説明

回転角計測装置,制御装置およびそれらを用いた回転機システム

【課題】磁束発生体が高速に回転する場合であっても、磁束発生体または磁気センサの近傍に非磁性の導体(導電体)を配置した構成を用いて精度良く磁界角または回転角を計測すること。
【解決手段】磁界方向に感応する磁気センサ70と、前記磁気センサからの出力が入力される検出部302と、を備えた回転角計測装置であって、前記回転角計測装置は、磁束発生体202を備えた回転体121とともに用いられるものであり、前記磁気センサの出力は、前記磁界方向に対応した原角度信号セット155であり、前記検出部は、前記回転体の回転速度を引数とする補正関数が出力する補正値を用いて前記磁気センサの近傍に配置された非磁性の導体の影響を補正した補正角度を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを用いた回転角計測装置,回転機、および回転機システムに関する。また、磁気センサ信号を処理して回転機などを制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体に磁束発生体(以下「センサ磁石」と呼ぶ)を設置し、その磁束発生体が生成する磁束が届く範囲の位置に磁気センサを設置する。回転体が回転するとセンサ磁石が生成する磁束の方向も回転するので、その磁束の方向を磁気センサで検出することで回転体の回転位置(回転角)が計測できることが知られている。
【0003】
ここで、磁気センサを大別すると、磁界の強度に応じた信号を出力する磁界強度計測センサと、磁界の方向に応じた信号を出力する磁界方向計測センサとに分けられる。磁界方向計測センサは、ベクトルとしての磁界方向を計測することから、ベクトル型磁気センサとも呼ばれる。
【0004】
磁界方向計測センサには、磁界感応素子としてホール効果素子(Hall-effect element)を用いたものや、磁気抵抗効果素子(Magneto-resistance element)を用いたものなどがある。
【0005】
ホール効果素子自体は磁界強度に応じた信号を出力する素子である。しかし、複数個のホール効果素子を用いて、磁界強度の空間的な差分を測定し、磁界方向の余弦成分(COS成分)と正弦成分(SIN成分)とを検出することで磁界の方向に応じた信号が出力できる。
【0006】
また、適切な形状の磁性体と複数個のホール効果素子を用いることで、磁界方向を計測するセンサもある。この型の磁気センサは、磁性体により磁界を集束させることにより磁界方向を磁界強度差に変換し、それを複数個のホール効果素子で計測する。
【0007】
このように、ホール効果素子で構成された、磁界方向に応じた信号を出力する磁界方向計測センサ型の磁気センサが各種知られている。
【0008】
磁気抵抗素子は磁界の強度や磁界の方向に応じて電気抵抗が変化する素子である。磁気抵抗素子には、異方性磁気抵抗素子(Anisotropic Magneto-resistance、以下「AMR素子」と呼ぶ)、巨大磁気抵抗素子(Giant Magneto-resistance、以下「GMR素子」と呼ぶ)、トンネル磁気抵抗効果素子(Tunneling Magneto-resistance、以下「TMR素子」と呼ぶ)などがある。
【0009】
AMR素子は磁界の方向と電流の方向とがなす角度に応じて電気抵抗が変化する。電流方向を変えた素子を適切に組み合わせることで、磁界角度に応じた信号を出力する。GMR素子は、固定磁化層と自由磁化層とをスペーサ層を介して積層した構成である。固定磁化層のスピン方向(磁化方向)を変えた素子を適切に組み合わせることで、磁界角度に応じた信号を出力する。なお、固定磁化層を有するGMR素子は、スピン・バルブ(Spin-valve)型GMR素子とも呼ばれる。
【0010】
磁気センサを用いた回転角センサの利点のひとつは、非接触型であることである。非接触型とは、回転体と回転位置を検出する検出器であるセンサとが、機械的に接触していないことを指す。すなわち、機械的に接触していないので、回転体が高速回転しても、長期間にわたって使用しても、機械的摩耗が発生せず、信頼性が高いセンサが得られる。
【0011】
また、磁気センサを用いた回転角センサの別の利点は、回転体とセンサとの間の距離を長くできることである。これは、磁界が比較的遠距離にまで作用が及ぶことに起因する。
例えば、GMR素子を用いた磁気センサとネオジム磁石のセンサ磁石(磁束発生体)とを組み合わせた場合、両者の距離は5〜15mm程度まで長くすることができる。これに対し、リラクタンスの変化により回転角を計測するレゾルバでは、回転体と検出器(センサ)との距離は数100μm程度と極めて狭い。回転体とセンサとの間の距離が長くできることは、回転体を構成要素とする回転機(例えばモータなど)の設計自由度を高めたり、製作公差を緩和したりするなどの利点がある。
【0012】
また、磁気センサを用いた回転角センサの別の利点は、回転体とセンサとの間に非磁性の物体があってもよいことである。非磁性体の磁化率χはほぼゼロ(|χ|<0.1)であるから、比透磁率μrはほぼ1であり、空気中の比透磁率とほぼ等しい。そのため、非磁性体があっても磁界の方向は無視できる程度にしか変化しないからである。このことは、回転体を構成要素とする回転機(例えばモータなど)の設計自由度を高める利点がある。
【0013】
従来の回転角センサでは、回転体に設置された磁束発生体と磁気センサとの間に非磁性の導体(導電体)を配置した場合、回転体が高速で回転したり移動したりする場合には、渦電流の発生により磁界角度を正しく計測できないという課題があった。すなわち、磁束発生体が高速で回転すると、導体位置での磁界が時間変化するため導体内に渦電流(eddy current)が発生する。渦電流の発生により、渦電流による磁界が発生するため、本来の元の磁束発生体が生成する磁界分布とは異なった磁界分布になってしまう。このため、磁気センサは磁束発生体自体が発生する磁界の方向を正しく検出できなくなる。
【0014】
この問題に対して、特許文献1では、磁束発生体(センサ磁石)が回転して渦電流の影響が出る場合には、回転体と磁気センサとの間に配置する非磁性体としてセラミックなどの非導体材料(非導電性材料)を用いることで、渦電流の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2008−533497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献1は、磁束発生体と磁気センサとの間に非磁性の導電体を配置することで発生する渦電流の影響を低減するために非導電性材料を用いるものであるが、使用材料が非導電性材料に限定されてしまうという課題があった。このため、磁束発生体と磁気センサとの間に金属などの導電体を配置できない、という制限があった。
また、渦電流は導電体が回転体と磁気センサとの間に配置された構成以外でも発生する。例えば、磁束発生体,磁気センサ,非磁性の導電体の順で配置された場合であっても、磁束発生体の回転に伴って導電体に渦電流が発生した場合に、磁気センサ地点での磁界方向に渦電流発生磁界が影響を与える場合がある。
すなわち、渦電流によって発生する磁界は、磁束発生体または磁気センサの近傍に非磁性の導電体が配置された構成で磁束発生体が高速で回転・移動する場合に発生し、これにより、磁気センサで磁束発生体自体が発生する磁界の方向についての検出する際にその検出精度が悪いといった課題がある。
【0017】
本発明の目的は、磁束発生体が高速に回転する場合であっても、磁束発生体または磁気センサの近傍に非磁性の導体(導電体)を配置した構成を用いて精度良く磁界角または回転角を計測することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題は、下記の構成により解決することができる。
【0019】
磁界方向に感応する磁気センサと、前記磁気センサからの出力が入力される検出部と、を備えた回転角計測装置であって、前記回転角計測装置は、磁束発生体を備えた回転体とともに用いられるものであり、前記磁気センサの出力は、前記磁界方向に対応した原角度信号セットであり、前記検出部は、前記回転体の回転速度を引数とする補正関数が出力する補正値を用いて前記磁気センサの近傍に配置された非磁性の導体の影響を補正した補正角度を出力することを特徴とする回転角計測装置。
【0020】
原角度信号セットを入力して補正角度信号を算出する回転角演算処理部と、前記補正角度信号が入力される制御部とを備えた制御装置であって、前記制御装置は、磁束発生体を備えた回転体と磁界の方向に感応する磁気センサとともに用いられ、前記原角度信号セットは、前記磁気センサから出力される出力信号であり、前記回転角演算処理部は、前記回転体の回転速度を引数とする補正関数が出力する補正値を用いて前記磁気センサの近傍に配置された非磁性の導体の影響を補正した補正角度を出力し、前記制御部は、前記補正角度に基づいて処理を行うことを特徴とする制御装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、磁束発生体が高速に回転する場合であっても、磁束発生体または磁気センサの近傍に非磁性の導体(導電体)を配置した構成を用いて精度良く磁界角または回転角を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施例の回転角計測装置の構成を示す図である。
【図2】GMR素子の構成を示す図である。
【図3】GMR素子を用いた磁気センサの構成を示す図である。
【図4】回転角計測装置の構成を示す図である。
【図5】回転角計測装置の特性評価装置の構成を示す模式図である。
【図6】計測誤差と回転速度の関係の実験結果を示す図である。
【図7(A)】センサ磁石と回転角計測装置との間に非磁性の導体を配置した構成の側面図である。
【図7(B)】図7(A)の上面図である。
【図8】第1の実施例の回転角計測装置の特性を示す実験結果である。
【図9】第2の実施例の回転角計測装置の構成を示す図である。
【図10】第3の実施例の回転角計測装置の構成を示す図である。
【図11】第4の実施例の回転角計測装置の構成を示す図である。
【図12】第4の実施例における補正関数を示す図である。
【図13】第5の実施例の回転角計測装置の構成を示す図である。
【図14】第6の実施例の回転角計測装置の構成を示す図である。
【図15】第7の実施例の制御装置の構成を示す図である。
【図16】第8の実施例の制御装置の構成を示す図である。
【図17】第9の実施例の制御装置の構成を示す図である。
【図18】第10の実施例の制御装置の構成を示す図である。
【図19】第11の実施例の制御装置の構成を示す図である。
【図20】第12の実施例の回転機の構成を示す図である。
【図21】第13の実施例の回転機の構成を示す図である。
【図22】第14の実施例の回転機システムの構成を示す図である。
【図23】第15の実施例の回転機システムの構成を示す図である。
【図24】第16の実施例の電動パワーステアリング装置の構成を示す図である。
【図25】第17の実施例の電動車両駆動装置の構成を示す図である。
【図26】第18の実施例の電動車両駆動装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、実施例の図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
(実施例1)
磁界方向計測型の磁気センサとして、ここではGMR素子を用いた磁気センサを例に述べる。
【0025】
GMR素子の基本構成を図2に示す。GMR素子は、第1の磁性層(固定磁性層、あるいはピン磁性層)13と第2の磁性層(自由磁性層)11とを有し、両者の磁性層の間に非磁性層(スペーサ層)12を挟み込んだ構成をとる。GMR素子に外部磁界を印加すると、固定磁性層13の磁化方向22は変化せず固定されたままであるのに対し、自由磁性層11の磁化方向20は外部磁界の方向30に応じて変化する。
【0026】
本明細書では、固定磁性層13の磁化方向22の角度をピン角(pin angle)と呼び、θpで表す。
【0027】
GMR素子の両端に電圧を印加すると素子抵抗に応じた電流が流れるが、その素子抵抗の大きさはピン角θpと自由磁性層11の磁化方向角度θf(20)との差Δθ=θf−θpに依存して変化する。したがって、ピン角θpが既知であれば、この性質を利用してGMR素子の抵抗値を測ることで自由磁性層11の磁化方向角度θf(20)、すなわち外部磁界の方向30を検出することができる。
【0028】
なお、GMR素子の抵抗値とΔθとの関係は(数1)で表されることが知られている。
【0029】
【数1】

【0030】
次に、図3にGMR素子を用いた磁気センサ(GMR型磁気センサ)の構成例を示す。
GMR型磁気センサはCOSブリッジ60とSINブリッジ61とで構成される。COSブリッジ60は、4個のGMR素子R1(51−1)〜R4(51−4)を使ってホイートストン・ブリッジ60Aを構成する。ここで、R1(51−1),R3(51−3)の固定磁性層13の磁化方向をθp=0とし、R2(51−2),R4(51−4)の固定磁化層13の磁化方向をθp=180°と設定する。自由磁性層11の磁化方向θfは外部磁界で決まるので4個のGMR素子で同一となるため、Δθ2=θf−θp2=θf−θp1−π=Δθ1+πの関係が成り立つ。ここで、Δθ1は、θp=0を基準としているので、Δθ1=θと置き換える。したがって、(数1)式からわかるように、R1,R3では(n=1,3)、
【0031】
【数2】

【0032】
となり、R2,R4では(n=2,4):
【0033】
【数3】

【0034】
となる。
【0035】
したがって、接地端子(図ではGNDと表記)を0Vとして励起端子75に励起電圧e0を印加すると、信号端子Vc1(71−1)とVc2(71−2)との電圧差は(数4)の通りになる。
【0036】
【数4】

【0037】
このように、信号電圧ΔVcはcosθに比例するので、このブリッジ回路をCOSブリッジと呼ぶ。
【0038】
なお、本実施例では、励起電圧e0は5Vにした。
【0039】
次にSINブリッジ61の構成を述べる。SINブリッジ61は、4個のGMR素子R1(52−1)〜R4(52−4)を使ってホイートストン・ブリッジ60Bを構成する。
ここでSINブリッジ61は、固定磁化層13の方向をCOSブリッジと90度変えた構成とする。すなわち、R1(52−1),R3(52−3)の固定磁性層13の磁化方向をθp=90°,R2(52−2),R4(52−4)の固定磁化層13の磁化方向をθp=270°と設定し、2種類のGMR素子でブリッジを構成する。このとき、上記と同様に、接地端子(図ではGNDと表記)を0Vとして励起端子75に励起電圧e0を印加すると、信号端子Vs1(72−1)とVs2(72−2)との電圧差は(数5)の通りになる。
【0040】
【数5】

【0041】
このように信号電圧ΔVsはsinθに比例するので、このブリッジ61をSINブリッジと呼ぶ。COSブリッジ60とSINブリッジ61の2つの出力信号の比の逆正接を計算することで、磁界ベクトルの方向θ(磁界角度)が求まる。
【0042】
【数6】

【0043】
(数6)の代わりに(数7)を用いると、0〜360°(または、−180°〜+180°)の角度範囲が求まる。
【0044】
【数7】

【0045】
ここで、θ=atan2(y,x)は、引数x,yが正か負かに応じて、θ=0〜360°(または−180〜180°)の値を適切に出力する関数である。例えば、x,yともに正の場合は、atan2(y,x)=ArcTan(y/x)であり、x,yともに負の場合は、atan2(y,x)=ArcTan(y/x)+180°である。
【0046】
このようにGMR素子で構成した磁気センサは、磁界方向を直接検出するという特徴がある。すなわち、磁界方向計測センサとなる。
【0047】
次に、回転角計測装置の基本構成を図4に示す。
【0048】
回転角計測装置80は、磁気センサ70と検出部302とで構成される。磁気センサ70は、GMR素子で構成されたCOSブリッジ60とSINブリッジ61を有する。各ブリッジの接地端子と励起端子75は図示を省略した。
【0049】
各ブリッジの信号端子の電圧信号(Vc1,Vc2),(Vs1,Vs2)は、検出部302に入力される。COSブリッジから出力される電圧信号対(Vc1,Vc2)は、差動増幅器351Aに入力され、信号Vx=Vc2−Vc1を出力する。SINブリッジから出力される電圧信号対(Vs1,Vs2)は、差動増幅器351Bに入力され、信号Vy=Vs2−Vs1を出力する。
【0050】
信号(Vx,Vy)は、信号処理部303に入力され、atan処理部383において(数7)に従う処理を行う。このようにして、角度信号θが出力される。
【0051】
これが、回転角計測装置の基本構成である。
【0052】
図4に示した、回転角計測装置の基本構成を用いて、高速回転する回転角を計測した実験結果を次に示す。
【0053】
図5に実験装置の構成を示す。センサ磁石202が設置された回転体121を回転中心線226を中心に回転させる構成である。センサ磁石202は磁束発生体としての機能を果たす。ここでは、2極に着磁した磁石を用いた。なお、回転により図5の矢印で記載したように磁界250が発生する。そして、センサ磁石202の近傍に図4の構成の回転角計測装置80を配置した。回転角計測装置80の設置場所は、回転中心線226上に配置し、センサ磁石202との距離は10mmとした。回転体121がθ°だけ回転すると、センサ磁石202が発生する磁界の方向もθ°だけ回転する。
【0054】
回転体121をモータ(図示せず)で回転させながら、回転角計測装置80から出力される角度信号を測定した。回転体121にはZ相信号発生器230を設置した。Z相信号発生器230は、光を透過させるスリットを設けた円盤と、発光ダイオードと光検出器とで構成されたもので、回転体121の原点位置において信号を発生する。すなわち、Z相信号発生器230から信号が発生した時点が、回転体121は原点位置に位置している時点である。
【0055】
このような実験構成において、Z相信号発生器230が信号を発生した時点、すなわち、回転体121が原点位置に位置する時点での、回転角計測装置80の出力角度を読み取り、その角度を位相角θzとする。
【0056】
図6は回転体121の回転速度f[Hz]を変えたときの位相角θz[deg](degはdegree(度)の略)の変化を測定した結果である。図中で○は、磁気センサ202の近傍に導体が無い場合の結果である。回転速度を0〜250[Hz]の範囲で変化させても位相角θzは一定である。すなわち、250[Hz]、すなわち、15000[rpm](毎分当たりの回転数)の高速回転時においても、回転角計測装置80は正しい回転角を出力している。
【0057】
次に、図5において、センサ磁石202と回転角計測装置80との間に、非磁性の導体であるアルミニウム板(板厚1mm)を配置して同じ測定を行った。その結果を図6中の●で示す。
【0058】
回転体121が静止している場合、すなわち、0Hzにおいては、アルミニウムは非磁性体なので磁界分布には影響しないので、正しい回転角を出力する。しかし、回転速度fが速くなるにつれて位相角θzはゼロからずれていき、f=250[Hz](15000[rpm])においては、θz<−5°になる。すなわち、5°以上の角度ズレが発生している。この結果は、導体(導電体)を配置したことで、回転角計測装置80が正しい回転角度を計測できなくなることを示している。
【0059】
ここで、非磁性とは常磁性体または反磁性体と定義する。また、非磁性の材料とは、磁化率χの絶対値が0.1以下の材料と定義する。
【0060】
非磁性の導体の材料は例えば、アルミニウム,銅,真鍮,ステンレスの一種であるSUS304などがある。
【0061】
非磁性の導体では、磁化率χの絶対値が0.1以下であるから、比透磁率μr(=1+χ)は0.9〜1.1である。したがって、これらの材料の透磁率は大気中や真空中の透磁率と概ね等しい。このため、静止磁界の場合には、非磁性の導体が配置されても静磁界の分布はほとんど変化しない。
【0062】
なお、非磁性の導体として、磁化率χの絶対値が0.01以下の材料を用いると、導体の有無による静磁界の分布の差が1%以下になるので、さらに好ましい。
【0063】
導体とは、電子やイオン,ホールなどの電荷キャリヤをその物質内に有し、電圧が印加されると電荷キャリヤの移動により電流が流れる物質である。導体の比抵抗(抵抗率)は概ね1Ωm以下である。後述の通り、渦電流の影響は比抵抗が低いほど大きくなる。導体の形状にもよるが、特に、比抵抗が1×10-4Ωm以下になると渦電流の影響が顕著に現れる。比抵抗が1×10-5Ωm以下になると、その影響はさらに顕著になる。
【0064】
後述の通り、渦電流の影響は形状や配置、磁石の回転速度にも依存する。その材料内に発生した渦電流が生成する誘起磁界が、磁界センサの計測値に影響を与える場合には、上記の抵抗値範囲を超える材料であっても本発明の「導体」に含まれる。
【0065】
また、図6に示したような、角度ズレθzと回転速度fとの関係は、導体の材料,形状,配置される位置によって変化することを発明者は見出した。例えば、非磁性の導体の材料としてSUS304(板厚1mm)を用いた場合には、回転速度250Hzでの角度ズレは0.3°であった。また、アルミニウムの板厚を3mmにした場合には、角度ズレは1mm厚のアルミニウム板の場合よりも、さらに角度ズレが大きくなった。
【0066】
次に、この角度ズレの原因について図7を用いて説明する。
【0067】
図7(A)は、センサ磁石202と回転角計測装置80との間に非磁性の導体240を配置した構成の側面図である。非磁性の導体240は、上記の実験ではアルミニウム板である。図7(B)は、同図(A)の配置を上から見た図である。センサ磁石202の回転方向は矢印260で示してある。
【0068】
図7(A)の側面図において、磁束発生体であるセンサ磁石202が矢印260の方向に移動すると、非磁性の導体240と鎖交する磁束が変化するため、非磁性の導体240中にはその磁束変化を打ち消す方向の渦電流が流れる。この渦電流は誘起磁界251を誘起する。誘起磁界251の方向は図7(A)に示した通り、導体に鎖交する磁束の変化を打ち消す方向である。
【0069】
渦電流の誘起磁界251が回転角計測装置80の地点に及ぼす磁界の方向は図7(B)に図示したようになる。したがって、回転角計測装置80は、センサ磁石202が生成する磁界250と渦電流の誘起磁界251との合成磁界252を検出することになる。図7(B)に図示したように、合成磁界252の向きは磁石の磁界250の向きからずれる。
このために、回転体121の角度と回転角計測装置80の出力角度との間で角度ズレが生じる。
【0070】
渦電流の誘起磁界251の大きさは、渦電流が大きいほど大きくなる。渦電流は、導体との鎖交磁束の時間変化量が大きいほど大きくなるので、センサ磁石202の回転速度が速くなるほど渦電流の誘起磁界251も大きくなる。このため、回転速度が速くなるほど、回転角計測装置80の出力角度の角度ズレ量も大きくなる。
【0071】
また、鎖交磁束の時間変化量が同じ場合では、非磁性の導体240のシート抵抗が小さいほど渦電流が大きくなる。シート抵抗は材料の比抵抗に比例し、板厚に反比例する。したがって、比抵抗が小さな材料ほど角度ズレが大きくなる。SUS304板(比抵抗ρ=72×10-8Ωm)よりもアルミニウム板(比抵抗ρ=2.75×10-8Ωm)の方が角度ズレが大きくなる原因は、このためである。また、板厚が厚いほど角度ズレが大きくなる。
【0072】
このメカニズムからわかるように、渦電流の誘起磁界251による計測角度ズレは、非磁性の導体240を回転角計測装置80の近傍に配置した場合に汎用的に発生する課題である。例えば、センサ磁石202,回転角計測装置80,非磁性の導体240の順番で配置した場合でも、非磁性の導体240中に渦電流が誘起される条件であれば、角度ズレが発生する。
【0073】
発明者は、回転角計測装置80で計測された角度信号と回転体121の角度との関係を詳細に測定した結果、計測された角度の誤差は、角度原点のズレのみ、すなわち位相ズレのみであることを見出した。
【0074】
以上の発明者による実験結果をまとめると以下の通りである。
(1)磁気センサの近傍に非磁性の導体(導電体)があると、高速回転時に計測誤差を生じる。
(2)計測誤差は、角度原点のズレ、すなわち位相ズレである。
(3)角度原点のズレは、回転速度の関数である。
(4)角度原点のズレの回転速度依存性を示す関数の形は、少なくとも導体の材料,形状,配置される位置に依存する。
【0075】
(1)において「近傍」とは、その導体の存在により回転角度の計測値に誤差が生じる範囲と定義される。本明細書では、0.1°以上の計測誤差が生じる範囲を「近傍」と定義する。これは、通常の用途では、0.1°以上の誤差は有意な誤差であるためである。
【0076】
次に、本実施例における回転角計測装置の構成を図1を用いて説明する。
【0077】
本実施における回転角計測装置80は、磁気センサ70と検出部302とで構成される。磁束発生体(センサ磁石)202が設置された回転体121は、回転中心線226を中心に回転し、その回転角度をθrとする。回転角計測装置80は、センサ磁石202の磁界の方向を計測することで、回転体の回転角度θrを計測する。
【0078】
磁気センサ70は、原角度信号セット155を出力する。原角度信号セット155とは、磁気センサ70が検出した磁界方向の情報を担う信号または信号群を指す。
【0079】
原角度信号セット155の具体的な信号形態は磁気センサ70により異なる。例えば、磁界の角度に比例した電圧信号を出力する磁気センサの場合には、原角度信号セット155はその電圧信号であり、スカラー量である。また、図4に示した磁気センサ70の場合には、信号のセット(Vc1,Vc2,Vs1,Vs2)が原角度信号セット155となる。この場合は、(数4),(数5),(数7)が示す通り、これら4つの信号で磁界方向の角度θを求めるからである。また、差動増幅器351A,351Bが内蔵された磁気センサの場合には、信号セット(ΔVc,ΔVs)が原角度信号セット155となる。この場合、(数7)により磁界方向の角度θを求めるからである。また、磁界のX成分VxとY成分Vyとを出力する磁気センサの場合は、(Vx,Vy)が原角度信号セット155となる。この場合、atan2(Vy,Vx)で磁界の角度が求まるからである。
【0080】
原角度信号セット155は、デジタル的な信号の場合もある。例えば、角度0〜360°に対応して0〜(2の12乗−1)の値を出力する12ビット角度出力信号の場合は、これが原角度信号セット155になる。
【0081】
磁気センサ70から出力された原角度信号セット155は検出部302に入力される。
検出部302内の角度算出部311において、原角度信号セット155は単純角度信号156(θ1)に変換される。単純角度信号156(θ1)は、原角度信号セット155から算出された角度であり、磁気センサ70が検出した磁界の角度(磁界角度)に対応する。
【0082】
図4の構成の磁気センサ70の場合、単純角度信号156(θ1)は、(数7)で表されるθである。
【0083】
角度算出部311では、回転体121の回転速度153(ω)も算出する。回転速度153(ω)は、原角度信号セット155の時間変化、あるいは、単純角度信号156(θ1)の時間変化から計算できる。例えば、(θ1,ω)の2変数を状態変数としたカルマンフィルタを用いて回転速度ωを計算できる。
【0084】
検出部302内の補正部320には、回転速度153(ω)が入力される。補正部320では、渦電流の発生により生じる誤差を補正する補正値を、適切な補正関数を用いて出力する。具体的には、補正部は、回転速度153(ω)を引数とする補正関数Fed(ω)を有しており、回転速度に応じた角度ズレ(位相ズレ)の補正値を出力する。
【0085】
補正関数Fed(ω)の具体例として、図6の結果を得た配置の場合を述べる。この配置での補正関数として、以下の式を用いた。
【0086】
【数8】

【0087】
ここで、回転速度ωは[Hz]単位、すなわち、1秒間当たりの回転数で表した値である。
【0088】
上記の例では、補正関数Fed(ω)として一次関数を用いたが、本発明の補正関数は一次関数に限るわけではない。2次以上の多項式を用いても良いし、回転速度ωと補正値との対応を示した参照表(Look-up table)を用いてもよい。
【0089】
単純角度信号156(θ1)を補正関数Fed(ω)を用いて補正した値は、補正角度信号151(θ2)として角度出力端子90に出力される。具体的には、補正関数Fed(ω)で与えられる補正値を、単純角度信号156(θ1)に加算したものが補正角度信号151(θ2)になる。すなわち、数式で示すと(数9)となる。
【0090】
【数9】

【0091】
上記の実験結果の(2)に記した通り、非磁性の導体240の存在による計測誤差は、角度原点のズレ、すなわち位相ズレであるから、補正関数Fed(ω)は回転角の値には依存しない。
【0092】
また、(数9)は次のようにも表せる。
【0093】
【数10】

【0094】
すなわち、角度出力端子90から出力される補正角度信号151(θ2)と、原角度信号セット155から求まる単純角度信号156(θ1)との差(θ2−θ1)は、回転速度ωに依存するが、回転角の値には依存しない、すなわち、回転角とは独立の値である。
【0095】
図5において、センサ磁石202と回転角計測装置80との間に厚さ1mmのアルミニウム板を設置した配置において、回転角計測装置80として図1の構成のものを用いた場合の計測誤差の実測値を図8に示す。
【0096】
図8において、●は補正なし、すなわち図4の構成の回転角計測装置を用いた場合である。これに対し、△は図1の構成の回転角計測装置80を用いた場合である。補正関数には(数8)を用いた。補正関数を用いた場合には、回転速度fが250Hzにおいても計測誤差が生じていない。このように、本実施例の構成の回転角計測装置80を用いれば、例えば、磁気センサの電気ノイズ対策として非磁性の導体240をシールド板として配置した構成では、磁束発生体が高速に回転すると渦電流の影響により正しく磁界方向(回転方向)が計測できないという課題が生じていたところ、回転角計測装置80の近傍に非磁性の導体が配置された場合でも、静止状態(0Hz)から高速回転まで精度良く、回転体121の回転角θを計測することができる。
【0097】
(実施例2)
本発明を用いた第2の実施例について図9を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0098】
本実施例では、回転角計測装置80に回転速度信号入力端子94を備えている。回転体121の回転速度に対応した信号を回転速度信号入力端子94から入力することで、その回転速度153(ω)に対応した補正値を補正部320で算出し、その補正値により単純角度信号156(θ1)を補正して、補正角度信号151(θ2)を角度出力端子90に出力する。
【0099】
本実施例では、回転速度153(ω)を算出する必要がないので、検出部302の構成が単純になるという利点がある。
【0100】
さらに、単純角度信号156(θ1)の時間変化から回転速度153(ω)を算出すると、単純角度信号(θ1)のノイズの影響を受けやすくなるが、本実施例ではそのような問題も生じない。
【0101】
回転速度信号入力端子94への入力は、回転体121の回転速度を計測する回転速度センサの出力信号を入力すればよい。
【0102】
なお、回転速度センサとしては、タコジェネレータなどを用いるとよい。
【0103】
また、回転体121を回転させるモータから回転速度に対応する信号を出力し、それを回転速度信号入力端子94に入力してもよい。モータとして直流モータを用いている場合には、モータ電圧が回転速度に比例するので、適切な信号変換を施すことで、それを回転速度信号として用いることができる。
【0104】
(実施例3)
本発明の第3の実施例について図10を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0105】
本実施例は図1の構成に加えて補正関数設定手段95を有する。
【0106】
前述の通り、角度原点のズレの回転速度依存性を示す関数の形は、少なくとも導体の材料,形状,配置される位置に依存する。したがって、適切な補正関数の関数形も、導体の材料,形状,配置される位置に依存する。
【0107】
本実施例の回転角計測装置80では、補正関数設定手段95を備えるため、補正関数の関数形を変更することが可能である。このため、回転角計測装置80が使用される条件に応じて、適切な補正関数を設定できる。
【0108】
補正関数設定手段95は、具体的には、通信端子により実現できる。補正関数として(数8)を用いる場合を例にすると、「+0.021」というパラメータを通信端子95を経由して回転角計測装置80に入力し、補正部320内にそのパラメータを記憶・保管する。通信端子としては、補正関数設定に専用の通信端子を設ける必要は必ずしもなく、他のパラメータを設定する通信端子と共用してもよい。ここで、「他のパラメータ」としては、例えば、原角度信号セット155のオフセット補正パラメータなどがある。
【0109】
このように、本実施例によれば、汎用性のある回転角計測装置80を提供できるという効果がある。
【0110】
なお、ここで述べた「補正関数の関数形」とは、前述の通り、1次関数や2次以上の多項式に限定されず、他の関数形や、参照表などの形式も含まれる。
【0111】
図10では、図1の構成に、補正関数設定手段95を加えた構成を示したが、本実施例はこれに限定されるものではなく、図9の構成に補正関数設定手段95を加えた構成でも良い。このような構成でも、汎用性のある回転角計測装置80が提供できるという効果が得られる。
【0112】
(実施例4)
本発明の第4の実施例について図11を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0113】
本実施例は、図1の構成に加えて、基準位置信号入力端子96を有する。
【0114】
本実施例では適切な補正関数を自動的に取得することを可能にすることを目的とする。
以下に、その具体的な方法を述べる。
【0115】
ここでは、一例として補正関数として1次式を用いる場合について述べる。
【0116】
回転体121には基準位置信号発生器230を設置する。基準位置信号発生器230は、回転体121がある特定の角度(基準位置)にある時点で信号を発生するものである。
回転体の基準位置とは、回転体の回転の原点と考えても良い。基準位置信号発生器230の具体的構成例は、図5に記載した通り、光学的スリットと発光ダイオード、受光器の組み合わせである。基準位置信号発生器230で発生させた信号を回転角計測装置80の基準位置信号入力端子96に入力する。
【0117】
この状態で、回転体121を複数の回転速度ωn(n=1,2,……)で回転させ、基準位置信号が入力された時点での単純角度の値θ1z(ωn)を測定し、その値を記憶させておく。これらの値を図12のようにプロットする。1次の補正関数を用いる場合には、2種類の回転速度ω1とω2とで単純角度の値θ1z(ω1)とθ1z(ω2)すれば、次式で補正関数Fed(ω)が求まる。
【0118】
【数11】

【0119】
これは、図8に示した「補正なし」の時のθz−回転速度fの特性を回転速度ωの関数で表し、それにマイナス符号をつけたものに相当する。
【0120】
一次式の補正関数を得る際に、図8のように、3種類以上の回転速度において単純角度θ1z(ωn)を測定し、最小2乗法を用いて補正関数を求めても良い。
【0121】
補正関数として、2次以上の多項式を用いる場合や、参照表を用いる場合も、上記と同様の方法で補正関数を求めることができることは明らかである。
【0122】
このように、本実施例の回転角計測装置80は、基準位置信号入力端子96を備えているために、補正関数を自動的に取得することが可能になるという効果がある。
【0123】
(実施例5)
本発明の第5の実施例について図13を用いて説明する。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0124】
本実施例では、非磁性の導体240をセンサ磁石202(磁束発生体)と磁気センサ70との間に配置したものである。本実施例での回転角計測装置80の構成は図1に示した構成である。
【0125】
本実施例によれば、補正部320において渦電流による誘起磁界の誤差の補正がなされるので、センサ磁石202と磁気センサ70との間に非磁性の導体240が挿入された配置においても、回転体121を高速回転させても精度よく回転角を計測することが可能である。
【0126】
センサ磁石202と磁気センサ70との間に非磁性の導体240を配置することの利点は、後に回転機に適用した実施例を用いて具体的に述べる。
【0127】
(実施例6)
本発明の第6の実施例について図14を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0128】
本実施例は、磁気センサ70と検出部302と非磁性の導体240とをパッケージ218で一体化した回転角計測装置80である。検出部302の構成は、図1の構成または図9乃至図11の構成などを用いる。
【0129】
パッケージ218は、例えば樹脂を用いてモールド成型して一体化してもよい。
【0130】
検出部302の角度出力端子90はパッケージ218の外側に取り出される。
【0131】
本実施例では、磁気センサ70と検出部302に近接して非磁性の導体240を配置しているため、電気的ノイズを低減できるという効果がある。非磁性の導体240の材料は、比抵抗が小さい材料ほど電気的ノイズの低減効果が大きい。本実施例では銅(比抵抗ρ=1.7×10-8Ωm)を用いた。
【0132】
従来の回転角計測装置では、磁気センサ70に近接して非磁性の導体240を配置すると、高速回転時の回転角を計測する際に、非磁性の導体240に誘起される渦電流による計測誤差が発生して計測精度が劣化するという問題があった。前述の通り、この問題は非磁性の導体240の材料の比抵抗が小さいほど計測精度劣化の程度が大きい。本実施例によれば、検出部302は補正部320において補正関数を用いて渦電流の影響を補正するので、図14の構成でも、静止状態から高速回転まで高精度な回転角計測が可能である。
このため、電気的ノイズ低減用の非磁性の導体240の材料の選択の自由度が広がるという効果がある。
【0133】
(実施例7)
本発明の第7の実施例である制御装置について図15を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0134】
本実施例の制御装置85は、図15に示したように、センサ磁石(磁束発生体)202を備えた回転体121と、磁気センサ70とともに用いられるものである。
【0135】
制御装置85は、磁気センサ70からの出力信号を原角度信号セット155として入力する原角度信号入力端子93を備える。制御装置85は、回転角演算処理部305と制御処理部308とで構成される。
【0136】
回転角演算処理部305は、角度算出部311と補正部320を備える。原角度信号入力端子93から入力された原角度信号セット155は角度算出部311に入力され、単純角度θ1が算出される。また、原角度信号セット155の時間変化から、回転速度153(ω)も算出される。回転速度153(ω)は、補正部320に入力され、回転速度153(ω)を引数とする補正関数Fed(ω)を用いて補正値の値を求める。そして、単純角度θ1に補正値を加算することで補正角度信号151(θ2)を算出し、回転角演算処理部305から出力される。
【0137】
補正角度信号151(θ2)は、制御処理部308に入力され、制御処理部308はその補正角度信号151(θ2)を元に制御処理を行う。
【0138】
制御処理部308が行う制御処理は、制御装置85の制御対象によるが、以下にいくつかの例を上げる。
【0139】
制御装置85がモータの駆動を制御する制御装置(コントローラ)である場合には、補正角度信号151(θ2)に基づいて回転体121の回転角を検出し、検出された回転角に応じたモータ電圧印加信号をモータ駆動回路に出力する。これにより、制御装置85はモータの駆動を制御する。
【0140】
制御装置85が電動パワーステアリングを制御する制御装置(コントローラ)である場合には、補正角度信号151(θ2)に基づいて、ステアリングの状態を検出し、ハンドル操作による指令値などの情報と合わせて、ステアリング駆動用モータの状態を適切に制御する。
【0141】
制御装置の例としては、電子制御コントローラ(ECU、Electronic Controller Unit)を含む。ECUはマイクロコンピュータ(MPU、Micro-Processor Unit)を用いた制御装置である。
【0142】
(実施例8)
本発明の第8の実施例について図16を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0143】
本実施例の制御装置85は、センサ磁石(磁束発生体)202を備えた回転体121と、磁気センサ70とともに用いられる。
【0144】
制御装置85は、磁気センサ70からの出力信号を原角度信号セット155として入力する原角度信号入力端子93を備える。制御装置85は、回転角演算処理部305と制御処理部308とで構成される。
【0145】
制御装置85は、回転速度信号入力端子94を備える。回転速度信号入力端子94に入力された回転速度ωの信号は、回転角演算処理部305内の補正部320に入力される。
補正部320は、この回転速度ωの値を用いて補正関数Fed(ω)により適切な補正値を算出する。
【0146】
本実施例では、上記構成により角度算出部311は回転速度ωを算出する必要がないので、構成が簡単になるという効果がある。
【0147】
(実施例9)
本発明の第9の実施例について図17を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0148】
本実施例の制御装置85は、センサ磁石(磁束発生体)202を備えた回転体121と、磁気センサ70とともに用いられる。
【0149】
制御装置85は、磁気センサ70からの出力信号を原角度信号セット155として入力する原角度信号入力端子93を備える。制御装置85は、回転角演算処理部305と制御処理部308とで構成される。
【0150】
本実施例では、回転角演算処理部305内の補正部320に入力する回転速度153として速度指令値ωcを用いる。速度指令値ωcは、制御処理部308から出力する。
【0151】
速度指令値ωcとは、制御装置85が回転機の制御処理を行う場合、目標とする回転速度の設定値である。この速度指令値ωcは、制御処理部308が有するので、その信号を用いることができる。
【0152】
本実施例では上記構成により、角度算出部311で速度算出処理が不要であるばかりでなく、速度信号を外部から入力する必要もない。このため、制御装置85の構成を単純化できるという効果がある。
【0153】
(実施例10)
本発明の第10の実施例について図18を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0154】
本実施例の制御装置85は、センサ磁石(磁束発生体)202を備えた回転体121と、磁気センサ70とともに用いられる。
【0155】
制御装置85は、磁気センサ70からの出力信号を原角度信号セット155として入力する原角度信号入力端子93を備える。制御装置85は、回転角演算処理部305と制御処理部308とで構成される。
【0156】
本実施例の制御装置85は、補正関数設定手段95を備える。
【0157】
前述の通り、角度原点のズレの回転速度依存性を示す関数の形は、少なくとも導体の材料,形状,配置される位置に依存する。したがって、適切な補正関数の関数形も、導体の材料,形状、位置に依存する。
【0158】
本実施例の制御装置85では、補正関数設定手段95を備えるため、補正関数の関数形を変更することが可能である。このため、制御装置85が使用される条件に応じて、適切な補正関数を設定できる。
【0159】
補正関数設定手段95は、具体的には、通信端子により実現できる。補正関数として(数8)を用いる場合を例にすると、「+0.021」というパラメータを通信端子95を経由して回転角計測装置80に入力し、補正部320内にそのパラメータを記憶・保管する。通信端子としては、補正関数設定に専用の通信端子を設ける必要は必ずしもなく、他のパラメータを設定する通信端子と共用してもよい。ここで、「他のパラメータ」としては、例えば、原角度信号セット155のオフセット補正パラメータなどがある。
【0160】
このように、本実施例によれば、汎用性のある制御装置85を提供できるという効果がある。
【0161】
なお、ここで述べた「補正関数の関数形」とは、前述の通り、1次関数や2次以上の多項式に限定されず、他の関数形や、参照表などの形式も含まれる。
【0162】
図18では、図15の構成に、補正関数設定手段95を加えた構成を示したが、本実施例はこれに限定されるものではなく、図16や図17の構成に補正関数設定手段95を加えた構成でも良い。このような構成でも、汎用性のある制御装置85が提供できるという効果が得られる。
【0163】
(実施例11)
本発明の第11の実施例について図19を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0164】
本実施例は、図15の構成に加えて、基準位置信号入力端子96を有する。
【0165】
本実施例は、適切な補正関数を自動的に取得することを可能にするためのものである。
補正関数を自動的に取得する方法は、先の実施例4で述べた図11の構成の回転角計測装置80で用いた方法と同様である。
【0166】
このように、本実施例の制御装置85は、基準位置信号入力端子96を備えているために、補正関数を自動的に取得することが可能になるという効果がある。
【0167】
(実施例12)
本発明の第12の実施例について図20を用いて回転角計測装置を用いた回転機について述べる。なお、本明細書では、「回転機」とはモータのみでなく、「発電機」、すなわち機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する機械も含む。
【0168】
図20は本実施例における回転機の断面図を示す。本実施例はモータ部100と回転角検出部200とで構成される。
【0169】
モータ部100は、複数の固定磁極と複数の回転磁極との磁気的作用により複数の回転磁極が回転することにより回転トルクを発生するものであって、複数の固定磁極を構成するステータ110及び複数の回転磁極を構成するロータ120から構成される。ステータ110は、ステータコア111と、ステータコア111に装着されたステータコイル112から構成されている。ロータ120は、ステータ110の内周側に空隙を介して対向配置され、回転可能に支持されている。本実施例では、モータの構成として三相交流式の表面磁石型同期モータを用いている。
【0170】
筐体は、円筒状のフレーム101と、フレーム101の軸方向両端部に設けられた第1ブラケット102および第2ブラケット103から構成されている。第1ブラケット101の中空部には軸受106が、第2ブラケット103の中空部には軸受107がそれぞれ設けられている。これらの軸受は回転体121を回転可能なように支持している。
【0171】
フレーム101と第1ブラケット102との間にはシール部材(図示せず)が設けられている。シール部材は、環状に設けられたOリングであり、フレーム101と第1ブラケット102によって軸方向及び径方向から挟み込まれて圧縮する。これにより、フレーム101と第1ブラケット102との間を封止でき、フロント側を防水できる。また、フレーム101と第2ブラケット103との間もシール部材(図示せず)により防水されている。
【0172】
ステータ110は、ステータコア111と、ステータコア111に装着されたステータコイル112から構成され、フレーム101の内周面に設置されている。ステータコア111は、複数の珪素鋼板を軸方向に積層して形成した磁性体(磁路形成体)であり、円環状のバックコアと、バックコアの内周部から径方向内側に突出して、周方向に等間隔に配置された複数のティースから構成されている。
【0173】
複数のティースのそれぞれには、ステータコイル112を構成する巻線導体が集中的に巻回されている。複数の巻線導体は、ステータコイル112の一方のコイルエンド部(第2ブラケット103側)の軸方向端部に並置された結線部材によって相毎に電気的に接続され、さらには3相巻線として電気的に接続されている。3相巻線の結線方式にはΔ(デルタ)結線方式とY(スター)結線方式がある。本実施例では、Δ(デルタ)結線方式を採用している。
【0174】
ロータ120は、回転体121の外周面上に固定されたロータコアと、マグネットとで構成される(ロータコアとマグネットは図示せず)。表面磁石型永久磁石モータでは、複数のマグネットをロータコアの表面に配置する。埋込磁石型永久磁石モータではマグネットをロータコアの内部に埋め込む。本実施例では、埋込磁石型永久磁石モータを用いた。
【0175】
次に、回転角検出部200の構成を説明する。
【0176】
回転角検出部200は、回転角計測装置80(以下、回転センサ・モジュール201と呼ぶ)とセンサ磁石202とで構成されている。なお、回転センサ・モジュール201は例えば本発明の実施例1の回転角計測装置80を用いる。回転角検出部200はハウジング203と第2ブラケット103とで囲まれた空間に設置されている。センサ磁石202は回転体121と連動して回転する軸に設置されており、回転体121が回転位置を変えると、それに応じて発生する磁界方向が変化する。この磁界方向を回転センサ・モジュール201で検出することにより回転体121の回転角(回転位置)を計測できる。
【0177】
回転センサ・モジュール201は、回転体121の回転中心線226上に回転センサ・モジュール201の磁気センサ70が配置されるように設置すると、センサ磁石202が発生する磁界の空間分布に誤差が少なくなるので好ましい配置である。
【0178】
センサ磁石202は、2極着磁された2極磁石、あるいは4極以上に着磁された多極磁石であるとよい。
【0179】
回転センサ・モジュール201はハウジング203に設置されている。ハウジング203は磁束方向に影響を与えないようにアルミニウムや真鍮など非磁性の導体を用いるのがよい。本実施例ではアルミニウムで構成した。
【0180】
このように回転角計測装置80の磁気センサ70に近接して非磁性の導体がハウジング203として設置されているため、回転体121が高速で回転すると、渦電流による誘起磁界が発生する。すなわち、ハウジング203に渦電流が誘起され、それによる誘起磁界が発生する。
【0181】
従来、非磁性の導体が磁気センサ70に近接して設置されているため、渦電流による誘起磁界の影響により、回転体121が高速回転すると回転角の計測精度が劣化していた。
または、そのような劣化を防ぐために、ハウジング203の回転角計測装置80の近傍部分を、樹脂などの非導体材料を用いる必要があった。
【0182】
しかしながら、本実施例では、回転センサ・モジュール201(回転角計測装置80)は、本発明の実施例1に記載の回転角計測装置80を用いており、このため、渦電流による計測誤差が補正され、停止時から高速回転に至る範囲において、高精度な回転角を計測できる。
【0183】
なお、回転センサ・モジュール201はモータ部に対して固定されていればよく、ハウジング203以外の構成要素に固定してももちろん構わない。モータ部100に対して固定されていれば、回転体121の回転角が変化してセンサ磁石202の方向が変化した場合、磁界センサ201部での磁界方向変化を検出することで回転体121の回転角を検出することができるからである。
【0184】
回転センサ・モジュール201には信号出力配線208が接続されている。信号出力配線208により回転センサ・モジュール201の出力信号を伝送する。
【0185】
(実施例13)
本発明の第13の実施例について図21を用いて述べる。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0186】
本実施例では、例えば実施例1の回転角計測装置80をハウジング203の外側に設置した。ハウジング203は非磁性の導体(導電体)240で構成する。本実施例ではハウジング203の材料としてアルミニウムを用いた。すなわち、センサ磁石202(磁束発生体)と磁気センサ70の間に非磁性の導体240が配置されている構成である。
【0187】
このように回転機のハウジング203の外側に回転角計測装置80を設置すると、回転角計測装置80の設置が簡単になるという効果がある。また、回転角計測装置80の交換も容易になるという効果がある。
【0188】
回転機のハウジング203の外側に回転角計測装置80を設置すると、回転角計測装置80の信号出力配線208の設置も容易になる。回転角計測装置80がハウジング203の内側にある場合は、信号出力配線208を外側に取り出すためにハウジング203に取り出し孔を開ける必要があるが、回転角計測装置80を外側に設置すればその必要がない。特に、防水構造の回転機を製作する際には、配線取り出し部の防水構造が複雑になるが、この点が容易になるという効果がある。このように、モータや発電機などの回転機において、磁束発生体を設置した回転体を金属製の筐体内に設置したいという要求があった。
【0189】
しかしながら、前述の通り従来ではこのような構成をすると渦電流による誘起磁界の影響により、回転体121が高速回転すると回転角の計測精度が劣化していた。または、そのような劣化を防ぐために、ハウジング203のセンサ磁石202と回転角計測装置80の間の部分を、樹脂などの非導体材料を用いる必要があった。
【0190】
本実施例では、回転センサ・モジュール201(回転角計測装置80)は、本発明の実施例1に記載の回転角計測装置を用いた。このため、渦電流による計測誤差が補正されるため、停止時から高速回転に至る範囲において、高精度に回転角を計測できる。
【0191】
このように、本発明によれば、磁束発生体を設置した回転体を金属製の筐体内に設置した構成でも、筐体の外側からその回転体の回転角を高精度に計測できる。
【0192】
(実施例14)
本発明の第14の実施例である回転機システムについて図22を用いて述べる。
【0193】
本実施例の回転機システムは、回転機100,センサ磁石(磁束発生体)202,回転角計測装置80,ハウジング203,電子制御ユニット(ECU)411,回転機駆動部412とで構成される。
【0194】
回転角計測装置80によって、回転機100のロータ(回転体)121の回転角を精度良く計測する。電子制御ユニット411は、その情報を用いて回転機駆動部412を適切に制御して回転機100の動作を制御する。
【0195】
本実施例では、ハウジング203には非磁性の導体を用いた。そのため、ロータ121が高速に回転するとハウジング203に渦電流が発生して、誘起磁界が生成する。
【0196】
本実施例の回転角計測装置80は、図1の構成のものを用いた。したがって、本実施例の回転機システムにおいても渦電流が発生しても補正関数により正しく回転角を計測することができる。
【0197】
(実施例15)
本発明の第15の実施例である回転機システムについて図23を用いて述べる。
【0198】
本実施例の回転機システムは、回転機100,センサ磁石(磁束発生体)202,磁気センサ70,ハウジング203,制御装置(ECU)85,回転機駆動部412とで構成される。なお、制御装置85の構成は、図15の構成である。
【0199】
磁気センサ70は、磁界の方向に応じた原角度信号セット155を出力する。出力された原角度信号セット155は、制御装置85の原角度信号入力端子93に入力される。図15の説明で記載したように、図15の制御装置はセンサ磁石202が高速に回転した場合でも、渦電流の影響を補正した補正角度を出力するので、制御装置85内では回転機100のロータ(回転体)121の回転角を精度良く算出できる。
【0200】
制御装置85の制御処理部308は、この補正角度に基づいて、回転機駆動部412を適切に制御して、回転機100の動作を制御する。
【0201】
本実施例では、ハウジング203には非磁性の導体を用いた。そのため、回転体121が高速に回転するとハウジング203に渦電流が発生して、誘起磁界が生成するが、このように、本実施例によれば、渦電流の補正機能を持たない磁気センサ70を用いた回転機システムにおいて、制御装置85で適切な補正を行うことで、高速回転時でも高精度な制御が可能である。
【0202】
(実施例16)
本発明による第16の実施例として電動パワーステアリングシステム(Electric Power-Assisted Steering)の例を図24に示した。
【0203】
ハンドル501に機械的に連結したステアリング・シャフト503は、トルクセンサ502を経由して連結部504に接続される。減速ギアなどで構成された連結部504には、モータ100の回転体121が接続される。さらに、連結部504には、連結シャフト505が接続される。連結シャフト505は、ギアボックス506に接続される。ギアボックス506にはタイロッド507が接続される。ギアボックス506は、連結シャフト505の回転運動をタイロッド507の直線運動に変換する。タイロッド507の両端にはタイヤ(図示せず)が配置されており、タイロッドの直線運動に応じてタイヤの向きが変化する。
【0204】
回転体121は回転機(モータ)100の回転軸であり、一方の端にセンサ磁石202が設置されている。センサ磁石202の近傍には回転角計測装置80が設置されており、回転体121の回転角を計測してECU411に送信する。なお、回転角計測装置80は、例えば本発明の実施例1、すなわち、図1の構成の回転角計測装置80を用いる。
【0205】
運転者がハンドル501を回すと、その回転状態はトルクセンサ502で検出され、ECU411に電気信号として伝達される。ECU411は、トルクセンサ502からの信号と、回転角計測装置80からの回転角信号θ、および車速信号などから適切なモータ駆動量を算出し、モータ駆動部412に信号を送信する。これによりモータ100は回転体121を回転駆動し、連結シャフト505の回転をアシストする。このようにして、タイヤの向きを動かす運動をアシストする。
【0206】
本実施例において、回転角計測装置80の構成は図1の構成を用いたため、回転角計測装置80の近傍に非磁性の導体を配置しても正しい回転角を計測できる。
【0207】
回転角計測装置80をモータ100のハウジングの外側に設置すると、特に防水構造のモータ100を製作する際に、簡単な構成になるという効果がある。
【0208】
(実施例17)
本発明の第17の実施例について図25を用いて説明する。本実施例は回転角計測装置を用いたハイブリッド自動車駆動装置(電動車両駆動装置)の例である。
【0209】
図25は自動車の動力として内燃機関エンジンと電気モータとを組み合わせたハイブリッド自動車駆動装置(電動車両駆動装置)の模式図である。エンジン553の出力回転軸と発電機552,駆動モータ551とは同軸線上に配置されており、それぞれは動力分配機構554の働きで適切に動力が伝達される。動力分配の仕方は、車両の走行状態,加速指令状態,バッテリーの充電状態などの情報に基づいて適切に設定される。また、動力分配機構554から動力シャフト558に動力を伝達する動力結合機構557が設けられている。
【0210】
駆動モータ551には、図21に記載の回転機を用いた。駆動モータ551は図21に記載したように、モータ部100と回転角検出部200とで構成される。回転角検出部200はセンサ磁石202(磁束発生体)と回転角計測装置80とで構成される。なお、回転角計測装置80の構成は図1に示した構成である。
【0211】
センサ磁石202は、駆動モータ551の筐体の一部を形成するハウジング203の外側に設置されている。ハウジング203は、非磁性の導体を用いた。本実施例ではアルミニウムを用いる。
【0212】
発電機552には発電機回転角センサ562が設置されている。発電機の回転シャフトにはセンサ磁石563が設置されており、センサ磁石563が発生する磁界の方向を発電機回転角センサ562で計測する。発電機回転角センサ562には、図1に記載の回転角計測装置80を用いた。
【0213】
電動車両駆動装置で用いられる回転機(駆動モータ551と発電機552)は、15000rpm(250Hz)程度の高速回転でも使用する。そのため、従来では、回転角計測装置80の近傍に非磁性の導体を配置すると、高速回転時に回転角の計測精度が劣化するという問題があった。本実施例では、非磁性の導体中の渦電流の影響は補正することで、高速回転時でも回転角を精度良く計測できる。このように、本実施例は、250Hzという高速回転動作が要求される電動車両駆動装置においても、高速回転時でも精度良く回転角が計測できるという効果がある。
【0214】
本実施例では、図21に示したように、回転角計測装置80を回転機筐体を構成するハウジング203の外側に設置した。回転機筐体の外側に配置すると、以下の2つの利点がある。
【0215】
第1に、電動車両駆動装置などのような高出力回転機においては、冷却などの目的で回転機筐体内にはオイル(油)を入れる。このため、筐体内部に回転角計測装置80を入れる構成では、回転角計測装置80として、オイルに耐えられる材料を用いなければならない、という制約がある。筐体の外側に設置すれば、このような制約が無くなるという効果がある。
【0216】
第2に、電動車両駆動装置などのような高出力回転機では、動作中に、銅損や鉄損などの要因で、回転機のステータやロータが発熱し回転機が高温になる。但し、発熱要因は主に回転機内部にあるので、回転機筐体の内側に比べて外側は温度が低い。この温度差は回転機の設計にもよるが、10℃〜50℃くらいの差がある。このため、回転角計測装置80を回転機筐体の外側に設置すると、内側に設置した場合に比べて低い温度で動作させることができるという効果がある。
【0217】
(実施例18)
本発明の第18の実施例について図26を用いて説明する。本実施例は本発明による制御装置を用いた電気自動車駆動装置(電動車両駆動装置)の例である。先の実施例と同様の構成については符号を同じくして説明を省略する。
【0218】
図26は自動車の動力電気モータを用いた電気自動車駆動装置の模式図である。駆動モータ551と発電機552とは同軸線上に配置されており、それぞれは動力分配機構554の働きで適切に動力が伝達される。動力分配の仕方は、車両の走行状態,加速指令状態,バッテリーの充電状態などの情報に基づいて適切に設定される。また、動力分配機構554から動力シャフト558に動力を伝達する動力結合機構557が設けられている。
【0219】
駆動モータ551には、本発明の図20に記載の回転機を用いた。駆動モータ551は図20に記載したように、モータ部100と回転角検出部200とで構成される。回転角検出部200はセンサ磁石202(磁束発生体)と磁気センサ70とで構成される。磁気センサ70−1は、磁界の方向に感応し、磁界の方向に応じた原角度信号セットを出力する。
【0220】
発電機552には発電機磁気センサ70−2が設置されている。発電機の回転シャフトにはセンサ磁石563が設置されており、センサ磁石563が発生する磁界の方向を発電機磁気センサ70−2で検出し、原角度信号セットを出力する。
【0221】
磁気センサ70−1と発電機磁気センサ70−2から出力された原角度信号セットは、それぞれ制御装置85(ECU)の原角度信号入力端子93−1,93−2に入力される。
【0222】
制御装置85の構成は図15と同様の構成である。但し、本実施例の制御装置85は、回転角演算処理部305を2系統もち、それぞれ磁気センサ70−1からの原角度信号セットを回転角演算処理部305−1へ、発電機磁気センサ70−2からの原角度信号セットを回転角演算処理部305−2へ入力される。2系統の回転角演算処理部305−1,305−2から出力された補正角度は、制御処理部308に入力される。
【0223】
制御処理部308は、2つの補正角度信号に基づいて、2つの回転機(駆動モータ551と発電機552)の回転状態を検知し、それぞれの回転機の回転機駆動部412−1,412−2に適切な信号を出力する。これにより、2つの回転機が協調動作を行う。このようにして、適切な状態を実現する、電動車両駆動装置ができる。
【0224】
本実施例で用いた制御装置85は、渦電流による計測誤差を補正する機能を持っているので、磁気センサ70−1や発電機磁気センサ70−2の近傍に非磁性の導体が配置されていても、静止時から15000rpm(250Hz)という高速回転まで、精度良くそれぞれの回転機の回転角を計測することができる。
【0225】
なお、磁気センサ70−1あるいは発電機用磁気センサ70−2を、それぞれ対応する回転機の筐体の外側に設置しても良い。
【0226】
以上では、GMR素子を用いた磁気センサを使用した例を述べた。
【0227】
本発明は、GMR素子の磁気センサに限定されるものではなく、他の磁界角計測型の磁気センサにも適用可能である。
【符号の説明】
【0228】
51,52 GMR素子
60 COSブリッジ
61 SINブリッジ
70 磁気センサ
80 回転角計測装置
85 制御装置
90 角度出力端子
94 回転速度信号入力端子
95 補正関数設定手段
96 基準位置信号入力端子
93 原角度信号入力端子
100 モータ部(回転機)
110 ステータ
111 ステータコア
112 ステータコイル
120 ロータ
121 回転体
151 補正角度信号
153 回転速度
155 原角度信号セット
156 単純角度信号
200 回転角検出部
202,563 センサ磁石
226 回転中心線
302 検出部
303 信号処理部
305 回転角演算処理部
308 制御処理部
311 角度算出部
320 補正部
351 差動増幅器
411 電子制御ユニット
412 回転機(モータ)駆動部
501 ハンドル
502 トルクセンサ
503 ステアリング・シャフト
504 連結部
505 連結シャフト
506 ギアボックス
507 タイロッド
551 駆動モータ
552 発電機
553 エンジン
554 動力分配機構
557 動力結合機構
558 動力シャフト
560 駆動モータ回転角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界方向に感応する磁気センサと、前記磁気センサからの出力が入力される検出部と、を備えた回転角計測装置であって、
前記回転角計測装置は、磁束発生体を備えた回転体とともに用いられるものであり、
前記磁気センサの出力は、前記磁界方向に対応した原角度信号セットであり、
前記検出部は、前記回転体の回転速度を引数とする補正関数が出力する補正値を用いて前記磁気センサの近傍に配置された非磁性の導体の影響を補正した補正角度を出力することを特徴とする回転角計測装置。
【請求項2】
前記補正角度は、前記原角度信号セットから算出した単純角度に前記補正値を加算したものであり、
前記補正値は、前記単純角度の値とは独立であることを特徴とする請求項1に記載の回転角計測装置。
【請求項3】
前記原角度信号セットの時間変化から前記回転速度を算出することを特徴とする請求項2に記載の回転角計測装置。
【請求項4】
前記回転速度に対応する信号を入力する回転速度信号入力端子を有することを特徴とする請求項2に記載の回転角計測装置。
【請求項5】
前記回転速度信号入力端子に第2のセンサの出力信号を入力することを特徴とする請求項4に記載の回転角計測装置。
【請求項6】
前記補正関数を設定する補正関数設定手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の回転角計測装置。
【請求項7】
前記回転体から発生する前記回転体の基準位置を示す基準位置信号を入力する基準位置信号入力部を備えたことを特徴とする請求項2に記載の回転角計測装置。
【請求項8】
前記磁束発生体と前記磁気センサとの間に前記非磁性の導体が配置されたことを特徴とする請求項2に記載の回転角計測装置。
【請求項9】
前記磁気センサの近傍に前記非磁性の導体が配置されてパッケージングされたことを特徴とする請求項2に記載の回転角計測装置。
【請求項10】
請求項2に記載の回転角計測装置と、前記回転体を備えた回転機と、前記回転体と連動して回転する磁束発生体と、回転機駆動回路と、前記回転機駆動回路とを制御する制御装置とを備えたことを特徴とする回転機システム。
【請求項11】
原角度信号セットを入力して補正角度信号を算出する回転角演算処理部と、前記補正角度信号が入力される制御部とを備えた制御装置であって、
前記制御装置は、磁束発生体を備えた回転体と磁界の方向に感応する磁気センサとともに用いられ、
前記原角度信号セットは、前記磁気センサから出力される出力信号であり、
前記回転角演算処理部は、前記回転体の回転速度を引数とする補正関数が出力する補正値を用いて前記磁気センサの近傍に配置された非磁性の導体の影響を補正した補正角度を出力し、
前記制御部は、前記補正角度に基づいて処理を行うことを特徴とする制御装置。
【請求項12】
前記補正角度は、前記原角度信号セットから算出した単純角度に前記補正値を加算したものであり、
前記補正値は、前記単純角度の値とは独立であることを特徴とする請求項11に記載の制御装置。
【請求項13】
前記原角度信号セットの時間変化から前記回転速度を求めることを特徴とする請求項12に記載の制御装置。
【請求項14】
前記回転速度に対応する信号を入力する回転速度信号入力端子を有することを特徴とする請求項12に記載の制御装置。
【請求項15】
前記回転速度信号入力端子に第2のセンサの出力信号を入力する請求項14に記載の制御装置。
【請求項16】
前記補正関数を設定する補正関数設定手段を備えたことを特徴とする請求項12に記載の制御装置。
【請求項17】
前記回転体から発生する前記回転体の基準位置を示す基準位置信号を入力することを特徴とする基準位置信号入力部を備えた請求項12に記載の制御装置。
【請求項18】
請求項12に記載の制御装置と、前記回転体を備えた回転機と、前記回転体と連動して回転する磁束発生体と、前記磁気センサと、回転機駆動回路と、を備えた回転機システムであって、
前記磁気センサが出力する原角度信号セットを前記制御装置に入力することを特徴とする回転機システム。
【請求項19】
請求項12に記載の制御装置と、前記回転体に連動して回転する回転機と、前記磁気センサと前記回転機とを駆動する駆動回路と、を有する回転機システムであって、
前記磁気センサは、前記回転体に設けられた磁束発生体が発生する磁界方向を検知して前記原角度信号セットを出力し、
前記制御部は、前記補正角度に基づいて前記駆動回路の制御処理を行う回転機システム。
【請求項20】
請求項1に記載の回転角計測装置を用いた電動パワーステアリングシステム。
【請求項21】
請求項1に記載の回転角計測装置を用いた電動車両駆動装置。
【請求項22】
請求項12に記載の制御装置を用いた電動車両駆動装置。
【請求項23】
磁界方向に感応する磁気センサと、前記磁気センサからの出力が入力される検出部と、を備えた回転角計測装置であって、
前記回転角計測装置は、磁束発生体を備えた回転体とともに用いられるものであり、
前記磁気センサの出力は、前記磁界方向に対応した原角度信号セットであり、
前記検出部は、前記回転体の補正角度信号を出力し、
前記補正角度信号θ2と前記原角度信号セットから算出される単純角度信号θ1との差(θ2−θ1)は、回転速度に依存し、前記単純角度信号θ1からは独立な値であることを特徴とする回転角計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−11538(P2013−11538A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145155(P2011−145155)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】