説明

回転渦電流探傷プローブ

【課題】回転渦流プローブの移動方向と直交する方向のキズを含めて全方向のキズを検出できる回転渦流プローブを提供する。
【解決手段】4個のΘ型の渦電流探傷プローブP11〜P22は、回転ディスク111の回転の中心Ds1の周囲に配置され、回転ディスク111内に埋め込まれている。それらの渦電流探傷プローブP11〜P22の検出コイルDc11〜Dc22のコイル面は、互いに平行するように配置されており、また、回転ディスク111の回転面に対して垂直になっている。それらの検出コイルのコイル面は、渦電流探傷プローブP11,P12の中心Ps11,Ps12を通る線Y1に対してθ傾斜している。検出コイルDc11,Dc12は和動接続され、検出コイルDc21,Dc22は差動接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複数の渦電流探傷プローブを回転ディスクに取付け、その回転ディスクを回転しながら移動(走査)して探傷する回転渦電流探傷プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転ディスクに複数個の渦電流探傷プローブを取付け、その回転ディスクを回転させながら移動させることにより、金属等の導電体における全方向のキズを探傷する回転渦電流探傷プローブが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
なお、本願において、渦電流探傷プローブを渦流プローブと呼び、回転ディスクに複数の渦電流探傷プローブを取付けた物を回転渦電流探傷プローブと呼ぶ。また、回転渦電流探傷プローブを回転渦流プローブと適宜略す。
また、コイル軸とは、コイルを構成する巻き線における螺旋状巻回の中心となる軸をいい、コイル面とは、コイル軸に垂直な面をいう。
【0003】
図7により、回転ディスクに4個の渦流プローブを取付けた従来の回転渦流プローブを説明する。
図7(a1)は、回転渦流プローブと被検査体の平面図、図7(a2)は、図7(a1)のX4部分の矢印方向の断面図、図7(b)は、回転渦流プローブによって検出されたキズ信号の振幅特性を示すグラフである。
【0004】
回転渦流プローブRP2は、4個のΘ型の渦流プローブP31〜P34と回転ディスク211とを備え、渦流プローブP31〜P34は、回転ディスク211内にモールドにより埋め込まれ、キズの有無を検査される被検査体22の検査面に対向するように配置されている。Θ型の渦流プローブは、被検査体に渦電流を励起する励磁コイルと、励磁コイルの内側に配置され被検査体に励起された渦電流を検出する検出コイルを有し、両コイルは、それぞれのコイル面が互いに垂直になるように配置されている。励磁コイルのコイル面は、回転ディスク211の回転面に対して平行であり、検出コイルのコイル面は、回転ディスク211の回転面に対して垂直になっている。また回転ディスク211は、回転軸212が回転することによって回転し、回転軸212は、モータ(図示せず)によって回転される。
4個の渦流プローブP31〜P34は、回転の中心Ds2の周囲に周方向に順に略等間隔(90度間隔)で配置されており、4個の渦流プローブP31〜P34の内、渦流プローブP31,P33は回転の中心Ds2を挟んだ両側に位置し、渦流プローブP32,P34も回転の中心Ds2を挟んだ両側に位置する。即ち4個の渦流プローブP31〜P34は、渦流プローブP31,P33の組と、渦流プローブP32,P34の組の2つの組からなり、一方の組の検出コイルと他方の組の検出コイルは、コイル面が互いに垂直になり、コイル軸も互いに垂直になっている。
【0005】
ここで図7(a1)の被検査体22を回転渦流プローブRP2により探傷したときに検出されるキズ信号について説明する。
被検査体22の検査面には、回転渦流プローブRP2の移動方向(X5方向)に平行な長いキズF31、移動方向と斜めに交差するキズF32、移動方向と直交するキズF33が形成されている。キズF31,F32,F33のサイズは、いずれも長さ(長辺の長さ)150mm、幅(短辺の幅)0.5mm、深さ0.3mmである。
回転渦流プローブRP2は、励磁コイルによって被検査体に渦電流を励起し、被検査体に励起された渦電流を検出コイルによって検出し、検出コイルによって検出した信号に基づいてキズを検出する。4個の検出コイルは、和動接続されている。この検出コイルが検出した信号をキズ信号と呼ぶ。
回転渦流プローブRP2を回転させながら被検査体22の検査面に沿ってX5方向へ移動させると、キズF31,F32に起因するキズは検出できるが、キズF33に起因するキズは十分には検出できない。即ちキズF33に起因するキズ信号は、図7(b)のようになる。図7(b)において、縦軸の検出比は、検出されたキズ信号の最大振幅との比を表わし、横軸は、回転渦流プローブRP2のX5方向の移動幅を表す。また横軸の0点は、回転渦流プローブRP2の回転の中心Ds2がキズF33の真上に移動したときの位置に相当する。図中の四角の破線は、キズF33の前後においてキズ信号の検出比が−3dB以上となる範囲と、キズの検出を行うことができる回転渦流プローブの移動幅の範囲とを示す。ここで、−3dBは一般にキズ検出に対して有効と考えられている信号検出比であり、−3dB以上のときにキズがあると判断する。
図7(b)の場合、キズが有るにも拘わらず、図中の矢印の2箇所においては、キズ信号の検出比が−3dB未満となっており、キズ信号の検出が困難となる領域の存在を示している。
従来の回転渦流プローブは、前記のように回転渦流プローブの移動方向と直交する方向のキズは検出が困難なため、全方向のキズ検出用の回転渦流プローブとしては検出力が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−248169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、その点に鑑み回転渦流プローブの移動方向と直交する方向のキズを含めて全方向のキズを検出できる回転渦流プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、被検査体のキズを探傷する回転渦電流探傷プローブにおいて、回転ディスク(111)と、前記回転ディスク(111)の回転の中心(Ds1)の周囲に円周方向に略等間隔で取り付けられた4個のΘ型の渦電流探傷プローブ(P11,P21,P12,P22)と、を備え、前記4個の渦電流探傷プローブ(P11,P21,P12,P22)は、回転の中心(Ds1)を挟んだ両側に位置する2個の渦電流探傷プローブを1組とする2組からなり、前記被検査体に電流を励起する励磁コイル(Ec11,Ec21,Ec12,Ec22)と、前記被検査体に励起された電流を検出する検出コイル(Dc11,Dc21,Dc12,Dc22)と、を有し、前記励磁コイル(Ec11,Ec21,Ec12,Ec22)のコイル面は前記回転ディスクの回転面に対して平行であり、前記検出コイル(Dc11,Dc21,Dc12,Dc22)のコイル面は前記回転ディスクの回転面に対して垂直であり、前記検出コイル(Dc11,Dc21,Dc12,Dc22)のコイル面は互いに平行であり、且つ前記2組の渦電流探傷プローブの内の一方の組の2個の渦電流探傷プローブのそれぞれの中心を通る線(Y1)に対して所定角度(θ)傾斜し、前記一方の組の渦電流探傷プローブの2個の検出コイル(Dc11,Dc12)は和動接続され、他方の組の渦電流探傷プローブの2個の検出コイル(Dc21,Dc22)は差動接続されていることを特徴とする回転渦電流探傷プローブを提供する。
【0009】
本発明によれば、回転渦電流探傷プローブは、被検査体のキズの方向に関係なく全方向のキズを漏れなく検出できる。また本願発明の回転渦電流探傷プローブは、回転渦流プローブの1回の移動(走査)で探傷できる範囲が広く、従来の回転渦電流探傷プローブの探傷範囲は2mm程度であるが、本願発明の回転渦電流探傷プローブの探傷範囲は10mm以上になる。したがって本願発明の回転渦電流探傷プローブは、1回の探傷で広い範囲の探傷が可能になり、探傷時間を短縮することができる。
【0010】
好ましくは、前記所定角度(θ)は、15〜60度であり、最適には45度である。検出コイルのコイル面の傾斜角度(θ)をそうすることにより、キズの方向によるキズ信号のばらつきを少なくすることができる。
【0011】
好ましくは、前記一方の組のそれぞれの渦電流探傷プローブの中心(Ps11,Ps12)から前記回転ディスクの回転の中心(Ds1)への距離(W1)と、前記他方の組のそれぞれの渦電流探傷プローブの中心(Ps21,Ps22)から前記回転ディスクの回転の中心(Ds1)への距離(W2)との比(W1:W2)は、1:1〜1:3である。比(W1:W2)を1:1〜1:3の範囲に設定することによりキズの方向によるキズ信号のばらつきを更に少なくすることができる。
【0012】
好ましくは、前記比(W1:W2)は、前記被検査体の検査面が曲率を有する場合1:1.75である。そうすることによって、曲率を有する被検査体の検査面のキズを検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転渦電流探傷プローブは、被検査体のキズの方向に関係なく全方向のキズを漏れなく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本願発明の実施形態に係る回転渦流プローブの構成を示す図である。
【図2】図2は、図1の回転渦流プローブの過流プローブの位置関係を説明する図である。
【図3】図3は、図1の回転渦流プローブによって検出されるキズ信号を説明する図である。
【図4】図4は、ΔdBを説明する図である。
【図5】図5は、プローブ角度とΔdBとの関係を示す図である。
【図6】図6は、距離W1、W2の比(W1:W2)とΔdBとの関係を示す図である。
【図7】図7は、従来の回転渦流プローブの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図3により本願発明の実施形態に係る回転渦流プローブを説明する。
まず図1について説明する。
図1(a1)は、回転渦流プローブと被検査体の平面図、図1(a2)は、図1(a1)のX1部分の矢印方向の断面図、図1(b1)は、Θ型の渦流プローブの斜視図、図1(b2)は、Θ型の渦流プローブの平面図である。
【0016】
回転渦流プローブRP1は、4個のΘ型の渦流プローブP11,P21,P12,P22(以下、P11,P21,P12,P22を総称するときはPと記す)と回転ディスク111とを備え、渦流プローブP11,P21,P12,P22は、回転ディスク111内にモールドにより埋め込まれ、キズの有無を検査される被検査体12の検査面に対向するように配置されている。回転ディスク111は、回転軸112が回転することによって回転し、回転軸112は、モータ(図示せず)によって回転される。またΘ型の渦流プローブPは、被検査体に渦電流を励起する励磁コイルEcと、励磁コイルEcの内側に配置され被検査体に励起された渦電流を検出する検出コイルDcを有し、両コイルは、それぞれのコイル面が互いに垂直になるように配置されている。励磁コイルEcのコイル面は、回転ディスク111の回転面に対して平行になっており、検出コイルDcのコイル面は、回転ディスク111の回転面に対して垂直になっている。
回転渦流プローブRP1は、励磁コイルによって被検査体に渦電流を励起し、被検査体に励起された渦電流を検出コイルによって検出し、検出コイルによって検出した信号に基づいてキズを検出する。この検出コイルが検出した信号をキズ信号と呼ぶ。
ここで渦流プローブPは、回転ディスク111内に埋め込まれる代わりに、板状体からなるディスクに渦流プローブPを嵌め込む開口部を形成して、その開口部に取り付けられてもよいし、或いは取付け具を用いて回転ディスク111に取り付けられてもよい。したがって本願は、回転ディスク111内に渦流プローブPが埋め込まれる手段を含めて渦流プローブPが回転ディスク111に取り付けられるという。
なお図1(b2)のPsは、励磁コイルEcの中心を表している。
4個の渦流プローブP11,P21,P12,P22は、回転渦流プローブRP1の回転の中心Ds1の周囲に周方向に順に略等間隔(90度間隔)で配置されており、4個の渦流プローブP11,P21,P12,P22の内、渦流プローブP11,P12は回転の中心Ds1を挟んだ両側に位置し、渦流プローブP21,P22も回転の中心Ds1を挟んだ両側に位置する。即ち4個の渦流プローブP11,P21,P12,P22は、渦流プローブP11,P12の組と、渦流プローブP21,P22の組の2つの組からなる。
【0017】
渦流プローブP11,P12のそれぞれの検出コイルは、和動接続され、渦流プローブP21,P22のそれぞれの検出コイルは、差動接続されている。なお和動接続とは、2個のコイルの電流の方向が同じになる接続の仕方で、例えば、2個のコイルの巻き方向が同じ場合、一方のコイルの巻き終りと他方のコイルの巻き初めを接続し、2個のコイルの巻き方向が逆の場合、一方のコイルの巻き終りと他方のコイルの巻き終りを接続する。また差動接続とは、2個のコイルの電流の方向が逆になる接続の仕方で、例えば、2個のコイルの巻き方向が同じ場合、一方のコイルの巻き初めと他方のコイルの巻き初めを接続し、2個のコイルの巻き方向が逆の場合、一方のコイルの巻き終りと他方のコイルの巻き初めを接続する。
被検査体12の検査面には、回転渦流プローブRP1の移動方向(X2方向)に平行な長いキズF11、移動方向と斜めに交差するキズF12、移動方向と直交するキズF13が形成されている。
【0018】
次に図2により図1の回転渦流プローブRP1の4個の渦流プローブPの位置関係について説明する。
まず図2(a)について説明する。
渦流プローブP11,P12は、回転渦流プローブの回転の中心(回転ディスクの回転の中心)Ds1を挟んだ両側に位置し、両渦流プローブのそれぞれの中心(励磁コイルEc11,Ec12の中心)Ps11,Ps12は、回転の中心Ds1を通る線Y1上に並んでいる。同様に渦流プローブP21,P22は、回転渦流プローブの回転の中心(回転ディスクの回転の中心)Ds1を挟んだ両側に位置し、両渦流プローブのそれぞれの中心(励磁コイルEc21,Ec22の中心)Ps21,Ps22は、回転の中心Ds1を通る線Y2上に並んでいる。そして線Y1、Y2は、直交している。したがって4個の渦流プローブP11,P21,P12,P22は、回転の中心Ds1の周囲に円周方向に略同じ間隔(90度間隔)で配置されている。
【0019】
4個の渦流プローブP11,P21,P12,P22の検出コイルDc11,Dc21,Dc12,Dc22は、それぞれのコイル面が互いに平行になるように配置されている。そして、検出コイルDc11,Dc12のコイル面は、渦流プローブP11,P12の中心Ps11,Ps12を通る線Y1に対して所定角度θ傾斜するように配置されている(以下、検出コイルDc11,Dc12のコイル面と渦流プローブP11,P12の中心Ps11,Ps12を通る線Y1とがなす角度をプローブ角度という)。なおこの場合、検出コイルDc21,Dc22のコイル面も、検出コイルDc11,Dc12のコイル面と平行であるから、線Y1に対して角度θ傾斜している。また4個の検出コイルDc11,Dc21,Dc12,Dc22のそれぞれのコイル面の傾きは、渦流プローブP21,P22の中心Ps21,Ps22を通る線Y2を基準にして定めてもよい。
【0020】
プローブ角度が角度θ傾斜するように検出コイルを配置する理由について説明する。
渦流プローブにおいては、検出コイル面に平行なキズが検出コイル下面を通過する際にキズ信号が得られる。従来の方式のように、各検出コイル面が回転渦流プローブの中心から周囲に放射状になっている回転渦流プローブにおいても全方向のキズが検出できるが、被検査体が鋼管である場合には、検出コイルと鋼管表面のキズとのギャップ(リフトオフという)が、管軸方向のキズを検出コイルが通過するときに比べ、管周方向のキズを検出コイルが通過するときに大きくなり、キズ信号の大きさに差が生じる。
これに対し、本発明のように所定の角度を設けることによって、管軸方向のキズと検出コイル面とのギャップと、管周方向のキズと検出コイル面とのギャップとを均等にすることができるので、キズ信号の大きさの差を小さくすることができる。
プローブ角度θは、0度<θ<90度の範囲に設定できるが、15〜60度の範囲が好ましく、特に45度が好ましい。その詳細については後述する。
【0021】
次に図2(b)について説明する。
図2(b)は、図2(a)の回転渦流プローブにおいて、4個の渦流プローブについて回転渦流プローブの回転の中心Ds1からの距離の設定の仕方を説明する図である。なお図2(b)の渦流プローブ、励磁コイル、及び検出コイルの符号は、図2(a)と同じであるから省略する。
渦流プローブP11,P12の組は、回転の中心Ds1からそれぞれの渦流プローブの中心Ps11,Ps12への距離をW1に設定され、渦流プローブP21,P22の組は、回転の中心Ds1からそれぞれの渦流プローブの中心Ps21,Ps22への距離をW2に設定されている。距離W1、W2は、例えばW1=4.2mm、W2=7.2mmに設定する。距離W1、W2の比(W1:W2)は、1:n(n=1以上)に設定できるが、被検査体が平板状の場合、1:1〜1:3の範囲が好ましく、被検査体が管状等であって検査面が曲率を有する場合、1:1.75付近が好ましい。その詳細については後述する。また渦流プローブPの検出コイルの接続は、距離W1>W2の場合は、渦流プローブP11,P12のそれぞれの検出コイルを差動接続し、渦流プローブP21,P22のそれぞれの検出コイルを和動接続する。
【0022】
図3は、本願発明の実施形態に係る回転渦流プローブの実験結果を示す。
図3(a1),(a2)は、被検査体が板状体の場合であり、図3(b1),(b2)は、被検査体が管状体の場合である。なお回転渦流プローブRP1の図2(a)でのプローブ角度θは、45度に設定し、図2(b)において示した距離W1、W2は、W1=4.2mm、W2=7.2mmに設定したものを用いた。
まず図3(a1),(a2)について説明する。
図3(a1)において被検査体12は板状体で、その検査面に回転渦流プローブRP1の移動方向(X2方向)に平行な長いキズF11、移動方向と斜めに交差するキズF12、移動方向と直交するキズF13が形成されている。キズF11、F12、F13のサイズは、いずれも長さ(長辺の長さ)150mm、幅(短辺の幅)0.5mm、深さ0.3mmである。また回転渦流プローブRP1の回転ディスク111は直径35mmであり、励磁コイルは線径0.16mmの導線を180回巻き、その外形は(縦)4mm×(横)4mm×(高さ)2.5mmの円形であり、検出コイルは線径0.05mmの導線を120回巻き、その外形は(縦)3.3mm×(横)4mm×(高さ)1.5mmの四角形である。
【0023】
探傷は、回転渦流プローブRP1を5000rpmで回転してX2方向へ移動させ、0.5mm毎にデータを採取して行った。
回転渦流プローブRP1によって検出されるキズ信号の内、キズF13に起因して発生するキズ信号の振幅特性は、図3(a2)のようになる。図3(a2)において、縦軸の検出比は、検出されたキズ信号の最大振幅との比を表わし、横軸は、回転渦流プローブRP1のX2方向の移動幅を表す。図中の破線は、キズ信号の検出比0〜−3dBの範囲と、キズを検出することができる移動幅の範囲を示す。また横軸の0点は、回転渦流プローブRP1の回転の中心Ds1がキズF13の真上に移動したときの位置に相当する。また黒四角形のプロットで示したグラフは、回転渦流プローブRP1において和動接続した検出コイルによって検出したキズ信号であり、白三角形のプロットで示したグラフは、差動接続した検出コイルによって検出したキズ信号である。そして×のプロットで示したグラフは、和動接続した検出コイルによるキズ信号と差動接続した検出コイルによるキズ信号とで検出比が大きい方を取り出して表した結合キズ信号である。和動接続した検出コイルによるキズ信号と差動接続した検出コイルによるキズ信号とにおいて検出比が大きい方を用いれば、検出比0〜−3dBの範囲でキズを検出することができ、従来の回転渦流プローブでは、検出が困難であったキズF13のキズも検出することができる。即ち全方向のキズを漏れなく検出することができる。
【0024】
このように、差動接続では、キズ通過位置が中央付近のところに検出レベルが低下する「谷」部分ができるので、この「谷」部分を補う手法として、一方の組の検出コイルを和動接続とすることで「山」を形成し、2組の検出コイルの出力を用いることによって、キズ検出に有効な領域を広くすることができる。
なお結合キズ信号は、和動接続した検出コイルによるキズ信号と差動接続した検出コイルによるキズ信号との振幅を加算して両キズ信号の和をキズ信号として取出してもよい。
【0025】
次に、プローブ角度について説明する。図4に示すように、回転渦流プローブの移動幅が−5mmから5mmの範囲内で結合キズ信号の検出比が最も低いところのdBの絶対値をΔdBとする。このΔdBが小さいほどよい。図5に、プローブ角度とΔdBとの関係を示す。図5が示すように、プローブ角度が15〜60度の範囲でΔdBは良好な値を示し、プローブ角度が45度付近でΔdBは最も好ましくなる。
【0026】
次に、被検査体が管状体のときと板状体のときの、距離W1、W2の比(W1:W2)について説明する。距離W1、W2の比(W1:W2)を変化させると、プローブ角度を変化させた場合と同様に、ΔdBが変化する。
図6(a)(b)に、距離W1、W2の比(W1:W2)とΔdBとの関係を示す。図6(a)は、実験データであり、図6(b)は実験データにシミュレーション結果を加えたものである。
図6(a)(b)が示すように、被検査体が管状体のときも板状体のときも、W1:W2が1:1〜1:3の範囲でΔdBは良好な値を示し、W1:W2が1:1.75付近でΔdBは最も好ましくなる。W1:W2の範囲が1:1.75のときは、他のW1:W2の範囲のときと較べて、ΔdBが大きく低下する。そのために、特に、被検査体が管状体のときには、W1:W2が1:1.75付近でΔdBは最も好ましくなる。
【0027】
次に図3(b1),(b2)について説明する。
図3(b1)において被検査体13は直径73mmの管状体で、その検査面に被検査体13の周方向に長いキズF21、被検査体13の管軸方向に長いキズF22が形成されている。キズF21,F22のサイズは、長さ(長辺の長さ)25mm、幅(短辺の幅)1mm、深さ0.3mmである。
探傷は、回転渦流プローブRP1を5000rpmで回転し、被検査体13を1000mm/sで回転して、被検査体13の1回転毎に回転渦流プローブRP1を管軸方向(X3方向)へ10mm移動して行った。
回転渦流プローブRP1によって検出されたキズ信号は、図3(b2)のようになり、回転渦流プローブRP1は、キズF21,F22に起因するキズ信号を検出することができる。図3(b2)において、縦軸はキズ信号の振幅、横軸は、回転渦流プローブRP1の移動方向を表している。
図3(b2)から回転渦流プローブRP1は、被検査体が管状体であっても全方向のキズを検出できることが分かる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0029】
111・・・回転ディスク
Ds1・・・回転の中心
Dc11,Dc21,Dc12,Dc22・・・検出コイル
Ec11,Ec21,Ec12,Ec22・・・励磁コイル
P11,P21,P12,P22・・・渦電流探傷プローブ
Ps11,Ps12・・・渦電流探傷プローブの中心
Y1・・・線
θ・・・所定角度
W1,W2・・・距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体のキズを探傷する回転渦電流探傷プローブにおいて、
回転ディスク(111)と、前記回転ディスク(111)の回転の中心(Ds1)の周囲に円周方向に略等間隔で取り付けられた4個のΘ型の渦電流探傷プローブ(P11,P21,P12,P22)と、を備え、
前記4個の渦電流探傷プローブ(P11,P21,P12,P22)は、回転の中心(Ds1)を挟んだ両側に位置する2個の渦電流探傷プローブを1組とする2組からなり、前記被検査体に電流を励起する励磁コイル(Ec11,Ec21,Ec12,Ec22)と、前記被検査体に励起された電流を検出する検出コイル(Dc11,Dc21,Dc12,Dc22)と、を有し、
前記励磁コイル(Ec11,Ec21,Ec12,Ec22)のコイル面は前記回転ディスクの回転面に対して平行であり、
前記検出コイル(Dc11,Dc21,Dc12,Dc22)のコイル面は前記回転ディスクの回転面に対して垂直であり、
前記検出コイル(Dc11,Dc21,Dc12,Dc22)のコイル面は互いに平行であり、且つ前記2組の渦電流探傷プローブの内の一方の組の2個の渦電流探傷プローブのそれぞれの中心を通る線(Y1)に対して所定角度(θ)傾斜し、
前記一方の組の渦電流探傷プローブの2個の検出コイル(Dc11,Dc12)は和動接続され、他方の組の渦電流探傷プローブの2個の検出コイル(Dc21,Dc22)は差動接続されていることを特徴とする回転渦電流探傷プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転渦電流探傷プローブにおいて、前記所定角度(θ)は、15〜60度であることを特徴とする回転渦電流探傷プローブ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の回転渦電流探傷プローブにおいて、前記一方の組のそれぞれの渦電流探傷プローブの中心(Ps11,Ps12)から前記回転ディスクの回転の中心(Ds1)への距離(W1)と、前記他方の組のそれぞれの渦電流探傷プローブの中心(Ps21,Ps22)から前記回転ディスクの回転の中心(Ds1)への距離(W2)との比(W1:W2)は、1:1〜1:3であることを特徴とする回転渦電流探傷プローブ。
【請求項4】
請求項3に記載の回転渦電流探傷プローブにおいて、前記比(W1:W2)は、前記被検査体の検査面が曲率を有する場合1:1.75であることを特徴とする回転渦電流探傷プローブ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかの請求項に記載の回転渦電流探傷プローブにおいて、前記所定角度(θ)は、45度であることを特徴とする回転渦電流探傷プローブ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−7780(P2011−7780A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113930(P2010−113930)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(390002808)マークテック株式会社 (42)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】