説明

基地局装置

【課題】 使用周波数が自装置とは異なる他の基地局装置とエア同期を行う場合でも、端末装置との無線通信の休止期間ができるだけ短くする。
【解決手段】 本発明の基地局装置は、端末装置5との間で無線通信を行う基地局装置1に関する。この基地局装置1は、少なくとも1つの送信系と複数系統の受信系とを含む送受信系A,Bと、使用周波数が自身と異なる他の基地局装置2,3と同期をとるために、他の基地局装置2,3からの送信信号を複数系統の受信系A,Bのうちの一部Bに受信させる同期モードを実行する同期モード実行手段と、この受信系Bが受信周波数の切り替えを完了するのに十分なガードタイムを同期モードの実行期間の前後に設定し、このガードタイムの設定期間と重複するように、残りの送受信系Aに端末装置5との無線通信を実行させる時間設定手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の端末装置を含む無線通信網の末端となる基地局装置に関する。より具体的には、その基地局装置間で行う同期方法と、当該無線通信網を構成する無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、モバイルWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)のような、移動可能な端末装置(移動端末)が無線通信する無線通信システムにおいては、基地局装置が各地に多数設置される。
上記WiMAXでは、移動端末との間の無線通信方式として、送信と受信とを高速に切り替えるTDD(Time Division Duplex:時分割複信)によるデュプレックス通信方式を採用している。
【0003】
具体的には、図10に示すように、下りサブフレーム(基地局装置の送信フレーム)DLと上りサブフレーム(移動端末の送信フレーム)ULとからなる1つの基本フレームが時間方向に並べて配置されていて、下りサブフレームDLの先頭部分にはプリアンブル(Preamble)が設けられている。
図10では、複数の基地局装置同士で、送信タイミング及び受信タイミングが一致しており、基地局間のフレーム同期(以下、「同期」はフレームタイミングの同期を意味する。)がとれている様子を示している。かかる同期処理は、通常、一方の基地局装置の起動時に行われ、他装置との同期がとれてから移動端末との通信が行われる。
【0004】
一方、各基地局装置がカバーする通信エリア(セル)内にある移動端末は、当該セルに対応する基地局装置との間で無線通信を行うことができる。
このため、移動端末が異なるセルに移動すると、移動端末の通信相手となる基地局装置が変更されるが、このとき移動端末は、同時に2つの基地局装置(サービング基地局とターゲット基地局)からの送信信号を受信することになる。
【0005】
かかる移動端末のセル間移動をスムーズに行うには、セルが隣接する基地局装置間での送信タイミングが揃った状態(図10に示す状態)が確保されている必要がある。この基地局間同期がとれていると、移動端末がセル間を移動する際に2つの基地局装置からの送信信号を確実に受信でき、セル間移動をスムーズに行うことができる。
また、フレームタイミングが同期していないと、第1の基地局装置の送信タイミングが他の第2の基地局装置の受信タイミングと重複することになり、第2の基地局装置において第2の基地局装置からの送信信号が妨害となるが、基地局装置間で同期がとれていると、このような基地局装置間での妨害が発生しない。
そして、上記基地局間同期を行うための技術として、例えば、特許文献1に記載されたGPS衛星からのGPS信号を利用したものが知られている。
【特許文献1】特開昭59−6642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基地局間同期の方法の1つとしては、上記特許文献1のように、各々の基地局装置がGPS衛星からGPS信号を受信し、すべての基地局装置を共通の同期信号によって動作させることが考えられる。
しかし、GPS信号を利用した基地局間同期では、基地局装置にGPS受信機を設ける必要があるので、基地局装置の大型化とコストアップを招くことになる。また、この同期の場合には、GPS信号を受信できない環境に設置される基地局装置については、同期をとることができないという欠点もある。
【0007】
そこで、端末装置との無線通信を一時的に休止して、隣接する他の基地局装置からの送信信号(下りサブフレームDL)を受信(傍受)し、この送信信号に基づいて当該他の基地局装置の送信タイミングを抽出し、抽出された送信タイミングを利用して他の基地局装置との同期をとる同期方法(エア同期)が考えられる。
この場合、移動端末との無線通信を行う周波数と同じ周波数を用いた無線通信によって他の無線基地局との同期をとることができるので、GPS受信機のような同期用の特別な受信系を設ける必要がなくなる。このため、エア同期によれば、基地局装置の小型化とコストダウンを図ることができ、室内用の小型の基地局装置として適したものとなる。
【0008】
ところで、前述のWiMAXでは、通信事業者がそれぞれ運用する各基地局装置には複数の周波数チャンネルが割り当てられており、この周波数チャンネルは、例えば、2600〜2620MHzの範囲内で10MHz刻みとなっている。
従って、エア同期を行うスレーブ基地局装置が、自身の使用周波数とは異なる使用周波数であるマスタ基地局装置(同期対象となる基地局装置)からの送信信号を用いて、エア同期を行わなければならない場合が想定される。
【0009】
その理由は、例えば従前のPHS等では、すべての端末が共通に使用する制御チャンネルがあったため、スレーブはそのチャンネルをエア同期の対象とすれば良かったが、WiMAXでは共通の制御チャンネルが無いため、エア同期を行う当該基地局装置(スレーブ)において適切な同期対象(マスタ)を選択する必要があるからである。
しかし、スレーブ基地局装置は、使用周波数が異なるマスタ基地局装置とのエア同期を実施するに当たり、自身の受信機に設けられた局部発振器(PLL回路等)に対する周波数切り替えを行う必要があるが、この周波数切り替えの間は受信機の受信周波数が不安定な状態になるから、エア同期を行えない可能性がある。
そこで、エア同期の実行期間の前後に周波数切り替えを完了するのに十分なガードタイムを設けることが考えられるが、これでは、端末装置との無線通信の休止時間が長くなり、端末装置との通信不能や通信効率の悪化を招来するという新たな問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、使用周波数が自装置とは異なる他の基地局装置とエア同期を行う場合でも、端末装置との無線通信の休止期間ができるだけ短くなるようにして、他の基地局装置とのエア同期を効率的に実行できる基地局装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の基地局装置(請求項1)は、端末装置との間で無線通信を行う基地局装置であって、少なくとも1つの送信系と複数系統の受信系とを含む送受信系と、使用周波数が自身と異なる他の基地局装置と同期をとるために、前記他の基地局装置からの送信信号を複数系統の前記受信系のうちの一部に受信させる同期モードを実行する同期モード実行手段と、一部の前記受信系が受信周波数の切り替えを完了するのに十分なガードタイムを前記同期モードの実行期間の前後に設定し、このガードタイムの設定期間と重複するように、一部の前記受信系を除いた残りの前記送受信系に前記端末装置との無線通信を実行させる時間設定手段と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明の基地局装置によれば、上記時間設定手段が、一部の受信系が受信周波数の切り替えを完了するのに十分なガードタイムを同期モードの実行期間の前後に設定するとともに、このガードタイムの設定期間と重複するように、一部の受信系を除いた残りの送受信系に端末装置との無線通信を実行させるので、使用周波数が自装置と異なる他の基地局装置との間でエア同期を行う場合でも、端末装置との無線通信の休止期間をできるだけ短くすることができる。
【0013】
本発明の基地局装置において、前記同期モード実行手段は、前記同期モードでの受信を行う複数の前記受信系の受信部に、前記他の基地局装置からの前記送信信号をダイバーシチ受信させることが好ましい(請求項2)。
この場合、複数の受信系の受信部が他の基地局装置からの送信信号をダイバーシチ受信するので、その送信信号を1つの送受信系の受信部で受信する場合に比べて、当該送信信号をより確実に受信できるという利点がある。
【0014】
一方、前記他の基地局装置が、使用周波数がそれぞれ異なる複数の基地局装置よりなる場合には、前記同期モード実行手段は、複数の前記他の基地局装置がそれぞれ送信した周波数が異なる複数種類の前記送信信号を前記受信系の受信部に個別にかつ同時に受信させるようにしてもよい(請求項3)。
この場合、各受信系の受信部が、周波数が異なる複数種類の送信信号を個別にかつ同時に受信するので、その送信信号を時分割で受信する場合に比べて、同期対象となり得る同期タイミングのサンプリング時間を短縮することができ、エア同期をより短時間で実行することができる。
【0015】
そして、本発明の基地局装置として、周波数が異なる複数種類の前記送信信号に基づいて、複数の前記他の基地局装置の中から同期対象とすべき前記他の基地局装置を探索する探索手段を更に備えているものを採用すれば(請求項4)、使用周波数が異なる複数の他の基地局装置がある場合でも、同期対象とすべき当該他の基地局装置を短時間で特定することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の通り、本発明によれば、使用周波数が自装置とは異なる他の基地局装置とエア同期を行う場合でも、端末装置との無線通信の休止期間ができるだけ短くできるので、他の基地局装置とのエア同期を効率的に実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の好ましい実施形態を説明する。
〔第1実施形態〕
〔無線通信システムの全体構成〕
図1は、本発明の基地局装置を有する無線通信システムの全体構成を示している。
【0018】
この無線通信システムは、複数の基地局装置(BS:Base Station)1〜3と、各基地局装置1〜3と無線通信を行う多数の移動可能な端末装置(MS:Mobile Station)5とを備えている。当該無線通信システムでは、広帯域無線通信を実現するために直交周波数分割多元接続(OFDMA)方式をサポートする、IEEE802.16に規定される「WiMAX」に準拠した方式が採用されている。
【0019】
図10に示したように、上記WiMAXでは、下りサブフレーム(基地局装置1〜3の送信フレーム)DLと上りサブフレーム(端末装置5の送信フレーム)ULとからなる基本フレームが時間方向に並べて配置され、時分割複信(TDD)によって送受信を繰り返す通信システムになっている。なお、1つの基本フレームの長さは5msである。
下りサブフレームDLは、基地局装置1〜3が自身の通信エリア(セル)内の端末装置5へ信号を送信する時間帯であり、上りサブフレームULは、基地局装置1〜3が、自身の通信エリア内の端末装置5からの信号を受信する時間帯であり、下りサブフレームDLの先頭部分には既知信号のプリアンブル(Preamble)が設けられている。
【0020】
図1に戻り、各基地局装置1〜3は、それぞれ自装置1〜3のセル内にある端末装置5との間で無線通信が可能である。また、無線通信システムを構成する基地局装置1〜3には、スレーブ基地局装置1とマスタ基地局装置2,3とが含まれている。
なお、本明細書において、「スレーブ基地局装置(BSs)1」とは、エア同期を実行する基地局装置のことをいい、「マスタ基地局装置(BSm2,BSm3)2,3」とは、スレーブ基地局装置1が行うエア同期の同期対象となり得る基地局装置のことをいう。
【0021】
すなわち、スレーブ基地局装置1は、他の基地局装置2,3が端末装置5に向けて送信した送信信号(下りサブフレームDL)を傍受し、傍受した受信信号(下りフレーム)の先頭に自身の送信タイミング、つまり下りフレームの先頭を同期させるエア同期を実行する基地局装置である。
これに対して、マスタ基地局装置2,3の少なくとも1つは、他の基地局装置の送信信号(下りサブフレームDL)から同期タイミングを検出するのではなく、正確な自走クロックやGPS信号に基づいて送信タイミングを決定するものでなくてはならない。それ以外の基地局装置はスレーブ基地局装置の同期対象となれば足りるので、自身でエア同期を実行するスレーブ機能により送信タイミングを決定するものであっても良い。
【0022】
図1の無線通信システムでは、エア同期を行う1つのスレーブ基地局装置1(BSs)
の周囲に、同期対象となり得る2つのマスタ基地局装置2,3(BSm2,BSm3)がある場合を例示している。
また、図1の無線通信システムでは、スレーブ基地局装置1が端末装置5との無線通信で使用する周波数(送受信周波数)はf1であり、マスタ基地局装置2,3が端末装置5との無線通信で使用する周波数(送受信周波数)はそれぞれf2,f3である。従って、スレーブ基地局装置1の使用周波数f1はマスタ基地局装置2,3の使用周波数f2,f3と相違しており、これらの周波数の具体的な数値は、例えば、f1=2600MHz、f2=2610MHz、f3=2620MHzである。
【0023】
スレーブ基地局装置1は、自装置1の起動時において、他の基地局装置2,3のうちの1つを、エア同期のための同期対象として選択し、この同期対象となった基地局装置からの送信信号に含まれる既知信号であるプリアンブルに基づいて、基地局間同期のためのタイミング(送信タイミング)を取得する。
なお、スレーブ基地局装置1が起動時に行う同期モードの処理動作を「初期同期処理」というものとする。この初期同期処理は、具体的には、自装置が起動してから、端末装置5との無線通信を開始するまでの間に行われる。
【0024】
スレーブ基地局装置1は、上記初期同期処理によってマスタ基地局装置2,3の送信タイミングと同期をとりつつ、自セル内の端末装置5との無線通信を行う。このため、初期同期処理の後にスレーブ基地局装置1が端末装置5との間で行う無線通信は、マスタ基地局装置2,3の場合と同じ送信タイミング及び受信タイミングとなる。
ただし、スレーブ基地局装置1のローカルのクロック発生器の精度が十分でなかったり、基地局装置1〜3間でのクロック精度にばらつきがあったりすると、時間の経過によって同期ずれが発生し、次第に他の基地局装置2,3の送受信タイミングとの時間的ずれが生じる。
【0025】
すなわち、各基地局装置1〜3が具備するクロック発生器のクロック周波数の誤差が、基地局装置1〜3間でそれぞれ存在するため、クロック周波数(基準信号)に基づいて生成される1つの基本フレームの時間長さ(規格上は5ms)が、基地局装置1〜3間で僅かに異なることになる。
また、1つの基本フレームの時間長さの誤差が僅かでも、端末装置5へのフレーム送信が繰り返されると、前記誤差が蓄積して比較的大きな同期ずれ(例えば、1μsec程度)となる恐れもある。このように、初期同期処理を実行して基地局装置1〜3間の通信タイミングを揃えても、端末装置5との無線通信の間に同期ずれが次第に大きくなり得る。
【0026】
そこで、本実施形態のスレーブ基地局装置1は、初期同期処理を実行した後においても、端末装置5との間で行う通常の無線通信(以下、「通常モード」という。)を所定周期で休止し、他の基地局装置2,3からの送信信号を受信して同期ずれを解消するための、「同期モード」を定期的に実行するようになっている。
なお、スレーブ基地局装置1が所定周期で通常モードを休止して行う上記同期モードの処理動作を、「中間同期処理」というものとする。スレーブ基地局装置1は、この中間同期処理の実行周期を可変に設定することができる。
【0027】
〔スレーブ基地局装置の内部構成〕
図2は、第1実施形態に係る基地局装置1の内部構成を示す機能ブロック図である。
図2に示すように、本実施形態のスレーブ基地局装置1は、空間分割多重による無線通信の一種であるMIMO(Multiple Input Multiple Output)無線通信を端末装置5との間で実行可能な2系統の送受信系A,Bを備えている。
すなわち、スレーブ基地局装置1の送信機26は、送信データ側から順に、変調器27と、MIMIOエンコーダ28と、2系統の送信系A,Bを備えており、この各送信系A,Bは、それぞれ、IFFT(逆高速フーリエ変換器)29、DAコンバータ30及び送信部31よりなる。
【0028】
送信機26に入力された送信データは、変調器27においてOFDM方式にてデジタル変調され、MIMOエンコーダ28において所定の行列式で各送信系A,Bにそれぞれ分配して入力される。
各送信系A,Bでは、分配された変調データが、それぞれIFFT29において逆フーリエ変換されてから、DAコンバータ30においてアナログデータに変換され、送信部31を通じて増幅されて外部に送信される。
【0029】
他方、受信機33のアンテナで受信された受信信号は、各受信系A,Bの受信部38において増幅され、ADコンバータ37においてデジタルデータに変換されてから、FTT36においてフーリエ変換され、MIMOデコーダ35に入力される。
MIMOデコーダ35は、各受信系A,Bで得られたフーリエ変換後の受信信号を、MIMOエンコーダ28の行列式と逆の行列式を用いてデコード処理を行ってデジタルデータを再生する。そして、このデジタルデータをOFDM方式の復調器34にて復調することにより、受信データが抽出される。
【0030】
各受信系A,Bの受信部38は、それぞれ、可変利得アンプ、ミキサ、局部発振器(PLL回路)及び直交復調器等を内部に含んでおり、所定周波数の受信信号を増幅し、その受信信号を直交復調する機能を有する。
受信系B側の受信部38内の局部発振器(PLL回路)は、分周器の分周比を可変に設定可能である。この分周器に対する分周比を後述する同期モード実行部16からの外部制御信号で変更することにより、受信系B側の受信部38の受信周波数を可変に設定できるようになっている。
【0031】
また、受信系B側には、FFT36の出力信号からマスタ基地局装置2,3に対する同期信号を抽出する同期検出部15が設けられている。この同期検出部15は、FFT36が出力するシンボル群から、マスタ基地局装置2,3との同期検出ポイントとして、例えば下りサブフレームDLの先頭部分にあるプリアンブルを検出する。
前記MIMOエンコーダ28とMIMOデコーダ35には、後述する同期モード実行部16がそれぞれ接続されている。
【0032】
〔同期モード実行部の機能〕
図2に示すように、本実施形態のスレーブ基地局装置1は、自装置1の通信モードを通常モード又は同期モードのいずれか一方に切り替える通信制御部である、同期モード実行部16を備えている。
この同期モード実行部16は、起動時に行う同期モードである前記初期同期処理と、その後に所定の実行周期で行う同期モードである前記中間同期処理の双方を実行可能であり、現在の通信モードが「通常モード」か「同期モード」のいずれであるかを示すモード種別を管理している。
【0033】
また、同期モード実行部16は、中間同期処理を行う実行周期(例えば、5分)を予め記憶装置に記憶しており、中間同期処理を行わない場合には、端末装置5との間の通常の無線通信(通常モード)をそのまま継続する。
更に、同期モード実行部16は、中間同期処理を行う場合には、MIMOエンコーダ28及びMIMOデコーダ35にそれぞれ休止信号を送って端末装置5とのMIMO通信を停止させ、いずれかのマスタ基地局装置2,3と同期をとるため、当該基地局装置2,3からの送信信号(周波数がf2又はf3)を受信する同期モードを実行する。
【0034】
また、同期モード実行部16は、自身の使用周波数f1と、同期対象となりうるマスタ基地局装置2,3の使用周波数f2,f3にそれぞれ対応する、局部発振器の分周器に対する外部制御信号(分周比)を予め設定値として記憶領域に記憶している。
そして、モード種別が通常モードである場合、同期モード実行部16は、局部発振器の分周器に対する外部制御信号を自身の使用周波数f1用の値に設定し、受信系Bの受信周波数を自身の使用周波数f1に設定する。
【0035】
他方、モード種別が同期モードである場合、同期モード実行部16は、受信系B側の局部発振器の分周器に対する外部制御信号を、いずれかのマスタ基地局装置2,3の使用周波数f1,f2用の値に切り替える。
これにより、モード種別が同期モードである場合には、自装置1の使用周波数f1とは異なる使用周波数f2,f3であるマスタ基地局装置2,3からの送信信号を、自装置1の受信機33(受信系B)で受信できるようになっている。
【0036】
そして、同期モード実行部16は、上記同期モードで受信系B側の同期検出部15が検出した周波数f2,f3の受信信号(マスタ基地局装置2,3からの送信信号)の、下りサブフレームDLの先頭部分のプリアンブルに基づいて同期タイミングを検出する。もっとも、この同期タイミングの検出は、ミッドアンブルやパイロット信号等でも行うことができる。
一方、同期モード実行部16は、自装置1が行う通信モードのモード種別を管理しているが、そのモード種別を常にMIMOエンコーダ28とMIMOデコーダ35に通知している。
【0037】
モード種別が通常モードである場合には、同期モード実行部16は、2系統の送受信系A,Bを用いた所定のMIMO無線通信が実行されるように、MIMOエンコーダ28とMIMOデコーダ35をそれぞれ制御する。
これに対して、モード種別が同期モードである場合には、同期モード実行部16は、同期モードの実行期間中は、一方の送受信系Aでの無線通信を休止させ、マスタ基地局装置2,3からの送信信号(周波数はf2又はf3)を他方の送受信系Bの受信部38に受信させるように、MIMOエンコーダ28とMIMOデコーダ35をそれぞれ制御する。
【0038】
また、本実施形態の同期モード実行部16は、上記同期モードを実行するに当たって、送受信系Bの受信部38が受信周波数の切り替えを完了するのに十分なガードタイムを、同期モードの実行期間の前後に設定するとともに、このガードタイムの設定期間と重複するように、送受信系Aに端末装置5との無線通信を実行させる時間設定機能を有する。
なお、この同期モード実行部16が行う上記時間設定機能については、図5に示すタイムチャートの説明の時に再論する。
【0039】
〔同期モード実行部の処理内容〕
図3は、同期モード実行部16が行う、通信モードから同期モードへの切り替え動作のフローチャートを示している。
図3に示すように、まず、同期モード実行部16は、同期モードへの移行タイミングであるか否かの判定を行う(ステップS1)。この移行タイミングは、前記した通り、同期モードの実行周期(所定時間ごと又は所定フレーム数ごと)として設定されている。この実行周期を時間設定する場合、例えば5分程度に設定できるが、これを可変に設定することもできる。
【0040】
図3において、通常モードから同期モードへの移行タイミングになったと判定された場合には(ステップS2でYES)、同期モード実行部16は、自装置4の通信モードを通常モードから同期モードに移行する(ステップS3)。
同期モード実行部16は、その同期モードが終了すると、通信モードを再び通常モードに戻す(ステップS4)。
【0041】
このように、同期モード実行部16は、端末装置5との間で通常の無線通信を行う通常モードを行いつつ、定期的又は必要に応じて随時同期モードを実行するので、初期同期処理の以後にマスタ基地局装置2,3との同期ずれが発生しても、これを解消することができる。
なお、本実施形態では、同期モード実行部16が1回の同期モードを行うために要する時間が、1つの基本フレームの周期と同じ5msに設定されている。
【0042】
図4は、中間同期処理の処理内容を示すフローチャートである。
図4に示すように、同期モード実行部16は、同期モードを中間同期処理で実行する場合、まず、その中間同期処理(ステップS11〜S15)を開始する前に、自セル内のすべての端末装置5に対して、端末装置5をスリープモード又はアイドルモード(省電力モード)にするための通知をブロードキャストにて送信する(ステップS10)。
【0043】
端末装置5は、スレーブ基地局装置1からのスリープモードやアイドルモードの通知を受けると、自身の動作モードをその通知に従ったモードに移行する。このスリープモードやアイドルモードは、端末装置5が通信を実行しない場合の管理モードであるため、消費電力が抑えられる。
端末装置5は、少なくとも基地局装置1が同期モードになっていてエア同期を行っている間は、スリープモードやアイドルモードを継続するように時間設定されている。
【0044】
このように、スレーブ基地局装置1が同期モードの期間中は端末装置5がスリープモード等になっているので、スレーブ基地局装置1からの送信信号の受信不能期間が継続しても、端末装置5が通信異常と判断することはない。
一方、スレーブ基地局装置1は、端末装置5へのスリープモード等の通知後に、中間同期処理による同期モードに移行する。この中間同期処理を行う場合、同期モード実行部16は、自装置1の送信機26に休止信号を送り、自セル内への下りサブフレームDLの送信を休止する。これにより、本来、下りサブフレームDLになる時間帯においても、他のマスタ基地局装置2,3の送信信号を受信可能な状態となる。
【0045】
図4に示すように、中間同期処理においては、同期モード実行部16は、まず、モード種別を同期モードに切り替える(ステップS11)。
このさい、同期モード実行部16は、送受信系A,Bによる端末装置5とのMIMO通信を中止させ、受信系Bの局部発振器の分周器への外部制御信号を切り替える。これにより、自身の受信機33の受信体制がマスタ基地局装置2,3用の受信周波数f2,f3に切り替えられ(図3参照)、マスタ基地局装置2,3からの送信信号が受信される(ステップS12)。
【0046】
その後、同期モード実行部16は、マスタ基地局装置2,3が送信した下りサブフレームDLの先頭部分にあるプリアンブルを同期検出ポイントとして採用し(ステップS13)、その同期検出ポイントに合わせて同期ずれの修正を行う(ステップS14)。
この同期ずれの修正は、検出されたプリアンブルに基づく同期検出ポイントを、自装置1の下りサブフレームDLの送信タイミングと一致するように設定することで行われる。
すなわち、同期モード実行部16は、検出された同期検出ポイントに基づいて自装置1の送信タイミングの時間的誤差を修正することで、自装置1の送信タイミングを同期対象となったマスタ基地局装置2,3の送信タイミングに一致させる。
【0047】
なお、自装置1の送信タイミングをマスタ基地局装置2,3の送信タイミングと一致させれば、自然に受信タイミングも一致するので、マスタ基地局装置2,3との間でフレーム同期がとれた状態となる。
このように、本実施形態では、端末装置5との間で通常の無線通信を行う通常モードを休止して、他のマスタ基地局装置2,3からの送信信号を傍受して同期をとるため、同期専用の制御用チャネルがなくても他の基地局装置2,3とのエア同期を実施することができる。
【0048】
以上の中間同期処理による同期ずれの修正が終了すると、同期モード実行部16は、端末装置5へスリープモードの解除通知を行ったうえで(ステップS15)、同期モードを終了させる(ステップS16)。
このさい、通信モードが同期モードから通常モードに切り替えられ、局部発振器への外部制御信号が自身の使用周波数f1用の値に戻る。これにより、受信機33の受信系B側の受信体制が、端末装置5からの送信信号の受信に適した通常の状態に調整される。
【0049】
なお、スリープモード等にある端末装置5は、設定されたスリープ時間(又はアイドル時間)が経過すると、自動的にスレーブ基地局装置1との通信を行う通常の動作モードに戻る。
従って、スレーブ基地局装置1と端末装置5がともに、時分割復信による無線通信を行う通常モードに戻り、両者間でその通常モードよる無線通信が再開される。
【0050】
〔中間同期処理のタイムチャート(2系統の場合)〕
図5は、2系統の送受信系A,Bを有する本実施形態の基地局装置1において、同期モード実行部16が中間同期処理を行った場合のタイムチャートを示している。
図5において、符号Tは基本フレームに含まれる送信フレーム(下りサブフレーム)を示し、符号Rは受信フレーム(上りサブフレーム)を示している。また、基本フレームに含まれる黒塗りの部分は、送信フレームの先頭部分のプリアンブルを示し、横縞のハッチング部分は、送信から受信へのギャップ時間(送信も受信も行われない空白の区間)を示し、斜線のハッチング部分は、受信から送信へのギャップ時間を示している。
【0051】
図5では、スレーブ基地局装置1(BSs:使用周波数f1)の同期対象がマスタ基地局装置2(BSm2:使用周波数f2)である場合を想定しており、当該図5の上段のタイムチャートは、そのマスタ基地局装置2のフレームの時間的変化を示している。
また、図5の中段のタイムチャートは、スレーブ基地局装置1の送受信系Aのフレームの時間的変化を示し、図5の下段のタイムチャートは、スレーブ基地局装置1の送受信系Bのフレームの時間的変化を示している。
【0052】
ところで、スレーブ基地局装置1が自身の使用周波数f1とは異なる使用周波数f2のマスタ基地局装置2に対する同期モードを実行する場合、そのマスタ基地局装置2からの送信信号を受信する受信系Bに対する周波数切り替えを行う必要がある。
そして、一般に、局部発振器として常用されるPLL発振器の場合、これをOFDM方式の受信機に使用すると、低い位相雑音やスプリアス特性が必要となるため、ループフィルタの帯域を狭くする必要があるとされている。しかし、ループフィルタの帯域を狭くすると、PLL回路の周波数切替えに要する時間(周波数の設定をしてから周波数が所望値に安定するまでの時間)が長くなり、数ミリ秒程度に及ぶことが分かっている。
【0053】
そこで、図5の下段のタイムチャートで示すように、本実施形態では、同期モード実行部16が、受信系Bの受信部38が受信周波数の切り替えを完了するのに十分なガードタイム(ガード時間)を、同期モードの実行期間の前後に設けるようになっている。
すなわち、同期モード実行部16は、自身の使用周波数f1と異なる周波数f2の同期信号による同期モードを行う場合には、その同期モードの実行期間の前後に、局部発振器(PLL回路)での周波数切り替え時間よりも長いガードタイム(図例では5ms)を設ける。
【0054】
そして、同期モード実行部16は、同期モードを実行する送受信系Bに関しては、上記ガードタイムの設定期間中においても、端末装置5との通常モードでの無線通信を休止させる。
このように、本実施形態のスレーブ基地局装置1によれば、同期モード実行部16が、自身と異なる使用周波数f2のマスタ基地局装置2と同期をとるに当たって、周波数切り替えのためのガードタイムを前後に設定して同期モードを実行するとともに、その同期モードとガードタイムの期間中は通常モードを休止するので、受信部38の受信周波数が不安定な状態で同期モードが実行されることがなく、エア同期を確実に行うことができる。
【0055】
しかし、上記のように、周波数切り替えのためのガードタイムを同期モードの前後に設定すると、送受信系Bに関する通常モードの休止期間が長くなるので(図5の例では、ほぼ基本フレーム3つ分)、送受信系Aについても同じように通信を停止してしまうと、端末装置5と通信不能になり得るという問題がある。
すなわち、端末装置5は、下りサブフレームDLを常時受信して制御情報を取得しているので、ある基地局装置1からの受信不能状態が継続すると、新たな基地局装置を探索する動作を開始してしまう。また、通信効率の点からも、基地局装置1からの送信フレームの停止数は少ない方が望ましい。
【0056】
従って、同期モードの実行区間を設けることに伴う、下り信号の停止頻度は極力少ない方が好ましい。
そこで、図5の中段のタイムチャートに示すように、本実施形態の同期モード実行部16では、自装置1がMIMO通信のために2系統の送受信系A,Bを備えていることを利用して、送受信系Bが周波数切り替えを行っているガードタイムの期間と重複する時間帯において、他方の送受信系Aに端末装置5との無線通信を実行させる通信制御を行うようになっている。
【0057】
すなわち、同期モード実行部16は、一方の送受信系Bにおける同期モードの実行期間中については、他方の送受信系Aによる無線通信も停止させるが、一方の送受信系Bにおけるガードタイムの設定期間中については、そのガードタイムの設定期間と重畳するように、自身の使用周波数f1による1系統のみの無線通信を他方の送受信系Aに実行させるようになっている。
【0058】
このように、本実施形態のスレーブ基地局装置1によれば、同期モード実行部16が、ガードタイムの設定期間と重複する時間帯に、送受信系Aに端末装置5との無線通信(この場合は、MIMO通信ではなく1系統の無線通信)を実行させるので、受信部38の動作周波数を切り替えるためにガードタイムを設定しても、そのガードタイムの設定期間中に無線通信を継続することができる。
このため、自装置1とは使用周波数が異なるマスタ基地局装置2,3とエア同期を行うに当たって、自装置1の送信フレームの停止数を極力少なくでき、通信効率の低下を最小限に抑えることができる。
なお、第1実施形態(図2)では、端末装置5とMIMO無線通信を行うことを前提として、送信系と受信系の双方がいずれも2系統A,Bである場合を例示したが、送信系については少なくとも1系統あれば足り、この場合でも、ガードタイムの設定時間中での通信継続が可能である。
【0059】
〔第2実施形態〕
〔スレーブ基地局装置の内部構成〕
図6は、第2実施形態に係る基地局装置1の内部構成を示す機能ブロック図である。
この第2実施形態の基地局装置1が第1実施形態のそれと異なる点は、端末装置5とのMIMO無線通信に対応した送受信系の系統数が4系統(A〜D)である点にあり、その他の構成及び機能は第1実施形態の場合と同様である。従って、以下において、第1実施形態とは異なる構成及び機能について重点的に説明する。
【0060】
図6に示すように、本実施形態のスレーブ基地局装置1は、端末装置5とのMIMO無線通信が可能な4系統の送受信系A〜Dを備えている。
本実施形態では、4系統の送受信系A〜Dのうち、2つの送受信系C,Dが同期モードを実行する送受信系であり、残りの2つの送受信系A,Bがガードタイムの設定期間中においても端末装置5との無線通信を継続する送受信系になっている。
【0061】
同期モードを実行する側の2つの受信系C,DのFFT36の後段には、ダイバーシチ合成部17が接続され、この合成部17に同期検出部15が接続されている。
従って、2つの受信系C,Dの受信部38でダイバーシチ受信された合成信号が同期検出部15に入力され、その合成信号に基づいて検出された同期タイミングが同期モード実行部16に入力されるようになっている。
【0062】
〔中間同期処理のタイムチャート(4系統の場合)〕
図7は、本実施形態のように4系統の送受信系A〜Dがある場合に、同期モード実行部16が行う中間同期処理のタイムチャートである。
図7に示すように、本実施形態では、同期モード実行部16は、2つの送受信系C,Dを用いた同期モードの実行期間の前後に、周波数切り替えのためのガードタイム(図例では5ms)をそれぞれ挿入する。
【0063】
この場合、同期モード実行部16は、マスタ基地局装置2(使用周波数f2)からの送信信号を2つの受信系C,Dを用いたダイバーシチ受信を行い、この受信信号から検出した同期タイミングを用いて同期ずれの修正を行う。
このため、マスタ基地局装置2からの送信信号を1つの送受信系で受信する場合に比べて、当該送信信号をより確実に受信でき、エア同期を確実に行うことができる。
【0064】
一方、本実施形態においても、同期モード実行部16は、送受信系C,Dにおける同期モードの実行期間中については、残りの送受信系A,Bによる無線通信も停止させるが、送受信系C,Dにおけるガードタイムの設定期間中については、そのガードタイムの設定期間と重畳するように、自身の使用周波数f1による2系統のMIMO無線通信を、残りの送受信系A,Bに実行させるようになっている。
【0065】
なお、図6に示す4系統の基地局装置1において、同期モードを実行する送受信系の数X(正の整数)と、これを実行しない送受信系の数Y(正の整数)は、それぞれ2つに限定されるものではなく、XとYの和が総系統数(=4)以下となる範囲で任意に設定することができる。例えば、X=3及びY=1とすれば、3つの受信系を用いたダイバーシチ受信によってマスタ基地局装置2,3からの送信信号を受信できる。
また、N系統の送受信系を有する基地局装置の場合、XとYの数の組み合わせは、X+Y≦Nの不等式を満たす範囲で任意に設定することができる。
なお、第2実施形態(図6)では、端末装置5とMIMO無線通信を行うことを前提として、送信系と受信系の双方がいずれも4系統A,Bである場合を例示したが、送信系については少なくとも1系統あれば足り、この場合でも、ガードタイムの設定時間中での通信継続が可能である。この点は、後述する第3実施形態(図8)の場合も同様である。
【0066】
〔第3実施形態〕
〔スレーブ基地局装置の内部構成〕
図8は、第3実施形態に係る基地局装置1の内部構成を示す機能ブロック図である。
この第3実施形態の基地局装置1は、MIMO無線通信に対応した送受信系の系統数が4系統(A〜D)である点で第2実施形態の基地局装置1と同様である。しかし、第3実施形態では、自装置1の使用周波数f1と異なる複数の周波数f2,f3の信号を受信系C,Dにおいて個別かつ同時に受信する点で、第2実施形態の場合と異なる。従って、以下において、第2実施形態とは異なる構成及び機能について重点的に説明する。
【0067】
本実施形態では、同期モード実行部16が、同期モード用の2つの受信系C,Dの受信部38内の局部発振器(PLL回路)に対し、それぞれ外部制御信号を送信可能となっている。これにより、各受信系C,Dの受信周波数を、同時に異なる値(例えば、マスタ基地局装置2の使用周波数f2とマスタ基地局装置3の使用周波数f3)に設定することができる。
【0068】
また、本実施形態のスレーブ基地局装置1では、同期モードを実行する側の2つの受信系C,Dの後段にそれぞれ同期検出部15C,15Dが接続され、各受信系C,Dで受信した信号に対して個別に同期タイミングを検出可能となっている。この各同期検出部15C,15Dの検出信号は、後述する探索部(探索手段)18に送られる。
この探索部(探索手段)18は、各受信系C,Dでそれぞれ受信した、マスタ基地局装置2,3からの周波数が異なる2種類の送信信号に基づいて、同期対象とすべきマスタ基地局装置2,3を探索する。
【0069】
具体的には、探索部18は、例えば、受信部38内にある検波回路等のレベル検出器で検出された受信レベル(RSSI:Received Signal Strength Indicator)に基づいて、受信状態のよい送信信号を特定し、この送信信号に対応するマスタ基地局装置2,3を同期対象として選択する。
なお、探索部18は、通常の受信機において一般に検出されるCINR(Carrier to Interference and Noise Ratio)の値に基づいて、受信系C,Dにおける受信状態の良否を判定することもできる。
【0070】
〔中間同期処理のタイムチャート(4系統の場合)〕
図9は、本実施形態のように4系統の送受信系A〜Dがある場合に、同期モード実行部16が行う別の中間同期処理のタイムチャートである。
図9に示すように、この場合も、同期モード実行部16は、2つの送受信系C,Dを用いた同期モードの実行期間の前後に、周波数切り替えのためのガードタイム(図例では5ms)をそれぞれ挿入する。
【0071】
そして、本実施形態においても、同期モード実行部16は、2つの送受信系C,Dにおける同期モードの実行期間中については、残りの2つの送受信系A,Bによる無線通信も停止させるが、2つの送受信系C,Dにおけるガードタイムの設定期間中については、そのガードタイムの設定期間と重畳するように、自身の使用周波数f1による2系統のMIMO無線通信を残りの2つの送受信系A,Bに実行させるようになっている。
【0072】
一方、図9の下部2段のタイムチャートに示すように、本実施形態では、一方の受信系Cによる周波数f2の送信信号(マスタ基地局装置2からの送信信号)の受信と、他方の受信系Dによる周波数f3の送信信号(マスタ基地局装置3からの送信信号)の受信とを、同じ同期モードの実行期間に同時に行う。
そして、2つの受信系C,Dがそれぞれ受信した周波数f2,f3の信号の受信レベル等に基づいて、同期対象とすべきマスタ基地局装置2,3を探索部18が特定し、特定された同期対象に対応する同期タイミングが同期モード実行部16に通知される。
その後、同期モード実行部16は、その通知された同期タイミングに基づいて自身の送信タイミングを修正し、同期ずれを解消する。
【0073】
このように、本実施形態の基地局装置1によれば、使用周波数f2,f3が異なる複数種類のマスタ基地局装置2,3からの送信信号を、送受信系A〜Dのうちの一部の受信系C,Dが個別にかつ同時に受信するので、その受信を時分割で行う場合に比べて、探索部18が同期対象の探索を行うための同期モードの実行期間を全体的に短縮することができ、エア同期をより短時間で実行できるという利点がある。
【0074】
なお、図8に示す4系統の基地局装置1においても、同期モードを実行する送受信系の数X(正の整数)と、これを実行しない送受信系の数Y(正の整数)は、それぞれ2つに限定されるものではなく、XとYの和が総系統数(=4)以下となる範囲で任意に設定することができる。例えば、X=3及びY=1とすれば、3種類の周波数の送信信号に対する同期モードを同時に実施することができる。
また、N系統の送受信系を有する基地局装置の場合、XとYの数の組み合わせは、X+Y≦Nの不等式を満たす範囲で任意に設定できる。
【0075】
上記実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。すなわち、本発明の技術的範囲は、上記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲に記載した構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、上記実施形態では、基地局装置1〜3と端末装置5とがTDD(Time Division Duplex:時分割複信)によって通信を行う無線通信システムを例示したが、本発明は、基地局装置1〜3と端末装置5とがFDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)によって通信する無線通信システムにも適用することができる。なお、このFDDの場合には、基地局装置1〜3は、端末装置5との通信を休止しなくても、同期モードを実行し得る。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】無線通信システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】第1実施形態の基地局装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図3】通信モードから同期モードへの切り替え動作のフローチャートである。
【図4】中間同期処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図5】同期モード実行部が中間同期処理を行う場合のタイムチャートである。
【図6】第2実施形態の基地局装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図7】4系統の送受信系がある場合に、同期モード実行部が行う中間同期処理のタイムチャートである。
【図8】第3実施形態の基地局装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【図9】4系統の送受信系がある場合に、同期モード実行部が行う中間同期処理のタイムチャートである。
【図10】基地局間同期が合っている場合のWiMAXフレームの状態図である。
【符号の説明】
【0077】
1:スレーブ基地局装置(BSs) 2:マスタ基地局装置(BSm2)
3:マスタ基地局装置(BSm3) 5:端末装置(MS)
15:同期検出部 16:同期モード実行部(同期モード実行手段、時間設定手段)
17:ダイバーシチ合成部 18:探索部(探索手段)
26:送信機 27:変調器 28:MIMOエンコーダ
29:IFFT(逆高速フーリエ変換器) 30:DAコンバータ 31:送信部
33:送信機 34:復調器 35:MIMOデコーダ
36:FFT(高速フーリエ変換器) 37:ADコンバータ 38:受信部
A〜D:送受信系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末装置との間で無線通信を行う基地局装置であって、
少なくとも1つの送信系と複数系統の受信系とを含む送受信系と、
使用周波数が自身と異なる他の基地局装置と同期をとるために、前記他の基地局装置からの送信信号を複数系統の前記受信系のうちの一部に受信させる同期モードを実行する同期モード実行手段と、
一部の前記受信系が受信周波数の切り替えを完了するのに十分なガードタイムを前記同期モードの実行期間の前後に設定し、このガードタイムの設定期間と重複するように、一部の前記受信系を除いた残りの前記送受信系に前記端末装置との無線通信を実行させる時間設定手段と、
を備えていることを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
前記同期モード実行手段は、前記同期モードでの受信を行う複数の前記受信系の受信部に、前記他の基地局装置からの前記送信信号をダイバーシチ受信させる請求項1に記載の基地局装置。
【請求項3】
前記他の基地局装置は、使用周波数がそれぞれ異なる複数の基地局装置よりなり、
前記同期モード実行手段は、複数の前記他の基地局装置がそれぞれ送信した周波数が異なる複数種類の前記送信信号を前記受信系の受信部に個別にかつ同時に受信させる請求項1に記載の基地局装置。
【請求項4】
周波数が異なる複数種類の前記送信信号に基づいて、複数の前記他の基地局装置の中から同期対象とすべき前記他の基地局装置を探索する探索手段を更に備えている請求項3に記載の基地局装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−118841(P2010−118841A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289883(P2008−289883)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(502312498)住友電工ネットワークス株式会社 (212)
【Fターム(参考)】