説明

地盤改良材および大断面トンネルの構築方法

【課題】 圧縮性能と曲げ性能、靭性性能を備え、可使時間を長くするとともに必要に応じて早期強度の発現を可能とした地盤改良材と、かかる地盤改良材を使用することによって、小断面トンネル間を繋ぐ際の施工安全性とその工期の短縮化を図ることが可能となる大断面トンネルの構築方法を提供すること。
【解決手段】 主材と硬化剤からなる地盤改良材において、主材は、圧縮性能と曲げ性能を備えたセメント系固化材と、主材に流動性能を付与するとともにブリージングを防止するための微粒子からなる助材と、主材の可使時間を長くするための安定剤と、主材のゲルタイムを調整するための調整材と、靭性性能を高めるための繊維補強材から構成されている。小断面トンネル1a〜1fの外周の地盤改良体2を相互にラップさせながら外郭の構造体を構築し、内部を掘削して大断面トンネルが構築される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良材と、該地盤改良材を使用してなる大断面トンネルの構築方法に係り、特に、圧縮性能と曲げ性能、靭性性能を備え、可使時間を長くするとともに必要に応じて早期強度の発現を可能とした地盤改良材と、かかる地盤改良材を使用することによって、小断面トンネル間を繋ぐ際の施工安全性とその工期の短縮化を図ることが可能となる大断面トンネルの構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に都市部を中心に地下空間の利用は活性化の一途を辿っており、地下道や地下鉄路線、ガスや上下水道用のトンネルをはじめとするインフラ施設は勿論のこと、アミューズメント施設や居住空間としての巨大地下空間の開発も進んでいる。かかる地下施設の建設に際しては、これまで、地上を広範にわたって占有し、開削工法にて所望深度までの掘削を完了した後にトンネルの敷設や構造物の建設がおこなわれていた。かかる開削工法により、地上交通への影響や開削による周辺地盤への影響などが大きな問題となっており、かかる問題を解決する地下トンネル/地下構造物の構築方法としてシールド工法や推進工法が現在の主流な工法となってきている。
【0003】
近年、シールドトンネルの大断面化が進んでいる。これは、上記するように地下空間利用の多様化/大規模化のほかに、地下の本線道路へランプトンネルが合流することによるトンネル拡張などに伴うものである。ところで、大断面トンネルを大断面の面盤を有する1台のシールドマシンにて一気に構築することは、シールドマシンの製作コストの高騰と、トンネル断面の多様な変化に対応が困難であるなどの理由から、複数の小断面トンネルを地盤内に併設施工し、小断面トンネル間を繋ぐことによって大断面トンネルを構築する方法が多用されるようになってきている。かかる施工方法として、例えば、大断面トンネルの外郭部を複数の小断面の矩形断面単体シールドマシンにより先行掘削し、それらを相互に連結しながら外郭部をRC構造の壁体で包囲し、その後に、汎用機械にて内部掘削をおこなうことで大断面トンネルを完成させる、MMST工法(Multi Micro Shield Tunnel method)などが知られている。かかるシールド工法においては、それが小断面トンネルの単体施工の場合には、シールドマシンの掘進に伴い発生するテールボイドに裏込め材を注入/充填することにより、周辺地盤の変状防止や、トンネルの止水性の向上を図っているし、記述する大断面トンネルの場合には、各小断面トンネルにおけるテールボイドへの裏込め注入に加えて、小断面トンネル間の対向する壁面に跨るように地盤改良がなされている。ここで、シールド工法における裏込め注入(地盤改良)は、主材と硬化剤からなる裏込め材を地上のプラントからトンネル内に設けた各々の配管を通してポンプにて注入孔付近まで圧送し、注入直前に混合させる、2液型の注入工法が一般的である。大断面トンネルの構築に際しては、併設する小断面トンネル間の対向壁面間に跨るように双方の小断面トンネル内部から裏込め材を地盤内に注入硬化させ、小断面トンネル間への外部からの漏水や外部地盤の崩落を一時的に回避しながらトンネル間の掘削をおこない、トンネル同士を接続している。
【0004】
従来の上記裏込め材は、周辺地盤の変状防止、すなわち、地盤の沈下などに対する圧縮強度や止水性のみが重視されており、かかる材料に曲げ強度や靭性性能が備えられていないものが一般的である。したがって、上記するように、大断面トンネル構築時の小断面トンネル間を繋ぐ際に、特にトンネル間距離がある程度長くなると、裏込め材(地盤改良材)には土被り圧によって曲げ荷重が作用することとなるため、従来の裏込め材では、かかる土被り圧を軽減するための別途の地盤改良工事などが余儀なくされ、工期の長期化と施工コストの高騰に繋がっていた。小断面トンネル間の離隔を長く取ることにより、シールドマシンによる掘進回数を低減することができるが、かかる離間が長くなることで、該離間を掘削しながら小断面トンネル間を繋ぐ作業の安全性の確保が困難な状況となる。
【0005】
複数の小断面トンネルを繋ぎながら大断面トンネルを構築する方法に関しては、従来様々な発明が開示されており、例えば、以下に示す特許文献1,2などがある。特許文献1には、本出願人によって開示された大断面トンネルの施工方法に係る発明が開示されている。これは、大断面トンネルの構築に先行して外郭部にシールド工法による小断面トンネルを列状に配置するものであり、面盤の一部が併設トンネルに嵌合可能な形状に切り欠かれたシールドマシンを使用することで小断面トンネルを順次ラップさせながらリング状に小断面トンネルを配設していく方法である。ここでは、最後に繋がる小断面トンネル間に離間が設けられ、かかる離間に地盤改良材を充填硬化させ、双方のトンネル間を繋ぐようになっている。本発明では、一部をラップさせながら小断面トンネルを併設施工していくため、小断面トンネルによる掘進回数が増大し、工期の長期化に繋がってしまうという問題がある。また、特許文献2に開示の大断面トンネルの構築方法は、3連の面盤式カッターとその隅角部に配設された小型の面盤式カッターを備え、さらに、余掘り用のストローク式ドラムカッターを外側4隅に設け、シールドマシンの掘進に応じて、該ドラムカッターのフード後方から地盤改良材を充填硬化させることによって小断面トンネルを構築していく。この地盤改良部を再掘削するように併設する小断面トンネルを構築し、かかる施工を繰り返すことにより、大断面トンネルの外郭部を構築するものである。
【特許文献1】特開2000−310100号公報
【特許文献2】特開平10−8886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の大断面トンネルの施工方法では、一部をラップさせながら小断面トンネルを併設施工していくため、小断面トンネルによる掘進回数が増大し、工期の長期化に繋がってしまうという問題がある。また、小断面トンネル間を連通する際には別途の地盤改良が必要になってくるが、かかる地盤改良材に関する具体的な説明はなく、既述するように、原地盤内に注入されることにより、圧縮強度の高い地盤改良材(裏込め注入材)が使用されることが想定される。また、特許文献2に開示の大断面トンネルの構築方法においても、小断面トンネル間の地盤に注入される地盤改良材として、通常のセメント系硬化材等の使用に関する記載がある。したがって、地盤改良材の有する性能として、圧縮性能は勿論のこと、曲げ性能や靭性などを期待することはできず、したがって、1つの地盤改良施工にて、一気に長い小断面トンネル間の離間を安全に掘削できるような地盤の改良をおこなうことはできない。すなわち、トンネル間の離間が長くなるにつれて、地盤改良体には圧縮力のみならず、曲げが作用するし、かかる曲げによって掘削作業時に改良体が脆性的な破壊を生じないためには、地盤改良体に所要の靭性性能も要求されることとなる。
【0007】
本発明の地盤改良材は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、シールドトンネルの構築や、地盤改良材を有する基礎工事において、その圧縮性能のみならず、曲げ性能や靭性性能を有することによって、該地盤改良材によって改良された地盤改良体の様々な性能を向上でき、結果として施工安全性と工程の短縮、施工コストの低減を図ることのできる地盤改良材を提供することを目的としている。また、本発明の大断面トンネルの構築方法は、該大断面トンネルを構成する隣接小断面トンネル間に上記の地盤改良材を適用することにより、小断面トンネル間を接続する際の掘削施工の安全性を高め、さらには別途の地盤改良材の適用を無用とすることで施工コストの低減と、工期の短縮を図ることのできる大断面トンネルの構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による地盤改良材は、硬化することによって強度を発現する主材と、該主材の硬化を促進させる硬化剤と、からなる地盤改良材であって、前記主材は、圧縮性能と曲げ性能を備えたセメント系固化材と、主材に流動性能を付与するとともにブリージングを防止するための微粒子からなる助材と、主材の可使時間を長くするための安定剤と、主材のゲルタイムを調整するための調整材と、からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の地盤改良材は各種の地盤改良工事に適用できるが、強度を発現する主材の可使時間を可及的に長くする必要があり、主材の硬化(強度発現)を可及的に短時間でおこなわせる地盤改良工事への適用に特に好適である。かかる地盤改良工事の代表例がシールド工法である。主材を硬化させることなく注入孔付近まで圧送させるためにはその流動性能や可使時間の長さが要求されるし、シールドマシンの掘進に伴って生じるテールボイドには充填された裏込め材(地盤改良材)が速やかに硬化して強度発現することが重要である。作液した主材と硬化剤をシールドマシンのスキンプレート部分(セグメントとの境界)まで別々にポンプ圧送し、注入直前でミキシング装置で混合、ゲル化させてセグメントと地山の隙間に充填することができる。
【0010】
本発明の地盤改良材は、主材として、従来一般に要求されていた圧縮性能に加えて曲げ性能を備えたセメント系固化材を使用する。これは、従来のように一軸強度(圧縮強度)のみが卓越していた固化材ではなく、この一軸強度を抑えることで、相対的に曲げ強度を高くすることにより、圧縮性能と曲げ性能の双方を備えた固化材である。また、セメント系固化材の流動性を確保しながらブリージングを防止するための助材として、適宜の粘土鉱物微粒子を主材の成分とする。さらに、セメント系固化材の可使時間を長くするための安定剤として、適宜の遅延/分散効果のある材料を使用する。また、セメント系固化材のゲルタイム調整用の適宜の調整材も主材の成分とする。ここで、各材料の成分比率は、所望可使時間やゲルタイム、さらには所望の圧縮性能や曲げ性能となるようにそれぞれの成分を適宜の割合で混合すればよい。
【0011】
また、本発明による地盤改良材の他の実施形態において、前記セメント系固化材は、石膏が混入されたスラグ系固化材からなり、前記助材は、ベントナイトからなり、前記安定剤は、オキシカルボン酸系材料からなり、前記調整材は、消石灰の繊維材からなることを特徴とする。
【0012】
曲げ性能の向上により、例えば、2つの小断面トンネル間に地盤改良材を注入硬化させてトンネル間の掘削をおこなう際に、トンネル同士の離間を長くしても、該地盤改良材に生じ得る曲げモーメントに抗し得る改良体を造成することができる。なお、かかる施工に際しては、鋼板など、適宜の支保工を地盤改良体の下部に配設することで、圧縮強度の低下や所要曲げ耐力に対する強度不足分を担保すればよい。また、曲げ性能を有する本発明の地盤改良材をSMW工法などのソイルセメント柱列壁として適用することもできる。ソイルセメント柱列壁は、例えば断面円形のソイルセメント柱体同士を一部ラップさせながら構築するものであり、1つまたは2つおきに柱体内にI型鋼やH型鋼からなる芯材を埋設したものである。ここで、従来のソイルセメント柱体にはせん断耐力のみが期待され、曲げ性能が期待できないことから、芯材はせいぜい2つの柱体を飛ばすに留まっていた。このソイルセメント柱体自体に曲げ性能が付与されることにより、芯材の埋設ピッチ間隔をさらに長くすることができるため、工費の低減や工期の短縮を図ることに繋がる。
【0013】
助材としては、ベントナイトを使用することができ、安定剤としては、オキシカルボン酸系材料を使用することができる。さらに、調整材として消石灰を使用し、該消石灰の量を変化させることにより、主材の温度を調整することで所望のゲルタイムを得ることが可能となる。ゲルタイムを例えば瞬結から中結まで調整することで、地盤内の亀裂や割れ目への地盤改良材の逸走を防止でき、所望の設計改良範囲内への限定注入が可能となる。
【0014】
また、本発明による地盤改良材の他の実施形態において、前記硬化剤が、特殊水ガラスからなることを特徴とする。
【0015】
特殊水ガラスを使用することにより、地盤改良材の瞬結性を得ることができることは勿論のこと、例えばウレタン系の硬化剤に比して、環境負荷への軽減を図ることが可能となる。
【0016】
また、本発明による地盤改良材の他の実施形態において、前記主材には繊維補強材がさらに混入されており、その靭性性能が高められていることを特徴とする。
【0017】
繊維補強材は特に限定するものではないが、例えば、鋼繊維や炭素繊維、ガラス繊維、高強度樹脂繊維など、適宜の繊維材料を使用することができる。なお、繊維材料の選定に際しては、ミキサーによる練り混ぜ時に配管等が閉塞しないような分散性の良好な材料であることが望ましい。繊維補強材が混入されることでセメント系固化材の曲げ性能はさらに向上し、引張強度も高められ、結果として靭性性能を向上させることができる。
【0018】
また、本発明による地盤改良材の他の実施形態において、前記繊維補強材が、親水性能を有するビニロン系繊維からなることを特徴とする。
【0019】
ビニロン系繊維はセメント系固化材との間で高い付着強度を有することから、地盤改良材の引張強度や靭性性能を効果的に高めることに繋がる。ビニロン系繊維としては、繊維径が10〜50μm程度、繊維長が数mm〜20mm程度、繊維破断強度は、1000〜1500MPa程度の材料を使用することができる。親水性能の良好なビニロン系繊維を使用することで、繊維補強材が主材から分離して配管を閉塞させる可能性を軽減することができる。
【0020】
また、本発明による大断面トンネルの構築方法は、小断面トンネル間に間隔を置いて、または小断面トンネル同士を一部ラップさせながら複数の小断面トンネルを地盤内に構築し、対向する小断面トンネル同士の壁面間に跨るように該壁面周辺に地盤改良材を充填硬化させ、壁面間を繋ぐことによって大断面トンネルを構築する大断面トンネルの構築方法であって、前記地盤改良材は、硬化することによって強度を発現する主材と、該主材の硬化を促進させる硬化剤と、からなり、前記主材は、圧縮性能と曲げ性能を備えたセメント系固化材と、主材に流動性能を付与するとともにブリージングを防止するための微粒子からなる助材と、主材の可使時間を長くするための安定剤と、主材のゲルタイムを調整するための調整材と、主材の靭性性能を高めるための繊維補強材と、からなることを特徴とする。
【0021】
本発明は、例えば、既設の地下本線トンネルにランプトンネルなどが分合流することによって形成される断面拡張区間の構築や、矩形または円形断面の単体シールドトンネルを左右/上下に複数併設施工し、それらを相互に繋ぎ、本設の大断面トンネルに支障となるセグメントを解体撤去することによって構築される大断面トンネルなどが実施例として挙げられる。例えば、相互に併設する小断面トンネル間に離隔をもった姿勢で小断面トンネルを構築し、かかる離隔部に既述する地盤改良材を小断面トンネル内部から注入する。本発明の地盤改良材は、曲げ性能や靭性性能を備えていることから、地盤改良体にて包囲された離隔部の掘削施工時の施工安全性を高めることができ、したがって、可及的に小断面トンネル間の離隔を長くすることが可能となる。この際、鋼板などの支保部材を適宜併用することもできる。
【0022】
また、本発明による大断面トンネルの構築方法の他の実施形態は、小断面トンネル間に間隔を置いて、または小断面トンネル同士を一部ラップさせながら複数の小断面トンネルを地盤内に構築し、対向する小断面トンネル同士の壁面間に跨るように該壁面周辺に地盤改良材を充填硬化させ、壁面間を繋ぐことによって断面視の外郭形状が矩形状または円形状または楕円状の覆工体となるトンネル構造体を形成し、該トンネル構造体内に充填材を充填することによってトンネル構造体を構築し、該トンネル構造体内の地盤の全部または一部を掘削することによって大断面トンネルを構築する大断面トンネルの構築方法であって、前記地盤改良材は、硬化することによって強度を発現する主材と、該主材の硬化を促進させる硬化剤と、からなり、前記主材は、圧縮性能と曲げ性能を備えたセメント系固化材と、主材に流動性能を付与するとともにブリージングを防止するための微粒子からなる助材と、主材の可使時間を長くするための安定剤と、主材のゲルタイムを調整するための調整材と、主材の靭性性能を高めるための繊維補強材と、からなることを特徴とする。
【0023】
本発明は、既述するMMST工法のような大断面トンネルの外郭部分を小断面トンネルを列状に併設施工することによって構築し、この外郭部分の内部空間にモルタルやコンクリートなどの充填材を充填したり、外郭部分の内部空間に配筋を施した姿勢でコンクリートを充填(RC構造)し、その後に外郭内部の地盤を掘削することによって大断面トンネルを構築するものである。ここで、外郭内部の地盤を全て掘削する場合には、コンクリートなどが充填された外郭部分がトンネル構造体となるし、外郭内部を一部掘削することによって大断面トンネルを構築する場合には、外郭部分はあくまでも覆工体の役割を担うこととなる。小断面トンネルをシールド工法にて施工する際に、小断面トンネルのテールボイドに比較的広範囲にわたって地盤改良材を充填(裏込め注入)し、地盤改良体を隣接する小断面トンネル構築用のシールドマシンが切削しながら小断面トンネルを構築していくことができる。この際に、本発明の地盤改良材を使用することで、小断面トンネル間の離隔を可及的に長くすることができ、施工安全性を確保した状態で、構築する小断面トンネルの数を低減することが可能となる。
【0024】
さらに、本発明による大断面トンネルの構築方法の他の実施形態において、前記セメント系固化材は、石膏が混入されたスラグ系固化材からなり、前記助材は、ベントナイトからなり、前記安定剤は、オキシカルボン酸系材料からなり、前記調整材は、消石灰からなり、前記硬化剤は、特殊水ガラスからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の地盤改良材によれば、圧縮性能に加えて曲げ性能や靭性性能を備えた地盤改良材であるため、ソイルセメント柱列式の山留め壁やシールドトンネルのテールボイド、さらには大断面トンネルの構築に際して構築される併設小断面トンネル間などにそれぞれ充填されることにより、他の地盤改良などを不要とでき、施工コストの低減と工期の短縮を図ることができる。また、本発明の地盤改良材を使用してなる大断面トンネルの構築方法によれば、圧縮性能と曲げ性能、靭性性能を備えた地盤改良材によって地盤改良体が造成されるため、併設する小断面トンネル間の離間を可及的に長くすることが可能となり、さらには該離間を掘削する際の施工安全性を十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜7は、大断面トンネルの構築方法の一実施形態を示した断面図であり、順にその施工手順を示した図である。図8は、大断面トンネルの構築方法の他の実施形態を示した断面図を、図9は、図8のIX部拡大図を、図10は、大断面トンネルの構築方法のさらに他の実施形態を示した断面図をそれぞれ示したものである。なお、本発明の地盤改良材は、図示する大断面トンネルの構築方法以外にも、ソイルセメント柱列壁などの山留め壁やその他の地盤改良施工に適用できることは勿論のことである。
【0027】
以下の施工実施例にて使用する地盤改良材について、まず説明する。地盤改良材としては、ビニロン系の繊維補強材を主材に混入するタイプと、混入しないタイプに大別でき、そのどちらを使用してもよいが、該地盤改良材によって製造される地盤改良体の靭性や曲げ強度の向上を図る観点からすれば、繊維補強材を混入したタイプを使用するのが好ましい。また、いずれの地盤改良材も、主材と硬化剤とを地盤注入直前にミキシング装置で混合することによって製造される。
【0028】
まず、繊維補強材が主材に混入されていないタイプの地盤改良材(以下、タイプAとする)の成分組成について説明する。主材は石膏を加えたスラグ系のセメント系固化材と、高品質のベントナイト微粒子からなる助材と、オキシカルボン酸系材料からなる安定剤と、高品質の消石灰の繊維材からなる調整材から構成される。例えば、固化材を250kg、助材を80kg、調整材を8kg、安定剤を3リットルとし、これらを880リットルの水に混入することによって主材が製造される。なお、かかる配合の主材は、Pフロート法によるフロー値が8〜11秒の範囲となる。一方、硬化剤は特殊水ガラスからなり、上記配合の主材に対して、硬化剤を90リットル混ぜ合わせることにより地盤改良材が製造される。かかる配合の地盤改良材においては、ゲルタイムが10〜20秒、ブリージング率が1時間で3%以内となる。さらに、地盤改良材の強度特性については、1時間後の一軸圧縮強度が0.2kgf/cm以上、28日強度が30kgf/cm以上となる。また、4×4×16(cm)の角柱供試体による曲げ試験によると、その28日曲げ強度は6.7kgf/cm以上を得ることができる。
【0029】
次に、繊維補強材が主材に混入されたタイプの地盤改良材(以下、タイプBとする)の成分組成について説明する。主材の配合はタイプAと同じであるが、安定剤を混入しない実施例もある。タイプBは主材に混入される繊維補強材の混入量によって、さらにタイプB1〜タイプB4までの4種類を製造することができる。ここで、使用されるビニロン系の繊維補強材は、以下の表1のタイプを使用することができる。
【0030】
【表1】

【0031】
タイプB1の主材には繊維補強材が2kg、タイプB2の主材には4kg、タイプB3の主材には5kg、タイプB4の主材には6kgがそれぞれ混入されている。すべてのタイプのゲルタイムは25〜30秒である。それぞれのタイプの地盤改良材からなる10×10×40(cm)の角柱供試体による圧縮強度と曲げ強度試験結果を以下に示す。
【0032】
タイプB1では、圧縮強度(3日)が40.6kgf/cm、曲げ強度(3日)が9.5kgf/cm、圧縮強度(28日)が48.4kgf/cm、曲げ強度(28日)が7.6kgf/cmであった。タイプB2では、圧縮強度(3日)が39.9kgf/cm、曲げ強度(3日)が9.1kgf/cm、圧縮強度(28日)が59.5kgf/cm、曲げ強度(28日)が8.8kgf/cmであった。タイプB3では、圧縮強度(3日)が36.2kgf/cm、曲げ強度(3日)が6.4kgf/cm、圧縮強度(28日)が50.9kgf/cm、曲げ強度(28日)が11.0kgf/cmであった。タイプB4では、圧縮強度(3日)が36.8kgf/cm、曲げ強度(3日)が8.8kgf/cm、圧縮強度(28日)が51.7kgf/cm、曲げ強度(28日)が10.2kgf/cmであった。今回の実施例における配合では、繊維補強材を5kg程度混入した主材とすることで、高い曲げ強度を有する地盤改良材が製造できることとなる。
【0033】
次に、上記する曲げ性能(および靭性性能)を有する地盤改良材を使用する施工実施例について説明する。まず、図1〜図7は、矩形断面の小断面シールドトンネルを間隔を置いて列状に構築し、該小断面シールドトンネル間を繋いで大断面トンネルの外郭部となる構造体を構築し、その内部を掘削することによって大断面トンネルを構築する施工方法を説明したものである。これは、既述するMMST工法(Multi Micro Shield Tunnel method)に相当するものである。この工法では、シールドマシンのテール部からの裏込め注入に際し、地盤改良範囲を拡張することによって可及的に小断面シールドトンネル間の離間を長くすることが望ましい。ここで、地盤改良材に要求される性能としては、1)テールボイドに充填されて地表面沈下を最小限に抑えるために、ゲルタイムとして5〜20秒、可塑状態保持時間として15〜40分程度、初期の圧縮強度として1時間一軸圧縮強度が0.2〜0.8kgf/cm程度であること、2)地盤改良体は後行のシールドマシンにて切削されることによって小断面シールドトンネル間に地盤改良体による止水や土留め壁が構築されることとなる。したがって、シールドマシンによって切削可能な適度の強度を有していることが必要であり、長期の一軸圧縮強度が30〜50kgf/cm程度であること、3)小断面シールドトンネル間を掘削する際の地盤改良体による曲げ強度として、長期の所要曲げ強度を4.5kgf/cmに安全率:1.5を見込んで、6.7kgf/cm以上とすること、などの条件を満足することを要する。上記する本発明の地盤改良材の実施例では、いずれのタイプの地盤改良材も上記の条件を満足するものである。
【0034】
図1では、まず、3連式の横長のシールドマシンaにて鋼殻の小断面トンネル1aを構築する。この際、シールドマシンaのテール部より地盤改良材を注入し、地盤改良体2をトンネルの外周に造成していく。なお、小断面トンネル1aのうち、次に構築される小断面トンネルと対向する側の側壁隅角部には、改良範囲が拡張された地盤改良体2,2を造成しておく。
【0035】
次に、図2に移り、後行の3連式シールドマシンaにて併設する小断面トンネル1bを構築する。かかるトンネルの外周にも地盤改良体2を造成するが、先行の小断面トンネル1a外周の地盤改良体2とその一部がラップするように(ラップ部2a)地盤改良体2を造成していく。
【0036】
地盤改良体2が所要の強度を発現した後に、双方のトンネルの対向する壁を解体/撤去し、必要に応じて鋼板などの支保工3を設置しながら地盤の掘削をおこない、双方のトンネル間を連通させる。
【0037】
次に、図4に移り、小断面トンネル1a,1bを繋いだ部分(鋼殻のない部分)には、他の部分に比して剛性が低いため、繋ぎ補強用の鉄筋4,4,…を配筋した姿勢でコンクリート5を充填する。かかる施工と並行するように、大断面トンネルの側壁を構成する小断面トンネル1cを構築し、該トンネル外周に造成される地盤改良体2の一部を小断面トンネル1b外周の地盤改良体2との間でラップ部2aを形成するように造成する。図5に移り、小断面トンネル1b、1c間を連通させるとともに、他方の側壁を構成する小断面トンネル1dも同様に構築し、小断面トンネル1a,1d間も同様に連通させる。
【0038】
図6に移り、大断面トンネルを構成する上床スラブを構成する小断面トンネル1e,1fを下床スラブを構成する小断面トンネル1a,1bと同じように構築し、側壁部の小断面トンネル1c、1d外周の地盤改良体2との間でラップ部2aを形成させながら地盤改良体2の造成をおこなう。また、かかる小断面トンネルの構築に並行して、下床スラブ〜側壁にかけてコンクリート5の充填をおこなっていく。この際、小断面トンネル間を繋ぐ部分には、上記するように適宜配筋をおこなっておく。
【0039】
図7に移り、すべての小断面トンネル間を連通させるとともに、小断面トンネル間にコンクリート5を充填硬化させることにより、大断面トンネルの外郭の構造体が構築される。その後、内部(図6におけるG1)をバックホーなどによって掘削していき、大断面トンネル10が完成することとなる。このように、小断面トンネル間に地盤改良体を造成し、トンネル間を連通させながら大断面トンネルの外郭構造体を形成する際に、本発明の地盤改良材を使用することで、小断面トンネル間の離隔を可及的に長くすることが可能となる。したがって、トンネル間の掘削施工時の安全性も十分に確保しながら、小断面トンネルの断面寸法の小型化や小断面トンネルの構築数量の低減などを図ることが可能となる。
【0040】
図8は、大断面トンネルの構築方法の他の実施形態を示したものである。これは、断面円形でその内部に隔壁を有する小断面トンネル1g、1g、…をその一部同士でラップさせながら大断面トンネル構築用の覆工体を構築し、かかる覆工体に土圧を支持させた姿勢で、覆工体内部に大断面トンネル20a,20bを構築するものである。図9は、覆工体の一部を拡大した図であるが、小断面トンネル1gを構成する隔壁1g1にて小断面トンネルの構造体の剛性を確保させ、ラップする小断面トンネル1g、1g間に跨るように地盤改良体2が造成されている。小断面トンネル1g、1g間に跨るように、止水性と曲げ性能、圧縮性能に優れた地盤改良体2が造成されることにより、覆工体内が掘削された後も該覆工体の有する強度と靭性性能により、内部の大断面トンネル20a,20bを外部地盤から防護することができる。
【0041】
また、図10には、大断面トンネルの構築方法のさらに他の実施形態が示されている。ここでは、断面が台形の外側の鋼殻1h1と、その内部の中空断面のコンクリート体1h2から構成される小断面トンネル1hを側壁同士を係合させながら覆工体を構築し、該覆工体の内部に大断面トンネル30を構築するものである。かかる大断面トンネルの構築方法においても、小断面トンネル1h、1h間に跨る高強度で靭性性能を有する地盤改良体2により、覆工体の強度や靭性、止水性が十分に確保されることとなる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】大断面トンネルの構築方法の一実施形態を示した断面図であり、その施工手順を示した図。
【図2】図1に続く施工手順を示した図。
【図3】図2に続く施工手順を示した図。
【図4】図3に続く施工手順を示した図。
【図5】図4に続く施工手順を示した図。
【図6】図5に続く施工手順を示した図。
【図7】図6に続く施工手順を示した図。
【図8】大断面トンネルの構築方法の他の実施形態を示した断面図。
【図9】図8のIX部拡大図。
【図10】大断面トンネルの構築方法の他の実施形態を示した断面図。
【符号の説明】
【0044】
1a,1b,1c,1d,1e,1f、1g、1h…小断面トンネル、1g1…隔壁、1h1…鋼殻、1h2…コンクリート体、2…地盤改良体、2a…ラップ部、3…支保工、4…鉄筋、5…コンクリート、10、20a,20b,30…大断面トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化することによって強度を発現する主材と、該主材の硬化を促進させる硬化剤と、からなる地盤改良材であって、
前記主材は、圧縮性能と曲げ性能を備えたセメント系固化材と、主材に流動性能を付与するとともにブリージングを防止するための微粒子からなる助材と、主材の可使時間を長くするための安定剤と、主材のゲルタイムを調整するための調整材と、からなることを特徴とする地盤改良材。
【請求項2】
前記セメント系固化材は、石膏が混入されたスラグ系固化材からなり、前記助材は、ベントナイトからなり、前記安定剤は、オキシカルボン酸系材料からなり、前記調整材は、消石灰からなることを特徴とする請求項1に記載の地盤改良材。
【請求項3】
前記硬化剤が、特殊水ガラスからなることを特徴とする請求項1または2に記載の地盤改良材。
【請求項4】
前記主材には繊維補強材がさらに混入されており、その靭性性能が高められていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の地盤改良材。
【請求項5】
前記繊維補強材が、親水性能を有するビニロン系繊維からなることを特徴とする請求項4に記載の地盤改良材。
【請求項6】
小断面トンネル間に間隔を置いて、または小断面トンネル同士を一部ラップさせながら複数の小断面トンネルを地盤内に構築し、対向する小断面トンネル同士の壁面間に跨るように該壁面周辺に地盤改良材を充填硬化させ、壁面間を繋ぐことによって大断面トンネルを構築する大断面トンネルの構築方法であって、
前記地盤改良材は、硬化することによって強度を発現する主材と、該主材の硬化を促進させる硬化剤と、からなり、前記主材は、圧縮性能と曲げ性能を備えたセメント系固化材と、主材に流動性能を付与するとともにブリージングを防止するための微粒子からなる助材と、主材の可使時間を長くするための安定剤と、主材のゲルタイムを調整するための調整材と、主材の靭性性能を高めるための繊維補強材と、からなることを特徴とする大断面トンネルの構築方法。
【請求項7】
小断面トンネル間に間隔を置いて、または小断面トンネル同士を一部ラップさせながら複数の小断面トンネルを地盤内に構築し、対向する小断面トンネル同士の壁面間に跨るように該壁面周辺に地盤改良材を充填硬化させ、壁面間を繋ぐことによって断面視の外郭形状が矩形状または円形状または楕円状の覆工体となるトンネル構造体を形成し、該トンネル構造体内に充填材を充填することによってトンネル構造体を構築し、該トンネル構造体内の地盤の全部または一部を掘削することによって大断面トンネルを構築する大断面トンネルの構築方法であって、
前記地盤改良材は、硬化することによって強度を発現する主材と、該主材の硬化を促進させる硬化剤と、からなり、前記主材は、圧縮性能と曲げ性能を備えたセメント系固化材と、主材に流動性能を付与するとともにブリージングを防止するための微粒子からなる助材と、主材の可使時間を長くするための安定剤と、主材のゲルタイムを調整するための調整材と、主材の靭性性能を高めるための繊維補強材と、からなることを特徴とする大断面トンネルの構築方法。
【請求項8】
前記セメント系固化材は、石膏が混入されたスラグ系固化材からなり、前記助材は、ベントナイトからなり、前記安定剤は、オキシカルボン酸系材料からなり、前記調整材は、消石灰からなり、前記硬化剤は、特殊水ガラスからなることを特徴とする請求項6または7に記載の大断面トンネルの構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−316221(P2006−316221A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142714(P2005−142714)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】