説明

圧電振動子の製造方法及び圧電振動子

【課題】 製造時における周波数調整を容易且つ精度よく行うとともに、製造後においても周波数変動やバラツキを防止して安定した発振周波数を得ることが可能な圧電振動子の製造方法を提供することである。
【解決手段】 励振電極29,30が形成された振動腕部23,24に周波数調整領域を設けることによって、発振周波数Fを所定の目標周波数f0に調整する圧電振動子の製造方法において、前記周波数調整領域に第1の金属膜31を形成した後、この第1の金属膜31にレーザビームを照射することによって発振周波数Fを粗調整する粗調整工程Aと、前記粗調整された第1の金属膜31の表面に第2の金属膜33を形成した後、この第2の金属膜33にイオンビームを照射することによって発振周波数Fを目標周波数f0に向けて微調整する微調整工程Bとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振周波数の調整工程を備えた圧電振動子の製造方法及び圧電振動子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電振動子の一つである音叉型圧電振動子は、基部と、この基部から延びる一対の振動腕部とを有し、この振動腕部の表面に励振電極を形成することによって、所定の周波数で発振させている。
【0003】
このような圧電振動子にあっては、目標とする発振周波数が得られるように、設計時において各部の寸法や励振電極パターンなどが設定される。ただし、このような設計値に基づいて製造されていても、製造条件や周囲環境によって目標値からずれる場合があるため、製造の最終段階で発振周波数の調整が行われている。
【0004】
前記音叉型圧電振動子における発振周波数の調整は、振動腕部の先端部の重さを変えることによって行っている(特許文献1、2)。このような調整方法としては、振動腕部の先端部に金属膜を蒸着することによって徐々に重くしながら周波数を下げる方向で調整する方法と、振動腕部の先端部をレーザビームやイオンビームなどで削り取るようにして軽くしながら周波数を上げる方向で調整する方法とがある。特に小型の音叉型圧電振動子にあっては、調整位置の精度が出しやすいことから、レーザビームを用いた調整方法が広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−332871号公報
【特許文献2】特開2003−332872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザビームによる調整は、光エネルギーをφ5〜30μmのような狭い範囲に集中させ、照射部の金属を瞬間的に蒸発させるため、周波数の調整量が多く取れるというメリットがある。一方、前記レーザビームを照射した周辺には蒸発しきれなかった金属が粒となって残留しやすく、この金属粒が衝撃や経年変化等の影響で取れることで周波数変動を引き起こす場合があった。
【0007】
また、イオンビームによる調整は、振動腕先端の広い範囲(例えば、500X500μm)にビームを照射し、金属の厚さを全体的に少しずつ薄くすることで質量を変化させて周波数を調整する方法である。レーザビームのような金属粒の発生はないが、ソフトなビームであるため、周波数調整のレートが上げられず、広い範囲の周波数調整には時間がかかり、大量生産には不向きである。
【0008】
通常、調整前の圧電片の周波数バラツキは、圧電片の形状加工の寸法ズレにより発生する。圧電片が小型化するにつれて、相対的な寸法ズレ幅が大きくなるため、周波数のバラツキが大きくなってしまう。周波数調整量は、小型のものほど大きくなるという傾向があることから初期段階の周波数調整はレーザビームの照射によって行うことが多いが、上述したように、調整後において発振周波数が変動するおそれがある。
【0009】
一方、イオンビームによれば、周波数の微調整が可能であるため、調整の最終段階で使用する場合があるが、広い範囲の周波数調整には適さない。そこでレーザビームで粗調整をした後にイオンビームで微調整をするという工程を取ることがある。しかし、このイオンビームは、振動腕部の先端部全体の金属部分を薄くしていく加工を行うため、レーザビーム調整の後にイオンビーム調整をする場合、レーザ痕によりイオンビーム調整する部分の金属面積が個々に異なる。このため、調整時における周波数調整レートが安定せず、結果的に周波数の調整精度が悪化するという問題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、製造時における周波数調整を容易且つ精度よく行うとともに、製造後においても周波数変動やバラツキを防止して安定した発振周波数を得ることが可能な圧電振動子の製造方法及び圧電振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の圧電振動子の製造方法は、励振電極が形成された圧電振動部に周波数調整領域を設けることによって、前記圧電振動部の発振周波数を所定の目標周波数に調整する圧電振動子の製造方法において、前記周波数調整領域に第1の金属膜を形成した後、この第1の金属膜にレーザビームを照射することによって前記発振周波数を粗調整する粗調整工程と、前記粗調整された第1の金属膜の表面に第2の金属膜を形成した後、この第2の金属膜にイオンビームを照射することによって前記発振周波数を目標周波数に向けて微調整する微調整工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の圧電振動子は、励振電極が形成された圧電振動部に周波数調整領域を有する圧電振動子において、前記周波数調整領域は、質量を調整するためのレーザビーム痕が形成された第1の金属膜と、該第1の金属膜の表面に形成され、前記レーザビーム痕を被覆するとともに、イオンビームの照射によって所定の周波数となるように厚みが調整された第2の金属膜とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の圧電振動子の製造方法によれば、圧電振動部の周波数調整領域を粗調整工程で目標とする周波数の近傍にシフトさせ、さらに、微調整工程において、前記粗調整工程でシフトされた周波数を目標値に収束させることができる。このように、第1の金属膜及びこの第1の金属膜に照射させるレーザビームと、第2の金属膜及びこの第2の金属膜に照射させるイオンビームとの組み合わせによって、圧電振動部の周波数調整が容易で精度の高い圧電振動子の製造が可能となった。
【0014】
また、本発明の圧電振動子によれば、圧電振動部の周波数調整領域をレーザビーム痕が形成された第1の金属膜と、前記レーザビーム痕を含む第1の金属膜上にイオンビームによって厚み調整された第2の金属膜とによって、目標とする周波数に適合させるとともに、この周波数を維持しつつ安定して発振させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る圧電振動子の平面図である。
【図2】上記圧電振動子のA―A断面図である。
【図3】振動腕部の表裏両面に周波数調整領域を設けた圧電振動子の要部断面図である。
【図4】上記圧電振動子の製造方法を示す工程図である。
【図5】音叉型の圧電振動子の各種の形態を示す平面図である。
【図6】幅縦振動圧電振動子及び長さ縦振動圧電振動子の平面図である。
【図7】幅縦長さ縦結合振動モードの圧電振動子の調整工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の圧電振動子及び製造方法の実施形態を添付図面に基づいて説明する。本実施形態の圧電振動子は、電気軸をX軸、機械軸をY軸、光軸をZ軸とした水晶原石の直交座標系においてカットされた水晶板を音叉型に加工して形成されている。なお、この圧電振動子は、XYZからなる三次元の直交座標系のX−Y平面(Z板)をX軸回転で−7〜+7度回転させたXY´Z´の座標系の水晶片に加工され、振動周波数の範囲が32〜33kHzに設定される。本実施形態の圧電振動子では、目標周波数として時計用の基準信号として現在広く用いられている32.768kHzを設定している。
【0017】
図1は、本実施形態における圧電振動子21の全体の基本形状を示したものであり、図2は、前記圧電振動子21のA−A断面を示したものである。この圧電振動子21は、基材である前記水晶片から、矩形状の基部22と、この基部22から平行に延び、屈曲振動を生じさせる一対の圧電振動部(振動腕部)23,24と、この振動腕部23,24の外側に沿って、前記基部22から延びる一対の支持腕部25,26とを有して構成されている。また、前記振動腕部23,24の外表面には、極性の異なる励振電極29,30が形成されている。この励振電極29,30は、前記一対の支持腕部25,26の先端部から前記振動腕部23,24の先端部にかけて連続して形成される。
【0018】
前記振動腕部23,24は、基部22の一端からY軸方向に延び、X軸方向に平行する一対の細長い四角柱体であり、表面側(+Z面)及び裏面側(−Z面)にそれぞれのY軸方向に沿って溝部27,28が設けられる。この溝部27,28は振動腕部23,24の+Z面を長手(Y軸)方向と−Z面を長手(Y軸)方向に沿って設けられる。前記溝部27,28は、略同一の溝幅、溝長及び溝厚によって形成されている。
【0019】
前記支持腕部25,26は、その先端部分で前記基部22及び振動腕部23,24を図示しないケース内に支持するとともに、このケース内に設けられている端子電極部との導通を図っている。このように、前記支持腕部25,26を長く延ばすことによって、前記ケースが受ける衝撃が直接振動腕部23,24に伝わらないようにするとともに、この振動腕部23,24で生じた音叉振動の漏れを防止することができる。
【0020】
上記構造の圧電振動子21は、一対の振動腕部23,24の各先端部が周波数調整領域Cとなっている。この周波数調整領域Cは、図2に示すように、励振電極29,30の表面に形成され、レーザビームの照射によって一部が蒸発して除去されたレーザ加工部32を有する第1の金属膜31と、この第1の金属膜31の表面に被覆形成され、イオンビームの照射によって所定の厚みに形成された第2の金属膜33との積層構造となっている。
【0021】
前記第1の金属膜31は、励振電極29,30の表面に、この励振電極29,30と同じ導電性の金属材料を塗布あるいは蒸着することによって形成された所定厚みの金属膜である。前記レーザ加工部32は、前記第1の金属膜31の表面の一部が蒸発することによって除去されたレーザビーム痕となっている。前記第1の金属膜31が振動腕部23,24の先端部に一様に形成された段階では、発振周波数Fが目標周波数f0よりも数パーセント低くなるように製造され、水晶片個々の周波数バラツキにより調整された前記レーザビーム痕を設けることによって、目標周波数f0よりも若干高い周波数帯にシフト調整されている。なお、符号34は、レーザビームによって蒸発しきれずに付着した粒状の金属屑である。
【0022】
前記第2の金属膜33は、前記レーザ加工部32を含む第1の金属膜31の表面に所定の厚みで形成される。この第2の金属膜33の下地金属は、レーザビーム痕が形成されている水晶片の表面との接着強度の高い金属、例えば、クロム、ニッケル、チタンなどが適している。下地金属としての機能を保持するためには、50〜500Å程度の厚みで十分である。第2の金属膜33の主金属は、圧電振動子21の周波数変動を防止する目的のため、酸化の起きにくい金、銀、白金などの貴金属膜が適しており、膜の総厚みは、金属屑34を強固に固定するため2000Å以上であることが望ましい。また、この主金属はイオンビームで周波数調整を行う場合のトリミング材として使われるため、周波数調整後には当初の厚みより薄くなる。このため、周波数調整後に1500Å以上の厚さになるように設定する必要がある。しかしながら、このような貴金属は高価であり、多用できないことから、第2の金属膜33は下地金属を1000Å以上とし、イオンビームを照射する表面にのみ1000Å程度の貴金属膜を形成してもよい。周波数調整後における前記第2の金属膜33の厚みを500Å、1000Å、1500Å、2000Åに設定して信頼性確認試験を行った結果を表1に示す。なお、この信頼性確認試験の項目は、リフロー耐熱性試験2回と、パーツフィーダに2時間投入したときの振動試験である。
【0023】
【表1】

【0024】
上記実施形態では、第1の金属膜31及び第2の金属膜33からなる周波数調整領域Cを振動腕部23,24の上面側に形成したが、図3に示すように、下面側にも同様な周波数調整領域C´を設けることができる。この周波数調整領域C´は、周波数調整領域Cと対照とし、同一の符号を付したが、レーザ加工部32の形状や大きさ、あるいは、第1の金属膜31及び第2の金属膜33の厚み等は、全体の周波数調整量に応じて適宜設定される。このように、上下両面に周波数調整領域C,C´を設けることで、周波数の調整レートを広くすることができる。なお、前記周波数調整領域C,C´は、図示したように上面と下面とで対照である必要はないが、左右それぞれの振動腕部23,24の質量バランスがとれている方が発振周波数のバラツキや変動を抑えることができる。
【0025】
次に、上記圧電振動子21の成型後における周波数調整工程を図4に基づいて説明する。図1に示したような音叉型に成型された圧電振動子21に励振電極29,30を形成する際には、設計時に設定される目標周波数f0よりも300〜5000Hz程度の周波数幅f1分だけ、発振周波数が高めとなるように形成される(工程a)。この状態から、以下に示す粗調整工程A及び微調整工程Bによって、目標周波数f0に近づけるための調整が行われる。
【0026】
粗調整工程Aでは、先ず、目標周波数f0よりも10〜2000Hz程度低くなるように設定するために、一対の振動腕部23,24の先端部分の励振電極29,30上にさらにこの励振電極29,30と同じ導電部材である第1の金属膜31を厚めに形成しておく(工程b)。このときの金属膜の厚みは、金材料を用いた場合、0.3〜3μm程度となる。そして、この第1の金属膜31にレーザビームを所定量照射することによって、レーザ加工部32の一部が蒸発したレーザビーム痕を生じさせる。このレーザビーム痕は、レーザビームを振動腕部23,24の幅方向に対して走査を繰り返すことによって形成され、所定の深さ及び幅を有した複数の溝となっている。このようなレーザビーム痕を形成することによって、振動腕部23,24の先端部の質量が減少し、目標周波数f0よりも若干高め(数十〜数百Hz程度)にシフト調整される(工程c)。なお、このレーザビーム照射によって調整される周波数バラツキは、数Hz〜数十Hz程度が望ましい。
【0027】
前記レーザビームを照射した第1の金属膜31の表面又はその周辺には、例えば図2に示したような粒状の金属屑34が残るが、この金属屑34も発振周波数Fを規定する質量に含まれているため、脱落等しないように第2の金属膜33でコーティングする(工程d)。この第2の金属膜33のコーティングによって、発振周波数Fが目標周波数f0よりも若干低め(数Hz〜数十Hz)となるようにシフト設定される。なお、前記コーティングは、スパッタ、蒸着、メッキなどによって行われる。
【0028】
このように、第2の金属膜33を第1の金属膜31の上面にコーティングすることによって、前記レーザビーム照射によって調整された第1の金属膜31の質量とともに、周波数のバラツキもそのままの状態で保持される。このため、第2の金属膜33によって微調整する際の基準値が変動することがない。
【0029】
微調整工程Bは、目標周波数f0に一致させるための微調整を行う工程であり、前記コーティングされた第2の金属膜33の厚みを薄くすることで、周波数を徐々に上げていき、目標周波数f0に略一致させる(工程e)。この工程は、圧電振動子21をパッケージ化する最終段階で行われ、前記第2の金属膜33の厚みを調整する手段としてイオンビームが用いられる。このイオンビームは、前述したように、レーザビームに比べて加工速度が緩やかであるため、照射した部分から金属膜を徐々に薄くすることができる。したがって、照射範囲や照射時間を制御することで、バリや粒状の金属屑34が残ることなく、表面をきれいに仕上げることができる。また、前記第2の金属膜33は、金属痕34が残るレーザ加工部32だけでなく、第1の金属膜31全体を覆うように被覆形成される。
【0030】
実際にレーザ加工を施した後のレーザ加工部32は、基材である水晶片の表面が露出しているため、この部分にイオンビームを照射しても質量変化が起こらず周波数が変動しない。イオンビーム照射範囲の金属膜面積が水晶片個々にバラツキがあると、イオンビーム照射時の質量変化のバラツキとなり周波数調整精度に影響するが、本発明の圧電振動子にあっては、第2の金属膜33で水晶片の表面全体が覆われているため、周波数調整精度に影響を及ぼさない。なお、イオンビームによって、前記第2の金属膜の全体を薄くする加工を施すことで、粗調整工程Aで生じた金属屑34の密着が弱くなる場合もある。このような場合は、第2の金属膜33を形成する際に、イオンビームの照射加工によって薄くする分を考慮し、多少厚めに形成しておくことで、発生した金属屑34の密着強度の低下を防止することができる。
【0031】
なお、前記粗調整工程A及び微調整工程Bは、振動腕部23,24の裏面に対しても同様の方法で施すことができる。
【0032】
上記周波数調整領域は、音叉型の圧電振動子の場合、周波数調整レートが高くとれるとともに、調整のしやすい振動腕部23,24の中心部から先端角部にかかる範囲内に設定するのが効果的である。このうち、先端角部近傍が最も調整レートが高く、基部22に向かうにしたがって低くなる。本実施形態では、レーザ加工部32を第1の金属膜33が形成されている振動腕部23,24の先端角部から僅かに内側寄りに設定したが、先端角部に設定してもよい。このように、前記レーザ加工部32は、調整する周波数幅に応じて任意に設定することができる。
【0033】
音叉型の圧電振動子は、図1に示した形態の他に、例えば、図5(a),(b),(c)に示したように、基部42a,42b,42cや振動腕部43a,43b,43cの先端部分の形状が異なるものがある。このような各種形態の音叉型の圧電振動子41a,41b,41cであっても、振動腕部の先端部分に周波数調整領域44a,44b,44cを設定し、この周波数調整領域に対して、前記粗調整工程及び微調整工程を施すことによって、発振周波数を目標周波数に精度よく適合させることができる。なお、前記振動腕部が3本以上備えた構造の音叉型の圧電振動子であっても同様である。
【0034】
本発明による周波数の調整方法は、音叉型以外の厚みすべり振動や幅縦振動や長さ縦振動など、あらゆる圧電振動子にも応用可能である。例えば、輪郭振動系の圧電振動子であれば、振動板輪郭部の質量付加除去が周波数調整に有効であるため、輪郭部に重り電極を付加し、レーザビームによる粗調整工程、その後の第2電極形成及びイオンビームによる微調整工程を適用することによって、発振周波数を精度よく且つ容易に調整することができる。
【0035】
図6(a)は幅縦振動を生じさせる幅縦振動型の圧電振動子51を示したものである。この圧電振動子51は、長方形状の圧電振動部53と、この圧電振動部53の対向する短辺側を支持する一対の支持腕部52とを有して形成されている。前記圧電振動部53における周波数調整領域54は、対向する長辺に沿って設定され、ここに前記粗調整工程及び微調整工程が施される。
【0036】
図6(b)は長さ縦振動を生じさせる長さ縦振動型の圧電振動子61を示したものである。この圧電振動子61は、縦長形状の圧電振動部63と、この圧電振動部63の対向する長辺側を支持する一対の支持腕部62とを有して形成されている。前記圧電振動部63における周波数調整領域64は、対向する短辺に沿って設定され、ここに前記粗調整工程及び微調整工程が施される。
【0037】
図7は前記幅縦振動と長さ縦振動を結合させた幅縦長さ縦振動型の圧電振動子71における発振周波数の調整工程を示したものである。この圧電振動子71は、励振電極が表面に形成された矩形状の圧電振動部73と、この圧電振動部73の対向する短辺側を支持する支持腕部72とを有して形成されている(a)。前記圧電振動部73の各辺に沿って、励振電極の表面に第1の金属膜31を形成する(b)。この第1の金属膜31の表面にレーザ光の照射によって一部を蒸発させたレーザビーム痕35を形成する(c)。前記レーザビーム痕35を覆うようにして第2の金属膜33を形成し、この第2の金属膜33をイオンビームの照射によって、目標周波数となるように厚みを調整する(d)。
【0038】
図6及び図7に示した圧電振動子は、輪郭振動系に属しているが、この輪郭振動系には上記以外にもラーメモード振動、幅滑り振動などがある。このようなラーメモード振動や幅滑り振動を生じさせる圧電振動子であっても、圧電振動部の各辺の近傍に周波数調整領域を設けて、粗調整工程及び微調整工程を施すことで、発振周波数の調整精度を高めることができる。なお、前記周波数調整領域は、屈曲振動系及び輪郭振動系のいずれの圧電振動子であっても、図示した箇所に限定されることはなく、このうちの最低1か所以上に設ければよく、発振周波数の調整幅に応じて適宜設定される。このような調整工程を経て形成された圧電振動子は、設定された目標周波数で変動のない安定した発振周波数を得ることができる。
【0039】
また、最終調整もイオンビームに限らず、たとえばφ1〜5μmのような超微細レーザトリミングなどでは金属屑も発生せず調整後にも良好な特性が保持できるが、このような場合にも第2の金属膜を形成することで、周波数粗調整時に発生する金属屑を固着させる効果があり、適用可能である。
【0040】
以上説明したように、本発明の圧電振動子の製造方法によれば、振動腕部の表面に所定厚みに形成した第1の金属膜をレーザビームの照射によって一部を蒸発除去させることで発振周波数の粗調整を行うことができる。また、前記第1の金属膜の表面に第2の金属膜を被せて所定厚みに形成することによって、発振周波数を目標周波数に略一致させるような微調整を行うことができる。また、前記第2の金属膜を第1の金属膜上に被せることで、レーザビームの照射によって生じる第1の金属膜に生じたレーザビーム痕を保持することができるとともに、後の微調整に要する調整範囲を絞り込むことができるので、精度の高い周波数調整を行うことが可能となった。
【0041】
また、本発明の圧電振動子によれば、質量及び厚みが調整された第1の金属膜及び第2の金属膜によって、振動腕部の質量が目標周波数に合わせて設定されているため、発振周波数を安定した状態で長期間維持させることができる。
【符号の説明】
【0042】
C,C´ 周波数調整領域
F 発振周波数
f0 目標周波数
21 圧電振動子
22 基部
23,24 振動腕部(圧電振動部)
25,26 支持腕部
27,28 溝部
29,30 励振電極
31 第1の金属膜
32 レーザ加工部
33 第2の金属膜
34 金属屑
35 レーザビーム痕
41a,41b,41c 圧電振動子
42a,42b,42c 基部
43a,43b,43c 振動腕部(圧電振動部)
44a,44b,44c 周波数調整領域
51,61,71 圧電振動子
52,62,72 支持腕部
53,63,73 圧電振動部
54,64,74 周波数調整領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
励振電極が形成された圧電振動部に周波数調整領域を設けることによって、前記圧電振動部の発振周波数を所定の目標周波数に調整する圧電振動子の製造方法において、
前記周波数調整領域に第1の金属膜を形成した後、この第1の金属膜にレーザビームを照射することによって前記発振周波数を粗調整する粗調整工程と、
前記粗調整された第1の金属膜の表面に第2の金属膜を形成した後、この第2の金属膜にイオンビームを照射することによって前記発振周波数を目標周波数に向けて微調整する微調整工程とを備えることを特徴とする圧電振動子の製造方法。
【請求項2】
前記粗調整工程は、前記第1の金属膜を形成することで、前記発振周波数を前記目標周波数より低い周波数帯にシフトさせる工程と、
前記第1の金属膜にレーザビームを照射することで、前記発振周波数を前記目標周波数より高い周波数帯にシフトさせる工程とを備えた請求項1に記載の圧電振動子の製造方法。
【請求項3】
前記微調整工程は、前記第1の金属膜の表面に第2の金属膜を形成することによって、前記粗調整工程で調整された発振周波数を前記目標周波数より低い周波数帯にシフトさせる工程と、
前記第2の金属膜にイオンビームを照射することで、前記発振周波数を前記目標周波数に向けてシフトさせる工程とを備えた請求項1又は2に記載の圧電振動子の製造方法。
【請求項4】
前記周波数調整領域は、前記圧電振動部の先端部に設けられる請求項1に記載の圧電振動子の製造方法。
【請求項5】
励振電極が形成された圧電振動部に周波数調整領域を有する圧電振動子において、
前記周波数調整領域は、質量を調整するためのレーザビーム痕が形成された第1の金属膜と、
該第1の金属膜の表面に形成され、前記レーザビーム痕を被覆するとともに、イオンビームの照射によって所定の周波数となるように厚みが調整された第2の金属膜とからなることを特徴とする圧電振動子。
【請求項6】
前記周波数調整領域は、前記圧電振動部の先端部に設けられる請求項5に記載の圧電振動子。
【請求項7】
前記圧電振動部は、屈曲振動を発生させる音叉型の一対の振動腕部を有し、この一対の振動腕部の先端に前記周波数調整領域が設けられる請求項5に記載の圧電振動子。
【請求項8】
前記圧電振動部は、幅縦振動、長さ縦振動、幅縦長さ縦結合振動又はラーメ振動のいずれかを発生させる振動板を有し、この振動板の辺の近傍に前記周波数調整領域が設けられる請求項5に記載の圧電振動子。
【請求項9】
前記第2の金属膜は、1500Å以上の厚みに設定される請求項5に記載の圧電振動子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−171902(P2011−171902A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32312(P2010−32312)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000237444)リバーエレテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】