説明

回転電機の固定子およびその製造方法

【課題】端末線を確実に固着し得るようにしつつ、不要な部位への含浸材塗布を抑えることで低コスト化を実現できる回転電機の固定子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の固定子10は、周方向に複数のスロット21を有する円環状の固定子コア20と、固定子コア20のスロット21に巻装された複数の線材30により形成され、スロット21内でコア径方向に複数本並んだ線材30の最外層に出力線または中性点接合線となる端末線が存在する固定子巻線40と、を備える。スロット21内に設置された線材30のうち少なくとも端末線となる線材30aは、固定子コア20との間に配設された固着材シート55により固定子コア20に固着されている。固着材シート55により固着された線材30a以外の線材30は、固定子コア20の内周側からスロット開口部に滴下された含浸材50により固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両において電動機や発電機として使用される回転電機の固定子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において使用される回転電機の固定子として、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、該固定子コアに巻回された線材により形成されその一部がスロット内に複数本重ねられた状態で設置されている固定子巻線と、を備えたものが知られている。このような固定子を備えた回転電機は、作動時における振動により固定子コアと線材が相対的に移動してしまうことを防止するために、種々の提案がされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、線材とコアを相対的に移動させないために固定することを目的として、含浸槽に固定子全体を浸漬することでスロット内を含浸し乾燥硬化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−262541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1の場合、固定子コア外周など不要な場所に付着する含浸材を除去する必要があるので、材料費も工数も増加しコストの増大化を招くこととなる。
【0006】
そこで、線材と固定子コアをスロット内で密着固定させるために、固定子内周側のスロット開口部側から含浸材を滴下することが考えられる。しかし、その場合、最もスロットの奥(最外層)にある線材と固定子コアを含浸材が確実に浸透して固着できるとは限らない。一方、最もスロットの奥にある線材には、端末線すなわち出力線や中性点接合線などとなるものが複数存在する。これらの端末線は、固定子コアと一体化している他の層の線材よりも大きな振動環境にさらされるので、固定子コアとの固着を確実にすることが必要である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、端末線となる線材を確実に固着し得るようにしつつ、不要な部位への含浸材塗布を抑えることで低コスト化を実現できる回転電機の固定子を提供すること、およびその製造方法を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、該固定子コアの前記スロットに巻装された複数の線材により形成され、前記スロット内でコア径方向に複数本並んだ前記線材の最外層に出力線または中性点接合線となる端末線が存在する固定子巻線と、を備えた回転電機の固定子において、前記スロット内に設置された前記線材のうち少なくとも前記端末線となる前記線材は、前記固定子コアとの間に配設された固着材シートにより前記固定子コアに固着され、前記固着材シートにより固着された前記線材以外の線材の内、少なくとも最内層の前記線材は、前記固定子コアの内周側からスロット開口部に滴下された含浸材により前記固定子コアに固着されていることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、スロット内に設置された線材のうち少なくとも端末線となる線材は、固定子コアとの間に配設された固着材シートにより固定子コア(スロット周壁面)に固着されているので、液状含浸によっては確実に固着できない部位すなわち他の線材との結合により振動の影響を受けやすい端末線となる線材を固定子コアに確実に固着することができる。また、線材と固定子コアにおける沿面距離を十分に保つことができる。
【0010】
そして、本発明によれば、固着材シートにより固着された線材以外の線材の内、少なくとも最内層の線材は、固定子コアの内周側からスロット開口部に滴下された含浸材により固着されているので、不要な部位への含浸材塗布を抑えつつ、スロット最内層の線材すなわち回転子との干渉の恐れがある線材を確実に固着することができる。
【0011】
さらに、本発明の構成によれば、固着材シートと液状含浸を併用することで固着材シートの使用量を必要最低限に抑えることができるので、スロット内全てに固着材シートを使用した場合と比較してコストダウンが可能である。
【0012】
本発明において、固着材シートを形成する固着材としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を採用することができる。熱可塑性樹脂として、例えば、PET、PPS、PEN等を挙げることができる。熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ、ポリエステル等を挙げることができる。これらの固着材は、熱膨張性を有するものが好ましい。固着材が熱膨張することで、スロット内の線材と固定子コアとの対向面間の隙間を埋めることができるので、線材と固定子コアとの固着不良を回避することができる。熱膨張性を有する固着材として、例えば、アクリル等の熱可塑性樹脂に、ガスが封入されたビーズを混入したものを好適に採用することができる。なお、固着材シートは、厚さ方向の中間部に絶縁材層を有するようにしてもよい。また、含浸材としては、エポキシ系、ポリエステル系、アクリル系の樹脂等を好適に採用することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記線材は、延伸方向と直角な方向の断面形状が矩形の角線であり、前記スロット内でコア径方向に一列配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、スロット内に角線の線材が一列配置されていることで、端末線となる最外層の角線の線材における3面を固着材シートで均等に固着することができる。そのため、端末線となる最外層の線材(角線)を固定子コアにより確実に固着することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記スロット内で前記含浸材により固着されている前記線材と前記固定子コアとの間に絶縁シートが配設されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、スロット内で含浸材により固着されている線材と固定子コアとの間に絶縁シートが配設されていることで、液状含浸による固着部位においても線材と固定子コアにおける沿面距離を十分に保つことができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、少なくとも前記端末線となる前記線材に対して用いられる前記固着材シートと、前記固着材シートが用いられる前記線材以外の前記線材に対して用いられる前記絶縁シートが組み合わされて配設されていることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、固定子コアとスロット内に複数本並んだ状態で設置されている固定子巻線との間において、必要固着部位に用いられる固着材シートと、それ以外の部位に用いられる絶縁シートとを組み合わせたことで、固着材シートの使用量を必要最小限に抑えることができ、コストダウンが可能となる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記絶縁シートは、前記スロット内における内径側の前記線材に対して用いられていることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、スロット内における内径側の線材に対して絶縁シートを用いることで、線材のスロット収容部を固定子コアのスロットに挿入するときに、固着材シートの巻込みによる破損を防止し、線材の固着不良の発生を抑止できる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記固着材シートは、その両端部が前記固定子コアの軸方向両端面から外方へ突出した状態に配置されていることを特徴とする。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、スロット内の最外層に設置されている線材とスロット周壁面との間の隙間を埋め、含浸材付着不可部である固定子コア端面に含浸材が漏れることを抑えることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、複数の線材により、固定子コアの同一スロットに収容される複数の前記線材のスロット収容部がコア径方向に並ぶようにして円筒状の固定子巻線を作製する固定子巻線作製工程と、コア径方向に並んだ複数の前記スロット収容部のうち少なくとも端末線となる前記線材に対して、または該当するスロット周壁面の所定部位に対して固着材シートを配置する固着材シート配置工程と、前記スロット収容部が所定の前記スロット内に収容されるようにして前記固定子巻線と前記固定子コアを組み付ける組付工程と、前記固着材シートを介して、少なくとも端末線となる前記線材の前記スロット収容部を前記スロット周壁面に固着させる固着材シート固着工程と、前記固定子コアの内周側からスロット開口部に含浸材を滴下して、前記固着材シートにより固着された前記線材以外の前記線材を前記含浸材によりスロット周壁面に固着させる含浸材固着工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、端末線となる線材を確実に固着し得るようにしつつ、不要な部位への含浸材塗布を抑えることで低コスト化を実現できる回転電機の固定子を容易に製造することができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、前記固着材シート配置工程の前または後に、前記スロット内で前記固着材シートにより固着される前記線材以外の前記線材と前記スロット周壁面との間に絶縁シートを配置する絶縁シート配置工程を有することを特徴とする。
【0026】
請求項8に記載の発明によれば、絶縁シート配置工程を行うことで、固着材シートによる固着部位のみならず液状含浸による固着部位においても、線材と固定子コアにおける沿面距離を十分に保つことができる固定子を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に係る回転電機の固定子の全体斜視図である。
【図2】実施形態に係る回転電機の固定子の側面図である。
【図3】実施形態に係る固定子の端末線部を拡大して示す部分斜視図である。
【図4】実施形態に係る固定子の一部分を拡大して示す部分斜視図である。
【図5】実施形態において用いられる固定子コアの平面図である。
【図6】実施形態において用いられる分割コアの平面図である。
【図7】実施形態に係る固定子巻線の全体斜視図である。
【図8】実施形態において用いられる固定子巻線のコイルエンドを示す正面図である。
【図9】実施形態において用いられる線材の全体形状を示す正面図である。
【図10】(A)は実施形態において用いられる線材の断面図であり、(B)は他の実施形態に係る線材の断面図である。
【図11】実施形態において用いられる線材のターン部の形状を示す斜視図である
【図12】実施形態においてスロット内に設置された線材の固着状態を模式的に示す説明図である。
【図13】実施形態において用いられる固着材シートの部分断面図である。
【図14】実施形態において用いられる固定子巻線の結線図である。
【図15】実施形態に係る固定子の製造方法を説明する説明図であって、(A)および(B)は固着材シート配置工程の説明図、(C)は組付工程の説明図である。
【図16】他の実施形態に係る固着材シートの使用状態を模式的に示す説明図である
【図17】実施形態に係る固定子の製造方法の含浸材固着工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る回転電機の固定子の実施形態について図1〜図17を参照しつつ具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定解釈されるべきではなく、その他の公知技術の組み合わせにより本発明の技術思想を実現してもよいことは勿論である。
【0029】
図1は、実施形態に係る回転電機の固定子10の外観を示す斜視図であり、図2は、その固定子10の側面図である。図3は、固定子10の端末線部を拡大して示す部分斜視図である。図4は、固定子10の一部分を拡大して示す部分斜視図である。
【0030】
図1および図2に示す固定子10は、例えば車両の電動機および発電機を兼ねる電動発電機としての回転電機に使用される。勿論、この回転電機は、車両に搭載される電動機又は発電機であってもよい。
【0031】
固定子10は、内周側に回転子(図示せず)を回転自在に収容する。回転子は、永久磁石により周方向に磁性が交互に異なる磁極を固定子10の内周側と向き合う外周側に複数形成している。回転子の磁極の数は、回転電機により異なるため限定されるものではなく、本実施形態では、8極(N極:4、S極:4)の回転子が用いられる。
【0032】
本実施形態の固定子10は、固定子コア20と、複数の線材30から形成される三相の固定子巻線40と、を備えている。固定子コア20には、図4に示すように、軸方向に沿い周方向に隣接するスロット21a、21bを一組として固定子コア20の内周側の周方向に複数組のスロットが形成されている。固定子巻線40は三相巻線であり、周方向に隣接する一組のスロット21a、21bに各相の固定子巻線が設置されている。そして、スロット21a、21bを一組として周方向に隣接する三組のスロット21a、21bに異なる相の固定子巻線が設置されている。
【0033】
固定子コア20は、図5に示すように、内周に複数のスロット21が形成された円環状を呈している。複数のスロット21は、その深さ方向が径方向と一致するように形成されている。固定子コア20に形成されたスロット21の数は、回転子の磁極数に対し、固定子巻線40の一相あたり2個の割合で形成されている。本実施形態では、8×3×2=48より、スロット数は48個とされている。
【0034】
固定子コア20は、図6に示す分割コア22を所定の数(本実施形態では24個)を周方向に連結して円環状に形成されている。これら分割コア22は、円環状に連結された状態で外周に嵌合された外筒27によって固定されている。分割コア22は、一つのスロット21を区画するとともに、周方向で隣接する分割コア22との間で一つのスロット21を区画する形状を呈している。具体的には、分割コア22は、径方向内方に伸びる一対のティース部23と、ティース部23を径方向外方で連結するバックコア部24とを有している。
【0035】
固定子コア20を構成する分割コア22は、複数枚の電磁鋼板を積層させて形成されている。積層された電磁鋼板の間には、絶縁薄膜が配置されている。分割コア22は、この電磁鋼板の積層体からだけでなく、従来公知の金属薄板および絶縁薄膜を用いて形成してもよい。
【0036】
固定子巻線40は、図7に示すように、複数の線材30により円筒形状に形成されており、固定子コア20のスロット21内に収容されるストレート部41と、このストレート部41の両端においてスロット21外に配置されるコイルエンド42を有する。一方のコイルエンド42の端面において、出力線(U、V、W)および中性点(U、V、W)が軸方向に突出するとともに、内径側から突出した線材30の端部を外径側から突出した線材30の端部に接続する渡り部70が設けられている。
【0037】
この固定子巻線40を形成するには、まず、図9に示すような波形に成形した線材30を複数本(本実施形態では12本)用意し、所定の方法で編み込み又は重ねることで帯状の線材集積体を形成する。次いで、その線材集積体を渦巻き状に巻くことにより固定子巻線40を形成する。固定子巻線40の線材30は、図9に示すように、複数のターン部32が所定ピッチで複数形成されたものであり、1本の長さは約1mである。
【0038】
線材30は、図10(A)に示すように、延伸方向と直角な方向の断面形状が矩形の角線であり、銅製の導体37と、導体37の外周を覆い導体37を絶縁する内層38aおよび外層38bからなる絶縁被覆38とから形成されている。内層38aは導体37の外周を覆い、外層38bは内層38aの外周を覆っている。内層38aおよび外層38bを合わせた絶縁被覆38の厚みは、100μm〜200μmの間の値に設定されている。
【0039】
外層38bは絶縁材で形成され、また内層38aは外層38bよりもガラス転移温度の高い熱可塑性樹脂またはガラス転移温度の無いポリアミドイミド等の絶縁材で形成されている。これにより、回転電機に発生する熱により絶縁被膜38の外層38bは内層38aよりも早く結晶化するため、外層38bの表面硬度が高くなり、線材30に傷がつきにくくなる。このため、ターン部32に段部を形成する加工を施した線材30の絶縁を確保できる。
【0040】
なお、線材30は、図10(B)に示すように、内層38aおよび外層38bからなる絶縁被膜38の外周をエポキシ樹脂等からなる融着材39で被覆したものを採用することができる。この線材30は、回転電機に発生する熱により、融着材39が絶縁被膜38よりも早く溶融するので、同じスロット21に設置されている複数の線材30同士が融着材39同士により熱接着する。その結果、同じスロット31に設置されている複数の線材30が一体化し線材30同士が鋼体化することで、スロット21の線材30の機械的強度が向上する。
【0041】
線材30は、図4及び図8に示すように、固定子コア20に巻装されたときに、固定子コア20のスロット21a、21b内に設置されるスロット収容部31と、スロット21a、21bから固定子コア20の外に突出し、周方向に異なるスロットに設置されているスロット収容部31同士を接続しているターン部32とを有しており、固定子コア20に波巻されることにより固定子巻線40を形成している。ターン部32は固定子コア20の軸方向両側にそれぞれ位置している。この場合、スロット収容部31とターン部32との接続部は、略直角に屈曲している。
【0042】
ターン部32の略中央部には、図11に示すように、ねじりを伴わないクランク部33が形成されている。クランク部33は、固定子コア20の端面20aに沿ってクランク形状に形成されている。このクランク部33のクランク形状によるずれ量は、線材30の略幅分である。これにより、径方向に隣接している線材30のターン部32同士を密に巻回できる。その結果、コイルエンドの径方向の幅が小さくなるので、固定子巻線40が径方向外側に張り出すことを防止する。
【0043】
また、スロット21a、21bから固定子コア20の外に突出するターン部32の突出箇所に、線材30がまたがって設置されているスロット同士に向けて固定子コア20の軸方向両側の端面20aに沿って段部34が形成されている。これにより、スロット21a、21bから突出している線材30のターン部32の突出箇所の間隔、言い換えればターン部32が形成する三角形状部分の底辺の長さは、線材30がまたがって設置されているスロット同士の間隔よりも狭くなっている。その結果、コイルエンドの高さhが低くなる。
【0044】
また、固定子コア20の端面20aに沿った段部34の長さをd1、周方向に隣接するスロット同士の間隔をd2とすると、d1≦d2になっている。これにより、線材30の段部34が周方向に隣り合うスロットから突出する線材30と干渉することを防止できる。これにより、周方向に隣接するスロットから突出する線材30同士が互いに干渉することを避けるために、コイルエンドの高さが高くなったり、あるいはコイルエンドの径方向の幅が大きくなったりすることを防止できる。その結果、コイルエンドの高さが低くなる。さらに、コイルエンドの径方向の幅が小さくなるので、固定子巻線40が径方向外側に張り出すことを防止する。
【0045】
さらに、線材30には、ターン部32の略中央部のクランク部33と、ターン部32の両端(突出箇所)に形成した段部34との間に、それぞれ2個の段部35が形成されている。つまり、固定子コア20の一方の軸方向の端面20a側の線材30のターン部32には、1個のクランク部33と合計6個の段部34、35が形成されている。これにより、段部を形成しない三角形状のターン部の高さに比べ、ターン部32の高さhが低くなる。段部35は、段部34およびクランク部33と同様に、固定子コア20の端面20aに沿って平行に延びるように形成されている。したがって、線材30のターン部32は、クランク部33を挟んで両側が階段状に形成されている。
【0046】
線材30のスロット収容部31は、図12に示すように、固定子コア20のそれぞれのスロット21の内部に収容されている。つまり、それぞれのスロット21内には、12本の線材30、30a(スロット収容部31、31a)が固定子コア20の径方向に1列に並んだ状態で設置されている。図12は、スロット21内で12本並んだ線材30の最外層に端末線(例えば出力線U)となる線材30a(スロット収容部31a)が存在するスロット21の分割コア22を拡大して示したものである。なお、図12においては、スロット21内の構造の理解を容易にするために、12本の線材30(スロット収容部31)のうちの中間部にある8本の線材30(スロット収容部31)を省略して、4本の線材30、30a(スロット収容部31、31a)のみを模式的に示している。また、スロット21内に配置された部材には、断面ハッチングが付されている。
【0047】
スロット21内に設置されている線材30、30aのスロット収容部31、31aは、含浸材50と固着材シート55と絶縁シート60により支持されている。固着材シート55は、スロット21内に設置された12本の線材30、30a(スロット収容部31、31a)のうち最外層に位置し端末線となる線材30aと固定子コア20のスロット周壁面25との間に配設されており、この固着材シート55によって、線材30aがスロット周壁面25に固着されている。
【0048】
固着材シート55は、図13に示すように、PET、PPS、PEN等のフイルムよりなる絶縁材層55aと、発泡性の熱可塑性樹脂よりなり絶縁材層55aの両面にそれぞれ積層された固着材層55b、55cとからなる三層構造を有するものである。なお、固着材層55b、55cは、ガスが封入されたビーズを樹脂に混入して発泡性をもたせたものである。この固着材シート55は、コの字形状に屈曲されて、線材30a(スロット収容部31a)とスロット周壁面25との対向面間に配置された後、その固着材シート55を加熱して膨張させた状態で硬化させたものである。この場合、端末線となる線材30aは、角線であることからその3面がスロット周壁面25と対向しているので、その3面の全域が固着材層55bまたは55cに固着している。これにより、固着強度が十分に確保されている。
【0049】
そして、含浸材50および絶縁シート60は、固着材シート55により固着された線材30a以外の11本の線材30(スロット収容部31)とスロット周壁面25との間に位置し、かつ、両者の対向面間を充填するように配設されている。このため、11本の線材30(スロット収容部31)は、含浸材50によりスロット周壁面25に固着されて支持されている。また、スロット21内において、隣接する線材30、30a(スロット収容部31、31a)同士の間にも、上記含浸材50と一体の含浸材51が充填されている。このため、スロット21内に収容されている12本の線材30、30a(スロット収容部31、31a)は含浸材51により互いに固着して一体化されている。なお、含浸材50、51は、固定子コア20の内周側からスロット開口部に滴下された液状含浸材が固化したものである。
【0050】
固定子巻線40は、図14に示すように、それぞれが2本の三相巻線(U1、U2、V1、V2、W1、W2)により形成されている。固定子巻線40を構成する線材30は、固定子コア20の内周側で周方向に沿って波巻きされた形状で成形されている。線材30のスロット収容部31は、所定のスロット数(例えば、3相×2個=6個)ごとのスロット21に収容され、ターン部32は、固定子コア20の軸方向の両端面20aからそれぞれ突出している。この固定子コア20の軸方向の両端面20aから突出しているターン部32により、固定子巻線40のコイルエンド42が形成される(図2参照)。
【0051】
固定子巻線40は、複数の線材30を、一方の端部がスロット21の最外周側で固定子コア20の軸方向の端面20aから突出した状態で、周方向に沿って波状に巻装した状態で形成されている。複数の線材30の他方の端部は、スロット31の最内周側で固定子コア20の軸方向の端面20aから一方の端部と同一方向に突出している。そして、同一のスロット21には、2本の線材30が巻装されている。巻装方法により異なるが、同一のスロット21に収容される二つのスロット収容部31は、周方向で隣り合ったスロット21の深さ方向での位置が交互又は同位置に位置するように設置されている。
【0052】
固定子巻線40は、同相(U1とU2、V1とV2、W1とW2)の巻線の端部同士が接続部で接合されている。接続部は、固定子コア20から突出したターン部32の端面より突出して形成されている。
【0053】
固定子巻線40は、複数の線材30を一方の端部が固定子コア20の軸方向の端面20aから突出した状態で、周方向に沿って波状に巻装して形成されている。固定子巻線40の線材30は、径方向外方から径方向内方に向かって巻装されている。最内周面側で線材30の端部が固定子巻線40の端面から突出している。
【0054】
以上のように構成された本実施形態の固定子10は、固定子巻線作製工程と、固着材シート配置工程と、絶縁シート配置工程と、固定子巻線40と固定子コア20を組み付ける組付工程と、固着材シート固着工程と、含浸材固着工程と、を順に行うことにより製造される。
【0055】
先ず、固定子巻線作製工程では、図7に示す波形に成形した12本の線材30を所定の方法で編み込んで帯状の線材集積体を形成する。そして、その線材集積体を渦巻き状に巻くことにより、図7に示す円筒状の固定子巻線40を作製する。この場合、固定子巻線40は、固定子コア20の同一スロット21に収容されるべき12本の線材30、30aのスロット収容部31、31aが径方向に並んだ状態に形成される。
【0056】
次の固着材シート配置工程では、図15(A)(B)に示すように、コの字形状に折り曲げた固着材シート55を、径方向に並んだ12本の線材30、30aのスロット収容部31、31aのうち最外層に位置し端末線となる線材30aのスロット収容部31aの外周の3面に沿って配置する。
【0057】
なお、固着材シート55は、図16に示すように、その両端部が固定子コア20の軸方向両端面20aから外方へ突出した状態に配置されるようにしてもよい。このようにすれば、スロット21内の最外層に設置されている線材30とスロット周壁面25との間の隙間を埋め、含浸材50の付着不可部である固定子コア20端面20aに含浸材50が漏れることを抑えることができる。
【0058】
次いで、2枚の絶縁シート60を、径方向に並んだ12本の線材30、30aのスロット収容部31、31aのうちの残りの11本の線材30のスロット収容部31の両側面に沿って配置し、絶縁シート配置工程を行う。なお、この絶縁シート配置工程は、固着材シート配置工程の前に行ってもよい。また、これら固着材シート55および絶縁シート60は、12本の線材30、30aのスロット収容部31、31aの周囲に配置するのではなく、スロット周壁面24に沿って配置するようにしてもよい。
【0059】
次の組付工程では、図12に示すように、径方向に並んだ12本のスロット収容部31、31aが固定子コア20の所定のスロット21内に収容されるようにして、固定子巻線40と固定子コア20を組み付ける。これにより、固着材シート55および絶縁シート60は、径方向に並んだ12本のスロット収容部31、31aとスロット周壁面25との間に位置している。
【0060】
次の固着工程では、まず固着材シート55を加熱して膨張させる。これにより、スロット収容部31aとスロット周壁面25との間に形成されている隙間を固着材シート55で充填し、隙間を消滅させた状態で硬化させる。これにより、固着材シート55を介して、端末線となる線材30aのスロット収容部31aがスロット周壁面25に強固に固着される。
【0061】
次の含浸材固着工程では、固定子コア20を、その軸線が水平方向を向くようにして回転装置(図示せず)の保持部に保持させる。そして、その回転装置により固定子コア20を軸線回りに回転させながら、図17に示すように、固定子コア20の内周側に配置したノズル53の含浸材吐出口から固定子コア20のスロット開口部に向けて液状の含浸材50を滴下する。このとき、スロット21内に進入した含浸材50は、固定子コア20の回転に伴う遠心力の作用により、スロット31の径方向外方の奥へと浸透する。これにより、含浸材50は、スロット21内の内径側にある11本の線材30(スロット収容部31)とスロット周壁面25との間の隙間、および隣接する線材30、30a(スロット収容部31、31a)同士の間の隙間に浸透する。その後、スロット21内に浸透した含浸材50が固化することによって、スロット21内で一体的に固着された11本の線材30(スロット収容部31)がスロット周壁面25に固着される。
【0062】
以上のようにして、固定子巻線40と固定子コア20の組付および固定作業を行った後、固定子巻線40を構成する線材30、30aの接続作業等の必要な処理を行うことにより、図1および図2に示す固定子10が完成する。
【0063】
以上のように、本実施形態の回転電機の固定子10によれば、スロット21内に設置された線材30のうち少なくとも端末線となる線材30aは、固定子コア20との間に配設された固着材シート55によりスロット周壁面25に固着され、固着材シート55により固着された線材30a以外の線材30は、固定子コア20の内周側からスロット開口部に滴下された含浸材50により固着されている。そのため、端末線となる線材30aを確実に固着することができるとともに、不要な部位への含浸材50の塗布を抑えることで低コスト化を実現することができる。さらに、固着材シート55と液状含浸を併用することで固着材シート55の使用量を必要最低限に抑えることができるので、スロット21内全てに固着材シート55を使用した場合と比較してコストダウンが可能である。
【0064】
また、本実施形態では、線材30、30aは、延伸方向と直角な方向の断面形状が矩形の角線であり、スロット21内でコア径方向に一列配置されている。これにより、端末線となる最外層の線材30aにおける3面を固着材シート55で均等に固着することができるので、端末線となる最外層の線材30aを固定子コア20のスロット周壁面25に、より確実に固着することができる。
【0065】
また、本実施形態では、スロット21内で含浸材50により固着されている線材30と固定子コア20のスロット周壁面25との間に絶縁シートが配設されているので、液状含浸による固着部位においても線材30と固定子コア20における沿面距離を十分に保つことができる。
【0066】
また、本実施形態では、端末線となる線材30aに対して用いられる固着材シート55と、固着材シート55が用いられる線材30a以外の線材30に対して用いられる絶縁シート60が組み合わされて配設されている。そのため、固定子コア20とスロット21内に複数本並んだ状態で設置されている線材30、30a(スロット収容部31、31a)との間において、必要固着部位に用いられる固着材シート55と、それ以外の部位に用いられる絶縁シート60とを組み合わせたことで、固着材シート55の使用量を必要最小限に抑えることができるので、コストダウンが可能となる。
【0067】
また、本実施形態では、絶縁シート60は、スロット21内における内径側の線材30に対して用いられている。これにより、線材30、30aのスロット収容部31、31aを固定子コア20のスロット21に挿入するときに固着材シート55の巻込みによる破損を防止し、線材30の固着不良の発生を抑止できる。
【0068】
そして、本実施形態の固定子10の製造方法によれば、固定子巻線作製工程と、固着材シート配置工程と、絶縁シート配置工程と、固定子巻線40と固定子コア20を組み付ける組付工程と、固着材シート固着工程と、含浸材固着工程と、を順に行うようにしているため、端末線となる線材30aを確実に固着し得るようにしつつ、不要な部位への含浸材塗布を抑えることで低コスト化を実現できる回転電機の固定子10を容易に製造することができる。
【0069】
また、絶縁シート配置工程を有するので、固着材シート55による固着部位のみならず液状含浸による固着部位においても、線材30と固定子コア20における沿面距離を十分に保つことができる固定子10を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
10…固定子 20…固定子コア 20a…コア端面 21、21a、21b…スロット 22…分割コア 23…ティース部 24…バックコア部 25…スロット周壁面 27…外筒 30…線材 30a…端末線となる線材 31…スロット収容部 32…ターン部 33…クランク部 34、35…段部 37…導体部 38…絶縁被膜 38a…内層 38b…外層 39…融着材 40…固定子巻線 41…ストレート部 42…コイルエンド 50、51…含浸材 55…固着材シート 55a…絶縁材層 55b、55c…固着材層 60…絶縁シート 70…渡り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数のスロットを有する円環状の固定子コアと、該固定子コアの前記スロットに巻装された複数の線材により形成され、前記スロット内でコア径方向に複数本並んだ前記線材の最外層に出力線または中性点接合線となる端末線が存在する固定子巻線と、を備えた回転電機の固定子において、
前記スロット内に設置された前記線材のうち少なくとも前記端末線となる前記線材は、前記固定子コアとの間に配設された固着材シートにより前記固定子コアに固着され、
前記固着材シートにより固着された前記線材以外の線材の内、少なくとも最内層の前記線材は、前記固定子コアの内周側からスロット開口部に滴下された含浸材により前記固定子コアに固着されていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項2】
請求項1において、
前記線材は、延伸方向と直角な方向の断面形状が矩形の角線であり、前記スロット内でコア径方向に一列配置されていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記スロット内で前記含浸材により固着されている前記線材と前記固定子コアとの間に絶縁シートが配設されていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項4】
請求項3において、
少なくとも前記端末線となる前記線材に対して用いられる前記固着材シートと、前記固着材シートが用いられる前記線材以外の前記線材に対して用いられる前記絶縁シートが組み合わされて配設されていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記絶縁シートは、前記スロット内における内径側の前記線材に対して用いられていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、
前記固着材シートは、その両端部が前記固定子コアの軸方向両端面から外方へ突出した状態に配置されていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の回転電機の固定子の製造方法であって、
複数の線材により、固定子コアの同一スロットに収容される複数の前記線材のスロット収容部がコア径方向に並ぶようにして円筒状の固定子巻線を作製する固定子巻線作製工程と、
コア径方向に並んだ複数の前記スロット収容部のうち少なくとも端末線となる前記線材に対して、または該当するスロット周壁面の所定部位に対して固着材シートを配置する固着材シート配置工程と、
前記スロット収容部が所定の前記スロット内に収容されるようにして前記固定子巻線と前記固定子コアを組み付ける組付工程と、
前記固着材シートを介して、少なくとも端末線となる前記線材の前記スロット収容部を前記スロット周壁面に固着させる固着材シート固着工程と、
前記固定子コアの内周側からスロット開口部に含浸材を滴下して、前記固着材シートにより固着された前記線材以外の前記線材を前記含浸材によりスロット周壁面に固着させる含浸材固着工程と、
を有することを特徴とする回転電機の固定子の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記固着材シート配置工程の前または後に、前記スロット内で前記固着材シートにより固着される前記線材以外の前記線材と前記スロット周壁面との間に絶縁シートを配置する絶縁シート配置工程を有することを特徴とする回転電機の固定子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−60810(P2012−60810A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202828(P2010−202828)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】