説明

回転角度検出装置

【課題】 磁電変換素子と磁界発生手段とを一体として軟磁性回転体の凸部又は凹部を検知する構成として、従来装置のように検出対象側歯車に永久磁石を配置する必要性を無くして、永久磁石配置用凹部の加工費用を無くし、コストを低減する。
【解決手段】 凸部としての歯1aを有する軟磁性体の歯車1と、歯車1の角度情報を得るスピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子R1〜R4と、当該素子R1〜R4にバイアス磁界を印加する永久磁石15とを備えた、歯車1の回転角度を検出する回転角度検出装置であり、前記素子R1〜R4と永久磁石15とを位置決めして、ケース25のハウジング内に収納した構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁電変換素子を用いて軟磁性回転体の回転に伴う磁界変化を非接触で検出する検出装置に係り、特に工業用工作機械や、自動車のエンジン等に用いられる回転弁等の回転角度を検出するために、スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子等の磁電変換素子を用いた回転角度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、検出すべき移動体が回転体である回転角度検出装置としては、回転角度を検出するために回転軸の端部に永久磁石を設け、その回転軸の回転と同期した磁界変動を磁電変換素子で電気信号に変換し、回転角度を非接触で検出するものがあり、例えば、下記特許文献1に開示されている回転角度検出装置が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−289610号公報 特許文献1のような回転角度検出装置では、回転軸に回転弁が取り付けられており、その回転弁の回転角度を検出対象とする構成であるが、図8(A),(B)のように、永久磁石60は、回転弁が取り付けられた回転軸62の端部にある開閉動力伝達用歯車61の中心部に形成された円柱状凹部61aに取り付けられている。磁電変換素子65は回転軸62を軸支している本体フレーム側に固定配置されている。
【0004】
上記特許文献1の装置は、開閉動力伝達用歯車に永久磁石取付用の凹部(溝部)を設け、ここに永久磁石を取り付ける必要があるため、動力伝達用歯車の加工コストが高くなるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、磁電変換素子と磁界発生手段とを一体として検出対象としての軟磁性回転体の凸部又は凹部を検知する構成とすることで、従来装置のように検出対象側歯車に永久磁石を配置する必要性を無くして、永久磁石を配置するための凹部の加工費用を無くし、コストを低減することが可能な回転角度検出装置を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、磁電変換素子と磁界発生手段とを互いに位置決めした状態で一体としておくことで、取り付け時に磁電変換素子と磁界発生手段の相互位置関係がばらつくことに起因する検出精度低下を防止可能な回転角度検出装置を提供することをもう1つの目的とする。
【0007】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る回転角度検出装置は、少なくとも1つ以上の凸部又は凹部を有する軟磁性回転体と、前記軟磁性回転体の角度情報を得る少なくとも2つ以上の磁電変換素子と、該磁電変換素子にバイアス磁界を印加する磁界発生手段とを有し、前記軟磁性回転体の回転角度を検出する構成において、
前記磁電変換素子と前記磁界発生手段とを位置決めして、同一ハウジング内に収納したことを特徴としている。
【0009】
前記回転角度検出装置において、前記軟磁性回転体は、動力伝達用の歯車である構成としてもよい。
【0010】
前記回転角度検出装置において、前記軟磁性回転体の前記凸部又は凹部を有する面に、前記磁電変換素子が対向配置された構成であるとよい。
【0011】
前記磁電変換素子は、スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子であるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る回転角度検出装置によれば、検出対象である回転体に、永久磁石を設ける必要性が無く、磁石取付用の凹部又は溝部を設ける加工も不要となるため、加工費用を削減することができる。また、検出対象である回転体が軟磁性体である場合、その凸部又は凹部を検出するので、軟磁性体に永久磁石配置のための凹部又は溝部を形成しなくて済み、薄型化(小型化)を図ることができる。
【0013】
また、磁電変換素子と磁界発生手段とを位置決めし、同一ハウジング内に収納したことで、前記磁電変換素子と磁界発生手段との相対位置調整要素を減らすことができ、両者の位置関係のばらつきに起因する検出精度低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、回転角度検出装置の実施の形態を図面に従って説明する。
【0015】
図1及び図2(A),(B)は本発明に係る回転角度検出装置の実施の形態であって、軟磁性材回転体の回転情報を得るための回転角度検出装置を構成した場合を示す。また、ここでは、磁電変換素子として磁気抵抗効果素子、とくにベクトル検知型であるスピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子(以下、SV−GMR素子)を用いる。
【0016】
図1及び図2(B)に示すように、軟磁性材回転体としての動力伝達用歯車1は、円周となっている外周面に一定間隔の配列ピッチPで所定数の歯(凸部)1aを設けた構成である。この動力伝達用歯車1は回転軸2の端部に固着されており、自動車のエンジン等に用いられる回転弁の回転角度を検出する用途の場合には、回転軸2に回転弁が取り付けられている。
【0017】
動力伝達用歯車1の歯1aを形成した外周面に対向して、これより90°位相差2信号(A相及びB相)を得るための磁気抵抗効果素子として、2つの対をなすSV−GMR素子R1〜R4(つまり、R1とR2の対、及びR3とR4の対)が配置されている。また、SV−GMR素子R1〜R4にバイアス磁界を印加するバイアス磁界発生手段としてバイアス磁石15を配置している。これらのSV−GMR素子R1〜R4とバイアス磁石15とはケース25(図1の点線部分)内の同一ハウジング内に配置されている。SV−GMR素子R1〜R4とバイアス磁石15は相互に位置決めされて基板30に装着されているが、図1においては、基板30を省略している。SV−GMR素子R1〜R4とバイアス磁石15との配置の詳細については後述する。
【0018】
なお、図1では解りやすくするためにSV−GMR素子R1〜R4をバイアス磁石15に比較して大きく図示したが、実際には微小寸法である。例えば、SV−GMR素子R1〜R4は4個あわせて1mm角程度、バイアス磁石15は5mm角程度の大きさである。
【0019】
図2及び図3のように、2つの対をなすSV−GMR素子R1〜R4とバイアス磁石15とは、歯車1の外周面が移動する方向(外周面の接線方向)及び回転軸2に対して平行に対向して配置された基板30に相互に位置決めして装着されている。前記2つの対をなすSV−GMR素子R1〜R4のうち一方の対をなすSV−GMR素子R1,R2は、前記基板30の一方の面(歯車1の外周面と対向する面)上に、回転軸2と平行な方向(歯車厚み方向)に並んで配列されている。SV−GMR素子R1,R2の感磁面は歯車外周面に対向し、かつピン層磁化方向は回転体1の移動方向に対して互いに略順方向と略逆方向を向くように配置されている。
【0020】
前記2つの対をなすSV−GMR素子R1〜R4のうち他方の対をなすSV−GMR素子R3,R4も、前記基板30の一方の面(歯車1と対向する面)上に、回転軸2と平行な方向に並んで配列されている。この場合も、SV−GMR素子R3,R4の感磁面は歯車外周面に対向し、かつピン層磁化方向は歯車1の移動方向に対して互いに略順方向と略逆方向を向くように配置されている。ここで、図4に示すように、前記他方の対をなすSV−GMR素子R3,R4の配列は、前記一方の対をなすSV−GMR素子R1,R2の配列から歯車1の移動方向に配列間隔Lだけ離れた位置となっている。但し、配列間隔Lは、歯車1の歯1aの配列ピッチをPとしたとき、
L=nP±P/4 (nは整数) …(1)
である。
【0021】
バイアス磁界発生用のバイアス磁石15は、前記基板30の他方の面(歯車1と反対側の面)上に、SV−GMR素子R1からR2を見た略延長線上(R3からR4を見た略延長線上でもある)に配置されている。そして、歯車1が存在しないときに、SV−GMR素子R1〜R4位置での磁界が当該SV−GMR素子R1〜R4の感磁面に平行な磁界成分を主に有し、かつ各SV−GMR素子R1〜R4のピン層磁化方向に略垂直な磁束を発生する磁極配置(例えば、磁極面15aが前記感磁面に略垂直)となっている。なお、SV−GMR素子R1〜R4を前記基板30の一方の面(歯車1と対向する面)上に、バイアス磁石15は前記基板30の他方の面(歯車1と反対側の面)上に、それぞれ配置してあるので、バイアス磁石15がSV−GMR素子R1〜R4の感磁面と歯車1の外周面間のギャップにはみ出すことはない。
【0022】
図5(A)のように、対をなすSV−GMR素子R1,R2の直列接続及び対をなすSV−GMR素子R3,R4の直列接続に対して供給電圧Vinが供給され、SV−GMR素子R1,R2の接続点とアース(GND)間の電圧が図5(B)のA相の検出出力として得られるとともに、SV−GMR素子R3,R4の接続点とアース間の電圧がB相(A相に対して位相が90°ずれている)の検出出力として得られるようになっている(動作原理については以下の図6で説明する。)。
【0023】
SV−GMR素子は、磁化方向が一方向に固定されたピン層と、電流が主として流れる非磁性層と、磁化方向が外部磁界方向(外部磁束方向)に一致するフリー層とで構成されている。ピン層磁化方向と外部磁界のベクトル方向が一致するときは低抵抗値となり、SV−GMR素子面内において外部磁界のベクトル方向を回転させると、ピン層磁化方向となす角度により抵抗値が変化し、反対方向のとき高抵抗値となる。この特性が図6(B)に示すSV−GMR素子の面内磁気特性であり、図6(A)のようにSV−GMR素子の感磁面に平行な外部磁界が存在する条件下で、外部磁界を感磁面に垂直な回転中心軸にて回転させ、ピン層磁化方向に対する回転角度と抵抗変化率(ΔR/R)との関係を示したものである。この場合、抵抗変化率(ΔR/R)は正弦波に近い波形でなだらかに変化し、飽和領域は生じない。
【0024】
本実施の形態では、図6(B)で示したSV−GMR素子の面内磁気特性を利用するものである。すなわち、図6(A)のようにSV−GMR素子の感磁面に平行なバイアス磁石によるバイアス磁界を印加する条件下で外部磁界を変化させ、同図(B)の角度90°近傍において直線的に変化する面内磁気特性を利用して、同図(C)の略正弦波の(飽和領域の無い)出力波形を得るようにしている。
【0025】
従って、図1の本実施の形態の配置において、動力伝達用歯車1(移動情報を得るための軟磁性材回転体兼用)の歯1aがSV−GMR素子R1,R2の対の真っ正面に対向しているときは、各SV−GMR素子R1,R2の感磁面に平行な磁界成分の向きは歯1aの影響を受けず、ピン層磁化方向に略垂直である。それに対し、歯車1の歯1aがSV−GMR素子R1,R2の正面位置から左側にずれた位置では、前記感磁面に平行な磁界成分の向きは歯1aの影響を受けて左側に曲がる(磁極面15aから出た磁束は左側に曲がる)。また、歯車1の歯1aがSV−GMR素子R1,R2の正面位置から右側にずれた位置では、前記感磁面に平行な磁界成分の向きは凸部2の影響を受けて右側に曲がる(磁極面15aから出た磁束は右側に曲がる)。従って、図6(B)の実線矢印の動作範囲で歯車1の回転に伴いピン層磁化方向に対する外部磁界方向が周期的に変化し、図6(C)のような略正弦波の検出出力が得られる。
【0026】
このことは、SV−GMR素子R3,R4の対についても同様であり、移動情報を得るためのSV−GMR素子R1,R2の対とSV−GMR素子R3,R4の対との配列間隔Lが前記(1)式の関係となっていることで、図5(B)に示す互いに90°の位相差を有するA相及びB相の実質的に正弦波の電圧波形が得られる。
【0027】
この実施の形態によれば、次の通りの効果を得ることができる。
【0028】
(1) 動力伝達用歯車1を検出対象となる軟磁性材回転体として用いることができ、しかもその歯車1に、磁石取付用凹部(溝部)を設ける加工をする必要がないため、構造を簡素化し、加工費用を削減することができ、かつ、前記歯車1の回転軸方向の厚みを減らし、薄くすることができる。また、自動車のエンジン等に用いられる回転弁の回転角度検出装置に適用した場合には、装置形状の小型化を図ることができる。
【0029】
(2) また、2つの対をなすSV−GMR素子R1〜R4とバイアス磁石15とを基板30上に位置決めして取り付け、ケース25の同一ハウジング内に収納したことで、前記SV−GMR素子R1〜R4と前記バイアス磁石15との相対位置を予め正確に規定して、両者間の位置ばらつきを無くして角度検出精度の向上を図ることができる。
【0030】
(3) ベクトル検知型磁気抵抗効果素子としてのSV−GMR素子を用いており、強度検知型の磁気抵抗効果素子を用いている他の装置に比較して、バイアス磁石の発生磁界強弱ばらつきや、軟磁性材回転体である動力伝達用歯車1と磁気抵抗効果素子間ギャップ(組付けばらつき)には影響されないので検出出力信号の安定化を図ることができる。
【0031】
(4) 図6(A)のようにSV−GMR素子の感磁面に平行なバイアス磁界を印加して素子面内磁気特性を利用し、かつ動作範囲を図6(B)のようにピン層磁化方向と磁界が略直交する点を中心として両者の角度が変化する部分を利用するため(SV−GMR素子面内磁気特性変化の直線部を活用するため)、A相及びB相の検出出力として飽和の無い正弦波にきわめて近い波形が得られる。
【0032】
(5) SV−GMR素子R1,R2の対、及びSV−GMR素子R3,R4の対は、ピン層磁化方向が歯車1の移動方向に対し、互いに略順方向と略逆方向を向くようにしたので、各SV−GMR素子の対を直列接続して供給電圧Vinを供給し、SV−GMR素子同士の接続点から検出出力を取り出すことで、1個のSV−GMR素子を使用する場合の2倍の検出出力が得られる。
【0033】
図7(A),(B)は本発明の他の実施の形態であって、検出対象の軟磁性材回転体としての回転角度検出用歯車50を、動力伝達用歯車1と別に構成して回転軸2に固着したものである。この場合、回転角度検出用歯車50の歯50aを形成した外周面に対向して、これより90°位相差2信号(A相及びB相)を得るための磁気抵抗効果素子として、2つの対をなすSV−GMR素子R1〜R4が配置されている。また、SV−GMR素子R1〜R4にバイアス磁界を印加するバイアス磁界発生手段としてバイアス磁石15を配置している。なお、その他の構成は前述した実施の形態と同様である。
【0034】
この図7の実施の形態によれは、回転角度検出用歯車50の歯数を、動力伝達用歯車1の歯数とは関係なく設定することができる。
【0035】
上記各実施の形態において、軟磁性材回転体としての歯車の代わりに、半円周等の曲面を有する軟磁性材回転体を用いることも可能である。
【0036】
以上本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る回転角度検出装置の実施の形態であって、検出対象の動力伝達用歯車、SV−GMR素子及びバイアス磁石の配置を示す全体構成の斜視図である。
【図2】実施の形態であって、(A)は側面図、(B)は正面図である。
【図3】基板上における、回転情報(A相、B相)を得るSV−GMR素子及びバイアス磁石の配置を示す要部斜視図である。
【図4】SV−GMR素子の配列間隔Lと歯車の歯1aの配列ピッチPとの関係を示す説明図である。
【図5】実施の形態において、(A)は互いに位相が90°ずれたA相及びB相の出力信号を取り出すための回路図、(B)はA相及びB相の出力信号の波形図である。
【図6】本発明で用いるSV−GMR素子の面内磁気特性を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施の形態であって、(A)は側面図、(B)は正面図である。
【図8】従来の回転角度検出装置であって、(A)は側断面図、(B)は正面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 動力伝達用歯車
1a,50a 歯
2 回転軸
15 バイアス磁石
25 ケース
30 基板
50 回転角度検出用歯車
R1〜R4 SV−GMR素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の凸部又は凹部を有する軟磁性回転体と、前記軟磁性回転体の角度情報を得る少なくとも2つ以上の磁電変換素子と、該磁電変換素子にバイアス磁界を印加する磁界発生手段とを有し、前記軟磁性回転体の回転角度を検出する回転角度検出装置において、
前記磁電変換素子と前記磁界発生手段とを位置決めして、同一ハウジング内に収納したことを特徴とする回転角度検出装置。
【請求項2】
前記軟磁性回転体は、動力伝達用の歯車である請求項1記載の回転角度検出装置。
【請求項3】
前記軟磁性回転体の前記凸部又は凹部を有する面に、前記磁電変換素子が対向配置されている請求項1又は2記載の回転角度検出装置。
【請求項4】
前記磁電変換素子は、スピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子である請求項1,2又は3記載の回転角度検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−153720(P2006−153720A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346410(P2004−346410)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】