説明

固体高分子材料中の微量金属の分析方法

【課題】 固体の高分子材料中に含まれる微量な金属、特に、クロム、カドミウム、鉛、水銀の分析において、精度良く、しかも短時間で分析する方法を得ることである。
【解決手段】 ホットプレートにセットされた試料台に固体高分子材料の試料片を接触して載置し、上記試料台の試料片の近傍に、硝酸水溶液または硝酸と塩酸との混酸水溶液からなる抽出用酸水溶液を滴下し、上記試料片の表面に接触させるとともに、上記ホットプレートにて加熱して、上記試料片から金属成分を抽出する。上記抽出後に、上記試料台から試料片を取り除き上記試料台の表面に残留した抽出成分を含有する抽出用酸水溶液を、上記ホットプレートによる加熱を継続し、液成分を蒸発させて、上記試料台の表面に抽出成分を乾固させる。最後に、上記試料台上に乾固した抽出成分を飛行時間型二次イオン質量分析装置にて分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体の高分子材料中に含まれる微量な金属、特に、クロム、カドミウム、鉛、水銀の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の固体の高分子材料中に含まれる微量な金属の分析方法は、高分子材料中の金属を取り出すため、種類の異なる前処理を行うとともに、同種類の前処理についても複数回行い、長時間かけて高分子材料を完全に分解して、分析装置で分析する方法である。
例えば、プラスチックスに含まれるカドミウムを分析する方法として、次の方法が開示されている。その方法は、最初、ケルダールフラスコ内で、試料であるポリエチレン(PEと略す)ペレット2gに硫酸10mlを添加し加熱して、PEを分解する。次に、硫酸を除去するため、さらに15分間加熱した後、約10分間かけて冷却する。次に、5mlの過酸化水素水をゆっくりと4回加え、再度、10分間加熱して、5分間冷却する。さらに、5mlの過酸化水素水を加えて再度、加熱する。この操作を有機成分が無くなるまで繰り返した後、100mlメスフラスコにて水で定容して試料液とする。試料液中に不溶物がある場合は、必要に応じてろ過を実施する。試料液中のカドミウムを原子吸光分析にて測定する。(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、金属の分析方法として、目的の金属を溶解する溶媒に溶かして、金属の溶液として、この溶液を導電性小板に滴下し、乾燥させ乾燥固形分の試料とする試料調整工程と、このようにして調整された試料を分析装置で分析する試料分析工程とからなるものが開示されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】BRITISH STANDARD EN1122:2001 「Plastics-Determination of cadmium- Wet decomposition method」
【特許文献1】特開平7−151714号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1の分析方法では、原子吸光分析にて妨害となる高分子材料のプラスチックス成分を取り除くためにプラスチックスの完全分解が必要であり、試料液の調整に長時間を要するとの問題があった。
また、上記特許文献1の方法を、固体の高分子材料中に含まれる微量な金属の分析に用いる場合は、高分子材料に含有される金属を溶解する溶媒に浸漬して、上記金属を溶媒中に溶解させる。しかし、この方法では、多量の酸溶媒が必要であり、酸溶媒中の金属濃度が薄くなる。そのため、この溶媒から分取した試料中には、極微量の金属しか含まれず、分析精度が低下するとの問題があった。
また、導電性小板表面上の乾燥固形分の量を増加させるため、上記に示した導電性小板への滴下と乾燥を多数回行う方法があるが、やはり、試料調整に長時間を要するようになるともに、乾燥固形分が導電性小板表面上に広がてしまい、乾燥固形分量の増加は多くなく、分析精度が向上しないとの問題があった。
また、金属を溶解し溶液の溶媒を蒸発させて金属濃度を濃縮しても、酸成分も濃縮されので、調製された試料中に、金属成分に比べ多量の酸成分が残り、分析精度を低下させるとの問題があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は固体の高分子材料中に含まれる微量な金属、少なくとも、クロム、カドミウム、鉛の分析、または少なくとも、クロム、カドミウム、鉛、水銀の分析において、精度良く、しかも短時間で分析する方法を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の固体高分子材料中の微量金属の分析方法は、ホットプレートにセットされた平坦な面を有し、且つ硝酸水溶液および硝酸と塩酸との混酸水溶液に溶解しない試料台に固体高分子材料の試料片を接触して載置する工程と、上記試料片を接触して載置した上記試料台の上記試料片の近傍に、硝酸水溶液または硝酸と塩酸との混酸水溶液からなる抽出用酸水溶液を滴下する工程と、上記滴下した抽出用酸水溶液を、上記試料片の表面に接触させるとともに、上記ホットとプレートにて加熱して、上記試料片から金属成分を抽出する工程と、上記抽出工程後に、上記試料台から上記試料片を取り除き、上記試料台の表面に抽出成分を含有した抽出用酸水溶液を残留させる工程と、上記ホットプレートによる加熱を継続し、上記試料台の表面に残留した抽出成分を含有した抽出用酸水溶液の液成分を蒸発させて、上記試料台の表面に抽出成分を乾固させる工程と、上記試料台の表面に乾固した抽出成分を、飛行時間型二次イオン質量分析装置にて分析する工程とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固体高分子材料中の微量金属の分析方法は、ホットプレートにセットされた平坦な面を有し、且つ硝酸水溶液および硝酸と塩酸との混酸水溶液に溶解しない試料台に固体高分子材料の試料片を接触して載置する工程と、上記試料片を接触して載置した上記試料台の上記試料片の近傍に、硝酸水溶液または硝酸と塩酸との混酸水溶液からなる抽出用酸水溶液を滴下する工程と、上記滴下した抽出用酸水溶液を、上記試料片の表面に接触させるとともに、上記ホットとプレートにて加熱して、上記試料片から金属成分を抽出する工程と、上記抽出工程後に、上記試料台から上記試料片を取り除き、上記試料台の表面に抽出成分を含有した抽出用酸水溶液を残留させる工程と、上記ホットプレートによる加熱を継続し、上記試料台の表面に残留した抽出成分を含有した抽出用酸水溶液の液成分を蒸発させて、上記試料台の表面に抽出成分を乾固させる工程と、上記試料台の表面に乾固した抽出成分を、飛行時間型二次イオン質量分析装置にて分析する工程とを備えたものであり、抽出用酸水溶液が硝酸水溶液のものは、固体高分子材料中に含有する、少なくとも、クロム、カドミウム、鉛の成分を、精度良く、しかも短時間で分析することができ、また、抽出用酸水溶液が硝酸と塩酸との混酸の水溶液のものは、固体高分子材料中に含有する、少なくともクロム、カドミウム、鉛、水銀の成分を、精度良く、しかも短時間で分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明における実施の形態1の固体高分子材料中の微量金属の分析方法の工程を示す図である。図1に示すように、第1の工程では、微量な金属成分を含有する固体の高分子材料の試料片1を、ホットプレート5にセットした試料台2の平坦な面に接して載置する。
次の第2の工程は、試料片1を接して搭載した試料台面の試料片1の近傍に、マイクロシリンジ4に採取した硝酸水溶液または硝酸と塩酸との混酸水溶液(抽出用酸水溶液3と記す)を、試料片1に接触させるために、滴下する。(第2の工程を示す上面図では抽出用酸水溶液3とマイクロシリンジ4とは図示せず。)
次の第3の工程は、ホットプレート5により、試料台2と試料片1とに接触して存在する抽出用酸水溶液3を加熱して、試料片1中の金属成分を抽出する。この時、抽出用酸水溶液3が揮発して減少するので、所定時間後、抽出用酸水溶液3を再度滴下する。この再滴下の回数は、抽出時間に応じて適宜決められる。
図2は、試料台2に接触して載置した試料片1に抽出用酸水溶液3が接触した状態を示す拡大模式図である。図2に示すように、試料片1の試料台2に接する面は、全てが試料台と密着しているのではなく、試料台2と接する部分と試料台2から離れている部分がある。すなわち、試料片1の試料台2に接する面の一部と試料台2とには隙間がある。抽出用酸水溶液3は、試料片1の側面等の表面に接触するとともに、試料片1の試料台2に接する部分にある試料台2との隙間にも入り、試料片1と接触する。
次の第4の工程は、第3工程における試料片1から含有される金属成分の抽出処理が終了した後、試料台2から試料片1を取り除き、試料台2の表面に抽出された金属成分を含有する抽出用酸水溶液6を残す。
次の第5の工程は、ホットプレート5による加熱を継続し、抽出された金属成分を含有する抽出用酸水溶液6の液成分を蒸発させて、試料台2の表面に金属成分を含有する抽出成分7を乾固させる。
図示しないが、次の第5の工程は、上記表面に、金属を含有する成分が固着された試料台を飛行時間型二次イオン質量分析装置にセットして、金属を分析する。
【0010】
本実施の形態で分析対象となる固体高分子材料は、プラスチックス、ゴム、接着剤、封止樹脂、注形樹脂などの高分子材料が挙げられる。これらの材料は、原材料の状態ばかりでなく、機器の筐体、モールド製品、プリント配線板などの機器の部品に用いられた状態の材料も分析対象である。
本実施の形態で分析して検出する金属は、クロム(この後Crと記す)、カドミウム(この後Cdと記す)、鉛(この後Pbと記す)、水銀(この後Hgと記す)である。これらの金属は、材料の安定剤、顔料などの副資材として添加されたり、原材料製造時や材料を各種製品の部材へ成形加工するときに含有される可能性がある微量な物質であり、金属、金属酸化物、金属塩類などの形態で含有される。
本実施の形態における試料片は、プラスチックス射出成形に用いられる樹脂ペレットの1粒程度の量(例えば重量で0.1〜0.5g)であれば良い。
【0011】
本実施の形態における試料片を載置する試料台は、試料片を載置できる平坦な面を有するものであれば良く、特に基板が好ましい。試料台の材質としては分析して検出する物質(Cr、Cd、Pb、Hg)を含まず、かつ硝酸や塩酸で分解しない無機材料、金属材料が挙げられる。具体的には、シリコン基板、ゲルマニウム基板、金基板、金めっきをしたSUS基板などが好ましい。
【0012】
本実施の形態における抽出用酸水溶液の濃度は10〜50重量%である。CrとCdとPbとを検出する場合は、硝酸水溶液または硝酸と塩酸との混酸水溶液が用いられ、CrとCdとPbとHgとを検出する場合は、硝酸と塩酸との混酸水溶液が用いられる。この混酸中における塩酸の含有割合は重量割合で0.1〜0.3である。
抽出用酸水溶液の濃度が10重量%未満の場合は、含有される金属成分の抽出効率が低く、含有量が微量な試料の分析が難しく、抽出用酸水溶液の濃度が50重量%より高いと、試料の高分子材料成分が分解し、試料台2に張り付き、飛行時間型二次イオン質量分析装置での分析が不可能となる。
また、混酸の抽出用酸水溶液における塩酸の含有割合が0.1未満では試料中からのHgの抽出が不十分となり、Hgの分析精度が低下する。上記塩酸の含有割合が0.3より多くなると、酸濃度が薄い抽出用酸水溶液の場合、硝酸含有率が低下し、CrとCdとPbとの抽出が不十分となり、分析精度が低下する。
【0013】
本実施の形態における抽出用酸水溶液の一回の滴下量は試料片の体積の5倍以下が好ましく、試料片の体積の5倍以下から1倍以上が特に好ましい。この滴下量が試料片の体積の5倍より多いと、抽出用酸水溶液の液成分を蒸発させる時間が長くなり、分析時間が長くなる。この滴下量が試料片の体積の1倍未満であると、試料片からの含有金属の抽出量が少なくなり、分析精度が低下する。
本実施の形態における抽出用酸水溶液での抽出時間は、試料片1が1粒の樹脂ペレットであれば、0.5〜30分が好ましく、0.5〜15分がさら好ましい。この抽出時間が0.5分未満であると、抽出が不十分となり分析精度が低下する。また、30分より長くても、抽出量が増えることなく、再度滴下する回数が増えるのみで、分析プロセスが複雑になるとともに分析時間が長くなる。
【0014】
本実施の形態における抽出用酸水溶液での抽出時における、抽出用酸水溶液の温度は80〜100℃でが好ましい。抽出用酸水溶液の温度が100℃より高いと、滴下した抽出用酸水溶液が非常に短い時間に揮発して、含有する金属成分の抽出効率が低下する。また、抽出用酸水溶液の温度が80℃未満では抽出に時間がかかり、抽出処理の時間が長くなり、分析に長時間を要する。
【0015】
本実施の形態の固体高分子材料中の微量金属の分析方法は、抽出用酸水溶液として用いた硝酸の水溶液または硝酸と塩酸との混酸水溶液を、小片の試料が接して載置された試料台に滴下して、上記試料に接触させ、試料中の金属成分を抽出する。この金属成分を含有する抽出用酸水溶液の液成分を揮発させて上記試料台に金属成分を析出させる。この試料台に析出した金属成分を飛行時間型二次イオン質量分析装置での分析するものであり、少量の試料片により固体高分子材料中の、CrとCdとPbとを、または、CrとCdとPbとHgとを、精度の良く分析できるとともに、上記金属成分の抽出時間が短いので、短時間で分析が可能である。
【0016】
本実施の形態の試料片の形態は、プラスチックス射出成形に用いられる樹脂ペレットの1粒程度の片であるが、抽出用酸水溶液の液成分を揮発させた後に、試料台上から除去できれば、粉砕または破砕した粉体でもよい。粉体は、樹脂ペレットを粉砕したもののみではなく、樹脂で封止された電子部品を共に粉砕した、金属や酸化物と樹脂との複数材料からなる粉末でもよい。
【実施例】
【0017】
本発明の効果を明確にするため、実施例を挙げて、さらに詳細に説明する。
【0018】
実施例1.
試料には、表1に示すEuropean Commission認定品である金属分析用標準ポリエチレン(PEと略記する)BCR−680を用いた。BCR−680のCr、Cd、Pb、Hg含有量は、それぞれ114.6ppm、140.8ppm、107.6ppm、25.3ppmである。
本実施例では、寸法が3mm×3mm×1mm、重量が約0.2gであるペレット状の上記PE試料の一粒を、試料片として用いた。
【0019】
試料片1としてのPEペレットの1粒を、100℃に加熱したホットプレート5に載せた試料台2であるシリコン基板に接して載置する。次に、試料片1であるPEペレットの近傍のシリコン基板面に、マイクロシリンジ4を用い抽出用酸水溶液3として表1に示す酸濃度(35重量%)の硝酸水溶液の25μLを滴下し、PEペレットに硝酸水溶液を接触させて、PEペレットに含有するCr、Cd、Pbを抽出した。この時、硝酸水溶液は、PEペレット周囲部と接触するとともに、シリコン基板とPEペレットの一部との間の隙間に浸入する。滴下後10分間放置するが、この間に硝酸水溶液が揮発するので、2分間おきに25μLの硝酸水溶液を追加して滴下した。
35重量%硝酸水溶液は、微量金属分析用グレードの70重量%硝酸水溶液{AA−1000:多摩化学工業(株)社製}を超純水で希釈して用いた。
【0020】
上記酸濃度が35重量%の硝酸水溶液で抽出されたCr、Cd、Pbは、以下に示す方法で分析した。
上記10分間の放置後、試料片1であるPEペレットを試料台2であるシリコン基板から取り去る。PEペレットからの金属成分を含有した酸溶液6である硝酸水溶液は揮発しており、抽出物7が試料台2であるシリコン基板表面に析出している。そして、抽出物が析出した基板表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置にて分析した。
飛行時間型二次イオン質量分析装置は、アルバックファイ社製TRIFT-2型を使用した。測定条件は、一次イオンとして69Gaイオンを使用し、測定質量範囲はm/z =1〜500とし、質量分解能はΔM/M=5000程度とした。
【0021】
図3は、本実施例の測定結果であるBCR−680のPEペレットから35重量%硝酸水溶液を用いて抽出した抽出物の正イオン質量スペクトルである。
図3に示すように正イオン質量スペクトルには、m/z=52、114、208の各々の位置に、Cr、Cd、Pbに由来するCr、Cd、Pbイオンの最も大きいピークが認められた。但し、Hgに由来するHgなどのイオンピークは認められなかった。
【0022】
図4は、本実施例の測定結果であるBCR−680のPEペレットから35重量%硝酸水溶液を用いて抽出した抽出物の負イオン質量スペクトルである。
図4に示すように負イオン質量スペクトルには、m/z=100、300、394の各々の位置に、Crの酸化物、Cdの硝酸塩、Pbの硝酸塩に由来する、CrO、Cd(NO、Pb(NOの最も大きいピークが認められた。但し、Hgの硝酸塩や酸化物に由来するイオンピークは認められなかった。
上記、正イオン質量スペクトルおよび負イオン質量スペクトルの結果から明らかなように、本実施例の分析方法により、PEペレット、すなわち、固体高分子材料中のCr、Cd、Pbの各金属元素が含有されていることを確認する定性分析が可能である。
【0023】
上記各金属の最も強度の大きい正イオンのピークの面積52Cr114Cd208Pbを、基板のシリコンに由来するm/z=28のピークの面積28Siで除して規格化した。図5は、この規格化した各金属のピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siを、Cr、Cd、Pbの各金属の濃度に対してプロットした図である。
【0024】
実施例2、3.
試料に、表1に示すEuropean Commission認定品である市販の金属分析用標準ポリエチレンBCR−681、または、表1に示すBCR−680と、Cr、Cd、Pb、Hgを含まないPEとを、重量比1:1で混練して、含有金属を希釈したPE(希釈BCR−680と記す)を用いた以外、実施例1と同様にして、抽出物の正イオン質量スペクトルを求めた。BCR−681のCr、Cd、Pb、Hg含有量は、それぞれ17.7ppm、21.7ppm、3.8ppm、4.5ppm、であり、希釈BCR−680のCr、Cd、Pb、Hg含有量は、それぞれ57.3ppm、70.4ppm、53.8ppm、12.7ppmである。
上記正イオンの質量スペクトルから実施例1と同様にして求めた、Cr、Cd、Pbの各金属の規格化したピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siを、Cr、Cd、Pbの各金属の濃度に対してのプロットを図5に示した。
図5から明らかなように、各金属とも、その規格化したピーク面積比と金属濃度とが良好な直線関係を示し、実施例1〜3に示す分析方法は、PE中、すなわち、固体高分子材料中のCr、Cd、Pbの含有量を定量分析できる。すなわち、これら実施例に示す分析方法は、短時間に、しかも少量の試料でも精度良く、固体高分子材料中のCr、Cd、Pbの含有量を定量分析できるものである。
【0025】
実施例4〜6.
抽出用酸水溶液3として表1に示す10〜50重量%の硝酸水溶液を用いた以外、実施例1と同様にして、抽出物の正イオン質量スペクトルを求めた。
図6は、実施例4〜6の正イオン質量スペクトルから実施例1と同様にして求めた、Cr、Cd、Pbの各金属の規格化したピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siを、硝酸水溶液の濃度に対してプロットした図である。
抽出に用いた硝酸水溶液の濃度が10〜50重量%範囲では、各金属とも、規格化したピーク面積比の値ほぼ一定であり、しかも、検出が容易な大きい値となり、検出感度が高かった。
【0026】
比較例1〜5.
抽出用酸水溶液3として表1に示す酸濃度が0.1〜5重量%および70重量%の硝酸水溶液を用いた以外、実施例1と同様にして、抽出物の正イオン質量スペクトルを求めた。
比較例1〜5の正イオン質量スペクトルから実施例1と同様にして求めた、Cr、Cd、Pbの各金属の規格化したピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siの、硝酸水溶液の濃度に対するプロットも図6に示した。
比較例1〜4の、抽出に用いた硝酸水溶液の濃度が0.1〜5重量%範囲では、各金属とも、規格化したピーク面積比の値が小さく検出感度が低かった。また、比較例5の、硝酸水溶液の濃度が70重量%では、PE樹脂が分解し試料台に付着して飛行時間型二次イオン質量分析装置で分析できず、質量スペクトルが求められなかった。
【0027】
実施例1、実施例4〜6と比較例1〜5の結果から、抽出用酸水溶液である硝酸水溶液の濃度が10〜50重量%であると、PE試料、すなわち固体高分子材料の試料から、Cr、Cd、Pbを効率良く抽出でき、精度の良い定量分析が短時間にできる。
【0028】
実施例7.
抽出用酸水溶液3として、表1に示す35重量%の硝酸と10重量%の塩酸とを含有する水溶液を用いた以外、実施例1と同様にして、抽出物の正イオン質量スペクトルと負イオン質量スペクトルとを求めた。
正イオン質量スペクトルでは、実施例1と同様に、m/z=52、114、208の各々の位置に、Cr、Cd、Pbに由来するCr、Cd、Pbイオンの最も大きいピークが認められたが、やはり、Hgに由来するHgなどのイオンピークは認められなかった。
負イオン質量スペクトルでは、実施例1と同様に、m/z=100、300、394の各々の位置に、Crの酸化物、Cdの硝酸塩、Pbの硝酸塩に由来する、CrO、Cd(NO、Pb(NOの最も大きいピークが認められた。また、図7に示すように、m/z=307の位置に、Hgの塩化物に由来するHgClイオンピークが最も大きな強度で認められた。このHgClイオンピークは、基板のシリコンに由来するm/z=60の60SiOピークの面積で除して規格化した。
図8は、本実施例の正イオン質量スペクトルから実施例1と同様にして求めたCr、Cd、Pbの各金属の規格化したピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28SiをCr、Cd、Pbの各金属の濃度に、本実施例の負イオン質量スペクトルから求めたHgに起因する規格化したピーク面積比である307HgCl60SiOをHg濃度に対してプロットした図である。
【0029】
実施例8、9.
試料に、表1に示すBCR−681、または、希釈BCR−680を用いた以外、実施例9と同様にして、抽出物の正イオン質量スペクトルと負イオン質量スペクトルとを求めた。
この正イオン質量スペクトルから求めたCr、Cd、Pbの各金属の規格化したピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siを、Cr、Cd、Pbの各金属の濃度に対するプロットと、負イオン質量スペクトルから求めたHgの規格化したピーク面積比である307HgCl60SiOのHg濃度に対するプロットとを、図8に示した。
図8から明らかなように、各金属とも、その規格化したピーク面積比と金属濃度とが良好な直線関係を示し、実施例7〜9に示す分析方法は、PE中、すなわち、固体高分子材料中のCr、Cd、PbおよびHgの含有量を定量分析できる。すなわち、これら実施例に示す分析方法は、短時間に、しかも少量の試料でも精度良く、固体高分子材料中のCr、Cd、Pb、Hgの含有量を定量分析できるものである。
【0030】
実施例7〜9においては、抽出用酸水溶液として、表1に示す35重量%の硝酸と10重量%の塩酸との混酸水溶液、すなわち混酸中の塩酸の含有割合が重量割合で、10/(35+10)=0.222の混酸水溶液を用いたが、混酸中における塩酸の含有割合が、重量比で0.1〜0.3であっても、実施例7〜9と同様な効果が得られる。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例10〜12.
実施例10〜12では、試料片に、表2に示す各金属成分を含有するポリスチレン(PSと記す)ペレットを用いた以外、実施例1と同様にして、抽出物の正イオン質量スペクトルと負イオン質量スペクトルとを求めた。
実施例10〜12に用いた試料は以下のようにして調製した。Cr、Cd、Pb、Hg成分を含有していないことが確認された市販のPSペレット{H8672:PSジャパン(株)社製}に、酸化カドミウム{化学用試薬のCdO:和光純薬工業(株)社製}、酸化クロム{特級試薬のCrO:和光純薬工業(株)社製}、硫酸水銀{一級試薬のHgSO:和光純薬工業(株)社製}およびクロム酸鉛(化学用試薬のPbCrO:和光純薬工業(株)社製)を所定量添加し、混練することで、Cr、Cd、Pb、Hg成分の含有量が3段階の試料を作製した。
これら試料において、各金属成分の含有率が低いものから、PS1、PS2、PS3とした。PS1のCr、Cd、Pb、Hg各元素としての含有量は、それぞれ25ppm、20ppm、20ppm、5ppmである。PS2のCr、Cd、Pb、Hg各元素としての含有量は、それぞれ63ppm、50ppm、50ppm、25ppmである。PS3のCr、Cd、Pb、Hg各元素としての含有量は、それぞれ125ppm、100ppm、100ppm、50ppmである。
【0033】
実施例10では、PS1の試料を用い、実施例11では、PS2の試料を用い、実施例
12では、PS3の試料を用いた。実施例10〜12とも、実施例1と同様に、正イオン質量スペクトルには、Cr、Cd、Pbに由来するCr、Cd、Pbイオンのイオンピークが認められ、負イオン質量スペクトルには、Crの酸化物、Cdの硝酸塩、Pbの硝酸塩に由来する、CrO、Cd(NO、Pb(NOのピークが認められた。しかし、Hgに起因するイオンピークは認められなかった。
すなわち、実施例10〜12の分析方法は、PSペレット、すなわち、固体高分子材料中のCr、Cd、Pbの各金属成分が含有されていることを確認できる定性分析が可能である。
【0034】
実施例10〜12とも、実施例1と同様にして、正イオン質量スペクトルにおける、Cr、Cd、PbのイオンピークをSiのイオンピークで規格化した。
図9は、実施例10〜12で求めた正イオン質量スペクトルの各金属成分のピークを実施例1と同様にして規格したピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Si+307を、Cr、Cd、Pbの各金属の濃度に対してプロットした図である。
図9から明らかなように、各金属とも、その規格化したピーク面積比と金属濃度とが良好な直線関係を示し、実施例10〜12に示す分析方法は、PS中、すなわち、固体高分子材料中のCr、Cd、Pbの含有量を定量分析できる。すなわち、これら実施例に示す分析方法は、少量の試料でも精度良く、しかも短時間に固体高分子材料中のCr、Cd、Pbの含有量を定量分析できるものである。
【0035】
実施例13〜15.
試料片に、表2に示す各金属成分を含有するPSペレットを用いた以外、実施例7と同様にして、抽出物の正イオン質量スペクトルと負イオン質量スペクトルとを求めた。
実施例7と同様に、正イオン質量スペクトルには、Cr、Cd、Pbに由来するCr、Cd、Pbのイオンピークが認められ、負イオン質量スペクトルには、Crの酸化物、Cdの硝酸塩、Pbの硝酸塩に由来する、CrO、Cd(NO、Pb(NOのイオンピークとHgの塩化物に由来するHgClのイオンピークが認められた。
すなわち、実施例13〜15の分析方法は、PSペレット、すなわち、固体高分子材料中のCr、Cd、Pb、Hgの各金属成分が含有されていることを確認できる定性分析が可能である。
【0036】
実施例13〜15とも、実施例7と同様にして、正イオン質量スペクトルにおけるCr、Cd、PbのイオンピークはSiのイオンピークで規格化し、負イオン質量スペクトルにおけるHgClのイオンピークはSiOのイオンピークで規格化した。
図10は、実施例13〜15で求めた正イオンの質量スペクトルの各金属成分のピークおよび負イオン質量スペクトルのHgClのイオンピークを実施例7と同様にして規格したピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Si307HgCl60SiOをCr、Cd、Pb、Hgの各金属の濃度に対してプロットした図である。
図10から明らかなように、各金属とも、その規格化したピーク面積比と金属濃度とが良好な直線関係を示し、実施例13〜15に示す分析方法は、PS中、すなわち、固体高分子材料中のCr、Cd、Pb、Hgの含有量を定量分析できる。すなわち、これら実施例に示す分析方法は、少量の試料でも精度良く、しかも短時間に固体高分子材料中のCr、Cd、Pb、Hgの含有量を定量分析できるものである。
【0037】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明における実施の形態1の固体高分子材料中の微量金属の分析方法の工程を示す図である。
【図2】試料台に接触して載置した試料片に抽出用酸水溶液が接触した状態を示す拡大模式図である。
【図3】実施例1におけるBCR−680のPEペレットから35重量%硝酸水溶液を用いて抽出した抽出物の飛行時間型二次イオン質量分析で求めた正イオン質量スペクトルを示す図である。
【図4】実施例1におけるBCR−680のPEペレットから35重量%硝酸水溶液を用いて抽出した抽出物の飛行時間型二次イオン質量分析で求めた負イオン質量スペクトルを示す図である。
【図5】実施例1〜3の正イオン質量スペクトルから求めたCr、Cd、Pbの各金属に起因する規格化した各金属のピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siを、Cr、Cd、Pbの各金属の濃度に対してプロットした図である。
【図6】実施例1と実施例4〜6の正イオンの質量スペクトルから求めたCr、Cd、Pbの各金属に起因する規格化したピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siを、硝酸水溶液の濃度に対してプロットした図である。
【図7】実施例7におけるBCR−680のPEペレットから35重量%の硝酸と10重量%の塩酸との混酸水溶液を用いて抽出した抽出物の飛行時間型二次イオン質量分析で求めた負イオン質量スペクトルを示す図である。
【図8】実施例7〜9の正イオン質量スペクトルから求めたCr、Cd、Pbの各金属に起因する規格化した各金属のピーク面積比である52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siと、実施例7〜9の負イオン質量スペクトルから求めたHg金属に起因する規格化したHgのピーク面積比である307HgCl60SiOを、Cr、Cd、Pb、Hgの各金属の濃度に対してプロットした図である。
【図9】実施例10〜12の正イオン質量スペクトルから求めたCr、Cd、Pbの各金属に起因する規格化した各金属のピーク面積比である、52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siを、Cr、Cd、Pbの各金属の濃度に対してプロットした図である。
【図10】実施例13〜15の正イオン質量スペクトルから求めたCr、Cd、Pbの各金属に起因する規格化した各金属のピーク面積比である52Cr28Si114Cd28Si208Pb28Siと、実施例13〜15の負イオン質量スペクトルから求めたHg金属に起因する規格化したHgのピーク面積比である307HgCl60SiOを、Cr、Cd、Pb、Hgの各金属の濃度に対してプロットした図である。
【符号の説明】
【0039】
1 試料片、2 試料台、3 抽出用酸水溶液、4 マイクロシリンジ、5 ホットプレート、6 金属成分含有酸水溶液、7 抽出成分。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットプレートにセットされた平坦な面を有し、且つ硝酸水溶液および硝酸と塩酸との混酸水溶液に溶解しない試料台に固体高分子材料の試料片を接触して載置する工程と、
上記試料片を接触して載置した上記試料台の上記試料片の近傍に、硝酸水溶液または硝酸と塩酸との混酸水溶液からなる抽出用酸水溶液を滴下する工程と
上記滴下した抽出用酸水溶液を、上記試料片の表面に接触させるとともに、上記ホットとプレートにて加熱して、上記試料片から金属成分を抽出する工程と、
上記抽出工程後に、上記試料台から上記試料片を取り除き、上記試料台の表面に抽出成分を含有した抽出用酸水溶液を残留させる工程と、
上記ホットプレートによる加熱を継続し、上記試料台の表面に残留した抽出成分を含有した抽出用酸水溶液の液成分を蒸発させて、上記試料台の表面に抽出成分を乾固させる工程と、
上記試料台の表面に乾固した抽出成分を、飛行時間型二次イオン質量分析装置にて分析する工程とを備えた固体高分子材料中の微量金属の分析方法。
【請求項2】
固体高分子材料の試料片が、プラスチックス射出成形に用いられる樹脂ペレットの1粒程度の量であり、抽出用酸水溶液の1回の滴下量が、上記試料片の体積の5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子材料中の微量金属の分析方法。
【請求項3】
抽出用酸水溶液の酸濃度が10〜50重量%であることを特徴とする請求項2に記載の固体高分子材料中の微量金属の分析方法。
【請求項4】
硝酸と塩酸との混酸水溶液からなる抽出用酸水溶液における、混酸中の塩酸の含有割合が重量割合で0.1〜0.3であることを特徴とする請求項3に記載の固体高分子材料中の微量金属の分析方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−112899(P2006−112899A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299982(P2004−299982)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】