説明

型、型の製造方法、および、型を用いた反射防止フィルムの製造方法

【課題】複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型を簡便に製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】型の製法方法は、陽極酸化処理により、金属製基板30の表面30aに複数の孔36を形成する工程と、化学蒸着法または物理蒸着法により、少なくとも隣り合う二つの孔の間に位置する金属製基板の表面に、皮膜40を形成する工程と、を備える。反射防止フィルム10の凸部15を形成するための凹部25が、孔36および皮膜40によって画成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型、複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型の製造方法、および、この型を用いた反射防止フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の分野において光の反射防止する反射防止フィルムが使用されてきた。これまで多用されてきた反射防止フィルムとして、低屈折率層からなる反射防止フィルムが挙げられる。反射防止フィルムをなす低屈折率層は、真空蒸着法やスパッタリング法を用いて、基材上に成膜され得る。ただし昨今では、反射防止性能に対する要求が高まり、比較的簡便に作製され得る低屈折率層からなる反射防止フィルムに代えて、モスアイ構造を有した反射防止フィルムが用いられることもある。
【0003】
モスアイ構造は、反射防止対象となる光の最短波長未満のピッチで配置された多数の突起によって構成される。モスアイ構造は、突起の配列ピッチよりも長い波長を有した光に対して、屈折率がしだいに変化する層としての光学作用を及ぼす。すなわち、反射防止対象となる光の最短波長未満のピッチで配置された突起の断面積が、反射防止フィルムの法線方向に沿ってしだいに変化していく場合、屈折率が急激に変化する界面が存在しないことになり、極めて効果的に対象となる光の反射を防止することができる。このため、反射防止性能を向上させる観点から、突起の基端部から先端部へ向けて突起の断面積がしだいに減少していくよう、突起を先細り形状に形成することが重要となる。
【0004】
極めて微細な構造からなるモスアイ構造を有した反射防止フィルムは、一般的に、モスアイ構造の突起に対応した細孔が形成された型を用いて作製されてきた。そして、例えば特許文献1に開示されているように、型の製造方法についても種々の検討がなされてきた。
【0005】
特許文献1には、陽極酸化およびエッチングにより、細孔を形成することが開示されている。とりわけ、特許文献1に開示された方法では、陽極酸化およびエッチングを多数回、例えば5回(と特許文献1の段落0025)繰り返すことを特徴としている。特許文献1の記載によれば、内径が最深部に向けてしだいに減少するテーパー状細孔を型に形成することが可能となり、この型を用いて作製された反射防止フィルムは優れた反射防止性を呈する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−156695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された型の製造方法では、陽極酸化およびエッチングを多数回繰り返す必要があり煩雑である。
【0008】
そこで本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型を簡便に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。並びに、本発明は、簡便に製造され得る型、及び、この型を用いて反射防止フィルムを製造する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による型の製造方法は、
複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型を製造する方法であって、
陽極酸化処理により、金属製基板の表面に複数の孔を形成する工程と、
化学蒸着法または物理蒸着法により、少なくとも隣り合う二つの孔の間に位置する前記金属製基板の前記表面に、皮膜を形成する工程と、を備え、
前記反射防止フィルムの前記凸部を形成するための凹部が、前記孔および前記皮膜によって画成される。
【0010】
本発明による型の製造方法が、エッチングによって前記孔を拡径する工程を、前記孔を形成する工程の後であって前記皮膜を形成する工程の前に、さらに備えてもよい。
【0011】
本発明による型の製造方法において、前記孔を形成する工程および前記孔を拡径する工程が、複数回繰り返して行われた後に、前記皮膜を形成する工程が実施されてもよい。
【0012】
本発明による型の製造方法において、前記孔を形成する工程および前記孔を拡径する工程が、一回だけ行われた後に、前記皮膜を形成する工程が実施されてもよい。
【0013】
本発明による型の製造方法において、前記隣り合う二つの孔の間に位置する前記金属製基板の前記表面に形成された皮膜の、当該隣り合う二つの孔を横切る断面における幅は、前記表面から離間するにつれて狭くなっていくようにしてもよい。
【0014】
本発明による型の製造方法の前記皮膜を形成する工程において、前記皮膜が前記孔の内壁面にも形成されるようにしてもよい。
【0015】
本発明による型の製造方法において、前記凹部の深さ方向に沿った断面での前記凹部の幅が、開口部から最深部に向けて、狭くなっていくようにしてもよい。
【0016】
本発明による型の製造方法において、前記皮膜は、陽極酸化された前記金属製基材と比較して高い離型性を有するようにしてもよい。
【0017】
本発明による型の製造方法において、前記皮膜は、陽極酸化された前記金属製基材と比較して高い耐擦傷性を有するようにしてもよい。
【0018】
本発明による型は、
複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型であって、
複数の孔を有した陽極酸化層と、
少なくとも隣り合う二つの孔の間に位置する前記陽極酸化層の表面上に形成された皮膜と、を備え、
前記反射防止フィルムの前記凸部を形成するための凹部が、前記孔および前記皮膜によって画成されている。
【0019】
本発明による型おいて、前記隣り合う二つの孔を横切る断面における前記皮膜の幅は、前記表面から離間するにつれて狭くなっていくようにしてもよい。
【0020】
本発明による型おいて、前記皮膜は、前記孔の内壁面上にも設けられていてもよい。
【0021】
本発明による型おいて、前記深さ方向に沿った断面での前記凹部の幅が、開口部から最深部に向けて、狭くなっていくようにしてもよい。
【0022】
本発明による型おいて、前記皮膜は、前記陽極酸化層と比較して高い離型性を有していてもよい。
【0023】
本発明による型おいて、前記皮膜は、前記陽極酸化層と比較して高い耐擦傷性を有していてもよい。
【0024】
本発明による射防止フィルムを製造方法は、
上述した本発明による型の製造方法のいずれかによって製造された型、或いは、上述した本発明による型のいずれかを用いて、複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムを製造する方法であって、
前記型の前記凹部が形成された面上に樹脂材料を供給する工程と、
前記樹脂材料を前記型上で固化する工程と、
前記固化した樹脂材料を前記型から剥がす工程と、を備える。
【発明の効果】
【0025】
複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型を簡便に製造することができる。また、簡便に製造された型を用いて、優れた光反射防止機能を発揮し得る反射防止フィルムを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であって、反射防止フィルムを作製するための型を示す縦断面図である。
【図2】図2は、型の一変形例を示す縦断面図である。
【図3】図3は、図1に示された型の製造方法を説明するための図であって、型の製造に用いられる金属製基材を示す縦断面図である。
【図4】図4は、図1に示された型の製造方法を説明するための図であって、陽極酸化処理を施された金属製基材を示す縦断面図である。
【図5】図5は、図1に示された型の製造方法を説明するための図であって、エッチング処理を施された金属製基材を示す縦断面図である。
【図6】図6は、図1に示された型を用いて反射防止フィルムを製造する方法を説明するための図であって、型に樹脂材料を供給する工程を説明するための図である。
【図7】図7は、図1に示された型を用いて反射防止フィルムを製造する方法を説明するための図であって、樹脂材料を型上で固化する工程を説明するための図である。
【図8】図8は、図1に示された型を用いて反射防止フィルムを製造する方法を説明するための図であって、固化した樹脂材料を型から剥がす工程を説明するための図である。
【図9】図9は、多数の凸部を有した反射防止フィルムの一例を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0028】
まず、ここで説明する型30を用いることによって製造され得る反射防止フィルム10について、主として図9を参照しながら、説明する。図9に示すように、反射防止フィルム10は、モスアイ構造11として形成された微細凹凸面を有しており、この凹凸面に入射する光の反射を防止する機能を発揮する。モスアイ構造11は、微細ピッチで基準平面SP上に配置された多数の凸部15を有している。図9に示すように、凸部15は、基準平面SP上に二次元配列されている。多数の凸部15は、基準平面SP上に規則的な配列で設けられていてもよいし、基準平面SP上に不規則的な配列で設けられていてもよい。
【0029】
反射防止フィルム15の反射防止機能は、凸部15が微小ピッチで配列されていることに起因して発揮される。隣り合う二つの凸部15の配列ピッチPaは、反射防止フィルム10によって反射を防止されることを意図された光の最短波長の値の半分未満となっている。より好ましくは、隣り合う二つの凸部15の配列ピッチPaは、反射を防止されることを意図された光の最短波長の値の1/4以下となっている。また、凸部15の高さHaは、少なくとも反射防止フィルム10によって反射を防止されることを意図された光の最長波長の半分以上となっていることが好ましい。なお、本明細書で用いられる「波長」とは、特別の事情が存在しない場合には空気中での光の波長の長さのことを指している。
【0030】
一般的には、光の反射は、屈折率が異なる媒質間での界面で生じる。一方、モスアイ構造11をなす微細凹凸面と、これに対面する空間(通常は、空気層)と、の間では、厳密には、屈折率の空間的(三次元的)な分布が生じる。しかしながら、屈折率の空間的な分布のうち、基準平面SPと平行な面内での屈折率の分布は、凸部15の配列ピッチPaよりも長い波長を有した光に対して、屈折率の分布としての光学作用を及ぼすことはない。その一方で、モスアイ構造11を形成する凸部15の高さHaが上述した長さを有する場合、モスアイ構造11は、基準平面SPと平行な断面における凸部15の断面積の変化にともなって屈折率が基準平面SPへの法線方向に変化する層として機能する。このため、基準平面SPへの法線方向に沿って凸部15の断面積が、その基端部(基準平面SPへの接続位置)15bから先端部(基準平面SPから最も離間した位置(頂部))15aへ向けて、急激に変化することなく、しだいに減少してく場合、光は、急激に屈折率が変化する界面を通過することなく、モスアイ構造11を介して異なる屈折率を有した媒質間を移動することができる。
【0031】
以上のことが、モスアイ構造11による反射防止機能の原理である。したがって、反射防止フィルム10に反射防止機能を付与する目的において、凸部15の配列ピッチPaおよび凸部15の高さHaだけでなく、モスアイ構造11を形成する多数の凸部15の、基準平面SPと平行面内における、占有割合(占有率)が、基準平面SPへの法線方向に沿って基準平面SPから離間するに連れて、100%から0%へとしだいに変化していくこと、も重要である。したがって、図9に示すように、基準平面SPへの法線方向に沿った断面において、基準平面SP上に二次元配列された凸部15の幅(基準平面SPに沿った長さ)Waは、凸部15の基端部15bから先端部15aへ向けてしだいに狭くなっていくことが好ましい。
【0032】
なお、モスアイ構造11は、反射防止フィルム10の両方の面に形成されていてもよいし、反射防止フィルム10の一方の面のみに形成されていてもよい。モスアイ構造11が反射防止フィルム10の一方の面のみに形成されている場合、反射防止フィルム10の他方の面は、種々の形態で構成され得る。例えば、反射防止フィルム10の他方の面が、薄膜干渉を利用した反射防止層、マット面からなる防眩機能を有した層、或いは、プリズムやレンズを有した光学機能層として構成され得る。
【0033】
次に、主として、図1〜図5を参照しながら、反射防止フィルム10の製造に用いられる型およびその製造方法について説明する。
【0034】
図1に示すように、型20は、陽極酸化層35を含む金属製基材30と、陽極酸化層35の表面上に形成された皮膜40と、を有している。型20は、反射防止フィルム10の凸部15を賦型するための凹部25を形成された面、すなわち型面20aを有している。
【0035】
図1に示すように、陽極酸化層35は、金属製基材30の表層部をなしている。陽極酸化層35には、規則的または不規則的な配列により二次元配列された多数の孔36が形成されている。多数の孔36は、金属製基板30の表面30a上に互から離間して配置されており、隣り合う二つの孔36の間には土手部31が形成されている。そして、金属製基板30の表面30aおよび陽極酸化層35の表面35aは、孔36の内壁面36aと、土手部36の表面36aと、によって形成されている。
【0036】
一方、皮膜40は、陽極酸化層35の表面のうち、少なくとも土手部31の表面31a上に設けられている。図1に示された例では、皮膜40は、孔36の内壁面36a上にも設けられており、とりわけ、陽極酸化層35aの表面35a(金属製基板30の表面30a)の全面に設けられている。
【0037】
ただし、図2に示す例のように、皮膜40が、陽極酸化層35aの表面35a(金属製基板30の表面30a)の一部分に設けられるようにしてもよい。図2に示された例では、皮膜40は、土手部31の表面31aと、孔36の内壁面36aの一部と、を覆うように形成されている。さらに、他の変形例として皮膜40が土手部31の表面31a上のみに設けられるようにしてもよい。
【0038】
反射防止フィルム10の凸部15を賦型するために型面20aに形成された凹部25は、陽極酸化層35に形成された孔36と、陽極酸化膜35上に形成された皮膜40と、によって画成されている。この凹部25は、凸部15と相補的な構成を有していることが好ましい。例えば、隣り合う二つの凹部25の型面20aに沿った配列ピッチPb(図1および図2参照)は、作製対象となる反射防止フィルム10によって反射を防止されることを意図された光の最短波長の値の半分未満とすることができ、とりわけ、反射を防止されることを意図された光の最短波長の値の1/4以下となっていることが好ましい。また、型面20aへの法線方向に沿った凹部25の深さHb(図1および図2参照)は、作製対象となる反射防止フィルム10によって反射を防止されることを意図された光の最長波長の半分以上となっていることが好ましい。さらに、図1および図2に示すように、型面20aへの法線方向に沿った断面において、すなわち、凹部25の深さ方向に沿った断面において、凹部25の幅(型面20aに沿った凹部25の長さ)Wbは、凹部25の最深部25aから開口部25bへ向けてしだいに太くなっていき、開口部25bにおいて隣り合う他の凹部25と接続されていることが好ましい。
【0039】
ここで「型面に沿った配列ピッチPb」および「型面に沿った幅Wb」とは、型面20aをマクロ的または全体的に観察した場合の型面と一致する平面または曲面に沿った方向における配列ピッチまたは幅のことであり、後述する型の製造方法を採用した場合には、型の原材料となる陽極酸化処理を施される前における金属製基材の表面に沿った方向における配列ピッチまたは幅のことになる。また、「型面への法線方向に沿った凹部の深さ」とは、型面20aをマクロ的または全体的に観察した場合の型面と一致する平面または曲面への法線方向における深さのことであり、後述する型の製造方法を採用した場合には、型の原材料となる陽極酸化処理を施される前における金属製基材30の表面への法線方向に沿った深さのことになる。
【0040】
次に、主として図3〜図5を参照して、型20の製造方法について、説明する。まず、図3に示すように、金属製基材30を準備する。なお、この金属製基材30の少なくとも一つの面30a上に、凹部が微細ピッチPbで配列された凹凸面(型面)20aを形成する。したがって、図3に示すように、金属製基材30の当該一つの面30aは、平坦面として構成されている。
【0041】
次に、図4に示すように、金属製基材30に陽極酸化処理を施して、多数の孔36を含んだ多孔質酸化層35を金属製基材30の表層部に形成する。この点から、金属製基材30として、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材を好適に用いることができる。孔36の分布密度は、陽極酸化処理時の電圧によって制御され得る。また、金属製基材30の加工対象となる表面に規則的に配列された圧痕を予め形成しておくことによって、当該圧痕が起点となり、陽極酸化処理で形成される孔36の配列を規則的とすることができる。また、陽極酸化処理に用いられる電解液として、例えば、シュウ酸や硫酸を用いることができる。
【0042】
なお、図4に示すように、陽極酸化処理によって形成される孔36の径は非常に微小となる。孔36の径は、陽極酸化処理の程度(処理時間、処理電圧、電解液)によって大きく変化しない。その一方で、孔36の深さは、陽極酸化処理の程度に大きく影響を受けるため、陽極酸化処理の程度を調節することによって、所望の長さの孔36を形成することができる。
【0043】
次に、図5に示すように、エッチングにより、陽極酸化層35に形成された孔36の径を拡大させる。エッチングには、例えば、しゅう酸、リン酸や、リン酸/クロム酸混合液を用いることができる。エッチング処理によって、陽極酸化層35の孔36は、径方向および深さ方向の両方に拡大する。
【0044】
その後、化学蒸着法または物理蒸着法により、金属製基材30の陽極酸化層35の表面35aに皮膜(堆積物)40を形成する。ここで、化学蒸着法は、CVD(Chemical Vapor Deposition)とも呼ばれ、陽極酸化層35の表面35aあるいは気相での化学反応を利用して、原料ガスに含まれる成分からなる膜を陽極酸化層35の表面35aに堆積させる、薄膜形成法である。化学蒸着法の一例として、熱CVD、光CVD、プラズマCVDを挙げることができる。一方、物理的蒸着法は、PVD(Physical Vapor Deposition)とも呼ばれ、物理反応を利用して、所望の成分からなる膜を陽極酸化層35の表面35aに堆積させる、薄膜形成法である。物理的蒸着法の一例としては、スパッタリング、真空蒸着、レーザーアブレーション、イオンプレーティングを挙げることができる。
【0045】
化学蒸着法または物理蒸着法による成膜を、多数の孔が形成されている陽極酸化層35に対面する側から行った場合、皮膜40は、隣り合う二つの孔36の間に位置する土手部31の表面31aに最も形成されやすくなる。したがって、皮膜40は、少なくとも隣り合う二つの孔36の間に位置する土手部31の表面31aに形成される。しかも、隣り合う二つの孔36の間に位置する土手部31の表面31aに形成された皮膜40の、当該隣り合う二つの孔36を横切る断面(図1および図2の断面)における幅(当該土手部31の表面31aに沿った長さ)Wcは、陽極酸化層35の表面35a(金属製基材30の表面30a)から離間するにつれて狭くなっていく。これにより、図1および図2に示すように、隣り合う二つの凹部25は、開口部25bに向けてしだいに接近し、最終的に接続するようになる。
【0046】
加えて、図示する例においては、皮膜40が、陽極酸化層35の孔36の内壁面36aにも形成される。とりわけ、化学蒸着法または物理蒸着法における蒸着条件を適正化することにより、径の大きさが急激に変化する傾向のある孔36の底部近傍に皮膜40が形成される。すなわち、凹部25の断面積および凹部25の幅Wbが凹部25の深さ方向に沿って急変する箇所の形状が修正され、凹部25の断面積および凹部25の幅Wbが、当該凹部25の開口部25bから最深部25aに向けてしだいに減少していき、凹部25の断面積および凹部25の幅Wbが急激に変化する箇所が存在しないようにすることができる。
【0047】
ところで、上述したように、凹部25は、孔36と皮膜40とによって画成される。そして、皮膜40は、凹部25の内壁面、すなわち、型20の型面20aを構成するようになる。したがって、皮膜40をなす材料は、型20の型面20aに用いられる材料として好適な材料を用いることが好ましい。例えば、皮膜40が、金属製基材30の陽極酸化層35と比較して優れた耐擦傷性を有するようにしてもよい。なお、ここでいう「耐擦傷性」とは、JISH8682−1で規定された耐摩耗試験によって評価される。また、皮膜40が、金属製基材30の陽極酸化層35と比較して、樹脂材料に対して優れた離型性を有するようにしてもよい。なお、ここでいう「離型性」とは、JISR3257で規定されたぬれ性試験で判断することができ、ぬれ性試験で測定された接触角が大きいと離型性が高い(離型しやすい)と評価され、ぬれ性試験で測定された接触角が小さいと離型性が低い(離型しにくい)と評価される。
【0048】
一具体例として、陽極酸化されたアルミニウムよりもよりも優れた耐擦傷性および高い離型性を呈する材料として、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を挙げることができる。ダイヤモンドライクカーボンは、一例として物理的蒸着法であるスパッタリングによって、アルミニウムからなる金属製基材30の陽極酸化層35に成膜することができる。このダイヤモンドライクカーボンによれば、炭化水素または炭素の同素体から主としてなる非晶質の硬質膜であって、硬度、潤滑性、耐摩擦性、表面平滑性、離型性に優れた膜を形成することができる。
【0049】
次に、以上に説明した型20を用いて、反射防止フィルム10を作製する方法の一例について説明する。以下に説明する例では、型20を用いて電離放射線硬化型樹脂を賦型することによって、反射防止フィルム10を製造する方法について説明する。
【0050】
まず、図6に示すように、型20の型面20aに対向する位置に、透明フィルム材43が供給されるとともに、透明フィルム材43と型20の型面20aとの間に、流動性を有した電離放射線樹脂材料42が供給される。なお、「流動性を有する」とは、型20の型面20aへ供給された樹脂材料42が、型面20aの凹部25内に入り込み得る程度の流動性を有することを意味している。供給される樹脂材料42としては、成型に用いれ得る種々の既知な材料、例えば、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーとジペンタエリスリトールヘキサアクリレート系モノマーとの組成物からなる電離放射線硬化型樹脂材料を用いることができる。電離放射線硬化型樹脂としては、例えば、紫外線(UV)を照射されることにより硬化するUV硬化型樹脂や、電子線(EB)を照射されることによって硬化するEB硬化型樹脂を選択することができる。
【0051】
その後、図7に示すように、電離放射線を、透明フィルム材43を介して電離放射線樹脂材料42に照射する。この結果、型面20の凹部25内に充填されていた電離放射線硬化型樹脂材料42が固化(硬化)して、電離放射線硬化型樹脂材料42の固化物(硬化物)からなるモスアイ構造11をなす凸部15が形成されるようになる。これにより、固化した電離放射線硬化型樹脂材料42および透明フィルム材43からなる反射防止フィルム10が作製される。
【0052】
その後、図8に示すように、透明フィルム材43が型20から離間し、これにともなって、型面20aの凹部25内に成型された凸部15が透明フィルム材43とともに型20から引き離される。このようにして、反射防止フィルム10が得られる。
【0053】
ところで、凸部15は上述したように極めて微細な構造を有していることから、反射防止フィルム15の離型時に、電離放射線硬化型樹脂42の固化物からなる凸部15が型20の凹部25内に残留してしまうことも予想され得る。この場合、作製された反射防止フィルム20は、予定された反射防止機能を発揮することができないだけでなく、視認され得る輝点または欠点を含むようにもなる。一方、ここで説明する型20の型面20aは、少なくともその一部を陽極酸化膜35とは別途の皮膜40によって形成されるようになる。そして、この皮膜40を離型性に優れた材料を用いて作製することにより、離型性を格段に向上させることができる。本件発明者らが実際に行った実験では、ダイヤモンドライクカーボンによって皮膜40を形成した場合、型20の離型性が格段に向上し、型面20aに離型剤を都度塗布する必要性を排除し得ること或いは型面20aに離型剤を塗布する頻度を低減し得ることを確認した。これにより、円筒状の型面20aを有したロール型によって、優れた生産効率で、モスアイ構造11を有した反射防止フィルム10を連続的に製造することが可能となる。加えて、ダイヤモンドライクカーボンによって皮膜40を形成した型20によれば、皮膜40を含まない従来の型と比較して、寿命を拡大に延ばすことができた。
【0054】
また、上述した方法において、透明フィルム材43の表面は型20の表面(型面20a)に接触していないことが好ましい。この場合、図8に示すように、硬化した樹脂材料42からなるシート状のランド部44が一定の厚みの層として透明フィルム材43上に形成され、当該ランド部44上に、モスアイ構造11をなす凸部15が形成されるようになる。また、ランド部44によって、凸部15を支持する基準平面SPが形成されるようになる。このような方法によれば、成型された凸部15が、離型時に、型20内に部分的に残留してしまうことを効果的に防止することができる。
【0055】
なお、反射防止物品10の一部分をなすようになる透明フィルム材43としては、透光性を有した樹脂製シートを用いることができる。樹脂製シートとしては、無色透明の二軸延伸ポリエチレンテレフタレート製シートを用いることができる。また、上述の作製方法を用いる場合、樹脂製シートの厚みを50μm以上500μm以下とすることができる。
【0056】
ところで上述したように、皮膜40は、少なくとも金属製基材30の土手部31の表面31a上に形成される。そして、隣り合う二つの孔36の間に位置する土手部31の表面31aに形成された皮膜40の、当該隣り合う二つの孔36を横切る断面(図1および図2の断面)における幅Wcは、金属製基材30の表面30aから離間するにつれてしだいに狭くなっていく。これにより、図1および図2に示すように、隣り合う二つの凹部25は、開口部25bに向けてしだいに接近し、最終的に接続する。このような型20を用いて作製された反射防止フィルム10においては、隣り合う二つの凸部15が、基端部15b(基準平面SP)に向けてしだいに接近し、最終的に、基準平面SP上において接続する。したがって、反射防止フィルム10の屈折率が、基準平面SPへの法線方向に沿って基準平面SPの位置で、急激に変化してしまうことはない。このため、型20を用いて作製された反射防止フィルム10は、極めて優れた反射防止機能を発揮することができる。
【0057】
加えて、ここで説明した型20においては、皮膜40が、陽極酸化層35の孔36の内壁面36aにも形成されている。とりわけ、化学蒸着法または物理蒸着法における蒸着条件を適正化することにより、径の大きさが急激に変化する傾向のある孔36の底部近傍に皮膜40が形成されている。すなわち、凹部25の断面積および凹部25の幅Wbが凹部25の深さ方向に沿って急変する箇所の形状が修正され、凹部25の断面積および凹部25の幅Wbが、当該凹部25の開口部25bから最深部25aに向けてしだいに減少していき、凹部25の断面積および凹部25の幅Wbが急激に変化する箇所が存在しなくなっている。このような型20を用いて作製された反射防止フィルム10においては、凸部15の断面積および凸部15の幅Waが、当該凹凸部15の基端部15bから先端部15aに向けてしだいに減少していき、凸部15の断面積および凸部15の幅Waが急激に変化する箇所が存在しなくなっている。このため、型20を用いて作製された反射防止フィルム10は、極めて優れた反射防止機能を発揮することができる。
【0058】
以上のような本実施の形態によれば、複数の凸部15を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルム10の作製に用いられる型20を簡便に製造することができる。また、簡便に製造された型20を用いて、優れた光反射防止性能を呈し得る反射防止フィルム10を作製することができる。
【0059】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、変形の一例について説明する。
【0060】
例えば、上述した実施の形態において、陽極酸化処理(図4参照)および拡径処理(図5参照)をそれぞれ一回だけ行った後に、皮膜40の形成を行う例を示したがこれに限られない。陽極酸化処理(図4参照)および拡径処理(図5参照)を交互に複数回繰り返した後に、皮膜40の形成を行うようにしてもよい。
【0061】
また、上述した実施の形態において、具体的に言及しなかったが、型20は、円筒状の型面を有したロール型として構成されてもよいし、平板状の型として構成されていてもよい。
【0062】
さらに、上述した実施の形態において、電離放射線硬化型樹脂を用いて反射防止フィルム10を製造する例を示したが、熱硬化性樹脂を用いて反射防止フィルム10を製造してもよい。
【0063】
さらに、上述した実施の形態において、型20を用いて、直接、反射防止フィルム10を作製する例を示したがこれに限られない。上述してきた型20を用いて、量産用型を作製し、この量産用型を用いて反射防止フィルム10を作製するようにしてもよい。この態様において、上述してきた型20は、間接的に、反射防止フィルム10の作製に用いられることになる。このような場合でも、本件明細書においては、この型20を、反射防止フィルムの作製に用いられる型として取り扱う。
【0064】
このような態様の一具体例では、上述してきた型20を用いて、まず、ネガ型を作製する。このネガ型は、例えば樹脂材料から、上述した実施の形態における反射防止フィルム10と同様にして、作製され得る。次に、例えばメッキ法等によってネガ型に金属等を充填し、型20の型面20aと同様の凹凸面を有した量産用型を作製する。得られた量産型を用いることによって、反射防止フィルム10を作製することができる。なお、この例において、一つの型20から、複数のネガ型を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 反射防止フィルム
11 モスアイ構造
15 凸部
15a 先端部、頂部
15b 基端部
20 型
20a 型面、凹凸面
25 凹部
25a 最深部
25b 開口部
30 金属製基材
30a 表面
31 土手部
31a 表面、土手面
35 陽極酸化層、陽極酸化膜
35a 表面
36 孔
36a 内壁面
40 皮膜、堆積膜、堆積物
42 樹脂材料
43 透明フィルム材
44 ランド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型を製造する方法であって、
陽極酸化処理により、金属製基板の表面に複数の孔を形成する工程と、
化学蒸着法または物理蒸着法により、少なくとも隣り合う二つの孔の間に位置する前記金属製基板の前記表面に、皮膜を形成する工程と、を備え、
前記反射防止フィルムの前記凸部を形成するための凹部が、前記孔および前記皮膜によって画成される、型の製造方法。
【請求項2】
エッチングによって前記孔を拡径する工程を、前記孔を形成する工程の後であって前記皮膜を形成する工程の前に、さらに備える、請求項1に記載の型の製造方法。
【請求項3】
前記孔を形成する工程および前記孔を拡径する工程が、複数回繰り返して行われた後に、前記皮膜を形成する工程が実施される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記孔を形成する工程および前記孔を拡径する工程が、一回だけ行われた後に、前記皮膜を形成する工程が実施される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記隣り合う二つの孔の間に位置する前記金属製基板の前記表面に形成された皮膜の、当該隣り合う二つの孔を横切る断面における幅は、前記表面から離間するにつれて狭くなっていく、請求項1〜4のいずれか一項に記載の型の製造方法。
【請求項6】
前記皮膜を形成する工程において、前記皮膜が前記孔の内壁面にも形成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の型の製造装置。
【請求項7】
前記皮膜は、陽極酸化された前記金属製基材と比較して高い離型性を有している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の型の製造方法。
【請求項8】
前記皮膜は、陽極酸化された前記金属製基材と比較して高い耐擦傷性を有している、請求項1〜7のいずれか一項に記載の型の製造方法。
【請求項9】
複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムの作製に用いられる型であって、
複数の孔を有した陽極酸化層と、
少なくとも隣り合う二つの孔の間に位置する前記陽極酸化層の表面上に形成された皮膜と、を備え、
前記反射防止フィルムの前記凸部を形成するための凹部が、前記孔および前記皮膜によって画成されている、型。
【請求項10】
前記隣り合う二つの孔を横切る断面における前記皮膜の幅は、前記表面から離間するにつれて狭くなっていく、請求項9に記載の型の製造方法。
【請求項11】
前記皮膜は、前記孔の内壁面上にも設けられている、請求項9または10に記載の型。
【請求項12】
前記皮膜は、前記陽極酸化層と比較して高い離型性を有している、請求項9〜11のいずれか一項に記載の型。
【請求項13】
前記皮膜は、前記陽極酸化層と比較して高い耐擦傷性を有している、請求項9〜12のいずれか一項に記載の型。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載された製造方法で製造された型、或いは、請求項9〜13のいずれか一項に記載の型を用いて、複数の凸部を有し光の反射を防止し得る反射防止フィルムを製造する方法であって、
前記型の前記凹部が形成された面上に樹脂材料を供給する工程と、
前記樹脂材料を前記型上で固化する工程と、
前記固化した樹脂材料を前記型から剥がす工程と、を備える、反射防止フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−76899(P2013−76899A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217458(P2011−217458)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】