説明

圧電ポンプ及び圧電振動子

【課題】シムの薄型化を要求されている圧電ポンプにおいて、圧電振動子の機械的強度及び支持強度を高め、閉鎖圧を高くすることができる圧電ポンプを得る。
【解決手段】周縁を液密に保持した圧電振動子の表裏に、ポンプ室と大気室を形成し、該圧電振動子を振動させてポンプ作用を得る圧電ポンプにおいて、圧電振動子は、導電性金属薄板からなるメインシムと、このメインシム上に積層形成した複数層の圧電体層と、この複数層の圧電体層の間に形成した機械的復元性を有する金属弾性材料からなる中間シムとにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動する圧電振動子によってポンプ作用を得る圧電ポンプ及び圧電振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電ポンプは、周縁を液密に保持した圧電振動子の表裏に、ポンプ室と大気室を形成し、ポンプ室に連なる一対の流路に、流れ方向の異なる一対の逆止弁(ポンプ室への流体流を許す逆止弁とポンプ室からの流体流を許す逆止弁)を設けている。圧電振動子を振動させると、ポンプ室の容積が変化し、この容積変化に伴い一対の逆止弁の一方が閉じて他方が開く動作を繰り返すことから、ポンプ作用が得られる。このような圧電ポンプは、例えば水冷ノート型パソコンの冷却水循環ポンプとして用いられている。
【特許文献1】特開平5-315664号公報
【特許文献2】特開平8-222776号
【特許文献3】特開平8-288564号
【特許文献4】特開平10-136665号
【特許文献5】特開平11-27963号
【特許文献6】特開2002-319717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この圧電ポンプでは、圧電振動子の振幅が大きいこと(流量が大きいこと)よりも、閉鎖圧(吸入側と吐出側のアンブレラが閉じたとき(流量がゼロになるとき)の吐出側流路内(系)の圧力)が高いことが要求される。従来の圧電振動子では、シムの厚さを薄くしていくと、振幅を大きくすることはできても、シム自体の機械的強度が不足し閉鎖圧を大きくすることが困難であった。
【0004】
本発明は、シムの薄型化を要求されている圧電ポンプにおいて、圧電振動子の機械的強度及び支持強度を高め、閉鎖圧を高くすることができる圧電ポンプ及び圧電振動子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、圧電振動子のシム上に、複数層の圧電体層を形成し、圧電体層の間に中間シムを配置すれば、振幅の減少を抑制しながら閉鎖圧を高めることができるという着眼に基づいてなされたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、周縁を液密に保持した圧電振動子の表裏に、ポンプ室と大気室を形成し、該圧電振動子を振動させてポンプ作用を得る圧電ポンプにおいて、圧電振動子は、導電性金属薄板からなるメインシムと、このメインシム上に積層形成した複数層の圧電体層と、この複数層の圧電体層の間に形成した機械的復元性を有する金属弾性材料からなる中間シムとからなることを特徴としている。
【0007】
中間シムは、複数層の圧電体層の中間位置に介在していることが好ましい。複数の圧電体層の中間位置は、該複数の圧電体層に交番電界を印加したときに発生する偶力の中性面となるから、中間シムによる圧電体層の変位拡大を図ることができる。
【0008】
圧電振動子は、メインシムの一方の面をポンプ室に臨ませ、他方の面に、複数層の圧電体層と中間シムを形成することができる。複数層の圧電体層と中間シムは、メインシムの表裏面の両方に形成してもよい。
【0009】
中間シムは、メインシムよりも高い機械的復元性を有することが好ましい。具体的には、中間シムとメインシムは同一の材料から形成し、中間シムの厚さをメインシムの厚さより厚くすることが好ましい。中間シムが高い機械的復元性を有していれば、複数の圧電体層の変位に伴って変形容易であり、高い機械的復元性により該複数の圧電体層の変位を向上させる。
【0010】
複数層の圧電体層各層の分極方向及び配線接続は、圧電体が単層である場合に比して、圧電振動子の振幅が大きくなるように設定されている。これにより、圧電振動子の変位量を確保することができる。
【0011】
圧電振動子の中間シムは、第1の態様によれば、該中間シム下の圧電体層より小径であり、この中間シム下の圧電体層の周縁部が一対の環状狭着部材によって狭着支持されていることが好ましい。中間シム下の圧電体層を狭着支持して圧電振動子の機械的強度を高めつつ、中間シム上の圧電体層を自由に変位させて変位量をかせぐことができる。
【0012】
圧電振動子の中間シムは、第2の態様によれば、該中間シム上の圧電体層より大径であり、この中間シムとメインシムの周縁及び両シムの間の圧電体層が、一対の環状挟着部材によって挟着支持されていることが好ましい。一対の環状狭着部材の間に中間シムが介在することで、狭着支持部の機械的強度(支持強度)が増し、閉鎖圧をより高められる。
【0013】
また本発明は、圧電振動子の態様によれば機械的復元性を有する金属弾性材料からなるメインシムの面上に複数層の圧電体層を積層し、この複数の圧電体層の間に、機械的復元性を有する金属弾性材料からなる中間シムを介在させたことを特徴としている。
【0014】
この圧電振動子においても、中間シムは、メインシムよりも高い機械的復元性を有することが好ましい。具体的には、中間シムとメインシムは同一の材料で形成し、中間シムの厚さをメインシムの厚さより厚くするのがよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の圧電体層の間に機械的復元性を有する中間シムが介在することで、シムの薄型化を要求されている圧電ポンプにおいて、圧電振動子の変位を向上させ、該圧電振動子の機械的強度及び閉鎖圧を高めることができる。同様に、シムの薄型化を要求されている圧電振動子において、変位量を向上させつつ、機械的強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1及び図2は、本発明が対象とする圧電ポンプの基本構造を示している。この圧電ポンプ20は、図示下方から順に積層したロアハウジング21、ミドルハウジング22及びアッパハウジング23を有している。
【0017】
ロアハウジング21には、冷却水(液体)の吸入ポート24と吐出ポート25が開口している。ミドルハウジング22とアッパハウジング23の間には、一対の環状狭着部材(Oリング27、ガイド28)を介して圧電振動子10及び環状電極端子29が液密に狭着支持されていて、該圧電振動子10とミドルハウジング22との間にポンプ室Pを構成している。圧電振動子10とアッパハウジング23との間には、大気室Aが形成される。大気室Aは、開放しても密閉してもよい。
【0018】
ロアハウジング21とミドルハウジング22には、吸入ポート24とポンプ室Pを連通させる吸入流路30、及びポンプ室Pと吐出ポート25を連通させる吐出経路31がそれぞれ形成されており、ミドルハウジング22には、この吸入流路30と吐出流路31にそれぞれ逆止弁(アンブレラ)32、33が設けられている。逆止弁32は、吸入ポート24からポンプ室Pへの流体流を許してその逆の流体流を許さない吸入側逆止弁であり、逆止弁33は、ポンプ室Pから吐出ポート25への流体流を許してその逆の流体流を許さない吐出側逆止弁である。図示実施形態の逆止弁32、33は、同一の形態であり、流路に接着もしくは溶着固定される穴あき基板32a、33aに、弾性材料からなるアンブレラ32b、33bを装着してなっている。
【0019】
またロアハウジング21には、吸入流路30及び吐出経路31とは隔離させた位置に矩形状の収納凹部21aが形成されており、この収納凹部21aとミドルハウジング22の間に、圧電振動子10を駆動制御するドライバ回路基板26が液密に収納されている。
【0020】
圧電ポンプ20は、圧電振動子10が正逆に弾性変形(振動)すると、ポンプ室Pの容積が拡大する行程では、吸入側逆止弁32が開いて吐出側逆止弁33が閉じるため、吸入ポート24からポンプ室P内に液体が流入する。一方、ポンプ室Pの容積が減少する行程では、吐出側逆止弁33が開いて吸入側逆止弁32が閉じるため、ポンプ室Pから吐出ポート25に液体が流出する。したがって、圧電振動子10を正逆に連続させて弾性変形(振動)させることで、ポンプ作用が得られる。
【0021】
本発明は、例えば以上の構成を有する圧電ポンプ20における圧電振動子10の構成を特徴としている。以下では、図3〜図7を参照し、本発明の特徴部分である圧電振動子10について、詳細に説明する。
【0022】
圧電振動子10は、円形のメインシム11と、メインシム11の表裏面の一方に形成した円形の積層圧電体12とを有する圧電振動子である。
【0023】
メインシム11は、厚さ30〜300μm程度のステンレスや42アロイ等からなる導電性金属薄板であり、積層圧電体12を支持するための剛性を有している。このメインシム11は、周縁部に配線接続用の配線突起11aを有し、裏面(一方の面)11bをポンプ室P側に臨ませ、表面(他方の面)11c上に積層圧電体12を形成してある。ミドルハウジング22には、配線突起11aに対応する突出凹部22aがポンプ室Pに連なって形成されている。
【0024】
積層圧電体12は、メインシム11の表面11c側から順に積層した下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの二層で構成され、大気室A側に臨んでいる。下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間には、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bを電気的に分離する中間電極層13aが位置している。下部圧電体層12aと上部圧電体層12bは同一形状及び厚さをなし、その径はメインシム11の円形部分の径と同等または若干小さくなっている。
【0025】
下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向及び配線接続は、圧電振動子10の圧電体が単層の場合に比して、該圧電振動子10の振幅が大きくなるように設定されている。下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向は、図4の三角指標で示されるように、逆向きをなしている。周知のように、圧電体(層)は、正負の電圧を印加すると、表面積が拡縮する方向に弾性変形する。メインシム11側の下部圧電体層12aはシム側電極層13b及びメインシム11を介して第2給電ライン15と導通し、大気室A側の上部圧電体層12bは表面電極層13c及び環状電極端子29を介して第1給電ライン14と導通している。すなわち、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bは、電気的に直列接続(シリーズ接続)されている。
【0026】
この積層圧電体12において、大気室Aに露出する表面電極層13cはAuで形成される。一方、中間電極層13a及びシム側電極層13bはAuで形成しても良いが、AgまたはAgを含むAg系導電材料により形成してもよい。周知のようにAuはマイグレーション耐性のある導電材料であるから、表面電極層13cの長時間駆動によるマイグレーションを抑制できる。一方、大気室Aに露出しない中間電極層13a及びシム側電極層13bは、マイグレーション耐性を表面電極層13cほど必要としないから、メインシム11との密着強度が良好なAgまたはAg系導電材料を用いることで、長時間駆動による電極剥離を抑制でき、Auを用いる場合よりも低コスト化を図れる。この電極組み合わせによれば、圧電振動子10の長寿命化を図れる。
【0027】
圧電振動子10は、弾性を有する一対の環状狭着部材(Oリング27、ガイド28)により、積層圧電体12の周縁部で狭着支持されている。Oリング27は、ミドルハウジング22と圧電振動子10の間に配置され、メインシム11の裏面11bの周縁部に当接して図示上方向の押力を与える。一方、ガイド28は、アッパハウジング23と圧電振動子10の間に配置され、積層圧電体12の表面電極層13cに接着した環状電極端子29に当接し、この環状電極端子29を介して積層圧電体12の周縁部を図示下方向へ押圧する。このように積層圧電体12自体を狭着支持する構造によれば、圧電振動子10の機械的強度(支持強度)が増し、閉鎖圧(吸入側と吐出側のアンブレラが閉じたとき(流量がゼロになるとき)の吐出側流路内(系)の圧力)を高められる。一対の環状狭着部材27、28は、積層圧電体12の変位量が最小となる周縁部に接するから、積層圧電体12の変位を極力妨げない。
【0028】
環状電極端子29は、上部圧電体層12bの変位を妨げず、かつ、表面電極層13cと安定に導通可能な環状の導電性金属薄板であって、表面電極層13cの周縁部に接着される環状部29bと、環状部29bから延出した配線接続用の配線突起29aとを有し、配線突起29aで第1給電ライン14に導通接続している。配線突起29aは、メインシム11の配線突起11aと対をなし、該配線突起11aとともにミドルハウジング22の突出凹部22aに収納される。この環状電極端子29は、例えば厚さ30μm程度の42アロイ等により形成されている。
【0029】
以上の圧電振動子10は、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間に、メインシム11とは別に、中間シム40を有している。中間シム40は、積層圧電体12の変位に伴って変形自在な機械的復元性を有する、円形または環状の金属弾性体(図示実施形態では円形)である。中間シム40の機械的復元性はメインシム11の機械的復元性より高く、中間シム40は積層圧電体12の変位を妨げない。この中間シム40は、メインシム11と同一の材料で、メインシム11の厚さより厚く形成してある。具体的には例えば、厚さ50〜600μm程度の42アロイ等からなる金属薄板を用いる。この中間シム40を備えることで、積層圧電体12延いては圧電振動子10の機械的強度が増し、閉鎖圧を高められる。中間シム40の挿入位置は、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間、すなわち、積層圧電体12の中間位置であって、積層圧電体12に交番電界を印加したときに発生する偶力Fの中性面となるから、中間シム40による積層圧電体12の変位を拡大することができる。中間シム40と下部圧電体層12a及び上部圧電体層12bとの間には、上述の中間電極層13aがそれぞれ位置している。なお、この環状電極端子29の代わりに半田等で第1給電ライン14と表面電極層13cを接合し、環状狭着部材28で積層圧電体12の表面電極層13cを直接支持しても良い。
【0030】
第1給電ライン14と第2給電ライン15の間に交番電界を印加すると、第1給電ライン14が正、第2給電ライン15が負である瞬間には、図4に矢印で示すように、下部圧電体層12aの表面積が拡大し、上部圧電体層12bの表面積が縮小する。すると、積層圧電体12は全体としては圧電振動子10を図4において下方に凸となる方向に変形させる(偶力Fを発生させる)ことになる。これに対し、第1給電ライン14と第2給電ライン15の正負が逆転すると、以上とは逆に積層圧電体12は全体としては圧電振動子10を図4において上方に凸となる方向に変形させる。この繰り返しにより、圧電振動子10は全体として振動することになる。そして、その振幅は、積層圧電体12が単一の圧電体層からなる場合に比して大きい。ポンプ動作中、流路内には該流路を流れる液体によって圧力が加わる。上述したように本実施形態では、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間に介在させた中間シム40により圧電振動子10の機械的強度が高く保持されているから、高い閉鎖圧が得られ、流路内に送液による圧力がかかった状態でも安定したポンプ動作を実現可能である。
【0031】
本実施形態の中間シム40を備えた直列型の積層圧電体12は、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bをそれぞれ別個に形成し、分極処理後に、中間シム40を挟んだ状態で下部圧電体層12aと上部圧電体層12bを互いの分極方向が異なる向きで電気的に直列することにより、形成可能である。具体的に説明すると、下部圧電体層12aは、圧電グリーンシートを所定形状に平面円形に型抜きし単層もしくは複数層重ねて焼成し、この焼成体の表裏面に電極層(シム側電極層13b、中間電極層13a)を形成して、この表裏面の電極層を利用して分極処理を施すことにより形成する。上部圧電体層12bは、圧電グリーンシートを所定形状に平面円形に型抜きし単層もしくは複数層重ねて焼成し、この焼成体の表裏面に電極層(表面電極層13c、中間電極層13a)を形成して、この表裏面の電極層を利用して下部圧電体層12aとは逆向きの分極処理を施すことにより形成する。そして、中間シム40の表裏面の一方に下部圧電体層12aの中間電極層13aを接着し、他方に上部圧電体層12bの中間電極層13aを接着し、さらに、メインシム11と下部圧電体層12aのシム側電極層13bを接着する。接着には、例えば導電性樹脂接着剤を用いる。これにより、分極方向が互いに逆向きで、かつ、電気的には直列に接続された下部圧電体層12aと上部圧電体層12b及び両圧電体層の中間に位置する中間シム40を有する積層圧電体12が得られる。この形成方法によれば、分極処理用の側面電極やスルーホール電極を必要としないので、直列型の積層圧電体12を容易に形成可能である。積層圧電体12の全体の厚さは、例えば50〜1000μm程度とする。
【0032】
図5は、本発明の第2実施形態による圧電振動子210を示している。この第2実施形態は、第1実施形態の変形例であって、直列型の積層圧電体12に替えて、並列型の積層圧電体212を備えている。積層圧電体212以外の構成は第1実施形態と同様であり、図5では第1実施形態と同一の構成要素に図1〜図4と同一の符号を付して示してある。
【0033】
積層圧電体212は、メインシム11の表面11c側から順に積層した下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの二層で構成され、大気室A側に臨んでいる。下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間には、一対の中間電極層13aと中間シム40が介在している。中間シム40は、上述したように、積層圧電体412の変位に伴って変形自在な機械的復元性を有する、円形または環状の金属弾性体(図示実施形態では円形)である。この中間シム40を備えることで、積層圧電体212延いては圧電振動子210の機械的強度が増し、閉鎖圧をより高められる。中間シム40の挿入位置は、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間、すなわち、積層圧電体212の中間位置であって、積層圧電体212に交番電界を印加したときに発生する偶力Fの中性面となるから、中間シム40による積層圧電体212の変位を拡大することができる。この中間シム40は、中間電極層13aと第2給電ライン15を導通接続するための電極端子としても機能する。これにより、中間電極層13aを導通するための側面電極やスルーホール電極等が不要となり、配線接続が容易となる。シム側電極層13bと表面電極層13cは、メインシム11及び環状電極端子29を介して第1給電ライン14に導通している。すなわち、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bは、電気的に並列接続(パラレル接続)されている。この第2実施形態においても、環状電極端子29の代わりに半田等で第1給電ライン14と表面電極層13cを接合し、環状狭着部材28で積層圧電体12の表面電極層13cを直接支持しても良い。
【0034】
この第2実施形態では、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの分極方向が同一であるから、第1給電ライン14と第2給電ライン15の間に交番電界を印加すると、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの一方の表面積が拡大し他方の表面積が縮小し、圧電振動子210の圧電体が単一の圧電体層からなる場合に比して大きい振幅で振動することになる。圧電振動子210は、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間に介在させた中間シム40により機械的強度が高く維持されているから、第1実施形態と同様に高い閉鎖圧が得られ、流路内に送液による圧力がかかった状態でも安定したポンプ動作を実現可能である。
【0035】
図6は、本発明の第3実施形態による圧電振動子310を示している。この第3実施形態は、第1実施形態の変形例であって、中間シム40を該中間シム40下の下部圧電体層12aより小径で形成し、下部圧電体層12aの周縁部を一対の環状狭着部材27、28で狭着支持している。積層圧電体312は、下部圧電体層12a上の層(中間電極層13a、中間シム40、上部圧電体層12b及び表面電極層13c)が下部圧電体層12a以下の層(下部圧電体層12a及びシム側電極層13b)より小径であり、全体として断面凸形状をなす。下部圧電体層12aの周縁部は、中間シム40及び上部圧電体層12bから露出し、この露出部分にガイド28が直接当接する。ガイド28は、下部圧電体層12aの径に対応する環状をなしていて、上部圧電体層12bには接触しない。つまり、上部圧電体層12bは、ガイド28に拘束されず、自由に変位可能である。但し、下部圧電体層12aに形成される中間電極層13aの径は、下部圧電体層12aの径と同一の大きさであってもよい。この第3実施形態によれば、下部圧電体層12aの周縁部を狭着支持することで圧電振動子310の機械的強度及び閉鎖圧を高めつつ、上部圧電体層12bを自由に変位させることで圧電振動子310の変位量をかせぐことができる。さらに、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間に生じた段差部にガイド28を配置しているので、ハウジングの薄型化に有利である。図示実施形態では直列型の積層圧電体312を用いているが、並列型の積層圧電体を用いてもよい。第3実施形態においても、環状電極端子29の代わりに半田等で第1給電ライン14と表面電極層13cを接合可能である。
【0036】
図7は、本発明の第4実施形態による圧電振動子410を示している。この第4実施形態は、第3実施形態の変形例であって、中間シム40を下部圧電体層12aの周縁部まで延ばし、この中間シム40を介して下部圧電体層12aの周縁部をガイド28で図示下方向に押圧している。すなわち、Oリング27とガイド28は、中間シム40とメインシム11と両シムの間の下部圧電体層12aの周縁部を狭着支持している。このように一対の環状狭着部材27、28の間にも中間シム40を介在させれば、該狭着支持部での強度が増し、圧電振動子410の機械的強度及び閉鎖圧をより高めることができる。
【0037】
第4実施形態の積層圧電体412は、中間シム40以下の層(中間シム40、下部圧電体層12a側の中間電極層13a、下部圧電体層12a及びシム側電極層13b)が同中間シム40上の層(上部圧電体層12b側の中間電極層13a、上部圧電体層12b及び表面電極層13c)より大径であり、全体として断面凸形状をなす。ガイド28は、下部圧電体層12aの径に対応する環状をなしていて上部圧電体層12bには接触しないから、上部圧電体層12bは、一対の環状狭着部材27、28に拘束されず、自由に変位可能である。
【0038】
この第4実施形態によれば、中間シム40とメインシム11と両シム間の下部圧電体層12aの周縁部を狭着支持することで圧電振動子410の機械的強度及び閉鎖圧を高めつつ、上部圧電体層12bを自由に変位させることで圧電振動子310の変位量をかせぐことができる。さらに、下部圧電体層12aと上部圧電体層12bの間に生じた段差部にガイド28を配置しているので、ハウジングの薄型化に有利である。図示実施形態では直列型の積層圧電体412を用いているが、並列型の積層圧電体を用いてもよい。第4実施形態においても、環状電極端子29の代わりに半田等で第1給電ライン14と表面電極層13cを接合可能である。
【0039】
図8は、第3実施形態の圧電振動子310を用いた圧電ポンプ20において、中間シム40の厚さを変化させながら、流路内の所定位置での流量[ml/min]と圧力[kPa]を測定した結果を示している。測定は、駆動電圧120V、駆動周波数60Hzで圧電振動子310を動作させて行った。圧電振動子310において、メインシム11の厚さは0.03mm、下部圧電体層12a及び上部圧電体層12bの厚さは0.2mmである。図中のダイヤ指標は中間シム40の厚さを0.05mmとしたとき、四角指標は中間シム40の厚さを0.1mmとしたとき、三角指標は中間シム40の厚さを0.15mmとしたときの測定値をそれぞれ示している。
【0040】
図8から明らかなように、中間シム40がメインシム11の厚さに対して相対的に厚くなるほど、閉鎖圧(流量ゼロのときの圧力)が増大する傾向にあることがわかる。よって、流路抵抗が大きい場合は、中間シム40の厚さをメインシム11の厚さよりも相対的に大きくすることが望ましい。
【0041】
以上の各実施形態によれば、圧電振動子10(210、310、410)の複数の圧電体層の間に機械的復元性を有する中間シム40を介在させたので、圧電振動子10(210、310、410)の変位を拡大しつつ、圧電振動子10(210、310、410)の機械的強度及び閉鎖圧を高めることができる。したがって、流路系の内圧で圧電振動子10(210、310、410)が変形することなく、安定したポンプ動作を実現可能である。これにより、メインシム11の薄型化にも容易に対応できる。
【0042】
以上ではメインシム11の表裏面の一方に圧電体層が複数層形成された圧電振動子(10、210、310、410)を用いた実施形態について説明したが、本発明は、メインシム11の表裏面の両方に圧電体層が複数層形成された圧電振動子にも適用可能である。このメインシム11の表裏面の両方に複数層の圧電体層を備えた圧電振動子では、表裏面のそれぞれに形成した複数層の圧電体層の間に中間シム40を介在させればよい。また、圧電振動子の圧電体は単層であっても三層以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明が対象とする圧電ポンプの基本構造を示す分解斜視図である。
【図2】同圧電ポンプの断面図である。
【図3】第1実施形態の圧電振動子を示す部分拡大断面図である。
【図4】同圧電振動子の模式断面図である。
【図5】第2実施形態の圧電振動子を示す模式断面図である。
【図6】第3実施形態の圧電振動子を示す模式断面図である。
【図7】第4実施形態の圧電振動子を示す模式断面図である。
【図8】中間シムの厚さを変化させながら、流路内の所定位置での流量と圧力を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
10 圧電振動子
11 メインシム
11a 配線突起
12 積層圧電体
12a 下部圧電体層
12b 上部圧電体層
13a 中間電極層
13b シム側電極層
13c 表面電極層
14 第1給電ライン
15 第2給電ライン
20 圧電ポンプ
21 ロアハウジング
22 ミドルハウジング
23 アッパハウジング
24 吸入ポート
25 吐出ポート
26 ドライバ回路基板
27 Oリング(環状狭着部材)
28 ガイド(環状狭着部材)
29 環状電極端子
30 吸入流路
31 吐出流路
32、33 逆止弁
40 中間シム
A 大気室
P ポンプ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁を液密に保持した圧電振動子の表裏に、ポンプ室と大気室を形成し、該圧電振動子を振動させてポンプ作用を得る圧電ポンプにおいて、
前記圧電振動子は、導電性金属薄板からなるメインシムと、このメインシム上に積層形成した複数層の圧電体層と、この複数層の圧電体層の間に形成した機械的復元性を有する金属弾性材料からなる中間シムとからなることを特徴とする圧電ポンプ。
【請求項2】
請求項1記載の圧電ポンプにおいて、前記中間シムは、前記複数層の圧電体層の中間位置に介在している圧電ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2記載の圧電ポンプにおいて、前記圧電振動子は、前記メインシムの一方の面を前記ポンプ室に臨ませ、他方の面に、前記複数層の圧電体層と中間シムが形成されている圧電ポンプ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の圧電ポンプにおいて、前記中間シムは、前記メインシムよりも高い機械的復元性を有する圧電ポンプ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の圧電ポンプにおいて、前記中間シムと前記メインシムは同一の材料からなり、前記中間シムの厚さは前記メインシムの厚さより厚い圧電ポンプ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の圧電ポンプにおいて、複数層の圧電体層各層の分極方向及び配線接続は、圧電体が単層である場合に比して、圧電振動子の振幅が大きくなるように設定されている圧電ポンプ。
【請求項7】
請求項3ないし6のいずれか一項記載の圧電ポンプにおいて、圧電振動子の中間シムは、該中間シム下の圧電体層より小径であり、この中間シム下の圧電体層の周縁部が一対の環状狭着部材によって狭着支持されている圧電ポンプ。
【請求項8】
請求項3ないし6のいずれか1項記載の圧電ポンプにおいて、圧電振動子の中間シムは、該中間シム上の圧電体層より大径であり、この中間シムとメインシムの周縁及び両シムの間の圧電体層が、一対の環状挟着部材によって挟着支持されている圧電ポンプ。
【請求項9】
機械的復元性を有する金属弾性材料からなるメインシムの面上に複数層の圧電体層を積層し、
この複数の圧電体層の間に、機械的復元性を有する金属弾性材料からなる中間シムを介在させたことを特徴とする圧電振動子。
【請求項10】
請求項9記載の圧電振動子において、前記中間シムは、前記メインシムよりも高い機械的復元性を有する圧電振動子。
【請求項11】
請求項9または10記載の圧電振動子において、前記中間シムと前記メインシムは同一の材料からなり、前記中間シムの厚さは前記メインシムの厚さより厚い圧電振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−202408(P2008−202408A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35879(P2007−35879)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】