説明

圧縮機における冷媒流量検出構造

【課題】流路抵抗を増やさないように、且つ差圧式流量検出手段を構成する区画体を収容する収容室の周壁面と区画体との摺接部位における磨耗を抑制できるようにする。
【解決手段】リヤハウジング13にはオイルセパレータ39が組み込まれている。吐出室132内の冷媒は、オイルセパレータ39内及び通路47を経由してマフラー室33に流入する。マフラー室33内の圧力は、低圧導入通路301を介して低圧側圧力室342に波及する。オイルセパレータ39内の油分離室42で分離された油は、通路49を介して貯油室48へ送られる。油分離室42内の圧力は、通路49、貯油室48及び高圧導入通路50を介して高圧側圧力室341に波及する。オイルセパレータ39は、油分離室42内の圧力とマフラー室33内の圧力とに差圧をつける。差圧式流量検出手段60は、油分離室42の圧力とマフラー室33内の圧力との差圧に基づいて、冷媒流量を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機における冷媒流量検出構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献2に開示されるような可変容量型圧縮機では、適正な冷媒流量が得られているか否かを検出して容量制御弁の弁開度を制御する場合がある。特許文献2では、吐出された冷媒の通路に設けられた絞り孔の前後の差圧によって弁開度を変えられる容量制御弁が開示されている。この容量制御弁では、ソレノイドへの通電によって生じる電磁力と前記差圧とが弁体を介して対抗しており、弁開度は、前記差圧と電磁力との対抗によって弁体がバランスする位置に配置されることによって、特定される。
【0003】
絞り孔の前後の差圧は、冷媒流量が多くなるほど大きくなる。絞り孔の前後の差圧は、冷媒流量を反映しており、この容量制御弁では、絞り孔の前後の差圧が大きくなると、弁開度が大きくなる。冷媒流量が適正流量よりも増えると、弁開度が大きくなり、吐出室から弁孔を経由してクランク室へ供給される冷媒量が多くなる。これにより、クランク室内の圧力が上昇して斜板の傾角が減少し、冷媒流量が適正流量に収束するように低減する。冷媒流量が適正流量よりも減ると、弁開度が小さくなり、吐出室から弁孔を経由してクランク室へ供給される冷媒量が減少する。これにより、クランク室内の圧力が下がって斜板の傾角が増大し、冷媒流量が適正流量に収束するように増大する。
【0004】
圧縮機が車両エンジンから駆動力を得る構成となっている場合には、圧縮機のトルクをも賄うエンジン出力をもたらすようにエンジンの出力制御を行なう必要がある。冷媒流量は、圧縮機のトルクを反映しているため、冷媒流量を検出すれば圧縮機のトルクを把握することができる。しかし、絞り孔の前後の差圧が冷媒流量を反映してはいるが、冷媒流量を検出しているわけではないため、容量制御弁のソレノイドへ供給される電流の大きさから冷媒流量(つまり、圧縮機のトルク)を推定することが行われる。
【0005】
圧縮機の起動時には、吐出容量を100%にする運転制御が行われるが、圧縮機の運転が停止している間にクランク室に溜まった液冷媒が圧縮機の起動に伴って気化するために、クランク室内の圧力が高くなり、斜板の傾角が小さいままで運転継続されてしまう。斜板の傾角が小さい状態は、圧縮機のトルクが小さい状態、つまり冷媒流量が少ない状態であるが、ソレノイドへ供給される電流から推定される冷媒流量は、大きい。そのため、実際の圧縮機のトルクが小さいにも関わらず、車両エンジンの運転は、圧縮機のトルクが大きいという前提のもとに、制御されてしまう。これは、エネルギーロスをもたらす。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1,2,3に開示されるような差圧式流量検出手段を用いて冷媒流量を検出することが望ましい。この差圧式流量検出手段は、絞り孔の前後の差圧の大きさに応じた電気信号を出力する。
【0007】
特許文献3の差圧式流量検出手段では、第1差圧室と第2差圧室とがスプール(スライド可能な区画体)によって隔てられており、第1差圧室には高圧流体が導入され、第2差圧室には低圧流体が導入される。第1差圧室内の高圧と第2差圧室内の低圧との差圧は、第2差圧室側から第1差圧室側へスプールを付勢するばねのばね力に対抗している。スプールに連結された被検出体は、前記差圧と前記ばね力とがバランスする位置に配置され、このバランス位置に応じた電気信号が出力される。
【特許文献1】特開昭62−56820号公報
【特許文献2】特開平9-257534号公報
【特許文献3】特開2004-12394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に開示の差圧式流量検出手段に導入される差圧は、流路の途中に管オリフィスを設けて生成しているが、このような管オリフィスの設置は、流路抵抗を増やすために好ましくない。又、スプール(区画体)がスプール室の周壁面に摺接するため、摺接部位が磨耗する。
【0009】
本発明は、流路抵抗を増やさないように、且つ区画体を収容する収容室の壁面と区画体との摺接部位における磨耗を抑制できる冷媒流量検出構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、冷媒通路が高圧の上流側通路と低圧の下流側通路とに区分けされており、前記上流側通路内の圧力と前記下流側通路内の圧力とを拾って前記冷媒通路内の冷媒流量を検出する差圧式流量検出手段が備えられており、前記差圧式流量検出手段は、収容室にスライド可能に収容された区画体と、前記区画体によって隔てられた高圧側圧力室と低圧側圧力室とを備えており、前記上流側通路内の圧力が前記高圧側圧力室に導入され、前記下流側通路内の圧力が前記低圧側圧力室に導入される圧縮機における冷媒流量検出構造を対象とし、請求項1の発明は、前記上流側通路内の冷媒から油を分離する油分離室を有すると共に、前記冷媒通路を前記上流側通路と前記下流側通路とに区分けするオイルセパレータと、前記上流側通路に連通し、且つ前記オイルセパレータによって分離された油を吐出圧領域以外の圧力領域へ導く導油通路と、前記導油通路を介して前記上流側通路内の圧力を前記高圧側圧力室に導入する高圧導入通路とを備えことを特徴とする。
【0011】
導油通路は、分離された油を吐出圧領域以外の圧力領域へ導き、オイルセパレータによって分離された油の一部は、高圧側圧力室に導入される。そのため、区画体と収容室の周壁面との摺接部位の磨耗が抑制される。オイルセパレータの前後の差圧が冷媒流量検出用に用いられるため、新規の差圧生成手段(例えば絞り孔)を設ける必要がなく、冷媒通路における通路抵抗(流路抵抗)が増えることはない。
【0012】
好適な例では、前記オイルセパレータよりも下流に逆止弁がある。
逆止弁が閉じている場合にも、上流側通路内の圧力と下流側通路内の圧力とに差圧が生じる。そのため、圧縮機の起動直後に逆止弁が閉じているような場合にも、圧縮機の起動と共に差圧式流量検出手段が動作し、速やかに流量を検出することができる。
【0013】
好適な例では、前記下流側通路内の圧力を前記低圧側圧力室に導入する低圧導入通路が前記逆止弁よりも下流の前記下流側通路に接続されている。
このような構成は、前記差圧を大きくする上で好適である。
【0014】
好適な例では、前記導油通路は、貯油室を有し、前記高圧導入通路は、前記貯油室に接続されている。
貯油室に貯められた油を高圧側圧力室に送ることができ、区画体と収容室の壁面との間における摺接部位を十分に潤滑することができる。
【0015】
好適な例では、前記吐出圧領域以外の圧力領域に向かう油と前記高圧導入通路に向かう油とを共に濾過するオイルフィルタが導油通路に設けられている。
吐出圧領域以外の圧力領域へ送られる油と、高圧側圧力室へ送られる油との両方を1つのオイルフィルタで濾過することができる。
【0016】
好適な例では、前記圧縮機は、供給通路を介して吐出圧領域の冷媒が制御圧室に供給されると共に、放出通路を介して前記制御圧室の冷媒が吸入圧領域に放出されて前記制御圧室内の圧力が調整され、前記制御圧室内の圧力調整によって吐出容量が制御される可変容量型圧縮機である。
【0017】
可変容量型圧縮機は、本発明の適用対象として特に好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、流路抵抗を増やさないように、且つ区画体を収容する収容室の壁面と区画体との摺接部位における磨耗を抑制できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
図1に示すように、シリンダブロック11の前端にはフロントハウジング12が連結されている。シリンダブロック11の後端にはリヤハウジング13がバルブプレート14、弁形成プレート15,16及びリテーナ形成プレート17を介して連結されている。シリンダブロック11、フロントハウジング12及びリヤハウジング13は、可変容量型圧縮機10の全体ハウジングを構成する。
【0020】
制御圧室121を形成するフロントハウジング12とシリンダブロック11とには回転軸18がラジアルベアリング19,20を介して回転可能に支持されている。制御圧室121から外部へ突出する回転軸18は、外部駆動源である車両エンジンEから駆動力を得る。
【0021】
回転軸18には回転支持体21が止着されていると共に、斜板22が回転軸18の軸方向へスライド可能かつ傾動可能に支持されている。回転支持体21に形成されたガイド孔211には斜板22に設けられたガイドピン23がスライド可能に嵌入されている。斜板22は、ガイド孔211とガイドピン23との連係により回転軸18の軸方向へ傾動可能かつ回転軸18と一体的に回転可能である。斜板22の傾動は、ガイド孔211とガイドピン23とのスライドガイド関係、及び回転軸18のスライド支持作用により案内される。
【0022】
斜板22の径中心部が回転支持体21側へ移動すると、斜板22の傾角が増大する。斜板22の最大傾角は、回転支持体21と斜板22との当接によって規制される。図1に実線で示す斜板22は、最大傾角状態にあり、鎖線で示す斜板22は、最小傾角状態にある。
【0023】
シリンダブロック11に貫設された複数のシリンダボア111内にはピストン24が収容されている。斜板22の回転運動は、シュー25を介してピストン24の前後往復運動に変換され、ピストン24がシリンダボア111内を往復動する。
【0024】
リヤハウジング13内には吸入室131及び吐出室132が区画形成されている。バルブプレート14、弁形成プレート16及びリテーナ形成プレート17には吸入ポート141が形成されている。バルブプレート14及び弁形成プレート15には吐出ポート142が形成されている。弁形成プレート15には吸入弁151が形成されており、弁形成プレート16には吐出弁161が形成されている。吸入圧領域である吸入室131内の冷媒は、ピストン24の復動動作(図1において右側から左側への移動)により吸入ポート141から吸入弁151を押し退けてシリンダボア111内へ流入する。シリンダボア111内へ流入したガス状の冷媒は、ピストン24の往動動作(図1において左側から右側への移動)により吐出ポート142から吐出弁161を押し退けて吐出圧領域である吐出室132へ吐出される。吐出弁161は、リテーナ形成プレート17上のリテーナ171に当接して開度規制される。
【0025】
リヤハウジング13には電磁式の容量制御弁26が組み付けられている。容量制御弁26は、吐出室132と制御圧室121とを繋ぐ供給通路27上に介在されている。容量制御弁26の弁開度は、吸入室131の圧力、及び容量制御弁26の電磁ソレノイド(図示略)への通電のデューティ比に応じて調整される。容量制御弁26の弁孔が閉じている場合には、吐出室132内の冷媒が制御圧室121へ送られることはない。
【0026】
制御圧室121は、放出通路28を介して吸入室131に連通されており、制御圧室121内の冷媒が放出通路28を介して吸入室131へ流出する。容量制御弁26の弁開度が大きくなると、吐出室132から供給通路27を経由して制御圧室121へ流入する冷媒量が増え、制御圧室121内の圧力が上昇する。そのため、斜板22の傾角が減少し、吐出容量が減る。容量制御弁26の弁開度が小さくなると、吐出室132から供給通路27を経由して制御圧室121へ流入する冷媒量が減り、制御圧室121内の圧力が低減する。そのため、斜板22の傾角が増大し、吐出容量が増える。
【0027】
可変容量型圧縮機10の全体ハウジングの一部であるシリンダブロック11の上部側の外周面110には台座29が一体的に立ち上げ形成されている。図2(a)に示すように、台座29の上端291(シリンダブロック11の外面)は、平らになっており、台座29の上端291には通路形成部材としてのマフラー形成部材30が平板形状のシール用のガスケット31を介して連結されている。ガスケット31は、台座29とマフラー形成部材30との間からの冷媒洩れを防止する。図3に示すように、マフラー形成部材30及びガスケット31は、ネジ32によって台座29に共締め固定されている。
【0028】
図2(a)に示すように、マフラー形成部材30にはマフラー室33及び収容室34が形成されており、収容室34には区画体35がスライド可能に嵌合して収容されている。収容室34の横断面形状は、円形であり、区画体35の周面350は、収容室34の円周面形状の周壁面340に摺接する。区画体35は、収容室34を高圧側圧力室341と低圧側圧力室342とに区画する。区画体35とリング状のばね受け座36との間には圧縮ばね37が介在されている。圧縮ばね37は、区画体35を低圧側圧力室342側から高圧側圧力室341側へ付勢する。低圧側圧力室342は、マフラー形成部材30に形成された低圧導入通路301を経由してマフラー室33に連通しており、マフラー室33内の圧力が低圧側圧力室342に波及する。
【0029】
区画体35には永久磁石351が止着されており、マフラー形成部材30の外面には磁気検出器38が設けられている。磁気検出器38は、永久磁石351の磁束密度を検出する。磁気検出器38によって検出された磁束密度検出情報は、容量制御コンピュータC1〔図1に図示〕へ送られる。
【0030】
図2(a)に示すように、リヤハウジング13には逆止弁内蔵型のオイルセパレータ39が組み込まれている。オイルセパレータ39を構成するハウジング40内には冷媒旋回用筒41が嵌合して固定されている。冷媒旋回用筒41は、ハウジング40内を油分離室42と弁収容室43とに区画し、油分離室42は、導入通路44を介して吐出室132に連通している。吐出室132内の冷媒は、導入通路44を経由して油分離室42内へ流入する。導入通路44から油分離室42内へ流入した冷媒は、図2(b)に矢印Rで示す方向に冷媒旋回用筒41の周囲を旋回する。冷媒旋回用筒41の周囲を旋回した冷媒は、油分離室42に臨む冷媒旋回用筒41の筒口411から筒内412へ流入する。
【0031】
図2(a)に示すように、ハウジング40内には弁体45が冷媒旋回用筒41の他方の筒口413を開閉可能に収容されている。弁体45は、圧縮ばね46によって筒口413を閉じる位置に向けて付勢されている。筒内412内の冷媒の圧力が圧縮ばね46のばね力に打ち勝つと、筒内412の冷媒が弁体45を押し退けて弁収容室43へ流出する。弁体45及び圧縮ばね46は、逆止弁53を構成する。
【0032】
マフラー室33は、ガスケット31、シリンダブロック11、バルブプレート14及びリヤハウジング13に形成された通路47を介して弁収容室43に連通している。弁収容室43内の圧力は、通路47及びマフラー室33を介して低圧側圧力室342に波及する。図4は、シリンダブロック11に形成された通路47を示し、図5は、ガスケット31に貫設された通路47を示す。
【0033】
図2(a)及び図3に示すように、台座29内には貯油室48が形成されている。貯油室48は、ガスケット31によってマフラー室33から隔離されている。図2(a)に示すように、貯油室48は、シリンダブロック11、バルブプレート14及びリヤハウジング13に形成された通路49を介して油分離室42に連通している。通路49と油分離室42との接続部にはオイルフィルタ63が設けられている。
【0034】
貯油室48は、シリンダブロック11、ガスケット31及びマフラー形成部材30に形成された高圧導入通路50を介して高圧側圧力室341に連通している。貯油室48に対する高圧導入通路50の導入口501は、貯油室48の底481に近い位置にある。油分離室42内の圧力は、通路49、貯油室48及び高圧導入通路50を介して高圧側圧力室341に波及する。図4は、シリンダブロック11に形成された高圧導入通路50を示し、図5は、ガスケット31に貫設された高圧導入通路50を示し、図6は、マフラー形成部材30に形成された高圧導入通路50を示す。
【0035】
図1に示す吐出室132内の冷媒は、導入通路44、オイルセパレータ39内、通路47及びマフラー室33を経由して外部冷媒回路51へ流出する。外部冷媒回路51へ流出した冷媒は、吸入室131へ還流する。外部冷媒回路51上には、冷媒から熱を奪うための熱交換器54、膨張弁55、及び周囲の熱を冷媒に移すための熱交換器56が介在されている。膨張弁55は、熱交換器56の出口側のガス温度の変動に応じて冷媒流量を制御する。可変容量型圧縮機10及び外部冷媒回路51からなる回路内には油が入れられており、この油は、冷媒と共に流動する。
【0036】
図2(a)に示す吐出室132から導入通路44を介して油分離室42へ流入した冷媒は、冷媒旋回用筒41の周りを旋回し、冷媒と共に流動するミスト状の油が油分離室42内で分離される。冷媒旋回用筒41の周りを旋回した冷媒は、筒内412へ流入し、冷媒から分離された油は、通路49を経由して貯油室48へ流入する。貯油室48内の油は、貯油室48の底部に開口する戻し通路57〔図3に図示〕を介して制御圧室121へ流出する。制御圧室121内の油は、制御圧室121内の潤滑必要部位を潤滑する。戻し通路57は、絞り機能を有し、油分離室42から貯油室48へ送られた油は、貯油室48に貯められる。通路49、貯油室48及び戻し通路57は、油分離室42に連通し、且つオイルセパレータ39によって分離された油を吐出圧領域以外の圧力領域(本実施形態では制御圧室121)へ導く導油通路64を構成する。
【0037】
油分離室42内の圧力と弁収容室43内の圧力とには差が生じており、弁収容室43内の圧力は、油分離室42内の圧力よりも低い。このような圧力差は、油分離をもたらす冷媒旋回後に冷媒進行方向を筒内412へと急激に転換することによる圧力低下によって生じ、さらに逆止弁53の絞り作用による圧力低下によって生じる。導入通路44及び油分離室42、弁収容室43、通路47及びマフラー室33は、可変容量型圧縮機10のハウジング内からハウジング外へ吐出される冷媒の冷媒通路52を構成する。冷媒通路52は、オイルセパレータ39及び逆止弁53によって、導入通路44及び油分離室42からなる上流側通路58と、弁収容室43、通路47及びマフラー室33からなる下流側通路59とに区分けされる。
【0038】
上流側通路58内の圧力は、通路49、貯油室48及び高圧導入通路50を介して高圧側圧力室341に波及し、下流側通路59内の圧力は、低圧導入通路301を介して低圧側圧力室342へ波及する。高圧側圧力室341内の圧力と低圧側圧力室342内の圧力とは、区画体35を介して対抗する。高圧側圧力室341内の圧力と低圧側圧力室342内の圧力との差圧は、圧縮ばね37のばね力に対抗し、区画体35は、前記差圧と圧縮ばね37のばね力とがバランスする位置に配置される。区画体35に止着された永久磁石351は、高圧側圧力室341内の圧力と低圧側圧力室342内の圧力との差圧が大きくなるほど、磁気検出器38から遠ざかる。
【0039】
区画体35の周面350と収容室34の周壁面340との間には微小なクリアランスが存在する。貯油室48内の圧力が高圧導入通路50を介して高圧側圧力室341へ波及しており、高圧側圧力室341内の冷媒は、僅かずつではあるがこのクリアランスを通って低圧側圧力室342側へ抜けて行く。従って、貯油室48内の油も高圧側圧力室341へ送られ、高圧側圧力室341へ送られた油は、区画体35の周面350と収容室34の周壁面340との間の摺接部位を潤滑する。
【0040】
冷媒通路52を流れる吐出冷媒流量が増大すると、前記差圧が増大し、区画体35が高圧側圧力室341側から低圧側圧力室342側へ変位する。冷媒通路52を流れる吐出冷媒流量が減少すると、前記差圧が低減し、区画体35が低圧側圧力室342側から高圧側圧力室341側へ変位する。区画体35の位置は、磁気検出器38によって検出される磁束密度に反映される。つまり、磁気検出器38によって検出される磁束密度は、区画体35の位置、ひいては冷媒通路52を流れる吐出冷媒流量を反映する。
【0041】
収容室34、区画体35、圧縮ばね37及び磁気検出器38は、上流側通路58内の圧力と下流側通路59内の圧力とを拾って、冷媒通路52内の冷媒流量を検出する差圧式流量検出手段60を構成する。
【0042】
図1に示すように、容量制御コンピュータC1には室温設定器61及び室温検出器62が信号接続されている。容量制御コンピュータC1は、磁気検出器38によって得られる磁束密度検出情報に基づいて、室温検出器62によって検出された検出室温が室温設定器61によって設定された目標室温に収束するように、容量制御弁26の電磁ソレノイドに対する電流供給を制御する。つまり、容量制御コンピュータC1は、磁気検出器38から磁束密度検出情報に基づいて、吐出冷媒流量を適正流量に制御するフィードバック制御を行なう。
【0043】
容量制御コンピュータC1は、磁気検出器38から得られる磁束密度検出情報に基づいて、可変容量型圧縮機10のトルク情報をエンジン制御コンピュータC2へ送る。エンジン制御コンピュータC2は、容量制御コンピュータC1から得られるトルク情報に基づいて、車両エンジンEの適正なエンジン回転数制御を行なう。
【0044】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)高圧側圧力室341と低圧側圧力室342との圧力差の変動に応じて区画体35が変位し、区画体35が収容室34の周壁面340に摺接する。オイルセパレータ39によって分離された油が高圧側圧力室341に導入されるため、区画体35の周面350と収容室34の周壁面340との間の摺接部位の磨耗が抑制される。
【0045】
(2)オイルセパレータ39の前後の差圧を冷媒流量検出用に用いるため、新規の差圧生成手段(例えば絞り孔)を設ける必要がない。そのため、冷媒通路52における通路抵抗(流路抵抗)が増えることはなく、圧力損失の増加に起因する圧縮機の性能低下が生じることもない。
【0046】
(3)逆止弁53よりも下流側の冷媒通路52上に絞りを設け、この絞りの前後の差圧を用いて冷媒流量検出を行なう場合を想定してみる。そうすると、可変容量型圧縮機10の起動直後において逆止弁53が開いていない状態では、前記の差圧が生じないため、可変容量型圧縮機10の起動に対する区画体35の応答遅れが起き、可変容量型圧縮機10の起動直後における冷媒流量を検出することができない。
【0047】
本実施形態では、可変容量型圧縮機10が起動すれば、逆止弁53が閉じている場合にも、上流側通路58内の圧力と下流側通路59内の圧力とに差圧が必ず生じる。そのため、可変容量型圧縮機10の起動直後に逆止弁53が閉じているような場合にも、可変容量型圧縮機10の起動と共に差圧式流量検出手段60が動作し、速やかに流量を検出することができる。
【0048】
(4)差圧式流量検出手段60における流量検出精度を高めるには、高圧側圧力室341内の圧力と低圧側圧力室342内の圧力との差圧を大きくするのがよい。オイルセパレータ39と逆止弁53との両者を冷媒通路52上に介在させた構成では、大きな差圧が得られる。
【0049】
(5)高圧導入通路50の導入口501は、貯油室48の底481に近い位置に設けられているため、貯油室48に貯留されている油が高圧導入通路50を通って高圧側圧力室341へ流入し易い。貯油室48の底481に近い位置に導入口501を設ける構成は、区画体35の周面350と収容室34の周壁面340との間の摺接部位の十分な潤滑に寄与する。
【0050】
(6)導油通路64と油分離室42との接続部に設けられたオイルフィルタ63は、貯油室48へ送られる油を濾過する。従って、制御圧室121へ送られる油と、高圧側圧力室341へ送られる油との両方が1つのオイルフィルタ63で濾過される。油分離室42から貯油室48に至る通路49上にオイルフィルタ63を介在すれば、最少個数のオイルフィルタ63によって制御圧室121へ送られる油と、高圧側圧力室341へ送られる油との両方を濾過することができる。
【0051】
(7)区画体35の周面350と収容室34の周壁面340との間のクリアランス内に入り込んだ油は、潤滑のみならず、外部からの振動や圧縮機の脈動に起因する区画体35の振動を抑制するダンパ効果をもたらす。
【0052】
(8)高圧導入通路50がない場合を想定すると、油がある程度存在した状態ではガス冷媒が抜けるための通路が存在しないため、貯油室48の容積の大半がガス冷媒に占有されて、油分離室42で分離した油が貯油室48側へ流入できない。そのため、制御圧室121へ供給すべき油が不足するおそれがある。高圧導入通路50を設けた構成では、貯油室48内に溜まった冷媒が高圧導入通路50、高圧側圧力室341、及び区画体35の周面350と収容室34の周壁面340との間のクリアランスを経由してマフラー室33側へ抜け出ることができ、油分離室42で分離された油が支障無く貯油室48側へ流入することができる。
【0053】
(9)マフラー室33に連通する低圧側圧力室342にはマフラー室33内の圧力が導入される。マフラー室33に低圧側圧力室342を連通させる通路構成は、簡素であり、マフラー室33を冷媒通路52の下流側通路とした構成は、マフラー形成部材30に設けた差圧式流量検出手段60に下流側通路の圧力を導入するための通路構成を簡素にする。
【0054】
次に、図7の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。
第2の実施形態では第1の実施形態における逆止弁53が無く、オイルセパレータ39Aは、逆止弁を内蔵していない。冷媒旋回用筒41は、ハウジング40内に低圧室65を区画し、通路47は、低圧室65に連通している。低圧室65内の圧力は、油分離室42内の圧力よりも低圧であり、低圧室65内の圧力が低圧側圧力室342に波及する。逆止弁のない第2の実施形態では、油分離室42内の圧力と低圧室65内の圧力との差圧は、第1の実施形態における差圧よりも小さくなる。
【0055】
又、第2の実施形態では第1の実施形態における貯油室48がなく、高圧導入通路50及び戻し通路57が通路49Aに接続されている。戻し通路57及び通路49Aは、油分離室42(上流側通路58)に連通し、且つオイルセパレータ39によって分離された油を吐出圧領域以外の圧力領域(本実施形態では制御圧室121)へ導く導油通路64Aを構成する。油分離室42内の圧力は、高圧側圧力室341に波及する。
【0056】
第2の実施形態では、第1の実施形態における(1),(2),(6)〜(9)と同様の効果が得られる。
次に、図8の第3の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。
【0057】
差圧式流量検出手段60Bを構成する区画体35Bは、収容室34Bを高圧側圧力室341Bと低圧側圧力室342Bとに区画しており、低圧側圧力室342Bには圧縮ばね37Bが収容されている。圧縮ばね37Bは、区画体35Bをリング形状の位置決め座66に向けて付勢しており、高圧側圧力室341Bは、ガスケット31を貫通する高圧導入通路50Bを介して貯油室48に連通している。低圧側圧力室342Bは、マフラー形成部材30に形成された低圧導入通路301Bを介してマフラー室33に連通している。区画体35Bに止着された永久磁石351は、高圧側圧力室341B内の圧力と低圧側圧力室342B内の圧力との差圧が大きくなるほど、磁気検出器38に近づく。オイルフィルタ63は、通路49と貯油室48との接続部に設けられている。
【0058】
第3の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
本発明では以下のような実施形態も可能である。
○油分離室で分離された油を吸入圧領域へ還流してもよい。
【0059】
○オイルセパレータとしては、冷媒旋回用筒41の周りで冷媒を旋回させる方式のオイルセパレータ39以外にも、通路方向を急激に変える油分離室(例えば、U字形状に反転する通路状室、蛇行形状の通路状室等)内で冷媒の進行方向を急激に変えて油分離を行なうオイルセパレータを用いてもよい。
【0060】
○前記した実施形態ではシリンダブロック11の台座29にマフラー形成部材30がガスケット31を介して連結されているが、フロントハウジング12の外周面もしくはリヤハウジング13の外周面にマフラー形成部材30が連結されていてもよい。あるいは、シリンダブロック11、フロントハウジング12及びリヤハウジング13のうち、2部材以上に跨った外周面にマフラー形成部材30が連結されていてもよい。
【0061】
○マフラー形成部材30から熱交換器54に至る間の外部冷媒回路51上にオイルセパレータを介在し、このオイルセパレータの前後の差圧を差圧式流量検出手段60に導入するようにしてもよい。この場合にも、差圧式流量検出手段60は、圧縮機における冷媒流量を検出することになる。
【0062】
○外部冷媒回路51と吸入室131との間に通路形成部材を設けると共に、可変容量型圧縮機のハウジングと通路形成部材との間にガスケットを介在し、通路形成部材に差圧式流量検出手段を設けてもよい。この場合の差圧式流量検出手段は、外部冷媒回路51から吸入室131へ流入する冷媒流量を検出する。
【0063】
○固定容量型の圧縮機に本発明を適用してもよい。
前記した実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
〔1〕圧縮機のハウジング内と外部冷媒回路とを繋ぐ冷媒通路の一部を形成する通路形成部材が前記ハウジングの外面に連結されており、前記差圧式流量検出手段が前記通路形成部材に設けられている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の圧縮機における冷媒流量検出構造。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1の実施形態を示す可変容量型圧縮機全体の側断面図。
【図2】(a)は、部分拡大側断面図。(b)は、図2(a)のB−B線断面図。
【図3】図1のA−A線断面図。
【図4】図2のC−C線断面図。
【図5】図2のD−D線断面図。
【図6】図2のE−E線断面図。
【図7】第2の実施形態を示す部分側断面図。
【図8】第3の実施形態を示す部分側断面図。
【符号の説明】
【0065】
10…可変容量型圧縮機。11…ハウジングとしてのシリンダブロック。121…吐出圧領域以外の圧力領域である制御圧室。131…吸入圧領域である吸入室。132…吐出圧領域である吐出室。27…供給通路。28…放出通路。301,301B…低圧導入通路。34,34B…収容室。341,341B…高圧側圧力室。342,342B…低圧側圧力室。35,35B…区画体。39,39A…オイルセパレータ。42…油分離室。48…貯油室。50,50B…高圧導入通路。51…外部冷媒回路。52…冷媒通路。53…逆止弁。58…上流側通路。59…下流側通路。60,60B…差圧式流量検出手段。64,64A…導油通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒通路が高圧の上流側通路と低圧の下流側通路とに区分けされており、前記上流側通路内の圧力と前記下流側通路内の圧力とを拾って前記冷媒通路内の冷媒流量を検出する差圧式流量検出手段が備えられており、前記差圧式流量検出手段は、収容室にスライド可能に収容された区画体と、前記区画体によって隔てられた高圧側圧力室と低圧側圧力室とを備えており、前記上流側通路内の圧力が前記高圧側圧力室に導入され、前記下流側通路内の圧力が前記低圧側圧力室に導入される圧縮機における冷媒流量検出構造において、
前記上流側通路内の冷媒から油を分離する油分離室を有すると共に、前記冷媒通路を前記上流側通路と前記下流側通路とに区分けするオイルセパレータと、
前記油分離室に連通し、且つ前記オイルセパレータによって分離された油を吐出圧領域以外の圧力領域へ導く導油通路と、
前記導油通路を介して前記上流側通路内の圧力を前記高圧側圧力室に導入する高圧導入通路とを備えた圧縮機における冷媒流量検出構造。
【請求項2】
前記オイルセパレータよりも下流に逆止弁がある請求項1に記載の圧縮機における冷媒流量検出構造。
【請求項3】
前記下流側通路内の圧力を前記低圧側圧力室に導入する低圧導入通路が前記逆止弁よりも下流の前記下流側通路に接続されている請求項2に記載の圧縮機における冷媒流量検出構造。
【請求項4】
前記導油通路は、貯油室を有し、前記高圧導入通路は、前記貯油室に接続されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の圧縮機における冷媒流量検出構造。
【請求項5】
前記吐出圧領域以外の圧力領域に向かう油と前記高圧導入通路に向かう油とを共に濾過するオイルフィルタが導油通路に設けられている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の圧縮機における冷媒流量検出構造。
【請求項6】
前記圧縮機は、供給通路を介して吐出圧領域の冷媒が制御圧室に供給されると共に、放出通路を介して前記制御圧室の冷媒が吸入圧領域に放出されて前記制御圧室内の圧力が調整され、前記制御圧室内の圧力調整によって吐出容量が制御される可変容量型圧縮機である請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の圧縮機における冷媒流量検出構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−107282(P2008−107282A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292493(P2006−292493)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】