説明

固体電解質粒子からなるガラス及びリチウム電池

【課題】リチウム二次電池等に好適に利用できるガラスあるいはガラスセラミックス、該ガラス又はガラスセラミックスの1つを電解質層、正極層および負極層の1つ以上に含むリチウム電池を提供する。
【解決手段】Li,P,Sを含む固体電解質粒子の集合体であり、繰り返し測定したラマンスペクトルにおいて330〜450cm−1のピークを波形分離し、各成分に分離した面積比の標準偏差がいずれも4.0未満、かつ、ラマンスペクトルにおけるPS43−、P2S74−、P2S64−の面積比が、それぞれ15〜65%、25〜80%、5〜30%の範囲であるガラス、あるいはこのガラスを熱処理したガラスセラミックスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質粒子からなるガラス、ガラスセラミックス及びこれらを用いたリチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報末端、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる高性能リチウム二次電池等の需要が増加している。二次電池とは、充電・放電ができる電池である。このような二次電池は、使用される用途が広がるにつれ更なる安全性の向上及び高性能化が要求されている。
【0003】
従来、室温で高いリチウムイオン伝導性を示す電解質は、ほとんど有機系電解質に限られていた。有機系電解質は、有機溶媒を含むため可燃性である。従って、有機溶媒を含むイオン伝導性材料を電池の電解質として用いる際には、液漏れの心配や発火の危険性があった。また、有機系電解質は、液体であるため、リチウムイオンが伝導するだけでなく、対アニオンが伝導するため、リチウムイオン輸率が1以下である。
【0004】
一方、無機固体電解質は、その性質上不燃性であり、通常使用される有機系電解質と比較して安全性の高い材料である。しかしながら、有機系電解質に比べ電気化学的性能が若干劣るため、無機固体電解質の性能をさらに向上させる必要がある。
【0005】
このため、従来より硫化物系固体電解質の研究が種々行われている。
例えば、1980年代に、高イオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性固体電解質として、10−3S/cmのイオン伝導性を有する硫化物ガラス、例えば、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiI−LiS−SiS等が見出されている。
【0006】
これらの電解質は一般的に固体であり、均質化をはかるためミリング法により粉砕処理を行って固体電解質粒子を製造している(特許文献1)。また、高温下、加熱溶融法により電解質を得ることもできる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−265685号公報
【特許文献2】特開2008−4334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電解質表面の均質性は、最終製品である電池の性能を安定化させるうえで重要な性状である。電解質表面は、直接リチウムイオンが移動する媒体であるため、この状態の均質性が低い場合、抵抗が部分的に増加して安定した電池性能が発現しなくなる。また、ガラスセラミック化する場合、不均質な状態は、伝導度に良好な結晶形成が部分的に起こり難くなることを意味し、電池に組み込んだ場合、性能を低下させる一因となる。従って、従来の固体電解質粒子において、均一性をさらに高めた粒子が求められていた。
【0009】
本発明の目的は、ガラス表面の不均質性を解消することにより、リチウム二次電池の性能の安定化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の製法で得られたガラスの均一性が高いことを見出し本発明を完成させた。
本発明によれば、以下のガラス等が提供される。
1.Li,P,Sを含む固体電解質粒子の集合体であり、繰り返し測定したラマンスペクトルにおいて330〜450cm−1のピークを波形分離し、各成分に分離した面積比の標準偏差がいずれも4.0未満であるガラス。
2.ラマンスペクトルにおけるPS3−、P4−、P4−の面積比が、それぞれ15〜65%、25〜80%、5〜30%の範囲となる1に記載のガラス。
3.前記固体電解質粒子の最大粒径が20μm以下である1又は2に記載のガラス。
4.少なくとも硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で粉砕しつつ反応させるステップと、
前記少なくとも硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で反応させるステップと、
を交互に行うことにより製造されたガラス。
5.少なくとも硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で反応させることにより製造されたガラス。
6.1〜5のいずれかに記載のガラスを熱処理して得られるガラスセラミックス。
7.1〜5のいずれかに記載のガラス及び6に記載のガラスセラミックスのうち少なくとも1つを、電解質層、正極層及び負極層の1つ以上に含むリチウム電池。
8.7に記載のリチウム電池を備える装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガラス表面の不均質性を解消することにより、リチウム二次電池の性能の安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られたガラスについて測定したラマンスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたガラスについて測定したラマンスペクトルのピークを波形分離した図である。
【図3】実施例3で得られたガラス粉末のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。
【図4】本発明の製造方法に用いることのできる装置の一例を示す図である。
【図5】本発明の製造方法に用いることのできる装置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るガラスは、Li,P,Sを含む固体電解質粒子の集合体であり、繰り返し測定したラマンスペクトルにおいて330〜450cm−1のピークを波形分離し、各成分に分離した面積比の標準偏差がいずれも4.0未満である。標準偏差がいずれも4.0未満であることは均質性に優れることを示している。
【0014】
ラマンスペクトルは、固体、粉体等の状態を把握するために用いられている(例えば、特許公報3893816、特許公報3893816、特許公報3929303、特許公報3979352、特許公報4068225)。このスペクトルは固体の表面状態の解析に適しており、同ロットの粒子を測定しても、粒子表面の組成が不均質であれば、異なったスペクトルが得られる。たとえば、固体材料のメカニカルミリングにおいて充分粉砕された部分と壁部に付着して粉砕が不充分な部分が混在すると、その均質性は低下し、スペクトルの再現性は低下する。ラマンスペクトルは均質な材料の指標となることから、本発明においては、このスペクトルの再現性、特に分散数値を指標として用いた。
【0015】
図1に本発明のガラスについて測定したラマンスペクトルの一例を示す。本発明におけるラマンスペクトルの測定条件は実施例に記載する。図1に示されるように、400cm−1付近に特徴的なピークが検出されており、そのピークが非対称であることから、これは複数成分の混合ピークである。これらは、PS3−,P4−,P4−の3種類混合ピークとして同定されている(M.Tachez,J.−P.Malugani,R.Mercier,and G.Robert,Solid State Ionics,14,181(1984))。分解能の高い装置を用いて、このピークを個別に検出することが望ましいが、ピーク分離が不充分であっても、一般、又は装置専用の波形解析ソフトを用いて個別のピークに分離することも可能である。図2に波形分離ソフトを用いて、各ピークに分離した結果を示す(図2中において点線がオリジナルのピークである)。この手法を用いて、各成分の面積比率を求めることが可能となる。
【0016】
標準偏差は、上記の面積数値から一般的な計算方法を用いて算出することができる。
繰り返し測定は、測定サンプル管自体の変更、あるいは同一測定サンプル管の測定位置の変更により5回以上測定することが望ましい。
なお、本実施例では、同一測定サンプル管の測定位置を変更して5回測定している。
【0017】
PS3−、P4−、P4−を示す波形の面積比の標準偏差の全てが4.0未満であれば、各ガラス粒子の表面が均質であり、電池に用いた場合に電池性能が安定化する。
好ましくは、3.5以下、より好ましくは3.0以下である。
【0018】
PS3−を示す波形の面積比の標準偏差が3.0以下であることが好ましい。P4−を示す波形の面積比の標準偏差が2.5以下であることが好ましい。P4−を示す波形の面積比の標準偏差が2.0以下であることが好ましい。また、PS3−を示す波形の面積比の標準偏差が2.5以下であることがさらに好ましい。P4−を示す波形の面積比の標準偏差が2.0以下であることがさらに好ましい。P4−を示す波形の面積比の標準偏差が1.5以下であることがさらに好ましい。
【0019】
ラマンスペクトルにおけるPS3−、P4−、P4−の面積比は、それぞれ、好ましくは15〜65%、25〜80%、5〜30%、より好ましくは20〜55%、35〜75%、5〜25%の範囲である。P4−成分は他成分に比べリチウムイオン伝導性に劣るため、少ない方がより電池性能が向上する。
【0020】
本発明のガラスを形成する粒子固体電解質粒子の最大粒径は、SEM写真により観察したとき、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。最大粒径とは、粒子の一の表面からこの粒子の他の表面までの直線距離が一番大きい値を意味する。粒径が20μmを超える粗大粒子が存在すると、シート作製時の均一性に影響を及ぼす可能性が高くなる。粗大粒子の存在は、加熱処理時に熱伝達がバラツキ、融着の阻害因子となり、さらに欠陥を生じる可能性もある。
【0021】
また好ましくは数平均粒径が10μm以下、より好ましくは8μm以下である。
粒径が大きいと、電池における電解質層を厚くする必要があり、好ましくない。
【0022】
均質な電解質は、DSCパターンにおいても確認することができる。不均質な電解質は、通常、二峰型のピークパターンを示したり、広い半値幅温度を示す。均質であると、ピークは1本となり、ピークの半値幅温度も狭くなる。本発明のガラスは、通常225℃から270℃の間にピーク温度を示し、半値幅温度は、10℃以下、特に5℃以下を示す。測定方法は実施例に示す。
【0023】
本発明のガラスを形成する固体電解質は、Li,P,Sを含む。この硫化物系固体電解質はLi,P,Sを主成分とし、硫黄、りん及びリチウムのみからなるものの他、Al、B、Si、Ge等を含む他の物質を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の均一なガラスは、硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で反応させることにより製造できる。この方法は、従来法のようにメカニカルミリングを用いず、又は加熱溶融後に急冷したりしない。
メカニカルミリングすると、ミル内部の壁部とボール部に存在する粒子で表面状態が不均質になる可能性がある。また加熱溶融後に急冷してガラスを急激に形成させこのガラスを粉砕してガラス粒子を得ると、ガラス粒子表面が均質な状態になり難くなる。
【0025】
原料を炭化水素系溶媒中で接触させる際の温度は、通常、80〜300℃であり、好ましくは100〜250℃であり、より好ましくは100〜200℃である。また、通常、時間は5分〜50時間、好ましくは、10分〜40時間である。
尚、温度や時間は、いくつかの条件をステップにして組み合わせてもよい。
また、接触時は撹拌することが好ましい。窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。不活性ガスの露点は−20℃以下が好ましく、特に好ましくは−40℃以下である。圧力は、通常、常圧〜100MPaであり、好ましくは常圧〜20MPaである。
【0026】
この方法では、通常の反応槽やオートクレーブ等の汎用設備で固体電解質を製造することができる。即ち、高温に耐える設備等の特殊な設備が不要である。また、炭化水素系溶媒を使用することで、固体電解質に残留する溶媒量を低減できる。
【0027】
本発明のガラスは、硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で粉砕しつつ反応させるステップと、硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で反応させるステップとを交互に行うことによっても製造できる。
【0028】
例えば、粉砕機中で、原料を炭化水素系溶媒中で粉砕しつつ反応させて固体電解質を合成し、別途、反応槽中で、原料を炭化水素系溶媒中で反応させて固体電解質を合成し、反応中の原料を、粉砕機と反応槽との間を循環させる。
【0029】
図4は、本発明の製造方法に用いることのできる装置の一例を示す。
この装置1において、炭化水素系溶媒と原料を、粉砕機10と反応槽20にそれぞれ供給する。ヒータ30には温水(HW)が入り排出される(RHW)。ヒータ30により粉砕機10内の温度を保ちながら、原料を炭化水素系溶媒中で粉砕しつつ反応させて固体電解質を合成する。オイルバス40により反応槽20内の温度を保ちながら、原料を炭化水素系溶媒中で反応させて固体電解質を合成する。反応槽20内の温度は温度計(Th)で測定する。このとき、撹拌翼24をモータ(M)により回転させて反応系を撹拌し、原料と溶媒からなるスラリが沈殿しないようにする。冷却管26には冷却水(CW)が入り排出される(RCW)。冷却管26は、容器22内の気化した溶媒を冷却して液化し、容器22内に戻す。粉砕機10と反応槽20で固体電解質を合成する間、ポンプ54により、反応中の原料は連結管50,52を通って、粉砕機10と反応槽20の間を循環する。粉砕機10に送り込まれる原料と溶媒の温度は、粉砕機10前の第2の連結管に設けられた温度計(Th)で測定する。
【0030】
粉砕機10として例えば、回転ミル(転動ミル)、揺動ミル、振動ミル、ビーズミルを挙げることができる。原料を細かく粉砕できる点でビーズミルが好ましい。原料が細かいほど、反応性が高くなり、短時間で固体電解質を製造できる。
【0031】
粉砕機がボールを含むとき、ボールと容器とが磨耗することによる固体電解質への混入を防止するため、ボールはジルコニウム製、強化アルミナ製、アルミナ製であることが好ましい。また、粉砕機10から反応槽20へのボールの混合を防ぐため、必要に応じて粉砕機10又は第1の連結管50にボールと原料及び溶媒を分離するフィルタを設けてもよい。
【0032】
粉砕機での粉砕温度は、好ましくは20℃以上90℃以下、より好ましくは20℃以上80℃以下である。粉砕機での処理温度が20℃未満の場合、反応時間を短縮する効果が小さく、90℃を超えると、容器、ボールの材質であるジルコニア、強化アルミナ、アルミナの強度低下が著しく起こるため、容器、ボールの磨耗、劣化や電解質へのコンタミが生じるおそれがある。
【0033】
容器22内の反応温度は好ましくは60℃〜300℃である。80℃〜200℃がより好ましい。60℃未満ではガラス化反応に時間がかがり生産効率が十分ではない。300℃を超えると、好ましくない結晶が析出する場合がある。
【0034】
反応は温度が高い領域で速いので高温にすることが好ましいが、粉砕機は高温にすると磨耗等の機械的な問題が発生する。従って、反応槽は反応温度を高めに設定し、粉砕機は比較的低温に保つことが好ましい。
【0035】
図5に示すように、第2の連結部52に熱交換器60(熱交換手段)を設け、反応槽20から送り出される高温の原料と溶剤を冷却して、撹拌機10に送り込むようにしてもよい。
【0036】
上記の製造方法において、原料はLiSの他の硫化物を用いることが好ましい。LiSと混合する硫化物としては、硫化リン、硫化ケイ素、硫化ホウ素、硫化ゲルマニウム、硫化アルミニウムから選択される1つ以上の硫化物がより好ましく使用できる。特にPが好ましい。
硫化リチウムの仕込み量は、硫化リチウムと他の硫化物の合計に対し30〜95mol%とすることが好ましく、40〜90mol%とすることがさらに好ましく、50〜85mol%とすることが特に好ましい。
【0037】
通常、硫化リチウム(LiS)と五硫化二燐(P)、又は硫化リチウムと単体燐及び単体硫黄、さらには硫化リチウム、五硫化二燐、単体燐及び/又は単体硫黄を用いる。
硫化リチウムと、五硫化二燐又は単体燐及び単体硫黄の混合モル比は、通常50:50〜80:20、好ましくは、60:40〜75:25である。特に好ましくは、LiS:P=70:30(モル比)程度である。
【0038】
炭化水素系溶媒は、例えば飽和炭化水素、不飽和炭化水素又は芳香族炭化水素等である。飽和炭化水素としては、ヘキサン、ペンタン、2−エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、IPソルベント1016((株)出光興産製)、IPソルベント1620(出光興産製)等が挙げられる。不飽和炭化水素しては、ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキセン等が挙げられる。
【0039】
芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、また、イプゾール100((株)出光興産製)、イプゾール150((株)出光興産製)等の混合溶媒を用いることも可能である。これらのうち、特にトルエン、キシレン、エチルベンゼン、イプゾール150が好ましい。
【0040】
炭化水素系溶媒中の水分量は、原料硫化物及び合成された固体電解質との反応を考慮して、50ppm(重量)以下であることが好ましい。水分は反応により硫化物系固体電解質の変性を引き起こし、固体電解質の性能を悪化させる。そのため、水分量は低いほど好ましく、より好ましくは、30ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。
尚、必要に応じて炭化水素系溶媒に他の溶媒を添加してもよい。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、エタノール、ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類等、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0041】
有機溶媒の量は、原料である硫化リチウムと他の硫化物が、溶媒の添加により溶液又はスラリ状になる程度であることが好ましい。通常、溶媒1kgに対する原料(合計量)の添加量は0.03〜1Kg程度となる。好ましくは0.05〜0.5Kg、特に好ましくは0.1〜0.3Kgである。
【0042】
反応生成物を乾燥し、溶媒を除去することにより、硫化物ガラスが得られる。
【0043】
得られたガラスを、さらに、通常200℃以上400℃以下、より好ましくは250〜320℃で加熱処理することにより、硫化物系固体電解質のイオン伝導性を向上できる。これは、ガラスである硫化物系固体電解質が硫化物結晶化ガラス(ガラスセラミック)となるためである。加熱処理の時間は、1〜5時間が好ましく、特に1.5〜3時間が好ましい。
【0044】
尚、好ましい様態として、乾燥工程での加熱と結晶化工程の加熱を、別工程とするのではなく、1つの加熱工程としてもよい。
【0045】
本発明のガラス又はガラスセラミックは、全固体リチウム二次電池の固体電解質層や、正極合材、負極合材に混合する固体電解質等として使用できる。また、本発明のリチウム電池は、電解質層、正極、負極の1以上に、本発明のガラス又はガラスセラミックを含む。
【実施例】
【0046】
製造例1
(1)硫化リチウムの製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報における第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した水硫化リチウムを脱硫化水素化し硫化リチウムを得た。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。水硫化リチウムの脱硫化水素反応が終了後(約80分)に反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0047】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリ反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリ)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。
【0048】
尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量を、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、N−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)は0.07質量%であった。
このようにして精製したLiSを、以下の実施例で使用した。
【0049】
実施例1
図5に示す装置を用いた。撹拌機として、アシザワ・ファインテック社製スターミルミニツェア(0.15L)(ビーズミル)を用い、0.5mmφジルコニアボール450gを仕込んだ。反応槽として、攪拌機付の1.5Lガラス製反応器を使用した。
【0050】
製造例1により製造したLiS 39.05g(70mol%)とアルドリッチ社製P 80.95g(30mol%)に、脱水トルエン1080g(水分量10ppm以下)を加えた混合物を反応槽及びミルに充填した。
【0051】
ポンプにより内容物を400mL/分の流量で循環させ、反応槽を80℃になるまで昇温した。ミル本体は、液温が70℃に保持できるよう外部循環により温水を通水し、周速10.9m/sの条件で運転した。8時間反応後、150℃にて真空乾燥して白色粉末を得た。
【0052】
得られた粉末について以下の測定条件で5回ラマンスペクトルを測定した。
測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィックス株式会社製Almega
レーザー波長:532nm、レーザー出力:10%、アパーチャ:25μmφ、露光時間:10秒、露光回数:10回、対物レンズ:×100、分解能:高(2400 lines/mm)
【0053】
5回測定して得られた平均のラマンスペクトルを図1に示す。一回ごとに測定したラマンスペクトルの330〜450cm−1にあるピークを波形分離ソフト(Thermo SCIENTIFIC社製 GRAMS AI)を用いて波形分離し、図2に示すようにPS3−、P4−、P4−の各成分に分離し、それぞれの面積比を求めた。図2中において点線がオリジナルのピークである。5つのラマンスペクトルについて同様に波形分離し各成分の面積比を求めた。さらに5つのラマンスペクトルの面積比の平均値と標準偏差を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
得られた粉末について、視野内に粒子が100個程度観察される3000倍でSEM観察し、同倍率で計8視野を観察した。各視野における観察から、固体電解質粒子の最大粒径は10μm以下であった。図5にSEM像を示す。
【0055】
得られた粉末について、以下の条件でDSC測定もした。DSC測定は、MODEL DSC−7(Perkin Elmer社製)を用い、30℃を15分保持した後、400℃まで10℃/分で昇温した。ピーク面積から融解エンタルピーを求めた。その結果、253℃でピークをもち、融解エンタルピー(ΔH)は42.7J/g、ピーク半値幅温度は4.3℃であった。
【0056】
また、得られた粉末のイオン伝導度を測定した。伝導度は1.2×10−4S/cmであった。
さらに、8時間反応後の生成物を密閉容器に入れ、300℃、2時間の熱処理を行った。熱処理後のサンプルのX線回折測定を行なった結果、Li11の結晶相に帰属される2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。イオン伝導度測定の結果、この粉末のイオン伝導度は1.8×10−3S/cmであった。
【0057】
イオン伝導度は下記方法に従い測定した。
固体電解質粉末を錠剤成形機に充填し、4〜6MPaの圧力を加え成形体を得た。さらに、電極としてカーボンと固体電解質を重量比1:1で混合した合材を成形体の両面に乗せ、再度錠剤成形機にて圧力を加えて一次成型体を得た。その後、200℃において加熱下圧力を加えて、伝導度測定用の成形体(直径約10mm、厚み約1mm)を作製した。この成形体について交流インピーダンス測定によりイオン伝導度測定を実施した。伝導度の値は25℃における数値を採用した。
【0058】
実施例2
実施例1において、反応時間を12時間とした以外は、同様にしてガラス粉末を製造しラマンスペクトルを測定した。結果を表1に示す。
【0059】
実施例3
実施例2において、反応溶媒をキシレンとした以外は、同様にしてガラス粉末を製造しラマンスペクトルを測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
比較例1
原料としてLiS 3.905g(70mol%)とアルドリッチ社製P 8.095g(30mol%)を用いた。これらの粉末を窒素充填したドライボックス中で秤量し、遊星型ボールミルで用いるアルミナ製のポットにアルミナ製のボールとともに投入した。ポットを窒素ガスで充填した状態で完全密閉した。このポットを遊星型ボールミル機に取り付け、初期は原料を十分混合する目的で数分間、低速回転(回転速度:85rpm)でミリングを行った。その後、徐々に回転数を増大させていき、370rpmで所定時間メカニカルミリングを行った。得られたガラス粉末について実施例1と同様にしてラマンスペクトルを測定した。
【0062】
表2に、本比較例におけるラマンスペクトルの面積比をまとめた。標準偏差は、時間の経過とともに小さくなる傾向があるものの、280時間後の処理によっても、実施例に示されるような均質性は得られなかった。
【0063】
得られたガラス粉末のSEM観察から20μmを超える大粒子が存在した。また得られたガラス粉末のイオン伝導度は1.0×10−4S/cm、300℃2時間の加熱処理後のイオン伝導度は1.3×10−3S/cmであった。実施例1と同様にしてDSCのチャートを求めた。2つ以上のピークを有するパターンを示した。
【0064】
【表2】

【0065】
表1,2において、それぞれの計算は、分離波形ソフト付属の計算ソフト、あるいはエクセルにて行った。各計算は、小数点以下3−10桁分で行っているが、実施例、比較例には、小数点以下2桁目を四捨五入した数値を記載した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のガラス、ガラスセラミックスは均質性に優れるので、リチウム二次電池等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 固体電解質製造装置
2 固体電解質製造装置
10 粉砕機
20 反応槽
22 容器
24 撹拌翼
26 冷却管
30 ヒータ
40 オイルバス
50 第1の連結管
52 第2の連結管
54 ポンプ
60 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li,P,Sを含む固体電解質粒子の集合体であり、繰り返し測定したラマンスペクトルにおいて330〜450cm−1のピークを波形分離し、各成分に分離した面積比の標準偏差がいずれも4.0未満であるガラス。
【請求項2】
ラマンスペクトルにおけるPS3−、P4−、P4−の面積比が、それぞれ15〜65%、25〜80%、5〜30%の範囲となる請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
前記固体電解質粒子の最大粒径が20μm以下である請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
少なくとも硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で粉砕しつつ反応させるステップと、
前記少なくとも硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で反応させるステップと、
を交互に行うことにより製造されたガラス。
【請求項5】
少なくとも硫化リチウムと他の硫化物とを含む原料を、炭化水素系溶媒中で反応させることにより製造されたガラス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のガラスを熱処理して得られるガラスセラミックス。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のガラス及び請求項6に記載のガラスセラミックスのうち少なくとも1つを、電解質層、正極層及び負極層の1つ以上に含むリチウム電池。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウム電池を備える装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−250981(P2010−250981A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96482(P2009−96482)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】