.5GPa以下である。ソルダーレジストを形成する樹脂組成物に無機イオン交換体が添加されている。他の発明は、無機イオン交換体が、ハイドロタルサイト、ビスマスのいずれか又は双方を有し、無機イオン交換体の添加量がソルダーレジスト100重量%に対し、1.0〜10重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板に関するものであり、特に、チップ抵抗、チップコンデンサ、半導体チップ等電子部品を搭載するのに適した回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にプリント配線板にハンダ付けを行う際に、必要な箇所以外にハンダを付着させないために積層板表面をコーティングするソルダーレジストとしては熱硬化型、紫外線硬化型、現像型の樹脂組成物が知られている。例えば熱硬化型の樹脂組成物としては特許文献1に開示されているようなエポキシ樹脂組成物があり、紫外線硬化型の樹脂組成物としては特許文献2に開示されているようなアクリル系樹脂組成物がある。また、現像型の樹脂組成物としては特許文献3に開示されているような、エポキシ樹脂、感光性樹脂、光開始剤等からなる樹脂組成物がある。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に示されるソルダーレジストは、主にスクリーン印刷法で用いられるが、スクリーン印刷法は導体回路との位置ずれやレジストインクのにじみといった問題があり、高精度、高密度の観点から問題があった。
【0004】
現在、一部の民生用プリント配線板並びにほとんどの産業用プリント配線板のソルダーレジストには、高精度、高密度の観点から、露光後、現像することにより画像形成し、熱及び光照射で仕上げ硬化する特許文献3のような液状現像型ソルダーレジストが使用されている。しかし、特許文献3に示されるノボラック型エポキシ化合物を必須成分としたソルダーレジストの場合、プリント配線板の使用環境の温度変化(冷熱サイクル)による熱応力によりソルダーレジストにクラックが生じる問題があった。
【0005】
そこで、クラック耐性の向上のため、例えば特許文献4ではクラック発生の原因となる冷熱サイクル時の光重合開始剤の結晶成長を低減するため、光重合開始剤として1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルファニル)プロパン−1−オンを用いる方法や、特許文献5に示される引張弾性率が0.5〜3.0GPaとなるようにその組成を構成する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−19834号公報
【特許文献2】特開昭60−103343号公報
【特許文献3】特開昭61−243869号公報
【特許文献4】特開2004−300173号公報
【特許文献5】特開2002−296776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ソルダーレジストのクラック耐性は大幅に改善しているものの、自動車電装分野で要求される高い耐湿信頼性を満足しておらず、絶縁層の樹脂組成によっては、高温高湿度下においてソルダーレジストと絶縁層の界面で剥離する問題があった。
【0008】
従って本発明の目的は、冷熱サイクルに対するクラック耐性に優れ、且つ自動車電装分野で要求される高い耐湿信頼性を両立した回路基板を供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属製で板状の基材と、基材の一方の面に積層された絶縁層と、絶縁層に積層された導体層と、導体層の表面の一部に積層されるソルダーレジストを有し、ソルダーレジストは、ソルダーレスジト単体で形成した硬化物での25℃における引張弾性率が2.5GPa以下であり、且つ、このソルダーレジストに無機イオン交換体が添加されている回路基板である。
【0010】
無機イオン交換体は、ハイドロタルサイト、ビスマスのいずれか又は双方を有し、無機イオン交換体の添加量がソルダーレジスト100重量%に対し、1.0〜10重量%であるのが好ましい。
【0011】
絶縁層を形成する樹脂は、エポキシ変成シリコーン樹脂、エポキシ−シリコーン共重合体の一種類又は複数種類を含むものが好ましく、さらに好ましくは、絶縁層を形成する樹脂に、無機充填剤を配合するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、冷熱サイクルに対するクラック耐性に優れ、且つ自動車電装分野で要求される高い耐湿信頼性を両立した回路基板である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ソルダーレジスト)
本発明で用いられるソルダーレジストは、具体的にはエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂の複合体であり、ソルダーレスジト単体で形成した硬化物での室温における引張弾性率が2.5GPa以下であり、且つ、このソルダーレジストを形成する樹脂組成物に無機イオン交換体が添加されているものである必要がある。
【0014】
引張弾性率は、ソルダーレジストの硬化物の25℃における測定結果であって、引張試験機(株式会社島津製作所製 AGS−G)により引張速度5m/分で求めたものである。
【0015】
引張弾性率を上述の範囲に特定することによって、温度変化があってもクラックの発生が少ない。
【0016】
ソルダーレジストの導体層への塗布はスクリーン印刷法,カーテンコート法などがあり、プレキュアー,露光,現像,ポストキュアーポストUVを行って回路基板を製造することができる。
【0017】
(無機イオン交換体)
ソルダーレジストに配合される無機イオン交換体は、ハイドロタルサイト、ビスマスのいずれか又は双方を有し、無機イオン交換体の添加量がソルダーレジスト100重量%に対し、1.0〜10重量%であるのが好ましく、特にイオン交換容量の大きいハイドロタルサイトが好ましい。
【0018】
ハイドロタルサイトは二価の金属イオンと三価の金属イオンからなる複素酸化物の総称である。二価の金属イオンとしては、鉄イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンがあり、三価の金属イオンとしては、鉄イオン、アルミニウムイオン、マンガンイオンがあり、イオン交換容量の大きいものが好ましく、その中でも、マグネシウム−アルミニウムのハイドロタルサイトが最も好ましい。
【0019】
無機イオン交換体の含有量はソルダーレジスト100重量%に対し1.0〜10重量%であることが好ましく、特に好ましくは4〜8重量%である。無機イオン交換体の含有量が少ない場合、耐湿性の改善効果が十分に得られず、無機イオン交換体の含有量が多すぎるとソルダーレジストの粘度が高くなりプリント配線板への塗布が困難になるためである。
【0020】
ソルダーレジストと無機イオン交換体の混合にあっては、ハイブリッドミキサー、万能混合機、プラネタリーミキサーを使用できる。無機イオン交換体がソルダーレジストに均一に分散し、無機イオン交換体の凝集物が発生しない限り混合方法は問わない。
【0021】
(絶縁層)
絶縁層を形成する樹脂は、エポキシ変成シリコーン樹脂、エポキシ−シリコーン共重合体の一種類又は複数種類を含むものが好ましい。これら素材には、硬化を調整する材料として、硬化剤や硬化触媒を配合するこができる。
【0022】
絶縁層を形成する樹脂には、無機充填剤を配合することが好ましい。無機充填剤としては、電気絶縁性に優れかつ熱伝導率の高いものが用いられ、例えばアルミナ、シリカ、窒化アルミ、窒化硼素の単独又は複数の組み合わせがあり、高い充填可能性及び高い熱伝導性の見地から、球状アルミナが良い。無機充填剤の充填率は、絶縁層を形成する樹脂全体のうちの45〜80容量%が好ましく、より好ましくは50〜70容量%である。充填率が低いと回路基板の熱伝導性が低下する傾向にあり、充填率が高いと絶縁剤の粘度が高くなり基材への塗布が困難になるため、好ましくない
【0023】
絶縁層を形成する樹脂には、上述の硬化剤、無機充填剤以外にも、適宜、添加剤を配合することができる。
【0024】
(基材)
基材は、従来公知のアルミニウム、銅、鉄及びこれらの合金を用いることができ好ましくは、アルミニウムである。
【0025】
(導体層)
導体層の素材としては、銅、アルミニウム、鉄、錫、金、銀、モリブデン、ニッケル、チタニウムの単体又はこれら金属を二種類以上含む合金があり、汎用性の高い銅が好ましい。導体層の形状としては、板、シート、箔、これらの積層体がある。導体層の厚さに特に制限はなく、好ましくは10〜300μmが良い。導体層の表面にニッケルメッキ、ニッケル−金メッキ等のメッキ処理をしても良い。
【0026】
(製造方法)
本発明の回路基板の製造方法は、従来公知の回路基板の製造方法で良く、例えば、基材に絶縁層としての絶縁材を塗布した後に加熱半硬化させ、さらに絶縁層の表面に導体層としての金属箔をラミネート又は熱プレスする製造方法、絶縁剤をシート状にしたものを介して基材と導体層としての金属箔を貼り合わせる製造方法がある。
【実施例】
【0027】
次に、実施例に基づいて、図を参照しつつ、本発明を更に詳細に説明する。
【0028】
(実施例1)
実施例1の回路基板は、図1に示すように、金属製で板状の基材1と、基材1の一方の面に積層された絶縁層2と、絶縁層2に積層された導体層3と、導体層3の表面の一部に積層されるソルダーレジスト4を有する。ソルダーレジスト4は、プリント配線板にハンダ付けを行う際に必要な箇所以外にハンダを付着させないためにプリント配線板表面をコーティングするものである。導体層3の導体パターンおよびソルダーレジスト4の積層パターンは、適宜変更されるものである。
【0029】
実施例1の回路基板について、具体的に説明する。
【0030】
(絶縁剤の作製)
絶縁層2を形成する絶縁剤は次のように作製した。
エポキシ−シリコーン共重合体ALBIFLEX296(nanoresins社製、登録商品)37.4容量%、水添エポキシ樹脂YX8000(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)3.9容量%、ポリオキシプロピレンアミン、ジェファーミンD230(三井化学株式会社製、登録商標)3.5容量%、ポリオキシプロピレンアミン、ジェファーミンD2000(三井化学株式会社製、登録商標)2.2容量%、無機充填材として球状アルミナDAW−10(電気化学工業株式会社製)37.1容量%、アルミナ;ASFP−30(電気化学工業株式会社製)15.9容量%を自転公転式スーパーミキサー「あわとり練太郎」AR−250(株式会社シンキー製、登録商標)で5分間、攪拌混合し絶縁剤を作製した。
【0031】
(導体層3の積層)
作製した絶縁剤を、基材1としての厚さ2.0mmのアルミニウム板(1050:昭和電工株式会社製)に、スクリーン印刷法で110μmとなるよう塗布して絶縁層2を形成する。絶縁層2の上に導体層3としての厚さ70μmの銅箔GTS−MP(古河サーキットフォイル株式会社製、商品名)を貼り合わせた。
【0032】
(導体層3に回路パターンを形成)
この導体層3をエッチングして回路パターンを形成した。
【0033】
(ソルダーレジストの作製)
ソルダーレジストDSR−330FOX−30P(株式会社タムラ製作所製、登録商標)59.4重量%、ソルダーレジスト用硬化剤CA−330−FOX−30P(株式会社タムラ製作所製、登録商標)39.6重量%、ハイドロタルサイト系の無機イオン交換体 IXE−700(東亞合成株式会社製 登録商標)1.0重量%を自転公転式スーパーミキサーあわとり練太郎AR−250(株式会社シンキー製、登録商標)で5分間、攪拌混合しソルダーレジストを作製した。
【0034】
(ソルダーレジストの特性確認)
実施例1で用いたソルダーレジストの「ソルダーレスジト単体で形成した硬化物での25℃における、引張弾性率は2.4GPaであった。
【0035】
(ソルダーレジストの積層)
作製したソルダーレジストを、導体パターンを形成した導体層3に15ミクロンの厚さとなるように塗布しソルダーレジスト4の層を形成した。このソルダーレジスト4に対し、積層後、80℃で45分間プレキュアーした後、半自動露光機TN−800(小野測器株式会社製 商品名)を用いて露光量420mJとなるよう露光した。この露光後、150℃で60分ポストキュアーした。
以上の工程により、実施例1に係る回路基板が完成した。
【0036】
(プレッシャークッカー評価)
この回路基板を3枚作成して試料とした。試料3枚を、プレッシャークッカー試験機(試験装置:楠本化成株式会社PM−220)で121℃×100%RH/2atmの環境下で96時間処理した後、50倍の顕微鏡で断面観察し、ソルダーレジスト4と絶縁層3の界面での剥離有無を観察した。評価結果を示す表1にあるように、実施例1では、3枚中一枚もソルダーレジストと絶縁層界面での剥離が発生しなかった。
【0037】
(冷熱サイクル評価)
このソルダーレジストを有する回路基板の試料3枚を冷熱サイクル試験(試験装置:楠本化成株式会社 LTS−60S)を3600サイクル実施した。この試験は、−40℃設定で7分間の環境下に置いた後、+125℃設定で7分間の環境下に置く試験を1サイクルとして3600回連続で繰り返したものである。この試験後の試料のソルダーレジストを目視にて観察しクラックの有無を観察した。評価結果を示す表1にあるように、実施例1の回路基板では試料3枚ともソルダーレジストにクラックは発生しなかった。
【0038】
【表1】



【0039】
(実施例2)
実施例2の回路基板は、実施例1のソルダーレジスト4のみを変更したものである。実施例2のソルダーレジスト4は、ソルダーレジストDSR−330FOX−30P(株式会社タムラ製作所製、登録商標)54.0重量%、ソルダーレジスト用硬化剤CA−330−FOX−30P(株式会社タムラ製作所製、登録商標)36.0重量%、ハイドロタルサイト系の無機イオン交換体 IXE−700(東亞合成株式会社製 登録商標)10.0重量を用いたほかは実施例1と同様に評価した。実施例2においてもプレッシャークッカー評価にて試料3枚ともソルダーレジストと絶縁層界面での剥離は発生せず、冷熱サイクル試験でも試料3枚ともソルダーレジストにクラックは発生しなかった。
【0040】
(実施例3)
実施例3の回路基板は、実施例1のソルダーレジスト4のみを変更したものである。実施例3のソルダーレジスト4は、ソルダーレジストDSR−330FOX−30P(株式会社タムラ製作所製、登録商標)54.0重量%、ソルダーレジスト用硬化剤CA−330−FOX−30P(株式会社タムラ製作所製、登録商標)36.0重量%、ビスマス系の無機イオン交換体 IXE−500(東亞合成株式会社製 登録商標)10.0重量を用いたほかは実施例1と同様に評価した。実施例3においてもプレッシャークッカー評価にて試料3枚ともソルダーレジストと絶縁層界面での剥離は発生せず、冷熱サイクル試験でも試料3枚ともソルダーレジストにクラックは発生しなかった。
【0041】
(比較例1)
比較例1の回路基板は、実施例1のソルダーレジスト4のみを変更したものである。比較例3のソルダーレジスト4は、ソルダーレジストPSR−4000 AUS5(太陽インキ株式会社製、登録商標)69.3重量%、ソルダーレジスト用硬化剤CA−40 AUS2(太陽インキ株式会社製、登録商標)29.7重量%、ハイドロタルサイト系の無機イオン交換体 IXE−700(東亞合成株式会社製 登録商標)1.0重量%を用い、ポストキュアー後に露光量1000mJでポストUVを行ったほかは実施例1と同様に評価した。実施例1で用いたソルダーレジストのソルダーレスジト単体で形成した硬化物での25℃における、引張弾性率は2.4GPaであった。比較例1ではプレッシャークッカー評価にて試料3枚ともソルダーレジストと絶縁層界面での剥離は発生しなかったが、冷熱サイクル試験では試料3枚のうち1枚にソルダーレジストのクラックが発生した。
【0042】
(比較例2)
比較例2の回路基板は、実施例1のソルダーレジスト4のみを変更したものである。比較例3のソルダーレジスト4は、ソルダーレジストDSR−330FOX−30P(株式会社タムラ製作所製、登録商標)60.0重量%、ソルダーレジスト用硬化剤CA−330−FOX−30P(株式会社タムラ製作所製、登録商標)40.0重量%のものである。無機イオン交換体は配合してない。比較例2では、ではプレッシャークッカー評価にて試料3枚ともソルダーレジストと絶縁層界面で剥離は発生した。冷熱サイクル試験では試料3枚ともソルダーレジストにクラックは発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る実施例・比較例で用いた回路基板を模式的に示した説明図
【符号の説明】
【0044】
1 基材
2 絶縁層
3 導体層
4 ソルダーレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製で板状の基材と、基材の一方の面に積層された絶縁層と、絶縁層に積層された導体層と、導体層の表面の一部に積層されるソルダーレジストを有し、ソルダーレジストは、ソルダーレスジト単体で形成した硬化物での25℃における引張弾性率が2.5GPa以下であり、且つ、このソルダーレジストを形成する樹脂組成物に無機イオン交換体が添加されている回路基板。
【請求項2】
無機イオン交換体が、ハイドロタルサイト、ビスマスのいずれか又は双方を有し、無機イオン交換体の添加量がソルダーレジスト100重量%に対し、1.0〜10重量%である請求項1記載の回路基板。
【請求項3】
絶縁層を形成する樹脂が、エポキシ変成シリコーン樹脂、エポキシ−シリコーン共重合体の一種類又は複数種類を含む請求項1又は請求項2いずれか記載の回路基板。
【請求項4】
請求項3に記載の絶縁層を形成する樹脂に、無機充填剤を配合した回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−23679(P2011−23679A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169756(P2009−169756)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】