説明

回転電機制御システム

【課題】回転電機制御システムにおいて、回転電機のステータコイルにパルス電流を流すことでロータコイルに誘導電流を発生させる構成で、インバータに入力される直流電圧の電圧変動を有効に抑制することである。
【解決手段】回転電機制御システム12は、バッテリ36に対して並列に接続される第1、第2インバータ42、44と、各インバータ42,44にそれぞれ接続される第1、第2モータジェネレータ22、24と、制御部46とを含む。第1モータジェネレータ22は、ステータコイルへ第1インバータ42から第1パルス電流を流すことで生じる磁束変化によって、ロータコイルに誘導電流を流す。制御部46は、第1パルス電流が生じるときに、第1パルス電流に伴って生じる直流電圧VHの変化を抑制するように、第2インバータ44から第2モータジェネレータ24に第2パルス電流を流すように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源に対して並列に接続される第1インバータ及び第2インバータと、第1インバータに接続される第1負荷と、第2インバータに接続される第2負荷とを制御する制御部とを備える回転電機制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載されているように、ステータコアに巻き回しされたステータコイルを有するステータと、ロータコアに巻き回しされたロータコイルと、ロータコイルに接続され、ロータコイルに電流が流れることで生じるロータコアの磁気特性を直径方向反対側で異ならせる整流部であるダイオードとを有するロータとを含む回転電機が知られている。また、制御部により、インバータのIGBTをオンオフ駆動するようにしており、ステータコイルへパルス電流を流すことで生じる磁束変化によって、ロータコイルに誘導電流を流すようにしている。誘導電流はダイオードで整流された一方向の直流の励磁電流であり、励磁電流は、ロータコアのティース部の一方にN極を、他方にS極を形成する。すなわち、ロータが磁化される。また、本発明に関連する先行技術として、特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−98908号公報
【特許文献2】特開2011−41433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された回転電機と制御部とを含む回転電機制御システムでは、ステータ電流をベクトル制御により制御する場合のd軸電流とq軸電流とのうち、d軸電流にはロータ励磁用電流として、ロータコイルに電流を発生させるためのパルス電流成分が重畳される。また、q軸電流にはトルクリプル防止用電流として、トルク変動を抑制するためのパルス電流成分が重畳される。このような構成では、両方のパルス電流成分の重畳によりステータ電流の電流振幅が大きくなり、インバータのスイッチング素子や平滑コンデンサの大型化を招く可能性がある。このため、インバータや平滑コンデンサを含む制御装置の大型化を招く可能性がある。また、ステータ電流が大きくなることでコイルの銅損が増加し、磁束変動が大きくなることで鉄損も増加する。また、インバータへの通電量が大きくなるため、インバータ損失も増加する。このため、回転電機制御システムの損失が増加する可能性がある。
【0005】
これに対して、特許文献2には、ステータ電流にロータ励磁用電流としてパルス電流成分を重畳させることで、回転電機を駆動する、すなわち回転電機のステータコイルにパルス電流を流すことでロータコイルに誘導電流を発生させる回転電機制御システムが記載されている。ただし、この構成では、パルス電流成分の重畳の際に、回転電機のトルクが一時的に低下して、回転電機の電力消費が一時的に低下する可能性がないとはいえない。この場合でも、バッテリの直流側の電力供給が途絶えることがないので電力需給バランスが崩れて、すなわち需給アンバランスが生じてインバータに入力される直流電圧が上昇する。
【0006】
直流電力の需給アンバランスによる直流電圧の電圧変動はインバータに接続された平滑コンデンサの容量によって吸収されるが、単純に電圧変動を抑制しようとすると平滑コンデンサの容量を増加させる必要がある。平滑コンデンサはインバータの構成部品と平滑コンデンサとを含む部品のうちでも、容積、質量、コスト的に大きな割合を占めるため、平滑コンデンサの容量増加による影響は大きい。このため、インバータに入力される直流電圧の電圧変動を抑制することが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、回転電機制御システムにおいて、回転電機のステータコイルにパルス電流を流すことでロータコイルに誘導電流を発生させる構成で、インバータに入力される直流電圧の電圧変動を有効に抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転電機制御システムは、上記の目的を達成するために以下の手段を採用する。
【0009】
本発明に係る回転電機制御システムは、直流電源に対して並列に接続される第1インバータ及び調整用インバータと、前記第1インバータに接続される第1負荷と、前記調整用インバータに接続される調整用負荷とを制御する制御部とを備える回転電機制御システムであって、前記第1負荷は、ステータコアに巻き回しされたステータコイルを有するステータと、ロータコアに巻き回しされたロータコイルと、前記ロータコイルに接続される整流部とを有するロータとを含み、前記ステータコイルへ前記第1インバータから第1パルス電流を流すことで生じる磁束変化によって、前記ロータコイルに誘導電流を流し、前記ロータを磁化させる第1回転電機であり、前記制御部は、前記第1パルス電流が生じるときに、前記第1パルス電流に伴って生じる直流電圧の変化を抑制するように、前記調整用インバータから調整用負荷に調整用パルス電流を流すように前記調整用インバータを制御することを特徴とする回転電機制御システムである。
【0010】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて好ましくは、前記第1回転電機は、出力軸に動力伝達可能に連結され、前記調整用負荷は、出力軸に動力伝達可能に連結された調整用回転電機であり、前記制御部は、前記第1パルス電流によって前記第1回転電機が出力軸に第1トルク変動を発生させるときに、前記調整用回転電機に、前記調整用インバータから前記調整用パルス電流を流すことによって前記出力軸の前記第1トルク変動を抑制するような調整用トルク変動が生じるように前記調整用インバータを制御する。なお、上記構成において、「出力軸に動力伝達可能に連結され」とは、出力軸に直接連結される他、出力軸に遊星歯車機構等の歯車装置を介して連結される場合も含む。
【0011】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて好ましくは、前記ステータは、前記ステータコアに巻き回しされた複数の前記ステータコイルを有し、前記ロータは、前記ロータコアに巻き回しされた複数の前記ロータコイルと、前記各ロータコイルに接続され、前記ロータコイルに電流が流れることで生じる磁気特性を前記複数のロータコイル同士で周方向に交互に異ならせる前記整流部とを有し、前記第1回転電機は、前記ステータコイルへ前記第1インバータから第1パルス電流を流すことで生じる磁束変化によって、前記ロータコイルに誘導電流を流す。
【0012】
また、本発明に係る回転電機制御システムにおいて好ましくは、前記ステータコアは、複数の第1スロットがロータ回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されており、前記複数のステータコイルは、前記第1スロットを通って前記ステータコアに集中巻きで巻装されており、前記ロータコアは、複数の第2スロットが前記ロータ回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されており、前記複数のロータコイルは、少なくとも一部が前記第2スロットに配置されるように前記ロータコアの周方向複数個所に巻装されている。なお、「第2スロット」は、ロータコアの周面に開口する溝形状を有する部分に限定するものではなく、例えばロータコアの周面に開口せず、ロータコアの内部に軸方向に貫通するように形成されたスリットも含む(本明細書全体及び特許請求の範囲で同じとする。)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の回転電機制御システムによれば、第1回転電機のステータコイルに第1パルス電流を流すことでロータコイルに誘導電流を発生させる構成で、第1パルス電流に伴って生じる直流電圧の変化を抑制するように、別の調整用負荷に接続された調整用インバータから調整用パルス電流が生じるので、第1インバータに入力される直流電圧の電圧変動を抑制することができる。また、ステータ電流が過度に増加しないので、個々のインバータやインバータに接続されるコンデンサの大型化を抑制できるとともに損失を抑制できる。このため、第1回転電機のステータコイルにパルス電流を流すことでロータコイルに誘導電流を発生させる構成で、第1インバータに入力される直流電圧の電圧変動を有効に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る回転電機制御システムを搭載した車両の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す2つのモータジェネレータとエンジンとの動力伝達部を詳しく示す構成図である。
【図3】図1に示す第1モータジェネレータを構成するステータとロータとの対向する部分の一部を示す概略断面図である。
【図4】図2のA部拡大図である。
【図5】本発明の実施形態において、ロータコイルに流れる誘導電流により生成される磁束がロータ中に流れる様子を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態において、ロータの周方向に隣り合う主突極に巻装した2個のロータコイルの接続回路の等価回路を示す図である。
【図7】本発明の実施形態において、制御部の構成を示すブロック図である。
【図8】図7の制御部が有する第1インバータ制御部の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施形態において、第1インバータから第1モータジェネレータ(MG1)に流れるq軸またはd軸のステータ電流、第1モータジェネレータが出力軸に発生させる第1出力軸トルク、第2インバータから第2モータジェネレータ(MG2)に流れるq軸のステータ電流、第2モータジェネレータが出力軸に発生させる第2出力軸トルク、及び各インバータの入力側の直流電圧を示す図である。
【図10】比較例において、インバータからモータに流れるq軸またはd軸のステータ電流、モータジェネレータが出力軸に発生させる出力軸トルクのトルク変動、及び各インバータの入力側の直流電圧の電圧変動を示す図である。
【図11】本発明の第2の実施形態の回転電機制御システムを示す構成図である。
【図12】ロータコイルに接続するダイオードの数を少なくした別例を示す、図6に対応する図である。
【図13】本発明の実施の形態を構成する回転電機の他の構成例において、ステータとロータとの対向する部分の一部を示す概略断面図である。
【図14】本発明の実施の形態を構成する回転電機の他の構成例において、ステータとロータとの対向する部分の一部を示す概略図である。
【図15】本発明の実施の形態を構成する回転電機の他の構成例において、ロータコイルに流れる誘導電流により生成される磁束がロータ中に流れる様子を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態を構成する回転電機の他の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。図1〜9は、本発明の第1の実施形態を示す図である。図1は、本実施形態に係る回転電機制御システムを搭載した車両の概略構成を示す図である。図2は、図1に示す2つのモータジェネレータとエンジンとの動力伝達部を詳しく示す構成図である。図3は、本実施形態において、ステータとロータとの対向する部分の一部を示す概略断面図である。図4は、図3のA部拡大図である。図5は、本実施形態において、ロータコイルに流れる誘導電流により生成される磁束がロータ中に流れる様子を示す模式図である。なお、以下の図面では、共通の、または対応する要素には各図面で同一の符号を付して説明する。図1に示すように、本実施形態の回転電機制御システムを搭載したハイブリッド車両10は、回転電機制御システム12と、駆動軸14と、車輪16とを備える。また、回転電機制御システム12は、車両駆動用のエンジン18と、動力分割機構20と、エンジン18の駆動により発電する第1負荷であり、第1回転電機である第1モータジェネレータ(MG1)22と、調整用負荷であり、調整用回転電機である第2モータジェネレータ(MG2)24と、減速機26とを含む。
【0016】
なお、ハイブリッド車両10は、前置エンジン付前輪駆動車であるFF車や、前置エンジン付後輪駆動車であるFR車や、四輪駆動車である4WD車等とすることができる。
【0017】
動力分割機構20は、エンジン18からの動力を、駆動軸14への経路と、第1モータジェネレータ22への経路とに分割可能としている。動力分割機構20は、遊星歯車機構により構成される。すなわち、図2に示すように、第1モータジェネレータ22の回転軸を中空として、この回転軸の端部に遊星歯車機構のサンギヤ30が接続される。また、第1モータジェネレータ22の回転軸の内側を挿通したエンジン18の駆動軸28に、遊星歯車機構のプラネタリギヤ31に接続したキャリア32が接続される。また、遊星歯車機構のリングギヤ33に、出力軸34が接続され、出力軸34に別の遊星歯車機構により構成される減速機26を介して第2モータジェネレータ24の回転軸が接続される。なお、出力軸34に減速機を介さずに第2モータジェネレータ24の回転軸を接続することもできる。図2では、減速機26を遊星歯車機構により構成しているが、種々の減速機を使用可能である。また、出力軸34は、減速機26を介して車輪16(図1)を駆動するための駆動軸14(図1)に接続される。
【0018】
第1モータジェネレータ22は、3相交流モータであり、エンジン18始動用モータとしても使用可能であるが、第1モータジェネレータ22をエンジン18により駆動される発電機として使用する場合には、キャリア32から入力されるエンジン18からのトルクの少なくとも一部を、サンギヤ30を介して、第1モータジェネレータ22の回転軸に伝達する。なお、第1モータジェネレータ22の詳しい構成は後述する。
【0019】
第2モータジェネレータ24は、車両駆動力発生用の3相交流モータであり、かつ、発電機、すなわち電力回生用としても使用可能である。第2モータジェネレータ24は、例えばロータが永久磁石を有する磁石付同期型回転電機である。
【0020】
エンジン18の回転は、動力分割機構20を介して出力軸34側と第1モータジェネレータ22側とに取り出す。第1モータジェネレータ22の駆動により発生した電力は、バッテリ36(図1)に充電される。なお、ハイブリッド車両10をFR車として構成する場合には、出力軸34の回転を、プロペラシャフト、ディファレンシャルギヤを介して駆動輪である、後輪に伝達し、後輪を駆動させる。
【0021】
図1に戻って、回転電機制御システム12は、上記の各モータジェネレータ22,24と、DC/DCコンバータ38と、直流電源であるバッテリ36と、システムリレーS1,S2と、それぞれ平滑コンデンサである第1コンデンサ40及び第2コンデンサ41と、第1モータジェネレータ22に電気的に接続される第1インバータ42と、第2モータジェネレータ24に電気的に接続される第2インバータ44と、制御部46とを含む。
【0022】
各インバータ42,44は、U相、V相、W相の3相のアームAu,Av,Awを備え、各相アームAu,Av,Awは、それぞれ2のスイッチング素子Swを直列に接続している。スイッチング素子Swは、トランジスタ、IGBT等である。また、各スイッチング素子Swに逆並列にダイオードDiを接続している。さらに、各アームAu,Av,Awの中点は、対応するモータジェネレータ22(または24)を構成する対応する相のステータコイルの一端側に接続されている。ステータコイルにおいて、同じ相のステータコイル同士は互いに直列に接続され、異なる相のステータコイルが中性点で接続されている。
【0023】
このような各インバータ42,44は、バッテリ36に対し並列に接続されている。各インバータ42,44は、制御部46によりスイッチングが制御されて、バッテリ36から供給された直流電圧を3相交流電圧に変換し、対応するモータジェネレータ22(または24)に出力する。また、車両の制動時には、第2モータジェネレータ24から第2インバータ44に出力された3相交流電圧を第2インバータ44で直流電圧に変換して、バッテリ36に供給し、バッテリ36を充電する。また、エンジン18の駆動により第1モータジェネレータ22が駆動されることで、第1モータジェネレータ22から出力された3相交流電圧を第1インバータ42で直流電圧に変換して、バッテリ36に供給し、バッテリ36を充電する。
【0024】
DC/DCコンバータ38は、制御部46により制御される昇降圧コンバータであり、バッテリ36から入力された電圧を昇圧し、各インバータ42,44に供給したり、各インバータ42,44から入力された電圧を降圧してバッテリ36に供給することができる。
【0025】
制御部46は、各インバータ42,44及び各モータジェネレータ22,24を制御する。制御部46は、例えば車載用コンピュータで構成されることができる。制御部46は、モータECUと呼ばれるモータコントローラを含むものでもよい。制御部46には電圧センサ48により検出されたDC/DCコンバータ38の出力電圧である各インバータ42,44への入力電圧VHと、図示しないバッテリ電圧センサにより検出されたバッテリ電圧センサVbと、図示しない外部ECUからの各モータジェネレータ22,24に対するトルク指令値TR1,TR2とを、それぞれ入力する。また、制御部46には、各モータジェネレータ22,24の所定時間当たりの回転角度を測定する角度センサMRや、各モータジェネレータの3相のステータ電流I1,I2を検出する電流センサMI等の各種センサからの検出信号も入力する。なお、各モータジェネレータ22,24の3相のステータ電流のうち、2相のステータ電流が得られれば残りの1相のステータ電流は一義的に算出できるので、各モータジェネレータ22,24に対応する電流センサは、それぞれ2つのみとすることもできる。なお、エンジン18は、図示しないエンジンECUにより制御される。
【0026】
また、バッテリ36とDC/DCコンバータ38との間、DC/DCコンバータ38と各インバータ42,44との間に、それぞれ第1、第2コンデンサ40,41が設けられている。また、第1コンデンサ40の両端とバッテリ36の正極側及び負極側との間にそれぞれシステムリレーS1,S2が接続されている。各システムリレーS1,S2は制御部46によりスイッチングのオンオフが制御される。
【0027】
次に、第1モータジェネレータ22の構成を、図3〜8により詳しく説明する。第1モータジェネレータ22は、いわゆる「磁石レス型」と呼ばれる電磁石型回転電機である。図3に示すように、電動機または発電機として機能する第1モータジェネレータ22は、図示しないケーシングに固定されたステータ50と、ステータ50と所定の空隙をあけて径方向内側に対向配置され、ステータ50に対し回転可能なロータ52とを備える。なお、「径方向」とは、ロータ52の回転中心軸に対し直交する放射方向をいう(以下、特に断らない限り「径方向」の意味は同じである。)。
【0028】
また、ステータ50は、磁性材製のステータコア54と、ステータコア54に巻き回しされた複数相(より具体的には例えばU相、V相、W相の3相)のステータコイル56u,56v,56wとを含む。ステータコア54の周方向複数個所には、径方向内側へ(ロータ52へ向けて)突出する複数の第1ティースである、ティース58が配置されており、各ティース58間に第1スロットであるスロット60が形成されている。なお、「周方向」とは、ロータ52の回転中心軸を中心として描かれる円形に沿う方向をいう(以下、特に断らない限り「周方向」の意味は同じである。)。
【0029】
すなわち、ステータコア54の内周面には、径方向内側へ(ロータ52へ向けて)突出する複数のティース58が、ロータ52の回転軸である回転中心軸周りの周方向に沿って互いに間隔をおいて配列されており、ステータコア54には、複数のスロット60が、ロータ52の回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されている。
【0030】
各相のステータコイル56u、56v、56wは、スロット60を通ってステータコア54のティース58に短節集中巻で巻装されている。このように、ティース58にステータコイル56u、56v、56wが巻装されることで磁極が構成される。そして、複数相のステータコイル56u、56v、56wに複数相の交流電流を流すことで、周方向に並べられたティース58が磁化し、周方向に回転する回転磁界をステータ50に生成することができる。なお、ステータコイル56u、56v、56wは、このようにステータ50のティース58に巻線する構成に限定するものではなく、例えばティース58から外れたステータコア54の環状部分の周方向複数個所に複数相のステータコイルを巻線するトロイダル巻きとし、ステータ50に回転磁界を生じさせることもできる。
【0031】
ティース58に形成された回転磁界は、その先端面からロータ52に作用する。図3に示す例では、3相(U相、V相、W相)のステータコイル56u、56v、56wがそれぞれ巻装された3つのティース58により1つの極対が構成されている。
【0032】
一方、ロータ52は、磁性材料製のロータコア62と、複数のN極ロータコイル64n及びS極ロータコイル64sとを含む。ロータコア62の外周面の周方向複数個所には、径方向外側に向けて(ステータ50に向けて)突出して設けられた複数の磁極部であり、突部であり、かつ第2ティースである主突極66が、ロータコア62の周方向に沿って互いに間隔をおいて配置されており、各主突極66がステータ50と対向している。ロータコア62の環状部分であるロータヨーク及び複数の主突極66は、例えば磁性鋼板を複数積層した積層体等の磁性材により、一体に設けられている。より詳しくは、ロータ52の周方向に関して1つおきの主突極66に複数のN極ロータコイル64nをそれぞれ集中巻きで巻線し、N極ロータコイル64nを巻線した主突極66と隣り合う別の主突極66であって、周方向1つおきの主突極66に、複数のS極ロータコイル64sをそれぞれ集中巻きで巻線している。また、ロータ52は、周方向に隣り合う主突極66の間に形成された第2スロットであるスロット68(図4、図5)を有する。すなわち、ロータコア62には、複数のスロット68が、ロータ52の回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されている。また、ロータコア62は、図示しない回転軸の径方向外側に嵌合されている。
【0033】
図4から図6に示すように、各N極ロータコイル64nは、主突極66の先端側(図3〜5の上端側)に巻かれたN極誘導コイル70と、N極誘導コイル70に接続されたN極共通コイル72とを含む。N極共通コイル72は、N極誘導コイル70が巻かれる主突極66において、N極誘導コイル70よりも根元側(図3〜5の下端側)に巻かれている。また、各S極ロータコイル64sは、各N極ロータコイル64nが巻かれた主突極66と周方向に隣り合う別の主突極66の先端側に巻かれたS極誘導コイル74と、S極誘導コイル74に接続されたS極共通コイル76とを含む。S極共通コイル76は、S極誘導コイル74が巻かれる主突極66において、S極誘導コイル74よりも根元側に巻かれている。なお、図3〜5に示す例では、各主突極66の周囲に巻かれる誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76は、それぞれ主突極66の周囲の長さ方向(図5の上下方向)に沿って設けられたソレノイドが、主突極66の周方向(図5の左右方向)に複数層整列した整列巻きで配置されている。なお、各主突極66の先端側に巻かれる誘導コイル70,74は、主突極66の周囲に複数回、すなわち複数ターン分、渦巻状に巻いた構成とすることもできる。
【0034】
図5、図6に示すように、ロータ52の周方向に隣り合う2個の主突極66を1組として、各組で1個の主突極66に巻かれたN極誘導コイル70の一端と、別の主突極66に巻かれたS極誘導コイル74の一端とを、2個の磁気特性調整部であり整流素子である第1ダイオード77及び第2ダイオード78を介して接続している。すなわち、図6は、本実施の形態において、ロータ52(図5)の周方向に隣り合う主突極66に巻装された2個のロータコイル64n,64sの接続回路の等価回路を示す図である。図6に示すように、N極誘導コイル70及びS極誘導コイル74の一端は、互いに順方向が逆になる第1ダイオード77及び第2ダイオード78を介して、接続点Rで接続されている。
【0035】
また、図5、図6に示すように、各組で1個の主突極66に巻かれたN極共通コイル72の一端は、別の主突極66に巻かれたS極共通コイル76の一端に接続されている。N極共通コイル72及びS極共通コイル76は互いに直列に接続されることで、共通コイル組80を形成している。さらに、N極共通コイル72の他端は接続点Rに接続され、S極共通コイル76の他端は、N極誘導コイル70及びS極誘導コイル74の接続点Rとは反対側の他端に接続されている。また、各ロータコイル64n,64sの誘導コイル70,74及び共通コイル72,76の巻回中心軸は、ロータ52(図3)の径方向と一致している。なお、各誘導コイル70,74及び共通コイル72,76は、対応する主突極66に、樹脂等により造られる電気絶縁性を有するインシュレータ(図示せず)等を介して巻装することもできる。このように各ロータコイル64n、64sは、ロータコア62に巻き回しされている。
【0036】
このような構成では、後述するように、N極誘導コイル70、S極誘導コイル74、N極共通コイル72及びS極共通コイル76に整流された電流が流れることで主突極66が磁化し、磁極部として機能する。図3に戻って、ステータコイル56u、56v、56wに交流電流を流すことで、ステータ50が回転磁界を生成するが、この回転磁界は、基本波成分の磁界だけでなく、基本波よりも高い次数の高調波成分の磁界を含んでいる。
【0037】
より詳しくは、ステータ50に回転磁界を発生させる起磁力の分布は、各相のステータコイル56u、56v、56wの配置や、ティース58及びスロット60によるステータコア54の形状に起因して、(基本波のみの)正弦波分布にはならず、高調波成分を含むものとなる。特に、集中巻においては、各相のステータコイル56u、56v、56wが互いに重なり合わないため、ステータ50の起磁力分布に生じる高調波成分の振幅レベルが増大する。例えばステータコイル56u、56v、56wが3相集中巻の場合は、高調波成分として、入力電気周波数の時間的3次成分であり、空間的な2次成分の振幅レベルが増大する。このようにステータコイル56u、56v、56wの配置やステータコア54の形状に起因して起磁力に生じる高調波成分は空間高調波と呼ばれている。
【0038】
ステータ50からロータ52に、この空間強調波成分を含む回転磁界が作用すると、空間高調波の磁束変動により、ロータ52の主突極66間の空間に漏れ出す漏れ磁束の変動が発生し、これにより図3に示す各誘導コイル70,74の少なくともいずれかの誘導コイル70,74に誘導起電力が発生する。また、ステータ50から近い、主突極66の先端側の誘導コイル70,74は、主に誘導電流を発生させる機能を有し、ステータ50から遠い、共通コイル72,76は、主に主突極66を磁化する機能を有する、すなわち電磁石として機能する。また、図6の等価回路から理解されるように、隣り合う主突極66(図3〜図5)に巻装された誘導コイル70,74を流れる電流の合計が共通コイル72,76にそれぞれ流れる電流となる。また、隣り合う共通コイル72、76同士を直列に接続しているので、両方で巻き数を増加させたのと同じ効果を得られ、各主突極66に流れる磁束を同じとしたままで各共通コイル72,76に流す電流を低減できる。
【0039】
各誘導コイル70,74に誘導起電力が発生すると、N極誘導コイル70、S極誘導コイル74、N極共通コイル72及びS極共通コイル76にダイオード77,78の整流方向に応じた直流電流が流れ、ロータコイル64n,64sが巻装された主突極66が磁化することで、この主突極66が磁極の固定された磁石である磁極部として機能する。図5に示す、周方向に隣り合うN極ロータコイル64nとS極ロータコイル64sとで巻き方向が逆になっており、周方向に隣り合う主突極66同士で磁化方向が逆になる。図示の例では、N極ロータコイル64nが巻装された主突極66の先端にN極が生成され、S極ロータコイル64sが巻装された主突極66の先端にS極が生成されるようにしている。このため、ロータ52の周方向においてN極とS極とが交互に配置される。すなわち、ロータ52は、ステータ50で生成される磁界に含まれる高調波成分が鎖交することにより、周方向にN極及びS極が交互に形成されるように構成される。
【0040】
また、図3に示すように、ロータ52の周方向に関する各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76の幅θは、ロータ52の電気角で180°に相当する幅よりも短く設定し、各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76は、それぞれ主突極66に短節巻きで巻装されている。より好ましくは、ロータ52の周方向に関する各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76の幅θは、ロータ52の電気角で90°に相当する幅に等しく、あるいはほぼ等しくしている。ここでの各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76の幅θについては、各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76の断面積を考慮して、各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76の断面の中心幅で表すことができる。すなわち、各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76の内周面の幅と外周面の幅との平均値で各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76の幅θを表すことができる。なお、ロータ52の電気角は、ロータ52の機械角にロータ52の極対数pを乗じた値で表される(電気角=機械角×p)。このため、周方向に関する各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76の幅θは、ロータ52の回転中心軸から各誘導コイル70,74及び各共通コイル72,76までの距離をrとすると、以下の(1)式を満たす。
θ<π×r/p (1)
【0041】
また、本実施形態では、ロータ52は、周方向の複数個所に配置された主突極66の周方向両側面から突出する補助突極82を含んでいる。補助突極82は、各主突極66の軸方向(図3、図4の表裏方向)のほぼ全長にわたり、各主突極66の周方向両側面から、周方向に対し傾斜した方向にそれぞれ突出する板状の磁性体である。例えば、図示の例では、補助突極82は、各主突極66の周方向両側面の径方向中間部に、先端に向かうほどロータ52の径方向外側になるように周方向に対し傾斜している。複数の補助突極82は、主突極66の周方向の両側面において、N極誘導コイル70とN極共通コイル72との間、及び、S極誘導コイル74とS極共通コイル76との間のそれぞれから突出している。すなわち補助突極82は、主突極66に磁気的に接続されている。
【0042】
また、同じスロット68内に配置される2個の補助突極82は互いに直接にはスロット68内で結合されず、先端部は互いに離れている。このような補助突極82は、ロータコア62及び主突極66と同じ磁性材料により形成することができる。例えば、ロータコア62、各主突極66及び各補助突極82を、磁性鋼板の積層体等により一体に形成することができる。
【0043】
また、各主突極66に巻かれた各ロータコイル64n,64sのうち、誘導コイル70,74と共通コイル72,76とは、対応するスロット68内で補助突極82で仕切られて分離されている。同じ主突極66に巻かれる誘導コイル70,74と共通コイル72,76とは、ロータコア62の軸方向端面よりも外側に設けられる図示しない片側または両側のコイルエンド側等、補助突極82から外れた部分で互いに接続されている。また、図4に示すように、各主突極66の先端部に周方向両側に突出する鍔部84を形成して、誘導コイル70,74(74は図3参照)の抜け止めを図ることもできる。
【0044】
このような第1モータジェネレータ22は、図7の制御部46が有する第1インバータ制御部86による第1インバータ42(図1)の制御によりその駆動が制御される。第1インバータ制御部86は、第1インバータ42のスイッチング素子Swのスイッチングを制御することにより、第1モータジェネレータ22のトルクを制御する。また、制御部46は、第2インバータ制御部88を有し、第2インバータ制御部88は、第2インバータ44(図1)を制御することにより第2モータジェネレータ24の駆動を制御する。
【0045】
なお、図1ではバッテリ36とインバータ42,44との間にDC/DCコンバータ38を接続しているが、DC/DCコンバータ38を省略することもできる。
【0046】
上記の第1モータジェネレータ22では、3相のステータコイル56u、56v、56wに3相の交流電流を流すことでティース58(図1)に形成された回転磁界(基本波成分)がロータ52に作用し、これに応じて、ロータ52の磁気抵抗が小さくなるように、主突極66がティース58の回転磁界に吸引される。これによって、ロータ52にトルク(リラクタンストルク)が作用する。
【0047】
また、ティース58に形成された空間高調波成分を含む回転磁界がロータ52の各ロータコイル64n,64sに鎖交すると、各ロータコイル64n,64sには、空間高調波成分に起因するロータ52の回転周波数(回転磁界の基本波成分)と異なる周波数の磁束変動によって、各ロータコイル64n,64sに誘導起電力が発生する。この誘導起電力の発生に伴って各ロータコイル64n,64sに流れる電流は、各ダイオード77,78により整流されることで一方向(直流)となる。そして、各ダイオード77,78で整流された直流電流が各ロータコイル64n,64sに流れるのに応じて各主突極66が磁化することで、各主突極66が磁極が(N極かS極のいずれか一方に)固定された磁石として機能する。前述のように、ダイオード77,78によるロータコイル64n,64sの電流の整流方向が互いに逆方向であるため、各主突極66に生じる磁石は、周方向においてN極とS極が交互に配置されたものとなる。
【0048】
しかも、図5に示すように、各主突極66の周方向両側面に補助突極82が、先端に向かうほど径方向外側になるように傾斜する方向に形成されている。このため、ステータ50からロータ52に、ステータ50の起磁力として、空間的2次の空間高調波の磁束であるq軸磁束が流れる場合を考えると、補助突極82により誘導コイル70,74に多くの磁束を鎖交させることができる。すなわち、ステータ50とロータ52とのある位相関係で、空間高調波のq軸磁束が、ステータ50の一部のティース58から一部の補助突極82を介して、一部の主突極66へ多く誘導され、一部の主突極66から別のティース58へ誘導される場合があり、誘導コイル70,74に多くの磁束を鎖交させることができる。また、q軸磁束の向き及び大きさは電気的1周期の中で変化するが、誘導コイル70,74に流れる磁束の最大量が多くなることで、誘導コイル70,74の鎖交磁束の変化を大きくできる。例えば、ステータ50のティース58からS極の補助突極82を介してS極の主突極66にq軸磁束が流れようとする場合があり、S極の主突極66をN極とする方向に磁束が流れようとする。この場合、これを妨げる方向にS極誘導コイル74に誘導電流が流れようとし、その流れは第2ダイオード78(図5)で妨げられない。このため、S極の主突極66からロータコア62のロータヨーク部分を介してN極の主突極66に抜ける方向の、誘導電流による磁束が流れる。また、これとは逆に、ステータ50のティース58からN極の主突極66を介して補助突極82にq軸磁束が流れようとする場合があり、N極の主突極66をS極とする方向に磁束が流れようとする。この場合、これを妨げる方向にN極誘導コイル70に誘導電流が流れようとし、その流れは第1ダイオード77(図5)で妨げられることなく、対応する主突極66をN極とする方向に電流を流す。この場合も、S極の主突極66からロータヨーク部分を介してN極の主突極66に抜ける方向の、誘導電流による磁束が流れる。この結果、各主突極66がN極またはS極に磁化する。上記のように各主突極66の両側面から補助突極82が突出しているので、補助突極82がない、すなわち各スロット29内で周方向に隣り合う主突極66同士の間に空間しかない場合に比べて、各誘導コイル70,74に鎖交する磁束の振幅の最大値を大きくできるので、鎖交磁束の変化を大きくできる。
【0049】
そして、各主突極66(磁極が固定された磁石)の磁界がステータ50により生成される回転磁界(基本波成分)と相互作用して、吸引及び反発作用が生じる。このステータ50により生成される回転磁界(基本波成分)と主突極66(磁石)の磁界との電磁気相互作用(吸引及び反発作用)によっても、ロータ52にトルク(磁石トルクに相当するトルク)を作用させることができ、ロータ52がステータ50で生成される回転磁界(基本波成分)に同期して回転駆動する。このように第1モータジェネレータ22は、ステータコイル56u、56v、56wへの供給電力を利用してロータ52に動力(機械的動力)を発生させるモータとして機能させることができる。
【0050】
また、N極誘導コイル70に流れる誘導電流と、S極誘導コイル74に流れる誘導電流との位相はずれるので、N極誘導コイル70とS極誘導コイル74とに、それぞれ位相がずれた半波整流が生成される。これに対して、N極共通コイル72とS極共通コイル76とには、N極誘導コイル70とS極誘導コイル74とに流れる電流の和の大きさの電流が流れるので、例えば連続して大きな直流電流が流れるようになる。このため、各主突極66に磁極が形成されやすくなり、ロータ52のトルクを増大できる。
【0051】
また、図7の制御部46が含む第1インバータ制御部86は、第1パルス電流生成部90を有する。第1パルス電流生成部90は、ロータコイル64n,64s(図3)の巻回中心軸方向である磁極方向に対し電気角で90度進んだ方向であるq軸方向に界磁磁束を発生させるようにステータコイル56u、56v、56wに電流を流すためのq軸電流指令に、周期的にパルス状に減少させる減少パルス電流を重畳させる。図8は、図7の制御部46が有する第1インバータ制御部86の構成を示すブロック図である。第1インバータ制御部86は、図示しない電流指令算出部を有し、予め作成されたテーブル等にしたがって、外部ECUから入力される第1モータジェネレータ22のトルク指令値に応じて、d軸、q軸に対応する電流指令値Id*,Iq*を算出する。ここで、d軸とは、第1モータジェネレータ22の周方向に関してロータコイル64n,64sの巻回中心軸方向である磁極方向をいい、q軸とはd軸に対し電気角で90度進んだ方向をいう。例えば、上記の図3に示すようにロータ52の回転方向が規定される場合、d軸方向、q軸方向は、図3に矢印で示したような関係で規定される。また、電流指令値Id*,Iq*は、それぞれd軸電流成分の指令値であるd軸電流指令値、q軸電流成分の指令値であるq軸電流指令値である。このようなd軸、q軸を用いて、ステータコイル56u、56v、56wに流す電流をベクトル制御により決定することが可能となる。
【0052】
また、q軸電流指令値Iq*は、第1パルス電流生成部90から周期的にパルス状に減少する、すなわち急激に減少した後、急激に上昇する減少パルス電流が重畳されることで、重畳後q軸電流指令値Iq・sum*となる。d軸電流指令値Id*及び重畳後q軸電流指令値Iq・sum*は、実電流であるd軸電流Id、q軸電流Iqとの制御偏差がとられ、それらの制御偏差に応じて対応するPI演算部92,94でPI制御によりd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*が算出され、2相/3相変換部95に出力される。2相/3相変換部95でd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*は、U相、V相、W相の3相の電圧指令値に変換される。3相電圧指令値は、図示しないPWM変換部でPWM信号に変換され、図示しないゲート回路に出力される。ゲート回路は、第1インバータ42の制御信号を印加するスイッチング素子Swを選択することにより、スイッチング素子Swのオンオフを制御する。すなわち、ゲート指令信号が第1インバータ42に出力され、第1インバータ42が駆動される。
【0053】
このように、制御部46(図7)は、ステータコイル56u、56v、56wに流れるステータ電流をdq軸座標系に変換してd軸電流成分及びq軸電流成分とし、フィードバック制御を含むベクトル制御により、目標トルクに対応する各相のステータ電流が得られるようにインバータ42を制御する。
【0054】
図9は、本実施形態において、第1インバータ42(図8)から第1モータジェネレータ22に流れるq軸またはd軸のステータ電流、第1モータジェネレータ22が出力軸34(図2)に発生させる第1出力軸トルク、第2インバータ44(図1)から第2モータジェネレータ24に流れるq軸のステータ電流、第2モータジェネレータ24が出力軸34に発生させる第2出力軸トルク、及び各インバータ42,44の入力側の直流電圧VHを示す図である。図9では、「ステータ電流」で実線aはq軸電流を、破線bはd軸電流を示している(後述する図10に示す比較例の場合も同様である)。上記のように、第1パルス電流生成部90(図8)がq軸電流指令Iq*に減少パルス電流を重畳させることで、図9の「MG1」で示すように、第1モータジェネレータ22のステータコイル56u、56v、56wへ、第1インバータ42から周期的にパルス状に減少する、すなわち急激に減少した後、急激に増加する減少パルス成分を有する「ステータ電流」である第1パルス電流が流れる。すなわち、第1パルス電流生成部90は、ステータコイル56u、56v、56wへ第1インバータ42から第1パルス電流を流す機能を有する。
【0055】
制御部46が上記のように構成されるので、ロータコイル64n,64s(図3)に、誘導電流であるロータ電流が生じる。すなわち、ステータコイル56u、56v、56wへ第1パルス電流が流れることで生じる磁束変化によって、ロータコイル64n,64sに誘導電流が流れる。そして、上記のようにロータ52に設けられた各主突極66が磁化されることで、ステータ50とロータ52との磁気的相互作用によりロータ52にトルクが発生する。また、上記のようにステータコイル56u、56v、56wに第1パルス電流が流れることで、各ロータコイル64n,64ではステータコイル56u、56v、56wへの減少パルス成分重畳後にロータ電流が大きくなる。このため、ロータトルクが増大する。
【0056】
また、上記の図2に示したように、第1モータジェネレータ22は遊星歯車機構である動力分割機構20を介して出力軸34に動力の伝達可能に連結されている。このため、図9の「MG1」の「第1出力軸トルク」に示すように、第1インバータ制御部86は、第1パルス電流によって、第1モータジェネレータ22が出力軸34に第1トルク変動Tw1(図9)を有する第1出力軸トルクを発生させる。第1トルク変動Tw1は、上記の第1パルス電流にパルス成分が発生するのと同時期に発生するトルク変動であって、パルス状に減少する、すなわち図9の矢印α方向に急激に減少した後、急激に上昇するトルク変動である。なお、図9では、ステータ電流及び第1出力軸トルク(後述する第2出力軸トルクの場合も同様である。)が直線状に移行する途中でパルス状の電流変動またはトルク変動が生じる図示としている。ただし、これは説明の便宜上のために横軸の時間を極端に長くしているだけで、実際には、「ステータ電流」では正弦波の電流に周期的にパルス状の電流成分が重畳している。また、「出力軸トルク」では、パルス状のトルク変動の前よりも、後でトルクが上昇し、その後徐々に低下するが、再度のパルス状のトルク変動により再度上昇し、それを繰り返すようになっている。
【0057】
さらに、図7に示すように、第2モータジェネレータ24(図1)の駆動を制御する第2インバータ制御部88は、第2パルス電流生成部96を有する。第2パルス電流生成部96は、上記の第1モータジェネレータ22(図3)のステータ50で第1パルス電流が生じるときに、第1パルス電流に伴って生じる各インバータ42,44(図1)の入力電圧である直流電圧VHの変化を抑制する、例えば解消するように、第2インバータ44(図1)から第2モータジェネレータ24のステータコイルに流す調整用パルス電流である第2パルス電流を生成する。
【0058】
第2インバータ制御部88は、第2モータジェネレータ24のステータコイルに第2パルス電流を流すように、第2インバータ44(図1)を制御する。すなわち、図9の「MG2」で示すように、第2パルス電流生成部96(図7)は、第2モータジェネレータ24のステータ電流であるq軸電流に、第1モータジェネレータ22のステータ電流にパルス状の電流成分を重畳させるのと同時期に、パルス状に増加する、すなわち急激に増加した後、急激に減少する増加パルス成分Pを重畳させる。図9の「直流電圧」では、実線cにより各インバータ42,44の入力電圧である直流電圧VHが一定に推移することを示している。破線c1は、第1モータジェネレータ22のステータコイルに流す第1パルス電流のみによって生じる直流電圧の仮想的な変動を示しており、破線c1は、第2モータジェネレータ24のステータコイルに流す第2パルス電流のみによって生じる直流電圧の仮想的な変動を示しており、破線c1と破線c2とが逆方向にパルス状となる変動成分であることを示している。図示の例では、変動成分c1、c2は互いに同じ変動幅を有する場合を示している。ただし、破線c1の変動成分に対して破線c2の変動成分が逆方向でその変動を、図9の矢印β方向に減らすものであれば、互いの変動幅は同じでなくてもよい。
【0059】
また、上記の図2に示したように、第2モータジェネレータ24は、遊星歯車機構である動力分割機構20を介して出力軸34に動力の伝達可能に連結されている。このため、図9の「MG2」の「第2出力軸トルク」に示すように、第2インバータ制御部88は、第2パルス電流によって、第2モータジェネレータ24が出力軸34に補償トルクである第2トルク変動Tw2を有する第2出力軸トルクを発生させる。第2トルク変動Tw2は、上記の第1パルス電流にパルス成分が発生するのと同時期に発生するトルク変動であって、パルス状に増加する、すなわち図9の矢印γ方向に急激に増加した後、急激に減少するトルク変動である。したがって、第2インバータ制御部88(図7)は、上記の第1パルス電流によって第1モータジェネレータ22が出力軸34に第1トルク変動Tw1を発生させるときに、第2モータジェネレータ24に、第2インバータ44(図1)から第2パルス電流を流すことによって出力軸34の第1トルク変動Tw1を抑制する、すなわち小さくするか、またはなくすような第2トルク変動Tw2が生じるように第2インバータ44を制御する。
【0060】
このような本実施形態によれば、第1モータジェネレータ22のステータコイルに第1パルス電流を流すことでロータコイル64n、64sに誘導電流を発生させる構成で、第1パルス電流に伴って生じる直流電圧VHの変化を抑制するように、第2モータジェネレータ24に接続された第2インバータ44から第2パルス電流が生じる。このため、第1インバータ42に入力される直流電圧VHの電圧変動を抑制することができる。すなわち、第1モータジェネレータ22のステータコイルに流すステータ電流にパルス成分を重畳させる際に、直流電圧VHが変動しないように、そのパルス重畳と同時に、第2モータジェネレータ24のステータコイルにパルス状の電流を通電し、電力変動を発生させないようにする。第1モータジェネレータ22で上記のパルス重畳によって電力が瞬間的に消費される場合には、例えば別の回転電機である第2モータジェネレータ24では発電するように電流を流して電圧低下を抑制し、逆に第1モータジェネレータ22で発電する場合には第2モータジェネレータ24で電力を消費するように通電する。この結果、直流電圧レベルで電力収支が一定に維持され、直流電圧VHの電圧変動が抑制されるので、各インバータ42,44に接続された第2コンデンサ41の容量を増加させることなく安定した第1モータジェネレータ22の制御が可能となる。
【0061】
また、各モータジェネレータ22,24に流すステータ電流が過度に増加しないので、個々のインバータ42,44やインバータ42,44に接続される第2コンデンサ41の大型化を抑制できるとともに損失を抑制できる。このため、第1モータジェネレータ22のステータコイルにパルス電流を流すことでロータコイル64n、64sに誘導電流を発生させる構成で、各インバータ42,44に入力される直流電圧VHの電圧変動を有効に抑制できる。
【0062】
また、第1モータジェネレータ22及び第2モータジェネレータ24のそれぞれが出力軸34に動力伝達可能に連結され、制御部46は、第1パルス電流によって第1モータジェネレータ22が出力軸34に第1トルク変動Tw1を発生させるときに、第2モータジェネレータ24に、第2インバータ44から第2パルス電流を流すことによって出力軸34の第1トルク変動Tw1を抑制するような第2トルク変動Tw2が生じるように第2インバータ44を制御する。このため、出力軸34のトルク変動を抑制する、すなわち小さくするか、またはなくすことができ、車両の駆動力を安定して制御できる。この場合、第1パルス電流に起因する第1出力軸トルクのトルク変動Tw1と、第2パルス電流に起因する第2出力軸トルクのトルク変動Tw2とは逆方向で大きさを同じとすることができるが、トルク変動Tw2がトルク変動Tw1と逆方向で、最終的に出力軸34のトルク変動を小さくするものであってもよい。
【0063】
図10は、本発明から外れた比較例の回転電機制御システムにおいて、インバータからモータに流れるq軸またはd軸のステータ電流、比較例のモータジェネレータが出力軸に発生させる出力軸トルクのトルク変動Tw3、及び各インバータの入力側の直流電圧VHの電圧変動を示す図である。
【0064】
図10に示す比較例の場合、図示しないモータは、直接または遊星歯車機構等の歯車減速機を介して出力軸34(図2参照)に動力伝達可能に連結されている。モータの構成自体は、上記で説明した本実施形態の第1モータジェネレータ22(図3等)と同様である。また、比較例では、本実施形態の場合と同様に、モータを駆動するインバータを制御する制御部は、このインバータとともにバッテリに並列に接続された第2インバータを制御する。ただし、比較例では、図7の制御部46のような第2パルス電流生成部96を含んでいない。
【0065】
このような比較例では、図10に示すように、上記の実施形態の第1モータジェネレータ22の場合と同様に、制御部は、ステータ電流、すなわち実線aで示すq軸電流または破線bで示すd軸電流にモータを流れるステータ電流にパルス変動を生じさせ、出力軸34にパルス状に減少するトルク変動Tw3を有する出力軸トルクを発生させる。また、上記のモータのステータで第1パルス電流が生じるときに、第1パルス電流に伴って各インバータの入力電圧である直流電圧VHに、第1パルス電流発生時期と同時期に、急激に増大してから急激に低下するパルス状の電圧変動が発生する。
【0066】
すなわち、比較例では、インバータを通じてバッテリ36(図1参照)からモータに供給している電力が、上記の図10に示すステータ電流であるパルス電流によって一時的に低下し、モータ側での電力消費が一時的に途絶える。この場合でも、バッテリ36やDC/DCコンバータ38の持つリアクトル成分により直流側での電力供給が途絶えることがない。このため、電力需給バランスが崩れて各インバータの入力電圧である直流電圧VHが図10のようにパルス状に上昇する。この場合には、瞬間的にモータの制御が困難になる可能性がある。
【0067】
さらに、直流電力の需給アンバランスによる直流電圧VHの電圧変動は、インバータに接続されたコンデンサの容量によって吸収可能であるが、単純に電圧変動VHをコンデンサの容量だけで抑制しようとするとコンデンサの容量を増加させる必要がある。この場合、コンデンサはインバータの構成部品及びコンデンサを含む部品の中で、容積、質量、コストの面で大きな割合を占めるため、コンデンサの容量増加による悪影響が大きくなる可能性がある。
【0068】
また、比較例では、図10の「出力軸トルク」で示すように、モータのステータコイルに流す第1パルス電流によって出力軸34に、パルス状のトルク変動成分Tw3を有する出力軸トルクが加わる。このため、一時的にも出力軸34のトルクが一定トルク要求時でも変動する可能性がある。
【0069】
これに対して、本実施形態では、第2インバータ制御部88が第1モータジェネレータ22のステータコイルで第1パルス電流が生じるときに、第1パルス電流に伴って、直流電圧にパルス状の電圧変動が発生し、出力軸34にトルク変動も発生する。ただし、本実施形態では、上記のように、制御部46が、第1モータジェネレータ22のステータコイルで第1パルス電流が生じるときに、第1パルス電流に伴って生じる各インバータ42,44の入力電圧である直流電圧VHの変化を抑制するように、第2インバータ44から第2モータジェネレータ24のステータコイルに第2パルス電流を流すように、第2インバータ44を制御する。このため、直流電圧VHの変動を抑制できるため、第2コンデンサ41の容量を小さくできるとともに、出力軸34に発生するトルク変動を抑制できる。
【0070】
なお、本実施形態では、第1回転電機である第1モータジェネレータ22は、出力軸34に動力伝達可能に連結され、調整用負荷である第2モータジェネレータ24は、出力軸34に動力伝達可能に連結されることで、第1モータジェネレータ22のステータで第1パルス電流が生じるときに、第2モータジェネレータ24で第2パルス電流を発生させることで、直流電圧VHの変動と、出力軸34のトルク変動とをいずれも抑制するようにしている。ただし、両モータジェネレータ22,24を、共通の出力軸に動力伝達可能に連結しない構成で、同様の制御により直流電圧VHの変動のみを抑制するように構成することもできる。
【0071】
なお、上記では、図9の実線aで示すq軸電流のように減少パルス成分を重畳させて、第1パルス電流をステータコイルに流し、ロータコイルに誘導電流を流すことでロータを磁化させる場合を説明した。ただし、図9の破線bで示すd軸電流のように、急激に上昇した後、急激に減少する増加パルス成分を重畳させて、第1パルス電流をステータコイルに流し、ロータコイルに誘導電流を流すことでロータを磁化させることもできる。
【0072】
また、上記では、第1モータジェネレータ22が、ステータコイルに第1パルス電流を流すことでロータコイルに誘導電流を発生させる構成である場合を説明したが、第1モータジェネレータ22と第2モータジェネレータ24との構成は逆にすることもできる。すなわち、この場合には、第2モータジェネレータ24が第1負荷である第1回転電機となり、第1モータジェネレータ22が調整用負荷である調整用回転電機となる。また、第1インバータ42と第2インバータ44との機能が逆になる。この場合には、制御部は、第1パルス電流が生じるときに、第1パルス電流に伴って生じる直流電圧の変化を抑制するように、第1インバータ44から第1モータジェネレータ22に調整用パルス電流である第2パルス電流を流すように第1インバータ44を制御する。この場合も上記と同様の効果を得られる。
【0073】
なお、上記の実施形態では、図1に示したようなハイブリッド車両10、すなわち、第1モータジェネレータ22及び第2モータジェネレータ24とエンジン18とが動力分割機構20を介して連結されるハイブリッド車両に回転電機制御システムを搭載する場合を説明した。ただし、本発明に係る回転電機制御システムを搭載するハイブリッド車両はこのような構成に限定せず、例えば、シリーズハイブリッド(SHV)型と呼ばれる構成、すなわち、エンジンにより駆動される発電機と、発電機から直流電源であるバッテリを介して電力が供給されるモータとを備え、バッテリに対して並列に第1、第2両インバータが接続され、各インバータに発電機とモータとがそれぞれ接続され、各インバータが制御部により制御される構成に適用することもできる。
【0074】
[第2の実施形態]
図11は、本発明の第2の実施形態の回転電機制御システムを示す構成図である。図11に示す第2の実施形態では、上記の図1〜9に示した第1の実施形態において、バッテリ36に接続された昇圧コンバータ等のDC/DCコンバータ38に、第1インバータ42及び第2インバータ44と並列に調整用インバータ98を接続している。また、調整用インバータ98に調整用負荷である調整用モータジェネレータ100を接続している。本実施形態では、第2インバータ44は調整用インバータに対応せず、第2モータジェネレータ24は調整用負荷に対応しない。なお、以下では、説明の便宜上、回転電機制御システム12が3つのモータジェネレータ22,24、100を備える場合を説明するが、4つ以上のモータジェネレータ等の回転電機及び対応するインバータを設けることもでき、その場合に増やす回転電機の構成は、第1モータジェネレータ22及び第2モータジェネレータ24の基本的構成と同様とする。すなわち、本実施形態では、第1、第2モータジェネレータ22,24の構造を同じとし、各モータジェネレータ22,24の基本的構成は、上記の第1の実施形態を構成する第1モータジェネレータ22の基本的構成と同様とする。
【0075】
すなわち、本実施形態では、上記の第1の実施形態において、第2モータジェネレータ24の基本的構成が、第1モータジェネレータ22と同様に構成されている。すなわち、第2モータジェネレータ24は、ステータコアに巻き回しされたステータコイルを有するステータと、ロータコアに巻き回しされたロータコイルと、ロータコイルに接続される整流部であるダイオードとを有するロータとを含む。また、ステータコイルへ第2インバータ42から第2パルス電流を周期的に流すことで生じる磁束変化によって、ロータコイルに誘導電流を流し、ロータを磁化させるようにしている。また、第1モータジェネレータ22のステータコイルに流す第1パルス電流に生じる減少パルス成分(または増加パルス成分)の発生時期と、第2モータジェネレータ24のステータに流す第2パルス電流に生じる減少パルス成分(または増加パルス成分)の発生時期とをずらしている。
【0076】
そして制御部46は、第1パルス電流が生じるときに、第1パルス電流に伴って生じる直流電圧の変化を抑制するように、調整用インバータ98から調整用モータジェネレータ100に調整用パルス電流を流すように調整用インバータ98を制御する。これとともに、制御部46は、第2パルス電流が生じるときに、第2パルス電流に伴って生じる直流電圧の変化を抑制するように、調整用インバータ98から調整用モータジェネレータ100に調整用パルス電流を流すように調整用インバータ98を制御する。
【0077】
また、調整用モータジェネレータ98は、第1モータジェネレータ22及び第2モータジェネレータ24には動力伝達可能には連結していない。例えば、調整用モータジェネレータ98は、別の負荷を駆動するためには使用しない。ただし、調整用パルス電流がステータコイルに通電されても実用上の性能に問題を生じないものであれば、調整用モータジェネレータ98に適宜の負荷を接続することもできる。
【0078】
このような実施形態によれば、調整用モータジェネレータ100以外の各モータジェネレータ22,24に対して、調整用モータジェネレータ100が調整用パルス電流をずれた時期(タイミング)に発生させる、すなわち同時には発生させないので、調整用モータジェネレータ100以外に、複数のモータジェネレータである第1モータジェネレータ22及び第2モータジェネレータ24が設けられ、それぞれがパルス電流の通電によりロータコイルに流れる誘導電流を増大させる場合でも、上記の第1の実施形態と同様に、インバータ42,44の入力電圧である直流電圧の変動を抑制できる。その他の構成及び作用は、上記の第1の実施形態と同様である。
【0079】
また、上記の各実施形態の回転電機制御システムを構成する回転電機には、種々の構造を適用可能である。例えば、図12は、ロータコイルに接続するダイオードの数を少なくした別例を示す、図6に対応する図である。すなわち、上記の図5、図6等で示した構成では、ロータ52の周方向に隣り合う2個の主突極66を1組として、各組で1個の主突極66に巻かれたN極誘導コイル70の一端と、別の主突極66に巻かれたS極誘導コイル74の一端とを、2個の整流素子である第1ダイオード77,78を介して接続する場合を説明した。ただし、上記の各実施形態では、図12のようにロータの回路を構成することもできる。図12に示す別例では、上記の図5、図6等に示した第1の実施形態において、ロータのN極となる周方向1つおきの主突極66(図3参照)の先端側に巻装した複数のN極誘導コイル70同士を直列に接続することでN極誘導コイル組Knを形成し、ロータのS極となる周方向1つおきの主突極66の先端側に巻装した複数のS極誘導コイル74同士を直列に接続することでS極誘導コイル組Ksを形成している。N極誘導コイル組Kn及びS極誘導コイル組Ksの一端は、互いに順方向が逆になる第1ダイオード77及び第2ダイオード78を介して、接続点Rで接続されている。
【0080】
また、図12に示すように、ロータの周方向に隣り合うN極及びS極の2つの主突極66(図3参照)を1組とした場合に、各組においてN極共通コイル72及びS極共通コイル76同士を直列に接続することで共通コイル組C1を形成するとともに、全部の主突極66に関する全部の共通コイル組C1同士を直列接続している。さらに、直列接続した複数の共通コイル組C1のうち、一端となる1つの共通コイル組C1のN極共通コイル72の一端を接続点Rに接続し、他端となる別の共通コイル組C1のS極共通コイル76の一端を、N極誘導コイル組Kn及びS極誘導コイル組Ksの接続点Rとは反対側の他端に接続している。このような構成では、上記の図5、図6に示した構成と異なり、ロータに設けるダイオードの総数を第1ダイオード77及び第2ダイオード78の2つに減らすことができる。その他の構成及び作用は、上記の図1〜9の第1の実施形態と同様である。また、上記の図12の構成を、上記の図11に示した第2の実施形態と組み合わせることもできる。
【0081】
また、図13は、本発明の実施の形態を構成する回転電機の他の構成例において、ステータとロータとの対向する部分の一部を示す概略断面図である。図13の構成例の第1モータジェネレータ22(または第2モータジェネレータ24)では、ロータ52の周方向に隣り合う主突極66同士の間に、磁性材により構成される補助極102が設けられている。補助極102は、ロータコア62の外周面において、各スロット68の周方向中央部から径方向に突出形成された非磁性材の柱部104の先端部に結合されている。柱部104の根元部は、ロータコア62の外周面のスロット68の底部に結合されている。なお、柱部104は、磁性材により構成するとともに、強度確保を図れることを前提に、ロータ52の周方向に関する柱部104の断面積を、補助極102の周方向の断面積よりも十分に小さくすることもできる。
【0082】
このような構成によれば、補助極102を含む部分に空間高調波成分が通過する磁路を形成しやすくでき、ステータ50で発生する回転磁界に含まれる空間高調波を補助極102に多く通過させ、空間高調波の磁束変動を高くすることができる。このため、ロータコイル64n,64sに生じる誘導電流をより大きくして、第1モータジェネレータ22(または第2モータジェネレータ24)のトルクをより増大できる。その他の構成及び作用は、上記の図1〜9の第1の実施形態、または、図11の第2の実施形態と同様である。
【0083】
図14は、本発明の実施の形態を構成する回転電機の他の構成例において、ステータとロータとの対向する部分の一部を示す概略図である。上記の実施形態では、ロータ52の各主突極66に誘導コイル70,74及び共通コイル72,76を巻装する場合を説明した。これに対して、図14の構成例の第1モータジェネレータ22(または第2モータジェネレータ24)では、各主突極66にロータコイル64n、64sを巻装するとともに、周方向1つおきの主突極66に巻装されるロータコイル64nと、ロータコイル64nが巻装される主突極66と隣り合う別の主突極66に巻装される別のロータコイル64sとが互いに電気的に分断されるようにしている。すなわち、ロータ52は、周方向1つおきの主突極66に複数のN極ロータコイル64nをそれぞれ集中巻きで巻線し、N極ロータコイル64nを巻線した主突極66と隣り合う主突極66であって、周方向1つおきの主突極66に、複数のS極ロータコイル64sをそれぞれ集中巻きで巻線している。
【0084】
また、複数のN極ロータコイル64nを直列接続したN極ロータコイル回路に1つの第1ダイオード77を接続し、複数のS極ロータコイル64sを直列接続したS極ロータコイル回路に1つの第2ダイオード78を接続している。すなわち、ロータ52の周方向に1つおきに配置された複数のN極ロータコイル64nは、電気的に直列に接続され、かつ無端状に接続されるとともに、その間の一部に第1ダイオード77が各N極ロータコイル64nと直列に接続され、N極ロータコイル回路が構成されている。各N極ロータコイル64nは、同じ磁極(N極)として機能する主突極66に巻装されている。
【0085】
また、複数のS極ロータコイル64sは、電気的に直列に接続され、かつ無端状に接続されるとともに、その間の一部に第2ダイオード78が各S極ロータコイル64sと直列に接続され、S極ロータコイル回路が構成されている。各S極ロータコイル64sは、同じ磁極(S極)として機能する主突極66に巻装されている。周方向に隣り合う(異なる磁極の磁石が形成される)主突極66に巻装されたロータコイル64n、64sは、互いに電気的に分断されている。
【0086】
また、ロータ52の周方向に隣り合う主突極66同士で、異なる磁極の磁石が形成されるように、各ダイオード77,78によるロータコイル64n、64sの電流の整流方向を互いに逆にしている。すなわち、周方向において隣り合うように配置されたN極ロータコイル64nとS極ロータコイル64sとで流れる電流の向き(ダイオード77,78による整流方向)、すなわち順方向が互いに逆になるようにダイオード77,78がロータコイル64n、64sに接続されている。ダイオード77,78は、互いに逆向きでロータコイル64n、64sに接続されている。
【0087】
各ダイオード77,78は、誘導起電力の発生により、対応するロータコイル64n、64sに流れる電流を独立して整流し、各ロータコイル64n、64sに流れる電流により生成される周方向複数個所の主突極66の磁気特性を周方向に交互に異ならせている。この構成では、ダイオード77,78の数を全体で2つに減らすことができ、ロータ52の巻線構造を簡略化することができる。
【0088】
また、各主突極66の周方向両側面に突出する補助突極82で、各主突極66に巻かれたロータコイル64n、64sを先端側と根元側とに分けているが、ロータコイル64n、64sの先端側及び根元側同士は直列に接続している。その他の構成及び作用は、上記の図1〜9の第1の実施形態、または、図11の第2の実施形態と同様である。
【0089】
また、図15に示す回転電機の他の構成例のように、各主突極66に巻装されたロータコイル64n、64sごとにそれぞれ1つずつ第1ダイオード77または第2ダイオード78を短絡するように接続することもできる。その他の構成及び作用は、上記の図1〜9の第1の実施形態、または、図11の第2の実施形態と同様である。
【0090】
また、図16に示す第1モータジェネレータ22(または第2モータジェネレータ24)の他の構成例のように、ロータコア62の外周面の周方向複数個所から突出する第2ティースである突極106の周方向両側面から突出形成する補助突極82(図4、14、15等参照)をなくすこともできる。この場合、モータジェネレータ22(または24)のトルクが上記の図14の構成例の場合よりも劣るが、図16の構成例でも、モータジェネレータ22(または24)に高い性能を発揮させることができる。その他の構成及び作用は、上記の図14の構成例と同様である。
【0091】
なお、上記の図14の構成例のモータジェネレータ22(または24)のように、周方向に隣り合う主突極66に巻装されるロータコイル64n、64s同士が互いに電気的に分断される構成例において、補助突極82の一部のみ、例えば主突極66に対して周方向片側に配置される補助突極82のみを省略することもできる。また、図示は省略するが、上記の図15の構成例のように、各主突極66に巻装されたロータコイル64n、64sごとにそれぞれ1つずつの第1ダイオード77または第2ダイオード78で短絡されるように接続する構成で、補助突極82の一部または全部をなくすこともできる。
【0092】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。本発明では、例えばアキシャルギャップ型の回転電機等を備える構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0093】
10 ハイブリッド車両、12 回転電機制御システム、22 第1モータジェネレータ、24 第2モータジェネレータ、36 バッテリ、42 第1インバータ、44 第2インバータ、46 制御部、50 ステータ、52 ロータ、56u、56v、56w ステータコイル、64n N極ロータコイル、64s S極ロータコイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に対して並列に接続される第1インバータ及び調整用インバータと、前記第1インバータに接続される第1負荷と、前記調整用インバータに接続される調整用負荷とを制御する制御部とを備える回転電機制御システムであって、
前記第1負荷は、ステータコアに巻き回しされたステータコイルを有するステータと、ロータコアに巻き回しされたロータコイルと、前記ロータコイルに接続される整流部とを有するロータとを含み、前記ステータコイルへ前記第1インバータから第1パルス電流を流すことで生じる磁束変化によって、前記ロータコイルに誘導電流を流し、前記ロータを磁化させる第1回転電機であり、
前記制御部は、前記第1パルス電流が生じるときに、前記第1パルス電流に伴って生じる直流電圧の変化を抑制するように、前記調整用インバータから調整用負荷に調整用パルス電流を流すように前記調整用インバータを制御することを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機制御システムにおいて、
前記第1回転電機は、出力軸に動力伝達可能に連結され、
前記調整用負荷は、出力軸に動力伝達可能に連結された調整用回転電機であり、
前記制御部は、前記第1パルス電流によって前記第1回転電機が出力軸に第1トルク変動を発生させるときに、前記調整用回転電機に、前記調整用インバータから前記調整用パルス電流を流すことによって前記出力軸の前記第1トルク変動を抑制するような調整用トルク変動が生じるように前記調整用インバータを制御することを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の回転電機制御システムにおいて、
前記ステータは、前記ステータコアに巻き回しされた複数の前記ステータコイルを有し、
前記ロータは、前記ロータコアに巻き回しされた複数の前記ロータコイルと、前記各ロータコイルに接続され、前記ロータコイルに電流が流れることで生じる磁気特性を前記複数のロータコイル同士で周方向に交互に異ならせる前記整流部とを有し、
前記第1回転電機は、前記ステータコイルへ前記第1インバータから第1パルス電流を流すことで生じる磁束変化によって、前記ロータコイルに誘導電流を流すことを特徴とする回転電機制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機制御システムにおいて、
前記ステータコアは、複数の第1スロットがロータ回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されており、
前記複数のステータコイルは、前記第1スロットを通って前記ステータコアに集中巻きで巻装されており、
前記ロータコアは、複数の第2スロットが前記ロータ回転軸まわりの周方向に互いに間隔をおいて形成されており、
前記複数のロータコイルは、少なくとも一部が前記第2スロットに配置されるように前記ロータコアの周方向複数個所に巻装されていることを特徴とする回転電機制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−70527(P2013−70527A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207748(P2011−207748)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】