説明

垂直磁気記録媒体の製造方法及び垂直磁気記録媒体

【課題】特定の強磁性層の膜厚および磁気特性を選択的に評価する手法を提供し、それを用いた評価結果を製膜工程にフィードバックすることで、量産時に安定した磁気特性を有する垂直磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】非導電性基板上に軟磁性層と、酸化物を含有する第1強磁性層と、第2強磁性層と、保護層を製膜して媒体を形成する工程(104)と、前記媒体をサンプリングし、カー効果測定により磁気特性を評価する第1評価工程(108)と、第1評価工程において、磁気特性が目標値の範囲外となった場合、当該媒体をホール効果測定による評価を行い、第2強磁性層の膜厚および磁気特性を選択的に評価する第2評価工程(112)と、を有し、第2評価工程の評価結果を媒体形成工程(104)にフィードバックし、媒体の磁気特性が仕様範囲になるように第2強磁性層の製膜条件を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大容量磁気記録装置に搭載される垂直磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットや携帯端末の急速な普及に伴い、ユーザーが取り扱う情報量は急激に増え続けている。テキスト、音楽や動画といった多種類に亘る大量のデータを取り扱う上で、大容量記録媒体のニーズは益々高まっている。このような現状の中でデータサーバーやパソコンに始まり、モバイルデバイス等で用いられている磁気ディスク装置のさらなる高密度化が必要とされている。
【0003】
磁気記録媒体の更なる高密度化において、垂直磁気記録方式は従来の長手磁気記録方式の限界を克服できるとして注目されている。その主な理由は、媒体の熱安定性の観点で長手磁気記録方式と比べて垂直磁気記録方式は優れていることにある。垂直磁気記録媒体において、データが記録される磁性層は媒体面に直交する方向に対して磁気異方性を有し、長手磁気記録媒体と比べて膜が厚いことから特に高密度領域での記録ビットは安定している。
【0004】
高密度化を図るためには磁性層内の磁性結晶粒子径を小さくし、且つ媒体ノイズを下げるために磁性粒子間の磁気的相互作用の低減が必要不可欠である。一方、磁性結晶粒子径が小さくなると媒体の熱安定性が衰えるため磁気異方性エネルギーを増大させる必要がある。強い磁気異方性を有し、且つ磁気的に孤立されている磁性結晶粒子構造を有する磁性層が垂直磁気記録において必要となる。磁性結晶粒子間の粒界に非磁性非金属の酸化物を偏析させることで、磁性粒子の孤立化が実現可能であることが既に提案されている。しかしながら、このような媒体は、実現可能な最大のヘッド磁界によって磁化反転が困難なため、記録しにくいことが問題である。孤立粒子構造を有する媒体において、書き込み性能の低さがかえって媒体ノイズを増大させる。垂直磁気記録媒体においては、ヘッド磁界を強める目的で磁性層の下に高い透磁率を有する裏打ち軟磁性層(SUL)が利用されているが、その磁気特性(例えば透磁率、磁区構造)や物理的な特性(例えば厚さ)を最適化し、ヘッド磁界の強さと勾配を最大にすることができたとしても、前述の孤立粒子構造を有する磁性層内の磁化反転にはヘッド磁界の強さと勾配は不十分である。
【0005】
この問題を解決するためには、前述のSUL上に、直接あるいは中間層を介して形成した前述の構造を有する磁性層(以降第1磁性層と称する)の上に、比較的強い軟磁性の特性を有する第2磁性層を設けることが提案されている(特許文献1、非特許文献1)。第2磁性層は主に磁性金属あるいは第1磁性層内に含まれている酸化物濃度と比べて少ない酸化物濃度を有する金属層である。軟磁性の第2磁性層と比べ硬磁性を有する第1磁性層との間に働く磁気的相互作用が、第1磁性層内の磁化反転を促進させ、書き込みやすくする。第1磁性層の上にスパッタリング法等により第2磁性層をエピタキシャル成長させることで、このような媒体は実現可能である。媒体の記録再生特性、特にオーバーライト性能は、この第2磁性層の厚さや磁気特性に強く依存する。第2磁性層の厚さが厚くなると、第2磁性層内の磁性粒子間の磁気的相互作用が増大し、それが第1磁性層も含めた記録層全体の磁化反転をアシストするため、オーバーライト特性は向上する。同時に媒体ノイズも低減され、媒体の信号対雑音比も向上する。
【0006】
【特許文献1】特許第2991688号公報
【非特許文献1】B. R. Acharya et al.,“Anisotropy enhanced dual magnetic layer media design for high-density perpendicular recording”, IEEE Trans. Magn., vol. 41, No. 10, pp. 3145 3147, Oct. 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
垂直磁気記録媒体は一般的に基板上に裏打ち軟磁性層があり、その上に非磁性の中間層が堆積され、さらに、中間層の上に第1強磁性層が堆積されて作製される。第1強磁性層と裏打ち軟磁性層間の非磁性中間層は、第1強磁性層の結晶配向を制御すると同時に裏打ち軟磁性層との磁気的相互作用も遮断している。第1強磁性層上に第2強磁性層が積層された多層構造の垂直磁気記録媒体において、媒体のオーバーライト特性を第2強磁性層、第1強磁性層、そして非磁性中間層の厚さの関数として見ると図10に示すように、オーバーライト特性は第2強磁性層の厚さに非常に敏感であることが分る。このことから、前述のような垂直磁気記録媒体の製造において、第2強磁性層の厚さおよび磁気特性の制御が極めて重要である。
【0008】
膜厚評価の従来技術として蛍光X線の強度を測定する方法がある。この方法では記録層が前述のように第1強磁性層と第2強磁性層からなる複合構造になった場合、分離しにくいという問題がある。特に第1強磁性層を構成する元素と第2強磁性層を構成する元素が同じ場合あるいは同じ元素で組成が同じもしくは近い場合、第1強磁性層からの情報も無視できなくなるため、選択的に第2強磁性層のみからの情報を測定して膜厚を評価することが困難である。
【0009】
一方、磁気特性評価用技術として、現在、カー効果による測定方法が主に用いられている。一般的にカー効果測定で用いられている入射光の進入長は、第1強磁性層と第2強磁性層の総膜厚より大きいため、膜厚方向の一つ以上の層からの磁気情報が同時に検出される。検出された信号から第2磁性層の磁気特性を分離して評価することは困難である。
【0010】
本発明の目的は既存の評価技術の限界を超え、第2強磁性層の膜厚および磁気特性を選択的に評価できる手法を提供し、それを用いた評価結果を製膜工程にフィードバックすることで、量産時に安定した磁気特性を有する垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、第2強磁性層の膜厚および磁気特性を所定の範囲に制御することにより、オーバーライト特性が良好な垂直磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述のように高密度垂直磁気記録媒体の記録層は、磁性粒子が非磁性非金属の酸化物で孤立されている構造を有する第1強磁性層と、第1強磁性層に比べて酸化物濃度が低い第2強磁性層を有する。このような構造において媒体の記録再生特性は第2強磁性層の膜厚およびその磁気特性によって大きく左右されるため、第2強磁性層に関して選択的にその膜厚および磁気特性を評価することが重要である。本発明は、第1強磁性層と第2強磁性層を記録層とする垂直磁気記録媒体の製造方法において、第2強磁性層の膜厚および磁気特性を選択的に評価するところに特徴があり、具体的には、以下の方法で実現される。
【0012】
すなわち、非導電性基板上に少なくとも軟磁性層と、酸化物を含有した強磁性層と、コバルトを主成分とする強磁性層と、保護層とを有する垂直磁気記録媒体において、前記コバルトを主成分とする強磁性層の磁気特性を選択的にモニタリングして形成することによって、量産時に安定した磁気特性を有する垂直磁気記録媒体を提供することができる。
【0013】
本発明の代表的な垂直磁気記録媒体の製造方法は、
非導電性基板上に軟磁性層と、コバルトを主成分とし酸化物を含有する第1強磁性層と、コバルトを主成分とする第2強磁性層と、保護層とを製膜して媒体を形成する工程と、
前記媒体をサンプリングし、カー効果測定あるいは試料振動型磁力計による測定により磁気特性を評価する第1評価工程と、
前記第1評価工程において、磁気特性が目標値の範囲外となった場合、当該媒体をホール効果測定による評価を行い、第2強磁性層の膜厚および磁気特性を選択的に評価する第2評価工程と、を有し、
前記第2評価工程の評価結果を前記媒体形成工程にフィードバックし、媒体の磁気特性が目標値になるように第2強磁性層の製膜条件を制御することを特徴とする。
【0014】
前記第1評価工程においては形成した媒体の保磁力を評価し、前記第2評価工程においては当該媒体の第2強磁性層のホール電圧を選択的に測定して、膜厚および磁気特性を評価する。
【0015】
前記第2評価工程は、具体的には、媒体面に直交する方向に磁界を印加した状態で、媒体のある2点間に電流を流し、その2点を結ぶ線に直角方向に媒体面内の別の2点間でホール電圧を検出するものである。媒体面内の2点間に電流が流れる際には、ある1点から流れはじめて電流は膜深さ方向のすべての層にそれぞれの層の膜厚および電気抵抗率に応じて分配され、最後に別な1点に集中する。ここで、第1強磁性層からは、ホール電圧はほとんど発現されず、第1強磁性層に比べて第2強磁性層から大きなホール電圧が発生する。強磁性薄膜におけるホール電圧の発生は、異常ホール係数と呼ばれるもので特徴付けられるが、異常ホール係数は薄膜材料が構成される元素とその組成によって異なる。第1強磁性層内の磁性金属の結晶粒子が非磁性且つ非金属の酸化物によって囲まれているため、磁性粒子同士間の導電性は極めて乏しい。磁性粒士間の導電性はそれらを囲む酸化物の濃度とその偏析の度合によって変化するが、高密度且つ低ノイズ媒体の実現に必要とされる媒体構造としては、磁性粒子同士が酸化物で物理的に分離されることが望ましいことから、第1強磁性層の磁性粒子の間に電流は流れずホール電圧は発生しない。
【0016】
第1強磁性層に比べて酸化物濃度の低い第2強磁性層は、電流が流れ易く且つ第1強磁性層と比べてホール係数が大きいため、大きなホール電圧が発生する。発生するホール電圧は磁界によって非可逆的に変化するため、第2強磁性層内の磁化状態や磁化反転機構が反映される磁気特性を抽出することが可能である。
【0017】
また、第1磁性層内の磁性粒子自体が金属結晶であるため、電流はそれを介して下の中間層や裏打ち軟磁性層にも流れる。中間層(単層あるいは多層)は主に非磁性層であり、この層からのホール電圧は磁界によって可逆的且つ線形に変化する。また、裏打ち軟磁性層に電流が流れることによって発生するホール電圧は印加磁界に関して可逆的に変化する。
【0018】
前述のような多層構造を有する媒体から検出されるホール電圧には、第2強磁性層からの非可逆的に変化するホール電圧成分と、非磁性中間層からの線形で可逆的なホール電圧成分と、裏打ち軟磁性層からの可逆的なホール電圧成分が含まれている。検出したホール電圧の中から中間層や裏打ち軟磁性層からの可逆的なホール電圧成分は簡単に除去することができる。除去後のホール電圧成分は非可逆的で、第2強磁性層の磁気特性を反映するものである。
【0019】
前述の方法で抽出される第2強磁性層からのホール電圧は、その膜厚が厚くなると大きくなる。一般的に単層磁化膜からのホール電圧はその膜厚が厚くなると膜厚に反比例して減少するが、上述のような多層構造の磁化膜において、第2強磁性層の厚さが厚くなるとそこに流れる電流が増加し、それを除いた層に流れる総電流は減少する。第2強磁性層およびそれを除くすべての層の総膜厚の比で電流が分配され、且つ第2強磁性層のホール係数が第1強磁性層のそれと比べて大きいことを考えると、第2強磁性層から発生するホール電圧は第2強磁性層のある臨界膜厚まで増加し、それを超えると減少する。第2強磁性層のこの臨界膜厚は、それを除くすべての層の総膜厚に等しいものである。高密度用垂直磁気記録媒体の第2強磁性層の厚さは、それを除くすべての層の総膜厚と比べて薄く、第2強磁性層の臨界膜厚より薄い領域でホール電圧は第2強磁性層膜厚の増加につれて増加することになる。電流を一定にし、且つ一定磁界もしくは無磁界状態で、臨界膜厚より薄い領域で検出される第2強磁性層からのホール電圧の変化は、第2強磁性層の膜厚変化として検出することができる。
【0020】
さらに、第2強磁性層から検出される非可逆的なホール電圧特性は、第2強磁性層内の磁気特性を反映するため、第2強磁性層からのホール電圧ループを評価することで、第2強磁性層の磁気特性の変化を検出することが可能である。
【0021】
本発明の代表的な垂直磁気記録媒体は、非導電性基板上に軟磁性層と、コバルトを主成分とし酸化物を含有する第1強磁性層と、コバルトを主成分とする第2強磁性層と、保護層とを有し、前記第2強磁性層の膜厚および磁気特性が所定の範囲に制御されることにより、媒体保磁力の目標値に対するバラツキが+4kA/m、−4kA/mの範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、既存の評価技術の限界を超え、第2強磁性層の膜厚および磁気特性を選択的に評価できる手法を提供することができ、それを用いた評価結果を製膜工程にフィードバックすることで、量産時に安定した磁気特性を有する垂直磁気記録媒体の製造方法を提供するができる。また、第2強磁性層の膜厚および磁気特性を所定の範囲に制御することにより、オーバーライト特性が良好な垂直磁気記録媒体を提供するができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図2に本発明に係る垂直磁気記録媒体の層構成を示す。垂直磁気記録媒体10は非導電性の基板(Substrate)12の上部に、裏打ち軟磁性層(Soft under layer)13、非磁性中間層(Seed layer)14、コバルトを主成分とし酸化物を含有する第1強磁性層(1st Magnetic layer)15、非磁性スペーサ(Nonmagnetic spacer)16、コバルトを主成分とする第2強磁性層(2nd Magnetic layer)17、保護層(Protective layer)18が積層されて構成される。
【0024】
図1に本発明の実施例による垂直磁気記録媒体の製造方法のプロセスフローを示す。まず、非導電性基板12を洗浄する(100)。次に洗浄した非導電性基板12を乾燥し、製膜チャンバーに搬送する(102)。次にチャンバー内で図2に示した各層をスパッタリングにて製膜する(104)。製膜後に媒体をサンプリングし(106)、磁気特性(保磁力)をカー効果測定(試料振動型磁力計による測定でも良い)により評価する(108)。次に磁気特性が仕様の範囲内かどうかを判断する(110)。仕様の範囲内(in the spec)であれば、潤滑剤塗布やテープクリーニングを行い(114)、その後種々のテスト及び評価(例えばグライド・ハイトテスト、記録再生特性評価)を行なう(116)。カー効果測定(108)で評価した磁気特性(保磁力)が仕様の範囲外(out of the spec)であれば(110)、サンプリングした媒体をホール効果測定による評価を行い(112)、その結果を製膜工程(104)にフィードバックし、磁気特性(保磁力)が仕様の範囲内になるように、第2強磁性層17の製膜条件を制御する。ここでサンプリング(抜き取り)頻度を2000枚に1枚とし、磁気特性の仕様範囲は、保磁力のずれが目標値に対して±4 kA/mの範囲であり、この範囲よりもずれが大きいかあるいは小さい場合(仕様範囲外)、ホール効果測定による評価結果を製膜ステップ104にフィードバックする。媒体の磁気特性(保磁力)を仕様範囲内に制御することにより、オーバーライト特性が良好な垂直磁気記録媒体を得ることができる。
なお、媒体の保磁力が仕様範囲よりも大きくなった場合は、オーバーライト特性が劣化し、磁気的な書き込みができなくなる。
【0025】
次に、上記スパッタリング製膜工程(104)について説明する。非導電性基板としてガラス基板(Glass substrate)12を用い、このガラス基板12上にFe,CoあるいはNiを含む軟磁性材料をスパッタリングし、裏打ち軟磁性層(軟磁性層とも称す)13を形成する。実施例ではFeCoTaZr合金を20nm、Ruを0.4nm、FeCoTaZr合金を20nm積層して多層膜構造の軟磁性層とした。続いて、軟磁性層13の上に、シード層14としてCr-50at.%Tiを2 nm、CrTi層上にNi-8at.%Wを7 nm、NiW層上にRuを17 nmを堆積した。次に、第1強磁性層15としてCo-Cr-Pt合金にSi,Ta,Nb,Ti,Crの群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含むグラニュラ層を形成する。実施例では(Co-17at.%Cr-18at.%Pt)-8 mol%SiO2を13 nm形成した。次に、非磁性スペーサ16としてRu層を5 nm形成した。続いて、第2強磁性層17としてCo-Cr-Pt合金にMo,B,Nb,Taの群から選ばれる1種の元素を含む強磁性層を形成する。実施例では、Co-19 at.%Cr-10at.%Pt-3at.%Moを7 nm形成した。続いて、保護層18として 4 nmのカーボン層を形成した。
【0026】
次に、図1の点線で囲まれたホール効果測定による評価工程(112)に着目して説明する。
図3に、ホール効果測定による評価を実施するための手段と手順を示す。2個の電磁石30が対向配置された磁界発生手段を用意し、2個の電磁石30の間に評価対象の媒体10を設置する。媒体10には、その面に対して直角方向に、電磁石30により磁界が印加される。最大印加磁界は960 kA/mである。媒体10の表面に、電流を流す端子と、ホール電圧を測定するための端子とを備えた4ピンプローブ20を押し当てる。4ピンプローブ20の対角線上にある2本のピンを介して電流源32より電流を媒体10に供給し、電流を流すための2本のピンを結ぶ線に直角方向に位置する別の2本のピンでホール電圧を検出し、それを増幅器で増幅した後電圧計で計測する(34)。計測された結果から、第2強磁性層17以外から発生する可逆的な電圧成分を除去して、第2強磁性層17からの非可逆的な電圧成分を分離するデータ処理を行なう(36)。ここで、電流源32から媒体10に流す電流は一定にし、増幅器の利得は固定した。このようにして、第2強磁性層17からのホール電圧を抽出することが可能となる。
【0027】
次に、第2強磁性層17からのホール電圧を選択的に抽出する方法について説明する。図4に、非導電性のガラス基板の上に、非磁性のシード層を作製し、その上に第1強磁性層を作製した媒体40(図4(a))と、第2強磁性層を作製した媒体42(図4(b))の、ホール電圧特性(図4(c))を示す。どちらの媒体も、シード層として、Cr-50at.%Tiを2 nm、Ni-8at.%Wを7 nm、Ruを17 nm堆積させたものを用いた。第1強磁性層(1st Magnetic layer)として(Co-17 at.%Cr-18 at.%Pt)-8 mol%SiO2を13 nm形成し、第2強磁性層(2nd Magnetic layer)としてはCo-19 at.%Cr-10 at.%Pt-3at.% Moを7 nm形成した。どちらの媒体においても保護層として 4 nmのカーボン層を形成した。これらの薄膜をDCスパッタリング法により1時間当たり900枚の速さで形成した。
【0028】
これらの媒体40、42について、図3を用いて説明したホール効果測定による評価を行った結果、図4(c)に示すように、酸化物の粒界で物理的に分離されている磁性金属結晶粒子構造を有する第1強磁性層を形成した媒体40からホール電圧は検出されていないのに対し、第2強磁性層を形成した媒体42からは磁界に対して非可逆的に変化するホール電圧が検出されている。
【0029】
次に、図5に、シード層上に第1強磁性層を堆積させた媒体40(図5(a))と、シード層上に第1強磁性層とその上に第2強磁性層を堆積させた媒体44(図5(b))の、ホール電圧特性(図5(c))を示す。この場合のシード層及び第1強磁性層の材料、組成と膜厚は前述の例と同じである。第2強磁性層は、材料や組成は前述の例と同じで、膜厚のみを4 nmに変更した。図5(c)に示すように、第2強磁性層を形成しない媒体40においてはホール電圧は検出されておらず、それに対して第2強磁性層のある媒体44からは大きなホール電圧ループが検出されている。
【0030】
図4及び図5を参照して説明した、第2強磁性層から検出される非可逆的なホール電圧特性には、第2強磁性層内の磁化状態や磁化反転機構が反映されるため、第2強磁性層からのホール電圧ループを検出することで、第2強磁性層の磁気特性の変化を検出することが可能である。
【0031】
次に、図6に、前記媒体44において、第2強磁性層の膜厚を0 nmから10 nmまで変化させた際のホール電圧の変化を示す。媒体構成を図6(a)に、ホール電圧特性の第2強磁性層厚依存性を図6(b)に示す。ここでのホール電圧は媒体面に直交する方向に磁界を印加し、記録層内の磁化を磁界方向に十分に飽和させた後、磁界をゼロに戻したときの値である。第2強磁性層の膜厚が厚くなるとそこから発生するホール電圧は単調増加することが分る。
【0032】
図7に、軟磁性層の膜厚をパラメータとした際の第2強磁性層からのホール電圧の膜厚依存性を示す。図7(a)に媒体構成、そして図7(b)に第2強磁性層から発生するホール電圧を示す。ホール電圧はゼロ磁界での電圧である。軟磁性層がある場合でも、第2強磁性層から発生するホール電圧はその膜厚増加につれて増加する。軟磁性層厚が薄いほど第2強磁性層からのホール電圧は大きくなる。媒体に流れる電流が一定であるため、軟磁性層が厚い場合その電気抵抗が下がり、軟磁性層に流れる電流成分が大きくなるが、軟磁性層厚が薄くなると、第2強磁性層に流れる電流成分が増え、そこから発生するホール電圧は大きくなる。一般的にホール電圧の発生源となる磁性層の厚さが厚くなると、ホール電圧の大きさは膜厚に反比例して減少するが、複数の磁性層が積層された多層構造において、ある特定の層からのホール電圧が選択的に検出される場合は知られていない。このような多層構造において、ホール電圧が検出される層の膜厚を厚くしていくと、後述するように(図9参照)、ある膜厚領域内でホール電圧は増加する。その膜厚を超えたさらに厚い領域においてホール電圧は減少する。
【0033】
図6及び図7を参照して説明したように、ホール電圧を検出することにより、多層構造の媒体において、第2強磁性層の膜厚変化(あるいは膜厚)を検出することができる。
【0034】
なお、上記においては、多層構造媒体として、第1強磁性層の上に直接第2強磁性層が堆積された場合について説明した。記録層全体の反転磁界を下げる目的で第1強磁性層と第2強磁性層の間に非磁性のスペーサを設けるような構造においても、上述した方法で第2強磁性層を評価し、製膜工程へのフィードバックが可能である。図8に第1強磁性層と第2強磁性層の間に5 nmの非磁性スペーサ(Ru層)を設けた構造(図8(a))における評価結果を示す(図8(b))。この場合の第1強磁性層と第2強磁性層の材料や組成は、これまでに説明した媒体で用いた材料や組成と同じである。図8(b)に示すように、カー効果測定ループにおいて二つのステップが観察される。第1強磁性層と第2強磁性層は非磁性スペーサによって離れているため、二つの層間の磁気的な相互作用はなく、第1強磁性層と第2強磁性層内の磁化は独立に反転を起こすような状況にある。
【0035】
例えば正方向に磁界を印加して第1強磁性層と第2強磁性層内の磁化を飽和させた状態から磁界を下げていった場合を考える。図8(b)に示すように負方向に磁界を印加し始めると、100 kA/m付近と200 kA/m付近で二つのステップが観察される。これらのステップは第1強磁性層と第2強磁性層内の磁化が反転し始める磁界を表す。第2強磁性層は軟磁気特性が強く且つRuスペーサによって第1強磁性層から物理的、そして磁気的に離れているため、第1強磁性層からの磁気的な相互作用を受けず、100 kA/m磁界付近で反転し始める。一方、第1強磁性層の異方性磁界は第2強磁性層と比べて少なくとも1桁大きい。さらに第1強磁性層内の磁性結晶粒子同士は酸化物の粒界によって物理的且つ磁気的に離れており保磁力は高い。そのため負方向印加磁界のもとで、第2強磁性層と比べて200 kA/mと高い磁界で反転し始める。
【0036】
一方、ホール効果測定によるループにおけるステップは一つしか見られない。そのステップはカー効果測定における100 kA/m付近で見られる第2強磁性層の磁化反転開始磁界と同じである。また、その後も、カー効果測定で見られる低磁界付近ループとホール効果測定によるループは同じであることから、ホール効果測定では第2強磁性層の磁気特性のみが選択的に抽出されていることになる。この結果から、第1強磁性層及び第2強磁性層の間に非磁性スペーサが存在する場合でも、第2強磁性層の磁気特性を評価することは可能となる。
【0037】
前述のように、多層構造の垂直磁気記録媒体における第2強磁性層の厚さは、それ以外のすべての層の全層厚と比べて非常に薄い(約10分の1)ものである。このような状態で、図6および図7で示したように第2強磁性層の厚さが厚くなると、そこから検出されるホール電圧は次第に大きくなっていく。しかしながら、この結果は一般的にホール電圧はその発生源となる磁性薄膜の厚さが厚くなると膜厚に反比例して減少することと大きく異なる。第2強磁性層とその他のすべての層を一括して一つの層と考えた場合、第2強磁性層とその他の層から発生するホール電圧の変化を第2強磁性層の関数として示したのが図9である。第2強磁性層の厚さを厚くすると、その他のすべての層から発生するホール電圧は次第に減少する。しかしながら、第2強磁性層からのホール電圧は、第2強磁性層のある膜厚まで増加し、その後減少する。第2強磁性層から検出されるホール電圧が最大となるのは、第2強磁性層の厚さがその他のすべての層の全層厚と等しいときである。比較のために、第2強磁性層が単層の状態で存在する場合の結果も図9に示すが、第2強磁性層の厚さが非常に厚い領域で、例えばその他の層の全層厚と比べて10倍以上となった領域で、第2強磁性層が単層の状態と同じような振る舞いをする。
【0038】
図2に示したような垂直磁気記録媒体10では、第2強磁性層17の厚さは、その他の層の全層厚と比べて非常に薄いものである。したがって、第2強磁性層17の膜厚の増加によってホール電圧が必ず増加する領域内で、ホール電圧を検出して、第2強磁性層の製膜条件を制御することにより、垂直磁気記録媒体10の磁気特性(保磁力)を仕様の範囲内に制御することができる。
【0039】
なお、従来の評価手法である、例えばカー効果測定あるいは試料振動型磁力計による測定では、前述した多層構造を有する垂直磁気記録媒体の第2強磁性層の磁気特性を選択的に評価することは困難である。例えば試料振動型磁力計による測定方法では、多層構造の試料内の全層からの信号が重なり合った状態で計測される。計測された結果から一つの特定な層の磁気特性を分離することは極めて困難なことである。さらに、試料振動型磁力計による測定方法では、非導電性基板からもその磁気特性が検出されるため、全体の測定結果から除去する必要がある(上記実施例におけるホール効果測定では、非導電性基板に電流は流れず電圧は得られないため、基板の影響はない)。一方、カー効果測定による方法では、記録層の磁気特性は測定できるが、第2強磁性層の磁気特性を分離することは困難である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例による垂直磁気記録媒体の製造プロセスフローを示す図である。
【図2】本発明に係る垂直磁気記録媒体の層構成を示す図である。
【図3】ホール効果測定による評価の手段と手順を示す図である。
【図4】2種類の媒体についてのホール電圧特性を示す図である。
【図5】第1強磁性層と第2強磁性層を積層させた媒体のホール電圧特性を示す図である。
【図6】第2強磁性層の膜厚を変化させた際のホール電圧の変化を示す図である。
【図7】裏打ち軟磁性層の膜厚を変化させた際の第2強磁性層から検出されるホール電圧の変化を示す図である。
【図8】第1強磁性層と第2強磁性層の間に非磁性スペーサを設けた場合の評価結果を示す図である。
【図9】第2強磁性層とそのほかの層から発生するホール電圧の変化を第2強磁性層の厚さの関数として示した図である。
【図10】オーバーライトの各層厚さ依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10…垂直磁気記録媒体、
12…非導電性基板、
13…裏打ち軟磁性層、
14…非磁性シード層、
15…第1強磁性層、
16…非磁性スペーサ、
17…第2強磁性層、
18…保護層、
20…4ピンプローブ、
30…電磁石、
32…電流源、
40…シード層上の第1磁性層、
42…シード層上の第2磁性層、
44…裏打ち軟磁性層のない状態のシード層上の第1及び第2磁性層、
46…裏打ち軟磁性層のある状態のシード層上の第1及び第2磁性層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電性基板上に軟磁性層と、コバルトを主成分とし酸化物を含有する第1強磁性層と、コバルトを主成分とする第2強磁性層と、保護層とを形成する媒体形成工程と、
前記媒体をサンプリングし、カー効果測定あるいは試料振動型磁力計による測定により磁気特性を評価する第1評価工程と、
前記第1評価工程において、磁気特性が目標値の範囲外となった場合、当該媒体をホール効果測定による評価を行い、第2強磁性層の膜厚および磁気特性を選択的に評価する第2評価工程と、を有し、
前記第2評価工程の評価結果を前記媒体形成工程にフィードバックし、媒体の磁気特性が目標値になるように第2強磁性層の形成条件を制御することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記第1評価工程においては形成した媒体の保磁力を評価し、前記第2評価工程においては当該媒体の第2強磁性層のホール電圧を選択的に測定して、膜厚および磁気特性を評価することを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記第2評価工程において、評価すべき媒体の面に垂直な方向に一定磁界を印加するか無磁界状態で、該媒体の2点間に一定電流を流し、該2点間を結ぶ線に直交する方向の2点間でホール電圧を検出することにより、第2強磁性層の膜厚を評価することを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記第2評価工程において、評価すべき媒体の面に垂直な方向に磁界を印加し、該媒体の2点間に電流を通電し、該2点間を結ぶ線に直交する方向の2点間でホール電圧を検出することにより、第2強磁性層の磁気特性を評価することを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記電流は一定とし、前記印加磁界を正方向および負方向に変化させることを特徴とする請求項4記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記第2評価工程においてはさらに、前記検出したホール電圧から前記第2強磁性層以外から発生する可逆的な電圧成分を除去して第2強磁性層からの非可逆的な電圧成分を分離する処理を行なうことを特徴とする請求項2記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記第2強磁性層以外から発生する可逆的な電圧成分は、前記軟磁性層からの可逆的なホール電圧成分を含むことを特徴とする請求項6記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
非導電性基板上に軟磁性層と、コバルトを主成分とし酸化物を含有する第1強磁性層と、コバルトを主成分とする第2強磁性層と、保護層とを有する垂直磁気記録媒体において、前記第2強磁性層の膜厚および磁気特性が所定の範囲に制御されることにより、媒体保磁力の目標値に対するバラツキが+4kA/m、−4kA/mの範囲内であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記非導電性基板はガラス基板であり、前記第1強磁性層はCo‐Cr‐Pt合金にSi,Ta,Nb,Ti,Crの群から選ばれる1種の元素の酸化物を含むグラニュラ層であり、前記第2強磁性層はCo‐Cr‐Pt合金にMo,B,Nb,Taの群から選ばれる1種の元素を含む強磁性層であることを特徴とする請求項8記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
前記軟磁性層はFe,Co,Niの少なくとも1種の元素を含む軟磁性材料からなることを特徴とする請求項8記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−87445(P2009−87445A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255582(P2007−255582)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】