説明

固体材料表面の光化学的改質方法

【課題】改質すべき固体材料いかんにかかわらず比較的小さいエネルギーの紫外線照射によっても、光化学反応により永続的な表面改質を行うことができる固体材料表面の改質方法を提供する。
【解決手段】固体材料(フッ素樹脂を除く)表面に、化学種を含有し、かつ液体の形態にある化合物の薄層を形成し、該薄層を介して該固体材料表面に紫外線を照射して該固体表面と該化合物を励起して該化学種を該固体材料表面に導入することによって該固体材料表面を光化学的に改質することを包含し、該固体材料表面に該薄層を形成するに先立ち、該固体材料表面を活性化エネルギーまたは酸化剤で処理して該固体材料表面の光化学的改質を促進させることを特徴とする固体材料表面の光化学的改質方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料表面の光化学的改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体材料表面に、化学種を含有し、かつ液体の形態にある化合物(反応液)の薄層を毛細管現象を利用して形成し、この薄層を介して固体材料表面に紫外線を照射して固体表面と化合物を励起して両者間に光化学反応を生起させ、化合物の有する化学種を固体材料表面に導入(結合)することによって固体材料表面を光化学的に改質する方法は、例えば特許文献1〜4や非特許文献1に開示されている。例えば、撥水性フッ素樹脂表面に水の薄層を形成し、フッ素樹脂におけるC−F結合を解離させる光エネルギー(128kcal/モル以上)で紫外線を照射すると、フッ素樹脂表面からフッ素原子が引き抜かれると同時に、フッ素が引き抜かれたサイトに水からの−OH基が導入され、その表面が親水性に変換される。また、ポリイミドの表面に銅化合物の水溶液の薄層を形成し、ポリイミドにおけるC−H結合を解離させる光エネルギー(80.6kcal/モル以上)で紫外線を照射すると、その照射部分において銅化合物の水溶液が分解して銅、酸素、Hのラジカルが生成し、照射部分においてポリイミドのC−H結合から水素が引き抜かれ、そこに酸素が置換されることによってC−O−Cu結合が生じ、ポリイミド表面に共有結合により結合した銅核が生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−335631号公報
【0004】
【特許文献2】特開2000−114695号公報
【0005】
【特許文献3】国際公開第94/21715号パンフレット
【0006】
【特許文献4】米国特許第6117497号明細書
【0007】
【非特許文献1】Appl. Phys. Lett., Vol. 72 (20), 2616 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の表面改質の効果は、表面改質されるべき材料の種類あるいは紫外線の入射エネルギーの強さや照射時間によって異なる。特にポリイミドのように吸水性があり、かつ酸素結合を有する材料の場合にはArFレーザ光1パルス(10ナノ秒/パルス)で銅原子を置換することができる(特許文献2)。一方、疎水性の高いフッ素樹脂などに銅原子を導入するためには、ArFレーザ光の3000パルス照射を必要とする(非特許文献1)。
【0009】
このように材料によって、照射するレーザ光のエネルギー密度や照射パルス回数が大きく異なっている。
【0010】
他方、高分子表面にグロー放電プラズマ、イオンスパッタ等の低圧プラズマを照射すると、高分子表面の水に対する濡れ性が向上することが知られている。その原因はプラズマボンバリングに起因する物理的な微細な凹凸、あるいは表面の化学的変化である。しかし、プラズマ照射後高分子表面を空気中に放置しておくと、水との濡れ性、すなわち水との接触角は徐々に大きくなり、処理効果は減退する。これは、プラズマ照射中に、雰囲気中に存在する僅かな酸素と高分子表面に生成したラジカルとが反応し、高分子表面にヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基などの極性基が導入されるが、それらが時間経過とともに高分子バルク内部に移行し、元の疎水性表面に戻るからであるとされている。さらに、プラズマ照射された表面を物理的に拭うと濡れ性は元に戻ってしまうという欠点があった。従って、プラズマ照射により固体材料表面を改質するためには、強度のプラズマを照射しなければならない。
【0011】
そこで、本発明は、改質すべき固体材料いかんにかかわらず比較的小さいエネルギーの紫外線照射によっても、光化学反応により永続的な表面改質を行うことができる固体材料表面の改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、上に述べたように固体材料によって、照射するレーザ光のエネルギー密度や照射パルス回数が大きく異なっているが、その理由は、被改質材料表面の当該波長での吸収率によることは勿論であるが、その材料表面の反応液との濡れ性、あるいは当該材料の化学構造中に存在する酸素との二重結(−C=O)や一重結合(−C−O−)に大きく左右されることを見いだした。すなわち、被改質表面(固体材料表面)と反応液とが十分に密着していることが、相互の光化学反応を効果的に行うための必要十分条件であることがわかった。
【0013】
そこで、本発明では、予め、固体材料表面と反応液との化学的密着性(親水性)あるいは油性液との密着性(親油性)を強制的に高くした状態で光反応を行い、表面改質をより効率的に行うものである。固体材料表面と反応液との密着性を高くするために、被改質表面に放電プラズマ、グロー放電プラズマ、エキシマレーザ光、エキシマランプ光、軟X線、紫外線、イオンスパッタ等のエネルギー線を照射し、あるいは過酸化水素、過マンガン酸カリ、硫酸、クロム酸カリ等の酸化剤の水溶液もしくは酸素、オゾン、NOなどの気体酸化剤により固体材料表面を酸化し、それによって、被表面改質材料が一時的にではあるにせよ高い密着性を呈している間に、被改質面と反応液との光化学反応によって材料表面に官能基や原子を置換し、永続的な改質面を創出するものである。
【0014】
すなわち、本発明によれば、固体材料表面に、化学種を含有し、かつ液体の形態にある化合物の薄層を形成し、該薄層を介して該固体材料表面に紫外線を照射して該固体表面と該化合物を励起して該化学種を該固体材料表面に導入することによって該固体材料表面を光化学的に改質することを包含し、該固体材料表面に該薄層を形成するに先立ち、該固体材料表面を活性化エネルギーまたは酸化剤で処理して該固体材料表面の光化学的改質を促進させることを特徴とする固体材料表面の光化学的改質方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、極端に少ないレーザパルスで固体材料表面に官能基や金属原子を置換することができる。
【0016】
【表1】

表1中のPTFE及びFEPは参考例として示す。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
【表5】

【0021】
参考例
【表6】

【0022】
参考例
【表7】

【0023】
【表8】

【0024】
【表9】

【0025】
【表10】

【0026】
【表11】

【0027】
【表12】

【0028】
【表13】

【0029】
【表14】

【0030】
【表15】

【0031】
参考例
【表16】

【0032】
参考例
【表17】

【0033】
【表18】

【0034】
【表19】

【0035】
【表20】

【0036】
【表21】

【0037】
【表22】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】各プラスチック材料のプラズマ処理時間と水との接触角の関係を示すグラフ(ただし e:PTFE及びP:FEPは参考例として示す)
【図2】ポリイミド試料において、未処理試料を硫酸銅水溶液の濃度をそれぞれ0.3、0.5、1.0、1.2%の存在下で、ArFレーザ(50mJ/cm)をパルス照射(1、2、3、4ショット)した時の試料表面での銅核形成密度(%)を示すグラフ。
【図3】ポリイミド試料において、プラズマ処理(5分間)を行った試料を0.3%硫酸銅水溶液の存在下で、ArFレーザ(15、17、21、23、26、28mJ/cm)をパルス照射(1、2、3、4ショット)した時の試料表面での銅核形成密度(%)を示すグラフ。
【図4】(参考例)PTFE試料において、DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマ処理を行う場合、プラズマ照射を15分間連続で行ったときとプラズマ照射中に休止時間を置き、休止中に酸素の導入を行ったときとの接触角変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明では、固体材料表面に液体形態(液状)の化合物(以下、反応液ともいう)の薄液を形成し、紫外線を照射する前に、固体材料表面の液状化合物に対する密着度を向上させるために、固体材料表面を比較的弱い活性化エネルギーまたは酸化剤で処理する。
【0040】
この密着度は水または油性物質との接触角によって数値化できる。一般に、固体材料表面の水との接触角が90度を超えると撥水性といい、それ以下を親水性という。接触角の値が大きくなればなるほど撥水性は大きくなり、小さくなるほど親水性は大きくなる。例えば、フッ素樹脂の接触角は約110度内外と大きく、水に濡れることなく水を弾く。一方、ポリイミドは水とのなじみがよいといわれるように、水との接触角は65度と比較的低い。このためフッ素樹脂に比べると反応効率が高い。最も極端な例を示すと、フッ素樹脂に−C−O−Cuを置換・導入する場合、ArFレーザのパルス数は3000ショット(非特許文献1)必要であるのに対し、ポリイミドの場合は1〜4ショット(特許文献2)と極端に少ない。その理由は、ポリイミドがその化学構造の末端基に−C=O結合を持っていて、この酸素原子に銅原子が結合して−C−O−Cuになることも理由の一つであると考えられるが、この場合においても反応液が密着していなければ効率のよい化学反応は行われない。従って濡れ性の向上は、光による表面改質の必要十分条件である。
【0041】
従来プラスッチクのプラズマ処理は非常に多く報告されてきた。しかしその欠点は処理表面が一時的なものであり、プラズマ処理しても拭き取れば、すぐ元に戻ってしまう。しかも、水を付ければその時点では接触角は小さいにもかかわらず、水が蒸発してしまうと、不思議なことに接触角も元に戻ってしまう。
【0042】
すなわち、下記実施例1に示すように、プラスチック試料としてエポキシ樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、アクリルニトリルブタジェンスチレン(ABS)、シリコーン樹脂、塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ナイロン−6,6、ナイロン−6、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、セラミック試料としてサファイア、石英ガラス、白板ガラス、金属としてチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)などの材料の水との接触角は大きい。ところが以下に説明する図1にも示すように、材料表面に5分間のプラズマ照射を施すと、変化の少ないフッ素樹脂のPTFEやFEPでも21度、変化の大きいエポキシ樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロプレーン(PP)などは約70度と濡れ性が大幅に改善される。ところが、時間が経過したり改質表面をかるく物理的に拭き去ったりすると、接触角はプラズマ照射前の値に戻ってしまう。このため、一般には、表面改質のために強いプラズマ照射を行っているが、その結果、固体材料の表面形状が著しく変性されるという欠点があった。
【0043】
本発明者らは、毛細現象を利用して合成石英窓とプラスチック表面との間隙に反応液を挟み、そこに紫外光を照射して、親水基、親油基、あるいは酸素原子を介在させて−O−Cuなど金属置換をさせることを提案してきた。しかし、フォトンコストが高いレーザにとって、実用化とは、エネルギーの照射量を少なくすることであり、数千ショットものレーザパルス照射は実用化の足かせであった。このレーザパルス数を極端に減らすことは光化学反応の効率を上げることである。そのために液状化合物の光吸収効率を上げれば分解効率は上がるが、その反面、液状化合物の下側にある固体材料表面に到達すべき光量が減衰する。一方固体材料表面の光吸収率を高くしたいが、これは材料固有の性質であって、これをいじることはできない。そこでこの光化学的反応効率を向上させるために考えたのが、村原らによる光透過窓ガラスと試料表面との間隙に毛細管現象により薄液層を形成させ、試料と液層との密着性を向上させることであった(特許文献1、2、3、4)。ところがこの方法でも見かけ上、薄液層が形成され、光反応効率は向上する。しかし、水溶液の密着性は試料表面よりも窓ガラスの方が優れていた。さらに光反応効率を高くするためには試料表面の濡れ性を何らかの方法で良くすることが必要であった。もし試料全体の濡れ性が良くなった状態が持続すれば、光表面改質処理によって露光部の性質は発現されるが、製品として実用に供した時に、未露光部にも何らかの物質が付着し、効果を損なうことが考えられる。このため、実用時に、光が照射された部分だけが選択的に改質されているようにするには、一時的に濡れ性が向上するが、時間経過と共に、元に戻ってしまうプラズマ処理が適している。すなわち、反応液が付着している瞬間を利用し、その溶液雰囲気での光表面改質を行えば、露光部分には官能基が置換され、未露光部は経過時間と共に元の性質に戻ってしまう。従って、結果的に露光部分のみ選択的に表面改質したことにほかならない。
【0044】
本発明では、液状化合物との密着性を向上させるために、固体材料表面を活性化エネルギーまたは酸化剤で処理する(前処理)。活性化エネルギーによる処理は、放電プラズマ(特にグロー放電プラズマ)、イオンスパッタ、軟X線、紫外線、エキシマレーザ光、エキシマランプ光またはそれらの組合せの照射によって行うことができる。グロー放電プラズマおよび/またはイオンスパッタが特に好ましい。この活性化エネルギーによる処理は、通常、酸素の存在下で行われる。酸素は、固体材料表面に吸着された微量なものであり得る。また、活性化エネルギーをパルス的に照射し、パルスが休止している間に、すなわちパルス間で、前記固体材料表面に酸素を接触させることもできる。このように酸素の存在で活性化エネルギーを照射すると、固体材料表面に酸素ラジカルが導入される。放電プラズマ、特にグロー放電プラズマを使用する場合、固体表面材料に対して、イオンによる打撃作用等のスパッタ作用が加わるため、固体表面材料に酸素ラジカルが導入されるばかりか、その表面に極めて微細な凹凸が生じるものと考えられ、それにより反応液と固体材料表面の密着性がより一層向上する。しかしながら、上にも述べたように、本発明による前処理は、弱い処理であり、処理直後には反応液が密着するが、反応液が蒸発したり、反応液を布等で拭き取ってしまうと、固体材料表面の反応液との接触角は元の値に戻ってしまう程度のものである。例えば、上記イオンスパッタを含む放電プラズマは、いわゆる逆スパッタにより行うことができ、電極間距離を10〜60mmに設定し、1〜20mAの(スパッタエッチング)電流、0.2kV〜1kVの(スパッタエッチング)電圧、大気圧から減圧した10−2〜10−4Torrの減圧(ほぼ10−2〜10−4Torrの酸素雰囲気)下で発生させることができる。軟X線は、1〜10kVの入力電圧で発生させることができる。紫外線およびエキシマレーザ光は、0.05〜20mJ/cmのエネルギー密度で照射することができる。さらに、エキシマランプ光は、5〜20kVで10〜50Wの入力で発生させることができる。本発明においては、特許第3316069号明細書に開示されているような固体材料表面へのエキシマランプ光の照射と放電を組み合わせた装置を用いることもできる(以下の実施例33も参照)。
【0045】
また、本発明において、上記酸化剤として、クロム酸混液、過マンガン酸カリ、過酸化水素、酸素(例えば、プラズマとして)、オゾンまたはNOを用いることができる。
【0046】
いずれの場合にも前処理は、固体材料表面の液状化合物に対する接触角が未処理の固体材料表面の接触角から変化するように行う。
【0047】
このようにして前処理した後、固体材料表面に液状化合物の薄層を形成する。
【0048】
液状化合物の薄層を形成するためには、特許文献1〜4、非特許文献1に開示された毛細管現象を利用する手法を採用することができる。すなわち、石英等の紫外線透過性窓部材を固体材料表面との間に毛細管力が作用するように配置し、液状化合物の薄層を紫外線透過性窓部材と固体材料表面の間に形成させることができる。あるいは、本発明では、前処理した固体材料表面に液状化合物を塗布することによっても薄層を形成することができる。
【0049】
本発明により表面改質される固体材料には、プラスチック(樹脂)、金属、半導体、セラミックが含まれる。プラスチック(樹脂)としては、硬化エポキシ樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ナイロン−6,6、ナイロン−6、ポリアセタール、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン(FEP))を例示することができる。セラミックとしては、サファイア、石英ガラス、白板ガラスを例示することができる。金属、半導体としては、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)を例示することができる。
【0050】
また、液状化合物としては、水、アルコール、パーフルオロポリエーテルのような液状フッ素化合物、過酸化水素水、塩酸、硫酸、硝酸、ギ酸、酢酸、フッ化アンモニウム、例えば銅化合物、ニッケル化合物のような金属化合物の水溶液等を用いることができる。銅化合物としては、CuCl、Cu(ClO、Cu(ClO、CuBr、CuSO、CuO、Cu(NO、CuSeO、Cu(OH)、Cu(CHCOO)、[Cu(NH]SO、[Cu(C]SO、K[Cu(CN)]等を好ましく使用することができる。銅化合物の水溶液を用い、固体材料表面を改質すると、固体材料表面に−C−O−Cu結合が生じて銅核が析出する。その固体材料表面に銅メッキを施すこともできる。光化学反応のための紫外線の照射を回路パターン状に行うことにより、回路パターン状に銅核を析出することができるので、銅メッキにより所定の回路パターンを得ることができる。
【0051】
紫外線照射も特許文献1〜4、非特許文献1に開示されたように行うことができる。紫外線のエネルギーは、例えば、フッ素樹脂に対しては、C−F結合を解離させるために、その他の樹脂に対してはC−H結合を解離させるために、金属に対しては金属原子を引き抜くために、酸化物セラミックに対しては酸素を引き抜くため、あるいはセラミック内に存在する酸素原子を活性化しその雰囲気下に存在させた反応液からの原子または分子との結合を促進するために、それぞれ十分な程度に設定する。紫外線は、固体材料全面に対して照射することもできるし、所定のパターン状、例えば回路パターン状に照射することができる。
[実施例]
【0052】
以下、本発明について説明する。以下の実施例において使用したDC2極スパッタ装置は、サンユー電子(株)製Quick Coater SC−701Sであり、逆スパッタエッチングモードで使用し、15mAのスパッタエッチング電流、0.4kVのスパッタエッチング電圧を用い、電極間距離は27mmであった。装置内は10−2〜10−4Torrまで真空引きした。軟X線の照射は、大気中で行った。また、固体材料へのエキシマランプ光の照射とグロー放電との組合せ処理は、大気中で行った(実施例33)。
【0053】
実施例1
プラスチック試料として、硬化エポキシ樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ナイロン−6,6、ナイロン−6、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、セラミック試料としてサファイア、石英ガラス、白板ガラス、金属としてチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)について未処理時の水との接触角を測定した。次に、これらの試料にDC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマを5分間照射し、その処理面の水との接触角を測定した。さらにプラズマ処理が施された試料面を布で拭いた後の接触角を測定した。併せて、プラズマ照射効果の照射時間依存性を比較するために、同様なグロー放電プラズマ処理を10分間行った。これらの結果を表1に示す。また、プラスチックについての結果を図1にも示す。フッ素樹脂のPTFEとFEPを除いた全てのプラスチック、セラミック、金属が5分間のグロー放電プラズマ照射により水との接触角が著しく小さくなる。接触角変化の少ないフッ素樹脂(PTFE、FEP)についてもプラズマ照射の時間を延ばすと小さくなり、10分照射で65〜72度と撥水性から親水性に変わる。ところがこれらの試料表面を布で軽く拭くと、全ての試料の接触角は元に戻ってしまう。
【0054】
これらの試料表面に親油基を置換する目的で、それぞれの試料の機械油との接触角を測定した。殆どの試料が親油性を呈したので、その中でも撥油性と思われる接触角が10度以上の試料について、5分間のプラズマ処理を施した。その結果、表1に併記するように、PETで10度から3度へ、シリコーン樹脂で40度から18度へ、PTFEで38度から26度へ、FEPで35度から22度へ、チタンで13度から0度とプラズマ照射効果が見られた。またこれらの場合も試料表面を布で軽く拭くと、接触角は元に戻ってしまう。
【0055】
従ってこの放電プラズマ照射による一時的な接触角の減少現象を液状化合物と固体材料表面との密着性の向上に利用し、この状態下で紫外線を照射すれば、固体材料表面での光化学反応を促進させることができるという結論に達した。
【0056】
実施例2
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマ(イオンスパッタを含む;以下同じ)をポリイミドフィルム試料に5分間照射すると、表2に示すように、未処理表面の水との接触角が68度であったものが11度と低くなるが、表面を布で拭くと元の68度に戻ってしまう。このグロー放電プラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射した。未処理の試料ではレーザパルス光を100ショット照射しても接触角56度までしか改善できなかったが、プラズマ処理をした試料では1ショットのレーザパルス照射で接触角25度を達成した。しかもプラズマ処理した試料にレーザ光を1ショット照射するだけで、布で拭いても34度以上には戻らなかった。
【0057】
実施例3
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをシリコーン樹脂フィルム試料に5分間照射すると、表3に示すように未処理試料表面の水との接触角が111度であったものが6度と低くなるが、表面を布で拭くと元の70度になってしまう。このプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射する。未処理の試料ではレーザパルス光を500ショット照射しても接触角102度までしか改善できなかったが、プラズマ処理をした試料では1ショットのレーザパルス照射で接触角50度を達成した。表1に示したようにプラズマのみを照射した場合、接触角は6度と低くなるが、表面を布で拭くと元の値111度より低いが、それでも70度まで高くなる。ところがプラズマ処理した試料にレーザ光を1ショット照射するだけで、布で拭いても49度と殆ど接触角の戻りは無かった。
【0058】
実施例4
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをポリアセタールイフィルムに5分間照射すると表4に示すように、未処理試料表面の水との接触角は75度であったものが49度と低くなるが、表面を布で拭くと72度と元の値の近傍に戻ってしまう。このプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射した。未処理試料ではレーザパルス光を3000ショット照射しても78度と接触角に殆ど変化は見られなかった。ところが、プラズマ処理をした試料では1ショットのレーザパルス照射で接触角35度を達成した。しかもプラズマ処理した試料にレーザ光を1ショット照射するだけで、布で拭いても35度以上には戻らなかった。
【0059】
実施例5
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをPETフィルムに5分間照射すると表5に示すように、未処理試料表面の水との接触角は71度であったものが8度と極端に低くなる。しかし表面を布で拭くと65度と元の値(71度)の近傍に戻ってしまう。このプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射した。未処理試料でもレーザパルス光を1000ショット照射して40度まで改善される。ところが、プラズマ処理をした試料では1/10の100ショットで接触角40度を達成し、5ショットで接触角47度を達成した。しかもプラズマ処理した試料にレーザ光を5ショット照射するだけで、布で拭いても50度以上には戻らなかった。
【0060】
参考例6
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをPTFEフィルムに5分間照射すると表6に示すように、未処理試料表面の水との接触角が107度であったものが99度と他のプラスッチクに比べると高い。しかも表面を布で拭くと95度と元の値(107度)の近傍に戻ってしまう。ところがプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射すると、未処理の試料ではレーザパルス光を3000ショット照射すると55度になった。ところが、プラズマ処理をした試料では1/3000の1ショットのレーザパルス照射で56度を達成した。しかもプラズマ処理した試料にレーザ光を1ショット照射するだけで、布で拭いても68度を維持している。
【0061】
参考例7
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをFEPフィルムに5分間照射すると表7に示すように、未処理試料表面の水との接触角が104度であったものが、83度と他のプラスッチクに比べると高い。しかし表面を布で拭いても85度と極端には元の値(104度)には戻らない。ところがプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射すると、未処理の試料ではレーザパルス光を3000ショット照射すると接触角が63度になった。ところが、プラズマ処理をした試料では1/3000の1ショットのレーザパルス照射で接触角75度を、10ショットで接触角63度を達成した。しかもプラズマ処理した試料にレーザ光を1ショット照射するだけで、布で拭いても75度以上にはならなかった。
【0062】
実施例8
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをPMMAフィルムに5分間照射すると表8に示すように、未処理試料表面の水との接触角は85度であったものが、44度と低くなる。しかし表面を布で拭くと55度と少々大きくなる。ところがプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射すると、未処理の試料ではレーザパルス光を500ショット照射しても76度と殆ど接触角に変化は見られなかった。ところが、プラズマ処理をした試料では1ショットのレーザパルス照射で接触角35度を達成した。しかもプラズマ処理した試料にレーザ光を1ショット照射するだけで、布で拭いても接触角40度以上にはならなかった。
【0063】
実施例9
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをエポキシ樹脂板に5分間照射すると表9に示すように、未処理試料表面の水との接触角が76度であったものが、10度と低くなるが、表面を布で拭くと65度と少々大きくなる。ところが、プラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射すると、未処理試料ではレーザパルス光を1000ショット照射しても45度であった。ところが、プラズマ処理をした試料では1ショットのレーザパルス照射で接触角40度を達成した。しかもプラズマのみを照射した場合接触角はところがプラズマ処理した試料にレーザ光を1ショット照射するだけで、布で拭いても接触角44度と殆ど変わらなかった。
【0064】
実施例10
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマを白板ガラスに5分間照射すると表10に示すように、未処理試料表面の水との接触角は31度であったものが、5度と低いが、表面を布で拭くと28度まで戻ってしまう。ところが、プラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して、9kV、20kHz、入力20Wの電力を印加したXeエキシマランプ光(172nm)を未処理試料に5分間照射すると、接触角は23度まで小さくなる。一方プラズマ処理をした試料の接触角は、同一条件で17度まで下がり、布で拭いても23度以上にはならなかった。
【0065】
実施例11
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをサファイア板に5分間照射すると表11示すように、未処理試料表面の水との接触角は70度であったものが5度と低いが、表面を布で拭くと50度まで戻ってしまう。ところがプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して、9kV、20kHz、入力20Wの電力を印加したXeエキシマランプ光(172nm)を5分間照射すると50度まで小さくなる。ところが、プラズマ処理を施した試料は15度まで下がる。一方プラズマ処理した試料にXeエキシマランプ光を5分間照射するだけで15度まで改善され、布で拭いても36度以上にはならなかった。
【0066】
実施例12
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをアルミニウム箔に5分間照射すると表12に示すように、未処理試料表面の水との接触角は77度であったものが11度と低くなるが、表面を布で拭くと40度と大きくなる。ところが、プラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して、9kV、20kHz、入力20Wの電力を印加したXeエキシマランプ光(172nm)を5分間照射すると40度まで下がる。一方プラズマ処理した試料にXeエキシマランプ光を5分間照射するだけで9度まで改善され、布で拭いても28度以上には戻らなかった。
【0067】
実施例13
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをチタン箔に5分間照射すると表13に示すように、未処理試料表面の水との接触角は93度であったものが28度を呈し、表面を布で拭くと93度と元に戻ってしまう。ところがプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して、9kV、20kHz、入力20Wの電力を印加したXeエキシマランプ光(172nm)を未処理試料に5分間照射すると、未処理の場合は61度まで小さくなる。一方プラズマ処理をした試料に5分間のXeエキシマランプ光照射を施すと34度まで下がる。しかも布で拭いても50度以上にはならなかった。
【0068】
実施例14
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをSiウエハに5分間照射すると表14に示すように、未処理試料表面の水との接触角は85度であったものが8度と低い値を示すが、表面を布で拭くと85度まで戻ってしまう。ところがプラズマ処理した試料と未処理試料との表面に水の薄液層を介して、9kV、20kHz、入力20Wの電力を印加したXeエキシマランプ光(172nm)を5分間照射すると、未処理の場合は接触角は42度まで小さくなる。一方プラズマ処理をした試料に5分間のXeエキシマランプ光照射を施すと接触角は20度まで下がる。しかも、布で拭いても接触角は26度以上にはならなかった。
【0069】
実施例15
表15に示すように、未処理PMMA試料表面の水との接触角は85度であり、マシーン油との接触角は0度であった。そこでDC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをPMMA試料に5分間照射した後、パーフルオロポリエーテルの薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射した。レーザパルス光を2000ショット照射すると、水との接触角は113度、マシーン油とは60度と、撥水性及び撥油性を発現するPTFEと同値の表面を達成した。
【0070】
実施例16
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをPMMA試料に5分間照射した後、試料表面にパーフルオロポリエーテルの薄液層を介して、9kV、20kHz、入力20Wの電力を印加したXeエキシマランプ光(172nm)を5分間照射すると、水との接触角は115度、マシーン油とは62度と、撥水性及び撥油性を発現するポーラスPTFEと同値の表面を達成した(表15)。
【0071】
参考例17
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをPTFE試料に1〜10分間照射すると未処理試料表面の水との接触角が107度であった表面が、処理後99〜65度と小さくなった。同プラズマを7.5分間照射したPTFE試料(水との接触角60度)に濃度0.3重量%の硫酸銅水溶液の薄液層を介してエネルギー密度10〜25mJ/cmの回路パターン状ArFレーザ光を照射した。この状態で試料表面にレーザパルス光を照射した後、無電解メッキ液に60℃で30分浸漬した。未処理試料では1ミクロン厚の銅箔が形成されるに必要なレーザ照射パルス数は3000ショットであったが、プラズマ処理した試料では表16に示すように1/3000パルスの1から4ショットのレーザパルス照射で銅回路パターンが得られ、銅核密度100%が得られるためには硫酸銅水溶液の濃度0.3%、照射エネルギー密度25mJ/cm、レーザパルス4ショットが最適である。レーザパルス1ショット、照射エネルギー密度25mJ/cmでも銅核密度25%が得られる。
【0072】
参考例18
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをFEP試料に7.5分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は104度であったものが、処理後72度と小さくなった。この試料表面に0.3%の硫酸銅水溶液の薄液層を介して20mJ/cmの回路パターンArFレーザ光を照射する。この状態で試料表面にレーザパルス光を照射した後、無電解メッキ液に60℃で30分浸漬し、1ミクロン厚の銅箔が形成されるに必要なレーザ照射パルス数は3000ショットであった。ところが、プラズマ処理した試料では表17に示すように1/3000パルスの1から4ショットのレーザパルス照射で銅回路パターンが得られ、銅核密度100%が得られるためには硫酸銅水溶液の濃度0.3%、照射エネルギー密度20mJ/cm、レーザパルス4ショット、プラズマ処理時間7.5分が最適である。レーザパルス1ショット、照射エネルギー密度10mJ/cmでも銅核密度75%が得られる。
【0073】
実施例19
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをエポキシ樹脂板に1分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は76度であったものが、処理後20度と小さくなった。この試料表面に0.3%および1.0%の硫酸銅水溶液の薄液層を介して20〜25mJ/cmの回路パターン状ArFレーザ光を照射した後、無電解メッキ液に60℃で30分浸漬した。未処理試料については、1ミクロン厚の銅箔が形成されるに必要なレーザ照射パルス数は3000ショットであった。ところが、プラズマ処理した試料では表18に示すように1/500パルスの1から4ショットのレーザパルス照射で銅回路パターンが得られ、レーザパルス1ショットで銅核密度100%が得られるためには硫酸銅水溶液の濃度0.3%、照射エネルギー密度24mJ/cm、プラズマ処理時間1分が最適である。
【0074】
実施例20
DC2極スパッタ装置による酸素プラズマをナイロン−6,6板に1〜5分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は51度であったものが、処理後19度と小さくなった。この試料表面に0.3%の硫酸銅水溶液の薄液層を介して24〜28mJ/cmの回路パターン状ArFレーザ光を照射する。この状態で試料表面にレーザパルス光を照射した後、無電解メッキ液に60℃で30分浸漬した。未処理試料については、1ミクロン厚の銅箔が形成されるに必要なレーザ照射パルス数は2000ショットであった。ところが、プラズマ処理した試料では表19に示すように1/2000パルスの1から4ショットのレーザパルス照射で銅回路パターンが得られ、銅核密度100%が得られるためには硫酸銅水溶液の濃度0.3%、照射エネルギー密度24mJ/cm、レーザパルス1ショット、プラズマ処理時間5分が最適である。
【0075】
実施例21
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをPETフィルムに10分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は71度であったものが、処理後7度と小さくなった。この試料表面に0.3〜1.0%の硫酸銅水溶液の薄液層を介して22〜28mJ/cmの回路パターンArFレーザ光を照射する。表20に示すように、未処理試料表面の水との接触角は71度である。この状態で試料表面にレーザパルス光を照射した後、無電解メッキ液に60℃で30分浸漬した。未処理の試料については、1ミクロン厚の銅箔が形成されるに必要なレーザ照射パルス数は6000ショットであった。ところが、プラズマ処理した試料では表20に示すように1/6000パルスの1から4ショットのレーザパルス照射で銅回路パターンが得られ、レーザパルス1ショットで銅核密度100%が得られるためには硫酸銅水溶液の濃度0.3%、照射エネルギー密度28mJ/cm、プラズマ処理時間10分が最適である。
【0076】
実施例22
DC2極スパッタ装置による酸素プラズマをABS板に1分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は79度であったものが、処理後8度と小さくなった。この試料表面に0.3および1.0%の硫酸銅水溶液の薄液層を介して22mJ/cmの回路パターンArFレーザパルス光を照射した後、無電解メッキ液に60℃で30分浸漬した。未処理の試料については、1ミクロン厚の銅箔が形成されるに必要なレーザ照射パルス数は10000ショットであった。ところが、プラズマ処理した試料では表21に示すように1/10000パルスの1から4ショットのレーザパルス照射で銅回路パターンが得られ、レーザパルス1ショットで硫酸銅水溶液の濃度0.3%、照射エネルギー密度22mJ/cmの時、銅核密度70%が得られた。
【0077】
実施例23
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをポリアセタール板に1分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は75度であったものが、処理後47度と小さくなった。この試料表面に0.3重量%の硫酸銅水溶液の薄液層を介して25mJ/cmの回路パターン状ArFレーザパルス光を照射した後、無電解メッキ液に60℃で30分浸漬した。未処理の試料については、1ミクロン厚の銅箔が形成されるに必要なレーザ照射パルス数は6000ショットであった。ところが、プラズマ処理した試料では表22に示すように1/6000パルスの1から4ショットのレーザパルス照射で銅回路パターンが得られ、レーザパルス2ショットで銅核密度60%が得られた。
【0078】
実施例24
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをポリイミドフィルムに5分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は68度であったものが、処理後11度と小さくなった。この試料表面に0.3重量濃度の硫酸銅水溶液の薄液層を介して15〜29mJ/cmの回路パターン状ArFレーザパルス光を照射した後、無電解メッキ液に60℃で30分浸漬した。未処理試料については、1ミクロン厚の銅箔が形成されるに必要なレーザ照射パルス数は図2に示すように銅核密度100%が得られるためには、照射エネルギー密度50mJ/cmが必要であった。ところがプラズマ処理を施した試料では図3
に示すように照射レーザエネルギー密度が約半分の26mJ/cmとフォトンコストの面で経済的である。
【0079】
実施例25
入力10kV、1mAの軟X線発生装置によりエポキシ樹脂板に軟X線を5分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は81度であった表面が、処理後64度と小さくなった。この試料に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射したところ、X線未処理試料にレーザパルス光を3000ショット照射する場合55度であったが、X線処理を施した試料では1/1000の3ショットのレーザパルス照射で55度と僅かに改善が見られた。
【0080】
参考例26
入力10kV、1mAの軟X線発生装置によりPTFEフィルムに軟X線を5分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は107度であった表面が、処理後102度と小さくなった。この試料に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射したところ、X線未処理試料にレーザパルス光を3000ショット照射する場合55度であったが、X線処理を施した試料では1/3000の1ショットのレーザパルス照射で55度と僅かに改善が見られた。
【0081】
実施例27
入力10kV、1mAの軟X線発生装置によりPETフィルムに軟X線を5分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は71度であった表面が、処理後65度と僅かに小さくなった。この試料に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射したところ、X線未処理試料にレーザパルス光を100ショット照射する場合水との接触角は58度であったが、X線処理を施した試料では1/100の1ショットのレーザパルス照射で60度と僅かに改善が見られた。
【0082】
実施例28
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをシリコーン樹脂フィルムに5分間照射すると、未処理試料表面の水との接触角は111度であったものが6度と低くなる。その処理面に水を塗布し、パターン状10mJ/cmのArFレーザ光を1ショット投影する。これにより露光部分がパターンに対応して親水性が発現され、水との接触角は50度を達成した。
【0083】
実施例29
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをポリイミドフィルムに1分間照射すると未処理試料表面の水との接触角は68度であったものが、処理後7度と小さくなる。この試料表面に0.3%の硫酸銅水溶液を塗布し、の薄液層を介して26mJ/cmの回路パターン状ArFレーザ光を1ショット投影露光する。これにより露光部分がパターンに対応して銅核が形成され、これを無電解メッキ液に60℃で30分浸漬し、1ミクロン厚のプリント配線板が形成された。
【0084】
実施例30
エポキシ樹脂板をクロム酸混液に5分間浸漬すると未処理試料表面の水との接触角は81度であった表面が、処理後38度、10分で30度、15分で25度と小さくなる。これらの試料に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射したところ、未処理試料にレーザパルス光を3000ショット照射する場合55度であったが、クロム酸混液処理を施した試料では1/3000の1ショットのレーザパルス照射で50度と僅かに改善が見られた。
【0085】
実施例31
ポリイミドフィルムをクロム酸混液に5分間浸漬すると未処理試料表面の水との接触角は68度であった表面が、処理後45度と小さくなる。これらの試料に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射したところ、未処理試料にレーザパルス光を100ショット照射する場合56度であったが、クロム酸混液処理を施した試料では1/3000の1ショットのレーザパルス照射で50度と僅かに改善が見られた。
【0086】
参考例32
DC2極スパッタ装置によるグロー放電プラズマをPTFEフィルムに照射すると図4に示すように、未処理試料表面の水との接触角は107度であったものがプラズマ照射時間に連れて小さくなっていく。この接触角が小さいほどレーザによる表面改質効率が高くなる。そこで、プラズマをパルス的に照射し、パルスが休止している時にDC2極スパッタ装置のチャンバー内に酸素を導入し、すぐにそのガスを吸引する。この操作により試料表面に酸素が吸着する。ここで再度プラズマ照射を持続させる。
図4に示すように、15分間連続照射をした試料の水との接触角が76度であるのに対し、5分照射後2.5分毎に2回プラズマ照射を止め、試料表面に酸素吸着を繰り返した試料(5分照射+酸素吸着+2.5分照射+酸素吸着+2.5分照射)の水との接触角は62度と改善された。この試料表面に水の薄液層を介して10mJ/cmのArFレーザ光を照射すると、未処理の試料ではレーザパルス光を3000ショット照射すると水との接触角が55度であったものが、1/3000の1ショットのレーザパルス照射で40度を達成した。
【0087】
実施例33
上部電極を同軸的に有するXeエキシマランプ(172nm;165kcal)と、PET試料を載置した下部電極を上部電極とPET試料が0.1〜1mmの感覚となるように設置し、上部電極と下部電極との間に大気中で高周波電圧を印加すると、PET試料表面とエキシマランプとの間の間隙でグロー放電が生じた。これにより、大気中の酸素がオゾン化され、PET試料表面に活性酸素が吸着され、かつ同時に発振した172nmのエキシマランプ光によりPET試料表面が励起されてPET試料表面に酸素原子を置換させることができた。これに、実施例18と同様に硫酸銅水溶液の薄層を介してArFレーザ光を照射したところ、未処理PET試料では6000ショット照射しなければPET表面に銅核を形成できなかったものが、処理PET試料では1ショットで表面に銅核を形成することができた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料(フッ素樹脂を除く)表面に、化学種を含有し、かつ液体の形態にある化合物該固体材料表面に塗布することにより薄層を形成するか、あるいは該固体表面と紫外線透過部材との間隙に毛細管現象により該薄層を形成し、該薄層を介して該固体材料表面に紫外線を照射して該固体表面と該化合物を励起して該化学種を該固体材料表面に導入することによって該固体材料表面を光化学的に改質することを包含し、該固体材料表面に該薄層を形成するに先立ち(前処理)、該固体材料表面を活性化エネルギーによる処理を酸素の存在下で行ない、または酸化剤で処理して、一時的に該固体材料表面が該薄層と高い濡れ性を呈している間に、紫外線を該薄層に照射して露光部のみ選択的に官能基や原子を置換し、該固体材料表面の光化学的改質を促進させることを特徴とする固体材料表面の光化学的改質方法。
【請求項2】
前記活性化エネルギーとしてプラズマ照射を施す前処理においては、前記化学種含有液体化合物による被改質固体材料表面部位に濡れ性を発現させるために、連続的なパルス信号としてプラズマを繰り返し照射し、プラズマ照射によるパルス信号が休止している期間には、酸素雰囲気下で被改質固体材料表面に酸素を供給させることを特徴とする請求項1記載の固体表面材料表面の光化学的改質方法。
【請求項3】
請求項1記載の前処理終了後に、前記化学種含有液体化合物による被改質固体表面材料部位に形成された薄層を介して、紫外線のパターン露光による照射で、露光部と未露光部のパターンに対応させて選択的に官能基を置換させることを特徴とする請求項1及び請求項2記載の固体表面材料の光化学的改質方法。
【請求項4】
フッ素樹脂を除く固体表面材料にプラズマ照射後に銅化合物水溶液存在下で回路パターン状レーザパルス照射により該露光部固体表面材料に銅核を形成させるに際して、プラズマ照射後にレーザ光エネルギー密度が10mJ/cm2から28mJ/cm2であり、それに対応させるレーザ光パルス数が1から5の照射エネルギーにより固体材料表面を改質させることを特徴とする請求項1、請求項2及び請求項3記載の固体表面材料の光化学的改質方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−185085(P2010−185085A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105439(P2010−105439)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【分割の表示】特願2002−350311(P2002−350311)の分割
【原出願日】平成14年12月2日(2002.12.2)
【出願人】(303045188)
【Fターム(参考)】