説明

回転電機用ステータ

【課題】冷却油によるステータの冷却性能向上とステータコアへのコイル固定を両立した回転電機用ステータを提供する。
【解決手段】冷却油によってコイルが冷却される回転電機用ステータは、コイルのコイルエンド部の径方向内側および軸方向外側を壁部で覆って径方向外側に開放した周方向冷却液路を形成するガイド部材を備える。ガイド部材は、周方向に分かれた複数の分割ガイド要素から構成される。分割ガイド要素は、それぞれ、ステータコアの端面に形成された係止凹部に係止されて分割ガイド要素をステータコアに固定する係止爪と、コイル14のスロット内コイル部14bを径方向外側へ押し付けるコイル保持部28a,28bとを有する。コイル保持部28a,28bのスロット内コイル部14bと接触する表面には、冷却油を軸方向に流通させる溝状の軸方向冷却液路34が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用ステータに係り、特に、ステータコアに巻装されたコイルを冷却液にて冷却する回転電機用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアのティース部にコイルが巻装されてなる筒状のステータと、ステータの内側に回転可能に設けられたロータとを備える回転電機が知られている。この回転電機では、通電によって発熱するコイルを冷却するために、ステータの上方から冷却液である例えば冷却油を掛けてコイルとステーテコアを冷却することが行われている。
【0003】
例えば、特開2008−178243号公報(特許文献1)には、内部に磁石が配設されたロータと、ロータを回転させるシャフトと、コイルが配設されてロータの外周側に設けられたステータとを有するモータにおいて、ロータ内の磁石を冷却する冷却オイルを流通させる流通路であって一方端が開放端である磁石冷却用オイル流通路と、ステータの端部にシャフトの延伸方向に沿って突設されてロータの回転時に磁石冷却用オイル流通路の開放端より放出されるオイルの温度を測定する温度センサと、この温度センサの出力に基づき磁石の温度を推定する推定手段とを有する磁石温度推定装置が開示されている。この磁石温度推定装置が適用されるモータでは、軸方向が水平に設置された状態でモータ上方に設けられたオイル流通路から冷却用オイルを放出してステータの外周に掛け流すことにより、コイルを含むステータを冷却することが記載されている。
【0004】
また、特開平5−310048号公報(特許文献2)には、モータを収容するケース内に油室を形成し、この油室から油吐出口を介して冷却油を環状のコイルエンド部の上部に向けて吐出し、冷却する構成を備えた車両用駆動装置が記載されている。
【0005】
さらに、特開2003−92848号公報(特許文献3)には、コイルが収容されたスロットの内周側の開口部を絶縁性のアンダープレートと、その上に可塑樹脂材料を充填して形成された密閉プレートとによって閉塞してスロット内部に冷却通路を形成し、この冷却通路に冷却液を流通させることで強制冷却するようにした回転電機の冷却構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−178243号公報
【特許文献2】特開平5−310048号公報
【特許文献3】特開2003−92848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように冷却オイル等の冷却液をステータのコイルエンド部の上部に供給して冷却する場合、モータの軸方向が水平方向に沿って配置された状態では略環状をなすコイルエンド部、または、コイルエンド部を覆って成形された環状のモールド樹脂部の外表面を伝って下方にながれるとき、冷却液が重力作用によって外周表面から接線方向に滴下してしまうために鉛直方向下部に位置するコイルエンド部への冷却液の供給量が相対的に少なくなり、冷却性能に影響を与えていた。
【0008】
これに対して、特許文献1に記載されるように回転するシャフト内から径方向外側へ冷却液を吐出する構成にすれば環状をなすコイルエンド部の内周面にも冷却液を供給可能であるが、ステータの冷却構造が複雑になるという問題がある。
【0009】
また、特許文献2のコイル冷却構造では、モータの最上部に位置するコイルエンド部の下方を覆うカバーらしきものが図1に示されており、このカバーによって冷却油がコイルエンド部の内周面に接触するようにも見えるが、ステータのスロット内に位置するコイル部分についての冷却が十分ではない。
【0010】
さらに、特許文献3の回転電機の冷却構造では、コイルエンド部を液密状に覆って冷却液室し、この冷却室に冷却液を満たすことによりスロット内にも冷却液を強制的に流通させるものであるが、スロット開口部にアンダープレートを挿入するとともに更にその上に可塑樹脂材料の充填によって密閉プレートを形成するという冷却構造の構成は製造が煩雑で且つ高コストになる。
【0011】
さらにまた、上記特許文献1ないし3のいずれにおいても、ステータコアに対するコイルの固定をモールド樹脂成形等によって別途行う必要がある。
【0012】
本発明の目的は、回転電機の軸方向が水平方向に沿って配置された状態で冷却液が環状のコイルエンド部の上部に供給されたときに、上方より供給された冷却液によるコイルおよびステータコアの冷却性能を向上させるとともに、ステータコアに対するコイルの固定も可能にした回転電機用ステータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、冷却液によってコイルが冷却される回転電機用ステータであって、内周に複数のティース部が径方向内方に向かって突設されている筒状のステータコアと、前記ステータコアのティース部の周囲に巻装され、前記ステータコアの端面から軸方向外側へ突出するコイルエンド部と前記ティース部間に形成されたスロット内に位置するスロット内コイル部とを含むコイルと、前記コイルエンド部の径方向内側および軸方向外側を壁部で覆って径方向外側に開放した周方向冷却液路を形成するガイド部材とを備え、前記ガイド部材は、周方向に分かれた複数の分割ガイド要素から構成され、前記分割ガイド要素は、それぞれ、ステータコアの端面に形成された係止凹部に係止されて前記分割ガイド要素を前記ステータコアに固定する係止爪と、前記ステータコアの軸方向全体にわたって延伸して前記スロット内コイル部を径方向外側へ押し付けるコイル保持部とを有し、前記コイル保持部の前記スロット内コイル部と接触する表面には、冷却液を軸方向に流通させる溝状の軸方向冷却液路が形成されているものである。
【0014】
本発明に係る回転電機用ステータにおいて、前記分割ガイド要素は、軸方向両端側に径方向外側へ向いて突設されたコイル固定部をさらに有し、前記係止爪によって前記ステータコアに固定された状態で前記ティース部の端面と前記コイルエンド部のコイル導線との間に挿入されて前記コイルの軸方向の位置決めを行うものであってもよい。
【0015】
この場合、前記コイル固定部は、前記係止爪の近傍周囲で軸方向外側を囲んで配置されており、前記係止爪が前記ステータコアの端面に係止されようとするときに軸方向外側へ弾性変形する係止爪の変位を規制するストッパとして機能してもよい。
【0016】
また、本発明に係る回転電機用ステータにおいて、前記コイル保持部は、前記ステータコアのティース部の内径側先端部を受入れ可能な矩形状の開口部を含み、前記開口部の縁部と前記ティース部との間に前記冷却液が漏出しない程度の隙間が形成されていてもよい。
【0017】
この場合、前記分割ガイド要素が前記ステータコアの内周に環状に組み付けられた状態で、周方向に隣接する2つの分割ガイド要素のコイル保持部の間に前記冷却液が漏出しない程度の隙間が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る回転電機用ステータでは、ステータの上方から供給されて周方向冷却液路に受け取られた冷却液を、軸方向冷却液路を介してスロット側に誘導して流すことにより、コイルエンド部の内周面およびスロット内コイル部に冷却液を接触させて効果的に冷却することができる。また、係止爪によってステータコアに固定された分割ガイド要素のコイル保持部でコイルをスロット内に押し込んで保持することにより、ステータコアに対してコイルを固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態である回転電機用ステータを示す斜視図である。
【図2】ステータのティース部近傍を拡大して示す断面図である。
【図3】図2のA部の拡大図である。
【図4】分割ガイド要素の全体を示す斜視図である。
【図5】分割ガイド要素の軸方向一端側を拡大して示す斜視図である。
【図6】分割ガイド要素の係止爪がステータコアに係止されるときの様子を示す図である。
【図7】分割ガイド要素の係止爪がステータコアに係止されるときの様子を図6に続いて示す図である。
【図8】分割ガイド要素のコイル固定部がコイルエンド部とステータコアとの間に挿入された状態を示す図である。
【図9】分割ガイド要素に形成された貫通穴の平面図である。
【図10】図9のD−D断面を示す断面である。
【図11】分割ガイド要素の貫通穴とコイルエンド部との重なり具合を示す断面図である。
【図12】ステータの下部において冷却油がガイド部材の貫通穴に流れ込む様子を示す図である。
【図13】ガイド部材を設けていない従来の冷却油によるステータ冷却構造を説明するための図である。
【図14】分割ガイド要素の軸方向一方側の端部を図5に示す矢印E方向から見た斜視図である。
【図15】冷却油が周方向冷却油路から軸方向冷却油路へと誘導される様子を示す図である。
【図16】周方向冷却油路を流れる冷却油が径方向内側に誘導される様子を示す図である。
【図17】ガイド部材が取り付けられたステータのコイルエンド部を径方向外側から見たときの状態を平面展開して部分的に示す図である。
【図18】ガイド部材を構成する分割ガイド要素がステータコアに組み付けられる様子を示す図である。
【図19】環状に並んで装着される分割ガイド要素のうち最後の1つが組み付けられるときに隣接する分割ガイド要素間でオーバーラップ部が生じる状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る実施の形態(以下、実施形態という)について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
【0021】
以下においては、冷却液が例えばATF(オートマチックトランスミッションフルード(登録商標))等の冷却油であるものとして説明するが、油以外の冷却液(例えば冷却水)が用いられてもよい。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態である回転電機用ステータ(以下、適宜に「ステータ」とだけいう)10を示す斜視図である。本実施形態のステータ10を備える回転電機は、例えば車両の動力源として、軸芯が水平方向にほぼ沿った姿勢で搭載されている。そのため、ステータ10の軸芯位置を通る水平方向の中央境界線(または中央境界面)Hが図1に一点鎖線で示されている。以下においては、この中央境界線Hよりも上方にある部分を上部といい、中央境界線Hよりも下方に位置する部分を下部という。
【0023】
図1に示されるステータ10には、上方から冷却油が破線矢印方向に流下されて供給され、コイルを含むステータが冷却される構造になっている。図1では、コイルエンド部を見易くするために、ガイド部材16を構成する分割ガイド要素17のうちの2つが省略されている。
【0024】
ステータ10は、ステータコア12と、コイル14と、ガイド部材16とを備える。
【0025】
ステータコア12は、円環状に打ち抜き加工された電磁鋼板を軸方向に多数枚積層して、かしめ等の固定方法によって一体に連結して構成される筒状の部材である。ステータコア12の外周には、図示しない取付ボルトを挿通するボルト穴が貫通形成された取付部18が軸方向に延伸して膨出形成されている。なお、ステータコア12は、電磁鋼板積層体で構成されるものに限定されず、樹脂コーティングされた磁性粉をバインダーを混合して加圧成形された圧粉材で構成してもよい。また、ステータコア12は、複数の分割コアを環状に配列して構成されるステータコアであってもよい。
【0026】
ステータコア12は、周方向に連なるバックヨーク部20と、バックヨーク部20の内周から径方向内側へ向けて突出した複数のティース部22とを有する。複数のティース部22は、周方向に均等な間隔で配置されている。本実施形態では、15個のティース部22が形成されている例を示す。
【0027】
ステータコア12において周方向に隣り合うティース部22の間には、それぞれ、スロット24が形成されている。本実施形態ではスロット24もまた、ティース部22と同数だけ形成されている。スロット24は、ステータコア12の軸方向両側の端面に開口するとともにステータコア12の内周で軸方向にわたって開口する溝である。
【0028】
コイル14は、ステータコア12のティース部22の周囲に巻かれて装着されている。本実施形態のステータ10では、各ティース部22の周囲にコイル14がそれぞれ巻装された、いわゆる集中巻の例を示す。ただし、これに限定されるものではなく、コイルが分布巻によってステータコアに巻装されていてもよい。
【0029】
図2は、ステータ10のティース部22近傍を拡大して示す断面図であり、図3は図2におけるA部の拡大図である。図1,2に示すように、ティース部22に巻装されたコイル14は、ティース部22の端面(すなわちステータコア12の端面)から軸方向外側に突出したコイルエンド部14aと、ティース部22間のスロット24内に位置するスロット内コイル部14bとを含む。本実施形態では、ティース部22は略台形状の断面形状を有して形成されている。
【0030】
本実施形態のコイル14は、絶縁被覆された矩形断面を有する角線型のコイル導線により形成されている。具体的には、コイル14は、コイル導線の巻始め端部から所定巻き数だけ径方向内側方向へ密着または近接して巻きされた後、径方向および周方向に2重巻きされて同じ巻き数だけ径方向外側方向へ向かって並べて密着または近接して巻かれて巻終わり端部となっている。このように巻かれているコイル14は、巻き型の周囲に巻線機でコイル導線を巻き付けることによって形成されたものを、ステータコア12の内周側からティース部22の周囲に挿入して装着することができる。
【0031】
本実施形態のステータ10が三相交流モータに適用される場合、ティース部22の周囲に装着されたコイル14の巻始め端部および巻終わり端部は、周方向に2つ置きごとのコイル14と溶接等によって接続される。これにより、5つのコイル14が直列に電気接続されてU相コイルが形成される。同様にしてV相コイルおよびW相コイルも形成される。そして、三相コイルの各一端部が中性点で共通接続され、各他端部15U,15V,15Wがコイルエンド部14aから軸方向に引き出されて入出力用端子となっている。入出力用端子には、例えばリング状の接続端子が溶接等により連結される(図18参照)。
【0032】
なお、コイルは、上記のものに限定されず、種々の形態を採り得る。例えば、コイルは、丸型導線を巻いて形成されてもよい。また、コイルは、巻線機から繰り出されるコイル導線をティース部に周囲に直に巻いて形成されてもよい。さらに、コイルは、略U字状をなす導体セグメントの2つの脚部を周方向に隣り合うか又は離れたスロットに軸方向一方側から挿入して、軸方向他方側に突出した導体セグメントの脚部を周方向および径方向の少なくとも何れかの方向へ折り曲げて別の導体セグメントの脚部と溶接等で接続していくことにより構成されるものであってもよい。
【0033】
図1を再び参照すると、ガイド部材16は、ステータコア12の内周部に環状に取り付けられている。ガイド部材16は、周方向に複数に分かれた分割ガイド要素17が環状に連続して設置されることにより構成されている。本実施形態では、ステータコア12のティース部22に対応する15個の分割ガイド要素17によってガイド部材16が構成されている。
【0034】
図4は、分割ガイド要素17の全体を示す斜視図である。分割ガイド要素17は、樹脂成形品によって好適に構成される。分割ガイド要素17は、径方向に沿って延びる径方向壁部26a,26bを軸方向両端に備えるとともに、径方向壁部26a,26b間を繋いで軸方向に延びる軸方向壁部28を備える。
【0035】
本実施形態では、径方向壁部26a,26bと軸方向壁部28とが略L字状をなして、コイルエンド部14aの径方向内側および軸方向外側を覆っている。なお、各壁部26a,26b,28は、種々の形状を採り得る。例えば、径方向壁部26a,26bは、必ずしも径方向に沿っていなくてもよく、軸方向に傾斜していてもよいし、あるいは、径方向壁部26a,26bと軸方向壁部28とがテーパ部または湾曲部を介してつながっていてもよい。
【0036】
軸方向壁部28には、細長い矩形状の開口部30が貫通して形成されている。この開口部30は、分割ガイド要素17がステータコア12に取り付けられたときにティース部22の径方向内側先端部23を受入れ可能な大きさおよび形状に形成されている。また、図3に示すように、分割ガイド要素17の開口部30は、ティース部22との間に形成される隙間32から冷却油がステータ内周側へ漏出しない程度の寸法になるよう設定されている。
【0037】
具体的には、冷却油としてATFを用いた場合、隙間32を約0.2mm程度に設定すればATFがスロット24側から漏出しないことが確認されている。このように隙間32を設けることで、冷却油の漏出を防止しながら、ティース部22の先端23に干渉することなく分割ガイド要素17をステータコア12に容易に組み付けることができる。
【0038】
図3,4に示すように、分割ガイド要素17の軸方向壁部28は、開口部30が形成されることによって軸方向にそれぞれ延びる2つの壁部分28a,28bに分かれている。そして、各壁部分28a,28bにおいて、コイル14との接触面となる表面には、溝状の冷却油路34がステータコア12の軸方向全長以上にわたって延伸して形成されている。このような冷却油路34が形成されていることで、図3に示すように軸方向壁部28の壁部分28a,28bがスロット24に挿入されたコイル14のスロット内コイル部14bとぴったりと接触して配置されても、冷却油路34を介して冷却油を軸方向に流してスロット内コイル部14bを効果的に冷却することができる。
【0039】
また、ステータコア12に組み付けられて周方向に隣り合う2つの分割ガイド要素17の軸方向壁部28a,28b間にも上記隙間32と同程度の隙間36が形成されるようにしている。これにより、分割ガイド要素17を周方向に順次に並べてステータコア12に組み付けていくときに、軸方向壁部28同士が互いに干渉することなく容易に組み付けられるとともに、冷却油がスロット24から内周側へ漏出するのを防止することができる。
【0040】
なお、上記隙間32,36の寸法は、冷却油の粘性に応じて適宜に変更可能であり、粘性が大きい程に大きな寸法に設定しても冷却油の漏出を防止できる。ただし、冷却油の粘性が高くなるほどに狭い隙間(例えば軸方向冷却油路34、スロット内コイル部14bを構成するコイル導線間の隙間等)に流れ込みにくくなるため、コイルに対する冷却性能も考慮してその寸法を定めればよい。
【0041】
図4を参照すると、分割ガイド要素17の軸方向壁部28の両端部分であってステータコア12の端面から外側へ突出する部分38には、係止爪40およびコイル固定部42がそれぞれ立設されている。係止爪40およびコイル固定部42は、開口部30を挟んで軸方向に対向して配置されている。
【0042】
図5は、分割ガイド要素17の軸方向一端側を拡大して示す斜視図である。図6および図7は、係止爪40がステータコア12のティース部22に係止されるときの様子を示す図である。
【0043】
図5に示すように、係止爪40の先端部には、傾斜面40aを有するフック部40bが形成されている。一方、ステータコア12のティース部22の端面には、係止凹部44が形成されている。これにより、分割ガイド要素17がステータコア12に内周側から組み付けられるとき、図6に示すように、傾斜面40aに案内されてフック部40bがティース22の端面に乗り上げることによって係止爪40が軸方向外側へ弾性変形する。このとき、係止爪40に近接して設けられているコイル固定部42は、係止爪40が弾性変形によって過度に変位するのを規制するストッパとして機能する。これにより、係止爪40が過度に変形することによる破損が防止される。
【0044】
そして、分割ガイド要素17が矢印Bで示す径方向外側へ押し込まれて移動して、係止爪40のフック部40bが係止凹部44の位置に到達したとき、係止爪40の弾性復元力によってフック部40bが係止凹部44に矢印C方向へ嵌り込む。このようにティース部22の軸方向両端において係止爪40が係止凹部44に係止されることによって、分割ガイド要素17がステータコア12に対して固定される。このとき、軸方向壁部28a,28bは、図2に示すように、スロット24内に入り込んでコイル14のスロット内コイル部14bをコイル導線のスプリングバック力に抗してバックヨーク部20に向けて押し付けて保持および固定するコイル保持部となる。
【0045】
図8は、コイル固定部42がコイルエンド部14aとステータコア12のティース部22との間に挿入された状態を示す図である。図5,8を参照すると、上記のように係止爪40のストッパおよび保護部材として機能するコイル固定部42は、略コ字状の横断面形状を有するとともに、軸方向壁部28の端部38で径方向外側へ向いて突設されている。また、コイル固定部42は、係止爪40によってステータコア12に固定された状態でティース部22の端面とコイルエンド部14aのコイル導線との間に挿入されてコイル14の軸方向に位置決めする機能も有する。さらに、コイル固定部42は、係止爪40とほぼ同じ高さで且つ周囲を囲っていることで、細く延伸する係止爪40を保護する機能も有する。
【0046】
具体的には、分割ガイド要素17がステータコア12の内周側から組み付けられるとき、コイル固定部42がコイルエンド部14aを構成するコイル導線とティース部22の端面との間に形成される隙間に軸方向の両側においてそれぞれ挿入(または圧入)される。これにより、コイルエンド部14aを含むコイル14の軸方向位置が決められた状態になる。したがって、このコイル固定部42の軸方向位置決め作用と、分割ガイド要素17の軸方向壁部28によるコイル保持作用とによって、コイル14がステータコア12にしっかりと固定される。
【0047】
なお、コイル固定部42の挿入側端部に傾斜面46(または湾曲面)を形成してもよい。このようにすれば、コイル固定部42をコイルエンド部14aとティース部22の端面との間に挿入する作業をより容易に行えるようになる。また、コイルエンド部14aの軸方向内側の表面に接触することとなるコイル固定部42の側面48を軸方向内側すなわちステータコア12側へ例えば数度程度傾けて形成してもよい。これにより、コイルエンド部14aとティース端面との間の隙間に多少のばらつきがあってもコイル固定部42がしっかりと圧入されることでコイル14の軸方向の位置決めを確実に行うことができる。
【0048】
図8に示すように、分割ガイド要素17がステータコア12に組み付けられたとき、コイルエンド部14aは、分割ガイド要素17の軸方向壁部28によって径方向内側が覆われるとともに、分割ガイド要素17の径方向壁部26bによって軸方向外側が覆われる。そして、コイルエンド部14aと径方向壁部26aとの間に冷却油路50が形成される。この冷却油路50は、すべての分割ガイド要素17が取り付けられてガイド部材16が環状に組み立てられたときに環状に連なることによって周方向冷却油路となる。ここで、径方向壁部26a,26bは、必ずしもコイルエンド部14aの径方向全幅に亘って延伸していなくてもよく、軸方向視でコイルエンド部14aの外周側部分が覆われていない状態であってもよい。
【0049】
冷却油路50の幅W1は、冷却油の粘性等に応じて適宜に設定可能であるが、冷却油としてATFを用いた場合には例えば0.3〜0.5mm程度に設定されるのが好ましい。このように設定することで、ステータ10の上方から供給される冷却油が少量であっても冷却油路50を介して周方向に円滑に流れて隣接するコイルエンド部14aに供給することができる。加えて、ステータ10の下部においても冷却油路50から冷却油が鉛直下方へ滴下するのを抑制することができ、ステータ10の下部に位置するコイルエンド部14aおよびこれを含むコイル14に対する冷却性能を向上させることができる。
【0050】
図4に示すように、分割ガイド要素17において軸方向壁部28の端部38であって径方向壁部26a,26bとコイル固定部42との間には、例えば長方形状等の貫通穴52がそれぞれ形成されている。図4には、軸方向他方側にある1つの貫通穴52だけが示されている。貫通穴52の形状は、長方形、正方形等の矩形状に限定されるものではなく、円形、三角形等の他の形状であってもよい。
【0051】
このような貫通穴52が形成された分割ガイド要素17が環状に連なって構成されるガイド部材16は、図1に示すように複数(本実施形態では15個)の貫通穴52が周方向に等間隔で形成されたものになる。
【0052】
また、図5,8に示されるように、分割ガイド要素17における軸方向壁部28の端部38の内周側表面には、貫通穴52に対応する位置で軸方向と直交する方向に延伸するガイド溝54が形成されている。このような分割ガイド要素17が環状に連なって構成されるガイド部材16では、図1に示すように周方向に環状に連続したガイド溝54が複数の貫通穴52をつなぐように形成されたものになる。
【0053】
図9は、分割ガイド要素17に形成された貫通穴52の平面図であり、図10は図9のD−D断面を示す断面である。なお、図9,10では、径方向壁部およびコイル固定部等の図示が省略されている。
【0054】
貫通穴52は、ステータ10の上部においては周方向の冷却油路50から冷却油を径方向外側から内側へと通して冷却油をステータ内周に供給する一方、ステータ10の下部においては冷却油を径方向内側から外側から通してコイルエンド部14aおよび冷却油路50に供給する機能を有する。
【0055】
したがって、図9に示すように、分割ガイド要素17において、貫通穴52と径方向壁部26aとの間の幅W2および貫通穴52とコイル固定部42との間の幅W3が例えば1mm以上になると、冷却液の粘性および供給量等にもよるが、冷却液の表面張力の影響により貫通穴52に冷却油が進入しにくくなる。そのため、貫通穴52の冷却油進入側の開口縁部56aをR形状に形成するのが好ましい。また、この場合、ステータ10に対する分割ガイド要素17の取付位置によって貫通穴52内の冷却液の流れ方向が異なることから、貫通穴52の両方の開口縁部56a,56bをR形状に形成するのが好ましい。これにより、冷却油の表面張力による影響を抑えて冷却油を貫通穴52へと確実に流入させることができ、ステータ10の上部における内周側への冷却油の供給、および、ステータ10の下部における外周側への冷却液の供給を安定して実現することができる。
【0056】
なお、貫通穴52の開口縁部は、上記R形状に代えて面取り形状としてもよい。また、ガイド溝54に開口する貫通穴52の縁部は、ガイド溝54が貫通穴52と同一幅に形成されている場合には周方向に面する開口縁部だけをR形状とすればよい。
【0057】
図11は、分割ガイド要素17の貫通穴52とコイルエンド部14aとの重なり具合を示す断面図である。貫通穴52が形成されている軸方向壁部28は、コイルエンド部14aに接触して配置されており、貫通穴52の一部がコイルエンド部14aによって塞がれた状態になっていることが好ましい。具体的には、コイルエンド部14aが貫通穴52の一部にかかった位置にあり、貫通穴52の塞がれていない部分53を介して冷却油が流れるようにしている。そして、貫通穴52の塞がれていない部分53の幅W4は、上記冷却油路50の場合と同様に例えば0.3〜0.5mmとするのが好ましい。このように設定することで、ステータ10の上部においては冷却油が必要以上に内周側へ流れ込むのを抑制して、冷却油路50における周方向への冷却油の供給を適度に確保することができる。また、このように貫通穴52の一部がコイルエンド部14aと重なった位置に形成されることによって、ステータ10の下部においては貫通穴52から外周側へ流れた冷却油がコイルエンド部14aを伝って流れ落ちることができ、コイルエンド部14aを確実に冷却することができる。
【0058】
図12は、ステータ10の下部において冷却油が貫通穴52に流れ込む様子を示す図であり、図13は、ガイド部材を設けていない従来のステータ冷却構造を説明するための図である。
【0059】
図13に示すように、ガイド部材が設けられていないステータでは、上方に配置された冷却油供給パイプ102の吐出口104から放出された冷却油がステータ100の最上部近辺に流れ落ちて供給される。
【0060】
そして、冷却油は、ステータコア106の外周面や、略環状をなすコイルエンド部108の外周面(コイルエンド部がモールド樹脂によって環状に覆われている場合にはモールド樹脂部の外周面)に沿って流れ落ちる。しかし、ステータ100の軸芯を含む中央境界面Hを境としてその下部では冷却油が重力作用によって外周面から接線方向(矢印110方向)に滴下してしまう傾向にある。そのため、ステータ100の下部に位置するコイルエンド部108の下部に位置するコイルエンド部108aの外周面への冷却液の供給量が相対的に少なくなる。また、環状をなすコイルエンド部108の軸方向端面108bおよび内周面108c上にも冷却油が流れにくかった。これにより、図13にハッチングで示す領域への冷却油の供給および接触が十分に行えず、コイルの冷却性能に影響を与えていた。
【0061】
これに対し、本実施形態では、図13に示すような冷却油供給パイプの吐出口から放出されてステータ10上に流れ落ちた冷却油は、四方八方に広がって流れることでステータコア12の外周面を介して間接的に、あるいは、直接にコイルエンド部14aへと流れる。なお、冷却油は、ステータ10を収容するケースに形成された冷却油供給口から流下されて上方から供給されてもよい。
【0062】
本実施形態のガイド部材16は、コイルエンド部14aの径方向内側および軸方向外側を覆っているが、径方向外側には開放しているため、コイルエンド部14aに流れた冷却油はガイド部材16の周方向冷却油路50に受け入れられてコイルエンド部14aに接触して流れることができる。また、周方向冷却油路50に受け取られた冷却油は、周方向冷却油路50に沿って隣接するコイルエンド部14aへと供給されて接触する。
【0063】
その一方、ステータ10の上部において周方向冷却油路50に受け取られた冷却油の一部は、貫通穴52を介してステータ10の内周側へ流れる。そして、冷却油は、ガイド溝54を伝って周方向に流れてステータ10の下部へと流れる。
【0064】
ステータ10の下部では、図13に示すように、ガイド溝54に沿って流れてきた冷却油が貫通穴52から外周側へ破線矢印で示すように流れ出てコイルエンド部14aと直に接触して流れ落ちる。加えて、上述したように周方向冷却油路50が所定幅W1に設定されていることで、冷却油が周方向冷却油路50に沿ってステータ10の下部まで流れるのを可能にすることができる。これらによって、中央水平線Hよりも下部に位置するコイルエンド部14aにも冷却油を効果的に供給することができ、コイル14の周方向にわたる冷却性能を向上させることができる。
【0065】
また、ガイド部材16によって形成される周方向冷却油路50に受け入れられた冷却油の一部は、分割ガイド要素17の軸方向壁部28に形成された軸方向冷却油路34を介してスロット24内に流入することができる。これにより、コイルエンド部14aの内周面およびスロット内コイル部14bに冷却油を直に接触させて流すことができ、コイル14の軸方向にわたる冷却性能も向上させることができる。
【0066】
さらに、本実施形態のステータ10では、冷却油のガイド構造であるガイド部材16が複数の分割ガイド要素17をステータ内周側から組み付けて環状に構成されており、各分割ガイド要素17がステータコア12に係止されることによってコイル14をステータコア12に対して固定する機能も果たしている。したがって、コイルをステータコアに固定する等のために行われているコイルエンド部のモールド樹脂成形を省くことができ、その分、製造コストおよび製造工数を低減できる。この場合、コイルエンド部14aに冷却油が直に接触して流れることになるため、冷却性能向上に対する寄与がより大きくなる。
【0067】
このように本実施形態のステータ10によれば、コイル14の全体に冷却油を直に接触させて冷却することができるためコイル14およびこれを含むステータ10の冷却性能が大幅に向上し、回転電機の熱による損失を低減することができる。上記のようにコイル14の全体に冷却油が接触するように供給されることは、解析結果および実験結果によって確認されている。
【0068】
また、ガイド部材16によって少量の冷却油でコイルの冷却を効果的に行えるため、使用する冷却油量を削減することができる。
【0069】
さらに、ガイド部材16を構成する分割ガイド要素17の製造および組付けが簡易であり、かつ、コイル固定のためのモールド樹脂成形等も廃止できるため、冷却構造を有するステータの製造の容易化とコストダウンを図れる。
【0070】
次に、図14〜16を参照して、本実施形態のステータ10に用いる分割ガイド要素17の変形例について説明する。図14は、分割ガイド要素17の軸方向一方側の端部を図5に示す矢印E方向から見た斜視図である。図15は、冷却油が周方向冷却油路50から軸方向冷却油路34へと誘導される様子を示す図である。また、図16は、周方向冷却油路50を流れる冷却油が径方向内側に誘導される様子を示す図である。
【0071】
図14に示すように、分割ガイド要素17の径方向壁部26aにおいてコイルエンド部14aに対向する内面、すなわち、周方向冷却油路50を形成する表面には、コイルエンド部14aとの間を流れる冷却油の流れ方向を誘導する誘導部が形成されている。
【0072】
具体的には、径方向壁部26aの内面には、径方向視で三角状に突出した突出リブ60が形成されている。突出リブ60の端部は、軸方向壁部28につながって形成されている。そして、突出リブ60は、図15に示すように、コイルエンド部14aとの間を周方向に流れる冷却油を、周方向に隣り合う2つのコイルのコイルエンド部14a間に軸方向へ流すように誘導する誘導部として機能する。これにより、軸方向冷却油路34等を介してのスロット24内への冷却油の供給が促進され、スロット内コイル部14bの冷却性能をより高めることができる。
【0073】
また、径方向壁部26aの内面には、軸方向視で三角状に突出した突出リブ62が形成されている。突出リブ62の頂部が径方向内側に向き、突出リブ62が径方向壁部26aの端面と面一になっている。そして、突出リブ62は、図16中の矢印線64で示すように、径方向壁部26aとコイルエンド部14aとの間の冷却油路50を周方向に流れる冷却油を、コイルエンド部14aを構成するコイル導線の並び方向である径方向側へ誘導する誘導部として機能する。これにより、特にステータ10の下部において、冷却油路50を周方向に沿って流れ落ちようとする冷却油を径方向内側へと誘導することで径方向内側に位置するコイル導線に接触させて流すことができ、コイルエンド部14aでの径方向に関する冷却性能をより高めることができる。
【0074】
次に、図17ないし19を併せて参照して、分割ガイド要素17の径方向壁部26a,26bの構成と、分割ガイド要素17の組付けについて説明する。
【0075】
図17は、ガイド部材16が取り付けられたステータ10のコイルエンド部14aを径方向外側から見たときの状態を平面展開して部分的に示す図である。図18は、ガイド部材16を構成する分割ガイド要素17がステータコア12に組み付けられる様子を示す図である。また、図19は、環状に並んで装着される分割ガイド要素のうち最後の1つが組み付けられるときに隣接する分割ガイド要素間で干渉部が生じる状態を説明するための図である。
【0076】
図4,18等を参照すると、分割ガイド要素17において軸方向一方側に設けられた径方向壁部26aは、略台形状をなす板部により構成されている。径方向壁部26aには、分割ガイド要素17がステータコア12の内周側から組み付けられて環状のガイド部材16が構成されたとき、周方向に隣り合う2つの分割ガイド要素17の径方向壁部26aの周方向端部同士が軸方向にずれた位置で周方向に重なって配置されるように段差を設けてある。
【0077】
詳しくは、図17に示すように、略台形状をなす径方向壁部26aの周方向一方側の端部27aは、コイルエンド部14aに対向する内面側に段差66が形成されていることにより、その厚みが周方向中央位置に比べて約半分未満に薄く形成されている。これに対し、径方向壁部26aの周方向他方側の端部27bは、コイルエンド部14aとの対向面とは反対側の外表面に段差68が形成されていることにより、その厚みが周方向中央位置に比べて約半分以下に薄く形成されている。
【0078】
このようにしたことで、分割ガイド要素17をステータコア12の内周側から組み付けて環状のガイド部材16を構成するとき、周方向に隣り合う2つの分割ガイド要素17の径方向壁部26aの周方向端部27a,27b同士が軸方向にずれた位置で周方向に重なって配置されることが可能になる。
【0079】
より詳しくは、径方向壁部26aに関して、周方向一端側の端部27aが軸方向外側に配置され、周方向他端側の端部27bが軸方向内側(すなわちステータコア12側)に配置され、両方の端部27a,27b同士が周方向に重なり合っている。この重なり具合は、ガイド部材16を構成するすべての分割ガイド要素17について同様にしている。
【0080】
図19に示すように、略台形状をなす径方向壁部について上記のように重ねる工夫をしていないと、最後の1つの分割ガイド要素17aをステータコア12に組み付けようとしたとき、周方向両側に隣接する分割ガイド要素17aの径方向壁部同士で干渉部OL1,OL2ができるために、最後の1つの分割ガイド要素だけ径方向壁部を他の分割ガイド要素とは異なる形状にしないと同じ方向から取り付けることができなくなる。
【0081】
これに対し、本実施形態の分割ガイド要素17では、上記のように周方向に隣り合う2つの分割ガイド要素17の径方向壁部26aの周方向端部27a,27b同士が軸方向にずれた位置で周方向に重なって配置されるようにしたことで、全ての分割ガイド要素17を同一のものにしながらステータコア12の内周側から環状に組み付けることが可能になる。したがって、分割ガイド要素を1種類にできることで部品数を減らしてコスト削減できる。また、全ての分割ガイド要素17の組付方向がステータコア12の内周側から径方向外側に向けて組み付けるというように揃うことから、組付性が向上し自動化が容易となる利点がある。
【0082】
また、軸方向に重なった周方向端部27a,27b間には、周方向冷却油路50から冷却油が漏出しない程度の隙間が形成されるのが好ましい。このようにすることで、ステータ10の上方から供給されて冷却油路50に受け取られる冷却油量を減少させることなく周方向へと流すことができ、周方向に関するコイルエンド部14aの冷却性能の向上につながるとともに、組付け時の誤差やばらつき等による径方向壁部同士の干渉を抑制することができる。
【0083】
ここで、図4を再び参照すると、分割ガイド要素17の軸方向他端側の径方向壁部26bは、上記略台形状の径方向壁部26aよりも幅狭の略長方形状に形成されている。これは、ステータコア12のティース部22に巻装されたコイル14から引き出されるコイル導線の端部を軸方向に延出させるための逃がしを形成するためである。
【0084】
ただし、コイル14から引き出されるコイル導線の端部をコイルエンド部14aから径方向外側へ一旦曲げてから軸方向に延出させるようにすれば、軸方向両端の径方向壁部26a,26bを上記のような略台形状に形成することができる。これにより、軸方向他端側の周方向冷却油路50が軸方向一旦側と同様に周方向に切れ目無く形成されることとなり、軸方向他端側のコイルエンド部14aについての冷却性能が一層向上する。
【0085】
なお、上記において実施形態およびその変形例について説明したが、本発明に係る回転電機用ステータは上記実施形態等の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載される発明の要旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更または改良が可能である。
【0086】
例えば、上記においては、分割ガイド要素17の径方向壁部26aについて段差66,68を形成する表面を異ならせているが、同じ表面の周方向両端側に段差を形成してもよい。この場合、2種類の分割ガイド要素を同数だけ準備して、それらを交互に環状に組み付けてガイド部材が構成されることになる。
【符号の説明】
【0087】
10 回転電機用ステータ、12 ステータコア、14 コイル、14a コイルエンド部、14b スロット内コイル部、15U,15V,15W U相、V相、W相の各相コイル端部、16 ガイド部材、17 分割ガイド要素、18 取付部、20 バックヨーク部、22 ティース部、23 径方向内側先端部、24 スロット、26a,26b 径方向壁部、27a,27b 周方向端部、28 軸方向壁部、28a,28b 壁部分、30 開口部、32,36 隙間、34 軸方向冷却油路、38 軸方向壁部の端部、40 係止爪、40a 傾斜面、40b フック部、42 コイル固定部、44 係止凹部、46 傾斜面、48 側面、50 周方向冷却油路、52 貫通穴、53 貫通穴の一部分、54 ガイド溝、56a,56b 開口縁部、60,62 突出リブ、66,68 段差、H 中央境界線または中央境界面、W1,W2,W3,W4 幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液によってコイルが冷却される回転電機用ステータであって、
内周に複数のティース部が径方向内方に向かって突設されている筒状のステータコアと、
前記ステータコアのティース部の周囲に巻装され、前記ステータコアの端面から軸方向外側へ突出するコイルエンド部と前記ティース部間に形成されたスロット内に位置するスロット内コイル部とを含むコイルと、
前記コイルエンド部の径方向内側および軸方向外側を壁部で覆って径方向外側に開放した周方向冷却液路を形成するガイド部材と、を備え、
前記ガイド部材は、周方向に分かれた複数の分割ガイド要素から構成され、前記分割ガイド要素は、それぞれ、ステータコアの端面に形成された係止凹部に係止されて前記分割ガイド要素を前記ステータコアに固定する係止爪と、前記ステータコアの軸方向全体にわたって延伸して前記スロット内コイル部を径方向外側へ押し付けるコイル保持部とを有し、
前記コイル保持部の前記スロット内コイル部と接触する表面には、冷却液を軸方向に流通させる溝状の軸方向冷却液路が形成されている、
回転電機用ステータ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記分割ガイド要素は、軸方向両端側に径方向外側へ向いて突設されたコイル固定部をさらに有し、前記係止爪によって前記ステータコアに固定された状態で前記ティース部の端面と前記コイルエンド部のコイル導線との間に挿入されて前記コイルの軸方向の位置決めを行うことを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記コイル固定部は、前記係止爪の近傍周囲で軸方向外側を囲んで配置されており、前記係止爪が前記ステータコアの端面に係止されようとするときに軸方向外側へ弾性変形する係止爪の変位を規制するストッパとして機能することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記コイル保持部は、前記ステータコアのティース部の内径側先端部を受入れ可能な矩形状の開口部を含み、前記開口部の縁部と前記ティース部との間に前記冷却液が漏出しない程度の隙間が形成されるように形成されていることを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記分割ガイド要素が前記ステータコアの内周に環状に組み付けられた状態で、周方向に隣接する2つの分割ガイド要素のコイル保持部に間に前記冷却液が漏出しない程度の隙間が形成されていることを特徴とする回転電機用ステータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−13228(P2013−13228A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144128(P2011−144128)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】