説明

垂直交換バイアスを有する膜デバイス

【課題】磁界検出に使用できる垂直交換バイアス・デバイスの提供。
【解決手段】垂直交換バイアス・デバイス10が、基板12の表面上のバッファ材料層14と、バッファ材料層表面上の強磁性材料層18と、強磁性材料層表面上の反強磁性材料層22とを含み、前記強磁性材料層の磁化が強磁性材料層の面に対し垂直方向に向けられている。また垂直交換バイアス・デバイスを作製する方法は、基板表面上にバッファ材料層を形成する段階と、バッファ材料層表面上に強磁性材料層を形成する段階と、強磁性材料層表面上に反強磁性材料層を形成する段階とを含み、しかも強磁性材料層の磁化は強磁性材料層の面に対して垂直方向に向けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気デバイスに係り、より具体的には交換バイアス薄膜を含む磁気デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
155Mbits/mm(100Gbits/in)の高面積密度磁気記録の追及は、垂直異方性を有する新たな磁性材料の分野に広範囲の研究を促してきた。薄膜作製の場合、静磁エネルギーにとっては膜面内での磁化を維持するほうが有利なので、このことは困難な挑戦となる。合金又は多層デバイスの記録媒体に注目が集まる一方、垂直異方性を有するトンネル接合デバイス又はスピンバルブ・デバイスには、ほとんど、もしくは全く注意が注がれていない。
【0003】
スピンバルブは、磁気センサとして広く使用されている。スピンバルブは、反強磁性(AF)層を利用して、交換バイアスとして知られる現象により強磁性(FM)層の磁化方向をピン止めする。バイアスは、強磁性層が反強磁性層に直接接触することによる界面交換結合により生じる。交換バイアス効果は、保磁力(H)の増大とともに、交換磁界(H)として知られるゼロ磁界からのある量のずれとしてヒステリシス・ループから容易に観察される。交換バイアスは、40年余以前に発見されて以来、多くの磁気2層系で観察されてきた。この効果の性質を理解する鍵は、強磁性層及び反強磁性層双方の界面スピン・デバイスである。しかし、現在までのあらゆる実験的かつ理論的研究にもかかわらず、交換バイアス効果は、未解決のままである。
【0004】
あらゆる交換結合AF/FM2層構造体の研究に共通の1つの手法が存在する。すなわち、強磁性層の磁化が膜の面内に限定されている点である。最近、垂直交換バイアスが、反強磁性FeF基板上に成長した(Co/Pt)多層に観察できることが示された。低温では、ずれたヒステリシス・ループが、面内交換バイアス系に類似することが観察されたが、磁界が基板平面に対して垂直に印加される点が異なっている。続いて、酸化Co上層を有する同じ種類の(Co/Pt)多層が使用された別の研究も報告されている。ここで、CoOは反強磁性層である。これらの例では、交換バイアスの問題に新たな実験的手法が導入されており、強磁性層と反強磁性層との間のスピン・デバイスの性質に新たな光が投じられている。しかし、これら2つの研究では、強磁性構成要素がむしろ複合多層デバイスで作製されており、その場合、交換バイアス効果は別として、Co層とPt層との間に別種の界面交換結合も存在している。
【0005】
垂直異方性を有する多くの薄膜強磁性体が存在する。それらの場合、強磁性層は、適切な下の基板上のエピタキシャル成長による結晶格子のひずみに起因するスピンの再配向効果を有している。若干の一般的な例はCo/Au(111)およびNi/Cu(002)である。Cu層上のNi層は、最も広く研究されている系の1つであり、この系は、交換バイアス研究にとって理想的な多くの顕著な特徴を有している。基本的に、20Å厚を超えるNi層は室温で磁性を有し、100Åの範囲を超えると垂直異方性を示す。50Oe未満のH値も、40Å厚未満の層の場合に報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板面に対し垂直方向の磁化を有するデバイスは、磁界検出のための新たな、魅力的な特徴を提供できる。したがって、本発明は、磁界検出に使用できる垂直交換バイアス・デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により構成された垂直交換バイアス・デバイスは、基板表面上のバッファ材料層と、バッファ層表面上の強磁性材料層と、強磁性材料層表面上の反強磁性材料層とを含み、強磁性材料層の磁化が、強磁性材料層の面に対し垂直方向を向いているものである。
バッファ材料は、銅及びダイアモンドからなる群から選択される材料を含むことができる。強磁性材料層は、ニッケル又はニッケル含有合金からなる群から選択される材料を含むことができる。反強磁性材料層は、マンガン基合金、例えばFeMnを含むことができる。
あるいはまた、バッファ材料は、(002)銅又は(001)ダイアモンドを含むことができる。ダイアモンドは、ホウ素をドープされたダイアモンド、又は窒素をドープされたダイアモンドを含むことができる。
【0008】
また本発明は、垂直交換バイアス・デバイスの製作方法に関するものであり、該製作方法は、基板表面上にバッファ材料層を形成する段階と、バッファ材料層の表面上に強磁性材料層を形成する段階と、強磁性材料層の表面上に反強磁性材料層を形成する段階とを含み、強磁性材料層の磁化が、強磁性材料層の面に対して垂直方向に向けられる方法である。
バッファ材料は、銅及びダイアモンドからなる群から選択された材料を含む。強磁性材料層は、ニッケル又はニッケル含有合金からなる群から選択された材料を含むことができる。反強磁性材料層は、マンガン基合金、例えばFeMnを含むことができる。
バッファ材料は、(002)銅又は(001)ダイアモンドを含むことができる。ダイアモンドは、ホウ素をドープされたダイアモンド又は窒素をドープされたダイアモンドでよい。
バッファ材料層表面上に強磁性材料層を形成する段階は、バッファ材料層表面上に強磁性材料層をエピタキシャル成長させる段階を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明により構成された2層構造体の略示図。
【図2】図1のデバイスのX線回折スペクトルを示す図。
【図3】銅層上に設けた数例の2層構造体デバイスについてヒステリシス曲線を示した図。
【図4】被着ままの、磁界中冷却されたバイアスサンプルの交換磁界を示す線図。
【図5】純Niおよびバイアスされた例について保持力をNi厚さの関数として示した線図。
【図6】本発明により構成されたデバイスを、垂直記録媒体の一部分と組み合わせて示した略示図。
【図7】本発明により構成されたデバイスを、垂直記録媒体の一部分と組み合わせて示した略示図。
【実施例】
【0010】
図面を参照すると、図1には、本発明により構成された2層構造デバイスが略示されている。このデバイスは、例えば(001)シリコンである基板12を含んでいる。銅層14は、基板の表面16上に位置するように示されている。一例では、銅は規則面心立方晶層である。ニッケル層18は、銅層の表面20上に位置している。ニッケル層と銅層との結晶格子が僅かに相違することにより、ニッケル内に垂直磁化が生じる。鉄マンガン(FeMn)層22が、ニッケル層の表面24上に位置している。面心立方晶(fcc)Niは、FeMn層の成長に好適な型板(テンプレート)となる。第2の銅層26が、鉄マンガン層の表面28上に位置し、多積層スタックの酸化を防止する。
【0011】
図2は、図1に示したデバイスのX線回折スペクトルであり、該スペクトルは著しい方位性を有する(002)方位結晶を示している。X線回折スペクトルから分かるように、Cuバッファ層は、[002]方向に沿って単結晶の様な集合組織を有している。このピークにNi層とFeMn層のピークが重ねられる。Cu,Ni,FeMnのバルク格子定数が、各々3.62Å,3.52Å,3.64Åであるため、Niピークは、Cuより僅かに大きい2θ値で観察され、FeMnピークは、Cuより僅かに小さい2θ値で観察される。ファイ(Phi)スキャンでは、更に、高い結晶品質サンプルを示唆する4回対称を示している。Cu層とNi層との間の3%の格子不整合により、Ni層内での垂直磁化(M)が生じる。
【0012】
図1のデバイスの構造を有するサンプルは、HFエッチングしたSi(001)基板に3mTorrでArをDCマグネトロン・スパッタリングすることにより作製された。しかし、蒸着、分子ビームエピタキシィ、レーザ除去等の薄層作製技術も同様に、十分使用できる。1000ÅのCuバッファ層が、まずHFエッチングされたSi(001)ウェーハ上に成長させられ、公知技術のとおり、歪んだNiをエピタキシャル成長させるために必要な(002)集合組織の生成が促進させられる。Cuバッファ層を使用するに当たり、30Å〜100Åの範囲で厚さを変動させたNi層を有する2種類の2層構造体を、比較のために成長させた。これらのNi層には、50ÅのFeMnおよび30ÅのCuの上層を設けた。30ÅCuを上層に有する純Ni層を包含する追加サンプルも構成された。
【0013】
図3には、積層デバイス・サンプルのヒステリシス曲線が示されている。ループ40は、銅層上に40Åの純Ni層を設け、上層に更に銅層を設けた場合のヒステリシス曲線である。ループ42は、銅層上に、被着まま(as−deposited)の50ÅFeMn/40ÅNiの2層構造体を設けた場合のヒステリシス曲線である。ループ44は、2kOeで150℃から磁界中冷却された50ÅFeMn/40ÅNiの2層構造体の場合のヒステリシス曲線である。被着ままの膜は、磁界の不在下で成長させた。磁界中冷却された膜は、FeMnのネール温度Tを超える温度まで加熱し、2kOe磁界の存在下で室温まで冷却した。
【0014】
図3のヒステリシス・ループは、1組の40Å厚のNi膜について、極磁気光カー効果(MOKE)を利用し室温で測定したもので、その場合、印加磁界(HAPPL)は、基板面に対し垂直であった。ループ40に見られるように、純Ni膜は、H値がほぼ200Oeの方形ループを有し、この値は、同じ厚さの蒸着Ni/Cu膜で既に報告された値より大きい。蒸着と比較したスパッタリングの成長圧力及びエネルギー使用の相違により、磁気特性が僅かに変化した。被着まま、および(2kOeで150℃から)磁界中冷却された交換バイアスのサンプルで得られたヒステリシス・ループが、ループ42及びループ44として示されている。ループ44からは、FeMn/Niの2層構造体で、膜面に垂直の交換バイアスが明らかに観察される。このヒステリシス・ループは、ゼロ磁界からほぼ600Oeだけずれている。このHの大きさは、ほぼ同じ厚さのFeMN/NiFeの2層構造体で他者が測定した値と類似の値である。これらのヒステリシス曲線は、もはや方形ではなく、ループ40に示した純Ni膜に比較すると傾いている。ほとんどの交換2重層系では、HAPPLが一方向(UD)異方性軸と平行な場合に、ヒステリシス曲線が高度の方形性を有するが、これは、2層構造体が大きな磁界中でネール温度Tを跨いで冷却されると、強磁性層が単磁区状態になるからである。本発明の2層構造体の場合、強磁性層は明らかに単磁区ではないが、これは、おそらく、既に交換バイアスに影響すると指摘されていたNi/Cu界面での大きい誘導ひずみのためだろう。更に、飽和磁界がかなり増大していることは、面内磁化成分の存在を示唆している。
【0015】
被着ままのサンプルでは、はるかに複雑なヒステリシス・ループ42が観察されるが、これは、FeMnのネール温度Tが室温を超えているからである。このヒステリシス曲線は明らかな特徴を有し、ループの一方の部分が右側へ、他方の部分が左側へ移動している。われわれは、交換結合2層構造体での被着ままサンプルについて新たな交換磁界H(AD)を定める。右方および左方双方へループがずれる場合のH(AD)の大きさは、等価である。このことが示唆するのは、Ni層が多磁区であり、その場合、磁化は逆方向を向くが、依然として膜面に対しては垂直のままだということである。更に磁区のスピン構成は、FeMn層との交換結合により定位置に固定される。注意すべき点は、縞状磁区が、磁気力顕微鏡(MFM)画像からCu上のNi薄層で以前に観察されていた点であり、しかもその場合、磁区デバイスが、Ni層厚とともに変化することが指摘されていた。われわれの結果は、磁気測定を使用してNi薄層による磁区デバイスを観察する別の方法での試みと合致している。また、被着ままのサンプルのヒステリシス曲線は、消磁されたゼロ磁界中で冷却された交換バイアスNiFe/CoOで他者が以前に観察した曲線に類似しており、この場合もNiFeは多磁区状態である。
【0016】
図3に示した交換バイアス・ヒステリシス曲線は、磁界および一方向異方性軸が膜面に垂直の場合、磁化ベクトルが3つの明確な方向を指し得ることを明示している。われわれは、磁化ベクトルが膜面に垂直に位置する磁化ベクトルの、膜面から「上向き」(M⊥↑)および膜面へ向かって「下向き」(M⊥↓)と示された2方向を確認している。第3の方向は、面内


に位置する磁化ベクトルである。極磁気測定法は面外成分を測定するだけであり、特定結晶軸に沿った面内磁化の方向とは無関係である。したがって、上向き又は下向きの磁化ベクトルがループの移動に寄与する一方、面内磁化は飽和磁界を増大させる。各磁区配列の総数は、静磁気垂直磁壁エネルギーと界面交換エネルギーとの間のバランスに依存する。これらのエネルギーの寄与は、結果的に異なる形状のヒステリシス曲線を生じさせる強磁性層の厚さ及び反強磁性層の厚さの関数として変化する。
【0017】
ネール温度Tを跨いだ冷却の間に大磁界を印加することにより、強磁性層内の磁区配列が変化し、交換バイアスの結果も変化しよう。図4には、被着ままのサンプル、および磁界中冷却されたH(FC)サンプルの交換磁界が、Ni層厚の関数として示されている。曲線50は、被着ままのサンプルの交換磁界を示している。曲線52は、磁界中冷却サンプルの交換磁界を示している。このデータから、2つの明らかな特徴が観察される。第1は、双方の場合とも、H(AD)とH(FC)とが、1/tNiの振る舞いに従っていることである。この場合、tNiは強磁性層の厚さである。この周知の表面効果は、面内交換バイアス系の多くで既に指摘されていたものである。第2は、被着ままのサンプルのループのずれが、常に、磁界中冷却サンプルのループのずれより大きい点である。われわれの測定では、2層構造体デバイスには磁界焼鈍の前後で明らかな相違は認められず、強磁性層内の磁区配列のみが変化した。大磁界の印加により、一定の交換領域にわたり、多磁区が、より少数の磁区に合体する。磁区内の強磁性スピンの寸法および数がループのずれの大きさに影響することは明らかである。又、われわれの実験で利用可能な最大磁界は2kOeにすぎず、この値は、Niの4πM値(〜6kOe)未満であることも留意されたい。より大きい磁界であれば、あらゆるNiスピンを等方向に設定できるだろうが、そのことが、H(AD)とH(FC)との相違の説明となるかどうかは、双方が類似の磁区デバイスであるため不明である。
【0018】
本発明の交換バイアス2層構造体の保磁力は、また、独特な強磁性層厚さへの依存性を有している。Ni層厚さに対する、純Ni膜の保持力H(Cu/Ni/Cu)および交換バイアス2層構造体の保持力H(FeMn/Ni/Cu)が図5に示されている。面内交換バイアス系とは異なり、H値は、曲線54で示された交換バイアスFeMn/Niの2層構造体の方が、曲線56で示された設定Ni厚での純Ni膜と比較して低い値である。交換バイアス膜のH値がより低いのは、交換バイアスの角度依存測定による強磁性層の面内磁化成分


に帰せられる。Ni層厚さが増大するにつれて、顕著な面内磁化の結果、交換バイアスのない純Ni膜と比較して保磁力はより小さくなる。この傾向は図5に示されており、この場合、Hは、最も厚いNi膜の場合に最小となる。本発明の膜の場合、図5の破線で示されている30オングストローム未満の厚さでは、Ni膜は単磁区状態にあり、磁化は膜面に対し垂直で、面内磁化成分は存在しない。
【0019】
以上、Cu(200)バッファ上にエピタキシャル成長させた簡単なFeMn/Niの2層構造体デバイスの作製及び分析を説明したが、該2層構造体は、外部磁界が膜面に対して垂直に印加された場合にのみ、交換バイアス効果を示す。観察された垂直交換バイアス効果は、この系に独特のものであり、その理由は、強磁性層磁化が膜面に対し垂直となるように強制する適切なバッファ層に2層構造体が成長せしめられたためである。Cu(200)バッファなしでは、FeMn/Niの2層構造体デバイスは、普通に見られる面内交換バイアス効果を示すだろう。Niを選択することにより、重要な特徴、例えば広い厚さ範囲にわたる低保磁力や、大部分のMn基反強磁性層、例えばRhMn,PtMn,IrMn等用の適当な型板が得られ、それによって現在のデバイス構成物へ容易に組み込むことができる。
【0020】
一例では、本発明には、磁化と印加磁界とが膜面に対して垂直である、Cu(002)バッファ上に成長せしめられたFeMn/Niの2層構造体を含む、室温での垂直交換バイアス・デバイスが包含されている。この2層構造体デバイスの独特の特徴は、Cu(200)バッファ層、およびそれに続く、垂直異方性を有する僅かにひずみを生じたNiのエピタキシャル成長である。Hの大きさは、Ni層内の強磁性磁区寸法に著しく依存し、Hは、交換バイアス膜内では、純Ni膜に比較して小さい。
本発明のデバイスでは、適当な反強磁性体とともに、垂直異方性を有する強磁性体を含む2層構造体が使用される。強磁性材料は、純Ni又はNi基合金、例えばNi95Coでよい。
【0021】
垂直磁化を得るための重要な特徴は、適切な基板上での強磁性層のエピタキシャル成長である。一実施例では、Cu(200)をHFエッチングされたSi(001)上に成長させるが、他の適当なバッファ層や基板候補材料も存在する。とりわけ、(001)結晶方位を有するダイアモンド(C)基板は、市場で入手可能であり、Cu(002)に似た型板が得られよう。更に、Si(001)上に成長させたダイアモンド膜は、またNi基合金膜用の適当なバッファ層になるだろう。C(001)基板が魅力的なのは、窒素をドープして絶縁材とするか、又はホウ素をドープして導体とすることができるからである。このことによって、特別な輸送構造の使用が可能になる。例えば面垂直電流(CPP)構造を利用する場合、導電性C(001)基板により、底部接点への接続が容易になる。他方、絶縁基板C(001)は、Cu厚膜からの電流の短絡を排除する面内電流(CIP)構造に理想的である。反強磁性層は、Mn基合金が可能で、該合金は、垂直異方性を破壊することなしに強磁性層に最小量の応力を加える。提案されたこの2層構造体デバイスは、膜面に垂直の磁化を有するスピンバルブ・センサの製造に使用できる。
【0022】
われわれは、Cu(002)上に成長させた1組のFeMn/Niの2層構造体において、磁化および印加磁界が膜面に垂直な、室温で垂直交換バイアスを示すサンプルを構成した。被着ままのサンプルのヒステリシス・ループの顕著な特徴は、FeMn層との交換結合により定位置に固定されたNi薄膜による多磁区型デバイスを示唆している。ほぼ1kOeでのループのずれが、被着ままのサンプルで測定されたが、2層構造体が高温から磁界中冷却されると、ずれは減少する。ループのずれは、またNi層厚と逆に変化することが示される一方、保磁力は、交換結合サンプルでは純Ni膜より減少する。ここに説明した2層構造体デバイスは、磁気記録用の多くの読み取りデバイス及び媒体に利用可能かつ組み込み可能である。
垂直異方性を有する2層構造体は、好ましくは高いキュリー温度Tを有する強磁性層と、高いネール温度Tを有する反強磁性層とを含み、それにより、室温ヒステリシス測定を行うことができる。スピンバルブ・デバイスの場合、T及びTの双方がデバイス作動温度より高くなければならず、大半の交換バイアス・システムでは、常にTがTより高い。更に、反強磁性層を選択する場合、反強磁性層は、磁化が膜面に対し垂直となる広い厚さ範囲と、交換バイアス効果、つまりループ移動の観察が容易になるような比較的小さい保磁力とを備えている必要があろう。
【0023】
本発明の2層構造体デバイスは、垂直異方性を有するスピンバルブ・デバイスの一体部品にすることができる。図6及び図7は、本発明により、垂直記録媒体の一部分と組み合わされたスピンバルブ・センサの部品として構成されたデバイスの略示図である。図6の場合、センサ60は垂直磁気記憶媒体64の表面62近くに位置するように示されている。該磁気記憶媒体は、軟質磁性層68上に硬質磁性層66を有している。硬質磁性層66は、複数のビット、例えば70及び72を含み、しかも該ビットの磁化方向は、媒体に記憶されたディジタル情報を表している。図6の場合、ビット70,72の磁化によりフリンジ磁界74が発生し、これによって強磁性層76の磁化がフリンジ磁界に整合せしめられる。このため、強磁性層の磁化は、ピン止めされた層78の磁化と逆方向となる。電流が面に対して垂直方向にデバイスを導通するように、電源80がデバイスに接続されている。強磁性層とピン止めされた層との磁化の相対方向は、デバイス抵抗に影響し、電圧検出器82が検出するデバイスの電圧に変化を生じさせる。
【0024】
図7の場合、ビット84及び86の磁化によりフリンジ磁界88が発生し、これによって強磁性層76の磁化がフリンジ磁界に整合せしめられる。この場合には、強磁性層の磁化は、ピン止めされた層78の磁化と同じ方向である。これにより、デバイスの電圧は異なる値となる。媒体がセンサに対して移動するにつれて、媒体に記憶された情報を、センサを通る1組の電圧として読み取ることができる。
現在まで、ほとんどすべての交換バイアス研究は、膜面内での磁化についてであった。われわれの2層構造体デバイスは、特徴的でない方法で交換バイアス効果を得る簡単な解決策を提供するものである。しかし、磁化は膜面に対し垂直だが、垂直交換バイアス効果は、面内交換バイアス効果に似た多くの特徴を有している。垂直交換バイアスでは、Hも強磁性層の厚さと逆に変化し、それによりバイアス効果を調整できる調整可能な範囲が得られる。
【0025】
前記の簡単な2層構造体デバイスの使用により、完全なスピンバルブ・センサが実現できた。この垂直センサは面内センサに優る多くの利点を有している。現在の読み取りヘッド・デバイス及び媒体幾何形状を利用して、垂直異方性を有するスピンバルブ・センサは、記録媒体からダウントラック漂遊磁界成分を検出できる。垂直記録媒体の使用により期待されるように面積記録密度がより高い値に増大すると、この種のスピンバルブの有用性はきわめて重要になろう。更に、小寸法の面内スピンバルブの場合、減磁界が、特に境界に沿ってデバイス全域に不均一な磁化を生じさせることがある。垂直スピンバルブでは、このような問題がなく、硬質バイアス磁石の必要もないので、デバイス製造が簡単になろう。
本発明を数例によって説明したが、当業者には、特許請求の範囲に定義される本発明の枠を逸脱することなしに、開示した例に対し種々の変更を加えることが可能であることが理解されよう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直交換バイアス・デバイス(10)において、
基板(12)の表面上のバッファ材料層(14)と、
前記バッファ材料層(14)の表面上の強磁性材料層(18)であって、該強磁性材料層の磁化が、強磁性材料層面に対し垂直方向に向いている強磁性材料層(18)と、
前記強磁性材料層の表面上の反強磁性材料層(22)とを含む垂直交換バイアス・デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−192907(P2010−192907A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53111(P2010−53111)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【分割の表示】特願2004−511849(P2004−511849)の分割
【原出願日】平成14年9月19日(2002.9.19)
【出願人】(500373758)シーゲイト テクノロジー エルエルシー (278)
【Fターム(参考)】