説明

坩堝炉

【課題】金属坩堝を1000℃以上の高温で使用するための坩堝炉において、高温時の坩堝近傍の雰囲気を制御すると共に、ルツボ内の温度制御の精密化、ルツボの長寿命化が可能となる坩堝炉を提供する。
【解決手段】1000℃以上の高温において、金属坩堝4中で化合物の処理を行うための坩堝炉であって、坩堝4の周辺に耐熱性で着脱可能な薄い緻密質セラミックスからなる第一のスリーブ1を置き、該第一のスリーブ1の外側に断熱材からなる第二のスリーブ2並びに加熱装置3を置いたことを特徴とする坩堝炉である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶引き上げなどに使用する、主として白金族金属などの金属坩堝を使い、結晶溶融を行うための坩堝炉の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの発展によって、半導体部材や、電子回路部材として単結晶、特に化合物単結晶を使用する機会が増加している。特に最近では携帯電話の表面波フィルターに使用される、タンタル酸リチウムや、LEDの基盤となるサファイヤ単結晶など融点が非常に高い化合物単結晶の要望が拡大している。これらの単結晶の製造では、セラミックス坩堝はその反応の可能性から使えないケースが多く、耐熱性の金属、特に安定な白金族金属である、白金やイリジウムが広く使われるようになってきた。
【0003】
これらに使用される白金やイリジウムの白金族金属は、耐熱性が大きく、また化合物との反応が殆ど起こらないために長期間にわたり有効に使用できるという特徴のあること、また取扱が比較的容易であるという点から広く使われるに至っている。
しかしながら白金族金属自身安定であるといっても雰囲気によっては短寿命になることが知られている。例えば還元雰囲気に置かれた白金は粒成長が著しくなり粒界からの割れが非常に起こりやすくなるし、またイリジウムの場合は、酸化雰囲気では1000℃付近で部分酸化が起こり揮発性の酸化物となって揮散しやすくなるという問題があった。これらを避けるために坩堝周辺の雰囲気を制御する必要がある。例えば白金については雰囲気を酸化性とすればよいし、イリジウムについては雰囲気中の酸素を減らす、或いは弱還元性にすると共に、わずかに圧力を上げることによってその酸化揮散を防ぐことが出来る。
【0004】
ところが1000℃以上で使用される坩堝炉ではその加熱方法によって異なるが、抵抗加熱の場合ではヒーター自身からの熱放射を坩堝が直接受けないようにすること、またある程度の熱容量を与えて温度保持の安定化を図る必要がある。通常はこのためにスリーブと呼ばれる耐火物を坩堝の周りに設置している。このスリーブは、それ自身の破壊が起こりにくくすること、保温性能の向上のために多孔質のセラミックスを使用する。また、高周波炉の様な坩堝自身を発熱させる場合は、加温された熱の逃げを防ぐためにやはり多孔質の耐熱セラミックス製のスリーブ(断熱材・保温材)を入れるようにしている。このような耐熱の断熱材(通常は多孔質である。)はこれらの目的のために数センチメートル以上の厚みを有しており、温度が高くなるほど厚みが大きくなるのが普通である。更に抵抗加熱の場合にはヒーターの外側もこのような断熱材で取り囲まれており、多孔質部分の体積は極めて大きくなる。このような状態での雰囲気制御はこのスリーブを含めて行わなければ成らず大きな体積にわたると共に、坩堝部分のみの雰囲気を集中的に制御することは困難であった。特に抵抗加熱の場合では坩堝部分とヒーター部分が多孔質の断熱材・保温材を介して繋がってしまうためにヒーターと坩堝部分の必要な雰囲気が異なる場合には、特別な方策が必要となる場合があった。また雰囲気ガスなどの量が増加するなどの可能性があった。更に、周囲の雰囲気への悪影響も考えられた。
【0005】
このような問題に対する直接の対応技術に関しては殆ど知られていないが、炉部分の構造については幾つかの関連しそうな技術が見出される。
【0006】
例えばヒーター側と坩堝との間の縁を切る方法としては、用途は異なるが、特開平8−303965号公報に融体亜鉛を取り扱う技術が示されており、そこでは融体亜鉛が炉壁を通って拡散し、内部のスタンプ材を透過して誘導コイルまで到達するためにトラブルになる可能性があるとしている。その為に、融体亜鉛と高周波コイルの中間スタンプ材の中に金属隔壁を設けるという技術が示されている。これは雰囲気を遮断するという本願目的には合致する物ではないが、遮断技術をという点では1つの参考になる。但しこのような構造が実質的に可能であるかどうかは別であり、用途が異なるので、むしろ取扱上の問題点がある。
【0007】
またヒーター部分と坩堝とを分離することのみを考えると、実質的に坩堝を2重ルツボの様にしてしまう技術が幾つか示されている。つまり、特開2011−32125号公報ではシリコン単結晶製造用のルツボとして、石英坩堝と黒鉛ルツボを2重構造とし、その石英坩堝と黒煙坩堝の間に片面に炭化ケイ素層を一面に付けた黒鉛シートを入れることが示されている。この技術はあくまでも特殊なケースであり、シリコンと炭素との間を仕切ること、又相互の反応を抑えるためであって、保温或いは均熱という観点からの効果については全く考えられていなし、又これからそのような効果が認められないことは当然である。
【0008】
特開2008−222455号公報は同じくシリコン単結晶引き上げ用のルツボであるが、石英ガラス坩堝の外側に二つ割りの黒鉛ルツボですっぽり取り囲んでしまう構造が示されている。これら二つの技術については耐熱性で容易に変型できる黒鉛シートを使うこと、或いは工作性がよい黒鉛材によって始めて可能な構造であり、しばしば問題となる金属ルツボの周囲に置くことは、雰囲気を常に還元にしてしまうことが考えられ、また時としては金属炭化物を生成してしまう可能性があるなどの問題があった。更に雰囲気の調整が出来ないという問題点があった。
【0009】
【特許文献1】特開平8−303965号公報
【特許文献2】特開2011−33215号公報
【特許文献3】特開2008−222455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では金属坩堝を1000℃以上の高温で使用するための坩堝炉において、高温時の坩堝近傍の雰囲気を制御すると共に、ルツボ内の温度制御の精密化、ルツボの長寿命化が可能となる坩堝炉を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、1000℃以上の高温において、金属坩堝中で化合物の処理を行うための坩堝炉であって、坩堝中の周辺に耐熱性で着脱可能な薄い緻密質セラミックスからなる第一のスリーブを置き、該第一のスリーブの外側に断熱材からなる第二のスリーブ並びに加熱装置を置いたことを特徴とする坩堝炉であり、緻密質の第一のスリーブは外側の第二のスリーブである断熱材・保温材と接触することによって外部温度と一体化すると同時に、緻密質であるので、当然熱伝導率は多孔質より良くなり、それによってルツボ周囲はより一定の温度に成り、ルツボ内の温度分布もそれにつれてより一定となるようになる。またこれにより熱放射を防ぐことが出来る。
【0012】
本発明の坩堝炉は、空間があると、その部分では熱伝導や熱放射により加熱が進む傾向のある1000℃以上の高い温度で使用するためのものである。
第一のスリーブを入れることにより、ヒーターが外部に有る場合には、外部からの熱放射の影響を完全に遮断することが出来、しかも第二のスリーブと同一温度に成り保持されるために、また緻密質であるために全体にわたって温度分布が均一になり、より均一な温度による坩堝の加熱が可能となる。更に坩堝の周囲のみを外部からの影響を受けずに、必要な雰囲気とすることが出来、外周への影響を最小限に出来るという特徴を持つことが出来る。
【0013】
また誘導加熱などにより坩堝を直接発熱する場合も誘導場により現れる温度の不均一は発熱体である坩堝そのものと緻密質の第一のスリーブとの熱の往復により防ぐことが出来、よりよい均熱が得られるようになる。もちろん雰囲気の調整を坩堝の周囲だけで行う事が可能となる。またこの第一のスリーブの高さを坩堝の高さより高くすることにより、より坩堝部分の雰囲気の制御が完全になるので望ましい。
【0014】
更に、この第一のスリーブは緻密質材で出来ているために、通常高温処理で起こる坩堝金属そのものの揮散や溶解物質の揮散に伴う、揮散物が第一のスリーブ表面に止まるようになる。これを活用して揮散物の回収を行うことが出来ると共に、スリーブ内への拡散を押さえて、揮散物による絶縁不良などの問題点を予防することが出来るようになる。また、これによって、従来は定期的にスリーブ部分を交換する必要があり、比較的短寿命であった坩堝炉を第一のスリーブを除き半永久的に使用できるようになるというメリットを生じた。
【0015】
更にある程度揮散物が貯まった場合に、第一のスリーブを交換する必要はあるがそれだけで、継続して使用ができ、従来の様にスリーブである、耐火物全体を壊す必要が無くなると共に、それによる装置の停止時間を最小限に抑えることが出来る様になる。また、その整備も極めて容易になる。第一のスリーブはその内側表面に、酸により溶解ししかも耐熱性を有するマグネシアなどのアルカリ土類金属酸化物の被覆を行うことが出来る。あるいは第一のスリーブ自身をマグネシアなどのアルカリ土類金属とすることにより、適宜、この第一のスリーブを酸洗浄することにより、第一のスリーブ自身を繰り返し使用が出来るようになる。
【0016】
またこのスリーブと坩堝とは底部を除き接触させずわずかに隙間を空けておくようにする。もちろん部分的に接触していてもかまわないが、ここに空間を設けることによって、坩堝周辺の雰囲気を最小限の調整で保持することが出来るように成る。又この隙間にあるガスは耐火物より熱容量が大きいこと、又隙間内を移動するので温度分布がより良くなる。これは、特に、誘導電流により坩堝自体を発熱させる場合に有効であるが、外部ヒータにより耐火物からの熱伝導で加温する場合も条件により有効に使用できる。いずれの場合も緻密質のスリーブ全体からの熱放射による加熱が可能となり緻密質耐火物の熱伝導と相まってより安定した加熱が出来るように成る。
【0017】
緻密質耐火物素材としては、目的の温度と雰囲気に耐性であれば特に指定はされないが、たとえば酸化雰囲気であれば、酸化物系セラミックスが望ましく、サファイア(αアルミナ)などの中性融体となると共に、揮散物がある場合には、安定化ジルコニアやマグネシア、カルシアなどのアルカリ土類金属酸化物などの所謂中性耐火物の使用が望ましい。又還元雰囲気で使用する場合、特に均熱が重要な場合は、窒化ケイ素や炭化ケイ素などの非酸化物系セラミックスを使用することが望ましい。もちろん還元雰囲気であっても、安定化ジルコニアやマグネシアなどの酸化物が使えることは当然である。
【0018】
更に揮散物の回収を考慮した場合、安定化ジルコニアや、非酸化物の第一のスリーブであれば、それ自身を保護するために、坩堝、揮散物に対向する表面に、あらかじめマグネシアやカルシアの被覆をしておく事が望ましい。つまり、ある程度表面に揮散物が貯まった場合には、それを酸に浸漬することにより、表面の被覆を溶解し、酸中に揮散物を回収することが出来ると共にスリーブを再利用することが出来る。
【0019】
当然マグネシアやカルシア製などのアルカリ土類金属酸化物の第一のスリーブはそのまま酸処理を行うことで表面層を腐食しその部分だけを剥離することが出来る。之によって処理の都度薄くは成るが酸処理により表面付着物を除きながら或いは回収しながら第一のスリーブを繰り返し使用することが出来る。
【0020】
第一のスリーブと第二のスリーブとの間はほぼ密着していても良いし、わずかに、ガスの対流が起こらない程度に離れていても良いが、これらは加熱方法、或いは条件によって選択出来る。つまり誘導加熱の場合、外側への熱の拡散を防ぐ必要があり、そのためには第一のスリーブと第二のスリーブつまり、外側のスリーブとの間にガスの対流が起こらない程度の隙間のあることが望ましく、またそれによって熱の伝導・拡散を防ぐことが出来る。
【0021】
また、発熱体を外部に置き、第二のスリーブを通して加熱する場合には、第一のスリーブと第二のスリーブの間が接触していることが望ましく、これにより、より高能率な熱伝導を与えることが出来る。但し極めて精密に温度制御を行う場合には熱対流が起こらないようにしてわずかに隙間を空ける、あるいは点状に接触しながらわずかな隙間のあることが望ましい。つまり接触していれば熱伝導により、より効率的に熱を伝えることが出来るようになるがより良好な均熱をねらうのであれば、わずかな隙間を空けることによって放射と熱伝導を組み合わせることが出来、より良い均熱性を得ることが出来るようになる。
【0022】
第二のスリーブの材質については高温に耐えることは当然であるが、均熱を保持することが重要であり、発熱体からの熱放射によらず、出来るだけ熱伝導によること、また。材質としては、特に指定はされないが、例えばイリジウム坩堝を使用し、サファイヤの単結晶を製造するような場合、サファイヤの融点が2050℃であるので、それより高い耐熱温度を必要とすることから、わずかに多孔性を有し断熱性を有する、安定化ジルコニア、やマグネシア、カルシアなどの耐火物が望ましい。但しここでは坩堝雰囲気からは離れているので耐熱・断熱性であれば、雰囲気に対する、つまりアルカリ性・酸性に対応する様な素材の制限は特には無い。
【0023】
本願発明の技術では例えば酸性であるシリカの融体などを扱う場合でも、サファイヤなどのほぼ中性の融体を扱う場合でも第一のスリーブを交換するだけで、第二のスリーブの交換は必要が無くなるという特徴を併せ持つ。つまり、第二のスリーブを含む本体を変えることなく、第一のスリーブと坩堝を取り替え、必要に応じて条件を変えることによって他の条件、例えば、白金坩堝を使用したフェライトなどの結晶成長にも使える。もちろんこの場合、白金坩堝を使用する時は坩堝雰囲気を酸化雰囲気にする必要であるが、これは第一のスリーブ内のみを制御すれば良いので、制御は容易になる。
【0024】
なお第一のスリーブの壁厚みは特に指定はされないが熱伝導、熱ロスの関係からは薄い方が良く、3mmから10mmが適当であり、更には4から7mm程度がよい。ここに壁厚みの制限に対する特別な定義はないが、例えば3mmより薄いと大型の物では物理的な強度が不足する、あるいは作りにくくなるという問題点がある、一方10mm以上では、壁厚み内に大きな温度分布を生じることとなり、熱的に無駄を生じる可能性が出ると共に、材質によっては壊れやすくなるという問題点がある。従って直径が100mm高さ100mmから200mm程度の規格型の坩堝を使うようなケースでは経験的に3〜6mm程度が適当である。
【発明の効果】
【0025】
このように坩堝炉中の保温/均熱のためのスリーブ部分を第一のスリーブである緻密質で薄いスリーブとその外側の第二のスリーブとの組み合わせにより、坩堝本体の均熱が大幅に上昇し、しかも坩堝部分の雰囲気調整が容易になること、更に第一のスリーブの交換、あるいは清掃や洗浄のみで坩堝炉を長期間にわたり使用でき、更に、メンテナンスが容易になる。加えて、坩堝それ自身や坩堝によって溶解成長等の処理を受ける被処理物からの揮散物による汚染がほとんど無くなることから、炉本体の寿命を大幅に延長することが出来ること、更にメンテナンス期間の延長、メンテナンス部分の減少など直接間接的に大幅なコストダウンがはかれる様になる。また使用する坩堝がイリジウムや白金の場合は長期の使用によって揮散するこれら高価坩堝材質である貴金属の回収が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明についてより明確にするために図面について説明する。図1は外部に高周波コイル3を有し、直接金属坩堝を加熱する坩堝炉の一例であり、1が第一のスリーブであり、坩堝型のスリーブを第二のスリーブ2と坩堝の間に入れている。又ここでは坩堝と第一のスリーブの間を若干離している。通常はこの部分には雰囲気ガスを入れて坩堝内の融体の揮散を防ぐと共に、最適な雰囲気として坩堝金属それ自身の揮散を防ぐこと、又坩堝金属の劣化を防ぐようにする。たとえば坩堝がイリジウムであって、αアルミナを成長させる場合であればわずかに還元の状態にする。この時に第一のスリーブそれ自身が坩堝を取り囲み、他とは隔離しているので雰囲気の制御が容易になる。又坩堝と第一のスリーブとの間に隙間があるために伝熱による熱の逃げを防ぐことが出来る。またこの図では第1のスリーブ底部にすのこ状材料からなる目皿6により僅かな隙間を設けているが、これについては必ずしも設けなくて良い。ただ、これによって、より熱の逃げを減らすことが出来る様になり、エネルギー消費を減らすことが出来る。
【0027】
なお、第一のスリーブの材質は運転条件、これに伴う、雰囲気と温度、また坩堝材質などによって決めれば良いが、例えば、イリジウムルツボを使用してαアルミナ結晶を製造する場合には、内面にマグネシアの薄層を有する、緻密質の安定化ジルコニアが最適である。もちろん緻密質の安定化ジルコニアそのもので、表面層マグネシア表面層の無い物も使用可能である。なお、第1のスリーブの内側に設けるマグネシア層は長時間の活用により表面の汚染が進むがそれを酸洗によりマグネシア部分を酸処理によって溶解除去することが出来、表面付着物の除去或いは回収が容易になる。またマグネシアの被覆を付けることにより、第一のスリーブを再利用することが可能となる。もちろん、この他の材質を使うことも出来るが、外部の第二のスリーブ材質との整合性を有する素材とすることが必要である。ここでマグネシアの溶解条件は特に指定されないが、塩酸、硫酸、硝酸などの活性な鉱酸あるいはそれらの混酸が最適である。
【0028】
第二のスリーブ2は断熱剤としての役割であり、第一のスリーブとの間にわずかに隙間を空けて多孔質剤で出来たスリーブを入れる。スリーブの材料は特には指定されないが、上記に見るように第一のスリーブと反応しないものであることが必要であることは言うまでもない。第一のスリーブが中性の場合、中性の断熱材であり、しかも耐熱性のある材質が必要である。また保温機能を充分に保持するために多孔性素材が必要であり、通常はキャスタブル耐火材を充填する、あるいは耐熱性によるが、外側をアルミナ、マグネシア或いはジルコニアの繊維やウール又は充填剤を用いることも出来る。なお目的が断熱であるので、断熱性に優れた多孔質であることが必要であり、出来るだけ多孔の度合いが高い物が望ましい。
【0029】
図2は図1と同様高周波誘導によりルツボを発熱させる坩堝炉であり、第一のスリーブ1に底が無く、円筒状であり、その円筒を挿入するタイプである。底部からの熱の逃げが若干大きくなる問題はあるが、取扱が容易になる等のメリットもある。但しこの場合坩堝が直接接触する、第2のスリーブ坩堝との接触部は十分な耐熱性があり、また坩堝と反応しないことが必要である。第二のスリーブの坩堝接触部分のみ、他の耐食性素材に変えることも出来る。
【0030】
ここに使用するスリーブの厚みは3−10mm程度である。これは3mmより薄いとスリーブの強度が不十分になりやすく、また10mmより厚いと、物理的に重くなってしまい、また温度の変動に対応する対応性が僅かではあるが不足するようになる。なおここのスリーブとルツボは底部では、当然接触することになるが、壁側は、ルツボとはわずかな隙間を設ける。隙間の幅は特には指定されないが、やはり3−10mm程度が望ましく、それによって雰囲気制御が出来やすくなると共に、安定化する。またこの程度の隙間によってルツボの温度分布がより良好になる。
【0031】
図3は外部加熱の場合の一例であり、この場合は発熱体からの熱が熱放射ではなく、熱伝導で第一のスリーブに伝えられる。外部ヒーターの場合制御温度より、ヒーター自身の温度が所望の温度よりかなり高くなってしまうことがあり、隙間がある場合には熱放射による部分的な高温が温度制御を難しくしたり、時としては坩堝各部で温度分布を持ってしまったりする。
【0032】
その為に、第二のスリーブ2は多孔質ではあるが、隙間のない様な構造体であることが望ましい。ここではたとえこのようなことがあっても、第一のスリーブ1によって、熱の放射はカットされるので、このような原因による温度分布、温度制御の問題は完全に解消される。但しこのような外部ヒーターの場合は熱伝導をより良好にするために第一のスリーブと第二のスリーブとは接触していることが望ましい。もちろん接触せずに隙間があいていても差し支えないが、その場合は昇温に若干余分な時間を要することがある。その代わりに温度によるが、温度分布の均一化が図りやすくなる。それ故、目的によってまた温度、その他の条件によって適宜決めることが出来る。
【0033】
図4は外部加熱の一例であり、第一のスリーブが坩堝型では無く円筒状の場合について示した。
以下実施例を示すが、これに制限されることはなく、その一部は本願の効果を強調するために行われたものである。
【実施例】
【実施例1】
【0034】
図1に示す小型装置をバラック的に組み、第一のスリーブの有無について検討を行った。つまり、外径50mm高さ100mmのモリブデン製の坩堝にコランダム粉末を入れて溶解試験を行った。ここで坩堝の底面から30mmと70mmの部分に熱電対を置きそこでの温度計測を行った。なお加熱は高周波誘導による坩堝自身の発熱によるものである。
【0035】
このモリブデン製の坩堝を、第一のスリーブとして、内径60mm外径70mm壁厚み5mm,高さ150mmの緻密質安定化ジルコニア坩堝に入れ、これを第二のスリーブの中心に有る、深さ145mm径が77mm孔部を中心に置いた。中心にこのような孔部を有する第二のスリーブは外径が250mm高さ、400mmの多孔質ジルコニア煉瓦の組み合わせ品であり、その外側に内径300mmコイル部高さ120mmの高周波コイルを置いて溶解試験を行った。なお第二のスリーブの孔部分の底部には安定化ジルコニアで作成した厚さ5mmnの目皿を置いた。 また、対比例として、第一のスリーブを置かずに中央の孔部の大きさが、深さ144mm径が77mmとしたスリーブ(第二にスリーブ)の中央に坩堝を直接置いたものを用意し、これらの差異について実験を行った。
【0036】
この結果、坩堝温度は両者とも最初2150℃まで上昇した後、徐々に温度が低下すると共に溶解が進み、温度表示上では2050℃付近で安定した。つまり第1のスリーブを有するケースでは、下部熱電対温度が2050℃、上部熱電対で2056℃を示した。なおこの中のガス雰囲気はアルゴンガスを継続的に流す様にした。
【0037】
対比用の第1のスリーブを除いてしまった場合では、アルミナが溶融した安定温度で坩堝外側の温度が下部で2065℃、上部で2058℃であり、ほぼ融点と同じではあるが、第1のスリーブを有する場合に比較して熱の逃げの大きい分だけ坩堝本体に余分な電流を流す必要があった。当然この余分に電流を流すことは消費電力が大きくなりすぎるという問題があり、本願発明の方が消費電力は少なくなる。(見かけ上では5%程度の消費電力の低下が見られた。)
【実施例2】
【0038】
実施例1と同じ坩堝炉を使用し、第一のスリーブとして坩堝型の緻密質安定化ジルコニアの代わりに壁厚み3mmの緻密質安定化ジルコニア製の円筒を用いた(図2に相当)以外実施例1と同じ条件でアルミナの溶解を行った。その結果は上部熱電対の温度が2060℃、株熱電対温度が2051℃であり、下部からの熱の逃げが若干大きくなることが認められたが、対比例よりは遙かに温度差が小さく、消費電力も小さくなることが分かった。
【実施例3】
【0039】
実施例1に使用した第一のスリーブの内面にマグネシウムブトキシドをブチルアルコールに溶解したペーストを塗布し、800℃で焼成して見かけ厚み10μmの酸化マグネシウムの被覆を設け、之を第一のスリーブとした。このものを請求項1と同じ条件で、コランダムの溶解を行った。この操作を10回行った後に、第一のスリーブ内面を観察したところ、部分的にアルミナとモリブデンと考えられる黒色付着物がついていた。この第一のスリーブを取り外し、70℃の15%硫酸で浸漬処理したところ、アルミナと黒色付着物が酸中に落下し、第一のスリーブの付着物はマグネシアと共に消えたので、マグネシアの被覆を再び行う事により汚染のない状態で継続し再使用することが出来た。
【実施例4】
【0040】
外部加熱ヒーターを有する坩堝炉を組み立てた。つまり、直径50mm、高さ100mmの白金坩堝を用として、内部の孔径が80mm深さ150mm 外径300mm高さ300mmのアルミナウールからなる炉体(第二のスリーブ)を用意し、その外側にグラファイトヒータを置き、更にその外側に100mmの厚みを有するアルミナウールからなる多孔体で取り囲んで坩堝炉とした。なお坩堝炉中央の孔の内部には、第一のスリーブとしてこれに孔部にちょうどはいるようにした外径78mm(見かけ)、壁厚み4mm,高さ160mmの緻密質酸化マグネシウム製の坩堝をアルミナウール製の第二のスリーブに接触するように設置した。
【0041】
Li:Si=1:2(モル)の量比となるように炭酸リチウムと石英ガラスの粉末を混合したものを入れ、第一のスリーブの内側には微量の空気を流すようにしながら溶解・合成を行った。まず炭酸リチウムを分解し、更に1100℃まで上昇して融解し、2時間ほど保持した後徐々に温度を低下して、約1030℃で1時間保持して結晶の成長を行った。この試験を5回繰り返したが、白金坩堝の粒成長はほとんど見られず、状態に変化は見られなかった。
【0042】
対比用として第一のスリーブを除き、そこの部分までアルミナウールを巻いて坩堝設置部分の大きさを同じとした一体型のスリーブとした以外同じ本実施例4と同じ坩堝炉を組み立て、本実施例4と同じ様にスリーブの内側に同じ量の空気を流しながら、同じ条件でLiO・2SiOの合成を試験を行った。3回ほど合成、結晶成長の試験を行ったところ、白金坩堝の特に外側部分に粒成長が見られ、5回の時点ではかなりの硬化と大きな粒成長が見られる様になり白金坩堝としてはかなりの劣化が認められた。これは、炭素ヒーターからのCO(一酸化炭素)などの還元物質が多孔質のスリーブ部分を通って、坩堝部分に侵入したために実質的に還元雰囲気になったことが原因で粒成長が顕著になったことによると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
電子デバイス用として、単結晶の成長が多く行われており、それに使用する坩堝としては耐熱性のタングステンやモリブデンが使用されるケースもあるが、近年では高価な白金やイリジウムなどの白金族金属やその合金を使うケースが増加している。所がここでも説明したようにこれら白金族金属は使用される雰囲気によって大きく寿命が変わる。従って使用する、金属、白金族金属によって、坩堝周辺の雰囲気調整をすることが必要であるが、本願では調整すべき部分を特定すると共に、わずかな雰囲気ガスで調整を可能としたこと、又大量に使われている白金やイリジウム、それらの合金は使用に応じて部分的に揮散するが、それらは炉内にほとんど金属として残るが、それらはほとんどが第一のスリーブに析出するので、それからの回収は極めて容易になる。これらから、今後特に白金族金属坩堝を使用する結晶成長分野を中心として大きくその活用が広がると考える。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の坩堝炉の概念断面図であり、高周波による誘導加熱機構を有し、第一のスリーブが底ある坩堝型の場合である。
【図2】本発明の処理装置の概念断面図であり、高周波による誘導加熱機構を有し、第一のスリーブが円筒の場合である。
【図3】本発明の坩堝炉の概念断面図であり、抵抗加熱ヒーターを第二のスリーブ内に有すると共に、第一のスリーブが底を有する坩堝型の場合である。
【図4】本発明の坩堝炉の概念断面図であり、抵抗加熱ヒーターを第二のスリーブ内に有すると共に、第一のスリーブが円筒の場合である。
【符号の説明】
1 第一のスリーブ
2 第二のスリーブ
3 高周波誘導加熱用コイル
4 坩堝
5 抵抗加熱ヒーター
6 底部断熱用目皿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000℃以上の高温において、金属坩堝中で化合物の処理を行うための坩堝炉であって、坩堝中の周辺に耐熱性で着脱可能な薄い緻密質セラミックスからなる第一のスリーブを置き、該第一のスリーブの外側に断熱材からなる第二のスリーブ並びに加熱装置を置いたことを特徴とする、坩堝炉。
【請求項2】
加熱装置が誘導加熱装置であり、誘導加熱コイル装置を第二のスリーブの外側に置くと共に、第一のスリーブの少なくとも底部を除く壁部と第二のスリーブとの間に隙間を有することを特徴とする請求項1の坩堝炉。
【請求項3】
加熱装置が電気抵抗式加熱装置であり、抵抗加熱部を第二のスリーブの中に置くと共に、第一のスリーブと第二のスリーブが接触していることを特徴とする請求項1の坩堝炉。
【請求項4】
第一のスリーブの壁厚みが10mm以下である事を特徴とする請求項1の坩堝炉。
【請求項5】
第一のスリーブ内のガス雰囲気を制御するようにしたことを特徴とする請求項1の坩堝炉。
【請求項6】
第一のスリーブの壁高さが坩堝高さより高いことを特徴とする請求項1の坩堝炉。
【請求項7】
第一のスリーブが緻密質マグネシア系セラミックスであることを特徴とする請求項1の坩堝炉。
【請求項8】
第一のスリーブが緻密質安定化ジルコニア系セラミックスであることを特徴とする請求項1の坩堝炉。
【請求項9】
第1のスリーブの坩堝側内面に緻密質アルカリ土類金属酸化物の被覆を有する安定化ジルコニア系セラミックスであることを特徴とする請求項1の坩堝炉。
【請求項10】
アルカリ土類金属酸化物がマグネシアであることを特徴とする請求項1又は9の坩堝炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60352(P2013−60352A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218204(P2011−218204)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(504323238)有限会社シーエス技術研究所 (17)
【出願人】(300007132)ティーエムシー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】