説明

圧電アクチュエータ及びその製造方法

【課題】PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)圧電体層の圧電定数を大きくでき、圧電性を向上させた圧電アクチュエータを提供する。
【解決手段】圧電アクチュエータはキャパシタ構造をなしており、単結晶シリコン基板1、酸化シリコン層2、Ti密着層3、PtO下部電極層4、PZT圧電体層5及びPt上部電極層6を積層して形成されている。下部電極層4のPtOの組成比mは0.6以上、PZT圧電体層5のZrTi1−xの組成比xは0.43〜0.55である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を含む圧電アクチュエータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Pb、Zr、Tiの各元素を含む酸化化合物であるチタン酸ジルコン酸鉛Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT)は優れた圧電性を有し、これを利用したPZT圧電体層は、アクチュエータとして用いたMEMS素子、センサとして用いたMEMS素子、発電素子、ジャイロ素子等に用いられる。
【0003】
従来の圧電アクチュエータの製造方法においては、スパッタリング法によって形成されたPt下部電極層上にPZT圧電体層を形成する。たとえば、このPZT圧電体層の形成方法として圧力勾配型プラズマガンを用いたアーク放電イオンプレーティング(ADRIP)法がある(参照:特許文献1)。このADRIP法は、スパッタリング法に比較してPZT圧電体層の堆積速度が大きいという利点を有し、また、有機金属化学的気相成長(MOCVD)法に比較して基板温度が低く、製造コストが低く、有毒な有機金属ガスを用いないので、対環境性がよく、また、原料の利用効率がよいという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−234331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来の圧電アクチュエータの製造方法においては、下部電極層の材料が最適化されていないので、PZT圧電体層の圧電定数が小さく、圧電性が未だ不充分であるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明に係る圧電アクチュエータは、組成比mのPtmOよりなる下部電極層と、下部電極層上に設けられた組成比xのPbZrxTi1-xO3よりなる圧電体層とを具備し、組成比mは0.6以上であり、組成比xは範囲0.43〜0.55であるものである。
【0007】
また、本発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、スパッタリング法によってガス流量比O2/Arを制御して組成比mのPtmOよりなる下部電極層を形成する工程と、アーク放電イオンプレーティング法によってPb蒸発量、Zr蒸発量及びTi蒸発量を制御して下部電極層上に組成比xのPbZrxTi1-xO3よりなる圧電体層を形成する工程とを具備し、組成比mは0.6以上であり、組成比xは範囲0.43〜0.55であるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下部電極層のPtmOの組成比mも最適化できると共に圧電体層のPbZrxTi1-xの組成比xも最適化できるので、圧電体層の圧電定数を大きくでき、従って、圧電性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る圧電アクチュエータを示す断面図である。
【図2】図1の圧電アクチュエータの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】図2のスパッタリング処理ステップ202におけるPtmO下部電極層のPtmOの組成比mに対する圧電定数特性を示すグラフである。
【図4】図3のO2/Arガス流量比に対するPtmOの組成比特性を示すグラフである。
【図5】図3のO2/Arガス流量比に対する圧電定数特性を示すグラフである。
【図6】図2のADRIP処理ステップ203に用いられるADRIP装置を示す図である。
【図7】図2のADRIP処理ステップ203におけるPZT圧電体層のZrxTi1-xの組成比xに対する圧電定数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明に係る圧電アクチュエータを示す断面図である。図1の圧電アクチュエータはキャパシタ構造をなしており、単結晶シリコン基板1、酸化シリコン層2、Ti密着層3、PtmO下部電極層4、PZT圧電体層5及びPt上部電極層6を積層して形成されている。尚、単結晶シリコン基板1はシリコンオンインシュレータ(SOI)基板に置換し得る。また、下部電極層4のPtmOはPZT圧電体層5の成膜温度約500℃以上に耐えられる材料である。さらに、Ti密着層3は酸化シリコン層2とPtmO下部電極層4との密着性が悪いのでこれらの間に設けたものである。この密着層3はTiO2、MgO、ZrO2、IrO2等の導電性酸化物を用いてもよい。
【0011】
図1の圧電アクチュエータの製造方法を図2のフローチャートを参照して説明する。
【0012】
始めに、ステップ201を参照すると、単結晶シリコン基板1を熱酸化して酸化シリコン層2を形成する。尚、熱酸化処理の代りにCVD法を用いてもよい。
【0013】
次に、ステップ202を参照すると、酸化シリコン層2上にスパッタリング法によってTi密着層3を形成する。引き続いて、Ti密着層3上にスパッタリング法によってPtmO下部電極層4を形成する。PtmO下部電極層4の形成については、後述する。
【0014】
次に、ステップ203を参照すると、PtmO下部電極層4上にADRIP法によってPZT圧電体層5を形成する。このPZT圧電体層5の形成については、後述する。
【0015】
最後に、ステップ204を参照すると、PZT圧電体層5上にスパッタリング法によってPt上部電極層6を形成する。
【0016】
尚、ステップ202、204におけるスパッタリング法の代りに、電子ビーム(EB)蒸着法、ADRIP法を用いてもよい。
【0017】
図3は図2のスパッタリング処理ステップ202におけるPtmO下部電極層4のPtmOの組成比mに対する圧電定数-k31の特性を示すグラフである。尚、圧電定数-k31は圧電アクチュエータにおいてPtmO下部電極層4とPt上部電極層6との間に駆動電圧を印加した場合に圧電アクチュエータの表面に平行な方向へのPZT圧電体層5の伸縮量を表わす良い性能指標となる圧電定数であり、圧電アクチュエータの先端変位量から計算することができる。また、PtmOの組成比mはX線光電子分光(XPS)法を用いて分析される。
【0018】
図3に示すように、PtmOの組成比mが0.6付近で大きく変化し、m≧0.6では-d31=100pmV程度以上となり、m<0.6では-d31=50pmV程度以下となる。特に、m=0.92では-d31=140pmVと大きくなる。従って、PtmOの組成比mがm≧0.6となるように、スパッタリング法におけるアルゴン(Ar)ガスのチャンバ内に導入する際に、Arガスの一部に酸素(O2)ガスを導入すればよい。すなわち、スパッタリング法におけるガス流量比O2/Arは、図4に示すごとく、PtmOの組成比mに関係し、従って、図5に示すごとく、圧電定数-k31に関係する。この結果、スパッタリング法におけるガス流量比O2/Arをたとえば0.05〜0.3付近に制御することにより圧電定数-k31=60pm/V程度以上が得られる。尚、図3、図4、図5においては、PZT圧電体層5におけるZrxTi1-xの組成比xは0.43〜0.55の範囲にあるものとする。
【0019】
次に、図2のADRIP処理ステップ203に用いられるADRIP装置を図6を参照して説明する(参照:特許文献1の図1)。
【0020】
図6において、真空チャンバ601内の下方側に、Pb、Zr、Tiを独立に蒸発させるためのPb蒸発源602−1、Zr蒸発源602−2、Ti蒸発源602−3が設けられる。真空チャンバ601内の上方側に、ウェハ603aを載置するためのヒータ付ウェハ回転ホルダ603が設けられる。
【0021】
また、真空チャンバ601の上流側には、アーク放電を維持するために不活性ガスたとえばArガスを導入する圧力勾配型プラズマガン604及びPZT圧電体層5の酸素原料となる酸素(O2)ガスを導入するO2ガス導入口605が設けられる。他方、真空チャンバ601の下流側には、真空ポンプ(図示せず)に接続された排気口606が設けられる。
【0022】
図6のADRIP装置においては、圧力勾配型プラズマガン604によって導入されたArガス及びO2ガス導入口によって導入されたO2ガスの高密度、低電子温度のアーク放電プラズマ607が発生し、真空チャンバ601内に多量の酸素ラジカルを主とする活性原子、分子が生成される。他方、Pb蒸発源602−1、Zr蒸発源602−2及びTi蒸発源602−3より発生したPb蒸気、Zr蒸気及びTi蒸気が上述の活性原子、分子と反応し、所定温度たとえば約500℃に加熱されたウェハ603a上に付着し、この結果、組成比xのPbZrxTi1-xO3が形成されることになる。
【0023】
図7に示すように、PtmOの組成比m=Pt/O≧0.6の場合、m=Pt/O<0.6の場合より、圧電定数-d31が大きく、しかも、PZT圧電体層5のZrxTi1-xの組成比xが範囲0.43〜0.55の場合に圧電定数-d31が大きいことが分かる。たとえば、ZrxTi1-xの組成比x=0.5とすれば、圧電定数-k31は最大値となる。つまり、図6に示すADRIP装置において、Pb蒸発源602−1のPb蒸発量、Zr蒸発源602−2のZr蒸発量及びTi蒸発源602−3のTi蒸発量を制御してPbZrxTi1-xの組成比が1:x:1-x= 1:0.5:0.5となるようにし、これにより、圧電定数-k31は最大値約120pm/Vとなる。
【0024】
尚、ステップ202におけるPtmO下部電極層4をADRIP法によって形成する場合には、Pb蒸発源602−1、Zr蒸発源602−2及びTi蒸発源602−3の代りに、Pt蒸発源を設け、圧力勾配型プラズマガン604のArガスとO2ガス導入口605のO2ガスとの比を制御することによりPtmOを形成する。
【0025】
また、PtmOは密着層が酸化金属の場合は、密着層を成膜中に酸素ガスを導入して酸化金属とし、その後、Ptをスパッタすることで酸素が酸化金属からPtに拡散されることで得られる。さらに、密着層を酸化金属としなくてもPt成膜中に酸素ガスを導入することで得られる。
【符号の説明】
【0026】
1:単結晶シリコン基板
2:酸化シリコン層
3:Ti密着層
4:PtmO下部電極層
5:PZT圧電体層
6:Pt上部電極層
601:真空チャンバ
602−1:Pb蒸発源
602−2:Zr蒸発源
602−3:Ti蒸発源
603:ヒータ付ウェハ回転ホルダ
603a:ウェハ
604:圧力勾配型プラズマガン
605:O2ガス導入口
606:排気口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成比mのPtmOよりなる下部電極層と、
該下部電極層上に設けられた組成比xのPbZrxTi1-xO3よりなる圧電体層と
を具備し、
前記組成比mは0.6以上であり、
前記組成比xは範囲0.43〜0.55である
圧電アクチュエータ。
【請求項2】
スパッタリング法によってガス流量比O2/Arを制御して組成比mのPtmOよりなる下部電極層を形成する工程と、
アーク放電イオンプレーティング法によってPb蒸発量、Zr蒸発量及びTi蒸発量を制御して前記下部電極層上に組成比xのPbZrxTi1-xO3よりなる圧電体層を形成する工程と
を具備し、
前記組成比mは0.6以上であり、
前記組成比xは範囲0.43〜0.55である
圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
前記スパッタリング法の代りに、電子ビーム蒸着法を用いた請求項2に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記スパッタリング法の代りに、アーク放電イオンプレーティング法を用いた請求項2に記載の圧電アクチュエータの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−129226(P2012−129226A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276596(P2010−276596)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】