回転伝達ギヤ及び駆動装置
【課題】大量生産可能な合成樹脂製歯車を使用する場合であっても、潤滑油を低コストでかつ簡単な構造で供給可能な回転伝達ギヤを提供する。
【解決手段】本発明の回転伝達ギヤは、モータ2と被駆動装置に接続されかつモータ2の回転による駆動を被駆動装置に伝達する出力軸8と、モータ2と出力軸の間に存在しかつ固定シャフト7を中心にして回転されしかも外周に歯6gを有する合成樹脂製ギヤからなる。
合成樹脂製ギヤには、固定シャフト7が延びる方向少なくとも一平端面6aに、潤滑油含有物質を充填するための環状凹処6cが固定シャフト7を包囲するようにして形成されている。潤滑油を環状凹処6cから歯6gに向かって供給するスリット形状溝10が環状凹処から歯6gの歯底面6hに向かって放射状に延びるようにして形成されている。
【解決手段】本発明の回転伝達ギヤは、モータ2と被駆動装置に接続されかつモータ2の回転による駆動を被駆動装置に伝達する出力軸8と、モータ2と出力軸の間に存在しかつ固定シャフト7を中心にして回転されしかも外周に歯6gを有する合成樹脂製ギヤからなる。
合成樹脂製ギヤには、固定シャフト7が延びる方向少なくとも一平端面6aに、潤滑油含有物質を充填するための環状凹処6cが固定シャフト7を包囲するようにして形成されている。潤滑油を環状凹処6cから歯6gに向かって供給するスリット形状溝10が環状凹処から歯6gの歯底面6hに向かって放射状に延びるようにして形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OA機器、自動車等に組み込まれるギヤードモータ等の歯車装置(駆動装置)に潤滑油脂を充填するメンテナンスフリー技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ギヤードモータ等の歯車装置(駆動装置)に潤滑油脂を充填する技術として、金属歯車に潤滑油脂の充填空間を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この特許文献1に開示のものは、金属歯車に潤滑油脂を充填する場合に限られており、かつ潤滑油脂の充填空間が閉鎖空間となっている。また、潤滑油の供給には、毛細管現象が利用され、その通路は、穴形状で、その歯車に機械加工により形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、OA機器、自動車等に組み込まれる駆動装置としてのギヤードモータは、大量生産されるため、内蔵歯車部品は、ポリアセタール、ポリアミド等の合成樹脂による金型成形部品であり、一般に、合成樹脂製歯車は、金属よりも摩擦係数が高く、硬度、強度が低いために削れ易く、また、摩擦発熱により軟化、溶解するため、耐摩耗性が低い。
【0005】
従って、耐久性を向上させるために、駆動部品同士が接触、摺動する歯部分に、潤滑剤を塗布することが望ましいのであるが、初期に大量の潤滑剤を歯部分に塗布しても、駆動部品の回転により遠心力で飛散したり、接触面の擦れにより弾かれてしまったり、更には、歯の接触、摺動により合成樹脂が磨耗する際に、粉状となって潤滑剤を吸収して一緒に飛散してしまうため、長期にわたり塗布状態を維持することが困難である。
【0006】
一方、潤滑油の供給機構を別途設けて搭載することは、コスト面で不利である。
【0007】
このため、大量生産されるギヤードモータについては、コスト面から潤滑油の追加塗布等のメンテナンスは実施しないことが前提となっている製品が多く、低コストで長期に安定して潤滑剤を供給する技術の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、大量生産可能な合成樹脂製歯車を使用する場合であっても、潤滑油を低コストでかつ簡単な構造で供給可能な回転伝達ギヤ及び駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の回転伝達ギヤは、回転駆動源と、被駆動装置に接続されかつ前記回転駆動源の回転による駆動を前記被駆動装置に伝達する出力部と、前記回転駆動源と前記出力部の間に存在しかつ回転軸を中心にして回転されしかも外周に歯を有する合成樹脂製ギヤからなり、前記回転軸が延びる方向少なくとも一平端面に、潤滑油含有物質を充填するための潤滑油充填空間が前記回転軸を包囲するようにして形成され、潤滑油を前記潤滑油充填空間から前記歯に向かって供給する潤滑油通路としてのスリット形状溝が前記潤滑油充填空間から前記歯の歯底面に向かって放射状に延びるようにして形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の回転伝達ギヤは、前記潤滑油含有物質が、カルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸を増ちょう剤として液状潤滑油がほぼ均一に拡散混合されたものからなることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の回転伝達ギヤは、前記潤滑油含有物質が、前記潤滑油が含浸された多孔性の潤滑油保持部材からなり、前記一平坦面に前記潤滑油保持部材が前記潤滑油充填空間から脱落するのを防止する抜け止め片部が半径方向内方に向かって複数個突出形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の回転伝達ギヤは、前記歯底面には前記スリット形状溝が開口する開口部に円錐形状の凹処が形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の回転伝達ギヤは、回転駆動源と、被駆動装置に接続されかつ前記回転駆動源の回転による駆動を前記被駆動装置に伝達する出力部と、前記回転駆動源と前記出力部の間に存在しかつ回転軸を中心にして回転されしかも外周に歯を有する合成樹脂製ギヤからなり、前記回転軸が延びる方向少なくとも一平端面に、潤滑油含有物質を充填するための扇形状潤滑油充填空間が前記回転軸を包囲するようにして形成され、前記扇形状潤滑油充填空間に潤滑油含有物質が充填され、前記一平端面に前記扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板が密着され、該フィルム状樹脂板の外縁と歯の歯底面との間を連通する連通凹部が放射状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の回転伝達ギヤは、前記一平端面に前記連通凹部を互いに連結する環状連結溝が前記フィルム状樹脂板の外縁に沿って設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の回転伝達ギヤは、前記一平端面に、前記フィルム状樹脂板を位置決めするための位置決め部材が形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の駆動装置は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項の回転伝達ギヤを備えている。
【0017】
請求項9に記載の駆動装置は、請求項1ないし請求項4に記載のうちの回転伝達ギヤの少なくとも一つと、請求項5ないし請求項7に記載のうちの回転伝達ギヤの少なくとも一つとを組み合わせた二段ギヤからなる回転伝達ギヤを備えている。
【発明の効果】
【0018】
(請求項1、8の効果)
請求項1に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置は、合成樹脂製ギヤを成形する際に、同時に、潤滑油充填空間、スリット形状溝を形成できるので、回転伝達ギヤに充填されている潤滑油を、毛細管現象と回転による遠心力とを利用して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散させることができることになり、潤滑油を低コストでかつ簡単な構造で互いに噛み合う歯に安定してかつ持続して供給できるという効果を奏する。
【0019】
従って、大量生産可能なギヤードモータ等において、長期間メンテナンスが不要の安価な駆動装置製品を提供できる。
(請求項2、8の効果)
潤滑剤は、液状のままでは流動性を有し、重力の作用や歯車の回転駆動による遠心力の作用等により、一定箇所に滞留させておくのが難しく、潤滑油通路としてのスリット形状溝を流れる潤滑油の流量を制御することは一般には困難であるが、この請求項2に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、カルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸を増ちょう剤として液状潤滑油が概略均一に拡散混合されたグリースが充填されているので、重力の作用や遠心力の作用によって潤滑油それ自体が一度に多量にスリット形状溝を流れるという変動を防止でき、かつ、離油した潤滑油が毛細管現象により、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散することになるので、より一層長期間にわたって互いに噛み合う歯に安定して供給できる。
(請求項3、8の効果)
一般的に、グリース等の潤滑剤は、高温環境条件のもとでは粘度が低下する傾向にあり、高温環境条件のもとでも安定した潤滑油の供給を実現するためには、潤滑剤に所望の粘性が必要となるので、耐熱性グリース等の潤滑油を採用するものとすると、コスト高となるという問題が生じるが、請求項3に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、潤滑油含侵物質を多孔性の潤滑油保持部材としての例えばスポンジや綿に染み込ませたものにより形成し、この多孔性の潤滑油保持部材を潤滑油充填空間に配設して、一平端面に形成された抜け止め片部により潤滑油充填空間から潤滑油保持部材が脱落するのを防止する構成としたので、高温環境条件のもとでも、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
(請求項4、8の効果)
潤滑油通路としてのスリット形状溝の溝幅が狭いと、例えば、1mm以下の場合、潤滑油充填空間からスリット形状溝を通って歯底面に連続的に供給される潤滑油の量が少なくなり、回転伝達ギヤの回転による遠心力により歯面に拡散される拡散量が微量となるが、請求項4に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、スリット形状溝が開口する歯底面の開口部に円錐形状の凹処が形成されているので、駆動装置の停止中に、スリット形状溝を伝わって毛細管現象により潤滑油が円錐形状の凹処に供給され、一定量の潤滑油脂をこの円錐形状の凹処に滞留させておくことができることになり、このため、駆動装置の駆動開始による回転伝達ギヤの回転開始の際に、円錐形状の凹処に貯留されている潤滑油を一度に歯面に飛散させることができることになり、十分な量の潤滑油を、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
【0020】
一般に、ギヤードモータ等の駆動装置は間欠駆動であるので、停止している際に潤滑油を一定量溜めておけるので、この請求項4に記載の回転伝達ギヤを用いるのがより好ましい。
(請求項5、8の効果)
潤滑油の供給量は、回転伝達ギヤの回転時間や回転速度、スリット形状溝の本数や溝幅、溝の深さの影響を受けるため、その供給量を増やすためにスリット形状溝の本数を増やしたり、溝幅、溝の深さを大くくすると、回転伝達ギヤの歯の強度が低下することになり、また、一般的に、潤滑油は長期間にわたって空気に触れていると酸化し、また、潤滑油脂の成分が蒸発して潤滑油脂の品質が劣化するが、請求項5の回転伝達ギヤ、請求項8の駆動装置によれば、潤滑油含有物質を充填するための扇形状潤滑油充填空間が回転軸を包囲するようにして形成され、この扇形状潤滑油充填空間に潤滑油含有物質が充填され、この一平端面にその扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板が密着され、そのフィルム状樹脂板の外縁と歯の歯底面との間を連通する連通凹部が放射状に形成されているので、歯底面への毛細管現象による潤滑油の供給路の面積を広くすることができ、スリット形状溝よりも効率よく十分な量の潤滑油を、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
【0021】
また、潤滑剤がフィルム状樹脂板により密閉状態とされて、外気により遮断されるため、長期間にわたって放置していても、潤滑油含有物質の品質劣化を防止でき、長期間にわたってメンテナンスフリー状態を保つことが可能である。
【0022】
更に、スリット形状溝を一端面に形成する必要もないので、回転伝達ギヤの強度の低下を防止できる。
(請求項6、8の効果)
扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板と一平端面との間の隙間が小さいと、毛細管現象により潤滑油充填空間から隙間を通って連通凹部を介して歯底面に連続的に供給される潤滑油の量が少なくなり、回転伝達ギヤの回転による遠心力により歯面に拡散される拡散量が潤滑油の表面張力の作用により微量となるが、請求項6に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、一平端面に連通凹部を互いに連結する環状連結溝がフィルム状樹脂板の外縁に沿って設けられているので、駆動装置の停止中に、一平端面とフィルム状樹脂板との間の隙間を通ってフィルム状樹脂板の外縁に毛細管現象により供給される潤滑油がその環状連結溝に貯留されることになり、このため、駆動装置の駆動開始による回転伝達ギヤの回転開始の際に、環状連結溝に貯留されている潤滑油が連通凹部を介して歯面に飛散されることになり、十分な量の潤滑油を、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
【0023】
一般に、ギヤードモータ等の駆動装置は間欠駆動であるので、停止している際に潤滑油を一定量溜めておけるので、この請求項6に記載の回転伝達ギヤを用いるのがより好ましい。
(請求項7、8の効果)
請求項5、請求項6に記載の回転伝達ギヤでは、フィルム状樹脂板を一平端面に潤滑油脂の密着により貼り付けているが、回転伝達ギヤが高速回転したり、起動停止直後の回転慣性力により、その密着力よりも大きな力がフィルム状樹脂板に加わると、フィルム状樹脂板が一平端面から剥離するおそれがあり、フィルム状樹脂板に付着している潤滑油脂が剥離部分から飛散することも懸念されるが、請求項7に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、一平端面に、フィルム状樹脂板を位置決めするための位置決め部材が形成されているので、回転伝達ギヤの高速回転による大きな遠心力や急激な起動停止による慣性力が発生したとしても、回転伝達ギヤとフィルム状樹脂板とが一体的に回転又は回転停止することになり、フィルム状樹脂板の一平端面からの剥離を防止できる。
(請求項9の効果)
請求項1ないし請求項4に記載の回転伝達ギヤと請求項5ないし請求項7に記載の回転伝達ギヤとの組み合わせからなる二段ギヤを用いれば、駆動部品の形状や大きさ、加工材料等に対応させて、効率よく潤滑油を供給できる伝達歯車を備えた駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る回転伝達ギヤが適用される駆動装置の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1に係る回転伝達ギヤの外観構成を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す回転伝達ギヤの歯部分の部分拡大図である。
【図4】図4は、本発明の実施例3に係る回転伝達ギヤの外観構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、本発明の実施例4に係る回転伝達ギヤの外観構成を示す部分拡大斜視図である。
【図6】図6は、本発明の実施例5に係る回転伝達ギヤの外観構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、図6に示す回転伝達ギヤの外観構成を示す部分拡大斜視図である。
【図8】図8は実施例6の回転伝達ギヤの外観構成を示す斜視図である。
【図9】図9は図8の回転伝達ギヤの歯の部分を拡大して示す部分拡大図である。
【図10】図10は図9のX−X線に沿う断面図である。
【図11】図11は図6に示す回転伝達ギヤの別の例を説明するための説明図であって、一端面に位置決め部材を設けた例を示す外観図である。
【図12】図12は図11に示す回転伝達ギヤの歯部分の拡大図である。
【図13】図13は二段歯車からなる回転伝達ギヤの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0025】
以下に、本発明に係る回転伝達ギヤ及びこの回転伝達ギヤを用いた駆動装置の実施例を図面を参照しつつ説明する。
(実施例1)
図1は、本発明に係る駆動装置(歯車装置)の駆動機構を示す斜視図である。この図1において、符号1は箱型形状のケースである。ケース1には、回転駆動源としてのモータ2、歯車列3’が内装されている。
【0026】
モータ2には、そのシャフト(図示を略す)にウォームギヤ3が装着されている。歯車列3’は、回転伝達ギヤとしてのウォームホイール4、アイドラギヤ6、出力ギヤ9から構成されている。
【0027】
ウォームホイール4は、回転軸としての固定シャフト5を中心にして自由に回転可能とされている。このウォームホイール4はこれと一体でかつ固定シャフト5と同軸に平歯ギヤ4’が形成された段付き歯車から構成されている。
【0028】
アイドラギヤ6は平歯ギヤから構成され、回転軸としての固定シャフト7を中心にして自由に回転可能に支承されている。出力ギヤ9も平歯ギヤから構成され、出力部としての出力シャフト(出力軸)8を中心にして自由に回転可能に支承されている。
【0029】
固定シャフト5、7、出力シャフト8は、ケース1に互いに平行に配置されかつ固定シャフト5、7はケース1に固定されている。その出力シャフト8はケース1の外部に突出されている。その出力シャフト8は被駆動装置(図示を略す)にモータ2の駆動を伝達する役割を果たす。
【0030】
ウォームギヤ3はウォームホイール4に噛合され、ウォームホイール4と一体の平歯ギヤ4’はアイドラギヤ6に噛合され、アイドラギヤ6は出力ギヤ9に噛合されている。
【0031】
モータ2が回転駆動されると、ウォームギヤ3の回転がウォームホイール4に伝達され、このウォームホイール4と一体の平歯ギヤ4’の回転がアイドラギヤ6に伝達され、このアイドラギヤ6の回転が出力ギヤ9に伝達されるため、任意の減速比で、モータ2の回転速度が出力軸8を介して被駆動装置(図示を略す)に伝達される。
【0032】
アイドラギヤ6は、その中心に、図2に拡大して示すように、回転軸7が延びる方向一平端面、すなわち、その歯幅方向一平端面6aから他の平端面6a’に向かって、貫通する貫通穴6bが形成され、この貫通穴6bに固定シャフト7が貫挿される。
【0033】
このアイドラギヤ6には、ここでは、その歯幅方向両平端面に、その貫通穴6bを巡るようにして、言い換えると、固定シャフト7を包囲するようにして、潤滑油充填空間としての環状凹処6cが形成されている。この環状凹処6cは環状底壁6dと小径側内周壁6eと小径側外周壁6fとによって構成される。
【0034】
そのアイドラギヤ6の幅方向両平端面部には、その小径側外周壁6fからアイドラギヤ6の歯6g、6g間の歯底面6hに向かって延びる潤滑油供給通路としてのスリット形状溝10が放射状に形成されている。歯底面6hと環状凹処6cとはそのスリット形状溝10によって連通されている。ここでは、そのスリット形状溝10は、そのアイドラギヤ6の全歯底面6hの歯幅方向両端部分に開口している。
【0035】
その環状凹処6cには、粘性を有するグリース等の潤滑剤が充填される。この潤滑剤が充填されたアイドラギヤ6をそのまま放置して時間が経過すると、グリース等の潤滑剤から分離した液状の潤滑油が毛細管現象によりスリット形状溝10を伝わって、アイドラギヤ6の歯底面6hにまで到達する。
【0036】
駆動装置のモータ2が回転駆動されると、その回転がアイドラギヤ6に伝達され、図3に拡大して示すように、例えば、アイドラギヤ6が矢印R方向に回転される。
【0037】
アイドラギヤ6の回転に基づき発生する遠心力が、矢印A方向に作用するので、すなわち、半径方向内方から半径方向外方に向かう放射状の方向に作用するので、アイドラギヤ6の各歯底面6hの歯幅方向両端部分の開口10aにまで到達していた潤滑油は、図3に示すアイドラギヤ6の回転方向先方の歯6g(6g’)とアイドラギヤ6の回転方向後方の歯6g(6g”)の間の歯底面6hに開口しているスリット形状溝10の開口10aから飛び出して歯6g’、6g”の各歯面6i(6i’)、6i(6i”)に拡散する。
【0038】
アイドラギヤ6の回転速度が十分に速い場合、その潤滑油は、そのアイドラギヤ6の回転方向がここではR方向であるので、出力ギヤ9の歯9gに回転を伝達する回転方向後方側のアイドラギヤ6の歯6g”の歯面6i”に向かう方向に飛散する。従って、出力ギヤ9の歯9gの歯面9g’に係合する歯面9i”の方向に拡散するので、歯6gと歯9gとの摺動面の磨耗低減に有効に作用する。
【0039】
この実施例では、アイドラギヤ6の歯幅方向両平端面に環状凹処6cを形成し、スリット形状溝10を歯幅方向両平端面に形成することにしたが、これに限られるものではなく、アイドラギヤ6の歯幅方向片方の平端面に環状凹処6cを形成し、スリット形状溝10をその歯幅方向片方の平端面に形成する構成としても良い。
【0040】
なお、アイドラギヤ6の歯幅方向片方の平端面(一平端面)に環状凹処6cを形成し、スリット形状溝10をその歯幅方向片方の平端面に形成する構成に較べて、歯幅方向両平端面に形成したものでは、潤滑油供給効果が倍増する。
【0041】
この実施例では、アイドラギヤ6に環状凹処6cとスリット形状溝10とを設ける構成として説明したが、歯を有する他の回転伝達ギヤにも適用可能である。
【0042】
この実施例によれば、合成樹脂製ギヤを成形する際に、同時に、環状凹処(潤滑油充填空間)6c、スリット形状溝10を形成できるので、回転伝達ギヤに充填されている潤滑油を、毛細管現象と回転による遠心力とを利用して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散させることができることになり、潤滑油を低コストでかつ簡単な構造で互いに噛み合う歯に安定してかつ持続して供給できる。従って、大量生産可能なギヤードモータ等において、長期間メンテナンスが不要の安価な駆動装置製品を提供できる。
(実施例2)
アイドラギヤ6の環状凹処6cに充填する潤滑剤は、駆動装置の回転駆動の際や、重力の作用により環状凹処6cからはみ出すことがないように、適度な粘性が必要である。
【0043】
ここで、一般的に、流体である潤滑油は、増ちょう剤としてカルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸をほぼ均一に拡散混合することにより、所望の粘度を得ることができる。
【0044】
また、潤滑剤の粘度が駆動装置の駆動の際に支障を生じることがない程度に十分あり、かつ、スリット形状溝10の溝幅が1mm以下と狭い場合、分離した潤滑油のみが毛細管現象で歯底面6hまで移送され、増ちょう剤がスリット形状溝10に進入して、潤滑油の移送が妨げられることはない。
【0045】
この駆動装置では、粘性を有する潤滑油含有物質として、カルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸を増ちょう剤として液状潤滑油をほぼ均一に拡散混合されたグリースを充填しているため、重力や回転による遠心力により移動することがなく、かつ、離油した潤滑油が毛細管現象により、歯底面6hに供給されるので、長期間にわたって安定して、潤滑油が摺動面に供給される。
(実施例3)
図4は本発明に係る駆動装置に用いるアイドラギヤ6の第2の例を示す斜視図である。アイドラギヤ6には、貫通穴6bと同軸の扇形状貫通穴11a〜11dが、その歯幅方向一平端面6aから他の平端面6a’に向かって形成されている。このアイドラギヤ6は、その扇形状貫通穴11a〜11dによって、固定シャフト7が挿通される貫通穴6bを有する内周体12と歯6gが外周面に形成された外周体13とに分割され、その内周体12と外周体13とは半径方向に延びる四個の連結部12a〜12dによって連結されている。
【0046】
その内周体12の外周壁12eには、その歯幅方向両平端面部であって各扇形状貫通穴11a〜11dに臨む部分に半径方向外方に向かって突出する抜け止め片部が12fが複数個形成されている。
【0047】
その歯幅方向両平端面部には、外周壁12eから各歯6gの歯底面6hに向かって放射状に延びるスリット形状溝10が形成されている。
【0048】
その外周体13の内周壁13eには、その歯幅方向両平端面部であって各扇形状貫通穴11a〜11dに臨む部分に半径方向内方に向かって突出する抜け止め片部13fが複数個形成されている。
【0049】
その各扇形状貫通穴11a〜11dには、潤滑油含有物質としての潤滑油保持部材が配置されるもので、この潤滑油保持部材として潤滑油を染み込ませた状態のスポンジや綿などが挿入され、そのスポンジや綿など抜け止め片部12f、13fにより外部にはみ出さないように設置されている。
【0050】
そのスポンジ又は綿等には十分に潤滑油を染みこませ、かつ扇形状貫通穴11a〜11dを概略塞ぐ程度の大きさとすることによって、扇形状貫通穴11a〜11dから放射状に延びるスリット形状溝10から、スポンジ又は綿から離油した潤滑油のみが毛細管現象により歯底面6hに供給される。
【0051】
この駆動装置では、潤滑油をスポンジや綿に染み込ませた状態で所定の箇所に配置するため、高温環境下でもスポンジや綿は変形、変質しにくいので、安定して潤滑油を互いに噛み合う歯の摺動面に供給することができる。
(実施例4)
図5は本発明に係る駆動装置のアイドラギヤ6の第3の例を示す部分拡大図であって、図2に示すアイドラギヤ6の変形例を示している。
【0052】
この実施例4では、歯幅方向の歯底面6hのその歯幅方向両端面の部分に、概略円錐形状凹処6jが形成され、スリット形状溝10はその円錐形状凹処6jに開口する開口10aを有する。
【0053】
この実施例4では、環状凹処6cに充填されている潤滑剤から離油してスリット形状溝10に沿って半径方向外方に向かって供給された潤滑油が、その円錐形状凹処6jに達すると、その潤滑油自体の表面張力により球状になる。
【0054】
従って、駆動装置が停止した状態では、供給された潤滑油が円錐形状凹処6jにおいて球状になるまで成長する。そして、駆動装置が駆動されて、アイドラギヤ6が回転すると、その円錐形状凹処6jに溜まっていた潤滑油が、遠心力により歯面6iに拡散される。
【0055】
これにより、駆動装置が停止している間に一定量の潤滑油を歯底面6hの歯幅方向両端部分に溜めておくことができ、駆動装置が駆動された際に、その歯6gの互いに噛み合う歯面(摺動面)6iに十分に供給することができる。
【0056】
この駆動装置では、放射状に延びたスリット形状溝の歯底面6hに開口する部分に略円錐形状凹処6jを形成したので、毛細管現象により歯底面6hに供給される潤滑油の一定量を、駆動装置が停止している間に、円錐形状凹処6jに溜めておくことができ、摺動面に十分に供給することができる。
(実施例5)
図6は本発明に係る駆動装置のアイドラギヤ6の第3の例を示す説明図であって、図2に示すアイドラギヤ6の変形例を示している。
【0057】
この実施例5では、歯幅方向一平端面部6aに、その扇形状凹処11a’が貫通穴6bを取り巻くようにして形成されている。各扇形状凹処11a’は放射状に延びる連結部12a’によって仕切られている。
【0058】
その各扇形状凹処11a’には、潤滑剤が充填されている。その幅方向一平端面6aには円盤状のフィルム状樹脂板22がこの幅方向一平端面部6aに密着して貼り付けられている。このフィルム状樹脂板22はその外周縁22aが歯底面6hに近接している。
【0059】
潤滑剤が各扇形状凹処11a’に充填されたアイドラギヤ6をそのまま放置して時間が経過すると、その潤滑剤が毛細管現象によりフィルム状樹脂板22の内面全体に広がり、潤滑剤が扇形状凹処11a’に外気と遮断した状態で密閉される。
【0060】
図7に部分的に歯6gの部分を拡大して示すように、各歯底面6hにはその歯幅方向端部に連通凹部6h’が形成されている。
【0061】
この連通凹部6h’は歯幅方向一平端面6aに向かって開口されており、フィルム状樹脂板22の外周縁22aがその連通凹部6h’の開口6h”を塞いでいる。
【0062】
従って、各扇形状凹処11a’に充填されていた潤滑剤から分離した潤滑油がその表面張力により連通凹部6h’に溜まる。
【0063】
駆動装置が駆動されると、アイドラギヤ6が回転され、その際に、連通凹部6h’に溜まっていた潤滑油が遠心力により歯面6iに飛散される。
【0064】
このアイドラギヤ6によれば、潤滑油含有物質を充填するための扇形状潤滑油充填空間が固定シャフト7を包囲するようにして形成され、この扇形状潤滑油充填空間に潤滑油含有物質が充填され、この一平端面6aにその扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板22が密着され、そのフィルム状樹脂板22の外周縁22aと歯6gの歯底面6hとの間を連通する連通凹部6h’が放射状に形成されているので、歯底面6hへの毛細管現象による潤滑油の供給路の面積を広くすることができ、スリット形状溝10よりも効率よく潤滑油を十分な量の潤滑油を、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
【0065】
また、潤滑剤がフィルム状樹脂板22により密閉状態とされて、外気により遮断されるため、長期間に放置していても、潤滑油含有物質の品質劣化を防止でき、長期間にわたってメンテナンスフリー状態を保つことが可能である。
【0066】
更に、スリット形状溝10を一平端面に形成する必要もないので、回転伝達ギヤの強度低下を防止できる。
(実施例6)
図8ないし図10は、実施例5のアイドラギヤ6の別の例を説明するための説明図であって、図9は図8の歯6gの部分を拡大して示す部分拡大図であって、図10は図9のX−X線に沿う断面図である。
【0067】
その図8ないし図10において、図6に示す連通凹部6h’と同一の連通凹部には同一符号を付する。
【0068】
歯幅方向一平端面6aには連通凹部6h’を周回り方向に連結する環状連結溝10bが形成されている。
【0069】
この環状連結溝10bには、フィルム状樹脂板22の外周縁22aが一部重なるようにして臨んでいる。
【0070】
潤滑剤が各扇形状凹処11a’に充填されたアイドラギヤ6をそのまま放置して時間が経過すると、その潤滑剤から分離した潤滑油が毛細管現象によりフィルム状樹脂板22の内面全体に広がり、潤滑油が環状連結溝10bにその表面張力により球状になるようにして溜まる。
【0071】
従って、駆動装置が駆動されると、アイドラギヤ6が回転され、その際に環状連結溝10bに溜まっていた潤滑油が、遠心力により、連通凹部6h’に沿って歯面6iに拡散される。
(実施例7)
図11、図12は図6に示すアイドラギヤ6の別の例を説明するための説明図であって、図11、図12に示すように、幅方向一平端面6aには、適宜箇所に位置決め部材としてのボス部23が形成され、フィルム状樹脂板22には図12に拡大して示すようにボス部23に嵌合する嵌合穴24が形成され、フィルム状樹脂板22はそのボス部23と嵌合穴24とによって、アイドラギヤ6の歯幅方向一平端面6aに位置決め固定される。
【0072】
フィルム状樹脂板22を一平端面6aに潤滑油脂の密着により貼り付けているが、回転伝達ギヤが高速回転したり、起動停止直後の回転慣性力により、その密着力よりも大きな力がフィルム状樹脂板22に加わると、フィルム状樹脂板22が一平端面6aから剥離するおそれがあり、フィルム状樹脂板22に付着している潤滑油脂が剥離部分から飛散することも懸念されるが、この実施例によれば、一平端面6aに、フィルム状樹脂板22を位置決めするための位置決め部材が形成されているので、回転伝達ギヤが高速回転による大きな遠心力や 急激な起動停止による慣性力が発生したとしても、回転伝達ギヤとフィルム状樹脂板22とが一体的に回転又は回転停止することになり、フィルム状樹脂板22の一平端面6aからの剥離を防止できる。
(実施例8)
図13は段付きギヤに本発明を適用した例を示す説明図であって、この図13において、符号は二段ギヤを示している。この二段ギヤは、大径歯車26と小径歯車27とから構成されている。
【0073】
大径歯車26の歯幅方向一平端面部6aには、図6に示すアイドラギヤ6の扇形状凹処11a’とフィルム状樹脂板22と連通凹部6h’とに対応する扇形状凹処11a’とフィルム状樹脂板22と連通凹部6h’とが設けられ、小径歯車27には図2に示す環状凹処6c、スリット形状溝10が設けられ、大径歯車26、小径歯車27は共に図2、図6と同等の作用を果たす。
【符号の説明】
【0074】
2…モータ
6g…歯
6a…一平端面
6c…環状凹処
6h…歯底面
7…固定シャフト
8…出力軸
10…スリット形状溝
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】
【特許文献1】特開2004-225732号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、OA機器、自動車等に組み込まれるギヤードモータ等の歯車装置(駆動装置)に潤滑油脂を充填するメンテナンスフリー技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ギヤードモータ等の歯車装置(駆動装置)に潤滑油脂を充填する技術として、金属歯車に潤滑油脂の充填空間を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この特許文献1に開示のものは、金属歯車に潤滑油脂を充填する場合に限られており、かつ潤滑油脂の充填空間が閉鎖空間となっている。また、潤滑油の供給には、毛細管現象が利用され、その通路は、穴形状で、その歯車に機械加工により形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、OA機器、自動車等に組み込まれる駆動装置としてのギヤードモータは、大量生産されるため、内蔵歯車部品は、ポリアセタール、ポリアミド等の合成樹脂による金型成形部品であり、一般に、合成樹脂製歯車は、金属よりも摩擦係数が高く、硬度、強度が低いために削れ易く、また、摩擦発熱により軟化、溶解するため、耐摩耗性が低い。
【0005】
従って、耐久性を向上させるために、駆動部品同士が接触、摺動する歯部分に、潤滑剤を塗布することが望ましいのであるが、初期に大量の潤滑剤を歯部分に塗布しても、駆動部品の回転により遠心力で飛散したり、接触面の擦れにより弾かれてしまったり、更には、歯の接触、摺動により合成樹脂が磨耗する際に、粉状となって潤滑剤を吸収して一緒に飛散してしまうため、長期にわたり塗布状態を維持することが困難である。
【0006】
一方、潤滑油の供給機構を別途設けて搭載することは、コスト面で不利である。
【0007】
このため、大量生産されるギヤードモータについては、コスト面から潤滑油の追加塗布等のメンテナンスは実施しないことが前提となっている製品が多く、低コストで長期に安定して潤滑剤を供給する技術の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、大量生産可能な合成樹脂製歯車を使用する場合であっても、潤滑油を低コストでかつ簡単な構造で供給可能な回転伝達ギヤ及び駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の回転伝達ギヤは、回転駆動源と、被駆動装置に接続されかつ前記回転駆動源の回転による駆動を前記被駆動装置に伝達する出力部と、前記回転駆動源と前記出力部の間に存在しかつ回転軸を中心にして回転されしかも外周に歯を有する合成樹脂製ギヤからなり、前記回転軸が延びる方向少なくとも一平端面に、潤滑油含有物質を充填するための潤滑油充填空間が前記回転軸を包囲するようにして形成され、潤滑油を前記潤滑油充填空間から前記歯に向かって供給する潤滑油通路としてのスリット形状溝が前記潤滑油充填空間から前記歯の歯底面に向かって放射状に延びるようにして形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の回転伝達ギヤは、前記潤滑油含有物質が、カルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸を増ちょう剤として液状潤滑油がほぼ均一に拡散混合されたものからなることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の回転伝達ギヤは、前記潤滑油含有物質が、前記潤滑油が含浸された多孔性の潤滑油保持部材からなり、前記一平坦面に前記潤滑油保持部材が前記潤滑油充填空間から脱落するのを防止する抜け止め片部が半径方向内方に向かって複数個突出形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の回転伝達ギヤは、前記歯底面には前記スリット形状溝が開口する開口部に円錐形状の凹処が形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の回転伝達ギヤは、回転駆動源と、被駆動装置に接続されかつ前記回転駆動源の回転による駆動を前記被駆動装置に伝達する出力部と、前記回転駆動源と前記出力部の間に存在しかつ回転軸を中心にして回転されしかも外周に歯を有する合成樹脂製ギヤからなり、前記回転軸が延びる方向少なくとも一平端面に、潤滑油含有物質を充填するための扇形状潤滑油充填空間が前記回転軸を包囲するようにして形成され、前記扇形状潤滑油充填空間に潤滑油含有物質が充填され、前記一平端面に前記扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板が密着され、該フィルム状樹脂板の外縁と歯の歯底面との間を連通する連通凹部が放射状に形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の回転伝達ギヤは、前記一平端面に前記連通凹部を互いに連結する環状連結溝が前記フィルム状樹脂板の外縁に沿って設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の回転伝達ギヤは、前記一平端面に、前記フィルム状樹脂板を位置決めするための位置決め部材が形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の駆動装置は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項の回転伝達ギヤを備えている。
【0017】
請求項9に記載の駆動装置は、請求項1ないし請求項4に記載のうちの回転伝達ギヤの少なくとも一つと、請求項5ないし請求項7に記載のうちの回転伝達ギヤの少なくとも一つとを組み合わせた二段ギヤからなる回転伝達ギヤを備えている。
【発明の効果】
【0018】
(請求項1、8の効果)
請求項1に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置は、合成樹脂製ギヤを成形する際に、同時に、潤滑油充填空間、スリット形状溝を形成できるので、回転伝達ギヤに充填されている潤滑油を、毛細管現象と回転による遠心力とを利用して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散させることができることになり、潤滑油を低コストでかつ簡単な構造で互いに噛み合う歯に安定してかつ持続して供給できるという効果を奏する。
【0019】
従って、大量生産可能なギヤードモータ等において、長期間メンテナンスが不要の安価な駆動装置製品を提供できる。
(請求項2、8の効果)
潤滑剤は、液状のままでは流動性を有し、重力の作用や歯車の回転駆動による遠心力の作用等により、一定箇所に滞留させておくのが難しく、潤滑油通路としてのスリット形状溝を流れる潤滑油の流量を制御することは一般には困難であるが、この請求項2に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、カルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸を増ちょう剤として液状潤滑油が概略均一に拡散混合されたグリースが充填されているので、重力の作用や遠心力の作用によって潤滑油それ自体が一度に多量にスリット形状溝を流れるという変動を防止でき、かつ、離油した潤滑油が毛細管現象により、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散することになるので、より一層長期間にわたって互いに噛み合う歯に安定して供給できる。
(請求項3、8の効果)
一般的に、グリース等の潤滑剤は、高温環境条件のもとでは粘度が低下する傾向にあり、高温環境条件のもとでも安定した潤滑油の供給を実現するためには、潤滑剤に所望の粘性が必要となるので、耐熱性グリース等の潤滑油を採用するものとすると、コスト高となるという問題が生じるが、請求項3に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、潤滑油含侵物質を多孔性の潤滑油保持部材としての例えばスポンジや綿に染み込ませたものにより形成し、この多孔性の潤滑油保持部材を潤滑油充填空間に配設して、一平端面に形成された抜け止め片部により潤滑油充填空間から潤滑油保持部材が脱落するのを防止する構成としたので、高温環境条件のもとでも、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
(請求項4、8の効果)
潤滑油通路としてのスリット形状溝の溝幅が狭いと、例えば、1mm以下の場合、潤滑油充填空間からスリット形状溝を通って歯底面に連続的に供給される潤滑油の量が少なくなり、回転伝達ギヤの回転による遠心力により歯面に拡散される拡散量が微量となるが、請求項4に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、スリット形状溝が開口する歯底面の開口部に円錐形状の凹処が形成されているので、駆動装置の停止中に、スリット形状溝を伝わって毛細管現象により潤滑油が円錐形状の凹処に供給され、一定量の潤滑油脂をこの円錐形状の凹処に滞留させておくことができることになり、このため、駆動装置の駆動開始による回転伝達ギヤの回転開始の際に、円錐形状の凹処に貯留されている潤滑油を一度に歯面に飛散させることができることになり、十分な量の潤滑油を、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
【0020】
一般に、ギヤードモータ等の駆動装置は間欠駆動であるので、停止している際に潤滑油を一定量溜めておけるので、この請求項4に記載の回転伝達ギヤを用いるのがより好ましい。
(請求項5、8の効果)
潤滑油の供給量は、回転伝達ギヤの回転時間や回転速度、スリット形状溝の本数や溝幅、溝の深さの影響を受けるため、その供給量を増やすためにスリット形状溝の本数を増やしたり、溝幅、溝の深さを大くくすると、回転伝達ギヤの歯の強度が低下することになり、また、一般的に、潤滑油は長期間にわたって空気に触れていると酸化し、また、潤滑油脂の成分が蒸発して潤滑油脂の品質が劣化するが、請求項5の回転伝達ギヤ、請求項8の駆動装置によれば、潤滑油含有物質を充填するための扇形状潤滑油充填空間が回転軸を包囲するようにして形成され、この扇形状潤滑油充填空間に潤滑油含有物質が充填され、この一平端面にその扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板が密着され、そのフィルム状樹脂板の外縁と歯の歯底面との間を連通する連通凹部が放射状に形成されているので、歯底面への毛細管現象による潤滑油の供給路の面積を広くすることができ、スリット形状溝よりも効率よく十分な量の潤滑油を、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
【0021】
また、潤滑剤がフィルム状樹脂板により密閉状態とされて、外気により遮断されるため、長期間にわたって放置していても、潤滑油含有物質の品質劣化を防止でき、長期間にわたってメンテナンスフリー状態を保つことが可能である。
【0022】
更に、スリット形状溝を一端面に形成する必要もないので、回転伝達ギヤの強度の低下を防止できる。
(請求項6、8の効果)
扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板と一平端面との間の隙間が小さいと、毛細管現象により潤滑油充填空間から隙間を通って連通凹部を介して歯底面に連続的に供給される潤滑油の量が少なくなり、回転伝達ギヤの回転による遠心力により歯面に拡散される拡散量が潤滑油の表面張力の作用により微量となるが、請求項6に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、一平端面に連通凹部を互いに連結する環状連結溝がフィルム状樹脂板の外縁に沿って設けられているので、駆動装置の停止中に、一平端面とフィルム状樹脂板との間の隙間を通ってフィルム状樹脂板の外縁に毛細管現象により供給される潤滑油がその環状連結溝に貯留されることになり、このため、駆動装置の駆動開始による回転伝達ギヤの回転開始の際に、環状連結溝に貯留されている潤滑油が連通凹部を介して歯面に飛散されることになり、十分な量の潤滑油を、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
【0023】
一般に、ギヤードモータ等の駆動装置は間欠駆動であるので、停止している際に潤滑油を一定量溜めておけるので、この請求項6に記載の回転伝達ギヤを用いるのがより好ましい。
(請求項7、8の効果)
請求項5、請求項6に記載の回転伝達ギヤでは、フィルム状樹脂板を一平端面に潤滑油脂の密着により貼り付けているが、回転伝達ギヤが高速回転したり、起動停止直後の回転慣性力により、その密着力よりも大きな力がフィルム状樹脂板に加わると、フィルム状樹脂板が一平端面から剥離するおそれがあり、フィルム状樹脂板に付着している潤滑油脂が剥離部分から飛散することも懸念されるが、請求項7に記載の回転伝達ギヤ、請求項8に記載の駆動装置によれば、一平端面に、フィルム状樹脂板を位置決めするための位置決め部材が形成されているので、回転伝達ギヤの高速回転による大きな遠心力や急激な起動停止による慣性力が発生したとしても、回転伝達ギヤとフィルム状樹脂板とが一体的に回転又は回転停止することになり、フィルム状樹脂板の一平端面からの剥離を防止できる。
(請求項9の効果)
請求項1ないし請求項4に記載の回転伝達ギヤと請求項5ないし請求項7に記載の回転伝達ギヤとの組み合わせからなる二段ギヤを用いれば、駆動部品の形状や大きさ、加工材料等に対応させて、効率よく潤滑油を供給できる伝達歯車を備えた駆動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る回転伝達ギヤが適用される駆動装置の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1に係る回転伝達ギヤの外観構成を示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す回転伝達ギヤの歯部分の部分拡大図である。
【図4】図4は、本発明の実施例3に係る回転伝達ギヤの外観構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、本発明の実施例4に係る回転伝達ギヤの外観構成を示す部分拡大斜視図である。
【図6】図6は、本発明の実施例5に係る回転伝達ギヤの外観構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、図6に示す回転伝達ギヤの外観構成を示す部分拡大斜視図である。
【図8】図8は実施例6の回転伝達ギヤの外観構成を示す斜視図である。
【図9】図9は図8の回転伝達ギヤの歯の部分を拡大して示す部分拡大図である。
【図10】図10は図9のX−X線に沿う断面図である。
【図11】図11は図6に示す回転伝達ギヤの別の例を説明するための説明図であって、一端面に位置決め部材を設けた例を示す外観図である。
【図12】図12は図11に示す回転伝達ギヤの歯部分の拡大図である。
【図13】図13は二段歯車からなる回転伝達ギヤの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0025】
以下に、本発明に係る回転伝達ギヤ及びこの回転伝達ギヤを用いた駆動装置の実施例を図面を参照しつつ説明する。
(実施例1)
図1は、本発明に係る駆動装置(歯車装置)の駆動機構を示す斜視図である。この図1において、符号1は箱型形状のケースである。ケース1には、回転駆動源としてのモータ2、歯車列3’が内装されている。
【0026】
モータ2には、そのシャフト(図示を略す)にウォームギヤ3が装着されている。歯車列3’は、回転伝達ギヤとしてのウォームホイール4、アイドラギヤ6、出力ギヤ9から構成されている。
【0027】
ウォームホイール4は、回転軸としての固定シャフト5を中心にして自由に回転可能とされている。このウォームホイール4はこれと一体でかつ固定シャフト5と同軸に平歯ギヤ4’が形成された段付き歯車から構成されている。
【0028】
アイドラギヤ6は平歯ギヤから構成され、回転軸としての固定シャフト7を中心にして自由に回転可能に支承されている。出力ギヤ9も平歯ギヤから構成され、出力部としての出力シャフト(出力軸)8を中心にして自由に回転可能に支承されている。
【0029】
固定シャフト5、7、出力シャフト8は、ケース1に互いに平行に配置されかつ固定シャフト5、7はケース1に固定されている。その出力シャフト8はケース1の外部に突出されている。その出力シャフト8は被駆動装置(図示を略す)にモータ2の駆動を伝達する役割を果たす。
【0030】
ウォームギヤ3はウォームホイール4に噛合され、ウォームホイール4と一体の平歯ギヤ4’はアイドラギヤ6に噛合され、アイドラギヤ6は出力ギヤ9に噛合されている。
【0031】
モータ2が回転駆動されると、ウォームギヤ3の回転がウォームホイール4に伝達され、このウォームホイール4と一体の平歯ギヤ4’の回転がアイドラギヤ6に伝達され、このアイドラギヤ6の回転が出力ギヤ9に伝達されるため、任意の減速比で、モータ2の回転速度が出力軸8を介して被駆動装置(図示を略す)に伝達される。
【0032】
アイドラギヤ6は、その中心に、図2に拡大して示すように、回転軸7が延びる方向一平端面、すなわち、その歯幅方向一平端面6aから他の平端面6a’に向かって、貫通する貫通穴6bが形成され、この貫通穴6bに固定シャフト7が貫挿される。
【0033】
このアイドラギヤ6には、ここでは、その歯幅方向両平端面に、その貫通穴6bを巡るようにして、言い換えると、固定シャフト7を包囲するようにして、潤滑油充填空間としての環状凹処6cが形成されている。この環状凹処6cは環状底壁6dと小径側内周壁6eと小径側外周壁6fとによって構成される。
【0034】
そのアイドラギヤ6の幅方向両平端面部には、その小径側外周壁6fからアイドラギヤ6の歯6g、6g間の歯底面6hに向かって延びる潤滑油供給通路としてのスリット形状溝10が放射状に形成されている。歯底面6hと環状凹処6cとはそのスリット形状溝10によって連通されている。ここでは、そのスリット形状溝10は、そのアイドラギヤ6の全歯底面6hの歯幅方向両端部分に開口している。
【0035】
その環状凹処6cには、粘性を有するグリース等の潤滑剤が充填される。この潤滑剤が充填されたアイドラギヤ6をそのまま放置して時間が経過すると、グリース等の潤滑剤から分離した液状の潤滑油が毛細管現象によりスリット形状溝10を伝わって、アイドラギヤ6の歯底面6hにまで到達する。
【0036】
駆動装置のモータ2が回転駆動されると、その回転がアイドラギヤ6に伝達され、図3に拡大して示すように、例えば、アイドラギヤ6が矢印R方向に回転される。
【0037】
アイドラギヤ6の回転に基づき発生する遠心力が、矢印A方向に作用するので、すなわち、半径方向内方から半径方向外方に向かう放射状の方向に作用するので、アイドラギヤ6の各歯底面6hの歯幅方向両端部分の開口10aにまで到達していた潤滑油は、図3に示すアイドラギヤ6の回転方向先方の歯6g(6g’)とアイドラギヤ6の回転方向後方の歯6g(6g”)の間の歯底面6hに開口しているスリット形状溝10の開口10aから飛び出して歯6g’、6g”の各歯面6i(6i’)、6i(6i”)に拡散する。
【0038】
アイドラギヤ6の回転速度が十分に速い場合、その潤滑油は、そのアイドラギヤ6の回転方向がここではR方向であるので、出力ギヤ9の歯9gに回転を伝達する回転方向後方側のアイドラギヤ6の歯6g”の歯面6i”に向かう方向に飛散する。従って、出力ギヤ9の歯9gの歯面9g’に係合する歯面9i”の方向に拡散するので、歯6gと歯9gとの摺動面の磨耗低減に有効に作用する。
【0039】
この実施例では、アイドラギヤ6の歯幅方向両平端面に環状凹処6cを形成し、スリット形状溝10を歯幅方向両平端面に形成することにしたが、これに限られるものではなく、アイドラギヤ6の歯幅方向片方の平端面に環状凹処6cを形成し、スリット形状溝10をその歯幅方向片方の平端面に形成する構成としても良い。
【0040】
なお、アイドラギヤ6の歯幅方向片方の平端面(一平端面)に環状凹処6cを形成し、スリット形状溝10をその歯幅方向片方の平端面に形成する構成に較べて、歯幅方向両平端面に形成したものでは、潤滑油供給効果が倍増する。
【0041】
この実施例では、アイドラギヤ6に環状凹処6cとスリット形状溝10とを設ける構成として説明したが、歯を有する他の回転伝達ギヤにも適用可能である。
【0042】
この実施例によれば、合成樹脂製ギヤを成形する際に、同時に、環状凹処(潤滑油充填空間)6c、スリット形状溝10を形成できるので、回転伝達ギヤに充填されている潤滑油を、毛細管現象と回転による遠心力とを利用して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散させることができることになり、潤滑油を低コストでかつ簡単な構造で互いに噛み合う歯に安定してかつ持続して供給できる。従って、大量生産可能なギヤードモータ等において、長期間メンテナンスが不要の安価な駆動装置製品を提供できる。
(実施例2)
アイドラギヤ6の環状凹処6cに充填する潤滑剤は、駆動装置の回転駆動の際や、重力の作用により環状凹処6cからはみ出すことがないように、適度な粘性が必要である。
【0043】
ここで、一般的に、流体である潤滑油は、増ちょう剤としてカルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸をほぼ均一に拡散混合することにより、所望の粘度を得ることができる。
【0044】
また、潤滑剤の粘度が駆動装置の駆動の際に支障を生じることがない程度に十分あり、かつ、スリット形状溝10の溝幅が1mm以下と狭い場合、分離した潤滑油のみが毛細管現象で歯底面6hまで移送され、増ちょう剤がスリット形状溝10に進入して、潤滑油の移送が妨げられることはない。
【0045】
この駆動装置では、粘性を有する潤滑油含有物質として、カルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸を増ちょう剤として液状潤滑油をほぼ均一に拡散混合されたグリースを充填しているため、重力や回転による遠心力により移動することがなく、かつ、離油した潤滑油が毛細管現象により、歯底面6hに供給されるので、長期間にわたって安定して、潤滑油が摺動面に供給される。
(実施例3)
図4は本発明に係る駆動装置に用いるアイドラギヤ6の第2の例を示す斜視図である。アイドラギヤ6には、貫通穴6bと同軸の扇形状貫通穴11a〜11dが、その歯幅方向一平端面6aから他の平端面6a’に向かって形成されている。このアイドラギヤ6は、その扇形状貫通穴11a〜11dによって、固定シャフト7が挿通される貫通穴6bを有する内周体12と歯6gが外周面に形成された外周体13とに分割され、その内周体12と外周体13とは半径方向に延びる四個の連結部12a〜12dによって連結されている。
【0046】
その内周体12の外周壁12eには、その歯幅方向両平端面部であって各扇形状貫通穴11a〜11dに臨む部分に半径方向外方に向かって突出する抜け止め片部が12fが複数個形成されている。
【0047】
その歯幅方向両平端面部には、外周壁12eから各歯6gの歯底面6hに向かって放射状に延びるスリット形状溝10が形成されている。
【0048】
その外周体13の内周壁13eには、その歯幅方向両平端面部であって各扇形状貫通穴11a〜11dに臨む部分に半径方向内方に向かって突出する抜け止め片部13fが複数個形成されている。
【0049】
その各扇形状貫通穴11a〜11dには、潤滑油含有物質としての潤滑油保持部材が配置されるもので、この潤滑油保持部材として潤滑油を染み込ませた状態のスポンジや綿などが挿入され、そのスポンジや綿など抜け止め片部12f、13fにより外部にはみ出さないように設置されている。
【0050】
そのスポンジ又は綿等には十分に潤滑油を染みこませ、かつ扇形状貫通穴11a〜11dを概略塞ぐ程度の大きさとすることによって、扇形状貫通穴11a〜11dから放射状に延びるスリット形状溝10から、スポンジ又は綿から離油した潤滑油のみが毛細管現象により歯底面6hに供給される。
【0051】
この駆動装置では、潤滑油をスポンジや綿に染み込ませた状態で所定の箇所に配置するため、高温環境下でもスポンジや綿は変形、変質しにくいので、安定して潤滑油を互いに噛み合う歯の摺動面に供給することができる。
(実施例4)
図5は本発明に係る駆動装置のアイドラギヤ6の第3の例を示す部分拡大図であって、図2に示すアイドラギヤ6の変形例を示している。
【0052】
この実施例4では、歯幅方向の歯底面6hのその歯幅方向両端面の部分に、概略円錐形状凹処6jが形成され、スリット形状溝10はその円錐形状凹処6jに開口する開口10aを有する。
【0053】
この実施例4では、環状凹処6cに充填されている潤滑剤から離油してスリット形状溝10に沿って半径方向外方に向かって供給された潤滑油が、その円錐形状凹処6jに達すると、その潤滑油自体の表面張力により球状になる。
【0054】
従って、駆動装置が停止した状態では、供給された潤滑油が円錐形状凹処6jにおいて球状になるまで成長する。そして、駆動装置が駆動されて、アイドラギヤ6が回転すると、その円錐形状凹処6jに溜まっていた潤滑油が、遠心力により歯面6iに拡散される。
【0055】
これにより、駆動装置が停止している間に一定量の潤滑油を歯底面6hの歯幅方向両端部分に溜めておくことができ、駆動装置が駆動された際に、その歯6gの互いに噛み合う歯面(摺動面)6iに十分に供給することができる。
【0056】
この駆動装置では、放射状に延びたスリット形状溝の歯底面6hに開口する部分に略円錐形状凹処6jを形成したので、毛細管現象により歯底面6hに供給される潤滑油の一定量を、駆動装置が停止している間に、円錐形状凹処6jに溜めておくことができ、摺動面に十分に供給することができる。
(実施例5)
図6は本発明に係る駆動装置のアイドラギヤ6の第3の例を示す説明図であって、図2に示すアイドラギヤ6の変形例を示している。
【0057】
この実施例5では、歯幅方向一平端面部6aに、その扇形状凹処11a’が貫通穴6bを取り巻くようにして形成されている。各扇形状凹処11a’は放射状に延びる連結部12a’によって仕切られている。
【0058】
その各扇形状凹処11a’には、潤滑剤が充填されている。その幅方向一平端面6aには円盤状のフィルム状樹脂板22がこの幅方向一平端面部6aに密着して貼り付けられている。このフィルム状樹脂板22はその外周縁22aが歯底面6hに近接している。
【0059】
潤滑剤が各扇形状凹処11a’に充填されたアイドラギヤ6をそのまま放置して時間が経過すると、その潤滑剤が毛細管現象によりフィルム状樹脂板22の内面全体に広がり、潤滑剤が扇形状凹処11a’に外気と遮断した状態で密閉される。
【0060】
図7に部分的に歯6gの部分を拡大して示すように、各歯底面6hにはその歯幅方向端部に連通凹部6h’が形成されている。
【0061】
この連通凹部6h’は歯幅方向一平端面6aに向かって開口されており、フィルム状樹脂板22の外周縁22aがその連通凹部6h’の開口6h”を塞いでいる。
【0062】
従って、各扇形状凹処11a’に充填されていた潤滑剤から分離した潤滑油がその表面張力により連通凹部6h’に溜まる。
【0063】
駆動装置が駆動されると、アイドラギヤ6が回転され、その際に、連通凹部6h’に溜まっていた潤滑油が遠心力により歯面6iに飛散される。
【0064】
このアイドラギヤ6によれば、潤滑油含有物質を充填するための扇形状潤滑油充填空間が固定シャフト7を包囲するようにして形成され、この扇形状潤滑油充填空間に潤滑油含有物質が充填され、この一平端面6aにその扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板22が密着され、そのフィルム状樹脂板22の外周縁22aと歯6gの歯底面6hとの間を連通する連通凹部6h’が放射状に形成されているので、歯底面6hへの毛細管現象による潤滑油の供給路の面積を広くすることができ、スリット形状溝10よりも効率よく潤滑油を十分な量の潤滑油を、安定して、互いに噛み合う歯の摺動面に拡散供給できる。
【0065】
また、潤滑剤がフィルム状樹脂板22により密閉状態とされて、外気により遮断されるため、長期間に放置していても、潤滑油含有物質の品質劣化を防止でき、長期間にわたってメンテナンスフリー状態を保つことが可能である。
【0066】
更に、スリット形状溝10を一平端面に形成する必要もないので、回転伝達ギヤの強度低下を防止できる。
(実施例6)
図8ないし図10は、実施例5のアイドラギヤ6の別の例を説明するための説明図であって、図9は図8の歯6gの部分を拡大して示す部分拡大図であって、図10は図9のX−X線に沿う断面図である。
【0067】
その図8ないし図10において、図6に示す連通凹部6h’と同一の連通凹部には同一符号を付する。
【0068】
歯幅方向一平端面6aには連通凹部6h’を周回り方向に連結する環状連結溝10bが形成されている。
【0069】
この環状連結溝10bには、フィルム状樹脂板22の外周縁22aが一部重なるようにして臨んでいる。
【0070】
潤滑剤が各扇形状凹処11a’に充填されたアイドラギヤ6をそのまま放置して時間が経過すると、その潤滑剤から分離した潤滑油が毛細管現象によりフィルム状樹脂板22の内面全体に広がり、潤滑油が環状連結溝10bにその表面張力により球状になるようにして溜まる。
【0071】
従って、駆動装置が駆動されると、アイドラギヤ6が回転され、その際に環状連結溝10bに溜まっていた潤滑油が、遠心力により、連通凹部6h’に沿って歯面6iに拡散される。
(実施例7)
図11、図12は図6に示すアイドラギヤ6の別の例を説明するための説明図であって、図11、図12に示すように、幅方向一平端面6aには、適宜箇所に位置決め部材としてのボス部23が形成され、フィルム状樹脂板22には図12に拡大して示すようにボス部23に嵌合する嵌合穴24が形成され、フィルム状樹脂板22はそのボス部23と嵌合穴24とによって、アイドラギヤ6の歯幅方向一平端面6aに位置決め固定される。
【0072】
フィルム状樹脂板22を一平端面6aに潤滑油脂の密着により貼り付けているが、回転伝達ギヤが高速回転したり、起動停止直後の回転慣性力により、その密着力よりも大きな力がフィルム状樹脂板22に加わると、フィルム状樹脂板22が一平端面6aから剥離するおそれがあり、フィルム状樹脂板22に付着している潤滑油脂が剥離部分から飛散することも懸念されるが、この実施例によれば、一平端面6aに、フィルム状樹脂板22を位置決めするための位置決め部材が形成されているので、回転伝達ギヤが高速回転による大きな遠心力や 急激な起動停止による慣性力が発生したとしても、回転伝達ギヤとフィルム状樹脂板22とが一体的に回転又は回転停止することになり、フィルム状樹脂板22の一平端面6aからの剥離を防止できる。
(実施例8)
図13は段付きギヤに本発明を適用した例を示す説明図であって、この図13において、符号は二段ギヤを示している。この二段ギヤは、大径歯車26と小径歯車27とから構成されている。
【0073】
大径歯車26の歯幅方向一平端面部6aには、図6に示すアイドラギヤ6の扇形状凹処11a’とフィルム状樹脂板22と連通凹部6h’とに対応する扇形状凹処11a’とフィルム状樹脂板22と連通凹部6h’とが設けられ、小径歯車27には図2に示す環状凹処6c、スリット形状溝10が設けられ、大径歯車26、小径歯車27は共に図2、図6と同等の作用を果たす。
【符号の説明】
【0074】
2…モータ
6g…歯
6a…一平端面
6c…環状凹処
6h…歯底面
7…固定シャフト
8…出力軸
10…スリット形状溝
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】
【特許文献1】特開2004-225732号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源と、被駆動装置に接続されかつ前記回転駆動源の回転による駆動を前記被駆動装置に伝達する出力部と、前記回転駆動源と前記出力部の間に存在しかつ回転軸を中心にして回転されしかも外周に歯を有する合成樹脂製ギヤからなり、前記回転軸が延びる方向少なくとも一平端面に、潤滑油含有物質を充填するための潤滑油充填空間が前記回転軸を包囲するようにして形成され、潤滑油を前記潤滑油充填空間から前記歯に向かって供給する潤滑油通路としてのスリット形状溝が前記潤滑油充填空間から前記歯の歯底面に向かって放射状に延びるようにして形成されていることを特徴とする回転伝達ギヤ。
【請求項2】
前記潤滑油含有物質が、カルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸を増ちょう剤として液状潤滑油がほぼ均一に拡散混合されたものからなることを特徴とする請求項1に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項3】
前記潤滑油含有物質が、前記潤滑油が含浸された多孔性の潤滑油保持部材からなり、前記一平端面に前記潤滑油保持部材が前記潤滑油充填空間から脱落するのを防止する抜け止め片部が半径方向内方に向かって複数個突出形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項4】
前記歯底面には前記スリット形状溝が開口する開口部に円錐形状の凹処が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項5】
回転駆動源と、被駆動装置に接続されかつ前記回転駆動源の回転による駆動を前記被駆動装置に伝達する出力部と、前記回転駆動源と前記出力部の間に存在しかつ回転軸を中心にして回転されしかも外周に歯を有する合成樹脂製ギヤからなり、前記回転軸が延びる方向少なくとも一平端面に、潤滑油含有物質を充填するための扇形状潤滑油充填空間が前記回転軸を包囲するようにして形成され、前記扇形状潤滑油充填空間に潤滑油含有物質が充填され、前記一平端面に前記扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板が密着され、該フィルム状樹脂板の外縁と歯の歯底面との間を連通する連通凹部が放射状に形成されていることを特徴とする回転伝達ギヤ。
【請求項6】
前記一平端面には前記連通凹部を互いに連結する環状連結溝が前記フィルム状樹脂板の外縁に沿って設けられていることを特徴とする請求項5に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項7】
前記一平端面には、前記フィルム状樹脂板を位置決めするための位置決め部材が形成されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項の回転伝達ギヤを備えた駆動装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項4に記載のうちの回転伝達ギヤの少なくとも一つと、請求項5ないし請求項7に記載のうちの回転伝達ギヤの少なくとも一つとを組み合わせた二段ギヤからなる回転伝達ギヤを備えた駆動装置。
【請求項1】
回転駆動源と、被駆動装置に接続されかつ前記回転駆動源の回転による駆動を前記被駆動装置に伝達する出力部と、前記回転駆動源と前記出力部の間に存在しかつ回転軸を中心にして回転されしかも外周に歯を有する合成樹脂製ギヤからなり、前記回転軸が延びる方向少なくとも一平端面に、潤滑油含有物質を充填するための潤滑油充填空間が前記回転軸を包囲するようにして形成され、潤滑油を前記潤滑油充填空間から前記歯に向かって供給する潤滑油通路としてのスリット形状溝が前記潤滑油充填空間から前記歯の歯底面に向かって放射状に延びるようにして形成されていることを特徴とする回転伝達ギヤ。
【請求項2】
前記潤滑油含有物質が、カルシウム、リチウム、アルミニウム、ナトリウム石鹸を増ちょう剤として液状潤滑油がほぼ均一に拡散混合されたものからなることを特徴とする請求項1に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項3】
前記潤滑油含有物質が、前記潤滑油が含浸された多孔性の潤滑油保持部材からなり、前記一平端面に前記潤滑油保持部材が前記潤滑油充填空間から脱落するのを防止する抜け止め片部が半径方向内方に向かって複数個突出形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項4】
前記歯底面には前記スリット形状溝が開口する開口部に円錐形状の凹処が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項5】
回転駆動源と、被駆動装置に接続されかつ前記回転駆動源の回転による駆動を前記被駆動装置に伝達する出力部と、前記回転駆動源と前記出力部の間に存在しかつ回転軸を中心にして回転されしかも外周に歯を有する合成樹脂製ギヤからなり、前記回転軸が延びる方向少なくとも一平端面に、潤滑油含有物質を充填するための扇形状潤滑油充填空間が前記回転軸を包囲するようにして形成され、前記扇形状潤滑油充填空間に潤滑油含有物質が充填され、前記一平端面に前記扇形状潤滑油充填空間を密閉するフィルム状樹脂板が密着され、該フィルム状樹脂板の外縁と歯の歯底面との間を連通する連通凹部が放射状に形成されていることを特徴とする回転伝達ギヤ。
【請求項6】
前記一平端面には前記連通凹部を互いに連結する環状連結溝が前記フィルム状樹脂板の外縁に沿って設けられていることを特徴とする請求項5に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項7】
前記一平端面には、前記フィルム状樹脂板を位置決めするための位置決め部材が形成されていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の回転伝達ギヤ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項の回転伝達ギヤを備えた駆動装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項4に記載のうちの回転伝達ギヤの少なくとも一つと、請求項5ないし請求項7に記載のうちの回転伝達ギヤの少なくとも一つとを組み合わせた二段ギヤからなる回転伝達ギヤを備えた駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−174559(P2011−174559A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39748(P2010−39748)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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