説明

圧電セラミック電子部品の製造方法

【課題】低温で焼結させても所望の圧電特性を有する圧電セラミック電子部品を得ることができ、低コスト化を図ることのできるようにした。
【解決手段】少なくともPb化合物、Mn化合物、Nb化合物、Zr化合物及びTi化合物を含むセラミック素原料を、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるように調合し、焼結後の主成分が一般式Pb{(Mn,Nb),Zr,Ti}Oで表されるセラミック原料粉末を作製する原料作製工程と、前記セラミック原料粉末を成形加工してセラミック成形体を作製する成形工程と、酸素分圧が0.25Pa以下の還元雰囲気下で前記セラミック成形体を焼成する焼成工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電セラミック電子部品の製造方法に関し、より詳しくは圧電発振子、圧電トランス、超音波モータ、圧電フィルタ等の高い機械的品質係数が要求される圧電セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、強誘電体のPbTiOと反強誘電体のPbZrOとの固溶体からなるPb(Zr,Ti)O(以下、「PZT」と記す。)を主成分としたセラミック材料は、圧電セラミック電子部品に広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一般式(α・Pb-β・Me){(Mn1/3Nb2/3ZrTi}O(但し、MeはSr、Ba、及びCaから選択される少なくとも1種)で表わされ、Pb成分の含有mol量α、Me成分の含有mol量β、Mn1/3Nb2/3成分の含有mol量x、Zr成分の含有mol量y、Ti成分の含有mol量zを、夫々0.985≦α≦1.055、0.000≦β≦0.100、0.045≦x≦0.200、0.290≦y≦0.425、0.475≦z≦0.580、(但し、x+y+z=1)に設定し、さらに、重量%で、0.155%〜0.500%のMn酸化物、0.000%〜0、010%のCr酸化物、及び0.000%〜0.090%のSi酸化物を夫々含んだ圧電体磁器組成物の製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、PZT系圧電体磁器組成物において、Zr及びTiの一部をMn及びNbで置換することにより、機械的品質係数Qmの向上を図っている。そして、これにより圧電トランス、超音波モータ、圧電フィルタ等、高い機械的品質係数Qmが要求される圧電セラミック電子部品に適した圧電体磁器組成物を得ている。
【0005】
また、特許文献2には、一般式Pb(Mn1/3Nb2/3)TiZr(以下、「PMN−PZT」と記す。)で表される主成分に、副成分として前記主成分100重量%に対してMnを0.3〜0.8重量%添加した圧電磁器組成物が提案されている。
【0006】
特許文献2では、PMN−PZT系材料に所定量のMnを添加し、これにより耐熱性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−128462号公報
【特許文献2】特開2000−103674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この種の圧電セラミック電子部品では、近年、高性能化、小型化が進んでおり、圧電セラミック素体の内部に内部電極を形成した積層型が広く普及している。そして、斯かる積層型の場合、セラミック層と導電層とを交互に積層し、導電層とセラミック層とを共焼成して製造することが広く行われている。
【0009】
このように共焼成して圧電セラミック電子部品を製造する場合、内部電極材料としては、材料コストの面からCu、又はPd含有量の低いAg−Pd合金を使用するのが望ましい。
【0010】
しかしながら、特許文献1、2のように主成分としてPMN−PZT系材料を使用した圧電セラミック電子部品は、高い機械的品質係数Qmを有するものの、焼結性に劣り、1100℃以上の高温で焼成しなければならなかった。このため内部電極材料として、融点の低い安価なCuを使用することができず、また、Ag−Pd合金を使用する場合であっても、高融点のPdが30重量%以上含まれた高価なAg−Pd合金を使用せざるを得ず、高コスト化を招いていた。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、低温で焼結させても所望の圧電特性を有する圧電セラミック電子部品を得ることができ、低コスト化を図ることのできる圧電セラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
機械的品質係数Qmを向上させるためには、PZT系材料にMnを固溶させるのが有効であることが知られている。
【0013】
そこで、本発明者は、PZTにMn、Nbを固溶させ、かつ種々の焼成条件で鋭意研究を行なった。その結果、焼結後のPMN−PZTにおいて、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるように調合し、得られた原料粉末を成形加工し、その成形体を酸素分圧POが0.25Pa以下の還元雰囲気で焼成することにより、焼結性が向上し、良好な圧電特性を維持しつつ1050℃未満の低温で焼結させることができるという知見を得た。
【0014】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る圧電セラミック電子部品の製造方法は、少なくともPb化合物、Mn化合物、Nb化合物、Zr化合物及びTi化合物を含むセラミック素原料を、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるように調合し、焼結後の主成分が一般式Pb{(Mn,Nb),Zr,Ti}で表されるセラミック原料粉末を作製する原料作製工程と、前記セラミック原料粉末を成形加工してセラミック成形体を作製する成形工程と、酸素分圧が0.25Pa以下の還元雰囲気下で前記セラミック成形体を焼成する焼成工程とを含むことを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る圧電セラミック電子部品の製造方法は、Cu、及びPdの含有量が10重量%以下のAg−Pd合金のうちのいずれかを一方の導電性材料を主成分とする導電性ペーストを作製する導電性ペースト作製工程と、前記セラミック成形体に前記導電性ペーストを塗布して導電膜を形成する導電膜形成工程と、前記導電膜の形成されたセラミック成形体を積層する積層工程とを含み、前記焼成工程は、前記積層されたセラミック成形体を焼成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
上記圧電セラミック電子部品の製造方法によれば、少なくともPb化合物、Mn化合物、Nb化合物、Zr化合物及びTi化合物を含むセラミック素原料を、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるように調合し、焼結後の主成分が一般式Pb{(Mn,Nb),Zr,Ti}で表されるセラミック原料粉末を作製する原料作製工程と、前記セラミック原料粉末を成形加工してセラミック成形体を作製する成形工程と、酸素分圧が0.25Pa以下の還元雰囲気下で前記セラミック成形体を焼成する焼成工程とを含むので、所望の良好な圧電特性を維持しつつ、1050℃未満の低温で焼結させることが可能となる。
【0017】
また、Cu、及びPdの含有量が10重量%以下のAg−Pd合金のうちのいずれかを一方の導電性材料を主成分とする導電性ペーストを作製する導電性ペースト作製工程と、前記セラミック成形体に前記導電性ペーストを塗布して導電膜を形成する導電膜形成工程と、前記導電膜の形成されたセラミック成形体を積層する積層工程とを含み、前記焼成工程は、前記積層されたセラミック成形体を焼成するので、CuやPdの含有量が10重量%以下のAg−Pd合金とセラミック成形体とを低温で共焼成することが可能となる。したがって、内部電極材料として、安価なCuや、高価なPdの含有量が10重量%以下の比較的安価なAg−Pd合金を使用して共焼成を行うことができ、製品の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の製造方法を使用して作製された圧電セラミック電子部品としての圧電発振子の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】実施例で作製した試料番号1〜5の焼成温度と焼結密度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0020】
図1は、本発明の製造方法を使用して作製された圧電セラミック電子部品としての圧電発振子の一実施の形態を示す断面図である。
【0021】
この圧電発振子は、圧電セラミック素体1に内部電極2が埋設されると共に、該圧電セラミック素体1の表面には外部電極3、4が形成されている。
【0022】
圧電セラミック素体1は、2個の圧電セラミック1a、1bを有している。内部電極2は、圧電セラミック素体1bの過半分の表面を覆いかつ一端が表面露出するように形成されると共に、該内部電極2及び圧電セラミック素体1b上に圧電セラミック1aが積層され、一体化されている。そして、一方の外部電極3は、内部電極2と電気的に接続されるように圧電セラミック素体1の一方の側面部に形成されている。また、他方の外部電極4は、一部が前記内部電極2と対向状となるように両主面上に形成されると共に、両主面間は他方の側面部を介して電気的に接続されるように形成されている。
【0023】
そして、セラミック素体1は矢印P方向に分極されており、外部電極3、4間に電圧を印加することにより、内部電極2と外部電極4との間に電界が発生し、厚み縦振動モードの2次高調波を使用した圧電発振子として機能する。
【0024】
そして、上記圧電セラミック素体1は、ペロブスカイト構造を有するPMN−PZT系材料で形成されている。また、内部電極2は、1050℃以下で焼結可能な低融点金属材料、例えば、CuやPdの含有量が10重量%以下のAg−Pd合金で形成されている。
【0025】
次に、上記圧電発振子の製造方法を説明する。
【0026】
(1)原料粉末作製工程
セラミック素原料として、Pbを含有したPb化合物、Mnを含有したMn化合物、Nbを含有したNb化合物、Zrを含有したZr化合物、及びTiを含有したTi化合物を用意する。
【0027】
そして、焼結後のPMN−PZTにおいて、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるような組成比となるように、上記セラミック素原料を秤量する。すなわち、比α/βの理論化学量論比は0.50であるが、比α/βが0.50又は0.50未満になり、Nbに対するMnの固溶量が少なくなると、焼結性が低下し、1050℃未満の低温での焼結が困難となる。また、比α/βが0.50を超える場合には耐熱性の向上を期待できる。このため、主成分であるPMN−PZTにおいて、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるように、各セラミック素原料を秤量する。
【0028】
次いで、これらの秤量物を部分安定化ジルコニア等の粉砕媒体が内有されたボールミルに投入し、純水やエタノール等を溶剤として十分に湿式混合処理を行ない、脱水した後、大気雰囲気下、温度800℃〜1000℃で仮焼し、セラミック原料粉末を得る。
【0029】
(2)成形工程
このセラミック原料粉末を解砕した後、ポリビニルアルコール樹脂などの有機バインダを添加し、再び粉砕媒体の内有されたボールミルに投入して十分に湿式で粉砕し、スラリーを作製する。
【0030】
次いで、このスラリーにドクターブレード法等の成形加工を行い、セラミックグリーンシートを作製する。
【0031】
次に、例えばCu、又はPdの含有量が10重量%以下に調製されたAg−Pd等の低融点材料を主成分とした導電性ペーストを用意する。そして、前記セラミックグリーンシートの一部に前記導電性ペーストを塗布して導電層を形成した後、該セラミックグリーンシートの上面に導電層の形成されていないセラミックグリーンシートを積層し、圧着してセラミック成形体を作製する。
【0032】
(3)焼成工程
このセラミック成形体を酸素分圧POが0.25Pa以下の還元雰囲気下、1050℃未満の低温で焼成する。そしてこれにより内部電極2が埋設されると共に、Mn及びNbがPZTのBサイト((Zr,Ti)サイト)に固溶し、PMN−PZTを主成分としたセラミック焼結体が作製される。
【0033】
ここで、焼成雰囲気を酸素分圧POが0.25Pa以下の還元雰囲気で行ったのは以下の理由による。
【0034】
PMN−PZT(Pb((Mn,Nb),Zr,Ti)O)は、Mn2+がBサイトに固溶することでペロブスカイト構造を形成する。しかるに、酸化マンガンは、大気中ではMn3+やMn4+の方が安定に存在するため、大気雰囲気で焼成したのでは、Bサイトに固溶し難い。このため、所望の圧電特性を有する焼結性の良好なセラミック焼結体を得るためには、高温での焼成が必要となる。
【0035】
これに対し還元雰囲気下で焼成した場合は、Mn3+やMn4+がMn2+に還元されるため、MnをPMN−PZTのBサイトに容易に固溶させることができ、これにより低温焼成が可能となる。
【0036】
ただし、酸素分圧POが0.25Paを超えている場合は、Cu等の低融点の卑金属材料は耐酸化性に劣るため、共焼成した場合に内部電極材料が酸化されてしまうおそれがある。
【0037】
このため、酸素分圧POが0.25Pa以下の還元雰囲気で共焼成する必要がある。
【0038】
(4)外部電極形成工程
このセラミック焼結体の両主面にAgやCuをターゲットにしてスパッタリングし、分極処理用電極を形成する。次いで、150℃の絶縁オイル中で両主面間に所定電圧の直流電圧を印加して分極処理を行い、その後分極処理用電極をエッチング除去し、これにより内部電極2が埋設された圧電セラミック素体1を得る。
【0039】
そしてその後、内部電極2が所定位置に配されるように適宜切断し、次いで再びAgをターゲットにしてスパッタリングし、圧電セラミック素体1の両主面に外部電極3、4を形成し、これにより圧電発振子が製造される。
【0040】
このようにして本発明の圧電発振子の製造方法は、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるように調合し、焼結後の主成分がPMN−PZTで表されるセラミック原料粉末を作製する原料作製工程と、前記セラミック原料粉末を成形加工してセラミック成形体を作製する成形工程と、酸素分圧が0.25Pa以下の還元雰囲気下で前記セラミック成形体を焼成する焼成工程を含むので、所望の良好な圧電特性を維持しつつ、1050℃未満の低温で焼結させることができる。したがって、CuやPdが低含有量(10重量%以下)のAg−Pd合金と共焼成させることが可能となり、製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【0041】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本発明の特性を損なわない範囲内であれば、不可避不純物として微量のFe、Cl、Si、Al等が含有していてもよい。
【0042】
また、安価で1050℃未満の温度で共焼成可能な低融点金属材料としては、Cu、Pd含有量が10重量%以下のAg−Pd合金が代表的であるが、所望の圧電特性や温度特性を確保できるのであれば、これら以外の他の低融点金属材料を使用することも可能である。
【0043】
また、セラミック素原料であるPb化合物、Ti化合物、Mn化合物、及びNb化合物、Zr化合物等の具体的な形態としては、炭酸塩、水酸化物、酸化物いずれであってもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、所謂シート工法で圧電セラミック1a、1bを作製しているが、プレス成形加工で圧電セラミック1a、1bを作製してもよい。
【0045】
また、上記実施の形態では、圧電素子として圧電発振子を例示したが、圧電トランス、圧電フィルタ等についても同様である。
【0046】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0047】
まず、セラミック素原料として、Pb、ZrO、TiO、MnCO、Nbを用意した。
【0048】
次に、焼結後の主成分が表1に示す組成となるように、これらセラミック素原料を秤量し、湿式混合した後、ヌッチェ式吸引ろ過器で脱水し、その後800〜1000℃の温度で約2時間仮焼し、セラック原料粉末を得た。
【0049】
次いで、このセラミック原料粉末と溶剤(エタノール)と有機バインダ(ポリビニルアルコール樹脂)とを混合してスラリーを作製し、その後、ドクターブレード法を使用して成形加工し、厚みが50μmのセラミックグリーンシートを作製した。
【0050】
次に、セラミックグリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて積層し、圧着してセラミック成形体を得た。そして、このセラミック成形体を500℃に加熱して脱バインダ処理を行った。
【0051】
そして、各試料について、酸素分圧POを1.0×10〜1.0×10-2Paとし、焼成温度を900〜1300℃の範囲に設定して4時間焼成し、試料番号1〜5のセラミック焼結体を得た。
【0052】
次いで、試料番号1〜5の試料について、アルキメデス法を用いて各焼成温度での焼結密度を求めた。
【0053】
表1は試料番号1〜5の各組成及び酸素分圧POを示している。
【0054】
【表1】

【0055】
また、図2は各試料番号1〜5の焼成温度と焼結密度の関係を示す図であり、●印が試料番号1、□印が試料番号2、×印が試料番号3、△印が試料番号4、■印が試料番号5を示している。尚、横軸が焼成温度(℃)、縦軸が焼結密度(g/cm)である。
【0056】
表1及び図2から明らかなように、試料番号2は、酸素分圧POが1.0×10Paの酸素雰囲気で焼成しており、焼結密度が飽和するためには、1250℃以上の高温で焼成する必要のあることが分かった。
【0057】
試料番号3も、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βの比α/βは0.580と0.5を超えているが、試料番号2と同様、酸素分圧POが1.0×10Paの大気雰囲気で焼成しており、焼結密度が飽和するためには、1050℃以上の高温で焼成する必要のあることが分かった。
【0058】
試料番号4は、試料番号3と同様、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βの比α/βは0.588と0.5を超えているが、焼成雰囲気の酸素分圧POが1.0×10Paであり、大気雰囲気に近く、焼結密度が飽和するためには、1050℃以上の高温で焼成する必要のあることが分かった。
【0059】
試料番号5は、酸素分圧POが1.0×10-2Paの還元雰囲気で焼成しているが、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.499と0.50を下回っており、焼結密度が飽和するためには、1200℃以上の高温で焼成する必要のあることが分かった。
【0060】
これに対し試料番号1は、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.580であり、焼成雰囲気の酸素分圧POは1.0×10−2Paの還元雰囲気で焼成しているので、950℃の低温での焼成で焼結密度が飽和することが分った。
【0061】
次に、試料番号1〜5の各試料について、セラミック焼結体の厚みが所定厚みとなるように研磨し、その後、Agペーストを使用して外部電極を形成した。尚、この実施例ではAgペーストを使用して厚膜電極を形成したが、スパッタリング、蒸着等の方法で薄膜電極を形成してもよい。
【0062】
次に、各試料について、3.0kV/mmの直流電界を印加して分極処理を行い、矩形形状に切断して試料番号1〜5の圧電セラミック電子部品を得た。
【0063】
得られた試料番号1〜5の圧電セラミック電子部品は、縦13.0mm、横3.0mm、厚み0.6mmであった。
【0064】
次に、試料番号1〜5の各試料について、日本電子材料工業会標準規格:EMAS−6100に準拠し、インピーダンスアナライザー(アジレント・テクノロジー社製:HP−4194A)を使用して0.01Vの電圧を印加した時の比誘電率εr(=ε33o)、電気機械結合係数k31、機械的品質係数Qmを求めた。
【0065】
そして、試料番号1〜5の各試料のうち、電気機械結合係数k31が最大となる焼成温度での圧電特性を比較した。
【0066】
表2は、これら試料の焼成条件と各測定値を示している。
【0067】
【表2】

【0068】
試料番号1と試料番号2〜4とを比較すると、試料番号1は試料番号2〜4に比べて150〜300℃程度低い温度で焼成しても良好な圧電特性の得られることが分かった。これは試料番号2〜4は、焼成雰囲気の酸素分圧POが1.0×10〜1.0×10Paと高く、大気雰囲気又は大気雰囲気に近い状態で焼成しているのに対し、試料番号1は酸素分圧POが1.0×10-2の十分な還元雰囲気で焼成を行っているためと思われる。
【0069】
試料番号1と試料番号5とを比較すると、試料番号1は試料番号5に比べて250℃程度低い温度で焼成しても良好な圧電特性の得られることが分かった。これは試料番号1及び5の双方共、酸素分圧POが1.0×10-2の還元雰囲気で焼成を行っているが、試料番号1はMnのモル比αとNbのモル比βとの比α/βが0.580と0.50を超えているのに対し、試料番号5は比α/βが0.499と0.50を下回っているためと思われる。
【0070】
以上から、PMN−PZT系材料において、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるように組成配合し、かつ酸素分圧POが1.0×10-2以下の還元雰囲気で焼成することにより、1050℃未満の低温で焼結させることができ、良好な圧電特性を有する圧電セラミック電子部品の得られることが分かった。
【0071】
そして、1050℃以下の低温での焼成が可能であることから、CuやPd含有量が10重量%以下のAg−Pd合金を使用しても共焼成することが可能であり、低コスト化を図ることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
PMN−PZT系材料で低温焼成しても機械的品質係数Qmの高い所望の圧電特性を有する圧電セラミック電子部品を得ることができ、低コスト化を図ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともPb化合物、Mn化合物、Nb化合物、Zr化合物及びTi化合物を含むセラミック素原料を、Mnの配合モル比αとNbの配合モル比βとの比α/βが0.50を超えるように調合し、焼結後の主成分が一般式Pb{(Mn,Nb),Zr,Ti}Oで表されるセラミック原料粉末を作製する原料作製工程と、
前記セラミック原料粉末を成形加工してセラミック成形体を作製する成形工程と、
酸素分圧が0.25Pa以下の還元雰囲気下で前記セラミック成形体を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする圧電セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
Cu、及びPdの含有量が10重量%以下のAg−Pd合金のうちのいずれかを一方の導電性材料を主成分とする導電性ペーストを作製する導電性ペースト作製工程と、前記セラミック成形体に前記導電性ペーストを塗布して導電膜を形成する導電膜形成工程と、前記導電膜の形成されたセラミック成形体を積層する積層工程とを含み、
前記焼成工程は、前記積層されたセラミック成形体を焼成することを特徴とする請求項1記載の圧電セラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215418(P2010−215418A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60598(P2009−60598)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】