説明

圧縮機

【課題】動力損失をより低減可能な圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機において、隔壁25、27には第1室5bと第2室24とを連通するポート23bが貫設され、ポート23bはリード弁29aにより開閉される。リード弁29aは、隔壁25、27の第1面27fに固定された固定部291aと、固定部291aから第1方向D1に延びてリフトする根元部292aと、根元部292aから第1方向D1に延びてポート23bを開閉する弁部293aとからなる。第1面27fには、ポート23bを少なくとも第1方向D1の外側で囲いつつ根元部292aに重なる範囲まで延びる第1溝部27aが凹設される。ポート23bを閉じた状態の弁部293aを平面視した場合、弁部293aにおける第1方向D1の外側を向く外縁293eは、第1溝部27aにおける第1方向D1の内側を向く内縁27eと一致するか、又は内縁27eに対し第1方向D1の内側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の圧縮機が公知である(例えば、特許文献1)。この圧縮機では、吐出室と圧縮室との間に弁板が設けられ、この弁板には吐出室と圧縮室とを連通可能な吐出ポートが貫設されている。吐出ポートは吐出室内に位置する吐出リード弁によって開閉されるようになっている。また、その弁板は圧縮室と吸入室との間にも位置し、この弁板には圧縮室と吸入室とを連通可能な吸入ポートも貫設されている。吸入ポートは圧縮室内に位置する吸入リード弁によって開閉されるようになっている。
【0003】
吐出リード弁は、弁板の吐出室側の面に固定された固定部と、固定部から第1方向に延びてリフト可能な根元部と、根元部から第1方向に延びて吐出ポートを開閉する弁部とからなる。弁板の吐出室側の面には、吐出ポート全周を囲う環状である溝部が凹設されている。
【0004】
吐出リード弁と同様、吸入リード弁は、弁板の圧縮室側の面に固定された固定部と、固定部から第1方向に延びてリフト可能な根元部と、根元部から第1方向に延びて吸入ポートを開閉する弁部とからなる。吸入リード弁が延びる方向は吐出リード弁と同一である必要はない。弁板の圧縮室側の面には、吸入ポート全周を囲う環状である溝部が凹設されている。吐出リード弁又は吸入リード弁が吐出ポート又は吸入ポートを閉じた状態において、弁部の外縁は溝部側にはみ出している。
【0005】
この種の圧縮機では、吐出室内の圧力と圧縮室内の圧力との差又は圧縮室内の圧力と吸入室内の圧力との差が0を超えた時から直ちにポートを開放するのが理想である。しかし、実機のように潤滑油がある場合には、図23のように、リード弁81の開きを妨げる方向に密着力Sが作用するため、圧力差による力Fが密着力Sに打ち勝つまではリード弁81はポート82を開かない。このとき、吐出弁のボア内圧は図24のようになる。この現象は過圧縮(オーバーコンプレッション)と呼ばれ、動力損失となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−117867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の圧縮機に対しては、省エネルギーの観点から動力損失のさらなる低減が求められている。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、動力損失をより低減可能な圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を解決するため、従来の圧縮機について詳細に分析した結果、リード弁の開き遅れに着目した。なぜなら、吐出リード弁に開き遅れが生じれば循環冷媒の過圧縮を生じ、吸入リード弁に開き遅れが生じれば循環冷媒の吸入圧損を生じ、いずれも圧縮機の動力損失に繋がるからである。
【0010】
そして、発明者らは以下の圧縮機で下記現象を確認した。この圧縮機では、図25(A)〜(C)に示すように、弁板90に平面視で円形の吐出ポート90aと、吐出ポート90aと同心の溝部90bとが形成されている。吐出ポート90aは圧縮室と吐出室とを連通可能になっている。また、吐出リード弁92は、弁板90に固定された固定部92aと、固定部92aから延びてリフト可能な根元部92bと、根元部92bから延びて吐出ポート90aを開閉する弁部92cとからなる。弁板90には、他の公知技術として、吐出リード弁92の根元部92bを幅方向で跨ぐ溝部90cも形成されている。
【0011】
この圧縮機においては、吐出リード弁92が吐出ポート90aを開き始めると、図25(B)に示すように、弁板90と、弁部92cにおける根元部92bから離れた外縁とが最初に離反して隙間が形成され、この隙間内に潤滑油が流れ込む。このため、弁板90と、弁部92cにおける根元部92bから離れた外縁との間に密着力が作用して、弁部92cの離反を妨げるので、弁部92が遅れて開いた。
【0012】
この弁部92cの開き遅れの原因をより詳しく解明するため、弁板90と、弁部92cにおける根元部92bから離れた外縁との間の圧力を、油膜挙動を表すレイノズル方程式から計算した。結果を図25(D)に示す。同図より明らかなように、弁板90と、弁部92cにおける根元部92bから離れた外縁との間においては、潤滑油の油膜圧力が作用する。この油膜圧力は、周囲の圧力に比べて負圧となる。発明者らは、この作用を「逆スクイーズ作用」と呼んでいる。
【0013】
なお、「逆スクイーズ作用」とは、発明者らの造語である。そもそも、一般に、スクイーズ膜効果(絞り膜効果)と呼ばれる作用[平行なすきまが速度Vで減少する場合には、流体は粘性があるためにすきまから押し出されるのに抵抗し、圧力(粘性係数と速度Vに比例)が発生する。]が知られており、この効果は2面が近づく際の理論であるが、本件のように2面が離れる(速度の項がマイナス(負)となる)場合にも適用でき、これを「逆スクイーズ作用」(負のスクイーズ作用)とした。
【0014】
また、この圧縮機においては、弁板90と、弁部92cにおける根元部92bから離れた外縁とが離反して、吐出ポート90aが開き始めた後も、図25(C)に示すように、弁板90と、根元部92bとが離反して隙間が形成され、この隙間内にも潤滑油が流れ込む。このため、弁板90と、根元部92bとの間にも密着力が作用して、根元部92bがその密着力によって踏ん張ってしまい、吐出ポート90a付近の弁部92cと比べ、根元部92bが遅れて開いた。
【0015】
この根元部92bの開き遅れの原因をより詳しく解明するため、弁板90と、根元部92bとの間(溝部90b、90c間)の圧力を上述の方程式から計算した。結果を図25(E)に示す。同図より明らかなように、弁板90と、根元部92bとの間においても、潤滑油の油膜圧力が作用して、周囲の圧力に比べて負圧となる。すなわち、逆スクイーズ作用が働く。
【0016】
発明者らは、逆スクイーズ作用により、隔壁と、弁部及び根元部との間に潤滑油の密着力が作用して、リード弁の開き遅れが生じ易くなってしまう現象を解決すべく鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の圧縮機は、第1室と第2室との間に隔壁が設けられ、該隔壁には該第1室と該第2室とを連通可能なポートが貫設され、該ポートはリード弁によって開閉され、
該リード弁は、該隔壁の該第1室側の面である第1面に固定された固定部と、該固定部から第1方向に延びてリフト可能な根元部と、該根元部から該第1方向に延びて該ポートを開閉する弁部とからなる圧縮機において、
前記第1面には、前記ポートを少なくとも前記第1方向の外側で囲い、該ポートを閉じた状態の前記リード弁を平面視した場合、前記根元部と重なる範囲まで延在する第1溝部が凹設されており、
該ポートを閉じた状態の前記弁部を平面視した場合、該弁部における該第1方向の外側を向く外縁は、該第1溝部における該第1方向の内側を向く内縁と一致しているか、又は該内縁に対して該第1方向の内側に位置していることを特徴とする(請求項1)。
【0018】
本発明の圧縮機では、弁部における第1方向の外側を向く外縁が第1溝部側にはみ出さない。このため、リード弁がポートを閉じた状態において、弁部の外縁は、第1溝部に溜まった潤滑油とは接触し難い。
【0019】
この圧縮機では、第2室の圧力上昇あるいは第1室の圧力降下により、リード弁がポートを開き始めると、隔壁の第1面と、弁部における第1方向の外側を向く外縁とが離反して形成された隙間において、溝部に溜まった潤滑油は、弁部の外縁に接触し難いので、弁部の外縁を伝って、その隙間に流れ込み難い。その結果、隙間への潤滑油の供給が絶たれ、隔壁の第1面と弁部との間では逆スクイーズ作用が弱まり、潤滑油の密着力が低減する。このため、この圧縮機は、隔壁の第1面と弁部とが離間するタイミングを早めることができる。
【0020】
そして、隔壁の第1面と弁部とが離間した隙間から冷媒ガスが潤滑油と混合された混相の噴流となって噴出し始めると、その噴流の一部は、第1溝部に流入し、第1溝部に沿って進む。そうすると、その噴流は、第1溝部における根元部と重なる範囲まで到達して、根元部と第1面との間に介在する潤滑油の密着力を弱め、根元部を持ち上げる。このため、この圧縮機は、隔壁の第1面と根元部とが離間するタイミングを早めることができる。
【0021】
これらにより、この圧縮機は、リード弁の開き遅れを抑制できる。吐出リード弁の開き遅れを抑制することにより、循環冷媒の過圧縮が生じ難くなる。また、吸入リード弁の開き遅れを抑制することにより、循環冷媒の吸入圧損が生じ難くなる。
【0022】
したがって、本発明の圧縮機は、動力損失をより低減できる。また、この圧縮機では、吐出リード弁の開き遅れを抑制することにより吐出脈動を小さくでき、吸入リード弁の開き遅れを抑制することにより吸入脈動を小さくできるので、いずれの場合も、圧縮機の静粛性を向上させることができる。さらに、この圧縮機では、過圧縮の低減により、加振力、軸受負荷及びピストンサイドフォース等が低減する傾向となるので、機械損失を減らしたり、摩耗を抑制したりすることができる。その結果、省動力化や信頼性の向上を図ることができる。
【0023】
第1面には、ポートに対して第1方向の内側で、根元部を幅方向で跨ぐ第2溝部が凹設されていることが好ましい(請求項2)。この場合、リード弁がポートを閉じた状態において、根元部に異物が噛み込まれるのを防止する。
【0024】
第1面には、ポートを閉じた状態のリード弁を平面視した場合、根元部と重なる範囲で第1方向に延びて第1溝部と第2溝部とを連通させる連通溝と、連通溝に隣接して第1方向に延びて根元部と当接する当接部とが形成されていることが好ましい(請求項3)。上述した通り、リード弁がポートを開き始めると、冷媒ガス及び潤滑油からなる混相の噴流が噴出するが、第1溝部における根元部と重なる範囲では潤滑油が溜まり易い。この点、連通溝を形成することにより、噴流が第1溝部から連通溝及び第2溝部を介して、リード弁の幅方向外側に吐出されるので、第1溝部に溜まった潤滑油を吹き飛ばすことができるとともに、第1面と根元部との間に溜まった潤滑油及び第2溝部に溜まった潤滑油をも吹き飛ばすことができる。また、連通溝の分だけ第1面と根元部とが密着する面積が減る。このため、この圧縮機は、第1面と根元部とが離間するタイミングを一層早めることができ、その結果として、本発明の作用効果を確実に奏することができる。
【0025】
連通溝及び当接部の具体例としては、1本の連通溝が根元部の幅方向(第1方向の直交方向)中央に形成され、その連通溝の両側に一対の当接部が形成される構成が挙げられる。この簡素な構成によれば、連通溝により、第1、2溝部に溜まった潤滑油や、第1面と根元部との間に溜まった潤滑油を効果的に吹き飛ばすことができるとともに、一対の当接部により、根元部を確実に支持できる。なお、複数本の連通溝が形成される構成もあり得る。
【0026】
ポートを平面視した場合、ポートの形状は、円形に限定されず、楕円形や多角形であり得る。
【0027】
第1溝部は、ポートを少なくとも第1方向の外側で囲うものであれば、どのような形状でもかまわない。例えば、第1溝部は、略「C」字状であり得る。略「C」字状とは、円弧形状だけでなく、折れ線状に屈曲する形状が含まれる。
【0028】
第1溝部は、ポート全周を囲う環状であることが好ましい(請求項4)。この場合、リード弁がポートを閉じた状態において、根元部と、第1溝部における第1方向の内側を向く円弧部分とがより広い範囲で重なる。このため、この重なる面積の分だけ、第1面と根元部とが密着する面積が減る。また、リード弁が開く際、冷媒ガス及び潤滑油からなる混相の噴流が環状の第1溝部に沿って進み、根元部の幅方向中央まで到達する。そして、その噴流は、根元部と第1面との間に介在する潤滑油を吹き飛ばして油膜を断ち切ることができる。このため、リード弁の開き遅れを低減させる。
【0029】
ポートと第1溝部とに挟まれた環状の領域は第1面と面一の弁座面とされ、弁座面の一部には、弁座面の残部よりも面粗度が大きく、かつポート側から第1溝部に向けて延在する粗面部が形成され得る(請求項5)。この場合、リード弁がポートを開き始めると、弁部と、弁座面に形成された粗面部との間のオイルシールが早期に切れて、その箇所で冷媒ガスの噴流が誘起される。このため、この圧縮機は、弁部と弁座面とが離間するタイミングを早めることができる。また、弁座面の全面について面粗度を大きくすると、長期間の使用により表面の微小な凹凸が全体的に摩耗してしまうのに対して、弁座面の一部に粗面部を形成することにより、粗面部の微小な凹凸の摩耗を抑制できる。このため、粗面部は、冷媒ガスの噴流を誘起する作用を長期間に亘って安定的に発揮できる。
【0030】
粗面部は、例えば、ショットブラスト加工等により形成される。弁座面における粗面部の位置は、車体に組み付けられた圧縮機の姿勢等に応じて、適宜設定することが好ましい。
【0031】
根元部及び弁部を平面視した場合、根元部は長辺が第1方向の外側に延びる長方形をなし、弁部の外縁は、根元部の短辺を直径とし、第1溝部と同心の半円弧であることが好ましい(請求項6)。発明者らはこのリード弁において本発明の効果を確認した。また、このリード弁は、単純な形状となるので、製造コストの低廉化を図ることができる。
【0032】
上記の場合において、ポートは平面視で円形であり、第1溝部及び弁部の外縁はポートと同心であることが好ましい(請求項7)。発明者らはこのポート等において本発明の効果を確認した。また、この場合、弁部の外縁が第1溝部側にはみ出さないようにリード弁を位置決めする作業が容易になる。
【0033】
本発明の圧縮機では、第1室が吐出室であり、第2室が圧縮室であり、ポートが吐出ポートであり、リード弁が吐出リード弁であり得る(請求項8)。また、本発明の圧縮機では、第1室が圧縮室であり、第2室が吸入室であり、ポートが吸入ポートであり、リード弁が吸入リード弁であり得る(請求項9)。
【0034】
圧縮機は、斜板式圧縮機、スクロール型圧縮機、ベーン型圧縮機等、種々のものであり得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1の圧縮機の縦断面図である。
【図2】実施例1の圧縮機に係り、吐出リード弁が吐出ポートを開いた状態を示す要部拡大断面図である。
【図3】実施例1の圧縮機に係り、弁板と、複数の吐出リード弁が形成された吐出弁板とを抜き出して示す平面図である。
【図4】実施例1の圧縮機に係り、吐出リード弁が吐出ポートを閉じた状態を示す要部拡大断面図である(吐出リード弁及び弁板のみを図示する)。
【図5】実施例1の圧縮機に係り、図4の矢視V方向から吐出リード弁及び吐出ポートを見た要部拡大平面図である。
【図6】実施例1の圧縮機に係り、吐出リード弁が吐出ポートを閉じた状態における第1溝部内の潤滑油の状態を示す説明図である。
【図7】実施例1の圧縮機に係り、吐出リード弁が吐出ポートを開き始めた状態における第1溝部内の潤滑油の状態を示す説明図である。
【図8】比較例の圧縮機に係り、吐出リード弁が吐出ポートを閉じた状態を示す要部拡大断面図である(吐出リード弁及び弁板のみを図示する)。
【図9】比較例の圧縮機に係り、図8の矢視IX方向から吐出リード弁及び吐出ポートを見た要部拡大平面図である。
【図10】比較例の圧縮機に係り、吐出リード弁が吐出ポートを閉じた状態における第1溝部内の潤滑油の状態を示す説明図である。
【図11】比較例の圧縮機に係り、吐出リード弁が吐出ポートを開き始めた状態における第1溝部内の潤滑油の状態を示す説明図である。
【図12】実施例2の圧縮機に係り、図4の矢視V方向から吐出リード弁及び吐出ポートを見た要部拡大平面図である。
【図13】実施例3の圧縮機に係り、吐出リード弁が吐出ポートを閉じた状態を示す要部拡大断面図である(吐出リード弁及び弁板のみを図示する)。
【図14】実施例3の圧縮機に係り、図4の矢視V方向から吐出リード弁及び吐出ポートを見た要部拡大平面図である。
【図15】実施例3の圧縮機に係り、冷媒ガス及び潤滑油からなる混相の噴流の流れ方を説明する説明図である。
【図16】実施例3の圧縮機に係り、(a)は時間と圧縮室内の圧力との関係を、実施例1(図5参照)及び比較例(図9参照)の圧縮機と比較して示す示すグラフであり、(b)は時間と吐出リード弁の変位(吐出ポートの中心軸線上の変位)との関係を、実施例1(図5参照)及び比較例(図9参照)の圧縮機と比較して示すグラフである。
【図17】実施例4の圧縮機に係り、図4の矢視V方向から吐出リード弁及び吐出ポートを見た要部拡大平面図である。
【図18】変形例の圧縮機に係り、吐出リード弁等の要部拡大平面図である。
【図19】変形例の圧縮機に係り、吐出リード弁等の要部拡大平面図である。
【図20】変形例の圧縮機に係り、吐出リード弁等の要部拡大平面図である。
【図21】変形例の圧縮機に係り、吐出リード弁等の要部拡大平面図である。
【図22】変形例の圧縮機に係り、吐出リード弁等の要部拡大平面図である。
【図23】リード弁に作用する密着力等を説明するための断面図である。
【図24】圧縮機の時間とボア内圧との関係を示すグラフである。
【図25】従来の圧縮機に係り、図(A)は要部平面図、図(B)及び(C)は要部拡大断面図、図(D)及び(E)は油膜圧力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を具体化した実施例1〜4を図面を参照しつつ説明する。
【0037】
(実施例1)
実施例1の圧縮機は容量可変型斜板式圧縮機である。この圧縮機は、図1に示すように、シリンダブロック1に複数個のシリンダボア1aが同心円状に等角度間隔でそれぞれ平行に形成されている。シリンダブロック1は、前方に位置するフロントハウジング3と後方に位置するリヤハウジング5とに挟持され、この状態で複数本のボルト7によって締結されている。シリンダブロック1とフロントハウジング3とによって内部にクランク室9が形成されている。リヤハウジング5には吸入室5aと吐出室5bとが形成されている。
【0038】
フロントハウジング3には軸孔3aが形成され、シリンダブロック1には軸孔1bが形成されている。軸孔3a、1bには軸封装置9a及びラジアル軸受9b、9cを介して駆動軸11が回転可能に支承されている。駆動軸11には図示しないプーリ又は電磁クラッチが設けられており、プーリ又は電磁クラッチのプーリには車両のエンジンによって駆動される図示しないベルトが巻き掛けられている。
【0039】
クランク室9内では、駆動軸11にラグプレート13が圧入されており、ラグプレート13とフロントハウジング3との間にはスラスト軸受15が設けられている。また、駆動軸11には斜板17が挿通されている。ラグプレート13と斜板17とは、斜板17を傾角変動可能に支持するリンク機構19によって接続されている。
【0040】
各シリンダボア1a内にはピストン21が往復動可能に収納されている。シリンダブロック1とリヤハウジング5との間には弁ユニット23が設けられている。この圧縮機の弁ユニット23は、図2に拡大して示すように、シリンダブロック1の後端面と当接される吸入弁板25と、吸入弁板25と当接される弁板27と、弁板27と当接される吐出弁板29と、吐出弁板29と当接されるリテーナ板31とからなる。リテーナ31はガスケットを兼ねている。これら吸入弁板25、弁板27、吐出弁板29及びリテーナ板31がこの順で積層されることにより弁ユニット23が構成されている。
【0041】
図1に示すように、斜板17と各ピストン21との間には前後で対をなすシュー33a、33bが設けられており、各対のシュー33a、33bによって斜板17の揺動運動が各ピストン21の往復動に変換されるようになっている。
【0042】
クランク室9と吸入室5aとは抽気通路35aによって接続されており、クランク室9と吐出室5bとは図示しない給気通路によって接続されている。給気通路には図示しない容量制御弁が設けられている。この容量制御弁は、吸入圧力に応じて給気通路の開度を変更できるようになっている。圧縮機の吐出室5bには配管によって凝縮器が接続され、凝縮器は膨張弁を介して蒸発器が配管によって接続され、蒸発器は配管によって圧縮機の吸入室5aに接続されている。シリンダボア1a、ピストン21及び弁ユニット23によって各圧縮室24が形成されている。
【0043】
弁板27、吐出弁板29及びリテーナ板31には、吸入室5aと圧縮室24とを連通させる吸入ポート23aが形成されている。吸入弁板25には、吸入ポート23aを開閉する吸入リード弁25aが形成されている。
【0044】
図2〜図4に示すように、吸入弁板25及び弁板27には、圧縮室24と吐出室5bとを連通させる吐出ポート23bが形成されている。吐出弁板29には、吐出ポート23bを開閉する吐出リード弁29aが形成されている。リテーナ板31には、各吐出リード弁29aのリフト長を規制するリテーナ31aが形成されている。本実施例では、吐出弁板29は、図3に示すように、円形部分と、その円形部から半径方向外側に放射状に底長く延びる複数の延出部分とからなる形状とされており、各延出部分が吐出リード弁29aとされて吐出ポート23bを開閉するようになっている。
【0045】
図2〜5に示すように、吐出ポート23bは平面視で円形であり、弁板27の吐出室5b側の面である第1面27fには、吐出ポート23bの全周を囲う円環状である第1溝部27aが凹設されている。第1溝部27aは吐出ポート23bと同心である。第1面27fにおいて、吐出ポート23bと第1溝部27aとに挟まれた円環状の領域は、第1溝部27aより外側と面一の弁座面(めがね部ともいう。)27bとなっている。
【0046】
この圧縮機においては、第1室が吐出室5bであり、第2室は圧縮室24であり、吸入弁板25及び弁板27が隔壁である。
【0047】
図2及び図4に示すように、吐出リード弁29aは、弁板27の第1面27fに固定された固定部291aと、固定部291aから第1方向D1に延びてリフト可能な根元部292aと、根元部292aから第1方向D1に延びて吐出ポート23bを開閉する弁部293aとからなる。本実施例では、第1方向D1は、第1面27fと平行、かつ駆動軸11の半径方向外側である。
【0048】
図5に示すように、根元部292a及び弁部293aを平面視した場合、根元部292aは長辺が第1方向D1の外側に延びる長方形をなしている。弁部293aにおける第1方向D1の外側を向く外縁293eは、根元部292aの短辺を直径とし、吐出ポート23b及び第1溝部27aと同心の半円弧とされている。図5において、外縁293eの範囲は、両矢線P1で示す範囲である。外縁293eの半円弧の直径は、第1溝部27aにおける第1方向D1の内側を向く内縁27eの直径と同一とされている。内縁27eの範囲は、外縁293eと同様に、両矢線P1で示す範囲である。弁部293aが吐出ポート23bを閉じた状態では、外縁293eは、内縁27eと一致している。言い換えれば、外縁293eは、第1溝部27a側にはみ出さない。
【0049】
図2〜5に示すように、第1面27fには、吐出ポート23bに対して第1方向D1の内側で、根元部292aを幅方向で跨ぐ第2溝部27cが凹設されている。図5に示すように、第2溝部27cを平面視した場合、第2溝部27cの形状は、第1方向D1に直交する細長い長円形とされている。
【0050】
以上のように構成された圧縮機では、駆動軸11が回転駆動されることにより、ラグプレート13及び斜板17が駆動軸11と同期回転し、斜板17の傾斜角に応じたストロークで各ピストン21が各シリンダボア1a内を往復動する。このため、吸入室5a内の循環冷媒は、各圧縮室24に吸入されて圧縮され、吐出室5bに吐出される。圧縮機が圧縮作用を行う循環冷媒にはミスト状の潤滑油が含まれている。この潤滑油は、各ピストン21、各シュー33a、33b及び斜板17等の摺動部分に介在してそれらの摩耗を抑制する。また、潤滑油は、第1溝部27a及び第2溝部27c内にも溜まる。
【0051】
この間、図2に示すように、吐出室5b内の圧力と圧縮室24内の圧力との差により、吐出リード弁29aが根元部292aで弾性変形し、弁部293aで吐出ポート23bを開く。図4に示すように、圧力差が根元部292aの密着力に打ち勝つまでは弁部293aは吐出ポート23bを開かない。
【0052】
ここで、上述した構成である実施例1の圧縮機では、弁部293aの外縁293eが第1溝部27a側にはみ出さない。このため、図6に拡大して示すように、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを閉じた状態において、弁部293aの外縁293eは、第1溝部27aに溜まった潤滑油40とは接触し難い。
【0053】
この圧縮機では、図7に示すように、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを開き始めると、まず、弁座面27bと、弁部293aの外縁293eとが離反して隙間が形成される。この際、第1溝部27aに溜まった潤滑油40は、弁部293aの外縁293eに接触し難いので、外縁293eを伝って、その隙間に流れ込みにくい。その結果、弁座面27bと弁部293aの外縁293e側との間への潤滑油の供給が絶たれ、逆スクイーズ作用による負圧が弱まり、弁座面27bと弁部293aの外縁293e側との間に潤滑油40の密着力(図7において、矢印S1で示す。)が低減する。このため、この圧縮機は、弁座面27bと、弁部293aの外縁293e側とが離間するタイミングを早めることができる。
【0054】
そして、弁座面27bと、弁部293aの外縁293e側とが離間した隙間から冷媒ガスが潤滑油と混合された混相の噴流となって噴出し始めると、図5に示すように、その噴流の一部は、第1溝部27aに流入し、第1溝部27aに沿って進む。そうすると、その噴流は、第1溝部27aにおける根元部292aと重なる範囲(図5に示す第1方向D1の内側を向く円弧部分27g)まで到達して、根元部292aと第1面27fとの間に介在する潤滑油の密着力を弱め、根元部292aを持ち上げる。このため、この圧縮機は、第1面27fと根元部292aとが離間するタイミングを早めることができる。
【0055】
これらにより、この圧縮機は、吐出リード弁29aの開き遅れを抑制できる。この現象は、発明者らが吐出リード弁29a及び吐出ポート23bの可視化モデルを製作して高速度ビデオカメラで観察した結果、確認されている。こうして、この圧縮機では、吐出リード弁29aの開き遅れを抑制することにより、循環冷媒の過圧縮が生じ難くなる
【0056】
ここで、比較例の圧縮機として、図8及び図9に示すように、実施例1の圧縮機の吐出リード弁29aのみを、吐出リード弁29bに変更したものを用意して、同一条件における循環冷媒の過圧縮の程度を比較した。まず、比較例を図8〜11を参照しつつ説明する。
【0057】
図8及び図9に示すように、吐出リード弁29bは、弁板27の第1面27fに固定された固定部291bと、固定部291bから第1方向D1に延びてリフト可能な根元部292bと、根元部292bから第1方向D1に延びて吐出ポート23bを開閉する弁部293bとからなる。
【0058】
図9に示すように、根元部292b及び弁部293bを平面視した場合、根元部292bは長辺が第1方向D1の外側に延びる長方形をなしている。根元部292bの幅は、実施例1の根元部292aの幅と比較して、若干狭くされている。
【0059】
弁部293bは、根元部292bの幅より大きな直径を有する円が根元部292bと連続する形状とされている。弁部293bにおける第1方向D1の外側を向く外縁293fは、吐出ポート23b及び第1溝部27aと同心の半円弧とされている。図9において、外縁293fの範囲は、両矢線P1で示す範囲である。外縁293fの半円弧の直径は、第1溝部27aにおける第1方向D1の内側を向く内縁27eの直径より大きくされている。弁部293bが吐出ポート23bを閉じた状態では、外縁293fは、内縁27eに対して第1方向D1の外側に位置している。言い換えれば、外縁293fは、第1溝部27a側にはみ出している。
【0060】
ここで、上述した構成である比較例の圧縮機では、弁部293bの外縁293fが第1溝部27a側にはみ出している。このため、図10に拡大して示すように、吐出リード弁29bが吐出ポート23bを閉じた状態において、弁部293bの外縁293fは、第1溝部27aに溜まった潤滑油40に接触している。
【0061】
この圧縮機では、図11に示す吐出リード弁29bと吐出ポート23bとの間に数μm程度の薄い油膜が形成され、両者がシールされている。圧縮室24内の圧力が吐出室5b内の圧力より大きくなると、吐出リード弁29bが吐出ポート23bを開き始める。すると、まず弁座面27bと弁部293bの外縁293fとの隙間が増加するとともに、前記の油膜の圧力も低下する。この際、第1溝部27aに溜まった潤滑油40は、弁部293bの外縁293fに接触しているので、第1溝部27a側にはみ出した外縁293fを伝って、その隙間に容易に流れ込んでしまう。その結果、弁座面27bと弁部293bとの間に潤滑油40の密着力(図11において、矢印S2で示す。)が作用して、吐出リード弁29bの開き遅れが生じ易くなってしまう。この現象も、発明者らが吐出リード弁29b及び吐出ポート23bの可視化モデルを製作して高速度ビデオカメラで観察した結果、確認されている。
【0062】
上記構成である比較例の圧縮機と実施例1の圧縮機とについて、同一の試験条件における循環冷媒の過圧縮の程度を測定した。なお、比較例の圧縮機では、根元部292bの幅を実施例1とほぼ同じにしている。これにより、比較例の吐出リード弁29bの第1面27fに対する密着面積と、実施例1の吐出リード弁29aの第1面27fに対する密着面積とをほぼ同一に設定している。
【0063】
その結果、比較例の圧縮機の模型試験では、循環冷媒の過圧縮の程度を示すΔp(MPa)が0.058MPaであった。これに対して、実施例1の圧縮機の模型試験では、Δp(MPa)が0.050MPaであり、比較例に対して循環冷媒の過圧縮の程度が減少した。
【0064】
また、比較例の圧縮機において、弁部293bの直径は殆ど変化させないままで、根元部292bの幅を増減させた。言い換えれば、第1溝部27a側に外縁293fがはみ出した状態のままで、吐出リード弁29bの第1面27fに対する密着面積を増減させた。そして、比較例の圧縮機について、同一の試験条件における循環冷媒の過圧縮の程度を測定した。その結果、測定されたΔp(MPa)は、0.06MPa近傍で比例的に増減するだけであった。
【0065】
これらの試験結果から、実施例1の圧縮機は、従来技術と比較して、循環冷媒の過圧縮が生じ難くなっていることが明らかである。
【0066】
したがって、実施例1の圧縮機は、動力損失をより低減できる。さらに、この圧縮機では、圧縮室24内のピーク圧力を低減できるので、最大圧縮荷重が低減されることにより、スラスト軸受、シューとピストンとの座面、シューと斜板との摺動面等の信頼性が増す。また、この圧縮機では、吐出リード弁29aの開き遅れを抑制することにより吐出脈動を小さくできるので、圧縮機の静粛性を向上させることもできる。
【0067】
また、この圧縮機においては、第1溝部27aは、図5に示すように、吐出ポート23bの全周を囲う円環状である。このため、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを閉じた状態において、根元部292aと、第1溝部27aにおける第1方向D1の内側を向く円弧部分27g(図5に示す。)とが広い範囲で重なる。このため、この重なる面積の分だけ、第1面27fと根元部292aとが密着する面積が減る。また、リード弁29bが開く際、冷媒ガス及び潤滑油からなる混相の噴流が環状の第1溝部27aに沿って進み、根元部292aの幅方向中央まで到達する。そして、その噴流は、根元部292aと第1面27fとの間に介在する潤滑油40を吹き飛ばして油膜を断ち切ることができる。このため、リード弁29aの開き遅れを低減できる。
【0068】
さらに、この圧縮機においては、根元部292a及び弁部293aを平面視した場合、根元部292aは長辺が第1方向D1の外側に延びる長方形をなしている。弁部293aの外縁293eは、根元部292aの短辺を直径とし、第1溝部27aと同心の半円弧とされている。吐出リード弁29aをこのように単純な形状としているので、この圧縮機は製造コストの低廉化を図ることができる。
【0069】
また、この圧縮機においては、吐出ポート23bは平面視で円形であり、第1溝部27a及び弁部293aの外縁293eは吐出ポート23bと同心である。このため、弁部293aの外縁293eが第1溝部27a側にはみ出さないように吐出リード弁29aを位置決めする作業が容易になっている。
【0070】
さらに、この圧縮機においては、図4及び図5に示すように、第1面27fに第2溝部27cが凹設されている。このため、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを閉じた状態において、根元部292aに異物が噛み込まれるのを防止する。
【0071】
(実施例2)
実施例2の圧縮機は、図12に示すように、実施例1の圧縮機の吐出ポート23bを吐出ポート223bに変更し、吐出リード弁29aを吐出リード弁229aに変更したものである。その他の構成は、実施例1の圧縮機と同一である。このため、同一の構成については同一の符号を付して、説明を省略又は簡略する。
【0072】
吐出ポート223bは、平面視で角の丸い三角形であり、弁板27の第1面27fには、吐出ポート223bの全周を囲う環状である第1溝部227aが凹設されている。第1溝部27aも平面視で角の丸い三角形である。また、第1溝部27aは吐出ポート23bと同心かつ相似である。第1面27fにおいて、吐出ポート223bと第1溝部227aとに挟まれた環状の領域は、第1溝部227aより外側と面一の弁座面227bとなっている。弁座面227bも平面視で角の丸い三角形である。
【0073】
吐出リード弁229aは、弁板27の第1面27fに固定された固定部291cと、固定部291cから第1方向D1に延びてリフト可能な根元部292cと、根元部292cから第1方向D1に延びて吐出ポート223bを開閉する弁部293cとからなる。
【0074】
根元部292c及び弁部293cを平面視した場合、根元部292cは長辺が第1方向D1の外側に延びる長方形をなしている。弁部293cにおける第1方向D1の外側を向く外縁293gは、角の丸い三角形の2辺であり、第1溝部227aにおける第1方向D1の内側を向く内縁227eと一致している。図12において、外縁293g及び内縁227eの範囲は、両矢線P2で示す範囲である。言い換えれば、外縁293eは、第1溝部27a側にはみ出さない。
【0075】
根元部292cと、第1溝部227aにおける第1方向D1の内側を向く直線部分227gとは重なっている。
【0076】
このような構成である実施例2の圧縮機も、実施例1の圧縮機の同様の作用効果を奏することができる。
【0077】
(実施例3)
実施例3の圧縮機は、図13及び図14に示すように、実施例1の圧縮機に、連通溝301と、当接部302a、302bとを追加したものである。その他の構成は、実施例1の圧縮機と同一である。このため、同一の構成については同一の符号を付して、説明を省略又は簡略する。
【0078】
連通溝301は、第1面27fにおいて、第1溝部27aと第2溝部27cを連通させる溝である。図14に示すように、吐出ポート23bを閉じた状態の吐出リード弁29aを平面視した場合、連通溝301は、根元部292aよりも狭い幅で、根元部292aの幅方向中央を第1方向D1に延びている。連通溝301の深さは、第1溝部27a及び第2溝部27cの深さより浅くてもよい。本実施例では、連通溝301は、扁平な矩形断面形状とされ、深さが0.1mm程度とかなり浅くされている。
【0079】
一対の当接部302a、302bは、第1面27fにおいて、連通溝301の幅方向両側に位置し、かつ吐出ポート23bを閉じた状態の吐出リード弁29aを平面視した場合、根元部292aと重なる部分である。すなわち、当接部302a、302bは、連通溝301に隣接して第1方向D1に延びており、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを閉じる際に、連通溝301の幅方向両側で根元部292aと当接して、根元部292aを第1面27f上で支持するようになっている。本実施例では、連通溝301の幅は、根元部292aの幅に対して50%から75%程度として、当接部302a、302bが根元部292aを確実に支持できるようにしている。
【0080】
このような構成である実施例3の圧縮機も、実施例1、2の圧縮機の同様の作用効果を奏することができる。
【0081】
さらに、この圧縮機には、連通溝301と、当接部302a、302bとが形成されている。このため、図15に示すように、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを開き始めると、冷媒ガス及び潤滑油からなる混相の噴流の一部が第1溝部27aに流入し、第1溝部27aに沿って進む。そして、第1溝部27aにおける根元部292aと重なる範囲(円弧部分27g)まで到達すると、連通溝301を介して、第2溝部27cに導かれる。また、吐出ポート23bがさらに開くと、全方位に噴流が噴出されるが、根元部292aに向かう噴流は、連通溝301を介して、第2溝部27cに導かれる。このため、その重なる範囲(円弧部分27g)に溜まった潤滑油を吹き飛ばすことができる。
【0082】
そして、噴流は、連通溝301から第2溝部27cに到達すると、根元部292aを跨ぐ第2溝部27cに沿って、吐出リード弁29aの幅方向外側に吐出される。このため、第1面27fと根元部292aとの間に溜まった潤滑油や、第2溝部27cに溜まった潤滑油をも吹き飛ばすことができる。また、連通溝301の分だけ第1面27fと根元部292aとが密着する面積が減る。このため、この圧縮機は、第1面27fと根元部292aとが離間するタイミングを一層早めることができ、その結果として、本発明の作用効果を確実に奏することができる。
【0083】
ここで、実施例3の圧縮機の模型試験についての試験結果を図16(a)及び(b)に示す。あわせて、実施例1(図5参照)及び比較例(図9参照)の圧縮機についての比較試験の結果も図16(a)及び(b)に示す。図16(a)は、時間と圧縮室24内の圧力との関係を示し、図16(b)は、時間と吐出リード弁29aの変位(吐出ポート23bの中心軸線上の変位)との関係を示している。また、図16(a)及び(b)において、時間軸上のT0は、圧縮室24内の圧力と吐出室5b内の圧力との差が0となる時点を示している。
【0084】
まず、従来技術である比較例(図9参照)の圧縮機について説明する。比較例の圧縮機では、吐出リード弁29bの変位(図16(b)において一点鎖線LC2で示す。)は、図11に示す密着力S2が作用することにより、時間TC1までは開き遅れの状態となっている。
【0085】
そして、時間TC1の時点において、弁部293bが密着力S2に抗して弁座面27bとから離反すると、吐出リード弁29bが吐出ポート23bを開き始める。しかしながら、根元部292aと第1面27fとの間に溜まった潤滑油による密着力が作用するので、吐出リード弁29bは遅れながら変位して、時間TC2の時点で吐出ポート23bの変位が最大となる。このため、圧縮室24内の圧力(図16(a)において一点鎖線LC1で示す。)は、時間T0から時間TC1まで上昇した後、時間TC2までの間に圧力上昇が頭打ちになる。そして、時間TC2から後は圧力が低下する。比較例の圧縮機における過圧縮の圧力を図16(a)にC3で示す。
【0086】
次に、実施例1(図5参照)の圧縮機について説明する。実施例1の圧縮機では、吐出リード弁29aの変位(図16(b)において破線LB2で示す。)は、図7を示して説明したように、弁部293aにおける密着力S1が低減するので、比較例と比較して開き遅れの状態が大幅に短縮されて、時間TC1より早い時間TB1まで開き遅れの状態となっている。
【0087】
そして、時間TB1の時点において、弁部293aが弁座面27bから離反すると、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを開き始める。しかしながら、比較例の場合と同様に、根元部292aと、円弧部分27g及び第1面27fとの間に溜まった潤滑油による密着力が作用するので、吐出リード弁29bは遅れながら変位して、時間TB2の時点で吐出ポート23bの変位が最大となる。このため、圧縮室24内の圧力(図16(a)において破線LB1で示す。)は、時間TB2までの間に圧力上昇が頭打ちになる。そして、時間TB2から後は圧力が低下する。実施例1の圧縮機における過圧縮の圧力を図16(a)にC2で示す。
【0088】
次に、実施例3の圧縮機について説明する。実施例3の圧縮機では、吐出リード弁29aの変位(図16(b)において実線LA2で示す。)は、実施例1の場合と同様に、図7に示す密着力S1が低減するので、比較例と比較して開き遅れの状態が大幅に短縮されて、時間TC1より早い時間TA1まで開き遅れの状態となっている。
【0089】
そして、時間TA1の時点において、弁部293aが弁座面27bとから離反すると、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを開き始める。ここで、実施例3の場合、冷媒ガス及び潤滑油からなる混相の噴流が第1溝部27a、連通溝301及び第2溝部27cを介して、吐出リード弁29aの幅方向外側に吐出される。このため、円弧部分27gに溜まった潤滑油、第1面27fと根元部292aとの間に溜まった潤滑油及び第2溝部27cに溜まった潤滑油を吹き飛ばすことができる。また、連通溝301の分だけ第1面27fと根元部292aとが密着する面積が減る。このため、比較例及び実施例1の場合と異なり、根元部292aと、円弧部分27g及び第1面27fとの間で潤滑油による密着力が低減するので、吐出リード弁29bは急速に変位して、時間TB2、TC2よりかなり早い時間TA2の時点で吐出ポート23bの変位が最大となる。このため、圧縮室24内の圧力(図16(a)において実線LA1で示す。)は、時間T0から時間TA2まで上昇した後、すぐに圧力が低下する。実施例3の圧縮機における過圧縮の圧力を図16(a)にC1で示す。過圧縮の圧力は、比較例、実施例1、実施例3の順番に低減されている(C3>C2>C1)。
【0090】
上述の試験結果から、実施例1、3の圧縮機は、比較例の圧縮機と比較して、開き遅れを抑制できており、過圧縮が生じ難くなっていることが明らかである。特に、実施例3の圧縮機は、実施例1の圧縮機と比較しても、著しく開き遅れを抑制できている。
【0091】
なお、時間TB1の方が時間TA1よりも早い理由は、以下のように推測する。実施例1では、第1面27fと根元部292aとの密着面積が大きく、この部分の密着力が大きいために、開き始めるタイミングでは弁部293aに変形が集中して、開き始めるタイミングが早まる。それに対し、実施例3では、第1面27fと根元部292aとの密着面積が小さく、この部分の密着力が小さいために、根元部292aから弁部293aまでが全体的に持ち上がるような変形となり、弁部293aの局所的な変形が緩和されることにより、開き始めるタイミングが実施例1より遅くなる。
【0092】
(実施例4)
実施例4の圧縮機は、図17に示すように、実施例3の圧縮機に、粗面部401a、401bを追加したものである。その他の構成は、実施例3の圧縮機と同一である。このため、同一の構成については同一の符号を付して、説明を省略又は簡略する。
【0093】
粗面部401a、401bは、弁座面27bにおいて、第1方向D1の外側及び内側に部分的に形成された面粗度が大きい領域である。本実施例では、粗面部401a、401bは、弁座面27bの一部にショットブラスト加工することにより形成されており、吐出ポート23b側から第1溝部27a側まで延在している。
【0094】
このような構成である実施例4の圧縮機も、実施例1〜3の圧縮機の同様の作用効果を奏することができる。
【0095】
さらに、この圧縮機では、吐出リード弁29aが吐出ポート23bを開き始めると、弁部293aと、弁座面27bの残部との間のオイルシールと比較して、弁部293aと、弁座面27bの粗面部401a、401bとの間のオイルシールが早期に切れる。このため、弁座面27bの粗面部401a、401bが形成された箇所で冷媒ガスの噴流が誘起される。このため、この圧縮機は、弁部293aと弁座面27bとが離間するタイミングを早めることができる。また、弁座面27bの全面について面粗度を大きくすると、長期間の使用により表面の微小な凹凸が全体的に摩耗してしまうのに対して、弁座面27bの一部に粗面部401a、401bを形成することにより、粗面部401a、401bの微小な凹凸の摩耗を抑制できる。このため、粗面部401a、401bは、冷媒ガスの噴流を誘起する作用を長期間に亘って安定的に発揮できる。
【0096】
なお、弁座面27bにおける粗面部401a、401bの配置は本実施例に制限されず、車体に組み付けられた圧縮機の姿勢等に応じて、冷媒ガスの噴流が誘起され易い箇所に適宜設定されることが好ましい。
【0097】
本発明に係る第1面及びリード弁としては、上記趣旨に沿う限り、種々の形状を採用できる。例えば、図18に示すように、吐出リード弁29aを跨いだ第2溝部27cの両側から第1溝部27aに向かって延びる第3溝部51を凹設することも可能である。両第3溝部51は、互いに平行であり、吐出リード弁29aの根元部292aに沿っている。
【0098】
また、図19に示すように、吐出リード弁29aから露出している第1溝部27aから第2溝部27cに向かって延びる第3溝部52を凹設することも可能である。両第3溝部52も、互いに平行であり、吐出リード弁29aの根元部292aに沿っている。
【0099】
さらに、図20に示すように、吐出リード弁29aを跨ぎ、第1溝部27aから第2溝部27cまで繋がる第3溝部53を凹設することも可能である。両第3溝部53も、互いに平行であり、吐出リード弁29aの根元部292aに沿っている。
【0100】
また、図21に示すように、固定部291aが弁部293aよりも幅広の吐出リード弁54を採用し、この吐出リード弁54を跨ぎ、第1溝部27aから第2溝部27cまで繋がる第3溝部53aを凹設することも可能である。両第3溝部53aは、互いに平行ではないが、吐出リード弁54の根元部292aに沿っている。
【0101】
さらに、図22に示すように、実施例1の円環状の第1溝部27aの代わりに、C字形状である第1溝部427aを採用してもよい。この場合、第1溝部427aは、吐出ポート23bを閉じた状態の吐出リード弁29aを平面視した場合、根元部292aと重なる範囲(一対の短い円弧部分27m、27n)まで延在している。
【0102】
以上において、本発明を実施例1〜4に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜4に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0103】
例えば、弁部293a、293cが吐出ポート23b、223bを閉じることが可能な範囲で、弁部293a、293cの外縁293e、293gを内縁27e、227eに対して第1方向D1の内側に位置させてもよい。
【0104】
第1溝部27a、227aの内縁27e、227eと弁座面27b、227bとの間の稜線に丸め処理や面取りが施されている場合、外縁293e、293gを丸め処理や面取りに対して第1方向D1の内側に位置させることがより好ましい。
【0105】
本発明は、図2における吐出室5bを圧縮室24に置き換えて第1室とし、図2における圧縮室24を吸入室5aに置き換えて第2室とし、図2における吐出ポート23bを吸入ポート23aに置き換えてポートとし、図2における吐出リード弁29aを吸入リード弁25aに置き換えてリード弁とした構成の圧縮機として具体化され得る。この圧縮機は、吸入リード弁25aの開き遅れを抑制できるので、循環冷媒の吸入圧損が生じ難くなる。したがって、この圧縮機も、動力損失をより低減できる。また、この圧縮機では、吸入リード弁25aの開き遅れを抑制することにより吸入脈動を小さくできるので、圧縮機の静粛性を向上させることができる。なお、この場合には図2に示されるリテーナ板31が除かれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は車両用空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0107】
5b、24…第1室(5b…吐出室、24…圧縮室)
24、5a…第2室(24…圧縮室、5a…吸入室)
25、27…隔壁(25…吸入弁板、27…弁板)
23b、23a…ポート(23b…吐出ポート、23a…吸入ポート)
29a、25a、54…リード弁(29a、54…吐出リード弁、25a…吸入リード弁)
27f…第1面
291a、291c…固定部
D1…第1方向
292a、292c…根元部
293a、293c…弁部
27a、227a…第1溝部
293e、293g…弁部における第1方向の外側を向く外縁
27e、227e…第1溝部における第1方向の内側を向く内縁
27c…第2溝部
27b…弁座面
301…連通溝
302a、302b…当接部
401a、401b…粗面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1室と第2室との間に隔壁が設けられ、該隔壁には該第1室と該第2室とを連通可能なポートが貫設され、該ポートはリード弁によって開閉され、
該リード弁は、該隔壁の該第1室側の面である第1面に固定された固定部と、該固定部から第1方向に延びてリフト可能な根元部と、該根元部から該第1方向に延びて該ポートを開閉する弁部とからなる圧縮機において、
前記第1面には、前記ポートを少なくとも前記第1方向の外側で囲い、該ポートを閉じた状態の前記リード弁を平面視した場合、前記根元部と重なる範囲まで延在する第1溝部が凹設されており、
該ポートを閉じた状態の前記弁部を平面視した場合、該弁部における該第1方向の外側を向く外縁は、該第1溝部における該第1方向の内側を向く内縁と一致しているか、又は該内縁に対して該第1方向の内側に位置していることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記第1面には、前記ポートに対して前記第1方向の内側で、前記根元部を幅方向で跨ぐ第2溝部が凹設されている請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
前記第1面には、前記ポートを閉じた状態の前記リード弁を平面視した場合、前記根元部と重なる範囲で前記第1方向に延びて前記第1溝部と前記第2溝部とを連通させる連通溝と、該連通溝に隣接して該第1方向に延びて前記根元部と当接する当接部とが形成されている請求項2記載の圧縮機。
【請求項4】
前記第1溝部は、前記ポート全周を囲う環状である請求項1乃至3のいずれか1項記載の圧縮機。
【請求項5】
前記ポートと前記第1溝部とに挟まれた環状の領域は前記第1面と面一の弁座面とされ、該弁座面の一部には、該弁座面の残部よりも面粗度が大きく、かつ該ポート側から該第1溝部に向けて延在する粗面部が形成されている請求項4記載の圧縮機。
【請求項6】
前記根元部及び前記弁部を平面視した場合、前記根元部は長辺が前記第1方向の外側に延びる長方形をなし、前記外縁は、該根元部の短辺を直径とし、前記第1溝部と同心の半円弧である請求項4又は5記載の圧縮機。
【請求項7】
前記ポートは平面視で円形であり、前記第1溝部及び前記外縁は該ポートと同心である請求項6記載の圧縮機。
【請求項8】
前記第1室が吐出室であり、前記第2室が圧縮室であり、前記ポートが吐出ポートであり、前記リード弁が吐出リード弁である請求項1乃至7のいずれか1項記載の圧縮機。
【請求項9】
前記第1室が圧縮室であり、前記第2室が吸入室であり、前記ポートが吸入ポートであり、前記リード弁が吸入リード弁である請求項1乃至7のいずれか1項記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−169077(P2010−169077A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178785(P2009−178785)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】