説明

地震時における列車制動方法及びそのシステム

【課題】 従来のき電の停止を行わない列車制動の構成とすることで、地震が誤報であり警報キャンセル情報を受信した場合や安全が早期に確認された場合に、列車の制動を最適化することができる、地震時における列車制動方法及びそのシステムを提供する。
【解決手段】 地震時における列車制動方法において、地震計13が接続される地震検出側制御装置10を設置し、この地震検出側制御装置10の無線送信装置11から地震情報を列車1の車上搭載制御装置5の無線受信装置6へ送信し、前記地震情報に基づいて電力モード制御装置を作動させることにより、マスコンとインバータ制御装置を作動させて列車停止制御モードに切り換え、列車ブレーキ制御装置を稼働可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に列車の脱線や構造物の被害が予想される場合に行われる列車の制動について、その列車の制動方法及びそのシステムの最適化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の地震時における列車制動システムの模式図、図6は従来の電気車制御装置を示す図である。
図5において、101は列車、102はき電線、103は送電線、104は給電を行う変電所(中継所であってもよい)、105は変電所104に接続される地震計である。
また、図6に示すように、電気車制御装置は、ATC201、マスコン(主幹制御器)202、ブレーキ制御装置203、インバータ制御部204、インバータ205、電動機206、空気ブレーキ制御部207から主に構成されており、ATC201はブレーキ制御装置203と、マスコン202はブレーキ制御装置203とインバータ制御部204と、ブレーキ制御装置203はインバータ制御部204と空気ブレーキ制御部207と、インバータ制御部204はインバータ205と、インバータ205は電動機206とそれぞれ接続されている。
【0003】
そこで、マスコン202は、ブレーキ制御装置203とインバータ制御部204にノッチ指令を出力する。ブレーキ制御装置203は、マスコン202から入力されたノッチ指令に基づいて、インバータ制御部204と空気ブレーキ制御部207にブレーキ指令を出力する。インバータ制御部204はマスコン202からのノッチ指令とブレーキ制御装置203からのブレーキ指令に基づいて、インバータ205を制御する。電動機206は、インバータ205により供給される交流電力によって駆動する。ATC201は、電気車の速度が所定の速度を超えた場合にブレーキ指令をブレーキ制御装置203に出力する(下記特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−203969号公報
【特許文献2】特開2003−164004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のようなき電停止方式の列車制動システムでは、地震計105は変電所104に接続されるために、変電所内の電磁環境の悪い場所に設置しなければならず、電磁ノイズによる地震計の誤作動が懸念される。また、変電所は線路直近や道路直近であることが多く、地震計105は列車や自動車の走行に伴う地盤振動の影響を受ける。
更に、地震が発生して列車を制動するためにき電を停止した後、電気の再投入までしばらくの間、列車の運転再開ができないといった問題がある。また、この際、地震計が変電所にき電停止信号を数分程度出力し続けるため、電気の再投入が遅れるという問題もある。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、き電の停止を行わない列車制動の構成とすることで、地震情報が誤報であり警報キャンセル情報を受信した場合や安全が早期に確認された場合に、列車の制動を最適化することができる、地震時における列車制動方法及びそのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕地震時における列車制動方法において、地震計が接続される地震検出側制御装置を設置し、この地震検出側制御装置の無線送信装置から地震情報を列車の車上搭載制御装置の無線受信装置へ送信し、前記地震情報に基づいて電力モード制御装置を作動させることにより、マスコンとインバータ制御装置を作動させて列車停止制御モードに切り換え、列車ブレーキ制御装置を稼働可能にすることを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の地震時における列車制動方法において、前記列車ブレーキ制御装置は、被害推定の信頼性に対応した警報レベルに応じて列車の制動特性を変えることを特徴とする。
〔3〕地震時における列車制動システムにおいて、地震計が接続される無線送信装置を有する地震検出側制御装置と、この地震検出側制御装置からの地震情報を受信する無線受信装置を有する車上搭載制御装置と、この車上搭載制御装置に配置される電力モード制御装置と、この電力モード制御装置を作動させることにより、マスコンとインバータ制御装置を作動させて列車停止制御モードに切り換えるモード切換手段と、このモード切換手段に基づいて稼働可能にする列車ブレーキ制御装置とを具備することを特徴とする。
【0009】
〔4〕上記〔3〕記載の地震時における列車制動システムにおいて、前記列車ブレーキ制御装置は、被害推定の信頼性に対応した警報レベルに応じて列車の制動特性を変えるようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地震情報が誤報であり警報キャンセル情報を受信した場合や安全が地震発生後にごく短時間で確認された場合、列車を停止させることなく、素早く再加速させることができる。
さらに、被害推定の信頼性に対応した警報レベルに応じて列車の制動特性を変えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例を示す地震時における列車制動システムの模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す地震時における列車制動システムの車上搭載制御装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施例を示す地震時における列車制動システムの列車停止制御方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例を示す地震時における列車制動システムの列車停止復旧制御方法を示すフローチャート図である。
【図5】従来の地震時における列車制動システムの模式図である。
【図6】従来の電気車制御装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の地震時における列車制動方法は、地震計が接続される地震検出側制御装置を設置し、この地震検出側制御装置の無線送信装置から地震情報を列車の車上搭載制御装置の無線受信装置へ送信し、前記地震情報に基づいて電力モード制御装置を作動させることにより、マスコンとインバータ制御装置を作動させて列車停止制御モードに切り換え、列車ブレーキ制御装置を稼働可能にする。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す地震時における列車制動システムの模式図、図2はその列車制動システムの車上搭載制御装置のブロック図、図3はその列車制動システムの列車停止制御方法を示すフローチャート、図4はその列車停止復旧制御方法を示すフローチャートである。
【0014】
これらの図において、1は列車、2はこの列車1に給電するき電線、3は送電線、4は変電所などの給電系統である。
一方、5は車上搭載制御装置であり、5AはCPU(中央制御装置)、5Bは電力モード制御装置、5Cは電力モード制御装置5Bに接続され、被害推定の信頼性に対応した警報レベルに応じて列車の制動特性を変える制御装置、5Dは電力モード制御装置5Bと制御装置5Cに接続されるマスコン、5Eは電力モード制御装置5Bに接続されるATC、5Fはマスコン5DとATC5Eに接続される列車ブレーキ制御装置、5Gはマスコン5Dに接続されるインバータ制御装置、5Hはインバータ制御装置5Gに接続されるインバータ(列車駆動制御装置)、5Iはインバータ5Hに接続される電動機である。さらに、6は列車1に搭載される無線受信装置、7はアンテナ、10は地震検出側制御装置、11は無線送信装置、12はアンテナ、13は地震検出側制御装置10に接続される地震計、14は他の地震計と通信するための地震計通信ネットワークである。
【0015】
本発明の地震時における列車制動システムの停止制御方法を、図3を参照しながら説明する。
(1)まず、地震計13が自ら地震動を検知した場合、もしくは地震計通信ネットワーク14により他の地震計の地震情報を受信した場合、地震計13は接続されている地震検出側制御装置10にその情報を送信する(ステップS1)。
【0016】
(2)地震検出側制御装置10において、受信した地震情報を基に列車の脱線や構造物の被害が発生する可能性があるか否かを判断する。被害推定は過去の鉄道被災事例等に基づき推定する。また、被害推定の信頼性に応じて警報レベルを定める(ステップS2)。
(3)地震計13の自らの情報および地震計通信ネットワーク14により他の地震計から得られた地震情報により、列車の脱線や構造物の被害が予想される場合、地震検出側制御装置10は、列車1の車上搭載制御装置5へ地震情報を送信する。(ステップS3)。
【0017】
(4)無線受信装置6で地震情報を受信した車上搭載制御装置5は、電力モード制御装置5Bを作動させる(ステップS4)。
(5)電力モード制御装置5Bが作動することにより、マスコン5D、インバータ制御装置5Gが作動して列車停止制御モードへ切り換わる(ステップS5)。
(6)被害推定の信頼性に対応した警報レベルに応じて列車の制動特性を変える制御装置5Cに基づいてマスコン5Dから指令を出し、列車ブレーキ制御装置5Fを稼働状態とする(ステップS6)。
【0018】
次に、図4を参照しながら列車停止制御モードから通常運転へ復帰する場合を説明する。
(1)列車1の車上搭載制御装置5において、列車停止制御モードから平常モードへ復帰できるか確認する(ステップS11)。確認手段としては、列車1が走行する路線の線路の近くに設置されている地震計のリアルタイム情報を、指令にある防災情報表示システムで受信することにより行う。
【0019】
(2)平常モードへ復帰可能であることが確認できたら、列車ブレーキ制御装置5Fでブレーキを解除する(ステップS12)。
(3)次に、インバータ制御装置5Gを平常モードに戻す(ステップS13)。
(4)電力モード制御装置5Bを平常モードに戻して、インバータ制御装置5Gにより列車1の通常運転を再開する(ステップS14)。
【0020】
本発明では、地震計を必ずしも線路沿線直近に設置する必要がないので、電磁環境や列車振動、道路交通などの外部ノイズが入りにくい場所に設置することができる。また、従来のようにき電を停止するものではないので、地震情報が誤報であり警報キャンセル情報を受信した場合や安全が地震発生後にごく短時間で確認された場合、列車を停止させることなく、素早く再加速させることができる。
【0021】
本発明によれば、被害推定の信頼性に対応した警報レベルに応じて列車の制動特性を変える制御装置により、マスコンの制御に制限を加えて、列車の制動特性を変えるようにすることができる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の地震時における列車制動方法及びそのシステムは、従来のようなき電の停止を行わない構成とすることにより、地震が誤報だった場合や安全が早期に確認された場合に、列車の制動を最適化することができる、地震時における列車制動方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 列車
2 き電線
3 送電線
4 給電系統(変電所)
5 車上搭載制御装置
5A CPU(中央制御装置)
5B 電力モード制御装置
5C 運転規制を行う基準値に応じて列車の制動特性を変える制御装置
5D マスコン
5E ATC
5F 列車ブレーキ制御装置
5G インバータ制御装置
5H インバータ(列車駆動制御装置)
5I 電動機
6 無線受信装置
7,12 アンテナ
10 地震検出側制御装置
11 無線送信装置
13 地震計
14 地震計通信ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震計が接続される地震検出側制御装置を設置し、該地震検出側制御装置の無線送信装置から地震情報を列車の車上搭載制御装置の無線受信装置へ送信し、前記地震情報に基づいて電力モード制御装置を作動させることにより、マスコンとインバータ制御装置を作動させて列車停止制御モードに切り換え、列車ブレーキ制御装置を稼働可能にすることを特徴とする地震時における列車制動方法。
【請求項2】
請求項1記載の地震時における列車制動方法において、前記列車ブレーキ制御装置は、被害推定の信頼性に対応した警報レベルに応じて列車の制動特性を変えることを特徴とする地震時における列車制動方法。
【請求項3】
(a)地震計が接続される無線送信装置を有する地震検出側制御装置と、
(b)該地震検出側制御装置からの地震情報を受信する無線受信装置を有する車上搭載制御装置と、
(c)該車上搭載制御装置に配置される電力モード制御装置と、
(d)該電力モード制御装置を作動させることにより、マスコンとインバータ制御装置を作動させて列車停止制御モードに切り換えるモード切換手段と、
(e)該モード切換手段に基づいて稼働可能にする列車ブレーキ制御装置とを具備することを特徴とする地震時における列車制動システム。
【請求項4】
請求項3記載の地震時における列車制動システムにおいて、前記列車ブレーキ制御装置は、被害推定の信頼性に対応した警報レベルに応じて列車の制動特性を変えるようにすることを特徴とする地震時における列車制動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−183853(P2012−183853A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46428(P2011−46428)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】