説明

固体反応測定方法およびその装置

【課題】 高温高圧条件下での固体反応の反応速度を容易に測定する。
【解決手段】 固体反応測定装置は、固体の試料11を反応させる反応容器3と、反応容器3を加熱するヒータ4と、反応容器3から離れて配置され、複数の試料11を保管する試料保管容器5と、冷却部6を具備して反応容器3と試料保管容器5との間を連絡する移動通路40と、試料保管容器5内の複数の試料11から特定の試料11を選択して移動通路40を通じて反応容器3内に移動させ、その後に、移動通路40を通じて反応容器5内の試料11を試料保管容器5内に移動させる試料移動機構と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体反応の反応速度を測定する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高温高圧条件下では固体の反応は速いにもかかわらず、昇温と降温に数時間を要し、反応速度を測定するのが困難であった。特に、熱で分解や組成変化する物質では反応条件での反応速度を測定する時に、昇温および降温での変化は無視できない。
【0003】
この問題を解決する手段として、反応容器に低温で試料を保管する部分を設けて、安定な試験状態になった反応部に試料を瞬時に移動して反応を開始させる装置(例えば、非特許文献1の試料移動セル)が最近報告されている。
【0004】
図4は、試料移動セルを備えた高温高圧反応速度測定装置を示す。反応容器3は、反応容器3内に流体を流入させ、流出させるための流体入口1と流体出口2を有する。また、反応容器3内の温度を維持するヒータ4が設けられている。反応容器3の下方に試料保管容器5が配置され、これらは移動通路40を介して接続されている。移動通路40には冷却部6が設けられている。
【0005】
流通型の反応容器3の下部の試料保管容器5内には試料11を取り付けたホルダー8を設置しておき、ホルダー8下部の昇降用磁性体部12を容器外部から昇降用磁石13で上下させて試料11を所定の条件で安定状態の反応容器3内に瞬時に移動させて反応を行なわせる。反応容器3には観察窓20があり、光源21から光を光用孔22を通して入射させ、図示しない別の窓から内部のようすをカメラ23で撮影し、モニター24で観察するとともに画像記録装置25に録画する。このモニター24によって、影絵観察し、形状の変化量から反応速度を測定する。この方式では、試料を反応温度まで昇温する時間が一瞬であるため、昇温時間での試料の変化を無視することができる。
【非特許文献1】Ind. Eng. Chem. Res., Vol. 43, No.3, 690(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の方法および装置では、影絵観察による寸法変化から反応速度を測定しているが、流体を供給するポンプの脈動または反応容器内の温度を制御するためのヒータの発熱量変化による温度または圧力の変化によって光の屈折率が変化し、影絵の見かけ寸法が変化して反応速度の誤差が大きくなるという課題があった。さらに、観察窓はサファイヤやジルカロイなどのセラミックスであるため、熱衝撃に弱く、強度の点で観察窓の大きさに制限があり観察領域が狭いという課題もあった。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、高温高圧条件下での固体反応の反応速度を容易に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る固体反応測定装置は、固体の試料を反応させる反応容器と、反応容器を加熱するヒータと、反応容器から離れて配置され、複数の試料を保管する試料保管容器と、冷却部を具備して前記反応容器と試料保管容器との間を連絡する移動通路と、前記試料保管容器内の複数の試料から特定の試料を選択して前記移動通路を通じて前記反応容器内に移動させ、その後に、前記移動通路を通じて前記反応容器内の試料を前記試料保管容器内に移動させる試料移動機構と、を有する。
【0009】
また、本発明に係る固体反応測定方法は、反応容器を加熱する反応容器加熱工程と、前記反応容器から離れて配置された試料保管容器内にあって試料を保持する複数の試料ホルダーを保有する試料ホルダーラックを試料保管容器内で移動するラック移動工程と、前記複数の試料ホルダーから特定の試料ホルダーを選択して、当該試料ホルダーが保持する試料が前記反応容器内に入るように前記特定の試料ホルダーを移動する挿入工程と、前記挿入工程の後、所定時間後に当該試料ホルダーが保持する試料が前記試料保管容器内に入るように前記特定の試料ホルダーを移動する引き抜き工程と、前記複数の試料ホルダーについて、前記ラック移動工程、挿入工程および引き抜き工程を繰り返した後に前記試料保管容器を開放して前記複数の試料を取り出す取出し工程と、前記取出し工程で取り出された複数試料を測定する測定工程と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反応容器内での固形物の時間変化の複数の試料を1回の試験で得ることができ、任意の反応時間での試料を直接測定することにより、精度のよい反応速度データを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、図1〜図3を参照して本発明に係る固体反応測定装置および固体反応測定方法の実施形態を説明する。ここで、同一または類似の部分には共通の符号を付して重複説明は省略する。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は本発明に係る高温高圧固体反応測定装置の実施形態を示す。反応容器3は、反応容器3内に流体を流入させ、流出させるための流体入口1と流体出口2を有する。また、反応容器3内の温度を維持するヒータ4が設けられている。反応容器3の下方に試料保管容器5が配置され、これらは移動通路40を介して接続されている。移動通路40には冷却部6が設けられている。
【0013】
試料保管容器5の内部には試料ホルダーラック7があり、試料ホルダーラック7内に複数の試料ホルダー8を収納している。ホルダーラック7はホルダー位置決め用磁性体部9を備えており、試料保管容器5の外部の水平移動用磁石10により水平方向の移動を行なう。試料ホルダー8は上部に試料11を取り付け、下部には昇降用磁性体部12を有する。試料保管容器5の外部の昇降用磁石13を昇降させることにより、試料11が反応容器3と試料保管容器5との間で、移動通路40を通って移動できるようになっている。試料保管容器5は、試料ホルダーラック7の出し入れを行なうための試料脱着用蓋14を有する。
【0014】
試料11を取り付けた試料ホルダー8を収納した試料ホルダーラック7を試料保管容器5に封入する。反応容器3、試料保管容器5および移動通路40の内部を流体で満たす。この時、流体入口1の他に試料保管容器5から流体を供給しながら流体出口2から気体を置換することも可能であり、気体と流体の置換に有効である。
【0015】
次に、反応容器3の温度・圧力、任意の組成の流体の供給速度が所定の状態になった後、1番目の試料11が移動通路40を通過できる位置に水平移動用磁石10で試料ホルダーラック7を移動する。そして、試料ホルダーラック7から試料ホルダー8を昇降用磁石13により上方に移動させて試料11を反応容器内の所定の位置に移動し任意の時間保持する。その後、上方にあった試料ホルダー8を昇降用磁石13で下方に移動して、試料ホルダーラック7に戻す。
【0016】
次に、2番目の試料11が冷却部6の下部にくるように試料ホルダーラック7を水平移動用磁石10で移動する。同様にして2番目の試料11を試料ホルダーラック7から反応容器3に任意時間保持した後、再び試料ホルダーラック7に回収する。この操作を何度も繰り返して、反応時間を変化させた複数の試料11を作成する。
【0017】
次に、反応容器3を冷却して圧力を下げて流体を反応容器3と試料保管容器5から除き、試料保管容器5から試料脱着用蓋14を外して試料ホルダーラック7を取り出す。試料ホルダー8の試料11の寸法を測定して反応量を求め、反応量の時間変化から反応速度を算出する。反応前後の試料11の重量変化を測定して反応量とすると、内部の反応も含めた反応速度を算出することも可能である。
【0018】
昇降用磁石13および水平移動用磁石10は永久磁石でも電磁石でもよい。外部の水平移動用磁石10および昇降用磁石13の位置の制御を、電気信号によるモータ制御によれば、昇降時間が短縮し時間の精度が向上する。また、時間変化ばかりでなく、反応容器3の温度または圧力を変化させて試料11を作成すれば、温度または圧力による反応速度への効果を測定することも可能である。
【0019】
本実施形態によれば、試料の寸法または重量を直接測定できるので、データの精度向上に有効である。さらに、1回の昇降温で複数のデータを取得でき、測定作業の大幅な時間短縮が期待できる。また、可視化窓を使用しないので試料の寸法や配置の制約が少なく、複数粒子の配置を変えた体系または充填層での測定など種々の体系での測定が可能である。
【0020】
[第2の実施形態]
図2は、本発明に係る高温高圧固体反応測定装置の第2の実施形態を示す。なお、図2において図1、図4と同一部分には同一符号を付し、その部分の構成の説明は省略する。この実施形態では、反応容器3が観察窓20を有する。そして、この観察窓20に光を照射する光源21と、観察窓20から反応容器3内部を観察するカメラ23と、モニター24および画像記録装置25とを有する。ヒータ4の、観察窓20に対応する部分には、光用孔22が設けられている。
【0021】
反応容器3の観察窓20の一方から光源21により光を当て他方の観察窓20からカメラ23で反応容器3内の試料11を撮影する。この撮影データに基づいてモニター24上で観察するとともに、画像記録装置25に録画する。試料11の位置および反応のようすを観察しながら反応を行なうことができるので、反応の状態に合わせて反応条件を適宜決定でき、測定時間の短縮が期待できる。また、反応中の試料11の周囲の流体の状態を検知できるので、試料11の寸法変化または重量変化のデータを合わせて、反応機構の推定に有効である。
【0022】
本実施形態では、反応のようすを直接観察できるので反応の終点を検知でき、その後の試験条件を適宜決定できるので、作業時間の短縮が期待できる。また、反応中の試料周囲の流体のようすを知ることができるので、反応機構の解析に有効である。
【0023】
[第3の実施形態]
図3は、本発明に係る高温高圧固体反応測定装置の第3の実施形態を示す。なお、図3において図1、図4と同一部分には同一符号を付し、その部分の構成の説明は省略する。この実施形態では、反応容器3の近くに放射線源30が配置され、反応容器3をはさんで放射線源30の反対側に、放射線を検出して画像信号に変換する検出器33が配置されている。放射線源30から放出される放射線31が反応容器3を透過し、強度が低下した透過放射線32が検出器33で検出される。検出器33で得られた画像信号は、転送器35を通して画像処理器34へ送られる。画像処理器34では、試料11のない状態のバックグランド画像を作成して基画像から差分処理して処理画像を得る。得られた処理画像はモニター24で表示される。表示された画像は画像記録装置25に保存される。
【0024】
変形例として、画像処理器34からモニター24を介さないで直接画像記録装置25に接続することも可能である。
【0025】
放射線源30から放射される放射線31はヒータ4、反応容器3と内部の流体および試料11により一部吸収されて強度が低下し、透過放射線32となる。透過前の放射線31の強度と透過後の放射線32の強度の関係は(1)式のように表わすことができる。
【0026】
I=Iexp{−(μ+μ+μ+…)} (1)
I:透過した放射線強度
:透過する前の放射線強度
μ,μ、μ…:物質、物質、物質…の線減弱係数
,x,x…:物質、物質、物質…の厚さ
水平方向の物質の状態により、透過放射線32の強度が変化するため、反応容器3内部を観測することができる。なお、放射線源30としては、X線、γ線、β線や中性子線を利用できる。
【0027】
本実施形態では、観察窓がないため熱衝撃による窓の破損の恐れがなく、強度に由来する観測領域の制約がないため試料の寸法および配置も自由である。また、透過放射線の解析で試料の形状の検出の他に試料内部の密度分布の検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る固体反応測定装置の第1の実施形態を示す図であって、(a)は正立断面図、(b)は側断面図。
【図2】本発明に係る固体反応測定装置の第2の実施形態の正立断面図。
【図3】本発明に係る固体反応測定装置の第3の実施形態の正立断面図。
【図4】従来の固体反応測定装置の正立断面図。
【符号の説明】
【0029】
1:流体入口
2:流体出口
3:反応容器
4:ヒータ
5:試料保管容器
6:冷却部
7:試料ホルダーラック
8:試料ホルダー
9:ホルダー位置決め用磁性体部
10:水平移動用磁石
11:試料
12:昇降用磁性体部
13:昇降用磁石
14:試料着脱用蓋
20:観察窓
21:光源
22:光用孔
23:カメラ
24:モニター
25:画像記録装置
30:放射線源
31:放射線
32:透過放射線
33:検出器
34:画像処理器
35:転送器
40:移動通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の試料を反応させる反応容器と、
前記反応容器を加熱するヒータと、
前記反応容器から離れて配置され、複数の試料を保管する試料保管容器と、
冷却部を具備して、前記反応容器と試料保管容器との間を連絡する移動通路と、
前記試料保管容器内の複数の試料から特定の試料を選択して、前記移動通路を通じて前記反応容器内に移動させ、その後に、前記移動通路を通じて前記反応容器内の試料を前記試料保管容器内に移動させる試料移動機構と、
を有する固体反応測定装置。
【請求項2】
前記試料移動機構は、
前記複数の試料のそれぞれを一端に取り付けて、前記移動通路の方向に沿って前記反応容器から遠ざかる方向に前記試料から延びる試料ホルダーと、
前記それぞれの試料ホルダーの前記試料と反対側の端部に取り付けられて前記試料保管容器内に配置されたホルダー移動用磁性体部と、
前記試料保管容器の外側で前記選択された試料に接続された前記ホルダー移動用磁性体部の近傍を移動することによって前記ホルダー移動用磁性体部を駆動するホルダー移動用磁石と、
を有することを特徴とする請求項1記載の固体反応測定装置。
【請求項3】
前記複数の試料ホルダーを配列して内部に保有する試料ホルダーラックが前記試料保管容器内で移動可能に配置され、
前記試料移動機構は、
前記試料ホルダーラックに取り付けられたラック位置決め用磁性体部と、
前記試料保管容器の外側で前記ラック位置決め用磁性体部の近傍を移動することによって前記ラック位置決め用磁性体部を駆動するラック位置決め用磁石と、
を有することを特徴とする請求項1または2記載の固体反応測定装置。
【請求項4】
前記反応容器に所定の流体を流入させる流入手段と、
前記反応容器から流体を流出させる流出手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか記載の固体反応測定装置。
【請求項5】
前記反応容器内の温度および圧力および流体の組成の少なくとも一部を変える手段を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載の固体反応測定装置。
【請求項6】
前記反応容器には観察窓が設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載の固体反応測定装置。
【請求項7】
前記反応容器に放射線を照射する放射線照射手段と、
前記反応容器を透過した透過放射線を検出する放射線検出器と、
をさらに有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか記載の固体反応測定装置。
【請求項8】
前記放射線照射手段は、X線、γ線、β線、中性子線の少なくとも一つを照射するものであることを特徴とする請求項7記載の固体反応測定装置。
【請求項9】
反応容器を加熱する反応容器加熱工程と、
前記反応容器から離れて配置された試料保管容器内にあって試料を保持する複数の試料ホルダーを保有する試料ホルダーラックを試料保管容器内で移動するラック移動工程と、
前記複数の試料ホルダーから特定の試料ホルダーを選択して、当該試料ホルダーが保持する試料が前記反応容器内に入るように前記特定の試料ホルダーを移動する挿入工程と、
前記挿入工程の後、所定時間後に当該試料ホルダーが保持する試料が前記試料保管容器内に入るように前記特定の試料ホルダーを移動する引き抜き工程と、
前記複数の試料ホルダーについて、前記ラック移動工程、挿入工程および引き抜き工程を繰り返した後に前記試料保管容器を開放して前記複数の試料を取り出す取出し工程と、
前記取出し工程で取り出された複数試料を測定する測定工程と、
を有すること、
を特徴とする固体反応測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−126119(P2006−126119A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317841(P2004−317841)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】