説明

地震被害判定装置、地震被害判定方法及び地震被害判定プログラム

【課題】高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することのできる地震被害判定装置、地震被害判定方法及び地震被害判定プログラムを得る。
【解決手段】サーバ装置20は、地震被害の判定対象とする建物(管理対象建物)に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計42A,42Bにより計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出し、導出した前記閾値を予め記憶する一方、地震が発生した場合に、地震計42A,42Bによって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出し、算出した前記複数種類の物理量と前記予め記憶した対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定して、判定結果を報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震被害判定装置、地震被害判定方法及び地震被害判定プログラムに係り、より詳しくは、建物の地震動に対する損傷状況を判定する地震被害判定装置、地震被害判定方法及び地震被害判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震発生時における被害状況を迅速に把握することができるようにすることを目的として、特許文献1には、過去に発生した地震の震源位置とマグニチュードと地震の揺れの強さの分布を記憶する地震情報記憶手段と、地震の揺れの強さに対するエレベータの地震被害の発生確率の関係を記憶する地震被害情報記憶手段と、エレベータの所在位置情報を記憶するエレベータ情報記憶手段と、地震発生時に震源位置とマグニチュードを入力する地震情報入力手段と、前記地震情報記憶手段の情報と地震情報入力手段により入力した震源位置とマグニチュードとから地震の揺れの強さの分布を推定し、前記揺れの強さの分布と前記地震被害情報記憶手段の情報と前記エレベータ情報記憶手段の情報とからエレベータの地震被害の発生件数と分布を予測する地震被害予測手段と、前記地震被害予測手段の予測結果を表示する表示手段とを備えたことを特徴とするエレベータの地震被害予測システムが提案されている。
【特許文献1】特開2001−130848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている技術では、震源位置及びマグニチュードに基づいて地震被害の発生件数と分布を予測するものであり、地震被害の予測対象とする建物自身の実際の揺れの状態は考慮されていないため、地震被害の状況を必ずしも高精度に判定することができるとは限らない、という問題点があった。
【0004】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することのできる地震被害判定装置、地震被害判定方法及び地震被害判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の地震被害判定装置は、地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計と、前記地震計により計測される波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出する導出手段と、前記導出手段によって導出された前記閾値を記憶する記憶手段と、地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定する判定手段と、前記判定手段による判定結果を報知する報知手段と、を備えている。
【0006】
請求項1記載の地震被害判定装置によれば、導出手段により、地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計により計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値が導出され、当該閾値が記憶手段によって記憶される。なお、上記記憶手段には、RAM、EEPROM、フラッシュEEPROM等の半導体記憶素子、スマート・メディア(SmartMedia(登録商標))、フレキシブルディスク等の可搬記録媒体やハードディスク等の固定記録媒体、或いはネットワークに接続されたサーバ・コンピュータ等に設けられた外部記憶装置が含まれる。
【0007】
ここで、本発明では、地震が発生した場合に、算出手段により、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量が算出され、判定手段により、当該複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較が行われ、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かが判定される。
【0008】
そして、本発明では、前記判定手段による判定結果が報知手段によって報知される。
【0009】
このように、請求項1記載の地震被害判定装置によれば、地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計により計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出し、導出した前記閾値を記憶手段により記憶する一方、地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出し、算出した前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定して、判定結果を報知しているので、上記建物自身の実際の揺れの状態を考慮せずに判定する場合に比較して、高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる。
【0010】
なお、本発明は、請求項2に記載の発明のように、前記建物が、複数階を有する建物であり、前記地震計が、少なくとも異なる2つの階に設けられたものであり、前記複数種類の物理量が、前記建物の最大層間変形角、加速度、及び固有振動数の低下率のうちの複数であるものとしてもよい。これにより、地震計を1つのみ用いる場合に比較して、より高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる。
【0011】
また、本発明は、請求項3に記載の発明のように、前記判定手段が、前記複数種類の物理量のうち、予め定められた一部の物理量のみを用いた前記比較を行うことによって前記建物に生じた損傷の度合いを予測し、当該損傷の度合いが所定度合いより低い場合のみ、残りの物理量を用いた前記比較を行って前記建物に損傷が発生したか否かを判定するものとしてもよい。これにより、建物に損傷が発生したか否かの判定を短時間で行うことができる。
【0012】
特に、請求項3に記載の発明は、請求項4に記載の発明のように、前記報知手段が、前記損傷の度合いが前記所定度合い以上である場合に警報を報知するものとしてもよい。これにより、建物に対して損傷が発生した可能性が高いことを、容易に把握させることができる。なお、報知手段による警報の報知には、ディスプレイ装置等の表示手段による可視表示による報知、プリンタ等の印刷手段による永久可視表示による報知、及びスピーカ等の音声出力手段による可聴表示による報知が含まれる。
【0013】
また、請求項3又は請求項4に記載の発明は、請求項5に記載の発明のように、前記導出手段が、前記閾値を、地震動に応じて前記建物に発生する予め定められた複数段階の損傷レベル毎に導出し、前記判定手段が、前記損傷の度合いが前記所定度合いより低い場合に、前記残りの物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記損傷レベル毎の閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物の損傷レベルが何れであるかを判定し、前記報知手段が、前記損傷の度合いが前記所定度合いより低い場合に、前記判定手段により得られた前記損傷レベルを更に報知するものとしてもよい。これにより、建物が被った損傷レベルを容易に把握させることができる。
【0014】
更に、本発明は、請求項6に記載の発明のように、前記地震計が、前記建物に設けられている昇降機の保守用に当該建物に予め設けられている地震計であるものとしてもよい。これにより、地震計を新たに設ける場合に比較して、本発明を低コストかつ簡易に実現することができる。
【0015】
一方、上記目的を達成するために、請求項7記載の地震被害判定方法は、地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計により計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出する導出工程と、前記導出工程によって導出された前記閾値を記憶手段により記憶する記憶工程と、地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出する算出工程と、前記算出工程によって算出された前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定する判定工程と、前記判定工程による判定結果を報知する報知工程と、を有するものである。
【0016】
従って、請求項7記載の地震被害判定方法によれば、請求項1記載の発明と同様に作用するので、請求項1記載の発明と同様に、高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる。
【0017】
なお、請求項7に記載の発明は、請求項8に記載の発明のように、前記建物が、複数階を有する建物であり、前記地震計が、少なくとも異なる2つの階に設けられたものであり、前記複数種類の物理量が、前記建物の最大層間変形角、加速度、及び固有振動数の低下率のうちの複数であるものとしてもよい。これにより、地震計を1つのみ用いる場合に比較して、より高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる。
【0018】
また、請求項7又は請求項8に記載の発明は、請求項9に記載の発明のように、前記判定工程が、前記複数種類の物理量のうち、予め定められた一部の物理量のみを用いた前記比較を行うことによって前記建物に生じた損傷の度合いを予測し、当該損傷の度合いが所定度合いより低い場合のみ、残りの物理量を用いた前記比較を行って前記建物に損傷が発生したか否かを判定するものとしてもよい。これにより、建物に損傷が発生したか否かの判定を短時間でできるようになる。
【0019】
一方、上記目的を達成するために、請求項10記載の地震被害判定プログラムは、地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計により計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出する導出ステップと、前記導出ステップによって導出された前記閾値を記憶手段により記憶する記憶ステップと、地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出する算出ステップと、前記算出ステップによって算出された前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップによる判定結果を報知する報知ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0020】
従って、請求項10記載の地震被害判定プログラムによれば、請求項1記載の発明と同様に作用するので、請求項1記載の発明と同様に、高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる。
【0021】
なお、請求項10に記載の発明は、請求項11に記載の発明のように、前記建物が、複数階を有する建物であり、前記地震計が、少なくとも異なる2つの階に設けられたものであり、前記複数種類の物理量が、前記建物の最大層間変形角、加速度、及び固有振動数の低下率のうちの複数であるものとしてもよい。これにより、地震計を1つのみ用いる場合に比較して、より高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる。
【0022】
また、請求項10又は請求項11に記載の発明は、請求項12に記載の発明のように、前記判定ステップが、前記複数種類の物理量のうち、予め定められた一部の物理量のみを用いた前記比較を行うことによって前記建物に生じた損傷の度合いを予測し、当該損傷の度合いが所定度合いより低い場合のみ、残りの物理量を用いた前記比較を行って前記建物に損傷が発生したか否かを判定するものとしてもよい。これにより、建物に損傷が発生したか否かの判定を短時間でできるようになる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計により計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出し、導出した前記閾値を記憶手段により記憶する一方、地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出し、算出した前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定して、判定結果を報知しているので、上記建物自身の実際の揺れの状態を考慮せずに判定する場合に比較して、高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、ここでは、本発明を、予め定められた管理センタにより、管理対象とする複数の建物の地震による被害状況を統括的に判定する地震被害判定システムに適用した場合について説明する。
【0025】
まず、図1を参照して、本発明が適用された地震被害判定システム10の要部構成を説明する。
【0026】
同図に示すように、本実施の形態に係る地震被害判定システム10は、上記管理センタが所有するサーバ装置20と、各々地震被害判定システム10において管理対象としている複数の建物(以下、「管理対象建物」という。)に設置されているクライアント装置40と、を有しており、これら各装置が各々モデム、ルータ、TA(Terminal Adapter:ターミナル・アダプタ)等の接続装置70を介してネットワーク12(本実施の形態では、インターネット)により相互に接続されている。
【0027】
クライアント装置40には、各種情報を入力するためのキーボード、マウス等の入力装置、各種メニュー画面や処理結果等を表示するためのモニタ(ディスプレイ装置)、及び各種情報を印刷するためのプリンタが備えられている。なお、このハードウェア構成は一般的なものであるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0028】
本実施の形態に係るサーバ装置20はWWW(World Wide Web)サーバとして機能し、クライアント装置40はWWWクライアントとして機能する。
【0029】
すなわち、クライアント装置40には、WWWブラウザがインストールされており、このWWWブラウザを起動することにより、ネットワーク12を介してサーバ装置20に任意にアクセスすることができる。このとき、アクセス位置はURL(Uniform Resource Locator)で指定される。なお、クライアント装置40の識別には、IP(Internet Protocol)アドレスが用いられるが、URL等の他の位置指定のコードを用いてもよい。
【0030】
ところで、本実施の形態に係る地震被害判定システム10では、一例として図2に示されるように、地盤に接している階(同図に示される例では、地上1階)に設けられた地震計42Aと、地上2階以上の何れかの階(同図に示される例では、最上階)に設けられた地震計42Bの2つの地震計を有すると共に、制御盤44によって昇降動作が制御される昇降機(所謂エレベータ)46が設けられている建物を管理対象建物としている。ここで、地震計42A及び地震計42Bは、地震が発生し、管理対象建物における配設部位に一定以上の揺れ(一例として、震度2以上)の揺れが生じると作動するものとされている。なお、管理対象建物に設けられている地震計の数は2つに限定されるものではなく、1つのみ設けられている建物や、3つ以上設けられている建物を管理対象とすることもできる。
【0031】
図2に示されるように、地震計42A及び地震計42Bは制御盤44に接続されており、当該制御盤44を介してクライアント装置40に電気的に接続されている(図1も参照。)。なお、地震計42A,42Bの出力信号は直接的には振動状態を示すアナログ波形とされているが、制御盤44に設けられているAD変換器によってデジタル化されたものがクライアント装置40に入力され、当該デジタル化された波形(以下、「地震計検知波形」という。)がクライアント装置40及びネットワーク12を介してサーバ装置20に送信される構成である。
【0032】
次に、図3を参照して、地震被害判定システム10において特に重要な役割を有するサーバ装置20の電気系の要部構成を説明する。
【0033】
同図に示すように、本実施の形態に係るサーバ装置20は、サーバ装置20全体の動作を司るCPU(中央処理装置)20Aと、CPU20Aによる各種処理プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM(Random Access Memory)20Bと、各種制御プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)20Cと、各種情報を記憶するために用いられるハードディスク20Dと、各種情報を入力するために用いられるキーボード20Eと、各種情報を表示するために用いられるディスプレイ20Fと、ネットワーク12を介して外部装置との間で各種情報の授受を行う入出力ポート20Gと、が備えられており、これら各部はシステムバスBUSにより相互に接続されている。
【0034】
従って、CPU20Aは、RAM20B、ROM20C、及びハードディスク20Dに対するアクセス、キーボード20Eを介した各種入力情報の取得、ディスプレイ20Fに対する各種情報の表示、及び入出力ポート20Gを介したネットワーク12に接続された装置との間の各種情報の授受、を各々行うことができる。
【0035】
一方、図4には、サーバ装置20に備えられたハードディスク20Dの主な記憶内容が模式的に示されている。同図に示すように、ハードディスク20Dには、各種データベースを記憶するためのデータベース領域DBと、サーバ装置20によって各種処理を行うための処理プログラム等を予め記憶したプログラム領域PGと、が設けられている。
【0036】
また、データベース領域DBには、後述する一次診断を行う際に用いられる一次診断情報データベースDB1と、後述する二次診断を行う際に用いられる二次診断情報データベースDB2と、が含まれる。以下、これらのデータベースの構成について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0037】
図5に示すように、本実施の形態に係る一次診断情報データベースDB1は、地震入力の大きさ(本実施の形態では、速度)、建物上部の揺れの大きさ(本実施の形態では、加速度)、及び固有振動数の低下率の3種類のパラメータにおける、建物に対する予め定められた複数段階の損傷レベル(ここでは、「無被害,軽微」、「小破」、「中破」、「大破」の4段階)に区分される範囲を示す情報が記憶されるように構成されている。同図に示される一次診断情報データベースDB1では、例えば、地震入力の大きさが10cm/s以下である場合の損傷レベルは「無被害,軽微」であり、地震入力の大きさが20cm/s超40cm/s以下の範囲内にある場合の損傷レベルは「中破」であることが記憶されている。また、例えば、建物上部の揺れの大きさが100cm/s超200cm/s以下である場合の損傷レベルは「小破」であり、建物上部の揺れの大きさが500cm/s超である場合の損傷レベルは「大破」であることが記憶されている。更に、例えば、固有振動数の低下率が20%以下である場合の損傷レベルは「無被害,軽微」であり、固有振動数の低下率が40%超50%以下の範囲内にある場合の損傷レベルは「中破」であることが記憶されている。
【0038】
一方、図6に示すように、本実施の形態に係る二次診断情報データベースDB2は、被災度レベル(本発明の「損傷レベル」に相当。)毎に推奨行動及び各部位毎の推定被害の各情報が管理対象建物の各階毎に記憶されるように構成されている。なお、同図では、錯綜を回避するため、管理対象建物における何れか1つの建物の1つの階の情報のみを示している。
【0039】
同図に示されるように、本実施の形態に係る二次診断情報データベースDB2では、上記被災度レベルとして、日常的な機能を維持しているレベルであるレベル0と、修繕を要する軽微な損傷を受けている状態であるレベル1と、修繕可能な状態であるが、人的被害を防止するための応急的処置が必要な状態であるレベル2と、人的被害をもたらす被害があり、人的被害の拡大を防止するために避難が必要な状態であるレベル3の4段階のレベルが適用されている。
【0040】
一方、上記推奨行動情報は、対応する被災度レベルの被災状態である建物の対応する階に存在する人、又は当該階又は建物の管理者に対して推奨する行動を示す情報であり、同図に示す例では、例えば、被災度レベルがレベル1である場合の情報として「当該階の状況・安全を確認し、復旧、修繕の手配をかける。」とのテキスト情報が、被災度レベルがレベル3である場合の情報として「安全ルートを選定し、他階または建物外に避難する。」とのテキスト情報が、各々記憶されている。
【0041】
更に、上記各部位毎の推定被害情報は、対応する被災度レベルの被災状態である建物の対応する階における、予め定められた物理量の予め設定された範囲毎の予め定められた部位毎に推定される被害状況を示すテキスト情報及び当該範囲を示す情報であり、本実施の形態に係る二次診断情報データベースDB2では、上記予め定められた部位として、「構造躯体」、「非構造部材(外壁,仕上げ,天井)」、及び「設備」(本実施の形態に係る二次診断情報データベースDB2では、「設備配管,ダクト等」、「機械設備」、「情報通信設備」の3種類の設備)の各部位毎に区分されて記憶されている。なお、本実施の形態に係る二次診断情報データベースDB2では、上記予め定められた物理量として、最大層間変形角及び加速度の2種類が適用されている。
【0042】
図7に模式的に示すように、上記加速度は、建物に生じた水平方向の揺れの強さを表すものであり、上記最大層間変形角θは、当該加速度に応じて当該建物の各階毎に生じる最大変形量を外壁の垂直方向に対する角度(=各階の最大変形量/階高)で表したものである。なお、一例として図8に示すように、上記加速度は階数が高くなるに従って大きくなる特性を有する一方、上記最大層間変形角θは、階数が所定階となるまでは大きくなるが、当該所定階より高くなると、階数が高くなるに従って小さくなる特性を有している。
【0043】
図6に示す例では、例えば、最大層間変形角θが1/200より大きく1/150未満である場合について、「構造躯体」に関しては構造安全性以外の機能(漏水)を維持するためにひび割れ補修等を必要とする被害がある旨が記憶されており、「設備配管,ダクト等」に関しては安全装置が作動しガス供給が一部停止したり、ジョイント部から少量の漏れが生じる旨が記憶されている。また、例えば、最大層間変形角θが1/150より大きく1/100未満である場合について、「構造躯体」に関しては構造耐力を維持しているが、かぶりコンクリートの剥離等の危険性がある旨が記憶されており、「設備配管,ダクト等」に関しては設備配管,ダクトのジョイント部が外れ、大量のもれが生じる旨が記憶されている。更に、例えば、加速度が1Gより大きい場合について、「機械設備」に関しては機器を固定しているボルト等が破断しており、余震によって転倒落下する危険性がある旨が記憶されている。
【0044】
なお、本実施の形態に係る地震被害判定システム10では、管理対象建物の各層(階)毎の非線形設計モデル(変形が大きくなると構造体に亀裂、降伏、すべり等が生じ、非線形な復元力特性(復元力−変形特性)を示すことを考慮したモデル)を予め作成しておき、当該モデルに対して地震動を示す波形を適用して非線形地震応答解析を実行することにより得られた応答結果から、最大層間変形角θや加速度を求めるものとされている。
【0045】
一方、図示は省略するが、本実施の形態に係る建物情報データベースDB3には、管理対象建物の各階毎の情報として、上記加速度や上記最大層間変形角θを導出するために必要な上述した非線形設計モデルや、一次診断情報データベースDB1を構築するために必要な情報(一例として、最大層間変形角と被災度レベルに関する既存実験データ、各階の復元力特性(復元力−変形特性)等の情報)、二次診断情報データベースDB2を構築するために必要な情報(一例として、非構造部材と構造部材の最大層間変形角と被害,破損に関するデータ、機械設備のリストと各機械設備が許容する振動(加速度)に関するデータ、設備配管、ダクト各々の設計時許容最大層間変形角等の情報)等が予め記憶されると共に、管理対象建物毎の情報として、上記固有振動数を導出するために必要な情報(一例として、建物形状、スパン、階高、各階の重量、設計荷重、柱・梁等の構造部材の断面の形状、使用材料の強度等の情報)等が予め記憶されている。
【0046】
次に、本実施の形態に係る地震被害判定システム10の作用を説明する。
【0047】
本実施の形態に係る地震被害判定システム10では、管理対象建物の地震による被害状況を判定するに先だって、上述した一次診断情報データベースDB1及び二次診断情報データベースDB2を構築する処理を実行する診断情報登録処理を実行する。
【0048】
そこで、まず、図9を参照して、当該診断情報登録処理を実行する際の地震被害判定システム10の作用を説明する。なお、図9は、キーボード20E等を介して実行の指示入力が行われたときにサーバ装置20のCPU20Aによって実行される診断情報登録処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムはハードディスク20Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。
【0049】
同図のステップ100では、地震動を示す波形を模擬的に作成し、次のステップ102では、ハードディスク20Dの建物情報データベースDB3から管理対象建物の各層(階)毎の非線形設計モデルを読み出して、当該非線形設計モデルを用いて上記地震動を示す波形の大きさを変化させながら非線形地震応答解析を実行し、最大層間変形角及び加速度を管理対象建物の各階毎に導出する。なお、当該最大層間変形角及び加速度の導出は、おおよそ次のように実行する。
【0050】
すなわち、上記非線形設計モデルと複数波(本実施の形態では、5波)の模擬地震動波を用いて、模擬地震動波の最大速度(地震入力の大きさ)を変えた非線形地震応答解析をNewmark−β法等によって行うことにより最大層間変形角及び加速度を管理対象建物の各階毎に導出する。
【0051】
なお、当該非線形地震応答解析は従来既知の技術であるので、これ以上のここでの説明は省略する。
【0052】
次のステップ104では、以上の処理によって得られた管理対象建物の各階毎の最大層間変形角及び加速度に基づいて、当該各階において生じる損傷レベルと地震入力の大きさ(本実施の形態では、速度)との関係を、一例として次のように導出する。
【0053】
すなわち、まず、各階の最大層間変形角と損傷レベル(小破、大破等)の関係を、建物情報データベースDB3に記憶されている実験データを用いた解析により求める。また、上述した非線形地震応答解析に基づいて模擬地震動波の最大速度(地震入力の大きさ)と各階の最大層間変形角の関係を求める。そして、これらの求めた関係から模擬地震動波の最大速度(地震入力の大きさ)と各階の損傷レベルの関係を求め、一例として図5に示されるように整理する。
【0054】
次のステップ106では、管理対象建物の各階の損傷レベルと固有振動数(卓越振動数)の低下率との関係を、一例として次のように導出する。
【0055】
すなわち、まず、上記非線形地震応答解析に用いた各階の非線形な復元力特性に基づいて、各階毎の地震後の剛性(復元力/各階の最大層間変形(階高×最大層間変形角))を求める。次に、これら各階毎の剛性を用いた固有値解析を行い、地震後の固有振動数を算出する。そして、算出した地震後の固有振動数と各階の損傷レベルの関係を求め、地震前後の固有振動数を比較して、一例として図5に示されるように整理する。
【0056】
次のステップ108では、管理対象建物の各階の損傷レベルと建物上部の揺れの大きさ(本実施の形態では、加速度)との関係を、一例として次のように導出する。
【0057】
すなわち、上記ステップ104における非線形地震応答解析に基づいて建物上部の揺れの大きさ(加速度)と各階の最大層間変形角、損傷レベルの関係を求め、一例として図5に示されるように整理する。
【0058】
次のステップ110では、以上の処理によって導出された情報(以下、「一次診断情報」という。)を用いて一次診断情報データベースDB1を構築する。
【0059】
次のステップ112では、二次診断情報データベースDB2に登録すべき情報(以下、「二次診断情報」という。)を、一例として次のように作成する。
【0060】
すなわち、構造躯体については、各階の最大層間変形角と損傷レベルの関係を、建物情報データベースDB3に記憶されている実験データを用いた解析により求める。また、非構造部材及び設備については、管理対象建物の各階に設置された各非構造部材及び設備の最大層間変形角及び振動(加速度)と被害・破損に関するデータを建物情報データベースDB3から読み出し、一例として図6に示されるように整理することにより、二次診断情報を作成する。
【0061】
次のステップ114では、上記ステップ112の処理によって作成した二次診断情報を二次診断情報データベースDB2に登録し、その後に本診断情報登録処理プログラムを終了する。
【0062】
次に、図10を参照して、管理対象建物の地震による被害状況を判定する際の地震被害判定システム10の作用を説明する。なお、図10は、所定期間毎(本実施の形態では、0.1秒毎)にサーバ装置20のCPU20Aにおいて実行される地震被害判定処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムもハードディスク20Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。
【0063】
同図のステップ200では、各管理対象建物に設けられているクライアント装置40から地震計検知波形を取得(受信)し、次のステップ202では、取得した地震計検知波形の振幅が、本地震被害判定処理プログラムによる地震被害の判定を実行すべき振幅の下限値として予め定められた所定閾値(ここでは、0.005G)を超えている建物(以下、「処理対象建物」という。)が存在するか否かを判定して、否定判定となった場合は本地震被害判定処理プログラムを終了する一方、肯定判定となった場合にはステップ204に移行する。
【0064】
ステップ204では、処理対象建物に設けられているクライアント装置40から受信した地震計検知波形をハードディスク20Dの所定領域に処理対象建物毎に記憶し、次のステップ206では、上記ステップ204の処理による地震計検知波形の記憶開始時からの経過期間が所定期間(本実施の形態では、30秒)に達したか否かを判定して、否定判定となった場合は上記ステップ204に戻る一方、肯定判定となった時点でステップ208に移行する。以上の処理により、振幅が上記所定閾値以上となった時点から上記所定期間内に処理対象建物から受信された地震計検知波形が、処理対象建物毎に記憶されることになる。
【0065】
そこで、以上の処理によって記憶された地震計検知波形に基づいて、次のステップ208にて、地震動の大きさ(本実施の形態では、速度)を処理対象建物毎に算出し、次のステップ210にて、建物上部の揺れの大きさ(本実施の形態では、加速度)を処理対象建物毎に算出し、更に次のステップ212にて、固有振動数の低下率を処理対象建物毎に算出する。
【0066】
なお、上記地震動の大きさは、対応する処理対象建物のクライアント装置40から受信した地震計検知波形のうち、地盤に接する階に設けられた地震計42Aにより計測された波形の最大振幅を微分することにより得ることができる。また、上記建物上部の揺れの大きさは、対応する処理対象建物のクライアント装置40から受信した地震計検知波形のうち、最上階に設けられている地震計42Bにより計測された波形の最大振幅を2回微分することにより得ることができる。
【0067】
一方、上記固有振動数の低下率を算出する際には、まず、処理対象建物毎の固有振動数を、対応する建物のクライアント装置40から受信した地震計検知波形のうち、最上階に設けられている地震計42Bにより計測された波形を用い、一例として本出願人による特願2006−139109に記載の技術を適用して、おおよそ次のように算出する。
【0068】
すなわち、記録した地震計検知波形に対してERA(Eigensystem Realisation Algorithm)手法によりモーダル解析を行い、建物の固有振動モードの候補として、振動モード毎に固有振動数、振動モード形状、及びモード振幅コヒーレンスを算出する。そして、モード振幅コヒーレンスが最も高い固有振動数を信頼性の高い固有振動数として採用する。
【0069】
なお、当該固有振動数の算出手順の詳細については上記特願2006−139109に詳述されているため、これ以上のここでの説明は省略する。
【0070】
そして、以上の処理によって算出した固有振動数を用いて、当該固有振動数を非線形設計モデルの固有振動数で除算することにより、固有振動数の低下率を算出する。
【0071】
次のステップ214では、一次診断情報データベースDB1に登録されている一次診断情報を読み出し、次のステップ216にて、上記ステップ208の処理によって算出した地震動の大きさ、上記ステップ210の処理によって算出した建物上部の揺れの大きさ、及び上記ステップ212の処理によって算出した固有振動数の低下率の3つの物理量を、対応する上記一次診断情報と比較し、これら3つの物理量が各々属する被害程度のうち、所定数以上(本実施の形態では、2つ以上)が「大破」であるか否かを判定して、肯定判定となった場合はステップ218に移行する。
【0072】
ステップ218では、予め定められた警報を発令し、その後に本地震被害判定処理プログラムを終了する。なお、本実施の形態に係る地震被害判定システム10では、上記ステップ218において実行される処理として、一例として図12に示される警報画面を処理対象建物に設けられているクライアント装置40に表示させる処理を適用している。
【0073】
一方、上記ステップ216において否定判定された場合にはステップ220に移行し、図11に示す二次診断処理ルーチン・プログラムを実行する。以下、図11を参照して、当該二次診断処理ルーチン・プログラムについて説明する。
【0074】
同図のステップ300では、処理対象建物から受信した地震計検知波形を用いて、前述した診断情報登録処理プログラム(図9も参照。)のステップ102の処理と同様に、ハードディスク20Dの建物情報データベースDB3から処理対象建物の各階毎の非線形設計モデルを読み出し、当該非線形設計モデルを用いて上記地震計検知波形を用いて非線形地震応答解析を実行し、最大層間変形角及び加速度を処理対象建物の各階毎に導出する。
【0075】
次のステップ302では、二次診断情報データベースDB2から処理対象建物に関する二次診断情報(図6も参照。)を読み出し、次のステップ304にて、読み出した二次診断情報における対応する建物の対応する階の情報の各種閾値と、上記ステップ300の処理によって導出した最大層間変形角及び加速度とを比較することにより、処理対象建物毎に、被災度レベル、推奨行動、及び各部位毎の推定被害を特定し、特定した情報を報知した後、本二次診断処理ルーチン・プログラムを終了する。なお、本実施の形態に係る地震被害判定システム10では、上記ステップ304において実行される報知として、一例として図13に示される報知画面を処理対象建物に設けられているクライアント装置40に表示させる処理を適用している。
【0076】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計(ここでは、地震計42A,42B)により計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量(ここでは、地震の大きさ、建物上部の揺れの大きさ、固有振動数の低下率、最大層間変形角、加速度)の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出し、導出した前記閾値を記憶手段(ここでは、ハードディスク20D)により記憶する一方、地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出し、算出した前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定して、判定結果を報知しているので、上記建物自身の実際の揺れの状態を考慮せずに判定する場合に比較して、高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる。
【0077】
また、本実施の形態では、前記地震計が、少なくとも前記建物の地盤に接する階及び地上2階以上の階の2箇所に設けられたものとしているので、地震計を1つのみ用いる場合に比較して、より高精度に建物に対する地震被害の状況を判定することができる。
【0078】
また、本実施の形態では、前記複数種類の物理量のうち、予め定められた一部の物理量(ここでは、地震動の大きさ、建物上部の揺れの大きさ、固有振動数の低下率)のみを用いた前記比較を行うことによって前記建物に生じた損傷の度合い(ここでは、地震動の大きさ、建物上部の揺れの大きさ、及び固有振動数の低下率の3つの物理量が各々属する被害程度が「大破」である数)を予測し、当該損傷の度合いが所定度合いより低い場合(ここでは、地震被害判定処理プログラムのステップ216の処理が否定判定となった場合)のみ、残りの物理量(ここでは、最大層間変形角、加速度)を用いた前記比較を行って前記建物に損傷が発生したか否かを判定しているので、建物に損傷が発生したか否かの判定を短時間で行うことができる。
【0079】
特に、本実施の形態では、前記損傷の度合いが前記所定度合い以上である場合(ここでは、地震被害判定処理プログラムのステップ216の処理が肯定判定となった場合)に警報を報知しているので、建物に対して損傷が発生した可能性が高いことを、容易に把握させることができる。
【0080】
また、本実施の形態では、前記閾値を、地震動に応じて前記建物に発生する予め定められた複数段階の損傷レベル(ここでは、レベル0〜レベル3の4段階の被災度レベル)毎に導出し、前記損傷の度合いが前記所定度合いより低い場合に、前記残りの物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記損傷レベル毎の閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物の損傷レベルが何れであるかを判定し、これによって得られた前記損傷レベルを報知しているので、建物が被った損傷レベルを容易に把握させることができる。
【0081】
更に、本実施の形態では、前記地震計として、前記建物に設けられている昇降機の保守用に当該建物に予め設けられている地震計を適用しているので、地震計を新たに設ける場合に比較して、本発明を低コストかつ簡易に実現することができる。
【0082】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0083】
また、上記の実施の形態は、クレーム(請求項)にかかる発明を限定するものではなく、また実施の形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。上記の実施の形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組合せにより種々の発明を抽出できる。上記の実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0084】
例えば、上記実施の形態では、サーバ装置20を管理センタ内に設置した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の場所に設置する形態とすることもできる。この場合も、上記実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0085】
また、上記実施の形態では、警報画面(図12参照。)や報知画面(図13参照。)をクライアント装置40に表示することにより地震被害判定システム10による判定結果を報知する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、サーバ装置20のディスプレイ20Fにより当該警報画面や報知画面を表示することにより報知する形態や、クライアント装置40及びサーバ装置20の少なくとも一方により、プリンタ等の印刷手段による永久可視表示による報知や、スピーカ等の音声出力手段による可聴表示による報知を行う形態とすることもできる。この場合も、上記実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0086】
また、上記実施の形態では、ネットワーク12としてインターネットを適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ローカル・エリア・ネットワーク、イントラネット等の他の通信回線を単独又は組み合わせて適用する形態とすることもできる。この場合も、上記実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0087】
その他、上記実施の形態で説明した地震被害判定システム10の構成(図1〜図4参照。)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0088】
例えば、上記実施の形態では、本発明を、予め定められた管理センタにより管理対象とする複数の建物の地震による被害状況を統括的に判定する地震被害判定システムに適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明は、単体の装置に対して適用することもできる。この場合の形態例としては、上記実施の形態に係るクライアント装置40に対して、一次診断情報データベースDB1、二次診断情報データベースDB2、及び建物情報データベースDB3における、自身が設けられている建物に関する情報を記憶するものとし、各クライアント装置40により、図9に示される診断情報登録処理プログラムと、図10に示される地震被害判定処理プログラムを実行させる形態を例示することができる。なお、この場合は、当該地震被害判定処理プログラムにおけるステップ200の処理(地震計検知波形を取得する処理)を実行する必要はない。この場合も上記実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0089】
また、上記実施の形態で説明した各種データベースのデータ構造(図5〜図6参照。)も一例であり、必要に応じて新たなデータを追加したり、不要なデータを削除したりすることができることも言うまでもない。
【0090】
また、上記実施の形態で示した各種プログラムの処理の流れ(図9〜図11参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、処理順位を変更したり、必要に応じて新たなステップを追加したり、不要なステップを削除したりすることができることは言うまでもない。
【0091】
更に、上記実施の形態で示した各種表示画面の構成(図12,図13参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施の形態に係る地震被害判定システムの構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態に係る管理対象建物の構成例を示す概略側面図である。
【図3】実施の形態に係るサーバ装置の電気系の要部構成を示すブロック図である。
【図4】実施の形態に係るサーバ装置に備えられたハードディスクの主な記憶内容を示す模式図である。
【図5】実施の形態に係る一次診断情報データベースのデータ構造を示す模式図である。
【図6】実施の形態に係る二次診断情報データベースのデータ構造を示す模式図である。
【図7】実施の形態に係る加速度及び最大層間変形角の説明に供する概略側面図である。
【図8】実施の形態に係る加速度及び最大層間変形角の説明に供するグラフである。
【図9】実施の形態に係る診断情報登録処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】実施の形態に係る地震被害判定処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】実施の形態に係る二次診断処理ルーチン・プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】実施の形態に係る警報画面の表示状態例を示す概略図である。
【図13】実施の形態に係る報知画面の表示状態例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0093】
10 地震被害判定システム
12 ネットワーク
20 サーバ装置
20A CPU(導出手段、算出手段、判定手段、報知手段)
20D ハードディスク(記憶手段)
20E キーボード
20F ディスプレイ
40 クライアント装置
42A,42B 地震計
DB1 一次診断情報データベース
DB2 二次診断情報データベース
DB3 建物情報データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計と、
前記地震計により計測される波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出する導出手段と、
前記導出手段によって導出された前記閾値を記憶する記憶手段と、
地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を報知する報知手段と、
を備えた地震被害判定装置。
【請求項2】
前記建物は、複数階を有する建物であり、
前記地震計は、少なくとも異なる2つの階に設けられたものであり、
前記複数種類の物理量は、前記建物の最大層間変形角、加速度、及び固有振動数の低下率のうちの複数である
請求項1記載の地震被害判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記複数種類の物理量のうち、予め定められた一部の物理量のみを用いた前記比較を行うことによって前記建物に生じた損傷の度合いを予測し、当該損傷の度合いが所定度合いより低い場合のみ、残りの物理量を用いた前記比較を行って前記建物に損傷が発生したか否かを判定する
請求項1又は請求項2記載の地震被害判定装置。
【請求項4】
前記報知手段は、前記損傷の度合いが前記所定度合い以上である場合に警報を報知する
請求項3記載の地震被害判定装置。
【請求項5】
前記導出手段は、前記閾値を、地震動に応じて前記建物に発生する予め定められた複数段階の損傷レベル毎に導出し、
前記判定手段は、前記損傷の度合いが前記所定度合いより低い場合に、前記残りの物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記損傷レベル毎の閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物の損傷レベルが何れであるかを判定し、
前記報知手段は、前記損傷の度合いが前記所定度合いより低い場合に、前記判定手段により得られた前記損傷レベルを更に報知する
請求項3又は請求項4記載の地震被害判定装置。
【請求項6】
前記地震計は、前記建物に設けられている昇降機の保守用に当該建物に予め設けられている地震計である
請求項1乃至請求項5の何れか1項記載の地震被害判定装置。
【請求項7】
地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計により計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出する導出工程と、
前記導出工程によって導出された前記閾値を記憶手段により記憶する記憶工程と、
地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出する算出工程と、
前記算出工程によって算出された前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程による判定結果を報知する報知工程と、
を有する地震被害判定方法。
【請求項8】
前記建物は、複数階を有する建物であり、
前記地震計は、少なくとも異なる2つの階に設けられたものであり、
前記複数種類の物理量は、前記建物の最大層間変形角、加速度、及び固有振動数の低下率のうちの複数である
請求項7記載の地震被害判定方法。
【請求項9】
前記判定工程は、前記複数種類の物理量のうち、予め定められた一部の物理量のみを用いた前記比較を行うことによって前記建物に生じた損傷の度合いを予測し、当該損傷の度合いが所定度合いより低い場合のみ、残りの物理量を用いた前記比較を行って前記建物に損傷が発生したか否かを判定する
請求項7又は請求項8記載の地震被害判定方法。
【請求項10】
地震被害の判定対象とする建物に設けられ、地震が発生した際の当該建物の揺れの波形を計測する地震計により計測される前記波形に基づいて得られる予め定められた複数種類の物理量の、前記建物に地震動に応じて損傷が発生する閾値を導出する導出ステップと、
前記導出ステップによって導出された前記閾値を記憶手段により記憶する記憶ステップと、
地震が発生した場合に、前記地震計によって計測された前記波形に基づいて前記建物における前記複数種類の物理量を算出する算出ステップと、
前記算出ステップによって算出された前記複数種類の物理量と前記記憶手段により記憶されている対応する前記閾値との比較を行い、当該比較の結果に基づいて前記建物に損傷が発生したか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップによる判定結果を報知する報知ステップと、
をコンピュータに実行させる地震被害判定プログラム。
【請求項11】
前記建物は、複数階を有する建物であり、
前記地震計は、少なくとも異なる2つの階に設けられたものであり、
前記複数種類の物理量は、前記建物の最大層間変形角、加速度、及び固有振動数の低下率のうちの複数である
請求項10記載の地震被害判定プログラム。
【請求項12】
前記判定ステップは、前記複数種類の物理量のうち、予め定められた一部の物理量のみを用いた前記比較を行うことによって前記建物に生じた損傷の度合いを予測し、当該損傷の度合いが所定度合いより低い場合のみ、残りの物理量を用いた前記比較を行って前記建物に損傷が発生したか否かを判定する
請求項10又は請求項11記載の地震被害判定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−90534(P2008−90534A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269543(P2006−269543)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】